河野氏に決定的に欠けている議論する能力
何度か書いてきていますが、私はかつて河野氏を今よりずっと高く評価していました。
彼の政策のうち、そのいくつかは問題提起として大いに興味をそそるテーマだったからです。
もっとやれ、とことんやってみろ、その歯切れの良さで議論を吹きかけてくれ、というかんじだったでしょうか。
そういうイキの良さが彼の真骨頂だと思っていたわけです。
河野氏の女系統天皇論、弾道ミサイル防衛、対中政策、原子力発電、党改革など、河野氏が自民党の政策と必ずしも整合しないいくつかの突き出した論点を持っていました。
別にいいんですよ、自民党には定まった綱領なんてあってなきが如しですから。
責任をもってきちんと国民にわかるように議論を展開して、責任を取ってくれればね。
安倍支配をぶっ壊す」河野太郎が首相になるためにはそう宣言する必要が ...
そういえば河野氏は「議論」という言葉が好きで、なにかと使っていましたが、総裁選になるや「回答いたしません」「ブロックします」、例の日本端子問題も「問題ありません」の一言で済まそうとしています。
とうとうコミュ障害じゃないか、といわれる始末。
つまり議論したくないということでしょうか、これから総理になりたいという人が大変にまずいですね。
そういう腰が引けた対応こそ、若き日の河野氏が一番嫌ったものではなかったのですか。
自分が総理になるに際して、いままでの持論が間違っていたというなら、それはそれでいいのです。
ただし、その説明ひとつない転換は困ります。
ならば国民はどう思うでしょうか。また権力を取ってしばらくしたらまた持ち出すだろう、しかもその時はいきなり政府の政策としてぶつけてくるだろうから否応なしだ、というイヤーな感じです。
しかも河野氏は官邸が暴走した場合、その歯止めとなるべき党の専門部会を否定し始めました。
河野氏が主張する党改革は、どうもこんなていどのことのようです。
「(政府の)副大臣、政務官のパワーアップが必要。(党の)部会でギャーギャー言っているよりも、副大臣、政務官チームを半ば非公式に作ったらどうかと思う」
自民党はそうとうにダメなところが多い政党ですが、よい点も少しはあって、それが全所属議員が原則として参加が義務づけられている専門部会でした。
ここが朝も早くから、夜遅くまで「ぎゃぎゃーうるさいだけの」議論をして政策を作って、ボトムアップしてきたのが、自民党の善き伝統だったのです。
だから幹事長たりとも、下から上がってきたものを紙屑扱いにできず、ウィグル非難決議でそれをしてしまった二階氏はルール違反と非難されたのです。
そんな下っぱが作る部会なんか邪魔だからいっそなくしてしまって幹事長に一括しろ、選挙民からの訴えも議員を通さず幹事長室で扱う、そう考えた幹事長がひとりいました。
それが小澤一郎氏です。
彼は民主党の幹事長となり、政権をとるやそれを現実に移し、部会を完全否定し、議員を採決の賛成票を投じるだけの要員としてだけ扱いました。
まぁ、これをやれば確実に党員のクォリティは急落し、党の政策能力はひたすら落ちていくのは必定です。
これをやった民主党政権は案の定、個別政策の勉強がまったく深まらず、高速道路無償化、農家個別所得保障、ダム建設中止、辺野古移転中止、脱原発などといったガラクタ政策に走り、わずか3年で自壊して果てました。
そのように見ると、今の河野氏はパワーダウンして、あく抜きしたニューモデルの小澤一郎といえないこともありません。
ただし、小澤氏ほど黒光する悪党ではないので、やることなすことが全部中途半端です。
議論も中途半端、立論は生煮え、政策決定は一見果断に見えて、責任を取らない、率いる派閥もなく、麻生派に戻れば小僧っこ扱いです。
できるのは、当選3回までの若手議員を集めてオダを上げることくらいで、そこで調子に乗って言っちゃったのが、先の部会無用論です。
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多くの河野氏の政策はただの思いつきにすぎません。
たとえば、女系天皇論(女性宮家)について、河野氏は有識者会議の結論に従うとあっさり引っ込めましたが、違うと思います。
有識者会議うんぬんではなく、国民は女性宮家を作ってしまったらどうなるのか実地問題で理解してしまったのです。
それが今、まさに進行している真子様の結婚問題です。
女性宮家を作るというのは、たとえば真子様が宮家を作って、天皇にお世継ぎがない場合、そのお子が候補になるという意味です。
するとその場合、小室氏が天皇の父親になるということを意味しますから、そこからヨーロッパ王室的表現を取れば歴代の皇統は途絶え、新たに「小室王朝」が始まることになります。
このように重大なことなのですが、河野氏は分かって言っているのでしょうか。
「河野氏はまず、「天皇家は(父方に天皇の血を引く)男系で千年以上きている。続くなら男系がいい」と強調。その上で「(皇后の)雅子さまや(秋篠宮妃の)紀子さまを見て、皇室にお嫁入りしてくれる人が本当にいるだろうか。男の子を産めというプレッシャーがものすごくかかってくる」と述べた。男系男子に限った皇位継承のあり方に疑問をにじませた形だ。
さらに、女性皇族が結婚後も皇室にとどまる「女性宮家」の創設を念頭に、「今は結婚すると女性は皇室から外れるが、女性も皇室の中に残す」と言及。それを前提に「(皇位継承資格のある男系)男子がいなくなった時は、(天皇家の長女)愛子さまから順番に、女性の皇室のお子さまを天皇にしていくというのが一つある」と語った」((朝日2020年6月28日)
河野氏のそれは、女性週刊誌好みの典型的な女性天皇論ですが、いかにも軽い、軽すぎます。
皇室に嫁いだ女性の男子を出産せねばというプレッシャーは雅子様でわかるように、まことに重くつらいことなのは国民誰しもが理解していることですから、心から同情いたしますが、しかし皇室は2千年に渡ってその重圧に抗して日本の中心を守ってきたという歴史があるのです。
その皇統を変えることも厭わないというなら、もっと具体的に議論を展開しないとリベラルの女系天皇待望論と同じになってしまいます。
さもないと、ただの伝統破壊、皇室破壊で終わってしまうでしょうし、実際、そうなっています。
また原子力もそうです。
原発の、すくなくとも今あるGE型は建造から40年以上が経過して廃炉にするか、更新して新しくより安全な原発にリプレイスすべきなのは明らかです。
しかし、河野氏は全原発の段階的廃炉を求め、その代替エネルギーについては再生可能エネルギーを考えているようです。
これも浅い。再エネがとんだヘッポコ電源で、とうていわが国のような世界屈指の先進工業国のベース電源とならないのはこの10年間やってきて明らかです。
その上に、CO2削減問題が国際社会で義務化される流れの中で、電力不安を起こさずに、いかにCO2を排出しない電源で置き換えていくのかを具体的に検討する時期に入っているのです。
高市氏が唱えている小型原発は妙案です。実現可能な対案です。
では、脱原発論者の河野氏がどうかといえば、ただ「とりあえずは稼働再開を容認する」ていどという意気地のなさです。
おいおい、あなたは対案を考えずに脱原発言っていたのかい、とため息がでます。
そして核燃料リサイクル計画を中止することに焦点を移したようですが、ある意味これもタチが悪い。
なぜなら、現状で核燃料リサイクルの建設を止めてしまうと、核のゴミの行き場がまったく決まらない以上、プルトニウムは溜まる一方だからです。
そしてプルトニウムを溜め込むことは、核兵器を作る意図があると諸外国から見られることを意味します。
イージスアショアの中止もそうでした。2020年6月に河野氏がイージスアショアを中止に追い込んだ時、私はとまどいと共にかすかな期待もあったことを思い出します。
イージスアショアは大変な金食い虫で、建てることよりその後の維持管理に膨大な負担をかけ、それは防衛費全体に重圧をかけます。
河野氏が言うように、ブースターのドンガラを敷地外に落下すていどのソフトを組み換えだけで、馬鹿げた出費がかさんでいるのですから、今の北がしたような軌道を変化させる曲者イスカンダルが配備されれば、また対応してソフトの更新をせねばなりません。
ですから、このイージスアシアの導入が可能な国は、防衛費世界一を誇る米国一国だけに限られていました。
また、現代の弾道ミサイルは多弾頭が常識であり、一基のミサイルが複数に分かれて飛来し、しかもその中にはデコイ(おとり)と呼ばれる偽物まで混ざっているという嫌らしさです。
こちらの迎撃ミサイルは一発に向けて2発撃ちますから、仮に北が数百発を同時に撃つ飽和攻撃を仕掛けられると、手持ちの迎撃ミサイルはまったく足りません。
しかもそのうち半分でも核弾頭を搭載していた場合、一発残らず撃ち漏らさないというのは、ほとんど不可能です。
その一発一発が広島・長崎を再来させるのですから、ゾっとします。
このようにイージスアショアは完全な答えではなく、とりあえずこれが現時点における最上の解決案だと思われる、ていどなのです。
だから河野氏の仕切り直し提案は私は危険なことをする奴だが、面白い提案に化けるかもしれない密かに思っていたのです。
当時、いまよりはるかに高く河野氏を買いかぶっていた私は、たぶん次のステップに進む腹があってやったことだろうと勝手に勘違いしていたのですね。
ところが、河野氏ときたら、なんの代案もなくただ潰しただけだったのですから話になりません。
かくして壊されたきりで放り出されたイージスアショアは、難破船よろしく右往左往、結局、もう一隻イージス艦を作る、という今や沈没寸前のありさまです。
では、どうしたらよいのでしょうか?
先日コメントで、ではどうするのですか、と問われて時に私も正直グっと詰まりました。
実は、その方法はひとつしかないからです。
私は戦略的抑止を日本も採用するしか道はないと考えています。
ここでいう「戦略的抑止」とは、わが国を侵略する者は等価の報復を受けることになる、という意志を明確に示すという意味です。
そのためには、わが国の骨の髄まで染みついた「専守防衛」思考を完全に払拭せねばならなりません。
ところが河野氏は敵基地攻撃能力を完全に否定し、更に防衛費増額にも反対し、「日米同盟を高度化することが大事」だそうです。
これでイージスアショアも中止するとなると、米国に更におんぶでだっこしろ、それが「日米同盟の高度化」だということになります。
クアッドは日米同盟の単純な「深化」の先にあったから始まったのではなく、今や日本が自国防衛するには独自の戦略的コミュニケーションを発信せねばならないという外交戦略のコペルニクス的転換から登場したのです。
河野氏は、外務・防衛大臣という要職にありながら、それをまったく理解していなかったようです。
ここをなんとか「大人の議論」に耐えるものにするために、まだかなり長い時間が河野氏に必要なようです。
総裁候補になるために、しっかりと勉強を重ねてきたことか判る政策通の高市氏、いままでの長い政治経験がいぶし銀のように光る岸田氏と比較され、ただの甘ったれた坊やにしか見えないようでは、総理・総裁にはまだまだ10年は早いと思わざるをえません。
ならば、いっそ議論好きなあなたは異論としっかり向かい合ってディベートせねばなりません。
平塚に住む旧友が、議員になったばかりの河野氏とたまたま街で出会い、いつのまにか1時間にも及ぶ議論になったことを話してくれました。
見ず知らずの市民ともざっくばらんに政治談義が出来るあなたに、旧友はぞっこんになってしまったそうですが、その初心をお忘れにならないように。
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河野太郎はとりあえず原発を再開させるとは言っても、核燃料サイクルは手仕舞いだそうですからどの道回せなくなります。分かって言ってるのかなあ。
発電所内でドライキャスク保存という手もありますけど(某軍事ミステリー作家という不思議な肩書になってる人の言う「野積み」ではない)、最終処分するには再処理利用をできるだけ進めた上でのガラス固化処分が必要です。
天皇に関してはなあ、戦後のGHQ命令で宮家を減らし過ぎたというそもそも論がありますけど···CVN-XXじゃないスーパーキャリアウーマンだった雅子妃のご懐妊騒動とか、当時のマスコミは本当に酷かったですからねえ。あれは本当に同情しました。普通に一人の女性としてあんなに毎日の体調がどうしたとか、デキたか?男か女か?なんて一々報道されたらメンタル持ちませんって!
投稿: 山形 | 2021年9月24日 (金) 07時27分
部会は専門性のあるシンクタンクの役割をしていますから、議論しても河野の能力では説得出来ないから邪魔なんでしょう。
ところで、河野は行革大臣になる直前には、自民党行革推進本部にいました。そこで民間人の意見を聞く「ミニマル交換」という方式を河野自身が提言していました。ところが、いざ自分が大臣になるとこれが邪魔になり覆します。
いきなり本部にやってきて、「皆さん、ミニマル交換は間違いでした」とだけ言って、理由の説明もせずに引き上げたそうです。(長尾議員 談)
議論や説得能力云々以前に、そういうつもりもない独善的な人柄なんだと思います。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2021年9月24日 (金) 08時30分
ところで皆さんはもう、例のエネ庁職員へのパワハラ音声を聞かれましたか?
私は文字面では読んでいましたが、昨日はじめて聞いてショックを受けてしまいました。まだの方は胸クソが悪くなり恐縮ですが、ぜひ聞いてみて下さい。
https://www.youtube.com/watch?v=r7mhGqYjdWI
こんなのを聴いて、なお河野を支持できる党員や議員がいる事が信じられません。まるでチンピラやくざそのものです。
どのような事情があったとしても、決して受け入れられません。まして総理大臣候補など、おこがましいにも程があります。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2021年9月24日 (金) 08時38分
河野氏のパワハラ発言については、以前に書いたように、私もあり得ないなと思いました。
ざっくばらんに議論すると言いますが、日本語わかる奴連れてこい!はいくらなんでも失礼な物言いで、どう聞いても以上なんて無理だって言っているのに、以上は含まれているとか言いがかりのような主張をゴリ押しして書かせようというやり方は独裁的過ぎます。
ともかく問題があれこれ出過ぎて、これを総理にして選挙で勝てると考えている様な人が国会議員なんて、本当に存在するのかな?と、最近は疑問に思っています。
しかし、小泉くんが大臣やってる国ですから、さもありなんか。
ちなみにうちの選挙区の自民議員は高市推しなので、河野氏が総理なっても投票します。
比例区は、基本入れないつもりですが、入れたい候補が出たら自民(候補名)で入れるかも。)
投稿: 監督 | 2021年9月24日 (金) 09時58分
すいません、何故か投稿名に関係無い単語が入力されましたが、上の投稿は私田中です。
投稿: 田中 | 2021年9月24日 (金) 10時00分
河野氏はただ一言、対中非難決議を出すと言えればよいんですが
それがどうしても言えないようです
はい、ばっちりご自身の政治活動影響しまくってます
言ったら日本端子がどうにかなっちゃうんですかね
河野氏、私も進次郎氏よりはマシかという程度には買ってたんですが、自分の見る目の無さにがっくりきてます
投稿: しゃちく | 2021年9月24日 (金) 13時18分
暗黒爆弾になりそうな日本端子の話は別として、部会発言は報道と実際の動画はニュアンスが随分違いました。
党を蔑ろにして閣僚だけでやるというのではなく、政務官や副大臣と議員でチームを作って形式的でない意見書や提言を年次に関わらずぶつけられるようにという、党が蚊帳の外というよりもっと中に向かう語りの中で、麻生節の子分版みたいな口の悪さがでていて、部会でぎゃーぎゃー、のくだりがありました。
自分でも切り取られると気がついて「ちょっとナシ、今の危ねえなあ」などと言い、場も内容が若手を鼓舞するような流れなので怒る場面ではなく党改革の講釈が続いていました。
党風一新の会が上げている動画、めっちゃ長いですが、1:15辺りから20分程の部分が該当時間です。
管理人さんのご友人の触れた片鱗が少しはあるのではとも思います。
敵基地攻撃能力については、伊藤提督は違う角度からある程度河野元大臣を評価しています。
彼曰く、あれは防衛省のレク通りにミサイル阻止力と防衛出動の命令を本当に出せるかどうかの問題を言ってるだけ、だそうです。
まあ、私は誰がというより、議論を通して磨かれた政策が実施され、負けた政策が採用されない事を望んでいるので、3候補には河野さんに益々反論をしていって欲しいです。
彼は反論大歓迎で提案を常に投げて議論を望むそうですから。
投稿: ふゆみ | 2021年9月24日 (金) 18時48分
キンペたんを日本に招くかどうかという頃、「毎日のように海警が接続水域に入って来る。日中が正常化したとは言えない」と述べた河野太郎氏もあったっけなぁ(遠い目
現時点では首輪付きで局所的に使った方がいい、ジェネラルには使えない人、ですかね。
態々「敵地ナントカ」って言い方をした時は、まだ子供ちゃんなのかと思ったものです。
ま、手数口数増えればボロも出るし、それは誰にもある。
いいじゃないですか、この総裁選。
テーマ別のオンライン討論会と質疑応答、話の内容や言葉のチョイスからちょっとした仕草まで、おもしろいです。
テレビや新聞が無くても各候補者の勉強伸び代のありようが知れるし、テレビ新聞あちらはあちらで、候補各人の考え方や政策について触れるものと触れないものがあるのが知れて。
投稿: 宜野湾より | 2021年9月24日 (金) 22時16分
部会発言について私がコメントを作文している間に本記事が丁寧に加筆されていました。昼も夕も早朝も、一体どうタイピング時間を捻出されていらっしゃるのか、集中力の成せる技なのか、いつもありがとうございます。
投稿: ふゆみ | 2021年9月25日 (土) 00時15分