海保にできること、海自にできること
昨日の記事の後半に、「中国はもっけの幸いと国際世論にうったえるでしょう」とバカデカイ文字で打ってありますが、ただの凡ミスです。
特にあのフレーズを強調したかったわけではありませんので元の大きさに戻しておきました(汗)。
finさんからのコメントですが、山路さんにお願いしてしまいましたが、コメントだけにとらわれず私からも。
「海保だけで対応できるとはとても思いません。物理的に向こうの方が圧倒的に上でしょう。だから日米共同訓練をやれと言う話ですが自衛隊も出せないのであれば米軍も出てくることだって容易にはできないのではないのですか?」
まず頭を整理してください。いくつかのことが日本のネット界ではゴッチャに議論する傾向があります。切り分けてみます。
①現時点における中国民間漁船が大挙襲来した場合の対処。
②同じく民間漁船が接続水域・領海に侵入した場合。
③中国公船・軍艦が接続水域・領海に侵入した場合。
①は日本の排他的経済水域(EEZ)に侵入した場合は排除しますが、北緯27度線以南の海域、つまり尖閣諸島周辺海域も含む海域は日中で棚上げにしてしまったために、まことに腹が立ちますが、中国漁船の活動を取り締まれません。
領海でありながら、他国の漁船に操業を許している今の日中漁業協定を改訂する必要があります。
次に②ですが、同じく日中漁業協定では、尖閣諸島周辺海域は「法令適用除外水域」に属しますから中国公船の取り締まり権限を否定していません。
したがって、領海であるにもかかわらず中国公船はが国の民間船にのみ警備活動をすることが可能です。
ただし、日本漁船に対してはそのような権限を中国に認めていないので、日本漁船に対する追い回しはあきらかな協定違反行為です。
③中国公船が接続水域・領海に入ろうと、それ自体は無害通航権によって保護されています。
しかしあくまでも「無害」の範疇であって、軍事的威嚇(艦載砲の旋回・艦載航空機の離発着・潜水艦の潜行したままの通過など)という「有害」行為は当該国への敵対行動として受け取られます。
このように日本が領海においても民間漁船の操業を容認し、公船の活動も許してしまうようなシロモノが日中漁業協定です。
まずこれの改訂交渉を本格化するべきですが、おそらく今の戦狼路線に邁進する中国は聞く耳を持たないはずです。
ですから日本が国内法でできる領海法を早急に作って、取り締まれる国内法整備をせねばならないのです。
国内法を作る場合、外交比例の原則に則って中国・台湾の領海法と同等のものを目指すべきです。
しかしいくら棚上げ水域だからと言って好き放題に接続水域や領海でのさばらせておくわけにはいかないので、海保がそのつど随伴して「ここは日本領海だ。判っているのか、バーロー」(こんな言葉使いはするわきゃありませんが)と警告して、出て行くまでピッタリと食いつきます。
中国は海警を人民解放軍の指揮下に置き、更に海軍のフリゲート艦まで白く塗って投入しています。
だから中国の海警なんて海軍と一緒だという人もいますが、半分は正しいのですが、半分は大げさです。
相手が船を白い沿岸警備隊の標準色に塗り、船腹にデカデカとチャイナコーストガードと書いてある以上、海保と同等のものとして対応せねばなりません。
実はあれは海軍だぞ、海自を出せってふうにはいかないのです。
なおネットで「機関銃を中国海警は積んでいるぞ」なんて言っている人がいましたが、そんなもんなら日本も積んでいるって(笑)。
ただ海警艦艇の大きさが今や自衛艦クラスがザラとなって、小型の海保艦艇が手こずっているのは確かですが。
finさんが言うように「物理的には圧倒的に向こうが上」なのは事実ですが、だからと言ってこちらが自衛隊を出せば向こうも海軍を出してくるに決まっていますから、いたずらなエスカレーションを回避するために第11管区は死に物狂いで対応しているのです。
くりかえしますが、相手が海警なら海保対応を貫くしかないのです。
手前が中国海警。接近寸前で警戒に当たっているのが日本の海保。このカラーリングはコーストガードの世界基準。
と、ここまでは昨日のおさらいですが、なぜ海保に領海警備をやってもらっているかということですが、これは戦後に戦争の反省から生まれた「知恵」なのです。
海保は海の警察ですから、法執行が任務です。
日本の法律に則って、自国民を守り、自国領土を防衛するのが仕事です。
なりゆきで外国ともやり合うこともないとはいえませんが、あくまでも国内の法の番人であってそれが主任務ではありません。
ですから海保にとって、領海警備は難しいぎりぎりのゾーンなのです。
一方自衛隊の主任務は、外国の軍事行動を抑止し、侵略を阻止することにあります。
ですからまずは海保が出て、相手側の海保の動きに対応します。
するとこちらの公船と相手国の公船とのつばぜり合いになりますから、公船は互いに緩衝帯となっているわけです。
原則として、海自が直接に他国の艦艇に対応することはありえません。
それはいきなり海軍と海軍が領海警備をやるとなると戦闘に発展する場合があるからです。
他国公船との対応は一義的には海保が対応し、海自はそのバックアップに徹します。
しかし、いきなり相手が軍艦を出してきたらどうでしょうか。
ここで冒頭のfinさんの質問になるわけですが、下の図は2016年6月の中国とロシア海軍の共同訓練の航跡図ですが、この時は日本の海自が追尾し続けています。
なぜかといえば、中国が海軍を接続水域・領海に侵犯させてきたからです。
おそらく接続水域に侵入する前から国際波長で警告し続けていたはずです。
最近でも、奄美水域で中国海軍の原潜が潜行したまま接続水域を通航しようとしました。
「防衛省は20日、奄美大島(鹿児島県)沖の日本の接続水域を他国の潜水艦が潜航したと発表した。国籍は公表していないが、政府関係者によると中国海軍のものとみられる。18日午後に接続水域に入り、20日午前には接続水域の外に出たことを確認したという。
接続水域は領海の外側12カイリ(約22キロ)の海域」(朝日6月21日)「河野太郎防衛相は23日の記者会見で、18日に鹿児島・奄美大島沖の接続水域内を潜ったまま西進した外国潜水艦について、「中国のものだと推定している」と述べた。潜水艦の国籍や種類の情報は自衛隊の把握能力に関わるため、公表は異例だ。
河野氏は「尖閣諸島をはじめ、さまざまな情勢に鑑みて、潜水艦の国籍を公表すべきと判断した」と強調。接続水域の潜航自体に問題はないとの認識を示すとともに、「外務省から中国に対して『関心表明』は行っている。中国の意図を明確に推し量っていく必要がある」と指摘した。
潜水艦は横当島(同県)の西の接続水域外を西に進んだことが確認されている。河野氏によると、その後、中国方向に航行したという」
(アラブニュース6月23日)
朝日
この時、海自はヘリ空母「かが」まで投入し、空と海上から徹底的に追尾し続けたようです。
この中国潜水艦は6月18日、太平洋から西に進んで、奄美大島の北東の接続水域に入り、領海と領海に挟まれた狭い接続水域を縫うように西に進み、20日午前に接続水域の外に出て、横当島(鹿児島県)西をさらに西に向かったと発表されています。
接続水域は潜水したままの通航が認められていますから、ギリギリを縫って航行したということになりますが、なめたまねをしてくれます。
たぶん海自のP3Cからはなんどとなくアクティブソナー(ピン)を打たれてていたはずで、生きた心地がしなかったことでしょう。
「かが」の対潜ヘリだけで片手の数は頭上にいたはずですから、まるで大名行列のようににぎやかな中国潜水艦の奄美の道行でした(笑)。
日本の潜水艦探知能力を調べに来たと言われていますが、世界一なのは海軍業界では有名な話で、いいかげんにしてほしいものです。
このように、侵入した水域が接続水域で、侵入したのが海軍艦艇の場合、海自がお相手します。
警察で手に余る場合は軍隊がというふうに、相手が海警なら海保、中国海軍なら海自という棲み分けです。
最後に、finさんもふれていた尖閣水域の日米共同訓練ですが、「日本が出てこれないようでは米軍もでてこれない」ということはありません。
私が書いたのは、あくまでも日常的警備の局面のことを言っているのであって、訓練は別です。
海自は尖閣水域で訓練やパトロールを続けていますが、あくまでも対応する主体が海保だというだけのことで、近隣の海域には必ずバックアップの海自艦艇が遊弋しているはずです。
ただこれを公表しないことで相手国に無駄な情報を与えず、しかも凄み(抑止)を効かせている、ということにすぎません。
訓練は独自にやっているはずで、在日米軍司令官が尖閣支援を明言した以上、謹んで日米共同訓練にまで格上げしてもなんの差し障りもないはずです。
後は政治的判断を待つだけのことで、遠からずやると思われます。
実施するなら、レーガン空母打撃群と自衛艦のコラボという壮観な眺めになるはずです。
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軍事的なエスカーレションを防ぐために海自を出すなというのは原則論としてはよくわかるのですが現実問題として海警だけではなくて大量の漁船団がともに中国が尖閣を実効支配をするために来襲してきた場合海保と海警だけでも2倍以上の戦力差があるので運用上対応しきれなくなるのではないですかということです。
中国を刺激するなエスカレーションを起こすなと言う人達はこのような運用上の問題の不安に答えていないと思うのです。もちろん船の数だけで勝負が決まるわけではないですが中国の船は大型の機関砲を装備し、1万トン級の巡視船を次々と就役させています。それに対して海保は1千トン級の巡視船で対応しています。さらに中国の船は分散行動をして海保の監視能力を削いでいます。東シナ海は広いですから海保の監視能力が削がれれば致命的です。そのような状態の中で今の権限で単に海保だけで対応しろというのは無理があるのではないのでしょうか。日中漁業協定の改定は必要でしょうがそれを中国が守るとは到底思えません。領海法なるものを作ってもそれはあくまでも法律を作ってみましたという程度に過ぎずこちらが不利な状況の中でどのように闘うのかという疑問には答えていません。自分達が不利な状態で戦うためには海洋監視を行う際に無人機を導入したり、電子戦なども含めた非対称的な戦闘行為が必要だと思います。
投稿: fin | 2020年8月 5日 (水) 09時08分
finさん。
この前からイマイチ問題の焦点が見えませんな。
警察権なら海保で対応なのは大原則です。
finさんは海保を強化しろと言うのか(無人機導入もいいでしょうけど)?
一応大型巡視船を少ないながら導入してはいるんですけど。
中国海警が最近解放軍の実質傘下に入ったのだから、こっちも海自を出してドンパチやれ!なのか?
せめてそのくらいの立場は人任せではなく主張をハッキリさせてから書いて下さい。あまりにもノラリクラリですよ。
ちなみに私は中国が世界から嫌われつつもトランプが米国内で窮地に陥って中国を明かな敵認定してますから、尖閣諸島進駐するなら今だと思ってます。時間的余裕はありません。
もちろん過度な中国依存の産業界は大打撃になるでしょうけど。。
投稿: 山形 | 2020年8月 5日 (水) 10時13分
finさん、こんがらがっているようだから整理する意味で書いたんだけど無駄だったみたいですね。
警察には警察が対応し、軍隊には軍隊でというのが大原則。
そして相手が守ろうと守るまいと国内法を整備しておくのも大前提。
中国は守らないから法整備はいらない、なんて言ってたら犯罪者は法律守らないからって言っているのと一緒。
無人機や電子戦ってどういう意味かしら?
無人機ってグローバルホークのことだったら、一機130億。ヘリ搭載大型巡視船は35億だから、何隻建造できますか。
ならば、海自が使っていて今はモスボールに入っている中古P3Cを譲渡してもらえれば格安に済むけど、それをいうならいまでも海自は鹿屋からパトロールかけているんですけど。
電子戦にいたっては意味不明。ECMのことなら、軍事侵攻する時に使うレーダー眼つぶしのことだし、一般的電波傍受ならとっくにやっていますよ、自衛隊が。
どっちも軍隊の仕事で警察がすることじゃない。
相手が増強してくるのは事実だけど、だからこそこちらは気分まで飲み込まれないでしっかりと今できることをやるしかないんですよ。
その今できることは、山形さんがいうように尖閣の実効支配強化のために島の施設を強化したり、なんだったら駐留部隊を置いたり、法律つくったり、日米共同訓練をやることなんです。
これならすぐにでも可能ですから。それら今できることをネグって、先に飛ばないこと。
投稿: 管理人 | 2020年8月 5日 (水) 11時20分
物量で負けてるから海自を出せと言うのは相手の思うツボ
相手の土俵に乗らずに法整備をして「尖閣は日本の領土である」という主張と行動を国内外に示す。
まずは筋を通した上でもなお中国が強引な手段に出るのであれば明確な領土侵略行為として国際問題化し更なる対中制裁の材料にするだけです。
これを今の中国がやられると今のところ日和見姿勢のドイツ等が米側に回る可能性も高いので中国に取っては致命的です。
おそらくG7では対中制裁に関する議題が中心になるでしょう。
中国がまだまともな判断が出来るのであれば大量の公船投入は躊躇するでしょうから(おそらくこれまで通りの規模で領海侵犯を続行するだけ)海保でも対応可能です。
そしてその均衡状態の間に尖閣に施設を建造して日米合同演習を行いダメを押して終了、これが一番理想的な決着です。
今日本政府がまずやらなければいけない事は尖閣諸島は日本の領土だと内外に主張することです。
軍事的緊張感を持ち出す段階ではまだありません。
昨日今日の記事は今日本が取れる最善の方針だと感じます。
韓国の自称徴用工絡みで資産売却が時同じくして履行されるやもとか聞くと中韓で連携して日本政府を混乱させようとしてるんじゃないかと勘ぐってしまいます。
どちらも毅然とした対応をしてくれる事を願うばかりです。
投稿: しゅりんちゅ | 2020年8月 5日 (水) 13時19分