長期保守政権だからできたこと
菅政権が発足しました。
改めて安倍さん、ご苦労様でした。あなたを乗り越える首相が現れるのは想像すら出来ないほどです。
国際社会はその重要なキイプレイヤーを失いました。
甘利明氏は8月22日の自らのブログで、このように述べています。
「「シンゾーの意見は?」。首脳会議が紛糾し、ステートメントも出せなくなりそうな際、必ず交わされる言葉だ。トランプ米大統領とそれ以外の首脳はことごとく対立し、最後はいつもこの言葉になる。安倍(晋三)首相が言葉を選びつつ「…という方向では一致出来るのでは」と答えると、双方「シンゾーがそう言うなら」と収まる。安倍首相がいなければ首脳会議は空中分解しかねない。その存在感は戦後最大と言っても過言ではない。「安倍首相の方が良い」ではない。「安倍首相でなければ務まらない」のだ。次の3年間も安倍晋三総裁を先頭に世界と日本のために皆さんと邁進をして行かねばならない」(朝日8月22日)
官邸を去る安倍首相 朝日
ヨーロッパと米国の対立を解消し、オーストラリア、インドにとどまらず、いまや英国までをもアジアの自由主義陣営に組み入れたセキュリティダイヤモンドという雄大な構想がトランプひとりでできるとは思えません。
これは安倍氏の個人的能力、あるいは人としての柔軟性、温もりのようなものに多く依拠している部分があるために、トランプのガサツなやり方がどこまで通用するかどうか。
トランプと安倍氏はいわば漫才のコンビのような部分があって、トランプがウワーと大声でガナったことのフォローを安倍氏が担う、安倍氏が立場的に言えないことをトランプが言って局面を新しく作る、そんなコンビのような関係が出来上がっていました。
たとえば北朝鮮との直接会談は、トランプの思いつきから始まったと思っていますが、それが大コケしなかったのは、ひとえに安倍さんが事細かくトランプに知恵を授けていたからです。
ニューズウィーク
その中で、わが国は拉致問題を大統領に直接正恩に言わせるという成果までもぎ取っています。
よくメディアはアベは拉致問題に失敗した、一歩も進まなかったと嬉しげに評しますが、とんでもありません。
拉致問題は、純粋にわが国固有の問題です。
国民を暴力的に連れ去られてもなにもできない国、主権国家内部から、北の工作員の言葉を借りれば「ニワトリを裏庭で締めるより簡単」に連れ去られて文句ひとつ言えなかった国。
連れ去られた国民の奪還に軍隊を用いることすら憲法で禁じられている国。いや憲法には「軍隊」か持てないと書かれている国、それがわが国でした。
こんな体たらくは、純粋にドメスティックな国内問題であって、「第9条の国」が生み出した歴史的縮図なのです。
こんな国が単独でいくら裏交渉をしても、かえって足元を見られて侮られるだけでした。
膠着状況を突破するには国際社会、ありていにいえば米国のパワーを借りるしかなく、それを現実化したのが安倍氏でした。
安倍氏は、米国の安全保障上の問題である北の核武装と拉致問題を、うまくリンクさせてしまいました。
メディアはシンガポールやハノイの会談席上でトランプに「拉致問題を言ってもらった」と皮肉まじりに報じましたが、それはただの表面をなぞっただけのことです。
実は正恩は初めてトランプにそう言われて、非核問題と拉致問題が実はワンパッケージだと気がついたのです。
国連制裁を外してもらうにはもはや非核化のやったふりは通用せず、かつ、拉致被害者も返還しないとならない、そう判ったはずです。
ここに初めて非核問題が動く時に、拉致問題も何らかの形で動く可能性が出たのです。
ただしこのように国際問題と国内問題を、アレはアレ、コレはコレと分けて発想せずに、微妙な接点を意図的に作り出してリンクさせてしまい突破していくという水平思考的な考え方は、安倍氏の職人芸みたいなものでした。
菅氏は官房長官として実に8年弱それを支え続けてきたのですが、安倍氏の個人技に近い部分があるために、それを菅氏がどのように受け継いでいけるか、なんともいえません。
さて朝日は例によって、安倍氏の退陣表明に際して、「長期政権の奢りと弛み」と評しています。
「退陣の直接の理由は、わずか1年で政権投げ出しと批判された第1次政権の時と同じ持病である。しかし、長期政権のおごりや緩みから、政治的にも、政策的にも行き詰まり、民心が離れつつあったのも事実である」(朝日社説『最長政権 突然の幕へ「安倍政治」の弊害清算の時』2020年8月29日)
ま、そう書き散らしたら、その直後自社世論調査でも71%が安倍政権を支持するとなっちゃったのですから、爆笑ものですが、ナニを言っているのか。
たとえばプーチンと20数回会っても北方領土問題は解決しなかったと書き立てていますが、他の日本の首脳でプーチンに20数回会えた人がどこにいたでしょうか。一回会えれば御の字じゃなかっでしょうか。
これは個人的友情、あるいはそういってまずければ信頼関係が、安倍氏とプーチンの間に育っていたことを示しています。
国際社会のキイプレイヤーたちは、理念だけでは動きません。利害だけでも動きません。
言葉を担保する信頼関係があって、初めて物事は動いていくのです。
そのための絶対条件は、長期安定政権であることです。
それがなくては交渉の席上、いささかの妥協もできないからです。
あるいはプーチンならば、国民の絶対的支持を彼が持っていなければ北方領土の寸土の妥協もできないでしょう。
プーチンが言うのだから仕方がない、なにかもっと大きな目的があるのだろう、そういう気持ちを国民が持たなくてはただ日本に取られぱっなしのことになってしまいます。
反対に安倍氏にとっても同じです。彼はおそらくプーチンが日露平和条約と引き換えに「引き分け」に持ち込むいう感触を得ていました。
しかしそれは、今まで営々と「北方4島返還」と言ってきた政府方針とバッティングしてしまいます。
いままで外務省は「4島一括返還」と言葉で言うだけのことで、解決を彼岸のものにしていたのです。
それに反対し、現実的2島返還を模索していた佐藤優氏は、ささいなことで罪におとされて外務省を追放されました。
巨大な壁のように立ちふさがる問題を、すこしでも解決に導くためには、原則論を百回唱えているだけでは不足なのです。
根気よく揺さぶり続けねばなりません。北方領土の場合、平和条約締結と引き換えの2島返還でした。
これには、日露双方にとって一定の妥協が必要でした。
ここで出てくるのが、国民の長期保守政権に対しての信頼感です。
国民は、仮に2島返還だとしても安倍氏が言うなら、「なるほどゼロか全部では交渉は進まないだろう」という納得をしたことでしょう。
もっとも強く2島返還に反対するはずの保守層が、「安倍氏のやることならば」と納得したからです。
そのような長期保守政権が国内世論をとりまとめつつ、北方領土における共同経済活動をするという信頼醸成措置を重ねていくという二段仕立てでした。
安倍氏にもう少し時間が許されていたなら、プーチンの国内支持が急速に衰えなければ、この果実は熟したはずだったのです。
韓国との慰安婦問題の解決も然り。
あれがヘナチョコの民主党政権がやったことなら、私は反対しました。
慰安婦合意によって二度と韓国に慰安婦のイの字も言わせない、私たちの子孫の代まで謝罪はしないというばかりではなく、今、合意することで日韓GSOMIAを締結可能とし日米韓の連携が強固なものとなる、と理解したのです。
あの習近平ですら、他ならぬ安倍氏にセキュリティダイヤモンドを作られておきながら、日中関係を改善しようという意志があったことは確かなのですから、驚きます。
私は習訪日時に、何らかの形で安倍氏に米国との間を取り持ってくれという信号を出した可能性すらあると思っています。
中国は甘い顔だけしてもてなめられるだけ。
かといって中国相手に強硬策一本槍ではなにも進まない、だましすかし、時には強面も取り混ぜつつ、押し包むようにして封じ込めてしまう、たぶん安倍氏はそのあたりの塩梅を判っていたはずです。
このように強力な保守長期政権は、妥協と硬軟を織りまぜながら今まで不可能に思えたことの問題解決を計ることを可能とします。
菅さん、ぜひ長期政権を目指していただきたいものです。
安倍さんを特使に使えるような人は、政界ひろしといえどあなたくらいしかいないのですから。
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コメント
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まず安倍元総理には「お疲れ様でした」という言葉しかありませんね。
かつてさとう総理の退陣表明記者会見をかすかに記憶してますが、
子供ながらに、ひとつの時代の終わりを感じたものでした。
それ以降、何人もの内閣総理大臣を見てきたわけです。
豪腕を奮う人、調整に専念する人、何をしたいのかさっぱりわからない人など。
中には女性問題であっという間に退陣を迎えた人もいましたね。(笑)
それぞれ毀誉褒貶はあるわけですが、
安倍晋三という人が間違いなくその中での白眉であることは
揺るがしようのない事実だと私は確信します。
それだけにモリカケなどという下らないことに二年近くも翻弄され
国会は空転、安倍さんの体調にも害をなしたであろう事を考えると
何とも口惜しくてなりません。
枝野代表が管新政権に向かって「しっかりと国会論戦を強く求めたい」と
語ったそうです。
まあよくも今更そんな御託が並べられるものだと驚きます。
※さとう総理のさとうを漢字に変換すると何故かスパム対策で
蹴られたのでひらがな表記にしております。
投稿: 右翼も左翼も大嫌い | 2020年9月17日 (木) 07時28分
右翼も左翼もさん。
私も同じで「安倍さん本当にお疲れ様でした。しばし休んで下さい」です。
菅政権誕生にはそれこそ右も左も粗捜しに必死な記事(じゃないと埋もれるからなあ)ばかりで全くウンザリしてます。
安倍政策継承だとハッキリ行ってるのだから、実に手堅い実務型閣僚選びだと思うんですが、マスコミはなんでも気に入らないようで・・・。
そうか、さとうでさえ入らないとかねえ・・・ニフティどうなってるのやら。。謎です。
投稿: 山形 | 2020年9月17日 (木) 09時13分
おおっ!
漢字の「さとう」はスパム扱いでひらがなの「さとう」だと入るという不思議現象を確認しました!
いったいどうなっているのやら。。
投稿: 山形 | 2020年9月17日 (木) 09時15分
砂糖
左党
入るかな?
投稿: 山形 | 2020年9月17日 (木) 09時17分
鈴木・さとう・田中・高橋
で、どうたろう?入るか?
とよくある名字で「さとう」感じで試したらダメ!スパム扱い。さとうを平仮名にしたら、どうだろ?
投稿: 山形 | 2020年9月17日 (木) 09時42分
コメント汚しですみません!
日本でトップレベルに多い「さとう」という一般的な名字だけど漢字(前投稿の感じは変換ミスです)はアウトみたいですね。。
投稿: 山形 | 2020年9月17日 (木) 09時48分
安倍前首相、長きにわたりお疲れ様でした。しっかり療養され、可能なら再登板していただきたいものです。
安倍政権で、自分が一番感じることは、自分が受け取る情報の窓口が何処かで、物事に対する理解、判断がこれほどちがうのか、と言うことです。
、様々な主義主張の方々がいますが、それぞれの主義主張を、ある特定の情報窓口で受け取り続けたら、他の情報がいかに正しくても、その情報をキャッチ出来ない。そのような事象が、安倍政権の8年間で良く見えたと思います。大手メデイアの偏向ともとれる報道に辟易しましたし、SNSのデマにも悩まされました。情報の取捨、正誤、それをいかに受け取る側の自分たちがちゃんとしないと、大変なことになる。そう気が付かせてくれた長期政権だった気がします。
投稿: 一宮崎人 | 2020年9月17日 (木) 13時58分
先に「悪夢の民主党政権」があって、だからこそ安倍政権が映えたのだという解説が多いですが、そんな簡単なもんじゃなかったですね。
安倍政権後半では「戦後レジームからの脱局」をほとんど言う事はなかったですが、それを国際社会での日本の地位の重要性を認識させる方法によって遂げた人でした。
戦後70年談話で、「戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子供たちに、謝罪を続ける宿命を負わせてはなりません」と言いました。私は当時、思わず涙が吹き出しました。
ここが石破など、古い自民党との大きな違いです。
次に菅首相は、日本国内の「謝罪を続ける宿命を負わせようとする敗戦利得者」から生じる既得権を徹底的に排除して、真にフェアな世の中をつくる用意と決意があると見ます。
たとえば河野太郎の沖縄北方担当大臣就任。
「沖縄の御用聞き」と「利権の巣窟」だったところに、河野を持ってきた意味は非常に大きいです。
しゅりんちゅさんがいうように、沖縄との摩擦が生じる事もあるでしょう。
けれど、「日本のなかの沖縄」としての自立的な第一歩を踏み出す有為な人事だったと思います。期待します。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2020年9月17日 (木) 16時25分
山形さん
ニフティでは、何が禁止ワードになっているのか全然わかりませんね。
たとえば「北」と入れたらだめで、「北朝鮮」と正しく入れたらOKでした。
それからしばらくすると、「北」だけでOKになったりして、まことに妙な具合です。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2020年9月17日 (木) 16時32分
昨日の午後組閣のニュースを見ながら、仕事は切れるけど普段全く政治的な意見のない知人が「やっぱ、短すぎるの良くないよね。安倍さんみたいに長くやらないと何も結果残せないよ」
と言っていました。フラットな地点からみて納得のいく政権運営だったのだとそれをみて思いました。
安倍内閣にしても何年も基本スタンスを変えずに粘り腰で内外と案件を揉んで成果を得てきた訳ですし。
菅政権は今後アべガーさんからもアべさんはこうじゃなかった!の人からも挟みうちにされながらも、真ん中の民意を味方につけて突破して行って欲しいです。
野党は国会でしっかりとモリカケ桜を論戦する気なんですかね。次これやって選挙したら、消滅しそうですが。
これも朝入らなかったコメントですが再チャレンジ!
投稿: ふゆみ | 2020年9月17日 (木) 16時58分
追記ですみません、一言一句変えなくても今度は入りました(^^;;
文言の違いだけじゃなさそうですね。
投稿: ふゆみ | 2020年9月17日 (木) 16時59分
デフレを全く解消どころか経済をボロボロにした。最初は消費税増税を阻止したが、最もしてはいけないところでしてしまった。そして退任の頃に2018年から景気は後退していた、との公式の?発表、一体全体何を信じればいいのやら。
投稿: 安倍呑みックス | 2020年9月18日 (金) 22時38分
山路さんはなぜ安倍氏をそこまで持ち上げるのか私にはよく分かりません。消費税増税、TPP、外国人労働者の問題など内政面で絶対に譲ってはいけないところで国益を喪失しています。これはもう主権の否定です。そして菅氏は外国人労働者がいなければ日本は持たないとまで言っています。これが果たして保守政治なのでしょうか。
投稿: gym | 2021年1月20日 (水) 01時57分
gymさん、いろいろな過去ログにコメント入れて、議論を吹きかけるのはよい作法じゃありませんね。
コメントはその記事を書いた時の状況を受けているものですし、山路さんは安倍氏のことなどひとことも論じていません。
投稿: 管理人 | 2021年1月20日 (水) 02時35分