米国下院で、中国が北京五輪においてウィグル族にジェノサイドを働いたとして、開催地変更を求めた決議が可決され、追っつけ上院でも同様の決議がなされるでしょう。
誤解なきようにお断りしておきますが、あくまで「この決議は開催地変更」、つまりポンペオの表現を借りれば「五輪の理想を真の意味で掲げる国」への開催地の変更であって、ボイコット呼びかけそのものではありません。
ただし、この下院決議はボイコットの含みを持っていますので、中国の対応次第では直ちにボイコットへと方向転換するでしょう。
「一方、共和党のウォルツ下院議員(フロリダ州選出)は15日、IOCが北京に代わる開催地を見つけられなかった場合、米国オリンピック・パラリンピック委員会が北京五輪をボイコットするよう求める決議案を下院に提出した。
決議案は、ウイグル自治区での人権抑圧に加え、中国当局による香港での民主派弾圧や新型コロナウイルス感染の情報隠蔽なども非難。また、他の参加国にもボイコットを求め、可決された場合はブリンケン国務長官に決議を各国に送付するよう要請した。
上院でも1月22日、共和党の7議員が開催地変更を求める決議案を提出した」(2月17日産経)
まず、ジェノサイドの概念から押えておきましょう。
というのは、プロパガンダ目的で安易に使われるべき概念ではないからです。
ジェノサイドの国際的解釈について、『集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約 』(1948年国連)、通称「ジェノサイド条約」が存在します。
ミネソタ大学人権図書館 http://hrlibrary.umn.edu/japanese/Jx1cppcg.htm
これは1949年という締結年をみればわかるように、ユダヤ人に対する民族絶滅(ホロコースト)に対して国際社会が二度とこのようなことは起こさせないという意志から生まれています。
このジェノサイド条約を批准したのは150カ国(2019年現在)で、批准していない国はアフリカや東南アジアを中心に多数あり、日本もそのひとつです。
わが国の場合、国内法の犯人処罰規定と食い違いが生じるために批准に至らないようです。
※ 衆議院:第185回国会 法務委員会 第4号
というのはジェノサイド条約は厳密に国際法上の犯罪であると規定して、ジェノサイドに関わった者が入国した場合、それを処罰をするように当該国に求めているからで、わが国はそこまで現状ではできないと考えているようです。
●集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約 1948年 国連
第一条
締約国は、集団殺害が平時に行われるか戦時に行われるかを問わず、国際法上の犯罪であ ることを確認し、これを防止し処罰することを約束する。
第二条
この条約では、集団殺害とは、国民的、人種的、民族的又は宗教的集団を全部又は一部破壊する意図をもつて行われた次の行為のいすれをも意味する。
(a) 集団構成員を殺すこと。
(b) 集団構成員に対して重大な肉体的又は精神的な危害を加えること。
(c) 全部又は一部に肉体の破壊をもたらすために意図された生活条件を集団に対して故意に課すること。
(d) 集団内における出生を防止することを意図する措置を課すること。
(e) 集団の児童を他の集団に強制的に移すこと。
第三条
次の行為は、処罰する。
(a) 集団殺害 [ジェノサイド]
(b) 集団殺害を犯すための共同謀議
(c) 集団殺害を犯すことの直接且つ公然の教唆
(d) 集団殺害の未遂
このジェノサイド条約は国際法ですから、その所管は国際司法裁判所(ICJ)となります。
ICJがいままでジェノサイドと認定したのは以下です。
https://www.worldvision.jp/children/crisis_08.html
・1975年~79年までのカンボジアのポルポトによる大量虐殺
・1992~95年までのユーゴの崩壊に際して起きた民族対立による大量虐殺。
・1994年に起きた、ルアンダのツチ族大虐殺。
・審議中・2019年のミャンマーでのロヒャンギに対する虐殺。
では、ひるがえってウィグル族に対する中国の弾圧政策は、このジェノサイド条約の規定を満たしているでしょうか。
充分に満たしていると、トランプ政権は考えました。
「【1月20日 AFP】米政府は19日、中国政府がウイグル人などのイスラム教徒系少数民族に対しジェノサイド(大量虐殺)を行っていると認定した。
マイク・ポンペオ(Mike Pompeo)米国務長官は任期最終日に出した声明で、中国政府による少数民族の大量収容をめぐり、同国への圧力を大幅に強化。「このジェノサイドは続いており、私たちは中国の一党制国家によるウイグル人撲滅に向けた体系的試みを目にしている」と言明し、「私たちは黙っていない。中国共産党が自国民に対しジェノサイドと人道に対する罪を犯すことを容認されれば、そう遠くない将来、自信をつけた同党が自由世界に対してどんなことに及ぶかを想像してみてほしい」と述べた」(AFP1月20日)
わが国はジェノサイドと認定しておらず、完全に腰が引けています。
「米国務省が中国による新疆ウイグル自治区での行動を「ジェノサイド(大量虐殺)」と認定したことを巡り、外務省の担当者は26日の自民党外交部会で「日本として『ジェノサイド』とは認めていない」との認識を示した。出席した自民党議員からは「日本の姿勢は弱い」などの指摘が相次いだが、外務省側は「人権問題で後ろ向きという批判は当たらない。関係国と連携しながら対応していく」と理解を求めた」(毎日1月26日)
外務官僚は、国際司法裁判所がジェノサイドと認定していないのでそれに従っている、少数民族への人権侵害はそれなりに国際社会と強調していると言いたいようです。
その国際社会が中国と真正面から衝突しかねないウィグル問題には無関心でしたから、中国はウィグルが内陸であることをいいことにやりたい放題でした。
この流れを大きく変えたのが、去年のBBCの一連の報道でした。
この報道に触発され、現在の国際認識はウィグルにおいて少数民族迫害政策がされていると認識しています。
ただし、ジェノサイド条約冒頭第2条(a)にある「集団構成員の殺害」があったか否かについては、意見が別れています。
たとえば先日、ジェノサイドであるとして多くの報道をしているBBCに対して、同じ英国のエコノミスト誌は突如、ウィグルは迫害ではあるが虐殺ではない、と主張し始めました。
「(「ジェノサイド」との表現は)その言葉の一般的な理解では正確でない。『殺人』が人を殺すことを意味し、『自殺』が自分自身を殺すことを意味するのと同じように、『ジェノサイド』は人々を殺すことを意味する。中国によるウイグル人への迫害はおぞましいものだ。おそらく1平方メートルの収容所にウイグル人を閉じ込め、「職業訓練センター」との誤ったラベルを付けている。一部のウイグル人女性を強制的に不妊手術した。だがそれは彼らを虐殺(slaughtering)しているのではない」 (2月12日 エコノミスト 高橋克己氏訳による)
BBC
ジェノサイド規定反対派のエコノミストも認めるように、中国のウィグル政策は条文にことごとく合致しています。
中国の強制隔離政策はウィグル族に対して極めて大きな肉体的、精神的ダメージを与えているのは明確です。
中国は、「教育」と称して社会生活から強制的に隔離し、数百万規模の強制収容施設に監禁しています。
それが「職業訓練」などでないことは、中国の流出した公式文書でわかります。
「今回流出した中国政府の公文書を「中国電報(The China Cables)」と呼んでいる。
文書には、2017年に新疆ウイグル自治区の共産党副書記で治安当局のトップだった朱海侖氏が、収容施設の責任者らに宛てた9ページの連絡文書も含まれている。
その連絡文書では、収容施設を高度に警備された刑務所として運営するよう指示。以下の点を命じている。
「絶対に脱走を許すな」
「違反行動には厳しい規律と懲罰で対応せよ」
「悔い改めと自白を促せ」
「中国標準語への矯正学習を最優先せよ」
「生徒が本当に変わるよう励ませ」
「宿舎と教室に監視カメラを張り巡らせて死角がないことを(確実にしろ)」
(BBC2019年11月25日)
https://www.bbc.com/japanese/50542004
また、ウィグル族に対して少数民族を減少させる目的の大規模な不妊手術を続けていることも判明しています。
「【北京・
坂本信博】中国政府による少数民族ウイグル族への抑圧政策が強まった2014~18年に、新疆ウイグル自治区の不妊手術が18倍に増え、計10万人の住民が手術を受けたことが政府の資料で分かった。中絶件数は延べ43万件を超え、子宮内避妊具(IUD)を装着した女性は17年時点で312万人に上った。中国政府が産児制限を緩和する中、自治区の不妊処置は不自然に増えており、非人道的な人口抑制策が実施されてきた疑いが強まった。
自治区政府や中国の研究機関は「住民が自ら望んで不妊手術を受けている」と主張するが、自治区では大量のウイグル族を施設に収容するなど強硬策が実施されており、当局が推進する不妊手術を住民が拒否できる余地は少ない。米国などは「不妊手術や中絶が強制されている」と指摘する。自治区の
出生率は14~18年に3割以上も激減しており、海外のウイグル族からは「民族を消し去ろうとしている」との批判が上がる」(西日本新聞2021年2月4日)
https://news.yahoo.co.jp/articles/93175c8abc60b3bdf62341a3a1130b2c9ab51a57
「だが、最近の急激な人口増加率の落ち込みは、「キャンプへの収容」だけでは、その理由を説明できず、ツェンツ教授がさらにデータを丹念に分析し、情報収集に努めたところ、2019年にタクラマカン砂漠の最南端にあるゴマとホータンの都市で、膨大な数のウイグル人女性を不妊にするための巨大なプログラムが実施されていたことを突き止めた。この時期のこの地域での不妊手術は全国平均の何と143倍と、異常ともいえる高さになっており、人口増加率の急減に繋がっていることが分かった。
また、出産年齢のすべての既婚女性の14から34パーセントは1年以内に不妊手術を受け、原則として3人以上の子供を持つ女性には不妊手術の対象となる。地方当局は、中央政府の計画実施命令をしっかりと守る義務を課せられており、「命令に従わなければ、自分たちが困ったことになるのを知っていた」という」(2020.6.29 Bitter Winter Ruth Ingram )。
https://catholic-i.net/tokushu/%E3%83%BB%E6%96%B0%E7%96%86%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%81%AE%E4%BA%BA%E5%8F%A3%E5%A2%97%E5%8A%A0%E7%8E%87%E3%81%8C%E7%95%B0%E5%B8%B8%E3%81%AA%E8%90%BD%E3%81%A1%E8%BE%BC%E3%81%BF%EF%BC%8D/
また同様に子供に対しても親元から引き離し子供用教育施設に収容する政策も進んでいます。
BBC児童用「教育施設」高い塀で囲まれている。BBC
「中国政府が西部・新疆(ウイグル自治区)で、イスラム教徒の子どもたちを家族、信仰、言葉から意図的に引き離していることが、新たな調査でわかった。
何十万人もの大人が巨大収容所に拘束されている一方で、急速かつ大規模な寄宿学校の建設が進められている。(略)
新疆の教育拡大は、大人の集団拘禁にみられるのと同じ理念に突き動かされているようだ。それは明らかに、両親が収容所にいるかどうかを問わず、ほぼすべてのウイグル族と他の少数派の子どもたちに影響を及ぼしている。(略)
ツェンツ氏の調査では、収容所と同じく学校施設でも現在、ウイグル語など地域の言語を消滅させようとする組織的な取り組みが展開されていることが明らかになっている。各学校は規則で、生徒と教員の両方に対し、校内で中国語以外の言葉を話した場合の厳しく細かい罰則を定めている。
このことは、新疆の全ての学校で全授業を中国語で行っているという政府発表と合致する。
昨年4月には地域の郡当局が、周囲の集落の子ども2000人を、巨大な寄宿中学校である葉城第4学校に入れた」(BBC2019年7月5日)
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-48880066
つまりジェノサイド条約の(b)から(e)までの規定にすべてに一致します。
認定が厳しいのは、唯一(a)の集団的虐殺行為の有無だけです。
残念ですが、組織的虐殺を示す直接の証拠は現時点では上がっていませんが、それを推測し得るデータは存在します。
それはウィグル族の極端な減少です。
「近年、中国の他の少数民族地域では総じて少数民族人口が漸増しているにもかかわらず、新疆ウイグル自治区のみ、2017年~19年にかけて、総人口が2444万6700人から2523万2200人へと78万5500人増加した一方、少数民族人口は1654万4800人から1489万9400人へと、何と164万5000人も激減しているという異常な人口動態を見せている(詳細な分析は後述する)。 これは自ずと、新疆ウイグル自治区における少数民族が極めて「不自然なかたち」で急減し、それを上回るかたちで外来の漢族が新疆に補充されたことを意味する。その結果、新疆における少数民族の比率も、僅か2年間で67.7%から59.1%へと、8.6%も減少するという異常事態となっている」
(平野聡 東京大学大学院法学政治学研究科教授)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/21994
この中国自身が作った国家統計『中国統計年鑑』においてすら、新疆ウイグル自治区における少数民族人口が、この2年間で実に164万人も激減していることがわかります。
このウィグル族急減の原因は、強制隔離、不妊手術の強制だけによるとは考えにくく、多くのウィグル人が証言するように大量虐殺があったと推測できます。
このように見てくると、ウィグル族への少数民族迫害政策を、虐殺が認定されないという一点だけでジェノサイドではないと言う愚かさが判ります。
人類はこんな中国に、「平和の祭典」という冠を授けるべきではありません。
エコノミスト紙ほどの媒体がなぜこんな過ちを言うのか分かりませんが、国連総会で採択された「ジェノサイド」の定義はかなり幅広く、元々「殺害の事実がなくてもジェノサイドに当たり得る」とするものです。
ただ、これまで実際に殺害がない場合は適用されなかっただけで、日本政府がこれを批准していないのは、どんどん意味解釈が拡大されて政治的に利用される危険をふまえての事だと思います。
日経新聞によれば、たとえば「出生を防止する事を意図する措置」は国家的、民族的、人種的、または宗教的な集団の「全部または一部を破壊する」意図を持って行なわれる限りジェノサイドに当たる。
また、そうした意図を持って集団の一因に「深刻な精神的苦痛を与える事」と正しく解説しています。
従来から批准国は日経のいうとおりの解釈でしたが、適用には消極的だっただけです。
しかし、2020年にウイグルでどれほど不妊手術が行なわれているかが明らかになった事から、まず米議会が立ち上がりましたが、そもそも域内の少数民族だけが極端に人口減少している現実を中共政府が合理的に説明出来ない事、多数の証言がある事、にも関わらず現地調査をさせない事、これらをもって殺害の証拠に代えて判断しても良い段階だと思います。
最低限、北京五輪など開催すべきでないのは言うまでもありません。
日本政府は東京五輪に中国人が参加しない可能性を憂う必要などなく、きちんとした問題提議を行なうべきです。
バイデンは池上彰紙や時事の誤った記事内容とは違い、習の統一のためにきびしく管理される常態を容認していて、「私は彼が香港でやっている事、ウイグル、チベットや一つの台湾政策に触れるつもりはない」と言っています。
しかし、ここは中国嫌いのペロシらが頑張ってくれて、議会をまとめてくれた成果が出ました。
まずは日本の国会が政府に先駆けて決議すべきです。
投稿: 山路敬介(宮古) | 2021年2月20日 (土) 02時19分
ポリコレが本来の崇高な目的通りに機能するのか、一部の権力者や銭ゲバのツールなのかがハッキリする案件になります。
まともに判断するのであれば1年延期してでも分散開催の可能性も含めた開催国の変更は行われるべきです。
国内での森発言での大騒動もポンペオのジェノサイド認定を霞ませるために仕組んでるんじゃないかというくらい騒ぎまくってましたけど、こちらの方が遥かに問題は深刻、新会長の橋本氏の過去のセクハラ騒動をほじくり出すくらいならこちらを問題視しろと言いたい所です。
しかし現実は中国に関しての国内から圧力は全く期待できないので外圧をもって流れにのらざろうえない状況になる事を願うばかりという情けない状況です。
IOCも金に目がくらんでベルリン五輪の過ちを繰り返すのか見物です。
投稿: しゅりんちゅ | 2021年2月20日 (土) 10時02分
森氏へのメディアリンチの黒幕は、中国だと思いますね。発言に問題があろうと、森氏にも言い分があるでしょうし、自己弁護する権利があるのに、よってたかって石を投げつけるのは、文化大革命の時の紅衛兵が、「古い考えを持つ大人を教育する」として、大人をリンチにした話を思い出します。
今、森氏を擁護したら、差別主義者として糾弾されますが、文化大革命の時もリンチされる人をかばうとリンチされますから、リンチする側に大勢の人が回りましたが、それと同じです。
マスコミ、いやマスゴミが、個人を一斉に攻撃したり、同じ論調を足並みそろえて展開したら、世論誘導か、洗脳が目的だと考えて乗らないようにしています。
投稿: アミ | 2021年2月21日 (日) 00時04分