8月16日は中国の解禁日でした
メディアはほとんどスルーしていましたが、昨日16日は中国が漁業解禁日にあたります。
大規模な漁船団が福建省から出たという情報も伝わってきています。
「中国福建省石獅(せきし)=西見由章】中国政府が尖閣諸島(沖縄県石垣市)沖の東シナ海に設定していた休漁期間が日本時間16日午後1時に明けた。
中国福建省最大の漁港、祥芝(しょうし)港では同日朝、停泊していた漁船約550隻が出漁を祝う爆竹を鳴らしながら一斉に港を出た。
漁船の多くは台湾海峡付近で操業する見通しだが、一部は尖閣沖に向かうとの証言もある。
地元の漁業関係者らによると、当局は「敏感な海域」として台湾近海や尖閣沖での操業を規制し、尖閣への接近を禁止する規制線も設定している。
漁船員の男性は15日、「まず台湾海峡で漁をする。釣魚島(尖閣諸島の中国側名称)へ向かうかどうかは魚の状況による」と話した。 尖閣周辺では5月、日本領海に侵入した中国海警局の船が日本漁船を追尾するなど中国側が活動を活発化させ、不当な領有権主張を強めている。2016年8月には中国漁船約300隻と公船10隻以上が尖閣周辺に押し寄せた」(産経8月16日)
https://news.yahoo.co.jp/articles/7791c4b8865791f87d7a0644077b186eb56e62e8
現時点ではまだ大規模な尖閣への侵入はないようですが、この産経記事が伝えるように漁船員が「台湾海峡で漁をした後に、尖閣に向かうかどうかは漁獲しだいだ」と言っているところから、これからいつどのような形で始まるのか予断を許しません。
産経 中国国旗を掲げ、出港を待つ漁船=15日、中国福建省石獅市(共同)
一方福建省当局は、「敏感な海域での操業は控えるように」という通達を出したとも伝えられています。
【石獅(中国福建省)=南部さやか】沖縄県・尖閣諸島周辺に中国政府が設定した禁漁期が16日に明けるのを前に、福建省の地方政府が周辺海域での操業を控えるよう漁師らに指示していることがわかった。 尖閣諸島沖の接続水域内では4月から8月初旬にかけて、中国公船が111日連続で航行するなど緊張が続いている。
今回の指示は、大量の中国漁船が領海に侵入すれば、日中関係の悪化が避けられないことを考慮した措置とみられる。 福建省石獅市の漁師によると、地元政府が8月初旬、漁師らを一堂に集め、尖閣周辺を念頭に「敏感な海域」での漁を控えるよう求めた。
漁港には「敏感な海域に漁に行くことは厳禁」との横断幕が掲げられている。ただ、「地元政府からは連絡は受けていない。今年も状況次第で漁に行く」と証言する漁師(58)もおり、指示が徹底されるかどうかは不透明だ。
地元当局はここ数年は、尖閣周辺での操業を控えるよう指示を出している。海上保安庁の資料によると、2016年8月には200~300隻が周辺海域に押し寄せ、領海侵入や接続水域での操業も確認された」(読売8月16日)
https://news.yahoo.co.jp/articles/f5f72471c8140a14fc4f98041dfd0f48578aa55c
読売 福建省の漁港に掲げられた横断幕には 「敏感な海域での漁は厳禁」とある。
「漁船が多い福建省石獅市の船長(52)によると、地元当局は最近、漁民を集めた会議で「釣魚島周辺の30カイリ内に入ることは許さない」と強調した。船長は1~4月に尖閣周辺で操業したが「政治問題は分からない。当局には従う」と話した。(産経前掲)
この福建省当局がいう「敏感な海域」というのがどこを指すのかはわかりませんが、台湾や尖閣水域を指すとかんがえるのが妥当でしょう。
これが事実だとすると、中国は矛盾した行動をとっていることになります。
というのは、16日以降、2016年以来2回目となる大規模侵犯をやるぞ、やるぞと中央政府が公言していたのですから、これを地方政府の福建省が止めたというのは腑に落ちません。
このようなことが今の極端な中央集権化を進める習体制下で可能とはおもえないからです。
ならば中央政府の意図はなんでしょうか?
ひとつかんがえられるのは、中国は米国と摩擦を起こしている時には、よく日本に融和的な手を差し伸べることがあります。
これは日本と米国をひとまとめにして敵対関係を作ると、軍事的・政治的バランスが日米に傾きすぎてしまうからで、もちろん日米分断の意図があるのはいうまでもありません。
そのためにたらし込みやすい親中派議員が山ほどいる日本の与党に働きかけて、対決を回避しようとします。
今回も、香港国安法で親中派も批判せざるをえない状況で、尖閣において大規模挑発をすれば、一気に日本の世論がどのように動くのか、さすがの習も判ってはいるでしょう。
習は典型的な井の中の蛙ですから、気にしない可能性もありますが。
おそらく自民内の親中派や公明党は孤立し、それに配慮していた安倍氏も調整機能を果たすことは不可能になります。
与党内部の二階などや公明を温存するためには、今ここで緊張を一方的に高めては、修復が不可能になってしまいます。
そして温存した親中派を使って、米国が作ろうとしている対中包囲網に綻びを作るつもりかもしれません。
ただし、まだ状況は始まったばかりですから、結論めいたことは言えませんが。
さて、いい機会ですから、中国がいかに領海侵犯を組織的にやっているのかみておきましょう。
下のグラフは海保HPの冒頭にアップしているものですが、赤い棒が中国公船が尖閣の日本の領海に侵入した月別の隻数、青い折れ線グラフがその外側の接続水域に入った隻数を示しています。とりあえず赤い棒だけみておきましょう。
図左3分の1あたりの2012年9月から赤棒が一気に激増していますが、これは民主党政権が石原都知事の都有地化の動きに驚いて、尖閣の国有化を図った年が2012年9月です。
野田政権が国有化したのは、都有地にされるのを避けたかっただけだったために、国有化してなにをするという戦略が欠落していました。
民主党政権に米中まで含んだ国際的な根回しなど望むべくもありませんが、すくなくとも国有化した以上、実効支配の証明を国際社会にアピールすべきでした。
海保
最低でも石原知事が望んでいた、尖閣の灯台や船溜まり建設や公務員常駐でしたが、もちろん民主党政権は指一本動かしてはいませんでした。
国有化という思い切ったことをするなら、ワンセットでそこまでやらないと実効支配にもなんにもなりません。
あの時が実効支配の絶好の機会だったのです。
いくら当時の藤村長官が、「尖閣諸島をめぐる事態が日中関係の大局に影響を及ぼすことはまったく望んでいない。誤解や不測の事態を回避することが重要」なんて寝ぼけたことをいっても、尖閣を棚上げにしようと、という日中合意を破ったのが日本側という体裁を作ってしまいました。バカですか。
結局、官製の反日暴動を中国各地で起こされて、日本はいらない妥協を強いられることになります。
asahi.com(朝日新聞社):中国反日デモ、一部が暴徒化 尖閣問題に抗議
そして丸1年が過ぎた13年10月からはかなり鎮まって、月に10隻前後で今日至るまでほぼ横ばいが続いていて、この2019年1月から猛然と増え始めています。
このように、中国が公船や漁船を侵犯させる時は、必ずその裏に政治的な意図があるのです。
小原凡児氏は、このように2016年当時の大規模漁船団と公船の侵入を見ています。
「今回(※2016年当時)の漁船の行動及び公船の随伴は、中国の尖閣諸島奪取の戦略に沿ったものだ。中国の戦略とは、軍事力ではなく、海警等の法執行機関を用いて、日本の実効支配を崩すというものである。
日本が軍事力を行使しない範囲で、日本の海上保安庁の巡視船よりも多くの中国海警局の巡視船が、より長い時間、尖閣諸島周辺海域に滞在することによって、実質的に中国が尖閣諸島及び周辺海域をコントロールしているかのような状況を作り出すのだ。平時における優勢を、段階的に引き上げていくということでもある。最終的には、中国海警局の巡視船が体当たり等によって、海上保安庁の巡視船を同海域から排除することも考えている。
中国が、法執行機関である海警局を用いるのは、軍事力を用いれば、日本がこれに対して自衛権を行使し、軍事衝突を起こしてしまうからだ」
NewsWeekJapan 中国戦略の裏を読む 小原凡司)
http://www.newsweekjapan.jp/ohara/2016/08/post-4.php
小原氏が4年前に予想したとおり、以後中国は恒常的に公船を接続水域・領海に侵犯させ続けることで、寸止めながらも実効支配を着々と誇示してきました。
そして100日を連続侵犯しつづけたあげく、この8月16日には中国・福建省の禁漁が解禁されると同時に、尖閣諸島へ大漁船団を送り込むと日本政府に予告しました。
ふー、予告付侵犯ですから、政治的もナニもあったもんじゃありません。
漁船団を政治的武器に使うゾという意味以外にとりようがありません。
日本側がそれに抗議すると、「その資格なし」と言われてしまいましたっけね(苦笑)。
これは実はすでに一回やったことがあります。前述した国有化時の2016年8月に、中国は漁船団300隻を連れた海警船団が7隻も船隊を組んで大規模な侵犯を行っています。
上の海保グラフの中央からやや右のあたりで飛び抜けた赤い棒がそれです。
どうやら前回の2016年当時、中国は尖閣水域で仮に日本側と戦闘が発生した場合、勝算が薄いと判断していました。
「2015年10月8日に、中国国防大学政治委員の劉亜州上将が新聞上で発表した「釣魚島(尖閣諸島)問題から見る日中関係」という論文は、「日中軍事衝突で中国が負ければ、国際問題が国内問題になる(共産党統治が危機に陥る)。だから、負ける可能性のある日本との軍事衝突は起こしてはならない」と述べている」(小原前掲)
つまり4年前には、中国は尖閣水域での日本側との軍事衝突に対して自信がなかったともいえます。
しかし、4年前と比較しても中国の海軍増強ぶりは目ざましく、今や隻数では海自はもちろんのこと、米国第7艦隊を追い抜いています。
まぁ実力のほどはわからないのでなんともいえませんが、彼らは南シナ海の人工島の完成と「遼寧」2番艦「山東」の就航をもって均衡し始めたと見始めたようです。
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日本の海上自衛隊を上回る物量を備えたと見られる中共海軍に対し、7/25バーガー海兵隊総司令官は「対海上民兵のための専用の特殊部隊の編制を開始した」と発表しました。
また、7/29シュナイダー在日米軍司令官は、「私たちは尖閣で米軍・自衛隊合同での海上・航空軍事行動を続けている」と言っています。
これまでも大統領や国務省など政治レベルでの「尖閣を守る」発言はありましたが、日米はさらに一歩進んだ局面を作ったと思います。
このような具体的軍事行動に対し、中共軍は一旦は引かざるを得なくなったのが真相と思います。
どうあっても今、衝突を回避したい事情を有するのは中共軍側です。
南沙で強奪した島の基地に「爆撃機を配備した」との報道もあり、「均衡」状況を作り得たと勘違いした雰囲気はありますが、「なお衝突を辞さず」という意思を明らかにした米軍の本気を見ての結果なのではないでしょうか。
しかし、まだ予断を許さず十分警戒が必要で、次に中共がどう出てくるのか注目です。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2020年8月17日 (月) 15時54分