領海法がなくて、どうやって戦えというんだろう
長すぎた梅雨が終りましたので、衣替えをいたしました。朝から何回か変えてすいません。涼しげなのがやっぱりいいか。
さて、中国が記録更新が止まったようですがこれはただの台風避難のようで、状況にはいささかの変化もありません。
その状況とは、中国が尖閣の島そのものをいったん置いて、先に尖閣水域を領海として既成事実化する意図です。
この8月16日には、中国が勝手に設けた禁漁期間開けということで、尖閣諸島周辺の漁を解禁しますが、中国当局は漁師らに尖閣諸島に近付かないよう指示したことが分かりました。
2年前には中国の漁船300隻ほどが尖閣諸島周辺に押し寄せ、大変な事態となったことを受けて、菅官房長官の弁です。
「沖縄県の尖閣諸島周辺海域で、中国側の活動が活発化していることに関連し、菅官房長官は、過去に中国が設けている禁漁期間のあと、中国海警局の船が漁船とともに、日本の領海に侵入したことを踏まえ、ことしも動向を注視し対応に万全を期す考えを示しました。
沖縄県の尖閣諸島周辺海域では、日本と中国の漁業協定に基づき、中国の漁船は日本の領海の外で操業することは認められていますが、4年前の平成28年8月に、中国政府が独自に設けている禁漁期間が終わったあと、中国海警局の船が多くの漁船とともに日本の領海に侵入し、緊張が高まりました(NHK8月3日)
中国は日本政府の抗議に対して、「日本にはその資格がない」と一蹴しました。
まぁこのていどは言うでしょうな、彼らにすれば尖閣水域は既に「中国領海」だからで、日本の漁船が違法操業しているという認識だからです。
だから、日本漁船を取り締まるべく執拗に追尾し、やがて機関銃を発砲することでしょう。
こう言うとき沖縄県になにかを求めても無駄です。
デニー氏は日本漁民を叱りつけたことはあっても、中国海警察に抗議したことは一回もないという実にとほほな人物なのです。
「尖閣諸島で領海侵入を繰り返す中国公船に関し、玉城デニー知事が「中国公船がパトロールしているので、故意に刺激するようなことは控えなければならない」と述べたことに、1日、八重山の漁業者らから「領海内で漁をすることの何が悪いのか」と反発の声が上がった。尖閣問題だけでなく、台湾との「日台漁業協定(取り決め)」などで、離島の漁業者が被害を受けているとの指摘もあった。」(八重山日報2019年6月2日)
http://www.yaeyama-nippo.co.jp/archives/7292
おそらくこの16日には、中国福建省の漁港からは600隻ともいわれる大漁船団が尖閣に登場することでしょう。
中国漁船団を甘く見てはいけません。中国はこのような漁船団を準軍事的集団として考えています。
かならず司令船が随伴して指揮をとり、海上民兵という兵隊も多く乗っているはずです。
銃火器は持っていないと考えるほうがのどかでしょう。
では、日本側に何ができるでしょうか。
たしかに尖閣諸島周辺海域は、日本の領海であることは間違いありません。
領海に他国の船舶が侵入した場合、直ちに「領海侵犯」事案として実力で排除できるのかといえば、できません。
実は実力で排除できるのは、海警のような公船か中国海軍の軍艦だけなのです。
領海侵犯が成立するためには、以下の条件が成立せねばなりません。
①侵入した船舶が、政府公船・軍艦であること。
民間船の侵入は、単なる不法入国の範疇だから扱いが別枠。
②侵入した外国公船が国際海洋法の無害通航権を犯した場合。
無害通航に当たらないと領海国が判断した場合のみ、初めて排除宣言が可能。
民間船が日本の漁場を犯した場合、指をくわえてみていろということなのかといえば違います。
ただし、それは日本のEEZ(排他的経済水域)で違法操業した場合に限ります。
日本と中国は日中漁業協定を結んでいます。実に細かく水域がゾーニングされているのでご注意ください。
日中漁業協定 - Wikipedia
宮古毎日
1997年の日中漁業協定によって、他国のEEZ内で操業する場合には、相手国の許可が必要です。
中国漁船が日本のEEZで操業するなら、日本の許可が必要です。
ややっこしいのは、日中漁業協定で棚上げとなっている北緯27度線以南の海域です。
この27度以南の水域は日中漁業協定第6条(b)によってどちらの権益に属するのか決まっていないのです。
この領有権が明確にされていない水域に尖閣が入っているのです。ああ、ややっこしい。
つまり、日中漁業協定はこの尖閣を暫定水域としてしまうことで、事実上中国の操業を認めてしまっているのです。
領海において外国漁船に操業を許容するという主権放棄がいまになって響いています。
「現行の日中漁業協定は、北緯27度以南の東シナ海の日本EEZについて棚上げしており、この海域で中国が自国漁船を取り締まる権利を否定していない。中国の漁業監視船は、これを根拠に行動することができる。
日本政府はこの海域を「EZ漁業法特例対象海域」に指定し、中国漁船に対して漁業関係法令を適用していない。中国漁船もまた、これを根拠として操業している。
日本国民として非常に残念なことだが、中国政府には「自国の漁業監視船の活動を日本が容認している」と主張するだけの根拠がある、と考えるのが国際法的にも自然なのである」(静岡県立大学助教・西恭之)
中国はこのような日本の弱腰をあらかじめ計算していますから、2016年のように北緯27度以南の尖閣水域にまで大挙して漁船を入れてきて、協定の棚上げを一方的に破っています。
要するに、尖閣諸島の領有問題を臭いものに蓋をしたかった日本政府が、この海域を「法令適用除外水域」とするという愚挙をしたために、自分で自分の首を締めてしまったということです。
実は憂鬱になるのですが、日本の対応はむしろ後退しています。
たとえば政府の白書類にしても、その間、以下のように中途半端な記述を続けています。
静岡県立大学助教・西恭之氏によれば
「水産庁はと言えば、日中漁業協定発効(2000年6月)後の水産白書は、北緯27度以南の海域の棚上げに触れていない。
水産庁は「日中漁業協定の概要」(2010年11月)に「北緯27度以南の東海の協定水域及び東海より南の東経125度30分以西の協定水域(南海の中国の排他的経済水域を除く)においては、既存の漁業秩序を維持する」と記しているものの、「既存の漁業秩序」とは、旧漁業協定時代と同様に旗国が漁船を取り締まる(中国漁船なら中国側が、日本漁船なら日本側が取り締まる)意味であることを明記していない。
(略)
国会の議論は、さらに低調かつ関心の希薄さをさらけ出している。国会では、棚上げされた二つの水域のうち、北緯30度40分以北、九州沖「中間水域」の東限線に関心が集中した。ここは豊かな漁場で、日中韓三国の漁船が同じ海域で操業していることが理由である。尖閣・先島諸島領海の周りの27度以南水域については2003年4-5月、社民党の東門美津子衆議院議員(現沖縄市長)が質問し、政府側が日中漁業協定改定の意思はないと答弁したほかは、議論されていない。
以上が日本の領海や排他的経済水域をめぐる対応の現状である。国民が知らされていないだけでなく、国会議員や関係省庁の官僚の認識も怪しい状態で事件が発生したりすれば、昨年9月の尖閣沖での中国漁船の衝突事案で明らかだったように、迅速な対応など望むべくもない」
(西前掲)
このような政治の臭いものに蓋的な政府の対応が破られたのは、いうまでもなくこの間の中国の傍若無人な活動だったわけですが、ではなにができるのかといえばはなはだ現況は無力です。
よく右方向の人たちは景気よく海自を出せといいいますが、不可能です。
なぜなら中国はそれを狙っているからです。
中国はもっけの幸いとばかりに国際世論に訴えることでしょう。※このフレーズが大きな活字になっていましたが、間違いです。意味はありません。
ネットでは中国ミサイル艇が控えているという産経の記事に煽られて大騒ぎしていますが、中国海軍は絶対にあちらから手を出しません。
だって、中国から仕掛けたら負けだと狡猾な中国は判っています。
中国が望む状況は、日本側(できるなら海自)に先に手をださせて、「ニッポンはこんな国際法違反をしていますよ」と国際世論に訴えることです。
そして日本のメディアに「海自過剰警備。中国側怒り」みたいな太鼓持ちの記事を流させることです。
世界の大部分の国は、尖閣諸島が日本を領有だなどということを知りません。
日本人が中印国境紛争の理由をよく知らないのと一緒です。
国際社会の無関心のベースの上に、それでなくても中国は尖閣周辺をしっかり「警備」していることを国際世論にアピールし続けていますから、こちらから手を出せばどのようなリアクションが返ってくるかやる前から判りきっています。
感情論を抑えて国際法の建て付けをみます。
「1)国連海洋法条約は、「各国政府が非商業的目的のために運航する船舶」に軍艦なみの治外法権を与えている。この種の船舶が、領海内の無害通航に関する規則に違反しても、沿岸国は退去を要求し、損害賠償を所属国に求めることしかできない。中国の漁業監視船や調査船のケースはこれに該当する。
2)「領海等における外国船舶の航行に関する法律」も国連海洋法条約に準拠し、「軍艦及び各国政府が所有し又は運航する船舶であって非商業的目的のみに使用されるもの」を適用から除外している」(西前掲)
中国公船・軍艦は国際海洋法により無害通航権を有していますから、現在の領海侵犯行為に対してもそれが適用されます。
日本側はそれに対して領海であることを強く警告できますが、砲を旋回させたり、艦載機をとばしたり、調査行為などをしないかぎり合法です。
まったくなにもできないかといえば違います。
唯一残された道は、中国や台湾なみに法整備をすることです。
中国や台湾は「領海法」を持っていますから、これに習ったものを日本も法整備しなくてはなりません。
国際法の盲点をすり抜けても、当該国の法律によって対処可能なような領海警備に関する法律を早急につくるべきです。
そして日中漁業協定も、よい機会ですから改訂交渉をして、あいまいな尖閣周辺の「法令適用除外水域」を廃止せねばなりません。
実はこの話は、中国漁船衝突事件の時に一回与党内で持ち上がったのですが、そのまま立ち消えていますから、当時の議員に再度動いてもらって法整備をしましょう。
こういう政治のバックアップがなく、すべてのしわ寄せを海保に丸投げしている日本政府のあり方が問題なのです。
海自を出せとか、ミサイルを配備しろというのもけっこうですし、おそらく国際状況はそのような方向に行くのかもしれません。
しかしそれは今ではありません。
今できるのは、中国公船の横暴に対処する国内法の整備をすることが先決です。
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中共はなんで予告してきたんですかね。
北戴河じゃ何が話されるんですかね。
2020年4月沖縄県警に全額国費で新設された国境離島警備隊は、報道によれば警察庁から着任の隊長と150名の隊員のうち40名が他都道府県からの出向とありますから、110名が沖縄県警のメンバーかと思います。
いずれであれSAT経験者も居られるでしょう。(隊旗はカンムリワシだぜ!)
隊員は自動小銃装備で那覇から大型ヘリで輸送され、不法上陸事案等の一次的対処に海保と共にあたります。
我々は隊員の皆さんのお顔等知る必要は無いですが、来ない方が良いに決まっている出番のために日々訓練を重ねる、国境警備における「自衛隊の前」を担う役割のことは、その重要性も限界も知っておいた方が良いだろうと考えます。
ただ、上司がアレなんでそこが心許ない…県の責任者の考え・言動が中共寄りでも、中共の方はそんなこと気遣ったりしませんからねぇ。
サラミスライスよろしく島と海が剥ぎ取られていくのも、我が国国民が生業やレジャーに「怖くて行かれない」のも、我が方の警察・海保や民間に犠牲が出ないと腰が上がらないのも、自衛隊に犠牲が出るのも、全て実際に見たいなんて絶対思いませんから、連携する組織みんなで法に基づいて当該海域付近で可能な訓練を実施するなど、「で、あんたたち中共はどうするつもり?」な状況を展開してほしいし、管理人さんの仰るように必要な法整備がありますね。
投稿: 宜野湾より | 2020年8月 4日 (火) 12時37分
尖閣周辺の法令適用除外水域の設定は、たしか質問主意書で「漁業資源や海洋資源乱開発をしない条件で設定した」という日本政府見解があります。
要するに「相互信頼」を基にした除外動機だったわけですが、そのそも法や国際関係の安定的適用性を欠く中国相手に、決して譲歩してはいけない事をやってしまったツケです。
もちろん当時から一部では問題にしていたようですが、ワリを食うのは結局地元漁業者。それをまた様々な方法で分からないようにうすめて補償して、結局国民全員の税負担とか。ため息しか出ませんね。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2020年8月 4日 (火) 12時54分
本当は新型コロナなんぞより尖閣への対応に対する案件で臨時国会を早急に開かないといけない状況だと思うのですが…
昨日のBSプライムニュースでの国防議論でも北に対するミサイル防衛の話ばかりで尖閣に関する話題はほとんど無しと
日本を代表する国防論者ですらこの認識の遅さでは後手を踏むのはまず間違いありませんね。
宜野湾よりさんへ
中共の宣言はまさに国内外に置ける「尖閣は中国のモノである」を正当化するためのダメ押しのアピールでしょう、ここまでコケにされても日本側が遺憾砲しか発射出来ずに宣言通りに尖閣沿岸に中国工船が埋め尽くされたら世界は誰も尖閣は日本の領土なんて思わないでしょう。
そして中国は日本がそれを阻止出来る行動を取れないと舐めています。
投稿: しゅりんちゅ | 2020年8月 4日 (火) 14時18分
日中漁業協定の見直しや領海法の整備の必要性はよくわかるのですが海保だけで対応できるとはとても思いません。物理的に向こうの方が圧倒的に上でしょう。だから日米共同訓練をやれと言う話ですが自衛隊も出せないのであれば米軍も出てくることだって容易にはできないのではないのですか?
投稿: fin | 2020年8月 4日 (火) 14時37分
finさん
尖閣で中共軍が日本の施政権をハッキリ侵すような行動に出れば、とうぜん海自がこれを排除に向かいます。それが困難な任務となれば、米軍が加わる事は必然です。
ただ、今日の記事の話はそういう話ではなくて、それよりもっと遥か以前に日本の政治が犯してしまった失態についてでありまして、過去の失敗は失敗として仕方がないとしても、覚悟さえあれば今すぐにでも日本国としてはその失敗状況から回復しうるワケです。
それが記事中の「法令適用除外水域の撤廃」だとか、「領海法の制定」などの事案にあたります。
しかも、この回復をすらしないならば、(武力行使を覚悟したとしても)最終的に国際社会に通用しづらい論理しか形成出来ないだろう、という記事趣旨です。
さらに、このような日本政府の不作為を同盟国アメリカ側から見た場合、
「本当には尖閣を守る強固な意志が日本国自身になく、米兵の血を流すに相当する場合にあたらない」という判断を招きかねません。
まず日本国自身が出来るやるべきをやり、その上で同時に軍事演習や久場島などの米軍基地化を要請すべきなのです。今日の記事はそいう意味内容です。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2020年8月 4日 (火) 19時41分
しゅりんちゅさん
ありがとうございます。
今日のエントリーの主旨に全く影響ありませんが、これについての産経の報道が「政府高官」ベースなので…
社や内容に関わらず疑うイヤな子になる一方でいけません(苦笑
投稿: 宜野湾より | 2020年8月 4日 (火) 20時17分