「忖度」の極みだった尖閣中国漁船衝突事件処理
これでお終い。もう逃げられませんよ、菅直人さん。
やっと、あの尖閣中国漁船衝突事件の真相が、当事者によって暴露されました。
いままでも、カン氏(スガさんと紛らわしいのでカタカナ表記)の直接の指示だというのが定説でしたが、なにぶん証拠がなく、当事者たちが皆「墓場まで秘密をもっていく」つもりらしいので、10年もたつことですし諦めかかっていた所に前原砲ですから、ちょっと驚きました。
証言したのは当時閣僚で、現職議員の前原誠司議員ですから、当時事実関係を知り得、しかも利害関係があったものによる「秘密の暴露」ですからこれは重い。
伝聞、ないしは推測の類ではなく正真正銘の一次情報です。
産経 船長釈放「菅首相が指示」 前原元外相が証言 尖閣中国船衝突事件10年 ...
しかもことが検察という司法権力に対する、行政の長である首相の「指示」ですから、この間の検察問題の「忖度」ウンヌンとは次元が違います。
事実自体怪しいものですが、百歩譲って安倍氏に「忖度」があったとしても、それはしょせんどこまで行っても劣位の人物が優位者の意志を「おもんばかった」ていどのことです。
いわば劣位者の内面の動きで、テレパシーで権力者の意志を読んだというようなものです。
一方、実際の公的な会合の場における首相の閣僚に対する「強い指示」は命令と同じ効力を発揮します。
つまり前原証言が本物なら、疑う余地なく行政府の長による三権分立の破壊であって、自民党はカン氏を国会証人喚問をするべきでしょう。
さてことは、前原氏の産経新聞へのインタビューから始まっています。
全体の輪郭はこうです。
「前原誠司元外相が産経新聞の取材に対し、10年前の平成22年9月7日に尖閣諸島(沖縄県石垣市)沖の領海内で発生した海上保安庁巡視船と中国漁船の衝突事件で、当時の菅(かん)直人首相が、逮捕した中国人船長の釈放を求めたと明らかにした。旧民主党政権は処分保留による船長釈放を「検察独自の判断」と強調し、政府の関与を否定してきたが、菅氏の強い意向が釈放に反映されたとみられる」(産経9月8日)
https://www.sankei.com/politics/news/200908/plt2009080001-n1.html
つまり、当時カン政権は「那覇地検の判断を了とする」と仙谷官房長官が言っていましたが、これが真っ赤な嘘で、実際は官邸からの強い釈放要求に検察が屈したということです。
これが伝聞や又聞きでないのは、当時外相だった前原氏がその場で聞いているからです。
「前原氏によると、国連総会に出席するための22年9月21日の訪米出発直前、首相公邸に佐々江賢一郎外務事務次官ら外務省幹部とともに勉強会に参加。その場で菅氏が公務執行妨害容疑で勾留中の船長について「かなり強い口調で『釈放しろ』と言った」という」(産経前掲)
前原氏は2010年9月21日、カン首相も参加した外務省幹部との勉強会において、その場でカン氏が「強い口調で釈放しろ」と言ったと証言しています。
決定的です。もはや言い逃れは難しいでしょう。カン氏には出るところに出て貰って、偽証罪つき証言をしていただかねばならなくなりました。
詳細なやりとりはこのようだったようです。
「前原氏が理由を聞くと、菅氏は同年11月に横浜市でアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議があるとして「(当時の中国国家主席の)胡錦濤(こ・きんとう)が来なくなる」と主張。中国側は船長の釈放を要求し、政府間協議や人的交流の中止などさまざまな報復措置をとっていた。釈放しない場合、胡氏が来日しなくなることを懸念したとみられる。
前原氏は「来なくてもいいではないか。中国が国益を損なうだけだ」と異を唱えたが、菅氏は「オレがAPECの議長だ。言う通りにしろ」と述べた。前原氏はその後、当時の仙谷由人官房長官に「首相の指示は釈放だ」と報告した」
いかにも「民主主義とは選挙による独裁である」と言い放った男らしい言いぐさです。
カン氏は船長を逮捕すると、中国様が激怒して胡錦濤来日が中止されてしまうのを恐れたようですが、それに対して「来なければ来ないでいいじゃないか」と反論した前原外相に対して「オレがAPECの議長だ。言う通りにしろ」と強い口調で判断を押しつけたというのですから、問答無用、エライのはオレ様だというわけです。
一種のパワハラです。
この人物のイラチと独裁癖(ただし内弁慶)は、この事件の4カ月後に起きる福島第1の事故時の対応においても遺憾なく発揮されて、事故調からも「マネジメント能力に大きく欠ける」と評されています。
この時も、さまざまな観点から検討するという通常の合意形成を省いて、自分だけの意見を「言う通りにしろ」と担当大臣に押しつけてしまっています。
ふー、危ない人。民主党うんぬんと言うより前に、こういう独善型タイプにだけは権力を渡してはいけません。
そのくせ、ここまでして実現した胡錦濤との会談では、まともに顔も上げられずにおどおどと下を向いてばかり。ああ、小者界の大物とはよく言ったもんです。
いったん反対した前原氏も、やむをえずその押しつけられた結論を持って仙谷由人官房長官に面会し、「首相の指示は釈放だ」と言ったそうです。
東大全共闘として裏道を走りながらも法曹資格を持つ仙谷氏がどう思ったのか分かりませんが、その後検察に責任を押しつける汚れ仕事を負わされることになります。
なお、この前原証言について、同席した外務官僚もそれを認めています。
つまり同一の場にいた者しか知り得ない「秘密の暴露」が複数あったことになりますから、前原証言が完全に裏付けられたことになります。
「当時の外務省幹部も「菅首相の指示」を認めた。菅氏は産経新聞の取材に「記憶にない」と答えた」(産経前掲)
かくして、2010年年9月7日に発生した尖閣沖領海内での、中国漁船による海保巡視船2隻への意図的衝突事件は、あくまで検察の独自判断による船長の釈放で幕を閉じる結果になってしまいます。
船長釈放「那覇地検が判断、了とする」 官房長官: 日本経済新聞
「仙谷由人官房長官は24日午後の記者会見で、那覇地検が尖閣諸島沖で日本の巡視船と衝突し逮捕された中国漁船の船長の釈放を決めたことについて「那覇地検が捜査を遂げた結果、そういう判断に到達した。それはそれとして了としている」と述べた。
那覇地検が釈放の理由として日中関係への配慮を挙げていることについては「そういうこともありうる」と語った。
また、釈放について外交ルートを通じて中国側に伝えたことも明らかにした」(2010年10月9日)
https://www.nikkei.com/article/DGXNASFL2408F_U0A920C1000000/
さて一方カン氏は既にバイデン症候群にかかってしまったのか、「記憶にございません」だそうです(笑)。
もっともツイッターでは「指揮権を発動していないからオレは無実だ」と寝言を言っているようです。
産経 しかしイヤな顔になったもんだなぁ・・・。
「尖閣諸島は我が国固有の領土であり、尖閣諸島をめぐり、解決すべき領有権の問題は存在していない。尖閣中国漁船衝突事案は、中国漁船による公務執行妨害事件として、我が国法令に基づき、厳正かつ粛々と対応したものである。指揮権を行使しておらず、私が釈放を指示したという指摘はあたらない。— 菅直人(Naoto Kan) (@NaotoKan) September 8, 2020」
この事件は、首相自らが「強い指示を出した」ことに司法が屈して、わずか5日の拘留で不起訴処分として釈放し、帰国させてしまった事件ですが、本来、この船長を裁く権限は、一義的には海保の捜査機関にあります。
海保の捜査部局は、証拠を保全し、充分な証拠を採集した後に検察に送り、検察は身柄の拘束を継続するか否かを決定し、立件するかどうかの判断を下します。
撮影された映像や巡視船の損傷、保安官証言など大量に証拠は上がっていました。
ですからこの尖閣中国漁船衝突事件は純然たる刑事事件として処理すべきで、それ以外の判断を差しはさむ余地は本来まったくなかったはずです。
ただし、高度な政治的判断が求められる場合、特に外国との紛争になる可能性があった場合、一定の政治的判断が加味される場合があります。
こんな政治判断をする権限を法律は司法に与えてはいません。
法治国家である以上、司法・検察の権限はおのずと制限されていて、彼らにできるのは証拠に基づいて立件するかどうかだけなのです。
ここを踏み間違えると、検察が政治判断にまで口ばしを突っ込み、その権力を使って政治に影響力を行使するようになります。
昨今の検察のリークによる世論操作ぶりをみると、その気配が感じられます。
それはさておき、ではこの政治判断をすべき当時の民主党政権はどうだったでしょうか。
彼らは親中派というより、むしろ恐中派でした。
彼らは常に中国を恐れ敬い、ひれ伏して、どうにか中国様を怒らせまいの一心だったのです。
そのために民主党は、日本一の中国礼賛者である丹羽氏を駐中国大使に送り込んでいたほどです。
そんな彼らがこの事件に際して真っ先に思いついたのは、さっさと船長を釈放してしまえ、ということなかれに尽きました。
そのうえこの事件で国民が怒らないようにと、ご丁寧にも海保の衝突映像記録という決定的証拠を、国が命じて隠匿させてしまったのですから、念がいったことです。
不当な隠蔽を暴露した、当時海保保安官の一色氏は海保を追い出されてしまいました。
民主党に外交原則うんぬんをいっても始まりませんが、こういうまねをすればかえって侮られる結果となることに気がつかないというのが、浅はかなことです。
事実、その後中国はレアアースの輸出を止めることを皮切りに、領海侵犯、領空審判を激増させました。
このような中国への民主党政権の「忖度」によって、日中関係は改善されるどころかいっそう緊張していくことになります。
(図 中国公船等による尖閣諸島周辺の接続水域内入域及び領海侵犯数 月別)
上図は、外務省HPの中国公船の尖閣水域及び接続海域への侵入数ですが、2010年9月の漁船衝突事件直後と、2012年9月を境にして侵犯が激増しています。これは野田政権の突然の尖閣国有化があったためです。
これについて外務省はこう述べています。
「2010年9月7日の尖閣諸島周辺の我が国領海内での中国漁船衝突事件以降は、中国公船が従 来以上の頻度で尖閣諸島周辺海域を航行するようになり、2011年8月に2隻、2012年3月に1 隻、同年7月に4隻による尖閣諸島周辺の我が国領海への侵入事案が発生した」
「2012年9月11日に我が国が尖閣諸島のうち3島(魚釣島・北小島・南小島)の民法上の所有権を、民間人から国に移したことを口実として、同月14日以降、中国公船が荒天の日を除きほぼ毎日接続水域に入域するようになり、さらに、毎月おおむね5回程度の頻度で領海侵入を繰 り返すようになっている」
同じ民主党政権でありながら、菅内閣の宥和政策と野田政権の国有化政策がジグザグで展開された結果、日中関係はみるも無残な破局状態になったわけです。
また中国は公船、漁船だけではなく、空軍機の侵犯も激増させています。
このように、日中関係を回復不可能なまでにこじらせたのが、民主党政権でした。
彼らはアベの右翼外交が日中関係を冷え込ませた、などと言っていますが真逆です。
カン政権が誤った外交シグナルを中国に送った結果、中国の軍事膨張を助長したのです。
それはやがて、尖閣のみならず南シナ海へと拡大していく端緒ともなっていきます。
なんと罪深いことをやってしまたったことよ。
カン政権の「政治判断」に話を戻しましょう。
問題は、「政治判断」はありえるのですが、ならば法治国家である以上、自分は司法に対して指揮権を使って司法に中国船長を釈放させるように命じた、と、はっきりいえばいいのです。
そのカン氏が首相としてすべきだったのは、その判断を検察に押しつけるのではなく、自らの手で下したことであって、内閣として適切な外交上の判断を行い、それに基づいて最終的な刑事処分を決定した、と堂々と主張すればよかった「だけ」のことです。
そんなこともできないで、いまもなお「忘れた」はないもんです。
これはやったことの内容の正当性とは別に、法的たてつけとしては合法です。
このような刑事事件に政治判断を優先させる時のために、法務大臣の検事総長に対する指揮権(検察庁法14条但書)があります。
一応検察庁法第14条をおさえておきます。
第14条 法務大臣は、第4条及び第6条に規定する検察官の事務に関し、検察官を一般に指揮監督することができる。但し、個々の事件の取調又は処分については、検事総長のみを指揮することができる。
このよう法務大臣は指揮権を発動することが可能であったし、やるならやる以上正しい法的手続きを踏襲するべきでした。
現実に首相の直接の指示を受けてのことですから当然です。
しかし現実には、那覇地検は「那覇地検が釈放の理由として日中関係への配慮を挙げている」(日経前掲)以上、これは逆に司法が政治判断をしてしまったことになります。
そしていけしゃしゃーと仙谷官房長官は「それを了とする」なんて白ばっくれてしまい、「さっさと釈放しろ」と怒鳴ったカン氏に至っては姿形すら見えません。
というわけで問題は絞られてきました。
①もし、カン首相が直接に釈放を指示しておきながら沈黙していたのなら、司法の行政府の長による強権支配。すなわち三権分立の否定。
②今まで言われてきたように、那覇地検が政府からなんの指示も受けずに勝手に外交配慮をしていたなら、司法の政治への不当な容喙。
③①でありながら、官邸の意向に沿ったのなら不当な司法官僚による政治への「忖度」。
以上、三点について、じっくりとカン元首相に国会で証言をして頂きたいものであります。
いうまでもありませんが、①が立証された場合、カン氏が所属する立憲民主党におかれましたは、民主党政権の暗部を洗いざらい総括されることはもちろん、以後「官僚がアベに忖度したぁ」などと愚もつかないことを言わないようにお願いいたします。
それにしても総選挙が近づく今、元首相から旧民主党の元同志たちへの素晴らしい贈り物でございました。
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彼らのロジックだと疑われた者が潔白を証明する必要があるのでカン氏は頑張っていただければと思います。記憶にございませんは疑惑は深まったとなるだけなのでやめたほうがいいですね。
まぁ1次情報なので疑惑ではないですが、人事の介入疑惑と言われた現政権はかわいいものでカンが行ったことは直接介入で許されないことです。
投稿: 銀 | 2020年9月10日 (木) 07時54分
仙谷さん(大嫌いだったけど)はこれの黒幕扱いされたまま、本当に墓場まで持って行っちゃいましたね。彼の日記とか公開されれば少しは名誉回復できるかも?と。
原発事故で喚き散らした上にFITで太陽光発電大優遇を条件にして辞任し、エコカンハウスとかに住んでウハウハの人ですからねえ。
若い時から「若者交流事業」とかで中国に染まってて(YouTubeに当時のカンが映ってる動画ありました)学生運動時代から「逃げ足のカンちゃん」なんて市民活動家なんてのを国のトップに据えた我が国の国民全体の非でもあります。
覚えていない!?
なら、連中のいう「覚えていないという証拠を見せろ!」という、これまた巨大ブーメランですね。
枝野はカンの振る舞いを1番身近で見てたんですけど、なんですう?今の旧民主の茶番劇は!
投稿: 山形 | 2020年9月10日 (木) 08時32分
カン氏もアレですが10年経ってようやく口を開く前原氏もね
どうみても合流野党へのブッコミにしか見えない。
見苦しい内ゲバです。
当時シラを切り続けた共犯者なんですから発言が真実なのであるなら産経にタレこんで終了ではなく国会に上げるくらいの責任の取り方くらいしないと。
でもこんなくだらない案件で国会を空転させるのも無駄でしかないのでシンプルに総選挙で国民の審判を受けさせたらいいだけですね。
投稿: しゅりんちゅ | 2020年9月10日 (木) 08時59分
隠蔽改竄しまくりながら自分達が政権を執った経験から、次のやつらももちろんやるよね・やってるよね!って事で現政権をあんなに突っつき続けたんでしょうね。
外交や安全保障はオープンに出来ない部分が多いにしても、やっていい事と悪いことがあり、その区別がつかないのは確信犯でやる人達よりタチが悪いです。
自民党が証人喚問かけたら面白いですが…やらないだろうなあ。結局「国会議員」という括りの内輪に甘いんでしょ、と思います。
余談ですがプロレス好きとしては、こういう駆け引きの例えにプロレスを引き合いにだす論評をTVなどで見るたびに、一緒にすんな!と腹立たしいです。
投稿: ふゆみ | 2020年9月10日 (木) 12時40分
今更ジロー、だがしかし、出されないよりは何倍もいい、事態の総括をすべき問題。
なぜストレートに「指示した事実は無い」と言わないのかな?
話を指揮権行使に限定するのは、自覚があるからじゃないのかしらねぇ。
投稿: 宜野湾より | 2020年9月10日 (木) 13時42分
産経新聞以外の大手マスコミはダンマリ、というのが恐ろしいです
朝日新聞に至っては、『菅氏が菅氏に提言 「総理で一番大事なことを教えます」(菅直人)』なんて記事が…
投稿: リム | 2020年9月10日 (木) 17時16分