日米2プラス2始まる。確認されたクアッドの価値と残る不安
今日、アンソニー・ブリンケン国務長官とロイド・オースチン国防長官が訪日し、いわゆる2プラス2会合を行います。
ちなみに「2プラス2会合」とは、外務+国防のふたつのパートの責任者が行うハイレベルの会談のことで、バイデン政権になっては始めてのことです。
日本は米国と1990年以降、実に14回開催しています。これは日本はもちろん、米国にとっても最多ではないでしょうか。
今回に関して、バイデン政権が発足して最初の2プラス2ですから、他の同盟国とは比較にならない重要度があるという判断があったのはいうまでもありません。
米国務省は訪日前に長文のコメントを出しています。
Reaffirming the Unbreakable U.S.-Japan Alliance (再確認された棄損されることなき日米同盟)というものです。
おそらくこれは前段で日米の2プラス2の事務方で詰められたもので、ここに書かれた基調で共同声明が出ることは間違いありません。
ブリンケン国務長官とオースチン国防長官
日米2プラス2で米閣僚が来日 初外遊はアジア重視の表れ - 産経
この声明には、" Strong Alliance Based on Shared Values"(共通の価値観に基づく強力な同盟)というフレーズが含まれています。
「日米同盟は、60年以上にわたり、インド太平洋および世界中の平和、安全、繁栄の礎としての役割を果たしてきました。
私たちは、世界的なCOVID-19パンデミックの抑制、気候変動との闘い、民主主義と人権の強化、自由で公正な貿易の促進、アジアおよび世界中での悪意のある影響と中国の挑発への対抗など、共通の課題に協力することに取り組んでいます。
アメリカ人と日本人は、自由を守り、経済的および社会的機会と包摂を擁護し、人権を擁護し、法の支配を尊重し、すべての人を尊厳をもって扱うという深く根付いた価値観を共有しています。
日米の人々は、必要なときにお互いを支え合っています。日本は、9.11攻撃とハリケーン・カトリーナに続いて支援を提供した最初の国の1つであり、アメリカ人は、10年前の今月の東日本大震災の余波でトモダチ作戦を通じて日本を支援したことを誇りに思います」
ここまではかなり日本の要求が盛り込まれています。
現時点で日本が米国に外交と安全保障で欲した要素の多くが入っています。
それは「民主主義と人権の強化、自由で公正な貿易の促進、アジアおよび世界中での悪意のある影響と中国の挑発への対抗など、共通の課題に協力することに取り組む」とした部分です。
ここで「中国」とはっきり名指ししています。
同盟というのはたんなる友好関係一般ではありませんから、脅威の対象を共有せねば成立しましせん。
ですから、新政権となってこの「共通の脅威」を名指しするかしないかというのは重要なのです。
大きくは日米同盟の「主敵」が一体誰であるのかを明確にし、直接には尖閣を含む東シナ海の防衛に関わってくることですから、はずしてもらっては困る部分でした。
当然日本側は事前に強く要請していたようです。
「日米両政府は16日にも都内で外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を開く。共同発表する文書は、沖縄県・尖閣諸島周辺で領海侵入などを繰り返す中国を名指しし、批判するよう調整する」(日経3月9日)
「調整する」というのは独特の役人表現ですが、事務方で要請したという意味です。
もんでくれたのはけっこうですが、ただし「インド太平洋および世界中の平和、安全、繁栄の礎 」という表現にはひっかかります。
この表現は従来のクアッドにあった「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)の「開かれた」という文言の代わりに「繁栄」が入っています。
この「開かれた」という表現は、ただの航行の自由にとどまらず、それを保障する「法の支配」という意味を伴っていました。
具体的には国際法と国境の遵守のことです。
ですから「法の支配」という文言が入らないと、中国がした南シナ海の強奪の犯罪性がわからないし、今進行している東シナ海における中国の軍事膨張の意味も理解できなくなります。
※追記 共同声明に以下の文言がはいりました。
日米豪印首脳共同声明:「日米豪印の精神」
我々は、インド太平洋及びそれを超える地域の双方において、安全と繁栄を促進し、脅威に対処するために、国際法に根差した、自由で開かれ、ルールに基づく秩序を推進することに共にコミットする。
我々は、法の支配、航行及び上空飛行の自由、紛争の平和的解決、民主的価値、そして領土の一体性を支持する。我々は共に協力し、そして様々なパートナーと協力することにコミットする。
我々は、ASEANの一体性と中心性、そして「インド太平洋に関するASEANアウトルック」への強い支持を再確認する。潜在性に満ちた日米豪印は将来を見据える。日米豪印は、普遍的価値に基づき、平和と繁栄を支持し、民主的強靭性を強化することを追求する。
これに先日の「尖閣の領有権には立ち入らない」という国務省スポークスマンの発言修正と重ねると、憂鬱になります。
つまり米国は日米安保第5条の適用範囲である姿勢は変化させないが、その焦点であるはずの尖閣についての日本の「法の支配」には無頓着であるという意味と解釈できるからです。
これではオバマ政権時の南シナ海での失敗の繰り返しになる可能性が残ります。
オバマは南シナ海のフィリピン領土の島々について「個別の領土紛争には立ち入らない」というキレイゴトで済ましてしまった結果、南シナ海全域を中国に軍事支配されるはめになってしまいました。
米国は、この中国の南・東シナ海の軍事支配を明確に批判し、強く対抗するためにはこの領有権問題に踏み込んで被侵略国を守らねばならないのです。
そこから目をはずして「同盟国」一般の重要性を強調されても、なんだかなぁという気分になってしまいます。
この国務省声明にも、冒頭に大きく掲げられたバイデンの言葉はこう述べています。
"America’s alliances are our greatest asset, and leading with diplomacy means standing shoulder-to-shoulder with our allies and key partners once again."
アメリカの同盟は我々の最大の資産であり、外交をリードすることは、同盟国や主要パートナーと再び肩を並べることを意味する。
これがバイデンがトランプと自らを区別する「同盟重視」政策なのですが、「肩を並べる」だけじゃ困るんですよ。
日米豪印、ワクチン支援で一致 「中国の現状変更に反対」と菅首相
これはクアッドのリモート首脳会談でも感じたことですが、米国に望まれるものは自由主義陣営の強力な盟主としての存在感です。
おお、ここにアメリカ合衆国が守護神としてそびえたっているぞ、という空気感が大事なのです。
ちゃんと外交用語にもなっていてpresence(プレゼンス)と呼びます。
同じリモート会談をするにしても、トランプなら「オレが主役。オレについて来い」的なプレゼンスが濃厚にありましたが、バイデンは4国の一角にちょこんなんといる印象を受けました。
バイデンのホワイトハウス内の存在感のように、ここでも存在感が希薄ですから、言うことも総花的です。
「世界的なCOVID-19パンデミックの抑制、気候変動との闘い、民主主義と人権の強化、自由で公正な貿易の促進」ときて、末尾に「 アジアおよび世界中での悪意のある影響と中国の挑発 」と並びますから、よもやこの順番が重要度じゃないよね、と私が外務大臣なら聞いてしまうところです。
これでは「気候変動との戦い」、つまりバイデン流の炭酸ガス抑制政策が「中国の悪意ある挑発」より重くなってしまいますからね。
もしそうなら、うちの国からは岸防衛相ではなく、セクシー進次郎を出してプラスチックゴミで国産スニーカーを作りましょうなんて言わしたほうが受けるでしょう。(どうでもいいけど親の馬鹿の遺伝だね)。
実際、この国務省声明はこんなことも書いているのです。
「バイデン・ハリス政権は、同盟国とのアメリカの関係と、それらの同盟国間の関係を強化するために取り組んでいます。日本と韓国(ROK)との関係ほど重要な関係はない。米国は、COVID-19に取り組み、気候変動に対処するための日韓協力の拡大を推進し、北朝鮮の非核化を含む幅広い地球規模の問題に関する三国間協力を再活性化し続けている。
米国と日本の間の強固で効果的な三国間関係は、自由と民主主義の擁護、人権の擁護、女性のエンパワーメントの擁護、気候変動との闘い、地域的および世界平和、安全保障、そして世界太平洋における法の支配を促進する上で、我々の安全保障と利益にとって極めて重要である」
そもそも「バイデン・ハリス政権」と、正副大統領を並列すること自体異様です。
トランプ・ペンス政権と呼ばなかったように、バインテン・ハリス政権という書き方をすれば、バイデンが職務執行不能となってハリスに替わるのが民主党の規定路線だという噂を信じたくなってしまいます。
そしてここでは突然韓国が飛び出します。しかも妙に熱が入った書き方です。
“No relationship is more important than that between Japan and the Republic of Korea (ROK)” (日本と韓国との関係ほど重要な関係はない)ですと。
しかもこの日韓関係を幅広いグローバルな課題に向けて “reinvigorate”(再活性化)させるそうです。
そういえば米国は韓国の駐留経費問題をあっさりと片づけてしまいました。
バイデンは韓国を元のバリバリの同盟国として遇そうということのようです。
たぶんこの数年にわたる米国の冷淡な韓国への扱いがトランプ独特のものだから同盟重視で復元せねばと思っているのかもしれませんが、できたらお慰み。
ここまで韓国が明瞭に離米政策を取り、北朝鮮に熱いラブコールを送り続け、中国にすがりついてたのを見れば、ムンが元の鞘に戻ることはありえません。
ムンが辞めて時期大統領が保守から出るようなことになれば対米関係だけは修復できるでしょうが、対日関係は不変です。
米国のこのような日韓宥和政策に気をよくして、またもやわが国が決して飲めない言いがかりを言い出すことが目に浮かびます。
いわく慰安婦問題、徴用工、軍艦島などなど、浜の真砂は尽きぬとも、コリアに反日の種は尽きまじですからね。
そんなことは韓国の趣味の世界なのですから「いつまでもひとりでやっていなさい」と冷たく放っておくしかないのですが、かつて慰安婦合意の時のように、日本にだけ妥協を強いてくるのかもしれません。
そういえば、バイデン政権影の国務長官であるケリーは、この慰安婦合意を安倍氏 に強いた人物でしたっけ。
ブリンケンは信用できる、米国は日本を切れないんだ、猿山理論とやらでニッポンは安泰とはしゃぐ人らもいるようですが、私は元に戻った感ありありです。
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えーっと、昨日の時事だったかで「尖閣諸島は日米安保条約の適用範囲と明記」ってあったんだけど、あれ、今記事が見つからん。そこはヨシヨシと思ったんだけど。。
他は本当にオバマ時代に戻った感じですね。
クアッドに関しては中国を名指しで牽制してますけど、重要項目のところで温暖化対策とサプライチェーンは中国も一緒にやらないとどうにもならないしで、まあ大事にはしたくないが本音でしょうね。。
投稿: 山形 | 2021年3月16日 (火) 06時20分
バイデン政権は中国と積極的に事を構えるつもりなどなく、それが日本政府の対中外交に出ている感がします。バイデンは中国の歴史的統一状態を重んじていて、香港やチベット・ウィグル問題でさえ「文化の違いとして尊重する」というスタンス。もちろん議会の意思とは相違しますが、常の誤魔化しと不作為で時間稼ぎを続けるつもりでしょう。そういう考えの延長線上に尖閣もあると考えたほうが良さそうです。
第二次大戦時の日系人の苦労はたしかに忍び難いものがあったと思いますが、バイデンは70年前の日系人収容所の件について改めて謝罪しています。正直、ちょっと不自然で気色の悪い感じがしました。すでに十分な補償をし、謝罪も過去政権が行なっているのにです。
この事を慰安婦問題に当てはめたとしたら、バイデンの正義は「日本が韓国に再度謝罪する事」に尽きると思います。
米国はどうしようもない自分勝手な国ですが、トランプがやろうとしたように「唯一のスーパーパワーたる強いアメリカ合衆国によって率いられる 国際社会」に戻さない限り、徐々に民主主義国家が中共に蝕まれる続ける結果になると思います。バイデンのいわゆる「同盟国主義」は、「同盟国皆で沈んで行こう」とする事と同義です。社会民主主義傾向のEUなど、さらに問題外です。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2021年3月16日 (火) 18時09分
> トランプがやろうとしたように「唯一のスーパーパワーたる強いアメリカ合衆国によって率いられる 国際社会」に戻さない限り、徐々に民主主義国家が中共に蝕まれる続ける結果になると思います。 (山路さん)
おっしゃるように、強いアメリカこそが頼りになります。そうでなければ、日本が強くなるしかありません。軍事力整備を政治家の右顧左眄で遅らせるような事態があってはならないでしょう。国会でハッキリと国防・外交策を確立しないと安心できませんよね。現実認識が足りない公明党も頼りになりませんし、その他の野党も同様。日本を導く強いリーダーが今は欲しいところ。
トランプさん率いる共和党が国内の諸々の混乱を収め中間選挙で圧倒的な強さを示せることができれば、アメリカは再び立ち上がれるかもしれません。中国をけん制するためには、まず日米が協力し、そして強くなければなりません。
投稿: | 2021年3月16日 (火) 23時52分