なぜ、中国は尖閣諸島を狙うのか
尖閣諸島の戦略的価値に米国のほうが先に気がついてしまって、「戦力2030」なんていう海兵隊の世界的大再編の目玉になりそうな雰囲気だということは昨日書きました。
これは世界的な海兵隊の大改造ですから、ただの「トカラ山羊だけの島」どころか戦略的にぜひ押えねばならないポイントと米国が認識し始めたということです。
逆に日本も領土主権論にとらわれすぎて(それ自体はまちがっていませんが)、全体図の中で見ようとしません。
ですからあえて言いますが、日本からばかり見ないで、中国から見てください。
すると、中国は口では「神聖な領土」なんて言っていますが、無視して結構です。
また天然ガスがどーたらというエネルギー論もありましたが、まったくないとは言えませんがそれがメーンではありません。
今尖閣が枢要の地になっているのは、もっと別次元のことのためです。
ところで中国にとって日本列島というのは、なんとも憎たらしいことには太平洋の「瓶の蓋」を役割をしています。(ロシアにとってもです)
昨日もアップした中国から見た逆さ地図をもう一回見てみましょう。
中国の悲願は太平洋の広く深い海に進出することです。
なぜって、話せば長くなりますが、一言で言えば大陸国家から海洋国家に飛躍して世界の覇権国になりたいからです。
パクスアメリカーナからパクスシノワパクス・シニカにしてやる、これがグレート中国の野心です。
そのために中国は世界有数の大艦隊を揃えてきたのですが、その太平洋を狙う役割を与えられたのが北海艦隊で、その母港は青島にあります。
あのチンタオビールで有名なところですね。ビールだけ飲んでいただければ平和なんですが、中国はここから太平洋に何度となく艦隊を「出撃」させています。
太平洋に出ねば、中国海軍はいくら頭数が多くても大陸周辺でブイブイ言わせているだけの口だけ番長みたいなもので、世界の覇権とは無関係です。
やはり覇権国である海洋国家となるには、世界一の海の太平洋に出ないことにはしまりません。
ですから太平洋を二分して米国と分け合おうぜ、という提案を習近平はマジにオバマ時代にしてしまったことがあって、当然一蹴されました(笑)。
では太平洋に出るにはどの海上ルートを取ればいいかですが、基本的に艦隊が出られる大きなルートは三つしかありません。
①尖閣→宮古海峡ルート
②台湾西ルート
③南シナ海ルート
忌ま忌ましいことには、この三つとも中国を警戒する勢力が押えています。
①の宮古海峡ルートについては後述しますが、②の台湾西ルートも台湾が押えていて下手に手を出すと米国が出てきますし、③の南シナ海は弱小国家ばかりなので、ここぞと太平洋に抜けるルートをただ今構築中というわけです。
そこで南シナ海に驚くべき短期間で人工島を作り、ミサイルを並べ、長距離爆撃機が離発着できる滑走路も作り、軍港までできたあたりで、国際司法裁判所が違法裁定。
カーン、これが終了のゴングで、以後世界を敵に回すことになってしまいました。
そこで改めてその重要性が再認識されたのが、①の尖閣諸島から宮古海峡に抜けるルートだったというわけです。
下の写真は2019年6月10日に、遼寧がロシア艦隊と合同訓練をしたときのものです。(なんでロシアが出てくるんだ、バーローと思いますが)
「これらの艦艇が沖縄本島と宮古島の間の海域を南下し、太平洋へ向けて航行したことを確認した」(令和元年6月11日統合幕僚監部)
海自が撮影した宮古海峡を通過する空母遼寧
尖閣諸島から宮古島は南東に180㎞の距離にあり、尖閣諸島が東シナ海の入り口の扉だとすれば、宮古島は太平洋の出口に相当します。
これに水深図を重ねてみます。
海底地図 海上保安庁海洋情報部提供。海底地形名称・海上保安庁発行海図「南西諸島(No.6315)」に基づく笹川平和財団https://www.spf.org/islandstudies/jp/info_library/senkaku-islands/03-ocean/03_ocean001.html
なぜ水深図が重要かというと、先日中国の調査船が沖ノ鳥島に近づいてなにやら勝手に調査していったようですが、あれはおそらく潜水艦の航行のための海路図を作っていたのだと思われます。
潜水艦にとって海底地形図と水深図は必須のものですからね。
で、この宮古海峡を抜けるとその向こうはいきなり沖縄トラフ(海溝)です。
画面左下から画面右・北東にかけて斜めに濃い青色で伸びているのが、沖縄トラフです。
沖縄トラフは深さが2200mもあって、大陸周辺の浅瀬だけしか知らない中国海軍にとって涎ダダ漏れのポイントです。
中国大陸周辺はまた上の水深図を見ていただきたいのですが、白っぽく表示されているので判るとおもいますが、100メートル以内の浅い海です。
これは中国の大きなウィークポインで、戦略原潜は深く潜れないためにすぐに見つかり、その上有事には米海軍は大陸沿岸に沿って機雷を大量に敷設するでしょうから、あっというまに海上交易路が封鎖されてしまいます。
かつての大戦で日本が食らった機雷封鎖と同じめに中国は合うわけで、世界のエネルギーと食料を爆喰いしている中国はたちたまちエライことになります。
ですから、中国は私たち深い海にグルリを囲まれている日本人にはわからない「深い海への憧れ」のようなものが存在するのです。
ちなみに、海上交易路が塞がれた場合に備えての陸上交易路が、ウィグルを通過する一帯一路のシルクロード経済ルートです。
それはさておき、この沖縄トラフに潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)をたらふく積んだ戦略原潜を潜ませ、さらにはその先に拡がる約束の海に大艦隊を乗り出したい、これが「中華の夢」(by習近平)なのです。
そしてそうはせさせない、東シナ海にズラリと対艦ミサイルを並べて海兵隊がお迎えいたします、というのが米国の考えです。
※関連記事『世界有数の軍事的緊張ポイント宮古海峡とは』
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2017/01/eez-31bc.html
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パックス・シノワ・・・
たぶんパックス・シノ・ノワールになる悪寒しかしませんね。
米大統領選挙次第ではどうなるやら。バイデンが勝ったらスーザン・ライスが副大統領になるのが規定路線のようですが・・・こっそり、コンドリーサ・ライスにすり替えられたらなあ!などと妄想っす。
投稿: 山形 | 2020年8月 1日 (土) 07時46分
重箱の隅で恐縮ですが、パクスシノワという表現は、羅+仏となりますので違和感があります。 そもそも pax/paix は女性名詞ですので、フランス語であれば paix chinoise (ぺ・シノワーズ)となるでしょう。 「中国」の形容詞はラテン形では sinicus/sinensis/chinensis といったものがあるようですが、組合せとして膾炙しているものは、pax sinica のようです。 まあむしろ pax sinistra とか云いたくなるところではありますが。
投稿: Thoth | 2020年8月 1日 (土) 10時17分
ご指摘そのとおり。直しておきます。それだけの博識。内容についてもひとこと頂きたかったですが。
投稿: 管理人 | 2020年8月 1日 (土) 10時31分
こういう風に順序立て事を分けて記事にまとめて頂けると、とても理解しやすく、また中共の必死さも良く分かります。
いかに今がのっぴきならない状態であるか、ポンペオさんが南沙の現状復帰をさせるというのも本気です。
あるいはコロナ隠蔽問題や香港問題など、このための撒き餌にすぎないのでないかと疑いさえできます。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2020年8月 1日 (土) 12時49分
U.S.Forces Japan(在日米軍司令部)のTwitterアカウント7月29日に、質問に答えるシュナイダー中将の発言として、「私たちは尖閣で米軍/自衛隊の軍事活動を続けていきます。私たちは尖閣周辺での飛行、運行を行い、今後も日本との相互協力及び安全保障条約の一環としてこれを行います。」とあります。
「私たち」、頼もしいです。
我が日本の、自国で設計・建造できる故に進化も秘密もいっぱいのそうりゅう型潜水艦は、他国の通常動力型潜水艦と比較しても世界最強といわれ、原潜に劣らない探査能力を持つともいわれています。
中共の通常動力型潜水艦だと、元型の輸出仕様が潜行深度300mといわれているので、自国用はもう少し深場を潜れるでしょうが、日米が所有する潜水艦の潜行深度は、DSRV(深海救難艇)のスペックから見ても、中共を上回るのでしょう。
探知の方でも、6月18日に他国の潜水艦が奄美大島沖の接続水域を潜航西進、20日に鹿児島県横当島西の接続水域外、トカラ列島と奄美大島の間を潜航西進したのが、自衛隊に捉えられています。
国籍も種類や型もわかっているかどうかは秘密ψ(`∇´)ψ
海上も海中も蓋はしっかり。
昔、仕事の同僚で、何でも蓋はただ乗せるだけで済ますヤツがいて度々職場のみんなの顰蹙を買っていたのを、何故か思い出し…
蓋はしっかり閉めるから蓋になるのじゃ。
投稿: 宜野湾より | 2020年8月 1日 (土) 18時23分
黒い平和、左の(または不吉な)平和とか、中国にピッタリですね。
自分は、pax cynicaを思いつきました。そんな言葉があるのか分かりませんが。
2030年に本当にその戦力が必要かというと疑問に思いますが、中国の増長を挫くには、今強気に出ることが重要ですね。
投稿: プー | 2020年8月 1日 (土) 21時11分
以前、米軍基地内の仕事をした時の話を書きました。
米軍基地の一日は国歌星条旗で始まり星条旗で終わります。
国歌星条旗が流れると、みんな帽子を取り、胸に手を当て星条旗を仰ぎ見ています。
アメリカ人の国歌=アメリカに対する誇り、プライドは相当なものです。
そんな、誇り高いアメリカ人が、中国のやりたい放題を見過ごすはずもありません。中国の誤算はそんなアメリカ人のプライドの高い国民性が理解できなかったことです。
中国は、北方領土から太平洋に出ようと試み、ロシアに阻まれ、台湾海峡は台湾に阻まれ、、残るは尖閣ですね。自然の成り行きです。尖閣を拠点に太平洋に出ると言うことは日本など眼中にない。
やはり怖いのは、アメリカです。そのアメリカが尖閣防衛に乗り出す。
アメリカも、尖閣ひいては沖縄の重要性を理解しています。
理解できないのは、沖縄のマスコミとそれに群がる連中です。
沖縄の左翼は天皇陛下が沖縄を売ったと言いますが、沖縄にアメリカ国務省に方針に逆らって米軍基地を置いたのはマッカーサーです。結果論で言えばマッカーサーの判断は正しかった。
敗戦国日本としては、主権を日本に残したままアメリカに一時的に預ける。ギリギリの交渉だったと思います。
地図で見ると、日本列島が見事に蓋をしています。
そのラインに、米軍がいる。たとえそれがアメリカの世界戦略の一環だとしても頼もしい限りです。
そして、今現在、アメリカにとって代われる国は在りません。アメリカ無き世界は、アフリカのジャングルと同じ弱肉強食の世界です。
パクスアメリカーナはありですが、パクスチャイナは無いですね。
投稿: karakuchi | 2020年8月 1日 (土) 21時55分
蛇足ですが、二度にわたる元寇。
中国は、日本などすぐ屈服すると使者を出します。
時の執権、北条時宗は使者を切り殺します。
結果的に、中国の惨敗です。中国も少しは歴史に学べよ。
伊豆の豪族北条家の屋敷跡が伊豆長岡の狩野川公園のほとりにあります。私は職場の慰安旅行で伊豆長岡温泉に行きましたが、韮山の反射炉、土肥金山と歴史好きにはたまらない場所です。何より達磨山から見る富士山は、富士山や富士山あー富士山の世界です。
本日のテーマとは関係ない話ですみません。
投稿: karakuchi | 2020年8月 1日 (土) 22時11分
改めて考えましたが、アメリカがその産業と雇用のために強大な敵国を必要としているのならば、中国は内実はともかく強悪な大国として存在し続けるのでしょう。
投稿: プー | 2020年8月 1日 (土) 22時59分
プー 様
ヤクザの世界にも親分は居ます。
親分にも長所も欠もあります。
世界の親分に相応しいのはアメリカなのか中国なのか。
日本最大の暴力団が分裂していますが、
単純に言えば、どっちに付くか。それが今の日本の立場だと思います。
投稿: karakuchi | 2020年8月 1日 (土) 23時47分
karakuchiさん
そうですね。
欠点があるとは言え長い付き合いで気心の知れたアメリカ親分から中国に乗り換える道理は無いと思うのですが、中国の勧誘に乗せられている人も少なくないですね。
投稿: プー | 2020年8月 2日 (日) 12時31分
いつも楽しみに拝読しております。
普段見ている地図というのは、逆さにするとまったく違う見え方になるのですね。お示しの逆さ地図を見ていたら、日露戦争で内海のバルト海にいたロシアのバルチック艦隊が対馬海峡を選んだ理由もわかるような気がしてきました。
第2次大戦、空母を持たない陸軍国のドイツは、海上の艦隊では勝負にならないので、潜水艦Uボートによる通商破壊でイギリスを締め上げました。現代の大陸軍国の中国も、アメリカ海軍・海兵隊と海上で戦ったら勝ち目はないので、原潜を広大な太平洋に放ってSLBMで対抗しようとしているのですね。この戦略自体が弱者のものなので、こと海上に関しては中国に勝ち目はないように思います。
こうしてアメリカ中心に軍事的な中国の海洋進出を封じ込めて時間を稼ぎ、世界最大の債権国日本はアメリカと一緒に、今までとは逆の中国が貧困化する経済政策、すなわち投資しない・技術移転しない・資金提供しない(関税含む)、いったことを続けたら、中国はどうしようもないように思います。
投稿: 都市和尚 | 2020年8月 3日 (月) 01時48分