米政府、ハリウッドの中国「忖度」にメス
チベットに対する人権擁護で知られるリチャード・ギアが、ハリウッドを告発しています。
ギアは、2020年6月30日、米国上院で証言しこう述べました。
「中国共産党の情報統制やエンターテイメント産業に対する検閲は非関税貿易の壁になっている」
「米国の映画スタジオは中国市場に進出したいがために中国の検閲制度に合わせて、自己検閲制度を発展させた。かつて素晴らしい米国映画は自己検閲制度によりその存在意義を見失わせ、社会問題に良い作用を果たせなくなっている」
ギアは、ハリウッドがこの10年間、利益を得るために中国共産党の意向を汲んで、映画撮影や制作において自己検閲をしてきたと告発し、最新作『北京のふたり』(原題『レッドコーナー』)に主演しています。
この映画は、中国の司法の闇を描いていますが、北京でゲリラ的に撮影されたものとカリフォルニアに作ったオープンセットげで撮ったようです。
これによって前からチベットの野蛮な弾圧に抗議し続けてきたギアは、今後、中国共産党が政権の座から下りない限り、中国入国はできなくなると見られています。
またこの映画も中国国内での上映は禁止されました。
ハリウッドは、かねてから今や世界一とさえいわれる中国映画市場の魔力にとりつかれ、企画・制作段階から中国マネーを浴びるように受け入れてきました。
中国のやり方は、多くの映画プロダクションの企画段階から、巨額の資金提供と引き換えに中国の代理人を入れさせます。
たとえば中国資本は、映画会社レジェンダリー・ピクチャーズを35億ドルで買収し、ハリウッドの大作映画製作に加わるためにソニー・ピクチャーズとの戦略的提携を結びました。
「万達集団による米映画会社レジェンダリー・ピクチャーズの買収調印式が12日に北京で行われた。万達によると、買収金額は35億ドル(約4139億円)以内で、中国企業による海外での文化企業の合併買収(M&A)としては過去最大規模になる。レジェンダリーのトーマス・タル取締役会代表兼最高経営責任者(CEO)は留任して、引き続き日常業務に責任を負うとともに、万達の成功発展プロセスにさらに積極的に関与していくことになる。人民日報が伝えた。
レジェンダリーは米国の有名な映画製作会社で、映画、テレビ、デジタルメディア、漫画・アニメーションなどを手がける。「バットマン」シリーズや「インセプション」など世界的に影響力のある一連の大作映画を世に送り出し、累計興行収入は120億ドル(約1兆4193億円)を超える」
人民網日本語版 2016年01月13日11:11
カネに弱いハリウッド人種は喜びいさんで、気前のいい中国に走っていったようです。
米国大統領の映画を3本も作ったリベラル作風の映画監督オリバー・ストーンは、2014年に訪中した際、興奮してこんなことを言ったと言われています。
「中国映画市場は「金鉱ではなくダイヤモンド鉱山だ」
彼の反権力姿勢のバックに中国がいるというのは微苦笑させられます。
彼が歓喜したように2013年には、8本のハリウッド映画の中国興行収入が米国での興行収入を上回りました。
コンサルティング世界大手のプライスウォーターハウスクーパースは、中国は2020年に世界最大の映画市場となり、2023年の興行収入は155億ドルを超えると予測しています。
こうしてハリウッドの川上を押えると、次には川下の映画チェーンを資本傘下に収めました。
2012年には中国のワンダ・グループ(万達集団)は26億ドル(約2780億円)で米国の4大映画館チェーンの一つであるAMCシアターズ を買収し、2016年にはもう一つの映画館チェーン大手マイクシネマも買い取り、これにより米国内映画館チェーンはほぼ中国の掌中に入ってしまいました。
こうしてハリウッドの川上と川下を押えた中国は、わずか10年に満たない期間で米国の映画市場を支配する新たなる「帝王」に君臨したのです。
その結果、昨年度のタイム誌に掲載されたトップ10作品中の過半数には中国資本が入り、今やハリウッドの映画人たちは、「ハリウッドはもう中国なしでは生きられない時代となってきた」と語っています。
ハリウッドはアメリカン・ドリームであることを自ら止め、チャイナドリームの忠臣となってしまったのです。
そして忠臣たちは、常に中国の代理人を通じて伝えられる中国共産党の意向を「忖度」し、脚本は書かれる前に中国様がお怒りにならぬように、中国様がお喜びになるように、中国の観客様が見てくれるように、と書き換えられました。
有名な例では、 2012年制作のMGM『若き勇者たち』の中国の侵略者は中国が不快感をみせるやいなや脚本を変更し、大枚な追加投資をして朝鮮兵に変更しました。
このような冷戦の相手国が悪役で登場することは、かつてもよくあったことですが、旧ソ連はこのような映画に圧力をかけて変更させるということはなかったし、当時のハリウッド映画人はもう少し気骨があったものです。
まぁ、旧ソ連は今の中国と違ってカネがなく、しかもプロレタリア芸術論から一歩も出られなかったためにハリウッドに関心がなかっただけですがね。
それはさておき、もうひとつ有名になった「忖度」のいち例としては、トムクルーズ主演の『トップガン マーベリック』」で、主人公が着用するフラントジャケットから日本と台湾の国旗が消滅しました。
この背中の国旗など露骨すぎて、かえってプロデューサーのトムクルーズが反骨したのではないか思ったほどです。
これ以外にも『パシィフィックリム』は続編となるや、第1作の主人公であった日本人女性は冒頭で死んでしまい、代わって登場するのが上海美人、どこをみても漢字ばかりで、東京はカイジューと巨大ロボの決闘シーンで廃墟と化すという素晴らしさ。
なお、ハリウッド映画で描かれる近未来は絶対に米中協調世界です。
「この興行収入の中で、唯一アメリカ国内の興行収入を上回ったのが、ほかでもない中国なのだ。日本での興行収入が約1,450万ドル(約15億円)であったのに対し、中国での興行収入は約1億1,200万ドル(約129億円)となっている。まさに桁違い。
アメリカの約1億180万ドル(約117億円)を上回り、総興行収入の4分の1以上を占める大ブレークであった。
このヒットも受けてか、2016年には中国のワンダ(大連万達)グループが製作会社のレジェンダリー・ピクチャーズを買収。正式に中国資本のハリウッド映画会社となった。
中国人俳優を起用し、中国を舞台にしたハリウッド映画が増えていく中、英フィナンシャル・タイムズ紙のジョン・ガッパー記者は、レジェンダリーが米国内での観客を取り逃がしていると指摘した。
だが、レジェンダリー制作の『グレートウォール』(2016)は、アメリカでの興行成績約4,550万ドル(約52億3,000万円)に対し、中国では4倍近くの約1億7,000万ドル(約195億5,000万円)を記録。『パシフィック・リム』と同様、中国が“主戦場”となった。アメリカ国内を中心としたマーケティングの意義は失われつつあるのだ」(『最高収益は中国! パシフィック・リムをおさらい』
https://virtualgorillaplus.com/movie/pacific-rim-china-hollywood/
あるいはヒット作を作り続けているアメリカンコミックのマーベルはこんなことをしています。
「例えば、映画製作会社、マーベル・スタジオが人気のアメリカ漫画(アメコミ)を下敷きにした「ドクター・ストレンジ」で、原作のチベットの僧侶を別の国籍に改編したほか、アップルは中国語版アップストアからニュースアプリ「クオーツ」を削除した、と批判している。これらは、米国のIT業界や映画業界が中国のために行ってきたことのごく一部に過ぎない。
巨大な中国市場において、当局をなだめるための措置と、現地の好みに合わせたサービスを展開することの間には明確な一線が存在する。アップルにとって中国は、1─3月の総売上高580億ドルの16%を生み出した。中国の映画興行収入は、今や世界最大規模に迫りつつある」(ロイター7月17日)
https://jp.reuters.com/article/us-china-breakingviews-idJPKCN24I0GP
マットデイモンの『オデッセイ』は、彼を救助する善玉を中国宇宙局としましたし、後に彼は『グレートウォール』で中国にゴマをスリまくっています。
このように米国文化の顔をチャイナに支配されてしまった米政府は、遅まきながらこのサイレントインベーション(静かな侵略)に手をつけ始めました。
これはハリウッドばかりではなく、中国当局のネット規制を受け入れることで中国進出を許してもらったGAFAにも及んでいます。
ある意味で、軍事力を用いた直接侵略よりも、このような娯楽コンテンツやネットによる影響、あるいは電子マネーの浸透などのほうが脅威だといえるのですが、やっと米司法当局もそのことに気がついたようです。
7月16日、米バー司法長官は、ディズニーやアップルなど多数の企業を実名で名指しし、『中国に忖度する企業』は、『外国代理人登録法』の対象になりうると警告を発しました。
「米企業に「中国忖度」の転換迫る司法省
アップルなど中国で事業を展開する米国企業にとっては、もう何年も前から「郷に入っては郷に従え」が確固としたルールとして定着している。だが、その事態は今、変わろうとしているのかもしれない。これまで多くの米企業は、中国当局の要求に沿うような方向に製品をしつらえてきており、アップルも例外ではない。
しかし、米司法省は、中国共産党に近過ぎるとみなす企業を「外国代理人」として扱う可能性を示唆した。中国側への微妙な忖度(そんたく)を働かせながら利益を得ようとする行為は、制限されることになるだろう。
バー米司法長官は16日、ウォルト・ディズニーからアルファベット子会社・グーグルに至るさまざまな米企業を、目先の利益のために中国の意向で動いていると名指しした。(略)
バー長官の警告で、米企業はそうした問題に関する情報開示を強制される恐れが出てきた。同氏の理屈では、中国政府に「利用」されている米企業は、外国代理人登録法の対象になり得る」
(ロイター前掲)
この外国代理人登録法は、このような法律です。
「外国代理人登録法(Foreign Agents Registration Act、FARA)は1938年に可決された米国の法律で、「政治的または準政治的権能を持つ」 外国勢力の利益を代表するエージェント(外国のエージェント)が、その外国政府との関係および活動内容や財政内容に関する情報を開示することを義務付けたものである。
その目的は、「米国政府とアメリカ国民によるそのような人物の発言と活動の評価」を容易にすることである。この法律は司法省の国家安全保障局 (NSD)のスパイ対策室(CES)のFARA登録ユニットによって管理されている[1]。米国司法省は2007年の時点で、米国議会、ホワイトハウス、連邦政府には、100カ国以上を代表する約1,700人のロビイストがいると報告した」
外国代理人登録法 - Wikipedia
実はアップルも株式提案として、中国に忖度して自主規制しているのではないかという提案がありましたがあえなく否決されています。
「今年2月、アップルに対し表現の自由に関するより詳しい方針を開示するよう求めた株主提案は、41%というかなり高い支持を得たものの、最終的には否決された」(ロイター前掲)
このように自浄できなっかたアップルなどコンテンツ企業は、この外国人登録法の指定を受ければ、営業活動に大きな打撃を受けるにとどまらず、米金融機関や投資家から投資対象として排除される可能性がでてきました。
バー司法長官がアップルとディズニーをあげたのは、中国に静かに侵略されているGAFAとハリウッドに対する強い警告なのです。
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金の亡者代表のディズニーが2000年代に「パールハーバー」なんて珍作を大金かけて作ったら大ヒットしたあたりから、中国は「これはイケる!」と狙ってたでしょうし。
あんな中味の無い大作も珍しいです。
日本のライト層は普通に信じちゃったりしますからねぇ。
韓国は独自に「軍艦島」みたいなファンタジー反日映画を作って、自ら信じこむという毎度のパターン!
アニメ界もお金が厳しいので最近はチャイナ資本が続々と入ってきてますけど、現在配信中の「日本沈没2020」なんて・・・原作は小松左京ですが、もうこんな日本人なかなかイネェよという行儀の悪い人ばかりで「中韓からみた、日本がこうなったらいいなあ!」という演出作品になってます。
動画下請けは主に韓国。
音楽は坂本龍一とかです。
投稿: 山形 | 2020年7月21日 (火) 06時51分
中共の対外政策は、日米豪などの自由主義国に対しては資本主義国なりの欠点である拝金主義を悪利用し、自国内では「特色ある社会主義」なる詭弁を弄して自由主義もリベラリズム的価値観も受け入れない事です。
それを側面から助けて来たのが、今でもたぶん正義と思われている「多文化共生主義」だとか、グローバリズム思想でしょう。
啓蒙主義思想やキリスト教的価値観はアウシュビッツを防げなかったという一点で否定され、共産主義の歴史的蛮行は糾弾される事がありませんでした。それどころか、ファシズムと戦った勢力としてプロパガンダされて来ました。
私たちを夢中にして憧れたアメリカ映画に、そのプロパガンダの道具としての価値を中共が目をつけないハズはなく、かくして米国の大事な文化は台無しです。
自由を喪失し、忖度や商業主義的迎合に堕した芸術には何の価値もありません。
ハリウッドがトランプ政権を批判するのは良いのですが、表現の自由という孤塁を死守する事も出来ない映画界の二重基準は滑稽に過ぎます。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2020年7月21日 (火) 17時11分
前回、開高健氏のエッセイから『君は屋根の上て鍋のフタを叩かねばならぬ』を引用した者です。ブログ主様は素より山路様はじめ多くのこのブログに書かれていることに日々学ばさせて頂いています。ありがとうございます。
今回の主題はこのハリウッドで1950年代に起きた赤狩りと対比すると、今アメリカで起きている一連のことや、今の中国の在り方とを鑑みると、なんとも人間のおぞましさにゾッとさせられます。
その後のアメリカンニューシネマのような?若々しく力強い波が立ち上がっている香港を守ることを意識して、若者達が前を向いて生きていってくれることを意識して、私達が毎日を生きて願うしかないのでしょうかね。
投稿: R | 2020年7月21日 (火) 18時30分
惜しくも30歳で亡くなられた三浦春馬さんの在りし日の映像がテレビで流れて、見るともなしに見ていたら。
まだ20代前半といった頃だろうか、舞台挨拶で四方八方のファンから同時に声が掛かり続けてスピーチもままならない状況に、「わからないよ!聖徳太子じゃないんだから!(笑い)」。
私は三浦さんをよく存じ上げないけれど、こういう返しがサラッと出る姿に少々驚き、とても好感を持ちました。
合掌。
翻って、芸事の世界に反体制的、反政府的な人が多くてもちっとも構わないのですが、筋が悪かったり都合がよ過ぎる振舞いが目に余るのは日米ともにですね。
確信犯なのか頭が悪いのか知りませんが。
アメリカに続いてイギリスも畳み掛け始めましたが、フジ「めざましテレビ」だったか、そのイギリスが取った措置のニュースで結語が「中国の反発は必至です」。
哀れさに、乾いた笑いが出ます。
とまれ中共でも水害が殊の外酷いようで気の毒ですが、中共共産党政府は復興支援などしないのでしょうから、国民の気を逸らすためのギミックを、外に向かって繰り出し続けるのでしょうねぇ。
投稿: 宜野湾より | 2020年7月21日 (火) 18時50分
少し前までは私も含めて大方の人達が、中共も徐々には民主化の
方向へと進まざるを得ず、遠い日かも知れないけどいつかは自由化
を受け入れるようになっていくのだろうと、勝手に思っていたフシが
ありました。共産主義なんてガラクタは、最先端技術の進歩の前に
は音を立てて崩れ去るのが、自然の流れ、モノの道理だとの固定
観念がありました。
ところがどっこい、逆でしたわ。ここへ来て、私達の固定観念がガラ
クタにされました。資本主義を取り入れてゼニを稼ぎ、自前の最先端
技術を使って下々の民を超管理するという、以前ならSF映画の中に
しか存在しなかった(私はテリー・ギリアムの『未来世紀ブラジル』を
思い出しましたわ)国家が、なんとまあ実在してましたわ、すぐ隣に。
ハリウッドの連中も、何も中共様の舎弟になりたかった訳じゃなくて、
いずれ自由化へと向かわざるを得ない共産主義をアタマにした資本
主義国家に、先手必勝で地固めしたかったのだと思います。それが、
『未来世紀ブラジル』ソックリな国家だと判って、泡くってるのだと。
国際社会(今のところロシアは除く、朝鮮は不明)も段々と、清朝の
後継としての中華共産党帝国の出現に気が付いた。21世紀にも
なって自由主義国家陣営と中華帝国とが争うなどという、これまた
『スターウォーズ』的世界が目前という、事実は映画より奇なりその
ものですわ。
投稿: アホンダラ1号 | 2020年7月21日 (火) 22時51分