あの2011年3月11日から丸10年たちました。
改めてお亡くなりになられた1万5899人、行方不明者2529人(2020年3月現在)の霊に手を合わせたいと思います。
合掌。安らかに。
今なお、身体は海の底にあろうとも、あなた方の霊は、私たちと共にあります。
もうそんなになるのかという感慨が湧いてきます。
被災者・被曝者の末席につらなった者のひとりとして複雑な心境です。
忘れたいという思いと、忘れさせてなるものか、という矛盾した心理に陥るからです。
おそらく今日あたりのメディアには震災10年の記憶を風化させてはならないという報道があふれかえることでしょう。
その中には、きっといまだに癒えない原発事故の傷跡というものもまざっているはずです。
私はあえていいますが、この10年をひとつの区切りとして、もうそのような報じ方は止めて下さい。迷惑です。
国連科学委員会(UNSCEAR アンスケア) は今年も3月11日に合わせて報告書を出しました。
「東京電力福島第一原発事故の被曝(ひばく)による健康影響を評価した報告書を、原子放射線の影響に関する国連科学委員会が9日公表した。報告書は2014年以来。最新の知見を反映して福島県民らの被曝線量を再推計し、前回の値を下方修正した。これまで県民に被曝の影響によるがんの増加は報告されておらず、今後も、がんの増加が確認される可能性は低いと評価した」(朝日3月10日)
今回の国連科学委員会の報告を読むと、至ってあたりまえのことをあたりまえに淡々と書いているにすぎないように見えます。
ところが2011年にはまったくそうではありませんでした。
この時代、この報告書にあるようなことを書くと「原子力村のイヌ」と呼ばれたものです。
朝日はさんざん煽った総本山のようなところですが、懺悔なのか詳細にこれを報じています。全文は欄外に貼っておきます。
朝日は新聞協会賞を受賞した『プロメテウスの罠」ではこんなことを書いています。
「有馬理恵(39)のケース。6歳になる男の子が原発事故後、様子がおかしい。4カ月の間に鼻血が10回以上出た。30分近くも止まらず、シーツが真っ赤になった。(中略)
原発事故後、子どもたちの体調に明らかな変化はありませんか」。すると5時間後、有馬のもとに43の事例が届いた。いずれも、鼻血や下痢、口内炎などを訴えていた。(中略)
こうした症状が原発事故と関係があるかどうかは不明だ。首都圏で内部被曝というのは心配しすぎではないかという声もある。しかし、母親たちの不安感は相当に深刻だ。たとえば埼玉県東松山市のある母親グループのメンバーは、各自がそれぞれ線量計を持ち歩いている」(朝日新聞「プロメテウスの罠」2011年12月2日)
もちろん急性被爆でもしないかぎり鼻血などでるはずがありません。
朝日がネタもとにしたこの「有馬」という女性は、共産党系の反原発運動家だということがわかっています。
これが放射能鼻血デマです。いまではお笑いですが、大きく拡散して母親たちを恐怖に陥れました。
このような煽りをする人たちは、実際の状況を見ないで、その人の頭の中にある脳内地獄を見ているだけにすぎないのです。
そしてこういう風評が被災地住民、特に子供たちを傷つけていることをわかろうとしません。
たとえばこの人たちのイメージはこうです。
農地はチェルノブイリ並の放射能にまみれ、山野には積もった放射性物質が堆積していて、常に川に流れ込んでいる。
作物は放射能で汚染され、今でも多くの作物が秘かに捨てられている。
除染をやってももきりがない、除染しても救われないほど放射能がしみ込んでしまっているからだ。
子どもたちにガンが出ていても、政府は隠している。実際は数万人がガンで多くが死んだという噂だ。
そして福島にはもう住めない、福島に子供を行かせるな。
最悪のデマッターのひとりであった武田邦彦はこう述べています。
今はシャラっと忘れて保守論客のような顔をしているようなので、忘れさせないために掲載しておきましょう。
原子力と被曝 福島で甲状腺ガン10倍。国は子どもの退避を急げ! 武田邦彦
国は直ちに次の事が必要です。
1)高濃度被曝地の子どもを疎開させる(除染は間に合わない)、
2)汚染された食材の出荷を止める、
3)ガンになった子どもを全力で援助する、
4)除染を進める。また親も含めて移動を促進する。
5)「福島にいても大丈夫だ」と言った官吏を罷免し、損害賠償の手続きを取る。
日本の未来を守るために、大至急、予防措置を取ることを求めます。
2013年2月14日武田ブログ
http://takedanet.com/2013/02/10_6a83-1.html
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2014/05/post-73da.html
武田は「東日本は住めない」「福島から子供を疎開させろ」「東日本の食物は食べたら死ぬぞ」などという流言蜚語を大量に社会にまき散らしました。
参考資料http://www.gepr.org/ja/contents/20150309-01/
「被曝」地で孤立する私たちに対して、2011年春から夏にかけて激烈なバッシングの嵐が浴びせられました。
出荷物は東日本産であるだけで市場から追い返され、農家はトラクターで売れない作物を踏みつぶし、牛乳は地面に捨てられました。農家から自殺者すらでたのがこの時期です。
なおも発信を止めない私のブログには連日、「お前らが農業を止めるのが一番の復興の道だ」とか、「お前は毒を国民に送る無差別テロリストだ」「税金をかけてこいつらを助けないでください」というような罵詈雑言が連日浴びせられました。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/08/post-6638.html
復興を大きく遅らせたのは、この放射能に対するデマッターたちの流言蜚語、そしてそれを拡散した朝日、毎日、東京などのメディア、さらにはそれをコントロールしようとしなかった当時の政府の度し難い無能にあります。
このデマをまともに受けた数万の家族が自主避難者になったのもこの頃です。彼女たちは住み慣れた家と地域を捨て根無し草になってしまいました。
デマッターたちは、福島事故の影響をこれでもかというほど誇張してみせて、口では被災者を救えなどといいながら、実際はサディスティックに叩きのめしていました。
彼らは福島事故が悲惨であると叫べば叫ぶほど、まるで自分たちの反原発の主張が国民に浸透すると勘違いしており、福島県をわざわざ「フクシマ」と表記しました。
そこには、どうか福島県が「ヒロシマ」のようであって欲しい、どうかチェルノブイリのように悲惨であってほしい、もっと福島が地獄でないと困る、という卑しい願いが込められていました。
ところで、無能であるばかりか、かえって存在することによって復興を妨げたのが当時の民主党政権でした。
本来は正しい情報を与えるべき政府がまったく情報を流さなかったために、SNSでデマッターの跳梁を許してしまいました。
民主党政権は大衆迎合主義者の集合体であったために、当時の「事故前はゼロベクレルだったのだから、ゼロベクレルでなければ危険だ」という極端なゼロリスク論に簡単に屈してしまいました。
たとえばチェルノブイリで最も深刻な打撃を食ったベラルーシですら13年間かけて漸減させた放射線食品基準値を、民主党政権はわずか1年で平時の欧米の食品基準値より低く設定したのですから、まともとは思えません。
この政府の過激な食品基準値に、大多数の食品降ろし、小売りが追随したために風評被害はいっそう拡がり、現地農業は更に大きな打撃を受けました。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/02/post-4e0c.html
■ベラルーシにおける食品規制値の推移
単位ベクレル/㎏
86年 88年 92年 96年 99年
・水 370 18.5 18.5 18.5 10
・野菜 3700 740 185 100 40
・果物 同上 70
・牛肉 3700 2960 600 600 500
・パン - 370 370 100 60
・豚肉・鶏肉 7400 1850 185 185 40
・きのこ(生) - - 370 370 370
・きのこ(乾燥) - 11100 3700 3700 2500
・牛乳 370 370 111 111 100
幼児食品 - 1850 37
民主党政権の無能・無知・無神経は目を覆うばかりで、「被爆」地を訪れた枝野官房長官は防護衣に身をくるみ、平常の事務服で迎えた村長たちとゴム手袋をしたまま握手しました。
枝野官房長官のこの防護衣姿自体が、「被爆」地は放射能汚染地だ、近づくなというメッセージになってしまっていることに気がつきもしないのです。
もはや政治家うんぬんという以前の人間性の問題です。
事故収束に失敗し、風評被害を拡大させ、住民に塗炭の思いを味合わせた同じこの人物が、今性懲りもなく「原発ゼロ」を掲げているのを見ると、人間不信になりそうです。
一方科学的調査は、政府の無能ぶりとは別個に事故直後から地道に続けられていました。
2011年の夏という初期の段階で、既に完全ではありませんが、政府のホールボディカウンターを使った疫学調査結果は出ていました。
これは秘密資料でもなんでもなく、公表されていました。
●2011年9月末までの福島県の住民4463名の内部被曝の疫学調査結果
・最大数値であった3ミリシーベルト・・・2人
・2ミリシーベルト・・・8人
・1ミリシーベルト以下・・・4447人
当時デマッターたちは盛んにセシウムが女性の卵巣に影響を与えると言っていましたが、750ミリシーベルト以上の被曝線量が必要です。
それがチェルノブイリでの疫学調査の発症ラインだからです。
セシウムは筋肉などに蓄積する性格をもっていますから全身均等被曝します。一定の臓器に蓄積されることはありません。
百歩譲って、卵巣にのみ蓄積されたとしても、福島の最大内部被爆量3ミリシーベルトは、チェルノブイリの750ミリシーベルトの、250分の1でしかありません。
これで福島の女性が不妊になる、あるいは先天性奇形を出産することは断じてありえません。
当時から相馬現地で医療活動をしていた坪倉医師は、体内被曝の数値を独自に測定してこのように述べています。
「南相馬で測定した約9500人のうち、数人を除いた全員の体内におけるセシウム137の量が100ベクレル/kgを大きく下回るという結果が出ました。これは測定した医療関係者からも驚きをもって受け入れられたそうです」 http://blog.safecast.org/ja/2012/09/dr_tsubokura_interview/
では、子供の被曝はどうでしょうか。
坪倉先生のチームでは、これまでに、いわき市、相馬市、南相馬、平田地区で子供6000人にWBCによる内部被ばくの測定をしました。親御さんの心配もあり、この地域に住む子供の内部被ばく測定の多くをカバーしています。(一番多い南相馬市で50%強です。)
6人から基準値以上の値が出ています。6000人に対して6人というのは全体の0.1%で、この6人のうち3人は兄弟です。基本的には食事が原因に挙げられるでしょうが、それ以外にもあるかもしれないそうです。
子供の線量について、坪倉先生はこう分析します。 「子供は大人に比べて新陳代謝が活発で、放射性物質の体内半減期が大人の約半分ということがわかっています。ですから、子供の場合は例え放射性物質が体内に入ったとしても、排出されるのも早いです」
福島県は県民健康調査で、2011年から3年間の新生児の先天性奇形やダウン症、早産、低体重を調査しましたが、全国の発生率と変わりがありませんでした。
そもそも原発事故によって甲状腺ガンが増えるなら、チェルノブイリのように4年から5年後に数値がハネ上がらねばなりません。
(図 東海村ガン検診資料)
ところが福島県において、そのような増加は見られず、県内の地域ごとのばらつきもありませんでした。
増加してみえるのは検査対象数が倍増したからです。
もし放射能の影響ならば、事故の影響がなかった会津地域と中通り地域が同じはずがないのです。
6年前から国連科学委員会(UNSCEAR)は福島事故最終報告書でこう述べていました。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2014/04/unscear-0b78.html
「福島原発事故の結果として生じた放射線被ばくにより、今後がんや遺伝性疾患の発生率に識別できるような変化はなく、出生時異常の増加もないと予測している。
その一方、最も高い被ばく線量を受けた小児の集団においては、甲状腺がんのリスクが増加する可能性が理論的にあり得ると指摘し、今後、状況を綿密に追跡し、更に評価を行っていく必要があると結論付けている。甲状腺がんは低年齢の小児には稀な疾病であり、通常そのリスクは非常に低い」
このように実証的調査によってガンが多発し、「40万人がガンで死ぬ」という妄説は完全に否定されました。
驚くほど放射性物質が土壌に吸収されなかったのです。
当時、山や河川、海に堆積しているという説も散々流布されましたが、それは土壌の復元力を知らないから言えたことだでした。
実際に11年当時 、現地の農地に実地調査に入った農学者たちは、全体に驚くほど線量が低く、多く検出されるのはごく一部だと報告しています。
その原因は科学的に解明されました。
セシウムは土壌中の粘土によって吸着固定されるからです。
また土壌中に含まれる腐食物質はマイナスイオンの電荷を持つために、セシウムのプラス電荷粒子を吸着し、粘土質の細孔 に封じ込めしまうという驚くべきこともわかってきました。
農水省飯館村除染実験報告
http://www.s.affrc.go.jp/docs/press/pdf/110914-09.pdf
つまり土中の粘土質は物理的に放射性物質を封じ込め、そのプラス電荷でマイナス電荷の放射性物質を電気的に吸着していたのです。
このような察知とその後の科学的解明の作業によって、当時不思議に思われていた同一地域において空間線量が同一なのにかかわらず、作物の放射線量に差がでる現象は、粘土質であるかどうかなど微妙な土質の差にあることがわかりました。
このように福島事故からの10年間は、人を踊らせようとする者と地道に戦い続けた者との戦いでもあったのです。
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■「福島県民がん増える可能性低い」 被曝線量を下方修正
朝日2021年3月9日
東京電力福島第一原発事故の被曝(ひばく)による健康影響を評価した報告書を、原子放射線の影響に関する国連科学委員会が9日公表した。報告書は2014年以来。最新の知見を反映して福島県民らの被曝線量を再推計し、前回の値を下方修正した。これまで県民に被曝の影響によるがんの増加は報告されておらず、今後も、がんの増加が確認される可能性は低いと評価した。
科学委は欧米や日本など27カ国の科学者らで構成。世界中の論文を検証し、被曝による健康影響の科学的根拠をまとめるのが役割。報告書は世界の科学研究や各国の政策のベースとなる。1986年のチェルノブイリ原発事故では被曝の影響で子どもの甲状腺がんが増えたと結論づけた。
福島の14年の報告書では、データ不足のため、実際には流通していない汚染食品を食べたと仮定するなどして県民らの被曝線量を推計していた。今回は、事故後に流通した食品の放射能の実測値など19年末までに入手できた新しいデータを取り込み、実態に近い推計をめざした。
その結果、事故後1年間の甲状腺への平均被曝線量は、県全体の1歳で1・2~30ミリシーベルト、10歳は1~22ミリシーベルトと、14年の推計値の半分以下になった。14年は、80ミリシーベルト近く被曝した子が大勢いれば「がんの増加が統計的に確認される可能性がある」と評価していたが、今回は「放射線による健康影響が確認される可能性は低い」とした。
甲状腺がん疑いの診断については
福島県が11年6月から続ける県民健康調査では、事故時18歳以下の子らを対象にした甲状腺検査で251人が甲状腺がんか疑いと診断された。科学委は報告書で、被曝の影響ではなく、高感度の超音波検査によって「生涯発症しないがんを見つけた過剰診断の可能性がある」と指摘した。県の評価部会の専門家も同様の指摘をしているが、県などへの不信感から健康影響を心配する人もいる。
全身への被曝線量も下方修正され、県全体の成人で平均5・5ミリシーベルト以下となった。がんで亡くなる人が明らかに増えるとされる100ミリシーベルトを大きく下回り、県民の間で将来、健康影響が確認される可能性は低いと評価した。
科学委のギリアン・ハース議長は朝日新聞の取材に「今回の報告書が、福島の人たちの安心につながることを強く願う」と語った。新型コロナウイルスの感染状況を踏まえながら、福島の人たちに直接、報告書の内容を説明する考えも明らかにした。
科学委の元日本政府代表で東京医療保健大の明石真言教授(被ばく医療)によると、今回の報告書は客観性を保つため、日本以外の専門家が執筆したという。明石さんは「独立した国際組織が示した今回の報告書の内容を、福島だけでなく、日本中の人に知ってもらいたい」と話した。
国連科学委員会による福島県民らの推計被曝(ひばく)線量
(福島県内の各市町村の平均値。単位はミリシーベルト)
2014年の報告書 今回
甲状腺(1歳) 15~83 1・2~30
甲状腺(10歳) 12~58 1・0~22
全身(成人) 1・0~9・3 0・046~5・5
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