オーカス作った米国がフランスと大喧嘩の模様
米国がフランスと大喧嘩を始めました。
同盟重視がうたい文句のバイデンですが、なにが起きたのでしょうか。
なんと米国独立記念日200周年のよき日に、フランスは式典には出ない、それどころか大使と領事は引き上げさせる、とカンカンです。
米国独立戦争に、フランス(といっても、ルイ16世の頃ですが)が肩入れして、ラファイエット将軍を派遣したり、仏海軍が英国海軍と戦って独立に貢献しています。
その結果、フランス王国の屋台骨が巨額の出費で傾き、フランス革命の遠因になってしまったのですがね。
ちなみにニューヨークの自由の女神像は、フランスからの贈り物です。
さて、ことの起こりは、米国が英国と共に始めた新たなオージーとの軍事同盟であるオーカス(AUKUS)が原因です。
米国はなんと英国以外門外不出だったはずの原潜を、オージーに提供すると言い出しました。
日経
「【シドニー=松本史】フランスの政府系造船会社ナバル・グループは16日、オーストラリア政府と契約していた次期潜水艦建造事業について「豪政府は次の段階へと進まないと決定した」として中止になると明らかにした。
豪州のモリソン首相は同日、米英の支援で原子力潜水艦を配備する方針を表明。ナバルは「大きな失望だ。我々は豪州に地域の中でも優れた性能を持つ潜水艦を提案してきた」とした。「5年間にわたり豪仏両国で我々のチームはベストを尽くし、すべての約束を果たしてきた」とも述べた。
豪政府は2016年、次期潜水艦事業の共同開発企業としてナバルの前身であるDCNSを選定した。同事業を巡っては日本とドイツも受注を目指していた。一方、ナバル選定後は保証期間などを巡る交渉が難航。豪政府とナバルの「戦略的パートナーシップ協定」の締結は19年にずれ込み、その後も計画の遅れが指摘されていた」(日経9月16日)
このオージーの新しい潜水艦計画は何度もケチがついている曰く付きのもので、日本もかつて受註競争に加わったことがあります。
これはオージーの潜水艦の老朽化だけではなく、中国がオセアニアの前庭である南シナ海や南太平洋海域を浸食してきたことに対する危機感の現れでした。
日本の通常動力型潜水艦の技術は世界有数の優れたもので、性能だけで競争すれば負ける道理がなく、受註すると思われていました。
日本が提供を申し出たのが実績が10年あって、その静粛性や長時間先行できる性能で世界一と評されている「そうりゅう」型でしたが、なんと土壇場で失敗。
実はこの時期、労働党政権のみならずオージー全体がサイレント・インベージョンかけられていたようで、中国が日豪が共通の潜水艦システムで繋がってしまうと、やっかいな水中の壁を作られることを嫌ったことが背景にあります。
実はこの時に受註合戦で日本の対抗馬だったのが、今たいそうお怒りのフランスでした。
フランスは、国ぐるみで受註を後押しし、国防相がわざわざ第1次大戦で豪州軍がフランスに出兵したアルバニーを訪れるという演出までしています。
「ル・ドリアン国防相は豪政府の主要閣僚とともに、100年前の悲しい出来事を称えた。「国防相はその重要なイベントに参加することを切望した。そこで豪州のジョンストン国防相、アボット首相と話す機会を得た」と、同行した仏関係者はいう。過去を共有することで、潜水艦の協議に向けた扉が開いたと同筋は振り返る」(ロイター2016年4月28日)
https://jp.reuters.com/article/submarine-australian-navy-idJPKCN0XP1BX
国際入札に不慣れなわが国の不手際も手伝って、結局フランスが受註してしまいました。
ところがフランスは原潜しか作っていないのですが、オージーには肝心の原子力産業がないため原潜の導入は無理と判断されましたが、、いやー原子炉抜いて通常動力型に直して提供しますよ、と安請け合いしてしまったのです。
で、2016年、現在のコリンズ級潜水艦6隻に代わる次世代のアタック級潜水艦12隻の設計・建造を仏ネイバル・グループに発注しました。
その受註総額は、900億ドル(9兆8400億円)ですからハンパありません。
誰も責任を取らない? 政治利用された豪州のアタック級潜水艦が破綻 ...
ところが想像どおり、原潜を通常型に改修するのが簡単なはずもなく、価格は200豪ドルから900豪ドル(約9兆8千億円)まではね上がりました。
なぜ200億豪ドル台だったアタック級潜水艦のプログラムコストが、4倍になったのかオージー政府は詳しい説明を行っていませんが、オージーメディアによれば、当時の政権がネーバル社案が地場生産するために新規雇用を発生するという政治的理由のようです。
また性能的にも「そうりゅう」並の長時間潜行もむずかしそうで、完成しても「そうりゅう」型と比較にならないポンコツなのが分かってきました。
「さらに通常動力型として設計された潜水艦が提案されていたにも関わらず原子力潜水艦として設計されたシュフラン級を通常動力型の潜水艦に変更するという案は無駄にリスクが高く、フランスが設計したアタック級潜水艦に米国製の戦闘システム「AN/BYG-1」を統合するという作業も基本設計に遅れを招いている要因で「鉛蓄電池を搭載したアタック級潜水艦が完成することには時代遅れになっている」と嘆いている」(航空万能論2021年3月2日)
そしていつまで待てど暮らせど出来てこないわ、当初約束した地場生産を当初9割から5割りに下げるわ、と豪州政府をいらつかせていました。
また悪いことには、豪州政府側の大臣がくるくる変わり、元の約束がどうなっていたのか、誰の責任だったのかもはや藪の中、という事情も手伝ったようです。
案の定、仏ネイバル社が言ってきたのが、やっぱり原潜計画に変更したらどうかという申し出です。
「ネイバルはこのほど、ディーゼルエンジンが設計条件だった次期潜水艦「アタック級」12隻の一部について、原子力潜水艦に変更できると伝えていたという。個人的には、「やはり来たか」という気がした。以前この欄で、動力が将来ディーゼルから原子力になし崩し的に切り替わることが想定されるため、「原潜を唯一持つフランスが有利な出来レースだった可能性がある」(第99回「潜水艦と政治力」)と指摘したが、それが裏付けられるような思いがしたからだ。
だが、原潜への切り替えは膨大なコスト増が予想される。それにオーストラリアの国内生産比率や情報公開義務などにも振り回されるのは必至だ。日本はいらぬトラブルに巻き込まれないだけましだったのかもしれない」
(NNA豪州・西原哲也2019年10月18日 『【有為転変】第136回 混乱する潜水艦プロジェクト』)
https://www.nna.jp/news/show/1961449
おいおいですが、さんざん待たせて、契約時の約束は値切り倒し、結局原潜じゃどうだもないもんですが、これを見かねたのか登場したのが米国でした。
ここで冒頭の米仏の喧嘩に戻ります。
2021年9月15日、米国は、英国、豪州3カ国が新たな安全保障パートナーシップ(新防衛協定:a new defence pact・オーカス・AUKUS)を締結したと発表し、同日、豪州に原子力潜水艦を配備する技術と能力を提供すると発表しました。
日本も聞いていなかったことで世界がたまげたのですが、これによって豪州政府はフランスとの契約を廃棄することになりました。
といっても、原子力技術を持たないオージーですから、おそらくは丸ごと米国で製造してもらうにせよ、後々のメンテなど問題は山積です。
米メディアBreaking Defenseはこのように見ています。
「原潜建造には原子力技術者だけでなく放射能に精通した医療スタッフのバックアップ、完成したシステムが安全に作動するのか検査を行う特殊な専門家も必要で、多様な原子力関連のスタッフを1から育成するのは一朝一夕では不可能である。
さらに米海軍関係者も「原子炉を扱う技術者の育成には最低でも2年以上、原潜の運用に精通した指揮官や上級幹部を育成するにはもっと長い時間がかかる」と見ており、豪州が単独で原潜の建造や運用を行えるようになるまで10年~20年はかかると見られている」(Breaking Defense)
おそらくまったく基盤のないオージーに原子力潜水艦技術を移転することは、そうとうに困難、短期的には不可能だと思われます。
可能となるにせよ、10年単位の時間がかかってしまうようです。
すると潜水艦能力を空白にするわけにはいかないために、暫定的に米英から原潜をリースすることになりますが、米国でも年に1隻ていどのスローペースで建造しているために、オージーに回す余裕があるかどうか危ぶまれているようです。
これは英国も同じで、もっと余裕がないでしょう。
だから初めから日本の「そうりゅう」にしておけばよかったのです。
初めのボタンを欠け間違うと最後のボタンがはまらなくなる、という例えどおりです。
悪いことはいわないから、日本がすぐに提供できる「そうりゅう」型に戻りなさいって。
さらに悪いことに、この米豪政府の背信行為に対して、フランスの怒るまいことか。 素で怒っています。
そしてとうとうEUもフランスを支持すると言い出しました。
ピーンチ、バイデン!
日経
「【仏外相「裏切られた」 豪側の契約中止に反発
パリ=白石透冴】オーストラリアが原子力潜水艦の開発を決め、フランス企業との潜水艦建造事業を中止すると表明したことについて同国のルドリアン外相は16日「豪州とは信頼関係を築いてきたが、裏切られた」と述べ、強い不満を表明した。豪州は次期潜水艦の共同開発の相手として仏企業を2016年に指名していた。
ルドリアン氏は仏メディアの取材に「乱暴で、予想がつかない決定だ。トランプ前米大統領によく似ている」などと強い口調で語った。「まだこの話は終わったわけではない」とも指摘し、契約の扱いについて豪側と話し合う姿勢を示した」(日経9月16日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR169GF016092021000000/
ルドリアン外相は、米欧の軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)が取り組んでいる指針「戦略概念」の改定に今回の問題が影響するとも明言し、こと次第では世界戦略にも響くぞと警告しました。
今はフランスのNATO脱退の可能性は否定していますが、今後次第です。
それにしても米国、この問題やりようによっては悪手です。
オーカスは、米豪英という性格からしてアングロサクソン同盟ですから、グアッドというインド太平洋地域というエリアの同盟であるクアッドの中に、もうひとつ英語圏の仕切りを作ってしまうことになりかねません。
それを見て、クアッド内で微妙な立ち位置のインドや、今後クアッドに加入を目指す立場のベトナムがどう考えるか、そこまで先を見越して米国がやったとは思えません。
オーカスについて蚊帳の外に置かれたわが国だって内心いい気持ちではないはずで、バイデン-ブリンケンもう少しうまくやって欲しいものです。
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おフランスは激オコのようですが、原潜専門になってて作れもしないロストテクノロジーの通常型潜水艦を無理矢理受注(オージーも日本案じゃなくてもせめてドイツと契約しとけよ)しておいて、後で散々吹っ掛けまくってたし、DCNSは中国のハッキッングで技術データ流出するという有様でしたから···そりゃあオージーも不信感が高まりますわな!
その上で原潜ならどうですか?なんて言われりゃ「おフランスさんバイバイ」です。
フランスの大臣がここまで口汚くアメリカを批判するのは筋違いです。
今となってはむしろ拙くて失注した日本が絡んでなくて良かったですよ。
またオージーとしてもここ数年で中国との関係が急速に悪化してますから、高性能ディーゼル潜水艦で海中から睨みを効かせる段階から攻撃型原潜を選択する方向への転換も自然な流れでもあります。
アメリカが原子力動力を技術移転するのは英国以来の半世紀ぶりの2カ国目なんですから、よほどの決断です。
後はちゃんと数を揃えて運用できるようになるまでに何時までかかるかですけど。。
投稿: 山形 | 2021年9月22日 (水) 07時45分
書き忘れたので追記です。
クアッドとオーカスもそうですが、米仏が大揉めしてインド·太平洋地域でガタガタしてると···喜ぶのはチャイナだけですな。
ベトナムや台湾と日本には実に困ったことになります。
NATOとフランスの関係も微妙なものがド・ゴール時代からあるんですけど、
このコロナ禍でフランスが中国に提供したBSL-4施設に関してアメリカは何らかの情報を掴んでいるのではないか?というのは邪推ですかねえ。。
投稿: 山形 | 2021年9月22日 (水) 07時52分
なんだか、バイデンさん、ポカばかりしている気がしますが、マスコミがバイデンさんの、おそらく手回しミスだった事は、あまり指摘したないのが、有る事無い事叩かれたトランプさんと比較して、ズルいなと思います。
投稿: 田中 | 2021年9月22日 (水) 08時12分
西側諸国は西側諸国で勝手に喧嘩してくれるから、中国さんはニッコニコですね。
投稿: ねこねこ | 2021年9月22日 (水) 11時16分