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2021年9月 9日 (木)

タリバン内部抗争勃発

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私が床屋政談をしているうちに、アフガンではタリバンの内紛が始まってしまったようです。
やっぱり始まったか、ってかんじです。
一般的に言っても、米国という共通の敵を失うと、こういう武力にのみ頼ってきた連中は内部抗争に突入します。
おまけにこのタリバン諸派は、いずれも頭がガチガチな原理主義の輩ですから、その狭い「イスラム法」の真実の幅を争って血を流すことになります。

なぜなら、自分こそが「正義」であり、それを実行しているだけだからです。 
タリバン
は、一種の朱子学の名分論と似た発想をとります。
名分論とは、正邪の区別が何かを明らかにする考え方ですから、己の正義を相対化して考えることをしません。  

「朱子学がお得意とする大義名分論というのは、なにが正でなにが邪かということを論議することだが、こういう神学論争は年代を経てゆくと、正の幅がせまく鋭くなり、ついには針の先端の面積ほどにもなくなってしまう。その面積以外は邪なのである」
(司馬遼太郎 『街道をゆく(28)耽羅紀行』 )

つまり、自分たちが信じる「針の先端ほどの正義」以外は、すべて邪悪な間違いなのだから、間違いである以上は正さねばならない、それがイスラム法の正義を実行することだ、と思う教義が、タリバンらいわゆるイスラム原理主義者には元来あるのです。 

そのせいもあって、かねてから、タリバンは一枚岩とはほど遠いモザイク組織だと言われていました。
そして彼らタリバンは、アフガン独特の広大な土漠と険しい山岳の荒野に、点々と住んでいます。
部族が違えば、言語・風習も違います。
いちおう部族多数派のパシュトーン族が主導権を握っているようですが、対立する部族は好き放題に割拠し、それに加えて中東から逃げてきたISISやアルカーイダなど危ない連中まで武器を手放さないのですから、平和な統治なんてできるはずがありません。

当然のこととしてタリバン新政権の組閣はもたつき、報道官は早く国家承認を受けようと民主主義でやりまーす、女性の人権は守りまーす、ただしイスラム法の枠内で、などと言わねばならなくなっています。
まぁこのイスラム法自体がまったく女性の人権なんぞ認めていないので、つまりは認めないんですがね。
といっても、カブール市内ですら女性に笞打つ風景が目撃されていますが、日本のメディアによく登場する中東専門家たちは「新しいタリバンだ」なんてホロホロと喜んでいるようです。

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タリバンが「女性蔑視思想」を築いた3つの背景 | アジア諸国 | 東洋経済 ...

とまれなんせ今のタリバン政権を認めているのは、中国を筆頭に、パキスタン、イランなどのいかにもいかにものメンツばかりで、これではとても国際社会が認める国家要件を満たさないために「政権」づくりに懸命です。
ただし、一部のタリバンだけですが。

ちなみに組閣はこのようです。
首相は3代目指導者ハイバトゥラ・アクンザダです。この人物はイスラム法学者です。

「1996年から2001年にかけてタリバンがアフガンを支配した際、女は家にずっといろ、女は学校に行くな、女は仕事に行くな、家事と子育てだけやっとけ等々について、それがイスラム法的に正しいとお墨付きを与えてきたのがこのアクンザーダだと言われています」
(飯山陽note 9月8日)

バルダルが副首相、ハッカーニがなんと難民担当相手です。
今までアフガン難民を作りまくって来た男がね。
飯山氏はこのタリバン政権を、ズバリ「テロリスト政権」だと断定しています。

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ひとつの派が政権を作るために交渉をしていると、他派は交渉なんぞすること自体が背教だと決めつけ襲撃する。
政権を作って統治体制をととのえようとすればするほど、さらに過激な一派は不信を深めて、アルカイーダやISISなどに流れていくことになります。

そもそもタリバン指導体制でナンバー1の地位にいると見られるハッカーニ・ネットワーク(HQN)の指導者セラージュッディン・ハッカーニと、タリバンナンバー2のアブドル・ガニ・バラダルが不和でした。
このハッカーニは最凶最悪のテロリストで、アルカイダ系タリバンと呼ばれている武闘派です。
いままでこの男は、数えきれないほどのテロを行い、大量の人々を殺し続けてきました。
米国は指導者のハッカーニを長年追いかけてきましたが、とうとう下の写真のようにカブールに凱旋してしました。
まさに悪党の凱旋です。米国の腹は煮えくりかえったことでしょう。

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ジャラールッディン・ハッカーニ
カブールの路上で見られるテロリスト

公安調査庁のサイトによれば、ハッカーニはこんな人物です。

「シラージュッディン・ジャラールッディン・ハッカーニ(Sirajuddin Jallaluddine Haqqani)
3人いる副指導者の一人(2015年7月就任)。1973~1978年の生まれ。パキスタン北西部・KP州北ワジリスタン地区ミランシャー又はアフガニスタン南東部・パクティア州出身。パシュトゥン人カルラニ部族連合ザドラン族の出自。「ハッカーニ・ネットワーク」(HQN)(後述)指導者も務める。HQN創設者のジャラールッディン・ハッカーニの息子。
20代前半までは目立った活動はなかったが,その後,積極的に武装闘争に関与してきたとされ,現在も「アルカイダ」との関係を維持しているとされる。
国連安保理「アルカイダ」及び「タリバン」制裁委員会は,2007年9月,同人を制裁対象に指定した」https://www.moj.go.jp/psia/ITH/organizations/SW_S-asia/taliban.html

一方バラダルは、タリバンの政治担当で、米国との撤退交渉を進めた人物です。

 

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バラダル

「バラダル師は2010年にパキスタンで逮捕され、身柄を拘束されていたが、アメリカの働き掛けで2018年に解放され、カタールへ出国しました。そこでタリバンの政治部門トップに任命されると、アフガニスタンに駐留する外国軍撤退に関する米軍との和平合意調印を見届けた」
(ベトナムの声放送8月22日)タリバン共同創設者バラダル氏、アフガン首都入り (vovworld.vn)

ハッカーニが純粋なテロリストならば、こちらのバラダルは政治交渉もできるタイプです。
米国との交渉の場に出てきたのは、このバルダル派です。
ここで勘違いしていただきたくないのは、日本の中東屋の多くがバラダル派のことを「穏健派」と呼び、女性の人権にも理解があるなんてトンチキなことを言っていますが、間違いです。
バルダル派も、ハッカーニ派と同じくにガチガチのイスラム原理主義者にして暴力の信奉者であることは一緒です。
ただ向きが多少違うだけです。バラダル派は交渉もできるタイプのテロリストだというだけのことです。

飯山陽氏はこう述べています。

「バラダルは筋金入りのテロリストです。米軍やアフガン政府軍との戦闘中、タリバンの上級指揮官を務めていました。2010年にパキスタンで逮捕、投獄され、2018年に釈放された後、ドーハのタリバンの政治事務所の責任者となり、アメリカとの交渉に当たってきた人です。
でも朝日のように単に「米国との交渉役を務めてきた」と書けば、なんだかむしろまともそうな、話の通じそうな人、という印象を受けますよね。
これを一般に「印象操作」と言います。私のように「バラダルはアメリカとの戦いでバリバリの司令官をつとめ、パキで逮捕され投獄されていた、正真正銘の筋金入りのテロリストです」と書けば、読み手の印象は全く異なるはずです。
そうそう、バラダルはモッラー・オマルから「兄弟バラダル」と呼ばれていたそうで、それぐらい寵愛を受けていたようです。なぜって?そりゃー、バリバリのテロリストだからですよ」(飯山陽note 前掲)

このふたりが9月6日、マスードの息子が指揮する国家抵抗戦線(NRF)が立てこもっているバンジシールの鎮圧を巡り激しく対立して、お約束の銃撃戦にまで発展しました。
ちょっとした方針対立ですぐに銃撃戦になるというのが、いかにも彼らテロリストらしいところです。
一般人なら意見対立したくらいで、すぐにドンパチやりませんからね。
そしてこの銃撃戦で副首相に指名されていたはずのバラダルが重傷を負い、どうやらパキスタンに治療のため輸送されたようです。
この両派の銃撃戦のために、9月3日に行われると言われていた新政府内閣の発表日程が延期されました。

「タリバンがアフガニスタンで政権を樹立しようとは、様々な派閥間の戦闘の報告に悩まされている。報道によると、グループ共同創設者のムラー・アブドゥル・ガーニ・バラダルは、金曜日の夜にカブールのハッカニ・ネットワークの戦闘員との銃撃戦で負傷した。一部の報道は、戦闘が報告される直前に、肉屋のバラダルとして知られるバラダルがカブールの新しいタリバン政府の長になると言っていた」
(インターナショナル・ビジネスタイムス9月7日 原文英文)
タリバンの指導者バラダは、カブールのハッカニネットワークとの戦いで負傷した (ibtimes.com)

どうやらバラダル派は、バンジシールのNRFと交渉による解決を望んでいたようですが、それにパキスタン情報部の後援を得ているハッカーニ派が反対して情け容赦ない武力鎮圧を命じたようです。

「報道によると、ムラー・バラダは同胞と戦いたくないが、パキスタンのスパイ機関インターサービス・インテリジェンスの後援を享受するハッカニ・ネットワークは抵抗を打ち負かしたいと考えていたという」(インターナショナルビジネスタイムス前掲)

NRFが立て籠もるバンジシールは、アフガンの中でも特別な地域です。
ここがソ連の侵攻に対して最も頑強に持ちこたえ、やがてソ連を追い出す原動力になる国民的抵抗の拠点となったからです。
バンシールの3000mの峰々でソ連軍と戦ったのが、マスードでした。
この国民的英雄については別の機会に譲りますが、マスードが生きていたら今のような混乱の地にはならなかったはずです。

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「険しい山の谷であるパンジシルには、15万人から20万人が住んでいます。アフガニスタンが1980年代にソ連占領下にあった時、そして1996年から2001年の間にタリバンの前の支配期間の間に、それは抵抗の中心でした」(BBC 9月6日)
アフガニスタン:抵抗指導者はタリバンとの和平交渉にオープンと言う - BBCニュース

さてこのタリバンのナンバー1と2の銃撃戦によって大統領に擬されていたバラダルが重傷を負ったことに驚いて仲介に走ってきたのが、パキスタン情報部でした。

「【ニューデリー時事】アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンに強い影響力を持つパキスタン軍情報機関、3軍統合情報局(ISI)のハミード長官が4日、代表団を率いてアフガンの首都カブールに入った。タリバンをめぐっては、新政権の閣僚人事の発表が間近とみられる一方、内部対立も伝えられており、ハミード氏が仲裁に当たるもようだ」(時事9月4日)
タリバンの内部対立仲裁か パキスタン高官がアフガン入り:時事ドットコム (jiji.com)

ここで登場するパキスタン軍統合情報部(ISI)という組織はとんでもない曲者で、タリバンを育成し、アルカイダを操っていた黒幕です。
情報部といいながらほとんど政府から干渉を受けない国家内独立王国で、かつてその庇護の下に逃亡している
アルカイーダのウサマ・ビン・ラーディンを匿っていました。
米国は初期に対ソ連で彼らを援助していた関係から、このISIとタリバン・アルカイダとのつながりについてよく知っていました。

「米上院軍事委員会の公聴会で証言したマレン議長は、パキスタン軍3軍統合情報部(ISI)が武装組織「ハッカニ・ネットワーク」を積極的に支援しており、同ネットワークはISIの「正真正銘の片腕」として行動していると名指しで非難。かつてなく厳しい口調でパキスタン政府を批判した」(CNN2011年9月11日)

聞き慣れない名前が飛び交って頭がグルグルされたでしょうから整理すれば、アフガンには3派の過激派とそれに抵抗する組織が一つあります。

①タリバンバラダル派・政権主流派。大統領となる予定のバルダルが②に殺されかかる。
②タリバンハッカーニ派・アルカイダと連携し、構成員もかぶる最凶過激派。創始者の息子が指導者。
③ISIS-K(・タリバンが異教徒と交渉したことを背教者と呼び、①を敵視する最凶過激派。カブール空港自縛テロ犯人。
国家抵抗戦線(NRF) ・新北部同盟。マスードの息子らが急峻な山岳に立てこもって戦いを継続している。インドと西側が支援。

①から③は決して一枚岩ではなく、部族ごとに分かれており、地域軍閥と呼ぶほうが近いと思われます。
したがって戦闘員も今日はこちら、明日はアチラと流動的で、これでは今後タリバンが政府もどきを作っても行政組織はおろか正規軍などは生まれようがないでしょう。
というわけで、まだタリバン政権が始まりもしないうちからもう武装抗争の勃発です。
日本のメディアが待ち望む、「新生タリバンの民主主義の国」などどこにあるのでしょうか。
 

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コメント

やはり始まりましたな。
分かりやすい所だとフランス革命の頃から同じことやってます。どんどんより過激なのが牛耳っていく。

今回の解説はアフガンの反政府(新政府?)の内ゲバの構図がわかりやすくて良いですね!
カブールでは「反パキスタンデモ」なんてのも起きてますから。。

あの場所は、仕方ないかもです。
メソポタミアの時代から都市文化があり、
古代から一寸前ぐらい前まで陸上交易路として栄えていたけど、
自前の産業といえば、麻薬と鉱物資源ぐらいしかない。
交易網から外れた今では、見るも悲惨です。

イスラム原理主義の考え方ではソビエト・ロシア、日本も含め、西側諸国の支援などはすべて侵略行為に当たるらしい。

お気の毒ですが、黙って見ているしかないです。

 北部同盟を作り、アルカイダの自爆テロで死んだマスードの息子が今、「アフガニスタン最後の希望」と呼ばれていますね。ガニ氏と違い、気骨ある副大統領のサーレ氏が担ぐ陣営で④になります。

しかし、いくら殺戮者のハッカーニ派でも、こんなに早くバラダルを殺ろうとするとは驚愕しました。パキスタンが仲裁なんて、悪い冗談のように思えます。アフガンの子供たちに自爆的ジハード教育を施した元凶ですから。
このままではテロ時代に逆戻りしそうです。

原理主義ってのは、タマリマセンわ。当初は、もうドーしょうもない
混沌状態を、なんとか打開するためについたウソ、方便ですわ。我
が日本国も、明治維新の時、開国派・尊皇攘夷派の各藩分かれて
の内戦状態になる寸前に、「天子さまなるぞ、国史をよく御覧なされ、
上代から日ノ本は天皇陛下が治める地ですじゃ、神の御子孫ぞ!」、
という天孫降臨の神話でもって、日本国という概念を持つことがで
きた。

それ以前は、国といえば藩(実際は大名家)のことで、日本という概念
は、一般庶民には無かった。それが突如、現人神ですよ、神国です
よ。でも、これは当初は上手くいった。日本人という意識が生まれて、
西洋に追いつけ追い越せと、近代日本が誕生したんですわ。
それがいつしか、建前上の天皇直轄という組織が勢力を持つ必然
となって、「天皇陛下の御国の為に、バクダン持って突っ込んでくれ
るよな!おう?てめーら」となった。

イスラム教も、血で血を洗う部族対抗社会だった中東地域に、大変
な平和(それ以前と比較して)をもたらしたので、この地域は商工業
などに大変に栄えて、中世では一番の先進地域のイスラム大帝国
になった。その原動力はアラーの与えたキビシイ戒律で、一神教の
ために、イスラム教徒は全員等しく従わなければならなかった。逆に
言えば、唯一神ゆえ万民に公平だったもんで、イスラム法でもって
個人は保証(それ以前との比較で)され、イスラム圏は当時世界一
栄えることになったんですわ。

イスラム以前では所有物扱いだったオンナは、オトコ達の争いの種
になっていて「オレのオンナにちょっかい出したな、グサッ(刺した)」
「あっ、オレの弟を殺したな、ボシッ(首刎ねた)」じゃまずいので、オン
ナの容姿を隠すようにしたし、家の中に隠して他人の目から遠ざけ
ることは、当時の平和を考えると当時では合理的だった。

まあ、こんな事は、日本の似非リベラルは知らないか知らないフリを
してるだけで、現在のアフガン人でも大勢の人が「中世と現在じゃ全
然違うじゃん、女性はバンバン社会へ出てもいいじゃん」と思ってる
んだけど、彼らにはタリバン以上の暴力装置が無いし、タリバン内紛
にも為す術がない。米軍は逃げちゃったし。悲しいけど、中世のイス
ラム法を絶対視する政権(悪党ども)が続いて、無茶苦茶になりそう。

戦後日本じゃ、連合軍は米軍管轄の統治下になったけど、ヘタをし
たらスターリン恐怖のソ連だった。朝鮮は、ハーフ&ハーフとなって
しまい、半島の不幸を見た。将来、混乱して、もうドーしようもなくなっ
たアフガンはドコの国が統治するんだろう?一帯一路の中共しか思
いつかないけど、もう毒をもって毒を制すのアレですわ。共倒れして
下さい。

さすがにここまで一気に情勢が渾沌としてくるとよほどのアホでも下手に介入しようとは思わないでしょうたぶん…
そういえばミャンマー情勢もどうなっているんでしょうか?
かすかに聞こえてくる話ではあちらもかなりヤバイ内乱状態寸前とのことですが。

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