「台湾」という名称ひとつからわかること
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台湾がこんな小さな呼び方で喜んでいるそうで、かえって哀しくなります。
入場更新の際に、NHKが「チャイニーズ・タイペイ」という中国の圧力による名称ではなく「台湾」という正名で呼んだのです。
初めてNHKを褒めたような気がしますが、グッドジョブ!
なぜならNHKは、たぶん知らないでそう呼んだのでしょうが、「台湾」はこの国の「正名」(せいめい)です。
五輪開会式でNHKアナの「台湾です!」に感涙 台湾にかかわる人々がこ
「23日の東京五輪開幕式当時、台湾の選手団が入場すると場内には「チャイニーズ・タイペイ」という放送が響き渡った。しかしNHKのアナウンサーがこれを中継しながら「台湾です」と紹介した。
中国の環球時報は社説を通じて「われわれは『一つの中国』原則を損なういかなる行動も容認できない」とし「五輪は神聖な舞台で、すべての汚いトリックを取り除かねばならない」と指摘した」(中央7月25日)
この女子アナ、後から怒られたんだろうな。
それともNHKの男気?ないない、日本一の恐中放送局ですから、あそこは。
この「チャイニーズタイペイ」なる妙チキリンな名称は、台湾が選んだものではありません。
中国の強圧に負けたIOCが台湾に強制しているものです。
台湾の選手たちは、1956年~1972年の間「中華民国」の名称でオリンピックに普通に出場できていました。
ところが、中国は台湾は中華人民共和国に正当に帰属しており、その一つの省でしかないというワンチャイナ原則をふりかざし、オリンピックからも台湾を追放しにかかります。
76年のモントリオールオリンピックの時、トルドー首相はカナダが「中華民国」を認めていないことを楯にとって台湾の出場を拒否する動きに出ました。
いたしかたなく台湾は出場を断念します。
80年のオリンピックに向けての交渉の中で、IOCと中国との間に妥協が成立し、それが「チャイニーズタイペイ」として出場する限り、オリンピックに出場を認めるという妥協案でした。これはその協定をつくった場所にちなんで「名古屋決議」と呼ばれています。
しかしわかるように、「チャイニーズタイペイ」という名称はあえて争点をあいまいにしてあります。
中国から見れば台湾は中国の一部というように見えるが、台湾にとってはただのチャイニーズ文化圏のタイワンともとれるからで、帰属についてはなにも言っていないと解釈できるからです。
ですからこの名古屋決議に基づいて、台湾は台湾選手団の旗を中華民国の国章をあしらい、花の模様で囲んだ「チャイニーズタイペイ・オリンピック委員会旗」を使い、 金メダルを獲得した際には、中華民国の国歌の演奏は出来ず、代わりに「国旗歌」が演奏されています。
チャイニーズタイペイ - Wikiwand
というわけで、NHKが「チャイニーズタイペイ」と呼ばず、「台湾」と「正しい名」で呼んだのは、なかなかたいしたことなのです。
「正名」とは、儒家思想では名を正す(なをただす)、つまり正しい名前で呼ぶことで「名分を正す」という意味です。
台湾正名運動においては、台湾を外来者である国民党が名付けた「中華民国」ではなく、ましてや「中国」の一部などではさらさらなく、「台湾」とシンプルに呼ぼうという運動です。
もちろん、この含意は台湾の独立です。
台湾において正名運動を進める林建良氏はこのように述べています。
「中国にとって、北京オリンピックは中華ナショナリズムを高揚させる絶好のチャンスでもある。戦後、蒋介石政権によって中国人意識を植え付けられ、台湾民族意識がまだ十分に成熟していない台湾人は、この中華ナショナリズムの高揚で動揺する可能性があるのだ。台湾の将来に関心を持っている人なら、少なからず似たような憂慮を抱いている」
台湾正名運動 (katakura.net)
林氏のいうように、中国が東京オリンピックで狙っているのは、中国共産党100周年を飾る中華帝国の栄光です。
それに対して台湾は脆弱な国際的地位しか持っていません。
その理由はひとつにはありとあらゆる形でかけられ続ける中国のイヤガラセですが、もう一つ原因があります。
それは台湾が台湾人としての民族意識を固めきっていないことです。
ですから、いまだ台湾人の半分は自らが「中国人」であると考えていて、台湾は「中国の一部」と考えているようです。
その意味では、ワンチャイナ幻想はどちらの側にも存在するのです。
その人たちは、国民党が目指す「大陸との協調」を支持しています。
「2008年北京オリンピックまでに台湾がやらなければならないことは、まず自国の地位を明確に定義することである。その第一歩は、裸の王様である「中華民国」を切り捨てることなのだ。
台湾の正式国名とされている「中華民国」が国際的にはもう通用しないことを、台湾人は認識すべきだ。領土範囲が中国とダブっている「中華民国」は、幻の存在でしかない。台湾人が「中華民国」の麻薬に浸かっている限り、台湾は国際社会から認められないし、台湾を守ることもできない」(林建良前掲)
蒋介石が大陸から命からがら逃げてきて、台湾に住む人たちを虐殺して作った「中華民国」は南京を首都するような幻想の上に成り立っていました。
私が蒋経国時代末期に初めて訪台した時、バスや鉄道で目にしたスローガンは「大陸反攻」でした。
いつか必ず大陸に戻る、このスローガンを撤回し一気に台湾化させたのが李登輝でした。
李登輝は台湾を台湾人の手に取り戻し、民主化を押し進めました。
だからたかだか名称一つの問題ではないのです。
台湾が「中華民国の麻薬」から脱し、自らを「台湾」と素直に呼べるようになって初めて民主化は終了するのです。
さて、安倍前首相は7月29日、日米台3カ国の国会議員による戦略対話(オンライン)に参加しました。
日米台議員「対中抑止」議論 安倍前首相が参加: 日本経済新聞
「日本と米国、台湾の議員有志は29日、安全保障などを議題に「戦略対話」の初会合をオンラインで開いた。日本側は日華議員懇談会(古屋圭司会長)の与野党議員が参加した。中国の抑止策を巡って意見を交わした。
日華懇顧問の安倍晋三前首相は中国当局による香港での民主派の運動への規制を念頭に「香港で起こったことが台湾で決して起こってはならない」と述べた。
中国の海洋進出を巡り「南シナ海や東シナ海で一方的な現状変更の試みが行われていることを懸念している」と語った。
日米台の経済的な連携を進めるため、米国と台湾に環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟を呼びかけた。世界保健機関(WHO)への台湾のオブザーバー参加に関し「中国も広い心で受け入れてほしい」と説いた」(日経7月29日)
いやー、ひさしぶりに安倍さんを国際会議で見るとほっとしますなぁ。
重量級のスターが戻ってきたような気分は、私だけではなかったようで、この会議に参加した長島昭久議員はこんな正直なことを書いています。
「とりわけ、安倍前総理のゲスト・スピーチは圧巻でした。台湾海峡をめぐる地政戦略・経済安保の核心をノー原稿で簡潔に語られました」Facebook
ここらへんでしょうかね、菅氏がいつまでたっても官房長官から抜けきらないのは。けっこういいこともしているんですがね。
菅さんは役人のペーパーを読んでいるのに対して、安倍氏は自分の頭で組み立てた理念を自分の言葉で語りかけることができます。
だから、聞いたほうは安倍氏が3度目の復活をすることを念頭にして、これが近未来の日本政府の外交方針だと考えてしまうというわけです。
レームダックになりかかっている菅氏の一言より、安倍氏の言葉のほうが比較にならないほど迫力があるのです。
それはさておき、この演説の中で、安倍氏はかなり突っ込んだことを言っています。
それは台湾に対してのTPP参加の呼びかけです。安倍氏はサラッっと言っていますが、現職総理時だとこんなことを言うと、外務省が血相を変えて官邸に飛び込んできたことでしょう。
なぜって?そりゃ、このTPPの参加対象は「国家」だからです。
ですから、TPPに参加することは、イコール国家、ないしはそれに準じるものと国際社会が認知したことになります。
もし認められれば、中国は歯ぎしりして悔しがるでしょうが、オリンピックやWHOと違って中国とは無関係ですから拒否できません。やーいやーい。
そしてその次に安倍氏が用意しているのは、台湾のクアッドプラスへの招聘です。
それはすでに産経とのインタビューで安倍氏は口にしています。
「首相として「自由で開かれたインド太平洋」を提唱した安倍氏は、「欧州にあった冷戦時代のフロントラインが中国の台頭で太平洋に移った。これを支えるのは日米と民主国。(中国に近接する)台湾は地政学的に重要だ」と強調した。
李氏が重視してきた日台関係の今後については、「日本と台湾は双方が親近感をもっており、特別な関係だ。交流を続けていくことに加え、日本としては、台湾が国際社会の中で地位を確立するために支援していく」と述べた%(産経7月28日)
李登輝氏死去1年 安倍前首相「状況許せば訪台」 - 産経ニュース (sankei.com)
TPPとクアッドの枠組みに参加することは、表面的には台湾の独立とは無関係にみえますが、実質的にひとつの国家として台湾を国際社会が認知し、自由主義陣営に加えたということになります。
安倍さんは無役の時に、できることはみんなやってしまおうと考えているようです。
そのうえ安倍氏は二階や山口が聞いたらジョーっとなるようなことを言っています。
それは訪台です。これについても安倍氏はその意欲をはっきりと口にしています。
李登輝氏死去 安倍晋三首相が哀悼の意 「痛惜の念に堪えない」 (2020年7月31日)
「台湾の民主化を進めた李登輝(り・とうき)元総統が昨年、97歳で逝去して30日で1年となる。これに先立ち、安倍晋三前首相が産経新聞のインタビューに「世界の中でこれほど日本のことを思ってくれたリーダーは(李氏以外に)存在しなかった。諸般の状況が許せばお墓参りをしたい」と述べ、新型コロナウイルス感染症の動向などを見極めながら台湾を訪問したい意向を表明した。李氏は台北郊外の公的墓地に埋葬されている」(産経前掲)
残念ながら1周忌には間に合わなかったようですが、台湾外交部は諸手をあげて歓迎したいと述べています。
もし安倍詩が訪台すれば、中国は狂ったように非難するでしょうが、知ったことではありません。「台北中央社)安倍晋三前首相が日本紙の取材に対し、李登輝(りとうき)元総統の逝去から30日で1年を迎えるに当たり、台湾を訪問したい意向を示していることについて、外交部(外務省)は28日、安倍氏の訪問を強く歓迎するとし、必要なことがあれば全力でサポートするとの姿勢を示した。(略)頼清徳(らいせいとく)副総統は28日、日本語でツイッターを更新。安倍氏が訪台の意向を示していることに「とても感動しています」として歓迎する考えを示した」(フォーカス台湾7月29日)
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NHKのエース女性アナの和久田さんでしたね。
どこまで深く考えていたか知らないけど、少なくとも「普段台湾と呼んでるところが、オリンピックの時だけチャイニーズタイペイって変に長い名前だな」くらいは知ってただろうし、あいうえお順の入場でた行で入ってきたからただ自然に台湾ですと言っただけかもしれないし。
細かいことはNHKも言わないでしょう。部長や局長レベル以上からの指示だった可能性すらありますし。
他に気になったのは「ジャポン···ジャパン···ニホン」。なぜニッポンではなかったのかと。。
投稿: 山形 | 2021年8月 3日 (火) 05時56分
2020年の政治意識調査では「自分は台湾人である」と答えた人が67.0%、「中国人だ」とした人は、たったの2.4%に過ぎませんでした。
故李登輝氏の新台湾人テーゼは達成しつつあります。
また、菅総理も「台湾」を「国」とした表現をしていますし、NHKのアナウンサーが言ってもおかしくありませんよね。
「中華民国」は国民党の出自を表してはいますが、もはや国民を代表していない呼び名だと思います。
バイデン政権は「独立を支持しない」としつつも、いまだに対中政策で融和路線を取ろうとしている国民党に非常に冷たいですね。国務省は国民党の頭を押さえつけてます。
中共と習の大失敗のおかげが大ですが、台湾が国際世論を味方にするなか、うかつに手を出せばどうなるか。眠ったふりをした日本を目覚めるさせる事になるかも知れません。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2021年8月 3日 (火) 10時52分