球磨川水害は充分に予想されていたはずだ
熊本県と大分県で大きな災害が発生しています。
亡くなられました方々、また被災された皆様に心からお見舞いを申し上げます。
人吉は私の母の故郷で、母方の先祖の墓地もある地域なので、胸が痛みます。
毎日
状況は現在も進行しており、なにか結論めいたことを書くには早いとおもわれますが、現時点でとお断りして進めていきます。
まずもっとも被害がひどかった人吉を中心とする熊本南部の降水量です。
「7月3日(金)0時から4日(土)24時にかけての3時間、6時間、12時間、24時間、48時間の各雨量および土壌雨量指数(土砂災害危険度を表す指標)の最大値を図1に示します。球磨川流域を含む熊本県南部では、6時間雨量最大値で200~500ミリ、12時間雨量で300~600ミリの雨量、24時間雨量で400~600ミリ超となりました」(日本気象協会7月6日)
https://www.jwa.or.jp/news/2020/07/10378/
上図は、7月3日(金)0時~7月4日(土)24時の各指標最大値(国土交通省解析雨量より作成)で、緑色の線で囲った範囲が球磨川流域、太い青線が球磨川です。
この球磨川流域に降った雨は、過去の最大値を100とした場合、150%となります。
「また、これまでの観測データの既往最大値(過去の最大値)を100%として、今回の各時間雨量最大値との比較を行ったところ、ほとんどの降雨継続時間の雨量で既往最大を超過する100%以上の範囲が球磨川流域と重なることがわかりました(図2)。とりわけ、6時間雨量や12時間雨量では、既往最大比が150%以上となっている領域が見られ、記録的な雨量であったことがわかります」(日本気象協会前掲)
この降雨量のすさまじさは、人吉市など球磨川の流域を中心に実に400~500mm近い72時間降水量が記録されている事でもわかります.
体験的に100㎜を超える降雨があった場合、屋外で活動することは困難となりますので、400~500㎜という数字がいかに巨大なものだったのかご想像下さい。
またもうひとつの特徴として、大きな降水量が見られた範囲(上図赤色)は比較的狭く、周辺の熊本県北部、大分県、鹿児島県南部などでは72時間降水量が200mm以下、ところによっては100mm以下のところも見られます。上図の黄色部分です。
「今回の雨は,3日昼前から4日昼前までのほぼ24時間,特に雨が強かったのは3日夜遅くから4日朝までの12時間程度だったようです」
( 牛山素行 | 静岡大学防災総合センター教授)
https://news.yahoo.co.jp/byline/ushiyamamotoyuki/20200705-00186715/
つまり、12時間という短時間に人吉を中心とする球磨川流域に、今までの最大値を5割も超える膨大な雨が降ったということになります。
その結果、球磨川流域は各所で決壊しました。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200704/k1001249
「浸水は球磨川周辺の比較的標高の低い地域に集中し、浸水が最も深かったのは、熊本県球磨村の渡(わたり)地区のうち畑や森林が広がる場所で、深さは8メートルから9メートルほどに達しているとみられるということです。
JR人吉駅周辺にも浸水が広がっていて、深さも1メートルから2メートルほどに達しているとみられます」(NHK7月7日)
上図のハザードマップを見ると球磨川の屈曲点に決壊箇所が現れており、このような箇所から氾濫を起こすことは充分に想定可能だったはずです。
というのは、今まで日本の各地を襲った大規模水害はことごとくこのような川の屈曲点で起きているからです。
たとえば2019年に起きた千曲川水害を見てみましょう。
上の地図を見ていただくとわかるように山岳地帯に源流をもつ千曲川と犀川は長野市で合流し、信濃川と名前を変え日本海まで流れています。
2019年に起きた千曲川水害において決壊が発生した長野市穂保(ほやす)は、犀川との合流地点近くの屈曲して狭くなっている手前の場所で、河川事務所が洪水の危険性がある場所として警戒をしていた地点でした。
この穂保には電柱に、「5・0メートル以上想定浸水深 この場所は千曲川が氾濫すると最大10・0メートル浸水する可能性があります」と書かれたプレートがつけられているほど、かつて何回も洪水を起こした地点として知られていました。
千曲川水害では、この地点に記録的大雨が降り、この大量の水の運動エネルギーは千曲川屈曲部を経て犀川との合流点に向かいました。
「今回は千曲川の上流域に当たる、東信で記録的な大雨になりました。13日(日)9時までの48時間雨量は北相木で411.5mm、佐久で311.5mm、鹿教湯で327.5mmなどいずれも観測史上1位の記録を更新、軽井沢の332.5mmも10月としては1位の記録です」(ウェザーニュース10月13日)
https://article.auone.jp/detail/1/2/2/150_2_r_20191013_1570937583887204
上図をみると300㎜を示す紫色の丸が、千曲川屈曲部右岸周辺にに集中しているのがお判りになると思います。
千曲川の特徴は、屈曲と盆地が連続することで、特に今回洪水を引き起こした穂保周辺は大きく曲がって犀川と座右流するすぐ手前に当たっています。
このような二つの河川が合流する地点は、バックウォーター(背水)現象の起きる特徴的地形です。
かつての倉敷市真備の洪水でも典型的なバックウォーター現象が起きています。
2018年の倉敷真備水害でも支流が本流に合流する屈曲点から決壊しています。
真備水害概念図
千曲川と犀川の合流点においても似た現象が起きたと推定されます。
①記録的大雨で両河川の水位が著しく上昇。
②犀川に対して比較水量が少ない千曲川は、犀川の水量が多いために合流を阻まれて流れにくくなる。
③合流を阻まれたために千曲川が滞留し水位が更に上昇する。
④水が堤防を越水し決壊する。
今回も球磨川にも多くの支流が流れ込んでおり、特に大きな支流である川辺川は人吉の手前で合流しています。
さて、川辺川ダムが民主党政権によって中止されたことはよくとりあげられていますが、現時点でこの災害とダムの因果関係は専門家の調査を待たないとわかりません。
この川辺川ダム反対運動の主役のひとりだった朝日はのどかにこんなことを書いていました。
「川辺川ダム中止表明10年 明るい兆し、残る不安ー
川辺川ダム計画に蒲島郁夫県知事が「白紙撤回」を表明してから、11日で10年となった。清流が残された熊本県五木村では豊かな自然環境にひかれて観光客が増えるなど明るい兆しもあるが、水没予定地からの移転を機に多くの住民が村外に出て、残った住民は将来に不安を募らせる。ダムに代わる流域の治水対策の策定も難航する中、ダム建設計画復活があるのではないかと懸念する声もある」(朝日2018年9月15日)
https://digital.asahi.com/articles/ASL9F00YVL9DTLVB00P.html?iref=pc_ss_date
ここで朝日が「残る不安」と言っているのは、今回のような多数の死者を出す激甚災害が起きる「不安」ではなく、「建設計画の復活」のことのようです(笑)。
ぜひ朝日におかれましたは、今回の大災害の後も、同じことを書き続けていただきたいと思います。
一方、熊本県首長はこう述べています。
「熊本県南豪雨による球磨川の氾濫を受け、蒲島郁夫知事は5日、報道陣の取材に応じ、球磨川支流の川辺川ダム建設計画に反対を表明した過去の対応について「反対は民意を反映した。私が知事の間は計画の復活はない。改めてダムによらない治水策を極限まで追求する」と述べ、従来の姿勢を維持する考えを示した。
蒲島知事は2008年9月、治水目的を含んだ川辺川ダム計画に反対を表明。翌年の前原誠司国土交通相(当時)による計画中止表明につながった。国と県、流域12市町村はその後、ダムによらない球磨川治水策を協議。河道掘削や堤防かさ上げ、遊水地の設置などを組み合わせた10案からダム代替案を絞り込む協議を本格化させる予定だった」(熊本日々新聞7月6日)
https://news.yahoo.co.jp/articles/12b54692c4fa2aa2ab75ef2ae92e3e056e9a7fc8
なんと県知事は「民意」で決まったことだからダム計画は見直さない、考慮にも値しないというご意見のようです。
災害県の首長をとやかく言うのはいかがなものかと思いましたが、正直呆れました。
「ダムによらない治水」を言うのは簡単ですが、ならば民主党政権が中止に追い込んだ川辺川ダムに代わる代替案を出す責務が首長にはあります。
蒲島知事が反対を掲げて、当時の前原建設相と中止に追い込んだのは2008年、なんとすでに12年もたっています。
この12年間、蒲島氏は一体なにをしていたのでしょうか。
蒲島知事が代案はどうやら川の底を深く掘る河川掘削と堤防の嵩上げのようですが、この人が全国で頻繁に起きた水害を少しでも研究したかはなはだ疑わしくなります。
倉敷真備川の時もそうでしたが、反対運動の主力となった共産党の川辺川ダム反対の時の代案も河道の掘削でした。
この共産党の反対論は、水利の常識に反しています。
共産党の言い分は、ただ河道を深くするだけということで済ませようとしているわけですが、これでは水量がかえって増してしまい、川辺川の水の運動エネルギーはそのままの勢いで球磨川に突入してしまうことになるからです。
つまり、共産党案はかえって水害をひどくする愚案にすぎないのです。
かさ上げも、このような前代未聞の大雨が恒常化する場合には役に立ちません。
いったんバックウォーター現象を起こして一箇所から決壊すれば、その地域全体の堤防が連鎖反応を起こしたヨウニなります。
バックウォーターを防止すると言われるフロンティア堤防にするのは有効だとおもいますが、技術的に確立しているとは言えないというのが国交省の見解です。
私はダムかフロンティア堤防かという二者択一ではなく、川上の点をダムで守り、川下の危険地域の線をフロンティア堤防で守るのがベストのようなきがします。
老婆心ながら蒲島さん、川辺川ダム計画はペンディングなのですから、それを含めてトータルに再考されたほうがよいと思うのですが、いかがでしょうか。
これだけの生命を奪う大水害が起きてなお、ダムなど一顧だに値しない、これが「民意」だというあなたの姿は非常に見苦しい。
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フロンティア堤防にはインプラント工法やTDR工法といった堤防に砂やセメントを混入させたアメリカで導入された安価な方法があると聞いています。また越水したとしても遮水シートを住宅側ののり面に敷くことによって越水を防ぐことができるとしています。個人的にはダムを作るよりもこちらの方が周辺住民にも配慮していて早いと思うのですが日本で導入したとしてどれくらいの技術的な可能性があると管理人さんは踏んでいるのでしょうか?国交省が言うように堤防の土質や越流水深等に大きく左右されてしまうような未完成な技術なのでしょうか。
投稿: htm | 2020年7月 8日 (水) 07時27分
実際問題川辺川ダム反対派は1999年にはフロンティア堤防の技術は確立されていたわけだからそれを実用化しなかったことが問題だと主張していますね。国交省がダム推進のためにフロンティア堤防をもみ消したと言う反対派の言い分は正当性があるのでしょうか?
投稿: 金太郎 | 2020年7月 8日 (水) 07時42分
熊本の知事は一日で発言を翻した様子です。
何なんでしょうかね、この知事は??
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/623617/
投稿: 宜野湾くれない丸 | 2020年7月 8日 (水) 07時45分
一頃はダム建設は悪とする左派勢力が基地建設同様に大反対してたわけで。。
川辺川ダムも初の「計画中止に追い込んだ」例だとしてマスコミは「画期的!」と書きましたね。
が、しかし「ダムを建設しない上での治水」あってのことでしょう?
民意とはダム反対!で数十軒が補償を受けたうえで移転させられるよりも、水害でこんな甚大な被害を出すことを県民が望んだのだとでもか?と、蒲島知事さんに問いたいです。66年には計画されていたことが09年に廃止されてばんざーい!で終わっていて、その後10年も知事やってて何か対策を取ったのかと。
何もしてないですよね。ウチの県知事と同じで麻生政権がリーマンショックやスキャンダルで火達磨になってる時に勢いで当選しちゃっただけの人ですから。何の対案も無く国交省とのちゃんとしたパイプも無く、未だに「コンクリートから人へ」を地で進み「県民に寄り添う政治」とか「暖かい政治」といったオタメゴカシ政治家さんですね。
予算が無かったとかいってましたけど、その予算を引っ張ってくるのが仕事でしょうに。
最上川流域でも舟下りのある最上峡の蔵岡地区なんてとこは何度も水害に襲われていて、川の向い側には北から大きな支流の鮭川が流れ込む典型的な場所です。
国交省も何もしていなかったわけではなく、普段は南の月山系から流れる沢の水を豪雨時には最上川に排水するポンプを設置しましたが、一昨年にはバックラッシュで緊急作動させようとしたけれども既に最上川が満水な上に落雷停電でポンプ停止。土手の上を走る国道47号線に新庄の最上河川国道事務所からポンプ車が到着して排水を始める頃には集落が全滅してました。
ちなみに、発電機はそれこそ「当時の政権で予算が付かなかった」ので配備されていませんでした。。
投稿: 山形 | 2020年7月 8日 (水) 07時47分