ミャンマー軍事鎮圧か?板挟みになる中国
ミャンマーが急速にキナ臭くなっています。
近い将来、第2次天安門事件が再演される可能性がでてきました。
連日の大規模デモに対して、軍部がゴム弾を発射して鎮静化を図ってきましたが、頭部に弾を受けた女性が死亡しました。
ゴム弾は非致死性とはいうものの当たりどころが悪いと死に至ります。
今回、この気の毒な女性はヘルメットを貫通して死亡したそうです。
おそらくデモ隊に向けて水平発射したのでしょう。
非致死性をいいことにして、代用銃器として使うという悪質な使用方法です。
下写真のように香港でも大量に使用されて多くの重傷者を生みました。
なお軍部は次回からほんものの銃弾を使用すると警告しています。
軍部は地方から部隊をヤンゴンに集結し、軍に反対するすべてのデモを禁止し、重罪化すると宣言しました。
またすべてのSNSの遮断を開始しています。
軍の終結と通信手段の遮断、これは中国が武力弾圧する前段で必ずすることで、香港以上の血の武力鎮圧をするかもしれません。
「国連のトム・アンドリュース特別報告者は17日、声明を出し、「軍人が郊外からヤンゴンに移動しているという報告を受けた。過去にこのような動きは大規模な殺傷や拘束を引き起こし、大規模な暴力事態の発生が懸念される」と述べています。
軍政最高機構「国家行政評議会」は刑法を改正し、政府、軍、軍幹部に対する不満や嫌悪を誘発する行為を処罰できるようにして、懲役7年から20年という重い刑罰をかすようにしました」(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO.275 2021年2月19日)
今のミャンマー軍は、かつてのように中国と一定の距離を開けていた土俗的存在から変質し、中国軍の直接の指導が入っていると言われています。
未確認情報ですが、中国軍人が既にミャンマー軍の中にいるという情報もあります。
ソースが怪しいので疑問符がついていますが、軍部の鎮圧する手法が中国がよくやる方法を踏襲しているため、ひょっとしたらありえるかもしれません。
あるいは、ミャンマー軍は中国製武器のいいお得意さんですから、その指導のために派遣されていたかもしれません。
それはさておき、似ていることは確かで、中国はSNSを危険視して常に監視下に置いて統制をかけようとします。
中国にとってSNSは支配のための道具でしかありませんから、それを使って反政府派が集会を呼びかけたりすることは許しません。
当局の盗聴にひっかかった者は、事前に反政府分子として令状無しで拘束されてしまいます。
それをよく知っている香港の民主派は、デモ呼びかけに一切SNSを利用せずにアナログに徹したほどです。
ミャンマー軍はSNSの統制を開始し、国内だけではなく外国との通信も遮断し始めました。
そのためにヤンゴンから送られる映像は、下のように一気に不鮮明になっています。
NHK
「軍政は、サイバー保安法を制定するようで、インターネット・サービス・プロバイダーが個人のIPアドレス、電話番号、住民登録番号、住所、最近3年間の活動履歴を保管することを義務づけ、個人のソーシャルメディア情報にアクセスし、個人のメッセージを見ることができることも検討中とか。このネット統制のやり方は完全に中国です。
そしてネットにあふれる、ミャンマー各地での中国人兵士の目撃談(や写真)、大量のエンジニアを送り込んで、インターネット統制のためのグレートファイヤーウォールを創ってあげたという噂。在ミャンマーの中国大使館は、デマだと一蹴して、このクーデターへの中国が関与を完全否定しています」(福島前掲)
ミャンマー、12日連続抗議デモ | カナロコ by 神奈川新聞
この国民の大規模な抵抗は軍部のみならず、その後ろ楯となっている中国にとっても意外な展開だったようです。
彼らは、クーデターを起こして強い統制下に社会を置き、スーチーらを拘束し、短期で選挙のやり直しを諮る心づもりだったようです。
軍部がおそれていたのは、軍部に一定の議席と閣僚ポストを与えていた憲法を、スーチー派が大勝することによって改憲してしまうのではないかということでした。
そこで、中国の了解の下に一気にクーデターを行い、短期の外科手術的行動て済ましてしまおうと図ったのですが、民主化に馴れた国民はそれを簡単に許さなかったことが最大の誤算でした。
結果として、軍部とそのバックにいる中国は非常に不利な立場になりました。
中国はすでに、オレは関知していないから、双方仲良くしてくれ、と言い始めています。
「ミャンマーでクーデターを起こした軍に対する市民のデモが続いていることについて、ミャンマーに駐在する中国大使は「中国は今のような状況を見たくはなかった」と述べ、アウン・サン・スー・チー氏が率いる政党側と軍側の双方に対話を呼びかけました。
ミャンマーに駐在する中国の陳海大使は、現地メディアのインタビューに応じ、16日、その内容を大使館のホームページで発表しました。
この中で陳大使は、中国はアウン・サン・スー・チー国家顧問が率いる政党、NLD=国民民主連盟と軍の双方とも友好な関係にあるとしたうえで、「中国は今のような状況を見たくはなかった」と述べ、双方が対話を通して適切に問題に対処するよう呼びかけました。
また、陳大使は、国連の安全保障理事会がアウン・サン・スー・チー氏の即時解放を求める報道機関向けの声明を発表したことについて「中国を含む国際社会の共通の立場だ」と述べ、中国としてもスー・チー氏の解放を求める姿勢を示しました」(NHK2月17日)
中国は、米国がコロナ禍と大統領選で自分の国のことだけで手一杯な隙を狙ったつもりだったのでしょう。
いまならへなちょこバイデンはあたふたするだけで、できることはせいぜいが経済制裁の復活くらいだろうから、そのへこんだ分はオレが支援してやるていどだったようです。
しかし、よもやかつて半世紀ちかくおとなしく軍政に服従してきた国民までもが、香港まがいの民主化デモに走るとは思いもしなかったようです。
スーチー派NLD政権の腐敗はつとに有名でしたし、彼女もろひ中国の属国化に動いていましたから、彼らを拘束してもかつてのようなスーチーを民主化のシンボル化することはあるまいと踏んでいたはずです。
ところがこの甘い見込みは大ハズレで、反軍部デモは拡大する一方、もう手がつけられない状況となってしまいました。
軍部は長きに渡った軍政の経験から、スーチー派指導部を捕らえて監禁してしまえば、デモもおのずと静まると踏んでいたようです。
そこでスーチー派400名から500名を逮捕したのですが、これが裏目にでてしまい、いっそう民衆の怒りに火をつけてしまいました。
現在米国に亡命している鄧聿文(元中国共産党中央党校学習時報副編集長)はこう述べています。
「ミャンマーの軍人はやはり過去の軍人であるが、ミャンマー人民はもはや過去の人民ではない、ということだ。さらにSNS時代に育ったミャンマーの若者は、かつての軍による弾圧の記憶がなく、軍隊の統治に反抗しても、軍が、社会秩序の安定を要請するだけで、武力弾圧をするとは想像していない。
この局面が悪化すれば、軍も大弾圧を開始するかもしれないと、国際社会は心配している。国連の特別報告員のトム・アンドリュースはツイッターで「ミャンマー軍はまるで人民への戦争を布告しているようだ。夜襲、逮捕の増加、多くの民主的権利の取り消し、ネットを封鎖、軍の住宅街の進駐…これは非常に差し迫った兆候だ」と投稿し、ミャンマーの民間メディアも安全部隊がマンダレーで銃を発砲してデモを追い払っている様子を報じている。これで死傷者が出たかは不明だ」(福島前掲)
鄧聿文は、もう双方共に過去のそれではないと指摘しています。
軍部はかつてのような土着的集団ではなく、国民も軍政をあたりまえだと受け入れるような存在ではなくなっていた、ということです。
軍部は近代化の過程で大きく中国軍に依存しており、一方の国民も昔のように軍部を恐れず、SNSをあたりまえに使いこなす存在に変質したようです。
そして鄧は、このまま軍部が弾圧を強めれば必ず第2次天安門事件を引き起こすとみています。
そしてこのミャンマー版天安門事件が起きた場合、中国に跳ね返ってくるだろうとしています。
その理由をこうです。
「ミャンマー軍政の鎮圧行動が世界と中国人民に30年前に中国で発生した天安門事件を思いださせ、中国共産党政権が経済と国家台頭で打ち立てた合法性を弱めることになる。
天安門事件については、中国の多くの民衆も決して忘れてはいないが、しかし中共の隠蔽と、いわゆる大国化のおかげで、昔の出来事とされつつある。たとえ記憶にあっても、その痛みは当時ほどには残っていない。
だが、もしミャンマーで同様の大鎮圧による流血事件が起き、民衆が軍政の銃口のもと流血することになれば、世界の多くの人、特に中国人の記憶がよみがえり、中国でも民主人権と独裁統治の関係、経済と社会秩序が人権の代価となってよいのかどうかについての議論がおこるかもしれない。
実際、ミャンマーに軍の装甲車がヤンゴンに現れたときの写真が中国のネット上に流れたとき、天安門の暗喩のように使われた」(福島前掲)
中国はミャンマーに関して中立的立場であり、内政干渉する意志はないと言い始めているようですが、そうは問屋がおろしません。
キレイな顔をして双方に和解のテーブルに乗るように言いたいのでしょうが、すでに国際社会はこのクーデターは中国政府の了承の下に実行されたことを知っています。
そもそも中国がこのクーデターを安易に許したこと自体が問題だったのです。
とどのつまり、中国はスーチー派をいやがおうでも西側に追いやることになってしまいました。
このままスーチー派NLDに政権を任せていたなら、中国風に腐敗した親中派政権が存続したものを、軍部の甘い見通しに耳を貸すからこういう板バサミに追いやられます。
さらに流血の事態になれば、もはや中間的立場はできません。
軍部の言うことを聞けば、国際社会からの強い非難を受けるでしょうし(それはすでに始まっていますが)、かといって軍事弾圧を非難すれば軍部は中国からかつてのように距離をあける結果となり、ミャンマーへの中国の影響力は大きく後退します。
そして再選挙になったら、更に前回選挙以上の大勝をNDLは勝ち取るでしょうし、しかもその政権は親中路線から西側寄りとなるはずです。
このように本心をいえば、中国は国軍にこれ以上の軍事鎮圧はしてほしくないはずです。
しかし福島氏は、ミャンマー軍部と中国軍が近親憎悪的感情があり、双方まったく信頼していないとも述べています。
だから国軍は、ここまで来たら中国の言うことなど聞かないだろうと福島氏は見ているようです。
ミャンマー国軍が武力鎮圧を行えば、中国は厳しい状況に追い込まれるし、仮に起きなかったとしてもスーチーを再び民主化の女神とするような空気が再燃し、かれらを自由主義陣営に走らせることになります。
いずれにしても、いったん自由主義vs全体主義という構図ができてしまえば、あとは価値観の戦いに単純化されていくことになります。
それこそもっとも中国が嫌う構図だったはずですが。
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複雑怪奇な世界情勢の分析に定評がある内藤氏が今回のミャンマー情勢をわかりやすく解説してくれています。
憶測も含めた部分もありますが個人的に腑に落ちた点が多かったのでご参考までに。
https://youtu.be/dNAaskAoh2I
内藤陽介の世界を読む「ミャンマーのクーデターに関する雑感」渡瀬裕哉【チャンネルくらら】
投稿: しゅりんちゅ | 2021年2月20日 (土) 10時28分
私はミャンマーという国について全然不案内で、隣接する中国の文化的影響
をどの程度受けているのか分かりません。朝鮮のようにバリバリの儒教国で
ないのなら、南北朝鮮のような最悪の国家へ向かうとは思えず、一度開放の
空気を覚えた民衆は軍部の支配などクソくらえとテッテ的抗戦をすると思うの
で、ミャンマー版天安門事件が起きやしないかと心配ですわ。
おそらくスー・チーさんは政治的には無能だと思われる(だからクーデターを
未然に防げなかった)ので、民衆側が優勢となっても烏合の衆となりがちで、
事態の収集はつかず、中共様がホワイトナイトとなってミャンマーに降臨しや
しないかと、背中がゾーとします。その場合、本家版天安門事件は人々の脳
裏に想起されず、「おう、ワシらも昔、軍と民衆の衝突という不幸を乗り越え
て来たんや、平和が一番なんやで、あんたらも自国民同士がケンカなんかし
たらアカン」と、中共はどこかの兄ィ格の人物のように颯爽と登場してくる。
中共は、近平皇帝の独裁が強まる中、かつての宦官どものようにヒラメ目線
で上昇志向の強い者が、皇帝に忖度しまくり、旧大日本帝国陸軍下の天皇
直属関東軍のごときスタンドプレイをしそう。最悪、国境付近の橋を自作自演
で爆破して言いがかりをつけ、ミャンマー侵攻というシナリオもあるのでは?
中共ならヤル!旧大日本帝国もヤッたのだから。
投稿: アホンダラ1号 | 2021年2月20日 (土) 23時41分
中国とすれば、国軍が勝っても民主主義のスーチーが勝っても、いずれにしても中国の勝利としたかったでしょうが、逆にどちらにしても「中国の負け」になりそうですね。
国軍が立ち上がった原因をフライン司令官の個人的事情に求める説がありますが、事はそう単純ではなさそうです。ミャンマーの問題を少数民族問題だと捉える国軍にしてみれば、中国化した強力な政治体制を作り上げる事をねらった政変だと思います。
いくら西側世界がさわいだところで、結局は香港は中共の手に落ちたように見えるし、強制力がともなわなければ同化しそうもないチベットやウイグル等の少数民族弾圧に対しても、民主主義はとても無力です。天安門も忘れ去られ、民主主義は中共当局の責任を取らせる事が出来ませんでした。
だからこそ、タイをはじめアセアンの中国化がどんどん進んでいて、そうした流れの中にミャンマーもあるのだと思います。自由主義陣営が中国モデルを許したツケが廻って来た、とも言えるワケです。
また、国連によってジェノサイド判定待ちの「ロヒンギャ追放」に賛同したミャンマー国民が、民主主義のプラカードを掲げてデモを組んでいる姿はちょっと奇異な感じがします。
事情によって少数民族への弾圧は良いが、クーデターだけは頂けないという事でしょうか。
ただし、ミャンマーはじめアセアンの中国化が進むからと言って、親中化した事にはならないと思います。イデオロギーで結束していた米ソ冷戦時代とは違います。
むしろ、中共と五寸で戦う場合には民主主義化は足かせで、中国化の方が有利となる考えもあるのでしょう。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2021年2月21日 (日) 03時15分