予備選挙に61万人 香港市民は諦めていない
私は絶望しかけていましたが、香港市民は絶望していませんでした。
香港民主派はまだ諦めていません。
【香港=藤本欣也】9月6日の香港立法会(議会)選に向けた民主派の予備選が12日、2日間の日程を終えた。主催者によると、投票者数は有権者全体の約13%に当たる61万人を超えた。市民は投票を通じて、中国が導入した「香港国家安全維持法」(国安法)への反対を表明した形だ。 今回の投票は、香港政府高官が「予備選は国安法違反の疑いがある」と警告する中で行われた。
12日、400人以上の行列ができた新界地区で投票をした女性(39)は、「もし投票することが罪になるなら、今ここで整然と並んでいる全員を、そして香港で投票した数十万人全員を逮捕すればいい」と憤っていた。投票の権利までも国安法で規制しようとする政府の対応に反発する市民は多かった。
民主派は投票者数の目標として、昨年の区議会選で獲得した票数の1割に相当する17万人を掲げていた。実際には3倍以上の市民が投票した。2日目の投票者数は初日(約23万人)を上回る約38万人だった」(産経7月13日)
この予備選挙は、この9月の立法議会選挙の民主派候補の共倒れを防ぐ目的で、民主派が独自に開催したものです。
この約61万人という投票者数が意味するのは、民主派が圧勝した昨年の区議選で獲得した票の約3分の1に相当し、立法会選の有権者全体の14%にあたります。
民主派は目標を達成し国安法以降初めての勝利をもぎ取りました。
AFP 香港民主派の予備選に投票するため並ぶ人々(2020年7月12日撮影)。(c)ISAAC LAWRENCE / AFP
この民主派の動きに対して、中国当局は露骨に不快感をしめしました。
「【7月14日 AFP】香港の立法会(議会)選挙に向けて民主派が先週末に実施した予備選について、中国は13日、「深刻な挑発行為」だと表現し、選挙運動の一部が香港に新たに導入された国家安全維持法に違反した可能性があると指摘した。
中国政府の出先機関である香港連絡弁公室は13日夜、声明を出し、「これは現行の選挙制度に対する深刻な挑発行為だ」と非難した」(AFP7月14日)
飼い主がお怒りになると、飼い犬どもも遅れてはならじと一緒に吠えだすという風情です。
今や完全に中国当局の出先機関であることを隠そうともしない香港行政庁は、選挙に行くのは国安法違反だなどと、出来たばかりのメイドインチャイナ直輸入の法律をちらつかせてみたようですが、かえって逆効果だったようです。
キャリーラムは、かつてのような香港市民の代表といったポーズすらかなぐり捨てて、中国とやることなすこと一緒です。やれやれ。
「これに対し、林鄭氏は13日夜、緊急に記者会見し、民主派の予備選について、政府の施政を阻むために立法会選で過半数の議席を獲得することを目的にした選挙であれば、国安法違反の可能性があると指摘した。 また、新型コロナウイルスの感染が拡大しているとして、集会制限措置を再び強化するとし、5人以上の集会を禁止すると発表した。政府は同日、「予備選が選挙の秩序を乱した」などとする市民らの訴えを受けて、調査を開始したことも明らかにした」(産経前掲)
結果、よせばいいのにこういう時に圧政者たちがやる常套手段をとってしまい、かえって香港市民の怒りを買ったようです。
かつて台湾で初めての総統選に対してミサイルを撃って威嚇した結果、民主派に勝たせてしまった故事を思い出します。
こう言うときは口先だけでも融和的なことを言っておくものです。本当にかの国の外交下手が光りますね。
「予備選の直前には、警察が電子投票システムを担う世論調査機関を捜索するなど当局による締めつけが強まった。だが、こうした動きが逆に市民の反発や関心を高めた可能性がある」(朝日7月13日)
既に香港当局はこの6月7日から、国安法を使って逮捕状なしの家宅捜査を始めています。
この予備選挙についても事後弾圧が開始されると予想されます。
その場合、このようなことが可能となります。
①特定の状況で、警官に捜査令状なしでの家宅捜索などを認める。
②捜査対象者のパスポートを没収できる。
③海外逃亡を事前に防止できる。
④インターネット上で国家安全に危害を加えるような情報があれば、プロバイダーにアクセス制限措置を求め、したがわない場合、罰金10万香港ドル、禁固2年以下の刑に処すことができる。
⑤台湾、外国の政治組織に対する必要な資料提供を求めることができる。
これは中国流の思想警察政治が香港で始まったことを意味します。
中国共産党は国安法の施行をにらんで、この2月に香港担当の人事を変更 しています。
産経 キャリーラムの左が駱恵寧「総督」
「中国政府の香港出先機関である連絡弁公室(中連弁)主任が王志民氏から前共産党山西省委員会書記の駱恵寧氏に交代する人事が1月4日、発表された。
王氏は在任2年3カ月。年齢は62歳で、閣僚級の定年(65歳)には達していない。過去の同主任は平均で約5年務めていたので、更迭であることは明らか。香港返還から20年以上たつが、中国政府出先機関のトップがクビになるのは初めてだ[(産経2月1日)
王は習派閥であるにも関わらず不手際を責められて更迭され、代わって中聯弁のトップとなったのが駱恵寧(らく けいねい) です。
この人事はいわゆる大物人事で、駱は青海省の省長(知事に相当)と省党委書記、山西省党委書記を歴任した(いずれも閣僚級)を歴任して、今回香港中聯弁主任という「総督」に就任したことになります。
「重量級の党官僚である駱氏の就任で、香港中連弁主任のポストは事実上、大幅に格上げされた。もし同氏が今後、議会形式の統一戦線組織である人民政治協商会議(政協)の副主席もしくは上級閣僚の国務委員を兼務した場合、その地位は閣僚の上に位置する「国家指導者」となる」(産経前掲)
この男は、香港とはまったく無関係な人脈で、王と違って親中派で占められている香港財界とのしがらみが薄く、共産党中央の意志をダイレクトに香港で実施すると見られています。
一方米国はこのキャリーラムの発言に即座に反応しています。
米国は独自に、香港国安法に関わるすべての人物に対する制裁、及び彼らが使うすべての金融機関に対してドル決済を行わせないという制裁を検討しています。
「6月9日のポンペオの声明では、HSBCのアジア区主席執行官のピーター・ウォンを名指しで「中国政協委員(参院議員に相当?)でもあるピーター・ウォンが北京の災難のようなひどい決定『香港国安法』支持の請願書に署名し、この法律による香港の自治権破壊、中英連合声明に基づく合意破壊の決定を支持した」と批判。(略)
ポンペオは「こういう忠誠の表明の仕方は、HSBCにとって北京において尊重されることにはならないし、むしろ北京がHSBCの中国業務を、ロンドン英国政府に対するコントロールの道具として利用し続けることになるだけだ」と批判していた」(福島香織)
この香港HSBCのマーク・タッカーは、もし英国首相ボリスジョンソンとの面談で、ファーウェイを英国5G建設から締め出したら中国から厳しい報復措置をうけるだろうと訴えており、国安法にも賛成していた銀行です。
またブルームバーグによれば、トランプ政権はすでに香港ドルの米ドルに対するペッグ制を外す検討を始めていると伝えています。
「別の消息筋によれば、ドルペッグ外しは、目下の対中共制裁案リストの優先順位の中では比較的後の法にあり、まず香港と米国の間の犯罪人引渡条約の撤廃、香港警察との協力関係の停止があり、そのた香港への優遇政策の撤廃が続く。だが、米国国務省で、香港ドルペッグを外すことが議題にあがったのは初めてだ。
香港のドルペッグに関しては1983年以来続いており、目下1ドル7.8香港ドルでほぼ固定されてきた。このことが香港ドルの国際的信用の裏付けとなっている。もしドルペッグが外されれば香港の経済競争力が一気に崩れるだけでなく、香港を通じて米ドルを調達していた中国企業の競争力も潰える結果となる」(福島香織)
これらが実施された場合、今まで香港を通じてドルを調達していた中国系企業のドル決済の道は断たれることになり、関係者らの関わっていた中国5大銀行もまたドル市場から締め出されることになります。
これが中国経済に致命的影響を与えることは必至です。
にもかかわらず、習は最強硬派と呼ばれる駱恵寧を「総統」に派遣し、国安法を押しつけたのです。
中国はそれがいかなる結果を自らにもたらすのか、判っていてやっているのでしょうか。
中国系企業や銀行は、このような国際経済に疎い指導者をもったことを呪うことです。
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パスポートも没収されると聞いて香港で日本人が捕まった場合日本政府としてどのような対応を取るのでしょうか?在外邦人の保護についての対策がない限り日本人の命が危ないと思っています。
投稿: ber | 2020年7月15日 (水) 17時52分
私は 「民主派の若い人達は海外から運動を展開して、米国に強く働きかけるべき」と考え、「香港を一旦終了させて、しかる後に長期で考えるべき」という趣旨でコメントして来ました。
ブログ主様の見方を多分に浪漫的であるような発言もしましたが、ようやくそれらの考えが間違いであると気づきました。
香港に残る61万人の方々のように、民主主義を守るならば相応の覚悟が必要であって、周庭(アグネス・チョウ)氏は出国出来るか否かにかかわらず踏み止まって闘いの火を消さない選択をしたのです。
目標値の三倍もの支持者がいる以上、彼らは香港に絶望するわけにも、多数の支持者を置き去りにする事も出来ない悲愴な覚悟には芯から感動させられます。
先鋭的な抵抗で名を馳せた「香港勇武派」の面々が、われ先に台湾へ逃げ込んだのと正反対の行動です。
非常に万一の場合、私ら沖縄県人に彼ら民主派と同じ事が果たして出来るのかどうか、我が事と置き換えると痛く考えさせられます。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2020年7月15日 (水) 18時50分
飯山陽氏が、「国民から自由を奪い、思想を統制し、少数派を弾圧し、諸外国にカネを握らせて黙らせ、近隣諸国を武力で威嚇する国に憧れを抱き、我が国もかくありたいと願う人はそういないだろう。歴史上の覇権国家には他者を憧れさせる魅力があった」という理由で、中国は覇権国家にはなれないだろうと思うとツイートされていて、そこに寄せられたリプライに、黒人奴隷は憧れなかっただろうが大英帝国は覇権国家になったことをあげながら、「憧れ」ではなく中国が新たな価値観やシステムを設計できないからではないかとの意見があり、なる程両方あるかもと考えてみる。
確かに中共という国のやり方やキンペたんの姿には、(イランや他の中東諸国は知らんが)ほとんどの世界は憧れも共感も喚起されない、寧ろ「ああなりたいと思わない」、それを誰よりも強く、香港の人々が考えているのですね。
度々思い出す伊丹十三映画「ミンボーの女」で、ヤクザの脅しに屈し続けるホテルマンたちが、民事介入暴力専門の弁護士から「ヤクザを怖がらない」こと、その方法を教えられて、警察の協力も得て社長・支配人以下全従業員でヤクザに対して静かに丁寧に、しかし毅然と「ご利用お断り」を突きつけ、ついにはヤクザたちは悔し紛れの苦笑いで去るしかなかったシーン。
ただの映画だけれど、ただの映画だけでもなく。
普段は温度や熱量がそれぞれ違う人々が、「今がその時」には揃って「あんたが間違っているのだから怖くない」を突きつけたら、キンペたんはどうする。
なりふり構わず上から被せていくのか。いけるのか。
投稿: 宜野湾より | 2020年7月15日 (水) 21時04分