RCEPで騒ぐな
RCEPで、日本がまたも中国にしてやられるのではないか、という人たちがいます。
ちょっと違うんじゃない、って私は思いますがね。
ヒステリックに騒ぐ人って、かつてTPPで日本が潰れるといわんばかりだった人たちです。
カミングアウトすれば、過去ログを読んで頂ければわかるように、恥ずかしながらこの私も中野剛志氏のTPP亡国論の影響をたぶんに受けたひとりだったわけですが、TPPについて大きな勘違いをしていました。
ひとつには、TPPを関税に狭く切り縮めてしまった結果、これが「共通の貿易ルール作り」だということを見逃した点です。
そしてさらに安全保障の枠組みと一体だという点も理解していませんでした。
TPPはいまになるとその全貌が見えてきていますが、今作られようとしているクアッドの経済版のような性格をもっていました。
当時、中国は一帯一路を使って猛烈な勢いで世界市場を浸食していました。
米国が作ったグローバリズムの果実はこの中国が全部いただく、これが習の戦略だったわけです。
中国は一対一の二国間協定で多方面にFTAを結び、無関税に等しい輸出品を雪崩のように相手国に輸出しました。
FTAとは、「特定の国や地域の間で、物品の関税やサービス貿易の障壁等を削減・撤廃することを目的とする協定」を指します。
※外務省『我が国の経済連携協定(EPA/FTA)等の取組』、経産省『TPP、EPA、FTA・・・何が違う?』
RCEP、中国の影響増大 大国インド不参加、復帰見えず:時事ドットコム
FTAは二国間で決めるものですから、その力関係がモロに響きます。
だいたいが力の強い中華帝国様のいいなりで決まってしまうのが現実でした。
中国は安い農産品や鉱物資源を大量に安く買い込み、それで恩を売っておいて、代わりに安価な工業製品をドドっと送り込む、気がつけば右も左も中国製品ばかりとなります。
そしていったん経済的従属関係が出来上がると、次に一帯一路と銘打って更に巨額の返済不可能な借金をカードローン宜しく安易に貸し付けてきます。
これにうかうか乗るともういけません、後は借財で首が回らずに、気がつけば港や空港、海に面した工業団地などをカタとして取り上げられてしまいます。
まるでヤクザですね。
こういうことをやられっぱなしだと、たちまち世界は中国に支配されてしまうので、個別FTAからより多くの国々をメンバーにした多国間貿易協定にしようとして出来たのがTPPでした。
TPPは当初日米が主軸になるはずでしたが、なんとトランプが降りてしまい(馬鹿か)、残された安倍氏の必死の努力で残されたメンバーだけでTPP11を牽引し、発効にまでこぎ着けています。
この中で域内の貿易ルールが決められていきました。
TPPには、知的財産権の保護、紛争解決の手続き、貿易の救済、投資の原則、原産地表示、検疫手続き、国有企業の制限などが盛り込まれています。
仮に中国がTPPに色気を出しても、知的財産権保護と投資、国有企業などに引っ掛かって入りたくても入れません(ざまぁ味噌漬け)。
そりゃそうです。TPPは中国に勝手をさせないための貿易ルール作りが隠れた主題だったんですから。
このぶっ壊れかかったTPPで、最後まで頑張った諸国の中から、更にその信頼関係を基礎にしてFOIP(Free and Open Indo-Pacific Strategy=自由で開かれたインド太平洋構想)が誕生します。
通称クアッド、この名を聞いただけで勇気が湧いて来ますね、ふんふん(鼻息)。
このTPPからクアッドへの流れを見ると、中野氏、三橋氏、藤井氏などが主張しつづけていた、安全保障とTPPは無関係だという主張はまったく間違いだったと分かります。
さて、RCEPです。
※外務省『地域的な包括的経済連携(RCEP)協定への署名』
これはTPPを水で薄めた劣化バージョーンだと思えばいいんじゃないでしょうか。
RCEPではとりあえず原産地規則や「関手続・貿易円滑化、衛生植物検疫手続、貿易上の救済、投資、自然人の一時的な移動など15項目のルールが盛り込まれていますが、なんといってもキモは関税です。
中国が嫌がりそうな国有企業の制限などは含まれていませんが、紛争になった場合の解決ルールはしっかりと盛り込んであります。
これは、「当該EPAの解釈・適用に関する締約国間の紛争を解決する際の協議、パネル手続等について規定したもの」です。
よくRCEPは中華共栄圏作りのもので、こんなものに加入するなんて、この売国奴めという人が保守系に多くいますが、この項目だけで大いにこちらは使えるツールなんです。
たとえば、日本はいままで韓国と貿易協議のテーブルを持っていませんでしたね。
ですから全部二カ国間 のやり取りで終始していました。
なにもなけりゃこれでいいのですが、先だっての輸出管理強化でのトラブルなどがあると、ただの輸出管理問題に歴史的怨念が加わってわけのわからない化け物小屋みたいになってしまいました。
こちらはただ韓国の輸出入管理が杜撰だからホワイト国適用をはずしたまでのことなのに、ワーワーうるさいこと。
韓国がトンデモなく危ない国に、大量破壊兵器の素材となる製品を転売なんかしなけりゃいいんですし、そんなことが起きないように監督官庁がまじめに輸出入管理をしておけばいいだけのことなのです。
それをホワイト国からはずされると逆ギレして日帝の経済侵略だぁ、なんてわけのわからないことを言い出して民族芸能のような排日活動に走りました。
あげく、WTOに提訴したりしましたが、WTOなんてまったく空虚な存在で、だから個別FTAやEPAが全盛になったっていうのにね。
しかしこういうことが次に起きた場合に、RCEPは使えます。
日本は輸出管理規制がデタラメなので、なんども韓国に見直しと協議を持ちかけてもガン無視された経験がありますが、今後はこんなこともRCEPの多国間紛争解決パネル(小委員会)で解決することができます。
WTOなんてとっくにハリボテ同然ですから、よほど役にたつはずです。
同じことは中国との間にもいえることで、いままであの国とはこのような貿易の協議テーブル自体が存在しませんでした。
当初の取り決めたルールは朝令暮改。抗議すれば、権柄づくの企業と地方政府が相手ではかなう道理がなく、泣き寝入りでした。
このように二国間ではいくら被害を主張しても、まったくどうにもならなかったのですから、テーブルができただけでも前進です。
そして焦点となるのは、ASEAN諸国です。
ここを中国の草刈り場にさせないことが、日本がRCEPの公式には口に出来ない目的のひとつです。
もし日本がRCEPに加わらなかったら、中国はアジアで日本以外怖いものなしの圧倒的経済力・軍事力を背景にやりたい放題をするでしょう。
その時その標的となるのは、今や世界の成長センターとなっている東南アジアです。
よくRCEPに日本が参加することを、まるで中華共栄圏作りに強力するのかと言う人がいますが、では逆にお聞きしたいもんです。
日本が入らなかったら、RCEPはどこの国のやりたい放題になってしまうのでしょうか。
なんのためにインドを入れたり、オーストラリア、NZと組んでやっているのでしょうか。
日本がRCEPで目指したのは、わが国の個別利害というよりASEAN諸国を中国の影響下から自由にさせ、その中からベトナムのようなTPP参加国をさらに募ることです。
TPPは知的財産権保護など大変に高度な貿易ルールを持ちますが、RCEPは関税中心で未熟な多国間貿易協定です。
ただし、ACEAN諸国のように、TPPに入りきれなかった国々をすくい取ることは可能です。
この中で、いわばRCEPをお試し期間として、更に高度なTPP参加へと進化していくこともできます。
クアッドの準同盟国であるインドががんばってくれれば、RCEPで戦いやすかったのですが、仕方がない。
同じ準同盟国のオーストラリアもいることですし、中国のいいようにはさせません。
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深刻な挑戦を受けている尖閣や、竹島問題などの領土問題を抱える国との経済連携など論外。また、徴用工問題や南シナ海での国際法無視のふるまいを平然とする国らを相手に、新たな協定によって何らかのタガがはめられるなどと、どうして考えられるのか?
次には必ず習近平の国賓訪問が待ち受けているだろう。
というところが反対派の見解で、それらは合理的な正しい意見でもあると思います。
ついでに言えば、このような経済連携は二階氏の盟友の胡散臭いボアオ・アジア・フォーラムの蒋暁松がかねて提唱していた事の実現です。
將は二階の手引きで和歌山のグリーンピア南紀を不透明な取引によって取得したとされ、東京都が中国へ防護服十万着を寄付したさいの窓口となった日本医療国際化機構の名誉理事長でもあります。
ただ、RCEPは米などの重要品目は守られるし、機械屋さんや自動車産業には有利と言えるのでしょう。
全体としてゆるやかな縛りなので、そう問題にすべきで程ではないようにも思います。それでありながら、コロナ禍より日本経済を立て直すためには十分に寄与すると考えられています。
また、日本が加入しなくとも他のASEAN諸国は加入したハズで、NZや豪州が入っての展開は中共にきつく意見出来る基礎を作ったという事も言えるのでしょう。
そのうち中共からボロが出るとしても、強く反対するまでもないと考えます。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2020年11月17日 (火) 15時39分
多国間協定においてのルール破りはゴリ押しも至難の業な上に、参加国からの信用を落とすリスクも孕んでいますからどうぞご自由にといった所でしょうか。
個人的にはそのリスクもものともしない中国の振る舞いによってそう長くないうちにRCEPは形骸化してしまうように予想しています。
それまでにこの協定を利用するだけして日本の国益に結びつけていければそれでいいと思っています。
あくまで日本の本命はTPPですので、むしろこちらにインドや日本寄りなインドネシアを取り込むくらいの立ち周りを見せて欲しいですね。
投稿: しゅりんちゅ | 2020年11月17日 (火) 22時33分
地域的な包括的経済連携協定(案)仮訳文
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100114915.pdf
1026ページ通しで読み切る時間はないので取っ掛かりに知財関連を読んでみました。
各種権利の保護及び利用と義務、異議申し立て・紛争解決の手続き、刑事上の手続きと刑罰に係る定めの他、各締約国は知財権に関する自国の司法上と行政上の決定を他の締約国が知ることができるかたちで公表し透明性を確保する旨の文があります。
あと、各締約国は投資先の企業に対して技術移転と関連情報を求めることを禁じるということですから、まぁ中共さんみたいな国には些かハードル高い面もあるんじゃない?という気もします。
国際的枠組みですし、自国有利とか不断の努力が不要になるとか、そんな甘い話はもちろん無いわけで、中共がルールを守らないかもなんて参加国全員が思っているでしょうし、存外、中共が何かパクられるなんてこともあるかも。
全部読み終わるのはまだまだなんで、今日のところの私は、ルールがあるからそれを軸に交渉できる…くらいで。
投稿: 宜野湾より | 2020年11月17日 (火) 23時44分