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2020年9月11日 (金)

日米豪印はアジア版NATO」を目指す

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米国は疑問の余地なく方針転換しました。
米国が冷戦終以後持っていた、「経済が発展すれば社会は自動的に民主社会へと発展する」というノーテンキな定理は放棄されました
巨大な例外が生まれたからです。

米国にとってこの新たな中国という名の脅威は、かつてのソ連とは比較にならない強大な経済力をもち、先進技術を持った軍事超大国として世界支配を企てています。
米国がそれに気がつくのが遅すぎたために、対抗する陣形をつくるのが遅れました。
今、米国は、日本-オーストラリ-インドなど、いわゆるセキュリティダイヤモンド構想で結ばれた「ザ・クワッド」(QUAD)諸国と、インド・太平洋地域での経済同盟である経済繁栄ネットワーク(EPN)を作ろうとしています。

このように米国を刺激したのは、習近平の大失敗でした。
鄧小平が示した方針は、 「韜光養晦(とうこうようかい)」路線です。
聞き慣れない熟語ですが、光を韜 (つつ) み養 (やしな) い晦 (かく) すこと、才能や野心を隠して、周囲を油断させて、力を蓄えていくという中国流処世術ですが、転じて経済大国となるまで外交方針は抑制的にしていろ、という教えです。

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鄧小平の演技は実に巧妙で 上の写真でも彼は「井戸を掘った」角栄宅を訪れて、いかに中国人が恩義に報いることに厚いかをアピールしました。
当時の角栄は失脚していましたが、それを重々承知でこういう憎いことができたのが人たらしの鄧小平という人物です
子供に手をやる優しいしぐさは、いかにも古い大国の好々爺然としていて、日本人の中国ファンを激増させました。
当時の日本メディアなどこぞって、鄧という老賢人が発展途上の老大国を再興しようと奮闘努力しているのだから、日本人は日中戦争のお詫びに大いに協力せよ、という論調で報じました。
トヨタ、松下などの日本を代表する企業が、社運をかけて争うようにして中国に向かったのはこの時期からです。

しかし、この経済大国になるまで低姿勢でニコニコ外交をするという路線は、リーマンショック以後、中国が経済の世界の覇者となるに及んで、弊履のように捨てられました。
もう猫をかぶっている必要がなくなったと中国は見て取ったのです。
代わって登場したのが、習近平の「中華の夢」路線です。

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習は「中国の夢を実現しよう」「中華民族の偉大なる復興」という言葉を好んで使い、秦の始皇帝時代から清朝初期まで、ほとんどの期間世界の覇権国家だったことを強調しています。
過去の中華帝国の栄光を取り戻し、それを凌駕する世界に冠たる覇権国に返り咲くことが、習が掲げた国家目標でした。

世界支配を宣言した中国に対して、オバマなどの民主党系大統領はいずれも融和的姿勢をとるという致命的失敗を演じます。
ひとつには米国リベラルが戦前から根強い親中傾向があったからですが、それだけではなく冷戦の総括として資本主義が最後の勝者だったから、自由主義経済が発展しさえすれば中間層が生まれ、彼らは一党独裁を嫌って民主化を目指すに違いない、また共産党も民主化していくだろうとという一種の進歩史観が認識の基底にあったからです。
このリベラル進歩史観に支えられて、米国は中国と世界のさまざまな問題で協調して解決していく二大国(G2)路線を作ろうとしました。

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さて、このような米国の中国政策のコペルニクス的展開は既に起きています。
それはペンス副大統領による「新冷戦」宣言演説を読めばお判りになります。
関連記事 http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2018/10/post-cead.html

米国はもはや中国が経済発展しさえすれば民主主義社会に至り、やがて国際社会と協調していくだろうとは毛頭思っていません。
時間がかかりましたが、この迷妄から米国はようやく醒めました。(日本や欧州はまだ半覚醒ですが)
ポンペオは演説で、今まで封じてきた「共産中国」(コミニストチャイナ)という表現を何度か使っています。
この表現の重さを、日本人はただの反共思想だなどと思わないほうがいいでしょう。
これは米国が中国との戦いを民主主義と全体主義との戦いと位置づける「価値観戦争」だと考え始めたという意味です。
このような米国が建国思想である「自由」「人権」に踏み込んだ判断をした場合、仮に11月にトランプが破れようと、この方針は継承されます。
つまりこの転換は不退転なのです。

前置きが長くなりましたが、米国が中国の覇権と対決する布陣が、この「ザ・クアッド」と呼ばれる、米-豪-日-インドのセキュリティダイヤモンドです。
そして日本が要求されている役割は、従来の米国の戦略的策源地を提供するだけにはとどまらず、さらに能動的パートナーとしてアジア-オセアニア-インド洋地域の平和と安定のために積極的な役割を担うことです。

米国において今まで支配的だったのは、日本を格下のパートナーとして見て、都合よくジャパンハンドリングすることでした。
ジョセフ・ナイなどがこれに当たり、国務省の旧来の考え方でした。

「そのことは必ずしも、日米協調によって東アジアの平和と安定が維持されることを意味しない。日本の役割はあくまでも基地を提供することであり、地域大国としてアメリカの戦略的パートナーになることではなかった。したがって、1940年代から60年代にかけては、日米協調が東アジアの平和を担保したわけではなかった。アメリカの圧倒的な軍事力と、それを支えるための在日米軍基地がそれを担保したのだ」
(東経 細谷雄一/アジア・パシフィック・イニシアティブ研究主幹、慶應義塾大学法学部教授) 『アメリカのアジア政策が85年前を想起させる訳』)https://news.yahoo.co.jp/articles/ff6462083a45ae5ec6d0bbe7623c8829dab5f0f8

しかし米国はその方針転換に伴い新しい日本の位置の再定義を開始します。

「現在のトランプ政権において、そのようなこれまでの米中協調と、アメリカの対中関与政策を基軸としたアメリカのアジア政策を再検討しようとする強い意欲が見られる。そのような政策の転換を考える際に想起すべきは、20世紀のアメリカを代表する中国通の外交官であった、ジョン・マクマリーの存在である」(細谷前掲)

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ジョン・マクマリー元駐中国大使

マクマリーは駐中国大使で中国専門家で埋もれた外交官でしたが、さいわいにも存命していました。
ケナンは著書を書くにあたってマクマリーに長時間インタビューをして、彼を再評価します。

「戦後、ケナンが国務省政策企画室長として対日政策をより穏健な方向に転換しようとしたときに参考にしたのが、このマクマリーの見解であった。東アジア情勢にあまり精通していないケナンは、1948年2月の訪日の前に、最も優れたアジア専門家と見なしていた外交官引退後のマクマリーに連絡を取って、助言を求めている。そして両者が共通に認識したのは、アジアにおける最大の大国は日本であり、アメリカにとっては日本との協力が不可欠であることと、そして中国を過剰に信頼したアジア政策はいずれ行き詰まるであろうことであった。
いわば、現在のトランプ政権において、ポッティンジャー副補佐官、そしてポンペオ国務長官は、この忘れ去られたマクマリーのアジア政策を復活させようとしているように感じられる。ここではそれを「マクマリー・モーメント」と呼んで、マクマリーの提唱したアジア政策が85年の時を隔てて復活することの意味を考えたい」(細谷前掲)

一言でいえば、このマクマリーが提唱したのは、中国を信用しないこと、そして日本をストログジャパンとしてパートナーとすることでした。
今のトランプ政権中枢にいるポンペオやポテンジャー副補佐官は、既にこの「マクマリーモメント」で動いています。
それは日本ではあまり報じられていませんが、去年から着々と進行しており、現実の外交ステップを踏んでいます。
国務省の2019念5月31日のプレスリリースを見て見ましょう。

U.S.-Australia-India-Japan Consultations (“The Quad”)
Office of the Spokesperson
May 31, 2019
https://www.state.gov/u-s-australia-india-japan-consultations-the-quad/

「米国、オーストラリア、インド、および日本の高官は、2019年5月31日にバンコクで会合し、自由で開放的で包括的なインド太平洋を前進させるための共同の取り組みについて協議した。
四か国は、地域におけるルールに基づく秩序を維持し、促進するという共通の約束を再確認した。
彼らは、持続可能な民間主導の開発、海上安全保障、そして良い統治を支援するために緊密な調整と協力を継続する意図を強調した。会議の参加者は、国際基準に従って質の高いインフラへの透明で原則に基づく投資を奨励し、民間部門の可能性を活用するために各国が実施したイニシアチブについて話し合った。
彼らは、国際法に対する普遍的な尊重と航行と飛行の自由を維持する彼らの努力を強調した。当局は、地域の災害対応、サイバーセキュリティ、海上安全保障、テロ対策、不拡散などの協力を強化する機会を探求し続けることに同意した。
参加者はまた、志を同じくするパートナーや同盟国と協力して、国境を越えた課題への透明なルールベースのアプローチを促進したいという希望にも言及した」

ここで、米-豪-日-印が話あっているのは、まさにザ・クアッド(”The Quad”=Quadrilateral Security Dialogue)の内容です。
かつて2012年に安倍氏が提唱したセキュリティダイヤモンド構想は、今や幼年期から青年前期に成長しようとしているのです。
民間投資の促進、経済的連携強化にとどまらず、太平洋-オセアニアインド洋の海上安全保障にまで言及しています。
このような取り決めに基づいて、先立っての南太平洋の国際共同訓練が実施され、恒常的南シナ海パトロールに海自も参加しているわけです。

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南シナ海、日米豪が海軍合同演習 中国軍は戦闘機を配備か

ただしストロングジャパンといっても、それは大日本帝国への回帰ではありません。
細谷氏はこのスクアッドに参加する日本がほが、無条件ではないと述べています。
その重要な条件は、戦前のような国際社会の孤児とならないことです。

「第1に、戦前に日本が国際秩序を破壊して、孤立していった歴史を適切に認識することだ。すなわち、過去1世紀の歴史を適切に総括して、戦後外交における国際協調主義の歩みを再確認することが必要だ。平和国家となった日本が、自由主義や民主主義という価値を共有し、またリベラルな国際秩序を擁護することを前提として、戦後の歴代のアメリカ大統領は日米関係を発展させてきたのだ」(細谷前掲)

いわゆる保守の人たちの一部に見かける大東亜戦争肯定論は、わからなくもないのですが、今、持ち出すべきではありません。
米国への従属を嘆き、独自核武装をして戦前の列強に伍するといった非現実的な発想から抜け出すべきです。

安倍氏は、かつてはこの考え方に近い政治家でしたが、第2次政権で完全に転換しました。
それがもっともよく現れているのが、2015年5月の米議会における演説です。
そこで安倍氏はかつて日本が国際秩序を破壊者となってしまったことに対する反省にとどまらず、米国への感謝から日米同盟を「世界を遥かに良い場所とするための希望の同盟」と語りました。

この演説はスタンディグオベーションで迎えられ、やがてそれを実体化した「ザ・クアッド」へと歩みだしていくのです。
この演説をこの記事の締めとさせていただきます。言葉の始源的力を日本人政治家が駆使し素晴らしいものです。ぜひ全文をお読み下さい。
このようにしてストロングジャパンを推進しようとする米国と、米国やオーストラリア、インドと肩を組んで日本は、アジア版NATOへと進もうとしています。

いうまでもなく、これは集団安保体制を構築しようとすることですから、憲法に抵触する可能性があります。
先日ふれた「芦田修正」を使って、前文にある「国際社会に名誉ある地位を占めたいと思う」という部分を膨らませてなんとかなるかならないか。
それを含めて新たな憲法論議をせねばならないことはたしかです。

関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2015/05/post-b930.html

 

 

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コメント

ジョン・マクマリー元駐中国大使の米国政府への提言:
「一言でいえば、このマクマリーが提唱したのは、中国を信用しないこと、そして日本をストログジャパンとしてパートナーとすることでした。」

ブログ主のこの解説に激しく同意します。
一度でも中国本土で中国人と接して仕事をすれば、彼らが信用ができない人たちであること、彼らとお互いに共通の価値観を前提にして将来を築き上げることなど永久に不可能だということがわかります。
私は香港返還前の40年ほど前、香港で暮らしていました。その中国人民度の低さに驚きあきれました。3年間の生活を総括すると、一言で言えば中国人はたとえ少額でも金のためならどんなことでもするということでした。彼らには明日という概念はなく、今と自分の利益しかないのです。
僭越ながらこのマクマリー元駐中国大使が彼らといて辟易の毎日であり、それが上記の提言の一部を成していることが想像されます。

 奇しくも石破氏もアジア版NATOを総裁選で提唱しており寒気しました。
ありんくりんさんの考えるアジア版NATOとは異なり、韓国・フィリピン・ベトナム
などのアジア国も含んでの構想なのでしょう。
まったく役に立たない同盟になることは火を見るより明らかです。

それ以前にアジア版NATOなど憲法9条に違反する疑いが極めて濃厚です。
なぜ安倍総理の安全保障法案で大騒ぎした左派メディアが石破氏の
アジア版NATO構想を批判しないのか、極めて不可解です。

かつて冷戦下で存在した太平洋版NATOことSEATOとはクアッドは完全に異なるものなんですね。

インドを新たに加えるのはいいとして当事者のベトナムやフィリピンを加えないと同盟としての意義が薄れそうな気もします。

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