山路敬介氏寄稿 菅新時代に期待する日本と沖縄の「普通の関係」
菅新時代に期待する日本と沖縄の「普通の関係」
山路敬介
表題の内容に入る前に、最近のトピックから三点ほど手短に取り上げます。
まず、10/22に岸防衛相と面談した際にデニー知事が要望した「日米両政府に沖縄を加えたSACWA(サコワ)なる協議機関を作る」こと、「那覇軍港の浦添移転前の前倒し返還」の二点について。
岸氏はかような要望を十分予期していたか、あるいは事前に伝えられていたかのように完璧な「ゼロ回答」ぶりで返しました。
茫洋としてジックリ方の印象のある岸防衛相ですが、無駄なものは持ち帰らない実務型の頭の回転の早さをうかがわせる対応ぶりです。
地方が外交にたずさわる事は憲法の予期しないところであり、沖縄県は「国民の負託」を受ける立場にないので、「国民主権」の侵害にも等しい愚案です。
妙な団体が「民間外交」なる活動を標榜していますが、「民間の活動を外交に反映させよう」という主旨の比喩であるならまだしも、二元外交を目指したテーマ設定をしている事は明らかです。
ああした団体の意見を入れて、これをマジメに政府に要望してしまうデニー氏の知事としての未熟さにはドン引きします。
また、「那覇軍港」は沖縄県側の論理では「使用されていない施設」=「不要な施設」ですが、軍事的には作戦に資する重要な施設です。一朝有事の際には、位置的にきわめて重要な役割を担う事が想定される施設でもあります。そのため「那覇軍港の設備・施設が代替え施設に移転したのちに引き渡される」と明文的にもなっており、空白期間は許されません。
三点目は辺野古工事に関連して、防衛局が県に提出した設計変更許可に関する件です。
軟弱地盤に対応した設計に変更するためのものですが、沖縄県側はこれを引き延ばしたあげく「不許可」とするでしょう。こうした状況を想定して、下地幹郎議員はかつて「辺野古工事は完成しない」と予言しました。
また、二紙の報道によれば「防衛局は設計変更許可後にむけて、すでに関連業者との資材調達や工事契約に着手」しています。
「埋め立て許可」を得た権利者が変更許可前に工事そのものの着手以外の準備をする事は通例であり、何ら禁止されているところではありません。
また、県が許可を恣意的に降ろさない場合はどうなるのか? その場合は、法を所管する国土交通大臣の判断にゆだねられる事がこの間の一連の訴訟で確立しています。政府は大田知事時代の楚辺通信所(通称、ゾウ檻)問題の時にあったような「強い権限」を行使する事なく、よりマイルドな方法で工事を進める手段をすでに確立しています。これは最初に訴訟を提議してくれた故翁長前知事のおかげでもあります。
デニーさんは岸防衛相との会談の最後で「普天間飛行場の、一日も早い危険性の除去に早急に取り組んで欲しい」と要望しましたが、これは何やら暗示的にも聞こえてきます。
普天間の危険性の除去のためには辺野古への移転が唯一無二の道であり、これは最高裁判決で確定しています。したがってデニーさんの要望に沿うならば、辺野古工事の一刻も早い進捗こそが「一日も早い危険性の除去」に資する事はあきらかだからです。
萩生田現文科大臣の語彙を借りれば、国と県との対立はまさに「田舎のプロレス」という感想を禁じ得ません。辺野古核心的反対派から見ても、「出来合いのレース」化している状況を深刻にとらえているようです。
県の目下の関心事は辺野古問題などよりも、昨年5月に発足した沖縄発展戦略有識者チームでの議論を活発化させるなど、第6次振興計画に向けた素案づくりの方です。
長くなりましたが、ここから本題です。菅総理がいうように「沖縄振興と基地問題はリンクしている」のは自明であり、国防の根幹たる日米同盟に基づく米軍基地が存在する事による「沖縄優遇」がある事は誰の目にもあきらかな事です。昨今の日本を取り巻く安全保障環境からは、ますます米軍基地の存在意義を増す要因になっています。
しかし、そうした沖縄振興策という名の「沖縄優遇」が正しく行われているのかどうか、国民の目から見て行き過ぎていないのか。
また、一県民の立場の私から見て「つかみ金」化している沖縄振資金がもたらす弊害が大きくなっていると言わざるを得ない状況をどう見るか。
一例をあげれば、沖縄にいくら金を突っ込んでも貧困率が下がらない事が、その「失敗の証左」となっているでしょう。
内閣府は21年度末にせまる第5次振興計画の終了にあたり、河野太郎沖縄北方相を中心に沖縄振興予算を根本的に見直す方針を示唆していて、すでに県内市町村から意見聴取するなどしています。
河野氏と沖縄知事、和やか会談 裏に潜む首相の強硬姿勢 - 沖縄:朝日
振興予算の無駄削減や、計画の裏付けとなる沖縄振興特別法の見直しの検討材料にするようです。法的な問題が生じるかもなのでわかりませんが、振興策を県を経由しない市町村単位で細かく行う感じもします。
いづれにしても、菅総理が十年に一度のこの機会に河野太郎という切り込み隊長を持ってきた意味は深長です。そして、安倍首相が仲井眞元知事に約束した振興予算3000億円代は、第5次振興計画内までの期限付きなのです。
くわえて今の県庁には、政府を動かすだけの次の十年間の振興策を策定する能力に欠けています。お手盛りの有識者会議の議論においても、ピントの外れた意見や具体性のない抽象的な案や「べき論」が多すぎ、最終的にまとまるのかどうかすらも疑問です。
それと、同じ国とは思えない沖縄県に対する「減税天国」みたく政策はやめるべきです。この事は別の機会にまとめて書きたいと思いますが、一例だけ上げます。
たとえば沖縄県の酒税20%減免措置などは、ただちにやめるべき筆頭です。「残波」で有名な比嘉酒造が役員の退職金に20億円を支払った事が、国税から申告漏れとして指摘された報道がありました。会社の規模や社員数など、売り上げ実績を考慮しても、あり得ない退職金額です。
このような会社に酒税20%減免など、およそ国民の納得するところではないでしょう。しかしながら、個別に弱小蔵元を地元文化として守る事は別に必要かも知れません。その場合は市町村がその役割を担うべきで、国の任ではないはずです。
統計はありませんので異論もありましょうが、税に関していえば、県内企業に対する「税務調査」に入る機会は本土より少ないです。税務調査の機会は業種によってまちまちですが、創業20年の企業が一度も税務調査を受けた事がないなどという事が沖縄県では結構あります。
役所の感覚では、法によって優遇されている事実から職務執行をその延長線上にとらえる向きがあり、それが調査数の少なさに結びついていると思います。
さらに問題なのは、振興資金の投下なり税制優遇なりが貧困の解消に結びつかない事です。
非正規雇用者の多さも問題です。沖縄県は経済学で言う「トリクルダウン理論」(大企業や富裕層の支援政策を行うことが経済活動を活性化させることになり、富が低所得層に向かって徐々に流れ落ち、全体の利益となる」とする仮説)が実現しにくい社会なのです。
沖縄の既存の経営者は振興策や税制優遇によってうるおいますが、その富は経営者層によって蓄積されてしまいます。原因は地理的要因などいろいろありますし、雇用者側の意識の問題もあります。ですが、むしろ振興策が持つ物と持たざるものとの間を固定化して分け隔て、社会的流動性を失わせている側面は見逃せません。
子の貧困率、沖縄37%最悪 12年全国の2・7倍 - 琉球新報 - 沖
私なりには沖縄の古い経営者層こそがガンだと思っていて、もっと本土からの投資を呼び込む政策が必要だと考えています。先ごろオリオンビールの買収が行われましたが、そもそもオリオンビールは酒税減免措置がなければ立っていられない会社でした。
その割に優良な資産も所有していて、それを活かす能力もなければ動機もありませんでした。オリオンビールはブランドとして残せばよく、所有資産の有効活用を通じて新規業態への進出をし、本土式の雇用による機会が増える事になれば良いでしょう。
こうした根本問題にこれから菅政権がどこまで切り込めるのかわかりませんが、少なくとも細かく意見を聞いて、これまでの振興策の検証をつぶさにしている点は評価できます。
沖縄の古くて悪い風習を維持するための振興策はやめ、企業は日本の常識が通用する変革を自らすべきです。かつ本土の資本が流入しやすいように誘導しつつ、古い体質の経営者には退場をねがう事が県民全体の幸せにつながります。まずは沖縄を普通の他の県同様に考え、日本と沖縄の関係性をリセットする事が大事だと考えます。
文責 山路 敬介
了
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