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2021年3月

2021年3月31日 (水)

もうPKFを入れるしかないのか

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ミャンマー国軍の虐殺はエスカレートする一方です。

「[29日 ロイター] - 2月のクーデターで実権を掌握した国軍に対する抗議デモが続くミャンマーで29日、最大都市ヤンゴンなどで新たに14人が治安部隊に殺害された。人権擁護団体によると、クーデター以降の死者は少なくとも510人に達した。
ヤンゴンの南ダゴンでは治安部隊が通常よりも大口径砲の武器やグレネード・ランチャーなどを使用し、デモ参加者が設置したバリケード撤去したという。
国営テレビは、治安部隊が「暴動用の武器」を使用し、「暴力的なテロリスト」の群衆を追い払ったと報じた」(ロイター3月30日)

また地元のミャンマー・ナウは、3月29日のヤンゴンで軍がデモ隊に向けRPGロケット砲を発射したツイッター映像を公開しています。
ここには着弾と同時に、デモ隊が隠れていた土嚢が一瞬で吹き飛び、生き残った者が逃げる様子が写っています。

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この二つの情報を付き合わせると、どうやら国軍側は銃器だけではなく、ロケット弾まで使い始めたようです。
ミャンマー国軍は、ソ連製のRPG7の焼き直しの中国製69式40mm対戦車ロケットランチャーを使用しています。
中国は武警((CAPF)にこれを装備させていますが、世界常識ではこんなもの騒がせな兵器をデモ鎮圧に用いることは絶対にありえません。

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なおこのミャンマーナウは、現地から貴重な情報をフェースブックに発信していましたが、3月31日現在切断されてしまいました。
外国メディアの決死的取材でかろうじて現地情報が伝えられていますが、このような状況においてまっ先に排除されるのは彼ら外国人記者です。
アフリカの崩壊国家の紛争において、軍隊が最初に標的にしたのは外国特派員たちでした。
まだとぎれずに報道が続けられていますが、これがすべて遮断されればどのようなことが起きるのか、想像しただけで慄然とします。

さてアホンダラさんのおっしゃるように、このままいくとミャンマーの虐殺を止めることができないことは確かです。
その理由は、仰せのとおりミャンマー「国軍」が私たちが考える国民を守る軍隊ではなくただの軍閥、つまりは私兵集団だからです。
彼らは「国軍」と言う名の軍閥であるために、自らの権益が冒されると危惧すれば軍事クーデターを起こし、国家を転覆しようとさえします。
自分で作った憲法には、議席の4分の1と内閣の要職がふたつ準備されているというのに、それでもまだ不足とみえて完全支配しないと気が済まないようです。

そもそもこの大虐殺の発端となったクーデターの理由すら、もう忘れ去られてしまいました。
不正選挙だなんだと言っていましたが、こんな大虐殺をしてしまったら二度と国民は彼ら国軍を許さないことでしょうから、以後何回やり直し選挙をやろうとも国軍が惨敗することは必至です。
したがって、このまま国軍が民主デモを押し潰すことに成功すれば、選挙は二度と行われないか、軍の管理下のものにすげ替えられることでしょう。
言論は統制は長期間におよび、結社・集会の自由は失われます。
すなわち、今の香港のような社会がもうひとつ東南アジアに誕生するわけです。

もはやクーデターを起こした理由などどうでもよい。
いま問題となるのは、国軍が仕出かしたこの大量虐殺をどう止めるのか、その一点に尽きます。
そしてあえてつけ加えるならば、虐殺を止めた後に国軍という悪逆非道な私兵集団をどのように解体し、民主主義を回復するか、です。
ただし現時点では、あくまでも虐殺の即時停止こそが緊急の課題なのはいうまでもありません。

私はなんらかの国際的平和執行行動による住民保護しかないと思います。
現在、ミャンマーには正統な政府が存在しません。
クーデターで成立した国軍による独裁政権が「政府」を名乗っていますが、いまやいかなる意味でもあのようなものを政府と見なすことはできません。

とはいえ、国連PKOには必要な要件の多くを欠いています。
まず「受け入れ国」がありませんし、紛争の一方が獄中にあるために当事者間の交渉自体が成立せず、したがって「停戦」しようがありません。
これは政府を乗っ取った私兵集団による国民の一方的虐殺だからです。

現在のミャンマーの状態は、住民の保護をすべき主権国家がその任務を自ら放棄し、虐殺を繰り返す当事者となっています。
ミャンマーは統治制度が崩れ去った崩壊国家になっています。
これは一種
の無政府状態であって、この真空空間で「国軍」と自称する軍閥が国民を殺害しまくっているととらえてかまわないと思います。

本来このような任務は、国連がPKFとしてするべきですが、安保理でロシアが反対にまわり、中国もそれに同調するか棄権にまわることでしょうから厳しいと思われます。
そもそも
このような「政府」を簒奪した集団による、国民の一方的殺戮という状況を国連PKOは想定していませんでした。

国際社会はミャンマーの虐殺を停止するためにいわゆる有志連合を結成し、多国籍平和維持軍として介入するべきではないでしょうか。
もちろんその前段で、いまの国際的制裁を強めていくのはいうまでもありませんが、それではあまりにも時間がかかりすぎてしまいます。
国際社会が足並みを揃えた頃には、国軍は抵抗する人々のほぼすべてを殺すか、牢獄に放り込んでしまっているでしょう。

現時点では大変に困難なのは百も承知ですが、私には有志連合による平和維持部隊の介入しか思い浮かびません。

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日本軍の前で演説するアウンサウン将軍

なお、日本がODA援助を停止したそうです。


日本の援助はインフラ関係が主ですが、軍事政権は痛くもかゆくもないでしょう。
こんなことをすると国民に迷惑がかかるという人もいるようですが、今それを言う時期ではないはずです。
今せねばならないのは虐殺の即時停止です。

そもそもこんな軍事政権を「政府」として認めているから、ODAを切るだの「軍事政権と太いパイプがある」だのと生ぬるいことを言えるのです。
繰り得しますが、ミャンマーはいまや統治が崩壊した無政府国家にすぎません。
統治者が存在せずに、「国軍」を自称する私兵が国民を殺しまくっている状況なのです。
したがって、国軍にODA停止を交渉材料にして考えを改めさせる必要はありません。
軍事政権にいうべきは、銃を置け、国民を殺した責任者を出せ、これだけしかありません。

日本は「国軍」というの名の私兵集団を作り、それを育てしまった責任があります。
今、しっかりとそのツケを清算するべき時期なのです。

 

 

2021年3月30日 (火)

ミャンマー国軍の虐殺を止めろ!

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ミャンマー国軍の狂気が止まりません。
ミャンマー軍はすでに2月1日以降のクーデターで、国際メディアが把握しているだけで423名、拘束されたり、行方不明となった市民だけで2428人に達しています。
おそらく拘束者の中にはすでに密かに処刑された者も相当数いるはずですから、1000人を超える犠牲者を出しているとみるべきです。

特に国軍記念日には、首都ネピドー郊外で開かれた式典で国軍が軍事パレードを行った後に、デモに無差別発砲して一日で実に市民114人が殺害されています。

「ビルマ人権ネットワークのキャウ・ウィン会長はBBCに対し、ミャンマー軍には「限度も節度もない」ことが明らかになったと話した。
「これは弾圧ではなく大量虐殺だ」
実弾を使った弾圧は、ミャンマー全土の40カ所以上で報告され、首都ヤンゴンや第2の都市マンダレーなどで死者が出ている。
マンダレー管区ミンジャンに住むトゥヤゾーさんはロイター通信に、「(軍は)私たちを鳥や鶏みたいに殺している。自宅にいても」と話した。「それでも私たちは抗議を続ける」。
デモに参加した市民は、クーデターで政権を追われた与党・国民民主連盟(NLD)の旗を掲げ、反全体主義のシンボルとなっている3本指の敬礼で抗議した」(BBC3月28日)

無辜の殺害された人々の中のひとりに、今年20歳を迎えたばかりのミャ・トゥエ・トゥエ・カインさんがいました。
彼女は2月9日ネビドーのデモにおいて頭部を撃ち抜かれて死亡しました。

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BBC

「ミャ・トゥエ・トゥエ・カインさんは、今月9日に首都ネピドーのデモに参加し、頭部に深刻なけがを負ったとみられる。警察は当時、放水器やゴム弾、実弾を使ってデモを解散させようとしていた。
人権団体は彼女が受けた傷は、実弾による傷の形状に一致すると主張している。
ミャ・トゥエ・トゥエ・カインさんが入院していた病院の医師の1人は、「正義を求め、前進する」とAFP通信に語った。また、彼女が集中治療室に運ばれて以来、病院スタッフには大きな圧力がかかっていたと話した。
彼女は入院中に20歳の誕生日を迎えた。(略)
兄によると、ミャトゥエトゥエカインさんはNLDが大勝した昨秋の総選挙で初めて投票を経験していた」(BBC2月21日)

彼女だと推定される女性が、発砲を受けてなぎぎ倒されるデモ隊の中にいる画像を確認できます。
彼女にとってこれがおそらく初めてのデモだったはずですが、「逃げないで」と叫んでいる彼女を多くの人が目撃しています。
この数分後に彼女は射殺されました。

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BBC

このミャンマー国軍の狂気を絶対に止めねばなりません。
腰が重かった国際社会もやっと動きだ始めました。
特に異例なのは、自衛隊をはじめとする各国軍のトップが共同声明を出したことです。

■令和3年3月28日
統合幕僚監部
各国参謀長等による共同声明について
統合幕僚長山崎幸二陸将は、令和3年3月28日(日)(日本時間)、ミャンマーで生起している事態に対する平和的な解決を求めて、以下の共同声明を発出することと致しました。

ミャンマーにおける同国軍による暴力行為を非難する各国参謀長等による共同声明
以下は、オーストラリア連邦、カナダ、ドイツ連邦共和国、ギリシャ共和国、イタリア共和国、日本国、デンマーク王国、オランダ王国、ニュージーランド、大韓民国、イギリス及びアメリカ合衆国の参謀長等による共同声明である。
参謀長等として、我々はミャンマー国軍と関連する治安機関による非武装の民間人に対する軍事力の行使を非難する。およそプロフェッショナルな軍隊は、行動の国際基準に従うべきであり、自らの国民を害するのではなく保護する責任を有する。我々はミャンマー国軍が暴力を止め、その行動によって失ったミャンマーの人々に対する敬意と信頼を回復するために努力することを強く求める

今までわが国の自衛隊が、各国軍隊のトップと連名で共同声明を出すことは、寡聞にして聞いたことがありませんでした。
いままで寡黙な「9条の自衛隊」しか知らなかった私には嬉しい驚きです。
このような各国共同声明に署名した山崎統合幕僚長は、意識せずして、自衛隊は「半軍隊」ではなく国際社会で各国軍と肩を並べる軍隊であると宣言したことになります。

それはさておきここで山崎陸将と各国軍トップは揃って、「プロフェショナルな軍隊の国際基準は、国民を撃つことてはなく守ることである」と言い切っています。
まさにそのとおりです。
これが「国軍」が国の軍隊である所以であり、これこそが絶対的な国際基準なのです。
したがって、自国の国民を無差別に撃つようなミャンマー国軍は、もはや「国軍」の名に値しないと言っていることになります。
これがプロフェショナルの軍人の矜持であり、プライドなのです。

さて、わが国外務省も遅まきながら声明をだしました。

■ミャンマーにおける多数の市民の死傷について(外務大臣談話)

1・日本政府は、国際社会の度重なる呼びかけにもかかわらず、ミャンマー国軍・警察による市民に対する実力行使により、3月27日にはこれまでで最多の死者を数えるなど、ミャンマーで多数の死傷者が発生し続けている状況を強く非難します。また、犠牲者の御遺族に対し哀悼の意を表し、負傷者の方々に心からお見舞い申し上げます。
2・ミャンマー国軍・警察による市民への発砲や被拘束者に対する非人道的な扱い、報道活動に対する厳しい取締りは、民主主義の重要性を唱えるミャンマー国軍の公式発表と矛盾する行動です。軍隊は国民の生命を国外の脅威から守るための組織であることを、ミャンマー国軍指導部は想起すべきです。
3・平和的に行われるデモ活動に対して実弾が用いられることは断じて許されません。日本政府は、ミャンマー国軍が、市民に対する暴力を直ちに停止し、アウン・サン・スー・チー国家最高顧問を始めとする被拘束者を速やかに解放し、民主的な政体を早期に回復することを改めて強く求めます。

いつも常に口になにかを入れてしゃべっているような外務省としては、よく言ったというべきではあります。
「強く非難する」と言う表現は、今の外務省にできる最大限の強さですから素直に褒めてやりたいのですが、肝心要の制裁の具体性が見えません。
非難声明は言葉だけではなく、実効性のある制裁とワンセットで初めて意味を持ちます。
外務省はいま毎日数十人、時には100人の桁で積み上げられる虐殺をどうやって止めるきなのでしょうか、そこがまったく見えません。

米国は先日、貿易を停止すると発表しました。
ミャンマー国軍系の企業2社に対しての制裁です。
これはミャンマー国軍が経営するミャンマー・エコノミック・ホールディングス(MEHL)などを指します。 

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日経

「米財務省は25日、ミャンマーでクーデターを起こした国軍が深く関与する2企業に制裁を科したと発表した。国軍の資金源に打撃を与えて、クーデターに抗議するデモ参加者への弾圧を停止するよう迫る狙いがある。
制裁対象に指定したのは、国軍系のミャンマー・エコノミック・ホールディングス(MEHL)とミャンマー・エコノミック・コーポレーション(MEC)。2社は米企業との取引が禁じられ、米国にある資産が凍結される。バイデン政権は2社に対する事実上の禁輸措置をすでに発動しており、国軍の資金源への締め付けを強めたことになる。
米財務省は、2社について貿易や資源、酒類、たばこ、消費財などの分野で強い影響力を持つと指摘した。2社はインフラや金融、通信といった幅広い分野の事業会社も抱えており、制裁の影響が一般市民の生活に及ぶ可能性がある。制裁を受け、米国以外の企業も2社との取引を控える動きが加速すればミャンマー経済に痛手となる」(日経3月26日)

自衛隊では考えられもしませんが、ミャンマー軍は中国人民解放軍をまねて多種多様な民間企業を経営していますが、その中心がこのMEHLです。
ミャンマー国軍はこの会社をハブにして、さまざまな事業を手がけ、金融投資によって巨額な金を得て、それを国軍に貫流させています。

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  朝日

「ミャンマーには「ミャンマー・エコノミック・コーポレーション(MEC)」という、もう一つの国軍系複合企業も存在する。MEHLやMECは傘下に銀行や通信、ホテル、製鉄など幅広い企業を持ち、国内経済に強い影響力がある。(略)
MEHLとMECはともに1950年に設立された国防協会が前身。協会は生活物資を売る小売店から始まり、60年代にかけて銀行や保険、海運会社も持つ一大組織に成長した。
 国軍は90年にMEHL、97年にMECを創設。優良な国営企業を民営化して傘下に収め、外資と合弁を組むことで成長を続けた。残った国営企業は軍人らの天下り先とし、国軍は利権の維持と拡大に成功した」(朝日2月23日)

米国はこのMEHLを狙い撃ちして、米国資産の凍結と貿易の停止を命じています。
それはこの国軍系2企業が、ただの金もうけて国軍幹部の懐を富ましているだけではなく、彼らがなした悪行のひとつであるロヒャンギ迫害や、今回の国民虐殺にもその資金として投じられている疑いが強いからです。

「国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは10日、ミャンマーの国軍系企業の株主に国軍部隊が含まれ、配当が軍の資金源になっていると示す報告書を発表した。イスラム系少数民族ロヒンギャへの迫害など「人権侵害を支えている」と指摘。合弁を組む外国企業には国軍系企業との提携の解消を求めた。
国軍系企業のミャンマー・エコノミック・ホールディングス(MEHL)は、金融、農業、鉱山採掘など幅広い事業を手掛ける複合企業。国軍最高司令官らの監督下にあり、取締役は全員が軍人か退役軍人が務める。現役兵や退役軍人の「福祉」への貢献を企業目的に掲げている。
アムネスティの報告書によると、MEHLの株式の一部は国軍の地方司令部や部隊が保有する。2017年にロヒンギャの村での掃討作戦を指揮した司令部も含まれる。各部隊に支払われた配当金の具体的な使い道は不明だ」(日経2020年9月10日)

では日本はなにをすべきでしょうか。
ひとつしかありません。
ミャンマー国軍を徹底的に締め上げて、虐殺を速やかに停止させることです。
そのためにこそ、いまに至っても外務省が得意気に口にする「国軍との太いパイプ」が意味があるのです。
今さら、国軍を制裁すれば中国に行ってしまうなどと寝言を言う者がいますが、逆です。
すでにミャンマー国軍は中国側にとっくに走っていってしまい、クーデターを容認した中国ですら、やや困りぎみなのです。
いまや皮肉なことには、ミャンマー国軍の味方はあのならず者国家・ロシアしかこの世界に存在しない有り様です。

ならば、ここで大昔日本軍が残した忘れ形見のミャンマー国軍の死に水をとってやるのは、日本以外いないでしょう。
一切の経済援助の即時停止はあたりまえです。
本来は、国軍系2企業の貿易の停止、日本国内資産凍結、さらには民間企業投資の制限などをすべき時期なのですが、国連制裁決議があれば別ですが、現況では根拠法が希薄です。
ここでもウィグル制裁と同じ問題につきあたってしまいます。
もはや国際人権法を作ることは緊急の課題です。

日本はミャンマー虐殺を止めるために最大限のことをしろ!

 

 

2021年3月29日 (月)

アシックス、ウィグル弾圧で中国政府を支持

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日本を代表するスポーツ用品メーカーのアシックスが、ウィグルにおける中国のジェノサイドを「理解して支援した」そうです。
一部を切り取ったわけではないことを示すために、中国版微博(ツイッター)アシックス公式アカウント3月25日声明の全文をアップしておきます。
なお、この声明を日本本社は「承知している」そうですから、アシックス公式の態度はウィグルのジェノサイド容認、いや「理解して支持」しているということになります。

「健全な魂は健全な肉体に宿るという精神をアシックスは信じ、終始、消費者のために優良なスポーツ装備を提供したいと努力しています。
アシックスは中国市場において、現地のサプライ―チェーンを大きく発展させ、原材料の購入から生産まで、新疆棉の購入を含め、中国の異なる地域にわたり行ってきました。優良な原材料は優良な製品を生産を保障する上で重要です。我々は、新疆棉を購入し続け、支持します。
同時に、アシックスが中国本土のサプライチェーンの発展をさらに一歩進め、我々が中国におけるビジネス環境に十分な自信をもっていることを表明します。
アシックスは終始、一つの中国原則を堅持します。また国家主権の領土の完全性を守ることを固く決意します。アシックスは中国の行動に対する一切の中傷やデマへの断固反対を決意するものです」

アシックスの人権意識の低劣さに唖然とします。なにが「健全な魂は健全な肉体に宿る」だ。笑わせます。
アシックスはBBCの報道を突破口にして世界の主要国が21世紀最悪の人権侵害だとして非難しているウィグル弾圧を、デマだ、フェイクニュースだといっているわけです。
これは同じ指摘を受けた日本企業とも大きく異なり、アシックスのコンプライアンス問題にまで発展することでしょう。

「報告書は2017~19年に8万人以上のウイグル族が強制収容所などから中国全土の工場に送られたと分析。各社が供給網の末端で強制労働とつながりがある可能性は排除されていないとした。
 指摘を受けた各企業は事実確認などの対応を急ぐ。東芝は強制労働の疑いがある調達先を調査。「当社や連結子会社の直接取引先ではないことを確認」した一方、東芝がブランド使用を認めている企業で、疑いのある調達先と取引があったケースが判明。「強制労働の実態は確認されなかったものの、昨年以降の開発機種は当該調達先の部品を採用していない」とする。
 ソニーは「指摘された調達先のうち、サプライチェーン上にある調達先を調べた結果、強制労働の事実は確認されなかった」と強調。シャープや日立製作所、TDKも確認された強制労働の事実はないとする。その一方で、「今後、事実が取引先で判明した場合は断固として是正を求め、改善されない場合は取引停止などの対応も検討する」(シャープ)とする。
 企業の短期的な利益追求よりも経営の持続可能性が求められる中、人権を含む社会問題や環境問題への企業責任を重視する投資家からの圧力は強まる。今回の強制労働をめぐる疑惑も対応が遅れれば、企業にとっては重大な経営上のリスクに発展しかねない」
(産経3月22日)
https://www.sankeibiz.jp/business/news/210322/bsc2103222012007-n1.htm

この記事で報告書と呼ばれているのは、2020年3月、オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)が公表したものです。
(ブルームバーク2021年2月22日『日本の12社、ウイグル弾圧企業との取引停止へ-報道 』 )
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-02-22/QOWP1VDWRGG501

"Re-education’, forced labour and surveillance beyond Xinjiang"(新疆の強制労働と監視「再教育」)

「 中国政府は、ウイグル人やその他の少数民族1人の市民を新疆の極西地域から全国の工場に大量移送することを促進した。
強制労働を強く示唆する条件の下で、ウイグル人は、アップル、BMW、ギャップ、ファーウェイ、ナイキ、サムスン、ソニー、フォルクスワーゲンを含む技術、衣料品、自動車分野で少なくとも82の有名なグローバルブランドのサプライチェーンにある工場で働いている。
この報告書は、2017年から2019年の間に8万人以上のウイグル人が新疆から中国全土の工場で働くために移送され、そのうちのいくつかは拘禁キャンプから直接送られたと推定している。
家から遠く離れた工場では、通常、分離された寮に住んでおり、3人単位で組織化された北京語を受け、労働時間外のイデオロギー訓練を受け、絶え間ない監視の対象となっており、宗教的な遵守に参加することは禁じられている。
中国は新疆で超法規的な「再教育キャンプ」のネットワークに対する国際的な非難を集めている。
 この報告書は、中国全土の一部の工場が世界的なサプライチェーンを汚染している国家主催の労働移転計画の下で強制的なウイグル労働を使用しているという新しい証拠を明らかにし、少数民族を対象とした中国の社会キャンペーンの新たな段階を明らかにしている」
(オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)" Uyghurs for sale"より )
https://www.aspi.org.au/report/uyghurs-sale

この報告書を基にしてBCI(ベターコットンイニシアチブ)は、昨年10月に新疆棉に対する認可証の発行を停止し、その強制労働と人権侵害問題に懸念を示しました。
中国は新疆ウィグル自治区で数百万規模と言われていると洗脳キャンプに隔離し、さらにその「卒業生」を中国各地の工場に派遣して劣悪な環境で使役しているようです。
かつてのナチスの強制労働の亡霊が蘇ったようです。

世界の良質な綿製品を扱うアパレルメーカーのほぼすべてがBCIに加盟していますから、この認証を受けないと高品質の綿製品を使っていると名乗れなくなります。
それもあってH&Mやナイキは新疆綿の取引を中止しました。
それに対して、例によって例のごとく中国は官製のボイコット運動を開始しています。

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「中国新疆ウイグル自治区の人権状況をめぐる問題に絡み、同自治区産の綿花を製品に使わないと宣言したスウェーデンの衣料品大手のH&Mが、中国で激しい批判にさらされている。国営メディアや中国共産党系の団体が24日になって一斉に批判を展開し始め、ネット通販大手のサイトでは商品を検索できなくなった。 中国当局によるウイグル族への人権抑圧批判を踏まえ、H&Mは昨年9月、新疆産の綿花を同社の製品に使わないとする声明を発表していた。
中国国営中央テレビは24日夜、SNS上で「中国で大もうけしておいて、中国を中傷し、勝手に罪をなすりつける。ビジネスの基本倫理すら毛頭ない」と強く批判。国営新華社通信や共産主義青年団などもSNS上で相次いで同様の批判を発信した」(朝日3月24日)

さてここでアシックスが問題とされるべきは、アシックスが人権意識の鈍さを暴露しただけではなく、更に一歩踏み込んで、「一つの中国原則を終始支持する。中国の領土主権の完全性を守ることを固く決意する」という中国政府の立場を無条件に肯定してしまったことです。

このアシックスの発言は、二重に問題です。
ひとつは、BBCの報道をきっかけにして世界主要国がジェノサイドと認定し、非難と制裁に向かっているウィグル少数民族弾圧を、あろうことか中国政府の立場まで「理解して支援」してしまったことになります。
これは無印良品の良品計画本社が、ウィグルの事態に憂慮するとした消極的対応と較べても、より積極的に弾圧者を支援するという積極支持に回ったことを意味します。

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中国に進出した日経企業には、いまだ2012年に起きた反日暴動で多くの工場店舗が焼き払われた経験がトラウマとして残っていることに加えて、コロナによる消費市場の低迷下でも中国市場だけが堅調な伸びをしめしているからです。
今後アシックスなどの企業は、国際市場が低迷する中、中国市場だけが伸びると予測しています。
特に若者向けのアパレル、スポーツ用品は今や初めから中国市場を主要ターゲットにして設定されています。

そしてこの中で起きたのが、米中経済対立から端を発する一連の中国非難の流れであり、中国は市場に参入しようとする外国企業に対して、従属するか、出て行くかという踏み絵を踏ませました。
そもそも一般の国で政治的な踏み絵を踏ますこと自体が考えられもしませんが、この国はそういう国なのです。
大量消費を餌に中国市場に誘い込み、政治的踏み絵を踏ませて飼い馴らそうとし、それに逆らうなら政府が雇った暴徒に店舗や工場を焼き討ちさせて、恬として恥じない国なのです。

思えばこんな政府が民族主義を煽り、外国企業や公館を攻撃するといった中国流は、義和団事件の昔からまったく変わらないやり方でした。
今回はまだ始まったばかりにすぎません。
以後、中国市場に参入した外国企業は続々と踏み絵を踏まされ、従属することを誓わされることでしょう。

ちなみにこの中国流をそっくり模倣したのがコリアです。
慰安婦像を立てたのは反日団体有志ですが、いったん建てればこれを政治的に利用し反日攻撃材料にするのは政府。
ね、同じでしょう。
大中華悪党と小中華の違いがあるだけです。

それはさておき、これが楊潔篪(ようけつち) がアラスカ会談で言った、「我々はまだ西洋人から受ける苦痛がたりないとでもいうのか?」という言葉の答えです。
中国は自らに対する圧力は、必ずナショナリズム、それも健全なそれで狂おうしいばかりの民族主義と排外主義で応えようとするのです。

中国は、日頃は世界に冠たる中華帝国と大いばりしているくせに、いったん国際社会から非難を浴びようものなら、一気に180年前のアヘン戦争の頃に逆戻りしてしまうのですから、たまったもんじゃありません。
今回H&MなどのCMに出ていた中国人女優などが出演拒否の理由を、「中国が汚された」といっているようですが、それは逆です。
「中国を汚した」のはH&Mではなく、ジェノサイドを働く中国共産党のほうです。
デマだ、フェークだというのは勝手ですが、国際社会から調査団とメディアを受け入れればよいだけのことでで、それを拒否し続けているからこうなるのです。
そして安直にナショナリズムを爆発させ、徒党を組んでボイコットだ不買だと叫んで外国企業に押しかける、こういう無知無自覚な中国国民のあり方を魯迅は阿Qと呼んだのです。

今回アシックスが踏んだのは、「中国の一つの中国原則を支持し領土主権を完全に守る」という踏み絵でした。
これは、中国のいう「領土の核心的利益」を全面肯定することを意味します。
中国の「一つの中国原則」とは、米国のワン・チャイナ・ポリシーと異なり、台湾の「解放」まで含む、中国の領土政策を含む侵略主義的概念です。
これをいったん飲むと、台湾のみならず中国は南シナ海、東シナ海の尖閣まで含んで「神聖不可分な領土」としているわけですから、アシックスは台湾・尖閣で中国政府の側についたということを意味します。

これはウィグルや台湾のみならず、私たち日本国民に対する重大な背信行為です。
しかもアシックスは、ただの一企業ではなく東京五輪のゴールドパートナーですから、東京五輪はウィグルのみならず、台湾・尖閣まで含む中国政府の領土的立場に諸手を上げる企業が支援する薄汚れたものだということになります。

アシックスは、いつから中国政府の支配下の企業になってしまったのでしょうか。
この中国法人の公式声明を日本本社も容認するなら、アシックスはもはや日本企業ではありません。
さっさ神戸から北京に移動したらいかがでしょうか。
きっと尖閣に上陸してくる海上民兵はアシックスを履いてくることでしょう。


※画面テーマを桜に模様替えしました。いま、桜はあでやかに満開です。

 

 

2021年3月28日 (日)

日曜写真館 今日は千秋楽です

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今日は千秋楽です。

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力士の大きな背中が大相撲のシンボルです。

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この力士の欠点は優しいことです。

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この力士が賜杯を抱く可能性は少しだけあります。

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寡黙な孤独を背負った勝負師でした。

 

2021年3月27日 (土)

孤立をみずから選ぶのか、海保

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なんともいえないもどかしさを感じます。
米国と台湾は、海上警備で共同する覚書に調印しました。
いうまでもなく中国の海警法に対応したものです。

「【台北時事】米国の対台湾窓口機関である米国在台協会(AIT)は26日、海上警備分野で協力を強化するための覚書に調印したと発表した。米台の海上警備当局の交流を拡大することで、中国が2月に施行した「海警法」に対抗する狙いとみられる。米台が覚書に調印するのは、バイデン政権発足後初めて」(時事 3月26日)

米国はバイデン政権であるか否かを問わず、台湾とその領海を共に警備することを宣言したわけです。
ここで注目しなければならないのは、この新たな海上共同警備の覚書は、米国の有事における台湾支援とは一線を画した平時の共同警備だという点です。
有事において、米国は台湾関係法に基づいて軍事的支援をすることになっています。
これを平時の段階から海洋警備だけに限定してですが、共同防衛しようというわけです。
おそらくトランプ政権の頃から煮詰められていたとおもわれますが、国家としての承認、米台湾安保条約締結まで行ってほしいものです。

中国がいきなり数万人の軍隊に号令をかけて台湾海峡を渡ってくるというなら、誰の眼にも見えます。
しかし日常的に台湾海峡の中間線をひんぱんに領空侵犯してみたり、台湾領土の島の砂利を違法採掘するなんていうことは、他国の眼にはなかなか眼に入らないことです。
これを一度や二度やるならともかく、ズっと毎日このボディブローを食うとどうなるでしょうか。
台湾空軍や台湾海保は疲れ切り、やがて恐ろしいことに慣れっこになってしまいます。
これが俗に言われる、チャイニーズ・サラミスライシングです。

超大国とも思えないセコさですが、日本などはすでに尖閣水域を半ば譲り渡してしまっていますから効果絶大です。
中国に施政権を主張され、「警備」という実効支配を継続され、実行支配さえしていれば海警が発砲できるという法律まで作られ、今や海警に追い回されるのは日本漁船のほうですから、これをまっとうな日本領海とはだれも思いませんものね。
やがて中国の実効支配水域は徐々に拡がり、石垣港のすぐ外を海警が「警備」をしているような光景を、私たち日本人は見慣れることになるかもしれません。

台湾空軍は連日のスクランブルによって疲れ切って事故が急増しているそうです。
日本の空自も同様で、海保などはすでに一部で限界にさしかかっています。
なんと第11管区所属の海保の巡視艇が警備航行中に不具合が起きて漂流したそうです。

「尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺で領海警備に当たっていた海上保安庁の尖閣専従巡視船が1月、任務中に故障し、一時、航行不能状態に陥っていたことが21日、海保関係者への取材で分かった。老朽化が原因とみられる。尖閣では中国海警局の船による領海侵入が相次ぎ、中国は2月、海警局の武器使用を認める海警法を施行するなど日本の有効支配を覆す動きを強めており、装備の刷新も含めた対策が急務といえそうだ」(産経3月21日 )
https://www.sankei.com/affairs/news/210321/afr2103210007-n1.html

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漂流したうるま 産経

「うるまは1月下旬、尖閣諸島周辺で、船内の電力をまかなう発電機の一部が故障し、動作不良になった。発電機を動かしている燃料タンクを確認したところ、大量の海水が混入していることが判明。海水を含んだ燃料をエンジンに使用すれば機関停止につながる恐れもあり、一定時間、エンジンを停止させたままの状態を余儀なくされた」(産経前掲)

これはうるまにとどまらず、海保巡視艇全体が老朽化しています。

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「耐用年数を過ぎた139隻の内訳は巡視船29隻、巡視艇110隻。巡視艇の老朽化が特に顕著で、超過割合は46%に上る。海保は順次、新造して代替更新を進めているが、尖閣対応巡視船の増強などが優先されてきたため、追い付いていないのが現状だ」(産経前掲)

海保全体の老朽化が、特に尖閣警備で長期の消耗戦を戦っている第11管区に出たということのようです。
それにしても船体に穴が開いてしまって浸水とは絶句します。ここまでとは・・・。

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「耐用年数を過ぎた巡視船艇は故障が増え、エンジンの出力が落ちて速度が低下。さびなどの腐食で船体に穴が開いて修理が必要になるほか、交換部品が製造中止になっているケースもある。海保は対応が手薄にならないよう、古い船艇が1カ所に集中しないようにするなど配置を工夫し、老朽化に対応している」(産経3月22日)

日本は領海とEEZを合わせて世界6位の広い海域を持つ海洋国家です。
ではこの尖閣から宗谷岬までの広大な海洋を守っているのは誰でしょうかか
もちろん海保と海自です。
海保は国土交通省の管轄、海自は防衛省ですが、素朴に考えれば、ふたつしか組織がないのですから相互に協力し合っているかと思えば必ずしもそうではありませんでした。

初期海保のメンバーの多くは戦時中の海軍の民間船徴用を経験していました。
戦時中の民間船の船員たちの多くが、徴用により帰らぬ人となって今もなお海に眠っています。
この恨みは、海軍軍人を中心にして作られた海自に向けられました。
軍の言うとおりにはならない、軍には協力しないというのが、一頃までの海保の根強い伝統意識だったのです。

海保は、大は艦艇から小は微備品のひとつひとつまで海保独自の規格を作ったばかりか、巡視船の呼称すら海自とまったく同名を平気で名乗らせる意地というか、ほとんどいやがらせじみたことすらしたために、同名の艦船2隻が同時期に2隻存在したことなど珍しくなかったのです。
映画『海猿』の寮に「海自打倒」と書いた紙が貼ってあったのも、あながちフィクションではないようです。

しかし国民としては、かつての海保の心情には同情しますが、もういい加減にしてほしいとおもいます。
戦時徴用を知る海保初期のメンバーはひとりも残っていないのに、いつまでこんな隠微な対立感情を同じ国のシーマン同士が抱えているのでしょうか。
しかも巨大な中国の津波がそこにまで来ている時期に。

元海将伊藤俊幸氏はこう述べています。

「自民党は2月の国防部会などの合同会議で、中国海警法をめぐる対応を協議し、海上保安庁法の武器使用に関する20条や、海保が軍事的任務に就くことを禁ずる25条の見直しを求める意見を提示した。しかし、海保は「見直す予定はない」と回答した。
海保は野党に対しても、中国海警船が武器を使った場合、海保巡視船は20条1項の「正当防衛」で反撃できるとし、20条2項に関しては、「不審船事案を契機とし、無害でない通航への対処」を追記したが、「軍艦と政府公船には無害通航権があるため除外した」と説明したという」(時事3月21日)

やれやれ。自民党は海上保安庁法の武器使用に関する20条や、海保が軍事的任務に就くことを禁ずる25条の見直しを求める意見を提示しましたが、海保の答えはにべもなく「見直す予定はない」そうです。
その理由は前にも記事にしましたが、外国軍艦や公船は「無害通航権」があるからだそうです。
これは領海内であろうと、当該国に害をなす航行でなければ通航できるとした国際海洋法に基づいた解釈です。
中国海警は長期間恒常的に日本領海に侵入を続け、あまつさえ日本漁船を追い回す「警備活動」を盛んにしているのは知られた事実です。
このどこが「無害」なのか、海保にお聞きしたいものです。
外務省すらこの自民党合同部会で、「海警船の領海侵入は無害通航ではあり得ない」と述べていますが、現場を預かる海保と管轄の国土交通省は違う意見のようです。

また海保は海自と連携して行動してはならない、という異様な法律に縛られています。
9条の呪いがかかった海上保安庁法を改正せよ

●海上保安庁法
第二十五条  この法律のいかなる規定も海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはらない。

これは世界的にみても異常な規定です。
米国沿岸警備隊などの諸外国のコーストガードは陸海空軍に並ぶ準軍隊として位置づけられ、有事には自動的に海軍の指揮下に入りますが、日本では有事どころか平時でも連携を禁止しているのですから話になりません。
つまり艦艇、機材、行動、すべてに渡って海自との連携を拒んでいるのは海保のほうなのです。

国交省大臣がなぜか常に親中派の公明党の指定席だから、などとうがった見方はしたくありませんが、最低でも外務省見解と意見をすり合わせて第11管区にのみしわ寄せを押しつけるのはやめていただきたいものです。
そしてこのような因循姑息な海保に、尖閣に隣接する台湾海保との協力関係を提唱するのはさらに虚しいだけかもしれません。
国内でもまともに海自と協力できない海保が、外国の、しかも国として承認していない台湾の海保との協力など夢の又夢ですから。 

かくして海保はひとり孤立して、漂流するぼろ船を抱えて消耗を深める一方のようです。

 

2021年3月26日 (金)

北朝鮮弾道ミサイル発射の意味

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北朝鮮が弾道ミサイルを発射したようです。懲りない奴ですな、まったく。
北にとって「弾道ミサイル」というのは軍事的意味より、一種のおしゃべりのようなものです。
今どき短射程のものを海に向けて撃ってもだれも驚きはしませんが、撃ちたい、撃たせてくれぇというわけで、南北揃ってめんどくさい国です。

●防衛省発表 令和3年3月25日
本日、北朝鮮は本日7時4分頃及び7時23分頃、北朝鮮の東岸から合計2発の弾道ミサイルを東方向に発射した模様です。従来から北朝鮮が保有しているスカッドの軌道よりも低い高度、すなわち100km未満をいずれも約450km飛翔したものと推定されます。なお、落下したのはわが国の排他的経済水域の外と推定をされております。

注目すべき点はいくつかあります。
まずミサイルを落とした位置が日本のEEZの西だということです。

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北朝鮮への対応、日米首脳会談の主要議題に…弾道ミサイル発射受け米韓

2020年の北朝鮮の弾道ミサイルはこのようなものです。

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防衛省 2020年の北朝鮮による弾道ミサイル発射

上図をみればお判りのように、去年のものはいずれも着弾地点が同じ無人島に集束していますから、着弾修正をしたのだと考えられています。
一方、先日のそれは、東部から一直線に東に撃ち出しています。たぶん米軍のTHAAD攻撃を想定したものだと推測されています。
JSF氏によれば、その飛行性能から北朝鮮版ATACM(陸軍戦術ミサイル)の可能性があるとのことです。

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北朝鮮版ATACMS短距離弾道ミサイル2回目の発射(JSF)

ちなみにこのATACMは、当初は韓国の玄武2に酷似していることから流出疑惑をかけられていましたが、大きさも異なり、操舵系がロシアのインスカンダルと同じであることから、むしろロシアの技術供与があったものだと推測されています。
このイスカンダル系の弾道ミサイルはグライドミサイル(極超音速滑空体) とも呼ばれて、落下してくる時に通常の弾道軌道を描かずに、軌道を微妙に変化させるというコジャレた小技を使って落ちてきます。
そのために一部の識者は、現存の日米のMD(ミサイル・ディフェンス)では迎撃不可能とまで言っていますが、それは過大な評価です。

「パトリオット迎撃システムのPAC-3迎撃ミサイルは大気圏内迎撃用でありターミナル段階でイスカンデルを迎撃可能です。イスカンデルに限らずPAC-3は弾道ミサイルをターミナル段階で迎撃するので何時もと変わりがありません。イスカンデルもターミナル段階で落ちて来る直前ともなれば大きな軌道変更はもうできず、目標照準用の小さな修正しかできません。全く問題無く交戦可能です」(JSF 2019年10月22日)
https://news.yahoo.co.jp/byline/obiekt/20191022-00147868/

この今回の弾道ミサイルの弾種と落下地点から、正恩の苦心が忍ばれます。
ひとつは、韓国国内にしか到達できないものであることから、いつでも思う存分罵ってよいと思っている馬鹿な弟に向けたものだということです。
かといって、今さら正恩がムン閣下に何らかの政治的メッセージがあるわけではなく、撃つとなると韓国に向けて撃つしかないからです。
北とムン政権は一種のサドマゾ関係で、ムン閣下は正恩や与正に罵られれば罵られるほど抱きつくのですからキモイ。
日本に向けて撃てば、これは日米同盟と全面敵対する意志を明確にしたことになり、以後米国は圧力一辺倒になるしかありませんからね。
米国新政権の移行時期に撃ったことから、なんらかの瀬踏みだとの観測もありますが、まぁ多少はあるでしょうね、ていどだと私は思います。

弾種も火星シリーズの長射程のICBMなど撃てば、いくらジジでも目が醒めてしまいます。
すると、トランプが匂わせていた第3回会談などは望むべくもなくなります。
中距離のノドンは日本専用弾道ミサイルですから、これも同じ。

ロシア、中国はもっと論外。いまこの二国に撃ってしまったら、二度と支援物資や軍事技術をもらえなくなってしまいます。
したがって、消去法で「いつでも気まぐれで殴っていい国」である韓国に向けて短射程の弾道ミサイルを撃ったということです。
ムンちゃん、気の毒。どこまでもついて行きます、ゲタの雪。
ただし、隠し味として滑空性能があるグライドミサイル使って、いかにミサイル開発が進んでいるのかも誇示しました、というところです。

こんな高価な政治的オモチャを撃っているくらいなら、国民に医薬品や食料を買ってやれと思いますが、正恩とてまったくそれを考えないわけではなく、同時期に中国にすり寄っています。

「最近米国からの接触提案を拒絶した北朝鮮が中国に向け手を差し出した。金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が習近平中国国家主席に伝えた口頭親書を通じてだ。
労働新聞など北朝鮮メディアは23日、金委員長が「敵対勢力の全方向的な挑戦と妨害策動に対処し、朝中両党・両国が団結と協力を強化することについて強調した」と伝えた。これに対し習主席は「国際および地域情勢は深刻に変化している」とし、「両国人民により立派な生活を与える用意がある」と答えた。昨年1月から新型コロナウイルスの感染拡大を懸念して国境を閉じたまま自力更正に没頭していた北朝鮮が両国の協力を強調しながら手を差し出したところ中国がすぐに応じたものだ」(中央日報3月21日)
https://japanese.joins.com/JArticle/276870

いま北朝鮮はコロナで散々な目にあっています。
ひと頃は感染者ゼロなんて世界の誰も信じないことを言っていましたが、あの最貧国レベルの医療インフラがたちまち崩壊したことは想像に難くありません。
また、それでなくても国連制裁が効いているうえに国境まで感染流入をおそれて閉鎖してしまいましたから、二番底とでも言うべき惨憺たる状況になったと思われます。
特に命の綱の中国からの物品輸入が途絶え、瀬取りも不可能になったことが大きかったことでしょう。
北朝鮮が干上がるのを笑いをかみ殺しながらながめていた習は、さっそくお待ちしておりました、とばかりに優しい声を返したということです。

これはもちろん国連制裁決議違反ですから、米国は制裁攻撃の理由にできます。
バイデン側から何回かにわたってコンタクトを試みたという情報もありますが、もうジジには新たな対抗手段はないでしょう。
あるとすれば、また国連制裁の蒸し返していどのことで、限界はやる前から見えています。
一方トランプなら第3回会談をオファーするという切り札がありますし、短距離ミサイルていどなら許すという限界は正恩もわかっていました。

トランプのような北とのコミュニケーションをジジはできません。
呼吸がジジには読めないのです。
こういうモードに入るとブリンケンのまっすぐな若さが危険です。
正が義恩が弾道ミサイル挑発を繰り返すと、ジジは案外すぐに報復爆撃を命じるなんてしかねないかもしれません。
それでなくても歴史的に民主党は共和党より「戦争好き」なのですから。
その場合、北を攻撃するためには中国の容認が不可欠ですから、そのためにどれだけ代償を払わされることか。
私にはそちらのほうが恐ろしい。

2021年3月25日 (木)

なければ作れ、国際人権法

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中国によるウイグル人へのジェノサイドについて主要国の動向が固まりました。

「米国、英国、カナダは22日、中国での少数民族ウイグル族の不当な扱いが人権侵害にあたるとして、中国政府当局者らへの制裁をそろって発表した。欧州連合(EU)に続く制裁で、主要国が足並みをそろえた。米欧と中国の対立が一段と鋭くなる一方、日本の対応も焦点となりそうだ(日経3月23日)
「欧州連合(EU)は22日開いた外相理事会で、中国での少数民族ウイグル族の不当な扱いが人権侵害にあたるとして、中国の当局者らへの制裁を採択した。対中制裁は約30年ぶりで、同日付で発動した。ブリンケン米国務長官が同日から就任後初めて欧州を訪問するのに合わせ、協調姿勢をアピールする狙いがありそうだ」(日経3月22日)

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ウイグル族人権侵害 EUが30年ぶり制裁 中国は対抗措置

一方、日本政府は今のところこの主要国の中国制裁に連帯する意志はないそうです。

「日本政府は、新疆ウイグル自治区での人権侵害をめぐる対中国制裁には慎重な立場だ。米国や欧州連合(EU)などがそろって踏み切ったが、距離を置いている。4月に予定される日米首脳会談では、人権問題で中国批判を強める米国との温度差が浮き彫りとなる可能性もある。
 官房長官は23日の記者会見で、「人権問題のみを直接あるいは明示的な理由として制裁を実施する規定はない」と指摘。外国人に資産凍結などの経済制裁を科す外為法の要件を引き合いに説明した」(時事3月23日)

G7で日本だけがカヤの外となりましたが、いつもはカヤの外はイヤじゃあ、バスに乗り遅れるなと叫ぶ築地界隈の皆さんはどう思われるのでしょうか。
それはさておき、こういう人権問題に腰が引けた対応は、もちろん自民党中枢(だれかわかりますね)や政権与党内部(どの党かわかりますね)が、中国制裁に強く抵抗しているからです。
菅氏は二階の支持を得て首相となったいきさつから、彼らの反対を押し切ってまで制裁に加われないようです。やれやれ。
派閥を持たない悲劇と言ってしまえばそれまでですが、菅氏と安倍氏の政治力の差はこんなことひとつにも現れています。
つまり安倍氏なき後の世を楽しんでいる風情の二階が実質的に与党の支配者になってしまっていて、内政のみならず対中外交まで仕切っているようです。
この致命的欠陥をどうにかしないと、菅政権は今年の秋までとなるでしょうね。

そりゃ確かに、法的には加藤官房長官が言うとおり、人権問題だけに絞った入管法や外為法の規定が存在しないのことは事実です。
なければ作ればいいだけのことです。
それをしないで法律がないからできましぇん、なんて言うのなら、それは政治家の発言ではなくただの小役人の言い逃げ口上にすぎません。
こんなせこい言い訳で中国問題から逃げていると、菅政権は保守から見放されますよ。

一昨年、韓国の大量破壊兵器拡散に繋がる輸出管理不正についてホワイト国ステイタスから落としましたが、これは国際的な輸出規制のルールに合わせたものです。
だから日本は制裁のセの字もいわずに、実質的な強い制裁をかけられました。
もちろん隠れた意図は、かの国の繰り返された約束違反に対しての制裁の一環ですが、そうとは明示せずにやってのけたわけです。

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中国企業11社、米の制裁対象に ウイグル人権侵害めぐり

ところが今回のような人権事案には、適用できる物資の輸出入制裁の法律がないというのが、日本政府の言い分です。
ではモノがダメなら米国のようにウィグルのジェノサイドの直接の責任者に対する入国規制はどうでしょうか。
実際に主要国はこの制裁にすでに踏み切っています。

「米財務省は、ウイグル自治区の公安トップを務める陳明国氏を制裁対象に指定した。同区の治安対策などを担う組織「新疆生産建設兵団」の共産党委員会書記、王君正氏にも制裁を科した」(日経前掲)

これも入管法に人権の規定がないためにできない、というのが政府の言い分のようです。
せめてジェノサイド禁止条約にでも加入していれば、条約を楯にできるのですが、これも9条がらみでしていないのです。
困った国だな、わが国は。

いかに悪逆非道なジェノサイドが隣国で進行していようと、法律に明示されていなければできないというわけですかが、なるほどならば残る方法はふたつしかありません。
ひとつは、国連決議です。これはかつての南アフリカのアパルトヘイトに対しての制裁のような前例があります
北朝鮮の核開発についても国連の制裁決議が出ていますから、日本はそれを遵守する形で制裁に加わり、安倍氏はわが国独自の制裁までもそれにつけ加えています。

しかし、今の菅氏にはこんな安倍氏のような強い党内指導力が欠落しているために、独自制裁どころか国連の決議待ちです。
ただし安倍氏などが外交部会の働きかけを受けた形で応援すれば、出来ない相談ではないかもしれません。
ただしこれも結局堂々巡りなんですが、習の訪日は中止ではなく延期だなんて未練がましく言っているようなパンダハガーが幹事長室に居すわっているかぎりそうとうに難しいのも確かです。

さらに悪いことにはいまの時期の中国制裁はオリンピックに直結してしまいますから、中国の報復ボイコットくらいは覚悟するのですね。
同時に、欧米は来年の北京冬季五輪のボイコットも視野に入れて中国制裁をかけていますが、制裁を課せばもっとも返り血を浴びるのが日本だ、ていどの認識は持ってやりましょう。
このボイコットの流れは強まっても弱まることはないので、来年は開催地を変更しない限り羽生くんには泣いてもらうことになるかもしれません。

もちろん国連安保理決議のほうは、中露がウィグルのジェノサイドを認めることは金輪際ない以上、100年待っても無駄です。
といってもまったく国際的制裁決議ができないわけではなく、主要国が足並みを揃えて制裁を実施して、それが国際世論として完全に定着すれば出来ない相談ではありません。
中国も一国で制裁を掛ければ、お前のとこのコレは買わないという陰湿な報復をしてきますが、世界が一丸となって制裁に参加した場合、赤信号みんなで渡れば怖くないということになります(古いね)。

かつてのロシアのウクライナ侵攻に際しては、EUを中心にして国連決議とは別枠の制裁に踏み切り、わが国も同調しました。

●対クリミア等制裁関連 平成26年8月5日発表
ウクライナ(クリミア自治共和国又はセヴァストーポリ特別市を原産地とする場合に限る。)に対し、主要国が講じた措置に沿い、貨物の輸入禁止措置を講じております。
https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/01_seido/04_seisai/crimea.html

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huffingtonpost.jp  ロシア軍のクリミア侵攻

日本もこの時には追随しているので、まったく出来ないわけではないのです。

また欧米の議員によって作られたNGO「対中政策に関する列国議会連盟(IPAC)」が、国際刑事裁判所(ICC)と国際連合人権理事会に、ウイグル民族に対する人道上の罪とジェノサイドを理由に告発し、関わった中国当局者に関する調査を依頼しています。
このような国際司法裁判所を動かすという手段も継続されているように、ウィグルに対する国際社会の関心は強まっています。

ところが日本だけが、ウイグル人の強制労働に関わったとして83のグローバル企業が国際人権NGOヒューマンライツ・ナウから名指して非難されており、その内、12社が日本企業であるにもかかわらず、政府はこれについてもだんまりを決め込んでいます。
このような見て見ぬふりを続ければ、わが国も中国と同じなのかと批判されても返す言葉もないことでしょう。

このように加藤氏がいうように「人権を明示した法規制はない」のは事実であるとしても、やりようはいくらでもあるのです。
それをいわないで、こういう小役人的な言い方でスルーしようとするとは、ああイヤダ。
日本は早急に国際人権法のようなものを作るべき時期になっています。

 

 

 

2021年3月24日 (水)

新日英同盟は世界の地殻変動の兆しか

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ポンペオがFOXで、ブリンケン、甘いぞ、小僧、なぜウィルスのことを言わんのだ、だからつけこまれるのだぁ、とFOXで怒っておられました。
まぁまぁ、あなたのような北朝鮮を黙らせ、イスラエルと中東諸国の手を結ばせて一気に安定化させた辣腕外交官にはご不満でしょうが、ブリンケンはまだ国務長官としてはルーキー。
それになにぶん上司が上司で、いないほうがましの人ですから、お手柔らかに。

ややつや消しなことから始めますが、さて新日英同盟(" Anglo-Japan Alliance")の全容は、現状ではまだ見えていません。
まず、日米安保と決定的に違うのは、双務的な防衛条約ではないことです。
したがって日米安保第5条にあるような自動参戦条項が欠落していますから、日本がピンチの時に救援に駆けつけてくれるかどうかはまだ未知数です。
逆に日本は英国の何を共に守ろうとしているのか、それは英国の領土・領海なのか、それとも別の共に共有する自由主義陣営としての価値観なのかわかりません。
したがって、どこの何を守るのか、どうやって守るのか、双務的か片務的か、というような具体論が明示されていません。

現状で具体的に出てきているものは、安全保障面では海洋安全保障、テロ対策、サイバーセキュリティ、インテリジェンス、人道災害支援、平和維持活動、防衛装備品開発などです。
これら情報、人道支援関連は大事ですが安全保障のすそ野であって、本体そのものではありません。

それに対して経済はかなり明確になっていて、英国は自由貿易協定をブレグジット後に真っ先に日本と締結したように、 TPPに加盟する気はムンムンなようです。
つまり英国でもそう評されているようですが、準軍事同盟でありながら、政治・経済・文化領域まで含んだ新しいタイプの「同盟」なのです。

日本の側からすると、日本一国ではどうにも手に負えなくなった巨大モンスターと化したチャイナ相手に、遠くヨーロッパから駆けつけてくれた心強い友でわかった気になれるのですが、では一体英国の利害とはなんなんでしょう?

英国には、実は身近な「同盟」のひな型としてEUがあります。
EUはヒト・モノ・カネの自由を保証し、共通のユーロという共通貨幣を持ち、更に欧州議会という形で政治的にひとまとまりのユニットを組んでいます。
そしてその軍事部門がNATOです。

しかし最近になってわかってきたのは、EUとはドイツとそれに追随するフランスだけが利益を得て、その他の諸国にとっては活かさず殺さず餌になる「金ぴかの檻」みたいなシステムでした。
初めから半身の英国にとっては、EUから得る利益より損失のほうがはるかに大きく、散々の思いをしてブレグジットしたのはご存じのとおりです。
ユーロにまで加盟しなくてよかったと、心底思ったでしょう。

ではなぜブレグジットできたのかといえば、英国には日本というパートナーがあったからです。
英国の製造業にとって進出した日産やホンダが英国を救ったことによる信頼感は大きく、今や彼らを抜きにして英国経済は語れないほどです。
同じ日産を相手にしても、骨の髄までしゃぶろうとしたフランス国有企業のルノーとは大違いでした。

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平成29年8月30日 日英両首脳による京都訪問 | 平成29年 | 総理の一日

テリーザ・メイ首相の時期から英国は、日本の名を出した「グローバル・ブリテン」構想を立てていました。
英国はEUという名の「ヨーロッパ合衆国」を拒否した以上、新しい国家展望としてアジア・太平洋を選択したのです。
理由は三つあります。

ひとつは、ブレグジットをした以上、ヨーロッパ市場への参入は更に厳しくなるに決まっていますし、英国にしてもドイツの独占を許すようなEUにはなんの未練もなかったはずです。
ジョンソンがブレグジットで唯一心を痛めたのは、日産・ホンダが出ていってしまわないかだけだったでしょう。

ふたつめは、英国が背後の大陸とは距離を置くことで、必然的に本来の英国の姿である海洋国家として復活するしかないからです。
EUの足かせから自由になって海洋をながめれば、そこには大英帝国の資産がまだ活きているのがわかります。
旧植民地と自治領を合わせて54カ国て公正される英連邦諸国は、いまでもしっかりとしたネットワークを堅持しています。

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英連邦(コモンウェルス)

そこに、EUでは望めなかった多くの国との自由防衛協定を締結し、徹底した規制緩和によって外国企業を呼び込むことができると構想しました。
ブレグジット後、英国は米国、オーストラリア、NZといった"like-minded "な国(同志的国家)からFTAを締結し、自由貿易圏を作ろうとしました。
ちなみにlike-mindedという英語表現は、メイ首相が日本に対して使ったものですが、ファイブアイズ以外で使用されたのは初めてのことだそうです。

それはさておきさておき、ボリス・ジョンソンがブレグジットに成功した時に、「これは終りではない復活の号砲だ」と吠えたのはその心づもりがあったからです。
これらの国はすべてファイブアイズと呼ばれる英語を共通語とするアングロサクソン国家群であり、そこに招かれた唯一の非白人国家が我が日本でした。

この英国の英連邦自由貿易圏構想とは、多国間FTAを結び、そこに世界から多くの先端企業や金融を呼び込み、英国シティを「テムズ河のシンガポール」として位置づける、というものです。
おわかりでしょうが、この英連邦自由貿易圏構想は、TPPと完全に重なります。
そのTPP11を率いたのが安倍氏であり、わが国はその盟主だと世界からみなされています。

このような大きな状況を眺めてくると、今の新日英同盟は実はもっと大きなアライアンス(同盟)につながっていく過渡的なものに思えてきます。
それは「アングロサクソン+日+印連合」という国家間アライアンスです。

一つ目のプレートは、米国を盟主とするアングロサクソン圏+日+印。
二つ目は、ドイツを盟主とするヨーロッパ合衆国。
三つ目は、中国、ロシア+イラン+アフリカの一部といったローグネーション(ならず者国家)。

現状では冒頭に述べたように「新日英同盟」は完全な同盟とは呼べません。
今後「新日英同盟」は日米同盟と並んでインド・太平洋の安全保障の要となることを求められています。

このように見てくると、世界のプレートが三つに割れていこうとする、まさにその歴史的時期に私たちは立ち会っているのかもしれません。

日英同盟はその兆しのひとつではないのでしょうか。

2021年3月23日 (火)

英国、再びアジアに目覚める

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再び英国がアジアに目覚めました。
英国は「グローバル・ブリテン」という21世紀戦略を確定し、すでに現実化の道に入っています。
象徴的、かつ現実のアジアの軍事バランスにとって影響を与えるのが、正規空母HMSクイーンエリザベスが核兵器の積み込みと、アジアへ向けての出航準備を開始したことです。

QEは既に核の積み込みのためにスコットランド西部のクライド海軍基地に入港しています。
クライド海軍基地は、英海軍戦略原潜の母港であり、英国核戦力の要を担っています。
ここに英海軍はQE向けに新たな弾薬補給用の大型桟橋を建設しました。
ここで最終的核装備を行い、4月には出航して東アジアには今年後半に展開されると見られています。
ちなみに米国海軍の空母は核兵器を搭載していませんが、英仏のそれは核を常時搭載しています。

「イギリスの空母クイーン・エリザベスが2021年3月15日(現地時間)、スコットランド西部に新設された弾薬補給用の桟橋を訪れました。この地域独特の細長い入り江(ロッホ)を慎重に通過し、その奥に開設された新しい桟橋に到着した空母クイーン・エリザベスは、今年後半に予定される東アジア方面への初任務航海に向け、最後の準備を整えます。(略)
空母クイーン・エリザベスは、この新しい施設で実戦用の弾薬を積み込み、初の実任務に備えます。3月末に母港ポーツマスに戻った後、2021年後半に実任務の航海として地中海から中東を経由し、東アジア方面へ展開する予定です」
」(英国海軍プレスリリース 2021年3月16日)
邦訳おたくま経済新聞 https://otakei.otakuma.net/archives/2021031609.html

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ロイヤルネービー
https://www.royalnavy.mod.uk/news-and-latest-activity/news/2021/march/15/210315-hms-queen-elizabeth-scotland

また同時に英国は核兵器の増産に着手しました。

「【ロンドン=板東和正】ジョンソン英政権が新たな外交・安全保障政策の指針「統合レビュー」で、冷戦終結後進めてきた核軍縮方針を転換した。ロシアや中国の核戦力増強を受けた抑止力向上が最大の理由だ。同時に、欧州連合(EU)を離脱し「グローバル・ブリテン」を目指す中で、米国との「特別な関係」強化を図る狙いも指摘される」(産経3月22日)
https://www.sankei.com/world/news/210322/wor2103220007-n1.html 

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産経

「英政府は16日に発表したレビューで、核弾頭保有数の上限を現行の削減目標の180発から260発に引き上げる方針を示した。
引き上げは冷戦後初めて。 1952年に初の核実験を実施した英国は米国とソ連に次ぐ3番目の核保有国となり、70年代には500発の核弾頭を保有した。
だが、冷戦終結後は積極的に核軍縮を推進してきた。核弾頭の保有数上限を段階的に削減し現在、核拡散防止条約(NPT)が定める米露など核保有国5カ国で、英国は最少だ。運搬手段も、5カ国で唯一、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)のみに絞った」(産経前掲)

これは日本ではなぜかあまり報道されていませんが、英国の規定路線で、すでに2019年5月にプレスリリースされています。

「新たな日英関係は2012年4月に安倍首相とデービッド・キャメロン首相が共同声明に署名して以来、軍事演習や軍事備品交換とから, 北朝鮮に対する 国連制裁の軍事行動に至るまで協力は進んでいる。 英国と日本は、共通の価値観、共通の同盟国、および同様の軍事力を反映して、それぞれの地域において互いに最も近い安全保障パートナーとして認識し合うようになった。それは「準同盟国」と呼べるレベルであろう。 2012年に関係改善決定して以来、政治的状況は、両国にとってより重要な方法で 新しい形の同盟 を推進してきた」
(『新しいタイプの日英同盟』ユーロ-アジア・セキュリティ・フォーラム)
https://anglojapanalliance.com/tag/%E3%82%B0%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%AB-%E3%83%96%E3%83%AA%E3%83%86%E3%83%B3/

この「新しいタイプの日英同盟」は4年前から模索されてきました。

「17年8月30日、アジア諸国へ歴訪するのではなく、安倍晋三首相と会談する目的だけで日本を訪問したメイ前首相は、日本を「アジアの最大のパートナーで、like - minded(同士)の国」と評した。4
英国人が「like - minded の国」という表現を使うのは、オーストラリアやニュージーランド、カナダなど、英連邦の中でも英国と関係が深い「兄弟国」に対してだけだ。メイ前首相が日本を「like - minded の国」と呼んだことは異例だった。
その言葉通り、両首脳は「安全保障協力に関する日英共同宣言」を発表し、日本と英国の安全保障協力を新段階に押し上げ、日英関係をパートナーの段階から「同盟」の関係に発展させることを宣言した」 (岡部伸 前ロンドン支局長)
英国が「日英同盟」復活を急ぐ理由 | Web Voice (php.co.jp)

ユーロ-アジア・セキュリティ・フォーラムには、新日英同盟( Anglo-Japan Alliance)を作る意味が述べられています。

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 Euro Asia Security Forum
共にたたずむ天照大神とブリタニア女神

「今年、地球の反対側に位置する2つの国が新しい時代に乗り出す。日本は令和の新元号が新たな天皇の即位と共に始まり、英国は欧州連合(EU)からの離脱によって「グローバル・ブリテン」が模索を求められている。
しかし、この2つの島国が直面する環境 、即ちアジアにおける権力と摩擦、法の支配や人権などの価値観へ挑戦、そして主要な同盟形態の変容など、似たような状況に直面している」」(同上)

つまり、「新日英同盟」 Anglo-Japan Allianceは、日英共同の危機に際して生まれた同盟なのです。
英国は、ブレグジットによるEU離脱によって得られた「自由」を、新たな戦略再編成に向けたとしています。
それはヨーロッパからインド太平洋へと軸足を大きくシフトすることです。
そしてそのパートナーにわが国が選ばれたのは必然ではあります。
なぜなら、いまや世界最大の災厄と化した中国に対抗でしきる力をもった国は、アジアではただ一国わが日本しかいないからです。

「世界秩序をめぐる今後の闘争がイデオロギー路線に沿って進んでいるのであれば、日本と英国は、法の支配、民主主義、自由市場、人権を支持する上で、同じ側にしっかりと見られるべきである」(同上)

私は英国と再びこの時代に手を握り合うことができることを嬉しくおもいます。
現在、「新日英同盟」はあくまで准同盟関係であって、日米同盟と異なって戦争に備える軍事同盟ではありません。

「海洋安全保障、テロ対策、サイバーセキュリティ、インテリジェンス、人道災害支援、平和維持活動、防衛装備品開発など、多様化する安全保障のあらゆる分野で包括協力し、関係づくりを目指している」(岡部前掲)

軍事同盟化することはむしろ英国の希望で、英国は空母QEの海外母港を日本にする希望も漏らしていると伝えられます。
しかし現状ではそこまでに至らないのは、ひとえに我が国の側の腹が座っていないからです。
なおクアッドやTPP参加、さらには具体的な軍事協力など具体的提言も含まれていますが、それについては次回に。

ウェルカムバック、ブリテン!

 

 

2021年3月22日 (月)

ブリンケンが掲げた「人権」の旗とは

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中国は本気で「戦前の日本の道」を驀進したいようです。
先だっての米中「対話」で、ブリンケンはあえて楊潔篪(ようけつき)を素にさせて万座の場にさらす手法をとりました。
やりようによっては危険ですが、一般的にな外交的プロトコルではキレイな包み紙の下に中国の本音が秘匿されてしまいかねないからです。
中国要人の表裏のつかいわけは激しく、たとえば楊の横にいた王毅は、公式会談がハネた後には日本メディアになにくれと達者な日本語で話しかけて融和的なことを言うくせに、公式記者会見では豹変します。

だからブリンケンは楊を怒らせて、ゴリゴリの共産党員としての素顔をさらけ出させ、本音を吐き出させる必要があったのです。
特にこう言わしたのはよかった。

「まさか我々には、まだ西洋人から受ける苦痛がたりないとでもいうのか?外国の包囲網に囲まれている時間がまだ短いとでも?
中国のシステムが正しくありさえすれば、中国人は聡明なので、我々はつまずくことはないのだ」

わ、はは、中国がグローバル経済で世界で一番カネ稼いでおいて、よーいうわ。
なにをいまさら攘夷でもあるまいに。こりゃ完全に国内向けのアジ演説です。
実際翌日の中国のSNSは、よく言ってくれた楊同志同志といった書き込みで溢れたとか。
まるで松岡が国際連合を脱退したときの日本のようです。
こういう楊みたいなことを言っていると、国内向けに激烈なことをやらねば国内が納まらないことになり、どんどんと下がるに下がれなくなっていきます。
なまじかつての日本のように、侵略に怯えたアジアの弱小国から一等国になって列強に伍したのに、という自尊心があるもんだから始末が悪い。
つまるところ、その先には孤立化と戦争が待っています。

一方ブリンケンの横にいたサリバンが「中国の反応はなんの驚きもない」と評しているように、これは考え抜かれた戦術だったようです。
中国は、いくら国内で激しい中国非難をしても、公式の会談に顔をだせば、ニコニコと握手し、毒にも薬にもならない建前を述べ合うセレモニーだとタカをくくっていたようです。
だから手土産に中国の制裁関税の削減ていどを持っていけば、なんとかなると考えていたみたいです。

「サリバン米大統領補佐官は会談後に記者団にこう語った。また、ブリンケン米国務長官は、米国が問題提起をした際の中国の反応を「防御的」とした上で「何の驚きもない」と強調した。政権高官の一人は「中国政府は時に、米国の公式見解と水面下でのメッセージは異なると考えがちだ。我々はこれを早めに打ち消し、公での言葉と同じメッセージを直接伝える必要があると考えた」と説明する」(朝日3月20日)

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米中外交トップ、冒頭から異例の激しい非難の応酬 バイデン政権下での ...

そもそも楊はこのブリンケン、いやバイデン政権を甘く見ていました。
バイデン政権を誕生させた原動力はBLMであり、それを煽ったのが他ならぬ中国でした。
中国は米国に長期間のサイレントインベージョンを仕掛けてきましたが、その成果が端的に現れたのが、「ミネアポリス事件」から始まる一連のBLMの暴動でした。
これは米国社会を白人と黒人に分断するとともに、ウィグル人権法で制裁に踏み切ったことに対するカウンターとしての意味ももっていました。
米国が中国を人権問題で制裁しようとすると、「お前だって人種差別をして黒人を殺し続けているじゃないか」ということができると考えたからです。
案の定、楊は「米国は黒人の虐殺には知らん顔をする」j言って反論した気になっていました。

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中国がアフリカと「一帯一路」共同建設に合意

平たく考えれば、米国でなにがあろうと、自分の国でナチスを凌ぐとさえ言われるジェノサイドをしていい道理はないのですが、彼らの「内政干渉反対」のロジックではそれで反論になってしまうようです。

ところがこの中国のロジックにアフリカ諸国の多くはうなずいていたのです。
たとえば昨年5月29二にのアフリカ連合(AU)のムーサン・ファキ委員長はこのミネアポリス事件に対して強く非難し、「人種や民族にに基づくあらゆる差別の根絶のために努力しろ」と米国政府に要求しています。
AUの大部分は一帯一路に組み込まれていおり、AU本部はエチオピアの首都アジスアベバにあります。
この国からテドロスWHO事務局長がでてきたように、もっとも中国汚染が進行している国家です。
このような「国際世論」を背景にして楊は会談で強気に、米国よ、お前らの言う国際社会とはしょせん米欧だけではないか、われわれには(アフリカを中心にして)多くの国が従っているのだ、ということを言っていました。

「人数にしろ世界の潮流にしろ、西側の世論がすなわち国際世論にはならない。米国が語る普遍的価値観も、本心からかどうかわからない。なぜなら、あなたたがは米国政府を代表しているだけだ」

実際に中国がBLMやアンティファに工作資金を与えたかどうかではなく(たぶんしているでしょうが証拠がありません)、中国にとってBLMから始まるキャンセルカルチャー(否定文化)こそ米国社会の分裂を誘う近道だったのです。
お前の国は国内で差別を温存しているんだから人権を言う資格はない。だからおれの国のことを言うな。それは互いに国内問題のはずだから内政干渉にしておけ、というわけです。

それに対して、ブリンケンは巧みにも「人権」を逆手に取りました。
なぜなら、「人権」は米国世論の団結にも繋がるからです。
自由を至上の価値とし、米国の誇りを守ろうとする保守派も諸手をあげて賛成せざるをえないし、米国のリベラル左翼は中国と国内をダブスタで別物扱いするような日本のそれとは異なるからです。
行き過ぎて放火略奪に走り先人を貶めさえしなければ、「人権」は保守リベラルを問わない共通の米国の価値でありえるのです。
つまりテッドクルーズからペロシまでが共有できる唯一の米国の統一された価値観こそ、この「人権」だったともいえます。
これは「米国社会の分裂からの再生」を掲げたバイデン政権にとって、大きな意味をもっていたはずです。

またこの人権を武器として戦う手法は同時に同盟国を一つにさせる作用を持っていました。
ブリンケンは米中会談前に日韓2+2を行ったうえで、日本からは中国を名指しで非難する共同声明を引き出し、同時にオースティン国防長官をインドにまで派遣しました。
これは日本、韓国、インドのそれぞれが、国内的には中国と事をかまえたくない勢力を抱え持っているからです。

このようにブリンケンの米中会談の発言は、国内の人種差別問題から「人権」を解き放ち、世界最大の人権蹂躙国家中国と戦う宣戦布告でした。
ブリンケンはトランプ路線の正統の継承者であり、同時にバイデンが唱える「合衆国の統一」「同盟国の強化」にも沿ったもののようにも見えます。

いずれにせよ以後、新たな段階に突入します。
それはインド・太平洋そして東シナ海を舞台にした自由主義陣営の同盟の力を現すことです。

第2次日英同盟が現実味を帯びてきました。
それについては明日に続けます。

 

 

 

2021年3月21日 (日)

日曜写真館 木偏に春と書いて椿です

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あたゝかになるや椿のぽつたぽた  諷竹

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うぐひすは椿のしべに粧ひし 正秀

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ころもがへ椿は花の紬かな 舎羅

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うつむいて冬も過けり花椿 紫貞女

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あるじなげに落積たる椿哉 五明

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ぞく~と落て菓子つむ椿哉 如行

2021年3月20日 (土)

地金がでてしまった楊潔篪

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ご存じのように、18日からアラスカで米中「対話」がおこなわれました。
まるで期待していなかったせいもあって、私は実におもしろかった。

「【アンカレジ(米アラスカ州)】バイデン米政権下で初となる米中高官協議が18日に始まった。アントニー・ブリンケン国務長官は冒頭、政府として問題視している中国の行動を列挙。サイバー攻撃や香港での取り締まり、台湾への威嚇などを挙げ、「世界の安定を維持している、法に基づく秩序を脅かす」ものだと述べた。
中国外交トップの楊潔チ(よう・けつち)共産党政治局員はこれに対し、米国は自国の人種差別問題に対処すべきで、自己流の民主主義を世界各国に広めるのをやめるべきだとやり返した。「米国も西側諸国も国際世論の代弁者ではない」とした。
 ブリンケン氏は、米国は「完璧ではない」が、隠し立てせずに問題に対応していると回答した。その直後に記者団は部屋から出るよう指示されたが、楊氏は記者らを呼び止めてこの発言に抗議し、米国側が見下すような態度を取っていると訴えた」
(ウォールストリートジャーナル3月20日)

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 毎日  楊潔篪(ようけつち)とブリンケン

昨日、私はアンソニー・ブリンケンを「教師タイプ」と評しましたが、教師は教師でも言うことは言うタイプのようです。
たぶん生徒にも人気があるでしょう。
いままでブリンケンは国内や2+2という身内の発言しかなかったので、中国に対してどれだけモノ申せるかが、私にとっての注目でした。
そもそもこんな米中「対話」でなにか新たに生産的なことが生まれるはずもなく、新政権がトランプをどれだけ受け継ぐのか見たいというだけが、中国の興味だったたはずです。

楊潔篪(ようけつち)はこの興味を、会談に先立つ2月2日に開かれた米中関係全国委員会(NCUSCR)主催のイベントでこう口にしていました。

「バイデン米新政権に対し「米中関係を予測可能で建設的な軌道に戻そう」と呼びかけた。一方、トランプ前政権の対中政策を「誤りだった」と位置づけたうえで、「中国の核心的利益の尊重」などのポイントを挙げて、バイデン政権に政策変更を要求した。
楊氏は「(中国には)米国の地位に挑戦するつもりも、勢力範囲を切り取るつもりもない」と述べつつ、「台湾問題における中国の立場を尊重し、香港やチベット自治区、新疆ウイグル自治区などの問題への干渉をやめるべきだ」と強調。こうした問題は「中国の核心的利益、民族の尊厳であり、14億人の国民感情をゆさぶる越えてはならない一線だ」と主張した」(毎日2月2日)

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楊潔篪 と二階 朝日

「ブリンケンは東京、韓国と訪問するのだから、北京にもきてもらいたい、というのが中国側の最初の要請だったが、米国側は、中国側が米国に会いたいのなら、米国にこい、ということで、アラスカに場所が決まったという経緯がある。
つまり中国側は、バイデン政権にかなり期待しており、トランプ政権までの強硬姿勢が徐々に和らぐであろう、という期待があった。だから、わざわざアラスカまで楊潔?は王毅とともに行くことにしたのだ。
なのに、会談の冒頭で、香港、新疆、台湾問題をぶつけられたわけなので、トサカに来たー!ということかもしれない。
会談直前、米国はチャイナテレコムの営業許可を取り消したり、24人の香港、中国官僚に?して、香港の民主自治を弾圧したとして制裁を課したり、トランプ政権の中国共産党に対する制裁を引き継ぐ格好で、一連のアクションを取っていた」
(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO.298 2021年3月19日)

中国独特の中華の論理では、皇帝の徳を慕って世界から馳せ参じることになっています。
今回の場合、即位した米国皇帝は使節を送らねばならないはずですから、開催地は北京に決まっています。
それをブリンケンはんにゃといい、アラスカに来いというからさぞいい話でもあるのかと渋々行ってみれば、さぁご喝采。
ブリンケンは皇帝の使者にいきなり急所を狙いすました正拳突きを見舞ってきたのですから、さぞ楊はたまげただろうな。くすくす。

こういう公式会談の冒頭はセレモニー化されていて、まずはメディアの代表取材を許し、互いに自分の立場を説明するというだけのものにすぎません。
事前に事務方から配られたペーパーどおりを読み上げるだけにすぎませんが、ブリンケンは自分の言葉でこのように切り出しました。

「我々が深い関心を寄せる問題には新疆、香港、台湾における中国の行動がある。さらに米国に対するハッキング攻撃、我々の盟友国を経済的に恫喝するなどの行為がある」「数々の行動が、規範と秩序を基礎にしたグローバルな安定性の脅威となっている。これは単なる内政問題ではなく、今日の会談で議題にする意義がある」

パチパチ。強いて言えば東シナ海と海警法についても言及してほしかったですが、ま、いいでしょう。
ブリンケンはこの黒光りするような共産党中央政治局員という正真正銘の独裁者に喧嘩を吹っ掛けたわけです。
中央政治局員は、政治局常務委員、俗にチャイナ7と呼ばれる下に位置する階層です。
国務院外相の王毅などはただのパシリにすぎません。
自由主義諸国ではありえない仕組みですが、全体主義国家においては政府の上に共産党が乗っていて、そちらがホンモノの司令塔なのです。

楊は中国国内にさえいれば14億人がへへぇーとひれ伏し、外国にいっても下にもおかないおもてなしに馴れきっています。
しかもロンドン・スクール・オブ・エコノミックス出身のエリートで、最年少の駐米大使の経験もある外交畑の人物です。
その男に面と向かって中国がいちばん言われたくないことをズケズケと言い放ったわけです。
しかも世界のメディアの眼の前で(笑)。
メンツをなによりも重んじるこの中国人が怒るまいことか。

楊はすっかり地金の共産党幹部丸出しで、共産党官僚のトップらしくベラベラと16分に及ぶ大演説を開陳してしまいました。
これで楊が長年作り上げてきた「国際派の紳士」「西側通」、という評価がガラガラと崩れたことでしょう。
しかも通訳を差しおいて、得意の英語を使わずにしゃべりまくったのですから、いかにほんき で頭にきたのかわかります。
2分間というルールは無視する、通訳を介さないで一方的に喚いたことになりますから、あっぱれ国際法は紙くずと豪語する国の外交トップらしい行いです。

「米国が強大な軍事力、金融覇権など用いて他国に圧力をくわえて、国家安全の名の下で国際貿易の未来の発展に脅威を与えている。
中国の人権状況は前進している。
新疆、香港、台湾は中国の不可分の領土であり、中国側は米国の内政干渉に断固反対する」

なにが「人権状況は前進している」ですか。恥ずかしげもなくよく言います。
ウィグルは軍事侵略を受けるまで、香港は英国から返還されるまで、台湾に至っては一度として中国共産党政府の実効支配を受けたことはなかったはずです。
それを「真正不可分の土地」に祭り上げ ウィグルには民族絶滅政策(ジェノサイド)を働き、香港ではすべての民主人士を牢獄に投げ入れ、台湾には強圧を掛け続けているのです。
そして国際社会から批判を受けようものなら、逆ギレして内政干渉で一蹴するのですから、なにをかいわんやです。

楊は返す刀で、米国の人権状況を言い出します。

「米国は黒人の虐殺には知らん顔をする。
ネット攻撃を利用しているのは米国がチャンピオンだ、米国に一撃で立ち向かうのは不可能だ」

このあたりはBLMを支持団体にするバイデン政権へのジャブでしょうが、その背後で暗躍を疑われているのは他ならぬ中国共産党なのですがね。
これに対してのブリンケンの切り返しは見事です。

「我々は完璧ではないことを知っているし、過ちもおかすし、挫折に遭遇するし、後退するが、しかし歴史上、これらの挑戦に直面した時、率直に、公開し透明性を保ってきた。それら問題をおろそかにはしていない。また、そうした問題が存在しないようなふりもしていないし、隠蔽もしてこなかった。あるときは非常に苦痛で、耐えがたい。だが、そうした試練ごとに、この国家はさらに強く、よくなり、団結するのである」

ブリンケンは、全体主義国家に対して民主主義国家が優れているのは、欠陥があってもそれを隠蔽しないことだとした上で、あなたの国にそれができますかと問い質しているわけです。
さんざっぱら大統領選の不正疑惑の隠蔽をみてきた私からすれば、心からの同意はしかねますが、民主主義の理念を対置したのは正しいやり方です。

すると楊は、言うに窮して米国は国際世論を代表していない、西側は国際世論を代表していない、と言い出します。

「人数にしろ世界の潮流にしろ、西側の世論がすなわち国際世論にはならない。米国が語る普遍的価値観も、本心からかどうかわからない。なぜなら、あなたたがは米国政府を代表しているだけだ。
米中双方は自分の国内事務の処理をよくするべきで、冷戦思想を放棄して、衝突を避けるべきだ。
我々の中米関係に対する見方としては、国家指導者の習近平が言うように、衝突をゼロにし、対立をゼロにし、相互尊重のウィンウィンの協力だ」

こういう米中対決の構造を作ったのが、他ならぬ習近平の「戦狼」路線であることは衆目の一致するところです。
対決構造を作り出しながら「冷戦思考を放棄」しろと要求することは、米国や自由主義陣営に対してオレ様の言うことをおとなしく従えということに等しいわけです。
事実、わが国にも「冷戦思考」を捨てたくてしかたない者たちが幹事長室や与党内部にも大勢います。

さてこの楊の演説会で時間切れで退室しようとする取材陣に、ブリンケンは戻るようにうながすとこう述べました。

「過去に100か国の外交官トップと会談したが、私が耳にした話は、あなたの主張とかなり異なる。米国がアジアに復帰したことについて、彼らは米国と再び同盟関係を深めることを肯定的に見ている。あなたの政府の行動に非常に憂慮していると聞いている」

このブリンケンの直球勝負に驚いたのか、彼の左にいたジェイク・サリバン大統領補佐官(安全保障顧問)で、こうとりなすように言っています。

「ブリンケンが指摘したこれらの領域は経済的、軍事的恫喝を含め、基本的価値観の問題に至るまですべて、今後共同で討議すべき問題だ。
これらは米国人の関心が寄せている問題だ。我々は全世界の国際社会の至るところで、これらの問題への関心を耳にしている。
我々は衝突を求めてはいないが、強硬な競争は歓迎している。我々は永遠に自分自身の原則と国民、同盟国のために身を挺するつもりだ」

まぁ外交的に節度を持っていえばこうなるのでしょうか。
「強硬な競争」ですか。ぜひ言葉だけではなく、その実を見たいものですが、納まらない楊も取材陣を押しとどめるとこう言っています。

「今一言述べたい。あなた方は中国との会談で発言する資格がない。あなた方は実力を備えてから、中国と会談すべきだ。20年前、30年前ですら、中国と交渉する資格はなかっただろう。これは中国人のやり方じゃない。
もしあなたが、我々とうまく交渉したいなら、お互いを尊重して交渉しなければならない。協力は双方にとって利益となる」

お前ら小僧の遣いでは役不足だ、大統領を連れて来いということなんでしょうか。
しかしうちの大統領を出したら、会談の途中でおしっこ漏らして寝っちゃいますからとはサリバンも言えんよな(笑)。

そしてもはや押えがきかなくなった楊は、まるで共産党大会スタイルで演説を締めくくります。

「まさか我々には、まだ西洋人から受ける苦痛がたりないとでもいうのか?外国の包囲網に囲まれている時間がまだ短いとでも?
中国のシステムが正しくありさえすれば、中国人は聡明なので、我々はつまずくことはないのだ」

阿片戦争まで遡って「西洋人から受ける苦痛がたりないのか」と先祖帰り始めちゃうんですから、すごいね。
なにがロンドン留学した国際派だつうの。
 日本でいえば、鬼畜英米、洋夷の輩めと言っているようなもので、あぶないあぶない。
こういうに時期に、言っちゃならないのがこんなナショナリズムの毒が脳にまわった言い方なんですが、ま、言っても無駄か。
日本のメディアには米中対話が始まったと手放しで喜んでいるところもありましたが、ここまでやってしまった以上、とうぶん米中対話は開かれないでしょう。

蛇足ですが、この会談時、ブリンケンの親方であるバイデンは、「プーチンは殺人者だ」なんて耄碌したことを口走って、ロシアを激怒させています。
もうジジときたら、考えもなしで口にするんだから。
プーチンが毒殺マニアなのは誰も知っていることですが、いまそれを言う時ではありません。
それをあろうことか、部下が中国と「強硬な競争」をしている時に、その後ろでロシアを怒らせちゃうんですから まったくもう。

とまれ、この持ち前であろう少年のような正義感を、ブリンケンがなくなさないでほしいものです。

 

2021年3月19日 (金)

米国、2+2で北朝鮮の人権を取り上げる

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流れなので、米韓2+2について続報します。
ブリンケン国務長官と鄭義溶韓国外交部長官の会談内容を米国側がアップしています。
Secretary Blinken’s Meeting with Republic of Korea Foreign Minister Chung
実に退屈な内容で、訪韓する必要があったのかさえ疑わしいものですが、私の退屈さをご理解いただくために載せておきましょう。

本日ソウルで、アントニー・J・ブリンケン国務長官が大韓民国(韓国)のチョン・イヨン外相と会談した。 ブリンケン長官とチョン外相は、米韓同盟は、世界および世界太平洋における平和、安全、繁栄の要であることを再確認し、幅広い世界問題に関する協力について議論した。
長官と外相は、北朝鮮の核・弾道ミサイル問題が同盟の優先事項であることを強調し、これらの問題に取り組み、解決するという共通のコミットメントを再確認した。
彼らは、米国の現在進行中の北朝鮮の政策の見直しについて議論し、同盟を強化し、武力行使に対して防衛し、アメリカ、韓国、同盟国を安全に保つという我々の共通のコミットメントを強調した。
また、自由で開かれた環太平洋を確保する上で、米国、日本、大韓民国間の三国間協力の重要性を確認した。 長官と外務大臣は、朝鮮半島に関するすべての問題について緊密に調整し、COVID-19に取り組み、民主的に選ばれた政府の回復をビルマ軍に迫り、気候危機と戦うことを約束した。

これを読むかぎり内容は限りなくありません。
「北朝鮮の核・弾道ミサイルが米韓同盟の優先事項だ」と言っていますが、そんなことはあたりまえです。
ただ韓国がネグってきただけのこと。

また国防長官との会談では戦時統制権の協議の進展がでたようですが、いつまでやってんでっかぁというお題にすぎません。
ちょっと説明しておきますか。
2006年のオバマと廬武鉉の間の移管交渉で、現在は「米韓合同司令部」が指揮権を持っていて、韓国側は司令官を韓国にするように求め、米国はそれを容認しました。
しかしそれはかんこくがうるさいので顔をたてただけのことで、この米韓合同司令部の指揮権は国連軍が握っています。
そして国連軍の司令官は米国なのです(笑)。

これをムン政権は正しく国民に知らせずまるで米軍が韓国司令官の指揮下になったように伝えてしまいました。
米国もしたたかで、それをあえて訂正せずに放置して、今回「平和な条件になったら移管計画を進める」なんてシラっと言っているわけです。 

まぁそもそもの話、戦時統制権返還要求も常時米軍の監視下に置かれているために意のままに動かせません。
必ず米国人司令官の了承が必要だからです。
これでは韓国軍は大統領の意のまになりません。
ちなみに特殊部隊と海兵隊は別系統で大統領の直接の指揮下にありますから、なにかうちの国に悪さ仕掛けたいならこれを使うでしょう。

それはさておきムン閣下は大統領になる前から米軍は統一の敵だと言ってきた人です。
北朝鮮も朝鮮半島から米軍を追い出せと言い続けていますから、南北で米軍は目の上のたんこぶなのです。
そこに北朝鮮の核武装化が国際社会で問題となって国連制裁までかけられてしまったわけです。
とうぜんムン政権は一貫して国連制裁破りしまくったのは知ってのとおりです。

米国は当然この韓国の背信行為を熟知しています。
したうえで「指揮権移管」がどーしたの、「新たな同盟強化」がどうじゃらと無意味な会話をしているというわけです。

今回はその白々しい芝居のうえに、「自由で開かれた環太平洋を確保するうえで日米韓の三カ国協力が重要」と言っているのを韓国も「確認した」と公表していますから、思わず私は失笑してしまいました。わきゃないっしょ。
隣国の核武装にたいしても協力した国が、クアッドなんていう高等なことに参加できるはずもありません。

私としては、こんな裏切り常習者に入ってほしくもありません。
日本人ならわかっていますが、事実上、日米韓国の三カ国連携は形骸化して久しいわけで、連携どころかいまや公然と日本を仮想敵国として想定していると見られています。

北朝鮮相手なら空母も戦略原潜もF35も要りませんし、中国には従属してしまっている以上、その矛先は日本だけですからね。
三カ国連携としてはGSOMIAだけが残っているにすぎず、それすらいつでも韓国は廃棄できるのだと公言しているしまつですから、素直に韓国が「三カ国連携の重要性を確認」するはずがありません。

そもそもクアッドに米国が重心をシフトしたのも、韓国が信用できなかったから前線を朝鮮半島から太平洋・インド洋に再構築したという側面もあるのです。
北に対しての三カ国連携ひとつできない韓国にクアッドという中国包囲網に加われるはずもありません。
そんなことをすればチャイナの怒りにふれて、THAADでのロッテのようなことになります。

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韓米外相「北朝鮮核は重大問題」 米長官は北の人権問題批判 | 聯合ニュース

ただひとつ興味深いのは、ブリンケンが北朝鮮・ビルマ・北朝鮮の人権問題を取り上げたことです。
さぞかし、今の今まで北朝鮮の人権に知らんぷりしてきたムン閣下にとって煙たかったことでしょう。
なんと返事したのか知りたいくらいですが、人権一般として仏像となって聞き流したのでしょうか。

「韓国政府が事実上沈黙、あるいは顔を背けてきた中国と北朝鮮の人権問題が今回具体的に取り上げられたことも、韓国政府にとっては頭が痛い部分だ」
(韓国聯合3月18日)

人権問題についてはブリンケンはかなりはっきり言っています。
外相会談前の記者会見の場で、中国の香港問題、ウイグル、チベットの人権、台湾圧迫、そして南シナ海での国際法違反などについて言及して、明確に中国の人権侵害非難しています。
これもさぞ耳が痛かったことと苦笑しますが、さらに突っ込んで北朝鮮についても「国民への虐待」があると述べています。
韓国が内心最大の友好国だと思っている中国と北朝鮮についての非難を求められたのですから、さぁどうします、「外交の天才」さん。
もちろんブリンケンはムン政権の行状を知らなくて言っているわけではないのですから、これはいつまでも二枚舌外交をしているなよ、という優しい警告です。

これを見ると、どうやらブリンケンは建前と理詰めで説いていく教師タイプのように見えます。
北朝鮮の核や中国に対する対応について、「このバカヤロー、駐留経費大幅値上げだ、さぁどっちを選ぶかはっきりしろぉ」と迫ったバクチ打ちの親分のようなトランプとは対極的です。
ブリンケンが国務副長官をしていた頃の大統領だったオバマもそうでしたが、民主党政権にはどうもこういう教師タイプが集まる傾向があります。

この一見マイルドなブリンケン・オースチンに対して、韓国は微妙な対応をしたようようです。

「米国は防衛費分担金問題の妥結を通じ、韓国に「同盟関係の復元」を大義名分として与え、その請求書として「対中けん制」と「韓米日協力関係の復元」を同時に要求してきたのだ。(略)
韓国国防部の関係者もこの日、ロイド・オースチン国防長官と徐旭(ソ・ウク)国防長官との会談について「(オースチン長官は韓米連合訓練などについて)われわれが聞き慣れた非常にマイルドなトーンで語った」と伝え、また今後の韓米連合訓練の拡大については「そのような話題は出なかった」と明らかにした」(韓国聯合3月18日)

なるほど分担金で韓国に妥協してみせ、「同盟の復元」を掲げられると、韓国としても確かにノーとは言いにくくなるのは確かでしょうね。
その上に、韓国に来る前に日本では中国を名指ししてクアッドを確認していますから、いっそう韓国の選択する余地は少なかったとはいえます。
米国のブリンケン・オースチンのコンビは「聞き慣れた非常にマイルドなトーンで語った」そうですから、よく言って上げれば紳士的な、悪く言えば日なた水のようなものだったようです。

ただこういうふうにブリンケンが詰めてくるのが見えてきた以上、うっかりムン政権が地金を出して、ニッポンが反省しないからぁ三カ国連携なんかやんないんだーい、なんて中学坊主のようなことを言えば、優しかった先生がいきなり廊下に立たせるのかも知れませんがね。
というわけで、ブリンケンの人となりが見えてきた今回の2+2でした。

ちなみに元慰安婦の抱きつきショーは晩餐会自体がなかったので、できなかったようです。ちょっと残念。

 

 

2021年3月18日 (木)

米国にとって軽い存在になってしまった韓国

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今日、米国の2+2コンビが訪韓するそうです。ムン閣下がなにを言い出すか、ほぼ予想できてしまうのが哀しい。
鈴置高史氏は端的にこう述べています。

「韓国とすれば時間を稼げればいいのです。「歴史問題は未解決だ」と言い張れば、米国が日韓の仲介に乗り出してくれるかもしれない。その間は、米国も韓国に「米中どちらをとるのか」との踏み絵を突き付けにくい、と期待しているのでしょう」
(鈴置高史 半島を読む 2021年3月16日)
https://www.dailyshincho.jp/article/2021/03161700/?all=1

そうでしょうね、ただ金輪際米国は日韓の仲介などしないと思います。
ブリンケンは慰安婦合意時にケリーの下で働く国務副長官でした。
韓国がなにを言ってきたのか、そしてなにを言い出すのか、この人物ほどよく知っている人はそう多くはないはずです。
韓国は必ず日本の歴史認識を言い出し、それを言い訳して米国の対中姿勢に対する時間稼ぎに使おうとします。
そのために元慰安婦だった李容洙(イ・ヨンス) をブリンケンに引き合わせようとするかもしれません。
なんならトランプにやったように、いきなり現れて抱きつかせるくらいするかもね。

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トランプ氏と抱擁した慰安婦被害女性、日本に「口出しするな

こうすることによって、韓国がなぜ日本と正常な関係を持てないのか、米国はしっかり理解してくれている、大義はわれにありという「絵」を世界に向けて配信することができるからです。
韓国の言い分をパククネがうまく要約してくれています。
これは2013年9月30日、パククネを表敬したチャック・ヘーゲル国防長官に対する発言ですが、ここでヘーゲルが「三か国安保協力体制のためには歴史問題を含む現実問題が適切に管理される必要がある」と言ったことに対する答えです。

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韓国「二股外交」に米で怒りの声が噴出 ケリー国務長官の忠告も無視

・(歴史・領土の葛藤で)ますます退行的な発言をする日本指導部のために信頼を作れない。
・今も痛みを抱えている国民が、傷を受ける国民がいる。国民が共に解決する問題であって、首脳2人が座って解決できない問題だ。
・例えば、慰安婦のおばあさんの問題は今も進行中の歴史だ。この人たちは花のような青春をすべて失い、これまでも深い傷を負って生きてきた。それなのに日本は謝罪をするどころか侮辱している。
・そのおばあさんだけでなく国民も共に憤怒しており、このままではいけないと見る状況だ。
・そんな中で韓日の指導部が話し合ったとして、問題が解決するのか。日本が誠意ある態度を見せ、両国首脳も話し合って共に進まねばならぬのに、それは無視して誠意を見せもせず、傷口に塩を塗り込みながら対話をすればよいというのか。こういう困った状況だ。
(韓国左派系紙キョンヒャンの「朴大統領『退行的な日本の指導部のために信頼を作れない  鈴置前掲))

これがいわゆる「国民感情主権論」です。
国の進路を決定するのは、法でなければ、冷静な戦略でもなく、「国民感情」だけなのです。
韓国にとっては国民の「怒り」という感情こそ最も重要で、それは求められている国際的責務さえ超越するようですが、いい大人が、ましてや一国の首脳が言うべきセリフではありません。
自分の感情さえコントロールできない子供じみたミーイストととられかねないからです。

この思春期の子供のような言いぐさを聞かされたヘーゲルはやれやれと思ったことでしょう。
これでは対話にならないからです。
なんせ、あたしたちの怒りを鎮めてくれなきゃ話なんかしてやんない、ですからね。

この言い方は日韓を問わず、左翼リベラルが愛好するレトリックだから始末におえません。
なぜならこの人らは自分を永遠に虐げられた弱者と信じていますから、目分の感情を理由にすればいつまでも言い募ることができると勘違いしているのです。
この人らは感情至上主義といっても自分だけの感情だけが大事で、相手の心など見向きもしません。
多少は他人様の気持ちをかんがえればよいのにと思いますが、相手にもまた感情があるとすら思っていませんから、こんなことを言われたら日本側も心を閉ざすなんて考えもしないようです。

沖縄でもさんざん聞かされませんでしたか、こんな感情優先論。
たとえば朝日はこう書いています。

「辺野古工事、政府が奇策再び 知事会談からわずか5日後政府が米軍普天間飛行場沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設工事再開に向けた手続きに入った。移設に反対する玉城デニー氏の当選からわずか半月。安倍晋三首相と新知事との会談は1回だけで、強硬措置に踏み切った。沖縄の怒りはおさまらない」
(朝日10月17日)
https://www.asahi.com/articles/ASLBK4K6VLBKUTFK00G.html 

「怒りは納まらない」と言われても、それは自分がなにより県民感情をすべてに優先させているからにすぎません。
そもそも実際にすべての沖縄県民が怒っているわけではないのは、当の基地反対派がよくご存じのはずです。
それ頼まれもしないのに、朝日は沖縄県民全部の「怒り」を代弁しちゃっているんですから、図々しい。
当時、私は
大衆の感情におもねって人治主義と県民感情至上主義に軸足を置くデニーが、ムン閣下とだぶって見えました。
それはこのおふたりさんが、大衆の「感情」を最優先にしたのはそれなりの理由があります。

ムン閣下の場合、米国から迫られる日米韓の三カ国連携をなんとか先延ばししたかったし、デニーもまた裁判を乱訴して戦っているふりをして時間稼ぎしたかったわけです。
共に「日本政府の不誠実」を理由にしたことまで似ています。

ではなんのために時間稼ぎという不毛な後退戦をしているのかといえば、ムンもデニーも共に自分の任期中にはやりたくないという、ただの感情論にすぎません。
移設問題に関しては政府は既に峠を超えたと判断していますから、延ばすも延ばさないも、次期の「まともな知事」と話あえばよいと考えています。
デニーに菅氏は愛想よく対応するだけのことで、まともな対話が出来る相手だとは思っていません。

同じく韓国についても、かつての北が週刊弾道ミサイルをしていた時代とは違って、米朝会談の合意が活きていますから、今や緊迫感はありません。
何度も書いてきましたが、これはトランプの殊勲賞・技能賞の同時受賞の遺産で、バイデンとは役者が違いすぎるのです。
バイデンはこのトランプの外交レジェンドの上に立って、韓国に対応出来るというのが、かつてのオバマ時代と決定的に違うアドバンテージです。

ですから、ムンが例によって例のごとく日本との歴史問題をネタに時間稼ぎをしても、ブリンケンは素知らぬ顔でスルーして外交的修辞をちりばめたことでお茶を濁します。
かつてのように北とは緊迫する材料がない以上、現時点で北に対して何らかのアクションをせねばならない理由もないからからです。
強いていえば、対中包囲網のためのクアッドについての韓国のスタンスを問い質すていどはあるかも知れませんが、それも別に韓国に「クアッドプラス」になって欲しいわけではありません。

そもそもこの「クアッドプラス」という妙テケリンな言葉は韓国が作ったものですが、クアッドは対等な日米豪印の4カ国によって作られたもので、近いうちにこれに英国が加わってクインテットになるかもしれませんが、ハンパな「クアッドプラス」なんて立ち位置はありえないのです。
入るか入らないかの選択肢は二つしかしない以上、入らないならハイそうですか、そうならそうとして処遇させて頂きますとしか、ブリンケンは言いようがないでしょう。
この時にまたムンが「国民感情」を理由に持ち出せばしかめ面をして無視するか、いつまで言ってるんだい、ていどのことは言うかもしれませんがね。

いずれにしても、この訪韓で事を荒立てて決断を迫る時期ではないのです。
ここがトランプ時代とは大きく違います。
トランプは北との緊迫した状況を受けて、韓国が明確に北と同一歩調をとったと認定して準仮想的敵国待遇にまで落とすことを考えていたふしがあります。
だから韓国に駐留経費の増額を突きつけてみたり、これを飲めないようならもう在韓米軍撤退させて米韓同盟もしまいだ、と言葉を荒らげていました。
これは韓国にしっかりと従属を迫った踏み絵なのです。
当時、従わなければ切る、こういう冷徹な同盟の論理が出てくるところまで韓国は追い込まれていたのです。
韓国にとって幸か不幸か、米朝直接会談以降の北との緊張緩和とバイデン政権の誕生で、ムン政権は時間稼ぎの時間を再び得ることが可能となりました。

この間延びした感覚は米国もいっしょです。
ブリンケンとしては
、ムンさん、畳の上で死ねたらいいですね、という皮肉な目で韓国を見ていることでしょうから、辞めたら死刑判決を受けるような脆弱な大統領相手に気張ってみてもしかたがありません。
いずれにしても、「まともな政権」ができるまでの辛抱だとブリンケンは考えているのかもしれません。
このへんは沖縄県に対する日本政府のスタンスと一緒です。

 

 

 

2021年3月17日 (水)

二枚舌外交の清算を迫られるか、韓国

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今回の日米2+2は、いわば現状の確認ですから、特に新味はありません。
なにか新たなポジティブな要素が加わるというより、ネガティブなことが盛られていないか、今までの日米合意から後退してはいないかというのが注目点でした。
日本からすれば、クアッドについての明確な意思表明と、「法の支配」という文言が入ったことが収穫でした。
それともうひとつ。ブリンケンもオースティンも揃って共同記者会見に拉致奪還の青バッチをつけて現れましたね。パチパチ。

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米国務長官、中国をけん制 「圧力や攻撃に訴えれば反撃」(ロイター

これは拉致問題を米国が継続して重要なテーマとする意志の現れと評価できます。
常日頃バイデン政権には塩辛い私ですが、率直に拍手します。
ところで茂木外相はバッチを着けていないうえに、最後まで中国の名を出しませんでした。
今もっとも脅威を受けている当該国が黙しているとは。ああ、いやだ。

さてこの後に韓国を訪問するわけですが、私はなんだかなぁという気分と、でもまぁ見物ではあるなという入り交じった感想を持っています。
なんだかなぁについては昨日も述べたように、今さら韓国にナニを期待しているんだい、と思いつつ、慰安婦合意を作った当事者の民主党政権の国務長官が訪韓するのですから、意地悪く楽しみではあります。

というのは韓国の二股外交を、どのようにブリンケンが処理するのか楽しみだからです。
韓国は慰安婦合意を事実上廃棄してしまったわけです。
ムンを深く軽蔑していた節があるトランプは、まぁ奴らだったらやるだろうな、ていどの扱いでスルーしていましたが、民主党は慰安婦合意を作った当事者です。

「12日(現地時間)米国務省の報道官は、ブリンケン長官の日韓巡訪を控えての会見で、慰安婦問題についての質問に「米国は日韓両国による2015年慰安婦合意を含め、建設的で生産的な両者関係を形成することのできる具体的な努力を歓迎する」と答えた」
米国務省、“2015慰安婦合意”に「初言及」…元慰安婦 李氏との面談要請には「即答控える」(Wow! Korea

そもそもこの慰安婦合意は、当時の国務長官だったジョン・ケリーと大統領補佐官だったスーザン・ライスが強力に押し進めたものです。
当時の安倍首相もパククネも共に、正直な話米国がこれほど強く押さねばやりたくはなかったのです。
当時の報道です。

「ケリー氏は声明で「米国は日韓両政府が慰安婦問題という敏感な歴史問題で合意に至ったことを歓迎する」と評価した。さらに「国際社会に対し、今回の合意を支持するよう呼びかける」とした。
 オバマ政権は、日韓関係の悪化が日米韓の連携を軸とする東アジア戦略をほころばせかねないとして、両国首脳らに関係改善を促してきた。ケリー氏は「米国は日韓両国と地域および地球規模の課題で引き続き協力し続けることを楽しみにしている」と強調した。
また、ライス氏も声明で「今回の合意と合意の完全な履行を支持する」と表明し、国際社会に歓迎されるべきものだとの認識を示した。
米国の2人の政府高官が声明を出し、いずれも「国際社会の支持」にも言及したのは、日韓関係改善への期待感を示すとともに、合意が覆されることなく履行されるように外堀を埋める狙いがある。同時に、米国内で起きている韓国系米国人らによる慰安婦碑や慰安婦像の設置などの動きを沈静化させたいという思惑もにじむ」
(毎日2015年12月29日)
https://mainichi.jp/articles/20151229/k00/00e/030/274000c

これには前段があって、ケリーはその前年の2014年のオバマのアジア歴訪までに、アジアにおける同盟関係安定のシンボルとして日韓慰安婦合意をしたかったようです。
日本側は慰安婦問題は作り上げられた悪意の虚構だという認識ですから渋っていたのですが、米国はアジアに回帰するから、というケリーの説得を信じて合意しました。

実はこの2015年当時、米国はやっと中国の恐ろしさに気がつき始めた時期に当たっています。
当時までオバマは中国が経済発展するのはいいことだ、遠からず民主国家になって国際社会の一員になるはずさという、今思うとトンデモの夢想を持っていたのです。
第1期のオバマ政権はこの甘ったるい幻想に乗って世界を中国と一緒に管理していこう、なんていうG2(二大国)路線に酔っていたのです。
ちなみにその伝道師がスーザン・ライスです。

ところが2015年3月にAIIB事件が起きます。
中国が世界のインフラ投資のためにダブついているチャイナマネーをばらまきますよと声を掛けたら英独仏伊豪イスラエル、そして韓国などの親米57カ国が、米国の制止を振り切ってホイホイと乗ってしまったのです。
主要国で乗らなかったのは日本くらいなもの。
これにはさすがのオバマもびっくりしました。米国は止めろと大きな声で制止しているのに、進んでチャイナマネーに尻尾を振ってしまったのですから。

これではもはや米国は覇権国家とはいえません。
覇権国は同盟国を守る代わりに、あれやれ!といったら、はい! すぐにやります!と即答しなければ成り立ちません。
ヨーロッパが米国にタメ口をきけるのは、EU・NATOで集団安全保障ブロックを組んでいるからです。
個々バラバラの個別安保で米国とつながっているアジアでは、そういうわけにはいかないのです。
オバマはこの時、誰一人言うことを聞かくなってしまって、裸の王様になったと涙したことでしょうね。

実際、この時日本も中国の経済枠組みに入ると言い出したら(実際に野党とメディアはバスに乗り遅れるな、と合唱してましたっけ)、米国の覇権は2015年の時点で崩壊しかねませんでした。
しかし安倍氏が頑としてAIIBを拒否したために、米国は首の皮一枚で救われたともいえるのです。

そして遅まきながら米国の孤立ぶりを自覚したオバマは、米国を盟主とする自由主義陣営の再建を開始します。
では具体的にアジアではどの国が頼れるでしょうか。消去法で見てみます。
なぜ消去法かといえば、それなりの大国や先進国が軒を並べているヨーロッパと違って、アジアには頼れる国が極小だからです。
日本、韓国、台湾、フィリピン、さらに、ベトナム、インド、オーストラリアなどの国がありますが、この中で軍事的に最も強力なのは実はインドです。

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インドは世界第3位~5位の軍事費を誇り、空母と核まで備えていますが、あいにく非同盟を国是としていて日米露中とバランス外交をうまくやっていいました。
むしろ当時は米国よりも中国やロシアと仲がよかったくらいです。
ところが今や習の過激な「戦狼」路線のおかげで、日米豪印のクアッドに加盟するというコペルニクス的転換を果たしてしまいました。
しかしそれはこの時代から5年後のこと。

次にオーストラリアですが、軍事的に軍事費第12位~23位な上に、いかんせん南半球で離れすぎています。
しかも当時はオーストラリアは労働党の親中政権が握っていて、サイレントインベージョンを受けている真っ最中でした。
ベトナムは、中国と領土問題を抱えているため、かつての敵米国と友好関係をもとうとしていますが、陸軍は世界有数の強さでも海軍はなきに等しいために残念。
フィリピンは中国と領有権争いをしていますが、軍事費41位でまったく頼りにならない。
インドネシアも同じ。
タイも基本は非同盟ですし、海軍はなきに等しい(使えない空母もってるけど)。
カンボジア、ラオスは内陸ですから論外。
台湾とは台湾関係法があるものの、米中間には「ひとつの中国」の建前があるため同盟にまで至らない。

すると残るのは東アジア諸国くらいしかありません。
日本は9条にがんじがらめになりながらも軍事費460億ドルで、世界8位
GDPは白川デフレによってボロボロになりつつも、とりあえずは世界3位。
そして安倍氏は集団的自衛権行使を容認させるという日米安保のバージョンアップまでしました。

そして東アジアには、中国の至近にもう1国、軍事費450億ドル、世界9位~10位の国があったのです。
それが韓国です。
そしてこの国には在韓米軍が駐留し、地政学的には重要な場所に位置していると思われていました。
つまりアジア広しといえど、日韓両国くらいしか米国が頼れる国はなかったのです。
しかし日韓関係ときたひにゃ常に氷河期。
だからオバマはケリーに命じてこの二国を協調させようと図ったのです。

説明が長くなりましたが、これがオバマの慰安婦合意を進めた理由です。

「オバマ政権にとって地域の安定はアジア回帰政策の大前提。ケリー氏は「過去より今が重要だ。今、最も緊急の課題は安全保障であり、多くの人の命がかかっている問題に焦点を当てるべきだ」と力説した」(日経2014年2月14日)
https://www.nikkei.com/article/DGXNASFS1304L_T10C14A2EA2000/

ところが反日が命の韓国は大いに抵抗したようです。
パククネは女性省にヨーロッパで慰安婦プロパガンダの拡散を命じたほどに熱を入れていましたから、ここで止めることなど出来ない相談で結局、翌年暮れまで日韓慰安婦合意は先のばしになります。

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ロイター 日韓慰安婦合意

日本は米国のアジア回帰を諸手をあげて歓迎しましたが、韓国は複雑でした。
というのは、中国市場が毎年8%から9%という驚異的勢いで発展してしいたために、韓国人には中国が蜜と乳が流れるパラダイスに見えたからです。
21世紀は中国の世界だ、こう韓国は見たのですね。典型的な勝ち馬乗りです。
国内市場が貧弱で輸出が頼りの韓国にとって中国とは間違っても悪い関係になりたくないので、米国のアジア回帰政策は実は困ったことだったのです。
韓国にとって米国は、亭主元気で留守がいいではありませんが、米韓安保があっても実態はスカスカていどがいちばん良かったのです。

そこで韓国はお家芸の二股外交を始めます。
中国から弾道弾迎撃ミサイルを撤去しろと命じられれば、はい仰せのとおりにと受けます。
日米豪なんかとくっつくんじゃないぞと命じられれば、アイアイサー。
世に名高い「三不の誓」がこれで、今は言ったのいわないのでもめています。

米国が同盟強化のために日韓関係をよくしろと言いだしたのですが、とっておきのカードがあると韓国は思っていました。
それが慰安婦問題です。韓国は米国にこう言いました。
日本が歴史を反省していないので、仲よくなんかなれません。悪いのは全部日本です。日本は千年先まで許してはならない極悪な国なのです。
そこで困ったケリーは、もう歴史でグダグダ言ってんじゃねぇ、さっさと慰安婦合意を丸く収めろと韓国に迫ってできたのが慰安婦合意でした。

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これも真面目に履行したわが国に対して、韓国はまったく不誠実な対応を続けたあげくとうとう事実上の廃棄してしまいました。
日本にとってはこんな違約は想定内で、この合意によって以後いかなる異議申しても封じることができたのです。

GSOMIAにおいてもまったく同じことが繰り返されました。
継続を求める米国に対して、中国からは絶対に結ぶなと言われ、結局、慰安婦合意で使った例の手を持ち出します。
悪いのは日本だ。日本が歴史を反省しないからだ、というわけです。はいはい、ワンパターンね。

鈴置高史氏はこう述べています。

「日本と軍事協定を結ぶな」と中国が韓国を脅す。
だが、この協定は米国の強い意向を受けたものだ。果たして米中どちらの言うことを聞くべきか― 韓国は板挟みになった」
「韓国はいつもの「反日」を利用して切り抜けようとした。
韓国では運よく左派が「反日」を理由に協定締結に反対していた。韓国はこれを利用して、中国に対しては「ご指示の通りに軍事協定は断りました」と歓心を買った。
その一方で、米国に対しては、「ご指示の通りに協定を結ぼうとしたのですが、日本のせいでできません。従軍慰安婦問題や独島(竹島)問題で日本が強情なため、我が国の左派が反対するのです」と責任を転嫁した」(『中国に立ち向かう日本、つき従う韓国』)

このような二枚舌外交の決算をせねばならない時期がとうとうやってきたようです。
ある意味、トランプ政権は慰安婦合意には無関係であったために韓国の二枚舌には無関心でした。
うるさい奴らだな、北朝鮮とベタつくんじゃねぇ、駐留経費増額しろていどで、基本は韓国なんかに無関心だったのです。

しかし当事者中の当事者であるケリーが影の国務長官をしているバイデン政権はこうはいきません。
愚直なまでに約束を守ってきた日本人としては、米国が厳しい取り立てをするかどうか、高見の見物をいたしましょう。

 

2021年3月16日 (火)

日米2プラス2始まる。確認されたクアッドの価値と残る不安

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今日、アンソニー・ブリンケン国務長官とロイド・オースチン国防長官が訪日し、いわゆる2プラス2会合を行います。
ちなみに「2プラス2会合」とは、外務+国防のふたつのパートの責任者が行うハイレベルの会談のことで、バイデン政権になっては始めてのことです。
日本は米国と1990年以降、実に14回開催しています。これは日本はもちろん、米国にとっても最多ではないでしょうか。

今回に関して、バイデン政権が発足して最初の2プラス2ですから、他の同盟国とは比較にならない重要度があるという判断があったのはいうまでもありません。
米国務省は訪日前に長文のコメントを出しています。
Reaffirming the Unbreakable U.S.-Japan Alliance (再確認された棄損されることなき日米同盟)というものです。
おそらくこれは前段で日米の2プラス2の事務方で詰められたもので、ここに書かれた基調で共同声明が出ることは間違いありません。

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ブリンケン国務長官とオースチン国防長官
日米2プラス2で米閣僚が来日 初外遊はアジア重視の表れ - 産経

この声明には、" Strong Alliance Based on Shared Values"(共通の価値観に基づく強力な同盟)というフレーズが含まれています。

「日米同盟は、60年以上にわたり、インド太平洋および世界中の平和、安全、繁栄の礎としての役割を果たしてきました。
私たちは、世界的なCOVID-19パンデミックの抑制、気候変動との闘い、民主主義と人権の強化、自由で公正な貿易の促進、アジアおよび世界中での悪意のある影響と中国の挑発への対抗など、共通の課題に協力することに取り組んでいます
アメリカ人と日本人は、自由を守り、経済的および社会的機会と包摂を擁護し、人権を擁護し、法の支配を尊重し、すべての人を尊厳をもって扱うという深く根付いた価値観を共有しています。
日米の人々は、必要なときにお互いを支え合っています。日本は、9.11攻撃とハリケーン・カトリーナに続いて支援を提供した最初の国の1つであり、アメリカ人は、10年前の今月の東日本大震災の余波でトモダチ作戦を通じて日本を支援したことを誇りに思います」

ここまではかなり日本の要求が盛り込まれています。
現時点で日本が米国に外交と安全保障で欲した要素の多くが入っています。
それは「民主主義と人権の強化、自由で公正な貿易の促進、アジアおよび世界中での悪意のある影響と中国の挑発への対抗など、共通の課題に協力することに取り組む」とした部分です。

ここで「中国」とはっきり名指ししています。
同盟というのはたんなる友好関係一般ではありませんから、脅威の対象を共有せねば成立しましせん。
ですから、新政権となってこの「共通の脅威」を名指しするかしないかというのは重要なのです。
大きくは日米同盟の「主敵」が一体誰であるのかを明確にし、直接には尖閣を含む東シナ海の防衛に関わってくることですから、はずしてもらっては困る部分でした。
当然日本側は事前に強く要請していたようです。

「日米両政府は16日にも都内で外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を開く。共同発表する文書は、沖縄県・尖閣諸島周辺で領海侵入などを繰り返す中国を名指しし、批判するよう調整する」(日経3月9日)

「調整する」というのは独特の役人表現ですが、事務方で要請したという意味です。
もんでくれたのはけっこうですが、ただし「インド太平洋および世界中の平和、安全、繁栄の礎 」という表現にはひっかかります。
この表現は従来のクアッドにあった「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)の「開かれた」という文言の代わりに「繁栄」が入っています。
この「開かれた」という表現は、ただの航行の自由にとどまらず、それを保障する「法の支配」という意味を伴っていました。
具体的には国際法と国境の遵守のことです。

ですから「法の支配」という文言が入らないと、中国がした南シナ海の強奪の犯罪性がわからないし、今進行している東シナ海における中国の軍事膨張の意味も理解できなくなります。

※追記   共同声明に以下の文言がはいりました。

共同声明(和文)

日米豪印首脳共同声明:「日米豪印の精神」
我々は、インド太平洋及びそれを超える地域の双方において、安全と繁栄を促進し、脅威に対処するために、国際法に根差した、自由で開かれ、ルールに基づく秩序を推進することに共にコミットする。
我々は、法の支配、航行及び上空飛行の自由、紛争の平和的解決、民主的価値、そして領土の一体性を支持する。我々は共に協力し、そして様々なパートナーと協力することにコミットする。
我々は、ASEANの一体性と中心性、そして「インド太平洋に関するASEANアウトルック」への強い支持を再確認する。潜在性に満ちた日米豪印は将来を見据える。日米豪印は、普遍的価値に基づき、平和と繁栄を支持し、民主的強靭性を強化することを追求する。

これに先日の「尖閣の領有権には立ち入らない」という国務省スポークスマンの発言修正と重ねると、憂鬱になります。
つまり米国は日米安保第5条の適用範囲である姿勢は変化させないが、その焦点であるはずの尖閣についての日本の「法の支配」には無頓着であるという意味と解釈できるからです。

これではオバマ政権時の南シナ海での失敗の繰り返しになる可能性が残ります。
オバマは南シナ海のフィリピン領土の島々について「個別の領土紛争には立ち入らない」というキレイゴトで済ましてしまった結果、南シナ海全域を中国に軍事支配されるはめになってしまいました。

米国は、この中国の南・東シナ海の軍事支配を明確に批判し、強く対抗するためにはこの領有権問題に踏み込んで被侵略国を守らねばならないのです。
そこから目をはずして「同盟国」一般の重要性を強調されても、なんだかなぁという気分になってしまいます。

この国務省声明にも、冒頭に大きく掲げられたバイデンの言葉はこう述べています。

"America’s alliances are our greatest asset, and leading with diplomacy means standing shoulder-to-shoulder with our allies and key partners once again."
アメリカの同盟は我々の最大の資産であり、外交をリードすることは、同盟国や主要パートナーと再び肩を並べることを意味する。

これがバイデンがトランプと自らを区別する「同盟重視」政策なのですが、「肩を並べる」だけじゃ困るんですよ。

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日米豪印、ワクチン支援で一致 「中国の現状変更に反対」と菅首相

これはクアッドのリモート首脳会談でも感じたことですが、米国に望まれるものは自由主義陣営の強力な盟主としての存在感です。
おお、ここにアメリカ合衆国が守護神としてそびえたっているぞ、という空気感が大事なのです。
ちゃんと外交用語にもなっていてpresence(プレゼンス)と呼びます。
同じリモート会談をするにしても、トランプなら「オレが主役。オレについて来い」的なプレゼンスが濃厚にありましたが、バイデンは4国の一角にちょこんなんといる印象を受けました。

バイデンのホワイトハウス内の存在感のように、ここでも存在感が希薄ですから、言うことも総花的です。
「世界的なCOVID-19パンデミックの抑制、気候変動との闘い、民主主義と人権の強化、自由で公正な貿易の促進」ときて、末尾に「 アジアおよび世界中での悪意のある影響と中国の挑発 」と並びますから、よもやこの順番が重要度じゃないよね、と私が外務大臣なら聞いてしまうところです。
これでは「気候変動との戦い」、つまりバイデン流の炭酸ガス抑制政策が「中国の悪意ある挑発」より重くなってしまいますからね。
もしそうなら、うちの国からは岸防衛相ではなく、セクシー進次郎を出してプラスチックゴミで国産スニーカーを作りましょうなんて言わしたほうが受けるでしょう。(どうでもいいけど親の馬鹿の遺伝だね)。

実際、この国務省声明はこんなことも書いているのです。

「バイデン・ハリス政権は、同盟国とのアメリカの関係と、それらの同盟国間の関係を強化するために取り組んでいます。日本と韓国(ROK)との関係ほど重要な関係はない。米国は、COVID-19に取り組み、気候変動に対処するための日韓協力の拡大を推進し、北朝鮮の非核化を含む幅広い地球規模の問題に関する三国間協力を再活性化し続けている。
 米国と日本の間の強固で効果的な三国間関係は、自由と民主主義の擁護、人権の擁護、女性のエンパワーメントの擁護、気候変動との闘い、地域的および世界平和、安全保障、そして世界太平洋における法の支配を促進する上で、我々の安全保障と利益にとって極めて重要である」

そもそも「バイデン・ハリス政権」と、正副大統領を並列すること自体異様です。

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カマラに押しまくられるバイデン翁
時事

トランプ・ペンス政権と呼ばなかったように、バインテン・ハリス政権という書き方をすれば、バイデンが職務執行不能となってハリスに替わるのが民主党の規定路線だという噂を信じたくなってしまいます。

そしてここでは突然韓国が飛び出します。しかも妙に熱が入った書き方です。
“No relationship is more important than that between Japan and the Republic of Korea (ROK)” (日本と韓国との関係ほど重要な関係はない)ですと。
しかもこの日韓関係を幅広いグローバルな課題に向けて “reinvigorate”(再活性化)させるそうです。

そういえば米国は韓国の駐留経費問題をあっさりと片づけてしまいました。
バイデンは韓国を元のバリバリの同盟国として遇そうということのようです。
たぶんこの数年にわたる米国の冷淡な韓国への扱いがトランプ独特のものだから同盟重視で復元せねばと思っているのかもしれませんが、できたらお慰み。
ここまで韓国が明瞭に離米政策を取り、北朝鮮に熱いラブコールを送り続け、中国にすがりついてたのを見れば、ムンが元の鞘に戻ることはありえません。
ムンが辞めて時期大統領が保守から出るようなことになれば対米関係だけは修復できるでしょうが、対日関係は不変です。

米国のこのような日韓宥和政策に気をよくして、またもやわが国が決して飲めない言いがかりを言い出すことが目に浮かびます。
いわく慰安婦問題、徴用工、軍艦島などなど、浜の真砂は尽きぬとも、コリアに反日の種は尽きまじですからね。
そんなことは韓国の趣味の世界なのですから「いつまでもひとりでやっていなさい」と冷たく放っておくしかないのですが、かつて慰安婦合意の時のように、日本にだけ妥協を強いてくるのかもしれません。
そういえば、バイデン政権影の国務長官であるケリーは、この慰安婦合意を安倍氏 に強いた人物でしたっけ。

ブリンケンは信用できる、米国は日本を切れないんだ、猿山理論とやらでニッポンは安泰とはしゃぐ人らもいるようですが、私は元に戻った感ありありです。

 

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2021年3月15日 (月)

福島事故は必然ではなかった

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先週述べたように福島原発事故において、当時の民主党政権の致命的な欠陥は情報隠蔽でした。
事故が起きた当事国の政府は、一切の隠蔽と加工なしで情報を開示せねばなりません。これが常識です。
正しい情報の開示がなければ、危機管理もリスクコミュニケーションもなにもあったもんじゃありませんからね。
民主党は情報隠蔽を糾弾しつづけたのに、いったん自分が政権につくと手のひら返しを演じました。
国民にさえ知らしむべからずなんですから、外国政府に情報を開示するわきゃありません。

このようなカン政権に対して、真っ先に怒りをぶつけたのが米国政府でした。
やや長文ですが、当時の福島事故を巡る雰囲気を再現するために再録しておきます。
ゾっとすることには、米国政府は日本を「無政府状態だ」と認定していたようです。

「「日本の指導者の欠陥が危機感を深める」
 ニューヨーク・タイムズ紙は16日、こんな強烈な見出しで、菅首相が臨機応変の対応力や官僚機構と円滑な協力関係に欠けるため、国家的危機への対処を大幅に弱くしている、と指摘した。
 今週に入り、米政府やメディアは総じて日本に厳しい。悲惨な大震災への同情はどこかに吹き飛んでしまった。
 米国在住のジャーナリストは「ホワイトハウスや議会で連日、日本の原発危機に関する会議や公聴会が開かれているが、『日本政府や東電は情報を隠蔽している』『混乱して無政府状態』といった反応ばかり。かなり緊迫している。これを放置すると、反日感情がさらに高まる」と警告する。
 事故発生直後、米政府は原子炉冷却に関する技術的支援を申し入れた。ところが、原子炉の廃炉を前提とした提案だったため、日本政府は「時期尚早だ」と受け入れなかったという。
 その後も、米政府は外交ルートを通じて、「第1原発は大丈夫なのか?」「本当のことを教えてくれ」と打診したが、日本外務省は首相官邸の指示もあり、「適時適切に対応している」とお役所答弁。ところが、第1原発の危機は日に日に深刻化し、水素爆発や放射性物質漏れが発覚した。
 このためか、ヒラリー国務長官は「日本の情報が混乱していて信用できない」「米国独自の調査で判断する」とテレビのインタビューで強い不快感を強調。在日米大使館は第1原発の半径80キロ以内に住む米国民に避難勧告し、東京の米大使館などに勤務する職員の家族約600人に、自主的な国外退避や日本国内の安全な地域への避難を認めると発表した。
 米メディアも17日朝から「金曜日にも太平洋を超えて米国に放射性物質が到達するから危険」と派手に報じ、欧州やアジアのメディアも「天災が人災に発展」「事実を隠蔽した」などと報道。
 米西海岸はパニック状態で、抗放射能薬が飛ぶように売れて、品不足状態だという。
 現在、ワシントンに滞在している国際関係学研究所の天川由記子所長は「米政府は菅政権に対し『大量の放射能漏れを隠している』との懸念を持っている。菅政権の対応の遅さと甘さは、米国民に『日本人は放射能漏れを起こした厄介者』と思わせかねない」と語る。
 菅政権は、日本を世界の孤児にする気なのか」(産経新聞2011年3月18日)

事故直後という決定的状況において、米国政府は日本政府の統治能力をまったく信頼していなかったのです。
日本政府からの情報提供に見切りをつけた在日米軍は、早々と横須賀から放射能モニター車両を走らせ、関東一円の放射線量を独自に測定すると同時に、米国人軍属と民間人に退去を命じました。
また当時、横須賀に係留されていた米空母は出港し、安全海域まで避難を開始し、グアムから無人偵察機グローバルホークを福島原発上空に飛行させて詳細な情報を得ようとします。
まさに日米同盟は根底からガラガラと崩れようとしていたのでした。
この日本政府に対する米国の不信が続けば、米国はおざなりな義援金供与と、小規模な救助隊ていどでお茶をにごしていたかもしれません。

この崩壊せんとする日米同盟の絆をかろうじて食い止めたのが、福島原発に残留する吉田所長率いる「FUKUSHIMA50」と、全力で救援にあたる自衛隊の姿と、なかでも最も危険な原子炉直上で注水活動に従事する自衛隊ヘリの存在でした。

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この必死に戦う日本人たちの姿を見て、オバマはあらゆる手段で日本を救援するように命じ、史上空前の規模のトモダチ作戦が発動されたのです。

米国政府は福島第1原発の事故発生とNRC(米国原子力規制委員会)の支援を申し出ていました。
それはNRCが原子力事故に対して世界でもっとも経験豊富な機関であり、独自に原子力事故即応ユニットさえ持っていたからです。
すでにNRCは直ちに技術支援可能であり、ゴーサインを待っていました。

福島事故以前に2回日本はこれを防止する機会をあたえられていました。
ひとつめは
安全神話に安住する日本と違って、米国は既に1981年から1992年かけてNRCが、原発で電源が完全に消滅した場合になにが起きるのかというシミュレーションを実施してました。
それゆえNRCは福島事故の展開を詳細に予想できていました。

「東京電力福島第一原子力発電所と同型の原子炉について、米研究機関が1981~82年、全ての電源が失われた場合のシミュレーションを実施、報告書を米原子力規制委員会(NRC)に提出していたことがわかった。計算で得られた燃料の露出、水素の発生、燃料の溶融などのシナリオは今回の事故の経過とよく似ている。NRCはこれを安全規制に活用したが、日本は送電線などが早期に復旧するなどとして想定しなかった」(朝日2011年3月31日)

NRCのこのシミュレーションにおいて、福島第一原発1~5号機と同じ米ゼネラル・エレクトリック(GE)の沸騰水型「マークI」炉のブラウンズフェリー原発1号機をモデルにして、米オークリッジ国立研究所が実施していたものですが、ほぼ正確に後の福島事故の展開を予想しています。
ちなみにこの内容は、1982年当時日本側の原子力安全委員会・保安院にも伝えられていたはずでしたが、有効に活用されずにお蔵入りしていたようです。

では米国NRCの想定したシミュレーションを見てみましょう。
まず、今回の福島第一原発で起きた状況とまったくと同様に、「外部からの交流電源と非常用ディーゼル発電機が喪失し、非常用バッテリーが作動する」事態がシミュレーションの条件です。

いうまでもありませんが 、この全電源喪失という極限状況こそが福島事故で起きたことです。
NRCは、これを前提として、バッテリーの持ち時間、緊急時の冷却系統の稼働状況などいくつかの場合に分けて計算しました。
福島第1原発では、直流バッテリーは8時間使用可能でしたので、NRCのシミュレーションより4時間遅れとなりましたが、「燃料棒の露出」⇒「温度上昇・水素発生」⇒「燃料棒の融解開始」⇒「格納容器破損」という発生した事象の順序は一緒でした。

つまり、事故を未然に防ぐには全電源喪失という事態をなにがなんでも防がねばならなかったはずでした。
ところが愚かにも原子力安全保安委員会は、1990年に原発の安全設計審査指針を作った際に、このNRCの警告をまったく無視してしまいます。
信じがたいことに、
安全保安委員会は「長期間にわたる全交流動力電源喪失は、送電線の復旧または非常用交流電源設備の修復が期待できるので考慮する必要はない」と一蹴してしまったのです。
原子力安全委員会の斑目委員長などは、「隕石の直撃など、何でもかんでも対応できるかと言ったら、それは無理だ」とうそぶく始末でした。この連中がもう少しまともな脳味噌を持っていたなら、福島事故は起きなかったはずです。

このように福島第1原発事故は、必ずしも必然だったわけではありません。 
たぶん回避可能な多くの事故と同じように、起きないで済んだことも考えられました。 
それはそう難しいことではなく、冷却系の電源を複数離れた場所に確保しておき、万が一地震や津波で一基が破壊されてもサブユニットが生き残る方法をとることで済んだはずです。 
下図は近距離にある福島第1と福島第2を比較したものです。
わずかこの予備電源の位置だけが、双方の運命を決したことがおわかりいただけると思います。

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福島第一原発事故への疑問・原因・対策 P.2
http://www.imart.co.jp/genpatu-jikogennin-bousisaku-p1-old12.19.html

原発は大地震そのものには耐えたにもかかわらず、津波によって予備電源が水没したことで事故に至りました。
津波が到来しても予備電源が生きていれば大丈夫だったのです。
つまりなんのことはない予備電源ユニットを屋上に乗せるか、あるいは水密構造にすればいいだけのことだったのです。
この改修は、後の安全基準で実施されている高い防波堤や、建屋の耐震構造の見直しなどから較べればはるかに簡単で安価、しかも直ちにとりかかることが可能でした。

ところでここで深刻な疑問が湧きます。
なぜこのような小規模の安全措置の多重化すらしなかったのでしょうか。 
それは、日本独特の悪しき「原発安全神話」が生きていたからですが、二度目のチャンスも存在していました。

2002年、米国NRC(原子力規制委員会)から、原発施設の強靱化方法が伝えられた時です。
2001年、米国は世界貿易センター同時テロを受けて、仮に原子力発電所が標的だった場合を想定しました。
NRCは、9.11同時テロの際、ワシントンに向ったユナイテッド93便の飛行コース上に、ホワイトハウス、議会以上に恐ろしい施設を発見し愕然となりました。
それは乗っ取られた旅客機のコース上に
ハドソン川河口のインディアン・ポイント原発(PWR2基)があったからです。 

 

インディアン・ポイント原発

旅客機を乗っ取ったテロリストが、もし原発に旅客機を衝突させたら、それによって原子炉建屋が破壊され、ニューヨークは一瞬にして壊滅し、風向き次第でその風下域は居住不可能となります。  
その可能性を考えたNRCはこのそれまで予想もしなかった旅客機の衝突を含む核テロに対して対策を練ります。
それがこの「原発事故・核テロにおける減災対策連邦基準」 であり、その核心がB項5のbだったのです。

NRCは旅客機だけではなく、テロリスト集団の侵入による核テロを想定しました。
テロリストが原発施設内に侵入し制御室を制圧し、制御室へのアクセスが不可能になるといった事態です。
自爆テロリストが制御室にまで武力侵入し、彼らの支配下に原発が落ちたらどうしたらよいのかと想定したのです。

特に恐ろしいのは、彼らが全電源のメーンスイッチをオフにした場合です。
福島で起きた状況と同じです。
福島の場合、原発への電力網が倒壊して外部電源が止まり、そのうえ頼みの予備電源が水没してしまい全電源電喪失という、もっとも恐ろしい事態が発生しました。
冷却系への給水が止まるという最悪の事態が発生したのです。

NRCは、福島事故の10年のそれをそれを予想し、対策を立てていました。
そしてこの全電源停止事態に対処するために作られたのが、この原発事故減災対策B・5・bなのです。

船橋洋一『カウントダウン メルトダウン』によれば、NRCが作ったは原発事故B・5・bの内容はこのようなものでした。 

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NRC「原発事故・核テロにおける減災対策連邦基準」B5条b項
①第1段階 想定される事態に対応可能な機材や人員の準備
②第2段階 使用済み燃料プールの機能維持及び回復のための措置
この際に、第2段階では
③サイト内での給水手段の多重化 
サイト外では給水装置の柔軟性と動力の独立性
第3段階 炉心冷却と格納容器の機能の維持及び回復ための措置
この際に第3段階では
⑤原子炉への攻撃に対する初動時の指揮命令系統の強化
⑥原子炉への攻撃に対する対処戦略の強化
 

米国NRCは核・原発テロは4つのシナリオを考えていました。

a 核施設に潜入して、中央制御室に立てこもり、要求を受け入れないとベントするか爆破すると脅迫する
b 9.11スタイルで、乗っ取った航空機で核施設を自爆攻撃する
c 電源喪失などの核インフラを切断する
d 配管・パイプを切断する

未曾有の津波が襲った結果、第2段階(④)及びcの状況になったのがまさに福島第1原発事故だったわけです。
つまり、この米国原発減災基準B・5・bは全電源喪失による給水系のダウンを想定していたのです。 
特に③の冷却系に対する給水手段の多重化、④給水装置の柔軟化と動力の独立などは、していたわけで、後に原子力規制委員会が重視した原発安全新基準とまったく同じで、それをはるか前に勧告していたわけです。 

もし、この時に日本政府がB・5・bを受け入れて、冷却系の動力をいくつもに分けて多重化し、万が一ひとつが破損しても別な系統で代行できるようにした上で、配電盤も水密構造にし、これも多重化しておいたならば、福島事故は相当な確率で予防できたはずでした。
現実に3.11時にも、女川、福島第2、東海村第2の各原発は、震災と津波に合いながらもかろうじて残存した電源があったために事なきを得ました。 

このようなNRCからの重要な情報に耳を閉ざしていたのが、誰あろう当時の宰相であった小泉純一郎首相でした。
彼はブッシュ・ジュニアのご機嫌をうかがってイラク戦争に自衛隊を送り出すことに必死で、そんなNRCの情報など見向きもしませんでした。
今頃になって、小泉元首相は「原発安全神話」を盛んに批判していますが、日本でもっとも深く原発安全神話に犯されていた馬鹿野郎がこの人物だったのです。

彼は、唯一福島事故を回避する手段だったB・5・bに目もくれず、安全委員会や東電には資料を渡すことすらせずに放置しました。
例によって官僚に丸投げして、「うん、わかった、任せる」とやったのでしょうから、当人は忘却の彼方で、そんなことがあったことさえ記憶に止めていないことでしょう。
ですから『カウントダウン メルトダウン 』によれば、 3.11時に支援に入った米国NRCのスタッフは真っ先にこの減災基準B・5・bを利用して事故対処ができないかと考えたようですが、斑目委員長からして初めて聞いた、今聞いたというていたらくで、むしろそのほうにNRCは仰天したようです。
情けないというか、バッカじゃなかろかと心底思います。

こうして、たった2回限りの福島第1原発事故を防止できたチャンスは永遠に消え去りました。
このような平成の無責任男と半狂乱男のふたりが揃って反原発を絶叫するというのは、なにかの悪い冗談でしょうか。

 

 

2021年3月14日 (日)

日曜写真館 春のトラクター

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春の田んぼの準備が始まりました。

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代掻き(しろかき )といいます。土をかき混ぜて平らにする作業です。

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湖の周囲は一面に田んぼです。この風景は数百年前から変わりません。

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大変そうですが春風に包まれて気持ちがいいとか。ただし水平をとるのに神経をつかう仕事です。

2021年3月13日 (土)

脱原発の妄想

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この3月11日に近づくと亡者が湧いてくるようです。
この亡霊たちはとっくに終わっているのに、まだ死んだことに気がついていないんですからタチが悪い。
小泉翁もかつては小澤と組んだり、細川と組んだり、そして極めつけはなんとハトカンと組むそうです。
なんでも「脱原発党」を作るとか(苦笑)。
こうして三人並べてみると、ただの三馬鹿大将です。

「小泉純一郎元首相は、東日本大震災から10年を迎えた11日、東京都内で講演した。東京電力福島第一原発事故について「人災」と述べ、原発は「安全じゃなかった。コストが先々まで莫大(ばくだい)にかかる」として、持論の「原発ゼロ」を改めて訴えた。(略)
 小泉氏の講演後には、鳩山由紀夫、菅直人の2人の元首相もあいさつ。鳩山氏が「久しぶりに小泉節を聞いた。小泉(元)総理ももう一肌脱いでいただいて、政治の世界に戻っていただいて、脱原発で政党をつくって党首になっていただければ、参上したい」と語ると、小泉氏が笑う場面もあった」(朝日3月11日)

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小泉翁の「反原発」は、まったく進歩していません。
かねてからこの人を知る人たちが口を揃えていうのは、勉強をしない、耳学問だけの人物、思い込んだら命懸け、ということですが、相変わらずブレない人です。
かつて、この人の「反原発」妄論は徹底的に批判し尽くしたので、私にとってはいまさら感がありますので省きます。
※関連記事「小泉翁の妄執「原発ゼロ」の嘘」その1~9
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2014/07/post-cf8d.html

この人たちの「原発ゼロ」政策の致命的欠陥は、ゼロにした場合の代替エネルギーがないことです。
いま、現に基幹エネルギーの3割ちかくを占める原発をゼロにして、うごいているのはわずか9基です。

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その理由は、いうまでもなく、もうひとりの「原発ゼロ」男のカンが行った原発の点検の超法規的停止と、再生エネ法のために、火力発電一本に頼りきったいびつな状況となっているからです。

さて原子力だろうと、火力だろうと、はたまた再エネだろうとそれは電源選択の問題であって、電力供給制度とは何も関係ないはずです。 
事実、反原発・再生可能エネルギー論や電力自由化論も、3.11まで細々とですが存在していました。
この本来無関係なふたつを強引に結合させてしまったのが、福島第1原発事故によって生じた「東電悪玉論」、あるいは「東電戦犯論」でした。

彼らは福島事故を奇貨として融合してしまいます
そもそもが小泉翁のような市場原理主義者が作った電力自由化論者と、ハト・カンのような左翼リベラルの反原発派とは水と油の関係なはずですが、この福島事故で幸福なマリアージュを遂げたわけです。
原発運動家=電力自由化論者たちは、当時の原発事故がまるですべて東電の責任であるかのような「空気」を作り出し、そして「こんな悪玉・東電を許すな!」と処罰を要求しました。 
これにメディアが悪のりし、ワイドショー民がなびきました。

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https://www.businessinsider.jp/post-199316 国連サミットで発言するグレタ・トゥンベリ。顔がコワイよ。

そのうえにまったく別方向から吹いてきた気候変動論・二酸化炭素削減論が加わり、すっかりメーンストリームの定位置を占めるようになっています。

ところがちょっと考えればわかりそうなものですが、二酸化炭素削減論と原発ゼロ論は並立しないのです。
炭酸ガスを削減するには火力発電を減らさねばならないのですが、減らした代替エネルギーは現実には原発しかありません。
一方原発ゼロにするには火力発電を増やすしか方法が存在しません。コチラを立てればアチラが立たずの矛盾した関係なのです。
こんな簡単なことがどうしてわかんないのかな。

この論理矛盾がなんとなく整合できてしまったのは、福島事故があったからです。
福島事故をもってくるとなんでもオーケー、東電さえ叩けばなんとなく判った気になれる、さらに「地球にやさしく」でカンペキ。
最後はただの情緒論なのですが、
これを分解してみると、以下の6ツの論理パーツで成り立っています。

(1)電力制度批判
電力会社は地域独占体制で特権的利益を貪っている。
電力会社は総括原価方式でコストを電力料金になんでも転嫁できるので原発を国の言うままに量産しまくった。総括原価方式特権論。
 

(2)東電バッシング
電力会社は事故を未然に防げたにもかかわらず、対策を怠ったために大事故を起こした。福島事故前防止可能論。

事故に際しては現場から撤退を図った。東電逃亡論。

(3)原発再稼働反対
全原発も直ちに廃炉にするべき
。再稼働阻止。

(4)再エネ普及のためのFIT推進
原子力がなくとも、省エネと安全・安心な再エネがあるので大丈夫だ。再エネ代替論。
再エネ普及のためのFIT推進。

(5)電力自由化
電力会社の特権を剥奪し、電力市場を開放しろ。電力自由化。

(6)炭酸ガス削減
地球温暖化阻止のために炭酸ガス排出をゼロにしろ。炭酸ガスゼロ論。

こうして整理してみるとまったく別の次元の論議が雑然と積み重なって、福島事故と東電バッシングでくっついて一つになっているのが分かるでしょう。
簡単に検討しておきます。

(1)の電力会社批判は、逆に東日本大震災当時に電力体制が現行制度でなければ、どうなったのか考えてみればわかります。
おそらく電力自由化がなされていた場合、群小の事業者は供給義務を履行したか疑問です。
また送電線の緊急補修も大幅に遅れたことでしょう。
小売りは供給不足を理由に料金値上げをしたでしょう。
発電-送電-小売りを一貫して管理し、管轄地域に対して責任を負わされている電力システムはこのような事故時に最大の効力を発揮します。
このような功罪を公平に見ないで、あたかも電力会社だけが独占による既得権益で肥え太ったというのは客観的ではありません。 

(2)の東電が撤退する気だったという完全なデマで、カンと朝日が広めたものです。
これは政府事故調報告書や、吉田調書の公表で完全に否定され、朝日は社長が謝罪する羽目になっています。

(3)の再稼働阻止は、反原発主義者の合い言葉ですが、再稼働をまったく認めないということは、段階的縮小という過渡期すら与えないということで、それをすれば3割の電源が失われます。
いや既に新規制基準に合格するために全原発はわずかを除いて停止状態にあり、それが各電力会社の電力供給をタイトにしています。
その結果、火力発電依存となり、いまのように電力料金の値上げ、再値上げに直結していくことになりますす。
もし、本気で原子力を減らしていきたいなら、原子力を再稼働して電力会社の経営体力を回復させないかぎり不可能です。

(4)再エネを原子力の代替にするというのはただの夢想にすぎません。再エネは宿命的に天候に左右される気まぐれ電源であり、火力によって常にその増減の振り幅をフォローされていることを知らないから言えます。
原発がなくなった3割を省エネするのはけっこうですが、ならば残った7割のうちの3割も中期的には原発を使っていくしかないのです。
エネルギー限は、常に3割+3割+3割+その他という電源比率にしておくべきで、なにかひとつの電源や、一国だけの供給国に強依存することは、死活を握られることで大変に危険です。 

(5)電力自由化はすでに行われていますが、予想どおり参入が易しい電力小売りと、高額で買い取りしてもらえる再エネの太陽光と風力にのみ集中する結果となっています。送電のように手間とコストが係あまりもうからない部門は、参入がなしです。

(6)炭酸ガスゼロは世界的に絶賛進行中です。

3.11からこの10年の震災後の不安定な時期に、一挙に既存のシステムを破壊し、パイの一部にありつこうとする人を、私は火事場泥棒と呼びます。
このようにひとつひとつ見れば、なんにも関係ない論理パーツを都合よくセットして、「地球にやさしい」という美しい包装紙でくるんでいるのが脱原発論です。 

 さて脱原発派が安易に想定する代替エネルギーは再エネですが、それが大規模に導入された結果を、私たちが既に身近に見ることができれます。
まずその破壊の兆候は、景観の変化として現れます。

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山口県萩市メガソーラーhttp://www.west-es.jp/results/mega-solar/details/01035.html

少し郡部にでかけてみれは、まるで皮膚病のように各所で森林が伐採されて、いいかげんな土止めの上に膨大なソーラーパネルがひしめいている風景に出くわすはずです。
私の村でも、「ソーラー用地高価借り上げます」というチラシが頻繁に投げ込まれ、ちょっとしたブームになりました。
今、ソーラー業者に貸し出せば、法外な金が手に入ると聞きつけて、我も我もと水田を捨て、畑を潰し、山々を売ったわけです。
この10年、ただでさえ風評被害出疲弊した東日本の離農をさらに促進したのが、このFITによる土地買収ブームでした。
20年間高値設定のまま固定買い取りするというような馬鹿げた制度(FIT)を作ってしまえば、人々は欲に目が眩むのです。

いやいや、太陽光発電なら「地球に優しい」し、「原発ゼロ」でしょう、と信じている人がいたら、どうぞ現地をご覧下さい。
理屈では、発電に際して温暖化ガスを出さないという建前でしたが、現実に太陽光パネルの数十万枚の大群が覆い尽くしているのはなんだったのでしょうか。
それは見れば分かります。森林です。森の樹木を数ヘクタール規模で伐採し、いったん裸山にする勢いで山林生態系を破壊し、その上にソーラーを設置したのです。
結果、「太陽光発電開発汚染」とでもいうべき、新たな自然破壊が急激に進行しました。

とうぜんのこととして、全国各地でメガソーラーの設置反対運動が起きています。
http://ito-ms.chu.jp/%e5%8f%8d%e5%af%be%e9%81%8b%e5%8b%95/

「このメガソーラー建設のためには、広い範囲で樹木を伐採しなければなりません。樹木の伐採は伊豆高原の美しい景観を台無しにしてしまいます。伊東市の基幹産業である観光業にとって、景観は重要な観光資源であり、それが損なわれることは死活問題と言えるでしょう」(伊東メガソーラー建設の中止を求める会)

そしてさらに景観のみならず、森林が果たしている治水機能を破壊することになります。伊東市中止を求める会はこう述べています。

「景観が変わるという、すぐに目に見える影響だけではありません。
 斜面にある樹木を伐採することによって、森林の保水力が低下し、洪水や土砂流失の危険が高まります」

ソーラーの事業者は、下の写真のような調整池や砂防池を設けて土砂流出を防止すると説明しています。

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杵築市のメガソーラーの沈砂池

ところが、実際に蓋を開けてみると、上の写真のようなチャチな砂防池は日々流れ込む土砂に埋まって、やがて溢れ出して、斜面を急流となって下ることになります。

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これはソーラー事業のみならず、西日本豪雨で砂防ダムが各地で決壊したのを見ればわかるはずです。
下の写真は、現実に八幡町のソーラー事業地で濁流が流出した後の斜面の様子です。

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あげくは、ソーラー自体も水害に極度に弱いことは各地で実証されています。
下の写真は群馬県伊勢崎市のソーラーですが、ちょっとした豪雨でこのありさまです。

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このように自然環境保護を無視したソーラー事業は、メガソーラーを作れば作るほど、日本の貴重な森林は伐採され、農地は手放されるといった、再エネ普及の大義とはまるで正反対のものになり下がっています。
森林の地道な植林と、保全こそが二酸化炭素対策としてもっとも有効な解決策であることは自明であって、大事な森林保全をないがしろにした「原発ゼロ」など欲惚けたちの虚妄の宴にすぎないのです。

しかも、これらの太陽光パネルのほとんどすべては中国製であり、事業者もまた海外企業がひしめいているのですからシャレになりません。
かくして再エネ普及賦課金によって電気料金は上昇し、山は荒れ、沃野は捨てられ、事業林益は外国に吸い出されて行くことになりました。

これが「原発ゼロ」を目指した結果です。コイズミ-カン-ハトに現地を見てこい(といっても行くわけはありませんが)、少しは現場を見てから寝言を言ってもらいたいものです。
お盆でもないのですから、亡者は元の冥界にお戻り下さい。塩まけ、塩!

 

2021年3月12日 (金)

福島事故におけるリスクコミュニケーションの致命的失敗とは

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3.11を控えて、カンが妙にはしゃいでいたそうです。おー、気味悪ぅ。
2月22日の衆院予算委員会ではパネルまで持ち出して「忠告」なるものをしています。

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予算委で「菅・菅」対決 危機管理めぐり議論:時事ドットコム

「菅氏は2月22日の衆院予算委員会で、次のように菅義偉(すが・よしひで)首相をただした。 「新型コロナウイルス問題と原発事故問題は、危機管理とか緊急事態という面で見ると、共通の面もある」
 「(コロナ危機の)最悪のシナリオが菅政権、菅首相には見えない。そこが非常に大きな問題だ」
 菅氏はこのところ、菅首相への「助言」だとして盛んに「今必要なのは最悪の事態を想定した対応だ」と主張しており、東京新聞のインタビューでは「菅政権の危機管理能力は非常に疑問だ」と語っている」(産経3月11日)

なに言ってんだか、アンタにだけは言われたくない。
カンの失敗は後世に書かれるであろう原発事故失敗学教科書に特筆大書きされるほどゴージャスなもので、どれを取り上げるべきか迷うほどです。
事故処理においてズブの素人なのにもかかわらず不要な介入をくり返し、修羅場の現場に突然押しかけてみたり、事細かく現場作業に介入し吉田所長に注水停止を「命令」して、混乱を招いています。

吉田氏などはっきりと「あの馬鹿」と呼んでいたそうですが、カンのほうは吉田所長が東工大出だとわかると妙に持ち上げたそうで、あの歳まで学歴が大事のようです。
カンが東工大在学中にした研究といえばマージャン点棒の研究だけで、もっぱら学生運動に熱中していたようですが、ま、いいか。
各種事故調もこぞってカンについて、最悪の事故対処だったと酷評しています。

「無用な混乱と事故がさらに発展するリスクを高めた可能性も否定できない。場当たり的で泥縄的な危機管理」(民間事故調)
「現場対応の重要な時間を無駄にしただけでなく、指揮命令系統の混乱を拡大させた」(国会事故調)
「現場を混乱させ、重要判断の機会を失し、判断を誤る結果を生むことにつながりかねず、弊害の方が大きい」(政府事故調)

当時政権にいた民主党は、あらゆる局面で失敗を繰り返していました。 
避難指示は猫の目のように変わり、逃げた先のほうがより線量が高かったりする悲劇が頻発しました。

「震災の年の5月初め、全村避難を強いられることになった福島県飯舘村を取材した際、菅野典雄村長(当時)は語っていた。 「菅首相が『(避難区域設定は)やりすぎるぐらいやってちょうどいい』と言っていたと何人もから聞いた。それでどういうことが起きるかも考えてほしい」
村の幹部も「結局は菅政権の保身だ。命は大切だという美辞麗句の下で、政府は村民に何十倍、何百倍のリスクを負わせている」と述べていた」(産経前掲)

一方、カンの副官だった枝野官房長官は、伝えるべきSPEEDI(放射性物質拡散情報)を公表しませんでした。
当時どこにどれだけの放射性物質が降下したのか、それこそが「被曝」地住民が喉から手が出るほど欲しかった情報でしたが、政府からなんの情報提供もないのですからお手上げです。

当時私は村の役場に問い合わせてみると、そんなことは県に聞けと言われ、県に聞けば国からなんの情報提供もないと言われる始末です。
かくなるうえはとモニタリングポストがある自治体役場に走ってみれば、混乱してわけがわからず、これが事故後の現地の姿だったのです。
結局、その夏になって自主測定運動を起こして、やっと自分の居住地域の放射性物質の実測値が判明したのですが、その間何カ月あったというんです。

そして後に判明したのは、当時事故対策本部の設置されていた官邸には、実は刻々と経済産業省からSPEEDIのファックスが届いていたのに、だれも気がつかなかったというお粗末ぶりだったようです。
え、SPEEDI 情報の大事さを知る者が官邸にいなかったのか、って。
いました。斑目原子力安全委員会委員長です。
本来この原子力事故は斑目氏が総指揮にあたるべきでしたが、カンが「オレが聞いたことだけに答えればいいのだ」と狂ったように怒鳴り散らすために萎縮仕切ってまるで他人事。
腹の中では軽蔑しきっているくせに権力者にはヘタレれて、なにもしないという最悪の学者根性です。

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斑目自身が書いた漫画

責任を放棄してしまった斑目も充分に問題ですが、このカンという男の権力をカサに着た罵詈雑言の嵐は、東電本社押しかけ事件でもいかんなく発揮されます。
なんと彼は、修羅場の極みだった東電本社に押しかけて喚き散らしていますから豪傑です。

「原発事故で政府の現地対策本部長を務めた池田元久経済産業副大臣(当時)の覚書も、菅氏が現地視察に訪れ、一般作業員の前で怒鳴り散らす姿をこう記している。 
「指導者の資質を考えざるを得なかった」(産経前掲)

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このような半狂乱の首相閣下に妨害されて情報を出し渋り、せめて正気でいてほしい副官までこんなことを記者会見で言い出す有り様でした。 

「直ちに健康被害を及ぼすものではない」

こういうことを、テレビで毎日なんども繰り返して、それで国民が安心すると思っているのがズレきっています。
「直ちに健康被害を及ぼすものではない」とは、時間が立つと放射能の毒が拡がって、病気になるのだ、、晩発性障害の可能性があると政府が言った、と国民は誰しもそう受け取りました。
これが後に東日本を覆い尽くす風評被害の始まりでした。

実際、多くの国民がそう理解して、ミネラルウォーターや西日本の農産品に走りました。 
産直先から西日本の農産品にしばらく置き換えますからといわれたのもこの時期です。
SNSでは、武田邦彦や早川由紀夫が「東日本のものを食べたら死にます」と絶叫していました。
このようにして
2011年3月から数年間に及ぶ「風評被害」と言う名の「被曝」地差別が続くことになります。
わが農場も例外ではなく、以後3年間もの間、無明地獄をさまよい続けるはめになります。 
今思ってもよく潰れなかったものですが、実際、農民から何人もの自殺者が出ました。

もっとも重度の放射能恐怖症に罹った人たちの中から自主避難者がでます。
まったく避難する必要がない地域のひとびとが逃げ出したということに、この事故のリスクコミュニケーショの重大な失敗が現されています。


・県外自主避難者数・・・23,000名(約半数)
・県内自主避難者数・・・18,000名(避難区域でない市町村からの避難者数)
・計          ・・・約41,000名

いまでも元の居住地に帰らずにいる方も多いようですが、この原因を作ったのがこの国の情報の出し遅れです。

さて、ここに原発事故を総括した優れた報告書があります。 
ウェーデン政府がチェルノブイリ事故発生直後の1年間の社会的混乱を総括してまとめた報告書です。  

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これは、スウエーデンの防衛研究所、農業庁、スウェーデン農業大学、食品庁、放射線安全庁が1997年から2000年までに行った合同プロジェクトで、「どのように放射能汚染から食料を守るか」(邦訳  『スウェーデンは放射能汚染からどう社会を守っているのか』)という報告書です。  
この報告書の完成は、事故後10年まで待たねばなりませんでしたが、その報告の範囲は食料だけにとどまらず実に広範で、事故対応、放射能規制、広報のあり方、食品規制、農業対応、そして防衛研究にまで及ぶものです。 

残念ながら、わが国の事故調報告書が事故の技術的解明に終始し、一部においては「だから日本人は」というような安直な文明批評に陥ったことと較べると、その徹底した分析姿勢には感銘を覚えます。 
これを手にしてみると、スウェーデンにおいても事故直後、多くの問題が発生していたことがわかります。

チェルノブイリ事故以後、北欧は深刻な放射能汚染にさらされました。  

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 チェルノブイリ事故だのヨーロッパのセシウム137分布図
(ネーチャー誌2011)
 

事故後の風向きの下流に位置したためにスウェーデンの一部は、福島における40㎞地帯に相当する被曝を受けました。  
また、放射性物質を吸着しやすいキノコ類や、またトナカイやヘラジカを好んで食べる食習慣があったことも、より問題を複雑にしました。 
スウェーデン政府は率直に、この社会的混乱の原因を分析しようと試みています。 
この報告書はこのような総括から始まります。

スウェーデンの原発事故処理の教訓 
バニックは事故直後の情報発信の失敗により起きる 
 

「チェルノブイリ原発事故によって被災した直後のスウェーデンにおける行政当局の対応は、『情報をめぐる大混乱』として後々まで揶揄されるものでした。」
「行政当局は、ときに、国民に不安をあたえることを危惧して、情報発信を躊躇する場合があります。
しかし、各種の研究報告によれば、通常、情報発信によってパニックの発生を恐れる根拠は無く、むしろ、多くの場合、十分に情報が得られないことが大きな不安を呼び起こすのです。とりわけ、情報の意図的な隠蔽は、行政当局に対する信頼を致命的に低下させかねません。」
「行政当局が十分な理由を説明することなく新しい通達を出したり、基準値を変更したりすれば、人々は混乱してしまいます」

このようにスウェーデン政府は、情報の隠蔽と二転三転する説明こそが、国民に混乱を与える最大の原因だとしています。  
スウエーデン政府がこの報告書で、自戒を込めてここで「行政当局は、ときに、国民に不安を与えることを危惧して、情報発信を躊躇する場合がある」と述べていることに注目してください。 

スウェーデンを襲ったチェルノブイリ事故がそうであったし、わが国の福島事故や東日本大震災は、その規模と深刻さにおいて前例を遥かに超えていました。
この時に、国の能力を超えてしまうこともありえるのですが、この時に国がなすべきなのは国民と民間企業の協力です。
そしてこの協力を得る近道こそ正しい情報の発信です。
 
いかなる事態が起きて、今どのような状況なのかについて、隠し立てすることなく、明解に意思疎通すべきです。

何をあたりまえなことを、と思われるかもしれませんが、現実に多くの企業や行政が、大規模な事故においてやりがちなことは、この「情報隠し」なのです。 
今起きている事故の状況でイッパイイッパイなのに、正しい情報なんか与えればいっそうこの混乱が広がてしまうと考えて情報を隠匿してしまい、出す時期を失することです。
結局、出しそびれてしまう内に週刊誌などにスッパ抜かれるはめになり、混乱に拍車をかけるはめになります。

当時、わが国の政府が最初に国民に伝えるべきは、いうまでもなく危険情報の基本中の基本である放射性物質拡散図でした。 
これはSPEEDI情報として官邸は持っていたにも関わらず公表せず、似たようなものが出たのは週刊誌現代でした。

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週刊現代」2011年7月16日号

火山学者の早川が上図の拡散シミュレーション図を週刊現代に発表し、これが一気に拡散して実際の放射性物質の降下状況のように扱われました。
当時私もこの早川拡散図を食い入るように見た経験があります。
しかもそれがあくまでも実測値ではなく、PCで作ったシミュレーション図にすぎなかったために不正確で、いっそうパニックに輪をかけていくことになります。

後にこの早川は度し難いデマッターになっていき「東日本の農家はテロリストだ」などということを平気で口走るようになりましたが、当時このような欲しい情報を欲しい時期に提供したために多くの信奉者が出ました。
当然ただの想定図ですから、間違いだらけで、事態は鎮静化するどころか、いっそう拡がっていくことになります。
というか早川は熱狂的反原発主義者であったために、むしろ国民を煽ることに快感をおぼえていたようです。

そもそもこんな基本的情報は政府が直ちに発表するのかあたりまえで、週刊誌に先にでてしまうということ自体が、度し難い政府の無能ぶりと国民に対する愚民視を表しています。 
スウェデン政府は三つの情報は正確に直ちに伝達すべきだとしています。


①汚染の拡大状況
②事故状況辞意ョ右京

政府が、この三つのリスク・コミュニケーションに失敗すると、国民は「政府情報を一切信じない」、「まだなにか隠しているに違いない」という根深い不信感に直結していくことになります。 
そしていったん国家が国民に信用されなくなれば、後に政府がなにを言おうと信じようとせずに、ネット空間の情報や週刊誌、テレビからのバイアスのかかった情報だけを信じる層が生まれてしまうことになります。

先日3.11の報道を見ると、ほとんどこの政府のリスクコミュニケーションに触れたものはなかったようですのですが、重大な危機の時期において国家の責務として問われるのは、このことなのです。

 

 

 

2021年3月11日 (木)

3.11からの10年間はデマとの戦いでした

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あの2011年3月11日から丸10年たちました。
改めてお亡くなりになられた1万5899人、行方不明者2529人(2020年3月現在)の霊に手を合わせたいと思います。
合掌。らかに。
今なお、身体は海の底にあろうとも、あなた方の霊は、私たちと共にあります。

もうそんなになるのかという感慨が湧いてきます。
被災者・被曝者の末席につらなった者のひとりとして複雑な心境です。
忘れたいという思いと、忘れさせてなるものか、という矛盾した心理に陥るからです。
おそらく今日あたりのメディアには震災10年の記憶を風化させてはならないという報道があふれかえることでしょう。
その中には、きっといまだに癒えない原発事故の傷跡というものもまざっているはずです。

私はあえていいますが、この10年をひとつの区切りとして、もうそのような報じ方は止めて下さい。迷惑です。
国連科学委員会(UNSCEAR アンスケア) は今年も3月11日に合わせて報告書を出しました。

東京電力福島第一原発事故の被曝(ひばく)による健康影響を評価した報告書を、原子放射線の影響に関する国連科学委員会が9日公表した。報告書は2014年以来。最新の知見を反映して福島県民らの被曝線量を再推計し、前回の値を下方修正した。これまで県民に被曝の影響によるがんの増加は報告されておらず、今後も、がんの増加が確認される可能性は低いと評価した」(朝日3月10日)

今回の国連科学委員会の報告を読むと、至ってあたりまえのことをあたりまえに淡々と書いているにすぎないように見えます。
ところが2011年にはまったくそうではありませんでした。
この時代、この報告書にあるようなことを書くと「原子力村のイヌ」と呼ばれたものです。
朝日はさんざん煽った総本山のようなところですが、懺悔なのか詳細にこれを報じています。全文は欄外に貼っておきます。

朝日は新聞協会賞を受賞した『プロメテウスの罠」ではこんなことを書いています。

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「有馬理恵(39)のケース。6歳になる男の子が原発事故後、様子がおかしい。4カ月の間に鼻血が10回以上出た。30分近くも止まらず、シーツが真っ赤になった。(中略)
 原発事故後、子どもたちの体調に明らかな変化はありませんか」。すると5時間後、有馬のもとに43の事例が届いた。いずれも、鼻血や下痢、口内炎などを訴えていた。(中略)
こうした症状が原発事故と関係があるかどうかは不明だ。首都圏で内部被曝というのは心配しすぎではないかという声もある。しかし、母親たちの不安感は相当に深刻だ。たとえば埼玉県東松山市のある母親グループのメンバーは、各自がそれぞれ線量計を持ち歩いている」(朝日新聞「プロメテウスの罠」2011年12月2日)

もちろん急性被爆でもしないかぎり鼻血などでるはずがありません。
朝日がネタもとにしたこの「有馬」という女性は、共産党系の反原発運動家だということがわかっています。
これが放射能鼻血デマです。いまではお笑いですが、大きく拡散して母親たちを恐怖に陥れました。
このような煽りをする人たちは、実際の状況を見ないで、その人の頭の中にある脳内地獄を見ているだけにすぎないのです。
そしてこういう風評が被災地住民、特に子供たちを傷つけていることをわかろうとしません。

たとえばこの人たちのイメージはこうです。
農地はチェルノブイリ並の放射能にまみれ、山野には積もった放射性物質が堆積していて、常に川に流れ込んでいる。
作物は放射能で汚染され、今でも多くの作物が秘かに捨てられている。
除染をやってももきりがない、除染しても救われないほど放射能がしみ込んでしまっているからだ。
子どもたちにガンが出ていても、政府は隠している。実際は数万人がガンで多くが死んだという噂だ。
そして福島にはもう住めない、福島に子供を行かせるな。

最悪のデマッターのひとりであった武田邦彦はこう述べています。
今はシャラっと忘れて保守論客のような顔をしているようなので、
忘れさせないために掲載しておきましょう。


原子力と被曝 福島で甲状腺ガン10倍。国は子どもの退避を急げ! 武田邦彦
国は直ちに次の事が必要です。

1)高濃度被曝地の子どもを疎開させる(除染は間に合わない)、
2)汚染された食材の出荷を止める、
3)ガンになった子どもを全力で援助する、
4)除染を進める。また親も含めて移動を促進する。
5)「福島にいても大丈夫だ」と言った官吏を罷免し、損害賠償の手続きを取る。
日本の未来を守るために、大至急、予防措置を取ることを求めます。
2013年2月14日武田ブログ
http://takedanet.com/2013/02/10_6a83-1.html

関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2014/05/post-73da.html

武田は「東日本は住めない」「福島から子供を疎開させろ」「東日本の食物は食べたら死ぬぞ」などという流言蜚語を大量に社会にまき散らしました。
参考資料http://www.gepr.org/ja/contents/20150309-01/
「被曝」地で孤立する私たちに対して、2011年春から夏にかけて激烈なバッシングの嵐が浴びせられました。
出荷物は東日本産であるだけで市場から追い返され、農家はトラクターで売れない作物を踏みつぶし、牛乳は地面に捨てられました。農家から自殺者すらでたのがこの時期です。
なおも発信を止めない私のブログには連日、「お前らが農業を止めるのが一番の復興の道だ」とか、「お前は毒を国民に送る無差別テロリストだ」「税金をかけてこいつらを助けないでください」というような罵詈雑言が連日浴びせられました。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/08/post-6638.html

復興を大きく遅らせたのは、この放射能に対するデマッターたちの流言蜚語、そしてそれを拡散した朝日、毎日、東京などのメディア、さらにはそれをコントロールしようとしなかった当時の政府の度し難い無能にあります。
このデマをまともに受けた数万の家族が自主避難者になったのもこの頃です。彼女たちは住み慣れた家と地域を捨て根無し草になってしまいました。

デマッターたちは、福島事故の影響をこれでもかというほど誇張してみせて、口では被災者を救えなどといいながら、実際はサディスティックに叩きのめしていました。
彼らは福島事故が悲惨であると叫べば叫ぶほど、まるで自分たちの反原発の主張が国民に浸透すると勘違いしており、福島県をわざわざ「フクシマ」と表記しました。
そこには、どうか福島県が「ヒロシマ」のようであって欲しい、どうかチェルノブイリのように悲惨であってほしい、もっと福島が地獄でないと困る、という卑しい願いが込められていました。

ところで、無能であるばかりか、かえって存在することによって復興を妨げたのが当時の民主党政権でした。
本来は正しい情報を与えるべき政府がまったく情報を流さなかったために、SNSでデマッターの跳梁を許してしまいました。
民主党政権は大衆迎合主義者の集合体であったために、当時の「事故前はゼロベクレルだったのだから、ゼロベクレルでなければ危険だ」という極端なゼロリスク論に簡単に屈してしまいました。

たとえばチェルノブイリで最も深刻な打撃を食ったベラルーシですら13年間かけて漸減させた放射線食品基準値を、民主党政権はわずか1年で平時の欧米の食品基準値より低く設定したのですから、まともとは思えません。
この政府の過激な食品基準値に、大多数の食品降ろし、小売りが追随したために風評被害はいっそう拡がり、現地農業は更に大きな打撃を受けました。

関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/02/post-4e0c.html

ベラルーシにおける食品規制値の推移
単位ベクレル/㎏
 

      86年     88年   92年   96年  99年 

・水    370     18.5   18.5  18.5   10
・野菜  3700    740    185   100     40
・果物          同上                  70
・牛肉  3700    2960   600   600    500 
・パン  -        370   370   100     60
・豚肉・鶏肉 7400  1850  185    185     40
・きのこ(生) -      -   370    370    370
・きのこ(乾燥) -  11100 3700   3700   2500
・牛乳   370     370   111    111    100
幼児食品  -      1850                37

民主党政権の無能・無知・無神経は目を覆うばかりで、「被爆」地を訪れた枝野官房長官は防護衣に身をくるみ、平常の事務服で迎えた村長たちとゴム手袋をしたまま握手しました。

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枝野官房長官のこの防護衣姿自体が、「被爆」地は放射能汚染地だ、近づくなというメッセージになってしまっていることに気がつきもしないのです。
もはや政治家うんぬんという以前の人間性の問題です。
事故収束に失敗し、風評被害を拡大させ、住民に塗炭の思いを味合わせた同じこの人物が、今性懲りもなく「原発ゼロ」を掲げているのを見ると、人間不信になりそうです。

一方科学的調査は、政府の無能ぶりとは別個に事故直後から地道に続けられていました。
2011年の夏という初期の段階で、既に完全ではありませんが、政府のホールボディカウンターを使った疫学調査結果は出ていました。  
これは秘密資料でもなんでもなく、公表されていました。

●2011年9月末までの福島県の住民4463名の内部被曝の疫学調査結果
・最大数値であった3ミリシーベルト・・・2人
・2ミリシーベルト・・・8人
・1ミリシーベルト以下・・・4447人 
 

当時デマッターたちは盛んにセシウムが女性の卵巣に影響を与えると言っていましたが、750ミリシーベルト以上の被曝線量が必要です。
それがチェルノブイリでの疫学調査の発症ラインだからです。 
 
セシウムは筋肉などに蓄積する性格をもっていますから全身均等被曝します。一定の臓器に蓄積されることはありません。 
百歩譲って、卵巣にのみ蓄積されたとしても、福島の最大内部被爆量3ミリシーベルトは、チェルノブイリの750ミリシーベルトの、250分の1でしかありません。  
これで福島の女性が不妊になる、あるいは先天性奇形を出産することは断じてありえません。

当時から相馬現地で医療活動をしていた坪倉医師は、体内被曝の数値を独自に測定してこのように述べています。

「南相馬で測定した約9500人のうち、数人を除いた全員の体内におけるセシウム137の量が100ベクレル/kgを大きく下回るという結果が出ました。これは測定した医療関係者からも驚きをもって受け入れられたそうです」 http://blog.safecast.org/ja/2012/09/dr_tsubokura_interview/

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では、子供の被曝はどうでしょうか。


坪倉先生のチームでは、これまでに、いわき市、相馬市、南相馬、平田地区で子供6000人にWBCによる内部被ばくの測定をしました。親御さんの心配もあり、この地域に住む子供の内部被ばく測定の多くをカバーしています。(一番多い南相馬市で50%強です。)
6人から基準値以上の値が出ています。6000人に対して6人というのは全体の0.1%で、この6人のうち3人は兄弟です。基本的には食事が原因に挙げられるでしょうが、それ以外にもあるかもしれないそうです。
子供の線量について、坪倉先生はこう分析します。 「子供は大人に比べて新陳代謝が活発で、放射性物質の体内半減期が大人の約半分ということがわかっています。ですから、子供の場合は例え放射性物質が体内に入ったとしても、排出されるのも早いです」

福島県は県民健康調査で、2011年から3年間の新生児の先天性奇形やダウン症、早産、低体重を調査しましたが、全国の発生率と変わりがありませんでした。
そもそも原発事故によって甲状腺ガンが増えるなら、チェルノブイリのように4年から5年後に数値がハネ上がらねばなりません。

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(図 東海村ガン検診資料)

ところが福島県において、そのような増加は見られず、県内の地域ごとのばらつきもありませんでした。
増加してみえるのは検査対象数が倍増したからです。
もし放射能の影響ならば、事故の影響がなかった会津地域と中通り地域が同じはずがないのです。

6年前から国連科学委員会(UNSCEAR)は福島事故最終報告書でこう述べていました。
※関連記事
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2014/04/unscear-0b78.html


「福島原発事故の結果として生じた放射線被ばくにより、今後がんや遺伝性疾患の発生率に識別できるような変化はなく、出生時異常の増加もないと予測している。
その一方、最も高い被ばく線量を受けた小児の集団においては、甲状腺がんのリスクが増加する可能性が理論的にあり得ると指摘し、今後、状況を綿密に追跡し、更に評価を行っていく必要があると結論付けている。甲状腺がんは低年齢の小児には稀な疾病であり、通常そのリスクは非常に低い

このように実証的調査によってガンが多発し、「40万人がガンで死ぬ」という妄説は完全に否定されました。

驚くほど放射性物質が土壌に吸収されなかったのです。 
当時、
山や河川、海に堆積しているという説も散々流布されましたが、それは土壌の復元力を知らないから言えたことだでした。
実際に11年当時 、
現地の農地に実地調査に入った農学者たちは、全体に驚くほど線量が低く、多く検出されるのはごく一部だと報告しています。
その原因は科学的に解明されました。
 セシウムは土壌中の粘土によって吸着固定されるからです。

 

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また土壌中に含まれる腐食物質はマイナスイオンの電荷を持つために、セシウムのプラス電荷粒子を吸着し、粘土質の細孔 に封じ込めしまうという驚くべきこともわかってきました。
農水省飯館村除染実験報告
http://www.s.affrc.go.jp/docs/press/pdf/110914-09.pdf


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つまり土中の粘土質は物理的に放射性物質を封じ込め、そのプラス電荷でマイナス電荷の放射性物質を電気的に吸着していたのです。
このような察知とその後の科学的解明の作業によって、当時不思議に思われていた同一地域において空間線量が同一なのにかかわらず、作物の放射線量に差がでる現象は、粘土質であるかどうかなど微妙な土質の差にあることがわかりました。

このように福島事故からの10年間は、人を踊らせようとする者と地道に戦い続けた者との戦いでもあったのです。

                                                       ~~~~~~~ 

■「福島県民がん増える可能性低い」 被曝線量を下方修正
朝日2021年3月9日

 東京電力福島第一原発事故の被曝(ひばく)による健康影響を評価した報告書を、原子放射線の影響に関する国連科学委員会が9日公表した。報告書は2014年以来。最新の知見を反映して福島県民らの被曝線量を再推計し、前回の値を下方修正した。これまで県民に被曝の影響によるがんの増加は報告されておらず、今後も、がんの増加が確認される可能性は低いと評価した。

科学委は欧米や日本など27カ国の科学者らで構成。世界中の論文を検証し、被曝による健康影響の科学的根拠をまとめるのが役割。報告書は世界の科学研究や各国の政策のベースとなる。1986年のチェルノブイリ原発事故では被曝の影響で子どもの甲状腺がんが増えたと結論づけた。

 福島の14年の報告書では、データ不足のため、実際には流通していない汚染食品を食べたと仮定するなどして県民らの被曝線量を推計していた。今回は、事故後に流通した食品の放射能の実測値など19年末までに入手できた新しいデータを取り込み、実態に近い推計をめざした。

 その結果、事故後1年間の甲状腺への平均被曝線量は、県全体の1歳で1・2~30ミリシーベルト、10歳は1~22ミリシーベルトと、14年の推計値の半分以下になった。14年は、80ミリシーベルト近く被曝した子が大勢いれば「がんの増加が統計的に確認される可能性がある」と評価していたが、今回は「放射線による健康影響が確認される可能性は低い」とした。

甲状腺がん疑いの診断については

 福島県が11年6月から続ける県民健康調査では、事故時18歳以下の子らを対象にした甲状腺検査で251人が甲状腺がんか疑いと診断された。科学委は報告書で、被曝の影響ではなく、高感度の超音波検査によって「生涯発症しないがんを見つけた過剰診断の可能性がある」と指摘した。県の評価部会の専門家も同様の指摘をしているが、県などへの不信感から健康影響を心配する人もいる。

 全身への被曝線量も下方修正され、県全体の成人で平均5・5ミリシーベルト以下となった。がんで亡くなる人が明らかに増えるとされる100ミリシーベルトを大きく下回り、県民の間で将来、健康影響が確認される可能性は低いと評価した。

 科学委のギリアン・ハース議長は朝日新聞の取材に「今回の報告書が、福島の人たちの安心につながることを強く願う」と語った。新型コロナウイルスの感染状況を踏まえながら、福島の人たちに直接、報告書の内容を説明する考えも明らかにした。

 科学委の元日本政府代表で東京医療保健大の明石真言教授(被ばく医療)によると、今回の報告書は客観性を保つため、日本以外の専門家が執筆したという。明石さんは「独立した国際組織が示した今回の報告書の内容を、福島だけでなく、日本中の人に知ってもらいたい」と話した。

国連科学委員会による福島県民らの推計被曝(ひばく)線量

福島県内の各市町村の平均値。単位はミリシーベルト)

        2014年の報告書  今回

甲状腺(1歳)   15~83      1・2~30

甲状腺(10歳)   12~58      1・0~22

全身(成人)  1・0~9・3  0・046~5・5

2021年3月10日 (水)

小池知事が必要な「絵」とは

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なんなんだろうな、この小池百合子という政治家に感じる違和感は、と考えています。
いくつか理由はあげられるかもしれません。

まず嘘の常習者であること。
これは先日の黒岩神奈川県知事の暴露ですっかり国民に知れ渡ってしまいました。
黒岩知事が語ったことは、小池都知事から森田知事も小池案に賛同しているとの説明を受けて、その森田知事に電話で確認すると、森田がたまげてオレは小池からあんたが賛成していると聞いたから賛成したのだと聞かされ、驚いてもうひとりの大野知事への確認すると、オレもそう聞いたということでした。
信義違反というより、詐欺師的手法ですな。

これですっきりと謝って、すいませんでした、二度としませんといえば傷が浅いのですが、小池はそれでめげるようなヤワなキャラではありません。
すぐにこう言い返し始めました。

「小池氏の言動に、黒岩氏はテレビ会議で「こういうことをされたら信頼関係が薄れる。だめだ、おかしい」などと抗議。小池氏は「先走ってしまってごめんなさい」と謝罪したという。
 小池氏は8日、「私は森田氏に直接連絡はしていない」と指摘。「考え方が幅広い中で、事務方を含めてやりとりして文章のたたき台を作るのはよくある話だ」と主張した。ただ、森田氏らに事実と異なる説明をしたことへの言及はなかった」(時事3月8日)

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news.yahoo.co.jp

「先走って」ですか、おいおい、「私が嘘をついたので」と正確に言ったらどうでしょうか。
傷を深くしましたね、小池さん。策士、策に溺れるってやつでしょうか。
そもそも再延長についてこんな嘘をつく必要はまったくなかったのです。
小池が言うように、これがただの伝言ゲームによる齟齬なら、そう釈明すればよいだけのことだからです。
それを小池は居直って森田には直接連絡していない、全部事務方のせいで、よくあることだなんて言ってしまいました。

仮にあなたが小池社長と取引している会社だとして、こんなトラブルを招いておいて部下が悪かった、私は悪くないで済ませる会社と今後もまともにつきあえますか。
私はイヤです。そんなことを言う社長も、それを言わせる会社も信用できませんから。
小池社長から今後なにか交渉ごとを持ちかけられても、その裏にナニか絶対に仕掛けがあると疑ってしまいます。

わかっていないようですが、小池がこの事件で失ったものは社会人としての信義なのです。
都知事という要職に就いているのですから、これをコンプライアンスと言い替えてもいいでしょう。
黒岩ははっきりと「信頼関係が崩れた」と言っているわけですから、三知事に口頭と文書で謝罪するくらいの誠意をみせるのがあたりまえです。
逆に小池が政府から自分がしたようなことをされたら、透明性がどーしたの、アカウンタビリティが滑ったのころんだのと好きな横文字まじりで糾弾することでしょう。
そして発言内容の議事録を開示しろと迫り、政府を追い詰めていき、メディアは政権が叩ければなんでもオーケーですから大喜びで焚きつけるかもしれません。ああ、目に浮かぶ。

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huffingtonpost.jp

いずれにしても小池にとって嘘をついてまで自分を目立たせることのほうが、信義なんかより大事だったということです。
小池としては、なんとしても自分が先頭に立って4知事が足並みを揃えて官邸に圧力をかける「絵」を作りたかった、ついでに自分がやった病床数と入院患者数の偽造もうやむやにしたかった、というただそれだけのことです。

この小池百合子という政治家を考えていると、結局この政局に対しての妄執に尽きてしまいます。
遅くともこの秋にはめぐってくる総選挙と総裁選に、「第2希望の党」を率いて勝ち、一気に総理のいすに座りたい、この妄執の虜がこの人です。
昔から総理一直線の小池にとって、今のコロナ禍をはずしてしまっては、そのチャンスは二度とめぐってこないと考えているかもしれません。
足かけたっぷり2年間、小池はテレビに朝から晩まで登場できるという願ってもない幸運を掴みました。
このへんはCNNキャスター上りのニューヨーク市長のクオモと似ています。
政策そのものより国民にてきぱきとアナウンスできる技術を持っているのが、小池の武器です。

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jcp.or.jp

思い起こせば、小池が総花的に並べて見せた都知事選の公約を覚えていますか。
いろいろ満漢全席よろしく並べてくれましたね。満員電車ゼロ、電柱ゼロ、介護離職ゼロ、待機児童ゼロ、全部手もつけていません。
がんばったのは築地を守るだけで、結局無意味かつ混乱を招いただけの移転ハンタイでいらない費用がかさんだだけのことです。
結局、共産党と共闘したあげく移転阻止失敗にして跡地売却を白紙にして提案したのが食のテーマパークというわけのわからない案でした。
官が作った手ーマパークなんぞ、やる前から結果は判っています。
がんばったができなかったやのではなく初めからやる気かなかったので、できなくてシャラっできます。
したがって2期やっても成果はゼロに等しく、むしろ足をひっぱったことばかりです。

ですから小池にとって感染流行という状況ほど、彼女の特殊技術が生かせる場はありませんでした。
毎日メディアがぶらさがってくれて、思うぞんぶんキャスターのテクニックが活かせますからね。
今回小池が黒岩や森田と共同戦線を張ったのは、首都圏1都三県のヒト・モノの濃厚な往来もさることながら、この3人には共通にテレビ界出身の体質があったからです。
互いに似た体質だから、与しやすかったのです。
結局、それを甘く見てよりしたたかな黒岩に背負い投げを食らったんですが。

ところでテレビ業界人は、視聴率が取れる「絵」を好みます。
現実の数字やデーターを積み重ねて実証的に捉えていこうとするのではなく、パっと一目で理解できる気になれるような「絵」が好物です。

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geikuchi.com

脱線しますが、今騒がれている総務省過剰接待事件でも、総務省がどうしてあんな高額接待にあずかれるのでしょうか。
それはテレビの電波帯や携帯の周波数帯についての許認可権を総務省が一手に握っているからです。
ですからテレビや通信の業者にとって、この巨大利権を押えるためなら一人7万の接待なんて安いもの。
高橋洋一内閣参与が指摘するように、地上波を整理すれば携帯通信の枠など簡単に捻出でき更に携帯を安くできるのに、それをしないのは総務省と業者の癒着があるからです。
この隠微な官民癒着を作っている温床が、日常的にはびこっている高額接待だったというだけのことです。

そしてこの癒着構造を、携帯を安くするという言い方で規制緩和しようとしたのが菅政権でした。
菅政権は安倍氏の規制緩和路線を引き継いで、これを看板政策としました。
携帯を安くするには総務省と通信業者との癒着をひっぺがさないとダメだということを、総務大臣経験者の首相はよく理解していたはずです。
一方こんな規制緩和をされたら困るという手合いがうじゃうじゃ業界にはいるわけで、彼らムジナはなんとしてでも菅首相を失脚させたかったのです。
そこでこのムジナは、業者の一角に首相の息子がいるということを文春に垂れこんで菅潰しに利用したわけです。
そして文春に出てきたのが、首相の息子に総務省が忖度したというモリカケの「絵」です。

この分かりやすい「絵」にメディアと野党、とくにテレビは狂喜しました。
「首相の息子」が関わっているというだけで、「絵」がはっきり見えるような錯覚を起こすからです。
本来、地道に今の電波利権を腑分けして、なにがほんとうに国民の利益なのか明瞭にしていくのがメディアの仕事のはずですが、「菅首相の息子」という安直な「絵」に飛びつきました。
毎度のことですが、どうしようもない連中です。

おっと失礼、話が逸れてしまいました。
とまれこのような「絵」を作っていくのが仕事のようなテレビ業界で育った小池にとって、自分がのし上がっていくためには目に見える「敵」が常に必要だったのです。
長くなりましたので、それについては明日ということで。

 

 

 

 

2021年3月 9日 (火)

小池知事に振り回されるコロナ対策

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私は小池百合子という人物がそうとうに苦手、いやはっきり言って嫌いです。
あの我の強い顔を見ることすら苦痛に感じるほどで、それが連日連夜「ワタクシ小池でございます」と出てくるのですから、なんとかしちくれぇ。

この小池という人の悪い癖は、平然と都合のよい虚偽を言ってのけることです。
嘘を言ってまで、自分の政治主張に他人を従属させようとします。

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今回なら、先日の黒岩神奈川県知事にかみつかれたように、きちんとした協議もしないで、独断で1都3県で緊急事態宣言延長の要請を官邸にしてしまいました。
ところが、その直後に黒岩知事からこう噛みつかれたのだから大笑いです。

「黒岩知事は、政府に2週間延長の要請をしようと呼びかけた小池知事に対し、「これ持って行くの?まだ話していないじゃない」と疑問を呈したという。さらに黒岩知事は、千葉・埼玉の知事の意向を確認したところ、意外な事実が判明したと語る。
「あれ、これ他の知事は(延長要請について)大丈夫なのかなと言ったら、(小池氏は)森田千葉県知事は賛成している、大野埼玉県知事も賛成しているというので、私、直接電話したんです。そうしたら森田知事が、(小池氏が)黒岩知事が賛成するからと言うからじゃあ俺も賛成と。大野知事もそうだというから、え、そんなこと僕賛成していないですよと。そうなんですかと。それでちょっと待ってくれ、2週間延長なんていう話考えていないと」
(3月7日FNN)https://news.yahoo.co.jp/articles/78d786f9d62351035b2459bc896f56c5c428cd57

わ、はは、小池は黒岩の了解もとらないうちに、森田に黒岩が賛成しているからと言い、大野からもオレもそう小池から聞いたというお粗末。
ほとんど詐欺師的手法ですが、付き合わせればすぐにバレる嘘を、状況の主導権を握るためには平気でやってしまう。
小池という人は、なにがなんでも緊急事態宣言を延長させたかった、その目的のためにこんなことをやったわけで、これってそうとうにコワイ体質じゃありませんか。
なぜなら目的が正しければ手段は浄化されるという発想ですから。

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では、なぜ小池がなぜここまで状況の主導権を握りたいのでしょうか。
いうまでもなく、小池百合子という政治家特有の権力指向のためです。
この人のゴールは、いい都政を敷くことにはありません。
中央政界で総理になること、これが彼女の最大にして最終ゴールなのです。
これが三県の知事や、今までの都知事と決定的に違う部分です。
小池にとって都知事は踏み台でしかなく、総理の座に手をかけるためのバネでしかないのです。

かつて小池は、崩壊した旧民主党の残党を吸収して「小池党」を作ろうとして惨敗しました。
本来ならこれで終りです。
おとなしく都知事していなさいというのが選挙民の声だったはずでが、なんと起死回生の事件が起きてしまいました。
新型コロナの蔓延です。しかも延々と足かけ2年も!
その間、毎日のようにテレビに出られて、一挙手一投足がワイドショー民に即日流されるという願ってもない状況が突如生まれました。

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この新型コロナで小池がとった方法は、あの就任直後の豊洲問題とまったく同じです。
当時、小池はもう完成していた豊洲新市場を、「安全だが安心ではない」という奇怪な表現でちゃぶ台返ししました。
前任者の石原が東京ガス工場の跡地に豊洲を作ったのが安全性に疑義があるというわけで、非科学的たわごとにすぎず、当時から私は徹底的に批判した記憶があります。

ちょうどルーピー鳩山が、行政手続を積み重ねて各方面と調整してきた移転作業を、一瞬の思いつきで完成寸前にチャブ台返ししたことによく似ています。
不必要かつ無意味な政治的混乱を呼び寄せ、豊洲開業は大幅な遅滞を余儀なくされます。
このことだけで、行政官としての資質を問われるのですが、そのうえ小池はジャンヌダルク政治を始めます。

これは、特定の人物を巨悪のように仕立て上げ、自分を悪に立ち向かうジャンヌダルクに仕立てるという構図です。
この場合、前任者の石原を巨悪に見立てて、百条委員会にこの老人を引っ張りだして袋叩きにしました。
これなど翁長がやった仲井真いじめに酷似しています。

典型的な政治ショーで、石原が知っていることなど、都庁内部の資料を読めばわかることばかりですが、政治をショーと心得ているこのかつてのテレビキャスターはこういうことが大好きなのです。
小池は石原をテレビカメラの前に引きずり出して、モゴモゴ言う様をたっぷりと撮らせて悦にいっていました。
それだけでは飽き足らず、2017年1月に市民団体の「豊洲市場用地売買契約訴訟」の東京都側の訴訟代理人から降りてしまい、石原に都が数百億円の個人賠償を請求することを容認しようとまでしています。
この人の心の冷たさがよくわかります。

このように小池都政の始まりは「豊洲反対闘争」一色で、さんざん都政を停滞させたあげく、彼女を支持する政党は小池党と共産党だけになるという惨状と成り果てました。
小池は、この時点で共産党とつるめば、ただの左翼運動家となるしかない自分の姿に気づくべきでした。
いちおう建前は保守政治家なんですから、少しは背筋を延ばせとおもいますが、ここも自民を離脱して気がつけば共産党だけが頼りとなってしまった翁長県政末期によく似ています。

ちなみに小池の延期の理由が、すべて虚偽だということが今は立証されています。
一番力点を置いた安全姓については、当時から豊洲が危険であると主張する専門家は極小派でした。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2016/09/post-3.html

豊洲市場の地下水は、実際は飲用にしないにもかかわらず、あえて安全に余裕をとって水道水基準値をとっていました。
これが危険だと叫んだのは共産党都議団で、彼らは「砒素が基準値の4割もある」と騒ぎ立てました。
コンクリートの上に溜まった水がアルカリだと言ったのもこの人たちで、ここで質問です。
コンクリートの原料は何なのかな、共産党さん。
たしか石灰じゃなかったのかな(笑)。石灰は強アルカリじゃなかったのかな。


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こんな環境のイロハも知らない人らが、基準値の4割の砒素ががアブナイって、自分でしゃべっている意味が判っているのでしょうか。
4割なら、それは安全だという意味です。
「砒素が基準値4割」というのは、動物実験で得られた基準の100分の1のさらに4割にすぎません 。
こういうことは環境問題を少しかじればわかることなのに、「砒素」というおどろおどろした語感で煽動しようとしたのです。
共産党はさることながら、行政官がこれに乗ってはシャレになりません。

そのうえにだんだん論拠が破綻していくと、とうとう最後に言い出したのが「都民の多くが納得しない。安全ではなく安心が必要」というんですから、もうこの人政治家じゃなくて運動家ですね。
「安心」などを言い出したら、1千万都民すべてが「安心」するまで延期しろということになります。
いっそ都民投票でもしますか。
安心はそれぞれの個人で異なる感覚的なもの、安全は数値化できて万人が判断できる絶対的な科学的指標です。
行政官としての都知事は、
本来は「安全」という指標を使うべきなのに「都民の多くの安心」にまで感覚的に拡散させてしまったのですから、罪が深い。

これが小池の政治手法です。
危機を煽り立てて敵を作り出し、それと戦う構図をパーフォーマンスして自分を飾りたてる。
さすがに豊洲と希望の党の大コケで懲りたかとおもいきや、今度の新型コロナで大復活です。

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東京都の病床過少発表は繰り返された 昨春も大幅修正 延長直前、政府に
今や病床利用率を水増しして危機を煽り立て、緊急事態宣言を政府に強硬に申し入れて、手柄にするということを始めています。

病床使用率が逼迫して医療崩壊だというのが小池の主張でしたが、それは虚偽の数字をもとにしたものだと柳井人文氏がファクトチェックしています。

「昨年4月7日の緊急事態宣言発令後、東京都が発表する入院患者数は過大に発表されていた。都が修正したのは、5月に宣言が延長された後のこと。4月27日時点の2668人→1832人、5月6日時点の2974人→1511人に修正された。都は自ら訂正発表せず、都の報告を受けて厚労省がとりまとめた資料で判明した」(3月5日『東京都の病床過少発表は繰り返された 昨春も大幅修正 延長直前、政府に誤情報を報告』)
https://news.yahoo.co.jp/byline/yanaihitofumi/20210305-00225648/

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柳井氏による

小池は去年4月27日、入院患者数は2668人と発表し、「そのうち宿泊療養198人」と発表し、それを受けてNHKも「自宅療養者を含む」と注記しつつ病床使用率は131%というありえない数字を流していました

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なんですって。100%を超える病床使用率ですって?病院で床にでも寝かせていたんでしょうか。
そうではなく、5月12日厚労省が発表した資料には、東京都の療養者を含めた入院患者数は2196人で、小池は約800人の退院・回復者を含めて水増ししていたのです。

逆に病床数のほうは過少報告します。

「昨年4月当初、東京都は確保病床数の拡大状況を随時発表していたが、4月12日に2000床に達した後は、5月11日に3300床と発表するまで情報を更新しなかった。5月下旬ごろ、4月中に3300床を確保していたと厚労省に訂正報告をした」(柳井前掲)

去年4月から都は病床数を4月に700床、5月末にも2000床を確保したと厚労省に申告していたのですが、これがとんだフェークでした。
実際は、後に都自らが密かに修正したように5月11日には3300床確保していたのですから、実に1300床もサバを読んで過少報告していたことになります。

「5月6日時点で発表された2974人/2000床は、正しくは1511人/3300床(使用率45.8%)だった。
この重大な訂正も、都は自ら報道発表することはなく、主要メディアも一切報じなかった」(柳井前掲)

このような小池が流したフェーク情報を、メディアは怠慢にもまったく報ぜずに危機を煽り立てる手伝いをしました。
そもそも解除目標は、東京都で1日新規陽性者500人、国基準でステージ3です。
現在、新規陽性者263人(7日平均)、国基準でステージ2から3の間にすぎず、目標は達成されているのですから、緊急事態宣言を延長すべき状況ではありません。
この空気に押されて菅首相は2週間の延長を決めてしまったが、それで支持率が多少上がってもいいんですか、禍根を残しますよ、菅さん。

 

2021年3月 8日 (月)

尖閣水域、なにが出来てなにができなのか?

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中国公船や漁船の侵入についてもどかしく思う人が多いことでしょう。
腹だたしさのあまり「EEZに侵入した中国漁船はみんな実力で沈めてやる」というコメントがあったと宜野湾さんに教えていただきました。
違うだろうと入れると、今度は「親中派め」ということになるようで、なら私も親チャイナか(苦笑)。

ふー、負けますよ、そんなことを言っていると。 
今、中国とどういう競り合いを尖閣で演じているのかわかっていないと、すぐにダンビラをこちらも抜けばスカッとすると思っているようでたまらんなぁ。
まず、いま中国が仕掛けてきているのは尖閣を既成事実の積み重ねで奪うことです。
まるでサラミを薄くスライスしていくようなのでスラミスライシングなんて言葉すらありますが、気がつけば尖閣はおろか宮古・八重山まで中国の海となりかねません。

そのくらい危険なことを彼らはやっているのは、長きに渡って大陸に閉塞していた彼らにとって太平洋とインド洋は「未知なるフロンティア」だからです。
ウィグル・チベット、そして周辺諸国はベトナムを除いてひれ伏したから陸続きの膨張にかぎりが出ました。
そこで、今度は海洋という
フロンティアに向かったんです。
大航海時代じゃあるまいに、そんな余地は寸土もありゃしませんから、南シナ海、西沙諸島、そして尖閣が浮かぶ東シナ海でことごとく抵抗にあっています。

中国のやり方は、俗に「三戦」と呼ばれています。
三戦とは、中国共産党が言う世論戦(輿論戦)、心理戦、法律戦のことで、要するに国際世論を味方につけ、相手をありとあらゆる手口を駆使して揺さぶり、そして勝手に自国の法律を作ってしまって合法とすることです。
これがうまくいけば中国は戦わずして勝つ事ができるという寸法ですが、もちろんその背後には今や世界第2位となった強力な軍事力が控えているのはいうまでもありません。

防衛白書は三戦をこう定義しています。
平成21年版防衛白書


「輿論戦」は、中国の軍事行動に対する大衆および国際社会の支持を築くとともに、敵が中国の利益に反するとみられる政策を追求することのないよう、国内および国際世論に影響を及ぼすことを目的とするもの。
「心理戦」は、敵の軍人およびそれを支援する文民に対する抑止・衝撃・士気低下を目的とする心理作戦を通じて、敵が戦闘作戦を遂行する能力を低下させようとするもの。
「法律戦」は、国際法および国内法を利用して、国際的な支持を獲得するとともに、中国の軍事行動に対する予想される反発に対処するもの。
中国人民解放軍政治工作条例 - Wikipedia

慰安婦問題を国際的に流布したのは韓国グループでしたが、その背後でカネを出していたのは中国でした。
気がつけば、日本は女性を奴隷狩りよろしく慰安婦にしていたという汚名を被せられていました。
これが世論戦です。

そして勝手に領海法や防空識別圏を設定した国内法を作り、海警を中国海軍の傘下に置き、さらには尖閣・沖縄すら中国領だと主張していますが、これが法律戦です。

三番目はひっきりなしに公船を領海や接続水域に侵入させ、軍用機や空母に宮古海峡を通過させて揺さぶりをかけ、私たち日本人がそれにすっかり馴れてしまったり、逆にカッとなって先に手を出すことを誘うことが心理戦です。
平成29年7月に中国軍はH6爆撃機6機に宮古海峡を通過させましたが、この時に言った中国報道官のセリフがこづら憎い。

「中国国防省の任国強報道官は14日、中国軍機による13日の宮古海峡上空の飛行について「関係各国は大騒ぎしたり、深読みしたりする必要はない。慣れれば済む話だ」

さらに海警が日常的に尖閣水域に侵入し、日本漁船に「法執行」を働いているのは知られていますが、それに抗議されようもんなら、居丈高にこう言ってのける始末です。

「中国公船が領海内で法執行活動を行うことは、正当で合法かつ議論の余地のないものだ。引き続き常態化して実施している」

日本人を揺さぶりイライラさせつづけること。これが心理戦です。
お前がおれらの横車に馴れろ、これがニューノーマルだというわけです。
ああ、あの国とは、しっかりソシャールディスタンスをおきたいもんですが、しかたがない。
だからこそ彼らのペースに合わせてはダメです。
切れたほうが負け。
このようにいま中国が日本に挑んでいるのは、三戦のうちの法律戦と心理戦です。
ここで負けると、後は一気に日本悪玉論という世論戦に完敗することになります。

では、何ができて、何ができないのか考えてみましょう。
それを知らなければ法律戦で勝てるわけはありませんもんね。
まず、この尖閣諸島水域で、海保の巡視船が侵入した中国漁船を取り締まれるかどうかです。
今回もEEZにで事故ったと思われる中国漁船を沈めてしまえ、なんて蛮声を張り上げていた人がいたようですが、あんた幕末の攘夷派か。
ダメに決まっています。

よく、侵入した中国漁船をなんと58隻も爆破してしまったインドネシアと比較されます。

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http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/fnn?a=20160819-00000711-fnn-int

あれは中国漁船が、インドネシアの領海ないしはEEZで不法操業していたからまとめて爆破してしまったので、今回のようにEEZ内で転覆していただけでは国際海洋法に則って無害通航権を主張されます。
いかにこちらの領海であっても、外国船は自由に通航できます。
ただし領海に無断で侵入した場合、不法入国で排除する事も可能です。

ただしこれは民間船だけで、軍艦はモノ騒がせなので艦砲を旋回させるなとか、艦載機を飛ばしてはならないとか相手国を脅かすことは禁じられています。
潜水艦は潜行したままで通過できません。必ず浮上して国旗を掲揚して通過せねばなりません。
中国海軍はこれまで数回、密かに潜って通過して海自の力量を判定しようとしたあげく、すぐにバレて浮上を迫られて大恥をかきました。

では、今問題となっている海警などの公船ならどうでしょうか?
EEZや接続水域までは問題ありません。それらの海域は領海そのものではないからです。
問題は尖閣の領海に入った場合ですが、これは排除できます。
これも細かくは領海侵犯が成立するために以下の条件を満たす必要があります。

①侵入した船舶が、政府公船であること。
②侵入した外国公船に対しては、海保は国際海洋法に則って無害通航権の有無の判定を行う。
無害通航に当たらないと領海国、つまり日本の海保が判断すれば、初めて排除宣言で出て行けと通告できます。
以上二つの手続きを経て、なおも外国公船・軍艦が出て行かない場合、初めて領海侵犯による実力排除ができます。

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といってもすぐにバリバリと撃つわけではなく、船体を寄せて領海外まで押しやるか、せいぜい放水するのが精一杯です。
海警が撃ってきた場合、法益が侵害されているか、または侵害がさしせまった状態にあるとして急迫不正の措置をとることが可能です。
ね、国際法に従って対処するというのは、実力行使するまで実に多くの段階をクリアせねばならないのがわかってきましたか。

次に、民間船が日本のEEZ(排他的経済水域)で違法操業した場合はどうでしょうか。
その操業した水域の場所によります。

原則としては、他国のEEZ内で操業する場合には、相手国の許可が必要です。
当然、相手国漁船を取り締まることもできます。
今回の転覆した中国漁船がEEZ内で操業していたなら、文句なしに排除の対象となります。

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ただしここらかやっかいなのですが、尖閣水域はまるで迷路です。
日本と中国は日中漁業協定を結んでいて、細かく水域がゾーニングされています。

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日中漁業協定によって北緯27度以北は「暫定措置水域」として、互いに許可なく操業が可能で、ここに尖閣が入ってしまっています。
暫定措置水域とは、要するに今きめられないから棚上げにしておこうという意味ですが、
この北緯27度線以南は日中漁業協定第6条(b)によって棚上げとなっています。
上図のFがそれで、この水域で操業された場合
、日中漁業協定の枠外として海保は領海にまで侵入されない限り、退去勧告すらできません。

  • 暫定措置水域内では、いずれの国の漁船も相手国の許可を得ることなく操業することができ、各国は自国の漁船についてのみ取締権限を有する(§7)。
  • 同水域における操業条件は日中共同漁業委員会が決定する。同水域において相手国漁船の違反を発見した場合は、その漁船・漁民の注意を喚起すると共に、相手国に対して通報することができる(§7-3)
    日中漁業協定 - Wikipedia

日本は約束を厳守しますが、中国の発想は上に政策あれば下に対策ありというお国柄ですから、この暫定水域にまで大挙して漁船を入れてきています。
そもそもこんな「お互いにもめたくないから棚上げにしておこう」、という尖閣密約にとらわれた漁業協定をするからメンドーになるのです。

こういうスッキリしないことをしているから、こんな無法な中国船など、公船だろうと漁船だろうと海上警備行動を発令して海自が打ち払ってしまえ、という勇ましい意見が出るようになります。
気持ちは分からないではありませんが、まったくダメです。
何が中国の意図か、よく考えて下さい。
ずばり、
中国の狙いはエスカレーションなのです。
海保を挑発し、海自を引きずり出して小戦闘を交えて、この水域が紛争地域だと宣伝することが目的です。

そのために尖閣水域は中国の施政権が及ぶと法律戦をしかけてきたので、ここで海自が中国公船を排除すれば、中国の思うつぼです。
それは日本が先に軍隊を投入したことになるからです。
そうなれば
当然中国は、「日本が中国の領海周辺で軍事挑発を開始した」とプロパガンダするでしょう。
一気に中国にとって世論戦に勝てる材料を日本のほうからくれたことになるので、うれし涙を流すことでしょう。

中国軍艦はいままでなんどか接続水域に侵入して挑発してみせましたが、原則は北緯27度線以北の海域を巡回しています。
この状況で、日本が先に27度線以南の水域で海自を出せば、日本が先にエスカレーションの階段を登ったと国際社会は理解します。
米国ですらいい顔はしないでしょう。今のバイデンなら日本のほうを非難すかるかもしれません。
このように軍を動かすということは外交の一部なのです。
常に、「このように行動したら、結果はどうなるのか。どのようなメッセージを送ることになるのか」を考えて行動しないと国際社会まで敵にまわしてしまいます。
国際社会を敵にしてから正義は我にありといっても、満州事変後のかつての日本のようなことになるだけのことです。
二度と同じ轍は踏まないこと。
とうぶんの間、イライラする神経戦は続くでしょうが、絶対にカッとならないようにしましょう。
今尖閣でくりひろげられているのは、仕掛けられた心理戦なことをお忘れなく。

といっても、尖閣は自分のもんだと公然と宣言しちまったんですから、日中漁業協定も暫定水域もあったもんじゃないんですがね。
中国の脳の中で、これらはどう整合しているのか知りたいもんです。

 

 

 

2021年3月 7日 (日)

日曜写真館 われ等みな名もなき山の蘭の花

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むせび泣くあまりに高き蘭の香に 渡辺恭子

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幼な子が鼻よせて嗅ぐ蘭の花  細見綾子

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われをにくむ人に贈らむ蘭の花  会津八一 

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こんなふうにひと老いゆくか蘭の花   西山逢美

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2021年3月 6日 (土)

中国漁船尖閣付近で転覆事故

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中国漁船が石垣の北330キロで転覆しました。
石垣近辺の水域というより、尖閣水域といったほうがよい地点です。

「第11管区海上保安本部によりますと、午前8時50分ごろ、石垣島の北の海上で中国船籍の漁船から遭難警報を受信したということです。
航空機で確認したところ、石垣島の北およそ330キロの東シナ海の海上で転覆している漁船が見つかり近くでは8人が浮遊物につかまって漂流していたということです。
船には10人が乗っていて、その後、中国当局から現場の近くにいた中国漁船が5人を救助したと連絡があったものの、5人の行方がわからなくなっているということで、海上保安本部の巡視船が捜索を行っています。
沖縄気象台によりますと当時、船が見つかった海域では、北の風が強く吹いていたということで、海上強風警報が発表されていました」
(NHK3月2日)

事故を起こした中国漁船の位置はこのような場所です。場所を確認してみましょう。

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  沖縄タイムス

沖タイのこの図には尖閣が入っていないので、これに尖閣を中心とした位置関係を重ねてみます。

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石垣から尖閣は170キロですから、漁船の転覆位置である330キロは、尖閣の先東北水域です。
おそらく日本のEEZ内の水域のはずです。
これを石垣島近辺というのはいかがなもんでしょうか。
はっきりと「尖閣周辺のわが国EEZ内」と明示すべきです。

そもそもこんな他人様の排他的経済水域で中国漁船はなにをしていたのでしょうか。
特に想像力を発揮しなくても違法操業していたのに決まっています。
尖閣水域は豊かな漁場ですが、いまや中国海警の厳重な「警備活動」によって、実質的に日本漁船は近づくことすらできない状況が続いています。
それをいいことに海警に守られた中国漁船はこの尖閣水域に進出しています。

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漁船群の尖閣領海侵入を予告 「日本に止める資格ない ...

その理由は、今まで書いてきたように日本政府の腰の引けた対応もありますが、もうひとつは物理的距離にもあります。
海保第11管区の拠点がある本島からは410キロ、出先がある石垣港からも170キロあるのに対して、中国本土からは330キロしかありません。
つまり、中国大陸のほうがはるかに尖閣水域に近いという絶対的不利な条件に海保や海自は置かれているわけです。
これは空自も同じで、中国機より100キロも長い距離を飛行しなければ尖閣上空にたどり着けません。
尖閣上空の滞空時間も中国機より短いでしょう。

さて、中国はいまや隠すふうもなく堂々とこの尖閣水域は「中国領海」であると宣言しています。

国防部「中国公船の釣魚島海域での法執行活動は正当で合法

国防部(国防省)報道局は1日、最近の軍事関連の焦点となっている問題について記者の質問に答えた際、「中国公船が釣魚島(日本名・尖閣諸島)周辺海域で法執行活動を行うことは、正当で合法かつ議論の余地のないものだ」とした。新華社が伝えた。
【記者】最近日本メディアは、「中国公船が釣魚島周辺海域での活動を一層活発化させており、日本側は中国側による海上活動の強化に懸念を表明している」と報じた。これについて中国側としてコメントは。
【国防部報道局】釣魚島及びその附属島嶼は中国固有の領土であり、これには十分な歴史的、法理的根拠がある。中国公船が領海内で法執行活動を行うことは、正当で合法かつ議論の余地のないものだ。引き続き常態化して実施していく」(中国人民網2021年3月2日)
http://j.people.com.cn/n3/2021/0302/c94474-9823824.html


いやー、ここまで露骨に言われると鼻白みますなぁ(苦笑)。
中国は尖閣は固有の領土だから法執行を常態化させていくそうです。
まことにあっぱれな法治主義ですが、どうぞご自分の領土領海だけでおやり下さい。
ここは日本領土、百歩譲っても係争地域です。

係争地域で相手国の了解もなく「法執行を常態化」させようものならどうなるのか、ただでは済みませんがこれがわからないのですな、この国は。
国際的な認識に沿ってかんがえるのではなく、その前に自国のイデオロギーがあるわけです。
本来、国内でしか通用しないドグマを、外国との関係にそのまま投影してくるんですから、たまったもんじゃありません。
彼らの主観では、人民政府の打倒を狙う外国勢力が神聖な領土を侵し、国家を分裂させようとテロ活動をしている、というりくつです。

このゆがんだ考え方は、ウィグルにも香港にも共通して現れています。
ですから彼らにかかると、海保は彼らの領海内でテロ活動を働いているということになります。
国際社会がそれを批判しようものなら、得意の「内政干渉」を言い出します。
ああ、なんて困った国。

尖閣が領土だということは去年の5月くらいから口にしていましたが、ここまで露骨に国防部が公然と言うことは控えていたのに、また一歩進んだわけです。
先の2月1日に海警法を改訂施行しましたが、偶然なのかどうか、それから1カ月もたたない時期に尖閣水域で漁船が転覆したわけです。
私は意地が悪いので、偶然とは思えません。
これは小手調べの疑いが濃厚です。

尖閣水域で漁船が事故を起こした場合、日本の海保は直ちに人命救助に向かいます。
今回も4隻の第11管区の巡視船が救助に向かいました。
これは海上保安庁法に、海保の本来任務として海上交通の整理や海難事故等への対処があるからですが、先日も書きましたが、領海警備は含まれていません。
今回尖閣水域に出動したのはあくまでも人命救助のためです。

一方日本と対照的に中国海警は人民武装警察の組織下にある準軍事組織(パラミリタリー)です。
ですから海警の任務は、領海警備と排他的経済水域の警備で、救難は主任務ではありません。
今回、自国漁船であるにもかかわらず中国海警の動きが鈍いのは、あるいはこのせいかもしれませんが、なんともいえません。

そしてもうひとつ考えられるのは、日本の海保がどれだけの時間で救難機を到着させ捜索を開始するか、巡視船はどれだけ到達時間がかかるのかを見たかったのかもしれません。
よく中国やロシアの軍用機が日本周辺を飛行するのは、自衛隊の対処時間やその際の手際、あるいはレーダー周波数などの電子情報を収集するためだと言われています。
これと同じ理由で、海警は海保を試した可能性があります。

さて中国はこの2月の海警法の改訂で、国防部に属する準軍事組織として武装警察の傘下であることを明らかにしました。
また去年12月に改訂された国防法では、このようにその目的を述べています。

「2020年12月に改正した「国防法」では、軍事行動によって守るべきものとして、国家主権、統一、領土と並んで新たに「発展利益」が追加されたが、この「発展利益」の意味もまた「管轄海域」と同様に曖昧模糊としている。恣意的解釈が自在な「発展利益」と「管轄海域」に国際社会は疑心暗鬼とならざるを得ない」(山本勝也 『中国海警と人民武装警察-海警法への違和感と懸念 』)
https://www.spf.org/iina/articles/yamamoto_06.html

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この「発展利益」という概念がクセモノです。
中国が考える「管轄海域」は、沖縄トラフ以西の東シナ海や南シナ海九段線の内側、中国流にいえば「第1列島線」の内側の全てを指します。
ここを彼らは「領土」と呼び、それを「管轄海域」と規定するのですが、とうぜんこんな中国の主張は、日本、フィリピンをはじめとする周辺諸国の主張とはまったくかけ離れています。
南シナ海の人工島は国際仲介裁判所の仲裁裁定によって否定され、仮に尖閣でも国際司法で争うなら同じ結果が出るでしょう。

またここで国防部が「統一」を上げているのは、明らかに台湾の併合を想定しています。
つまり中国は、「国家主権」の一部として管轄権を主張し、それを警備するだけではなく、その「発展的利益」をもぎとると言っているわけです。
平たくいえば、オレのものはオレのもの、ひとのものもオレのもの、それが国家主権の発展的利益だ、ということになります。

おそらく今年の漁期の解禁に当たる夏には、大挙して漁船を入れて海保を対応不可能に陥れて、その混乱の中、尖閣に上陸を図るかもしれません。
とりあえず理由なんかどうでもいいのです。漁船同士が衝突したでも、なんだったら水漏れで沈んだでもいいし、腹痛でもかまいません。
ともかく尖閣に上陸さえしてしまえばアチラのものなのです。
上がってくるのは漁船員で裏稼業は海上民兵。
そしておもむろに彼らを「救助」しに現れるのが、海警という段取りです。

駆けつけた海保は多勢に無勢でなぶりものにされ、救援に海自が入れば、中国海軍との紛争に発展します。
5年前なら海自がなんとか勝てたでしょうが、いまは軍事バランスが崩れていますからどうでしょうか。

え、オリンピックがあるだろうって。いや逆です。
中国にとって、だからこそ絶好の機会なんですよ。
オリンピックを人質にされて、日本は岸防衛大臣が言ったような武器使用はできませんからね。

 

 

2021年3月 5日 (金)

ミャンマー軍事政権が引き起こした第2次天安門事件

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ミャンマー軍事政権が後戻りできないことをしてしまいました。
軍事政権が国民に無差別に発砲を繰り返し50名を殺害しました。 
これはミャンマー版第2次天安門事件です。


「国軍によるクーデターへの抗議デモが続くミャンマーで3日、少なくとも38人が死亡したと国連が明らかにした。クーデターが起きてからの約1カ月で「最悪の流血の日」だとしている。
国連ミャンマー問題担当のクリスティーン・シュレイナー・バーグナー特使は、衝撃的な映像が現地から出てきていると述べた。
また、クーデターが発生した2月1日以降、50人以上が死亡し、多数のけが人が出ているとした。
市民たちによる抗議行動と不服従は、ミャンマー各地で続いている。目撃者は、治安部隊がゴム弾や実弾を発砲していると話している。
3日に多数の死者が出たことを受け、イギリスは国連安全保障理事会を5日に開催するよう要求。アメリカは、ミャンマー国軍に対する制裁強化を検討していると明らかにした。
近隣の東南アジア各国からは前日の2日、国軍に対して抑制を求める声が出ていた」(BBC3月4日)
https://www.bbc.com/japanese/56275697

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BBC

下のAFPが撮った写真を見るとわかりますが、警官とおぼしき男が指揮棒の指す方向をガリル自動小銃で狙撃しています。

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ミャンマーで被害者の家族を撃つは、削除された後、犠牲者

キャプションには、「9日、ミャンマーの首都ネピドーで、国軍によるクーデターに抗議するデモ隊と衝突した際、銃を向ける警官」とあります。
日本において警官がライフル銃を水平に持って国民を射撃ことはほぼありえません。
それは文明国には「警察比例の原則」があるからです。
警察比例の原則とはこのようなものです。
日本では尖閣や離島における「グレーゾーン対処」で登場した概念です。


「警察比例原則とは、警察権の発動に際し、目的達成の ためにいくつかの手段が考えられる場合に、目的達成の障害の程度と比例する限度においてのみ行使することが妥当であるとする原則」
警察比例の原則 - Wikipedia
 

簡単に言えば、丸腰には丸腰で、銃には銃をというふうに相手の武装の度合いで対処を決めていかねばならないという警察の原則のことです。米国の警官もよく発砲しますが、それは犯罪者が銃器を頻繁に使うからで、これも警察比例なのです。
しかし、今回のミャンマーのデモ隊の場合、丸腰です。
コンプライアンスが崩壊しているアフリカ諸国では、頻繁に銃器がデモ鎮圧に使われてきました。
アジアでこれをおおっぴらにやっているのは中国です。

ミャンマーの場合、デモ隊は頭部保護のためにヘルメットをかぶっているだけで、武器は一切所持せず、よくある火炎瓶すら登場していないようです。
したがって、これを鎮圧しようとする警察は一切の銃器を使用できないはずです。

「国連のバーグナー特使は3日、武器をもたないボランティアの医療関係者が警官に殴打されている映像を見たと述べた。別の映像には、デモ参加者が路上で銃撃され、死亡したとみられる様子が映っていたという。「武器の専門家に聞いたところ、警察装備の9ミリ口径の短機関銃などに見える。つまり実弾ということだ」現地報道によると、ヤンゴンなどの都市では、治安部隊がほぼ事前警告なしに群衆に向かって発砲しているという。慈善団体セーブ・ザ・チルドレンは、14歳と17歳の少年が死亡したとしている。さらに、19歳の女性も死亡したとされる」
(BBC前掲)

この治安部隊には今や多くの国軍が加わっていることが確認されており、彼らも容赦ない無差別発砲をしていることが目撃されています。
そもそも丸腰のデモ隊に軍隊を出すということ自体が異常です。
警察比例の原則をもちだすまでもなく、軍の治安出動がありえるのは警察力が崩壊する事態が起きた場合のみであって、軍が街頭に顔を出すこと自体慎むべきなのです。
しかし、この軍がクーデターという重大な非合法を働いてしまい、一切の話あいにも応じようとしない以上、こうなるべくしてこうなったのです。
己が招き寄せたことで、手に負えなくなると国民に発砲するとは!大馬鹿者め!
もはや仲介の時期は去りました。
この軍事政権は救助不可能です。
国民に銃を向けて無差別に虐殺を繰り返す政権にいかなる正統性もありません。
彼らが行かねばならないのは、仲介テーブルではなく国際的な裁きの場です。
よく日本は軍部にもスーチー側にもパイプを持っているので仲介したらどうかという声を聞きますが、人脈を持っているのは確かでとうに動いているはずですが、このようなミャンマー版第2次天安門事件を引き起こしてしまってはどうにもなりません。
まだしもクーデター初期のひとりの犠牲者も出ていない時なら、仲介テーブルを東京で持つこともできないことではなかったでしょうが、50人も虐殺してしまってはもはや話し合いのフェーズではなく、制裁を具体的に議論すべき時期となってしまいました。
国連はこういう時にこそ役割を果たすべきですが、例によって安保理において中国が頑強にクーデターの文言を非難声明に入れないために早くも行き詰まっています。
なぜ現在のような流血事件がおきるのかといえば、言うも愚かですが軍部のクーデターのためです。
ですから、そもそもクーデターを非難しない非難声明などありえません。
クーデターによる軍政を即時止め、民政に復帰する以外解決方法はないことは自明です。
そして同時に、国民に銃撃を命じた虐殺責任者は厳しく裁かれねばなりません。

中国は自らが軍部に事前に相談を持ちかけられてクーデターを容認してしまったという弱みがあるために、肝心要なクーデターの文言を入れずに済ませようとしています。
これではかえって中国が共犯関係なのが暴露されるだけですが、そういう国際感覚が乏しいのがこの国です。
だから身に沁みてしっかりと判ってもらわねばなりません。
自由主義陣営は国連の不毛な議論に頼るのではなく、この虐殺事件を引き起こした真の主役である中国に対して独自に制裁を加えねばなりません。
チベット、ウィグル、香港、そしてミャンマー。
中国はまるでギリシア神話のマイダス王のように、触るものすべてを黄金ではなく流血とジェノサイドに変えていくようです。

 

 

2021年3月 4日 (木)

中国、香港の予備選挙は国家転覆罪

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中国が1月6日に逮捕した55名に対して47人を国家転覆罪在で起訴しました。
起訴されたのは23歳から64歳までの男性39人と、女性8人で、すべて著名な民主活動家です。
BBCは、「国安法で有罪となれば最高で終身刑となる可能性があり、保釈される可能性は低い。戴氏は自分が保釈される可能性は「あまり高くない」としています。
また移送法を使って、本土の刑務所をたらい回しにされたり、再教育施設に入れられるかもしれません。
まだ香港収監されているうちなら国際社会によって救援できるかもしれませんが、本土に移送されたら最後、完全なブラックボックスとなります。

これで香港の民主活動家は根こそぎ状態となり、今やすでに刑務所にいるか、留置場で判決を待つか、さもなくば亡命しているかのいずれかになりました。
残念なことに日本ではわずかに事実を報じるニュースしかないうえに、なぜか批判の声はわずかです。
気鋭のチャイナ・ウォッチャーである福島香織氏さえ、まとまったコメントは出していない始末で、いったいどうしたことでしょうか。

一貫して中国を厳しくウォッチし続けているBBCからです。
同じ公共放送でもNHKとは天地の違いです。日本にもこういう骨のあるメディアが欲しいものです。

「香港警察は2月28日、1月に逮捕した民主派50人超のうち47人について、国家「転覆」を狙ったとして起訴した。昨年6月に施行された、香港での反政府的な動きを取り締まる中国の「香港国家安全維持法」(国安法)に基づく起訴としては最大規模。
1月の逮捕者の多くはその後保釈されていたが、47人は2月28日、3月1日の出廷に先立ち警察に出頭するよう求められた。
中国政府は「破壊的な」行為を犯罪行為とみなす国安法の施行について、香港に安定を取り戻すために必要だと主張している。イギリスのドミニク・ラーブ外相は2月28日、民主派の起訴は「政治的な反対意見を排除」するために国安法が使われている実態を示しているとツイートした。
「国安法は英中共同声明を侵害しており、このような方法での国安法の使用は、中国政府が約束した内容に矛盾している。このような敏感な問題について約束を守るという信頼をさらに損なうだけだ」」(BBC3月1日)
https://www.bbc.com/japanese/56234816

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香港警察、民主派47人を「国家転覆罪」で起訴 国安法施行後で最大規模

この国家転覆罪を適用されたなかには、ほぼすべての有名な民主活動家が含まれています。
戴耀廷(ベニー・タイ)、梁国雄(レオン・クオックホン)、何桂藍(グウィネス・ホー)、張可森(サム・チャン)、岑敖暉(レスター・シュム)らなどで、彼らは今まで民主化運動の中心を担ってきました。

また今回この出頭を命じられた以外に、これまでに約100人が国安法に基づいて逮捕されており、そのなかには反骨の言論人である黎智英氏(ジミー・ライ)、黄之鋒(ジョシュア・ウォン)、涂謹申(ジェイムズ・トゥー)氏、林卓廷(ラム・チュク・ティン)氏、岑敖暉(レスター・シュム)氏ら野党・民主党や公民党の著名メンバーが含まれています。
周庭(アグネス・チョオ)は既に実刑判決を受けて、新界(ニュー・テリトリーズ)地区西部にある大欖女子懲教所と呼ばれる麻薬中毒者用刑務所で年をこしています。
彼ら民主派を収監する刑務所は、中国の刑務所すべてに共通することですが、満足な暖房ひとつなく、不潔で残酷であり、強制労働を課せられていることが知られています。

さて、この民主活動家らがの罪名は「国家転覆罪」です。
その罪状は去年7月、民主派の予備選挙が理由です。

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香港民主派予備選、半日遅れる 警察が世論調査機関を家宅捜索


「昨年7月11、12両日に一般有権者を対象に実施された民主派の予備選は、香港の住民にとって、同年6月30日の国安法施行後最初の投票機会だった。
この予備選は香港で最後の自由な選挙になるかもしれません、民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)氏(24)は出馬しなかったものの当時、投票を懸命に呼び掛けていた。
一方の政府は、予備選に対し国安法違反の疑いがあると繰り返し警告。しかし投票者は61万人(登録有権者の13%)を超えた。いわば、予備選への投票は国安法にNOを突きつける「61万人の抗議デモ」だった。
一方の政府は、予備選に対し国安法違反の疑いがあると繰り返し警告。しかし投票者は61万人(登録有権者の13%)を超えた。いわば、予備選への投票は国安法にNOを突きつける「61万人の抗議デモ」だった。
政府は選挙翌日の7月13日、予備選に関する調査を開始したと発表したが、今回の一斉摘発は半年近くたってから。逮捕令状は昨年12月に発行されていたとの情報もあり、慎重にXデ-を探っていたようだ」(産経2021年1月6日)

この予備選挙は、9月の立法議会選挙を迎えて民主派候補の共倒れを防ぐ目的で、民主派が独自に開催したものです。
性格的には国際的によくやられているもので、米国の民主・共和両党の予備選が有名です。
この香港予備選に参加したのは実に約61万で、この数字は2019年に民主派がが圧勝した区議選の獲得票の約3分の1に相当し、立法会選の有権者全体の14%にあたります。
つまり、9月に立法会選挙が通常どおり行われれば、民主派の勝利は確実なことが予想されていました。
さまざまな不利益を省みず立ち上がった香港市民の姿に胸が熱くなります。

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香港、61万人の声を無視 恐怖統治で押さえ込み 予備選めぐり摘発

これに恐怖したのが香港行政府と中国政府でした。
彼らは武漢ウィルス(以後、このように呼ぶことにいたします)を理由に9月の立法会選挙を中止してしまい、そして今回、予備選挙を理由に国家転覆罪を仕掛けてきたのです。

その起訴理由を検事はこう言っています。

「立法会選挙で過半数を握り、あらゆる予算案に反対して行政長官を辞任に追い込む計画を企てていた。
これは政権転覆行為である」

驚くべき理由です。
一瞬なにをこいつは言っているのか、ポカンとしませんでしたか。
それが正常です。民主主義があたりまえだと思っている国民には理解不能です。
選挙とはそもそもそういうものだからです。
選挙の結果過半数を握れば、行政府の出したあらゆる予算を検証し、議論し否決することが可能です。
それはこの検事のいうように「すべて」かもしれないし是々非々かもしれませんが、いずれにせよ議会の否決権は民主主義制度のイロハのイです。
それを議会で多数派をめざすこと自体が国家転覆罪に相当するというなら、もはや選挙という概念自体が成立しません。

国民は選挙という方法でしか自らの意志を政治に反映できない以上、選挙を理由とした弾圧は民主主義そのものの完全否定です。
ならば香港行政府よ、いやその背後にいる中国政府よ、いっそ選挙自体を廃止して、共産党が指名する者だけに丸をつける共産党式でやったらどうなんでしょうか。

ご承知のように、この14億の人口を擁する中国という国家は、いままでただの一度も普通選挙を経験していません。
中華文化圏で選挙を知っているのは台湾とシンガポールだけで、14億の人々は民主主義の外で暮らしています。
いや中国にも選挙はあるって?ご冗談を。
全人代の「選挙」と称するものは、共産党が指名した候補者に丸をつけるだけのこと。
あんなものが選挙の名に値しないのは、クラス委員選挙をしたことのある小学生でもわかります。

この国家転覆罪適用に対して、欧米は直ちに批判を開始しました。
真っ先に批判の狼煙を上げたのはやはり英国でした。
英国はこの裁判にジョナサン・ウィリアムズ領事を派遣し、彼はこう言っています。

「中国と香港政府は国家安全法は狭い意味で用いられると約束していた。今回のケースはもはや約束どおりではないのが明らかである。われわれは深く憂慮している」

またドミニク・ラーブ英国外相もまた批判声明をだしています。

「国家安全法を秩序を守るためではなく、反対意見を排除するために利用することは中国政府の約束と反対だ」

米国のアントニー・ブリンケン国務長官も直ちにこのような声明を出しました。

「政治参加と表現の自由は犯罪ではない。即時釈放せよ」

まことにストレートな批判で、予備選挙を理由とした国家転覆罪は反対意見の排除であって、政治参加と表現の自由に対する弾圧だとする民主主義国家の原則に忠実です。
しかもこの非難声明の背後に、中国に対する厳しい制裁を用意することを含ませています。
国家が他の国家を非難する場合、一般論では済まされません。
声明の背後には、必ず実効性を持った制裁という握り拳が準備されねば「ただ言っただけ」にすきないからです。
たとえば米国の場合、共産党員・その家族などに対する入国制限をいっそう強化し、輸出入管理も制限強化が図られるかもしれません。

ちなみにわが国の茂木外相はこんな調子です。

「言論の自由や報道の自由にもたらす影響について重大な懸念を強めている。引き続き関係国とも連携し、適切な対応をしていきたい」

どうせ外務省の小官僚が作ったメモを読んだだけでしょう。
英米と較べて、日本の非難声明のどこがダメかわかりますか。
英国は、聞き間違えようのないストレートな表現で「即時釈放せよ」と要求していますが、わが国は「関係国と連携し、適切な対応」と言っています。
はて、「連携」ってなんなんでしょうか。
米国や英国と連携するという意味ならなら、はっきりと英米政府と同様に中国政府に対して民主活動家の釈放を要求すべきです。

しかし霞が関文学にかかると、かんじんの主体をボカして「関係国」にズラして、判断を先送りしてしまっています。
まらに口先非難。実はなにもしない、非難だけは英米の手前してみました、ていどのことです。
できることは山のようにありますが、ただやる気がないだけです。

菅政権になって明らかなんぞではに外交は後退しています。なにをしたいのかまるで見えません。
安倍政権のレジェンドを継承するならするのかしないのか、どっちなんです、菅さん。
まずは病巣と化した二階を解任し、習の来日延期なんてあいまいなことではなく、ウィグル制裁も含めて取り止めたらいかがでしょうか。
こんなことすらできないようなら、菅政権は短命に終わるでしょう。

 

※改題しました。いつもすいません。

 

2021年3月 3日 (水)

共和党内はトランプが実権を掌握した

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CPEC(保守政治行動会議) が終了しました。
誰の目にも鮮明に写ったのは、たぶんトランプのカリスマ性ではないでしょうか。
今の米国の政治家に、いや世界の政治家にも彼のようなカリスマ性と政治主張が分かちがたく結びついている政治家はいないのではないでしょうか。

私は正直にいえば、トランプには苦手な部分が多々ありました。
オーバーなしぐさ、野卑な言葉遣い、野蛮な討論スタイル、ハッタリが多い言動、勘弁してくれや、と思っていたのも確かだったのですが、今回あらためてこのドナルド・トランプという男を見直しました。
なぜかくも多くのアメリカ人の心を掴んではなさないのかがよーくわかりました。

静かに登壇し、待たせたかい、から始まる怒濤のような1時間30分。
ある時は具体的に、ある時は軽妙に、そしてある時はアメリカの叙事詩を謳うがごとく、言葉の奔流で聴衆を惹きつけました。
まるでロックスターのようです。
どこに星条旗に抱擁する大統領がいたのでしょうか。

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トランプ大統領「北朝鮮は取引すれば輝ける未来がある」:朝日新聞デジタル

感情をむき出しにし、愛憎を隠さない、あくまで心の赴くままにドナルド・トランプという希代の勝負師を演じ切る。そんな真似ができる人物が今の米国にいますか。
こういう野放図なまでの情熱が彼の真骨頂なのです。
それはオバマのようにサロンに巣くう大学教授たちをうならせるものではなく、テッドクルーズがこの 集会で言っていたように「手にタコをつけて働く鉄鋼労働者、パイプライン作業員、運転手、勤労者の党がオレらリパブリカンなんだ。フリーダム!」という声と呼応します。
このクルーズははっきりとトランプ支持を口にしました。
これは腐り切った共和党主流派への反旗であり、同時にトランプ革命政権成立の鐘だった気がします。

さて、ニューズウィーク(2月27日)も、共和党がトランプ派に乗っ取られたと述べています。
渡瀬裕哉 トランプの扱いを巡って米国共和党

渡瀬氏は共和党を三つに分類します。
まず第1に共和党主流派。反トランプの牙城です。
この流派は俗に穏健派、ないしは中間派と呼ばれています。
政治的には今までの米国の外交路線、内政をそのまま踏襲し、民主党側とも妥協を図ってきたグループです。
実際に、彼ら主流派は民主党中間派のバイデンなどとはツーカーの仲だったはずで、彼らはトランプになるくらいならいっそバイデンのほうがましだと考えています。
過去、この派閥から共和党は大統領を出してきました。ブッシュ親子、そしてその副大統領だったチェイニー、今のロムニー、チェイニーの娘のリズ・チェイニーなどです。
実際に、彼らは民主党のトランプ弾劾に賛成票を投じ、地元で逆に釣るし上げられたようです。

今回の任期終了後の弾劾手続きの最大の狙いは、弾劾によって公民権を停止させ、2024年の大統領選挙へのトランプ氏の立候補を封じることにあったのですが、結局逆にトランプに強い求心力を与える結果となってしまいました。
上院でトランプ氏の弾劾に票を投じた一番の大物は2012年の共和党の大統領候補であったロムニーで、ロムニーとトランプの確執は前から知られていたことで、驚きはさほどありません。

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リズ・チェイニーbloomberg.co.jp

むしろ注目を集めたのは、下院共和党ナンバー3の地位にあるリズ・チェイニーへの風当たりの凄まじさでした。
チェイニーはブッシュ政権時の副大統領の息女で、ホワイトハウスの居住経験の持ち主です。
今や父を継いで共和党主流派の女帝的存在だったはずですが、逆に弾劾される立場になってしまいました。
弾劾には勝ったものの、かつての肩で風を切る風情は消え失せました。

彼らは政財界の代弁者で、多くの大企業の後押しがありますが、選挙戦を戦い抜く草の根団体には影響力はありません。
ですから、本来は勤労者、農民を味方にしないと選挙戦に勝てないのですが、この層をごっそりとトランプに持っていかれたために哀れ丸裸になってまいました。
今や、トランプ弾劾に入れた両手の数ほどの議員がいるばかりにまで衰退しています。

第2に、レーガン保守派。
彼らはいわゆるティパーティ派を源流としています。
減税推進、銃規制反対、中絶反対、小さな政府がスローガンです。
彼らの中心的メンバーはレーガン時代に青春を過ごした人々や福音派などの宗教保守派ですが、若い層はすでにトランプ派によって浸食されて、いまやトランプ派と統合されかかっています。
たぶんペンスはこれに近いのではないでしょうか。

そしていまや新主流派となったのが、第3のトランプ派です。
彼らの政治主張はほぼレーガン派と同じですが、より若向きで、レーガン派が古典的な保守だったのに対してQアノン愛好家などのやや怪しげな連中もウィングに入っています。
ここがオールドコンサバには不評ですが、今の米国の世相をそのままくみ取っているともいえます。

そして私は弾劾裁判を通してこの三国志的構図に、トランプ派が完全勝利したとみます。
産経の黒瀬支局長は、例によってこんなことを書いていました。

「昨年の大統領選をめぐっては「不正があった」とする、信頼に足る証拠や裏付けに乏しい主張を改めて展開。選挙の無効などを求めたトランプ陣営の訴えを実質的に門前払いした保守派が多数の最高裁を「意気地なしだ」と批判した」(産経3月1日)

ズレきっていますね。「裏付けがない不正選挙の主張」ですか?
そんなことはどうでもいい。まだわからないのか、この人は。
黒瀬さん、そんなことにはCPACのポイントはないのですよ。
フェーズは進化したということ、これがCPACの眼目です。

つい1カ月前までの「不正選挙」ウンヌンは、弾劾裁判の無罪判決で完全終了し、今やまったく異なるフェーズに入っていることを報ぜずに、まるでトランプがいまでも不正選挙の陰謀論にしがみついていると書いているんですから、どうにもなりません。
産経もそろそろこの役立たずを、支局勤務からやり直させたらどうですか。古森さん、あなた教育誤ったね。

トランプは行きがかり上、「不正選挙」に言及しましたが、もはやそこには重点はありません。
彼が一貫して演説で強調していたのは、来年の中間選挙と4年後の大統領選に共和党を一枚の鉄板のように鍛え上げて勝利する、という呼びかけでした。
いまだオレが負けたのは不正選挙があったからだ、なんて愚痴をこぼすほどトランプは落ちぶれてはいないのです。
凡庸な政治家ならそういうところでしょうが、彼は共和党を一枚の鋼のように鍛え上げることで、勝利をすると言っています。

「君たちは『(わたしが)新しい党を立ち上げるだろう』と彼らが言い続けていたのを知っているだろう。あれはフェイクニュースだ。フェイクニュースなんだ。素晴らしいと思わないか? 新党を立ち上げよう。我々の票を割ろう。そうすればもう勝てなくなる」「違う。我々はそんなことに興味はない。我々には共和党がある。(共和党は)これまでにないほど団結し、強くなるだろう。わたしは新党を立ち上げない」(3月1日ビジネスインサイダー)

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これは直接にはCPACの前日の2月28日にウォールストリートジャーナルが愛国党(ペトリオットパーティ)を立ち上げて共和党を割るという報道に答えたものですが、あいにくトランプはその誘いには乗りませんでした。
理由は簡単です。割る理由がないからです。
彼が共和党少数派として石投げられるが如くの状況ならいざしらず、共和党内でいまや少数派に転落しているのはかつての主流派であるチェイニーなどのほうです。
そもそも共和党を割れば、確実に半分以上の議員と過半数の支持者も一緒にその新党に移っていってしまうことでしょうから、共和党は空き屋同然となります。
誰がそれを喜ぶのか、もちろん民主党です。

CPACでのアンケート結果はこのようなものでした。

「CPACが行った2024年の共和党大統領候補指名に関する調査では、トランプ前大統領が55%の支持を得て、1位だった。2位は、21%の支持を得たフロリダ州のロン・デサンティス(Ron DeSantis)知事だった。
2024年の大統領選でトランプ前大統領に立候補してもらいたいと答えたのは68%だったものの、回答者の95%は共和党に前大統領の政策をサポートしてもらいたいと考えていることもわかった」(ビジネスインサイダー前掲)

実質的な共和党大会だったCPACで55%の支持を集め、しかも第2位はフロリダ州知事のロン・デサンティスというトランプに近い人物です。
そして24年次期弾頭領選挙には95%がトランプに共和党にサポートしてほしいと願っているわけです。

これで決まりでしょう。
トランプは次期大統領選には78の高齢ですから、さてどうなるどうなると当人も含みを持たせていましたが、再登板するにせよしないにせよ、彼の意志とは無関係に候補を立てることは不可能になったという事実です。
同時にその前哨戦である中間選挙においても、共和党支持者がほとんどトランプ派に行ってしまったために、同じようなことが出現することでしょう。

この態勢で共和党は来年の中間選挙に入ると思われます。
トランプ自身が出るか出ないかは別にして、来年の中間選挙、24年の大統領選はトランプの存在ぬきで語ることは不可能になったことだけは確かです。

 

 

2021年3月 2日 (火)

北朝鮮、核開発再開、米シリア爆撃から見えてくるものとは

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早くも始まりましたか。
北朝鮮は米朝合意など属人的なものだと思っているらしく、トランプの退陣と共に核とICBMの開発を再開するつもりのようです。
まぁ、正恩からすればトランプならありえたかもしれない第3回直接会談の実現性が完全に断たれた以上、あんな非核化の約束は反故だと考えているのでしょうね。
これに対してのバイデン政権の反応は伝えられていませんが、口で多少非難はしてもなにもしないと思われます。

というか、バイデンにはしたくとも出来ないのです。
なぜなら、バイデンの政策はトランプの残したものを完全に否定することが大原則ですから、トランプがやった直接会談などイの一番にダメダメです。
もっともあんなことができる大統領は、歴史的に見てもトランプだけでしょうしね。

改めて直接会談前の北朝鮮の核開発を巡る状況を振り返ると、国際社会は完全な手詰まり状態でした。
国連制裁決議は北朝鮮を支援する国家や国際ネットワークの幇助のためにスカスカとなっていました。
国連制裁パネルの古川勝久氏のレポートを見てみましょう。
『第3 章 対北朝鮮制裁における日本の課題』
http://www2.jiia.or.jp/pdf/research/R01_Korean_Peninsula/03-furukawa.pdf

「北朝鮮による制裁逃れは依然、継続している。
米政府を含む国連加盟国24 カ国が2019 年6 月11 日付けで国連安全保障理事会1718 委員会(北朝鮮制裁担当)に送った書簡によると、制裁にもかかわらず、北朝鮮は、国連安全保障理事会決議で禁止されている、洋上での石油精製品の瀬取りを何度も繰り返していたことが報告されている。この書簡によると、2019 年1 月1 日~ 4 月29 日の間だけでも、少なくとも79 回の瀬取りが確認され、安保理の制裁決議が定める年間上限50 万バレルの
供給制限が破られたと指摘されている1。平均で1.5 日の間に一回の頻度で瀬取りが行われていた計算となる」
古川勝久 『第3 章 対北朝鮮制裁における日本の課題』
http://www2.jiia.or.jp/pdf/research/R01_Korean_Peninsula/03-furukawa.pdf 

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韓国政府が韓国船籍タンカーの瀬取り関与を否定 小野寺防衛相は不信感

このように国連制裁決議はまったく守られておらず、北は複数の国の幇助を得て制裁逃れをしていたことがわかります。
整理すれば

・2018 年中米政府が確認した他国籍船からの石油タンカーの瀬取り回数・・・延べ263 回・平均で1.38 日の間に1度
・2019年度第1四半期変わらない頻度。
・2020 年1 月~ 8 月の間、の石炭の密輸出・・・約370 万t(推定3 億7 千万ドル=約406 億円相当)。月平均で46.25 万t 
・石炭密輸出のうち7 割以上の約280 万tは、北朝鮮船から中国船へ洋上での瀬取りによるもの。
・北朝鮮労働者の国外追放の義務付け・・・もっとも多い中国とロシアは一度追放した後に観光ビザなどで再入国して無効化。

つまり中国、ロシア、韓国などの国々は北朝鮮の制裁破りを半ば公然と行っていたわけで、トランプがこのような「国連制裁」に限界を感じて、マッドマンセオリの手段を選んだのです。
あのまま直接会談前の状況が進展したとしても、可能なのはせいぜいが瀬取りを封じるために海上封鎖をするていどのことしかできず、最大の北の支援国の中露がそれに参加しない以上、できることは限られていました。

海上封鎖といっても、仮に北朝鮮船舶がそれを突破しようとした場合、船舶を停船させ武装して臨検せねばなりませんが、北朝鮮が拒んだ場合戦闘となります。
最悪、処理を誤れば、戦闘は戦争にエスカレートする可能性があります。

このように、バイデンら民主党が言っている国連制裁の強化、あるいは同盟による北朝鮮包囲網は既にボロボロだったし、これ以上なにかしようとすれば戦争となりかねなかったのです。
このような既に実証済みのことを蒸し返すのが、スリピージョーです。

ま、もっとも仮に彼が直接会談をやりたいと言っても、周囲が絶対にやらせないでしょうがね。(笑)
彼ほど能力が欠落した大統領は歴史上稀ですから。
就任直後の各国首脳との電話会談はカマラがしてしまったような能力では、あながち冗談ではなくいまや「米国の最高機密は大統領閣下のボケ」のようです。

それはさておき、こういうバイデンのおつむの状態を国際社会は不安半分、興味半分で眺めているわけですが、北はさっさと見切りをつけてしまったことになります。
北は核開発再開中止の見返りに、米国政府に第3回の直接会談を呼びかけるかもしれません。
そしてそれが不発に終われば、堂々と核開発を再開する名分を得られます。
その感触を小当たりしているのが現在の段階で、遠からず更に露骨な核開発のステップが始まるはずです。

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バイデンのシリア空爆の背景にある「イランとの駆け引き」とは

またバイデン政権は、シリアの親イラン勢力に対して空爆を行いました。
バイデンはここでもトランプ路線を全否定し、イラン核合意に復帰すると言っています。
オバマの数少ない勲章ですからね。
いや待てよ、なにもしないのにもらっちゃったノーベル平和賞があったっけ(笑)。
その一方でサウジに軍事援助を停止するなど締めつけを始めています。

シリア空爆の理由は、イランの米軍への攻撃への報復です。

「バイデン米大統領は2月25日、イランの支援を受けた武装勢力がひそむシリア東部の施設への空爆を指示した。
米国防総省によれば、2月半ばにイラク北部で米軍駐留拠点の周辺がロケット弾攻撃を受けたことへの報復だという」
(ニューズウィーク3月1日)

いちおう米軍への報復と言っていますが、ならばカードを切るのが遅い。
米軍がテロ攻撃を受けたのですから、翌日にでも報復せねばなりません。
半月もたってから、これは実はね、と言っても寝言です。

不思議なのは、今、バイデンはイランとよりを戻したいのに、なぜイランと事をかまえるのか分裂的で理解に苦しみます。

「長年にわたって敵対してきた両国の関係は、オバマ政権下の2015年に締結された核合意をトランプ政権が一方的にほごにしたことで再び悪化。バイデンは就任早々、合意への復帰に意欲を示したが、前提条件として核開発を制限する合意内容をイランが再履行することを要求している」(NW前掲)

バイデンはこのイラン核合意に限らず、WHOやパリ協定の枠組みに戻ることを主張しています。
いみじくもトランプがCPACで、「なんの交渉もしないで、そのまま戻るのか」と嘲笑を浴びせたように、イランにただ核合意の枠組みに戻れといっても戻るはずがないじゃないですか。覆水盆に返らずです。
もうすでに核濃縮の濃度を兵器級にまで上げようとしている以上、イランは米国に更に高いハードルを要求するはずです。
だからいったんトランプが廃棄した核合意を元に戻すことは、至難です。

WHOにしても、米国が分担金割合が中国より多いことを問題視して脱退を表明したトランプに、WHOは必死になって引き止めにかかり「分担金はまけますから止めないで」と袖をつかんで泣いてすがったそうです。
ならばどうせ戻るなら、バイデンはそこから始めりゃいいのです。
分担金だけではなく、WHOの運営の透明化や民主化などいくらでも要求材料はありそうなもんなのに、初めから復帰ありきで始めちゃうから、得られるものも得られなくなります。 
それをトランプ憎し、政権オーナーのオバマにいい顔したいばっかりで頭が一杯のジジは、交渉もクソもなく、まんま戻ろうとするのですから、あんたロバか。
なぜそんな簡単なことに気がつかないのか、逆に不思議なくらいです。

話を戻しますが、イラン核合意復活のためにイランにすり寄れば、それは単に米国とイランの二国間関係に止まらず他のアラブ諸国との関係を極度に悪化させます。
トランプがとった中東政策は、中東の紛争の根っこにあったイスラエルとの関係をUAEやオマーンなどと国交を正常化させることで安定化させ、イランを完全包囲してしまうことでした。
これに中東の一方の盟主であるサウジが乗ることも確実視されていたのに、バイデンのイラン宥和・サウジ敵視政策でちゃぶ台返しです。
バイデンは野党時代にサウジのムハンマド皇太子を侮辱したために、そうでなくてもサウジから憎悪されていますしね。

このように見てくると、バイデンの選択肢は限られているようです。
トランプ路線を継承し現状維持を続けるのか、オバマ政権時のようにイランに宥和政策をとってアラブとの関係を放棄するのかの二択です。
前者を選べば、ブリンケンが言っているように「トランプは間違っていなかった」ことがはっきりしてしまって赤恥をかきますし、後者を選べば、イランはいうことを聞かず、アラブ諸国からは憎まれます。

かくして一番安易な解決法である戦争を選んで、力づくで言うことを聞かせようとして泥沼化させてしまいます。
これが民主党の戦争好き体質です。
ポリコレよろしく、自分の価値観を相手に力付くで押しつけようとして戦争を引き起こすのです。
これが民主党流の歴史的失敗のパターンでしたが、また繰り返すのでしょうか。

 

 

2021年3月 1日 (月)

オバマ時代に戻った尖閣対応

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あーあ、また戻っちゃっいましたね、バイデン政権の尖閣認識ときたひにゃ、昨日はアッチ、今日はコッチ。
まるでさまよえる難破船です。

「【ワシントン=永沢毅】米国防総省のカービー報道官は26日の記者会見で、沖縄県・尖閣諸島を巡って「米国の政策に変更はない」と述べ、尖閣の領有権について特定の立場をとらないとしてきた従来の見解を踏襲すると表明した。「日本の主権を支持する」とした自身の23日の発言を軌道修正した。
カービー氏は「米国は現状変更をめざす一方的な行動に反対する」と述べ、海警局の船を用いて尖閣周辺の日本領海への侵入を繰り返す中国を批判した。「バイデン大統領が菅義偉首相に強調したとおり、日米安全保障条約第5条のもとで尖閣を含めて日本を防衛する立場は揺るぎない」と語った。
カービー氏の23日の発言は日本の領有権を認めるかのような印象を与え、臆測を呼んでいた。同氏は26日の会見で「混乱を招いて申し訳ない」と釈明した」(日経2月27日)


同一の人物がこの発言のつい3日前にこう言っていたのですから呆れます。
「国防総省のカービー報道官は「中国は国際ルールを無視し続けており、我々はその活動への懸念を明確に示してきている。我々はインド太平洋でのルールに基づく秩序を強化するため、同盟国やパートナーと協力し続ける」と述べ、中国海警局の船による尖閣諸島周辺の日本の領海への相次ぐ侵入に懸念を示しました。  
その上で、「我々は尖閣諸島の主権について明確に日本を支持する」と表明。中国に対しては「重大な危害につながる可能性のある行動を避けるよう求める」と強調しました。(24日16:33)

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米国防総省報道官「尖閣巡る政策に変更なし」 発言修正: 日本経済新聞  

大国の外務省のスポークスマンが3日で発言内容を訂正とはみっともない。
たぶんポンペオ時代と同じことを言ってしまたので、政権中枢からお小言を食らってあわてて修正したんでしょう。

もちろん「尖閣領有権について特定の立場をとらない」と、「尖閣の主権は日本にある」では、1光年の違いがあります。
前者の「特定の立場をとらない」という意味は、尖閣は日本領土ではないかもしれないが、実効支配しているようなので日米安保条約第5条の適用範囲だ、からニッポンよ、安心しろ、という意味です。
領土問題で日本を支持するから、領土問題は存在しないへの180度転換です。
さすがに一回修正して再び修正はしないでしょうから、これで決まり。
これでは露骨なオバマ時代への逆行としか考えようがありません。

米国はオバマ時代には、一貫してこの「領有権には感知しないが第5条の適用範囲だ」というあいまいな立場でした。
これを体現していたのはカート.キャンベルです。
トランプ時代には下野していましたが、再びバイデン政権のアジア政策の司令塔として帰り咲きました。

「バイデン政権の対アジア、対日外交の方向なのだが、何でも直談判だったトランプと違ってバイデンは、オーソドックスなチーム外交。特にアジアの外交・安全保障問題については、国家安全保障会議に新設のインド太平洋調整官に任命されたカート・キャンベルが国務省、国防省、CIAなどを統括する司令塔的存在になりそうだ」(河東哲夫 1月23日)
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/79512

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カートキャンベル インド太平洋調整官
キャンベル氏、バイデン新政権でアジア政策「調整官」に: 日本経済新聞

「調整官」?はて、聞いた事のない謎のポジションですね。
おそらく裏の外交司令塔のはずのスーザン・ライス、ジョン・ケリーと並んで、キャンベルもオバマがバイデンに入れさせたのでしょう。
ちなみにライスが外交にしか関心がないのは誰も知っているはずで、この人物に国内問題をやらせるなどというのはとんだフェークです。
駆け出しのブリンケンを押し退けて、実際の外交政策を握るのは、間違いなくこのライスとキャンベル、そして元国務長官のジョン・ケリーだと思われます。
ケリーの肩書は温暖化対策特使ですが、ケリーは国務長官としてオバマの右腕だった人物で、これだけの大物を据えたのは単に党内左派に対する押さえだけではなく、肩書と無関係に外交をやらせるつもりだと見られています。

それはさておき、カート・キャンベルが知日派だからと妙に安堵する向きもあるようですが、「知日」という意味は特に日本を愛しているという意味ではありません。
むしろキャンベルなどは好きじゃないんじゃないのかな。ライスは完全な日本嫌いですし、ケリーは日本に慰安婦合意を無理やり飲ました当事者です。
この人の立場はある意味で一貫しています。
キャンベルは今日まで一貫してアジアを担当してきた民主党系の人物で、国防省の副次官補を務め、この2009~13年の期間は凄腕のジャパンハンドラーとして日本の首根っこを握っていましたので、日本の政界、官界には大きな人脈があります。

とうぜん、トランプ時代には干されていました。さぞ苦々しかったでありましょう。
キャンベルが権勢を誇っていた時期の尖閣についての発言はこうです。

[米国務省のキャンベル次官補(東アジア・太平洋担当)は20日、上院外交委員会小委員会で、日本と中国の間で深刻な問題となっている尖閣諸島(中国名:釣魚島)について、日本が攻撃された場合に米国が日本を防衛することを定めた日米安保条約の「明らかな」適用対象との認識を示した。
キャンベル次官補は、領有権に関する見解を示すのは控えたものの、日本が尖閣を管理していることを「はっきり認める」とし、「よって、(米国の対日防衛義務を定めた)日米安保条約第5条の明確な適用対象となる」と述べた」
(ロイター2012年9月21日)

これがオバマ時代の公式の尖閣に対しての立場です。
要は、日本が尖閣を「管理」しているんだから日米安保5条の防衛範囲に入っている、というだけのことです。
これは、民主党外交の基調で、今回もその延長です。
キャンベルと並ぶジャンパンハンドラーだったマイケル・グリーン元大統領補佐官は、クリントン時代こう言っていました。


同盟国間であっても領土紛争には不介入・中立の立場をとる

同時期のクリントン政権時の駐日大使ウォルター・モンデール(元副大統領)に至っては、第5条の範囲外だと明言していました。


尖閣諸島が第三国に攻撃を受けても、米軍は防衛には当たらない 

米民主党の尖閣方針の基本は、中国の膨張政策をただの二国間の領土紛争に矮小化し、結果それを容認する立場です。
このような言い方で、オバマは南シナ海でフィリピンが中国に領土を奪われ続けても「領土紛争不介入」とキレイゴトで見向きもしなかった結果が、今の南シナ海全域の軍事要塞化です。
オバマにはノーベル平和賞ではなく孔子平和賞こそふさわしい。

このグニャグニャと言質をとらせないオバマに業を煮やした安倍氏は、TPP妥結の餌を垂らして第5条適用範囲と認めさせたという経緯があります。
それをいまになって、オバマ時代と同じ人物をアジア「調整官」に立てて、寸分違わぬことを言い始めたわけですから、8年の間に起きた南シナ海の軍事占領や東シナ海への侵入は彼らの脳みそどう写っているのでしょうか。

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尖閣諸島手前から 南小島、北小島、魚釣島 2010年11月撮影
https://abhp.net/geography/Geography_Senkaku-Islands_100000.html

一方、トランプ政権時に米国陸軍長官をしたライアン・マッカーシーは2020年7月10日の講演の発言で、こう述べています。

[ワシントン 10日 ロイター] - 米陸軍のライアン・マッカーシー長官は10日、太平洋地域で中国に対し情報、電子、サイバー、ミサイル作戦を展開する2つの特別部隊を配備する計画を明らかにした。
部隊の展開は今後2年にわたる見通しだとし、「中国が米国の戦略的脅威として台頭する」ため、米陸軍は太平洋地域でプレゼンスを改めて拡大するとした。
新たな部隊の配備は中国とロシアがすでに備える能力の無効化に寄与する見通し。マッカーシー長官は、部隊が長距離精密誘導兵器や、極超音速ミサイル、精密照準爆撃ミサイル、電子戦力、サイバー攻撃能力を備える可能性があると述べた。具体的な配備場所には触れなかった。
また、公海や宇宙などの「グローバル・コモンズで中国は軍事化を進めている」と述べ、中国が行っている南シナ海の島での埋立てや軍事拠点化に言及した」(ロイター7月10日)

そしてマッカーシー陸軍長官は、東シナ海の米軍部隊の配備の新たな2箇所の候補地としてなんと尖閣諸島も候補に上げました。
第5条の適用範囲などという曖昧模糊のものではなく、共に尖閣防衛のために戦おう、米軍を配備してもいいぞ、というこれ以上頼もしい声は聞いたことがありません。
そして何度かふれているように、海兵隊2030年のシフトチェンジにおいて、宮古・八重山から南西諸島までズラリと対艦ミサイル網を配備する計画まで浮上しました。
係争地に米軍を配備できるはずもありませんから、尖閣が日本領であるのは合衆国政府の大前提だという立場です。

つまりトランプ政権時の尖閣方針はこう要約できます。

①米国は東シナ海の現状変更を企む中国を批判し、それに対する日本政府の立場を支持する。
②米軍は尖閣諸島に軍事基地を置く用意がある。
③日米同盟を機軸にして「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)を構築する。

一方バイデン政権を対比させるとこうなります。

①の認識はとりあえず同じ。ただし、なぜそうなってしまったのかという原因については口をつぐむ。
②尖閣の領有権には立ち入らない。
③?

さて、今後このオバマ時代に退行現象を起こしたような政権とつきあうにはどうしたらいいでしょう。
米国相手に何を言っても無駄です。糠にクギ。暖簾に腕推し。
仮に菅さんが安倍氏なみの外交的力量があるとすれば、バイデンとの首脳会談でなんらかの領土についての言質を引き出すことはできるでしょうが(たぶん無理です)、脳軟化ぎみのジジがなに言ってもすぐにライスにひっくり返されます。

そもそも中国が納得しないかぎり、この領有権問題は永遠に続くのです。
そして中国が納得などすることは、お日様が西から昇らないかぎり無理というものです。
考えられる対抗手段としては、今までにも何度か書いてきたように領海警備法を制定し、合わせて海上保安庁法も改訂し、有事には海保と海自が連携できる法的根拠を備えておくことなどがあります。

米海軍と海自が尖閣水域で共同訓練をするのもけっこうなことです。
なんなら尖閣水域で、日米豪英仏独印といった7カ国自由主義艦隊が航行の自由作戦をするのもいいでょう。

領有権問題というのは、市井でいう敷地の境界線問題のようなものです。
中国という隣人は、日本の敷地の柵を勝手に乗り越えて、こちらの敷地の中に自動車で乗り入れて我が物顔に乗り回し、困りますねとコチラが言おうもんなら、ここはオレ様の土地だ、お前は不法侵入しているゾ、と居直るというヤクザ屋さんまがいのことをしているわけです。

こういう手合いに棚上げにしようと決めてたじゃないかとか、騒ぐと係争地と認めるようなものだから大人の対応をしようなんていう外務省的センスではどうにもなりません。
ましてや、一部の人のいうように共同開発しようなんて、まるで共有地にするようなことを言おうもんならそのまま奪われてしまうこと必定です。

腹を据えて、国際司法裁判所にフィリピンンのように提訴することです。
中国が国際海洋法違反の海警法改訂をしたのはいい機会ですから、領有権も含めて国際的司法の場に出ることを宣言するのです。
どうせ中国は、申請な領土問題は内政問題だから、一切の国際司法の場に出ようとはしないでしょうから、国際仲介裁判所でなく、一国でも提訴できる常設国際裁判所に出ることを、公に宣言しましょう。

この常設国際裁判所は国際司法裁判所と同じハーグの平和宮殿にありますが、ややちがう性格をもっています。

「常設仲裁裁判所」は国家・私人・国際機関の間の紛争における仲裁調停国際審査を行うために常設されたもので、業務は国際法国際私法の両領域を含む。常設といっても、裁判官名簿と付属的機構の「国際事務局」と「常設評議会」があるのみで不完全なものとなっている。 国家をまたぐ企業の取引に関する紛争を仲裁する国際商事仲裁は、その都度主要各国で国際仲裁裁判所が開かれる。」(ウィキ)

 

中国はこの常設国際裁判所の締結国なので裁判になった場合、出廷を迫られることでしょう。
まぁ、いかなる判決が出ようと彼らにとっては「紙くず」でしょうが、ひとつだけ確かなことがあります。
それは今ここで海洋における法の支配がいかなるものかはっきりさせておかないと、このままグニャグニャのバイデンン政権の長い4年間に一気に既成事実を積み重ねられていってしまう、ということです。

 

 

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