日本の「核のごみ」、カナダで受け入れ構想浮上?
実現するかどうかわかりませんが、ひとつの可能性として核廃棄物の最終処分地の候補が登場しました。
それもなんとカナダです。
「カナダで日本からの高濃度放射性廃棄物(核のごみ)を受け入れる計画が検討されていたことが、複数のカナダメディアの報道で4日までに明らかになった。ラジオ・カナダが入手した2019~20年の電子メールで、カナダのクレティエン元首相から日本の原子力産業関係者に打診があったという。カナダ政府や日本政府の関与は明らかになっていない。
公共放送CBCによると、クレティエン氏は19年夏、日本の大手広告代理店幹部に宛てた書簡で、日本など他国の核廃棄物をカナダ北東部ニューファンドランド・ラブラドル州の処理施設で保管することへの協力を申し出た。打診を受け20年4月にカナダで予定されていた会合は新型コロナウイルスの感染拡大で見送られたが、元米政府原子力顧問のティム・フレイジャー氏やカナダの企業経営者、日本の原子力産業や広告業界の幹部が出席する予定だったという。
1993~03年に首相を務めたクレティエン氏はラジオ・カナダの1日公開のインタビューで「カナダは原子力発電に使われるウランを売ってお金を稼いできた。買った国が直面する核廃棄物の処理を助ける責任がある」と述べた。自身の所属する法律事務所が計画に関わるメンバーを法律面で支援しているとも明らかにした。
ただ、実現の可能性は不透明だ。ニューファンドランド・ラブラドル州のフューリー州首相は「州政府内で正式に議論されたことはなく、検討の余地はゼロだ」と否定した。20年夏にクレティエン氏から構想を聞かされたが、拒否したという」(日経2021年4月5日)
カナダのクレティエン元首相
うーん、ぜんぜん決まった話じゃないのね。まだ処分施設もできていません。
元首相のクレティエン氏が所属する法律事務所が、カナダのラブラドル州の楯状地ある最終処分場場に日本の核廃棄物を受け入れる「法律的支援」をする用意があるということのようです。
「処分場建設の構想があるのは北大西洋に面したニューファンドランド・ラブラドル州で、米エネルギー省の元高官やカナダの企業家が加わっている。クレティエン氏は19年夏に別の日本側の関係者にあてた書簡で「地層処分構想を進めるためにカナダ(政府)や州、パートナー国での議論を調整し、そこに参加するつもりだ」として会合に招待。日本側は「情報が漏れないよう最大限の注意を払う必要がある」とした上で「個人として参加する」と返信したという」(毎日4月4日)
この「日本側」の原子力関係者や大手広告代理店(たぶん電通)は、カナダ側と接触しつつも「秘密にしてくれ」という状況のようです。
このやりとりのメールが漏洩してしまい、地元の州政府も反対を言い出してしまっては、この時点で話は座礁。
日本政府はこれについて消極的な対応をしています。
「梶山弘志経済産業相は6日の記者会見で、核のごみは国際原則に基づき国内で処分を進めると説明した上で「(構想に)政府は関与していない」と強調した」(日経4月7日)
「加藤勝信官房長官は5日の記者会見で、日本の高レベル放射性廃棄物(核のごみ)をカナダで受け入れる計画が検討されていたとする同国メディアの報道に関し、「政府として使用済み燃料や高レベル放射性廃棄物の海外での処分を検討している事実は全くない」と述べた。
加藤氏は「核のごみ」をめぐる日本の対応について「発生した国で処分されることを原則とする放射性廃棄物等安全条約に基づき国内で処分地を探す努力を積み重ねている」と説明した」(日経4月5日)
まぁ、なににつけても慎重な菅政権らしくあっさりと断っています。
加藤さん、ウィグル問題でも人権で制裁する法律はないなんて平気で言っていましたが、ここでもまたしても前例踏襲ですか。
あっさりと否定しないで、実現は難しいのは百も承知のうえで、話だけでも繋いでおけばよいものを。
こういう断り方をすると、もう後はないですよ。
言ってくれている相手が、怪しげな人物ではなくカナダ元首相ですからね。
このカナダの候補地とはカナダ楯状地のことです。
「カナダ楯状地(Canadian Shield)は北アメリカ大陸、中央から北部カナダに広がる先カンブリア時代(約45億年前 - 5.4億年前)に形成された非常に古い岩盤。長い間安定し浸食されたため楯を伏せたような緩やかな構造を示すのでこう呼ばれている。(略)
ローレンシア台地とも呼ばれ、薄い土壌が覆っただけの岩石地域で北米あるいはローレンシア地塊(北アメリカ・クラトン)の核を成す。五大湖から北極海、グリーンランドまで広がる。カナダ楯状地は太古代のプレートが寄せ集まって原生代のテレーンや堆積盆地が付加したもの。24.5億年前から12.4億年前に合体が進み、19〜18億年前のトランスハドソン造山運動で最も成長した。北米大陸で初めから海面より上昇し、海の進入から免れ続けた。地球上で太古代岩石が最も広く露出する場所である」(ウィキ)
ここは4.5億年から5億年前にかけて形成された極めて安定した岩盤層です。
いまでも太古代岩石が露出しているのがみられるほどで、仮に最終廃棄物の保管期間がプルトニウムの2万4千年だろうと、一瞬の出来事にすぎません。
世界にはこういった安定陸塊がわりとあって、小泉パパがすっかりおかしくなって帰ってきたフィンランドのオンカロ処分地もバルト楯状地にあります。
安定陸塊
一方日本において1万年単位で安定している地層を探すのは容易ではありません。
それは環太平洋造山帯に日本列島は位置しているからです。
上図の緑色の地帯がもっとも安定している地盤なら、下図の赤色はもっとも不安定な地帯です。
太平洋を取り囲む「環太平洋造山帯」
「環太平洋造山帯は、太平洋の周囲を取り巻く火山帯のことで、日本列島も含め火山列島や火山群の総称である。環太平洋火山帯には世界の活火山の約6割があり、大・小スンダ列島(インドネシア)と西インド諸島(カリブ諸島)を含めた広義の環太平洋火山帯では世界の8割近くの火山を擁している」(ウィキ)
日本列島は三つのプレートが集合する世界でも稀な不安定な地層の上に浮いています。
この中に10万年単位の最終処分地を見つけだすのが困難なのは子供でもわかります。
だから今候補に出てきている北海道だけではなく、広く世界に目を向けないとこのままズルズルと先送りするだけとなってしまいます。
ところで、処理済水の海洋放出も同じですが、これは廃炉問題と深く関わっています。
立憲民主などは、安易に海洋放出をヤメロと叫んでいますが、では廃炉作業は止めていいのかという二択の問題なのです。
東電が悪いのだから潰してしまえなどと言うひとがかつてはワラワラいましたが、そんなまねをしたら廃炉事業の主体と費用負担の先行きが見えなくなります。
電力会社の経営が安定して余裕があるからこそ、廃炉にできるのであって、そのためには原発を今は動かして資源コストを下げるしかないというパラドックスが、運動家にはどうも理解できないようです。
また、もうひとつの大きな問題があります。
それは原発が、火力などと違って使用前の核燃料と、使用済み核燃料の二種類の核燃料を常に抱えていることです。
すべての原発の原子炉に、これと同じものがあり、約2万8千トンもの使用済み燃料が存在している。これは再稼働とは関係なく、残り続ける)
すべての原発の原子炉に上の写真と同じ使用済み燃料が存在しています。
これは再稼働うんぬんとは無関係で、稼働用の未使用核燃料とは別のものです。
この使用済み燃料プールには全国で約2万8千トンに及ぶ核廃棄物が残ったままになっています。
この使用済み燃料もまた使用済み燃料プールに入れて、常に冷却しておく必要があります。
再稼働を止めたとしてもこの使用済み燃料は残り続けるのであって、これを忘れた再稼働停止や原発ゼロ論は机上の空論にすぎません。
反原発派は、ただ最終処分地がないことを無責任に批判の材料にするのではなく、持論の原発ゼロを実現するためにもそれが必要だと考えるべきです。
さて使用済み核燃料の処理方法は、ふたとおりあります。
ひとつは、再処理することです。
政府はこの方法を最も有望だと考えていました。
これは青森六ヶ所村の再処理工場で、ウラン酸化物+ウラン・プルトニウム混合酸化物と、高レベル核廃棄物の二つに分離して、後者のプルトニウムを除去した核廃棄物を300メートル地下の地層処分します。
この再処理工場の最大の利点は使用済み廃棄物から、もっともやっかいなプルトニウムを取り出すことができることです。
これをリサイクルしてMOX原子炉で使います。
MOX燃料(モックス)とはこのようなものです。
「混合酸化物燃料の略称であり、原子炉の使用済み核燃料中に1%程度含まれるプルトニウムを再処理により取り出し、二酸化プルトニウム(PuO2)と二酸化ウラン(UO2)とを混ぜてプルトニウム濃度を4~9%に高めたものである。
主として高速増殖炉の燃料に用いられるが、既存の軽水炉用燃料ペレットと同一の形状に加工し、核設計を行ったうえで適正な位置に配置することにより、軽水炉のウラン燃料の代替として用いることができる。これをプルサーマル利用と呼ぶ」(Wikipedia)
プルトニウムは、半減期がもっとも長く実に2万4千年もありるために、これをどう処理するかが最終処分の肝になるわけです。
このプルトニウムをリサイクルすることで、核廃棄物の体積は3分の1に圧縮できます。
今この再処理工場はさまざまな問題に直面していますが、たぶんこれを動かさない限り問題解決には近づかないと思われます。
再処理ができなかった場合の次善の策としてあったのが、そのままプルトニウム+ウランごと埋却してしまうという方法です。
再処理工程を省いて、プルトニウム+ウラン入り核廃棄物を、そのままキャスクという特殊なドラム缶に入れて埋めてしまいます。
この直接埋却方法は日本列島においてはそうとうに難しいと思います。
その理由は無人島に埋めればいいというような近視眼的なことではなく、列島の地盤が前述したように世界で最も不安定だからです。
だから、海外埋却まで視野に入れても損はないと思います。
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お久しぶりです。kenです。なるほど海外での処分ですか。以前モンゴルで処分するという話がありましたがやはり日本列島は狭いので国際的な視野を持って処分した方が良さそうですね。日本が主導して国際的な処分場を海外の地盤が安定している土地に作り海外に対して廃炉技術などを提供する研究員や科学者を養成するなどの努力が必要ですね。
投稿: ken | 2021年4月12日 (月) 13時58分
しかしネックになるのは外交問題に発展しかねない事ですね。管理人さんがおっしゃるように国際原則という建前もある。しかも政治家が受け入れるといっても地域住民が賛成するかどうか分からない中でどのように合意に持ち込むのか非常に難しい舵取りになると思います。そこらへんの部分については管理人さんはどのように思われているのでしょうか?
投稿: ken | 2021年4月12日 (月) 14時11分
なにも、官僚型的な紋切り型にして即座に断ってしまう必要はなかったと思いますね。北海道での二町はまだ文献調査の段階だし、反対運動や知事判断の困難性が予想されるなか、選択肢は複数あった方が賢明だろうと思うのですが。
なぜ「国内最終処分」が法になったか?という点や、その経緯からも判断して丁寧な回答をする必要があったと思います。
むしろ、こうした政府の過敏な反応の原因はどこからくるか?の方に国民の意識がムダに向きやすいのじゃないですかね。
核最終処分問題を抱えているのは日本だけじゃなし、相手がカナダなら共同出資方式の可能性もあり得るのではないかと。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2021年4月12日 (月) 18時27分