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2020年9月

2020年9月30日 (水)

馬鹿が作り、詐欺師が儲け、国民が負担する、再エネ

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再エネについては今回でいちおう終了します。やりだすときりがありません。
この分野は数年前に諸外国の事例まで含めて私としては徹底的に論じ尽くしたという気分があるので、そらちをご覧になりたい方はカテゴリーの「原発を真面目に終わらせる」をお読み下さい。

本質的にはなんの変化もありませんが、再エネはあいかわらず「地球温暖化二酸化炭素主犯説」によって甘やかされたボンボンのようになっています。
カン首相がトチ狂って始めたことを、優秀な官僚諸君らが尻ぬぐいしてなんとか一人前になるような手だてをつくしているようです。

そもそも再エネは元々「気まぐれエネルギー」ですので、その時の気象条件によって左右されます。
風が吹けば電気を作りすぎ、止まればまったく発電しません。気持ちよく晴れればジャンジャン発電しても、曇ればピタリと止まります。
これは再エネである以上逃れられないいわば宿命で、こればかりはなんともなりません。
だから再エネは、産業革命が起きて石油が主なベースロード電源となると、こんな不安定な電源は忘れ去られていったわけです。

それをCO2ノーという掛け声で無理矢理に押し入れから取り出して、なにか目新しい画期的エネルギー源であるかのような衣を着せたわけです。
日本においては民主党政権が、それまでの自民党のエネルギー政策を全否定する目的で政治的に利用したことから始まりました。
福島事故以降、安直に原発を止めてしまい、その勢いで化石燃料発電にもストップをかけ、いっそ全エネルギーをクリーンな再エネーにしてしまえば「安全・安心」だと言う人が大量に出現しました。
多くはリベラル左派でしたので、
カン首相は自分の応援団が異常な盛り上がりを見てハタと膝を打ったみたいです。
こりゃ使える。オレの誰がみても失敗した原発事故収拾から眼を逸らせられるし、ここで原発ゼロを掲げたら、オレってカッコ良すぎ、支持率急上昇まちがいなしってわけです。

ちなみに、この原発事故のドタバタの時に官房長官をやっていて、「直ちに人体に影響がでない」というまるで後障害が出るかのような発信をしたのが、今の立憲の枝野氏であります。
この男のこのひとことで、福島・茨城は風評被害の地獄に突き落とされましたっけね。ああ、思い出すだに腹が煮えくり返る。

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脳みそが軽いカン氏は、専門家や官僚の意見などには目もくれず、独断で全原発の「検査停止」を「お願い」(根拠法がありませんから)したために、それから10年近く立とうというのにいまだ日本の原発は半身不随から抜け出していません。

そのうえカン氏は全原発を止めて日本のベースロード電源の3割を奪っただけでは飽き足らず、再エネを代替エネルギーとするという素人以外思いつかない「革命的」方針を、「アタシを辞めさせたかったら再エネ法を飲みなさい」と、自分の辞任と引き換えに押しつけて去って行きました
結果、将来を展望した制度設計があってやったわけではないので、そりゃあ目があてられないことになりましたですよ。

重度のドイツコンプレックスのカン氏がやったのは、ドイツ式FIT(全量・固定価格買い取り制度)というモノズゴイ制度で、本場でも失敗しています。
このようにFITはカン氏の政治的思惑で生まれたのですが、カネの臭いがあるところ必ず登場する
孫正義氏という怪人がこれに飛びつきました。
彼は当時、ソフトバンクという携帯業の顔だけ出していましたが、本業はM&Aの買収屋です。

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そして「盟友」の孫氏が言うがままに、カン氏は世界一高い買い取り価格を設定しまい、
当初はなんと40~42円/kWhを20年間固定で全量買い取りますっていうんですから、そりゃやりたい奴が殺到するわな。

こんな馬鹿げた投機的価格をつければ持続可能エネルギーどころか、持続不可能エネルギーに堕するのは目に見えると、私は初めから指摘していましたが、そのとおりとなってしまいました。
FITは詐欺師とヤマ師の巣窟と化し、発電枠だけとって無許可転売する輩、その枠を買い占めるチャイナ、そして太陽光パネルは中国製に支配されるというハチャメチャなことになりました。

「国が普及を進めてきた再生可能エネルギー業界に2月14日、ついに経済産業省の“メス”が入った。再生エネルギーで発電した電気を電力会社に一定価格で買い取ることを義務づけた固定価格買取制度(FIT)の認定を受けたにもかかわらず、運転を始めていない太陽光発電約670件について、認定取り消しを検討すると発表したのだ。前代未聞の事態の背景には、「いくらでもズルができる」と業界関係者が明かす制度の致命的な甘さがあった。
実は国が認定した設備容量は2249万キロだったが、実際に運転を開始したのは382.7万キロワットで、2割にも満たないことが経産省の調査で判明。しかも、認定から1年以上たっても土地・設備を確保していない業者が全体の3割に上っていることも分かった。」
(産経2014年3月8日) )

呆れてモノが言えません。国が支援している枠に対して、実際に運転を開始しているのはたった2割!悲惨というより、もはやお笑いです。

こんな詐欺師の楽園と化した再エネ業界を、ひたすら税金と消費者負担に頼る再エネ賦課金で乗り切ろうとしたために、年間実に2兆円ものカネが流出し、しかもその多くは中国へと流れていきました。

再エネ賦課金とは、案外知られていないのですが、まるで税金かNHKのように黙って国民全員が再エネに協力を強いられています。

Surcharge2020

資源エネ庁 https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/surcharge.html

しかもこの再エネ賦課金は、毎年、それまでの買い取り価格が上乗されるために、累積して増えていくという仕組みになっていきます。

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北電

賦課金が増える理由は、電力会社が再生可能エネルギーを買取る量が増えているからなのですが、2017年度は総額2兆7045億円と毎年4,000億程増えます。
したがって、2016年には2.3兆円の負担だったものが 、 このままいくと2030年にはなんと4兆円になるという試算がされています。
このようにFITは、逆スライドで毎年重い負担となるというトンデモ制度なのです。

そこでみかねた経産省は2014年にFIT制度の見直しをします。

①太陽光による電力の価格を大幅に下げ、地熱などを相対的に優遇する。
②地熱発電による電力を優先的に買い取らせる。
③大規模太陽光発電につき、FIT適用のための認定を一時停止する。
④太陽光発電への新規参入や発電施設の新増設の凍結。
⑤買取価格に入札制度を導入する。
⑥電力会社が再生可能エネルギーによる電力を受け入れなくてもよい期間を30日からさらに延長する。

 大幅に買い取り価格を下げるといっていますが、それでも当時はまだ37円ていどでしたから、焼け石に水です。
特にプレハブ住宅のようにあっという間にできてしまう太陽光には新規参入を制限するなんて言い出しました。
 

2017年当時、経産省資源エネルギー庁の再エネに関する検討委員会で、次の4つの課題が上げられています。
(2017年12月18日資源エネルギー庁で「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」)

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資源エネルギー庁


①依然として日本の再エネの発電コストは欧州の二倍で国際的に高い水準にある。
②既存系統と再エネ立地ポテンシャルの不一致により「再エネ電源を作りたくとも系統の空き容量が存在せず繋げない」という系統制約の問題が顕在化している。
③太陽光発電および風力発電という変動再エネの導入が拡大したことにより、系統全体の調整力が不足してきている。
④長期安定発電の開発を支える環境が未成熟な他、洋上風力等の新たな電源は立地制約が厳しく、結果として再エネ電源の開発が太陽光発電に偏っている。
宇佐美典也『今後の再エネの普及を左右する「日本版コネクト&マネージ」の行方』より抜粋

①は、日本の再エネはFIT制度で世界一高い水準に高止まりしたままだということです。
現在は15%だが、これでも既に年間2兆円の国民負担をさせているが、目標ドイツ並の24%にするためには更に後1兆円の国民負担が必要だということのようです。
おいおい、冗談も顔だけにしろよ。国民の負担で誰を設けさせているんだ、と言いたくもなります。

②再エネを作っても送電網の系統の空き容量がないのではどうしようもありませんが、これは送電会社の系統接続がネックとなっているということのようです。電力ネットワークの再編が必要だと、委員会は指摘しています。
しかしこんな「異物」のために、それでなくても電力自由化の余波で弱体化している送電網にこれ以上の負担を要求するのは、ちょっと。

③気まぐれエネルギーが大幅に増えたために、系統全体の調整力が不足してきている、としています。
これについて、将来は蓄電池の導入で調整力を増すとしていますが、それがか電力のさらなる高コストにつながることはきのう触れました。

④簡単・安価な太陽光にのみ参入者が殺到したために、他の洋上風力や地熱などに新規参入が見られないというアンバランスな現象が生まれたようですが、これも当然のことです。
ものごとは安易な法に殺到するのですよ。
だからFITが蟻の大群に群がられるケーキのようになってしまったのです。

いまもさらに再エネ買い取り制度の手直しを図って行くようですが、どうなりますことやら。
とまれ、初めのボタンをかけ間違ったら、最後までボタンは合いません。

たとえば、太陽光はメガソーラの浮島発電所の発電実績は1年稼働して、柏崎刈羽原発1号機のわずか15時間分ていどでしかありません。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2014/02/post-cf07.html

再エネにとうていベースロード電源の資格などないことは明白です。
その明らかな真実に目を背けて、竹馬を履かせているのですから、しょーもない。
そんなことは、とっくにドイツの先駆例で既にあきらかなのにもかかわらず、脱原発=再エネという誤った政治的思惑から開始してしまいまったうえに、ムチャクチャなFITで後世につけ払いを残してしまったのですから、タチが悪すぎます。

失敗して当然、というか、失敗するなら制度全体を白紙にすべきです。
といっても20年間固定買い取り制度ですから、いったいどうするつもりなんでしょう。
枝野さんーん、どうするんだーい。「自然エネルギー立国」するんだったら、その敷地の地下を少し掘れば汚物がしこたまでてきますよ。

このように、馬鹿が作り、詐欺師が儲け、国民が負担するというのが「自然エネルギー立国」の実態です。

 

 

2020年9月29日 (火)

再エネは工業国のベースロード電源たる基本的条件を持っていません

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お断りしておくべきだったかもしれませんが、私は、再生可能エネルギーに対して頭から否定的だというわけではありません。
いやむしろ好きなくらいです。
私は、FIT(全量・固定価格買い取り制度)が影も形もなく、発電パネルが小型自動車並の価格だった頃の設置者でしたした。
今でも「太陽光発電所」という名称を与えられ、積算メーターが上り始めた時の感動は覚えています。
都市に住んでいた頃には「裏庭市民エネルギー」の実践者でしたし、台風にならないと回らないという台風警告器のような風車を作ったものです。
ですから、再エネとのつきあいはかれこれ30年以上になります。

いまでも自然エネルギーが、それぞれの地域の中でその特性を活かして無理なく動いている風景を見ると嬉しくなります。
だからこそ、再エネが工業国家の基幹エネルギーになるなんていう馬鹿げた夢を見てほしくはありません。
国が取り組んでいまや10年弱ですから、もう突き放して言ってやったほうがいいでしょうが、再エネはあくまでも補完的なエネルギー源でしかなく、恒常的なベース電源たりえません。
そうしようとすると、かえって再エネの良さが失われ、矛盾が極大化してしまいます。

仮に蓄電装置が進化しても本質的にはなにも変わりません。
自然エネ派の皆さんは蓄電器の進化に妙に思い入れがあるみたいですが、それはパッタリと発電しない時期があったり、狂ったように発電しっぱなしという気まぐれ電源の再エネの尻ぬぐいをしていた火力発電所の負荷が、多少減るていどのことです。
つまり(仮に各個の再エネ電源に蓄電器を配布できたとしてですが)、それでやっと人並みの電源に一歩近づいたていどのことでしかありません。

ただし蓄電装置なんぞを再エネの必須条件にしようもんなら、後述しますが、あまりに高価なために、電力料金を引き上げてしまいます。
再エネ発電の新規参入者は、あくまでも発電したらしただけ全量買ってもらえるという甘ったれた条件があるから異業種参入がひきもきらないのであって、蓄電器が参入条件となるとパタっと減ることでしょう。
となると撤退も増えるでしょうから、案外ちょうどいいバランスとなるかもしれません。

もし枝野さんが言うように100%再エネとした場合の試算を、GEPRフェロー諸葛宗男氏がしていますので、ご参考までに。 

「日射が少ない11月から3月までは発電量が需要を下回るため、需要電力を賄う電力は蓄電池からの放電に頼らざるを得ない。したがって、再エネだけで需要を賄う場合、図1に示す通り、年間需要電力量の17.5%に相当する容量の蓄電池が必要となる。日本の全国の年間電力需要を9,808億kWh[注2]とすれば、蓄電池はその17.5%、1,716億kWhの容量が必要となる。蓄電池の価格を政府の2020年目標価格9万円/kWh[注3]とすれば、蓄電池の購入価格は1,716億kWh×9万円/kWh=1.54×1016円となる。1.54億円の1億倍の膨大な額である」 (GEPRフェロー諸葛宗男 2019年06月19日 下グラフ2枚も同じ)

1億円の1億倍ってひょっとして1京円でしたっけ。
もう天文学的支出で日本国潰す気なら「自然エネルギー立国」やってみてよ、あたしゃ亡命します、という世界です。

その理由は、根本的には再エネが気まぐれなエネルギーであることです。これは電源としては致命的な欠陥です。
火力は秒単位で出力を調整することが可能で、その時の需給二合わせて増減をくりかえしています。
しかし風力発電ときたら、発電可能なのは風が吹いたときだけ、太陽光が発電するのはお天道様が照っているときだけ、です。
風が吹かねば羽根は回りませんし、曇りゃあ太陽光パネルはただの板です。

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一見いつも同じていどの風が吹いていそうな風力すらも旬があります。

ところで再生可能エネルギーは、そのお天気任せの気ままな性格が禍してか、9電力会社が仕切る系統送電網には嫌われっぱなしでした。
そきため再エネは、たびたび電力会社から接続紀拒否されています。これはあながち電力会社のエゴというだけではなく、下図のような発電量の大きなブレがあったからです。

 

長島風力発電所2012年8月30日.gif

これは九州電力長島風力発電所の一日の発電量推移ですが赤線が発電量、青線が風速です。ご覧のとおり、一日でも細かな出力の上下動を繰り返し、青線の風速が落ちるとてきめんに出力が落ちるのが分かります。 
いいときは昼前後の時間帯で4万キロワットと定格出力の80%程度を発電していますが朝夕はがた落ちです。まさに風任せ。 

もう一枚のグラフはベタ凪の一日の発電量です。たぶんプロペラはピクリともしなかったとみえて発電ゼロです。

長島風力発電所_2012年9月3日.gif

このふたつのグラフでわかることは、風力発電は定格出力の0%から80%まで変化してそのつど電圧と周波数の変動がある間欠性電源だということです。このような電源を系統電源に組み込むためには手段は三つしかありません。 

一番目は、風力発電に蓄電器を取り付けて一定の余剰電力が生まれたら蓄えておくことです。
余剰電力を貯めて、発電が少ない時に送電し平準化して送電できるようにします。
 
この蓄電方式は、後述しますが、飛躍的進歩しているとはいえコストがかかりすぎてペイしません。
そのうち安価で優秀なバッテリーが出来るようになるまで実用化にはなりそうもないのが現状です。
 

二番目は、現行の方法でバックアップの発電所を常に待機させている方法です。
風車が止まったら代わりにその分を肩代わりして発電し、風車がブンブン回り始めたら止めるという具合です。
 
これに対応できるのは、出力の上げ下げが自在にできる電源は火力発電所しかありません。
ですから皮肉にも、ドイツでは再生可能エネルギーが伸びれば伸びるほど火力発電のバックアップで伸びて、今や約半分の電源は化石燃料、特に石炭火力が占めることになって大気汚染が心配されるようなってしまいました。

三番目は、ある地域の天候がダメなら、別の地域で補完できるような素早い電力融通ができるスマートグリッドです。
ただしこれらスマートグリッドや超伝導送電線、あるいは蓄電装置などの新技術は高コストを覚悟せざるをえず、いっそうの電力料金気値上げをまねくことでしょう。 

また4月から9月までは必要な需要に追いつきませんから、せっせと蓄電器から放出し続けねばなりません。

「風力発電は図3に示す通り4月から9月まで風況が悪く発電量が需要を下回り、需要電力を賄うのは蓄電池の放電に頼らざるを得ない。風力発電だけで需要を賄おうとすれば、需要電力量の13.1%の蓄電池が必要となる。太陽光の場合と同様、需要電力を9,808億kWhとし、蓄電池の単価を9万円/kWhとすれば、まず、蓄電池容量は
9,808億kWh×13.1%=1,285億kWh
となり、その建設費は、1,285億kWh×9万円/kWh=1.15×1016円となる。1.15億円の1億倍の膨大な額である」(諸葛前掲) 

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安定している再エネは水力と地熱だけですが、設置場所が限定されるうえに、いまや双方ともに新規の建設は地元の反対にあって不可能となっています。
おっと立憲さんは脱ダム宣言とやらで、もっとも安定した水力は仲間に入れてやらんのでしたっけね。

ではなにが原発の代替エネルギーになるのでしょうかそれは「エネルギーの価値尺度」を見ていかねばなりません。
ガス・コンバインドサイクルなどの技術的進歩は、この価値尺度の一部でしかありません。 
よく素人が技術的ブレークスルーに接すると、すぐこれこそが次世代の救世主と思ってしまうものですが、シェールガスや、メタンハイドレートのような新たなジャンルが誕生したのでなければ、その影響はこの価値尺度の枠の中で判定されるべきです。
そうしないと、新たな技術やエネルギー源が誕生するたびに宣伝文句に踊らされるはめになります。 

さて、このエネルギー価値尺度で世界的にもっとも有名なのは、マサチューセッツ工科大学(MIT)のテルツァキアン教授によるエネルギーの価値を判定する9の基準というリストです。

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学者の言うことですから、やたら小難しい用語で書かれていますが、要は「安全・安心・安定」ということです。
これはエネルギー源の利用価値を計るもので、「産出/投入比率」と合わせて使われているものです。 (欄外資料2参照)
※関連記事
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-3.html 


●テルツァキアンの判定項目
汎用性      ・・・どんな用途にでも利用可能
量的柔軟性   ・・・微細にでも巨大にでも調整可能
貯蔵性・運搬性 ・・・自在に移動することが可能
ユビキタス性  ・・・時期と場所を選ばない
エネルギー量  ・・・面積・体積・重量当たりのエネルギー量
出力密度     ・・・時間当たりのエネルギー量
出力安定性   ・・・エネルギー出力の安定性
環境負荷    ・・・CO2や窒素酸化物・硫黄酸化物などの排出量
供給安全保障 ・・・産出地の政治的安定性
 

石油や天然ガスはごらんのように〇ばかりで、政治的状況による供給安定性にだけ×がつきます。
一方
再生可能エネルギーは、脱原発のシンボルのように扱われたために実力以上に人気が高いエネルギー源ですが、ことごとくエネルギーの持つべき要件を持っておらず、いいのは環境負荷と政治的リスクです。 
ですから、再エネはその本来電源が持つべき条件がないにもかかわらず、経済外的要因で押し込まれている「政治的エネルギー」です。

そこであきらめきれない自然エネ派は、蓄電器をつけたら万々歳、ブレークスルーだという幻想を振りまいているようですが、気の毒ですがそれは電力コストの上昇とトレードオフの関係だということを忘れています。

「太陽光と風力の発電単価はMETIによれば、太陽光(メガ)は24.2円/kWh、風力は21.1円/kWhである。蓄電池寿命は約10年とされているが、ここではその2倍の20年使えるとする。
蓄電池コストに約1京円を投じ、これを年間発電量約1兆kWhの20年分20兆kWhで割ると、500円/kWhとなる。これに上述の再エネ発電単価を加えると、太陽光が524.2円/kWh、風力が521.1円/kWhとなる」(諸葛前掲)

太陽光、風力、共に500円/kWhという目の玉が飛び出す電力価格となります。

聞くところでは、「再エネ大国」ドイツでは既に、電源別の小売りが始まっているそうです。
意識高い系でものすごく高いが全部自然エネルギーで気分がいいという方には500円/kWhの電源を選んで頂き、少しでも安いほうがいいに決まっているゾというプアマンには火力中心・原子力多め・再エネ賦課金拒否の電源を選んで貰えれば平等ではないでしょうか。

いずれにしても、電気料金を高くしすぎると、ドイツのように製造業の海外逃避が始まりますのでお気をつけ下さい。

 

2020年9月28日 (月)

立憲はいつまで「自然エネルギー立国」なんていうお菓子ばかり食べているのだ

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立憲がまたぞろ「自然エネルギー立国」だそうです。

「立憲民主党の枝野幸男代表は23日、日本外国特派員協会で記者会見し、自身が唱える「自然エネルギー立国」の実現により脱原発を達成したいと意欲を示した。「原子力を発電に使わないという方向を、できるだけ早く実現する。自然エネルギー分野を成長させて、国内(需要)の100%に近づける」と述べた。
 自然エネルギーはコストや安定供給といった課題を抱えるが「供給量や価格は、時間の問題で解決できる」と断言。技術を発展させ、世界に売り込む考えも示した。使用済み核燃料の処分や廃炉、立地地域の雇用など脱原発の課題を挙げ「正面から向き合い、解決へ努力したい」と強調した」
(秋田魁新法

いつまで同じこと言ってんでしょうか。原発ゼロと再生可能エネルギーのワンセットです。
福島事故後の数年間ならまだしも、いまでもこんなことが争点になっていると思う神経が理解できません。
先週なんどか記事にしようとは思いましたが、もう論じ尽くしたテーマなので延びきったラーメンのように食欲がでませんでした。
しかしまぁ、まったく素通りというわけにもいかないので、やっておきますか。

論点はいくつかあります。
枝野氏は再生可能エネルギー(再エネ)という表現が一般化する前の「自然エネルギー」に表現を替えましたが、言っていることは一緒です。
というかゼンゼン進化しないね、このヒトたち。
いやいっそう定向進化しちゃって、なんだって「国内(電力需要の)100%にする」ですって(笑)。ぶ、はは。100%無理。
いまでも風力、太陽光、地熱など合わせても8%に満たないのに、どこをどうしたら100%になるんだつうの。
北海沿岸の風力発電から長距離送電網を作って、森林伐採しまくってまで「自然エネルギー」を増やしたメルケルのドイツですら、せいぜい2割台です。

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2018年(暦年)の国内の自然エネルギー電力の割合(速報) | ISEP 環境 ...isep.or.jp

脱原発に熱心で、民主党政権時代にはグリーンニューディールなんて言っていた米国も、早々と壁にぶち当たって、いまや原子力を増やそうとしています。

「クリントン政権の発足当初は、核不拡散を最優先課題とし、エネルギーについては原子力を重視せず「再生エネルギーを重視」するものであり、前ブッシュ政権時代と比べて原子力開発予算は劇的に削減され、重要プロジェクトは次々と中止に追い込まれた。
逆に、政権の2期目では、原子力に対する政権の取り組みが徐々に変わり、地球温暖化防止、輸入石油への依存などの現実から、「原子力をエネルギー源選択のオプションとして残す」方向へと政策は変わってきた。
また既存の原子力発電所定期検査のサイクルの長期化、出力増加等により発電量を増大させるとともに「原子力2010」計画により新規原子力発電所建設を目指し、補助金、規制改革など民間の取組を支援している。
国内の石油、ガス価格高騰、大規模停電等の問題解析のため、2001年5月「国家エネルギー政策」を発表し、これを受けて上下両院で包括エネルギー法案の審議が開始された。審議は難航したが、2005円4月下院を通過した。同6月上院を通過し、上下両院協議会に入り、合意を得た後、8月8日に大統領が署名し成立した」
主要国のエネルギー政策目標 (01-09-01-01) - ATOMICA -

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今どき世界ひろしといえど、原発ゼロにして再エネを100%に近づける、なんてイっちゃったことを言っているのは枝野さんのところくらいです。
そもそも「自然エネルギー」で唯一モノになるのは水力くらいでしたが、脱ダムやっちゃったのは民主党政権でしたっけね。

「自然エネルギー立国」なんて、イメージだけでしゃべっているからこうなるのです。
本来、政策化するためにはテーマを切り分けて、目的をはっきりとさせねばなりません。
地球気象変動を止めたい、そのために地球温暖化ガスの二酸化炭素を削減するか、その温暖化ガスの原因となる化石燃料を削減するために再エネを増やしていくのか、はたまた放射能ゼロ、別の言い方で原発ゼロなのか、です。
このヒトたちの脳味噌の中ではきっと、地球温暖化阻止→火力発電削減→原発ゼロ→再エネなんて公式が並んでいるのでしょうね。

実はこれらの事柄は、なにも考えないとスッと矛盾なく繋がるようですが、実は矛盾した要件です。
というのは、地球温暖化の主な原因が二酸化炭素かどうかはとりあえず置くとして(私は懐疑論者ですが)、現実にCO2削減をしようと思うと、もっとも手っとり早いのが、原子力を増やすことだからです。

原子力はなんせ二酸化炭酸ガスや硫黄酸化物をまったく排出しない「クリーン」なエネルギーだからで、ただCO2削減が目的ならば、化石燃料発電(火力)をさっさと止めて、原子力に一本化するのが近道です。
ただし、3.11の福島事故のように事故が起きた場合、その規模と影響の時間尺の長さは巨大で、他のエネルギー源のそれとは比較になりません。

また原発が未完成な技術体系なことは確かです。
いま新世代原発の登場によって福島事故のような全電源停止状況でも炉心冷却可能なタイプが生まれてきてはいますが、むしろハード以外の耐用年数制限の問題、高濃度廃棄物の最終処分のあり方、核廃棄物と原発稼働数との関係(総枠規制)、あるいは核リサイクル施設の存続といった未解決な問題が山積しています。
これらの諸問題は、いくら新世代原発がステーションブラックアウトであっても炉心冷却出来るようになったといえどもつきまとう以上、原発は「今なくては困るが、そこそこに」というのが私の考えです。
私はその意味で、少なくともGE型のような旧世代原発から段階的に削減していくしかないと考えています。

しかし福島事故以前は約3割のベース電源であったために、直ちに「原発ゼロ」といっただけではなんの問題解決にもなりません。
しっかりとその3割のエネルギーの穴を埋める代替エネルギーをがなくてはなりません。
それをまったく考えずにやったのが民主党政権で、それをまたぞろ性懲りもなく押し入れから取り出したのが立憲です。
小泉環境大臣のパパは有名な反原発運動家ですが(総理大臣だったって噂がありますが、ほんとかしら)、
翁はこう言っています。

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「今こそ原発をゼロにするという方針を政府・自民党が出せば一気に雰囲気は盛り上がる。そうすると、官民共同で世界に例のない、原発に依存しない、自然を資源にした循環型社会をつくる夢に向かって、この国は結束できる 」
(ハフィントンポスト 2013年10月2日
 

まるでマックのセットメニューです。
ところが、実はここれら微妙に絡んではいるものの、相互に矛盾していて、本来なんの関係もないそれぞれ別途に検証せねばならないテーマなのです。  

さて再エネは、もっとも古典的なエネルギー源として古くからありました。
中世にはほぼ今の原型を完成させていますが、産業革命で大部分はすたれつつも、地域にしぶとくしがみついて生き抜いてきました。  
それが改めて再注目されたのは、1979年のスリーマイル島事故以後の脱原発運動の盛り上がりからです。 
この中で再エネ(当時の言い方では「市民エネルギー」)は、その言葉のニュアンスどおり市民が、「裏庭で自分の家のエネルギーくらいは作ってみせる。その分原発はいらないんだ」というはなはだ牧歌的なものでした。  

自然エネルギーのイデオローグであった飯田哲也氏の初期の本には、1986年のチェルノブイリ原発事故以後のスウェーデンで、同じような地域で市民が知恵と金を出し合って風車を建てていくエネルギー・デモクラシーの様子が描かれています。  
世界中で市民が日曜大工で怪しげな「エネルギー発生装置」を作ったり、市民ファンドで風車を回していたのです。 

このような牧歌的な再エネは、今では「神代の時代」の昔語りにすぎません。
なぜなら、今や脱原発運動は、裏庭どころか再生可能エネルギーを社会全体の代替エネルギーと位置づけてしまったからです。  
この本来は、地域の生活や生産に密着した「裏庭エネルギー」だったものが、一躍世界上位の工業国家の代替エネルギーなどという身分不相応の位置を与えられれば、そりゃ失敗して当然です。

発電規模のケタが違う再エネを「飛躍」させようとすれば、必ず別の矛盾を引き起こします。 
それは反原発運動の意識の延長で国家規模の、しかも世界で屈指の工業技術国の代替エネルギーを再エネに据えてしまったドイツの経験が物語っています。  
ドイツではいくら優遇策であるFIT(全量・固定価格買い上げ制度)に厖大な金をつぎ込んでも再エネは07年時点で最大で16%にしか伸びませんでした。 (下図参照) 

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熊谷徹氏による

ちなみにその内訳は、風力発電が4割、バイオマスが3割、水力が2割、太陽光が1割未満です。  
驚かされるのは、太陽光は再エネの代表選手のように思われているものの、実は全エネルギー源の0.2~0.4%(2010年現在)にすぎないことです。
 一方、ドイツは原発を暫時停止(完全停止していません)することによって、低品質の硫黄酸化物の多い国内石炭火力発電が49%にも増えてしまいました。 
ですから、
皮肉なことには脱原発政策によって化石燃料シフトが起きてしまったのです。 これによってドイツの炭酸ガス排出量は一挙に増えていきます。 

実はわが国もまったく一緒でした。わが国はある意味ドイツより過激な「全原発停止検査」ということを初めてしまったからです。
なんの法的根拠もなく、ただのカン氏の「お願い」で、全原発ストップですから呆れたもんです。
結果がこれです。火力発電一色となりまなした。
皮肉にも原発ゼロにすると火力発電が増えてしまい、したがって炭酸ガス排出量が増加するというトレードオフの関係がはっきりしてしまったのです。

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2013年度のエネルギー源別の発電電力量の割合http://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id035081.html

2018年度の実績値 → 2030年度の計画値
原子力 6% → 20-22%
石炭 31% → 26%
LNG 38% → 27%
石油 7% →  3%
再エネ 17% → 22-24%(*再エネは水力を含む)
出所:
・ 2018年度エネルギー需給実績(速報値)
・ 第5次エネルギー基本計画(2018年7月発表)

化石燃料を主体とした発電を続ける限り、わが国は二酸化炭素を削減することは不可能です。
原発を止め、9割弱を化石燃料に依存している現状では、パリ協定目標を達成することは不可能です。
つまり、エコ政策を突き進もうとして二酸化炭素ガス削減するためには原発を一定割合で組み込まねばならず、組み込んだら今度は反原発派から「危ない原発反対」とやられるという二律背反になってしまうわけです。
枝野氏にどうやったら原発を止めたままで、CO2削減できるのかお聞きしたいものです。

特に2008年からの2年間の二酸化炭素の排出量の増加は危険視されています。脱原発よって環境が確実に悪化したのです。  
2009年の国連気象変動サミットにおいて、鳩山元首相が国際公約してしまった1990年比で2020年までに25%温室効果ガスを削減するという目標年になってしまいましたが、原子力発電なくしてどのようにするのかはまったく不透明です。
(*CO2削減率問題については過去ログをご覧ください。)
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2009/12/post-a3c7.html 

下図を見ると、1997年の京都議定書以降も、CO2は増加の歯止めがかかっていないのが現状です。
京都議定書 - Wikipedia

 

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Warming_chart01化石燃料などからのCO2排出量と大気中のCO2濃度の変化出典:電気事業連合会「原子力・エネルギー」図面集2010http://www.jnfl.co.jp/recruit/energy/warming.html

このように京都議定書は失敗し、パリ協定もまた実行が疑問視されていることは確かです。
それ以前の1990年に8%削減という政府目標を立てた時ですら、そのために原発を9基増設し、当時60%台だった稼働率を一挙に81%にまで引き上げ、太陽光も20倍にする、と試算されていました。 

また、2009年時点で、政府は電力に占める原子力の割合を当時の30%から2030年には50%にまで引き上げる計画を立てていました。 
とうぜんのこととして、それらの計画は3.11以後、完全に白紙になりました。 
ここで、ではどうやったら原子力なしでCO2削減ができるのか、という問題に直面せねばならなくなったわけです。 

このように簡単に「原発ゼロ」と言って済ませられる問題ではないというのがお判りいただけたでしょうか。
原発問題というのは、放射能リスクばかり強調されがちですが、むしろエネルギー問題だと私は思っています。
原発のリスクをなくすということは、別なリスクを取ることでもあります。その新たなリスクの大小が、代替エネルギーを選ぶ基準となります。  

問題のあり方を切り分けられず、トータルに代替エネルギーを見られない連中だけが、いまだに「自然エネルギー立国」なんて脳みそが日焼けしたことを感覚的に言っているにすぎません。
枝野さん、いつまでも「グリーン立国」なんてお菓子ばかり食べていないで、真正面からエネルギー問題を見たらいかがでしょうか。

長くなりましたので明日に続けます。

 

 

 

2020年9月27日 (日)

日曜写真館 パステルの朝

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太陽が登る前のエネルギーに満ちた時間が好きです。

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モネみたいなものを撮りたいといつも思っていますが、ほど遠いですね。

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夜明け前がエネルギーの充填なら、日の出は放出です。だから美しくも怖い。

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2020年9月26日 (土)

地球温暖化を利用する中国

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最後の最後になるまでわかりませんが、日本にも大きな影響を与える米国大統領選挙は、バイデンが首ひとつ優勢のようです。
私としてはペンスかポンペオが大統領候補だったら、どれだけ安心かとは思いますが、ま、しゃーない。
彼らは優れた保守政治家ですが、トランプほどまでの破壊力はなかったのは確かですしね。

とまれ、前回のようなドンデン返しもあるんでなんともいえませんが、現時点ではバイデンが勝つことを考慮に入れて考えておかねばなりません。
米国の民主主義社会の土台は法と秩序だ、いくらなんでもBLMはやりすぎだと思えばトランプに入れるでしょうし、米国分裂の責任はトランプ野郎だという米メディアを信じてバイデンに入れるかもしれません。
いずれにしても、この米国の黒人と白人の人種対立には普遍性はありません。
米国固有の歴史のゆがみから生まれたもので、私たち外国人にはどうしようもありませんから、BLMでもなんでも気が済むまでやってくれ、という気分です。

さて、バイデンが大統領になったら、ということで少し考えてみましょう。
いいニュースと悪いニュースがあります。
いいほうからいきますか。米国の対中政策には大きな変化はないと、おおよその米国ウォッチャーは見ています。

「バイデン政権の対中外交も、トランプ政権の対中政策同様強硬なものになるであろう、という推測をする者もいる。現在アメリカでは、超党派で中国についての見方が厳しくなっている。とくに今回の新型肺炎の問題では、中国の隠ぺい体質が党派を超えて強く批判されている。
 トランプ政権の対中政策はその強硬姿勢で目立っているが、最近制定された中国関連の法案は、ほとんどが超党派で、すなわち民主党が多数党となっている下院も同調し、多数の民主党議員の賛成のもとに可決されていることは事実であり、議論の前提として確認しておく必要がある」(『バイデン政権」の外交を考える』久保文明東京大学大学院法学政治学研究科教授)

下院で多数派を握っている民主党も、香港問題などではトランプの尻を叩きまくっているくらいで、対中問題が今や「自由と人権」領域に入ってしまった以上、ここから後退することは、民主党の自殺行為です。
懸念材料としては、あの二大国主義者のスーザンライスが、今度は国務長官で帰ってくる可能性か噂されていることです。
この人物はオバマの安全保障特別補佐官時代に、「中国が提案した大国間関係」という新しいモデルを円滑に運用すべく模索中である」なんておっとろしいことを述べたことがありますので、要警戒です。

オバマが「アジア回帰」と口ではいいながら、まったく動かなかったのは、このライスが反対し続けたためです。
バイデンが彼女を入閣させた場合、いくら大統領が強硬なことを言っても、ライスが骨抜きにしてしまうでしょう。

「アシュトン・カーターはオバマ政権の最後にして4人目の国防長官であるが、前任者同様、自分の以前のボスに厳しい言葉を浴びせている。すなわち、彼は南シナ海での航行の自由作戦の着手について何度もホワイトハウスに打診しながら、そのたびにオバマ大統領とライス補佐官に拒否されたことを、批判的に語っている。それはようやく2015年終わりに実行に移された。
人権や通商でいくら強い態度を示しても、最終的かつ本質的には力の論理に依拠した言動でないと、中国に対しては迫力を持たないであろう」(石井前掲)

いずれにしても米国の大統領制特有の前政権否定はやります。
トランプのプラス面、マイナス面を先日の記事で箇条書きしたことがあります。
関連記事『「バイデン政権」の外交を考える』
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2020/07/post-2bb890.html

・トランプ外交のプラス面
①中国に厳しい態度を取り続け、自由主義陣営の結束を呼びかけた。
②安倍氏と良好な関係を保ち、友好関係を作った。
③北朝鮮と非核化交渉を現実化させた。
④パリ協定から離脱した。

・トランプ外交のマイナス面
①反同盟的態度が目立ち、従来の同盟関係を破壊するような言動が目立った。
②日米同盟についても金銭勘定で量るような根本的な認識に疑問がつく言動が目立った。
③衝動的、かつ感情的な言動が日常的になされた結果、トランプ劇場に世界は振り回された。
④国連などの国際機関と敵対した。

さてトランプ外交のプラス面として、前記事にパリ協定からの離脱を追加しました。
というのは、北京が今練っている「バイデンの傾向と対策」のトップに出てくるのがこの地球温暖化による米国のたらし込みだからです。

これに警告を鳴らすウォールストリートジャーナル(9月23日)『【オピニオン】中国に譲歩しても温暖化は止まらず「バイデン大統領」は対中姿勢の緩和を求められるだろう』はこう述べています。
https://jp.wsj.com/articles/SB11022691738936953480704586646601828746470

「米国でバイデン大統領が誕生した場合に備えて、中国政府の政策立案者たちは自分たちの選択肢を見極めている。その中で、最も関心が高いと思われるテーマの一つが気候変動だ。
民主党大統領候補のジョー・バイデン氏は気候変動のペースを遅らせるという目標を米国の外交政策の中心に据えると繰り返し発言している。民主党の政策綱領によれば、米国はパリ協定に復帰し、地球の気温の上昇を産業革命前の水準からセ氏で1.5度に抑えるための対策を立法化するよう各国に求めるという」(WSJ9月23日)

WSJは、地球温暖化という本来は中国の最大のネックを逆手にとって、米国の譲歩を引き出したいと考えているとしています。

「中国政府の政府関係者の目標は、バイデン政権内部で議論させることだろう。つまり地球を救うために対中強硬派を抑えるよう、積極的な気候変動対策を求める人々が大統領を説得することである。
気候変動と戦う人々はこう言うだろう。気候変動の鍵は中国政府にある、米国が貿易に関して中国に嫌がらせをしたり、中国企業に制裁を科したり、台湾に武器を持たせたり、中国の近隣諸国に反中同盟を構築するよう求めたりしても、地球の気温を下げることに協力するよう中国を説得することはできない――」(WSJ前掲)

おもわず、やるねぇと感嘆してしまうほどの見事な瀬戸際戦略です。
つくづく平壌の、潰れるぞ、潰れるぞ、潰れんかったらミサイル撃つぞ、核つくったるぞ、イヤならカネくれ、食糧よこせ、おんどりゃ妥協せんかい、という金王朝のお家芸を思い出します。北の師匠が中国なのがよくわかります。
自分の国の野放図な工業化のツケである地球温暖化ガスを、さぁ減らしたいんだったらオレに譲歩しろや、なにが対中包囲網や、ケッ、というわけで、まるでヤクザ屋さんの言い分です。
実際に、中国は飛び抜けて二酸化炭素排出量でトップを走り続け、減る様子も見えません。6yoof5co

2015年のCOP21の時の中国のCOP21代表団は、こう述べたことがあります。 


「【パリ時事】パリ郊外で開催中の国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で、中国政府代表団の蘇偉副団長が5日、時事通信などの取材に応じた。2020年以降の地球温暖化対策の新たな国際枠組みに関し、途上国グループに所属する立場から「歴史的責任に基づき、(各国が取り組む対策に)差をつけることが必要だ」と強調。過去に温室効果ガスを大量に排出してきた先進国が、より重い責任を負うべきだと改めて主張した。
 気候変動枠組み条約には、先進国の責任をより重くみる「共通だが差異ある責任」原則が明記されている。
これについて、蘇氏は「根本的な原則だ」と指摘。温室ガス削減や資金支援といった新枠組みの重要な論点で、この原則を反映させる必要があるとの認識を示した」(時事2015年12月5日)
 

わ、はは、まともな神経を持っていたら言えるこっちゃありませんなぁ。
中国はこういう自国にとって不利なことになるといきなり「発展途上国」となって、先進国と差をつけた取り組みが必要だ、なんて言い出します。
どこに核ミサイルを持ちたい放題持って、太平洋を二分割したいと空母作って周辺国を脅しまくっている「途上国」があんだって。ああいかん素で応えてしまった(笑)。

中国は、このコロナのパンデミックでいきなり空気がキレイになったそうですが、それもそのはずこういった状況でした。
この大気汚染は、昨日今日に始まったものではなく、2013年頃から隠しきれないものとなっていました。


「環境省によると、10日夜から北京市を中心に中国東部で大気汚染が発生、14日まで主要都市で汚染が確認された。同市内の濃度は多い時には大気1立方メートルあたり約500マイクロ・グラムで日本国内の基準(1日平均35マイクロ・グラム以下)の十数倍にあたる。」(読売新聞2013年1月30日)  

この分厚い雲の下はこうなっています。 

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この写真は2013年冬の真昼に撮影されたものですが、夕暮れではなく昼間です、念のため。 
撮影した共同の特派員は、10数メートル先も見えないと書いています。 

 

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この分厚いスモッグが晴れるのは、オリンピックと、抗日70周年なんじゃら軍事パレードの時、そして今回のコロナの時だけです。
北京周辺の工場を止めたり、車の乗り入れ規制をするからです。
大気汚染の主原因は硫酸塩エアロゾルで、エアロゾルとは大気を浮遊する微小粉塵のことで、工場や自動車などから排出される二酸化硫黄が、大気中で化合・吸着した微小化されたものです。
この硫酸塩エアロゾルは、普通の風邪引きマスクていどは簡単に透過して、気管支、肺にまで達しあらゆる気管支系の病気の原因となります。


「専門家によると、霧には多くの有害物質のほか病原菌も付着。気管支炎やのどの炎症、結膜炎などのほか、お年寄りや疾患を抱えた人だと高血圧や脳疾患を誘発する危険があると指摘した。」(ロイター)

マスクでブロックする気なら、N95仕様のマスクが必要です。 
この有害ガスの「濃霧」は、北は長春、瀋陽、珠江デルタ、東は済南、西は西安まで、中国の広域に広がっています。  
この汚染地域は、中国の7分の1に相当する130万平方キロと日本の3倍という途方もない面積に達します。
大げさな表現ではなく、まさに地球環境史上空前絶後の汚染規模だと言えます。
下の写真は2013年冬にNASA が撮影したもので、もはや地上はみえないほどです。金星か、ここは。
 

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ちなみに、この硫酸塩エアロゾルは、黄砂に乗って日本列島西部に流れて、喘息の原因となっています。Photo_9
※http://www-cfors.nies.go.jp/~cfors/index-j.html

話を戻します。
とまれこういう国ですから地球温暖化ガスなんて削減する気はいささかもありません。
むしろボンボン出しまくって、むしろこれをネタにして米国の妥協を引き出せないか、とねじれて発想します。
実はさもありなんですが、バイデン率いる民主党は環境問題が飯より好きなのです。
いや、単に好きというより環境利権に深く足を取られているというべきでしょうか。
米国民主党のスポンサーには、環境マフィアの有象無象がひしめいています。

彼らは外見は環境運動家のような顔を繕っていますが、その内実は環境利権、たとえば排出量枠のバイヤーだったり、それに投資する投資銀行だったりします。
共和党政権がパリ協定から離脱できたのは、この環境利権を持っていなかったからです。
そもそもこの地球温暖化説に火をつけたのが『不都合な真実』で、温暖化の宣教師となったアル・ゴア副大統領でしたから歴史的にも筋金入りです。

そして民主党は、オバマ政権に典型的なように、地球気候変動問題で中国に妥協を迫りたいあまり、中国の術中にはまってしまいました。
冒頭の石井氏はこう述べています。

「とりわけ民主党が共和党と著しく異なるのは、地球温暖化問題がもつ政治的重みである。中国は2014年11月に北京で開催されたアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議において、気候変動問題に関する米中協力宣言を発して、この問題での協力姿勢を初めて鮮明にした。ここに至る道のりではオバマ政権からの働きかけも重要であった。ある意味で「中国に協力させた」オバマ大統領の功績は、地球温暖化問題を深刻視する民主党の熱心な支持基盤にとって、まさに画期的な重要性をもつものであった。
その後、2015年12月パリで開催された第21回 UNFCCC締約国会議(COP21)におけるパリ協定交渉で米中は指導的役割を果たし、さらに2016年9月のG20会議における米中首脳会談にて、米中のパリ協定の批准ならびに締結を発表した」(石井前掲)

つまりオバマとその副大統領だったバイデンにとって、中国と気象変動の米中協力宣言はレジェンドであり、不可侵だったにもかかわらず、不動産屋のトランプが一蹴しやがった、許せない、元に戻してやる、と考えているわけです。
となるとバイデンが恐れるのは、中国を刺激しすぎて、オバマのレガシーだった地球温暖化の米中協力宣言まで廃棄してしまうことです。

「同年11月4日、パリ協定は発効した。逆に、オバマ政権からすると、アメリカが南シナ海やウイグルの問題などで強く中国を批判し過ぎ、中国が地球温暖化問題での前向きの姿勢を撤回してしまえば、一大事となる」(石井前掲)

おそらく中国はバイデンに対して、表向きは今までと変わらぬ硬直した「戦狼」姿勢を見せながら、舞台裏では民主党政権に対して使えるカードの一つとしてこの地球温暖化を持ち出して妥協を迫ると見られます。

 

 

2020年9月25日 (金)

中国と台湾、いずれが国際的「国家」の条件を満たしているのか?

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いきなり秋になりました。このところ季節のグラデーションに余裕がないようで、いきなり夏、いきなり秋という感じですので、次はいきなり冬になってしまうのかもしれません。う~ん、身体が追いつかん。

さて、今、9月15日からニューヨークで第75回国連総会が開幕しています。
台湾は出席すら拒まれています。
中国から強硬な抵抗にあっているからで、今回世界でもっとも最初に新型コロナに打ち勝ち、経済再生にもっとも成功している台湾からの報告を国際社会は聞くことが出来ないでいます。
世界で共有化されるべき成功事例は、中国ではなく台湾であるにもかかわらず、この不合理がまかり通っています。
中国は初発の発生国でありながら、いまだに国際調査団すら受け入れていませんから、武漢のどこでなにが起きたのか、中国政府の恣意的な大本営発表に頼るしかないわけです。
トランプの「チャイナウィルス」という表現が気に食わないなら、調査させるべきです。

今回の新型コロナ禍の下で開かれた国連総会は、台湾の招聘、中国へのクエスチョンタイムに当てるべきでした。
代わってトランプがガサツにワーワーとやってくれましたが、言っていることは、新型コロナのパンデミック化をめぐっての中国の責任追及です。
内容的には正しいのですから、もっと上品にやってくれんか。

中国に対する非難の高まりと比例するように台湾を国際社会に復帰させよ、という声が高まっています。
世界にもっとも迷惑をかかけた国が常任理事国の地位にあぐらをかき、もっとも成功した国が国扱いすらされていないという不条理に、やっと国際社会は気がつき始めたようです。

台湾もこの国際的地位の急上昇という機を逃さず外交攻勢にでています。
チェコの上院議長率いる大訪問団は、中国の激しい非難を押し切って訪台しました。
今まで中国の札束で頬を張られるようしてアジア・アフリカ、南太平洋諸国が台湾と団交してきましたが、台湾も負けじと南太平洋にはグアム、アフリカにはソマリランド、ヨーロッパにはフランス・プロバンスに新しい在外公館(台北経済文化弁事処)を開設しています。
また各国のメディアに、台湾要人の主張を送り、産経には呉釗燮外交部長、毎日には謝長廷・台北駐日経済文化代表処長(大使)が寄稿し、いずれも台湾の国連復帰の必要性を訴えました。

このような台湾の外交攻勢は、米国と歩調を合わせたせたものとなっています。
トランプ政権は台湾承認に向けて確実に歩みを進めています。
ケリー・クラフト国連大使は、9月16日、駐ニューヨークの台湾代表所長(台北経済文化弁事文化事処処分長)の李光章長と、食事を共にしました。

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毎日 米国連大使、台湾の「領事」と会談 - 毎日新聞  

「クラフト米国連大使と駐ニューヨーク台北経済文化弁事処(領事館に相当)の李光章処長が、ニューヨーク市内のレストランで昼食を共にし、会談した。米国務省高官の台湾訪問に合わせて米台接近の姿勢を強調、中国をけん制するための行動とみられる。台湾は中国の国連加盟を受け1971年に国連を脱退している。
両氏は16日、ニューヨーク・マンハッタンのレストランで会談した。7月に着任した李氏の招待にクラフト氏が応じる形で実現した。米国内で活動する台湾在外代表部の関係者が米当局者と接触する際は、偶然の遭遇を装ったりゴルフ場など外部の目に触れない場で会談したりするのが通例だ。台湾外交部(外務省)は「両氏が、さまざまな懸案事項について意見交換する機会を持ったことを歓迎する」と表明した。
クラフト氏はAP通信に「国連のホスト国として李氏を歓迎した。台湾が国連により関与できる方策について協議した」と述べた。台湾との関係強化はトランプ政権の方針だと説明。「台湾が国連加盟できていないのは残念なこと。米国が中国に立ち向かわなければ、どの国ができるのか」とも語った」(毎日9月9日)

「台湾は国連に参加できるようになるべきであり(中国が加盟を阻止しているのは)恥だ」(AP)

形式はオフィシャルディナーではなくプライベートランチですから、米政府招待の公式行事ではなく米国高官が台湾外交官と昼飯をとったという体裁にしてあります。
しかし、いままで台湾代表と米国政府高官の会話は、ゴルフ場で「偶然に」で出会ったことに較べて、大きな進展です。
そしてその内容までがAPで報じられ、これは事実上の米政府による台湾の国連招致の意志だと受け取られています。

さて、わが中国の怒るまいことか。

「クラフト大使と李光章処長のプライベートランチについて米国メディアが報じた裏側では、中国の駐国連副代表の耿爽随が米国の駐国連代表団に厳正なる抗議を申し入れていた。
耿爽副代表は「この午餐会は“一中原則”に違反しているし、中米間の三つの共同コミュニケの規定および国連大会第2758号決議に違反する」として、中国側は「強烈な不満」と「断固とした反対」を表明した」(福島香織の中国趣聞 NO.170)

まさにキャンキャン遠吠えするといった風情ですが、ここで中国がいう「一中原則」なるものを米国が認めているかといえば、微妙です。
あくまでも、米中国交回復時の取り決めは、米国は中国がひとつであるという中国側言い分を「聞き置いた」(テイクノート)したとだけあります。
つまり、中国さんがそういってるのは聞いたというニュアンスで、米国は台湾との関係まで立ち切ったわけではありません。
台湾関係法がその担保です。

これは中国との国交はするが、台湾とも切れたわけではない、いつでも元の状況に戻れるのだ、いざという時には台湾を軍事的にも守るという米国の意志です。
ただし、歴代の米大統領が腰が引けていたのは、このガラス細工のような台湾の地位が、無茶をすると一気に崩れかねないと危惧したからです。
だからあえて微妙にしてあることを、中国がキャンキャンうるさくいえばいうほど、米国の台湾国際社会復帰への意志を強める結果となっていきます。

中国をめぐる国際状況はこの間大きく変化しました。
習の「戦狼」路線は、周辺国すべてと軍事的摩擦を引き起し、インド・太平洋を不安定にさせる元凶都なっています。
国際社会がどこかでこの「戦狼」路線を止めねば、世界大戦の可能性すら出てきました。

この危機感から米国は台湾の国際的地位見直しを進めようとしています。

「米国務省は17~19日の日程で、李登輝元総統の告別式参列のためクラック次官を派遣している。中国軍が18日から台湾海峡付近で演習を開始したことについて、ポンペオ米国務長官は同日、訪問先のガイアナで「我々が葬儀に代表団を送ったら、中国は怒りの軍事行動で対抗してきた」と批判した。
 一方、米下院のティファニー議員(共和党)は16日、台湾を中国の一部とする中国側の原則を米政府として尊重する「一つの中国政策」を撤廃し台湾との外交関係回復を促す決議案を提出した。台湾の国際機関参加の支持や自由貿易協定締結も政府に求めている」(毎日前掲)

さて、現状を客観的に見れば、国連復帰は厳しいのが実情です。
微妙な国際的地位の国が国連に加盟する場合の前例に、パレスチナがあります。
2011年にパレスチナは国連加盟申請をしましたが、イスラエルと米国の反対で拒否されましたが、翌年には「非加盟オブザーバー国家会員」という正式な加盟資格を与えて今にいたっています。

この方法が使えるかといえば、残念ながら難しいだろうというのが、台湾の識者の声です。

「台湾政治大学の鄭樹范名誉教授はラジオフリーアジアに対して、「中華人民共和国が存在する限り、台湾はいかなる方式であっても国連に加盟することは無理であり、いかなる幻想も抱けない」、という。
「我々はパレスチナモデルでも、不可能であると思う。中国が崩壊しない限り。台湾が多くの同情を得ているのは間違いないが、はっきり言って、今の習近平はそういうことに耳を貸さない。今の台湾を相手にしていないのだ。馬英九は現在、総統に返り咲きたいようだが、それも習近平も相手にしていない。」
国際法の専門家の古挙倫・ホフストラ大学教授は「台湾とパレスチナは全く比較できない。重要なのは中国の台湾の国連参与に対する態度で、米国が国連にパレスチナ問題の処理をあっせんしたときと比べると、抵抗は圧倒的に強い」という」(福島前掲)

ただし、望みはあります。

「国連憲章の第二章の第四条規定では、平和を愛する国家は「国連憲章」に記載されている義務を受け入れ、国連がその義務を履行できる能力や意思があると認めた場合、国連の会員国となりうる、総会を経て安全理事会の推薦をもってその決議を行う、という」(福島前掲)

では、この国連憲章第2章4条の「平和を愛する国家」という定義に、中国と台湾のいずれが合致しているか、考えてみるまでもないことです。
「国家」を定義する場合、よく引き合いに出されるのが1933年の
モンテビデオ条約(国家の権利及び義務に関する条約)です。
ここには有名な国家である4要件が記されています。

①持続的に住民が存在すること。
②一定の領土を持つこと。
③実効統治している政府があること。
④他国との関係を取り結ぶ能力。

この国家たりえる4要件のすべてを台湾は持っています。

さらに新しい国家要件として、1991年12月にソ連圏が崩壊したことにともなって多数の国家群が生まれたことに対応して、EUが定めた東欧及びソ連邦における新国家の承認の指針に関する宣言」があります。
この「EU宣言」は更に踏み込んで現代的な判断を下しています。

①法の支配、民主主義、人権に関して国連憲章及びヘルシンキ最終議定書等を尊重すること。
人種的民族的グループ及び少数民族の権利を保障すること。
既存の国境の不可侵を尊重すること。
関連軍備規制約束を受け入れること。
国家承認及び地域的紛争に関する全ての問題を合意によって解決すること。

つまり、人権、少数民族の権利の尊重、国境の不可侵、軍備縮小、紛争の平和的解決を、EUは新しい国家要件として定めたことになります。
笑えることには、中国は①から⑤まで全部ダメです。
人権などないに等しく、普通選挙すらただの一回も開かれたことがない国であり、少数民族はホロコーストまがいの強制収容所に送られ、南シナ海のような武装侵略行為を公然となし、軍縮はおろか世界最大の軍拡国であり、国際司法裁判所の裁定ですら「紙くず」と言って憚らない国が中国です。

いったいどちらが「国家」たる要件を満たしているのか、国際社会はよくかんがかるべきでしょう。

 

※タイトルを変更しました。いつもすいません。

 

2020年9月24日 (木)

菅首相と沖縄

民主党のエネルギー政策について書かねばならぬと思いつつ、あまりにダメなので、書く気を失ってしまいました。
なにが「自然エネルギー立国」ですか。
結論はとうに出ているし、今、かつての民主党時代の遺物である全原発停止とFIT(全量固定価格買い上げ制度)なんてイカレポンチのもんに苦吟しているじゃないですか。

民主党の最悪なのは、我が身を振り返らないということです。ずっと野党だったのならまだ許せます。
うちはいい政策プランあんだけど、実現するチャンスなかったしなと愚痴を言う権利はありますし、それを国民に訴えて最後のチャンスを我が党に、なんていうこともできるでしょう。

ただオンリー民主党だけは違う。ただの野党でございます、なんて顔はさせません。
理由はいいですよね、この立憲民主は、かつての民主党残党が看板をスゲ替えたものにすぎないからです。
再結集するならするで、今まで唱えてきた政策をひとつひとつ検証してくれればまだ納得がつきますが、しない。
もう当人たちもかつてなんという政党を作ったのかも忘れるほどローリングストーンしながら、その理由をころりと都合よく忘れている。

だから、いつあるかわかりませんが総選挙で負けりゃ、また元のバラバラになるのは目に見えています。
看板を書き換えれば、民主政権の夢をこんどは立憲でかなえてくださいね、と国民が眼を輝かせてくれるなんて思っていたら、そりゃバカだよ(苦笑)。

民主党だけは3年半者の間、思う存分政策を実現できました。おかげさんで、国民は言葉も通じない異星人支配に苦しみました。
その後障害にいまでも苦しんでいます。
それはかつての「自然エネルギー立国」の失敗による負担だけにとどまらず、安全保障ではハト首相が「国外・最低でも県外」なんてやったために、日米同盟が根底から揺らぎました。

なぜって、普天間移設問題とはただ基地をアッチからコッチに移すってことではなく、今、中国に対峙している米国の前線基地の機能をそのまま、より安全な場所に移設しようというたぶん世界唯一の試みだったからです。
橋龍の親切心というか、ラムズフェルドにも「世界で一番危険な基地」(言っていないという話ですが)と言われたり、沖大にヘリが墜落したりで、軽く考えて移設を約束してしまったことに端を発します。
今になるとよけいなことをと思います。やるならなるで、公約する前に下調べの小委員会でも作ってからやればよいものを、いきなりぶちあげればこうなります。

しょせんポマードの思いつきですが、その後30年以上にわたって日本政府と沖縄県の頭痛の種になります。
移設候補の選定は難航に難航を重ね、そのために実に17年に渡ってあーでもない、こーでもないというやりとりが米国との間であった結果、現行案に落ち着きました。
日米両政府-地元沖縄県-地元自治体の4者が合意しなければならないという、まるで惑星直列のような離れ業をせねばならなかったわけです。

そしてこともあろうに、関係者が泣きながら積み木をひとつひとつ積み重ねて築いた奇跡の惑星直列は、民主党政権が誕生すると同時に砕け散りました。
交渉経過をなにも知らないハトが宇宙から飛んできて、一瞬でチャブ台返しすりゃ、それは米国は冗談もほどほどにしろと思ってあたりまえです。
これは日米両政府合意からの一方的離脱だからです。
同盟関係でしてはならないことは、合意の不履行ですからとうぜんですな。
簡単に言ったことを反故にする奴に、自分の背中を預けられますか。同盟とはそれほどまでにシビアなもんなのです。

しかもハト首相はノーテンキにもこの後の日米会議で得意な英語を使って「トラストミー」とやっちゃいました。
オバマも戸惑いながら、「じゃあ信じるよ」と返したようですが、ハト氏は意味が判って使っていません。

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この時ハト氏が使った"Trust Me"は一般的に、「「自分は約束を守る人間だから、日米合意を遵守する」という風に解釈されます。
欧米の契約遵守思考からすれば、とうぜんそう受け取ります。オバマもそう受け取って「オーケー」と言ったわけですが、これが違うんだな、ハト氏の言った意味とは。
ハト氏は実に日本的にも、「ボクにみんな任せてよ」と言って理解を得られたと勘違いしました。

彼がもう少しまともな脳みそを持っていれば、日米合意を守るか守らないかという筋道の議論の中で、「自分に任せろ」と言われれば混乱を収拾して元の軌道に乗せると言ったと気がつくでしょう。
オバマにしてみれば、相手国首相は選挙用の国内向け発言でああ言ったが、最終的には日米合意を守ってくれると「トラスト」しちゃったのです。
選挙の時にはできもしないことを言うのは東西同じですから。

しかし、違いました。軌道修正どころか、ハト氏は勘違いしたまま勘違いの方角に向けて全力疾走してしまったのです
口蹄疫で宮崎件畜産が壊滅しようと無関係、他の懸案をぜんぶ放り捨てて、東奔西走。
そして徳之島にまで行った挙げ句は全島反対に合って袋小路へ。
そりゃそうです。伊達や酔狂で17年間やって北分けてはありませから、安全保障の素人に代替がたった1年で見つかる道理がありませんもんね。
そしてもうどこにも行きようがない袋小路に自分で自分を追い込んで、初めてハト氏は仲井真氏に頭を下げたのですが、その時言った言葉が奮っています。

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宮古毎日

「鳩山首相は「すべてを県外にというのは現実問題として難しい」と普天間の全面的な県外移設を断念することを伝え、県内移設への理解を求めた。また国外移設については「日米の同盟関係、近隣諸国との関係を考えた時、抑止力という観点から難しく、現実には不可能だ」と明言した上で「沖縄の皆さま方にも、またご負担をお願いしなければならない」と述べ陳謝した」(宮古毎日2010年5月10日)
http://www.miyakomainichi.com/2010/05/245/

おいおい、ハト氏は仲井真氏の前で「抑止力を学んだ」と言ったんですって。
あんた、そんなイロハのイも知らないで移設問題をこじらせたのか(絶句)。
いやしくも一国の首相が地方自治体知事に「ボク、ヨクシリョクってなんにも知らなかったから国外、少なくとも県外なんて言っちゃったんですけど、わかったんでヘノコに戻りますから」なんて言うか、フツー(力なく笑う)。
電車の運転を知らない坊やが、運転席に乗り込み、断線転覆させたあげく言った台詞が、「ボク運転知らなかったんだもん」ですから。

仲井真知事と自民県連は、このウスラのために巻き起こされた県民の「国外・県外」の期待によって、持説だった辺野古容認論を撤回せざるをえなくなっていたのです。
それをこのウスラが撤回したからといって簡単に元に戻るわけにもいかず、後に元の容認論に戻したときにはそのために政治生命を断たれかけたのですから、罪が深い。

日米同盟はボロボロ。沖縄県の政治は大混乱。
この日米同盟の亀裂によって、民主党が政権にいる間、米国は一切の重要な情報を日本に手渡さなくなったと言われています。
まぁハト氏はそんなこと知ったこっちゃないでしょうが、いかに当人に認知能力が欠落していたとしても、立憲にはかつての政権党の後継としてしっかりと思い出していただかねばなりません。

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日経

さて菅首相は、安倍政権が政権奪還した直後の最初の日米会談を見ています。その時の情景が残っています。

「首相が沖縄の基地負担軽減にのめり込んだきっかけは、第2次安倍晋三政権発足直後の平成25年2月に行われた初の日米首脳会談だった。米側はこの場で3つの要求を行ったが、そのうちの1つが米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設に向けた日本政府による県に対しての埋め立て申請書提出だった。
米政府は申請書の提出をわざわざ重要課題に位置付けた。首相は報告を聞き、日米関係が民主党政権時代にいかに傷ついたかを痛感。以降、辺野古移設実現に邁進(まいしん)し、25年12月には埋め立て承認を取り付けた」(産経9月23日)
https://news.yahoo.co.jp/articles/65fb3b53c05916315774cf8af69d578aed881589

このように米国は安倍氏が登場するとまっ先に日本に要求したことは、この普天間移設に関する県への埋立申請書提出でした。
米政府は、安倍政権が口約束ではなく本気で移設に取り組むのか、文書で見せろ、と言っているわけです。
逆にいえば、いかにそれまでの3年半の間、米国が日本を信じていなかったのかがわかります。

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産経

普天間移設問題はただの国内問題ではなく国際問題だということを自覚した安倍氏は、政権ナンバー2の菅官房長官を張りつきの特使として翁長氏に派遣します。
その時の菅氏のエピソードが伝わっています。
菅氏は酒は飲めず、カラオケも苦手という政治家らしからぬ人柄でしたが、いまにいたるもただ一回カラオケマイクを握ったのが、翁長氏との一回こっきりだったようです。

「26年11月の知事選で辺野古移設反対を掲げた翁長雄志(おなが・たけし)前知事が当選しても首相は執念を見せた。28年10月に米軍北部訓練場(同県東村など)約4千ヘクタールの返還にめどが立ったと伝え、この時は翁長氏も「歓迎する」と評価した。翁長氏にカラオケに誘われると、苦手なマイクを握り「さざんかの宿」を歌った。官房長官時代にカラオケを歌ったのはこの時だけだったと首相は周囲に明かしている」(産経前掲)

菅氏は必ず沖縄と大事な折衝をするときにはお土産を持っていきますが、翁長知事誕生の時の顔合わせで持っていった時の「お土産」は北部訓練場の広大な米軍用地の返還のめどがついたということでした。
リンク論、当たり前です、そんなこと。

そして翁長氏からカラオケに誘われると、生まれて始めて「さざんかの宿」を歌ったそうです。
このふたりは法政出身で同時期にキャンパスにいたはずですが、たぶん気が合ったのではないでしょうか。

そしてそれ以後も、菅氏は沖縄県の基地負担軽減を地道にこつこつとやり続けます。
全基地撤去なんて大言壮語は簡単ですが、ひとつひとつ細かい事務を詰めていき日米交渉の指揮を取ったのがこの人物でした。

従来から沖縄利権を握っていた旧竹下派は、普天間移設問題でもっいとも深入りした派閥でしたが、見返りに沖縄利権を漁ったと言われています。
旧竹下派の小澤氏など、宜野座に豪華な別荘を構えています。

菅氏はといえば、沖縄現地からいぶかしがられるほど潔癖にそれを拒否します。

「辺野古移設の陣頭指揮を執った首相は、移設反対派から敵視される一方、辺野古移設を容認する政財界関係者からも「菅さんは不思議な人だ」と評される。  沖縄財界関係者は「沖縄問題に取り組む政治家は利権や政治資金で見返りを求める人がほとんどだが、菅さんにはそれがない」と漏らす。首相をよく知る人物によると、沖縄県内の関係者から後援会設立を持ちかけられたことが過去10回ほどあったが、首相は断り続けたという。」(産経前掲)

こういう利権に転ばない人が沖縄が、新たに自分の後継の沖縄担当で選んだのが、河野太郎氏でした。
楽しみな人事です。

 

 

 

2020年9月23日 (水)

デジタル化を遅らせたのは旧民主党じゃなかったっけ

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立憲の枝野氏は菅政権のデジタル革命に対抗して自然エネルギー立国だそうです。

首相との対決姿勢も強調。新政権が掲げるデジタル化の推進について「世界的に遅れているところを追い付こうという話だ」と皮肉った」(時事前掲)

再生可能エネルギーについてはだいぶ書いてきましたので、明日にします。
そもそも次元が違うデジタル革命とエネルギー政策を同次元で並列していること自体がヘンですが、ご当人も「(デジタル化)が世界的に遅れていることに追いつこうとすることだ」なんて、意味不明。
追いついちゃいかんのですか、遅れたままがいい、これは面白いこと言うなぁ(笑)。

そう、立憲はデジタル化を進めちゃいかんと思っているのですよね。
思い出していただきたいのですが、この枝野氏が官房長官をやっていた民主党政権が誕生したきっかけは、「消えた年金」事件でした。
当時の日本はデフレの真っ最中で、成長がストップした状態でした。
株価は下落し続け、失業者は巷に溢れました。こんなイライラした世間の空気の中で突如炸裂したのが、この「消えた年金」爆弾だったわけです。

民主党は国民年金などの公的年金保険料の納付記録漏れが大量にあることを国会で追及し、長妻氏などは「ミスター年金」なんて称号を奉られて時のヒーローとなっていたほどです。

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消えた年金を追及する長妻議員

なんとその記入漏れはハンパではなく5千万件。
これだけの数の国民の納付が、納付者を特定できなくなったのですから、国民はデフレの怒りを年金消失に向けて、政権を民主党に与えてしまったのです。
当時の民主党の選挙チラシが残っていますが、消えた年金一色。民主党が政権をとれば年金は安全・安心だと主張しました。

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民主党選挙チラシ 年金を受け取りたい人は民主党 | 民主党の政策

ところが、この「消えた年印」の全貌が徐々に明らかになってきます。
1997年に公的年金加入者に「基礎年金番号」を割り振って、コンピューターで一元化管理する計画ができました。
いまでいう「デジタル革命」です。
ところが、社会保険庁は典型的な自治労支配の職場だったから、たいへんなことになりました。 

彼ら社保庁自治労が言うことには、「コンピューター化は人員削減のための合理化攻撃だ」「人員が減らされて労働強化となる」と騒ぎ始めて、彼らが当局と団交して結ばせたのが、「1日の入力タッチは5千回まで」とか「45分働いたら15分休憩」などという覚書です。
スゴイね、私も零細企業の労組書記長やったことがありますが、民間でこんな労働協定はありえないですよ。

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上図はクリックすると大きくなります。

45分仕事したら15分休みだなんてペースで働いたら、丸々1日2時間も休憩がとれるというわけです。
昼食休憩1時間と合わせると、1日3時間仕事しないで賃金が貰える愚か者の楽園、それが当時の社保庁だったようです。
まぁ、5千タッチで入力止めるようでは、民間企業はそんな労働者は初めから雇いませんしね。
赤い貴族が支配した職場だったからできたことなのです。
自治労組合員でも真面目に働いている人のほうが大多数でしょうが、社保庁のような腐敗した職場のためにいまだに国民からは大きな誤解を受けているのは気の毒なことです。

後に「厚生労働白書」(2010年版)では、この社保庁について、個人情報の漏洩、不正な監修料の受け取り、不適切事務、無許可専従などの服務規程違反を暴露しています。
また2007年6月、総務省はこの年金記録問題発生の経緯、原因や責任の所在等について年金記録問題検証委員会で行政監査しています。
その中にはこのような記述があります。

「社会保険庁職員の多数派労働組合である自治労国費評議会(現・全国社会保険職員労働組合)が、昭和50年代(1975-1984年)前半のオンライン化計画などについて、人員削減につながるものであり、労務強化および中央集権化に反対との理由から強く抵抗をし、自分たちの労働環境維持のために偏りすぎた当局と職員団体の間で多数の覚書、確認事項等を結び、平成17年(2005年)の廃止まで存在していた。
また本庁から地方へ通達をする際に、そのような労働組合と事前協議をしなければならない慣習が存在した。こうした職員団体が業務運営に大きな影響を与え、ひいては、年金記録の適切な管理を阻害した一因
がある」

監査委員会は、この「消えた年金」の原因が他ならぬ社保庁労組による腐敗した職場慣行にあると指摘しているわけです。
そしてこの白書が言う「不適切事務」というのが、「消えた年金」の直接の原因です。
社保庁のお役人たちは、45分働いて15分休みながら、一に5千回しかキイボードに触らずにだらけきった仕事をし続けた当然の結果として、5千万件もの入力ミスをやらかしたのです。

政府はこれを知って2007年2月に社会保険庁改革関連法案を提出しましたが、これに社保庁自治労は「え、オレら職場で働かなきゃいけないのか。労働強化だ」とばかりに猛反発し、こともあろうにやったのが、5千万件もの消えた年金があるぞ、という「内部告発」でした。
こういうのを内部告発と呼んでいいものか迷うところです。
内部告発は、内部の腐敗を社会に訴えることで改革しようとするものですが、他ならぬ自分たち自身が5千万件の年金記録消失という損失を国民に与えているのですから、なんのこたぁない自作自演にすぎません。
しかもこれをお仲間の民主党ルートにリークしてしまい、それに例によってメディアが悪乗りしたものですから政権が揺らぐスキャンダルへと発展してしまいました。 

こんなものは正しく「官僚の自爆テロ」と呼んでやるべきでしょう。
後に出てくる、文科省前川元事務次官による、職務上知り得た文書を意図的に漏洩することで政権攻撃をする官僚自爆テロの原型です。
いまでも官僚は懲りるどころか、自分に有利な世論を作ろうと、記者たちに都合のいい情報をちょい出しして誘導しています。

結果はご承知のとおり、この社保庁自治労から情報をもらった民主党はここぞとばかりに下の民主党チラシのように「自民の下で年金が奪われる」と政権を追及し、自民党政権は崩壊しました。
政権の座についた鳩山氏は、これが「政権交代の原動力になった」と述べています。

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このようにデジタル化に強硬に反対し続け、消えた年金を作ったのは民主党支持労組の大所の自治労。そしてそこから情報をリークされて政権をちゃっかり得たのが旧民主党だったわけです。
結局この自爆テロの結果、民主党政権が誕生したたのはいいのですが、自爆テロリストらを待ち受けていた運命は悲惨で、世論の怒りを受けて社保庁は解体されて年金機構に改組され、その時に自治労からも多くの再就職拒否者が出ました。

年金にかぎらず、住基ネットやマイナンバーなどの遅れの原因を作ってきたのは、「国民総背番号制で監視社会となる」「首切り合理化反対」などと叫んで反対運動をしてきた立憲のお仲間たちのせいではなかったのでしょうか。
それを口をぬぐって、抵抗し続けた張本人らにいまさら「デジタル化が遅れている」なんて言われても困りますね。


 

※写真を差し替えました。ちょっとジャングル。

2020年9月22日 (火)

立憲民主、全野党共闘に邁進するんだそうです

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立憲民主は全野党共闘をやるようです。もうひとつの公約めいたことは「自然エネルギー立国」だそうですが、明日に回します。
いずれもそんなもんやったらどうなるか知りませんよ。

「野党共闘に関しては、先の首相指名選挙で共産、国民民主、社民各党などが自身に投票したことに触れ、「幅広くできるだけ多くの皆さんと協力したい」と語った。
 衆院の小選挙区289のうち、立憲の候補者にめどが立っているのは200程度にとどまる。集会後、枝野氏は記者団に対し、次期衆院選では定数465の過半数に当たる233の小選挙区について「できれば立憲あるいは非常に近い仲間で擁立したい」との考えを示した」
(時事前掲)

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立憲民主党の枝野代表「デジタル化は後ろ向き」批判、本当は何を言った

自民党も立憲がこんな方角にふっ飛んでいる限り、枕を高くして解散ができようというものです。
もっとも野党のこんなていたらくを見ると、逆に菅さんは選挙はじっくり仕事を進めるだけ進めてから解散でも遅くはない、いっそオリンピック後だ、なんて考えているという節さえあるようです。
まぁどちらでもいいのですが、、枝野氏は全野党共闘だけが生き延びる唯一の手段だと勘違いしているようで、困ったもんです。
いえ、困っているのは私ではなく、立憲の大スポンサーであらせられる「連合」の神津会長です。

連合は、共産党まで入れた全野党共闘に真っ正面から反対で、再三再四、立憲に共産党排除を求めてきましたが、ゼンヤトーで脳みそが硬化してしまった枝野氏は聞く耳を持ちませんでした。

「連合は共産党を含む野党共闘には与(くみ)しない」――。
連合は9月17日の中央執行委員会で正式決定した「次期衆院選に向けた基本方針」に、こう明記し、旧立憲民主と旧国民民主の合流新党「立憲民主党」に対して、共産党との関係見直しを迫った」(FACTA オンライン9月18日)

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あまりメディアは報じませんでしたが、共産党が枝野氏に入れたというのは驚天動地とまではいわないが、けっこう画期的なことなのです。
上の写真の赤旗記事でも言っているように、共産党が他党に首班指名選挙で一票いれるというのは22年ぶりのことだそうです。
ありがたく思え、という小池さんの一念が行間に籠もっています。

今回、国民の玉木氏グループを除いて150人くらいは集まったようですが、ただの頭数にすぎないことは、安全保障政策や改憲といった重要案件でテンデンバラバラなことをみれば分かります。
かつての民主党政権は、政権を取るまで真剣に方針をすりあわせたことがなかったという嘘みたいな理由で身動きがとれなくなり、したがって政権を失うと、元通りにバラバラに分裂してディアスポラの荒野へと旅立っていってしまいました。
しかし、総選挙ともなると喉元過ぎればなんとやらで、失われた「民主党」の母なる地へと帰還し、再び祖国「民主党」を再興するのだ、そうです。
やれやれ。何回同じことをやったら気が済むのやら。

と、立憲をユダヤ民族の放浪にたとえてみましたが、大きく違うのは「失われた政権」を奪還するために、今回はゼンゼン違う異民族の共産党を連れてきてしまったことです。
イタリア版「オリーブの木」は、たしかに政党の枠をとっ払って巨大与党に挑戦するために構想されたものです。
しかしこの時に本家がやったのは、既存の政党とは別に選挙の届け出をする受け皿政党を作って、そこに各野党の政治家が個人参加したらどうか、というものでした。

実はいつでもどこの国でも、野党共闘をしようとすると必ず障害になるのは、共産党という革命党の存在です。
だってまるで異質。まるで異邦人。
そもそも日本共産党の使命は共産主義革命を日本で実現することなのです。
そのために他の社会民主主義政党とは違って、基本は民主主義を否定する集中制をとっていますから、党首選挙は行われずに17年ズッと志位ひとり独裁なんてことを平気でやってのけます。
分派なんて許さず、横の党内議論は原則禁止ですから、党内民主主義ゼロ。
下々の党員は上が決めたことを赤旗で知って、それを忠実に実行するだけの手足にすぎません。
このへんを極端にしたのが北朝鮮の主体思想です。
政策的には、自民党がやっていることは、パブロフの犬よろしく全部条件反射で反対。なにがなんでもダメ。妥協なし。

たとえば辺野古移設なら、他の候補地を探すのもダメ、既存の基地内に移設するのもダメ。
だって「いかなる移設も反対・新基地阻止」だからで、これでは解決しようがないじゃありませんか。
しかし闘争を続けることが、革命党の生きる道ですから、一回共産党に主導権を握られた紛争は、はてしもない泥沼に首まで浸ることになります。
そりゃ共産党は一生闘争をやれるので満足でしょうが、現実的にこれで政権運営なんかできるはずもありません。

今回、共産党が狙っているのは、選挙運動を通じて野党連合の主導権を掌握してしまうことです。


「立憲民主党は7つの選挙区、国民民主党は6つの選挙区、共産党は1つの選挙区で公認候補を擁立する方針で、残りの18の選挙区では、野党側の候補者が無所属での立候補を予定している。
与党側を利することになる「共倒れ」を避け、「野党勢力の最大化」を図るのが狙いだ」(NHK政治マガジン2019年7月3日)

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NHK

これらの野党候補統一区において共産党の組織票は大きなウェイトを占めます。
なぜなら共産党は関西都市部、高知県を中心にして強い支持基盤があり、全国にまんべんなく支部を構えています。

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共産党の勢力分布を初公開・市区町村別に比例得票率を地図化(2017年 ...

「共産党は高知県と京都府が代表的な地盤です。第41回衆院選では京都3区で寺前巌氏、高知1区で山原健二郎氏と、小選挙区での当選者を輩出していました。また、長野県や沖縄県でも得票率が高い自治体が多く見られますね。中選挙区時代は大阪や東京でも多くの議席を有しており、都市部で強い傾向もうかがえます。広く組織を持っているだけあって、全国的に隙のない票の取り方です」(上グラフと同じ)

つまり共産党は、全国どの地域においても一定数の支持層が存在し、彼らは立憲支持層とは違って浮気はしない鉄板の支持層だということです。
ですから共産党の指示どおり忠実に統一候補に入れるし、逆に一回入れるなという指示が飛んだ場合、共産党は一瞬にして敵に変わるわけです。
票読みが出来る代わりに、共産党の意志に反すれば敵に変わるということですから、さぁ大変だ。

これって労働組合以外に鉄板の支持層を持たない立憲の候補者の大部分にとって、そうとうにコワイことなのです。
立憲は哀しいことに、労組だけが頼りになる組織票です。
事務所も労組事務所に置かせてもらい、運動員も労組専従、選挙資金も労組持ち、こんな候補者は立憲に掃いて捨てるほどいます。
まぁ、こういう体質ですから、合流新党に行く行かないは、彼ら議員が決めるのではなく、労組が決めてしまうのです。
よく立憲は市民の力で、なんて言っていますが、実際は労組の意志ですべて運んでしまうようです。

そんな彼らにとって、共産党の組織票ほど心強いものはないはずですが、ここでとんでもないことが起きました。
立憲の最大ノスポンサーであった「連合」が、共産党を全野党共闘に入れたことに激怒したからです。

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排除”の悪夢ふたたび 連合・神津会長による玉木イジメで露呈した合流

神津会長はいたくお怒りのご様子です。

「連合は共産党を含む野党共闘には与(くみ)しない」――。
連合は9月17日の中央執行委員会で正式決定した「次期衆院選に向けた基本方針」に、こう明記し、旧立憲民主と旧国民民主の合流新党「立憲民主党」に対して、共産党との関係見直しを迫った。
紆余曲折を経た合流協議の過程で、連合の神津里季生会長が最も重視したのは「合流新党と共産党の距離感」(連合幹部)だった。神津連合は自公政権に対峙する「大きな塊」をつくるため、攻めの布石を打ち続ける構えだ」(FACTA2020年9月18日)

国民民主の玉木代表に神津会長が迫っていたたとはただひとつ。合流はしても共産党排除を貫徹しろ、でした。
「連合は1989年の設立以前から、共産党系労組と激しく対立してきた経緯があり、8月末に旧立憲民主・旧国民民主両党との間で合意した共有理念にも「左右の全体主義の排除」というキーワードが盛り込まれていた。ところが、排除の対象である「左右の全体主義」とは「何を指すのかわからない」との批判を受け、17日に決定した基本方針には「共産党を含む野党共闘には与(くみ)しない」と書き込むことになった。「共産党の排除」こそが共有理念と、明示したに等しい」(FACTA前掲)
「左右の全体主義」とは右はよくわかりませんが、左は共産党を指すことは明らかです。
ところがこの約束が反故にされました。
「新」立憲の党首である枝野氏が、共産党に首班指名要請をしてしまったからです。
共産党から頭を下げて野党共闘に入れて欲しいと言ったのではなく、立憲から土下座して要請してしまったのですから、仮に政権交代なんぞしてしまったら共産党を閣内に入れることになるのでしょうな。バカですか。
でも大丈夫、立憲の支持率は下図のようなかんじで、長期低迷ですから、まちがっても政権交代してしまう可能性などゼロだ、くらいは自分でも判っているでしょうからね。
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読売
長妻さんなんか、せめて3分の1くらいはとりたいなんて言ってましたが、支持率が10%を超えたのは去年の参院選直後の一瞬だけ。
しかしその支持率は長続きせず、その翌月からは7%、2か月後の9月には5%、以降は5~7%あたりでうろうすして、いまは5%き大台も切って直近の調査ではとうとう4%となってしまいました。
こんな状態では、政権など望みようもなく、したがって共産党を閣内に入れる入れないなんて、机上の空論にすぎないのです。 
とまれそこで連合は産業別労働組合の組織内議員9名、つまり身内には「新」立憲に行くことはまかりならぬと命じたわけです。
「今回の合流協議では連合傘下の民間企業系の産業別労働組合(産別)のうち、旧国民民主を支援してきた6産別(UAゼンセン、自動車総連、電機連合、JAM、電力総連、基幹労連)が合流新党には加わらず、このうち電力総連と電機連合の出身議員4人が新たに結成された国民民主党に参加した。
この間、6産別首脳は神津氏や相原康伸事務局長と水面下で会談を重ねたが、「現場で選挙活動を担う組合員の共産党アレルギーが根強い」(産別幹部)ことを理由に、組織内議員の合流に慎重姿勢を貫き、連合との溝を深めた」(FACTA前掲)

ややっこしことに、連合総体は新立憲を支援する事にしながら、その傘下の産業別組合という旧民社党系は新国民を支持するという二重仕立て。
立憲も新と旧、国民も新と旧に別れ、そのうえ連合は分裂選挙なんですから、そりゃ産経ならずとも「不透明」なのはあたりまえです。

「連合総体は立民の支援を決めたが、傘下の産業別労働組合の一部は旧国民の議員らが結成した新「国民民主党」を支援しており、これまでのような支援を受けられるか不透明な部分も残る」(産経9月22日)

そもそも連合は、左翼政治闘争に奔走する総評左派とデカップリングするために作ったようなものです。
共産党を追い出し、旧社会党系と民社党系労組と中立系で作ったのが連合でした。
それをなにを今さら、ここになって大嫌いな共産党と手を組まにゃならんのか、これが連合の声です。
ここで合流を認めてしまっては、連合は共産党と選挙戦で手を組まねばならず、それは労組の現場に大きな混乱をもたらすと考えたのでしょう。
いみじくもかつて前原氏が言ってのけたように、「共産党と手を組むとシロアリに浸食されたようになる」というわけです。

このように親方連合から見離された「新」立憲の候補たちは、今までのように連合系労組の組織力・資金力をアテにならなくなりました。
唯一選挙区で組織力をもつのは共産党である以上、彼らは共産党に身も世もなくすがりつくことでしょう。
そりゃ今回の選挙で立憲に風が吹くなんてまったく考えられない以上、そうするしかないでしょうね。

共産党からすれば、昔ながらの「反ファッショ人民戦線戦術」のリバイバルです。
これからは目先の欲に飛びついてしまった立憲に対して、イヤなら選挙協力なんか考えなおそうかな、などと言いながらキリキリ舞いさせていくことでしょう。

菅さんは選挙のプロ中のプロですから、こんな野党連合の内実は完全にお見通しでしょうな。
選挙を引き延ばしてしまえば、せっかく無理して作ったガラス細工の全野党共闘にヒビが入ると読んでいるのかもしれません。

 

 

2020年9月21日 (月)

中国vs米国「エンティティリスト」戦争へ

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米中関係が急速に緊張しています。
9月19日 中国が「信頼できないエンティティリスト」を制定し即日施行しました。
昨年6月からやるぞやるぞと言っていたものが、一気に制定、即日施行です。
いかに今の中国がテンパっているかわかろうというものです。
中国は案外分かりやすい国で、こういう報復をすぐしてくるのは効いている証拠です。

いきなりの輸出入規制ですから、今週は中国に進出している企業はこの対応に追われることになるでしょう。

「中国、信頼欠く企業や国、個人「エンティティーリスト」の制裁対象に
中国政府は「エンティティーリスト」に掲載した信頼を欠く企業や国、団体、個人に対し、取引と投資、ビザ(査証)の制限を含む制裁を科す方針を明らかにした。中国商務省が19日にガイドライン(指針)をウェブサイトで公表した。  商務省によれば、中国の主権と国家安全保障、発展、ビジネス上の利益に対する脅威あるいは潜在的脅威になるか、中国の企業や団体、個人を差別したり、害を及ぼしたりするエンティティーの名前がリストに掲載される。
これらのエンティティーを対象に投資の禁止や仕事および在留許可の制限、場合よって制裁金を科す新たな政策措置が19日から即日実施される。ただ、掲載予定のエンティティーには行動を修正する一定の猶予期間が与えられる可能性がある」(ブルームバーク9月19日)https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-09-19/QGW706DWLU8R01?srnd=cojp-v2

スゴイですね。
「中国の主権と国家安全保障、発展、ビジネス上の利益に対する脅威あるいは潜在的脅威になるか、中国の企業や団体、個人を差別したり、害を及ぼしたりするエンティティーの名前がリストに掲載」され、中国にとって「脅威」と見なされれば外国企業・個人に対して在留許可をいつでも取消したり、取引と投資を停止させることができる、という内容です。

このエンティティリスト(EL)とは「懸念顧客リスト」と訳され、このようなものです。

「懸念顧客者リスト[Lists of Parties of Concern] 以下のリストのうちの1つに掲載されている企業、団体又は個人が、輸出取引において可能性のある当事者と合致するように見える場合、輸出取引を進める前に更なる相当な注意が必要とされます 」
(■MOFCOM Order No. 4 of 2020 on Provisions on the Unreliable Entity List)
https://bit.ly/35TePOC

中国商務省がエンティティリストの対象として上げた項目が「安全保障」「発展」「ビジネス上の脅威」「中国企業への差別」ですから、なんのこたぁない全部じゃないですか。
ちょっと中国政府の政策を批判すれば「安全保障上の脅威」、メチャクチャな中国の商慣習に抗議しようもんなら「ビジネス利益の脅威」、米国のエンティティリスト(後述)に沿った輸出規制に協力しようもんなら「中国企業への差別」と見なされ、即座に中国市場から追放です。
「一定の猶予期間を置くことができる」と温情風な言い方もしていますが、それは猶予期間の間、「お前判っているだろうな、膝をついて服従を誓え」ということにすぎません。
日本企業も早急に、サプライチェーンから中国を切断しないととんでもないことになります。

中国が準備している輸出管理強化は3つあります。今回は②です。
   ①中国輸出管理法
   ②信頼できないエンティティリスト
   ③国家技術安全管理リスト

なお大枠としては、①の「中国輸出管理法」があります。

【改訂版】中国輸出管理法草案第2次案(CISTEC仮訳)(2020/1/7。1/14改 訂。7/6改訂

「総体国家安全観とは、人民の安全を主目的とし、政治の安全を根本とし、経済の安全を基礎とし、軍事・文化・社会の安全を保証とし、世界の安全の促進に依拠して中国の特色ある国家安全の道を歩みだすことをいい、具体的な安全保障の対象として、
①政治の安全、②国土の安全、③軍事の安全、④経済の安全、⑤文化の安全、⑥社会の安全、⑦科学技術の安全、⑧情報の安全、⑨生態の安全、⑩資源の安全、⑪核の安全の 11 項目が挙げられている」
(安全保障貿易情報センターCISTEC2017年10月)

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新潮

中国輸出管理法の最大目的に、「国家の安全」と「政治の安定」が掲げられていますが、これは自由主義諸国のそれとは意味が異なっていますのでご注意下さい。
全体主義国家においての「国家」とは共産党支配を指し、「政治の安定」とは共産党に対する批判を許さないという意味です。
日米のような自由主義社会においては、トランプや安倍氏に対する批判はなにを言おうとヘイトになりませんが(それはそれで問題ですが)、中国においては
いかなる体制批判も許容されません。
共産党を批判することは、「政治の安定」を破壊し、「国家の安全」を脅かすとされてしまいます。

香港国案法の元となった国家安全法と同じ文言が登場します。この部分です。

●国家安全法(2015 年 7 月 1 日施行)
第2条「国家の安全とは、国家の政権・主権・統一と領土の保全、人民の福祉、経済社会の持続可能な発展と国家のその他の重大な利益が相対的に危険のない、国内外から脅威を受けない状態にあること、および持続的に安全な状態を保障する能力を指す」(第 2 条)』」

●香港国安法第1条
一国二制度」、「港人治港」、「香港人が高度の自治を行使する」という原則を揺るぎなく完全かつ正確に実行し、国家利益を守るために、 香港特別行政区に関する国家分裂、国家政権転覆、組織的テロ、外国・域外勢力との結託による国家安全危害などの犯罪を予防し制止し、懲罰し(以下略)

国家安全法・香港国安法そして輸出管理法は、口を揃えて「国家分裂を許さない」ことが、これらの法を作った理念だと言っています。
これはさらに中国共産党が、ポンペオ演説を受けて言った台詞、「米国は共産党と人民を分裂させようと企んでいる」という言葉に符号します。

米国は既にウィグルへの人権弾圧を糾弾し、それに関わった企業への輸出規制を実施しています。

「米国商務省は26日の別のプレスリリースで、中国公安部が所管する法科学研究所や企業など計9組織体もELに追加すると明らかにした。これら組織体は、新疆ウイグル自治区での人権抑圧活動や強制労働、先端技術による自治区の監視に関して、中国政府に加担したとされる。BISは2019年10月にも、同自治区の公安当局や民間企業などを同様の理由でELに加えている。
米下院外交委員会で少数党筆頭委員を務めるマイケル・マコール議員(共和党、テキサス州選出)は「これら(中国共産党の支配下にある)団体は少数民族の権利を侵害し、そこから利益を得ている」として、ELへの追加を支持するコメントを寄せている。BISは5月15日にEARを変更し、半導体などを対象に華為技術(ファーウェイ)とその関連企業への輸出管理を強化しているが、今回、新疆ウイグル自治区での人権侵害を理由にELに追加された9企業・団体もその対象に含まれることになるとみられる」(JETRO ビジネス短信5月27日)

さらに香港国安法を受けて、ポンペオはこう述べています。

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産経 

「中国との闇雲な関与の古い方法論は失敗した。我々はそうした政策を継続してはならない。戻ってはならない。自由世界はこの新たな圧政に勝利しなくてはならない」
「中国共産党から我々の自由を守ることは現代の使命だ。米国は建国の理念により、それを導く申し分のない立場にある。ニクソンは1967年に「中国が変わらなければ、世界は安全にはならない」と記した。危険は明確だ。自由世界は対処しなければならない。過去に戻ることは決してできない」 (日経7月24日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61896140U0A720C2000000/

これが中国から見れば「国家分裂・国家政府転覆」と写り、米国にとっては「全体主義との戦い」となるわけです。
既に出されている米国側の輸出規制もあたっておきましょう。

「中国の北京字節跳動科技(バイトダンス)傘下の短編動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」および対話アプリ「微信(ウィーチャット)」の新規ダウンロードと更新を禁止する米商務省の発表が行われた直後に中国のエンティティーリスト指針が公表された」(ブルームバーク前掲)

5月25日、米国商務省は中国への輸出規制強化として、中国系企業24社を輸出管理規則(EAR)に基づいて、「懸念顧客リスト」(エンティティリスト)に掲載しました。

以後、これらの企業は輸出規制の対象となります。

「米商務省は「懸念顧客リスト」(EL)への追加理由として、対象となった企業・団体が中国で大量破壊兵器や軍事利用の恐れのある製品の調達を支援している懸念が高いためとしている。
ウィルバー・ロス商務長官は「この新たなELへの追加は、米国の国益を損ねる活動に米国の製品・技術の使用を未然に防ぐという取り組みを実践するもの」と述べた。ELには、政権が「米国の国家安全保障または外交政策上の利益に反する行為をした」と判断した団体や個人が掲載され、それらへ米国製品(物品・ソフトウエア・技術)を輸出・再輸出・みなし輸出する際は事前許可が必要となる」(ブルームバーグ5月25日)

中国は、香港国家安全維持法において、香港の統治を阻害する人物や企業は国家分裂を企む者として制裁の対象となる、と世界に宣言しました。
同時に台湾への圧力を高め、台湾系企業や台湾へ輸出をしている外国企業もその制裁とするとしています。
同様に、米政府がウイグルやチベットへの人権弾圧に加担した企業に制裁を課すとしましたが、これに協力した外国企業に対して今度は中国が制裁対象とするというわけです。

このようなことになると、中国に進出している外国企業は中国と関わり続けようとするなら、米国政府か中国政府いずれかの制裁対象となってしまうことになります。
いまでも中国市場にさらなる投資をする予定の日本の大企業もあるやに聞きますが、衷心からお止めになることをおすすめします。
弾が飛び交う戦場の真ん中、ボクは無関係です、といっても通用しないのです。
最悪の場合、両国から撃たれますよ。

 

2020年9月20日 (日)

日曜写真館 こわいような静けさです

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水鳥の声だけがわずかに聞えます。

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こわいほどの静けさです。

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夜と昼の境。太陽が登ってこようとするこの時間が私は好きです。、

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2020年9月19日 (土)

菅氏は「大統領的首相」をめざす

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日本の首相は、その気になればそうとうな力を持てるポジションです。
このところよく聞くのは、「日本にも大統領制が欲しい」という声です。
まぁむりでしょうな。だってそれやっちゃうと国家の人格的統合の象徴である「元首」になってしまいますから、天皇と被ってしまいます。
ですから、大統領制の国で国王を戴く国はないはずです。
わが国の国柄からみれば、大統領制はありえません。

たぶん大統領制を望む人は強いリーダーシップを持つ指導者が欲しいということでしょう。
または先日の自民党総裁選のように、メディアが流していた「国民の声を総裁選に反映させろ」といった主張なのかもしれません。
これはただの人気投票で首相を選べというようなもので、おいおいこれやっちゃうと隣の国みたいな衆愚政治になっちゃいますぜ。
その時の空気で選ばれた指導者に好き放題に独裁させると、亡国の淵に直滑降だという見本が、すぐそばにあるじゃないですか。
そう考えると、わが国の天皇を中心にする伝統的国柄と議院内閣制は、あんがい日本に適した指導者選びの方法なのです。

実はこういう声はなにか大厄があるたびに繰り返されました。
今回なら、新型コロナ対策においてわかった、てんでんばらばらな地方自治体対策のあり方、あるいは、強力な介入権限を持たない国のスタンス、そんなことが随所に現れました。
政府の決断も一律10万円給付のように、せっかくいい政策なのに艶消しになるもたつきを見せました。

台湾は世界でも稀な新型コロナ制圧に成功した国ですが、これは大統領(総統)に強い権限が持たされているからです。
政府が初動から強い民権の制限を行い、違反者にはぎょっとするような罰金をかけるというやり方は、うらやましくはありますが、いまの日本にはむりです。
大統領制の元祖の米国ですら、民主党系州政府や市は国の方針にことごとく逆らい、CDCまでいうことを聞かず、米国は国としてのまとまった防疫が困難になってしまったほどです。

台湾で可能だったのは韓国と一緒で、常に臨戦態勢を要求される分裂国家であるためです。
速やかに臨戦態勢に移行できるような体制を平時からもっていて、権限は大統領に集中できるようになっているから、大統領制はトップダウンでガンガン物事が進むというふうに見えるようです。(現実はそんな簡単ではありませんから念のため)

一方、わが国は緊急事態法が出来た段階で、私はこれは「国のお願い」にすぎない以上、国は調整役に回るつもりだと思いましたが、やはりそのようなことになってしました。
だから国家的危機の場合、一時的に民権を制限可能な国家緊急事態法が必要なのですが、そっちへ議論がいくと自民改憲案に重なってしまうためか、メディアによって首相公選させろといった人畜無害な方向に誘導されてしまいました。やれやれ。

ただし、思うほどわが国の首相制度はひ弱ではありません。
大統領制論者だった中曽根康弘元首相の引退後の述懐が残っています。
もっとも中曽根氏は天皇を敬うこころを堅持した人だったために、大統領制は日本には無理だと判断していたようです。
聞き取りは小川和久氏です。なかなか面白いので紹介させていただきます。

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中曽根康弘元首相の名言5選「老兵は死なず消え去りもしない」 | Forbes ...

 「日本国憲法においては、内閣総理大臣に政治的権限が集中しているのです。
議会の承認なしに国務大臣を罷免する権限を持っているし、最高裁の裁判官の指名まで閣議了解を経て行えます。
同時に自衛隊の最高司令官だし、議会をコントロールできる多数党の総裁でもある。
これは、地上最強とされるアメリカの大統領より大きな権力なんです。
それを首相に行わせようというのが憲法の意味するところなんですが、いままでの総理大臣は明治憲法時代の慣習から抜けきれずにきました。
私が『日本の総理大臣は大統領的首相だ』といい、『戦後政治の総決算』といい続けてきたのは、要するに古くさい吉田政治からの脱却が日本にとって必要だと思ったからです」(『NEWSを疑え!』第894号(2020年9月14日特別号)

ここで中曽根氏が言っている首相権限の強さは、要約するとこのようなことです。

①国務大臣の罷免権
②最高裁判事・長官の指名権
③自衛隊の最高司令官(軍の指揮権)
④議会多数派の党首(解散権)

なるほどねぇ。言われてみれば確かに。
米国大統領と日本の首相を比較してみましょうか。

①の大臣指名権は米国大統領も持っていますが、なんと米国はいちいち議会承認が必要です。
たとえばそろそろ着任するはずの駐日大使である、ワインシュスイン氏など延々と議会承認待ちをさせられて、今年初めから決まっていたにもかかわらず、公聴会での承認が出たのはついこのあいだのことです。
一事が万事で、大統領が議会からの承認を得るために閣僚を議会がオーケーというようなタイプにするという弊害すら生まれました。
トランプが初期にやたら人事を入れ換えたのは、初期の人事が議会多数派の共和党本流から押しつけられたものだったためという説もあります。
日本の首相など、極端にいえば首相の一存で今日クビにして、明日から別の人物を閣僚に任命することも可能です。もちろん、国会承認は不要です。

②最高裁の人事権。これも同じで、大統領は指名する権限はありますが、上院の「助言と同意」が必要です。
なんだここでも議会の承認がいるのです。解任する権限する権限もありません。
日本も同じで、最高裁判事・長官の指名権はありますが、罷免権は三権分立の建前から持たされていません。

③軍の最高指揮権が日本は首相にあるのは米国大統領と同じです。
ただし、わが国の自衛隊はなんと「軍隊」ではないそうですが。(じゃあなんなんだ)
あくまでこれは責任の所在を言っているだけのことで、首相には部隊の編成権や指揮権はありません。
といっても、首相になってから「オレ、自衛隊の最高指揮官なんだってさぁ」と驚いたバカヤローもいましたけどね(論外)。

④議会多数派の党首であること。これは大きい。
今の米国を見ると、議会上院は共和党ですが、下院多数派は民主党というねじれを起こしているために、議会にイチャモンつけまくられているようです。
その点、日本にも参院で野党が強かった時期には議会運営に苦しみましたが、基本は多数党の党首であることの意味は大きいと言えます。
よく親中派の二階氏が幹事長だから、菅内閣も親中派だなんて短絡したことを言う人がいますが、幹事長の罷免権は総裁たる首相が握っています。
二階氏が独断で親中外交ができるような甘いものではありません。
また多数党を握っているために、いくら参院で野党に多数を取られて否決されても、衆院に戻して再可決して通すことができます。
こういう最後の手段が残されているためか、与党は不必要なばかりに野党に気配りして質問時間を多めに与えおり、そのほうの弊害がでているほどです。
野党はモリカケ・サクラだけしか興味がないようで、こんなことに質問時間を与えたのは、時間の無駄というものです。

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安倍首相「中曽根元首相は我が国の国際的地位を大きく向上させた ...   毎日

このように日本国首相はその気になって憲法に保証された権限をフルに行使すれば、考えようによっては米国大統領を凌ぐ権限ホルダーとなり得るわけてす。
これを中曽根氏から伝授されたのが、安倍氏でした。

さて安倍氏の愛弟子となることを期待されている菅首相ですが、その可能性は高いと思います。
菅氏は安倍氏がこのような長期政権になった立役者のひとりです。
安倍氏が外遊に世界を駆けめぐって国際的プレイヤーとなれたのも、国を任せられる優秀な官房長官がいたからです。
ミサイルを撃たれても、午前5時にすべての手当てを終わって記者会見に臨めるのは、官邸に住み込んで家に帰らないような超人的官房長官がいたかからです。

菅氏が掲げている行政改革とは、日本の官のあり方を根本から変えようとするものです。
菅氏は、官僚は道具のように手足として有効に使うべしと考えている政治家です。
おそらく歴代の首相の中でも、その傾向はもっとも強いはずで、その点は安倍氏以上かもしれません。
したがって菅氏は、内閣人事局の機能をフルに使って、霞が関に自らの意志を汲んだ人材を送り込む一方、命令を拒否するような官僚には更迭を辞さず、といった対応で官僚対応するはずです。

「菅義偉(すが・よしひで)政権は外交政策でも安倍晋三政権の路線継承を掲げるが、政策決定のあり方は変わりそうだ。中国の巨大経済圏構想「一帯一路」への協力に慎重だった外務省に対し、対中協力を主導した経済産業省出身の官邸官僚が退場したからだ。
これにより外務省が重きをなす外交に戻るとみられるが、自民党では総裁選後、中国に配慮を求める二階俊博幹事長の影響力が強まっており、対中外交に微妙な影を落としそうだ。 菅内閣が発足した16日、今井尚哉、長谷川栄一の両首相補佐官が退任した。今井氏は安倍前首相の側近として一帯一路への協力のほか、2島先行返還を念頭に置いたロシアとの北方領土交渉を主導。長谷川氏はこれを後押しする日露経済協力を取り仕切った。
2人は経産省出身で、元外務事務次官の谷内正太郎・前国家安全保障局長ら外務省関係者と意見が衝突することもあった。特に一帯一路への協力をてこにした対中接近は外務省に不満が根強く、同省からは「昔は『外務省は媚中派』といわれたが、今や(経産省との対比で)対中強硬派になってしまった」と嘆息する声も漏れていた 」(産経9月18日)

この産経の記事では、二階氏が「対中外交に影を落す」としながらも、一方で安倍内閣時代に一帯一路を進めようとした経済産業省出身の今井補佐官が退任したと一見矛盾したことを書いています。
しかし二階氏が再び媚中外交を展開することは不可能でしょう。というのは、菅氏はこう明言しているからです。

「当の首相も、安倍政権では中国との経済関係を重視する立場をとってきた。12日の討論会では、石破茂元幹事長が北大西洋条約機構(NATO)に範をとって提唱する多国間同盟「アジア版NATO」に反対する理由として「どうしても反中包囲網にならざるを得ない」と語っている」(産経前掲)

この石破氏の提唱するアジア版NATOはかねてからの主張で、まだ安倍内閣にいた頃の石破壊しにその模索を承認したことがあります。
ただし彼の主張はただ既存のANZASとASEANと日米同盟を横に接着しただけのことで、目的が曖昧です。

「アジア版NATOは石破氏が提唱する構想。菅氏から狙いを聞かれた石破氏は「中国やロシアを排しているわけではない」とし、自由や法の支配など価値観を共有する国々のネットワークだと説明した」(産経9月12日)

あ~あ、こうだからゲル氏はイヤになる。中国、ロシアを排除しないNATOってなんじゃらほい。
まるでかつての社会党の環日本海安保構想のように、中国ロシア、北朝鮮まで入れた安全保障体制なんかありえません。(笑)
菅氏は二階氏を多党内ガバメントに限定させて使いつつ、もし中国と何らかの接触をする場合のパイプに残しておきたいのでしょう。

ちなみに、かつての民主党はあれだけ恐中路線を走りながら、まったく中国とのパイプをもちませんでした。
そのために中国船長衝突事件が起きると、中国がどう出るのかまったくつかめず、篠原常一郎氏に中国との水面下での打診を要請したそうです。
よく親中派、反中派と簡単に二分法してわかった気になる人がいますが、中国包囲網をじっくり作りつつパイプは維持し続けるのが、為政者としての責任なのです。

ところでかりにいくら日本の首相制が大統領制より強い権限があったとしても、それは属人的なものにすぎません。
首相官邸に座る人間がハトカンならばあのようにしかなりませんでしたし、そのポジションの使い方を知悉している人が座れば威力を発揮するだけという事にすぎません。

菅氏は、官房長官のイメージが強烈なために調整役にみえるかも知れませんが、実は中曽根・安倍を凌ぐ「大統領的首相」となるかもしれません。

 

 

2020年9月18日 (金)

見えてきた菅政権に対するメディアの誘導

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菅内閣がナニも始めていないのに、組閣するかしないかのうちに文春砲だそうです。
まだ読んでいないので(というか読む気になれませんが)、菅さんのパーティに出た企業がGOTO企業を受註したひとつに入っていたのいなかったのというお話のようです。ショボイな。

はいはい、またまた出てきましたね、モリカケで散々日本の政治を空転させてもらった「首相が知人に便宜を計った」スタイルの早速の登場です。
たぶん今日あたり加藤官房長官は、イソコ女史に襲撃されることでしょう。お手並み拝見。このていどを撃ち返せないと菅氏の後任は勤まりませんよ。
野党のお歴々は国会が始まるやいなや、週刊誌片手の追及を開始するんでしょうな。

追及チームなんかイソコとイソイソと作っちゃってね。全員揃いのプラカード持ってデモでもしますか。あ~あ、論評するきにもなれない。
せめて新内閣が発足したんですから、お品書きくらい刷り直したらいかがでしょうか。ボキャ貧にもほどがある。
ひとこと、くだらねぇ。いつまでもやってろ、と思いますね。

メディアの印象誘導は度が過ぎています。
ちょっと前までは「国民の人気トップの石破氏が総裁に選ばれないのは、自民党が民主的に総裁を選んでいないからだ」とか、「派閥談合でスガを首相にしたんだ」とか、はたまた「スガは気に食わない官僚を左遷させると言った」とか毎日やっていましたね。
菅さんが「行政改革をした後に消費増税をお願いするかもしれない」なんて言おうもんてら、もう大騒ぎ。
あれ、メディアって財政再建論者じゃなかったんだっけ、まぁいいか。
その翌日に「10年間はしない」と言っても、鎮火するどころか藤井・三橋党から「ほら見ろ、やはり財務省ポチ」だと言われる始末です。

こうして見てくると、どっちの方向にメディアが世論を誘導したいのかがよく判ってしまいます。
ざっと今のところこんなところてす。

①モリカケ・スキャンダルの新バージョン再燃。
②自由に発言できない良心の官僚vs菅行革
④消費増税の菅vs消費減税勢力

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①の政権スキャンダルについては、なにもないところに火がつけられるという味を覚えたメディアは性懲りもなく仕掛けてくるでしょう。
モリカケで、「やっていないというなら無実を証明して見せろ」という悪魔の証明に市民権を与えてしまいましたから、手を変え品を変えてネチネチやることでしょう。
残念ですが、これは情弱に効くことは証明済みです。しょせん嘘ばかりですから、政権をノックアウトするほど力はないのですが、支持率がジワジワ低下していくことでしょう。
決定的証拠などなくていいのです。筋が立とうが立つまいが、「なんとなく怪しい」と思わせる空気を作れたら勝ったも同然。
実体なんかなくてもいいのです、だってただの「空気」だもん。
そしてワイドショー民は、「やはりアベの大番頭だから、支援者に利権配りまくってるに違いない」と妙な納得をしてまうというわけです。

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 前川元文科省事務次官

②は、そもそも選挙の洗礼を受けていない官僚が、国民の代表の政治家に指揮されてなにが問題なのかというだけのことです。
「国民の代表」はブン屋でもなければ、霞が関の官僚でもなく、選挙で選ばれた政治家なのです。そんなことは中学校の公民にだって書いてあります。
政府の命令を行政化するのが官僚な以上、命令を聞いてあまりに当然。
イヤなら別の部署に配置転換されて当然、それもイヤなら官僚を辞めて政治家にでもなってもらうしかありません。
そんなことは民間企業ならあたり前で、社長の業務命令に反した営業方針を立てたら、辞めるしかありません。
官僚だけがなにか特権でもあるのでしょうか。

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中井環境省事務次官 朝日

先だっても環境庁の中井事務次官がカーボン税をやる、だなんて言っていましたが、官僚に税金うんぬんを口にする権限など、政府は与えていないはずです。

環境省の中井徳太郎事務次官は22日、就任後初の記者会見で、二酸化炭素の排出量に応じて企業などに経済的負担を求めるカーボンプライシングについて、脱炭素社会の実現には「炭素税も含め有効だと本当に思っている」とし、前向きな姿勢を示した」(朝日7月222日)
https://www.asahi.com/articles/ASN7Q74NRN7QULBJ00G.html

あきれ果てた発言です。なにも続報がないところを見ると、小泉大臣はこれを許容してしまったようです。二重に驚きます。
税金についての権限は政治家です。官僚から増税するなんて、どの口がいえるのでしょうか。
こういうことまで官僚が口にしても、政治家がなにもいえない空気を作ったのは財務省です。
国家は官僚が作ってきた、官僚あっての国家、大臣はただのお客さんさ、こういう官尊体質はここが作り、官界に感染を拡げました。

というわけで、菅さんが「官僚が命令を聞かないら移動させる」と言ったことのどこが間違っているかわかりませんが、メディアに言わせるとファッショ政治だそうです(笑)。
いかにメディアが、既得権の上にあぐらをかいている官僚と同じ穴のムジナなのかよくわかります。
菅氏が掲げているIT化や行政の簡素化、規制緩和などは、真正面から官僚の抵抗にあうはずです。
安倍政権が獣医学部新設を規制緩和特区でやろうとしたところ、前川氏などの文科官僚に反対されたような構図が、またどこかで登場するはずです。

③は、菅氏は10年間やらないという言質を与えているわけで、しかもそれは②の規制緩和が終わったらという二重の前提つきで言ったことです。
規制緩和のめどが立ったら、景気動向をにらみつつ加熱気味なら増税もありえるということのどこがおかしいのか教えて欲しいものです。
税金は景気動向と無縁に絶対増税だというのもおかしな話ですが、逆に絶対減税だということもヘンなんなのですよ。要は塩梅、バランスです。

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日経

さて、この総裁選で消えた人ひとり出ました。誰かお判りですね。はい、石破茂氏です。
彼の政治生命は終わりました。
メディアから「国民人気トップ」だなんておだてられた石破さんは、せっせと政権批判をブチまくって、いままでかろうじてあった安保通・改憲硬派という資産を全部ドブに捨ててしまいました。
一件、地方票を集めたように見えますが、それも自分の地元を含めた人口の少ない地方だけのことです。
地方票は人口に関係なく、東京だろうが鳥取だろうが各県3票の一律票配分ですから、人口に合わせた票配分をすると、もっと菅氏と差がついたんじゃあないでしょうか。

メディアは持ち上げるだけ持ち上げて石破茂という政治家の政治生命を潰しておいて、もう知らん顔です。
石破氏は、細々と派閥仲間を集めて「虚心坦懐に改める。菅首相を全力で支えていく」なんて言っていますが、耳を傾ける自民党員はいるのでしょうか。
石破さん、ここまでやってしまったら、はっきり言って、あなたの居場所はもう自民党にはありません。
わずかの派閥も、既に一本釣りでひとりが閣僚入りしてしまったように、今後いっそう遠心力が働いていって見る影もなくなるはずです。
派閥は首相に押し上げたい仲間があることが原動力。首相候補がない派閥には存在価値がないのです。

皮肉ではなく、やや残念です。かつてのあなたの安保法制論議には聞くべきものもあったし、農業改革論も誰もやりたがらないことに先鞭をつけました。
あのまま行けば、人格には難ありで、自衛隊の現場からは嫌われ続けていたようですが、安保・農業に強い改憲原理派で通ったのです。
しかし妙な政治的野心があなたを狂わせてしまいました。
首相の椅子に座りたいという色気をメディアに売り込み過ぎました。
後はご承知のように、かつての政策通の資産を自分で破壊して回り、もう完全な党内野党と化していました。
最後の総裁選では「合区解消が改憲」なんて言う始末では、かつての改憲原理主義者はどこに消えたのでしょうか。
メディアに利用されるだけされたあげく、いまや弊履のようにポイです。
元自民党幹事長の胸に輝く銀の星を磨きながら、サンモニのご意見番にでもなるしか、私にはあなたの未来が見えません。

かくして、あなたの居場所は政界にはもうない。
野党ですら、自民総裁で破れた男を拾ってくれないでしょう。
郎党18人を率いてかつての小澤のように脱党するならともかく、派閥の身内からもは「絶対についていかてい」といわれちゃねぇ。
節操ない合流をしている野党からさえも、改憲論者のあなたには声もかけられないはずです。
なぜでしょうか。今の野党連合に共産党が加わったからです。

脱線しますが、共産党は首班指名で枝野氏に投票しました。
共産党が自党党首以外に投票することは、与党連立政権の公明党のような位置になると宣言したことを現しています。
自民党は選挙で勝つためには公明党と選挙協力せねばならないという悪しき構図をもっていたために、安保法制や改憲などでことごとく足を引っ張られ続けました。

リアルポリティックスの場において、公明が全部の選挙区に自民の対立候補を立てるといえば大変なことになりかねませんからね。
だから、常に公明の意志に逆らうわけにはいかなかったのです。
この公明の位置に共産党はなろうとしています。
小政党としてはこれほどうま味のあるポジションはありません。
労せずして多数与党に寄生することで、政権のうま味を堪能できるのですから。

共産党はこの野党連合の実質的事務局長的ポジションになるはずです。
選挙公約をすり合わせ、候補者を絞っていく段取りは、共産党が担います。
選挙互助会というのもおこがましい野合野党で、唯一鮮明に政策をもっているは共産党だけですから、共産党が反対する公約や候補は実現しません。

次の衆院選はこの共産党色に染め上げられた野党連合と、行政改革を掲げた菅政権との戦いになるでしょう。

 

 

2020年9月17日 (木)

長期保守政権だからできたこと

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菅政権が発足しました。
改めて安倍さん、ご苦労様でした。あなたを乗り越える首相が現れるのは想像すら出来ないほどです。
国際社会はその重要なキイプレイヤーを失いました。
甘利明氏は8月22日の自らのブログで、このように述べています。

「「シンゾーの意見は?」。首脳会議が紛糾し、ステートメントも出せなくなりそうな際、必ず交わされる言葉だ。トランプ米大統領とそれ以外の首脳はことごとく対立し、最後はいつもこの言葉になる。安倍(晋三)首相が言葉を選びつつ「…という方向では一致出来るのでは」と答えると、双方「シンゾーがそう言うなら」と収まる。安倍首相がいなければ首脳会議は空中分解しかねない。その存在感は戦後最大と言っても過言ではない。「安倍首相の方が良い」ではない。「安倍首相でなければ務まらない」のだ。次の3年間も安倍晋三総裁を先頭に世界と日本のために皆さんと邁進をして行かねばならない」(朝日8月22日)

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官邸を去る安倍首相  朝日

ヨーロッパと米国の対立を解消し、オーストラリア、インドにとどまらず、いまや英国までをもアジアの自由主義陣営に組み入れたセキュリティダイヤモンドという雄大な構想がトランプひとりでできるとは思えません。
これは安倍氏の個人的能力、あるいは人としての柔軟性、温もりのようなものに多く依拠している部分があるために、トランプのガサツなやり方がどこまで通用するかどうか。

トランプと安倍氏はいわば漫才のコンビのような部分があって、トランプがウワーと大声でガナったことのフォローを安倍氏が担う、安倍氏が立場的に言えないことをトランプが言って局面を新しく作る、そんなコンビのような関係が出来上がっていました。
たとえば北朝鮮との直接会談は、トランプの思いつきから始まったと思っていますが、それが大コケしなかったのは、ひとえに安倍さんが事細かくトランプに知恵を授けていたからです。

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ニューズウィーク

その中で、わが国は拉致問題を大統領に直接正恩に言わせるという成果までもぎ取っています。
よくメディアはアベは拉致問題に失敗した、一歩も進まなかったと嬉しげに評しますが、とんでもありません。
拉致問題は、純粋にわが国固有の問題です。
国民を暴力的に連れ去られてもなにもできない国、主権国家内部から、北の工作員の言葉を借りれば「ニワトリを裏庭で締めるより簡単」に連れ去られて文句ひとつ言えなかった国。
連れ去られた国民の奪還に軍隊を用いることすら憲法で禁じられている国。いや憲法には「軍隊」か持てないと書かれている国、それがわが国でした。
こんな体たらくは、純粋にドメスティックな国内問題であって、「第9条の国」が生み出した歴史的縮図なのです。

こんな国が単独でいくら裏交渉をしても、かえって足元を見られて侮られるだけでした。
膠着状況を突破するには国際社会、ありていにいえば米国のパワーを借りるしかなく、それを現実化したのが安倍氏でした。
安倍氏は、米国の安全保障上の問題である北の核武装と拉致問題を、うまくリンクさせてしまいました。

メディアはシンガポールやハノイの会談席上でトランプに「拉致問題を言ってもらった」と皮肉まじりに報じましたが、それはただの表面をなぞっただけのことです。
実は正恩は初めてトランプにそう言われて、非核問題と拉致問題が実はワンパッケージだと気がついたのです。
国連制裁を外してもらうにはもはや非核化のやったふりは通用せず、かつ、拉致被害者も返還しないとならない、そう判ったはずです。
ここに初めて非核問題が動く時に、拉致問題も何らかの形で動く可能性が出たのです。

ただしこのように国際問題と国内問題を、アレはアレ、コレはコレと分けて発想せずに、微妙な接点を意図的に作り出してリンクさせてしまい突破していくという水平思考的な考え方は、安倍氏の職人芸みたいなものでした。
菅氏は官房長官として実に8年弱それを支え続けてきたのですが、安倍氏の個人技に近い部分があるために、それを菅氏がどのように受け継いでいけるか、なんともいえません。

さて朝日は例によって、安倍氏の退陣表明に際して、「長期政権の奢りと弛み」と評しています。

「退陣の直接の理由は、わずか1年で政権投げ出しと批判された第1次政権の時と同じ持病である。しかし、長期政権のおごりや緩みから、政治的にも、政策的にも行き詰まり、民心が離れつつあったのも事実である」(朝日社説『最長政権 突然の幕へ「安倍政治」の弊害清算の時』2020年8月29日)

ま、そう書き散らしたら、その直後自社世論調査でも71%が安倍政権を支持するとなっちゃったのですから、爆笑ものですが、ナニを言っているのか。
たとえばプーチンと20数回会っても北方領土問題は解決しなかったと書き立てていますが、他の日本の首脳でプーチンに20数回会えた人がどこにいたでしょうか。一回会えれば御の字じゃなかっでしょうか。
これは個人的友情、あるいはそういってまずければ信頼関係が、安倍氏とプーチンの間に育っていたことを示しています。

国際社会のキイプレイヤーたちは、理念だけでは動きません。利害だけでも動きません。
言葉を担保する信頼関係があって、初めて物事は動いていくのです。
そのための絶対条件は、長期安定政権であることです。
それがなくては交渉の席上、いささかの妥協もできないからです。

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あるいはプーチンならば、国民の絶対的支持を彼が持っていなければ北方領土の寸土の妥協もできないでしょう。
プーチンが言うのだから仕方がない、なにかもっと大きな目的があるのだろう、そういう気持ちを国民が持たなくてはただ日本に取られぱっなしのことになってしまいます。
反対に安倍氏にとっても同じです。彼はおそらくプーチンが日露平和条約と引き換えに「引き分け」に持ち込むいう感触を得ていました。
しかしそれは、今まで営々と「北方4島返還」と言ってきた政府方針とバッティングしてしまいます。
いままで外務省は「4島一括返還」と言葉で言うだけのことで、解決を彼岸のものにしていたのです。
それに反対し、現実的2島返還を模索していた佐藤優氏は、ささいなことで罪におとされて外務省を追放されました。

巨大な壁のように立ちふさがる問題を、すこしでも解決に導くためには、原則論を百回唱えているだけでは不足なのです。
根気よく揺さぶり続けねばなりません。北方領土の場合、平和条約締結と引き換えの2島返還でした。
これには、日露双方にとって一定の妥協が必要でした。

ここで出てくるのが、国民の長期保守政権に対しての信頼感です。
国民は、仮に2島返還だとしても安倍氏が言うなら、「なるほどゼロか全部では交渉は進まないだろう」という納得をしたことでしょう。
もっとも強く2島返還に反対するはずの保守層が、「安倍氏のやることならば」と納得したからです。
そのような長期保守政権が国内世論をとりまとめつつ、北方領土における共同経済活動をするという信頼醸成措置を重ねていくという二段仕立てでした。
安倍氏にもう少し時間が許されていたなら、プーチンの国内支持が急速に衰えなければ、この果実は熟したはずだったのです。

韓国との慰安婦問題の解決も然り。
あれがヘナチョコの民主党政権がやったことなら、私は反対しました。
慰安婦合意によって二度と韓国に慰安婦のイの字も言わせない、私たちの子孫の代まで謝罪はしないというばかりではなく、今、合意することで日韓GSOMIAを締結可能とし日米韓の連携が強固なものとなる、と理解したのです。

あの習近平ですら、他ならぬ安倍氏にセキュリティダイヤモンドを作られておきながら、日中関係を改善しようという意志があったことは確かなのですから、驚きます。
私は習訪日時に、何らかの形で安倍氏に米国との間を取り持ってくれという信号を出した可能性すらあると思っています。
中国は甘い顔だけしてもてなめられるだけ。
かといって中国相手に強硬策一本槍ではなにも進まない、だましすかし、時には強面も取り混ぜつつ、押し包むようにして封じ込めてしまう、たぶん安倍氏はそのあたりの塩梅を判っていたはずです。

このように強力な保守長期政権は、妥協と硬軟を織りまぜながら今まで不可能に思えたことの問題解決を計ることを可能とします。
菅さん、ぜひ長期政権を目指していただきたいものです。
安倍さんを特使に使えるような人は、政界ひろしといえどあなたくらいしかいないのですから。

 

 

2020年9月16日 (水)

山路敬介氏寄稿 菅義偉次期総理と沖縄「当たり前の沖縄」への期待 その3

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                                     菅義偉次期総理と沖縄その3
                                                         「当たり前の沖縄」への期待
                                                                                         山路敬介

 

■ 「沖縄振興と基地問題はリンクしている」は誰の目にも明らか

 沖縄タイムスは9/4の記事で、菅氏の「結果的には(沖縄振興と基地問題が)リンクしている」、「両方の課題を全体で総合的に推進していく意味合いにおいてはリンクしているのではないか」との発言を批判しています。
またまた十年一日のごとく「アメとムチ」論だとか「植民地的対応」と言うのですが、もう聞き飽きました。(笑)
せめて違うボキャブラリーで語ってほしいものです。

ただ、菅氏の言った意味合いは「いわゆるリンク論」とは少々違います。
沖縄二紙は仲井眞知事時代を黒歴史として消そうとしているので、菅氏の言っている意味内容を正しく理解しようもなく、粗雑な反応しか出来ようがありません。
ちなみに「リンク論回避」は自民党の党是でもなんでもなく、菅氏が実体験から考えを述べる事はごく自然です。
「結果的には(沖縄振興と基地問題が)リンクしている」という発言は、前段に「那覇空港第二滑走路工事について」があり、菅氏の経験に基づいています。

あの当時、沖縄世論は「辺野古問題」一色でした。
仲井眞元知事は変節漢の鳩山由紀夫、自身が素人である事を「これがホントのシビリアンコントロール」とおちゃらけた一川保夫、続いて田中直紀という無知なアホウどもを相手にしなければなりませんでした。
野田政権の後半になってようやく話が通じる森本敏氏が防衛大臣に就任しましたが、弱体化した政権自体の先行きが見えなかったし、仲井眞氏にとってさらに重大な問題は沖縄振興策が滞っている事にありました。
経済問題の滞りは森本氏の所管外です。話す相手方すらなかった状態が長く続いていたのです。

安倍政権になり、菅官房長官はこのような仲井眞知事の苦悩のありかを知悉していて、まず尖閣周辺を漁場とする漁業者への補償を約束しました。
次に、那覇空港第二滑走路完成を二年前倒しする事を330億円かけて行なう事にしたのです。
仲井眞の県経済政策実現のためには「二年前倒し」は重要な欠かす事が出来ない大問題で、その必要性や計画もキッチリしていたので菅も動きやすかったようです。
その他、複数の米軍用地返還など基地負担軽減策をはじめ、様々な合意を成すに至りました。鉄軌道建設など受け入れられなかった事、出来なかった事もありますが、仲井眞のこれまでの民主党政権・日本政府への不信感を払しょくする交渉内容でした。

辺野古「埋立て許可」の事務はもともと県側の裁量権が狭く、そもそも法に則った技術的審査をするだけに等しいものなので、「リンクしていない論」に立てば逆に、民主党の連中ように米つきバッタのごとくヘコヘコしてさえいれば、法的にはやがては埋め立て許可が得られる事になります。
しかし、政府との信頼関係もなく、一方で法律に基づいた沖縄振興策も滞ったままならば、やはり仲井眞氏は埋立て許可できなかったでしょう。

そうした自身の経験から菅氏は「両方の課題を全体で総合的に推進していく意味合いにおいては」と言い、「結果的にリンクしているのではないか」と表現したのです。
沖縄がナイーブで情緒的にすぎる「リンクしていない論」を強いるのは、「アメとムチ」とかいうヒガミ根性にあります。
ですが「アメ」でも「ムチ」でもない、「信頼を取り戻す」という経過を正しく経た方法によって結果的に許可を得たのであって、沖縄二紙の菅氏への批判はあたりません。

それと、基地を動かせば跡地の問題が出ます。普天間の跡地には土壌改良が必要だと言われていて、それだけで莫大な資金が必要です。
沖縄県だけでは十年たっても権利関係の整理が出来るとは思えず、境界の確定作業すら困難でしょう。
なお、沖縄県のためには公共性のある一体利用が必要で、そうした資金は振興費から賄われる部分が生じます。
かような跡地処理・開発も基地問題の一部ですので、「振興策は基地問題とリンクしていない」などと言う事はやはり困難です。

実際のところ、「基地問題と沖縄振興策がリンクしていない」などと言うウソっぱちを県民・国民の誰も信じてはいません。
振興費が付くからこそ当時、津堅、金武なども候補地として手をあげたのです。
私のところの伊良部島でさえ誘致運動が起こりかけました。すべては地域振興のためでした。そんな事は、恥ずかしくも何ともありません。

近頃、北海道の何とかいう小村が道内で二つ目となる「核廃棄物最終処分場」に名乗りをあげました。地域の永続性のための国からの振興資金等が動機でしょうが、同時に日本国にとって必要欠くべからざる役割を引き受けてくれようとしているのです。こういう場合も二紙は「アメとムチ」とか、「植民地主義」とか言うのでしょうか。バカもほどほどにしたらいいと思います。

事実を封じるこのポリコレ様の強要はつまり、沖縄の「やらずぶったくり」を実現させるための歴史改ざんに過ぎません。大田知事時代に沖縄関連予算が半減した事、その再来をおそれた県庁や経済界に諭されて変節した稲嶺知事しかりです。
「辺野古受け入れ」による名護市ほかへの北部振興費は、年間100億円です。これ以上は自明の事なので多くは申しませんが、いかに基地負担の見返りが広範にして多岐に沁み渡っているか、篠原章氏の「外連の島・沖縄」の第七章をぜひお読み頂きたいところです。

ついでになりますが、琉球新報がこの菅発言を批判する中で、対比的に1997年の復帰25年周年式典での橋本龍太郎首相の言葉を引用しています。
「(橋本首相は)振興策は辺野古移設の前提か?と問われ、「二つの問題を一緒にされるのは、とても悲しく聞こえる」との認識を示した」と書いています。
振興策に辺野古移設(海上案)への見返り(前提)が入っていないハズがありませんが、よくも橋龍の言葉を菅発言との比較に用いたものです。
1998年1/21の衆議院予算委員会で橋本首相は「海上基地案を変更しない」と明言し、「沖縄県がこれを拒否するならば、沖縄振興策に影響しかねない」との答弁をしています。琉球新報は自社の過去記事とも整合しない記事を書くのはやめたらどうか。

■ これからは本土納税者の意見こそ注視すべき

本土の人は沖縄に優しいので見落としがちですが、辺野古移設にさすがに9300億円の工事費がかかるとなると「それでいいのか?」という、納税者ならば当然の意見を最近多く聞くようになりました。
竣工時には、工事費は一兆円に到達すると思います。安倍政権時代に二度の消費増税があり、医療費や今次のコロナ対応での国費の支出は膨大です。

「普天間の固定化もやむなし」という方々の言い分にも一理あります。普天間移転は県民の悲願とはいえ、そもそも「世界一危険な基地」伝説を作り上げたのは沖縄二紙はじめ運動家連中だし、「世界一危険な基地」の虚偽性を指摘する米軍関係識者も実際います。米兵は中心街に近い普天間のままがいいと考えているとも聞きます。

ただ、米国との国際関係や政治的問題もあり、まさに沖縄県の故翁長知事が始めた訴訟において「普天間は世界一危険な基地」、「辺野古移転が唯一の解決策」、12年かかったとしても「現在においてなお、普天間の危険性除去のためには辺野古移転が最短・最速」が判決文となっています。
これで本土の政治家も辺野古以外に動きようがなくなりました。
思えば、翁長知事が最初の訴訟に踏み切る前、ここのブログ主様がしきりに辺野古陸上案を言っていた頃がラストチャンスでした。

沖縄が好きな本土の人々も、こと辺野古問題の帰趨には口をつぐみます。運動家まがいの反対派や、ええかっこしいの無思慮な連中を除けば、ですが。国民の多数層の意見は封じられ、表層としての普天間問題は反対派の独断場となりました。
けれどあの大田知事ですら、当初は県内移設を容認していたのです。故翁長氏が選挙のためにと稲嶺知事をそそのかし、仲井眞知事の二期目の時にも「県外を公約として言わなければ選対本部は受けられん」と突っぱねました。
それに疑念を持っていた仲井眞ですが、その後議会でどんなに「県内移設はないと言え!」と責めたてられても「県内移設」を排除した事はありません。分かりづらいといえばそれまでですが、公約違反とまでは言えない事はあきらかです。

結局、二紙に「沖縄を売った男」とまで言われた仲井眞氏ですが、「沖縄を売った男」との表題の本の帯には菅官房長官の顔写真入りで「「売った男」でない事は歴史が証明するはずです」とあります。仲井眞は「日本の枠内で、どうやって自立度を高めていくか」とし、「その弾み車となるのは県経済の発展しかない」と言っています。今の沖縄は仲井眞時代の遺産で食っているようなもので、そのうち案配の悪い方向に転げ落ちる可能性が大です。県経済がコロナの影響を受ける度合いも、全国トップクラスとなるでしょう。

沖縄独特の古い格言で「食を與るものは、わが主人なり」というのがあります。故翁長知事に従ったこの手の政治家の何と多かったことか。また、いつまででも振興予算に頼り切ろうとする性質も優れてこの格言があらわしています。このうえは韓国のように、あったものを無かったように、無かったものは歪曲して創り出しさえして、手前勝手な論理と運動を展開する方法を推奨し取り続けたのが沖縄二紙だと言えるでしょう。

                                                                                    (了)


                                                                           文責 山路 敬介

2020年9月15日 (火)

山路敬介氏寄稿 菅義偉次期総理と沖縄 その2

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速報のみ。総裁選の結果は以下でした。
菅氏は国会議員で圧倒的、地方票でも6割を制しました。文字どおりの圧勝です。
石破氏は国会議員でいかに人望がないかが明らかになってしまいました。頼みの地方票も3割でした。
岸田氏にも及ばず、4回目の挑戦でも3位にとどまりました。
岸田氏は2位につけたものの、その退屈なキャラから脱しきれませんでした。

菅氏は明日国会で首班指名を受けて正式に総理に就任します。
安倍総理、ご苦労さまでした。

             国会議員票    地方票     合計

・菅義偉  288(73%)   89(63%)   377(71%)
・岸田文雄 79(20%)   10(7%)     89(17%)
・石破茂    26(7%)       42(30%)   68(13%)

                                       ~~~~~~

                              菅義偉次期総理と沖縄 その2
                                                 ~「当たり前の沖縄」への期待
                                                                                 山路敬介

承前

■打ち続く県側敗訴
 普天間飛行場の辺野古移設に関連した訴訟はこれまで何件行われ、今どういう争いが進行中なのか、くわしく記録しているつもりの私ですらすぐには分からなくなるほどの県側の濫訴状態が続いています。
この6月20日には、「サンゴ移植」に関して農水省が下した県への是正支持が違法ではないとの判断が国地方係争処理委によって下されました。続いて高裁に提訴した県側ですが、県側敗訴は100%確実です。

同時進行中の「(県側がした)埋立承認撤回を(国交省が)取り消した事は違法」と主張する訴訟の方も「審議不十分」との県側の主張を退け、早々に結審しました。
おそくも11月中に判決が出ると見られ、こちらも県側勝訴の見込みはなくなりました。どうやら同じ「敗訴」ではあっても、県側の主張が部分的にも認められない「完敗」になりそうな案配です。

詳細な内容の記述はここでは避けますが、これまで誤報道をされて来た点を二点だけ記します。
第一に「実施設計の協議は事業の進捗に合わせて行うもので、軟弱地盤が存在するとしても、その工事に着手する前に必要な措置を取ればよく、事業全体を撤回する理由にはならない」という当たり前の件。

二点目は、「県は統合計画の返還条件を承知していた。高さ制限などの米国の基準を持ち出す事は牽強付会であり、あたらない」との国側の主張が当時の許可権者である仲井眞元知事証言によっても裏付けられています。
平成28年8月の「(仲井眞元知事がした)埋め立て承認は適法」とした高裁判決と、その後の最高裁の判決で全ては終わっており、いつまでも先鋭的な法解釈に頼る弁護士や学者に騙されて費用を垂れ流していては我々納税者はたまりません。

今後の事ですが、この9月8日に防衛局が軟弱地盤改良に関する変更申請を県に提出しました。通常ならば来年一月中にも許可が得られるはずですが、沖縄県は言を左右にして認めないでしょう。
すると、これまでの裁判と同じ事が起こります。他の箇所の埋め立ては進むので差支えないですし、新たな訴訟を県側が提議する事でデニーさんの「やってる感」も演出できるので、ウィンウィンの関係が成立します。

「今後とも大量の訴訟事案があれば、やがては国側敗訴の憂き目もあるはず」との見立てがありますが、そういうものではありません。技術的に小部分で、進捗に影響のない箇所での指摘はあり得ますが、判決による工事の中止や中断などの判断は絶対ありません。
県側の主張はすでにこれまでの訴訟で否定されて来た解釈に負って行くしかなく、それが原因で増々訴訟期間が短くなっています。

また、「普天間の危険性の除去のためには、辺野古移転が唯一の方法」という判断はすでに示されているのです。これからの裁判所が「そうでない」という判断に傾く事はないです。
責任は「政治」にあり、裁判所が負えるものではありません。物理的に施工が不可能であるならばともかくも、裁判所が条約遂行にともなう「高度な政治判断」に準じた考え方を根本に置くのは当然です。
「日米両政府間の協議や閣議決定を経て国において最終的に米軍に提供する埋め立て地として辺野古沿岸域を決定したものであって、収容の認定と同様、政治外交的判断や駐留軍基地に関わる専門技術的判断を要するものであるから、国の政策的、技術的判断にゆだねられている。(最高裁 平成8年8月28日判決)
「米軍施設及び区域の配置場所等につき決定できるのは内閣にほかならず、都道府県知事にかかる国家の存立を左右する事項について独自に審査判断する権限は付与されていない。」、「~、沖縄県知事は国の本来果たすべき役割に関する重要な判断について、これを尊重すべきである」(平成28年8月19日高裁判決、のち最高裁決定)

最高裁によるこうした判断は久しくすでに示されていて、それでも次々と訴訟に打って出る沖縄県の恥知らずな馬鹿さ加減はまず置くとして、そのねらいが「県政における革新勢力の維持」にある事は疑いありません。

■ 「15年期限設定」という、まぼろし 
9月3日の定例会見において、菅官房長官が質問に回答した「SACO合意によって日米で合意して、沖縄の地元市長、それで県知事とも合意したなかで、辺野古建設というものは決まって行ったのではないか」と発言しました。
この発言に対し、さっそく沖縄二紙がかみつきました。タイムスは「15年期限が発出された経緯に触れないのは不誠実」との論調で記事にしています。
官房長官会見はあくまで政府見解を述べる場です。タイムスは菅長官の発言内容自体を否定してはいませんが、「国側が約束を一方的に反故にし」た、あるいはあたかも「15年期限」という条件が今でも生きているような誤解を生む記事立てになっています。

菅氏が言うように1996年のSACO合意によって、1999年に辺野古への移設合意があった事に間違いはありません。
日本政府は県側に場所の確定をもとめ、当時の稲嶺知事はそれに答える義務と必要があったから「辺野古」という回答をしたのです。
その時に「15年期限」とか「軍民共用」などの条件を勝手に出しましたが、それは「要望」というまた別の問題です。当たり前ですが、そのような「空文」は日本政府として達成すべき「条件」として認識していた、という事ではありませんでした。

稲嶺元知事は最近でも「当時の日本政府は、十五年期限合意を反故にした」と言っていますが、非常に沖縄チックで身勝手な言い分です。
それなら元知事は、「15年期限や軍民共用の条件が達成されないならば、合意を白紙にする」と宣言していましたが、それをしたのでしょうか?
また、「15年期限」という所有権の変更に関する重要な事柄であるならば、必ず国が県から得た埋め立て許可書に記載があるはずですが、それがないのは何故ですか?

稲嶺元知事が当選した1998年の選挙戦に関わった当時の自民党幹事長だった翁長雄志は、「稲嶺恵一知事は普天間の県内移設を認めたうえで、「代替え施設の使用は15年に限る」と知事選の公約に掲げた。防衛省の守屋武昌氏らにも「そうでないと、選挙に勝てませんから、と伝えた」と証言しています。(2012年11月24日朝日新聞)
その後、選挙の神様翁長氏のせいで公約にかがげた手前引っ込みもつかず、かといって合意撤回など出来ようはずもなかった稲嶺氏にはラッキーな事に、嘉手納統合案だのシュワブ沖合案だの様々な案が新たに出され、辺野古現行案自体が事実上の白紙に戻った状態に陥りました。しかし、2005年ころから小泉政権が本格的に解決に乗り出しました。安倍晋三官房長官は「仮に地元との合意がなくとも、最終案をまとめる」とし、守屋次官は「修正案を作る事は考えていない」と言い切りました。
ここで名護市の島袋市長と額賀防衛庁長官はV字案で合意してしまいます。島袋市長に梯子を外された形になった稲嶺氏は困り果てましたが、なお「15年期限」を主張して反対の態度を崩しませんでした。
この状況に最初に危機感を抱いたのは県庁内からで、「大田知事の二の舞になりかねない」と強く危惧され、「沖縄振興策や跡地利用などの協力が得られなくなるのでは」との声があがりました。
さらに経済界からは「名護が承認している以上、これ以上の対立は雇用対策や交付金を考えると得策ではない」とする意見が多数を占めるようになったのです。(森本敏 「普天間の謎」)

こらえきれなくなった稲嶺知事は次第に「十五年云々」など強硬な事は言わなくなり、あいまいな「継続協議」だけを条件に政府案にて「確認書」を結んでいます。もちろん、そこには「十五年条件」など入っていません。沖縄タイムスこそ、以上のような経過をちゃんと県民に説明しない事は不誠実なのではないでしょうか。
それと、この件について琉球新報の9月2日の記事は「当時の稲嶺知事は「15年使用期限」の条件付きで合意し閣議決定された。その後この条件ははずされて閣議決定されており、現在の辺野古移設が沖縄側の合意に基づき進めているという誤解を招く発言だ」としています。
しかし、これは明らかに事実と相違します。「「15年使用期限」条件で閣議決定された」という事実そのものがありません。
閣議決定されたのは「沖縄の要請を重く受け止め、日米間の協議事項とする」というだけのものです。新聞というなら正確に書かなければいけませんし、これでは意味内容が全然ちがってしまっています。

                                                                                                      (次回完結)



2020年9月14日 (月)

山路敬介氏寄稿 菅義偉次期総理と沖縄 「当たり前の沖縄」への期待その1

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                                                   菅義偉次期総理と沖縄 
                   ~「当たり前の沖縄」への期待
                                                                                  山路敬介

 

■菅官房長官が作った仲井元眞知事やチーム沖縄との信頼関係

菅官房長官の次期総理総裁が現実性をおびるなか、沖縄二紙の菅長官たたきが始まっています。菅氏は「安倍政権を継承し、さらに推し進める」という公約を掲げ、辺野古問題について中止変更の気振りもみせていません。
石破氏のように「辺野古が唯一と思っていない」(その後、事実上発言を撤回)などという、これまでの自民党に見られた「沖縄向け」の方便やご機嫌取り、いわゆるリップサービスも一切見せていません。

「辺野古埋立て許可」は菅官房長官と仲井元眞知事との信頼関係が生んだ結果でした。
一部にあった報道とちがい、菅から仲井眞に「許可して欲しい」と頼んだことは一度もなく、仲井眞氏も「「承認して欲しい」と言われた事は一度もない」と証言しています。

当時菅氏は「よし、この人と勝負してみよう。裏切られたら責任を取るまでだ」(「影の総理」の素顔)として交渉にのぞみ、仲井眞は菅を「やるとなったら、必ずやる政治家」、「仕事師タイプの、最も信頼も共感も出来る人」(沖縄を売った男)と評しています。
この二人の結びつきは今でも深く、昨年11月には仲井眞氏が沖縄自民党最高顧問就任があり、先の県議選で自民党は実質勝利を飾って仲井眞氏も復権したと言って良いでしょう。
菅氏はまた、チーム沖縄(保守系市長会)との関係性が深く、会長の下地敏彦宮古島市長が9/8次期市長選出馬を明言した事も菅新総裁誕生の見通しと関連します。

また、仲井眞氏は現在進行中の国VS県の辺野古関連訴訟において、国側の立場で決定的な決め手となる陳述書を提出しています。
これらの事実が沖縄二紙をいらだたせ、これから先も菅氏への攻撃はますます鋭さを増すでしょう。
沖縄タイムスの阿部岳記者は「たしかに(記事を)公平に書いているつもりはないが、県民の側に立って書いている」とうそぶきましたが、阿部個人の虚偽性評価はともかくも、沖縄二紙の革新側に偏った政治性と運動家的体質は隠しようもありません。

そうした二紙の最近の報道の中から、菅氏発言が二紙に批判されている「沖縄振興と基地問題リンク論」、「1999年辺野古合意」等について考察してみたいと思います。
そうすると浮かび上がるのは故翁長前知事が目指したものが、「辺野古問題」なるものは単なるアイコニックな道具立てとしての存在でしかない事、その眼目は辺野古云々ではなく「沖縄の特別な地位の維持」(ようは、リベラル派の古い自民党がしてきた「特別扱い」の継続)にある事が分かります。
安倍政権以前の自民党や民主党が沖縄を腫れものに触るようにして、結果的にいかに沖縄の指導者層を腐らせたまま放置・増長させて来たかを理解できるものと思います。
結局のところ沖縄は自助努力せず、自ら日本国の従属変数の立場を選んだようなもの。故翁長前知事は過保護な親みたいなもので、自分の子(県や県民)の能力を全く信頼していない政治家だったと言えるでしょう。

菅官房長官は出馬会見で「世の中には、数多くの当たり前でない事が残っている。それを見逃さず、国民にとって当たり前になるような事をしたい」と言っています。
言うまでもなく、国民にとっての「当たり前でない事」の筆頭は沖縄です。大方の日本国民の意識や感情はリベラルを偽装した主流マスコミと違うところにあります。
これを放置するなら、やがて国民は沖縄を見放すでしょう。9月1日のワシントンポスト紙は「日本の修理人、ヨシヒデ・スガ」と呼称しました。海外紙でありながら、来るべき菅政権の本質を突いていると思います。

今後の辺野古問題について、どうなるのか? どうすべきなのか?結論を先に申せば、私はこのまま粛々と工事をすすめていく事がベストだし、必ずそうなるだろうと考えています。
最高裁も判断しているように、普天間の危険性除去のための唯一の手段は「辺野古移設」しかありません。
デニーさんの県政運営は遅々たるもので、いつもハンドルを切るのが一テンポ遅くなるし、アイデアもありません。全体的に穏やかで消極的であり、人間性や個性は故翁長前知事と正反対です。

彼に仮に二期目があるとしてですが、むしろ革新政権の間にこそ滞らせる事なく、粛々と工事を進捗させる意義は実はかなり大きいものです。
かつて、沖縄自民党は基地問題で国と県民の間に立って不誠実だったり、右往左往してスタンスが定まらない時期があったのは確かです。
それに失望したと考える県民は少なくないのですが、革新政治屋のおどりに付き合ったところで何が変わるわけでもありません。むしろ辺野古問題のような些事に囚われ続ければ、大事な県経済や県民の暮らしが犠牲になりかねません。

                                                                                                                                       (3回完結  続く)



2020年9月13日 (日)

日曜写真館 風もらう生れたばかりの彼岸花

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悩みなど捨てよと咲けり彼岸花 中里カヨ

 

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花火師が村中を馳せ彼岸花 伊丹三樹彦

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彼岸花先祖の香りただよひて 友岡咲子

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彼岸花紅の最も澄めるとき 柳生千枝子


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まほろばに赤の彩り彼岸花 泉田秋硯



 

2020年9月12日 (土)

次の総選挙は、形を変えた安倍政権の信任投票だ

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今回の総裁選は、安倍氏を失ったことによる損失をいかに最小限に食い止められるかを、自民に問うたものです。
ですから、選挙戦に争点があるとすれば、安倍政権の遺産をいかにロストすることなく継承できるか、に尽きると私は思っています。

安倍氏は政権末期において驚異的な支持率を受けています。
政権初期にはご祝で支持率がアップするものですが、もう任期をわずかしか残していない政権にこれほどの支持が湧き上がるという現象を初めて見ました。
下に青木率の推移グラフを貼っておきましたのでご覧下さい。いずれの政権も末期は惨憺たるものです。

この支持率の高さは国民が、去っていく安倍氏にまるで花束を贈っているかのようです。
アベの葬式はウチで出すとまで言い放った朝日は、このように書いています。苦々しさが行間から伝わるようです。

「朝日新聞社が2、3日に実施した世論調査(電話)で、第2次安倍政権の7年8カ月の実績評価を聞くと、「大いに」17%、「ある程度」54%を合わせて、71%が「評価する」と答えた。「評価しない」は、「あまり」19%、「全く」9%を合わせて28%だった」(朝日9月5日)
https://www.asahi.com/articles/ASN937F3RN92UZPS005.html

他のメディアによる世論調査においても同じような結果がでています。読売で74%、JNNで71%です。
内閣支持率はJNNで62.4%に登って、各社軒並み6割を超えています。

一方政党支持率も連動しています。もっとも精力的に毎日のように安倍政権を叩き続けた朝日の調査を見てみましょう。
https://www.asahi.com/articles/ASN937CXXN93UZPS001.html?iref=pc_extlink

●朝日新聞世論調査―質問と回答〈9月2、3日実施〉
◆あなたは、今、どの政党を支持していますか。政党名でお答えください。
 自民党40(30)
 立憲民主党3(5)
 国民民主党1(1)
 公明党2(3)
 共産党3(2)
 日本維新の会1(2)
 社民党0(1)
 れいわ新選組0(1)
 支持する政党はない41(47) 

立憲、共産、社民、国民といった反安倍野党の合計支持率は7%です(爆笑)。
今、どこかの野党が党首選をやっていると風の噂で聞きましたが、国民にはなんの関係もありません。
今や外野席というより、駐車場野党です。

さていわゆる青木率(アオキレシオ)と言われる数字がありますが、一定の経験則の目安にはなるでしょう。
アオキレシオは、
政権支持率+政党支持率で表されますが、62%+40%=102%、ちなみに先だっての5月には朝日の調査で29+26=55ですから、50を割ると内閣が潰れるということです。

統計学者でもある高橋洋一氏はこう述べています。

「歴代政権の青木率の推移をみると、ほとんどの場合、発足当初に高かった支持率が時とともに低下し、40~60程度まで下がったところで退陣している。この意味で、NHKの数字を使うと、いわゆる「青木の法則」には確かに説得力がある。
こうしてみると、青木率は60を切ると、その後の回復はまず難しく、じりじりと下げて50以下になって結局退陣に追い込まれるケースが多いことがわかる。ということは、「青木率60」が政権維持の一つの目安だ」(現代ビジネス2017年7月31日)

つまり、青木率が60%でギリギリ、50%を切って解散に打って出た場合、負ける可能性が高いということになります。

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安倍政権は本当に危機的なのか、「あの法則」を使って検証してみた(髙 ...  ※クリックすると大きくなります。

上図を見ていただくと、自民党が民主党に交代した麻生政権末期は40%を切っており惨敗して、鳩山氏に政権を奪われる結果となりました。
鳩山内閣は政権発足当時110%という驚異的な数字でしたが、末期には50%を割り込み、菅政権に至っては30%台、野田政権もまた40%を切ったところで、ヤケのヤンパチ解散をした結果、自民党に政権を奪い返されてしまいました。

安倍氏が2012年に政権を奪還した時点は110%に登っており、以後コンスタントに80%~90%台を維持しています。

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三春充希(はる) ⭐みらい選挙プロジェクト on Twitter: "青木率の平均 ...

安倍政権はこれだけのバッシングを受けながらも7割を切ったことが稀なことがわかります。
そして今月の退陣表明を受けて、いきなり青木率が2倍の110%という、2012年の政権発足と並ぶ高さにハネあがりました。
これを受けて、次期内閣が解散を考えなければ、そうとうにズレていると言うべきでしょう。

ただしここでおさえておかねばならないのは、これは次期総理に対しての期待値を表すものではないということです。
この110%に達する青木率の高さは、安倍政権の実績評価に対しての国民の称賛と拍手と考えるべきであって、これは安倍政権に対する形を変えた信任選挙なのです。

したがってこの総裁選挙で問われていることは、新風を吹かせるなどということではありません。
安倍氏という希代の宰相が政権から去ることによる欠損をどれだけ防げるのか、それに尽きるといっても過言ではありません。
俗に言われる「アベロス」をいかに防ぐのかにかかっています。

自民党員の大部分はそのことをわきまえており、自分のことを明智光秀と言ってしまった石破某に勝機など爪の先ほどもないはずです。
明智ねぇ。それほど有能ではないけどね、彼は。
あえて歴史上の人物になぞらえたいのなら、石破某は清河八郎でしょうか。
将軍護衛と称して浪士を集め、京都まで連れていったあげく、着くなり尊王攘夷を唱えて斬られた人物です。
石破某は保守政治家のような顔して、実は自民党を立憲民主のようにしたい策士です。

それはさておき、菅氏がヘンに正直に消費増税上げを発言してしついましたが、翌日これに修正かけています。

「菅氏「今後10年上げる必要ない」 
消費税増税で
菅義偉官房長官は11日の閣議後の記者会見で、消費税率の引き上げについて「安倍晋三首相は今後10年上げる必要がないと発言した。私も同じ考えだ」と述べた。10日のテレビ東京番組で将来は10%超への消費税率引き上げが必要との考えを示していた。「あくまで将来的な話としてお答えした」と語った」(日経2020年9月11日)

菅氏の税制認識には大いに異議があります。
長くなるので一点だけいっておけば、少子化現象が増税の理由になるなら、日本は半永久的に増税を継続することになります。
本田悦朗郎先生がかねがね言っておられるように、税金は機動的運用すべきもので景気動向によります。
今のように去年10月の消費増税による景気低迷の上に、コロナ禍がかぶる時期に、消費増税するなど論外です。

一瞬、初めの菅発言を聞いてゾッとしましたが、修正されてなによりです。
とまれこれであと10年は消費増税はなく、かつその場合は選挙で問うということが公約となりました。

菅さん、解散するなら、今しかありませんよ。
そして来る総選挙のテーマは、安倍政権の遺産を信任するか、です。

 

 

2020年9月11日 (金)

日米豪印はアジア版NATO」を目指す

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米国は疑問の余地なく方針転換しました。
米国が冷戦終以後持っていた、「経済が発展すれば社会は自動的に民主社会へと発展する」というノーテンキな定理は放棄されました
巨大な例外が生まれたからです。

米国にとってこの新たな中国という名の脅威は、かつてのソ連とは比較にならない強大な経済力をもち、先進技術を持った軍事超大国として世界支配を企てています。
米国がそれに気がつくのが遅すぎたために、対抗する陣形をつくるのが遅れました。
今、米国は、日本-オーストラリ-インドなど、いわゆるセキュリティダイヤモンド構想で結ばれた「ザ・クワッド」(QUAD)諸国と、インド・太平洋地域での経済同盟である経済繁栄ネットワーク(EPN)を作ろうとしています。

このように米国を刺激したのは、習近平の大失敗でした。
鄧小平が示した方針は、 「韜光養晦(とうこうようかい)」路線です。
聞き慣れない熟語ですが、光を韜 (つつ) み養 (やしな) い晦 (かく) すこと、才能や野心を隠して、周囲を油断させて、力を蓄えていくという中国流処世術ですが、転じて経済大国となるまで外交方針は抑制的にしていろ、という教えです。

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鄧小平の演技は実に巧妙で 上の写真でも彼は「井戸を掘った」角栄宅を訪れて、いかに中国人が恩義に報いることに厚いかをアピールしました。
当時の角栄は失脚していましたが、それを重々承知でこういう憎いことができたのが人たらしの鄧小平という人物です
子供に手をやる優しいしぐさは、いかにも古い大国の好々爺然としていて、日本人の中国ファンを激増させました。
当時の日本メディアなどこぞって、鄧という老賢人が発展途上の老大国を再興しようと奮闘努力しているのだから、日本人は日中戦争のお詫びに大いに協力せよ、という論調で報じました。
トヨタ、松下などの日本を代表する企業が、社運をかけて争うようにして中国に向かったのはこの時期からです。

しかし、この経済大国になるまで低姿勢でニコニコ外交をするという路線は、リーマンショック以後、中国が経済の世界の覇者となるに及んで、弊履のように捨てられました。
もう猫をかぶっている必要がなくなったと中国は見て取ったのです。
代わって登場したのが、習近平の「中華の夢」路線です。

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習は「中国の夢を実現しよう」「中華民族の偉大なる復興」という言葉を好んで使い、秦の始皇帝時代から清朝初期まで、ほとんどの期間世界の覇権国家だったことを強調しています。
過去の中華帝国の栄光を取り戻し、それを凌駕する世界に冠たる覇権国に返り咲くことが、習が掲げた国家目標でした。

世界支配を宣言した中国に対して、オバマなどの民主党系大統領はいずれも融和的姿勢をとるという致命的失敗を演じます。
ひとつには米国リベラルが戦前から根強い親中傾向があったからですが、それだけではなく冷戦の総括として資本主義が最後の勝者だったから、自由主義経済が発展しさえすれば中間層が生まれ、彼らは一党独裁を嫌って民主化を目指すに違いない、また共産党も民主化していくだろうとという一種の進歩史観が認識の基底にあったからです。
このリベラル進歩史観に支えられて、米国は中国と世界のさまざまな問題で協調して解決していく二大国(G2)路線を作ろうとしました。

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さて、このような米国の中国政策のコペルニクス的展開は既に起きています。
それはペンス副大統領による「新冷戦」宣言演説を読めばお判りになります。
関連記事 http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2018/10/post-cead.html

米国はもはや中国が経済発展しさえすれば民主主義社会に至り、やがて国際社会と協調していくだろうとは毛頭思っていません。
時間がかかりましたが、この迷妄から米国はようやく醒めました。(日本や欧州はまだ半覚醒ですが)
ポンペオは演説で、今まで封じてきた「共産中国」(コミニストチャイナ)という表現を何度か使っています。
この表現の重さを、日本人はただの反共思想だなどと思わないほうがいいでしょう。
これは米国が中国との戦いを民主主義と全体主義との戦いと位置づける「価値観戦争」だと考え始めたという意味です。
このような米国が建国思想である「自由」「人権」に踏み込んだ判断をした場合、仮に11月にトランプが破れようと、この方針は継承されます。
つまりこの転換は不退転なのです。

前置きが長くなりましたが、米国が中国の覇権と対決する布陣が、この「ザ・クアッド」と呼ばれる、米-豪-日-インドのセキュリティダイヤモンドです。
そして日本が要求されている役割は、従来の米国の戦略的策源地を提供するだけにはとどまらず、さらに能動的パートナーとしてアジア-オセアニア-インド洋地域の平和と安定のために積極的な役割を担うことです。

米国において今まで支配的だったのは、日本を格下のパートナーとして見て、都合よくジャパンハンドリングすることでした。
ジョセフ・ナイなどがこれに当たり、国務省の旧来の考え方でした。

「そのことは必ずしも、日米協調によって東アジアの平和と安定が維持されることを意味しない。日本の役割はあくまでも基地を提供することであり、地域大国としてアメリカの戦略的パートナーになることではなかった。したがって、1940年代から60年代にかけては、日米協調が東アジアの平和を担保したわけではなかった。アメリカの圧倒的な軍事力と、それを支えるための在日米軍基地がそれを担保したのだ」
(東経 細谷雄一/アジア・パシフィック・イニシアティブ研究主幹、慶應義塾大学法学部教授) 『アメリカのアジア政策が85年前を想起させる訳』)https://news.yahoo.co.jp/articles/ff6462083a45ae5ec6d0bbe7623c8829dab5f0f8

しかし米国はその方針転換に伴い新しい日本の位置の再定義を開始します。

「現在のトランプ政権において、そのようなこれまでの米中協調と、アメリカの対中関与政策を基軸としたアメリカのアジア政策を再検討しようとする強い意欲が見られる。そのような政策の転換を考える際に想起すべきは、20世紀のアメリカを代表する中国通の外交官であった、ジョン・マクマリーの存在である」(細谷前掲)

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ジョン・マクマリー元駐中国大使

マクマリーは駐中国大使で中国専門家で埋もれた外交官でしたが、さいわいにも存命していました。
ケナンは著書を書くにあたってマクマリーに長時間インタビューをして、彼を再評価します。

「戦後、ケナンが国務省政策企画室長として対日政策をより穏健な方向に転換しようとしたときに参考にしたのが、このマクマリーの見解であった。東アジア情勢にあまり精通していないケナンは、1948年2月の訪日の前に、最も優れたアジア専門家と見なしていた外交官引退後のマクマリーに連絡を取って、助言を求めている。そして両者が共通に認識したのは、アジアにおける最大の大国は日本であり、アメリカにとっては日本との協力が不可欠であることと、そして中国を過剰に信頼したアジア政策はいずれ行き詰まるであろうことであった。
いわば、現在のトランプ政権において、ポッティンジャー副補佐官、そしてポンペオ国務長官は、この忘れ去られたマクマリーのアジア政策を復活させようとしているように感じられる。ここではそれを「マクマリー・モーメント」と呼んで、マクマリーの提唱したアジア政策が85年の時を隔てて復活することの意味を考えたい」(細谷前掲)

一言でいえば、このマクマリーが提唱したのは、中国を信用しないこと、そして日本をストログジャパンとしてパートナーとすることでした。
今のトランプ政権中枢にいるポンペオやポテンジャー副補佐官は、既にこの「マクマリーモメント」で動いています。
それは日本ではあまり報じられていませんが、去年から着々と進行しており、現実の外交ステップを踏んでいます。
国務省の2019念5月31日のプレスリリースを見て見ましょう。

U.S.-Australia-India-Japan Consultations (“The Quad”)
Office of the Spokesperson
May 31, 2019
https://www.state.gov/u-s-australia-india-japan-consultations-the-quad/

「米国、オーストラリア、インド、および日本の高官は、2019年5月31日にバンコクで会合し、自由で開放的で包括的なインド太平洋を前進させるための共同の取り組みについて協議した。
四か国は、地域におけるルールに基づく秩序を維持し、促進するという共通の約束を再確認した。
彼らは、持続可能な民間主導の開発、海上安全保障、そして良い統治を支援するために緊密な調整と協力を継続する意図を強調した。会議の参加者は、国際基準に従って質の高いインフラへの透明で原則に基づく投資を奨励し、民間部門の可能性を活用するために各国が実施したイニシアチブについて話し合った。
彼らは、国際法に対する普遍的な尊重と航行と飛行の自由を維持する彼らの努力を強調した。当局は、地域の災害対応、サイバーセキュリティ、海上安全保障、テロ対策、不拡散などの協力を強化する機会を探求し続けることに同意した。
参加者はまた、志を同じくするパートナーや同盟国と協力して、国境を越えた課題への透明なルールベースのアプローチを促進したいという希望にも言及した」

ここで、米-豪-日-印が話あっているのは、まさにザ・クアッド(”The Quad”=Quadrilateral Security Dialogue)の内容です。
かつて2012年に安倍氏が提唱したセキュリティダイヤモンド構想は、今や幼年期から青年前期に成長しようとしているのです。
民間投資の促進、経済的連携強化にとどまらず、太平洋-オセアニアインド洋の海上安全保障にまで言及しています。
このような取り決めに基づいて、先立っての南太平洋の国際共同訓練が実施され、恒常的南シナ海パトロールに海自も参加しているわけです。

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南シナ海、日米豪が海軍合同演習 中国軍は戦闘機を配備か

ただしストロングジャパンといっても、それは大日本帝国への回帰ではありません。
細谷氏はこのスクアッドに参加する日本がほが、無条件ではないと述べています。
その重要な条件は、戦前のような国際社会の孤児とならないことです。

「第1に、戦前に日本が国際秩序を破壊して、孤立していった歴史を適切に認識することだ。すなわち、過去1世紀の歴史を適切に総括して、戦後外交における国際協調主義の歩みを再確認することが必要だ。平和国家となった日本が、自由主義や民主主義という価値を共有し、またリベラルな国際秩序を擁護することを前提として、戦後の歴代のアメリカ大統領は日米関係を発展させてきたのだ」(細谷前掲)

いわゆる保守の人たちの一部に見かける大東亜戦争肯定論は、わからなくもないのですが、今、持ち出すべきではありません。
米国への従属を嘆き、独自核武装をして戦前の列強に伍するといった非現実的な発想から抜け出すべきです。

安倍氏は、かつてはこの考え方に近い政治家でしたが、第2次政権で完全に転換しました。
それがもっともよく現れているのが、2015年5月の米議会における演説です。
そこで安倍氏はかつて日本が国際秩序を破壊者となってしまったことに対する反省にとどまらず、米国への感謝から日米同盟を「世界を遥かに良い場所とするための希望の同盟」と語りました。

この演説はスタンディグオベーションで迎えられ、やがてそれを実体化した「ザ・クアッド」へと歩みだしていくのです。
この演説をこの記事の締めとさせていただきます。言葉の始源的力を日本人政治家が駆使し素晴らしいものです。ぜひ全文をお読み下さい。
このようにしてストロングジャパンを推進しようとする米国と、米国やオーストラリア、インドと肩を組んで日本は、アジア版NATOへと進もうとしています。

いうまでもなく、これは集団安保体制を構築しようとすることですから、憲法に抵触する可能性があります。
先日ふれた「芦田修正」を使って、前文にある「国際社会に名誉ある地位を占めたいと思う」という部分を膨らませてなんとかなるかならないか。
それを含めて新たな憲法論議をせねばならないことはたしかです。

関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2015/05/post-b930.html

 

 

2020年9月10日 (木)

「忖度」の極みだった尖閣中国漁船衝突事件処理

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これでお終い。もう逃げられませんよ、菅直人さん。
やっと、あの尖閣中国漁船衝突事件の真相が、当事者によって暴露されました。
いままでも、カン氏(スガさんと紛らわしいのでカタカナ表記)の直接の指示だというのが定説でしたが、なにぶん証拠がなく、当事者たちが皆「墓場まで秘密をもっていく」つもりらしいので、10年もたつことですし諦めかかっていた所に前原砲ですから、ちょっと驚きました。

証言したのは当時閣僚で、現職議員の前原誠司議員ですから、当時事実関係を知り得、しかも利害関係があったものによる「秘密の暴露」ですからこれは重い。
伝聞、ないしは推測の類ではなく正真正銘の一次情報です。

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産経 船長釈放「菅首相が指示」 前原元外相が証言 尖閣中国船衝突事件10年 ...

しかもことが検察という司法権力に対する、行政の長である首相の「指示」ですから、この間の検察問題の「忖度」ウンヌンとは次元が違います。
事実自体怪しいものですが、百歩譲って安倍氏に「忖度」があったとしても、それはしょせんどこまで行っても劣位の人物が優位者の意志を「おもんばかった」ていどのことです。
いわば劣位者の内面の動きで、テレパシーで権力者の意志を読んだというようなものです。
一方、実際の公的な会合の場における首相の閣僚に対する「強い指示」は命令と同じ効力を発揮します。
つまり前原証言が本物なら、疑う余地なく行政府の長による三権分立の破壊であって、自民党はカン氏を国会証人喚問をするべきでしょう。

さてことは、前原氏の産経新聞へのインタビューから始まっています。
全体の輪郭はこうです。

「前原誠司元外相が産経新聞の取材に対し、10年前の平成22年9月7日に尖閣諸島(沖縄県石垣市)沖の領海内で発生した海上保安庁巡視船と中国漁船の衝突事件で、当時の菅(かん)直人首相が、逮捕した中国人船長の釈放を求めたと明らかにした。旧民主党政権は処分保留による船長釈放を「検察独自の判断」と強調し、政府の関与を否定してきたが、菅氏の強い意向が釈放に反映されたとみられる」(産経9月8日)
https://www.sankei.com/politics/news/200908/plt2009080001-n1.html

つまり、当時カン政権は「那覇地検の判断を了とする」と仙谷官房長官が言っていましたが、これが真っ赤な嘘で、実際は官邸からの強い釈放要求に検察が屈したということです。

 これが伝聞や又聞きでないのは、当時外相だった前原氏がその場で聞いているからです。

「前原氏によると、国連総会に出席するための22年9月21日の訪米出発直前、首相公邸に佐々江賢一郎外務事務次官ら外務省幹部とともに勉強会に参加。その場で菅氏が公務執行妨害容疑で勾留中の船長について「かなり強い口調で『釈放しろ』と言った」という」(産経前掲)

前原氏は2010年9月21日、カン首相も参加した外務省幹部との勉強会において、その場でカン氏が「強い口調で釈放しろ」と言ったと証言しています。
決定的です。もはや言い逃れは難しいでしょう。カン氏には出るところに出て貰って、偽証罪つき証言をしていただかねばならなくなりました。

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詳細なやりとりはこのようだったようです。

「前原氏が理由を聞くと、菅氏は同年11月に横浜市でアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議があるとして「(当時の中国国家主席の)胡錦濤(こ・きんとう)が来なくなる」と主張。中国側は船長の釈放を要求し、政府間協議や人的交流の中止などさまざまな報復措置をとっていた。釈放しない場合、胡氏が来日しなくなることを懸念したとみられる。
 前原氏は「来なくてもいいではないか。中国が国益を損なうだけだ」と異を唱えたが、菅氏は「オレがAPECの議長だ。言う通りにしろ」と述べた。前原氏はその後、当時の仙谷由人官房長官に「首相の指示は釈放だ」と報告した」

いかにも「民主主義とは選挙による独裁である」と言い放った男らしい言いぐさです。
カン氏は船長を逮捕すると、中国様が激怒して胡錦濤来日が中止されてしまうのを恐れたようですが、それに対して「来なければ来ないでいいじゃないか」と反論した前原外相に対して「オレがAPECの議長だ。言う通りにしろ」と強い口調で判断を押しつけたというのですから、問答無用、エライのはオレ様だというわけです。
一種のパワハラです。
この人物のイラチと独裁癖(ただし内弁慶)は、この事件の4カ月後に起きる福島第1の事故時の対応においても遺憾なく発揮されて、事故調からも「マネジメント能力に大きく欠ける」と評されています。
この時も、さまざまな観点から検討するという通常の合意形成を省いて、自分だけの意見を「言う通りにしろ」と担当大臣に押しつけてしまっています。
ふー、危ない人。民主党うんぬんと言うより前に、こういう独善型タイプにだけは権力を渡してはいけません。

そのくせ、ここまでして実現した胡錦濤との会談では、まともに顔も上げられずにおどおどと下を向いてばかり。ああ、小者界の大物とはよく言ったもんです。

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いったん反対した前原氏も、やむをえずその押しつけられた結論を持って仙谷由人官房長官に面会し、「首相の指示は釈放だ」と言ったそうです。
東大全共闘として裏道を走りながらも法曹資格を持つ仙谷氏がどう思ったのか分かりませんが、その後検察に責任を押しつける汚れ仕事を負わされることになります。

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なお、この前原証言について、同席した外務官僚もそれを認めています。
つまり同一の場にいた者しか知り得ない「秘密の暴露」が複数あったことになりますから、前原証言が完全に裏付けられたことになります。

「当時の外務省幹部も「菅首相の指示」を認めた。菅氏は産経新聞の取材に「記憶にない」と答えた」(産経前掲)

かくして、2010年年9月7日に発生した尖閣沖領海内での、中国漁船による海保巡視船2隻への意図的衝突事件は、あくまで検察の独自判断による船長の釈放で幕を閉じる結果になってしまいます。

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船長釈放「那覇地検が判断、了とする」 官房長官: 日本経済新聞  

「仙谷由人官房長官は24日午後の記者会見で、那覇地検が尖閣諸島沖で日本の巡視船と衝突し逮捕された中国漁船の船長の釈放を決めたことについて「那覇地検が捜査を遂げた結果、そういう判断に到達した。それはそれとして了としている」と述べた。
那覇地検が釈放の理由として日中関係への配慮を挙げていることについては「そういうこともありうる」と語った。
また、釈放について外交ルートを通じて中国側に伝えたことも明らかにした」(2010年10月9日)
https://www.nikkei.com/article/DGXNASFL2408F_U0A920C1000000/

さて一方カン氏は既にバイデン症候群にかかってしまったのか、「記憶にございません」だそうです(笑)。
もっともツイッターでは「指揮権を発動していないからオレは無実だ」と寝言を言っているようです。

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産経  しかしイヤな顔になったもんだなぁ・・・。

「尖閣諸島は我が国固有の領土であり、尖閣諸島をめぐり、解決すべき領有権の問題は存在していない。尖閣中国漁船衝突事案は、中国漁船による公務執行妨害事件として、我が国法令に基づき、厳正かつ粛々と対応したものである。指揮権を行使しておらず、私が釈放を指示したという指摘はあたらない。— 菅直人(Naoto Kan) (@NaotoKan) September 8, 2020」

この事件は、首相自らが「強い指示を出した」ことに司法が屈して、わずか5日の拘留で不起訴処分として釈放し、帰国させてしまった事件ですが、本来、この船長を裁く権限は、一義的には海保の捜査機関にあります。
海保の捜査部局は、証拠を保全し、充分な証拠を採集した後に検察に送り、検察は身柄の拘束を継続するか否かを決定し、立件するかどうかの判断を下します。
撮影された映像や巡視船の損傷、保安官証言など大量に証拠は上がっていました。

ですからこの尖閣中国漁船衝突事件は純然たる刑事事件として処理すべきで、それ以外の判断を差しはさむ余地は本来まったくなかったはずです。
ただし、高度な政治的判断が求められる場合、特に外国との紛争になる可能性があった場合、一定の政治的判断が加味される場合があります。
こんな政治判断をする権限を法律は司法に与えてはいません。
法治国家である以上、司法・検察の権限はおのずと制限されていて、彼らにできるのは証拠に基づいて立件するかどうかだけなのです。
ここを踏み間違えると、検察が政治判断にまで口ばしを突っ込み、その権力を使って政治に影響力を行使するようになります。
昨今の検察のリークによる世論操作ぶりをみると、その気配が感じられます。

それはさておき、ではこの政治判断をすべき当時の民主党政権はどうだったでしょうか。
彼らは親中派というより、むしろ恐中派でした。
彼らは常に中国を恐れ敬い、ひれ伏して、どうにか中国様を怒らせまいの一心だったのです。
そのために民主党は、日本一の中国礼賛者である丹羽氏を駐中国大使に送り込んでいたほどです。

そんな彼らがこの事件に際して真っ先に思いついたのは、さっさと船長を釈放してしまえ、ということなかれに尽きました。
そのうえこの事件で国民が怒らないようにと、ご丁寧にも海保の衝突映像記録という決定的証拠を、国が命じて隠匿させてしまったのですから、念がいったことです。
不当な隠蔽を暴露した、当時海保保安官の一色氏は海保を追い出されてしまいました。

民主党に外交原則うんぬんをいっても始まりませんが、こういうまねをすればかえって侮られる結果となることに気がつかないというのが、浅はかなことです。
事実、その後中国はレアアースの輸出を止めることを皮切りに、領海侵犯、領空審判を激増させました。
このような中国への民主党政権の「忖度」によって、日中関係は改善されるどころかいっそう緊張していくことになります。

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           (図 中国公船等による尖閣諸島周辺の接続水域内入域及び領海侵犯数 月別)

上図は、外務省HPの中国公船の尖閣水域及び接続海域への侵入数ですが、2010年9月の漁船衝突事件直後と、2012年9月を境にして侵犯が激増しています。これは野田政権の突然の尖閣国有化があったためです。 
これについて外務省はこう述べています。


「2010年9月7日の尖閣諸島周辺の我が国領海内での中国漁船衝突事件以降は、中国公船が従 来以上の頻度で尖閣諸島周辺海域を航行するようになり、2011年8月に2隻、2012年3月に1 隻、同年7月に4隻による尖閣諸島周辺の我が国領海への侵入事案が発生した」 
「2012年9月11日に我が国が尖閣諸島のうち3島(魚釣島・北小島・南小島)の民法上の所有権を、民間人から国に移したことを口実として、同月14日以降、中国公船が荒天の日を除きほぼ毎日接続水域に入域するようになり、さらに、毎月おおむね5回程度の頻度で領海侵入を繰 り返すようになっている」

同じ民主党政権でありながら、菅内閣の宥和政策と野田政権の国有化政策がジグザグで展開された結果、日中関係はみるも無残な破局状態になったわけです。
また
中国は公船、漁船だけではなく、空軍機の侵犯も激増させています。

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このように、日中関係を回復不可能なまでにこじらせたのが、民主党政権でした。
彼らはアベの右翼外交が日中関係を冷え込ませた、などと言っていますが真逆です。
カン政権が誤った外交シグナルを中国に送った結果、中国の軍事膨張を助長したのです。
それはやがて、尖閣のみならず南シナ海へと拡大していく端緒ともなっていきます。
なんと罪深いことをやってしまたったことよ。

カン政権の「政治判断」に話を戻しましょう。
問題は、「政治判断」はありえるのですが、ならば法治国家である以上、自分は司法に対して指揮権を使って司法に中国船長を釈放させるように命じた、と、はっきりいえばいいのです。
そのカン氏が首相としてすべきだったのは、その判断を検察に押しつけるのではなく、自らの手で下したことであって、内閣として適切な外交上の判断を行い、それに基づいて最終的な刑事処分を決定した、と堂々と主張すればよかった「だけ」のことです。
そんなこともできないで、いまもなお「忘れた」はないもんです。

これはやったことの内容の正当性とは別に、法的たてつけとしては合法です。
このような刑事事件に政治判断を優先させる時のために、法務大臣の検事総長に対する指揮権(検察庁法14条但書)があります。
一応検察庁法第14条をおさえておきます。

第14条  法務大臣は、第4条及び第6条に規定する検察官の事務に関し、検察官を一般に指揮監督することができる。但し、個々の事件の取調又は処分については、検事総長のみを指揮することができる。

このよう法務大臣は指揮権を発動することが可能であったし、やるならやる以上正しい法的手続きを踏襲するべきでした。
現実に首相の直接の指示を受けてのことですから当然です。
しかし現実には、那覇地検は「那覇地検が釈放の理由として日中関係への配慮を挙げている」(日経前掲)以上、これは逆に司法が政治判断をしてしまったことになります。
そしていけしゃしゃーと仙谷官房長官は「それを了とする」なんて白ばっくれてしまい、「さっさと釈放しろ」と怒鳴ったカン氏に至っては姿形すら見えません。

というわけで問題は絞られてきました。

①もし、カン首相が直接に釈放を指示しておきながら沈黙していたのなら、司法の行政府の長による強権支配。すなわち三権分立の否定。
②今まで言われてきたように、那覇地検が政府からなんの指示も受けずに勝手に外交配慮をしていたなら、司法の政治への不当な容喙。
③①でありながら、官邸の意向に沿ったのなら不当な司法官僚による政治への「忖度」。

以上、三点について、じっくりとカン元首相に国会で証言をして頂きたいものであります。
いうまでもありませんが、①が立証された場合、カン氏が所属する立憲民主党におかれましたは、民主党政権の暗部を洗いざらい総括されることはもちろん、以後「官僚がアベに忖度したぁ」などと愚もつかないことを言わないようにお願いいたします。

それにしても総選挙が近づく今、元首相から旧民主党の元同志たちへの素晴らしい贈り物でございました。

 

2020年9月 9日 (水)

米国、駐日大使に大物起用

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11月の大統領選の前に、米国の対日政策で大きな一手がありました。
トランプは次期駐日大使にケネス、ワインシュスイン氏を起用することは既にこの3月には決まっていたのですが、議会の承認待ちだったためです。晴れて上院の承認が降りそうなために、遠からず大使交代となるようです。

前任者のウィリアム・ハガティは、トランプ政権発足時に、論功報奨として起用された人事です。
米国の大使起用は政治任用なためにこのようなことはよくあり、大統領選で有力なバックアップをしてくれた人物を駐日大使に突っ込んできます。
オバマが任命したキャサリン・ケネディやジョン・ルースも外交はズブの素人でしたし、日本とは縁なき人物でしたが、オバマ再選の有力支持者として任命された経緯があります。

まぁぶっちゃけ、駐日大使というのは、懸案事案さえなければ毒にも薬にもならない外交の素人でも勤まると思われているからです。
このハガティも今年11月の上院選出馬のため、去年7月に辞任してしまい、以後、駐日大使の空席が1年以上続く異例の事態となっていました。
私たちからみればおいおいですが、現在日米同盟黄金期であり、どうやらなんの懸案もないと考えているようです。

ケネス・ワインスタインは有力シンクタンクのハドソン研究所の所長で、トランプ政権のブレーンですから、まずは大物人事と言っていいでしょう。
しかしメディアは「知日派ではない」ということにケチをつけているようですが、これはマイケルグリーンのようないわゆるジャパンハンドラーではないというこにすぎません。
トランプ政権は、従来、対日外交を支えてきたいわゆる「知日派」であるリチャード・アーミテージ元国務副長官やマイケル・グリーン元NSCアジア上級部長、ジョセフ・ナイなどという民主党系識者たちをまとめてお払い箱にしてしまいました。

彼らジャパンハンドラー(日本を操る人)はその名のとおり、日本語も堪能で日本政財界、マスコミに多くのパイプを持ち、覚えめでたいのですが、特に日本を好きなわけでもなく、日本が強い国家になることにはむしろ否定的でした。
むしろ内心は米国戦略に変に自我を持たず「役にたつ従属国家」のままでいて欲しい、とかんがえているふしがあります。
外務省が「天の声」のように押しいただいていたのが、彼らです。

後述しますが、このような考え方と一線を画するのが、ワインスタインが所長をしているハドソン研究所系の人たちです。
ハドソン研究所系は日本にパイプを少ししか持たず、その貴重な一本が他ならぬ安倍氏です。
トランプ政権は彼ら「知日派」を一掃してしまい、今回駐日大使にもハドソンの所長を抜擢しました。

トランプ政権で特に関係が深いのはポンペオ国務長官とペンス副大統領のふたりで、今回の人事も彼らの強い推挙があったことはまちがいありません。
2018年秋に「新冷戦」の始まりともいわれる対中政策に関する演説をした場所が、ハドソン研究所でした。
このふたりは何回かハドソン研究所で講演をしており、安倍氏も講演をおこなったことがあります。

「ワインスタイン氏は1991年にハドソン研究所入りし、2011年から所長を務めた。同研究所はトランプ政権に近い保守系シンクタンクの一つで、ワインスタイン氏は政権中枢との関係の構築に努めてきた。
その一人がペンス氏だ。同氏が2018年秋に「新冷戦」の始まりともいわれる対中政策に関する演説をした場所がハドソン研究所だった」
(JETROビジネス短信8月5日)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/08/95271e0304b64d7a.html

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産経

このワインスタインの大使起用は日本にとって大変に好ましい人事で、待望の人来ると言ってよいでしょう。
彼の上院公聴会での証言を聞いてみましょう。

「ワインスタイン氏は冒頭、日米首脳の友好関係や頻繁なやり取りを経て、日米関係は極めて緊密だと証言した。日米同盟をインド太平洋における平和と安全、繁栄の礎と評価するとともに、大使就任後は北東アジアの課題に対応すべく、日本にさらなる責任の負担を求めると述べた。経済面では、2国間の包括的な貿易協定を目指すとし、またインド太平洋における経済協力を強化する方針を示した。
質疑応答では、ベン・カーディン上院議員(民主党、メリーランド州)からの、TPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定)未加盟の米国にとって中国への対抗手段として日本は重要とのコメントに対し、ワインスタイン氏は、日米は防衛・経済分野に加え、エネルギー分野やデジタル貿易を含む政府一体での連携に取り組んでおり、大使としてこれを継続すると宣言した」(JETRO前掲)

ここで注目すべきは、ワインスタイン次期駐日大使が、ダイヤモンドセキュリティ構想(Free and Open Indo-Pacific Strategy/FOIP ) の米国側の推進者のひとりであることです。

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「セキュリティダイヤモンド構想とは、安倍晋三首相が2012年に国際NPO団体PROJECT SYNDICATEに発表した英語論文『Asia’s Democratic Security Diamond』に書かれた外交安全保障構想。
オーストラリアインドアメリカ合衆国(ハワイ)の3か国と日本を四角形に結ぶことで4つの海洋民主主義国家の間で、インド洋と太平洋における貿易ルートと法の支配を守るために設計された。中国の東シナ海南シナ海進出を抑止することを狙いとする。日本政府としては尖閣諸島領有問題中東からの石油輸出において重要なシーレーンの安全確保のため、重要な外交、安全保障政策となっている。インド太平洋、Free and Open Indo- Pacific Strategyの概念の確立、アメリカの対アジア戦略に「Indo-Pacific economic vision」(インド太平洋構想)として採用された」(Wikipedia)

セキュリティダイヤモンドを構想したのは安倍氏で、米国がこれに追随したという、日米外交史上初となる逆転現象がここに誕生しました。
いつまでも日本が米国に追随している、という古くさい発想でしか日米関係をみられない気の毒な人たちは佃煮にするほどいます。
たとえば内閣参与をしていたという自称保守の藤井某もそんなことを言っていましたし、デニー知事のブレーンと考えられる新外交イニシャチブ(ND)の猿田女史もそっくり同じことを言っています。

「では日米関係、「アメリカに言われて、日本がそれに従う」に変化はあったのでしょうか。結論からいえばまったく変わっていません。反論もせず、自発的にアメリカに従属しようとしている構造もこれまでと同じです。むしろ、この「自発的対米従属」の姿勢は加速度的に増しています。
そもそも、トランプ大統領は「日本のことなどどうでもいいと思っている」というのが、日米外交ウォッチャーの多くの一致した意見です。にもかかわらず、「友情」を唯一の方針として安倍政権は「抱きつき外交」を行っています」(猿田ND)
https://www.nd-initiative.org/contents/7888/

なにが「抱きつき外交」だっての(苦笑)。今の米国の基本戦略であるダイヤモンドセキュリティを考えたのは安倍氏、TPPとして広大な環太平洋経済圏を実現させたのも安倍氏です。「抱きついた」のは米国のほうですよ。
こういう分厚い偏向眼鏡をかけているうちは、今のダイナミックに変化する日米間や太平洋・インド洋が判る道理がありませんね。

それはさておき、このセキュリティダイヤモンド構想は、一帯一路に対抗して構想されました。
それは下図をみれば、一帯一路構想をぶった切る形でセキュリティダイヤモンドが展開していることからも明らかです。

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「協力国は中国の意図が略奪的なものだと警戒しており、インフラ資産を失うリスクがあると考えている」。ワインスタイン氏は論文などで、中国が掲げる広域経済圏構想「一帯一路」に警鐘を鳴らしてきた。こうした認識は、ペンス氏やポンペオ氏らと完全に一致する。
インド太平洋戦略でもオーストラリアなどとの連携の重要性を提唱しており、日本政府の立場もよく理解しているとされる」(日経3月14日)

このように太平洋・インド洋セキュリティダイヤモンド構想を熟知している新大使の着任は、わが国にとって願ってもないことです。
またワインスタインは中国の不法な侵入からネットワークを守るクリーンネットワークの設立者のひとりです。

アメリカのマイク・ポンペオ国務長官は8月5日(現地時間)、アメリカの通信ネットワークから中国の影響力を排除する「クリーンネットワーク」という構想を発表した。TikTokなどの中国製のスマホアプリを利用できなくするほか、中国企業のクラウド事業を制限したい考えだ。
ポンペオ氏は同日のTwitterで、「アメリカの最も機密性の高い情報を中国共産党の監視状態から保護することにより、クリーンネットワークを拡大しています。私たちは自由を愛する国々や企業に参加するよう呼びかけます」と投稿している」(ハフィントンプレス8月7日)
https://news.yahoo.co.jp/articles/864c31c34479292514c74922c09b699220b3ec2b

日本はこのクリーンネットワークの取り組みにおいて大きな遅れがあり、いまだ丸腰の状態です。
ワインスタイン次期駐日大使から的確なサジェスチョンを受けたいものです。
なお、クリーンネットワークの日本における担当省庁は総務省であり、菅氏はこの通信情報行政の仕事師だといわれています。
携帯料金値下げ公約などと絡んで、クリーンネットワークがどのように進展するのか、興味深いところです。

大統領選次第で短命に終わる可能性もありますし、かんじんの安倍氏が辞めた後の着任はつくづく残念ですが、後継総理は決まっているので、なんとかなるでしょう。

 



2020年9月 8日 (火)

石破氏は自衛隊の憲法書き込みには反対だそうです

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石破氏のことを考えると、アホンダラさんのご指摘どおり、「ボク、だ、だめ、感覚的にもダメ。お願い、顔みせないで」というかんじになるので、もうこのくらいにと思っていたら、産経がとどめのような記事を書いていたので、もうホントこれだけ。
元記事には岸田さんも触れていましたが、ゲル氏の部分だけ抜粋しました。(岸田さん、ごめん)

「石破氏は、安倍晋三首相が提起した憲法9条2項への「自衛隊」明記について、「憲法に書くだけで何も変わらないということでいいのか」と疑念を呈した。
石破氏は、野党時代の平成24年に策定した党憲法改正草案の有効性に言及した上で、30年に決めた党改憲4項目のうち、参院選の「合区」解消などを優先すべきだと主張。世論を喚起するため、衆参両院の憲法審査会と自民党内で自由討議を毎週実施すべきとの考えを示した。
皇位の安定継承については、「天皇陛下の存在があって初めて日本国はある。皇室がなくなったらどうするのか。女系という選択肢は排除されるべきではない」と述べた。総裁選での全国遊説の見送りをめぐっては「テレビ中継などを通じ、国民や党員にわかりやすく、心に響くように語っていく」と強調した」(産経9月7日)
https://www.sankei.com/politics/news/200907/plt2009070027-n1.html

ほー、石破さんは自衛隊を憲法に明記するのは「とりあえず反対」だということです。
「とりあえず」と評したのは、この人特有のナニを言いたいのかまだこるっこい表現を使っているからで、「合区解消」が先で、自衛隊の明記は「憲法に書くだけではなにも変わらない」からだそうです。
ついでにもうここまでくるとなんでも言ったら、という気分になりますが、女系天皇容認だそうです、はは(虚しく笑う)。

だから、「とりあえず自衛隊の合憲に反対」だと解釈します。
それにしてもこの人、自衛隊は憲法に書き込まない、国軍として認めない、と共産党のように歯切れよく言えばいいのに、ぐったらぐったら自分にしかわからない(というか自分でもわかってるんだろうか)理屈をこね回すからイヤになります。

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ここで彼が持ち出した2018年3月の自民党改憲4項目をおさえておきます。例によってメンドーだったら4項目だけおさえて飛ばして下さい。

改憲4項目
①自衛隊の明記
②緊急事態条項
③合区の解消
④教育無償化

具体的には以下の条項の改訂となります。

●第9条改正
 第9条の2
 (第1項)前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。
 (第2項)自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。

緊急事態条項
第73条の2 (第1項)大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときは、内閣は、法律で定めるところにより、国民の生命、身体及び財産を保護するため、政令を制定することができる。
 (第2項)内閣は、前項の政令を制定したときは、法律で定めるところにより、速やかに国会の承認を求めなければならない。
 (※内閣の事務を定める第73条の次に追加)
 第64条の2
 大地震その他の異常かつ大規模な災害により、衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の適正な実施が困難であると認めるときは、国会は、法律で定めるところにより、各議院の出席議員の3分の2以上の多数で、その任期の特例を定めることができる。
 (※国会の章の末尾に特例規定として追加)

●合区の解消
第47条 両議院の議員の選挙について、選挙区を設けるときは、人口を基本とし、行政区画、地域的な一体性、地勢等を総合的に勘案して、選挙区及び各選挙区において選挙すべき議員の数を定めるものとする。参議院議員の全部又は一部の選挙について、広域の地方公共団体のそれぞれの区域を選挙区とする場合には、改選ごとに各選挙区において少なくとも1人を選挙すべきものとすることができる。
 前項に定めるもののほか、選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。第92条(略)

●教育の充実
第26条3項(略)
第89条(略)

一目見て判るように、自民党改憲は優先順位をつけて表記してあります。
ですからゲル氏が言うように、合区の解消のほうが重要だから、9条の改正ハンタイなどと考える自民党員は皆無でしょう。
とうぜん、言う必要もありませんが、改憲の焦点は9条改正です。
いや憲法改正は合区解消問題のことだ、などといったら9条の会の皆さんからも失笑を買っちゃういます。
そして余力があれば、緊急事態条項が今年の新型コロナの対応をめぐっての緊急事態法の不備で露呈していますから、優先順位から言えば2番目です。

たぶん石破氏に好意的に考えれば、合区うんぬんは眼くらましで、要は2項の「戦力放棄」を削除せにゃならんからイヤということでしょう。
これが彼の年来の持論で、安倍氏の自衛隊を明記するという加憲論に対して、妙に原則論者になって2項削除しなければやる意味がない、なんて言っていました。
一見、この2条削除論というのはもっともらしくみえるのです。私も原則論だけでいえば、そうだとはおもいますもん。

●憲法第9条
日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2.前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

この9条はGHQの示した草案どおりのほぼ丸のまま受け入れています。

●GHQ案
Chapter II Renunciation of War
Article VIII War as a sovereign right of the nation is abolished. The threat or use of force is forever renounced as a means for settling disputes with any other nation.
No army, navy, air force, or other war potential will ever be authorized and no rights of belligerency will ever be conferred upon the State.

第II章戦争放棄第8条国の主権としての戦争は廃止される。 脅威や武力の行使は、他の国との紛争を解決する手段として永久に放棄される。
陸軍、海軍、空軍、またはその他の戦争の可能性が認可されることはなく、交戦権は国家に付与されない。

今回は、これが当時の戦勝国であり日本を軍事占領していた米国の手によって直接に書かれたもので、日本はそれをほぼ丸呑みしたといことだけわかっていればいいでしょう。
ただし、です。日本はこのGHQ案をそのまま丸呑みすると、どえらいことになると判っていました。
だって国家の自然権たる、侵略に対する自衛戦争まで禁じられてしまうからです。
そこでささやかな抵抗が行われました。それが世に言う「芦田修正」です。

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芦田修正は第90回帝国議会の憲法改正小委員会で加えられた修正です。
これはなかなか手がこんでいる面従腹背で、被占領国のしぶとさとでも言うべき内容です。
「芦田修正」は、第9条そのものは手をほとんど入れず、憲法冒頭の前文にこのようなフレーズを慎重な表現で書き込みました。

●憲法前文(抜粋)
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。

今や毎日のように領海に攻め込んで来る中国を見ると、よくもまぁこんな寝ぼけたことを、前文という理念を述べる部分に書き込んだもんだ、と思うような言いぐさですが、このふにゃけた文言は、実は9条1項の平和条項が受けて、さらに2項「前項の目的を達するため」が受け止めているという二重底構造になっています。
軍事占領下にあって、「銃剣とブルドーザー」で書かれたGHQ憲法を無理無体に押しつけられた日本政府は、こんな隠し小部屋のようなやり方で抵抗したのです。

つまり、日本は「国権の発動たる戦争」、すなわち国の紛争解決の手段としての侵略はしないが、平和は希求する。
したがって、平和を守るための自衛戦争、あるいは国際社会の平和構築のためには努力を惜しまないのだ、ということになるわけです。
このトリッキーな手法によって、侵略のための陸海空軍は持たないが、そうではない自衛力は整備できるということになり、さらには国際平和活動(PKO)には積極的に参加していく、という読み替えが可能となりました。

といっても、自分から「侵略のための軍隊を保有する」なんて書く国はないんですがね。
だから「芦田修正」をフルスペックで政府見解とするなら、いびつな謎解き風ではありますが、なんとかなることはなるのです。

●憲法全前文(抜粋)
われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。 

しかし、歴代日本政府は「芦田修正」を丸のまま採用せず、自衛隊は「戦力」ではなく、我が国を防衛するための必要最小限度の実力組織であると解釈して合憲としてきましたが、もう無理がありすぎます。
わが国はとうにPKOや海賊対処などの国際警察活動に協力してきているからです。

そしてこんなあやふやな憲法解釈だと、近年の緊迫化する北東アジアの安全保障環境の激変に対応した、「いずも」の空母化、長距離巡航ミサイル導入、敵基地攻撃能力の取得などと言った抑止力強化の動きと整合しないのは明らかだからです。

そしてもうひとつ、「芦田修正」でも書かれていない肝心なことが残されたままでした。
この芦田修正の部分解釈で、実に70年やってきたのですが、矛盾は一貫して残り続けました。
それは9条には漠然と「日本国民」とあるだけで、それはいかなる国家機関が行うのかという主語が欠落していたからです。
国軍、ないしは正規軍規定が憲法にはないのです。
こんな国軍規定がない基本法なんて世界ひろしといえど日本くらいです。
ですから、自衛隊は長きに渡って不当な差別を受ける職種でした。

今自衛隊が高い国民からの支持と信頼を集めているのは、自衛隊の涙がでるような献身と自己犠牲のたまものであって、自民党のおかげではまったくありません。


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このような、自衛隊を国軍として認めない風潮を作ってしまったのは、ズバリ言って過去の自民党がへなちょこだったからです
軽武装国家を提唱した吉田首相もいつか必ず改憲すると心に決めていましたし、二つの安保を乗り切った岸、佐藤内閣当時くらいまでは改憲は当たり前の自民党の1丁目一番地的綱領でした。
ところが後に続いた連中がいけません。
80年代から自民党を支配した野中、加藤、山崎、古賀、宮澤、そしてそれに連なる子分たちには揃って親中、改憲なんてやる気はまったくなく、実にその空気は安倍氏にいたるまで自民を支配し続けてきました。
安倍氏がバッシング覚悟で粘り強く改憲を提起し続ることで、やっと自民党は自分らの党是に改憲のふた文字が刻んであったことを思い出したのです。

長くなりましたので、過去ログで憲法問題はそうとう数書いてきましたのでお読み下さい。
というわけで冒頭の石破氏の「合区解消が先。自衛隊明記は不要」論というのは、特に珍しい意見ではなく、80年代自民党の亡霊諸氏たちとまったく同じ、なにをいまさらのカビの生えた意見です。

 

 

 

2020年9月 7日 (月)

石破氏の「沖縄3公約」を実現したら

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石破氏がこんなことを言っています。公平を期すために報道全文を引用します。めんどうだったら要約だけどうぞ。

「石破氏、辺野古移設「これしかない、だけが解決策と思わない」 「唯一」に疑義呈す
東京】自民党の石破茂元防衛相は2日、共同通信加盟社論説研究会で講演し、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設について「これしかない、とにかく進めるということだけが解決策だとは思っていない」と述べ、辺野古新基地における米海兵隊の抑止力維持に高速輸送能力の確保を検討することで現行計画を検証したい考えを示した。安倍政権が繰り返す「辺野古が唯一」とする方針に疑義を呈した格好だ。さらに日米地位協定見直しにも前向きな姿勢を示した。
石破氏は、来年9月に任期を迎える安倍晋三首相の後任を巡り世論調査では高い人気が示されている。
陸上配備型迎撃システム「イージス・アショア」が、技術的課題とコスト、工期を理由に合理的でないことから計画が断念されたことから、辺野古移設も同様に不合理で見直す考えはないかと問われた石破氏は「コストの問題も時間の問題も技術の問題も指摘の通りだと思う。ただ海洋工学の専門家ではないので、本当にどうかはきちんと時間をかけて検証しないといけない」と述べ、辺野古新基地建設の課題を検証したい考えを示した。
 沖縄や全国知事会も求める日米地位協定の改定については「地位協定は運用の改善はもはや限界だと思っている、これは変えてかえていかないと駄目だというのは私の信念に近いものだ。(防衛庁)長官のときに沖縄国際大学にヘリがおちたときに、私の実感として持っている」と述べ、見直しに前向きな姿勢を示した」(琉球新報7月2日)
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1148372.html

●発言要約
①辺野古移設はこれしかないというのは間違い。
②とにかく進めるというのは間違い。
③高速輸送(船)を確保すればオスプレイはいらない。
④埋立作業が合理的かどうか時間をかけて検証していきたい。
⑤日米地位協定の見直し。

③で彼はオスプレイはいらないとまでは言っていません。しかしなんのために米海兵隊が「高速輸送能力の確保」が必要なのかといえば、彼の頭の中では「オスプレイの代わり」としかおもえません。
これは実はすでに新外交イニシャチブ(ND/デニー知事のブレーングループ)が提言している、自衛隊がマリントランスポートから借り受けたナッチャンworldともう一隻を指すと思われます。
防衛大臣経験者で、しかも軍事知識は党内随一と自称している石破氏とはおもえません。オスプレイとナッチャンworldは別次元です。

オスプレイはいわば進化した高速大型ヘリ(ヘリではありませんが)とでもいうべきもので、CH46の代替として配備されました。

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ナッチャンworld

一方ナッチャンworldは、強襲揚陸艦を保有しない自衛隊が苦肉の策で民間から借り上げているもので、米軍は本格的強襲揚陸艦を日本に配備していますから、なにをいまさらナッチャンなのよで、オスプレイの代替装備にはなりえません。
オスプレイは、強襲揚陸艦に先行して橋頭堡を築き、艦艇で送り込まれる本隊の受け入れ準備をする役割だからです。
ですから、この発言はオスプレイ配備の見直しを米国に要求するととれます。

そのうえ憂鬱になるのは、石破氏は政権をとったらどうやら、「とにかく工事を進めるのではなく、移設工事が合理的かどうか検証が終了するまで凍結」と言うつもりのようだからです。
いつまでその「検討」がかかるかわかりませんが、工事についてはそのつど技術的な報告はなされているはずで、それなりに工事が進んだ現時点で「検討のための凍結」ということは、とりもなおさず「白紙撤回」と同じ意味を持ちます。
すくなくとも沖縄県や反対派はそうとります。

いまや移設問題は、石破氏が「合理的検討」を加えて済む問題ではありません。
反対派は「すべての移設反対」と主張しており、県内のいかなる場所、それが仮に既存の基地内であってもすべて「新基地」だから反対という立場を明らかにしています。
移設問題にはシロかクロしかなく、シロなら「新基地だから反対」、クロなら「すべての移設反対」と条件反射のように返ってくる問題なのです。
穏やかな話しあいの余地はとうにう奪われています。石破さん、そんなことも知らなかったんですか。
凍結しても県が「合理的移転案」になど乗ることは絶対にありえません。
反対運動の主導権を、共産党が握った時からそうなったのです。

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huffingtonpost.jp

さらにオスプレイ配備についても、米国に対して「ナンチャンworldみたいなものがあればいいんだから、配備を見直して欲しい」とでも言うつもりのようです。
もしそう言ったら、沖縄県や反基地運動家たちは随喜の涙を流して、石破候補に一票入れに走るでしょうね。
ありゃ、彼らは自民党員じゃなっかたっけ、残念。今回の総裁選に野党もいれられたら総理確実だったのにね。

そして⑤の日米地位協定の見直しですが、これは今回岸田氏も言っていることですし、安倍氏も仲井真元知事にその見直しを約束したことがありますから、特に新しいことではありません。
菅さんも似たようなことは言うでしょう。いわば与野党を問わず総論賛成の類の主張なんですよ。
問題は現実になにをするか。沖縄大学ヘリ墜落事件当時防衛大臣だったと、まるで沖縄の悲惨をまのあたりにしたといわんばかりの言い方を石破氏はしていますが、じゃあそれで石破さんあなたいったいナニをした?
米軍と1次裁判権返還交渉のひとつでもしたのですか。
いつもこの調子です。耳に快い高めのボールを上げて、実際はなにもできない、なにもしない。

日本側もその都度、たとえば元米兵であったシンザト殺人事件後には、今まで曖昧だった軍属規定を厳格化しSOFAステータスをしないなどの改善を加えてきています。
関連記事『米軍「軍属」という不可解な地位について』
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2016/05/post-5f24.html

今、一次裁判権という難題だけが残されたトゲになっていますが、これは米国が日本司法の長期拘留制度や、弁護人ぬき取り調べといった司法慣習に「米国市民の保護」の観点から同意できないからです。
菅さんはその裏面交渉を全部知っていますから、やる以上したたかに対処するはずです。口先だけの誰かさんとは違います。

問題は、以上三点をセットで米国にぶつけた場合ですが惨憺たるものになることでしょう。
鳩山氏がやった「国外、最低でも県外」並の破壊力があって、日米同盟は大きく揺らぐことは確実です。
そりゃそうでしょう。日米両国政府の国際的合意を事実上「凍結」し、しかもオスプレイ配備にまで文句をつけ、そのうえに日米地位協定は見直せというんですから、まさにその名のとおり石を
破壊するような負のパワーです。

トランプが相手ならその瞬間席を蹴られることは確実ですし、ボケているバイデンすら、「同盟国の約束ひとつ守れないのか」と言うことでしょうな。
そもそもトランプは、石破氏のようなネチネチした陰湿なしゃべり方をする奴は虫酸が走るほど嫌いですから、会話している姿さえ想像できませんけど。
かくて安倍氏が営々と築きあげてきた日米同盟黄金時代は終了し、またもや民主党政権時代に逆戻りします。
しかも米中対決がいつ熱戦に転化するかわからない、この次期にです。
それが判っていて、石破氏は「日米同盟を機軸」になんてお気楽なことを言っているのでしょうか。

そもそも石破氏は、移設問題や地位協定は当事者だったはずです。
主党政権時代の2010年初頭、自民党沖縄県連は、ハトが吹かせた風に流されて普天間飛行場の県外移設を公約に掲げてしまいました。
その結果、当時の県知事仲井眞氏も、「県外移設」をいわざるを得ない立場に追いやられます。

この自民の寝返りとも取れる移設反対公約は、政府の方針と食い違ったローカル公約にすぎませんが、国策と違うことを掲げる手前、その時県連は党本部にお伺いをたてています。
その時の党本部の政調会長が、誰あろう石破氏です。
この党本部容認によって、共産党、社民党、社大党、そして自民まで含んだ擬似的「オール沖縄」が生まれてしまい、以後移設問題は合理的な話あい自体が不可能になってしまうという大きな後遺症を残すのです。

そして2012年12月の政権奪還で、やっと県連は元の「移設容認」に復元したのですが、自民のはしごをはずされた形になった仲井眞知事の立場は孤立した厳しいものになってしまいました。
自民本部は全力で、知事を守らねばならない道義的責任がありました。
当時安倍首相は仲井眞氏を擁護し、さまざまな財政援助も含めた支援を送ったのですが、幹事長になっていた石破氏は何ひとつ仲井眞氏を助けるでもなくつき離しました。

それを横目で見ていたのが翁長氏です。
翁長氏は仲井眞氏と手を切り、県連を割って出て行く決心をし、左翼陣営と手を握るクーデターを行います。
この翁長分裂劇によって、自民党県連は数年間足腰もたたないほどの壊滅的打撃を被ります。
このことに対しても、石破幹事長はまたもや傍観しているのみで、有効な分裂阻止のひとつも打てないまま、県連再建も放棄しました。 

その彼が、いまさらどの口を下げて「移設だけだと思わない。正面から向き合いたい」だというのでしょうか。
今まであなたはなんどとなく沖縄と正面から向き合わねばならない立場でした。
味方を裏切って逃げを決め込んできたのは、他ならぬあなたではありませんか。

でもだいじょうぶ。いくら天下をとっても、あなたナニもやりゃしませんから。

 

 

 

2020年9月 6日 (日)

日曜写真館 鴨に帰心のすこしづつ

1810_026 さざ波のきらめく湖面鴨群るる  有山光子

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きらめける波にたゆたふ鴨の群 網野茂子
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池守の動けばうごく鴨の群  水野あき子

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鴨の群れゆっくり見たし日の暮れは 松沢久子






2020年9月 5日 (土)

石破「4条件」をお忘れか

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前回2018年8月の総裁選を覚えていますか。
あの時も石破氏は似たようなことをやっています。基本この人、3ツしかメニューがありません。

ひとつは安倍叩きです。まぁこれはいいでしょう。挑戦者としてはディスるのも戦術のひとつですからね。
安倍氏にダラダラと愚痴とも批判ともつかないことを垂れ流し続けてきました。
そもそも現職与党議員なんですから、ただの批判ではなくオレならこうするという政策論で勝負すべきなんですが、毎度「国民の納得をえられない」調ですから困ります。
これが朝日・毎日やテレビなどのスチャラカ陣営にいたく気に入られてしまい、いまや「自民党内良識派」として下にも置かない待遇を受けています。
反面、とうぜんのこととして自民党員からはまんべんなく「嫌われゲルの一生」みたいになっちゃいました。

しょうがないよね。石破さんの派閥がいっかな19人から増えないのは、面倒見が極端に悪いからです。
派閥の親分にふさわしいことをなにもしないで、オレは無派閥論者だ、政策研究のために作ったんだなんて言われてもねぇ。
無派閥なら菅さんも一緒ですが、彼には超派閥的信頼があります。
派閥なんてしょせんオレが総裁になるだけ、と思っているふしがある石破氏との差でしょうね。

一方ディフェンディグ・チャンピオン側、今回は安倍氏を引き継いだ菅さんですが、安倍氏以上に口撃には乗ってこないのは目に見えています。
いままでは野党とメディア受けする「独裁者アベ」と言っていればよかったんですが、17の時からダンボール工場で働いて大学に通った「地上の星」をクサせば、お前は銀のサジをくわえて生まれてきただけだろう、っていわれるだけのことです。
今回もメディアに朝から晩まで「世論トップの首相候補」という触れ込みで登場していますが、さてどうなりますことやら。

ふたつめは、とっくに党の政界を引退したはずの長老たちに取り入ることです。
党の長老たちは、自分を遥かに超えて大宰相となってしまった安倍氏に、男の嫉妬をしていますからね。

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前回は大派閥の竹下派に取り入りました。
竹下派はかつて権勢を誇った経世会の末裔ですが、前回総裁選時には独自首相候補がいないまま昼行灯になりかかっていました。 
石破氏は、この竹下派の参院重鎮の青木元参院幹事長に取り入り、鶴の一声で石破支持を決定させてしまったのですからたいしたもんです。

青木翁は、古賀誠氏、山崎拓氏、故野中広務氏らと並んで、いずれ劣らぬ古い自民党の政治的ゾンビのような人物です。 
上の写真右側の人ですが、この娑婆のアクが抜けない亡霊たちは、無節操に共産党「赤旗」にまで登場してアベヤメローと叫んでおられます。
下の写真は「赤旗」一面トップで改憲反対を唱える古賀氏ですが、この人は今回の総裁選でも岸田氏の足をひっぱりまくっていました。
麻生氏は岸田氏に大宏池会抗争構想をぶつけ、統合する条件として、麻生氏は年来の政敵である古賀氏の排除を迫ったそうです。
結局、煮え切らない岸田氏はウンといわず、この時点で岸田氏が首相となる道は閉ざされたといわれていまふす。
一体なんなんですかね、とうに辞めたとはいえ幹事長までやった人間が共産党の機関紙でこんなことを言い散らし、自派閥の有力候補の未来を閉ざしてしまうとは。
 

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当時この青木翁は、竹下派幹部を呼び集めて安倍に入れるな、石破で派閥をまとめろと命令したようですが、衆院の竹下派には現内閣外相の茂木氏や、後に今の厚労相となる加藤氏がいますから、冗談ではないと一蹴されました。
そこで諦めきれない青木翁は、参院に因果を含ませてしたがわせたために、竹下派はそれまでもダカついていた上に衆参が分裂というひどいことになってしまいました。
 

今回は、茂木さん、加藤さん共に次回の総裁選を狙える位置にありますし、特に茂木さんは河野氏などと並ぶ若手のホープのひとりです。
もう前回のようなバカな分裂劇はありえません。
石破氏に流れる派閥は皆無で、自分の派閥すら足元から既に4人も切り崩されているようなていたらくです。

となると、ゲル氏に残されたのは三つ目の地方党員票しかありません。
前々回の総裁選で石破氏
は地方票165票で第1位、安倍氏87票でしたから、さぞかしゲル氏今でも思い出してはムフフと思っていることでしょう。 
ゲル氏は、安倍氏から当時安保法制などで困難をきわめていた防衛大臣を要請されたのを断って、あえて地方創生大臣なんていうナニをしているのかさっぱりわからない大臣になりたがったのです。
だって公費で地方行脚して、地方党員らと酒飲んで支持を固められますからね。
1年中自分の選挙運動しているようなもの。今回も他候補が官房長官や政務会長をしながら選挙戦をしているのと大違いです。
なんのこたぁない。ゲルほどヒマな候補はいないんですよ。

地方創生大臣になったのはいいですが、政策プランひとつありませんでした。
後に菅氏がやるようなふるさと納税というようなアイデアがあってやりたがったわけじゃなくて、ただ地方票を掘り起こせるからというだけのことてす。
今回も一極集中なんじゃら大臣作るって言ってますが、あのね官房を持たない肩書大臣だけをいくら作っても、かんじんなこれという政策がなければなにもできないの。

いつもこの調子で、具体的政策提言なんか聞いたことがありません。
辺野古移設は

結局、石破氏が初代地方創生大臣としてやったことは、あの悪名高い「石破4条件」を作っただけでした。
この「石破4条件」を検証すると、彼が地方経済をどう考えているのか、官僚の規制権限をどうとらえているのかがよく分かります。

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この「石破4条件」は2015年6月30日に閣議決定されたものですが、要は、安倍氏が進める国家戦略特区に対抗して、既存の文科省や獣医師会の規制緩和反対の動きに乗ったものでした。 
「石破4条件」は、獣医学部新設に関して新たにこの4条件を押しつけました。 


①新たな分野のニーズがあること。
②既存の大学で対応できないこと。
③教授陣・施設が充実していること。
④獣医師の需給バランスに悪影響を与えないこと。

 この「石破4条件」が作られた経緯は、2017年7月18日の産経『加計学園 行政は歪められたのか(上)』に詳細が載っています。
https://www.sankei.com/premium/news/170717/prm1707170008-n1.html
 

2015年9月9日に、石破氏が衆院議員会館の自室で日本獣医師政治連盟委員長の北村直人氏と日本獣医師会会長の蔵内勇夫氏に言った言葉が明らかになっています。 
この時、獣医師会会長はなんと言っていたのでしょうか。
スゴイですよ、ぜったい獣医学部ができない新設条件に仕立て上げたと言っているのです。


「学部の新設条件は大変苦慮しましたが、練りに練って、誰がどのような形でも現実的には参入は困難という文言にしました」(産経前掲)

そして石破地方創生大臣は、これをニコニコと受け取って、閣議決定に押し込んだのです。
つまり
石破氏は地方創生大臣でありながら、獣医学新設を長年求めてきた愛媛県を裏切って、業界団体の獣医師会側に加担したわけです。
スゴイ「地方創生」もあったもんです。

この「石破4条件」によって、愛媛県が長年熱望してきた新設獣医学部はまたもや門前払いとなりかけました。


「このいわゆる「石破4条件」により獣医学部新設は極めて困難となった。獣医師の質の低下などを理由に獣医学部新設に猛反対してきた獣医師会にとっては「満額回答」だといえる。北村は獣医師会の会議で「(4条件という)大きな壁を作ってもらった」と胸を張った」
(産経前掲)

一方、規制緩和を進める安倍氏側は内閣府に国家戦略特別区を作らせ、この文科省が作った岩盤規制を打ち破って、せめて愛媛にだけでも特区扱いで新設学部を作るのを認めようとしてきました。
ちなみに規制緩和に反対の旗を振った当時の文科省事務次官こそが、かの「右傾化を深く憂慮する一市民」の
前川喜平氏です。
この人物は公文書をリークしてまで、安倍氏を陥れようと画策しました。

文科省、獣医師会、そして石破氏などは、ここまでハードルを上げれば愛媛県は諦めるだろうとタカをくくっていたようですが、驚くべきことに愛媛県と加計学園の熱意は、この新たな障壁である「石破4条件」をクリアしてしまったのです。 
「4条件」の検討期限が2016年3月だったことにより、ここまでに文科省がダメ出しを挙証しないと時間切れタイムアウト、文科省の負けが決まってしまったことになってしまいました。
文科省と獣医師会の完敗です。

しかし、この敗北を根に持った前川前事務次官は、在任中は得意の処世術である面従腹背で審査すること自体は認めたものの、退職後はあの陰湿な延長戦で継続したというわけです。
それも加計学園長と安倍氏が若いとき面識があったから「忖度」したんだ、という愚にもつかない理由です。
そして左翼メディアがこぞってこの「忖度」論に乗り、かくしてモリカケ騒動一色で政局は2年ちかく塗りつぶされることになります。

この時に、「石破4条件」を作った当事者であるはずの石破氏はどうしていたでしょうか。
本来は説明のひとつもあっていいでしょうね。当事者ですから。
ところがゲル氏ときたら、妙に他人ごとのようにしれっとして、「安倍首相ははきちんと説明しろ」みたいなことを言いだしました。
当時
、安倍氏のみならず自民党全体が危機に際している時に、自分が関わったことすら忘れて人ごとのような批判ができてしまう、これがこの人の特質です。
絶対に叩かれる側には行かない、いつもマスコミのいい子でいたい、泥は絶対にかぶらない、被りそうになれば真っ先に逃げる、安全地帯からもっともらしい批評をする、これがこの石破茂という人物の一貫した処世術のようです。

それはさておいてこの加計事件のいきさつをみれば分かるように、石破氏は地方自治体の十数年に渡る努力を、業者団体・文科省官僚とつるんで潰す側に回った人物でした。
そうならそうと、モリカケ事件の火中で、オレは規制緩和反対、新設獣医学部なんかひとつもいらない、と論陣を張るべきでした。
しかし、ゲル氏はそういうことはせずに、肝心な政策の中身は言わず、
政権と党をメディアに無責任に批判する「正義の味方」づらすることで、保身を図る人なのです。

ゲル氏は言っていることだけが野党みたいなのではなく、やってることが野党体質なのです。
この人物のことです。
万が一首相になっても、ひとつ躓くとすぐに政権を手放して、安全地帯からメディア相手に「いやアレはねぇ、アベさんの置き土産だったんですよ。私も苦労させられました。国民はもっと怒らないといけませんね」とサンモニで関口翁に愚痴垂れそうです。

この人は、政治家うんぬんという前に、人間として深いところに欠損があるのです。
こんな石破派がひとりも増えなかったのは当然すぎるほど当然です。
この人物だけには総理になって欲しくはありません。

 

 

2020年9月 4日 (金)

菅氏に後継を託したのは安倍氏だ

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安倍辞任表明の舞台裏情報が入ってきています。
たぶんこれがもっとも真相に近いのではないかと思われるのが、安倍氏主導説です。
情報ソースはいくつかありますが、複数が同じ説を唱えていますから、信頼度は高いと思われます。
私なりにかみ砕いてお話していきます。

結論から言いましょう。今回の辞任表明とその後の菅総理へのお神輿を作ったのは、他ならぬ安倍氏その人です。
二階氏は後から聞かされて、幹事長派閥を失わないために、焦ってこの御輿に飛び乗ったのです。

安倍さんが辞任を真剣に考え始めたのは、この夏でした。
理由は体調です。今まで抑え込んできたアサコールが効かず、激しい腹痛に常時さらされるようになりました。
たぶん平和式典や終戦記念日前には、通常の執務を執ることすら困難なほど悪化していたと考えられます。
それはこの両式典の時に、安倍さんが声も満足に出なかったことを思い出していただければ、おわかりになるでしょう。

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長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典が開催、安倍晋三首相があいさつ ...

通常なら即刻入院をすべきで、一般人ならそうしたでしょう。
しかし、彼は一国の首相、しかも非常事態の指導者でした。
安易な「倒れ方」をすれば、日本全体の国益に関わります。

安倍氏は第1次政権に同じ病に冒されて、長い雌伏を余儀なくされた苦い記憶を持っている政治家です。
その彼が考えたのは、二つのことだったでしょう。

ひとつは、二度と第1次政権のような無様な幕引きを繰り返さないこと。
もちろんこれは政治家としての幕引きの美学があるでしょうが、彼の場合、「二度目のカンバック」を念頭においているために、いっそうその「倒れ方」が問題となりました。
二つ目は、彼の残した8年弱の実績を継承させること。

この目標が定まれば、やるべきことはおのずと限られてきます。
辞任表明のタイミングを選択することと、後任人事を決定することです。
このシナリオを書いたのは首相ですが、その席には常に麻生氏と菅氏が同席しているはずです。
ただし極秘で。そのうち口が軽そうな麻生さんがなにか漏らすことでしょう。

まず辞任表明のタイミングですが、これは新型コロナ感染状況と大きな関係がありました。
政府は、秋口から流行し始める季節性インフルエンザと新型コロナが同調することを強く警戒しています。
季節性インフルの流行は、10月くらいから始まり1月から2月にかけてピークに達し、3月中旬には急激に終息に迎います。

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インフルエンザ流行予想 東京は1月下旬以降にピーク到来 - ウェザー ...

ですから、なんとしてでも10月前には新型コロナを抑え込んでおかないと、同じコロナウィルス類の季節性インフルとどのような相乗作用を示すか読めなくなるのです。
ここから逆算すると、総理選びに費やせる期間は9月一杯だということになります。
この時点で、自動的に頭の軽い小泉坊やがいう「フルスペックの総裁選挙」などは論外となります。
そんな悠長なことをしたら10月になだれ込み、更に発足した政権が基盤を固めるための総選挙の日程を取れなくなってしまいます。

9月中に次期総裁を決めるためには、党規約にある任期途中の辞任に伴う簡易法を選択するしかなくなります。
これで党内をまとめるためには、幹事長の二階氏の協力が必要です。
ただし、後継シナリオか決した後の具体化の詰めで彼が必要なだけのことで、あくまでも主体は安倍-麻生-菅の三人でなくてはなりません。

そこで後任人事です。
安倍氏がなんとしてでも避けたいと考えたのは、自分の後任が8年弱の血の滲むような成果を一瞬で覆してしまうことです。
かつて民主党政権がそれをやって大混乱を招いたことは、日本人のトラウマになっているほどです。
大枠でいえば、経済政策においては金融緩和を主軸としたリフレ政策、安全保障政策においては日米同盟を強化、太平洋・オセアニア・インド洋諸国との連携、改憲、そして新型コロナ対策の継続と復興などです。

ことしはじめからの日本における新型コロナウィルス感染の拡大、引き続く世界的パンデミックへの発展は安倍政権にとって大きな試練でした。
4月の緊急事態宣言、国民への特別給付金、休業補償等の支給、都道府県知事に権限を委譲した形で行われた各地の企業や学校の休業、閉鎖や検査、診療体制の動員と調整など、日本史上類例を見ない緊急措置の日常でした。

そして経済は、輸出入が国際経済の大幅減に伴って急減し、さらには生産や流通の停滞、消費動向の冷え込みが伴いました。
これによって消費増税までは好調だった経済や雇用状況も大打撃を受けています。
にもかかわらず、わが国が受けた打撃は、世界的に見て損失を最小限にとどめたと評価できますし、医療崩壊につながる感染拡大から逃れられた結果、世界最低水準の死亡率を維持しつつ今日に至っています。
感染拡大対策として、日本は半ば成功しかけている、と評価できる水準です。

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こうした厳しい情勢が続く中で、必要なことは政策の継続性を確保することです。
その人物になったやいなや、安倍政権を全否定をしかねないようなリスクがある人物を据えるわけにはいきません。
そう考えると、今までもっとも総理を補佐し、政府全体の動きの調整役を担ってきた「影の総理」菅官房長官こそが、現時点の後継者にもっともふさわしいのは自明です。

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他の2名を見れば、特に難しく考えなくてもわかるはずです。
まず岸田政調会長ですが、一時期は後継最有力視されていました。
安倍氏も、まぁ岸田なら可もなく不可もなくかな、ていどのニュアンスでそう考えていたふしがあります。
しかしそれはなにも起きない平時のこと。いったんコロナ禍が荒れ狂い、中国との緊張が日々増す状況で、岸田氏はあまりに使えませんでした。
それでも夏の前の7月頃までは、「なんとなく岸田後継」という雰囲気が漂っていたのですが、全部ダメにしたのは例の30万給付騒ぎでした。
状況を読めないから、えいやと決められない、二転三転してかえって状況を悪くしてしまう、という緊急時の指導者にもっとも不適格なひ弱な体質が明らかになってしまいました。
その上自派の議員の不祥事が重なり、お前は自派の統制さえできないのかとさんざん。
ここで安倍氏は、岸田氏推しを再考し始めたことでしょう。

「党内立憲民主」の石破氏などにやらせたら最後、モリカケの再検証(ほんとうにやると言っている)、中国・韓国との対話、習訪日要請の継続、そして辺野古移設の再検討(ホントにホントにそういってます)など、やりかねません。
むしろ3人の合議において、この男にだけは政権を渡さないためにどうしたらいいか、というのがライトモチーフだったことでしょう。
こうしてなるべくして、菅氏の後任が内定しました。

ここで問題となるのが、総裁選に勝利する陣形作りですが、これはためらいなく二階幹事長の仕事です。
各派閥の統制と切り崩しに関しては右に出るものがいないのが、この二階氏です。
一貫して党人人脈を生きてきた彼は、このてのことをすればおてのもの。
なまじ自分で意思決定すると地金の親中がでますが、総裁を支えていくという幹事長職をやらせているかぎり破綻は少ないのです。

これで党内三大派閥の細田(安倍)派、麻生派に幹事長派閥の二階派が乗る、という鉄壁の構図が誕生しました。
その頃には菅氏が出馬する、細田・麻生・二階派が出揃った、という情報が党内に流れていたはずですから、われもわれもと勝ち馬乗りする派閥が増えていきます。
竹下派は数こそ多く、参院はかつて石破氏を押したくらいですが、今石破氏に流れれば総選挙で中央から対立候補を立てられる可能性すらあります。

岸田氏は負けを覚悟ででるでしょうが、不戦敗となったら岸田派が消滅してしまうからです。
石破派は20人の推薦がえられるかどうか、なんせ自派からすでに4人が菅支持を表明してしまったらいですからね(笑)。
たぶん石破派はこれで消滅です。
石破氏は立憲にでも行くのですな。世論が推す「首相候補一位」のスターが来たと大歓迎してくれるでしょう。
枝野氏の次はあなたかも。
代表のゲル氏と、次に出るかもしれないイソ子さんが並んだお姿を拝見したい。

まぁそんなネガティブな人物は置いて、私が気になるのは河野氏の処遇です。
たぶん、出るぞ出るぞと言っていたのを、派閥の頭領の麻生氏から、ちょっと待て、次の次はお前だからと因果を含まされたのだと思います。
今回の菅氏の組閣で何に抜擢されるのか、外相再任か、防衛相留任か、はたまた思い切って官房長官か、楽しみなところです。

ちなみに、潰瘍性大腸炎は心理的ストレスが原因となるために、道筋を決めてスッキリしてしまった安倍氏の体調はみるみるうちに回復したそうで、しまった辞めるんじゃなかったと思っているかもしれません(笑)。

 

 

2020年9月 3日 (木)

中国、米艦隊が演習中の南シナ海でミサイル発射の暴挙

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本来なら先週の記事になっていたのですが、辞任表明で遅れました。
南シナ海で中国が危険プレーを仕掛けました。

「香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(電子版)は、ミサイルは中国内陸部の青海省と沿岸部の浙江省からそれぞれ発射されたと伝えたが、国防当局者は「確認できない」とするにとどめた。 同紙はミサイルの種類に関し、グアムの米軍基地を射程に収める「東風(DF)26」(射程約4千キロ)と、「空母キラー」と呼ばれる対艦弾道ミサイル「DF21D」(同1500キロ以上)だったとしている。
米太平洋艦隊報道官は「南シナ海を含むインド太平洋地域では現在、米海軍の艦船38隻が航行中だ」とした上で、「米軍は国際法で認められた全ての領域を飛行、航行して『自由で開かれたインド太平洋』に向けた取り組みを示すと同時に、同盟・パートナー諸国に(地域への関与を)確約していく」と強調した」
(産経2020年8月27日)

発射された弾道ミサイルは4発。
内陸部青海省から「東風26」を、沿岸部の浙江省から「東風21D」を、それぞれ2発、計4発発射しています。

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東風26

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東風21D

「東風26」の推定射程は4000キロに及び、米領グアムまでを射程範囲に収めるために「グアムキラー」と呼ばれています。
一方、「東風21D」は、推定射程距離においては1500キロと短いものの、攻撃対象への命中の精度から「空母キラー」とも称されているそうです。

この4発が単独で発射されたわけではありません。
中国軍は8月24日から、南シナ海に加えて、東シナ海、渤海、黄海の四つの海域においてほぼ同時に大軍事演習を行っています。
これは南シナ海だけではなく尖閣諸島、台湾、朝鮮半島等と言った、中国を囲むすべての海域での戦争を想定した訓練のようです。

南シナ海に向けての弾道ミサイルの発射は、渤海と黄海での軍事演習に際して中国が設定した飛行禁止区域に、米軍がU2偵察機を侵入させたことが発端だと言われているようです。
米国は、そんな飛行禁止区域は認められない、軍事演習の周辺に偵察機を派遣するのは「各国の暗黙の了解、即ち、国際的な慣行として認められている」と主張しています。

中国は米国の演習海域の周りでスパイ漁船を張り付けて偵察しているので言えた義理ではないのですが、中国はこれでキレたようです。
そしてやらかしたのが、この米艦隊がいる周辺への無警告の弾道ミサイルの発射です。
発射したミサイルが、これまたグアムキラーに空母キラーですから何を標的にしたのかわかりすぎて、もう戦争をやりたくてしかたがないと判断されても致し方がありません。

よくこの発射がわからないのは、今までと違って中国側の追認報道がないことです。
この前後まで北戴河会議という事実上の中国最高意志決定会議が開かれていたはずなので、この承認を受けてのものなのだとすれば、米国に対して長老の支持を得て習が全面対決モードに入ったという事になります。
当時、オーストラリアの華字紙に、米国との全面戦争おそれずというような北戴河会議での習発言が乗りましたが(たぶん中国が流したガセでしょうが)、なにかいや~な気分になります。
あるいは習を孤立化させるための一部の軍と党関係者の仕業か、迷うところです。

ところでなぜこれが危険プレーとなるのか、説明しなくてもおわかりですよね。
米海軍は今、南シナ海で演習中です。この水域に弾道ミサイルを撃てば、それは次はお前に命中させて見せるという露骨すぎるシグナルだからです。

南シナ海が大きなグランドだとしましょう。いままではどこのチームが来ても自由に使えました。
いわば公共物です。公共物としての海を公海、開かれた海と呼びます。
民間船、軍艦を問わず自由に航行し、自由に交易に利用できる公の海(ハイシー)です。

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ところがここは全部オレのものだと言い出すバカヤローが登場しました。
中国という腕ップシに妙に自信があるいじめっ子で、大陸では周辺国を全部平らげたので、海にまで出ばって海洋大国になるんだ、そうなったらオレは世界の覇権国だ、なんて危ない夢を見ています。

そこで中国は、この南シナ海という公共の場所に勝手にポンポンと杭を打って、これはオレの神聖なる領土だ、と主張しました。
そしてそれをつなぐ断続する破線からなる線を「領海線」だなんて勝手に呼んで、「ここオレの海」といいだしたのですから、他の子供たちは呆れるやら怯えるやらとなりました。

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自分の敷地にまで杭を打たれて領土を奪われたフィリピンは、そんなもんは認められないと言ったのですが、あまりにも弱くて相手にもされませんでした。
そこで2016年7月には、フィリピンは国連海洋条約違反として中国を国際仲介裁判所に訴え出ました。
もちろん仲介裁判所は、「九段線内の領有権主張に国際法上の根拠はない」と判断しましたが、しかし中国はこれを「ただの紙っきれ」とあざ笑って、どんどんと「領海」化していきました。

さてよくこういう国際紛争があると、必ずメディアには話あったらいいじゃないか、皆んな地球人なんだからという「識者」が出ますが、国際司法裁判所は裁定はできますが、執行する手段を持たないことを忘れています。
ここが定まった判決を強制する力を持つ国内の裁判所と決定的に異なる点です。
だから、世界で唯一の覇権国の米国が、自腹を切って世界の警官役を引き受けているわけです。
そのように見ると、米中間の一連の出来事は、違法行為を取り締まろうとする警察と警察の警告を無視して違法行為を続ける犯罪者、いやそれどころか警察さえ脅かす暴力団と言ってかまわないかもしれません。

この既成事実の積み上げという古典的手法ですが、残念ですが21世紀の今も大変に有効です。
いったん軍事的手段で実効支配してしまえば、それを原状に戻すのは容易なことではないからです。
だって、戦争ないしはそれに準じる軍事的手段で獲得した領土を取り返すには、現実には同じ手段によるしかないでしょう。

北方領土がいい例です。あそこは厳然と日本領土ですが、軍事占領が70年間以上続いて、ロシア住民も沢山住んで経済行為もしているわけですから、そう簡単には返してもらえません。
脱線しますが、安倍さんは長い時間をかけて20数回もプーチンに会って、返した島に米軍さえ入れなければオレ個人としては半分くらい返してもいいんだがなぁ、というところまで内々にこぎ着けたといわれています。
プーチンからすれば、平和条約を日本と結んでロシアの長大な下腹を安定させたいのはやまやまですし、もちろん日本とのシベリア・北方領土の経済開発も魅力ではありました。
うまくすれば日米同盟に楔を打ち込めるかもしれない、なんて腹黒い色気もありましたしね。

それ以上に、プーチンは安倍氏に根負けしつつあったのです。個人的友情すらほのかに芽生えていたかもしれません。
しかし時期が悪かった。当時のロシア国内は他ならぬプーチンがウクライナで火をつけたナショナリズムで燃えたぎっていたうえに、保険制度などの内政の失敗も手伝って日本に譲歩できる政治的余裕がなくなっていました。

プーチンが安倍さんにできるのは、せいぜいロシアが決めた領土は寸分も譲らない、と決めた領土新法に、「ただし未確定領土交渉は別とする」と一行書き加えるのが精一杯でした。それすら安倍さんでなければそれもなしだったことでしょう。
とりあえず返還は遠のきましたが、この「係争地は別」の一項のおかげで、今後も粘り強く交渉を継続出来ます。

脱線ついでにもう一つ例を上げると、中国が東シナ海でやっているのもこの手段です。
100日を超えて海警を接続水域、EEZ、あるいは領海に入れて、彼らがしているのは日本漁船の「違法操業取り締まり」です。
彼らはここを「中国の領海」とするために、漁業取り締まりという手段で実効支配を宣言しているのです。
これが長期間続けば、いつのまにか尖閣水域、そして宮古・八重山水域は、気がつけば中国の海と化していることになります。
そうなれば、「中国の海」に浮かぶ尖閣などというちっぽけな島は、熟した柿のように落ちてきます。

このように領土・領海交渉というのは、国際法上無理無体であっても、一回占領したら勝ちなのですから、特効薬はありません。
そもそも「神聖な領土」なんてテンション上げている中国は、一切の話あいを拒んでいますから、国際世論が一致してこの横暴をやめさせるために団結するか、軍事的に締めつける以外に手はないのです。

ああいかん、話がバラける。話を戻します。
中国がやったことは、いつでもオレはお前らの空母を殺すことができるぞ、というデモンストレーションです。
いわば戦闘前段だと自分で言っているようなものですから、これは危ない。
軍事演習というのは、戦闘態勢が実際にいざという場合使えるかどうかを見るためにするのですから、そのまま実際の戦争に移行したことは歴史的にもよくあったことです。
こういう偶発戦争から全面戦争にならないために、大戦後には国連や各種信頼醸成システムが作られたのですが、中国は常任理事国でありながら、世界最大の違反国だから処置無しなのです。
軍事演習中の米国空母打撃群に、弾道ミサイルをぶつけてくるというのは、もはや大丈夫ですか、熱ないですか、戦争したいんですか、というくらい狂気の沙汰です。

仮に本気で当てる気がなくとも、視認できる近距離に落下すれば、米軍は攻撃を受けたと見なして報復にでたことでしょう。
起立式移動発射台(TEL)を使って発射したので、場所がわからないという人もいますが、米軍はかねてからこの発射地点周辺にコブラボールという電子偵察機を送っていますから、その位置は精密に確定されていると思われます。
また発射後は監視衛星によって発射基地は完全に暴露されますから、空母打撃群はたちまち雨あられの報復攻撃に入ると考えられます。
そうなったら中国も負けてはいられないと撃ち返すでしょうから、かくて米中熱戦が開始されてしまいます。

なお中国側の東風21は、空母キラーなどと言われていますが、過大評価です。
移動し続ける空母打撃群ほど捕捉が困難で、当てにくい目標はないのです。
だからこの弾道ミサイル発射もコケ脅かしにすぎません。

米国は激怒して(というか激怒したふりをして)、南シナ海開発関連企業24社に対して、輸出禁止処置をとりました。
その制裁の中核になるのは、一帯一路に関わるインフラ建設企業である中国交通建設やGPS関連機器を手掛ける広州海格通信集団ですから、今後、一帯一路は更に困難になると予想されます。
ちなみに、米国はこれでも制裁の寸止めをしており、対象は「米国原産技術の禁輸処置」ですから、金融制裁を避けています。
次には本格的金融制裁や、中国共産党員の米国における資産凍結くらいは覚悟しろよという警告だと考えられています。

次の首相が誰になるにせよ、米中はこんなことでも直ちに戦争になる可能性を常に秘めていて、それに対応できる指導者でなければ首相の任はつとまらないということをお忘れなく。

 

 

2020年9月 2日 (水)

総理選、なぜ簡易法にするのかは明らかでしょうに

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いま太平洋をはさんで二つの国が指導者選びをしています。
ひとつは米国大統領選、そしていうまでもなくわが国の総理総裁選です。

どちらもマスコミ、なにを誘導したいんだという空気がありますが、気がついていますか。
露骨なメディアによる選挙誘導です。
なぜかメディアには「勝たせたい候補」というものが強烈にあるらしく、客観報道などどこ吹く風とばかりに、一方に肩入れします。

米国ではバイデン親子の中国疑惑は既に昨年から明らかだったにもかかわらず、なぜかまったく報じられていません。
バイデンの中国疑惑は根が深く、彼が副大統領時代からのものです。
2013年12月、バイデンが北京を訪問した際に、中国の政府系・中国銀行子会社と米投資会社ローズモント・セネカ・パートナーズとの間で合弁投資ファンド「渤海華美」が作られます。

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日経

これがたまたま偶然でなかったのは、この渤海華美の代表こそがバイデンの息子のハンター・バイデンだったことです。
まるで約束されていたかのようにバイデンジュニアは、新設された渤海華美の代表となったばかりか、4年後には株式の10%を保有する最大株主となり、巨額の富を得ています。

「米メディアによると、バイデン氏が13年12月にオバマ政権の副大統領として訪中した際にハンター氏も米政府専用機で同行。訪中直後に中国の実業家が立ち上げた投資会社の役員にハンター氏が就いた。トランプ氏は中国政府にバイデン氏が働きかけて息子のビジネスを支援したと疑っている」(日経2019年10月14日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO50965380U9A011C1EAF000/

バイデンの地元はデラウエア州アメリアですが、ここは全米でも有名なタックスヘブン(租税回避地)で、闇の金融取引の中心地です。
全米最大の秘密金融の巣窟で、中国への人目をはばかるような投資取引はこの街で行われています。
それをバイデンとその息子が知らなかったとはいわせません。
さらには、このバイデンジュニアが役員を努め、かつ大口株主をしている渤海華美は、北京曠視科技有限公司が開発した顔認識プラットフォームに投資しており、この顔認証技術は中国公安当局によってウイグルでの人権弾圧に利用されています。
この少数民族弾圧に対しての投資は、とうぜんバイデンジュニアの裁可を受けているはずです。

息子が中国少数民族弾圧に加担しているような大統領候補が、なぜ「労働者とマイノリティの味方」を標榜する民主党から候補に出られたのか、まったく理解不能です。

しかも、バイデンの老人性耄碌があまりにひどいのは有名で、アメリカンジョークのネタとなっているほどです。
質問とチグハグな受け答えはしょっちゅう。
果てはとうとう自分で自分を打倒するといっちゃったんですがね(笑)。
まぁボケのほうは愛嬌としても、民主党もバイデンが心配なもんでしっかりもののハリスをつけたのでしょう。

とまれバイデン一家のズブズブの中国との利害の癒着は見逃していいものではありません。
米国メディアが民主党べったりでなければ、たぶん今頃は炎上していておかしくはないにもかかわらず、煙ひとつ立ちません。
ところが米国リベラルメディアが、まったくこのことを報じないために、日本でもまったく知られていない有り様です。

それどころか、このバイデンの中国疑惑の煙幕を張りたいのか、ことさらのように新型コロナの感染拡大を騒ぎ立てています。
この責任は大統領個人にあるのではなく、世界最大・最強を自他ともに任じていた米国疾病予防センター(CDC)の失敗によるところが大きかったのではないでしょうか。
しかも、州の権限が強い米国では州ごとに感染対策が異なり、ニューヨーク州などに典型のように連邦政府と違った方針で突き進む民主党知事も多かったのです。

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   ニューズウィーク

そこにもってきて、なぜかこの時期に「たまたま」BLM運動とアンテファ暴動が突如勃発します。
ここでも民主党系知事や市長たちは、こぞって略奪と放火を容認します。
米国リベラルメディアもまた、ここぞと「分断の責任はトランプ」と叫び、まるでトランプが黒人青年を殺したかのような報道に興じました。
私はこれら暴動を起こした連中の背後に、竹のカーテンの向こうの権力者たちと、それと利害を共にする米国金融投資家たちの影を見ます。

さて、方や私たちの祖国です。
わが国メディアはなぜか石破ゲルが大好きとみえて、彼を報じる時にはかならず肩書に「世論調査でトップの」がつくという贔屓ぶりです。
そして昨日あたりは朝から晩まで(どーしてこうも一日やってないと気が済まないんだ)ワイドショーやニュースは、「密室で決定自民党総裁」「小泉氏など猛反発」「世論トップの石破氏は立ち向かう」、とまぁこんなことばかり。

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メディアの報道をつなげると、こういうかんじの印象を国民に植えつけたいようです。
自民党中枢は国民の石破待望論に耳をかさずに、密室の中の派閥談合でアベの息のかかったスガを強引に首相にしようとしている、密室談合で決められた首相だ、ということになります。
はれほれ。

小泉ジュニアはまたメディア受けするトンチンカンな「正論」を吐いているようですが、なにか勘違いしているようですが、これは自民党という私的政治集団の指導者選びにすぎません。
いわば共産党で志居さんが選ばれたり、立憲で枝野氏が選ばれるのと本質的に一緒です。
志居さんは16年間も無選挙・無投票で「党首」やっていますが、どこかのメディアが批判しましたかね。
極端にいえば、ジャンケンで選んでもいいのです(実際にやらないでくださいね)。
いや違うだろう、自民党の総裁選びは総理選びだなんて言われそうですが、そんなこと憲法のどこに書いてあるんです。
首相が議会多数党から選ばれるということだけのことで、それがいやなら選挙に勝って立憲の党首選イコール首相選びだと言われるようになればいいだけのことです。
実際、ハトさんがコケた時の民主党代表選がそうでしたね。カンがなったときには、まるで総理になったようなはしゃぎぶりでした。お忘れですか。

あの夢よもう一度で、「帰ってきた民主党」をもう一回作ったのでしょうに、今や政権選択の蚊帳の外となったやいなや、他党の党首選をとやかく言うのはおかしいですね。
とまれ自民以外の部外者に、「民主的ではないから」などとケチつけられる筋合いは一切ありません。

そもそも安倍氏は体調不良で辞任表明したわけで、一刻も早く療養に専念すべきなのです。
それを今から地方の党員・党友も含んだ党首選をするとなると、全国各地をめぐる全国行脚をせねばならず、それに要する日程はおおよそ2カ月間と言われています。
いま、新型コロナが落ち着きつつあるといっても、そんな悠長なことが可能ですか。
その間あと2カ月も病身の安倍氏に首相の重責を負わして平気なのでしょうか。

少しは党員なら、その辺を考えて見るといいのです。
自民党の諸兄、メディアが盛んに流す「国民は石破待望」などという印象操作に躍らされてはあまりにみっともなくはありませんか。

 

 

2020年9月 1日 (火)

菅さんなら安心できますが

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大勢は決しています。菅さんで動かないでしょう。
安倍後継内閣としては妥当な選択です。
菅さんの政権統治能力は証明されていますから、いまさらなんの心配もありません。
外交路線をひっくり返す可能性はゼロですし(顔がなくなったのは痛いですが)、財政・金融政策も継続されるはずです。
安倍政権が成し遂げた功績のひとつは、それまで日本でかえり見られなかった金融緩和政策を大胆におこなったことでしたが、劇的な効果が上がりデフレ脱却への強い後押しとなりました。

この金融緩和政策については岸田は鈍感、しかも積極財政は反対。石破に至っては金融緩和すればハイパーインフレになる、などと素人のようなことを言っていましたからバカです。菅さんならアベノミクスの継続性が確保されることでしょう。

読めないのは対中政策ですが、これだけ緊張している米中関係の中で、親中路線をとることが日米同盟の破綻につながることは、菅さんはよくわきまえているはずです。

やや心配なのは、沖縄県に甘い意識があることです。
一貫して彼は沖縄担当大臣として、沖縄との往復は日課のような時期もありました。
このような距離のとり方は、沖縄にとっても政府にとってもよいことだとは思えません。
今から甘ったれたデニー知事は「県民に寄り添う 言葉だけ」なんて言ってみせていますが、ならばもっと「言葉以上」を寄こせということでしょうか。
いままで、首里城を不始末で炎上させれば泣きつき、無症状・軽症者用のホテルを忘れては怒られ、看護師が不足すればまたまた泣きついて自衛隊から回してもらい、と手取り足取りおんぶに抱っこしてもらってよー言うよです。

デニーさん、もう少し自立の気概をもったらいかがでしょうか。
移転には協力しないなら、いちいち本土政府に頼るのは恥ずかしい、くらいの羞恥心をお持ちなさい。
かつての翁長さんなら、むしろ憎体な顔で援助させてやるぞ、くらいの顔をしてみせたもんですが、まったくこの人ときたら耐えられないくらい軽い。
たぶん菅さんと翁長さんが、サシで酒を呑めば、かなり突っ込んだ交渉ごとも出来たのではないでしょうか。

菅さんにおかれましては、デニー知事という軽量アルミサッシみたいな、フロックで知事になってしまったような人とつきあうことを肝に命じて下さい。
彼には翁長さんと違って込み入った腹芸は効きません。貸し借りという政界の仁義も知りません。
かといって、基地反対派の持つ「思想」もありません。
ですからベタついた情に流された関係ではなく、きちんと筋を通してつきあわないとダメです。
河野太郎を鍛える気なら、次の後継沖縄担当大臣をやらせたらいかがでしょうか。

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菅官房長官、安倍首相の後継選ぶ自民総裁選に出馬へ-共同 - Bloomberg

また近々予想される選挙においても、菅さんが大きな取りこぼしをすることはありえないはずです。
自民が大敗する可能性が少ないのは、安倍辞任表明以後された内閣支持率がいきなり50%を超えたことでもわかります。
菅さんが内閣を内閣を立ち上げれば、御祝儀で50%台の後半くらいはとれるでしょうから、青木率(政権支持率+政党支持率)で9割に達するはずです。

ひょっとしたら石破が、小澤のラブコールに応えて「石破の乱」を仕掛ける可能性は捨てきれませんが、彼に従って辞める議員がどれだけいるか、想像できます。
せいぜい数人規模でしょうから、政界再編など夢のまた夢。たいしたことはありません。

党員投票ではないと民主的ではないという言いぐさは、できるだけ総理・総裁決定を遅らせて、総選挙を9月中にやらせないための仕掛けにゲルが乗っているだけのことです。野党は枝野の求心力が崩壊しているうえに、合流騒ぎで選挙準備がなにもできていませんからね。遅ければ遅いほどいいのです。

さて日本国民は実に3000日近く続いた安倍政権に甘えすぎていたきらいがあります。
安倍なしの日本なんか考えもしなかった、というのがほんとうでしょう。
保守は安倍がいる限り大はずしすることはない、顔がある日本でいられるという安心感がありました。

一方、野党と左翼メでィアのほうはもっと深刻です。
アベがあっての朝日、アベがあっての毎日、東京ですもんね。
ここまでアベバッシング専門紙と化した紙面作りをしてしまえば、知ったこちゃありませんが、心配になるほどのアベ強依存体質でした。
岸から続く自民党巨悪エリートの血脈だと思うから、朝日はここまでアベ叩き一色の紙面作りに精出せたのであって、叩き上げの菅相手では様になりませんもんね(笑)。

しかし、ご安心下さい。
私は安倍首相の今回の辞め方には含みがあると思っています。
たしかに首相の病状は悪化したことは間違いないでしょうが、かつての第1次政権時はまさに刀折れ、矢尽きの憤死でした。
彼をひきずりおろうそうという党内の政界ゾンビたちが、群がり寄るようにして彼の足にしゃぶりついてきていました。
今そのような安倍降ろしの声があるでしょうか。
聞えて来るのは、いつものようなとうに引退した山崎翁たちのうらめしや~という冥界からの声ばかり。

決定的にかつてと違うのは、この党内無敵状態を保全したまま辞めるということです。
別の言い方をすれば、身体さえ良くなれば戻れる余裕を残しているというしことです。
何んせ彼はまだ65です。
70台が平均の政界では若手で通用する歳じゃないですか。まだ引退を考える歳ではありません。
首相を辞めてから大臣に復帰した例など、宮澤や麻生など複数あります。
戦前ですが、高橋是清なんてなんどリバイバルしたことか。

彼は政界のご隠居となって、池の鯉に餌をやるようなタイプではないと考えています。
私は菅さんは、失礼な言い方ですがショートリリーフだと考えています。
安倍政権かかくも強靱だったのは、麻生と菅が支え、それに有能な官僚ブレーンがついたからです。
菅さんの実務能力は、この三人三脚体制の中で最大限発揮されたのです。

そう考えると、首相が辞めることを決意した1カ月前に、必ず菅さんや麻生さんとだけは辞任についての極秘の相談をしていないはずがありません。
その時首相がなんと言ったのか知るよしもありませんが、今、最後の最後に菅さんがそこまで言われるならといわん風情で登場したのは、首相の後の押しがなくては考えられないことのような気がします。

安倍さん、じっくり療養なさって、まとまった休みでもとられたらいかがでしょうか。そして来年秋以降また顔をお見せ下さい。

 

 

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