共和党内はトランプが実権を掌握した
CPEC(保守政治行動会議) が終了しました。
誰の目にも鮮明に写ったのは、たぶんトランプのカリスマ性ではないでしょうか。
今の米国の政治家に、いや世界の政治家にも彼のようなカリスマ性と政治主張が分かちがたく結びついている政治家はいないのではないでしょうか。
私は正直にいえば、トランプには苦手な部分が多々ありました。
オーバーなしぐさ、野卑な言葉遣い、野蛮な討論スタイル、ハッタリが多い言動、勘弁してくれや、と思っていたのも確かだったのですが、今回あらためてこのドナルド・トランプという男を見直しました。
なぜかくも多くのアメリカ人の心を掴んではなさないのかがよーくわかりました。
静かに登壇し、待たせたかい、から始まる怒濤のような1時間30分。
ある時は具体的に、ある時は軽妙に、そしてある時はアメリカの叙事詩を謳うがごとく、言葉の奔流で聴衆を惹きつけました。
まるでロックスターのようです。
どこに星条旗に抱擁する大統領がいたのでしょうか。
トランプ大統領「北朝鮮は取引すれば輝ける未来がある」:朝日新聞デジタル
感情をむき出しにし、愛憎を隠さない、あくまで心の赴くままにドナルド・トランプという希代の勝負師を演じ切る。そんな真似ができる人物が今の米国にいますか。
こういう野放図なまでの情熱が彼の真骨頂なのです。
それはオバマのようにサロンに巣くう大学教授たちをうならせるものではなく、テッドクルーズがこの 集会で言っていたように「手にタコをつけて働く鉄鋼労働者、パイプライン作業員、運転手、勤労者の党がオレらリパブリカンなんだ。フリーダム!」という声と呼応します。
このクルーズははっきりとトランプ支持を口にしました。
これは腐り切った共和党主流派への反旗であり、同時にトランプ革命政権成立の鐘だった気がします。
さて、ニューズウィーク(2月27日)も、共和党がトランプ派に乗っ取られたと述べています。
渡瀬裕哉 トランプの扱いを巡って米国共和党
渡瀬氏は共和党を三つに分類します。
まず第1に共和党主流派。反トランプの牙城です。
この流派は俗に穏健派、ないしは中間派と呼ばれています。
政治的には今までの米国の外交路線、内政をそのまま踏襲し、民主党側とも妥協を図ってきたグループです。
実際に、彼ら主流派は民主党中間派のバイデンなどとはツーカーの仲だったはずで、彼らはトランプになるくらいならいっそバイデンのほうがましだと考えています。
過去、この派閥から共和党は大統領を出してきました。ブッシュ親子、そしてその副大統領だったチェイニー、今のロムニー、チェイニーの娘のリズ・チェイニーなどです。
実際に、彼らは民主党のトランプ弾劾に賛成票を投じ、地元で逆に釣るし上げられたようです。
今回の任期終了後の弾劾手続きの最大の狙いは、弾劾によって公民権を停止させ、2024年の大統領選挙へのトランプ氏の立候補を封じることにあったのですが、結局逆にトランプに強い求心力を与える結果となってしまいました。
上院でトランプ氏の弾劾に票を投じた一番の大物は2012年の共和党の大統領候補であったロムニーで、ロムニーとトランプの確執は前から知られていたことで、驚きはさほどありません。
リズ・チェイニーbloomberg.co.jp
むしろ注目を集めたのは、下院共和党ナンバー3の地位にあるリズ・チェイニーへの風当たりの凄まじさでした。
チェイニーはブッシュ政権時の副大統領の息女で、ホワイトハウスの居住経験の持ち主です。
今や父を継いで共和党主流派の女帝的存在だったはずですが、逆に弾劾される立場になってしまいました。
弾劾には勝ったものの、かつての肩で風を切る風情は消え失せました。
彼らは政財界の代弁者で、多くの大企業の後押しがありますが、選挙戦を戦い抜く草の根団体には影響力はありません。
ですから、本来は勤労者、農民を味方にしないと選挙戦に勝てないのですが、この層をごっそりとトランプに持っていかれたために哀れ丸裸になってまいました。
今や、トランプ弾劾に入れた両手の数ほどの議員がいるばかりにまで衰退しています。
第2に、レーガン保守派。
彼らはいわゆるティパーティ派を源流としています。
減税推進、銃規制反対、中絶反対、小さな政府がスローガンです。
彼らの中心的メンバーはレーガン時代に青春を過ごした人々や福音派などの宗教保守派ですが、若い層はすでにトランプ派によって浸食されて、いまやトランプ派と統合されかかっています。
たぶんペンスはこれに近いのではないでしょうか。
そしていまや新主流派となったのが、第3のトランプ派です。
彼らの政治主張はほぼレーガン派と同じですが、より若向きで、レーガン派が古典的な保守だったのに対してQアノン愛好家などのやや怪しげな連中もウィングに入っています。
ここがオールドコンサバには不評ですが、今の米国の世相をそのままくみ取っているともいえます。
そして私は弾劾裁判を通してこの三国志的構図に、トランプ派が完全勝利したとみます。
産経の黒瀬支局長は、例によってこんなことを書いていました。
「昨年の大統領選をめぐっては「不正があった」とする、信頼に足る証拠や裏付けに乏しい主張を改めて展開。選挙の無効などを求めたトランプ陣営の訴えを実質的に門前払いした保守派が多数の最高裁を「意気地なしだ」と批判した」(産経3月1日)
ズレきっていますね。「裏付けがない不正選挙の主張」ですか?
そんなことはどうでもいい。まだわからないのか、この人は。
黒瀬さん、そんなことにはCPACのポイントはないのですよ。
フェーズは進化したということ、これがCPACの眼目です。
つい1カ月前までの「不正選挙」ウンヌンは、弾劾裁判の無罪判決で完全終了し、今やまったく異なるフェーズに入っていることを報ぜずに、まるでトランプがいまでも不正選挙の陰謀論にしがみついていると書いているんですから、どうにもなりません。
産経もそろそろこの役立たずを、支局勤務からやり直させたらどうですか。古森さん、あなた教育誤ったね。
トランプは行きがかり上、「不正選挙」に言及しましたが、もはやそこには重点はありません。
彼が一貫して演説で強調していたのは、来年の中間選挙と4年後の大統領選に共和党を一枚の鉄板のように鍛え上げて勝利する、という呼びかけでした。
いまだオレが負けたのは不正選挙があったからだ、なんて愚痴をこぼすほどトランプは落ちぶれてはいないのです。
凡庸な政治家ならそういうところでしょうが、彼は共和党を一枚の鋼のように鍛え上げることで、勝利をすると言っています。
「君たちは『(わたしが)新しい党を立ち上げるだろう』と彼らが言い続けていたのを知っているだろう。あれはフェイクニュースだ。フェイクニュースなんだ。素晴らしいと思わないか? 新党を立ち上げよう。我々の票を割ろう。そうすればもう勝てなくなる」「違う。我々はそんなことに興味はない。我々には共和党がある。(共和党は)これまでにないほど団結し、強くなるだろう。わたしは新党を立ち上げない」(3月1日ビジネスインサイダー)
これは直接にはCPACの前日の2月28日にウォールストリートジャーナルが愛国党(ペトリオットパーティ)を立ち上げて共和党を割るという報道に答えたものですが、あいにくトランプはその誘いには乗りませんでした。
理由は簡単です。割る理由がないからです。
彼が共和党少数派として石投げられるが如くの状況ならいざしらず、共和党内でいまや少数派に転落しているのはかつての主流派であるチェイニーなどのほうです。
そもそも共和党を割れば、確実に半分以上の議員と過半数の支持者も一緒にその新党に移っていってしまうことでしょうから、共和党は空き屋同然となります。
誰がそれを喜ぶのか、もちろん民主党です。
CPACでのアンケート結果はこのようなものでした。
「CPACが行った2024年の共和党大統領候補指名に関する調査では、トランプ前大統領が55%の支持を得て、1位だった。2位は、21%の支持を得たフロリダ州のロン・デサンティス(Ron DeSantis)知事だった。
2024年の大統領選でトランプ前大統領に立候補してもらいたいと答えたのは68%だったものの、回答者の95%は共和党に前大統領の政策をサポートしてもらいたいと考えていることもわかった」(ビジネスインサイダー前掲)
実質的な共和党大会だったCPACで55%の支持を集め、しかも第2位はフロリダ州知事のロン・デサンティスというトランプに近い人物です。
そして24年次期弾頭領選挙には95%がトランプに共和党にサポートしてほしいと願っているわけです。
これで決まりでしょう。
トランプは次期大統領選には78の高齢ですから、さてどうなるどうなると当人も含みを持たせていましたが、再登板するにせよしないにせよ、彼の意志とは無関係に候補を立てることは不可能になったという事実です。
同時にその前哨戦である中間選挙においても、共和党支持者がほとんどトランプ派に行ってしまったために、同じようなことが出現することでしょう。
この態勢で共和党は来年の中間選挙に入ると思われます。
トランプ自身が出るか出ないかは別にして、来年の中間選挙、24年の大統領選はトランプの存在ぬきで語ることは不可能になったことだけは確かです。
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主流派のマコーネルはトランプ氏を「極めて恥ずべき義務の放棄」とし、弾劾後のインタビューでも「実質的かつ道義的な責任があり、刑事訴追の対象」と述べています。
ところが2/25にはFOXのインタビューに答えて「(2024年の大統領選でトランプが指名候補になった場合)断然、これを支持する」と言っています。かつてロムニーに対してもそうでしたが、こういう政治的に過ぎる食言的で奸計をめぐらす人物でも取り除く事をせずに許してしまう甘いところがトランプにはあって、資金集め同様、課題もあり、まだまだ注意も必要でしょう。
それと、中間選挙に向けてトランプ新主流派がやる事は、各州の郵便投票法を議会の意思を尊重した合憲なものに戻し、汚職まがいの州選管の違法な選挙管理状態を止めさせる事です。この面でも、マコーネルら現主流派は消極的です。
それにしても、74才であれだけの大演説を一時間半にわたってぶち続ける体力・精神力はさすがです。本気で感動しました。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2021年3月 3日 (水) 08時25分
やっとトランプ元大統領の暴言がなんのためだったのか理解できました。
民主主義の最大のメリット。言論の自由ですね。つまり「ソフトウォー」です。相当わかりにくいですけど。
発言が支離滅裂で紐解くのがかなり難解でしたが中国人や北朝鮮人から見たら羨ましいでしょう。自由にあんなこと言えていいな、自分もそうなりたい、民主主義がいい!と自らが望み変えることが一番いいです。だからそうなるよう仕向けてると考えるのが妥当と思います。
アメリカが武力を使用して介入すると大体予後が悪いので戦争という武器をハードからソフトに変えたというところでしょう。
民族主義者の喜ぶようなことを言いつつアフリカを便所?のような国と言ったり矛盾するなと思っていましたが理由は下記です。
中国はアフリカで本当に嫌われているのか
https://globe.asahi.com/article/11535102
ちなみに、この前年の2013年の調査でも、ナイジェリア人の78%、ガーナ人の68%、ケニア人の58%が中国を「肯定的」と評価した。
「中国はアフリカで嫌われている」と思い込んでいた日本の読者には、俄かには信じられない、というよりも、「信じたくない結果」ではないだろうか。
アフリカで相次ぎ中国人労働者襲撃
https://www.nikkei.com/article/DGXNASGM2304C_T21C12A0FF2000/
たぶんアフリカでは北朝鮮労働者だって扱いは悪いと思います。
実態として中国共産党や金正恩を締めつけつつ、中国人や北朝鮮人への感情に対する配慮ともとれます。
旧ソ連の酷いハイパーインフレとそれらの影響を考えると、中国や北朝鮮をサプライチェーンから外し自国内での経済的繁栄を図らせるのもわからなくもない。
アメリカの利上げにより中国は輸出に頼るわけにいきませんので。
またテロ組織として監視団体であったシャーム解放機構とフーシ派も凖監視団体に引き下げされてますので一帯一路を考えたらウイグルへの圧力が弱まる可能性もなくはない。中国はシャーム解放機構をテロ組織から解除することに反対なわけですし。
まだまだわからないことはたくさんありますが、共産主義や民族主義という概念だけにとらわれず幅広く考えていきたいと思います。
ただ今はトランプ元大統領の目的がやっとわかったことが嬉しく思わず来てしまい、ご迷惑おかけして大変申し訳ありませんでした。
投稿: いろは | 2021年3月 3日 (水) 11時12分
トランプ氏はニューヨークのクイーンズ生まれで、名門ペンシルベニア大学で歴史もあり評価も高いビジネス・スクール、ウォートン校の出身ですが、既存のエスタブリッシュメントにとっては、所作振る舞いから政策まで、何もかもが(セルフ・イメージを含む)自分たちと違ってはみ出ているから、彼らはトランプ氏を嫌ったと思います。
彼らには、上品・知性的・進歩的・物事がよくわかっている指導者たり得る、などという天井知らずの自己肯定感があるので、「あんなぶっちゃけた人物をこの私が認めるなんて許さない」から、トランプ氏大統領在任中の、雇用や中東やワクチン開発加速などへの功績の事実も、すべてキャンセルしたくなる。
ところが、共和党であれ民主党であれ、これまでグローバル企業共々宜しくやって、働くアメリカ人は消費者でもあることをサッパリと忘れ去って中間層を大没落させた既存のエスタブリッシュメントは、心底嫌われる結果となって自身に返ってきたことを今度こそ思い知れ、と有権者が考えるのは当然の成り行きです。
共和党支持、民主党支持、どちら側にもいつも必ずいて、今回かなり可視化された、愚かなまでに極端な人たちに付き合うのは時間の浪費なので捨て置くとしても、「反トランプ」側の人たちが、些細な違いも許せない・100%同じでなければいけない、といった考え・意識に基づいた言動になりがちなのと比較して、トランプ氏支持者には、支持する政策とそうでもない、或いは反対する政策の違いがありますが、細かいことはとりあえずいい、エスタブリッシュメントがあまりにやり過ぎていることが問題なのだという核心で通底しているようですから、トランプ氏が「共和党をfixする=直す・治す」と明言したことで、大方が支持するのだと考えます。
投稿: 宜野湾より | 2021年3月 3日 (水) 14時00分