中国のワクチン外交と戦った日台連帯
日米がワクチン外交で連携して反撃を開始しました。
第1弾は台湾でした。台湾はこれまで新型コロナウイルスの押さえ込みに成功してきましたが、厳しい入国制限をくぐり抜けて侵入した変異株の影響もあって、5月中旬から感染が拡大していました。
また中国の露骨な妨害によって、ドイツ企業からのワクチン調達ができませんでした。
中国は台湾のワクチン獲得を妨害しつつ、中国のワクチン供給をもちかけ、さらには大陸に住む台湾人にチャイナワクチンの接種をして分断を図ろうとしていました。
「新型コロナ変異株が、厳しい検疫をぬって入り込んでしまった台湾を舞台に中国のワクチン外交の攻防が激しい。中国は上海復星製薬が代理製造するファイザー・ビオンテックのワクチンを提供しようと台湾に持ちかけているが、台湾は政治的意図を警戒してこれを拒否。だが、台湾の有名歌手、蕭敬騰がすでに中国でワクチン接種したことが暴露され、台湾世論にも動揺が走っている。
台湾同胞証を持つ台湾人は中国でワクチン接種ができる。また中国が海外で「春苗行動」と銘うって、在外台湾人にもワクチン接種を積極的に行っている。中国はこの「ワクチン統一戦線」で、台湾世論を取り込もうという作戦のようだ。
中国は4月に、大陸に居住する台湾人の希望者にワクチン接種を優先的に開始。台湾居民居住証と中国の医療機関の保障証、居住登録証があれば接種を受けられる」(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO.355 2021年6月6日)
この台湾の苦境を救ったのが日本でした。
「菅義偉政権下で、首相官邸や各省庁の官僚が人道支援や恩返しの気持ちから、残業をし驚くべき短時間で、実現にこぎつけたという。すべてが「内密」に行われたので、中国外交部の妨害や牽制も、すでに実現のめどが立ち、メディアを通じて世論に公表されたあとだった」(福島前掲)
4日午後、台湾に日本からのワクチンが到着し、大歓迎を受けました。
「(台北中央社)日本が台湾に無償提供した新型コロナウイルスワクチンは4日午後、桃園国際空港に到着した。台湾の安全保障部門の高官は4日、ワクチン寄贈が実現するまでの「10日間の静かな作戦」の内幕を明らかにした。この計画は蔡英文(さいえいぶん)政権の「最高機密」と位置付けられ、法律面の交渉から地域情勢の把握まで、台日双方の協力と米国の静かな後押しによって「不可能な任務」を成し遂げた。
ワクチン寄贈計画は5月24日、謝長廷(しゃちょうてい)台北駐日経済文化代表処代表(大使に相当)が米国のヤング駐日臨時代理大使と安倍晋三政権下で首相補佐官を務めた薗浦健太郎氏を公邸に招いて開いた懇親会に始まる。
その席では新型コロナに関する問題が話し合われ、薗浦氏から「日本のアストラゼネカワクチン台湾に提供可能だ」との提言があった。ヤング氏もこの意見に賛同し、「台日米」3者間においてひとまずの合意が得られた。その後には煩雑な法律と政治上の問題の処理が待ち構えていた」(フォーカスタイワン6月4日)
https://japan.cna.com.tw/news/apol/202106040008.aspx#.YLvttlO-cro.twitter
この台湾サイドの報道を読むと、ワクチン供与が中国との緊張した状況下で極秘に準備され、官邸とわずかの人間だけで遂行されたものだとわかります。
日本側は安倍氏と岸防衛相が主導し、米国のヤング臨時大使をかませた形で謝長廷(しゃちょうてい)台湾「駐日大使」と練り上げた極秘のオペレーションだったようです。
たらたらと根回ししていたら、二階や公明がなんと言うか分かり切っていますし、その情報をいち早く中国サイドに流すことでしょうからね。
情報が漏れた場合、極めて危険で、中国が輸送機を撃墜する可能性すらありました。
ですから受け入れ側の台湾も、密かに軍を準備させたそうですから、日航機が台北に降り立つまでさぞかしハラハラしたことでしょう。
「蔡総統は謝氏から報告を受けると、「内密に、全力で目標達成」を最高原則として、即座に安全保障や外交部門に総動員を指示した。長年にわたり対日関係を築いてきた頼清徳(らいせいとく)副総統はすぐさまルートを通じて日本の重要人物に連絡を取り、日本からの支援に期待を示し、好意的な反応を得た。総統就任前から米国や日本との関係を安定的に築いていた蔡総統は自ら、古くからの友人らに国際電話を掛けて意見交換を行った。得られた反応はどれも全く同じで「日本は東日本大震災時の台湾からの援助、そして昨年のマスク提供にずっと感謝していて、この恩はもちろん心に留めている。必ず力を尽くし、早急に台湾へのワクチン提供を実現させる」というものだった。
菅義偉政権の重要メンバーの見解や役割についても駐日代表処を通じて即座に把握した。首相官邸や各省庁の官僚が人道支援や恩返しの気持ちから、残業をしてまで短時間でこの困難な任務を達成しようとしていたことは、台湾側を温かい気持ちにさせた」(フォーカスタイワン前掲)
交流協会に花束続々 ワクチン供与「ありがとう日本」―台湾:時事ドットコム
台北市の「台北101」では4日夜、特別ライティングが実施されました。
国際戦略なんか放っといて、ほんとうに素直にいい話だなぁ。
国と国がこういう素朴な友情で結ばれることが大事なんです。
蔡総統はこのようなツイートをしています。
ほんとうに彼女の温かい心が伝わるもので、思わずほろりとします。
困った時の友は本当の友です。東日本大震災の時あれほど助けてくれた台湾に、わずかですが恩返しのまねごとができたことを、私も日本人のひとりとして嬉しく思います。
頼清徳副総統 の言葉。氏は次期総統のトップ候補です。
「降りしきる雨の中、私たちは慎重にワクチンを運んでいます。間もなく台湾の人々に接種できるでしょう。台湾が困難に直面したとき、日本は勇敢に手を差しのべてくれました。私達の友情は揺るぎないもので、第三者の妨げは受けません。日本の感染状況も早く終息することを願っています 」
どうしてこうも台湾の人たちは、こうも私たちの心をうつ言葉をいえるのでしょうか。
ワクチンを載せた日航機に対し、雨が降りしきる中、深々とお辞儀をされる台北駐日経済文化代表処の謝長廷駐日代表。
謝氏はこの台湾ワクチン輸送作戦の台湾側キイパーソンでした。
台湾外交部のジョセフ・ウー外交部長。
「外交部長として、個人的な感情を公にするべきではない。しかし、日本から送られてきたワクチン、そしてその事に沸き立つ台湾の人々の感情を思うと……。
ああ、なんという事だ。I LOVE JAPAN」
このように台湾の人々は、日本人以上に日本人らしい人たちです。
台湾の次は、台湾に並んで中国との最前線に位置するベトナムです。
「自民党の佐藤正久外交部会長は5日のBSテレ東番組で、新型コロナウイルスワクチンについて政府がベトナムへの提供を調整していると明らかにした。「ベトナムとも調整を始めた。良い流れができ始めている」と述べた。
ベトナムはこれまで感染を抑制していたが、4月から感染者数が急増した。ワクチンの調達が遅れており、日本に支援を求めていた。
日本から海外への提供は124万回分を無償供給した台湾に続く2例目となる。ベトナムに提供するのは台湾と同じアストラゼネカ製になる見通しだ」(日経6月5日)
続いて、他の東南アジア諸国や、中東、太平洋の島しょ国などへの支援の検討にも入っています。
ベトナムは、今までチャイナ・ワクチンを拒否してきました。
この時期に、チャイナ・ワクチンをもらうことは、政治的隷従を意味するとベトナム人はよく知っているからです。
しかし感染状況の急激な悪化を受けて、涙を呑んでシノファームワクチンの承認に踏み切ったところでした。
これに素早く反応したのが菅氏でした。
菅義偉首相がベトナムとインドネシアを初訪問国に選んだ理由とは
「菅義偉首相は5月11日、ベトナムのグエン・スアン・フック国家主席と電話会談し、「ベトナムは自由で開かれたインド太平洋を実現する上で重要なパートナーだ」と語っていた」(日経前掲)
この5月中旬の時点で、日本の対応が遅れれば、ベトナムもチャイナ・ワクチンに飲みこまれてしまう可能性があったわけです。
そして官邸は、台湾とベトナムを念頭に、ワクチン援助プロジェクトを前倒しにしていきます。
「日本は米ファイザーと米モデルナのワクチンで約2.4億回分(約1.2億人分)を確保した。英アストラゼネカとも1.2億回分の供給契約を結んだ。アストラゼネカ製は5月に薬事承認した。
政府は国民全員分のワクチンを確保したと判断し、アストラゼネカのワクチンは公的接種の対象から当面外す。国内接種で必要な分を上回るワクチンは海外支援に活用する。首相は3000万回分を海外に供給する方針を示している」(日経前掲)
ひさしぶりに日本外交が振り抜いたバットの快音を聞いた思いです。
« 日曜写真館 あぢさゐや なぜか悲しき この命 | トップページ | 「愛される中国」だとさ »
10年前の大震災の時に台湾の温かい支援をしていただいた皆様へのお礼です!と、堂々と言える状況ですからね。
困った時の助け合い。
これを言えば誰も反論できないでしょ。ナイス外交です。
一部で「自国で使わないアストラゼネカ製を横流し」だとか言ってる連中もいますけど···まあ、ファイザーとモデルナの2種だけでも今のところ接種スケジュール管理が大変なわけで···またアストラゼネカのは血栓症の可能性が···なんて報道もありますけど、トータルでの効果/リスクは変わらないと出てるんですよね。じゃあ今すぐ必要では無い物なら国際貢献に使う。実に合理的です。
もっと評価というか報道されていいはずなのが、菅総理が短い訪米の間にファイザー社と直接電話で要請して5000万回分を追加確保してきたことですね。ジワジワと効いてます。
投稿: 山形 | 2021年6月 7日 (月) 06時43分
東日本大震災ではいち早く手を差し伸べてくれた台湾。今度は政府からのタイムリーな恩返しはこんなに困難なことが裏であったとはびっくりしました。菅政権、安倍さん、岸さんの尽力に感動しました。自分は恩返しが何も出来ていませんが台湾、日本の心温まる交流、信頼が深まったことが何より嬉しいです。
投稿: 岩手より感謝します | 2021年6月 7日 (月) 08時21分
我々の税金の、清々しい遣い方のひとつですね。
台湾が必要とするものを無事に届けられてよかった。
こういう出し抜き方ができるのは良いものです。
桃園空港へ向けて出発するJL809便に手を振ってお辞儀をして見送る謝長廷代表と皆さん、桃園空港での管制官「台湾人皆が日本の援助に感謝します」、JL809便パイロット「どういたしまして」のやりとり。
こういうところまで台湾で報道されるのも含めて、大型の乗り物好きな私がツボった場面でした。
投稿: 宜野湾より | 2021年6月 7日 (月) 13時04分
台湾との話は涙が出そうなくらい尊いですね!
一方でビオンテックが中国と合弁でワクチン生産なんて。
mRNAワクチン技術は盗まれ、中国で粗悪品を生産・流通されてビオンテック社のワクチンは効かないと吹聴される、
とこまで想像しました。
ファイザーも日本も、その上を行くワクチンを急いで開発しないといけませんね。
投稿: プー | 2021年6月 7日 (月) 16時46分
東日本大震災のさいの義援金は総計200億円超。
台湾国民一人当たり1,000円に相当する額でした。
これを短期間に、台湾国民一人々々の募金によって下すった事の意味をかんがみるならば、少しでもその恩義に報いれた事は日本人として大きなよろこびです。
日本人のこころを台湾人から教わっているようにも思え、むしろ「感謝」を言うべきは我々の方だと思いました。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2021年6月 7日 (月) 20時07分
mRNAワクチンの弱点である「壊れやすいからマイナス70℃から80℃での保管と輸送」をどうやって解決するかですね。。
これが普通の冷蔵保存や冷凍でも例えば家庭用(米国の一戸建て住宅なら当たり前にあるような)でアイスクリームを長期保存できるようなマイナス18℃程度になれば、オペレーションはそうとうに楽になると思います。
3月にイスラエルの大使が10年の記念式典に石巻市に来ておりました。あの時は台湾とイスラエルの緊急救命派遣は素早かった!もう感謝です。
韓国は国営KBS(日本支部はNHK内ですか)が「日本沈没!!」と嬉しそうに報じ、中国は大船渡だか気仙沼だったかに数人それらしいレスキュー隊っぽい格好でやってきて、デジカメであちこち写真撮ってすぐ帰っていきましたね。
ロシアは連日周辺海域を電子偵察して様子を伺ってました。。
石巻市沿岸の日和大橋って、震災でも無事でしたし、よくテレビに写るけど、はあー、そのさらに海側にデカイ橋掛けるそうで。。それ、いるのかなあ?と。
大型船が出入りするし、陸地には土地が無いわけですけど。。
日和大橋、凍結した真冬の海風の時に通ったことあるけど、料金所で200円払って通過したとたんに後方で閉鎖されてた。
もうあの凍った横風の急傾斜の上り下り···マジハンパねー怖さでしたわ。
投稿: 山形 | 2021年6月 8日 (火) 05時21分