飽きずに繰り返されるオスプレイデマ
木更津に陸自のオスプレイが暫定配備されただけで大騒ぎです。
「陸自オスプレイ 住民の理解欠く配備だ
防衛省が導入した垂直離着陸輸送機オスプレイの陸上自衛隊木更津駐屯地への配備が始まった。五年以内の暫定措置とされるが、周辺住民や地元自治体の理解を十分に得られているとは言い難い。
オスプレイは開発段階から墜落事故を繰り返し、実戦配備後も安全性への懸念が指摘されてきた軍用機だ。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に二十四機配備された米海兵隊MV22オスプレイも、空中給油訓練中にプロペラが破損して海岸に不時着、大破したり、海外への遠征訓練中に海上に着水する事故を起こしている。(略)
首都圏にオスプレイが集中し、飛行が恒常化する可能性は高い。首都圏周辺は住宅が密集し、事故が起きれば大惨事になりかねない。空軍オスプレイでは部品紛失も起きている。空域が入り組み、民航機への影響も心配だ。
安全性に疑問がある軍用機が、人口が密集する首都圏を飛び交うのはとても尋常とは言えない」(東京7月14日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/42317
映像では何人かの周辺住民が繰り返し「事故を繰り返すオスプレイ」と言っていましたね。
はいはい(ため息)、その方にお聞きしたいのですが、オスプレイが「頻繁に事故を起こす」とはなにが根拠なんでしょうか、教えてもらえませんか。
たぶんあなたを取材した当のテレビ、新聞がそう報じていたからではありませんか。
メディアは印象を国民に刷り込んで、「だから周辺住民が拒否しているのだ」という「世論」を作ってしまいます。
メディアによるデマの自給自足。
ほんとうに「繰り返されたオスプレイ事故」なのかどうか、ひとつ具体的にみてみましょう。
散々流布された片方に沈んで壊れるオスプレイの画像は、1991年6月11日に、試作5号機がグァシャーンとやった時のものですが、軽傷者2名で済んでいます。
そもそも 試験機は欠陥を洗い出すためですから、事故を起こしたと言って欠陥機呼ばわりはいかがなものですが、この事故は配線を逆につないだという凡ミスです。
最終調整工程で、飛行制御システムの3系統あるロールレイト・ジャイロのうち、2系統を逆に配線してしまったためです。
理由はすぐに判明して、この事故の5日後には別な試作機でテストが再開されています。
実用化されてからの事故としては、2012年4月11日のモロッコの事故があります。
事故原因はわかっていて、むしろ機体と大気との相対速度である対気速度が不足したためでした。
このモロッコ事故はちょうど普天間に配備する前後に持ち上がったために、大騒ぎになりましたが、原因は特定されています。
国防総省はこの事故について公式の報告書を出しています。
Command Investigation into the Facts and Circumstances Surrounding the Class "A" Mishap Involving the MV-22B Crash That Occurred Near Cap DRA'A Morocco On 11 April 2012
ひとことでいえば、パイロットの操縦ミスです。
パイロットは操縦マニュアル違反で、重大な過失を3つしています。
①追い風の中に入って転換飛行に入った。
②機首下げ姿勢を直さず転換飛行に入った。
③速度不足のまま転換飛行に入った。
オスプレイは離陸する時に、プロペラ(正確にはプロップ・ローター・回転翼)がついているナセルと呼ばれる部分を徐々に傾けていきます。
上の写真で翼の先端についているものがナセルです。
オスプレイはヘリのように垂直に上がって、ナセルをぐるりと前に回して、固定翼機のように前進飛行するわけてす。
このグルリと回す間のことを、「転換飛行」と呼びます。
この時、前進して飛行するためには、一定のスピードに達していなければなりません。
これはオスプレイに限らず、すべての航空機も同じです。
固定翼機は、滑走路を走って離陸速度にまで速度を上げて揚力を得ています。
オスプレイの場合、この大気との相対速度(対気速度)が40ノット以上でなければなりません。
航空機の速度はノットで計測します。1ノット=1.852㎞/hですから40ノットは約74㎞です。
しかしこの落としたパイロットは、わずか5ノット(約9キロ)しか出していない時に、ナセルを倒して、無理矢理に転換飛行しようとしたのです。
特に③の速度不足がこのモロッコ事故の主原因です。
オスプレイデマがナイアガラ瀑布よろしく降り注いだ地域が沖縄でした。発信元は沖縄地元紙です。
普天間に旧式ヘリと交代でオスプレイが配備された時には、「構造的欠陥機を沖縄に配備したのは沖縄差別だ」とまでいいだしたのにはたまげました。
故翁長氏が突如として左翼に転向したきっかけはこのオスプレイ配備でしたね。
たしかに普天間移設とオスプレイ配備が時期的に重なったのが刺激的だったとは思いますが、オスプレイは世界的な配備計画の一環であって、かねてから決まっていたことです。
とくに「沖縄差別」をしたくて、オスプレイを配備したわけではありません(あたりまえだ)。
北部訓練場の大規模返還の代わりに、高江につましいヘリパッドをつくろうという計画があった時にも言われたのが「高江に危険機オスプレイパッドを作らせない」とという論法でした。
この人たちはオスプレイの枕詞に「欠陥機」「ひんぱんに事故を繰り返す」という言葉をつけないと気が治まりません。
もはや一種の脅迫神経症です。
どうしてこうまで牽強付会するのか、理解に苦しみます。
国内では、「事故をひんぱんに繰り返す」といいますが、めだった事故は2016年の不時着水の一回きりです。
この事故は事故報告書によれば、気流の突然の乱れによって給油機側のホースを、オスプレイのプロペラ(ローターブレード)が切断してしまい、それがプロペラにダメージを与えたうえにホースがブレードに絡みついてしまったために、左右の回転が不均等になり、強い振動が発生したためのようです。
オスプレイのプロペラは左右が連結されていますから、すごい振動だったと推測されます。
このような事故は今までも他機種で起きていますから、オスプレイ特有のものではありません。
もちろんオスプレイはすべての双発機がそうであるように、片肺といって片一方のエンジンだけで飛行もできますし、着陸もできます。
現にこの事故で片肺になった当該機も普天間の目前まで飛んでいます。
※参考資料
http://booskanoriri.com/archives/2565
http://kinema-airlines.cocolog-nifty.com/blog/2014/02/ceo-11d5.html
沖縄配備後のものとしては、2017年のオーストラリアで強襲揚陸艦ボノム・リシャールを発艦し、ドック型輸送揚陸艦グリーン・ベイへの最終進入中にデッキに衝突した事故です。
これなどは艦艇が大きく波で揺さぶられたために起きたもので、構造的欠陥とはまったく無関係に起きたものです。
「今回の事故は、陸上への着陸よりはるかに複雑な、海上を移動中の艦船への着艦の最中に発生したものであること、米軍が事実関係及び事故発生までの状況を初期調査で確認し、MV-22の飛行は安全であると結論付けていること、MV-22に安全な飛行を妨げるような機械的、構造的及びシステム上の欠陥はないと米軍が認識している」
(防衛省『オーストラリアで発生した第31海兵機動展開隊所属のMV-22オスプレイによる事故について』)
沖縄以外の事故としては、2015年5月ハワイ事故があります。
原因は、砂塵による「ブラウン・アウト」現象と、同じく砂塵によるコンプレッサー・ストール(失速)です。
いずれも機体の構造欠陥ではありません。
ブラウンアウトとは、濃密な砂塵に包まれて自分の機体の位置がパイロットにわからなくなくなる現象です。
http://news.mynavi.jp/column/airplane_it/056
上の写真は米国のユマ訓練場でのオスプレイのものですが、これがブラウンアウト現象です。
この時事故機のパイロットは操縦ミスをしています。
本来マニュアルで60秒で完了せねばならない着陸操作を110秒もかけてしまって、さらに多くの砂塵を吸い込む結果になったようです。
当然のことですが、このようなブラウンアウト現象は特にオスプレイ特有の事故ではなく、2003年にイラクでわずか1カ月間に17機のAH64アパッチが、同じブラウンアウトで墜落しています。
ヘリでもジェットのような固定翼機でも、このような砂塵の中を飛べば視界が妨げられ、エンジンに異物が吸い込まれて危険に決まっています。
オスプレイのほうが、ブラウンアウトの原因となるダウンウオッシュ(※下向きに吹きつける強い風のこと)が大きいという説もありますが、CH46のような大型ヘリとほとんど一緒か、やや強いていどです。
これについても共産党は「ネパールでオスプレイは民家を飛ばした」と嬉しげに報道していますが、2005年のスマトラ沖地震の救援の際、自衛隊のCH47もインドネシアで民家の屋根を飛ばしたことがあります。
このハワイ事故において墜落した機体のエンジンは、ファンブレードが破損してコンプレッサー・ストール(失速)を起こしていました。RR, US Navy
エンジンのファンブレードが破損した原因物質は、これも「砂塵」です。
ブラウンアウト現象と同じ原因で、パイロットがマニュアル以上に長時間濃厚な砂塵の中に機体を置いたために、砂塵をエンジンが吸い込んでコンプレッサーストールを起こしたのです。
このハワイ事故と似た、砂塵が原因の事故が2010年4月にアフガニスタンで起きています。
空軍型は特殊作戦機なので、陸自や普天間に配備された輸送機型と違って、危険を承知の飛行をしたり、不整地に着陸するために事故が多いのです。
国内で飛行するかぎり砂塵による事故はほとんど無視できると思います。
オスプレイの事故について米軍の統計がでています。
出典 防衛省 下も同じ
上のグラフは米軍機全体で見た飛行10万時間あたりの事故率です。最少から二番目です。
グラフ中程にCH-46とありますが、これがオスプレイに代わってスクラップになった大型ヘリです。
上図は米軍全機種の中でのオスプレイの事故率ですが、平均より下です。
続いて、今回も地元住民が「ヘリよりうるさい」等といっていた静粛性です。
(図 Final Environmental Impact Statement for the West Coast Basing of the MV-22※リンク切れ)
飛行中は全ての高度でオスプレイはCH-46より5~9dB(デシベル)静かなことがわかります。
私は百里や土浦でひんぱんに軍用ヘリの音を聞いていますが ヘリはローターから出る特有のバラバラという空気を叩くような音(スラップ音)がかなり遠方から聞えます。
オスプレイは水平飛行時は通常の航空機並の静穏性を持っていて、ヘリより6倍静かだと言われています。
ちなみに現物のオスプレイが来て意外なまでの静粛性に驚いた沖縄地元紙は、「いや、低周波でノグチゲラが死んだ」というトンデモ説を言い出しましたっけね(笑)。もちろん否定されていますが。
というわけで、もはやオスプレイ・デマは種切れなのですが、いったん刷り込まれてしまったオスプレイデマはなにかというと「繰り返される事故」として蘇ってきます。
繰り返されるのは事故ではなく、デマのほうです。
なおオスプレイが米国で都市上空を飛べないとか言っている人がまだいますが、まったくのデマです。
事実は、まったく普通に都市上空を飛行しています。
なんせ大統領専用機になっているくらいですから、都市上空を飛べない「未亡人製造機」だったらどうします。
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何故陸自がオスプレイを導入したのでしょうか。オスプレイはもともと海兵隊が戦地に素早く兵士を輸送するために作られたものですよね。であるとすれば国土防衛を主眼とする陸自にオスプレイが必要だとはあまり思えません。もちろんオスプレイが他の輸送機よりも事故率が低いのは分かるのですが導入された理由がよく分かりません。
投稿: moy | 2020年7月14日 (火) 07時12分
今配備されているCH47との補完と強化のためです。
CH47は時速270㎞に対してオスプレイは443㎞ははるかに速く、航続距離もオスプレイは3900㎞、一方CH47は1037㎞ですから4倍です。
この高性能は、離島防衛で本土の佐賀県からの即応力にめざましい違いがでるでしょう。
離島のみならず、災害派遣の場合にも、素早い救援活動が出来ます。
また、海自のヘリ空母に搭載する際もCH47は一端ブレードをはずさねばならないので時間がかかりますが、オスプレイはプロップローター(プロペラの羽根)を取り外さなくて済みますので、収納が容易です。
したがって、離島防衛などの場合ヘリ空母に乗せて目的地近くに進出し、そこから作戦行動をする場合大変に有利です。
しかしオスプレイは搭載力がCH47ほどありません。
高機動車を搭載することもできず、輸送人員も24人に限られているために、大きな荷物やより多い人員を運ぶのはCH47です。
いわばスピードのオスプレイ、力持ちのCH47という補完関係です。
おそらく離島防衛には、本土の佐賀県の駐屯地、ないしはヘリ空母から水陸機動団の先遣隊がオスプレイで初動投入され、本隊や車両、弾薬などがCH47で搬入されるとおもいます。
投稿: 管理人 | 2020年7月14日 (火) 09時02分
moyさん。
簡単なことです。陸自の「水陸機動団」に合わせて南西方面で素早く移動するためです。
早くから佐賀空港に配備する予定だったのが、地元に配慮して粘り強く交渉しているために遅れたので木更津への暫定配備になっただけのこと。
投稿: 山形 | 2020年7月14日 (火) 09時11分
返答して頂きありがとうございました。とてもわかりやすく勉強になりました。
投稿: moy | 2020年7月14日 (火) 10時55分
お久しぶりです。
オスプレイ配備について賛成も反対も無い立場の地元住民で、訓練が日夜行われている空の下で平和に暮らしております。
確かに他のヘリと比べて間違いなく音は静かです。
しかし地元住民に最大限に嫌われる理由があります。日中も飛び回っていますが、夜間訓練なのか日が暮れるころになると超低空で居住地上空を飛行します。それが10分おきに5台(回?)程度のセットで、深夜の11時45分くらいまで続きます。※私が体験した最長です。
テレビなんてちょうどオチを言うタイミングで聞こえない場合も多々あります。窓ガラスと心臓が10分おきに微振動することも。
普段の会話から授業、電話での会話も爆音がやむまでストップする環境で育ちましたし、知人友人が働く職場や貸地収入を得ているのでオスプレイごときで騒ぎませんよ。
このように沖縄で訓練したパイロットが操縦するオスプレイなら何処に配備されても安心でしょうとそう思います。
投稿: ナビー@沖縄市 | 2020年7月14日 (火) 12時46分
陸自のオスプレイ導入は、民主党野田政権で玄葉光一郎前外相(当時)が提案し、森本敏前防衛相(当時)が導入について検討するよう指示して防衛省が必要性の検討に入り、安倍政権に引き継がれ、2013年末の中期防衛計画に明記されました。
当時のことを2018年に振り返ったJSFさんは、「民主党政権で最初に検討されたのは島嶼防衛などの戦術上の要求というよりは、オスプレイに対する国民の拒否感を和らげるために、身近な存在として慣れさせるという政治的な動機が大きかったのではないか、と推察できます」と述べておられました。
https://news.yahoo.co.jp/byline/obiekt/20181119-00104635/
仮に民主党政権、もしくは他の非自民党政権であり続けたとしたら、オスプレイをめぐる執拗なデマは現在のように流布され続けただろうか?と考えてみたり(適当
民主党政権がオスプレイを国民に慣れさせると考えたのだとしたらそれは沖縄で成功していて、人々は慣れて、文句や恐怖を語る人たちでさえ挙って逃げ出すようなこともないようで、我が宜野湾市は人口10万人達成です。
オスプレイについてのデマは、デマでも様式として流して「安全」や「差別」のパワーワードで他人を縛らないとならない人たちにとって大事なツールなんでしょう。
彼ら彼女らもスポンサーに領収証代わりの何かを見せなきゃならないでしょうから。
なお、陸自でオスプレイを使う戦術上の理由が薄弱である旨の意見もある程度理解できますが、陸自での導入は単に入り口で将来その先がある…なんてねψ(`∇´)ψ
投稿: 宜野湾より | 2020年7月14日 (火) 13時01分
1日遅れですいません。
moyさん見ていらしたら。
オスプレイは海兵隊の戦力投射のためだけではありません。
空軍は特殊作戦機にしてますし、海軍も空母補給機のC-2グレイハウンドの後継機の新開発を諦めてオスプレイを選定しました。
また、陸軍も新型のティルトローター機V-280バーローの採用が決まって間もなく実戦化されます。
これは山ほどある汎用ブラックホークを全部置き換える予定だったのですが・・・さすがにアメリカでも予算的に難しいので当分は併用されるようです。
投稿: 山形 | 2020年7月15日 (水) 06時06分