中国、米艦隊が演習中の南シナ海でミサイル発射の暴挙
本来なら先週の記事になっていたのですが、辞任表明で遅れました。
南シナ海で中国が危険プレーを仕掛けました。
「香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(電子版)は、ミサイルは中国内陸部の青海省と沿岸部の浙江省からそれぞれ発射されたと伝えたが、国防当局者は「確認できない」とするにとどめた。 同紙はミサイルの種類に関し、グアムの米軍基地を射程に収める「東風(DF)26」(射程約4千キロ)と、「空母キラー」と呼ばれる対艦弾道ミサイル「DF21D」(同1500キロ以上)だったとしている。
米太平洋艦隊報道官は「南シナ海を含むインド太平洋地域では現在、米海軍の艦船38隻が航行中だ」とした上で、「米軍は国際法で認められた全ての領域を飛行、航行して『自由で開かれたインド太平洋』に向けた取り組みを示すと同時に、同盟・パートナー諸国に(地域への関与を)確約していく」と強調した」
(産経2020年8月27日)
発射された弾道ミサイルは4発。
内陸部青海省から「東風26」を、沿岸部の浙江省から「東風21D」を、それぞれ2発、計4発発射しています。
東風26
東風21D
「東風26」の推定射程は4000キロに及び、米領グアムまでを射程範囲に収めるために「グアムキラー」と呼ばれています。
一方、「東風21D」は、推定射程距離においては1500キロと短いものの、攻撃対象への命中の精度から「空母キラー」とも称されているそうです。
この4発が単独で発射されたわけではありません。
中国軍は8月24日から、南シナ海に加えて、東シナ海、渤海、黄海の四つの海域においてほぼ同時に大軍事演習を行っています。
これは南シナ海だけではなく尖閣諸島、台湾、朝鮮半島等と言った、中国を囲むすべての海域での戦争を想定した訓練のようです。
南シナ海に向けての弾道ミサイルの発射は、渤海と黄海での軍事演習に際して中国が設定した飛行禁止区域に、米軍がU2偵察機を侵入させたことが発端だと言われているようです。
米国は、そんな飛行禁止区域は認められない、軍事演習の周辺に偵察機を派遣するのは「各国の暗黙の了解、即ち、国際的な慣行として認められている」と主張しています。
中国は米国の演習海域の周りでスパイ漁船を張り付けて偵察しているので言えた義理ではないのですが、中国はこれでキレたようです。
そしてやらかしたのが、この米艦隊がいる周辺への無警告の弾道ミサイルの発射です。
発射したミサイルが、これまたグアムキラーに空母キラーですから何を標的にしたのかわかりすぎて、もう戦争をやりたくてしかたがないと判断されても致し方がありません。
よくこの発射がわからないのは、今までと違って中国側の追認報道がないことです。
この前後まで北戴河会議という事実上の中国最高意志決定会議が開かれていたはずなので、この承認を受けてのものなのだとすれば、米国に対して長老の支持を得て習が全面対決モードに入ったという事になります。
当時、オーストラリアの華字紙に、米国との全面戦争おそれずというような北戴河会議での習発言が乗りましたが(たぶん中国が流したガセでしょうが)、なにかいや~な気分になります。
あるいは習を孤立化させるための一部の軍と党関係者の仕業か、迷うところです。
ところでなぜこれが危険プレーとなるのか、説明しなくてもおわかりですよね。
米海軍は今、南シナ海で演習中です。この水域に弾道ミサイルを撃てば、それは次はお前に命中させて見せるという露骨すぎるシグナルだからです。
南シナ海が大きなグランドだとしましょう。いままではどこのチームが来ても自由に使えました。
いわば公共物です。公共物としての海を公海、開かれた海と呼びます。
民間船、軍艦を問わず自由に航行し、自由に交易に利用できる公の海(ハイシー)です。
ところがここは全部オレのものだと言い出すバカヤローが登場しました。
中国という腕ップシに妙に自信があるいじめっ子で、大陸では周辺国を全部平らげたので、海にまで出ばって海洋大国になるんだ、そうなったらオレは世界の覇権国だ、なんて危ない夢を見ています。
そこで中国は、この南シナ海という公共の場所に勝手にポンポンと杭を打って、これはオレの神聖なる領土だ、と主張しました。
そしてそれをつなぐ断続する破線からなる線を「領海線」だなんて勝手に呼んで、「ここオレの海」といいだしたのですから、他の子供たちは呆れるやら怯えるやらとなりました。
自分の敷地にまで杭を打たれて領土を奪われたフィリピンは、そんなもんは認められないと言ったのですが、あまりにも弱くて相手にもされませんでした。
そこで2016年7月には、フィリピンは国連海洋条約違反として中国を国際仲介裁判所に訴え出ました。
もちろん仲介裁判所は、「九段線内の領有権主張に国際法上の根拠はない」と判断しましたが、しかし中国はこれを「ただの紙っきれ」とあざ笑って、どんどんと「領海」化していきました。
さてよくこういう国際紛争があると、必ずメディアには話あったらいいじゃないか、皆んな地球人なんだからという「識者」が出ますが、国際司法裁判所は裁定はできますが、執行する手段を持たないことを忘れています。
ここが定まった判決を強制する力を持つ国内の裁判所と決定的に異なる点です。
だから、世界で唯一の覇権国の米国が、自腹を切って世界の警官役を引き受けているわけです。
そのように見ると、米中間の一連の出来事は、違法行為を取り締まろうとする警察と警察の警告を無視して違法行為を続ける犯罪者、いやそれどころか警察さえ脅かす暴力団と言ってかまわないかもしれません。
この既成事実の積み上げという古典的手法ですが、残念ですが21世紀の今も大変に有効です。
いったん軍事的手段で実効支配してしまえば、それを原状に戻すのは容易なことではないからです。
だって、戦争ないしはそれに準じる軍事的手段で獲得した領土を取り返すには、現実には同じ手段によるしかないでしょう。
北方領土がいい例です。あそこは厳然と日本領土ですが、軍事占領が70年間以上続いて、ロシア住民も沢山住んで経済行為もしているわけですから、そう簡単には返してもらえません。
脱線しますが、安倍さんは長い時間をかけて20数回もプーチンに会って、返した島に米軍さえ入れなければオレ個人としては半分くらい返してもいいんだがなぁ、というところまで内々にこぎ着けたといわれています。
プーチンからすれば、平和条約を日本と結んでロシアの長大な下腹を安定させたいのはやまやまですし、もちろん日本とのシベリア・北方領土の経済開発も魅力ではありました。
うまくすれば日米同盟に楔を打ち込めるかもしれない、なんて腹黒い色気もありましたしね。
それ以上に、プーチンは安倍氏に根負けしつつあったのです。個人的友情すらほのかに芽生えていたかもしれません。
しかし時期が悪かった。当時のロシア国内は他ならぬプーチンがウクライナで火をつけたナショナリズムで燃えたぎっていたうえに、保険制度などの内政の失敗も手伝って日本に譲歩できる政治的余裕がなくなっていました。
プーチンが安倍さんにできるのは、せいぜいロシアが決めた領土は寸分も譲らない、と決めた領土新法に、「ただし未確定領土交渉は別とする」と一行書き加えるのが精一杯でした。それすら安倍さんでなければそれもなしだったことでしょう。
とりあえず返還は遠のきましたが、この「係争地は別」の一項のおかげで、今後も粘り強く交渉を継続出来ます。
脱線ついでにもう一つ例を上げると、中国が東シナ海でやっているのもこの手段です。
100日を超えて海警を接続水域、EEZ、あるいは領海に入れて、彼らがしているのは日本漁船の「違法操業取り締まり」です。
彼らはここを「中国の領海」とするために、漁業取り締まりという手段で実効支配を宣言しているのです。
これが長期間続けば、いつのまにか尖閣水域、そして宮古・八重山水域は、気がつけば中国の海と化していることになります。
そうなれば、「中国の海」に浮かぶ尖閣などというちっぽけな島は、熟した柿のように落ちてきます。
このように領土・領海交渉というのは、国際法上無理無体であっても、一回占領したら勝ちなのですから、特効薬はありません。
そもそも「神聖な領土」なんてテンション上げている中国は、一切の話あいを拒んでいますから、国際世論が一致してこの横暴をやめさせるために団結するか、軍事的に締めつける以外に手はないのです。
ああいかん、話がバラける。話を戻します。
中国がやったことは、いつでもオレはお前らの空母を殺すことができるぞ、というデモンストレーションです。
いわば戦闘前段だと自分で言っているようなものですから、これは危ない。
軍事演習というのは、戦闘態勢が実際にいざという場合使えるかどうかを見るためにするのですから、そのまま実際の戦争に移行したことは歴史的にもよくあったことです。
こういう偶発戦争から全面戦争にならないために、大戦後には国連や各種信頼醸成システムが作られたのですが、中国は常任理事国でありながら、世界最大の違反国だから処置無しなのです。
軍事演習中の米国空母打撃群に、弾道ミサイルをぶつけてくるというのは、もはや大丈夫ですか、熱ないですか、戦争したいんですか、というくらい狂気の沙汰です。
仮に本気で当てる気がなくとも、視認できる近距離に落下すれば、米軍は攻撃を受けたと見なして報復にでたことでしょう。
起立式移動発射台(TEL)を使って発射したので、場所がわからないという人もいますが、米軍はかねてからこの発射地点周辺にコブラボールという電子偵察機を送っていますから、その位置は精密に確定されていると思われます。
また発射後は監視衛星によって発射基地は完全に暴露されますから、空母打撃群はたちまち雨あられの報復攻撃に入ると考えられます。
そうなったら中国も負けてはいられないと撃ち返すでしょうから、かくて米中熱戦が開始されてしまいます。
なお中国側の東風21は、空母キラーなどと言われていますが、過大評価です。
移動し続ける空母打撃群ほど捕捉が困難で、当てにくい目標はないのです。
だからこの弾道ミサイル発射もコケ脅かしにすぎません。
米国は激怒して(というか激怒したふりをして)、南シナ海開発関連企業24社に対して、輸出禁止処置をとりました。
その制裁の中核になるのは、一帯一路に関わるインフラ建設企業である中国交通建設やGPS関連機器を手掛ける広州海格通信集団ですから、今後、一帯一路は更に困難になると予想されます。
ちなみに、米国はこれでも制裁の寸止めをしており、対象は「米国原産技術の禁輸処置」ですから、金融制裁を避けています。
次には本格的金融制裁や、中国共産党員の米国における資産凍結くらいは覚悟しろよという警告だと考えられています。
次の首相が誰になるにせよ、米中はこんなことでも直ちに戦争になる可能性を常に秘めていて、それに対応できる指導者でなければ首相の任はつとまらないということをお忘れなく。
« 総理選、なぜ簡易法にするのかは明らかでしょうに | トップページ | 菅氏に後継を託したのは安倍氏だ »
いくら中国の指導部が現在の情勢や自分の実力を勘違いしていたとしても、場合によっては宣戦布告に取られかねない、このような挑発をするとはかなり意外でした。
現状シンガポールの米軍がチャンギ海軍基地の使用権を保有しているので、マラッカ海峡を押さえており、更に最近インド軍がアンダマン諸島の空港を軍事化している報道もあり、マラッカ海峡の入り口に更に蓋をする格好になりつつあります。
この石油や物資の運搬の最重要地点を止められるのは、中国にとって首根っこを押さえられている状態で、とても長期戦は無理な状況と思われます。中国がインドネシアを金で転ばせてもスンダ海峡は暗礁が多く大型船の通り抜けは難しいし、チモール海をニューギニア方面に大回りしようにも、すぐ下にオーストラリアが睨みを効かせられますので、それも現実的に困難と思われます。
冷静に考えると、中国はとても戦争ができるような状態にはないのではないでしょうか。
もしかしてやけっぱちになって北朝鮮ばりの瀬戸際作戦をしているのではないか?まさか流石にそれはないだろうなぁ。ちょっと不思議ではあります。
投稿: TK | 2020年9月 3日 (木) 09時44分
この時期に軍事的挑発をすれば、大統領選でトランプを利するだろうに。中共は何がしたかったのでしょうか?
投稿: あいうえお | 2020年9月 3日 (木) 10時39分
南シナ海でミサイルを放つ裏で、中共はヨーロッパを取り込みに王外相を行かせていました。
サウスチャイナ・モーニングポストによれば、中共の王外相はヨーロッパ外遊で訪れたイタリア・オランダ・ノルウェーで、「ヨーロッパの戦略的自律が見られれば満足、そこにおいて中国はフランス、ヨーロッパと共にある」、フランスでは「中国とヨーロッパで共同して極端主義のアメリカを阻止しよう、我々はチャイナ・ファーストとはいわない」と述べたとあります。
微苦笑。
いつもながら、マウントを取ることに集中してつい出てしまう尊大な物言いで、さすがのフランスでも、あんなことを言う王外相を三顧の礼で講演に呼んだシンクタンクに対して批判があるようです。
定めし歴訪の成果はこれといって無く、概ね失敗との報道です。
最後のドイツ訪問でのメルケル首相との内容はわかりませんが、メルケル首相よりは危機感をお持ちな様子のマース外相は、「インド太平洋地域は21世紀の世界秩序を形作る鍵、ここの地政学的パワー構成の変化はドイツに直接的に影響する、それが、ドイツ政府がインド太平洋地域の国々との協力拡大を望む理由だ」としてインド太平洋政策指針を2日に明らかにしています。
コンテ伊首相には会わずに電話でと言われ、ノルウェーにはノーベル賞で指図して寝た子も起こし、オランダ・フランス・ドイツで当然香港やウイグルや南シナ海への懸念を言われ、只今絶賛怒らせ中のオーストラリアでは、シンクタンクASPIがThe Chinese Communist Party's coercive diplomacyという報告書を出しました。
coerciveは強制や威圧という意味です。中共共産党の強制外交。
もうね、中共さんは自らオートマティックにご近所から嫌われ、遠くても仲良くしてやろうとする相手からは距離を置かれていく感じ。
今日本でそこをちゃんとありのままに読める政治家は、少なくともアノ人ではなーい。
投稿: 宜野湾より | 2020年9月 3日 (木) 22時41分