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2021年10月

2021年10月31日 (日)

日曜写真館 秋風あるいてもあるいても

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鴉啼いてわたしも一人 山頭火

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ほろほろ酔うて木の葉ふる 山頭火

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秋風の石を拾ふ 山頭火

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塵かと吹けば生きてゐて飛ぶ 山頭火

 

 

2021年10月30日 (土)

原子力を見直す英国の平衡感覚

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先日のこと、早朝のラジオを聞くともなく聞いていたところ海老蔵さんが登場しました。
イメージと違って、実によくしゃべる人です。
家族と芸の話が中心でしたが、海老蔵さんは愛息に厳しい家庭教育をしているようで、テレビドラマを観てなにかのシーンに当たると、お前だったらどのように演じると質問するのだとか。
いまから成田屋の大看板を背負うことを宿命づけられた息子を鍛えているんですね。
こりゃ父親と一緒にテレビを観ることひとつもたいへんだ。

また、海老蔵さんは地球環境の保全に熱心で、息子にも「地球がダメになったら歌舞伎もできなくなるんだぞ」と教えているとか。
息子だけではなく、子どもたちの集まりにも出て、積極的に活動しているそうです。
その息子に「テスラの株がトヨタより高いのはなぜだ」と問うたとのこと。
海老蔵さんとしては、たぶんテスラのほうがトヨタより地球環境保護に役に立っているからだ、という答えがほしかったのかもしれません。

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会話は弾まなくてOK。プロが伝授する「父親の息子との接し方 ...

なんと息子に教えたのかは海老蔵さんは言わなかったのですが、もしそうだとしたらちょっと違うみたいですよ、海老蔵さん。
今グリーンファンドやテスラなどの電気自動車株は軒並み沸騰中ですが、それはほんとうに投資家が地球環境を思っているとか、あるいはテスラが実際にその役に立っていることを評価されたからというわけではないのです。
嶋津洋樹氏はそれを 「株の自己実現」の作用が働いているからだとしています。
「株の自己実現」とはあまり聞き慣れない言葉ですが、経済の世界でよく使われる言い方だそうで、みんなが「この銘柄の株価が上がる」と信じてその株式を購入すると、本当にその株価が上がることがあります。
こうした株式相場の現象のことを、「自己実現的」とか「自己成就的」と呼ぶそうです。

実際にテスラ株がすごい急騰をして世界を騒がせました。

「現在最もウォールストリートを賑やかせているのは、テスラだろう。直近の2四半期は好決算となり、株価は今年に入って急騰している。
テスラ株は2月6日の時点で年初来79.04%の上昇となっており、これはS&P500の企業の中でもトップである。今週4日に史上最高値である968.99ドルを打ってから、2日営業日連続の下落となり6日の終値は748.96ドルとなっている。
株価の急騰によって、今週4日の時点ではテスラの時価総額は約1600億ドルとなった。これはゼネラルモーターズ(NYSE:GM)、フィアット・クライスラー(NYSE:FCAU)、フォルクスワーゲン(OTC:VWAPY)すべての時価総額の合計よりも大きい
(インベスティング・ドットコム 2020年02月12日)

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テスラ株を買うにはもう遅いか? | Investing.com

このグリーンファンドやテスラ株などは、みんなが上がると信じて買いに走った結果、本当に上がって行ってしまったのです。
つまり地球温暖化やCO2削減に関連する株ならなんでも上がる、電気自動車株なら絶対に儲かる、こういうほとんど信仰に近いものができてしまっているというわけです。
こういう自己実現の株相場が生まれるほど、世界はこの方向で驀進してしまっているわけです。
こうなったら人類全体のモメントみたいなものですから、もう誰も止められない勢いがついているということになります。
もちろんこれは実際に、テスラが地球温暖化を止めることに貢献しているのかどうかとは関係ないことなのです。

先ほどの海老蔵さんの「地球温暖化を止めないといけない」というのは、たいへんに美しい心根で、それを子どもに伝えるのは立派なことです。
しかしそのひとりひとりの思いが積み重なって人類社会で何十億人という集合体になってしまったらどうでしょうか。
それはいまや疑う事も許されない絶対的真実に変質しています。
そしてこの「唯一の真実」に従って、すべてが動くようになってしまいました。

思わぬ余波が出ました。昨日見たように、化石燃料掘削への投資はどんどんと急減し、したがって掘削設備は老朽化し、使いものにならなくなっていっています。
OPEC諸国は、もう化石燃料は先細りだと見て、原油から金融などの別な場所に投資先を変更しています。
規模の小さなOPECプラスの国々などは過少投資で、もう原油生産から撤退しようとする動きすら見せています。
米国の自慢だったはずのシェールガスすら衰亡の危機を迎えています。
しかしコロナ禍からの復興で、今ほどエネルギーを国際社会がほしがっている時はないはずで、ここで起きたのが原油の供給不足から来る高騰でした。
するとどうなったでしょうか。
世界が必要とする原油供給が絶対的に不足する事態になり、原油高はその国の経済だけではなく庶民の生活まで苦しめ始め、復興を妨げ始めました。
これがひとりひとりは正しくとも、それが集合すると時に誤謬となることもありえる、という「合成の誤謬」というパラドックスです。
海老蔵さんひとりひとりは正しくても、それが人類単位のマスになるとあんがい間違っているのかもしれないのです。

では、どうしたらよいのでしょうか。
地球温暖化が間違っていると叫びますか。たぶん無意味でしょう。
ここまで国際社会が巨大な集合体と化して動き始めててしまった以上、止められるのはトランプくらいしかいません。
そのトランプも、すべてのメディアから袋叩きにされて、無念の涙を飲みました。
メディアや民主党のバックにいたのが、このグリーンファンドに巨額の金を注ぎ込んでいるソロスのような投機家たちでした。

いや絶望しないで下さい。英国政府の答えがひとつの参考になるかもしれません。
2021年10月23日、英国政府は地球温暖化という錦の御旗はそのままにして、CO2を削減し、気候変動の危機から地球を救うために原子力エネルギーの拡大を決定しました。
英国紙によれば、この計画で国家予算を獲得を狙う最有力候補はサフォーク州サイズウェル原子力発電所だそうです。

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BBC サイズウェル原発完成予定図

新たな原発は、英国の総合エネルギー企業「EDF エナジー」のプロジェクトで、資本は100%フランスに属しています。
EDF エナジーによれば、この原発はこの先60年にわたって約6百万世帯にCO2の少ないエネルギーを充分に供給できるそうです。
実は英国も福島ショックによって原子力からの全面離脱に舵を切っていました。
ただし英国人の脱原発政策は、観念的なドイツとは正反対で、より安全性が確証され、安価なエネルギー源となりうるなら原子力も視野からはずさなかったのです。

ドイツ型脱原発をモデルにした日本の脱原発運動家や野党は、まず原子力を全面否定してしまいました。
そして同じようにCO2の排出源として火力発電も一緒に否定してしまいましたから、どんどんと選択肢を自分で切り詰めて隘路へ突き進んでしまったことになります。
いわゆる01の発想です。この人たちは、原発やCO2だけではなくすべからく同じで、コロナゼロなどとすぐに言い出します。

日本の、というより世界の工業国のエネルギー配分は大きく火力と原子力の二つで成り立っていましたから、この二つを共に葬ってしまうと、もう風車と太陽光だけしか残りません。
実際に野党や河野氏などはそれで大丈夫だと言っているようですが、指摘する必要もないでしょうが、こんなことをしたら日本の製造業は滅び、やがて国全体も滅びます。

英国はこのような愚かな2択の罠に乗りませんでした。
バランスを重んじたのです。
英国政府の原子力エネルギー計画の詳細が明らかになるのは、2024年の選挙前だと予測されていますが、その原型は既に英国財務省が2020年11月25日に「国家インフラ戦略-より公平、迅速かつ環境に優しく」という文書で公表しています。
たぶんブレグジットの理由の一つにエネルギー政策があったはずで、ドイツが支配するEUの方針に拘束されていては自由なエネルギー政策をとれないと考えていたはずです。

英国は、まずエネルギー供給を最優先に考え、 2050年までにCO2排出量実質ゼロに移行するためのエネルギーインフラ計画を明らかにして、この中で原子力発電についてこのように評価しています。

「実証済みの技術を用いた費用対効果の高い電源であり、再生可能エネルギーの補完も可能な信頼性の高い低炭素電源である」

もちろん2014年以降30%だった石炭火力への依存度を1%以下に下げるということも忘れてはいません。
私はこれはあくまでも英国の答えでそのまま日本に移植する必要はないと思っていますが、地球温暖化と原油高対策を同時に答えていこうとするものに思えます。
その発想の柔軟さにはいつもながらたいしたもんだと関心しきりです。

 

2021年10月29日 (金)

行き過ぎた温暖化対策によって引き起こされた石油危機

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ガソリン価格の歯止めがかかりません。7年ぶりの高騰だそうです。
平常ならバレル60ドルを超えると、自然に相場は頭打ちとなって下がって行くものですが、今回に限ってその気配さえ見えないようです。
原油価格のベンチマーク(指標)価格であるWTIは、10月20日の時点で1バレルあたり82ドルを超え、こちらも同じく14年10月以来となりました。
ちなみにWTIは原油先物相場に頻繁に登場する指標のひとつです。

「ニューヨーク商業取引所(NYMEX)で取引されているWTIの先物のこと。WTIは英語表記「West Texas Intermediate」の略で、米国南部のテキサス州とニューメキシコ州を中心に産出される硫黄分が少なくガソリンを多く取り出せる高品質な原油で、欧州産の北海ブレント、中東産のドバイと並ぶ、原油価格の代表的な指標のひとつ。WTI原油先物は、取引量と市場参加者が圧倒的に多く、原油価格の指標にとどまらず、世界経済の動向を占う重要な経済指標のひとつにもなっています」(三井住友アッセットマネージメント)

現在のWTI原油先物はこのように推移しています。

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WTI原油-ドル/バレル価格-日中足~5年
https://www.pwalker.jp/wtioil.htm

このまま高騰が続けば、原油価格がバレル当たり100ドルという冗談のような価格に達する勢いです。
その場合、円安為替が続いたとしてもガソリン価格は180円/リットルに達する可能性があるようです。

原油価格の高騰は、いわゆる「悪いインフレ」の典型で、モノが売れて景気がよくなって経済が温まっていく「いいインフレ」ではなく、コスト高でモノの価格がつり上がってインフレとなる「悪いインフレ」に直結します。
このモードに入ってしまうと、投資が妨げられ、経営が苦しくなって生活がいっそう苦しくなり、ボディブローのように日本経済を圧迫します。

これはわが国だけではなく、世界が同時にひっかぶっている状況です。
産油国が増産することで、いままでは解決してきましたが、今回に限って産油国の腰が異様に重いのです。
というのは、産油国はCO2対策がこのまま拡大すると読んでおり、うかつに産油量を上げることにきわめて慎重だからです。
そして化石燃料が悪玉扱いされる世界的流れの中で、石油・天然ガス・石炭の開発投資は急減しています。

OPECプラス参加国の中で実際に増産を行えているのはわずかで、多くの国は過去の設備投資の過小投資の影響で割当て産油量さえままならない状況です。
たとえばナイジェリアやアンゴラは、産油施設の老朽化によって、昨年夏から割当量すら達成できない状況に陥っています。
なおOPECプラスとは、サウジアラビア、イランなどの13カ国が加盟するOPEC(石油輸出国機構)以外の、ロシア、カザフスタン、ナイジェリアなどのOPECに加盟しない10カ国で組織する世界の原油生産の半分強を占める産油国の集団のことです。
中東で唯一生産量を上げられる余裕があるのは、皮肉にもイランだけですが、米国の制裁で輸出が出来ない状況です。

従来は原油高騰時の安全装置が米国のシェールガスでした。
ではその頼みの米国のシェールガスはといえば、少し前までは原油価格が上昇に転じればシェールガスが増産されて、原油高騰に歯止めをかけられていたのですが、このシェールオイルも過少投資によってバブルが弾けて次々に設備を閉じている状況です。

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米シェール主要地区の原油生産量(主要7地区合計) 単位:百万バレル/日量
https://media.rakuten-sec.net/articles/-/30049

トランプはパリ協定から離脱し、炭鉱を保護してきましたが、バイデン政権になって一転して、化石燃料生産に対して制限を加える動きに出ました。
そのために一斉に原油やシェールガス掘削業者らは化石燃料の先行きは暗いという見通しを立てて、設備投資を控えるようになりました。

「(米国のシェールガス)掘削済井戸数は、リグ(掘削機)を使って掘られた井戸の数、仕上げ済井戸数は、掘られた井戸に対して水と砂と少量の化学物質を高圧で注入したり、坑井の末端を破砕したりする、原油生産を開始するために必要な最終的な作業(仕上げ)が施された井戸の数、です。 これらの井戸の数が増えていないことは、この地区で新規開発が低迷していることを意味します。この点が米シェール全体の原油生産量が減少している、主な要因とみられます」(吉田哲2021年12月21日)https://media.rakuten-sec.net/articles/-/30049

 

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米シェール最主要地区(パーミアン)の掘削済・仕上げ済井戸数と原油価格
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このように今、世界で起きているのは、CO2の過激な削減要求による人工的な原油不足なのです。
一方、唯一ロシアだけはこの原油高の状況を大いに楽しんでいます。
彼らからすれば、唯一の輸出品である天然ガスの高騰ほど嬉しい状況はないからです。

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天然ガス高騰 欧州では連日最高値を更新 日本のLNGにも影響必至

欧州で天然ガス価格が歴史的な高騰を続けている。指標価格のオランダTTFは10月6日、1メガワット時当たり150ユーロを超えるなど、2021年初頭の20ユーロから大幅上昇、連日のように最高値の更新を続けている。
 TTFの高騰に伴い、欧州の天然ガス価格に連動した動きを見せる極東アジアLNG(液化天然ガス)のスポット(随時契約)価格も上昇。9月末には過去最高値となる100万BTU(英国熱量単位)当たり34・47ドルを付けた。
 本来であれば、夏の需要期を過ぎて、天然ガス価格やLNG価格は低下する時期にある。しかし、新型コロナウイルスのワクチン接種の進展などを受けた世界的な景気回復で、特にアジア諸国の天然ガス需要が増加しており、欧州とアジア諸国との間でLNG争奪戦が展開されている」
(岩間剛一 エコノミストオンライン2021年10月18日)
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20211026/se1/00m/020/046000c

今までさんざん天然ガス相場の低迷によって国力を落としてきたロシアは、ここでバルブを緩めてなるものか、とうぶん苦しんでおれ消費国め、どんどん高くなれ、とせせら笑っているようです。

また、先日中国の爆買いシリーズで見たように、中国は原油・天然ガスの爆買いをしつつ、自国の石炭消費には上限を設けて炭鉱開発を抑制しています。

コロナからの回復による経済再開によってエネルギー需要は膨らみ、今以上のエネルギー供給不足と電力不足が起きるはずで、中国に深刻なエネルギー不足と電力不足が恒常化する可能性がでてきました。

この国はこのような危機に陥ると、国際社会と協調するのではなく、自分の国だけなんとかなろうとして荒れ狂うのでコワイ。

覚悟せねばならないのは、この原油高が一過性のものではないことです。
原油・天然ガスの高騰の原因がCO2対策にある以上、この高値相場は構造的になるでしょう。
これは一種の合成の誤謬です。
一人一人は 地球環境にやさしくという正しい理想に基づいていても 、それが人類単位で集合するとこのような 原油高を招き人々を苦しめます。
したがって泥沼化し、長期化します。
今は天然ガスを先物取引で押えているので、電気料金に直接の影響はまだ始まったばかりですが、どこまで電気料金に転化しないですむのか見通しは暗いでしょう。

抜本的解決ではありません。強いて言うなら、地球温暖化阻止という行き過ぎた理念と現実の社会との折り合いをつけることです。
てっとり早い対策として「トリガー条項」の発動があります。
これはガソリン平均価格が3カ月間連続で160円/リットルを超えた場合に、揮発油税の上乗せ税率分の25.1 円の課税を停止する法律です。
「トリガー条項」(租税特別措置法第89条「揮発油価格高騰時における揮発油税及び地方揮発油税の税率の特例規定の適用停止」)の適用を早急に検討する必要があります。

これは民主党政権の忘れ形見で、2010年に「所得税法等の一部を改正する法律」が成立し、このトリガー条項が盛り込まれました。
しかし実際の適用は、その後の東日本大震災の復興財源確保の名目で震災直後の2011年4月27日から凍結されたままです。
民主党は増税派だったために、震災復興を増税で賄おうとしてこのトリガー条項を封印してしまったわけです。
そんなものは復興国債ですればいいのですが、震災復興時に増税して更に国民を痛めつけるというトンデモ政策をとったしわ寄せがここに来たのです。

やっとこれを思い出したのが国民民主の玉木氏で、街頭演説の際にガソリンの課税停止措置の発動を追加公約とすると発言しました。
この条項の規定には、「東日本大震災の復旧及び復興の状況等を勘案し別に法律で定める日までの間、その適用を停止する」とあるだけで、今の状況は充分それに該当します。
原油高が本格的に景気を直撃する前段の今、そのトリガーを引かないと時期を失することになるでしょう。

2021年10月28日 (木)

枝野氏、安全保障で馬脚をあらわしてしまう

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安全保障分野は、抽象的に逃げる事のできないクソリアリズムの世界です。
軍事は技術と経験の集積ですから、間違っているかどうかはすぐにバレてしまいます。

立憲は昨日も書いたように、軸足を左の共産党に置いたために、よりによって配備が進む最新鋭のF-35戦闘機対して「時代遅れになった戦闘機」呼ばわりしてしまいました。
第5世代戦闘機を捕まえて「時代遅れ」ですから、第6世代はこの世に存在しないのですが、いかがいたしましょう、枝野さん。
要は防衛予算が多すぎると考えて削減するネタが欲しかっただけでしょうが、こういう具体論を言ってはダメです。
安全保障などは立憲が最も苦手とする分野なのですから、具体論に踏み込まずに上品にボカしておけばいいものを、具体的にF-35を名指ししてしまったらもう逃げられません。

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www.sbbit.jp

枝野氏は、F-35の導入を決めたのが余人ならぬ自分たち民主党政権なことを忘れてしまったのでしょうか。

  • 民主党・野田政権(2011年12月20日) F-35戦闘機42機の購入を閣議決定(全てA型)
  • 自民党・安倍政権(2018年12月18日) F-35戦闘機105機の購入を閣議決定(A型63機、B型42機)
    https://news.yahoo.co.jp/byline/obiekt/20211024-00264727

戦闘機の寿命は大変に長く、最低で30年、ときにはF-4のように半世紀も部隊で使われ続けるものです。
F-35の部隊配備が始まったのが2018年1月ですから、わずか3年で「時代遅れ」になってしまったとすれば、買い込んだ野田政権の責任が問われることになります。
枝野氏は民主党政権時には官房長官の要職を務め、この野田政権時にも閣僚だったはずですが、なにも覚えていないようです。

また高い安いということでいえば、最近導入を決めたスイスはこういう判断をしているそうです。

「F-35Aは総合的な実用性が最も高く圧倒的に安価」
(JSF10月24日)

その図抜けた性能と価格は、まさに追随を許さないもので、たちまち世界主要国の主力戦闘機の地位を獲得してしまいました。
世界各国は「時代遅れ」を我先に買っているのでしょうか。

たぶん枝野氏はじっくりとF-35を勉強しないで、リベラル業界界隈にいるわけ知りの言うことを鵜呑みにしてしまったのではないでしょうか。
このネタ元はどうやら、あの前田哲男氏のようです。

この人は安保法制や特定秘密法、ミサイル防衛などというと、必ず野党側招致の参考人として登場する人物で、「朝日の元帥」こと田岡俊次氏と並び称されるような左翼業界御用達の軍事評論家です。

ただ残念なことに、この人は旧社会党の顧問などをしていたという経歴からわかるように、軍事のイロハを知らないのが難点です。
たとえば、過去にはこんなことを言っています。

「米軍と自衛隊が平時から一体運用を図り、ミサイル防衛を強化しようとすれば、北朝鮮は軍拡に向かう危険がある。
中国との関係でいえば、政治による対話で緊張を解きほぐそうという外交努力がみえない。それができないから自衛隊を出動させようという発想がおかしい」(中国新聞2015年7月13日)

この人にかかると、日本が弾道ミサイル防衛をするから北は核軍拡する、ということになってしまいます。
頭がグルグルしますね。
オレがお前の家を放火しようとしているのは、お前が防火設備を整備しているからだ、ってことですから。
そもそも外交と軍事的抑止は矛盾する概念ではなく、軍事的抑止を準備しながら「緊張を解きほぐす外交努力」をするのが国際社会の常識なのです。

さて今回のF-35ですが、「時代遅れだ」なんて言い始めたのは、この前田氏です。

「「安倍政権が追加の導入を決めた最新鋭ステルス戦闘機。「F35A」105機と「F35B」42機で、機体の購入費と維持費に6.2兆円超かかる見通しだ。 ただでさえ高過ぎる買い物のうえ、米政府監査院が900件以上の未解決の欠陥を指摘しているポンコツ戦闘機なのだが、これに追い打ちをかけるような専門家の分析が出てきた」
(前田哲男『最新鋭F35戦闘機は時代遅れ」米国防専門家がバッサリ』日刊ゲンダイ2019年6月29日)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/257164

日刊ゲンダイの読者には、「安倍」というキイワードを見ただけで悪寒が走り、呪文にかけられたようになることでしょう。

こういう人の言うことを真に受けるのは勝手ですし、私は政治家がすべて専門家ではないので、あるていど間違ったことを言うのはしょうがないと考えています。

ただし、高いレベルの公人が間違ったことを言えば批判されます。

枝野氏は野党第1党の党首で、しかもこの選挙で政権選択を狙う立場にいる人がこんなことを発言すれば、政権をとればF-35戦闘機の調達を停止してしまう可能性があるとみられてもいたしかたありません。

現にそのようなケースがふたつ起きています。

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https://trafficnews.jp/post/80376

共に自民党政権のケースですが、二人の防衛大臣が歪んだ情報を基にして、二つの大きな武器体系の調達を中止してしまったことがあります。
ひとつは石破氏が大臣だった時に、国産のF-2戦闘機の調達を中止してしまったことがあります。
130機の調達予定が94機で調達が停止されたために、丸々一個飛行隊の分の穴が開きました。
F-2はその配備当初、かなり評判の悪い戦闘機で、特に「主翼強度に問題があり亀裂が入る」「レーダーの性能が低すぎる」といった問題は繰り返し報道され、なかには急旋回が出来ない「欠陥機である」と報じるものもありました。

しかし、この欠陥機報道は部隊配備を始めるとピタリと止まりました。なぜでしょうか。
それは主翼の亀裂やレーダー性能の問題がでたのは、4機作られた試験機のひとつで、各種のテスト飛行をしている段階のことだったからです。

「試験において、F-2の主翼に亀裂が入ったことは紛れもない事実です。

しかしながらこの亀裂が生じたF-2は、4機が製造された試作機のいずれでもなく、飛行能力を持たない「全機強度試験機」と呼ばれる強度や耐久性を試験する目的で製造された機体であり、主翼の一点に偶然過重が集中したため想定外の亀裂が入ったことがその原因とされています」

(関賢太郎2018年5月22日『空自F-2欠陥機論の顛末 大きく騒がれた主翼のヒビ、貧弱レーダーは結局どうなった?』)

https://trafficnews.jp/post/80376

 

しかし、部隊配備される頃には、すべての問題が解決していたにもかかわらず、量産計画は打ち切られてしまいます。
量産打ち切りの理由を石破大臣は小型であるために拡張性がない、当初計画より高額になったと言っていましたが、その後もF-2は毎年たゆまぬ改善を続けてアップデートし続けています。
高額になったといっても、新型機が予算を上回るのは戦闘機開発の常で、他国のユーロファイター、F-22、ラファールなどでも起きていることです。

もうひとりは、河野大臣です。
彼はイージスアショアのブースターが基地内に落下しないから中止ということを言い出して、世間を唖然とさせましたが、実は軌道を変えて落下してくるイスカンダルのような弾道ミサイルに対応しないということをどこかで吹き込まれたようです。
変則軌道ミサイルはPAC-3で対応可能ですし、中国や北の発射してくる弾道ミサイルの大部分は放物線を描く通常のものが大部分な以上、イージスアショア計画すべてを中止するのは短絡以外なにものでもありません。
そもそも核ミサイルが落ち何万人が死に直面している状況で、ブースターのドンガラが敷地外に落ちたからなんだというのでしょうか。

この両人に共通するのは、議論の前提となる情報を正しく選択しないでそのまま政策提言をしてしまったり、防衛大臣ならばもっと始末に悪いことに防衛計画をそのものを大きく変更してしまうからです。

先日来ご紹介している村野将氏はこう語っていましたが、覚えておられるでしょうか。

「先の安全保障政策と憲法をめぐる議論にも通じるが、日本ではそもそも前提となる客観的な情報分析を軽視して、いきなり政策提言から始める人が多いことに原因がある。
正しい情勢判断は、その分野で必要な訓練を受けたプロにしかできない仕事であり、誰にでもできるわけではない。そうしたプロが客観的な情勢判断をすれば、分析結果はそれほど伸び縮みのあるものではなく、ある程度まとまった答えが出る。
それを前提として、複数の解決策を考えるというのであれば政策論争になるのだが、そもそも前提が間違っている中で、前提を無視して好きな政策を考え始めるのが問題だと思う」(村野将・岩間陽子 『日本の「抑止力」とアジアの安定と日本に欠けている戦略的コミュニケーション』)
日本の「抑止力」とアジアの安定 | 政策シンクタンクPHP総研

立憲のダメなところは、その分野の知見がないくせに、あるような顔して国会議論を進めてきた悪い癖があることです。

それがただの野党のうちは、また馬鹿言っているで済みましたが、政権選択を掲げた以上もうそういう甘えは許されません。
F-35については、私以上の適任者であるJSF氏が詳細に反論していますのでそちらをご覧下さい。

 

※立憲民主党枝野代表「時代遅れの戦闘機」発言の間違い(JSF)
https://news.yahoo.co.jp/byline/obiekt/20211024-00264727

 

2021年10月27日 (水)

4党合意ではなく、「市民連合」とのお約束だった

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去る9月4日に、立憲の枝野代表は共産党の 志位氏と「政策協定」を結んだわけですが、不思議な内容でした。

というのは、まず政策協定の内容が、別に選挙の争点とはなりえないひどく抽象的なものだったことです。

4党政策協定とはこんなものです。
「コロナ禍に乗じた憲法改悪反対」「安保法制・特定秘密法廃止」「LGBT平等法の成立」「日本学術会議の推薦任命」「脱原発」「核兵器禁止条約の批准」「モリカケ桜の真相究明」
まさに総花。
モリカケ桜、安保法制などはただの蒸し返しですし、学術会議任命とLGBTが争点になっているなんて初めて知りました。

脱原発は具体論なき情緒的な一般論にすぎませんし、核兵器禁止条約批准に至っては、核兵器を持つ予定がまったくない日本では無意味です。
コロナ禍を口実にした改憲といいますが、なにを指しているのでしょうか。
というわけで、野党なら誰でも賛成できるような事柄のただの抽象的羅列です。

野党共闘といっても、ワンイッシュで一緒に組むことはありえますが、こうまで手広く決めてしまっては、逆に決めないのも同然となります。
これのどのひとつをとっても、今回の選挙でわざわざ4党合意協定まで結んでやらねばならない緊急性に欠け、共産党と手を組んだという禁断の決断をカモフラージュするためだといわれても仕方がないでしょう。

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野党4党、衆院選で「政策協定」 コロナ対策強化、消費税減税:時事

どうしてこんな無内容なものにしたのでしょうか。
それは協定自体は無意味でなくてはならなかったからです。
立憲は共産党と手を組んだことに猛然と怒っている自分の支持団体に対して、「たいしたことは決めてませんから大丈夫です」と言い訳できる仕掛けです。
だからあえて内容スカスカのものにしたわけですが、このことによって選挙協力だけに止まらず「野党共闘が成立した」という意味だけが選挙後も一人歩きすることになります。

こんな抽象的協定を結べば、必ず後効きするのは目に見えています。
立憲は目先の選挙区の共産党基礎票2万票が欲しい近視眼でしょうが、共産党はその後までずっと考えてこの一手を打っています。
それが共産党の綱領に書かれている二段階革命戦略に基づいたものだということは、昨日見たとおりです。
志位氏が「実現すれば今後いろいろな発展形態がある」という妙な含みをもたせているのは、その意味です。

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しんぶん赤旗

そもそも選挙に向けての政策協定ならば、政党間でするものです。
選挙は政党単位でするのですから当たり前ですが、今回は「「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」という正体不明の団体と政策協定を結んでいます。
https://shiminrengo.com/archives/2474

この聞き慣れない「市民連合」とは調べてみると、戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会とか、安全保障関連法に反対する学者の会、安保関連法に反対するママの会などといった共産党系「市民団体」が名を連ねており、要するに共産党系の大衆団体と政策協定を結んだのです。
ちなみに、この「市民連合」の代表者格はあの「安倍をぶった斬ってやると」と国会前で吠えた武勇伝の持ち主の山口二郎法政大教授です。

政党間協定にせずにわざわざ「市民団体」を嚙ませたのも理由は一緒で、立憲の議員が支持労組に戻って、「いやーアレは共産党と結んだじゃなくてただの市民団体と締結しただけなんですから」と頭をかいて言い逃れするためです。

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5/29(水)4野党1会派と市民連合による政策協定調印式のご報告 市民連合

上の写真は公表された協定書です。
20年間委員長に君臨し続けるミニ「独裁者」の志位氏が意外にチマチマした字を書くことがわかったり、福島氏が乙女チックな丸文字なのが微笑ましいですね(笑)。
枝野さんときたら山本氏並にクセ字だな、なんてまぁどーでもいいか。
問題は、これは協定書としての書式を満たしていないのです。

というのは、この協定書は「市民連合」に提出したものであるにも関わらず、代表者名の署名捺印が欠落しています。

この政策協定の保証人格は「市民連合」になるはずですが、それが署名捺印しないような仲介文書はありえません。

またこの協定書の効力の期間も、その効力の範囲も明示されていません。
この協定がいつまで有効なのか、どこまで政党の行動を拘束するのか、更にいえば違約した場合どのような措置がとられるのか、かんじんなことがなにひとつ書かれていないのです。
ですから、選挙中、あるいは後に違約や齟齬が生じた場合、どのような協議をするのか、それは立憲と共産党の政党間で行うものなのか、この「市民連合」とするべきなのかも一切不明です。

そもそもこの協定書が、組織決定なのか個人参加なのかさえ不明です。
ズラリと党首名が記されていますが、これはただの個人のサインにすぎません。
本来の政党間協定ならば、ここには機関決定の印判が必要です。
おいおい枝野さん、あなた法曹資格もっているんでしょうに、いいんですか、こんなものに代表の肩書で署名して。

つまりこの「政策協定」は二重三重に上げ底になっていて、たいしたことは決めていない、いくらでも逃げが効く、その代わりに共産党の主導する「統一戦線」を作ったという事実だけが残るわけです。まことに愚かなものを作ったもんです
以後、各政党が自分の利害でどうにでも解釈可能な白紙委任状のように使い回しするでしょう。
抽象的な協定というのは、いくらでも恣意的な解釈が可能だからです。
選挙後の政界地図は大きく変化し、自公維vs4党統一戦線という色分けに二分されることになります。

それにしても、よくもまぁこんなものをとあらためて思わざるを得ません。

このような白紙の小切手をもらって一番得をするのは決まっています、もちろん「社会主義・共産主義革命」をめざしてこの選挙を「民主主義革命」と位置づけているあの党だけです。

 私がこの人たちを信頼できないのは こういう小細工をするからです。

2021年10月26日 (火)

いまも本気で「共産主義革命」を目指す共産党と手を組んだ立憲

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立憲の枝野氏が、どこぞやで「我々は10年前を総括している。変わったんだ」なんてことを言っていました。
確かに大きく変わったことは、私も認めるにやぶさかではありません。
といっても悪いところはそのままで、共産党と手を組むという極端な左にパージョンアップをし ただけのことですが。

立憲は今回の衆院選を政権選択選挙と位置づけた上で、共産党と「野党統一」に踏み込んでしまいました。
その選挙区は全国289選挙区の75%となる217選挙区にも及びます。
つまり大分部で、立憲は共産党と手を組んだのです。
「野党共闘」という言い方をするから実態がぼけるのですが、全国で基礎票を持っているのは共産党たけです。
あくまでも立憲と共産党が組んだことが本質であっって、組織力ゼロの山本新党や社民党などはただのお飾りにすぎません。

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しんぶん赤旗

枝野さん、共産党と統一戦線を組んだことの意味がわかっていますか 。
それは上の写真のようなことを国民に見せることです。
これは10月9日に仙台青葉区で共産党候補の街宣車に乗った立憲の安住立憲国対策委員長と志位共産党委員長の姿です。
共産党はこう書いています。

「共産党幹部が他党公認や無所属の統一候補の応援に入るだけでなく、立憲民主党の枝野幸男代表も10日、小池書記局長とともに福井で日本共産党公認の山田かずお野党統一候補を応援しました。 さらに統一候補の陣営からは、一本化への共産党候補取り下げへの感謝とともに、「比例は共産党」の声が相次いでいます」(しんぶん赤旗7月1日)

かつての民主党政権は愚か極まる政権でしたが、最低限の矜持は持っていました。
共産党に候補を取り下げてくれなどとも頼まなかったし、党幹部が共産党幹部と街宣車に乗ることもありませんでした。
それなりに自力で政権を勝ち取ったのですが、今回は違います。
共産党の手を借りて政権選択選挙を戦い、勝てばとうぜん共産党の意向を組んで政権を構想するということです。

したがって、それはかつての民主党政権とは本質的にまったく別物に変身したと考えてよいのです。
つまり極端な方向に「変わった」という意味で、枝野氏のいうことはそのとおりなのです。

枝野氏は「限定的閣外協力だ」と言っています。
それは立憲がそういっているだけのことで、共産党の思惑はまったく別です。
共産党は「限定的」なことは百も承知で、それを彼らの中の大戦略の中にしっかりと位置づけています。
それが革命を二段階で構想する共産党の持つ二段階革命論です。
まずは共産党がなにを言っているのか、聞いてみましょう。

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共産党を率いて20年以上 志位氏が「続投」

たとえば10月18日に開かれた日本記者クラブ主催9党首討論会において志位和夫氏はこのように言っています。

「人類の社会は資本主義でおしまいか。いまコロナのもとで格差、環境などいろんな問題が噴出しています。
私たちたちは、その先に進むことができる。社会主義・共産主義ですが、これは決してつぶれてしまったソ連や中国のような、自由も民主主義も人権もない社会ではない。本当に人間の自由、人間の解放、そして資本主義のもとでつくられた自由と民主主義、人権の制度を花開かせる社会だと、そういう理想を掲げている党です」

ふー、なんか毒気を当てられたような気分です。
正直、ここまであけすけに自分の二段階戦略を明らかにするとは思っていませんでした。
志位氏が言っていることは、「この日本社会の先には社会主義・共産主義の社会が待っている」、つまり今回の選挙は共産主義革命への一里塚なのだ、という意味です。
社会が段階的に進化し、資本主義の後に社会主義・共産主義が来るというのは、マルクスレーニン主義のドグマにすぎません。
もっとはっきり言えば、彼らの信奉する宗教の教義であって、実際にそのような例は世界にありません。
共産国家になったのは、民主主義がかけらもなかった中国やロシアといった国ばかりでした。
志位氏が言うように中国やロシアだから人間の自由と民主主義が守られなかったのではなく、共産主義はそのような民主主義が存在しない国でしか政権をとれないのです。

この二段階革命論こそ、今回の衆院選の「野党共闘」そのものです。
共産党は「暴力革命」はやめたと言っているだけのことで、「共産主義革命」を捨ててはいないのです。
これはいいがかりではなく、共産党は日本共産党綱領に書いてあることをそのままやっているだけのことです。
https://www.jcp.or.jp/web_jcp/html/Koryo/

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それを知っていて「リアルパワー」が欲しさに立憲は組んだのです。
ところで立憲が知っているのかどうか知りませんが、この野党共闘が共産党の革命戦術の一部だということは共産党の綱領に堂々と書いてあることばかりです。
共産等は自らブレないことを自慢していますが、今回の衆院選でも本質的にはなにひとつ主張を変えていません。
共産党の任務は、「革命党」として共産主義革命を遂行するのだと堂々と言っています。

●日本共産党綱領
4 民主主義革命と民主連合政府
 (一二)現在、日本社会が必要としている変革は、社会主義革命ではなく、異常な対米従属と大企業・財界の横暴な支配の打破――日本の真の独立の確保と政治・経済・社会の民主主義的な改革の実現を内容とする民主主義革命である。
それらは、資本主義の枠内で可能な民主的改革であるが、日本の独占資本主義と対米従属の体制を代表する勢力から、日本国民の利益を代表する勢力の手に国の権力を移すことによってこそ、その本格的な実現に進むことができる。この民主的改革を達成することは、当面する国民的な苦難を解決し、国民大多数の根本的な利益にこたえる独立・民主・平和の日本に道を開くものである。

この統一戦線方式の初めての実験台に共産党が選んだのが、今回の衆院選だというわけです。
共産党のセオリーはこうです。
初めに反自民勢力を結集した統一戦線を作って「民主主義革命」を起こして民主連合政府を樹立し、その後に社会主義政権を目指します。
そして安保を廃棄させたり、自衛隊や独占資本を解体した後に本来の「社会主義・共産主義革命」を達成します。
下の綱領5にある「生産手段の社会化」という表現は、私企業をなくしてしまうことで、そのものズバリ共産主義化を意味しています。
これも堂々と綱領に書き込んであります。

5 社会主義・共産主義の社会をめざして
 (一六)日本の社会発展の次の段階では、資本主義を乗り越え、社会主義・共産主義の社会への前進をはかる社会主義的変革が、課題となる。
 社会主義的変革の中心は、主要な生産手段の所有・管理・運営を社会の手に移す生産手段の社会化である。社会化の対象となるのは生産手段だけで、生活手段については、この社会の発展のあらゆる段階を通じて、私有財産が保障される。
 生産手段の社会化は、人間による人間の搾取を廃止し、すべての人間の生活を向上させ、社会から貧困をなくすとともに、労働時間の抜本的な短縮を可能にし、社会のすべての構成員の人間的発達を保障する土台をつくりだす。

いやソ連や中国のようにはならないなんて言っていますが、どこにそんな保証があるのですか。
ひとつの例外もなくすべての共産主義政権は民主主義を撲滅することに熱心でした。
我々はそうならない、と今は言っているだけのことで、それもまた政権奪取以前にはすべての共産党はそう言っていました。
オレだけが正しい、オレ以外が社会主義・共産主義を名乗っていても全部ニセだ、こういう傲慢な思想から、彼らは激しい内部抗争と粛清をしてきたのです。
古くはレーニン、スターリンから始まる収容所列島、そして毛沢東の文革、ポル・ポトの大虐殺、日本では大学紛争の内ゲバに至るまで、一貫して流れる思想は「オレだけが正しい」という思想でした。

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しんぶん赤旗

「日本共産党の志位和夫委員長と立憲民主党の枝野幸男代表は30日、国会内で会談し、(1)次の総選挙において自公政権を倒し、新しい政治を実現する。
(2)「新政権」において、市民連合(「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」)と合意した政策を着実に推進するために協力する。その際、日本共産党は、合意した政策を実現する範囲での限定的な閣外からの協力とする。
(3)両党で候補者を一本化した選挙区については、双方の立場や事情の違いを互いに理解・尊重しながら、小選挙区での勝利をめざす
とした3点(別項)で両党が協力することで合意しました。会談には日本共産党の小池晃書記局長、立憲民主党の福山哲郎幹事長が同席しました」(しんぶん赤旗10月1日)
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik21/2021-10-01/2021100101_01_0.html

またこうも述べています。

「また、日本共産党の99年の歴史でこうした合意を得て総選挙をたたかうのは初めてのことだと述べるとともに、2015年9月に国民連合政府を呼びかけて以来、市民と野党が協力して新しい政権の実現を訴えてきたが、「それに向けて大きな一歩を踏み出す合意を得られたことを、重ねて心から歓迎します」と表明しました。 さらに、この間、党として「閣内協力も閣外協力もありうる」と表明してきたと述べ、今回の「限定的な閣外からの協力」という合意に「とても満足しています」と表明」(赤旗前掲)

立憲はあくまでも選挙対策だといいたいようで「限定的協力にすぎない」と言っていますが、一方共産党は「党として閣内協力も閣外協力もありうる 」と明確に言い切っています。この違いはただの温度差で片づけられません。
共産党は「閣内協力」すること、政権参加するのが前提であって、仮に当座は閣外協力となろうともありとあらゆる圧力をかけ続けると言っているのです。
野党共闘は217選挙区に及び、全国を覆い尽くしました。
これだけのことを共産党はしてみせたわけで、この「功労者」に向かって選挙までの「限定的共闘」でしたと言える道理がないじゃありませんか

「政権選択選挙とされる衆院選で初めて「野党共闘」が成し遂げられた。野党第1党の立憲民主党を中心に、全国289選挙区の75%となる217選挙区で候補者が一本化された。与野党による事実上の一騎打ちは約140選挙区とされ、激しい選挙戦が繰り広げられそうだ。(略)
この結果、宮城、秋田、山形、福島、群馬、福井、長野、和歌山、鳥取、山口、香川、高知、佐賀、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄の18県では、全選挙区で野党候補が一本化されたことになる」(朝日10月20日)
https://news.yahoo.co.jp/articles/967af6a6edadfd4e520dc00c8ae94d62c484e73c

選挙予測にはバラつきがありますが、おおむね自民がきわめて厳しい戦いを強いられていると見ています。
もっとも大敗を予想しているのはflashですが、自民は70議席近くを落とし、自公合わせても243議席で単独過半数を大きく割り込みます。
立憲+共産連合は50議席以上を獲得するとしています。
どの調査でも議席を大きく伸ばすことが予想されている維新の最大20議席が政権に加わっても263議席です。

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おおむね自公が273の単独過半数を割り込むという予測では一致しています。
自民健闘の予測も少数ですが、あることはあります。
といっても自民が30議席近く落とすという予想です。

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いずれにしても、自民はそうとうに厳しい選挙結果となりそうな気配で、維新の閣外協力が視野に入ってくるでしょう。
このような結果をもたらしたのは、立憲が共産党と手を組んだからであって、このことは立憲がいかなる政策をとろうとも共産党から自由ではなくなったことを意味します。
 
甘利幹事長がこう言ったことはまことにそのとおりです。

「われわれの自由民主主義の思想で運営される政権と、共産主義が初めて入ってくる政権とどちらを選ぶのかという政権選択だ」
「勝った方は首相をとる。(立民が中心の政権には)日本史上、初めて共産主義の思想が入ってくる」

いや甘利さん、日本史上どころか、共産党と手を組んだ自由主義国の野党など皆無ではありませんか。
立憲と共産党は政策協定をしていると言っていますが、国の基本である安全保障-外交において共産党はなんと言っているのかといえば、安保廃棄、自衛隊違憲の立場を少しも変えていません。 

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衆院選政策を問う】②安保 敵基地攻撃能力で溝 - 産経

 共産党は安保を廃棄して「日米友好条約」にするというのが公約です。
共産党の笠井亮・衆議院議員は、こう述べています。
※毎日新聞プレミアム 笠井亮 『安保は対米従属の根源 廃棄で「本当の独立国」に』
https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20200114/pol/00m/010/011000c

「諸悪の従属の根源である日米安保をいつまで続けるのか、正面から問われる時期になってきているのではないか。
 国民の多数の合意によって安保条約を廃棄し、独立・平和・中立の日本を作る。米国とは対等平等の立場に基づく日米友好条約を結ぶ。
そうすることで米国の引き起こす戦争の根拠地から抜け出し、米軍基地の重圧から解放され、経済主権を取り戻し、本当の独立国といえる日本になることができる」(笠井前掲)

この安保廃棄論も、共産党のオーソドックスな二段階革命論からきています。
まず対米従属を止める民族独立革命を勝ち取り、その後に本格的共産主義革命をするという路線です。
おそらくこれをほんとうにやったら、日本は世界から完全に孤立し、かつての大戦の前夜に酷似した状況に投げ出されることでしょう。

政党が政権選択選挙に臨む場合、最低限の原則があります。
それが安全保障-外交政策の一致です。
自分は安保を粉砕する気だという共産党と組んで政権選択選挙をする、非常識以前のことではないでしょうか。


こういうアナクロの極みの共産主義戦略を共産党がいまだに捨てておらず、野党第1党の立憲が取り込んでしまったことが分かっただけ、大変に野党共闘は有意義でした。

 

2021年10月25日 (月)

中露艦隊の津軽海峡通過と北極海ルートへの野望

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別にここは安全保障関連のブログではないのですが、こうまで挑発されればしかたがありません。
堂々と中露が覇権主義を隠そうともせずに、日本列島を周回していきました。

 防衛省は23日、津軽海峡の通過が初めて確認された中国ロシアの駆逐艦など計10隻が、鹿児島県・佐多岬と種子島間の大隅海峡を通り、東シナ海に向かったと発表した。中露の艦艇が同時に大隅海峡を航行するのが確認されたのは初めて。
 同省統合幕僚監部によると、中国艦5隻とロシア艦5隻は、18日に津軽海峡を通って日本海から太平洋に出た後、太平洋を南下し、伊豆諸島の須美寿島と鳥島の間を通過。22日に大隅海峡を抜けた。領海には侵入しなかった。
 23日午前には、長崎県・男女群島の南南東約130キロの海域で、中国海軍の駆逐艦がヘリコプターの発着艦を実施したため、航空自衛隊の戦闘機が緊急発進して対応した。防衛省は両国の意図などを分析している」
(読売2021年10月23日)

下の写真のように、沿岸から中露艦隊が大きく見えるような狭い海峡を、そこのけそこのけと言わんばかりに航行しています。
国際海峡ですから合法だとはいえ、ずいぶんとなめられたものです。

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中国とロシアは10月14日から17日にかけて日本海で合同軍事演習をしており、 合わせて10隻という大艦隊で日本海から津軽海峡を抜けて太平洋へ出て日本列島沿いに南下し、大隅海峡が東シナ海に抜けていくという堂々たる示威運動です。

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読売

この両国はよその国を挑発をすることは大好きですが、逆の立場になると逆上するという困った君です。

もし米艦が渤海深く進入し、チンタオの海軍基地前の公海上を航行したら逆上して戦闘機くらいは飛ばしそうですし、ロシアなどは前回クリミア半島付近を航行した英国艦艇に対して、血相を変えて戦闘機まで繰り出しましたっけね。
それも一隻であの過剰反応ですから、10隻の大艦隊でやったらどうなるのでしょうか。
いくら公海上だからといって他国の庭先を大艦隊で通過したりすれば偶発紛争になりかねませんが、この両国は日本に限って絶対に反撃してこないことを知っているのでこんなことをするわけです。

さて今回特徴的だったことは、津軽海峡まで中国艦隊が出ばってきて、ロシアと共同艦隊を組んで見せたことです。
これはなにを意味するのでしょうか。いくつか理由があると思います。

まず中国側の利害から考えてみましょう。
ひとつにかんがえられることは、中国にとってこの津軽海峡が国際海峡であるために、ここを抜けて太平洋に進出する新たなルートとして使えることが可能だということです。
かなり遠回りになりますが、日本海を北上し津軽海峡から抜ければ、晴れて「約束の海」である太平洋の深い大海原が待っています。
ですから中国が、この津軽海峡ルートから戦略原潜を太平洋に進出させたいと考えても少しも不思議ではありません。
ただし問題があります。
この津軽海峡こそ、日本がチョークポイントとして歴史的に押えている狭い海峡だということです。
日本は十重二十重の監視網で日夜警戒に当たっていますから、いかなる艦艇であろうと、日本の監視をくぐり抜けて通過することは不可能です。
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『ロシア連邦国防省公式サイト』より。ロシア連邦軍東方軍管区広報
またこの北方水域は、ロシアが自分の覇権水域と考えている水域です。
ですから、勝手にこの日本海北方水域からオホーツクにかけて、一札入れてから航行しないと、プーチン親分を激怒させることになります。
今、中露共に世界で数少ない準同盟国なのでここでもめごとを起こしたくはないというのが本音でしょう。
だから共同演習という形をとって、プーチン閣下のメンツを立てて日本海から津軽海峡を通していただけたわけです。
本来は、わが国に事前に通知するくらいの国際常識を持てと思いますが、あいにくこの二国に関しては聞く耳を持ちません。

それはさておき、このオホーツク海に面した水域は世界的にみても特殊な海域です。
というのは、この日本海北端からオホーツクにかけては、冷戦期にはソ連の核戦略の大黒柱である「原潜回廊」だったからです。
その名のとおり、米国を標的とする戦略原潜(SSBN)が外洋に出て行く水路がここを通っていました。
これはソ連の後継国家であるロシアになってもまったく変わりません。
ロシア太平洋艦隊の原潜基地のあるペトロパブロフスク・カムチャツキーから出航すると、必ず国後水道を通過せねばなりません。
国後水道は、国後島と択捉島の間にある水道で、水深が最大で484mと深く、冬でも凍結しないため、ウラジオストクを使用するロシア太平洋艦隊、特に戦略原潜の通り道として重要なのです。 
 
ロシア太平洋艦隊の弾道ミサイル原潜艦隊は、オホーツク海のパトロール海域や、ウラジオストクの修繕施設に入るためには、必ず千島列島を通らねばならないのです。
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上図の説明にもあるように、ウラジオストクからオホーツク海や太平洋に出て行こうとすると、宗谷海峡か津軽海峡という日本の国際海峡を通過するしかありませんでした。
しかし、その大部分は冬期には氷結してしまう上、原潜が潜航したまま通航できる海峡となると、北方領土の国後水道などのルートに限られてしまいます。 
ロシアが軍事面で北方領土にこだわる最大の理由は、この国後水道にあります。 
ただし国後水道も冬は凍結するために潜水艦は潜って通過可能でも水上船舶は通れません。
となると、ロシア太平洋艦隊が母港のウラジオストクからオホーツクや太平洋に出るのは、必然的に2つしかルートがなくなることになります。
それが宗谷海峡と津軽海峡という日本が管理するふたつの国際海峡です。
 「ロシアは、船で中国との国境近くにある東部の重要都市ウラジオストクに行くことを望みます。間宮海峡がダメだとなると、北方領土の択捉島と国後島の間を縫って宗谷海峡を通るか、北海道と青森県のあいだ=津軽海峡を通るかしないと……海路がない。自分の国の港に行くのに、日本を横切る必要が出てくるのです」
佐藤優『温暖化に伴う北極海融解でロシアの脅威が露呈する』
https://www.news-postseven.com/archives/20210210_1632415.html?DETAIL&from=imagepage

さて、視点を変えてみましょう。
地球温暖化でひとりほくほくしている国があります。それがロシアです。
佐藤優氏によれば、理由は三つあります。

ひとつめは、北極海の氷がなくなると北極海を大型船が安価で行き来できるようになり、新たな「北極海航路」が開発されるからです。
今まで人類は南回りの航路しかもちませんでしたが、この北回りルートが出来ると、史上初めて北極海経由のルートが拓かれることになります。
2021年3月に、日本の正栄汽船のタンカーがスエズ運河で座礁した際、ロシア国営エネルギー企業ロスアトムはすぐに、スエズ運河航路の代替ルートとして北極海航路を検討すべきだと主張したのは記憶に新しいことです。
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「南回り航路と違って海賊がいない。寒すぎるから。だから保険料が大幅に安くなる。氷の融解を見越して、今ロシアは北極海全部を『うちの大陸棚だ』と言い始めています。国連海洋法条約により、200海里までの大陸棚は沿岸国が排他的権利を持ちます。カナダが警戒を強めて猛反発しています」(佐藤前掲)
気候変動による氷の減少を受けて、ロシア政府は夏以外でも北極海航路を使っての石油や液化天然ガスLNGの輸出を計画し、これまで北極海航路の開発に多額の投資を行ってきました。
今までヨーロッパから世界の成長センターとなっている東アジア経済圏への海運は、スエズ運河を抜けてインド洋、マラッカ海峡を抜けるという南回りルートしか存在しませんでした。
このルートの難点は紅海が常に中東紛争の舞台になること、そしてマラッカ海峡が海賊の巣だったことにあります。
ところが北極海ルートが現実のものとなると、これが一挙に解消されるために保険料が大幅に引き下げられるでしょうし、なにより戦争に影響されないために航路が安定します。

また距離的にも約半分ていどになります。
たとえば東京湾からヨーロッパの物流拠点のハンブルクに海運をかけたとして、南回りルートだと東京→ハンブルク間は約2万㎞ですが、北極海ルートだとわずか1万3千㎞と6割ていどにまで短縮されます。
船便コストが高止まりしている昨今、これは世界の海運会社にとって福音のはずです。
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いままでこれは絵に描いた餅にすぎませんでしたが、近年急速に現実化し始め、北極の氷の減少に伴って、北極海航路がヨーロッパとロシアを結ぶ最短航路として注目され始めました。 
これに最も魅力を感じているのが、当のロシアを別にすれば中国です。
中国は今まで何回も述べているように、沖縄諸島によって太平洋への出口を日本に塞がれています。 

それにしても、日本列島の地政学的位置が絶妙なことがお分かりでしょうか。
南西では中国の太平洋進出を阻み、東北ではロシアの進出をブロックしているのです。
そのうえに米国は横須賀軍港がなくしては国際戦略が成り立ちません。
ですから、米露中の戦略的要衝がすべて日本列島に集中しているというのが、わが国の特徴です。
まぁ、それに気がつかないのが我が国のご愛嬌ですが。

中国にとって、インド海軍が待ち受けるインド洋や、米海軍が目を光らせる南シナを通らない海運ルートが拓けることは非常に魅力的です。
既に中国は2000年代から艦船をオホーツク海方面に進出させはじめ、2012年には北極観測船「雪龍」がカムチャッカ半島南端を通って北極海に進出し、ロシア以外で初の北極点横断を行いました。


Photo_3中国北極観測船「雪龍」

当のロシアは、気候変動による氷の減少を受けて、ロシア政府は夏以外でも北極海航路を使っての石油や液化天然ガスLNGの輸出を計画し、これまで北極海航路の開発に多額の投資を行ってきました。 

そこでふたつめのロシアが北極海の温暖化を喜ぶ理由ですが、それは天然資源にあります。

この周辺が資源の宝庫であることは分かっていましたが、永久凍土に阻まれて開発が手つかずでした。

「ひとつは、厚い氷に覆われていて手が出せなかった地下資源を開発できることです。ロシアの北極海沿岸は天然ガスがザックザク出てくる。特にヤマル半島は宝庫で、石油でいう中東のクウェートやカタールみたいな場所になる可能性があります」(佐藤前掲)
いまからロシアはこの大陸棚の権利を主張し始めており、カナダと紛争になっています。
 中国は北極資源にも強い関心を持っていて、北極海航路の西側の出口であるアイスランドへの進出を進めています。
今後、この北極海航路を中国は海の一帯一路の重要なルートとしてばかりではなく、資源の共同開発にも乗り出すと考えられています。
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読売

そして三つ目が、前述したとおり安全保障上の理由です。

この中露同盟がうまく進展すれば、中国戦略原潜は津軽海峡を抜けずに北方領土の択捉水道を抜けて太平洋に抜けるルートを通ることができるようになるかもしれません。
オホーツク海に出られれば、そこから北に舵をとって北極海水面下に向かい、ロシア戦略原潜と伝統的な巣を共にする可能性もあります。
これらはロシアの容認がなければ絶対に不可能ですから、今回の共同演習はそのための信頼性醸成の一環だと考えられます。
と言っても、中露の友好関係は常に薄氷でガラスの関係なのですが。
とまれこのような背景で起きたのが、今回の中露艦隊の津軽海峡通過です。

2021年10月24日 (日)

日曜写真館 麦秋や鳥居のうちも借り申し

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のどかさや一の鳥居は麦の中 正岡子規

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村村の夏の鳥居を抱くなり 夏石番矢

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まだ立てぬ石の鳥居の寒さ哉 正岡子規

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神域の大樹を見上ぐ夏やつれ 横山房子

 

2021年10月23日 (土)

日米共同で中距離弾道ミサイルシステムを作れ

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日本が中国の弾道ミサイルの脅威に対して対抗抑止を持つために、どのようなことが可能なのか、今日はもう少し踏み込んでみることにします。
今日が最終回となりますが、今回も村野将氏の優れた論考を基にお話していくことにします。

●参考資料
※村野将・岩間陽子
『日本の「抑止力」とアジアの安定と日本に欠けている戦略的コミュニケーション』)
日本の「抑止力」とアジアの安定 | 政策シンクタンクPHP総研
※峯村健司『ミサイル増強すすめる中国軍、なのに具体的な議論ができない日本の問題』 朝日新聞グローバルプラスhttps://globe.asahi.com/article/13334397

結論からいえば、米国と共に中距離ミサイル戦力を共に作り、日米が一体化した体制を作る必要があります。
独自にできないのかという疑問もあるでしょうが、技術的に国力的にも不可能です。
しかし考える以上に日米の一体化は多方面で進んでいて、たとえば海自がもっとも力を入れている対潜水艦作戦において完全な米海軍との共同作戦が前提となっています。
この基盤の上に中距離弾道ミサイルシステムという新たな分野が増えるだけのことです。
むしろ最大の問題は日本人の意識です。
この共同抑止力強化は、日本人の多くがまだ浸っている専守防衛という昭和の香りのただよう迷妄から醒めねばできないことだからです。
ただしこれは政治の領域のテーマであって、今回のシリーズはそれをあえて切り放して考えてきました。

図表3:中国の潜在的な重要軍事施設と地上発射型中距離ミサイルの位置関係
村野氏による

さて上図は、中国軍の弾道ミサイル発射基地の分散状況を示しています。
一見してお分かりのように、中国軍の弾道ミサイル基地の大半は沿岸部に集中して配置されています。
大陸奥深く配備されているのは、彼らが全面戦争に備えた大陸間弾道ミサイルだけですからわが国はこれを無視してよいでしょう。
また同様に、航空基地、海軍基地、潜水艦基地、陸軍基地なども捨象します。
わが国にはそこまで広範囲を攻撃する力はないし、その必要もないからです。
私たちは中国と全面戦争するのではなく、私たちの頭上の刃を取り除くだけに集中すればよいのです。
長距離弾道ミサイルは米国に届くが故に、米軍の領域と割り切りましょう。

したがって、わが国が対抗せねばならないのは、この中国の軍事施設・重要拠点5万箇所のうち約70%が集中する沿岸から400km地点以内の弾道ミサイル発射基地群です。
具体的にはこれらは、日本から2000㎞以内に納まっています。
仮に九州に射程2000kmの準中距離弾道ミサイルを配備すれば、中国沿岸から約1000km以内の弾道ミサイル基地を13分以内に攻撃することが可能となります。
まず日本はこの沿岸部の中国ミサイル基地を攻撃可能な準中距離弾道ミサイルを保有すべきです。

現実問題として中国軍の中距離弾道ミサイルは、移動式発射装置に乗せられている場合が多く、これらを探知して破壊することはほぼ不可能です。
これを破壊するためには、目標を指示する誘導員を潜入させ、航空機でピンポイント攻撃をするしかありませんが、そのような能力は日本にはありません。
日本が限られた予算と時間しか持たない対抗手段の中で、このもっとも困難なラフロードに入ってしまうことはどう見ても得策ではありません。
おそらく現在可能なのは、敵基地の中枢である指揮命令系統・固定発射装置などに限定されるかもしれません。

日本ができるのは語弊がありますが、「日本が弾道ミサイルに対して対抗抑止を保有したという事実」です。
完全破壊を目指すのではなく、米軍と一体化した中距離弾道ミサイルの対抗手段を持ったという政治的宣言です。
これはわが国が中国に対して発する間違いようがないメッセージであり、戦略的コミュニケーションです。
この宣言を発しただけで、中国は、日本と米国が一体化した中距離弾道ミサイル戦力配備計画を立案していることを知っている以上、日本に対して今までのような対応をとることはできなくなります。

なお、この戦略的コミュニケーションには硬軟あって、このようなこちらの戦略抑止をデモンストレーションするものから、外交チャンネルを使った対話まで幅広く存在します。

ただしなにを対話するにしても、こちらが一方的に負けているような状況では話にならないということです。
いままでの日本は前者が欠落し、後者のみに頼ってきていました。
同様の中距離弾道ミサイルの増強を進めている国が、中国の進攻圧力を日常的に受けて続けている台湾です。

「【台北=中村裕】台湾の行政院(内閣)は16日、最大2400億台湾ドル(約9500億円)にのぼるミサイル調達の特別予算を組むための法案を閣議決定した。中国からの軍事的圧力が強まるなか、対中抑止力の向上へミサイルの大量配備を進めるのが狙い。ミサイルでは異例の規模の予算を計上し、中国に対抗する。
海空戦力提昇計画採購特別条例が同日、行政院を通過した。今後、議会承認のため立法院(国会)に送られる。議会では与党・民主進歩党(民進党)の議席が過半を大幅に上回っており、承認は確実だ。対艦や対空ミサイルなどの量産に充てられる。法案は2022年から5年間が対象。
台湾は現在、射程600キロメートルの中距離ミサイル「雄風2E」などを配備しているが数は少なく、大半は同40~200キロメートルの短距離ミサイルだ。中国への抑止力には足りず、特別予算の編成で中距離ミサイルの配備も急ぎたい考えだ」
(日経2021年9月16日)

台湾は1兆円弱の特別予算を組んで、この5年間で中距離弾道ミサイルの大増強を計る予定のようです。
おそらく台湾は軍事拠点のみならず、沿岸部大都市の政治・経済インフラまで攻撃対象に加えているはずです。

このような動きは米軍にとっても大きなメリットを生むでしょう。

「日本の防衛は、あくまで日米双方のもつアセットの総体による抑止力によって達成されるものだ。日米の計画立案レベルでの連携が深まれば、米軍の負担を減らすことができ、その分移動目標への攻撃など、より高度な任務に集中できるようになる。さらに、「米軍にさえ手を出さなければよい」と中国が日米(台)を分断(デカップリング)できると誤認するのを防ぎ、抑止力の強化にも貢献する」(村野前掲)

日米が協力して中距離弾道ミサイル配備計画をたてれば、もうひとつのよい副産物ができます。
それは日本が敵基地攻撃能力を保有することに対して、米国が事前協議を要求することに対する答えになるからです。
勝手に日本に戦争を始められては米国が意図しない戦争に引きずり込まれる可能性がでるために、このことは敵基地攻撃論を考えるうえでの難題でした。

しかし、十数分で飛んで来る弾道ミサイルに対しての報復は、 相手が 撃った瞬間に反撃を決意せねばならないわけですから、米国との事前協議など不可能です。
この問題を解決するには、中距離弾道ミサイルシステムを完全な共同運用にする以外ありません。
ヨーロッパで実施されているニュークリアシェアリングのようなものをイメージすればよいでしょう。
このシステムを共同で立ち上げ、共同で運用することは、日米の信頼の絆ともなります。
今回の中距離弾道ミサイルシステムは通常兵器を想定していますが、核弾頭へと発展する場合も、信頼の担保となるでしょう。

わが国がこの方法を取るためにやらねばならないことは山積しています。
ただしその大部分は政治の領域に属するものばかりです。
別の言い方をすれば、政治が責任を持って解決すべきことばかりなのです。
「抑止とは、軍事力のみによって達成されるものではない。危機に至るまでの緊張のエスカレーションの段階に日本社会が耐える能力、戦略的レジリエンスの強化も必要である。そこには「緊急事態」への法的・制度的準備も含まれるだろうし、民間防衛能力をあげることも含まれる。日本国民がパニックに陥り、社会システムが麻痺してしまうようであれば、それだけで中国側は低いコストで危機のエスカレーションを行なうことができる」(村野前掲)
いうまでもなく、この対抗抑止の強化は単独であるわけではなく、憲法改正、緊急事態条項、民間防衛、スパイ防止法など多方面の社会の強靱化を含む大きな課題の一角にすぎません。
これらはひとつひとつがかねてから議論されてきた大きな問題ですので、ここでは論じませんが、この中に中国の中距離弾道ミサイルに対する対抗抑止を加える時期が来たと思います。

それを先伸ばしして日米同盟の中で眠りこけてきた結果が、核の刃を振り回し恫喝の炎を吐く中国のようなモンスター国家を育ててしまったのですから。


 

2021年10月22日 (金)

大きく開いてしまった米中中距離ミサイルギャップ

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このような抑止強化を語ると、決まって出てくるのが、そんなものを日本が持てばかえって中国から叩きのめされることになるという人たちです。
こちらが備えを厚くすると戦争に巻き込まれるといういわゆる「巻き込まれ論」ですが、国会審議にかけると必ずこういうことを野党やメディアは言い出します。

与党でも公明党は、「「敵基地攻撃能力というのは昭和31年に提起された古めかしい議論の立て方だ」などと言っていますが、 古めかしいのは公明党の方です 。 当時の中国は弾道ミサイルなど一発も持っていなかったはずで 何を寝ぼけているのでしょうか 。
よもや昭和31年当時と現在の安全保障環境を同一視するとは絶句します。こういう党が政権にいること自体が驚きです。
公明党は情勢分析が甘いと言う以前に、なにも見ていないようです。

こういう発想になるのは、すでに日本は中国の弾道ミサイルの脅威の下にあるという現状認識自体を知った上で発言していないからです。
中国は既に日本全土を射程に入れた中距離弾道ミサイルを約2千基配備しており、「ロケット軍」(旧第2砲兵)の配備地域は下図でわかるように日本に近い中国東北部です。

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北朝鮮よりずっと深刻、中国のミサイル脅威に直面する日本:朝日新聞

上図でわかるように、中国軍は北朝鮮軍の数十倍の規模で日本攻撃用弾道ミサイルと長距離巡航ミサイルを配備し、いつでも日本全土を焦土と化す態勢を整えています。
「東風21」の射程には下図のように完全に日本全土が入っており、この弾道ミサイルがなんのために作られたのか、どうして中国東北部に集中配備されているのか、その目的がわかるはずです。
また東風15の目標は、台湾、沖縄、ベトナムです。
それ以外にも、日本全土をピンポイント攻撃可能な「東海10」長距離巡航ミサイルを約500基以上保有していると言われています。

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朝日 同上

この状況を冷静に見れば、中国が一方的にわが国を弾道ミサイルで脅迫できる立場にいることがわかるはずです。
中国の強硬な対日発言の裏には、常にこの弾道ミサイルの「殴る力」が背景にあるのです。

つい最近も、中国は「日本が台湾を支援したら核の先制攻撃をする」と脅迫してきました。

それに対しての日本の反応は鈍いものでしたが、ヨーロッパでロシアが同じことを言ったとしたら、制裁が真剣に討議されていたかもしれません。
とまれ安全保障の初歩を学べば、「なぐり返す力」、すなわち戦略的抑止とはこちらから撃つためのものではなく、真逆に撃たせないためのものであることがわかるはずなのですが。

さて、注目すべきはあくまでも中国の中距離弾道ミサイルです。
これこそが日本の真の脅威です。

北朝鮮がICBMもどきを持とうと、水中発射型弾道ミサイルもどきを持とうと、そのようなものは当面は無視できるていどの力しか持ちませんが、中国のそれは北などより遥か上に、とうに実戦配備され、日々増強され続けています。

 

「米中の戦力バランスがもっとも非対称的かつ不安定であるのは、射程500~5,500kmの地上発射型中距離ミサイルである。米国は2019年まで米露間で締結されていた中距離核戦力(INF)全廃条約の制限下にあったため、中距離ミサイル戦力を(通常弾頭型を含めて)一切保有できず、そのあいだに条約に縛られない中国はこれらの戦力を増強し続けてきた」
(村野将・岩間陽子 『日本の「抑止力」とアジアの安定と日本に欠けている戦略的コミュニケーション』)
日本の「抑止力」とアジアの安定 | 政策シンクタンクPHP総研 )

米国とロシア(旧ソ連)は大陸間弾道ミサイルは戦略兵器削減条約(START により制限され、中距離弾道ミサイルに至っては中距離核戦力全廃条約(INF)により全廃されています。
米国、ロシア、共に文字どおり一発の中距離弾道ミサイルも廃棄し、新型を作る研究も止めてしまいました。

一方、この中距離弾道ミサイル軍縮条約が招いたものは、中国の著しい核軍拡でした。
中国はいかなる通常兵器の軍縮、あるいは核兵器の軍縮のテーブルにつこうとしない国だからです。

この中国に特徴的なのは、中距離弾道ミサイルに増強が目立つことで、核搭載可能な弾道ミサイルの少なくとも3分の1は中距離核戦力を増強し、新型を多く投入したことです。

 

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世界の核兵器、これだけある:朝日新聞デジタル

この中距離弾道ミサイルの分野で、米中に著しいミサイルギャップが生じてしまったことを重く見たトランプは、ロシアに喧嘩を売る形でINF条約を脱退しましたが、彼の本意がロシアではなく中国にあったことは明らかです。
この流れは幸いにもバイデン政権にも受け継がれました。

「バイデン政権は、米露間のICBM/SLBM/爆撃機を規制する新戦略兵器削減条約(新START)の延長に合意したものの、INF条約を復活させようとはしていない。ジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官とカート・キャンベルインド太平洋調整官は、中国に対抗するために弾道ミサイルや巡航ミサイルへの投資を優先すべきと主張してきた。
また、会計年度2021年国防授権法で太平洋地域での軍事活動・能力開発への予算支出を定めた「太平洋抑止イニシアティブ」(PDI)においても、中距離ミサイルへの投資は最優先事項の一つだ。現在の米国には、対中抑止力強化の一環として、西太平洋地域に通常弾頭型の中距離ミサイルを配備することへの超党派的な合意が存在するのである」(村野前掲)

米軍は今まで開発してこなかった中距離弾道ミサイルを早急に開発し、配備をしようとしています。

「米インド太平洋軍(司令部・ハワイ)が九州・沖縄から台湾、フィリピンを結ぶ第1列島線に沿って対中ミサイル網を構築する計画を進めている。米国は配備先として第1列島線の延長線で中国に近接している日本国内を最有力候補地と考えており、実際に配備となれば、日本は米中対立の最前線として軍事的緊張を強いられることになる」
(朝日2021年7月8日)

このような米国の中距離弾道ミサイルの増強はわが国にとって歓迎すべきことですが、心配は残ります。
まず、今の米国にそれだけの体力が残っているかどうかです。
米国は中国と違って、すべてに優先して軍事費を増強できる国ではないために、コロナ禍対応の予算が大きくなれば、必然的に軍事費は削減されるか、頭打ちとなるでしょう。
下図は主要国の軍事費の伸びを比較したものですが、各国はおしなべて頭打ちです。
米国(青線)すら減少のトレンドに入っている一方、中国(赤線)一国のみは大幅に増えているのがわかります。

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米軍事費の推移

 

米国がいままでまったく白紙た中距離弾道ミサイルに注力できるかどうか、できても中国とのミサイルギャップを埋めることが出来るものとなるのか、不安が残ります。

その場合、米国は最大の利益享受国の日本になんらかの応分の負担もとめて来る可能性がありますが、わが国はそれを受けるだけではなく、さらに共同配備まで視野に入れた共同研究に踏み込むべきです。

ミサイル防衛計画では、すでにやられていることですから不可能ではありません。

 

第2に、中国と日米の不均衡はこれだけではないことです。
中国は、米国からの中距離弾道ミサイルの脅威を無視できるために、ミサイル防衛という恐ろしくコストと手間が掛かることから自由なのです。

「現状では、1,250発を超える中国の中距離ミサイルが、有事の際に自衛隊基地や米軍基地、前方展開する空母などを脅かすことが想定される。このため日米は、かぎられたリソースを高価なミサイル防衛や早期警戒能力に注ぎ込むことを余儀なくされてきた。
中国は、日米の中距離ミサイルによって攻撃されるリスクには晒されていない。無論、米軍の空母艦載機や爆撃機は脅威ではあるが、中国の中距離ミサイルには、在日米軍基地や空母、グアムなどを基盤とするこれらの航空機をミサイルの射程圏外に一時的に退避させる効果もある。
そうなれば、その分だけ米軍の作戦テンポを遅らせることができるから、中国側は防空能力の整備・運用コストを相対的に節約できているともいえる。もし、日本が米国とともに中距離ミサイルを配備できれば、中国に対してミサイル防衛などへの追加的なコストを強いることができる」(村野前掲)

このように見てくると、日本は米国の中距離弾道ミサイル配備に協力することを大前提として、自前の抑止力も強化せねばならないのは自明です。
自民党がえてして陥りがちなことは、米国の新たな配備計画が明らかになると、それを自治体との調整のすり合わせに矮小化してしまうことです。
結局、その自治体への予算配分の増額でお茶をにごし、その利権のおこぼれに預かる、これがオールド自民党のやり方でした。
こういう常にどこか他人事で、安全保障はすべて米国に丸投げできると思ってきたのがオールド自民党でした。

「日本にどのような打撃力を配備するべきかという問題は、米国のミサイルを受け入れるか否かという政治的な議論に単純化すべきではない。重要なのは、エスカレーション・リスクを管理するために、両国の打撃力をいつ、どのように、どの目標に対して使用するかという計画立案と実行プロセスに、日本が主体的に関与する責任と権利をもつことだからである。
現実問題として、実際の能力をもっていなければ、このような調整プロセスで日本の要望を反映させることは難しい。これは、対北朝鮮有事における米韓連合司令部との関係でも同様である。また、使用される可能性のほとんどない核共有を検討するよりも、はるかに日米の抑止力強化に繋がる」(村野前掲)

今回の中距離弾頭ミサイルについて、いままで骨身に染みついてきた受け身の対応は許されません。
これが琉球弧に沿って配備されることになるとすれば、その目的は日本を守ることだということを鮮明にすべきです。

したがって日本は主体的に配備について責任を負うだけではなく、強くその計画に関与せねばなりません。

そのことで日本は発言力を高め、日本の意見を強く反映させることができるのです。
もう一回続けます。

2021年10月21日 (木)

「核の傘」だけでは不十分だ

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昨日に続いて、もう少し「殴り返す力」について考えていきましょう。
今回は朝日新聞編集委員・峯村健司氏に登場願って、議論を進めていくことにします。

峯村氏は朝日の記事で、昨日紹介した米ハドソン研究所研究員の村野将氏にインタビューをしています。

峯村氏は長年中国特派員として中国の軍拡をウォッチしてきた人間だけに、朝日とは思えない具体的な内容となっています。

さぞかし築地にはいづらいことだと ご拝察します 。

※峯村健司『ミサイル増強すすめる中国軍、なのに具体的な議論ができない日本の問題』 朝日新聞グローバルプラス

https://globe.asahi.com/article/13334397

さて、村野氏はこのなかで日本の安全保障論議がどうしてズレていってしまうのかについて、このように述べています。

「先の安全保障政策と憲法をめぐる議論にも通じるが、日本ではそもそも前提となる客観的な情報分析を軽視して、いきなり政策提言から始める人が多いことに原因がある。
正しい情勢判断は、その分野で必要な訓練を受けたプロにしかできない仕事であり、誰にでもできるわけではない。そうしたプロが客観的な情勢判断をすれば、分析結果はそれほど伸び縮みのあるものではなく、ある程度まとまった答えが出る。
それを前提として、複数の解決策を考えるというのであれば政策論争になるのだが、そもそも前提が間違っている中で、前提を無視して好きな政策を考え始めるのが問題だと思う」(村野前掲)

これは私も常々感じていることで、今回の総裁選においても河野氏と高市氏の議論が空中戦になってしまうのは、双方共に突き放した情報分析がないためです。
河野氏は頭から高市氏の敵基地攻撃論を否定してしまい、日米同盟の強化というそれ自体は正しいとしても、それだけでは毒にも薬にもならない議論に逃げてしまいました。
イージスアショアを中止に追い込んだ前防衛大臣が、「日米安保任せ」ていどしか対案しかもっていないことに驚いた国民も多かったと思います
一方の高市氏は敵基地攻撃能力を前提とすることまでは正解でしたが、電磁パルス弾という専門家ならまず言わないようなことを言ってしまいました。
電磁パルス弾は離島のように狭い地域に使用されるもので、どこにいるのかさえわからない北の弾道ミサイル発射装置相手に使うものではありません。

また技術的問題だけではなく、米国は日本が独自に開戦に踏み出す能力を持つことを嫌っています。
自らが巻き込まれることが必至な条件で、日本をフリーハンドにさせたくないからです。
ですから、米国は日本が敵基地攻撃能力を保有を認める条件として、あくまでも米軍との共同運用を言い出すことでしょう。

つまり、日米同盟の枠内で敵基地攻撃能力を保有するというのが大前提です。

これは大事なことなので、念頭において置いてください。

なお公明党の山口氏は敵基地攻撃能力を「古臭い思想」と一蹴してみせましたが、こんなことばかり言うようだと、やがて維新にその座を奪われることになりますよ。
改憲にしても、これから険しくなる一方の安全保障環境への対応にしても足をひっぱり続けたのはこの党です。
もはや公明党こそ閣外協力ていどに位置づけるべきです。

これらは情報分析が甘いからこうなるのです。
基礎となる情報分析が甘いために、北や中国が日本に核ミサイルを向けている今、日米同盟をどのようにしていくのか、なにをすべきなのかが河野氏はなにも語れていません。
高市氏は、もっと大きな状況を語る能力があるにもかかわらず、ツールでしかない兵器から提言してしまったために不毛な議論になってしまいました。

では、議論を整理しながら進めていくことにしましょう。
まず私たちが対しているほんとうの脅威はなにか、ということから始めましょう。
それは北朝鮮ではなく、中国です。北は成長著しい不良少年のようなもので、この国が一人前のならず者国家になりきるにはまだしばらく時間がかかります。
仮になったとしても、その国力からいっても、その脅威度は隣の中国の足元にも及ばないはずです。

今、日中間に起きているのは、著しい軍事バランスの不均衡です。
もし中国が日本に打撃を与える気になれば核兵器など使う必要はありません。
核のダンビラを振り回したら収拾に困ることになるし、通常弾頭を雨あられと打ち込むことで、自衛隊の主要な基地はほぼ粉砕され、社会インフラや政治拠点の大多数が破壊されてしまうことでしょう。
わが国の航空基地には三沢以外にはシェルターひとつないのですから、赤子の手をひねるようなものです。
もちろんPAC3などがミサイル防衛に当たるでしょうが、そもそもPAC-3は広域防衛用ではなく、拠点防衛のために作られているためには発射装置も迎撃ミサイルもまったく足りません。

図表2:西太平洋地域を射程に収める中国のミサイル戦力

村野氏による

では、どうしてこうも日本がのんびりした顔でいられるのでしょうか。
もちろんそれは河野氏に言われるまでもなく、在日米軍が控えているからです。
その米軍は日本に替わって「なぐり返して」くれるかというと、そうとうに難しいのではないかと村野氏は見ます。

「実は日本のミサイル防衛は、北朝鮮対処のためのものだ。中国の大量のミサイルを完璧に防御することは物理的にも財政的にも不可能だ。中国が大量の通常弾頭ミサイルで日本を攻撃したとしても、米国はいきなり核反撃することはないだろう。しかも現段階では米国は即座に反撃できる通常弾頭の中距離ミサイルを持っておらず、双方には大きな差が開いている。日米は劣勢にあるということを自覚する必要がある」
(村野前掲)

図表1:中国の各種ミサイルの最大射程/到達距離
村野氏による

そもそも米国は殴り返したくても、中国を射程に入れた中距離弾道ミサイルを一発も持っていません。

「中国軍は日本全土を射程に収める中距離ミサイルを2千発ほど持つと言われています。一方の米国は昨年8月まで、ロシアと締結していた「中距離核戦力(INF)全廃条約」によって射程500~5500キロの地上配備型の中距離ミサイル保有を禁じられていたために保有していません。双方の格差は広がるばかりです」(峯村前掲)

米国がやるなると、虎の子の空母打撃群やグアムからの長距離爆撃機を使うしかなくなります。
しかしその時点でグアムや嘉手納、三沢が無事でいるという保証はありませんし、東アジアに配備されている空母打撃群は1個にすぎないために、反撃力は相応のものしか望めません。
しかも空母機は沿岸部しか攻撃できないので、大陸奥深くから撃って来る中距離弾道ミサイルには非力です。

「いま現在でも、また予見しうる将来においても、米軍が全勢力を結集して戦えば、人民解放軍に負けることは考えにくい。しかし、台湾や尖閣などをめぐって、短期間で行なわれうる小規模な現状変更行動に対し、現状で初動対処に動員できる米軍の戦力は、日本やグアム、それに洋上で訓練を行なっている空母やイージス艦など、少数の前方展開戦力にかぎられている」(村野前掲)

いや、米国には中国を射程に入れた大陸間弾道弾(ICBM)があるではないか、という声が聞こえます。

たしかにそのとおりですが、ICBMは全面核戦争に備えたものであって、日中間の紛争に使うには大きすぎるのです。

「現在の日米の安全保障体制において、米国の拡大核抑止=「核の傘」の保証は、最終的な歯止めとして機能している。しかし、核報復の脅しは、あらゆる挑戦を思いとどまらせる万能薬ではない。
中国の行動パターンをみると、軍による武力行使には至らないグレーゾーンの行動に象徴されるように、相手の出方を見極める低烈度の挑発からはじまって、徐々に相手の利益を浸食し、既成事実を積み上げていくような機会主義的かつ漸進的な拡張行動をとることが多い。こうした行動を抑止するには、「核の傘」だけでは不十分だ」(村野将・岩間陽子 『日本の「抑止力」とアジアの安定と日本に欠けている戦略的コミュニケーション』

日本の「抑止力」とアジアの安定 | 政策シンクタンクPHP総研 

また中国のとる行動は常にあいまいです。
ロシアのように直截にクリミアに進攻してしまうという荒々しい手段ではなく、5年くらいの時間を使って気がついてみれば、人口島ができており、軍港や航空基地があったことを発見するというのが、いつものパターンです。
南シナ海の人工島は2014年から始まり5年ほどでその全貌が見えました。
その間、中国は平和目的であるとか、国際的開発を匂わせてみたり煙幕を張りながら、おもうとおりの軍事要塞化を仕上げてしまいました。

これを見ていた国際社会は、国際仲介裁判所に提訴したり、駆逐艦で航行の自由作戦をすることくらいしかできませんでした。
要するに、無力だったわけです。

「東シナ海で領海侵入を繰り返す中国公船や、南シナ海での埋め立てを続ける浚渫船に対して、これらを核攻撃するといった脅しには信憑性がないからである。他方で、中国の低烈度の現状変更行動は、海空戦力やミサイル戦力、さらには核戦力の近代化による自信に裏打ちされるにしたがって、より大胆になってきている。
だからこそ、中国の漸進的な現状変更を思いとどまらせるには、海上保安庁の巡視能力だけではなく、自衛隊による各種通常戦対処能力を経て、最終的には米国の核戦力まで連なる「切れ目のない」さまざまな抑止手段をもっていなければならないのである」(村野前掲)

それでは私たちは、このような狡猾な中国を相手にどうしたらよいのでしょうか。
それがルトワックが言うように、「やったら必ず殴り返される」ことを中国にしっかり認識させることです。
戦争を仕掛けるのではなく、戦略的抑止の能力を獲得し、手を出させないこと、仮に手を出したとしても目標を達成できないことを理解させることです。
これが戦略的抑止です。

長くなりましたのでもう一回続けます。次回は具体論となります。

2021年10月20日 (水)

日本に欠けている戦略的コミュニケーションとは

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また北朝鮮が弾道ミサイルを実験しました。

「19日午前10時17分ごろ、北朝鮮東部の咸鏡南道(ハムギョンナムド)新浦(シンポ)付近から、弾道ミサイルが日本海に向けて発射されたと、韓国軍の合同参謀本部が同日に発表した。韓国軍は、ミサイルのタイプや飛行距離など詳細については公表していない。岸田文雄首相は同日、福島市内で記者団に、2発が発射されたと明らかにしたうえで「大変遺憾」と語った」(朝日10月19日)

そしてうち一発は、どうやら新型のSLBM(潜水艦発射型弾道ミサイル)のようです。

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北朝鮮が弾道ミサイル発射、滑空可能な新型SLBMか?(JSF)

「1発は水平方向に約600km・最高高度約50kmと弾道ミサイルとしては低い高度を飛翔し、しかも変則軌道が日本防衛省によって確認されています。これは北朝鮮の従来の北極星SLBMでは不可能な飛び方であり、新型SLBMと考えられます。
北朝鮮の平壌では11日から兵器展示会「自衛2021」が開幕しており、この会場で謎の小型SLBMが公開されています。この新型は従来の北極星より小さく、機首周りの形状は変則軌道が可能なイスカンデル型と同じ特徴を持っていました。この新型SLBMが19日に発射されたものと同一である可能性があります」(JSF10月19日)
https://news.yahoo.co.jp/byline/obiekt/20211019-00263887

これに合わせて米国の研究機関は、北でSLBMの実験に向けた造船所作りなどの長期的な準備が進められている可能性があると発表しました

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北朝鮮、SLBM実験へ長期的準備か 造船所の画像公開(2021年4月9日

北朝鮮はより迎撃しにくいように水中から発射させたり、通常の弾道ミサイルのように放物線で落下するのではなく、軌道を変化させることが可能なものに進化させていっています。

まったくやっかいなものを次から次にと作ってくれるものです。
潜水艦発射型は移動式発射装置以上に探知しにくいものですが、それを発射する潜水艦を補足することは、世界一の対潜水艦戦能力を持つ海自には不可能ではありません。
また変則軌道を描くといっても、落下終末点ですから空自のPAC-3で対応可能です。
いままで3枚腰の楯で対応していたものが、一枚になってしまい徐々に楯が薄くなってしまったとはいえます。
いずれにせよ、日本は北や中国の核の脅威に直接さらされ、その脅威は強まる一方です。

では、日本はどうしたらよいのでしょうか。
残念ですが、岸田首相がいかに「遺憾である」と言っても、北は核開発をやめることはありません。
安倍氏が提唱し、高市氏が今回の総裁選で改めて提起した「敵基地攻撃能力」は、議論の起爆剤としては大変に有意義でした。

高市氏がいいのは、電磁パルス弾について技術的批判が多くよせられると、敵基地にとらわれることなく、敵の発射地点と修正をかけたことてす。

これは移動式発射装置から発射されることを念頭に入れたもので、彼女に柔軟な安全保障思考が備わっていることを示しています。
ただし今のところこれも生煮えです。

エドワード・ルトワックが面白いことを言っています。
ルトワックは、中国はありとあらゆる国に軍事的恫喝と紛争をしかけているが、例外があるとしています。
それがロシアです。
どうしてロシアに対してだけ中国は苦手なのでしょうか。

「(中国の仕掛ける紛争から逃れている)唯一の例外はロシアだ。
ロシアという国は、必ず殴られたら殴り返す、挑発されたら必ず仕返しをする国だからだ。その意味では習近平ははロシアだけには慎重なのだ」(ルトワック『習近平の精神分析」』2021年6月)

そうなのです。ロシアは「必ず殴り返してくる。仕返ししてくる国」だということを承知しているから、中国は対応を慎重にせざるをえないわけです。
だからロシアと外交的揉め事も起こさない、仮に起こしてもオーストラリアや台湾に対してのように輸入を制限したり、軍事的な威嚇をくわえようとはしません。
そのようなことをすれば、キッチリとプーチンは「殴り返してくる」ために、いっそう中国が窮地に立たされるからです。
このような「なぐり返す力」のことを「戦略的抑止」と呼びます。

これについてリアルに考えた優れた文献が存在しますので、ご紹介します。
『日本の「抑止力」とアジアの安定と日本に欠けている戦略的コミュニケーション』
岩間陽子(政策研究大学院大学政策研究科教授) & 村野将(米ハドソン研究所研究員 Japan Chair Fellow〉
日本の「抑止力」とアジアの安定 | 政策シンクタンクPHP総研

この論文で、岩間氏と村野氏はこのように述べています。

「長らく日本は、「専守防衛」や「基盤的防衛力」などの考え方により、相手とのコミュニケーションを行なわず、自分だけを相手に戦略を考える癖が身についてしまった」(岩間・村野前掲) 

日本が戦後長きに渡って脅威対象の国々とコミュニケーションを送らず、「自分だけを相手に戦略を考える癖が身についた」と両氏は指摘します。

国際社会の流れを見ようとせずに、自分の国の内側だけにしか通用しない価値観だけに自閉してしまう思考形態は、たとえば集団的自衛権の一部容認が国会で審議された時にさんざん見させられましたね。

世界がどのように動いているのか、わが国がいかなる窮地にたたされているのかなどまるで気にもかけない憲法学者たちが、あたかも自分こそが日本の最高権者であるかのようにふるまうのですから、たまったもんじゃありません。

そのような憲法神学者たちの言うことは戦略議論にははるかに遠く、あるのは常に憲法条文とのすり合わせだけです。
つまるところ、具体的な議論では「どのような状況で、いつ」という線引きに終始し、改憲か護憲かという神学論争に足をとられて、大きな戦略的抑止の議論にはたどり着きませんでした。
ちょうど河野氏のイージスアショア計画の中止をもっと大きな戦略的抑止論への議論へと展開せずに、イージス艦一隻を作る作らないという瑣末な議論で終わってしまったように、です。

では、ここで素朴な質問をします。
北朝鮮や中国の核ミサイルは、なぜ私たちに向かって発射されなかったのでしょうか?
よもや9条があったからと答える人は今はそう多くはないでしょうが、その理由は先ほどのルトワックの表現を借りるなら、米国もまた「殴り返す力」をもっているからです。

これが「殴られたら殴り返す力」、すなわち「相互核抑止」と呼ばれる戦略概念です。
これは核攻撃を受けた場合、1撃目はミサイル防衛で凌ぎ、2撃を食う前に核による報復を実施して相手方の核戦力を根絶やしにしてしまう力を持ち、これによって核を封じ込めようとするものです。

日本はこの相互核抑止に守られて、9条平和国家を謳歌できたのです。
しかしこの戦略概念は冷戦期においては有効でしたが、いまや中国の台頭によって力を持たなくなってきているのではないかというのが、両氏の考えです。

「冷戦期はそれでも生き延びられたが、現在の中国相手ではそれは通用しない。こちらがメッセージを発信せず、中国が力の空白を認識してしまえば、先方はそれを利用して影響圏を拡大してくる。なにも尖閣諸島の領有権にかぎったことではない。南沙諸島同様に、尖閣は一つのシンボルであるが、それは中国の影響圏の拡大という大きな趨勢のなかの「点」に過ぎない。
一方、中国はいまやまったく性質の異なる脅威を日本に呈するようになった。北朝鮮が現状変更を試みるとしても、その領土的野心が朝鮮半島の外に出ることはない。
しかし中国は機会があればその影響圏を拡大し、現状を変更しようしている。それは南シナ海での彼らの振る舞いをみていれば明らかだ。同様のことは日本と中国のあいだでも十分起こりうる。中国がこれ以上の現状変更行動をとることを抑止する態勢を、日米でとる必要がある」
(岩間・村野前掲)

そしてこの中国の国境の力による変更を止めさせ、日本の平和を守るためには、改めて「抑止」概念を考え直す必要があるのです。
抑止とは、相手に侵略を思い止まらせること、侵略行為を働けば右腕を切り落とされることになることをリアルに伝えることです。

それを両氏は 戦略的コミュニケーションと呼んでいます。

「抑止とは、相手に対して、ある行動をとることによって生じるコストが利益を上回るであろうと考えさせることによって、その行動を思いとどまらせることである。相手にとってのコストを吊り上げる行動は、すべて抑止力の一部となる」(岩間・村野前掲) 

おとといの党首討論会で、「敵基地攻撃能力」について、岸田首相は的確に答えていました。

「第二撃を撃たせないための能力であり、それがあることで第一撃への抑止力にもなる」

まったくそのとおりです。宏池会だからあなどってはいけません。
どうやら岸田氏は高市氏について勉強しているようです。
第二撃を撃たせないために、日米同盟がより具体的な戦略抑止の手段を持っていき、日本が強く関与していくことが大事なのです。

別に中国や北の移動式発射装置にこだわることはありません。
何度も書いていますが、あれを探知して破壊するのは海に落ちた針を探すような徒労です。
村野氏は、むしろ沿岸部の固定目標に対する中距離弾道ミサイル攻撃能力を持つことを推奨しています。
そのために今米国が始めている中距離弾道ミサイルの開発と配備にわが国が全面的に協力し、その中で重要な役割を担うことで、日本が作戦立案段階から関与できるようにすることです。

河野氏は攻撃をしかけて来る国とコミュニケーションが大事だと言っていましたが、それは単なるおしゃべりではなく「殴り返す力」を持つことでのです。

2021年10月19日 (火)

カブール陥落の内幕

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 先日、映画『アウトポスト』を見ました。クリント・イーストウッドの息子であるスコット・イーストウッドが作ったものですが、なんともやり切れない。
どうしてあんなに守ることが不可能に等しい地点を守備せねばならなかったのか、タリバンは山頂から米軍のアウトポスト内部を事細かく観察できてしまって弱点を知り尽くしているわけです。
使命はパキスタンから浸透してくるタリバンを阻止することでしたが、とうに周辺の部族にはタリバンが染み渡っていて、米軍が宥和政策としてやっている開発計画のカネ欲しさに話し合いに応じているふりをしているだけのこと。
アフガン政府軍はかなりの数が配置されていますが、戦意ゼロ。

ひとりふたりと指揮官の大尉をテロで殺され、そして始まったのがタリバンの人海戦術でした。
持ちこたえたのが奇跡でしたが、米軍側にも多数の損害が出ました。
ちょうど日本ではカブール陥落の前に公開されて、この20年の長きに渡った戦争の内幕を米軍から見たような映画になってしまいました。

さて、アフガン陥落の内幕が伝わってきています。
朝日(9月23日)が、カタールのドーハで、タリバンの報道担当幹部スハイル・シャヒーン報道担当幹部と単独取材したものです。
https://www.asahi.com/articles/ASP9R4TP2P9NUHBI01D.html

今、ドーハは米国とタリバンの接触場所になっており、交渉ごとはここで行われます。
このインタビューのなかで、タリバンはカブールに迫った際に、米軍と事前に直ちに入城しないことを合意していたと明らかにしています。

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2020年2月29日、アフガニスタンの駐留米軍撤退に向けた合意に署名し、握手する米国のカリルザード和平担当特使(左)と、タリバーン政治部門トップのバラダル幹部=中東カタールの首都ドーハ、乗京真知撮影 朝日

シャヒーンタリバン報道官は、タリバンはカブールを制圧する前日の8月14日に、このドーハ市内のホテルで政治部門トップ、バラダル幹部(現在は第1副首相)が、米国のカリルザード和平担当特使らと協議しており、その際に米国側は「8月末まで」としていた米軍の撤退完了や米国関係者の退避も伝え、当面の間、カブールの市外で待機するよう要請し、タリバン側もこれに同意していたそうです。

この米国とタリバンの交渉は、特に秘密交渉というわけではなく、今年の始め頃から既に何回も重ねられています。

「米軍と反政府勢力タリバーンの戦闘が続くアフガニスタンをめぐり、在アフガニスタン米大使館は28日、「(米国とタリバーンは)主要議題について大筋合意することを決めた」との声明を出した。タリバーン幹部によると、合意は米軍撤退についてという。合意について米当局が公式に認めるのは初めて。
 声明は、タリバーンとの交渉にあたっている米国のカリルザード和平担当特使の言葉を米大使館が発表したもの。中東カタールで開かれた和平協議について「大きな進展があった。紛争を終わらせる機会を得た」と成果を強調した」(2021年1月29日)

この9月の交渉においてタリバン側は、ガニ政権からの権力移行に際し、アフガン政府の急激な崩壊は望まないとし、政府職員などを職場にとどめて行政機能を継続させたいと伝えていました。
両者の間では「平和的な権力移行への解決策が見つかるまで、タリバンはカブールには入らない」という合意が取り付けられたといいます。

しかし、ご承知のように合意はわずか1日で実現せずに破られることになります。
シャヒーン広報幹部は、このように述べています。

「我々は権力の空白は作りたくなかった。だから平和的な権力移行のため、待つ意思があった。だが、ガニ政権が全てを放棄し、大臣たちも各省庁を放棄したことで状況が変わった」(朝日前掲)

ガニ大統領は、15日、カブールからあたふたと国外へ脱出してしまい、閣僚らも我先に省庁を離れ、政府は機能不全に陥りました。
ガニ政権の治安部隊も指示系統を失い、抗戦どころか治安維持の意欲も喪失し、国外逃亡を開始していました。
アフガン政府と35万の政府軍はわずか1日で崩壊したのです。

シャヒーン広報幹部はこの状況を見て、やむを得ず合意を破って入城したのだと言っています。

「権力の空白が生じたことで、山賊や盗っ人がカブールの市街地に入り、略奪や殺人さえも起き始めた」と主張。「我々は人々の財産や尊厳、生命を守るためにカブールに入らざるをえなくなった」(朝日前掲)

なお、カブール侵攻のタリバン軍主力は、最過激派のハッカニ派であり、タリバン中枢と意志統一ができていなかった可能性もあり、この報道官の説明すべてが正しいかどうかは不明です。

また陥落前後のアフガンと米国の状況をワシントンポスト(8月28日)も伝えています。
"Surprise, panic and fateful choices: The day America lost its longest war"
『驚き、パニック、運命的な選択:アメリカが最長の戦争に負けた日』
カブールの崩壊:アフガニスタンのタリバン買収につながった運命的な選択 - ワシントンポスト (washingtonpost.com)

このWPの記事を読むと、一定時期までアフガン軍はそれなりに存在し、タリバンと戦う意志を持っていたようです。
たとえばジャララバードはカブールを守る最後の要衝で、米国大使館員もこのルートでパキスタンに逃げています。
しかし結局、この最後の砦もまったく戦闘もせずに、州知事が降伏し、14日にタリバンに制圧されてしまいました。
タリバンはここを陥落した事によって、首都を落とすチェックメイトをかけたのです。

「前日、北部最大の都市マザール・エ・シャリフ(有名な反タリバンの拠点)の政府軍は、戦って降伏していた。同じことが、アフガニスタンの王室の伝統的な冬宮があるジャララバードで一晩で起こった。8月15日が始まった朝、カブールは突然島となり、アメリカが数兆ドルと数千人の命を犠牲にして支援した政府の最後の砦となっていた」(WP前掲)

ジャララバードの政府軍は充実した武器弾薬を持ち、戦意も旺盛だったようです。しかし、それを指揮官にはタリバンと戦う意志がありませんでした。

「誰もがタリバンと戦う準備ができていた」と、アフガニスタンの治安指揮官は語る。彼はその前夜までですべての治安部隊は準備ができていると考えていた。
しかし司令官は、街を守る主要な検問所の1つを補強する準備をしていた彼を訪れ、「とりあえずそんなことは放っておけ。そんなことは後からできる」と言った。しかし本当はカブールには時間がなかったのだ」 (WP前掲)

ジャララバードが戦わず陥落すると、カブール政府には大きな動揺が走りました。

「大統領宮殿の中にはのんびりし空気が支配的だった。15日正午頃、宮殿の係員の多くは昼食のために不在だった。
しかしその時、大統領最高顧問が大統領室に入って叫んだ、「タリバンが宮殿に入り、大統領を探している」と。
これは真実ではなかったが、大統領は逃亡準備を始めた。
大統領は自分の持ち物を集めるために家に帰ろうとしたが、顧問たちから時間がないと言われ、その日の午後早く、大統領は、プラスチック製のサンダルと薄いコートを着て、第1夫人と一握りの最高側近と共に、軍用ヘリコプターで宮殿の敷地から離陸してしまった」(WP前掲)

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車4台とヘリに現金詰め込む? 国外脱出のアフガン大統領:時事ドットコム

一方、米国政府ものんびりしたものでした。
米軍が8月末に撤収しても、最低で半年間はアフガン軍が持ちこたえるだろうという読みを情報機関が出していたからです。
そこでホワイトハウスは一斉にバケーションに入ってしまい、ワシントンは空になります。

「カブールが陥落する前の金曜日の午後、バイデンの最初の休暇を取る準備をしていた上級スタッフの多くが、ホワイトハウスを空にし始めていた。その日の早い段階で、バイデンは別荘のキャンプ・デイビッドに到着し、アンソニー・ブリンケン国務長官もすでにハンプトンズで休暇に入っていた」(WP前掲)

ことの重大さに最初に気がついたのは、つい先日まで米中央軍の司令官をしていたオースティン国防長官でした。
オースティンは国務省の尻を蹴飛ばすようにして、緊急事態を発します。
在アフガン大使館は大慌てで撤収の準備に入り、重要書類の焼却や機材の破壊が始まりました。
呼び戻されたブリンケンはガニと電話でコンタクトし、カブールで持ちこたえて、タリバンが街の外に止まるなら仲介案を 出そうと申し出ました。
仲介案はタリバンとガニが民族和解政府を作るという内容だったようですが、ガニは渋々受け入れたたものの、もはやすべてが手遅れでした。

首都はタリバン軍が無傷のままの軍勢でびっしりと包囲を完了しており、街の外でハッカニ司令官の命令を待っていました。
実は、タリバンは一気にカブール入城を果たす気がありませんでした。
彼らは、むしろあまりに速いガニ政権の崩壊に驚いており、信じられないような気持ちだったようです。
しかしカブール市内にはひとりの政府軍兵士も警察も残っておらず、大統領もトランクにドルを詰め込んで逃亡した後でした。
カブールは空き屋同然だったのです。

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「「政府は、すべての省庁を去った。われわれはさらなる混乱を防ぎ、公共財産とサービスを混乱から守るため向きに街に入らなければならない」と、ムハンマド・ナシル・ハッカニは語った。
このタリバンの司令官ハッカニは、その日の朝、彼の軍隊と街の門に赴き、彼が見つけたものに驚いた。
「我々は一人の兵士や警察も見なかった」と、彼は言った。
しかし、政府が崩壊したという連絡を得た後、ハッカニーと彼の部下は1時間以内に市の中心部を制圧し、午後一杯で大統領宮殿に到達していた。
「私たちは感情をコントロールすることができないほど幸せだった。私たちの戦闘員のほとんどは泣いていたと、彼は語った。
こんなに早くカブールに皆を連れて行けるとは思わなかった」 (WP前掲)

とまぁ、このような状況であったようです。
我が国が占領者を迎えた時、厚木から東京までの道路を守っていたのが帝国陸軍の兵士たちであり、陛下は臆することなく首都に止まり、ひとりで占領軍司令官と面会された故事を思い出してしまいました。


2021年10月18日 (月)

日韓併合条約否認に手をかけたムン政権

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ムンジェインが、自称徴用工裁判を持ち出した時、私はああ、やっぱりここを狙っていたのかとひとりごちしたことを思い出しています。
それは日韓条約否認から発展して日韓併合否認まで一気に突き進む、彼の言葉を使えば「積弊清算」でした。
このスローガンは、当初は財閥解体や親日派一掃といった国内問題に見えましたが、もちろんムン政権の本丸は日本でした。
日本に対して積年の弊害を清算させ、「新たな日韓関係」を作り出すこと、それが彼が目論んだことでした。

自称徴用工判決以前にもムン閣下はいろいろと慰安婦財団の解体など一連の反日はしてはいましたが、決定打に欠けました。
慰安婦問題も遡及していくと結局そこに行き着くはずだった訳ですから、この時点で自称徴用工裁判と同じ問題が起きても不思議ではなかったはずですが、米国が仲介に入ったことと安倍氏の賢明な判断で回避される結果となりました。

といっても後述しますが、これも後の最高裁(大法院)判決が覆しています。

当時野党だったムンジェインは、オレが政権を取ったら逃がしはしないぞ、と心に誓ったはずです。
そして最高裁に左派判事を入れることから始まって、周到な準備をして放ったのが自称徴用工判決でした。

これに較べれば、後に来る輸出管理規制強化とGSOMIA廃棄などは、日韓関係を瞬間凍結するには充分でしたが枝葉に属します。

本質は、あくまでも自称徴用工裁判をムンが始めたという意味です。

ムン政権は、自称徴用工裁判にいたるまでまるで準備体操でもするかのように慰安婦財団を解体し、個人補償は「最終的、かつ不可逆的に終了」してはいないことを宣言しました。
そしておもむろに手をつけたのが、本丸の自称徴用工裁判でした。

慰安婦財団解体と自称徴用工裁判との決定的違いは、日韓基本条約の廃棄に手をかけるか否かなのです。
日韓基本条約は単なる戦後賠償に止まらず、さらに1910年の日韓併合条約の法的有効性を否認するところまでに必然的に行き着きます。
その意味で戦後の枠組みのみならず、日韓の枠組み全体を破壊する力をもっているのです。

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新日鉄住金に賠償命令。韓国最高裁が元徴用工の請求認める。日韓関係

なお私が「自称」と徴用工にかぶせているのは、原告らは自ら募集で来た労働者にすぎず、ほんとうの「徴用工」ではないからです。
朝鮮人(当時は日本国籍者でしたが)の、国家動員法に基づく戦時労働は3種類に分類されます。


①大戦前の1939~41年の期間は民間企業による「募集」
②開戦後の1942~44年9月の期間は、朝鮮総督府による「官斡旋」
③大戦末期の1944年9月~1945年3月は国民徴収令による「徴用」
 

判決事例は①の「募集」工員です。募集というくらいですから、自分で応募したのであって、強制でもなんでもありません。
当時の募集工は高給だったために高い倍率をくぐらねばならなかったわけで、もしこれを「奴隷労働」だというならば、苦労して職にありついた「奴隷」と言うことになります。

それはさておき、自称徴用工判決において「画期的」だったのは、この2018年10月の最高裁(大法院)小法廷が立論の根拠に置いたのが「統治不法論」だったことです。

「日本政府は、元徴用工問題は日韓請求権協定によって「請求権問題は完全かつ最終的に解決された」という立場で一貫している。それに対し、大法院判決は「請求権協定は植民地支配の不法性を前提としていないから、不法性を前提とする損害賠償請求権は協定の対象外であり、成立する」という論理を展開している。日韓両国政府が合意した日韓基本条約の世界を、植民地支配は不法であるという韓国の論理で根本から否定したのである」((薬師寺克行2021年6月15日)

これは二段仕立てになっています。
まず自称徴用工に個人補償を認めて、日韓請求権協定第2条を指定します。
続いてこの論拠に、当時の韓国は日本によって「不法占拠」されていた状態であって、日韓併合条約そのものが不法であるとします。
日本は「不法占拠」によって韓国民すべてに多大な損害と苦痛を与えたのだから、それを日本が補償するのは当然である、ということになります。 

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徴用工訴訟~韓国の主張は「非人道的だから日韓協定の範囲外

おそらくムンジェインは、第2日韓請求権協定の交渉を開始し、そこで元徴用工や慰安婦だけではなく、韓国民に「不法統治」36年間の損害と苦痛を賠償しろと展開する筋立てだったと思われます。
あいにくなことに安倍氏がにべもなく拒否してしまっただけではなく、たび重なる信義違反に対して輸出管理規制を強化したことからGSOMIA廃棄問題へと逸れていくことになってしまいました。

またこの最高裁判決文は、2015年の慰安婦合意が、韓国国会の同意や憲法上の批准手続きなどを経ていないこと、日本の国家責任が示されていないことを理由にして、「いかなる法的拘束力もない」と述べています。
つまりは慰安不合意などは、法律的に何の拘束力もない政府間の約束だったにすぎないということにしてしまいました。
これは既に発効されて、慰安婦財団に10億円拠出されているにもかかわらず、この根拠となる二国間条約を国内問題を理由に否認したことになります。
唖然とするほど非常識です。

さらに2021年1月には、元慰安婦が日本政府に賠償金支払いを求める第1次慰安婦訴訟の判決がソウル中央地裁で出され、他国政府の行為を別の国の裁判所が一方的に有罪とすることは認められないという国際法上の常識である「主権免除」論まで否認してしまいました。
現実にこんな国際法を無視した判決は、後に韓国裁判所自身が少しずつ修正するはめになるのですが、ここではムン政権の意図が「日韓条約・日韓併合否認」にあることを押えておいて下さい。

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https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20180301...

さて、韓国の独立した年はいつだかご存じでしょうか。
ムンに言わせると、1919年4月11日だそうです。

韓国内でこの独立記念日論争はえんえと続けられてきていて、いまさら新しいものではありませんし、憲法にも書いてあるそうです。

ただし、現実の政府がそんなファンタジーを言い出したら笑い物になりますから、歴代の政権は1945年8月15日説で統一されていました。

説明は要りませんね。常識的に見て韓国が米国によって 「独立を与えられた」のが、この年月日以外考えられないからです。
この1945年説を、いままで韓国はいかに左派政権になろうと遵守してきました。

これを初めて1919年にしてしまったのがムンジェインでした。
では1919年4月11日と1948年8月15日ではどう違うのでしょうか?
建前としては、ムンが反日運動の起点となった1919年3.11の精神を受け継ぐといった意味ですが、それだけではありません。
真の意味は、「日韓併合無効論」です。

ちなみにこの「日韓併合無効論」を初めにいいだしたのは、和田春樹元東大教授でした。
和田氏は韓国では「良心的日本人」として著名な人不物で、「万海平和賞」まで受賞しています。
彼が日本語で書いていたものが韓国で翻訳され、そのまま韓国左翼の持論に成長したようです。
韓国の反日のロジックの大部分は、最近では「汚染水」問題にも見られるようにいつものことてす。

さて韓国最高裁判決のように、日本の「植民地支配」は違法であって、36年間の「日帝支配」はただの悪ではなく、違法であるから個人賠償の請求権は残っているとしたことです。
この論理は、後に現実に徴用工裁判判決を根拠とした原告団の差し押さえ判決が出るに及んで、自称徴用工のみならず日本統治時代に惹起したすべてのことに対して、韓国民は等しく賠償を受ける権利を持つという意味だとわかりました。

ムンの脳内では、1919年3月1日の独立運動とそれに続く4月11日の「臨時政府」樹立は輝かしい朝鮮人民独立の金字塔ということになります。
韓国は1945年に米国によって独立を与えられた弱い民族ではなく、1919年に自ら「臨時政府」を持った主権国家だったといいたいわけです。
この1919年独立説に立てば、日本統治時代の経済活動、行政活動の一切は違法であるということになります。

この論理を敷衍すれば、当時のいかなる企業活動も悪の権化である以上、日本企業は無条件に賠償に応じねばならないことになります。
実際に原告団は、当時の在朝鮮日本企業をすべて洗い出して賠償運動をするつもりのようです。
この場合、日本企業は天文学的賠償金を課せられることになります。
したがって前回私が書いた日韓請求権協定を廃棄してしまうと、日本にも請求権が生じてしまうという逆説は無意味となります。

このようなムン政権の大きな意図を知ってか知らずか、宥和的態度をとれば「友好」と勘違いしているのが河村氏ら日韓議連でした。
河村氏は韓国議連の意を受けて訪韓し、そこで韓国政府の妥協案なるものを吹き込まれて、それをそのまま日本に持ち帰ってそれが日韓政府の妥協点だと言ってしまったわけで、こういう手合いが自民党にはかつて掃いて捨てるほどいました。

先ほどの和田氏に対して、韓国内にも批判も存在します。
気鋭の経済史家イヨン氏はこのように述べています。

「日本の一部人士らのこのような動きは韓日関係の助けにならない。
方向を間違えている韓国政府を鼓舞することになりかねなり、かえって有害だ。
今の大変な事態について日本の「良心的知識人」の責任も大きい。
彼らは戦時労働者と関連して、歴史歪曲を傍観、幇助したり、ひどいときには加担さえした。
慰安婦問題も同じだ。なぜそうしたのか?
それは「同情主義」だった。彼らはいま、また事実を取り繕うとしている」(西岡力氏訳による)

これは日韓議連にもそのままあてはまることでしょう。ただし彼らには利権も絡んでいますが。
今回の選挙でこの手合いは全員落ちていただきたいものです。




 

 

2021年10月17日 (日)

日曜写真館 秋風あるいてもあるいても

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秋風の石を拾ふ  種田山頭火

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木の葉散る歩きつめる 種田山頭火

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うしろすがたのしぐれてゆくか 種田山頭火

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ころりと寝ころべば空  種田山頭火

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わたしと生まれたことが秋ふかうなるわたし 種田山頭火

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吹きつめて行きどころがない風  種田山頭火

 

 

2021年10月16日 (土)

河村日韓議連幹事長不出馬、消え行くオールド自民党

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またひとつオールド自民党が消えて行きました。
あの日韓議連幹事長の河村建夫氏が引退のするようです。

「自民党の河村建夫・元官房長官(78)(衆院山口3区、当選10回)が次期衆院選に出馬せず、引退する意向を固めた。山口3区には、同党の林芳正・元文部科学相が参院からのくら替え出馬を表明しており、保守分裂の様相を呈していた。
自民党関係者が14日、明らかにした。河村氏は13日、自民党本部で甘利幹事長、遠藤利明選挙対策委員長と会談し、公認は難しいとの方針を示された。河村氏は同日夜に遠藤氏と再び会談し、党方針に従う考えを伝えた。
河村氏は1990年衆院選で初当選し、文部科学相や党選対委員長などを歴任した」(読売10月13日)https://www.yomiuri.co.jp/election/shugiin/20211014-OYT1T50131/

そもそも河村氏は当選すれば11期目。もう80に手が届く歳でバッチに固執したのですが、林芳正氏に追われた形になって不出馬だそうです。
すでに選挙区は林氏が地元選出県議を大部分掌中にしているということで、保守分裂する元気もなかったというのが真相のようです。

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河村氏は二階派の会長代行の重鎮にして、日韓議連の幹事長でした。
生きている二階派的外交といった人物で、これで二階翁も引退すれば自民党の中に残っていた古漬けの瓶のような沼気が少し薄まるかもしれません。
まぁ、といってもそうそう簡単になくなるわけではなく、今の岸田さんらの宏池会の中にも戦後外交をよしとする人らがかなり残っていますが。

派閥の親分であり、長きに渡って権勢を誇った二階翁すら、本来は引退して三男に継がせたいのに、世耕氏が衆院鞍替えしようとしているためにそれもできず、俵に足がかかった「最後の戦い」に望むようです。
その二階氏は、とうに引退した小泉(パパ)や山崎氏、中川氏などと料亭でメシを食ったそうで、「今回の選挙は厳しい」とか。
厳しくて結構。厳しくなきゃダメ。
私は議席減らしてでも、こういうヌエのような連中は消えていただきたいと思っています。

小泉元総理や自民党の二階前幹事長らが13日夜、会合を開き、今月末に予定されている衆議院議員選挙について「自民党は必ずしも楽勝ではない」という認識で一致しました。
 13日夜、東京都内の日本料理店で行われた会合には、小泉元総理、二階氏のほか自民党の山崎元副総裁、中川元幹事長が出席しました。
 会合では、31日に投票が行われる予定の総選挙に出馬する二階氏を激励したほか、総選挙の見通しについて「自民党は必ずしも楽勝ではない」という認識で一致したということです。
 また、先月の総裁選で岸田総理に敗れた河野広報本部長や河野氏を支援した石破元幹事長、小泉前環境大臣について、「将来に備えて頑張って欲しい」との声があがり、“自民党のために若い人材が健在であることが重要”との認識を共有したということです」
(TBS10月13日

小石河連合が「自民党のために若い人材 」ですか(力なく笑う)。
彼らこそ石破氏を除いて顔つきは若いが、戦えない自民党そのものです。
いまや言うことまで立憲に似てきました。
それにしても、二階、山崎、小泉、中川ですか、これに古賀や故野中、加藤などを加えれば、こんな連中が90年代からつい最近まで権力中枢に巣くっていたのですから、自民党がダメ政党になるはずです。

そのダメ自民党で官房長官をやり、その後も要職を歴任し、日韓議連のボスをしていた河村氏が最後にうごめいたのが、例の自称徴用工裁判の時でした。
河村氏のようなタイプの政治家を知るためにも、まず韓国の動きを大掴みしておかねばなりません。

自称徴用工問題の発端は、このブログでも何回も書いてきているようにいわば自作自演で、2018年10月30日と11月29日の韓国大法院の判決に端を発します。
韓国聯合通信の記事です。

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AFP10月30日


「■徴用工訴訟で日本企業に賠償命令 韓日外交戦に発展の可能性も
判決は1965年の韓日請求権協定と韓日基本条約に基盤を置く政治的妥結を真っ向から覆す趣旨のもので、旧日本軍の慰安婦問題を巡る2015年末の合意を巡りただでさえぎくしゃくしている韓日関係は、当面、行き詰まりが避けられない見通しだ。
 大法院は、日本による朝鮮半島の植民地支配は違法だとする憲法的判断に基づき、請求権協定により被害者の賠償請求権は消滅していないとの判決を下した」(韓国聯合2018年10月30日)

http://japanese.yonhapnews.co.kr/headline/2018/10/30/0200000000AJP20181030003500882.HTML

一読してお判りのように、この大法院判決は日韓基本条約の完全否定です。
ここがミソです。
これがわかっていないと、河村氏のように韓国の無理無体に頭を下げていれば、万事うまくいくという退嬰的発想に陥ります。
ムン閣下が本当にやりたかったことは、日韓関係の戦後の枠組みを作ってきた日韓基本条約を破壊することでした。
徴用工判決を最高裁に出させたのも政治的意図があったからです。

では、ムン閣下は日韓条約を廃棄してどうしたいのでしょうか。
ムン閣下の目論見には先があって、日韓条約を再交渉し、その中で日本側に「日帝」36年間のいっさいが悪であり、違法であったとして賠償金を取り立てることでした。

え、もう日本は謝罪して賠償金を払っているだろうって。
そのとおりです。謝罪は十数回していますし(する必要はありませんでしたが)、賠償に至って当時の国家予算の半分を当てるほどしていました。
ではこの徴用工らがなにを望んでいるのかといえば、個人賠償は終わっていないからしろ、ということのようです。
ところが、実はこれも終わっているのです。

大事なことですから、やや長いですが、日韓基本条約のキモである日韓請求権協定の原文に当たって再確認しておきましょう。
財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本

「■財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定
署名1965年6月22日・発効1965年12月18日
 
第二条
両国は請求権問題の完全かつ最終的な解決を認める
1.両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、1951年9月8日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。 
(略)
(b)一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であつて1945年8月15日以後における通常の接触の過程において取得され又は他方の締約国の管轄の下にはいったもの
3.2の規定に従うことを条件として、一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であつてこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であつて同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする。」

はっきりと日韓基本条約第2条3項に、「締結国の財産、権利及び利益の請求権の主張を放棄する」と述べています。 
ここで「締結国」と呼ばれているのは、日韓両国のことです。
日本も残してきた財産権や権利を放棄するから、韓国も放棄しようという意味です。
つまり相互にこの条約をもって「完全かつ最終的に解決された」ことにする、これが条約の趣旨でした。

このような請求権協定に似たものは、植民地が独立した場合に宗主国と結ばれるものですが、その場合宗主国は置いてきた財産権について徹底的に権利を主張するのが通例です。
フランスとアルジェリアとの関係もそうでしたが、少なくとも植民地に対して賠償したという事例はありません。
唯一の例外が日本で、日本は賠償という言い方こそしなかったものの経済支援という形で巨額の資金提供をしています。
この支払った資金の中には、個人補償も含まれていたのです。

ですから、日本から得た資金は、本来の筋からいえば、韓国政府は自国の個人補償にも割り振り、また北朝鮮の部分も残して置かねばならなりませんでした。
しかし当時の朴政権にはその余裕がなく、すべてを韓国政府が独占し、経済開発に突っ込みました。
これが「漢江の奇跡」とまで言われた、韓国の急速な復興の原資でした。
これはこれで正しい選択で、朴政権がここでこの決断をしなければ、韓国はテイクオフできなかったでしょう。

問題は個人補償分も韓国政府が使ってしまったということを、全く韓国国民に知らせなかったことです。
だから話がメンドーなりました。
しかしこれが分かっているからこそ歴代の韓国政府は、いくら定番の反日の小技を繰り出しても、決して日韓基本条約全体までを否定しようとはしなかったのです。

これを今になって日韓基本条約を否定しようとしたのがムン政権です。
自国だけの力で復興したのだとファンタジーにふけるのはそちらの勝手ですが、二国間関係を規定してきた条約まで否定してしまうと大変なことになります。
そりゃそうでしょう、一方的に条約を廃棄するようなまねをする国とはまともなつきあいはできません。
国際関係も人間関係の一種ですから、信用が崩壊すれば関係も消滅していくしかありません。

韓国政府の言うとおり日韓基本条約を廃棄するとどうなるのでしょうか。
日本は別に無条約状態でもかまわないのですが、ムン政権は第2日韓請求権協定をやりたいとみえます。

それに沿って少し考えてみましょう。
日本は統治時代の財産、権利の請求権を放棄しています。
日本は朝鮮半島に膨大な国有財産と民間資産を残して去りました。
日本が朝鮮半島に放棄した請求権の額は、GHQや日本銀行、旧音蔵省、外務省府の試算で国有・民間合わせて2002年時換算で16兆9千3百億円 ていどあるとされています。

「日本が1945年当時、朝鮮半島の北朝鮮地域に残した資産総額は、現在の価格に換算して総資産891億2千万円 、02年換算で16兆9千3百億円 7800億円に上ることが12日、分かった。(略)
戦前に日本が朝鮮半島(北朝鮮と韓国)に残した総資産は、連合国軍総司令部(GHQ)や日本銀行、旧大蔵・外務両省がそれぞれ調査を実施している。GHQの試算では1945年8月15日時点で1ドル=15円で総資産891億2千万円。
総合卸売物価指数(190)をもとに現在の価格に換算すると、16兆9千3百億円に相当する」
(産経2002年 913日)

ですから日韓基本条約が廃棄された場合、供与した援助の資金を返せとはいいませんから、わが国が残した国有及び民間資産を16兆9千3百億円を清算してもらわねばならなくなります。
そしてそこから韓国が主張する個人補償を引いてくれればいいわけです。

この自称徴用工の主張する未払い賃金の額は、提訴した4人の1941~43年、新日鉄住金の前身にあたる旧日本製鉄に徴用されて労働を「強いられ」、その未払い賃金1人当たり1億ウォンの支払いを要求しているようですから、1億ウォンを約992万円として徴用工遺族が21万7千人をかけて総額でざっと2千億円ていどとします。

そしてとうに支払い済みの条約時の経済協力金は使ってしまっていますが、これも5億ドル=1800億円(1965年当時)あります。
当時の韓国の国家予算が3億5000万ドルですから、1年余の国家予算を提供したことになりますが、それはともかくとして、これを時価に換算して差し引かねばなりません。
1965年の大卒初任給が約2万円で、2021年大卒初任給は約20万円 ですから、貨幣価値の換算率は10倍です。
1800億円(1965年当時)×10=1兆8000億円(2021年現在) となります。

ちなみに当時の韓国国家予算は3億5000万ドル。
無償贈与(3億ドル)だけでも韓国の年間国家予算並みの金額を支払ったことになります。
すると、先ほどの日本が残した資産16兆9千3百億円に、使ってしまった日韓請求権条約分1兆8千億を足すと、締めて18兆7300億円を韓国が日本に支払い、そこから自称徴用工へ2千億円を支払ったとしても18兆5千300億円を日本に支払ってもらわねばならなくなります。

もうひとつ付け加えると、日韓賠償請求権協定は旧日本統治下の朝鮮半島全域を対象にしていますが、韓国政府がすべての補償を受け取って独占してしまっていることをお忘れなきように。
北朝鮮の半分も韓国が取ってしまったわけで、
北朝鮮はこのことに気がついて「民族の裏切り者め」と騒ぎだし、また南北関係の火種になるかもしれませんが、われわれが知ったことではありません。

もちろんこんな計算はただの遊びにすぎません。
現実にこんな馬鹿げたカネのやりとりをすることはありえません。
だから日韓基本条約には絶対に手を触れるな、日韓関係の基本が揺らぐぞ、と日本は言い続けてきたし、韓国政府もパククネ時代までいかに左翼政権だろうとそれを納得していたのです。
それを超えてしまったのがムン政権です。
だからこの自称徴用工について議論の余地はないので議題に乗せることもしません。
妥協の余地は1ミリもないのです。

長々と説明しましたが、日韓基本条約を否定することがいかに危険なことなのか、それは日米同盟を棄損するのとおなじくらいリスキーなことだということです。
ところが、ムン政権の意図をわかっているのかいないのか、あろうことか韓国にすり寄ろうとする者が出ました。
これが日韓議連の諸公、特に河村氏でした。

河村氏はこの問題を巡って、いわゆる「1+1+アルファ」構想という自称徴用工に賠償するための基金を作り、日韓両国企業などが資金を拠出する構想を提唱し、「日韓貿易で利益を得た企業がカネを出すだろう」と述べたことがあります。
おそらく韓国側とここを落とし所にしようという腹のすり合わせがあったと思われます。

おっと、これがいかにおかしな提案なのかを理解するためには、輸出管理規制とGSOMIAを説明しなければありませんでした。
まったくたどりつかないうちに長くなってしまいました(涙)。
すいませんが、この続きは月曜日にということで。



 

2021年10月15日 (金)

立憲、ポイント・オブ・ノーリターンを渡る

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共産党が24選挙区で一本化が成立したと宣言しました。

共産党は13日、衆院選で競合する70程度の小選挙区で立憲民主党と進めていた候補者調整に関し、25選挙区で一本化が決まったと発表した。共産は22選挙区、立民は3選挙区で候補者を取り下げる。289小選挙区のうち、これまでに200近い選挙区で日本維新の会を除いた野党候補の一本化ができていたが、約220まで積み上がった。残る45程度の選挙区は競合を解消しない方向で、焦点となっていた立民、共産両党の候補者調整は、これでほぼ決着した」共同10月13日)
野党が220選挙区で一本化 立民、共産が候補者調整(共同通信) - Yahoo!ニュース

これである意味、決まりです。
枝野党首は、「自分は保守本流だ」みたいなことを言っていましたが、共産党と手を組むような「保守」はいません。
とまれ、これで立憲はポイント・オブ・ノーリターンを超えてしまった事になります。
ポイント・オブ・ノーリターンとは、元来が航空用語で回帰不能点とか帰還不能点のことを言います。
もう元に戻れない、引き返し不能地点に立憲は踏み込んだのです。
これで多少票を伸ばしたとしても、そのような党として立憲を扱わねばならなくなりました。
連合の芳野会長が、この立憲の「決断」に対して厳しい批判をしています。
煮え切らなかった先代と違って、彼女ははっきりモノを言うタイプのようです。

「共産の閣外協力はあり得ない。(立民の)連合推薦候補にも共産が両党合意を盾に、共産の政策をねじ込もうという動きがある」「立民には(選挙の)現場に混乱を来さないよう、しっかりとコントロールしてほしい」
 7日、東京都内で開いた会見で、こう発言したのは「連合」(日本労働組合総連合会)の芳野友子会長だった。
 芳野会長は、衆院選後に立憲民主党を中心とする政権が樹立された場合、共産党が「限定的な閣外からの協力をする」――とした「立共党首合意」について難色を示したわけだが、一部の新聞テレビは早速、この発言を大きく報道。<立憲支持母体の連合が共産に難色><野党共闘に亀裂>などと、総選挙前の野党ネガティブキャンペーンに一役買うことになってしまった」
(日刊ゲンダイ10月13日)

日刊ゲンダイさんは、「総選挙前のネガキャンに一役買うのか」とお怒りのようです。
と言われましてもねぇ、連合からすれば別に選挙前だから言ったのではなく、かねがねやるなよやるなよ、共産とは手をくんだらオシマイだぞと言っていたのですからしかたがない。
というか、そもそも連合は共産党によって攪乱され続けてきた旧総評から、共産党部分を切除するために作ったような団体なのです。
そして子飼いの政党として旧民主党を全面応援してきたのに、親の心子知らずでとうとう立憲は共産党と閣外協力をするところまで踏み込んでしまいました。
もう元のさやには納まりません。

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立民など4野党が衆院選へ政策協定…消費減税、辺野古移設中止も明記

ところで、先日できた野党の政策協定は共産党色がきわめて強いものでした。

「安全保障分野では安保関連法などの「違憲部分を廃止」するとし、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設の中止も明記した。
医療、介護や教育などの「公的支援を拡充」する一方、消費税減税と富裕層の負担強化で所得再分配を強化するとした。エネルギー分野では、再生可能エネルギー拡充で「原発のない脱炭素社会」を追求するとしている。(略)
また、協定書では社会保障拡充の財源をどう確保するかや、原発に代わるエネルギー源確保の方策は示さなかった。立民の議員からも「非現実的な政策ばかりで選挙にマイナスだ」、「共産党が言ってきたことを丸々書いているようだ」と疑問視する声も出た」
(読売9月9日)

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野党4党が消費税減税、安保法廃止で一致 衆院選へ共通政策合意、小選挙

立憲は、身内からさえ共産党の公約を丸吞みしたといわれるほど共産党化しました。
先程の日刊ゲンダイにもう一回登場願うと、共産党の基礎票はこのようなものだそうです。
まだ、野党共闘ができていない2014年の記事です。

「勝敗のカギは、野党協力の成否にかかっている。
 しかし、 一切協力しようとしないのが共産党だ。共産党は各選挙区に2万票の基礎票を持っている。もし共産党が候補者擁立を見送れば、野党陣営が一気に有利になる。

「見落としがちですが、共産党が野党に協力するか、党利党略に走るかどうかで、選挙結果は大きく変わってきます。たとえば、都知事選の時も“反原発陣営”が一本化していれば、細川護煕元首相が舛添要一知事に勝利する可能性があったのに、共産党が独自候補の擁立にこだわったために“反原発票”は二分裂してしまった」(政界関係者)」(日刊ゲンダイ2014年11月22日)
各選挙区に基礎票2万 野党勝利のカギ握る共産党の動向|日刊ゲンダイDIGITAL (nikkan-gendai.com)

熱烈に共産党と立憲の野党共闘を渇望する日刊ゲンダイさんの心情が露になっていますが、ここで日刊ゲンダイは野党共闘ができないのは反原発に民進党が乗らないために共産党が合流しないのだと批判しています。
そうなのです、反原発こそが分水嶺なのです。
今回の野党4党の政策協定も肝は原発ゼロです。
河野氏の総裁選もそうでしたが、エネルギー政策で現時点で原子力を完全否定してしまう意味がわからないはずがありません。
それは電力業界に打撃を与え、電力料金の高騰によって日本経済をゼロ成長に落とすという意味です。
だから連合の民間労組が大反対していたので立憲か煮えきらなかったが、今回原発ゼロに踏み切って晴れて共産党と共闘成立の次第となったわけです。

では、どうしてこの連合の方針に逆らってまで共産党と共闘したのでしょうか。
理由は簡単。要は票が欲しいだけのことです。
安住国対委員長などは、さすがに票が欲しいからだとは言えず、「連合なんかより共産党のほうがリアルパワーが上だ」と言い切っています。

立憲民主党の安住淳国対委員長は5日、国会内で記者団に、同党が15議席を獲得した東京都議選では共産党との候補者一本化が奏功したとの認識を示した。一方、国民民主党の候補4人が全員落選したことを踏まえ「リアルパワーは何なのかを冷静に見なければ」と指摘し、共産との協力を強く否定してきた国民や連合東京に苦言を呈した」(産経2021年7月5日)
立民・安住氏、連合東京より共産が「リアルパワー」 - 産経ニュース (sankei.com)

そしてその算盤の結果、日刊ゲンダイさんに言われなくても、立憲は連合こそが「野党共闘」を阻む最大の邪魔者だと考えたようです。
今まであいまいにしてきたが、選挙前に背に腹はかえられなかったということでしょうか。
いずれにしても、立憲に「もうお前らにはリアルパワーがない」とまで言われてしまった連合としては、立憲に絶縁宣言を出すしかなかったのです。

さて、今までさんざん立憲の面倒を見てやったのに後ろ足で砂をかけられてしまった形の連合ですが、実はこちらもとっくに内実は立憲離れしています。
連合が700万人組合員がいるといっても、組合の内情をご存じの方はわかるでしょうが、労組は政党ではありませんから投票は各自の自由です。
いまの連合組合員の政党支持傾向について2019年のものが残っていますが、こんなかんじです。

●連合政党支持アンケート(2019年)
・立憲+国民・・・34.9%
・自民        ・・・20.8%
・支持なし   ・・・36%

これは立憲の実働部隊として動いていた官公労まで含んだ数字なので、民間労組だけ見れば自民支持が大幅に増えるはずです。
ちなみにこれを2019年8月当時の政党支持率と比較してみましょう。

●政党支持率(2019年)
・立憲    ・・・10.3%
・国民    ・・・2.1%
・自民    ・・・44.3%
・支持なし・・・26%

確かに野党に一般より3倍弱支持が集まっていますが、自民支持が2割いるというのが連合の内情です。
特に政党支持なしが36%を占めるのが特徴です。

一口で連合と呼んでも、実際は旧同盟系の穏健派民間労組と、反基地闘争などの政治闘争に主体をおく旧総評系官公労が呉越同舟しています。
当時はまだ連合と立憲の関係はいまのように険悪ではなく、民進党の選挙に全面的支援をしていた時期ですらこうです。
単純計算しても、700万人の組合員で立憲+国民に入れたのが35%ですから約245万票ということになります。
そこから国民を引くと真水は、200万をかなり下回る票しか集まらないことになります。
無党派層の半分が立憲+国民に入れたと仮定しても約370万票です。
なお自民には約140万票流れる計算になります。

一方共産党はというと、2016年参院選比例で共産党の投票数は約601.6万票でした。
つまり、今さら安住氏に言われなくても、選挙の「リアルパワー」においてとっくに共産党が凌いでいたわけです。
だからこそ、立憲は各選挙区で共産党の基礎票といわれる2万票に涎を流すわけです。

ただし連合側から見れば、今まで実際の選挙運動で立憲の候補者の選挙マシーンになっていたのは連合傘下の組合でした。
労組があっての立憲だということを忘れやがって、という怒りがあるようです。
選挙ともなると、選挙事務所を組合の敷地内に作ってやり、運動員は大部分労組からの派遣、街宣車も組合から貸してやり、ポスター貼りは組合専従の仕事、もうナニからナニまで組合におんぶにダッコで永田町に送り込んでやったという自負があります。
そのくせ議員バッチつけてやって国会に送り出してやれば、選挙が近づくと勝手に共産党と閣外協力協定を結び、その中には連合がもっとも反対していた反原発まで入っているのですから、この恩知らずめと言いたくなるのはわからないでもありません。

共産党は経済がわかりません。というか経済が破綻して資本主義が倒れれば、共産党が政権を握る絶好のチャンスだくらいに思っています。
民間労組に応援された野党第一党が、そんな革命政党の共産党と二人三脚してどうなるんだ、もうつきあいきれない、そう民間労組がおもっても何の不思議もありません。
トヨタ労連の幹部はこう言っています。

「誤解を恐れずに言うと、イニシアティブを持っている与党にわれわれの提案をどう飲んでもらうか。
それはある意味、連携だよね。当然、選挙では対峙(たいじ)するんだけど、われわれには与党に見えない政策がいっぱいあって期待する国民がいるから。その実現を考えると、やっぱり連携していかないと」(NHK前掲)

トヨタ労連などは、国会でやってほしい政策はいくらでもあるのです。
トヨタ労連は去年夏から、「自民党との連携も模索している」と述べていました。

「その「全トヨタ労連」による与党との連携模索の情報が広がったのは11月17日のことだ。
「真に自動車産業に理解を示してくれる仲間づくりが必要だ」
これまで連携してきた野党側に加え、自民・公明両党も加えた政策協議の場を設ける検討に乗り出したというのだ。
この理由について「全トヨタ労連」の関係者は「現状のままでは、業界の変化の速度に政策実現が追いつかず、党派を超えた活動が必要だ」と説明」
(NHK2020年12月9日 )
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/49584.html

トヨタ労連からすれば、モータリゼーションを進化させる政策提案をいくつも通して欲しいのに、立憲ときたらモリカケ桜のスキャンダル政治一色、辺野古移転がどーしたこーしたですから、つきあいきれません。
春闘も、いまや官製春闘といわれるほど政府が好循環を求めて企業に賃上げを要請し、賃上げをした企業に減税措置すらとっています。
立憲なんぞなんの役にも立たない、労組はそう割り切ってしまいました。
共産党とつるんで天空をさまよっている立憲なんかより、与党と話しあうほうがなんぼかましというもんですからね。

世界最大の自動車会社の労組であるトヨタ労連も、立憲への支援を止めると表明しました。

「立憲民主党議員との連携見直し。6月上旬、全トヨタ労働組合連合会(全ト、35万7千人)がそんな方針を打ち出した。トヨタ自動車デンソー、アイシンなど関連314労組で構成され、連合傘下の有力労組だ。
 愛知県選出の旧民主国会議員とは「連絡会」を作って情報交換や選挙を支援してきたが、今後のメンバーは自動車総連が支援する国民民主党議員と労組の組織内議員に限った。
「組合員と関係を強固に築いてきた自信がある」と話す立憲議員は、自分が連携議員のなかに残っていないことを最近知った。
「前回並みの応援はできないと、全トに以前言われた」と振り返る。
 今秋までに実施される衆院選に向け、愛知県内(全15選挙区)でも各党が準備を進めている。
かつて「民主王国」と呼ばれた愛知では、長年良好な関係を築いてきた労働組合が一部の国会議員と距離を置く動きを見せている」
(朝日7月17日)

まぁ、来るものが来たということです。
この流れは不可逆的で、選挙が終わっても続くことでしょう。
元の鞘には納まりません。納めるべき刀が左に曲がってしまったからです。
ならばいっそうこの際、ポイント・オブ・ノーリターンを渡ってしまったのですから、ここ一番思い切って立憲は共産党と組織合同して看板も「立憲共産党」にしてしまえば、国民から見てもわかりやすいのにと思うのですが、いかがでしょうか。
あながち皮肉で言っているのではなく、共産党は血と粛清に彩られた陰鬱な看板を捨てて普通の国民政党へと変身できますし、立憲は全国各地に手足となる多数の党員と支持者を得られます。
いいじゃないですか、ぜひ真剣にご検討下さい。

 

 

2021年10月14日 (木)

中国の台湾侵攻は可能だろうか?

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いきなり台湾周辺がきな臭くなりました。
ご承知のように、中国は国慶節にぶつけた威嚇と、台湾のTPP加盟申請への牽制、そして南西諸島周辺での空母3隻を含む日米豪カナダ、ニュージーランド、オランダによる、過去最大機規模の海軍合同演習への当てつけとして、こちらも過去最大の防空識別圏(ADIZ )への侵犯を行いました。
その数、実に延べ150機で、その構成が実践的なことが西側専門家で話題になりました。
今まで足の速い戦闘機が多かったものが、今回はそれに長距離爆撃機、早期警戒管制機、空中給油機による編成に変化して、実際に台湾侵攻の能力を見せつけるものだったからです。

●台湾が設定する防空識別圏に進入した中国軍機の内訳(多い順・すべて延べ数)
・殲16戦闘機                    ・・・・100機
・スホーイ30戦闘機             ・・・20機
・轟6爆撃機                      ・・・16機
・運8対潜哨戒機                 ・・・7機
・空警500早期警戒管制機     ・・・6機

これは中国版ストライクパッケージが可能であることを示しています。
ストライクパッケージとは、西側が侵攻に際して用いる多機種編成の攻撃編隊のことですが、おそらく中国軍は台湾攻撃に際して同様のものを編成して攻撃が可能であることを示したかったのでしょうね。

これにもっとも敏感に反応したのは台湾でした。

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なぜ? 5日間で延べ150機 中国軍機が台湾防空識別圏に進入 | 中国

「台湾の議会にあたる立法院で6日、答弁した邱国正国防部長は、台湾海峡の情勢について「私が軍に入ってからの、この40年間で今が最も厳しい」という認識を示しました」(NHK 2021年10月6日 )
“2025年以降 中国が全面的な台湾侵攻の能力” 台湾 国防部長 | 台湾 | NHKニュース

同時にこれは軍事バランスの問題だとも邱国防部長は言っています。

「一方、中国による台湾侵攻の可能性をめぐっては、侵攻によって得られる利益と損害の大きさを比較して、利益が上回った場合、実行に移す可能性が高まるとの見方が出ています。
これを念頭に、邱部長は「2025年以降、中国のコストと損害は最低限となり、全面的な台湾侵攻の能力を持つ」と危機感を示し、抑止力の向上を急ぐ必要性を強調しました 」(NHK前掲)

台湾側は「2025年以降」と言い、米海軍側は「2026年以降」と述べています。

「3月10日 AFP】米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官は9日、上院軍事委員会の公聴会で、今後6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性があると証言した。
 デービッドソン司令官は「彼ら(中国)は米国、つまりルールにのっとった国際秩序におけるわが国のリーダーとしての役割に取って代わろうという野心を強めていると私は憂慮している…2050年までにだ」と発言。「その前に、台湾がその野心の目標の一つであることは間違いない。その脅威は向こう10年、実際には今後6年で明らかになると思う」と語った」
(AFP2021年3月10日 )
「中国、6年以内に台湾侵攻の恐れ」 米インド太平洋軍司令官 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News  

このデービッドソン太平洋軍司令官は、対中現場を預かってきた最高責任者であるだけに重みがあります。
中国軍機の挑発は台湾だけに向けられたわけではなく、この空域が米海軍の航行の自由作戦や台湾海峡を通過する米艦船を攻撃できる空域であることから、同時に米軍への牽制だとの見方もあります。

下図が侵入した中国軍機の航路ですが、中台の中間線を超えて台湾海峡を西から塞ぐように飛行しているのがわかります。

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NHK

またこれに合わしたように、中国は台湾を想定した上陸訓練の映像も公開しています。

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台湾への「上陸作戦」想定か 中国軍が訓練映像公開|テレ朝news-テレビ .

このような映像は中国が得意のプロパガンダであって、それに乗る必要はありません。
中国は台湾へ侵攻する意志はあり、それに向けて軍事力を大幅に強化していることは事実ですが、現実に台湾侵攻が可能かといえば、無理だと私は思っています。
このプロパガンダに乗って、明日明後日にも台湾に攻めてくるようにいうのは、中国の掌で躍ることになりかねません。

具体的に検証してみることにしましょう。
まず中国軍と台湾軍の戦力比です。
203万人対6万人で、台湾はこのサイズの国として必要充分な軍事力を保持していますが、いかんせん相手が世界最大規模の軍隊ですから比較になりませんし、戦闘機・爆撃機の数も1800機対470機では大人と子供です。

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政経電論

ただこの戦力比がモノをいうのは、広い中国大陸を戦場として広く大陸に分散している中国軍を一カ所に集結できたらという場合だけのことで、そのようなことは空想上の産物にすぎません。
戦車が5600台あるぞなんて威張っても、台湾にどうやって運ぶんだというお話です。
中台間で戦争が起きるのは、あくまでも、中国が攻め込むという状況しかありえません。
では、中国がいつでも台湾侵攻が可能かといえば、私はそうは思っていません。
いろいろな理由があげられますが、最大のネックは中台間に広がる幅130~180kmの台湾海峡の存在です。
台湾海峡は台湾にとっていわば最大の外堀であって、中国軍はがいかに強大であろうとこの海を超えない限り、台湾に戦力を投入できないのです。

この戦力投射能力をパワープロジェクションと呼びますが、おそらく100万人規模の侵攻軍が必要だろうと小川和久氏は見ています。

「中国側には台湾海峡上空で航空優勢(制空権)をとる能力がなく、1度に100万人規模の上陸部隊が必要な台湾への上陸侵攻作戦についても、輸送する船舶が決定的に不足しており、1度に1万人しか出せないのです。そしてなによりも、データ中継用の人工衛星などの軍事インフラが未整備のままなのです」
(NEWSを疑え!第995号(2021年10月11日特別号)

この小川氏の見立てでは100万人が上陸作戦には必要ということですが、これを踏まえて中国軍の上陸作戦能力を分析するとこうなります。

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上の写真は民間の1556トンのフェリーを改造して車両ランプをつけて26トンの水陸両用装甲車両ZTD-05の運用に対応できるよう改造したものですが、これで一度に運べる戦闘車両はせいぜいが数台にすぎません。
またこのような民間船が投入されるのは、第一波が橋頭堡を築いた後に本隊を送り込む段階に達してからのことです。

「中国軍が台湾侵攻時の海軍の揚陸艦の数量不足を補うため、民間の大型船舶を活用する方策を計画している。
軍事演習では実際に活用され、数十隻単位で存在が確認されている。こうした民間船は砲弾が飛び交う最前線ではなく、強襲上陸が成功し港湾を確保した後、後続部隊を輸送する任務を負うとされてきた。だが、上陸作戦用に改修された船が確認され、米台の軍事研究者が注目している」
(産経2021年10月11日)
【中国軍事情勢】台湾侵攻能力を補う民間貨客船 作戦用に改修も - 産経ニュース (sankei.com)

その第一波を送り込むのが強襲揚陸艦ですが、中国はこれを37隻保有しています。乗せることができる兵員数は最大で1600名ですので、それを40隻保有するとして約6万人程度ですが、実際は戦闘車両も共に乗せますので、はるかに少ない数のはずです。
075型強襲揚陸艦 - Wikipedia

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南海艦隊に同時就役した艦艇3隻を専門家が解説 (2)--人民網日本語

「中国の人民解放軍海軍は今年4月、初の強襲揚陸艦となる075型(推定排水量3万6000~4万トン)を就役させた。同型艦の建造を急ピッチで進めており、上陸作戦能力の向上を図っている。
ただ、米国防総省の20年の年次報告書によると、中国軍の揚陸艦は19年時点で計37隻。台湾の国防安全研究院の今年7月の論考は、強襲揚陸艦を含む中国の揚陸艦隊による「第1波」の輸送能力は約4万人で、「台湾の厳密な防衛(態勢)に対しては、まだ不足している」と分析している」。

このように見てくると、中国軍の渡海能力はこのようになると推測されます。

●中国の渡海能力
・揚陸艦艇の総数                                   ・・・約370隻
うち大型艦艇(大体満載排水量500トン以上)・・・約70隻
これによる輸送可能兵員数                        ・・・約2万数千人
・民間徴用船数・・・63隻
これによる輸送可能兵員数                       ・・・約3万~4万人
・ヘリコプター+落下傘降下兵員               ・・・数千人
・推定上陸作戦第1陣で可能な投入兵力計・・・約5万人~6.5万人

固く見積もって3万、最大で6.5万人です。
つまり仮に100万人が台湾軍制圧に必要とするとわずか3%~6%を保有しているにすぎません。
今までアジア地域における最大規模の上陸作戦は仁川上陸作戦で兵力は約4万でした。
これが現代戦の最大規模の上陸作戦ですが、精緻な計画と渡海能力が要求されますが、中国軍はこのいずれも持っていません。
仁川上陸作戦時に対抗した北朝鮮軍はわずかに6500人にすぎず、台湾軍の兵力はその数十倍にも登りますから、仁川を数倍する困難が上陸軍を待ち構えています。

しかも渡海軍は台湾海峡をわたる途中で、その相当数が打撃を受けて早々と戦力外となり、着上陸したわずかの部隊も個別に撃滅されると思われます。
現実には、この台湾海峡上空の航空優勢と台湾周辺海上優勢を巡って熾烈な空と海の戦いが展開されるはずで、それに対して米軍は台湾関係法に基づいて介入するはずです。
自衛隊も周辺事態対処としてとらえて、何らかの支援を行うはずです。

また、台湾は想像以上に大きい島で、面積は約3.6万平方キロメートル、南北約380km、東西100~140kmで九州とほぼ同じ大きさです。
島中央部には標高3000m級の山脈群が南北に走り、最高峰の玉(ユイ)山は富士山より高い3952mもあります。

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世界の山ウエブで放浪 (その22) 台湾の山脈(8)改訂版 海岸山脈

地形的に見ても台湾は大変に攻めにくい島です。
中国軍は西海岸から侵攻するでしょうが、仮にそれが成功しても台湾軍は脊梁山脈で執拗なゲリラ戦を展開しつつ、東海岸に主力を逃がすことでしょう。

しかし中国軍には山岳ゲリラ戦の経験もありません。
渡海作戦は国境内戦の末期に一度試みて惨敗した経験があるだけですので、そのノウハウ自体が欠落しています。
山岳ゲリラ戦に至っては、経験皆無です。

兵士の質も大きく変化し、かつての朝鮮戦争や中越戦争の時のように、損害をかえりみずひたすら押しまくるといった人海戦術などやりたくてもできません。
というのは兵士は、今や揃って一人っ子政策世代で「小皇帝」として育てられたボンボンばかりだからです。
彼らを数万単位で殺せば、政府批判は抑えきれなくなるからです。

実は中国軍は戦争好きなわりには実戦経験に乏しく、直近の大規模な実戦経験は1979年の中越戦争で、以後40年以上戦火をくぐったことがありません。
それがパレード用軍隊とか「人民抑圧軍」だと揶揄されるゆえんです。

このような実態を分かっているからこそ正面戦を諦め、サイバー攻撃に力を入れたり、首脳部をにテロを仕掛けるスネークヘッド作戦を考えたりしたのだと思われます。
あるいは中国軍は台湾の航空戦力を無力化し、台湾上空の航空優勢を確保することで、自在に空から攻撃をすることができることを誇示することも念頭にあるかもしれません。
多数の艦船で海上封鎖をして日干しにすることもありえます。
しかし、これらの方法はいずれも搦手であって、決定打たりえません。
習近平が、「祖国統一を達成した」と宣言できるのは、唯一陸上兵力が台湾を制圧した時のみだからです。

このように見て来ると、中国軍の台湾侵攻は備えねばならないのはいうまでもありませんが、今日明日あるという類ではないのです。
ただし、日本の尖閣や離島を侵攻するには充分すぎるほどの力がありますので、台湾のケースと一緒にしないようにしてください。

 

 

2021年10月13日 (水)

「法の支配」を否定した名古屋高裁判決

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では、当時高江地区でなにが起きていたのでしょうか。
まず高江地区には簡単に行くことができませんでした。
高江に続く公道には、各所に反対派が設置した「検問所」が道を塞ぎ、通行する車両を止めて工事関係者がいるかを「捜索」していたからです。

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上の写真は反対派のツイッターですが、むしろ得意気に今日は警察車両まで止めて「検問」しました、と書いています。
このような行為は当時各所で頻繁に目撃されており、これが組織的に集団でなされたことが画像に多く残されています。
反対運動側は、2018年に損害賠償訴訟を起こされた際に、こう答えています。

現場に車両が近づいてくると、明らかに高江住民だと思われる車両は停止を求めずに通過してもらい、それ以外の車両については一時停止を求め、ヘリパッド建設の作業員かどうかを確認し、作業員が乗車している車両であれば丁重に話をしてUターンしてもらう」という確認行動だったと主張。「私的検問」には当たらない」(八重山日報2018年10月17日)
業務妨害で損害賠償など求める 「私的検問」で車両通行権侵害 東村高江 | (yaeyama-nippo.co.jp)

反対運動側は「工事関係者がいるかどうかを見させてもらった」などとと言っていますが、工事関係者だからといってとやかくいわれる筋合いではありません。
それとも職場に行っていけないのでしょうか。それを止める権限が反対派にあるとでも?
移動の自由の権利こそが自由社会のイロハのイであることは、この人たちにわかっているでしょうか。
もちろんこれは刑法第124条(往来妨害及び同致死傷)事案です。

刑法第124条
陸路、水路又は橋を損壊し、又は閉塞して往来の妨害を生じさせた者は、2年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。
前項の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。

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沖縄防衛局

上の写真は、沖縄防衛局が公表した高江に通じる道を占拠した反対派の車両群です。
並べ方 を見れば判るように、車両を道路封鎖する目的で並べられています。
しかも手前には記念写真を撮る姿まで写り込んでいて、彼らが鼻唄まじりで「ムラ殺し」に参加したのかわかります。

では、反対派の皆さんにたまには「やる側の論理」で考えずに、「やられる側」の立場で考えてもらいましょう。
仮に反対運動団体が県民集会を開催しようとした時に、それに反対する勢力から途中の公道で道を塞いで「私的検問」を受けたらどう思われるでしょうか。
もちろん暴力はないとします。暴力を使ったら、その時点でアウトですからね。
集団で窓から覗き込んで集会にいかれるのですかと丁寧に聞き、ならば戻っていただけませんか、と「お願い」されるだけです。
彼らはこれを「確認はお願い行為」だから暴力ではないと言い張っています。

下の写真は、実際にキャンプシュワブのゲート前で同じ「確認行為」をしている反対派のものですが、車内から見るとこのようなふうに写ります。
いかがでしょうか、これが反対派のいう「丁寧な説得」風景です。
集団を頼んだ威圧は字面で読むより怖いものです。

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なるほどこれは「確認行為」なのだからしかたがない、はは、こりゃ確認を怠った私が悪かった、じゃあ戻りますか、と言うでしょうか。
いや、そうはしないはずです。むしろ腹を立てて、そんな「検問」をものともせずに集会場に向かうでしょう。

それでいいのです。それが正しい。
私人が私人の行動を圧力をもって変更させる行為など許されてはならないからです。
集団で組織的に「私的検問」をした場合、それはたんなる「確認行為」ではなく、あなたの人権を威嚇によってないがしろにする行為だからです。
もちろん道路交通法が保証する交通の自由の違反ですが、それ以前の基本的人権の問題なのです。
ですから、こういう行為は必ず紛争を引き起こします。

止められた人が抵抗する場合があるからです。揉み合いになるかもしれません。
その時、どうしますか?
公人ならば公務執行妨害で拘束することが可能ですが、私人ができるでしょうか。
近くに警察官がいない状況で危害を受けそうな不正急迫の場合、私人であっても危害を加えようとする者を「逮捕」することは可能です。
これを「私人逮捕」と呼びますが、この不正急迫という要件がみたされない限り、逮捕したほうが暴行罪に問われる事になります。
しかも危害を加えられそうな条件を作ったのが、こちら側の「確認」作業ですから「私人逮捕」した側が罪に問われます。

長々と説明しましたが、「私的検問」とは、「丁寧に話した」から許されることではなく、そもそも基本的人権の破壊行為なのです。
このようなことが組織的、かつ集団的になされていたのが、残念ですが当時の高江に至る公道だったわけです。
しかも高江に続く道のみならず、集落内部においても下の写真のような行為が常態化していました。 

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これは自分たちが持ち込んだ道路封鎖車両が移動されないように、その下にもぐり込んでいるのですが、その奥には移動に来た警官隊と反対派がもみ合っているのが見えます。
揉み合いのはずみで自動車が動いたら惨事になります。
それを承知でしているわけで、これを「市民的抵抗」とか「平和運動」などと呼ぶのは自由ですが、本当に彼らが抵抗しているのはなんなのでしょうか。

私はそれが「法の支配」だと思います。
私は為政者に対する抵抗権は国民に与えられた自然権だと考えています。
ですからなにを主張しようと、どのような団体を作ろうと、示威活動をするの自由です。
ただし、これはあくまでも「法の支配」の範疇内でのことです。
なぜなら「法の支配」を逸脱した行為は、他者の自由と権利を奪うからです。
他者の自由と権利を侵害する自由などありえませんからね。

この高江紛争で問題とされるべきは、当時「法の支配」が崩壊の危機に瀕していたことです。
当時、高江集落に行こうとすると、手前の私的検問所に引っかかって「帰れ」と命令され、仮に通れたとしてもその先には車が十重二十重のバリケードを築いており、そして高江集落内部は住民すら通行できない状態が日常化していたのです。
住民は下の写真のようなステッカーを作って、せめて畑くらいには行かしてくれと、反対派に懇願しましたが、拒否されました。
高江の住民が通行許可を行政や警察に要請したのではなく、反対運動団体に頼んだことを留意して下さい。
もはや公権力は無力化し、反対運動が実効支配していたのです。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2016/09/post-1f27.html 

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上の写真は、高江の農業生産団体が、道路を塞がれたために生産活動ができなくなり、せめて我々だけでも畑に行かしてくれと考えたプレートが貼ってあります。
高江住民は誰にこれを見せようとしたのでしょうか?警察にでしょうか?
違います。反対運動をしている者たちに見てもらいたかったのです。
もはや誰がこの高江集落とそれに通じる道を実効支配しているか、このプレートをみればお分かりでしょう。

これについては、他ならぬ反対運動の機関紙だった沖縄タイムスですら、さすがに見かねたのか、こんな記事を掲載しています。
長文ですが、当時の状況を物語る和少ない記録として貴重です。
もっとも書いた記者は自己批判していましたが。

高江の農家、ヘリパッド抗議に苦情 県道混乱で生活にも支障2016年9月8日 ステッカーを使った対策は5日から始まった。
区は村を通じ県警に通知。市民側にも伝えているが、仲嶺久美子区長は「農家から効果があったとの報告はない。
周知が必要」と言う。 県道70号では8月から、市民が「牛歩作戦」として、工事車両の前を時速10キロ未満の速度で走る抗議行動を展開。機動隊の交通規制もあって県道は渋滞し、出荷や作付けする農家を中心に地元住民の往来に支障が出ていた。 
高江区の農家の男性(75)はカボチャの植え付けに向かう途中で渋滞に巻き込まれ、本来10分で到着するはずの畑に1時間以上を要した。『作付け期間は限られている。このままでは1年間の収入に響く』と嘆く。
『決してヘリパッドに賛成ではない。ただ、彼らのやっていることはわれわれの生活の破壊。もう爆発寸前だ』と憤慨する。当初の機動隊への怒りの矛先は市民側に変わりつつある。 
ヘリパッド建設予定地に近い国頭村の安波小学校では5日、「牛歩作戦」の影響で教員1人が授業に間に合わず、学校側は授業を急きょ変更した。
宮城尚志校長は「反対運動を否定しないが、もっと別にやり方はないのかと思う」と首をかしげる。 
高江共同売店では物品の入荷日を抗議集会のある曜日は避けるようにした。
仲嶺区長は『区民のストレスは限界に来ている。早くヘリパッドを完成させた方がいいとの声も出ている』と打ち明ける。通勤、保育園送迎、通院などに支障が出ていると苦情は絶えない。 7日早朝、抗議行動を遠目で眺めていた与党県議は『これでは反対していた人たちまで離れていく。工事を進めたい国の思うつぼだ』とつぶやいた」(沖タイ 2016年9月8日)
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/61153

生活物資は滞り、生産活動は出来ない、学校には通えないという状況が続くならば、間違いなくムラは死滅します。
道路が半分ちかく反対派に占拠され、しかも反対派の車が超低速運転するために、やむなく ムラの車もノロノロ運転を強いられました。
畑に行く軽トラも止められ、売店の仕入れもままならなかったわけです。

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ヘリパッド:やんばる東村 高江の現状

上の図は地元の方が描いたものですが、道路の半分近くを反対派が違法駐車とテントで実効支配してしまっています。
もちろん道交法違反ですが、当時の沖縄県警は翁長氏が仕切っていたために手も足も出ずに放置してしまっていました。

またヘリパッドに近い国有林を勝手に伐採して作った反対派テントでは、防衛局職員への暴行さえ行われていました。

※関連記事2016年8月5日 東村高江地区N1裏反対派テントで起きたこと

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施設局の若い職員はなんどとなく止めてくれと訴えますが、何人もではがい締めにされている様が逐一動画に収録されないます。
集団で取り囲んで無理矢理に正座させ、「尋問」を開始します。
見かねた警官が止めなさいと介入しようとしますが、反対派は「協議している」と言って寄せつけません。
公道で私的検問することは「確認行為」で、多数で取り囲んで暴行することは「協議」だそうです。
ちなみにこの「協議」の指揮を執っていたのが、反対運動の指導者だった山城氏自身でしが、後に裁判となり、2019年に最高裁で懲役2年執行猶予3年が確定しています。

このような異常事態をやめさせるために、全国から駆けつけたのがか各県警察の応援部隊でした。
こういう反対派の「ムラ殺し」によって高江村落は危機的状況に陥り、沖縄県警は上司に反対派の首長がいるために常に及び腰だったからです。

全国から駆けつけた警察官がなさんとした目的は、「法の支配」の回復でした。
ムラに通じる唯一の県道を確保するために執拗な座り込みや自動車の不法駐車を続ける反対派を排除し、道路を通常に戻したのです。
この警察活動を、名古屋高裁は「現場周辺にあった抗議市民の車両やテントを機動隊員らが撤去した行為は法的根拠が見当たらない。違法である可能性が強い」と述べています。

法的根拠など山ほどある、刑法124条はどうなった、などと野暮は言いません。
そんなことは素人にもわかることですから、名古屋高裁は知っていて出したのでしょう。
ですから、問題はそこにはありません。
名古屋高裁は自らが「法の支配」を否定してしまったことに無自覚だということ、そここそがこの判決の最大の問題点なのです。

ムラを救って「法の支配」を回復させた側が罪に問われ、集団的組織的に私的検問をし、道路を占拠するムラ殺し続けた側が勝訴する、石が流れて葉が沈むとはこのことです。

 

 

2021年10月12日 (火)

高江ヘリパッド紛争、名古屋高裁判決について

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高江ヘリパッド事件にたいして愛知県警が派遣したことを名古高裁で反対運動側勝訴判決が出たようです。
沖タイのまるで闘争そのものに勝ったと言わんばかりの記事です。

沖縄県東村高江周辺の米軍ヘリパッド建設に愛知県警が機動隊を派遣したのは違法として、隊員の給与など約1億3千万円を当時の県警本部長に賠償させるよう愛知県に求めた住民訴訟の控訴審判決で、名古屋高裁(倉田慎也裁判長)は7日、派遣手続きの違法性を認め、約110万円の賠償を命じた。
 請求棄却の一審判決が変更され、住民側は「逆転勝訴」と評価した。住民側によると、機動隊を派遣した6都府県と派遣された沖縄で住民監査請求や住民訴訟が起きているが、請求が認められたのは初めて。
倉田裁判長は判決理由で、派遣決定が県警本部長の専決で処理された点を問題視。「決定は愛知県公安委員会の実質的意思決定に基づいておらず、違法だと言わざるを得ない」と判断した。派遣隊員の時間外勤務手当分約110万円の損害を当時の愛知県警本部長に賠償させることを愛知県知事に求めた。
 工事が着手された2016年7月22日、現場周辺にあった抗議市民の車両やテントを機動隊員らが撤去した行為は「法的根拠が見当たらない」「違法である可能性が強い」と述べた。沖縄側がそのことを認識しながら派遣を要求したことには「重大な瑕疵(かし)がある」と批判した。
 また、高江周辺で繰り返された警察官による車両検問、抗議行動の撮影は「違法性あるいは相当性については疑問が生じ得る」と疑問視した。
 愛知県警の萩原生之監察官室長は「判決内容を検討した上、今後の対応を決める」とのコメントを出した。沖縄県警は7日中にコメントしなかった」
(沖タイ10月8日)
https://news.yahoo.co.jp/articles/cd616b77ff4e2fd18ac81054408716c8b42920cf

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機動隊の派遣手続き「違法」 沖縄米軍ヘリパッド工事で高裁判決:朝日

率直な感想をいえば、初めから判決は決まっていたような印象を受けます。
審理以前から裁判官には、この方向に持っていき、ここで落とすという構図があって、事実から遡及するのではなく見込みに沿って証拠を集めたような印象を受けます。
ですから、ひとつひとつ丁寧に当時の高江地区の状況を聴取し、当時高江地区がどのような状況に置かれていたのか、出動した沖縄県警がいかなる苦境に陥ってしまったのか、いかなる理由で全国に応援を求めたのか、その原因はなにかについて完全に捨象されるか、運動側の主張を丸ごと採用してしまっています。
このように法の公平中立性を逸脱し、事実の追及を欠落させ、法律を操って特定の勢力に加担するような裁判官を昔の言葉では「法匪」と呼びます。

さてここで名古屋高裁倉田裁判長が言っていることはふたつあり、ひとつは公安委員会手続き論で、もうひとつは警察が「違法検閲」したということのようです。
まず手続き論ですが、公安委員会を通さずに応援部隊を沖縄県警の応援に送ったのがけしからん、という原告の撃ったりをそのまま踏襲しています。
この議論は前から反対派がよく使ったロジックです。
他都道府県から沖縄県への機動隊派遣に関する質問主意書 仲里利信
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a191015.htm

ここで名古屋高裁が県警を非難しているのは、「専決処分」を県警が使ったことの是非です。
専決処分とは地方自治法の概念です。

「専決処分(せんけつしょぶん)は、本来、議会の議決・決定を経なければならない事柄について、地方公共団体の長が地方自治法(昭和22年法律第67号)の規定に基づいて、議会の議決・決定の前に自ら処理することをいう」(ウィキ)

建前としては愛知県警は地方自治法179条に基づいて公安委員会に可否を問うべきだったのにそれを省いたのはけしからん、と名古屋地裁は言っているのです。

●地方自治法第179条
1 普通地方公共団体の議会が成立しないとき(略)、会議を開くことができないとき、普通地方公共団体の長において議会の議決すべき事件について特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるとき、又は議会において議決すべき事件を議決しないときは、当該普通地方公共団体の長は、その議決すべき事件を処分することができる。

今まで、専決権を巡って違法性を問われたケースはいくつかありますが、これらはいずれも自治体首長と議会の関係で起きたもので、県警と公安委員会を巡ってのきたのはたぶん日本で最初だと思われます。
判決は、今回、「公安委員会の実質的意思決定に基づいていない」と言っていますが、その前提として愛知県警が応援に行かねばならないような状況だったのか、それに緊急性があったか否かが問われなければなりません。

下写真は、当時の高江における反対運動をを撮った写真です。
当時過激化した反対運動が高江地区を実力で実効支配していました。
明日にもう少し細かく検証しますが、集団的暴力を振るっていたのは、どちらなのかお分かりになるでしょう。

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出典不明

当時の高江集落のおかれた状況に対して名古屋地裁の判断は丸ごと反対運動側に立っており、まともな法曹が書いたものには読めません。
名古屋地裁にかかると、平和だった高江集落に警官隊が殴り込んで一方的に暴力をふるって流血の修羅場にしたように読めてしまいます。
公平を求められる司法判断にあるまじき偏向で、まっとうな司法判断とはとうてい呼べません。
こんな認識だから、公安委員会の了解という法的建て付けに異常に固執して、毛を吹いて傷を求める見方に陥ります。

そもそも公安委員会の性格自体が、警察活動に対して意志決定をする機関ではありません。
公安委員会とは、このような組織です。

「公安委員会制度は、強い執行力を持つ警察行政について、その政治的中立性を確保し、かつ、運営の独善化を防ぐためには、国民の良識を代表する者が警察の管理を行うことが適切と考えられたため設けられた制度であり、国に 国家公安委員会を置いて警察庁を管理し、都道府県に 都道府県公安委員会を置いて都道府県警察を管理している。また、 国家公安委員会委員長には国務大臣が充てられ、警察の政治的中立性の確保と治安に対する内閣の行政責任の明確化という2つの要請の調和を図っている」
『警察の組織と 公安委員会制度』
https://www.npa.go.jp/hakusyo/h24/honbun/pdf/07_dai1sho.pdf

つまり公安委員会とは、警察活動を「県民の代表が監視する」機関であって、県警が承認をもらわねば動けないような上部機関でもないし、ましてや意志決定をするための組織ではないのです。
実態は私たちが日常的に見ているように、「市民の声」を反映するものではなく、警察機構の一部にすぎません。

「事務局は警察本部庁舎(国家公安委員会も中央合同庁舎第2号館、つまり警察庁)に同居、庶務や事務職員も警察職員なので、制度として中立性や情報の機密が担保されていない。これがために公安委員会に市民からの書類が届く前に都道府県警察職員によって書類の受理遅滞や受理拒否が行われる事態が存在する」(ウィキ)

この「県民の代表が監査する」という表現は自治体公安委員会がよく掲げる理念ですが、教育委員会や農業委員会などに似てGHQの残り香を感じますが、実態は警察の天下り組織か、現職の警察職員が事務局をしているような組織です。
公安委員会がする内容も、デモ申請や免許の受け付けていどにとどまっていて、地裁がいうような県警が緊急に応援に行くような状況の可否を決定するような組織ではありません。

またよくある誤解には、公安委員会と警察を敵対的関係と捉えて、警察が政治的に国に偏らないように監視するのが目的のようにいう人がいますが、それは間違いであって、自治体公安委員会の上部組織である国家公安委員会には国務大臣があてられているように警察機構の一部であり、語弊がある表現ですが、いまやあってもなくてもいいような形骸化した組織にすぎません。

ただし、「公安委員会の権限」の中には建前上「警察庁又は他の都道府県警察に対する警察職員の援助要求」があるために、名古屋地裁はこの権限を拡大解釈して「警察の暴走」に仕立てたようです。
しかし推測ですが、沖縄県警は高江の応援を得るに当たって沖縄県公安委員会を経て国家公安委員会に応援要請をしているはずですから、愛知県公安委員会がなにも知らないはずがありません。
というか、常識的にみれば、国家公安委員会から愛知県警に応援要請が降りて来た場合、これを愛知県公安委員会が拒否できるはずもありません。
だから愛知県警は専決事項として処理したのです。
そのように考えると、仮に応援の可否についての会議を事前に開かなかったといっても、判決がいうような「派遣手続きの違法性」を問われて賠償をせねばならない性格とはとても思えません。

県警はとうぜん上訴するでしょうが、その場合、このような判例があります。

「名古屋高裁昭和55年9月16日判決普通地方公共団体の長がした専決処分に179条1項所定の要件を欠く瑕疵があっても、後に議会の承認があれば右瑕疵は治癒されるとした事例東京高裁平成13年8月27日判決東京都が応訴した訴訟事件に係る和解のすべてを都知事の専決処分とした都議会の議決は、180条1項に違反して無効であるが、この議決が一義的明白に違法であるとはいえないとして、専決処分として和解を成立させた元都知事個人に対する代位請求住民訴訟に基づく損害賠償請求が棄却された事例」(ウィキ)

この平成13年8月の名古屋高裁判決では、前述した179条1項の要件を欠く場合があっても、その後議会の承認があれば「瑕疵は治癒される」としています。
ちなみに、愛知県議会の構成は自民党が過半数を確保していますので、議会が承認さえすれば瑕疵が「治癒」されることも考えられます。

当時の高江の状況については次回に回します。


 

 

 

2021年10月11日 (月)

小泉ジュニアのレジ袋有料化は即刻止めなされ

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政権が変わった時、変えていいものと悪いものがあります。
変えてはまずいものは、外交・安保やエネルギー関連などで、国の基幹に関わりますから、変えてはいけません。
政権が変わるごとに、日米安保やクアッドを出たり入ったり、中国に抱きついたりされしたらえらいことになりますからね。
ネルギーも、そのつどオレの政権時に原子力ゼロだ、再エネ100%だ、なんてやられたら国がおかしくなります。


一方変えてかまわないものは、時の大臣が、「法令」のような大臣の裁量でやった思いつきの政策です。
国民、特に青年層に圧倒的不人気なレジ袋有料化などはその典型でしょう。
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ところで、このレジ袋の法的根拠はこれです。
● 2020年7月1日小売業に属する事業を行う者の容器包装の使用の合理化による容器包装廃棄物の排出の抑制の促進に関する判断の基準となるべき事項を定める省令」平成18年財務・厚生労働・農林水産・経済産業省令第1号)
2019年12月27日改正、有料化義務付け
◎「レジ袋削減にご協力ください!」(経済産業省)
 https://www.meti.go.jp/policy/recycle/plasticbag/plasticbag_top.html
https://www.dinsgr.co.jp/sales/resolution/column/attention/74th/

このように「省令」です。省令は各省庁の大臣が発する命令です。


「内閣が制定する政令よりも効力は低く、法律の円滑な運用をはかるために、各省が所管の行政事務について制定する命令です。大臣が署名して官報で公布されます」(山口和史)
https://say-g.com/cabinet-order-ministerial-ordinance-1264
レジ袋は生活を縛られた気がするので、非常に拘束力を強く感じますが、ただの行政事務を円滑にするための一片の「命令」にすぎなかったのです。
とうぜん、法律ではないので、罰則もありません。
小泉ジュニアは、ずいぶんとお手軽なものを使ったものです。

やるにしても常識的、かつ伝統的な議員法案の手続きを踏んでやればよかったのです。
まずは自民党の心臓部である専門部会にかけて、河野氏風に言えば「ギャギャー」やってもんでもらい、その結論を政調会長に決済をもらって晴れて幹事長から政府に政府に提案されます。
今は、この党の法案の関所には政策担当責任者の高市さんが座っていますから、大変ですよ。
彼女の趣味は政策立案ですからね。
ところが小泉ジュニアときたら、安直な「省令」を使ってこの法案の険しい山登りを省いてしまいました。
しっかりした法律ではなくただの命令ですから、インスタントに出来る代わりに、次の大臣がこれは評判悪いから止めようと考えれば、これまた逆もまた真なりで、国会にかける必要がありませんので、簡単に元に戻せてしまいます。

このレジ袋有料化は、大臣就任の時にNHKに抱負を問われた小泉ジュニアが、鼻の穴を膨らませて(未確認)発表したのが始まりでした。
もちろん、ジュニア自身が「これで環境問題に関心がもてただろう」なんて言っているように、実ほとんど環境改善に寄与しない廃プラ対策でした。
この現実にはなんの役にも立たないで、実害がある政策としては火力発電所の輸出規制もあります。
レジ袋はさんざんな評判で、今になってオレが決めたんじゃないと言い出しているそうですが、石炭火力発電所輸出規制のほうは手柄だと勘違いしているようで、まるで困った君です。

「幹部職員へのあいさつで小泉氏は、自身が働き掛けて実現した石炭火力発電の輸出政策見直しなどを挙げ、「開かないと思ったドアが開いた。越えられないと思った壁を越えられた」と強調。「これからも山口新大臣の下で闘いは続く」と職員らを鼓舞した」(時事10月5日)
なにが「開かない扉を開いた」ですか。開けてはいけない扉を開いておいて。
私はいい歳をした大人が、こういうナルシズムに浸っているのが大嫌いです。
こういう現実の改善には無関係で、むしろ足を引っ張っているのにご当人だけは世界の進歩の先駆けとなっているんだ、みたいな気分は、高校生くらいで終りにしていただきたいものです。
この人の政治スタイルは、政治家というより運動家に近いのです。
問題提起できれば、国民に実害が生じてもいい、むしろその痛みで覚醒するだろうなんて思うのは、運動家特有の独善的なものですから。
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資源エネルギー庁HP
この火力発電所の輸出規制は、ジュニアがやった2大愚策でした。
上図をみていただければわかるように、同じ石炭火力発電といってもインドや米中のそれと比較するとCO2排出量が4割も少ないので、日本製火力発電所を輸出することで世界のCO2排出量の大幅削減に貢献できます。
じゃんじゃん輸出することが、日本のCO2削減への貢献なのです。
しかも日本は化石燃料依存と言われながらも、炭素排出の少ないLNG火力(グラフ右端)の比重を高め、新型の低炭素型に置き換えながら、従来型の旧式石炭火力を削減し、新型火力発電にシフトし続けています。
それを頭から火力発電を悪玉と決めつけて、輸出を規制しようというのですから、若殿ご乱心です。
その上にこの人は父親譲りの原発ゼロですから、手がつけられない。
火力大幅削減、再エネ100%、原子力はゼロ、これが河野氏との共通政策ですから、どこかの過激な環境団体のようです。
ジュニアの脳みその構造はシロかクロかの二分法のようで、火力、原子力、プラスチックと名前がついただけで、激しいアレルギーを起こして思考停止してしまうようです。
そもそも世界のCO2の3割は中国ですから、中国の搬出抑制がないかぎりCO2は削減不可能で、中国をどうかしないと世界のCO2は少しも減らないのです。
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杉山大志氏による
上図縦軸はCO2等の年間排出量で、単位は億トンです。

今後5年の中国の増加量は、日本の年間排出量に匹敵しますから、日本に貢献できる幅は自ずと明らかなのですが。


話をレジ袋に戻しましょう。
レジ袋も似たようなもので、ジュニアはこれを「海洋プラスチックの削減のためだ」と有料化の理由を言っていました。
たしかに世界の環境運動のトレンドとなっています。
環境運動家はこう述べています。
「欧州などのレジ袋規制の主な原動力となってきたのが、海洋環境でのプラスチック量の削減だ。欧州委員会がレジ袋削減策の提案で示したメモにはこう書かれている。「北海に生息する鳥類の94%の胃袋にプラスチックが入っている。レジ袋についてはアオウミガメやアカウミガメ、オサガメ、クロアシアホウドリ、ネズミイルカなどいくつかのの海洋性生物の絶滅危惧種の胃袋で見つかった」、また全体で、「少なくとも267種が絡まったり、飲み込んだりして海洋ゴミで傷ついていたことがわかっている」(イーズ未来共創フォーラム)
https://www.es-inc.jp/graphs/2014/grh_id005307.html
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イーズ未来共創フォーラム

つまりレジ袋を有料化するのは海洋プラスチックを削減するためだ、ということのようです。

ここで運動家たちは海鳥の94%がプラスチックを胃袋に入れているとか、ウミガメの例などを上げています。
ちなみに14年間の漂着個体調査において、プラゴミがで死んだウミガメは発見されていないそうです。
飲みこんでも排泄されてしまうので、ウミガメが絶滅危惧種であることとは無関係です。
詳細な調査を見ねばわかりませんが、プロパガンダのような気がします。
では、日本ではどうなのでしょうか?
この「海洋プラスチック削減」については、環境省が今年まとめた「プラスチック資源循環戦略」という文書があります。
https://www.env.go.jp/press/files/jp/111746.pdf

基本原則として、「3R+Renewable (持続可能な資源)」とあり、「リデュース(削減)」、「リユース(再利用)」、「リサイクル」があるそうです。
このリデュースの項に入っているのが「ワンウェイプラスチックの使用削減(レジ袋有料化義務化等の「価値づけ」)です。
この「価値づけ」という言い方は、いかにも苦しい官僚的言い回しで、つまりは啓発にすぎません。
目的はレジ袋削減することで、国民にプラスチックゴミを削減するという啓発価値を与えられるからやるのだ、と自分で言ってしまっています。
実はジュニアもこのことを知っています。
というのは、海洋プラスチックについての調査は、自分の管轄の環境省がおこなったデータが存在するからです。
この実態調査は毎年なされていて、ジュニアが政策決定した時にも前年度のものがあったはずなのに、読まなかったのでしょうか。
令和元年度海洋ごみ調査の結果について
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レジ袋有料化の効果 hashtag on Twitter

●環境省 海洋プラゴミ(総量は2~6万トン)中に占めるプラスチックの種類
・漁網・ロープ・・・41.8%
・ブイ          ・・・10.7%
・飲料用ボトル・・・7.3%
・カトラリー(ワンウェイのプラ製フォーク・スプーン・ストロー類)」、レジ袋・・・0.5%と0.4%

プラゴミと一括りにするからわかりにくくなるだけで、海洋におけるプラゴミを分類すれば、圧倒的に多いのは漁業関係の漁網・ロープ、ブイなどで、レジ袋などほとんど無視できるものでしかないことがおわかりでしょう。

しかも北海道から沖縄県にわたる19都府県の海岸で確認されたプラスチックゴミ総計13821個中文字が確認できた廃ポリタンクは7割強(10,038個)。
そのうち、韓国語標記のものが7,989個、中国語表記のものが549個でした。
仮に文字が確認できない廃棄物すべてが日本が捨てたものだとしても、85%は中韓が捨てたものなのです。

ですから、本気で海洋プラゴミ対策をやりたいなら、枝葉末節のレジ袋有料化などをしても無駄で、水産庁から厳しい取り締まりを出すしかないのです。
そして中韓にも、同じような海洋プラゴミ対策を迫ることです。
それをしないで、一番やりやすいところからするから国民に不満が溜まるのです。

では、リユースの実態はどうでしょうか。これも調査されています。
2019年度、リデュース率24.8%、リサイクル率85.8%に ―PETボトルリサイクル推進協議会

●日本のプラスチックの利用率実態調査
日本の廃プラ総量は899万トン(プラスチック資源循環利用協会2016年)中
・2019年廃プラスチック総排出量・・・850万t
・有効利用率                         ・・・85%

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プラスチック資源循環利用協会

利用協会はこのように述べています。

「プラスチックを使うことはややもすれば環境に悪いものとみられがちですが、上記のとおり廃プラスチックの有効利用により環境負荷削減に多大な貢献しているということをおわかりいただけるのではないでしょうか」(HP前掲)

ちなみに世界のプラスチックは

・日本のプラスチック包装廃棄物有効利用率・・・84.2%
・世界全体平均                                  ・・・14%

その結果がこの全世界で数百万トンにものぼる海洋プラ廃棄物の漂流ということになったのです。
このように日本は超がつくようなプラゴミリサイクル優等生なのに、その日本で海洋プラゴミの0.5%に過ぎないレジ袋を有料化する意味が私にはさっぱり理解できません。

私は何度も書いてきていますが、為政者はその政策決定に当たってイエスノーの二分法ではなく、その政策をすることによるベネフィット(利益)とリスクを比較衡量して決定して欲しいと言ってきました。
このレジ袋についていえば、ベネフィットは限りなくゼロです。
海洋ゴミの割合は、無視し得るノイズに等しい0.5%ですから、削減の現実的利益は皆無です。
あえて言えば、レジ袋を使い捨てにすることに国民が意識を向け始めた「価値づけ」くらいなものです。
しかしそれすら、プラゴミのリサイクル回収を徹底する意識を持つことのほうがよほど意味があるはずです。
そんなにレジ袋にこだわりたいのなら、プラスチックからバイオマス素材に変えていくなど環境負荷を低減できる方法はいくらでもあったはずですが、対案を吹っ飛ばしていきなり有料化ですから、国民が腹を立てるのです。

一方、リスク(デメリット)といえばうんざりするほどあります。
スーパーのエコバックはそうとう定着してきましたが、コンビニで弁当ひとつ買うのにエコバックをブラ下げて入る人はいないでしょう。
しかも弁当用のレシ袋(茶色のもの)はよくできていて、底にマチがついていて安定する仕掛けなっています。
あれを迂闊にエコパックに突っ込むと、弁当が縦になってチャンプルーと化します。私、やりました。
またある報道では、万引きが4割も増えたというスーパーの声もあるようです。
またコロナ禍の中で、同じものを使い続けるエコバックのほうが、よほど危険なのではないかという疑問も出てきました。

特にコンビニをよく使う若年層のレジ袋有料化に対する不満は極めて強く、かつて青年層から新しいヒーローと目されていたジュニアの評判は、見るも無残にボロボロです。
冗談半分でレジ袋有料化の見直しを公約に掲げるだけで、次の総選挙は勝ったも同然といわれるほど菅内閣の不評政策でした。

ですから悪いことはいいません、即刻こんな愚劣な「省令」はお止めなさい。

 

 

2021年10月10日 (日)

日曜写真館 山頭火と歩く朝焼けの湖畔

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大蜘蛛しづかに網張れり朝焼の中 種田山頭火

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朝焼ほのか藪ひたす水のあふれ落つ 種田山頭火

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朝焼夕焼食べるものがない 種田山頭火

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食べるものもなくなつた今日の朝焼 種田山頭火

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朝焼のうつくしさおわかれする 種田山頭火

 

 

 

 

 

2021年10月 9日 (土)

そして中国、核兵器の爆買いへと走る

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中国がなぜ対外膨張に走ったかを考えるシリーズの最終回となります。
私は「戦狼」と化した中国の原因が農業の破綻にあるのではないか、という仮説を立てました。
中国共産党は、国を背負う農業の主体である独立自営農民を作ろうとせず、集団化に走り、農民に土地を与えず、奪うだけの収奪農法を彼らに教え込みました。
その結果が今吹き出しています。過剰な農薬と化学肥料で痛めつけられた土、落ちる生産量。
そして流亡する「農民」たち。
彼らは吹き寄せられて都市に集まり、わが国人口の倍以上の「民工」という名の棄民となりました。

国民を養うはずの農業が破綻した結果、中国は恒常的な食糧不足に陥り、輸入食糧とエネルギー輸入に命の綱を求めるようになります。
それが海外に植民地を求める一帯一路であり、爆買いの真の姿です。
私は繰り返しそれは強さではなく、彼らの構造的「弱さ」の現れだと言ってきました。
そして最大の「弱さ」とは、こけ脅かしの空母であり、核兵器なのです。

さて今回は、もうひとつの爆買いを見ることにします。。
それは核兵器です。
いや、むしろ軍備全般といってもいいかもしれませんが、象徴的なのは「核」です。

中国の核武装が、他の常任理事国、別名「核クラブ」と本質的に異なるのは、いかなる軍縮条約にも加わらない無制限な核保有国だということです。
中国は世界で唯一いかなる核軍縮条約にも参加せずに、核軍拡を続けた国なのです。
世界の核保有国は、最大手の米露などは核軍縮条約で保有数を厳しく制限されています。
しかしこの核軍縮の枠組みに入ることを再三に渡って国際社会から要請されながら、中国は一貫して核軍縮に加わることを拒み続けています。

「複数のホワイトハウス当局者がCNNに語ったところによると、政権内部では新STARTの失効後、中ロと「すべての兵器、弾頭、ミサイル」を対象とした新協定を結ぶ案が検討されている。
トランプ氏は3日、すでにプーチン・ロシア大統領や中国政府と3カ国協定について協議したと述べ、「中国も参加を強く望んでいる」「実は貿易交渉の場でもその話になった」と主張していた。
しかし中国外務省の報道官は6日の定例会見で、「中国の軍縮問題をどの国が取り上げることにも反対する。3カ国間の核軍縮協定に向けたいかなる交渉にも参加しない」と明言。世界最大の核保有国である米ロの軍縮が先決だと強調した」
(CNN2019年6月7日)

核兵器禁止条約を進めるNGOが日本政府に締結しないのはおかしいと難癖をつけてきましたが、本気で彼らが「核なき世界」を作りたいならば、抗議行動は北京でするべきです。
なぜなら世界の核大国で唯一核軍縮には目もくれず、核の爆買いに走っているのはこの国だけなのですから。

一切の核軍縮条約に縛られていないため中国はやりたい放題です。
つい数カ月前にも新疆ウィグル自治区で、新たな核発射施設が110基も建造されていることが発見されました。

「香港(CNN) 中国が新疆ウイグル自治区の砂漠地帯に新たな核ミサイルの格納施設の建設を進めているとの報告書が発表された。
米シンクタンク、全米科学者連盟(FAS)が26日、衛星画像に基づいた報告書を出し、最終的にはミサイルの地下格納庫110基が建設されるとの見方を示した。
今月初めには米ジェームズ・マーティン不拡散研究センターの研究者らが、中国西部の甘粛省でミサイル格納庫120基の建設が進んでいるとの見解を示していた。
FASによると、新たな施設は甘粛省の現場から北西へ約380キロ離れた新疆ウイグル自治区東部のハミ市近郊に位置している。格納庫は800平方キロあまりの広さに分散し、それぞれ約3キロずつ間を置いて建設されている。
FASの報告書は、2カ所の施設を合わせると、中国の核軍拡としては過去最大の規模になると指摘している。
中国がこれまで運用していた地下格納庫は、液体燃料式の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「DF―5」用の20基にとどまっていた。FASによれば、新たに建設される格納庫の数はその10倍を超え、固体燃料式の新型ICBM「DF―41」に使われる可能性がある。
中国は長年、「最小限の抑止力」を基本とした核戦略を取ってきた。しかし近年は核弾頭の保有数が増え、こうしたミサイル施設の建設が急ピッチで進んでいることから、同戦略が維持されているのかどうかを疑問視する意見も出ている」(CNN 2021年7月29日) 

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衛星画像に写し出された施設は建設中のミサイル施設と見られる。 CNN

今まで液体燃料を長時間かけて注入していた方式から、固体燃料で即時に発射できる新型に切り換えたようです。
それにしても、この発射基地に選ばれたウィグル族にとってはたまったもんじゃないわけで、石油資源は根こそぎ持っていかれ、核実験場としては半世紀前から使われ続け、今や核ミサイル基地を増殖させられています。
中国からすればこれほど戦略的に重要地域だから、ウィグル族は強制収容所に隔離してしまい、タリバンとも手打ちをした、ということです。

さて、中国の核の爆買いについて、米国防総省はこのように述べています。

「今後10年間で中国の核弾頭の備蓄(現時点では200個超と推定)は、中国の核戦力の拡大、近代化に伴い、少なくとも2倍になると予測される」
「中国には「約100発のICBMが存在」し、「ICBM用の核弾頭は今後5年で約200個になる」
(米国防省『中国の軍事力2020』)

上図左下から画面右・北東にかけて斜めに濃い青色で伸びているのが、沖縄トラフです。 
沖縄トラフは深さが2200mもあって、大陸周辺の浅瀬だけしか知らない中国海軍にとって涎ダダ漏れのポイントです。
一方、
中国大陸周辺は、白っぽく表示されていて水深100メートル以内の浅い海で、これが中国の軍事的ウィークポイントです。
戦略原潜は深く潜れないためにすぐに探知され、有事には米海軍が大陸沿岸に沿って機雷を大量に敷設するでしょうから、あっというまに海上交易路が封鎖されてしまいます。
です
から、中国は是が非でも、水深2000~4000mの南シナ海と水深2000m以上の宮古島西方の海を確保したいのです。

そしてもう一点。忘れられかかっているのがINF条約(中距離核戦力全廃条約)です。
これは米露の保有する中距離核ミサイルを全廃させた条約でしたが、
一貫してINF条約の蚊帳の外の国がありました。
それが中国です。
トランプはロシアの違約を理由に脱退しましたが、真の理由はINF条約に拘束されていると、中国の中距離弾道ミサイルに対応できないためです。
中国はずらりと日本専用の核ミサイルを配備しています。その保有数、種類、共に豊富です。
中華人民共和国の大量破壊兵器 - Wikipedia

 

21東風21http://japanese.china.org.cn/politics/txt/2010-09/...

日本専用中距離弾道ミサイルの範囲を示した図が下です。

400pxpla_ballistic_missiles_rangehttps://ja.wikipedia.org/wiki/DF-21_(%E3%83%9F%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%AB)

オバマ米前政権で核・ミサイル防衛担当を務めたブラッド・ロバーツ元国防次官補代理はこう述べています。

北朝鮮は徐々にだが、着実に弾道ミサイル能力を進展させている。中国は大陸間弾道ミサイルの部隊は小規模だが、以前は保有していない(戦略爆撃機や大陸間・潜水艦発射弾道ミサイルなどの)戦略ミサイル攻撃能力を持ち、近代化した指揮統制や早期警戒システムを持つ。日本や在日米軍、海上の米艦艇を攻撃できる地上配備型の短・中距離弾道ミサイルを中国は約1900発保有しているが、米国の保有数はゼロだ」
(朝日2020年3月23日)
「日本攻撃可のミサイル、中国に2千発」 米安保専門家 [核といのちを考える]:朝日新聞デジタル (asahi.com)

また弾道ミサイルの発射機について英国シンクタンクは増加の一途をたどっており、この20年間で2.7倍に膨れ上がったと報告しています。

「中国はミサイル戦力の増強を進める。日本の防衛省によると地上配備型の弾道ミサイル発射機数は2020年に533機で、01年から2.7倍に増えた。中国は発射機数を公表しておらず、英シンクタンクの報告書を基に分析した数字だ。
533機のうち米本土に届き得る大陸間弾道ミサイル(ICBM、射程5500キロメートル以上)と米軍グアム基地が射程に入る中距離ミサイル(同3000~5500キロメートル未満)が3割を占める」(日経2021年6月14日 )
中国ミサイル発射機数、20年で2.7倍 中距離が急増: 日本経済新聞 (nikkei.com)

2021年10月 8日 (金)

中国、エネルギーも爆買い驀進中

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いやー、ひさしぶりに大きいのが来ましたね。
当地は棚からモノが落下する程度でしたが、長いのがイヤでした。
ひさしぶりに首都に影響が出たので心配しています。
小池さん3.11クラスが来たらこんなもんじゃないからね。頼みますよ。

さて1週間かけて中国爆買いを追ってきました。
まぁ、よくもこれだけあらゆるものを爆買いする国だと脱力します。
私らからすれば、我が国の製品を景気よく買ってくれ、観光に来てくれるぶんには、爆買いだろうとなんだろうとかまわないのです。
ただし、それが国際市場価格を激しくゆがめ、買い占めに走り、その結果私たちの生活を脅かさねば、です。

今、天然ガスが世界的な高騰を見せています。

「液化天然ガス(LNG)をはじめとした世界の天然ガス価格が高騰傾向にあり、大口需要家である日本の電力会社などが警戒を強めている。特に中国では、今年1~6月期のLNG輸入量が前年同期比で3割以上多い3978万トンとなり日本の輸入量を抜いて需給引き締めの大きな要因になっている。今夏の日本向けのLNG価格は5年前と比べ約2倍に膨れ上がった。この傾向が長引けば、企業や家庭向けの国内電気料金の上昇にもつながり、新型コロナウイルス禍で傷ついた日本経済回復の足かせとなる可能性もある。
石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によると、7月の日本着スポット(随時契約)LNG価格(速報値)は、100万Btu(英国熱量単位)当たり12・2ドルで、2017年からの過去5年の7月の平均値が同6・1ドルだったことを考えると、約2倍に相当。この高値水準は経済産業省が調査を開始した14年以来という」(産経2021年8月21日)
【経済インサイド】中国爆買いでLNG価格高騰 この夏の日本向け例年の2倍に - 産経ニュース (sankei.com)

天然ガス(LNG)が2倍とはただごとではありません。まことに迷惑な話です。
ただし、この中国の爆買いは単発で市場取引するスポット市場のために、影響は限定的です。
日本はLNGの調達の8割以上を数年単位で長期契約で固定しているために、電力料金が跳ね上がったりするような直接の影響は少ないと見られています。
これはシカゴ市場を荒らされている穀物とは違うところで、大豆トウモロコシなどの穀物は既に中国の札束で頬をはたくような買い占めに屈してしまいました。
その結果、飼料用穀物は高値で貼りついた末で、落ちる気配もありません。

中国がこのLNGの爆買いをし始めたのには理由があります。
それはオーストラリアいじめで豪州産石炭の輸入制限をかけたところが、哀れエネルギー不足で大停電という大笑いな結果に陥ったからです。
人を呪わば穴ふたつ、天に唾するとはこのことです。

元々中国のエネルギーは、今も石炭の依存が半分を占めていました。
中国のエネルギー源比率を見てみましょう。

●中国エネルギー源比率((2019年現在)
・石炭・・・57.7%
・石油・・・18.9%
・ガス・・・8.1%
・その他・・15.3%
●発電ベース比率
・石炭による火力発電・・・62.1%
・水力発電              ・・・17.7%
・風力                    ・・・5.5%
・原子力                  ・・・4.7%
・太陽光                  ・・・3%

このように石炭への依存度がきわめて高いのが特徴です。
日本のエネルギー源配分と比較してみるとそれがよくわかります。
見にくくて恐縮ですが、下図はエネルギー源の比率を比較したものです。

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世界のエネルギー事情 [関西電力]        クリックすると大きくなります。下のグラフも同じです。

中国は上から2番目で、灰色の石炭が6割に達して圧倒的なことがわかります。
日本は上から6番目で、石油が40%を占め、次いでLNGが22%、石炭が26%、原子力が2%です。
ちなみにカン首相が原発停止の「お願い」をする前までは、2010年には石油が40.3%、石炭22.7%、原子力11.7%、LNG18.2%という、リスク分散されたエネルギー比率でしたが、今や原発が止められてしまったために2016年には石油が30.7%、LNG23.8%、石炭25.4%゛原子力0.8%という化石燃料依存型になってしてしまいました。

原子力怖いで石油を増やし、さらにCO2削減で今度はLNGにシフトし、いまや総裁候補が100%再エネだとまで言うのですから、翻弄される電力会社はたまったもんじゃありません(ため息)。
エネルギーは国の基幹インフラですから軽々と変更してはいけないのですが、このような政治の空気に支配され続けています。 

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2018―日本が抱えているエネルギー問題

中国に話を戻します。
中国は近年、石油・ガスの採鉱と開発に多くの資金を投入し、新規の確認埋蔵量が増加し、石油の生産は安定して増え、ガスの生産は増加していると伝えられていました。
ところが、中国産業のエネルギー「爆食」は、そんな努力を軽々と上回ってしまいました。

●中国の原油輸入依存率
・2016年・・・68%
・2019年・・・72%
●中国のLNGの輸入依存率
・2016年・・・35%
・2019年・・・45%

このように今や原油の7割、LNGk 半分近くは輸入に依存しているわけです。

続いて国際比較してみます。
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010年時点における、世界のエネルギー消費量の多い国を上から10カ国を並べてみましょう。

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世界のエネルギー消費量上位10カ国 堀井伸浩氏による

中国と米国が圧倒的な消費量で、米中のエネルギー消費だけで世界全体の4割を消費しています。

「折れ線で示したのは2000年時点での消費量の合計であるが、棒グラフと比較してみることで、中国の2000年代のエネルギー消費量の急増ぶりが際立っていることが理解できる。中国はこの10年間で、ド イツ以下、2010年時点の世界の第5位から第10位の国々のエネルギー消費量を足し合わせた量とほぼ匹敵するエネルギーの消費を増加させることとなったのである。中国はまさに、この2010年にアメリカを抜いて世界最大のエネルギー消費国となった」
(堀井伸浩『2000年代に進んだ中国エネルギー問題の構造変化』
産業経済論から中国のエネルギー問題の深層を照らす(その1)2000年代に進んだ中国エネルギー問題の構造変化

ちなみにわが国はインドの下で第5位です。
この10年間、先進自由主義国諸のドイツ、米国、日本、フランスなどが、いち早くエネルギー消費を抑えた産業構造に転換したのに対して、中国はエネルギー大量消費型の産業構造のまま驀進した結果、2010年には中国は米国を抜いて世界最大のエネルギー消費国となっています。

このようなエネルギー大量消費の構造を転換が遅れたために、自ずと中国のエネルギー輸入量は激増しました。
下図は中国の石油輸出入量および原油対外依存度の推移ですが、横軸の時系列を見ると、特に2000年代半ば頃から中国の石油輸入が大きく増大してきたことがわかります。

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中国の石油輸出入量および原油対外依存度の推移  同上

結果は、穀物と同様の爆買いが生じました。
中国の見境ない桁外れの石油の買い占めが、2000~2010年の10年間に起きました。

2000年から2010年にかけての期間、世界の石油貿易量の増加分の37.6%を中国一国の輸入増が占めることとなった。ちょうど中国の国有石油企業による海外進出、海 外の石油開発プロジェクトの権益獲得の動きが活発だったこともあり、中国による石油買占めが、「爆食」(桁外れの大食い)として、大いに注目を集めることとなった」(堀井前掲)

そしてこれは石油だけではなく、中国が国内に低品質炭を持っているにかかわらず石炭まで爆買いを開始しました。
下図は中国が自給できていた数少ないエネルギー現の石炭ですが、青線の輸出は2008年を最後にして純輸入に転換し、赤線の輸入が09年には6倍、10年には8倍に急増しています。
今は世界一の石炭輸入国です。

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中国石炭輸入推移 同上

近年、更に大きな変化があった。主要エネルギーである石炭についても、中国は輸入を急増させているのだ。
(上図のように)2009年に石炭の輸入量は突如急増し、2010年も引き続き増加している。2 011年には中国の石炭輸入量は1億8240万トンとなり、長年、世界最大の石炭輸入国であった日本の1億7522万トンを上回り、世界最大の石炭輸入国となった」(堀井前掲)

そして中国政府は、新たな中期政策要綱として第14次5か年計画(2021~2025年)を策定し、「エネルギー安保の強化」「ガス業界改革」「脱炭素化社会の構築」を打ち出す方針です。
ここで中国政府は、国内の石油・ガスの開発、増産を促進させ、ガス業界改革で一定の新規参入を認める自由化もすると述べています。
これは、いままで国有企業に100%握られていたエネルギー業界に競争原理を持ち込もうとするものですが、不完全に終わることは間違いありません。
あの国の規制改革を拒む勢力は、共産党幹部と完全に癒着して一体化しているからです。

また、習近平は2020年9月の国連総会で、「2030年までに二酸化炭素の排出量を減少に転じさせ、2060年までに二酸化炭素の排出量と除去量を差し引きゼロとするカーボンニュートラル達成を目指する」、と表明しています。
その結果、どこまで本気かわかりませんが、仮に習が命じたCO2輩出削減が本気なら、いっそう 石炭や石油の消費は抑制され、CO2排出量が少ないLNGへとシフトしていくことでしょう。

すると冒頭のLNGは爆買いは今年だけのスポット買いに止まらず、この先定着し国際市場価格を高値に張り付けてしまう、と見たほうがいいようです。
既にこの傾向は原油市場にも影響を及ぼしています。
原油価格の上昇が止まりません。
WTI(ウェスト・テキサス・インターミディエイト)11月先物は1バレルがとうとう79ドルに上昇しました。これは去年同時期の倍近い価格で、国内の小売りガソリン価格がリッター160円を超えています。
ブレント原油12月先物は同82ドルと、価格は9月20日から10月5日までに1割上がり、昨年11月初めと比べるとこちらも倍増しています。

価格が上がり続けると需要が減るので、OPEC(石油輸出国機構)および協力関係にあるロシアやメキシコは、生産を増やして価格を抑制したいところですが、サウジアラビアなどOPEC13か国と、ロシアやメキシコなど10か国からなるカルテル「OPEC+」は7月18日、23か国を合わせた日産量を毎月40万バレル、来年4月まで増産することで合意した。当時すでに需要は回復しつつありました。

世界はこれで石油不足が一服するかと思ったところ、ロシアがヨーロッパへのLNG供給を絞ったために価格が跳ね上がり、そこに中国が厳冬に備えるためと称して石炭・石油・LNGとエネルギーと名がつくものすべてを爆買いしたために、原油価格上昇に歯止めがかからなくなってしまいました。

かくして中国のエネルギー爆買いによる混乱で、世界のエネルギー資源も逼迫することになってしまいました。

 

 

2021年10月 7日 (木)

崩壊する中国農業その4 止まらない海外農地の爆買い

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中国はEUに加盟することはできません。
それは現代国家として備えていなければならない国家要件を、すべて満たしていないからです。

EUは1991年12月にソ連圏が崩壊したことにともなって多数の国家群が生まれたことに対応して、東欧及びソ連邦における新国家の承認の指針に関する宣言」を作りました。
この「EU宣言」は、現代国家が満たすべき条件を示しています。

①法の支配、民主主義、人権に関して国連憲章及びヘルシンキ最終議定書等を尊重すること。
人種的民族的グループ及び少数民族の権利を保障すること。
既存の国境の不可侵を尊重すること。
関連軍備規制約束を受け入れること。
国家承認及び地域的紛争に関する全ての問題を合意によって解決すること。

つまり、人権、少数民族の権利の尊重、国境の不可侵、軍備縮小、紛争の平和的解決などをEUは現代の国家要件として要求しているわけです。
中国は①から⑤まの全てに該当しません。
人権などないに等しく、普通選挙すらただの一回も開かれたことがない権威主義体制の国家であり、少数民族は強制収容所に送られ、南シナ海人工島や尖閣のように侵犯行為を公然と行い、軍縮はおろか世界最大の軍拡国にして、国際司法裁判所の裁定ですら「紙くず」と言って憚らない国、それが中国です。
どうしてこのような国家となったのか、先週から農業と食糧の視点からみています。

さてそのEUの中心国であるフランスのマクロンは、2018年2月22日、中国企業を念頭に、外国企業による農地の売買を規制する方針を発表しました。

「【2月23日 AFP】フランスで、中国企業が地価の安さと地方部の困窮に乗じて農地買収を進めているという懸念が広がっており、これを受けてエマニュエル・マクロンEmmanuel Macron)大統領は22日、海外投資家による農場買収の阻止につながる措置を講じる構えを示した。
 マクロン大統領は、パリの大統領府を訪れた若い農業従事者らを前に、「フランスの農地はわが国の主権が関わる戦略的な投資だと私は考えている。よって購入の目的も把握しないまま、何百ヘクタールもの土地が外資によって買い上げられるのを許すわけにはいかない」と述べた。
 マクロン大統領が念頭に置いているのは、中国ファンドが昨年、仏中部の穀物産地アリエ県で900ヘクタールの土地を購入、さらに、2016年にアンドル県で1700ヘクタールが買収されたという報道だ。
マクロン大統領は農業従事者らに対し、こういった土地買収を阻止するため「規制予防策を確実に講じ、皆さんと協働していく」と述べた。 海外からの農地買収をめぐっては、オーストラリアが今月初めに新たな規制を発表。また中国資本の海外進出については、過去にアフリカやカナダからも懸念する声が上がっている」(AFP
https://www.afpbb.com/articles/-/3163837

同じような中国資本の土地買い占め規制はオーストラリアでもでされていますが、わが国ではその実態調査する法案が通過したばかりの段階です。
既に日本の場合、北海道が狙い撃ちされ、既に38市町村で累計2725haが中国資本の手に渡っています。

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blog.goo.ne.jp

「実際、どのくらい買われているのか。北海道の場合、北海道庁によると、2018年に外国資本(海外に所在する企業・個人)に買収された森林は計21件、108ha。東京ドーム約23個分で、1位は中国(香港、マカオを含む)で13件、約91ha(東京ドーム約20個分)。日本国内にある企業で、外国法人の子会社など資本の50パーセント以上を外国資本が占める企業(外資系企業)による買収は計7件、58ha。東京ドーム約13個分で、1位はやはり中国の2件、3.5ha(同1個分)。(略)
我が国では、一度、売買契約が成立し所有権が移動すると、どのような開発が行われ、どのように利用されても、異議を唱えることはできない。外国資本は目的を問わず自由に不動産を買収でき、自由に利用できる法制度になっているからだ。
こうした無防備な制度下で、海外からの買収は増え続け、北海道庁が統計を取り始めた01年から18年までに38市町村で累計2725ha(同約580個分)に膨れ上がった。だが、この数字は水源地にからむ森林に限られるため、実際に買収された広さは分からない」
(宮本雅史2019年12月)
https://facta.co.jp/article/201912021.html

2018年5月、中国ナンバー2の李克強首相が来日し、過密の中遠方の北海道を訪問しています。
この李の動きについて、石平氏はこのように述べています。

「李首相が北海道に行ったということは、中国の北海道進出が本格的に動き出したことを示し、滞在中、各方面に今後の方針を指示したはずだ。日本政府が北海道訪問を歓迎したことで、道進出について日本政府のお墨付きを得たと受け止められても仕方がない。今のままで行くと日本は10年から15年後に侵食されてしまう恐れがある」(FACTA2019年12月オンライン)

日本の場合、世界でも珍しい外国人の土地取得に丸腰の国で、なんの規制もなく外国人が取得したことを申告する必要もありません。
農地に限らず、中国企業による土地買収に懸念が出て当然です。
宅地の場合、海外企業の投機が続けば、都市部での不動産価格がつり上がりますし、水源地帯など多くの人々の生活インフラに直接にかかわる土地となればなおさらです。

さらに、土地の使用方法や最終処分権まで外国企業に委ねてしまえることから、実質的に外国の租界と化す恐れがあります。
まして自衛隊基地や原発周辺といった土地に、外国の工作拠点を作られた場合、極めて危険なことはいうまでもありません。
ところが日本での農地買収について規制法がないばかりか、その体系的なデータすらなく、現状把握から始めねばなりませんでした。
先日出来た「土地利用規制法」はその実態調査のための法律であって
、土地取得を制限することはできません。

さて、この中国の貪欲な土地買い占めは、今から10年ほど前から世界的に始まっています。

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 世界の土地囲う中国 農業・鉱業、10年で600万ヘクタール: 日本経済新聞 (nikkei.com

その勢いは世界一であり、この10年間で実に600万ヘクタールを買い占め、しかも日本のように調査していない国がありますから、氷山の一角とみたほうがよいでしょう。
中国はこの10年間のうちに、食糧と同時に外国の土地爆買いもしていたことになります。

中国は当初宅地建物や工場建設などに伴う不動産物件を買っていましたが、2016年頃から中国政府の資本流出に対して規制がかかったために、一転して農業用地の取得に向かいました。
中国政府は企業による海外での不動産投資に「禁止」「抑制」「推奨」の3カテゴリーを設けており、「抑制」にはホテルや住宅開発、「推奨」には農業やインフラ整備が入っています。
ちなみに、中国政府から「抑制」がかかる2016年までに海外不動産の取得ぶりはすさまじく、たとえばロンドン中心部の商業地のうち25パーセントは中国人が買収しています。
日本でも高級住宅地、タワーマンションなどが、軒並み中国人の手に渡ったのもこの時期です。

このような外国不動産の買い占めは、土地バブルを背景とした投機的マネーゲームでしたが、2016年頃からの海外土地爆買いの目的は、同じ土地爆買いでも農業用地が「推奨」に入ると買い占めの質が変化します。

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世界に広がる土地買収【後編】海外の土地を最も買い集めている国はどこか―「土地収奪」の主役たち(六辻彰二)

上図でもわかるように、中国の土地買い占めで特徴的なのは食糧生産用土地の取得が盛んなことです。
つまりマネーゲームで転売益を儲けようとしているのではなく、実際の農業生産をするための土地を爆買いしているのです。
この転換が始まったのが2016年頃からなのは暗示的です。
この2016年頃から中国の深刻な食糧不足は明瞭になり、食糧の爆買いを開始しているので、この土地の爆外時期と符号します。

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NHK

これが中国の食糧安全保障政策であることは、その購入主体が政府出資の国営企業で占められていることでわかります。
つまり中国はかつての民間企業による土地ころがし目的から、農業生産のための外国土地取得に舵を切ったのです。

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同上

農地取得の対象国は、もっとも多いのがアフリカ、ついで中南米の開発途上国が並んでいます。

「土地「輸出国」の多くがアフリカの貧困国に集中していることが分かります。なかでもコンゴ民主共和国は、世界全体での土地の売買の約8分の1を占めます。その他、南スーダン、モザンビーク、マダガスカル、エチオピアなど、アフリカのなかでも所得水準の低い国に「輸出国」が目立ちます。
その一方で、ウクライナやカンボジアなどは、件数が多いだけでなく、取り引きされた土地が国土面積の4パーセント以上を占める点で特徴的です。」
(六辻彰二『世界に拡がる土地買収』) 

その結果、例えばカンボジアでは国土全体の4%、オーストラリアでは耕作可能面積の2.5%を中国資本が所有しているといわれています。
中国はさまざまなルートでオーストラリアに「静かなる侵略」(サイレントインベージョン)をかけてきましたが、そのひとつの側面は食糧の確保があったのです。
その中国資本の土地取得があまりにも急激だったために、その危険性に気がついたオーストラリア政府は、「投資目的の宅地買収が活発化すれば、住宅価格を押し上げることになりかねない」、「自国の食糧供給を脅かしかねない」といった懸念から、外国人の土地取得規制を開始しました。

オーストラリアの場合、2017年に外国人の宅地購入(その87パーセントは中国人)にかかる税金が、最大で購入価格の8パーセントに引き上げられ、それに続いて2018年2月にはエネルギーとともに農業関連の土地購入に関する規制が強化され、農地を転売する場合にはオーストラリア人に優先的に販売されることなどが定められました」(六辻前掲)

このように中国の穀物の爆買いと土地爆買いは実は表裏一体のもので、中国農業の構造的な欠陥が原因です。
言い換えれば、中国はその「弱さ」故に海外に進出せざるをえないのです。
そして諸外国はその危険性に気がつき手を打ってきました。

しかしわが国はやっと重要施設周辺の調査に着手できる根拠法ができたばかりにすぎません。
ここでも私権の制限という憲法の制約が影を落としています。
よくメディアで中国の土地取得は投機目的だから安心しろという者がいますし、また自衛隊基地などの安全保障上の問題としてとらえる向きもあります。
しかし中国の土地爆買いの目的は、2016年頃からその目的を海外の食糧生産基地作りにシフトしています。
一帯一路もこの文脈で眺めると別の顔が浮かんできます。
彼らがアジア・アフリカの発展途上国から取り上げようとしているのは、港や空港だけではなく、食糧生産するための土地なのです。

中国は、国内の農業・畜産生産が限界に達していることを自覚しています。
原因は前回まで触れてきたような環境破壊や農民の流出などですが、もはや異業種参入でなんとかなる問題ではないところまで来ています。
これまでの強権的収奪政策によって、いまや中国農業は国家の重大なアキレス腱になってしまっています。
その対策として彼らは、単に国際市場から穀物や食肉を爆買いするだけにとどまらず、世界各所に穀物と畜産の生産基地を展開しようとしています。
まるでそれはかつてのナチスの「東方生存圏」( Lebensraum im Osten ) 構想のようです。
そしてこれは私たちにとっては、サイレントインベージョンそのものなのです。

 

2021年10月 6日 (水)

崩壊する中国農業その3 人も悲惨な中国

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中国農業は、先日来述べてきたように、過剰な化学肥料と農薬への依存が行なわれきていました。
典型的な収奪型農業です。
同じ農民といっても、私たち日本農民の心の中には、子々孫々の土を「お借りしている」という意識がどこかにあります。
だから自分の代で荒れさせたり、売ったりすればご先祖様に申し訳がたたない、と自然に思っています。
当主が亡くなって子どもたちに分割する時も、農業を継ぐ意志のある者が土地と家屋を相続し、他の兄弟たちは遺産放棄します。
そうしないと田畑が縮小再生産していってしまうからです。
土地の境界についてはことのほか執着し、寸土を巡って血相を変えて争ったりもします。
自分の土地を愛し、わが土地こそわが城、わが血、一族の拠り所という意識があるからです。
これが私が知る日本農民です。

一方、中国には日本人が考える「農民」はいません。
そもそも革命前には土地を持たない農奴であり、共産党は農民に土地を分配すると嘘をついて政権を奪取したわけです。
この約束は反故にされ、共産党はすぐに「人民公社」という集団農場を作り、そこにすべての田畑と農民を追い込みました。
生産はおろか、子育てすら保育所で行い、飯も一緒に食べるという徹底ぶりです。

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人民公社の食堂風景。みんなニコニコ腹一杯。もちろんプロパガンダ写真です。  ウィキ

こうして農民は、農奴から一転して今度はただの農業労働者となってしまったわけで、進歩史観的に見ても途中の独立自営農民の歴史期間が欠落してしまっています。
するとどうなるのでしょうか。情けないことに、人間は働かなくなるのです。
働こうが働くまいが同じだけメシが食えるなら、働いては損という愚者が増えます。
栽培の工夫?知るか、そんなメンドーなこと。収穫物の保管?それはオレの仕事じゃないぜ。出荷時期がだいじだろうって?そんなもんは上が考えるさ、オレらは鉄の茶碗をもらったのだから腹一杯飯を喰うことだけを考えてりゃいいのさ、というわけですから、まさに愚者の天国。
そこで焦った共産党は厳しい毛沢東思想の教育をしたり、粛清をしたり、大増産計画を強行したりと尻を叩きますが、結局、無理な大躍進政策は4千万とも5千万とも言われる膨大な餓死者を出しただけで無残な失敗に終わりました。

下図はいかに毛沢東の農業集団化によって農村が打撃を受けたかを、出生率と死亡率から見たものです。Fig03_06

農村地区における出生率と死亡率の推移  青木浩治 藤川清史

「この経済的混乱を主に農村地区が被ったということを、出生率と死亡率の推移から見てみましょう。餓死者の数は、とくに安徽省と四川省で多かったそうです。大躍進期の死亡率を見ると、安徽省で平年の7倍程度、四川省で平年の5倍程度にまで、上昇しています。
一方で、母親の栄誉失調のため、子供を生むことができず、両省では出生率が大きく低下しました。正確な餓死者の数字はわからないのですが、1500~4000万人といわれています。これは当時の総人口の2.5~6.0%にもおよぶ大きさです。
ところが、大都市の上海を見ると、出生率は、傾向的な出張率低下より、やや大きな低下が見られるものの、死亡率はほとんど変化していません。ここでも都市部の住民を相対的に保護し、そのしわよせを農村部が被るという構造が見て取れます」
(青木浩治 藤川清史『大躍進運動とその悲劇』上図も同じ)
http://kccn.konan-u.ac.jp/keizai/china/03/03.html

このように「社会主義建設」を実際にやればやるほど、中国農業は破壊され、餓死者が4000万にもなってしまうことになりました。
こんなことを何十年もやったのですから、とうぜんのこととして農業はめちゃくちゃになりました。
社会主義国で農業がうまくいった国がひとつもないのは、社会主義と農業が水と油の存在だったからです。
社会主義経済は計画経済が大原則で、私的所有は禁止です。

ところがそもそも農業は集団でやるものではないのです。
農民ひとりひとりが何を、どのように、いつ作くるか決めて知恵を絞り、生育に目をこらし、どの時期に売るか悩む、安値でしか売れなければ地団駄を踏み、高値で売れれば祝杯のひとつも上げる、これが農民の自主独立の気風の源になっています。
それを中央から計画を下ろし、それを地方政府が受け、さらに集団農場に落とすなんてやっていたら、「農民」はモチベーションがなくなります。
中国はこの極端な農業の社会主義化をした結果、ズッコケるべくしてズッコケました。
日本の人口の半分くらいの人々を飢え死にさせるまでそれを続けたのですから、毛沢東という男も相当なものです。

その後に開放改革の農村土地請負法で小規模な自留地が持てたものの、今度は急成長する工業の安い労働力の供給源とされてしまいました。
中国農民は踏んだり蹴ったりです。

「社会主義を標榜している中国では、土地はすべて公有であり、私有財産として認められていない。土地の公有制は、都市部では国有だが、農村部では集団所有という形をとっている。ここでいう「集団」とは、農業生産合作社などの農村集団経済組織のことで、農民を代表して土地を所有している。
1980年代以降、改革開放が進むにつれて、農村部の基本的生産方式は、それまでの「人民公社」から「家庭請負制」に変わった。「家庭請負制」の下では、農業用地の権利が「集団」に属する「所有権」と農家に属する「使用権」に当たる「請負経営権」に分けられた(「二権分離」)。都市部の土地の使用権は住宅用地が70年間、工業用地が50年間、商業用地が40年間になっているのに対して、農業用地の請負経営権は30年間と短くなっていた」
(関志雄『
中国の経済改革・市場化に向けた中国における農村土地改革』)
RIETI - 市場化に向けた中国における農村土地改革― 「農村土地請負法」と「土地管理法」の改定を中心に ―  

これも私たち日本農民から見ると、ややっこしい。
建前は社会主義で私所有は認められていないのですが、「使用権」だけはやる、ということのようです。
国が「村民委員会」という集団組織を作らせ、そこが土地の所有権を握り、農民はそこから土地使用権の許諾を得る仕組みだそうですが、もはや日本人には理解不能です。

そこで開放改革経済となって、「所有権」を家族が請け負うのが「家庭請負制」だんたわけですが、当初、これは農民に喝采を受けました。
やっと自由にものが作れる、好きなだけ金儲けしてよいのだ、と大喜びして一時は生産意欲が急激に高まりました。
ところが、工業化と都市化が進むにつれて、その問題点も顕在化してきました。

急激な工業化は多くの安い労働力を貪欲に必要としました。
農民は農村を捨てて、よりカネになる都市へと流れ込んだのです。
ここで生まれたのが、「民工」です。

中国の農民工(農村部からの出稼ぎ労働者)の規模は2020年に2億8,560万人となり、外資企業を含めた企業経営を支える重要な働き手として中国経済の発展に大きな貢献を果たしてい」(JETRO『農民工の規模が初めて減少、高齢化も進展(中国)』)
農民工の規模が初めて減少、高齢化も進展(中国) | 地域・分析レポート - 海外ビジネス情報 - ジェトロ (jetro.go.jp)

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JETRO 国家統計局「全国農民工観測調査報告」

実に日本の人口の倍の2億8千万人が、農村から都会に働きに出たてきた「民工」となって流民となっていたわけで、さすが事物博大。
しかも、減少する人口をみると、若い世代ほど農業離れが大変な勢いで進んでいます。
下図は、2009年から2014年までの中国全産業および1次~3次までの産業別就業人口の年次別増減数を描いたものです。(典拠「中国統計年鑑」) 

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産業別就業人口の年次別増減数 高橋五郎氏による

青が全産業の毎年の増加数、赤は農業を中心とする第1次産業、緑は主に製造業の第2次産業、黒は第3次産業、そして黄色は第1次産業と2次産業を足したものです。
赤(農業)と緑(工業)が減って、黒(サービス業)が伸びたのがわかります。
一方第1次産業就業人口は、毎年1000万人以上も減っています。
このような1千万人規模の農業からの人口流出が、自然災害と無関係に起きるのは、世界史的にも珍しいものだと言われています。

農村から上海などの大都市に出稼ぎに来て底辺労働に従事している民工(農民工)は、国家人口計画生育委員会の「中国流動人口発展報告2012」によれば2011年末に中国全国の流動人口が史上最高の2億3千万人に達しており、その8割は農村戸籍を持つ者で、平均年齢は28歳です。
実にわが国の人口の2倍の人間が、職を求めて全国をさまよっていることになります。

一般に中国の農村は都市部と収入で3倍以上の大きな格差があります。
たとえば上海や蘇州の3Kの底辺労働を担う人たちは、湖南や四川など農村部出身者が大半を占めています。
これら農村部から来る外部労働者数は、蘇州市などでは地元の人口をはるかに越えているそうですからその規模がわかります。ざっと計算すると、蘇州市区は人口約538万人ですから、600万人から700万人もの大量の民工が流入していることになります。
20歳くらいの民工の平均月収は、日本円で1万円にも届きません。約600元(約8000円)ていどです。(※ただし、賃金は職種、技能によって10倍ていどの差があります)

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民工が集まる広州駅周辺、南都週刊

これが「民工」という名の流民、あるいは棄民です。
ここで流民と言ったのは言葉のアヤではなく、農民が都市部への移住などにより農業戸籍を失えば、彼らの農業用地に対する権利は消滅するからで、彼らは帰るべき故郷すら失っています。

すると彼らが残した農業用地や住宅用地は処分できないまま、荒廃してしまっています。
だったら売ればいいじゃないか、と日本人は思いますが、それもできません。
なぜなら先ほど述べたように土地は原則国家のものだからです。
だから売ってはならないし、農業用地の場合、転売も、非農業用地への転換も認められないません。

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では、都市へ移ったんだから都市住民となればいいのかといえば、中国にはなんと戸籍が2ツあって、農村(郷村)戸籍から都市(城鎮)戸籍への書き換えはほとんど不可能です。
すると農村では住居も田畑もなく、都市では無戸籍という幽霊国民が2億8千万できてしまう事になります。
その所得水準は底辺で、国家から受けられる医療保証などの社会保護も受けられません。

「中国政府が医療制度の改革を掲げる中、闇診療所は相変わらず繁盛している。
北京の街の片隅、裸電球一つの粗末な「部屋」は出稼ぎ労働者である張雪方(ジャン・シュエファン)さんからすれば「一番いい病院」である。環球時報(電子版)が伝えた。
北京市民ではない張さんは市内の公立病院でもっと安い治療も受けることができず、遠く離れた故郷の医療補助金を受け取ることもかなわない。
病気になった時には、北京に暮らす数百万人の出稼ぎ労働者同様、不衛生で無秩序な「闇診療所」に頼るしかないのだ 」
(ロイター(2013年3月27日 )

このような統計に現れてこない膨大な数の闇労働者は、コロナ禍の時にも病院に行けず、怪しげな薬を闇診療所でもらって凌いでいました。
彼らがどうなったかは誰も知りません。

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中国のドキュメンタリー映画「三姉妹―雲南の子」(王兵監督、2012年)がありますが、悲惨な農民と「民工」の実態を伝えています。
やや長いですが、これが農村の実態です。
「「三姉妹」にはあらすじらしいものはない。舞台は雲南の最貧困地域、標高3200メートルにある、ごうごうと風の吹きすさぶ約80世帯の村、洗羊塘。その村の、いわゆる「留守児童」である英英10歳、珍珍6歳、粉粉4歳の三姉妹の生活を淡々と、手持ちビデオに収めただけのフィルムである。
「留守児童」とは両親が都市・町に出稼ぎに行っている間、故郷の農村に残された子供たちで、公式の統計では5800万人(14歳以下)とされている。面倒を見てくれる祖父母や親せきが同じ村にいるとはいえ、子供たちが味わう不安と孤独は想像にかたくないだろう。保護者がいないことで、誘拐やレイプなどの犯罪の対象になったり、ぐれて犯罪に走ったり、十分に学校に通わせてもらえなかったり、親戚から虐待されたり、いじめにあったり、といろいろな問題が起きている。
その留守児童が16~18歳になると、こんどは都市・町に出稼ぎに行く。出稼ぎ者の子供がまた出稼ぎに行くので、第二代農民工、とも呼ばれる。彼らの多くが「留守児童」として幼少期に十分な家族の愛情や保護を受けていないため、どこか欠落した部分を抱えているといわれている。「留守児童問題」はこの10年、中国の大きな社会問題である。(略)
英英が祖父に連れて行かれた村の会合で、村長は共産党中央が打ち出す「農村復興」について語る。しかし、村長の言葉に、村民たちからは「何、それおいしいの?」みたいな鈍い反応しか返ってこない。
 それが農村医療保険(新型農村合作医療=新農合)の強制実施という具体的な話になると、村民に動揺が広がる。この村の多くの人は年間10元の医療保険料が払えないほど貧しい。払えなかったら?村長は、自分はクビになり、地元政府は日当100元で人を雇ってみんなから強制的に保険料を徴収するだろう、と言う。現金がなければ、家畜が没収されるかもしれない、と」(福島香織)
中国共産党に翻弄された中国農業は、このような子どもたちを無数に作ったのです。

2021年10月 5日 (火)

崩壊する中国農業その2 汚染される土と水、そして空気

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[ご連絡]
荒し対策としてコメント欄は承認制にしております。すぐに反映されませんのでご了承下さい。

私は大昔、 宇井純先生の「公害原論」の自主講座に参加していたことかあります。
まだ40歳になったばかりの宇井先生は、当時ようやく研究の端緒についたばかりの「公害」、今の言葉でいえば環境問題を専門とする日本で最初の研究者でした。
いまでこそ環境問題はカネになるようですが、当時は異端の学問でした。いや不遇なんてものじゃなく、従来の学問に楯突く奴と見なされて「永久助手」のままでした。
ことに先生は助手時代に実名で新潟水俣病を告発したために、後に国連環境計画から「グローバル500賞」を授与されるほどの業績を上げているにもかかわらず、東大でやらされているのは教授の実験の手伝いだったようです。

宇井氏は、日本ゼオンの技術者として勤務していた時に、塩化ビニール工場の製造工程で使用した水銀の廃棄に疑問をもち、水俣病に関わるようになっていきます。
そして一貫して公害患者の立場に身を置き、新潟水俣病では手弁当で弁護人補佐を努めて、水俣病の解明と患者救済のために尽くしました。

宇井先生が、招かれて中国を訪問した直後に私たち自主ゼミのメンバーに言った言葉を今でも忘れられません。
先生は重慶を中心に視察したのですが、その有り様をこう語っていました。

「君たち、中国で今後膨大な数の水俣病が生まれるかもしれない。いや、もう多数の患者がいるはずだ。ありとあらゆる化学廃液が野放図に川に捨てられている。有機水銀、カドミウム、六価クロム、鉛・・・。
市当局に忠告したが、まったく聞いてもらえなかった。今、中国は公害を止めないと大変なことになる。」

この宇井氏の「予言」がされたのが1970年代末でしたから、40年以上前になります。
そして中国の公害は、先生の想像をはるかに越える形で現実のものになってしまいました。
中国は環境破壊を止めようとしないばかりか、何百倍、いや何千倍もの規模で拡大していきました。

さて公害は、まず農業や漁業で暮らす村に現れます。
そして静かに土壌や水に蓄積され、連鎖し濃度を高めながら水系に沿って汚染を拡大していきます。
水俣病の場合は、 最初に猫や犬が狂い、村で正体不明の病人や死人がポツリポツリと出はじめます。
その時には土も、水も、食べ物も一切が汚染されており、その汚染は胎児にまで拡がっていました。
 

中国の場合、コメや野菜、あるいは水を通じて都市住民にも黒い影を伸ばして行くようになります。 
やがて、地方都市が変色した川とスモッグで覆われ、首都すらも金星のような有毒ガスの濃霧で覆われる頃には、実は全土が公害で覆い尽くされており、この汚染連鎖の最終局面なのです。
首都北京のPM2.5汚染は中国の公害の始まりではなく、その汚染の鎖の最終部分にすぎません。 
下の写真は冬の北京ですが、コークスを焼くような匂いに、排気ガスを加えたような臭いとでもいうのでしょうか。これが硫酸塩エアロゾルの「味」です

Photo

共同

まずはこの表から御覧ください。中国の重金属汚染データです。

 

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これは中国長江河口付近で採取された検出データです。採取地点、日時、採取者が明らかになっていればいっそう信憑性が高まるのですが、具体数値に乏しい中で貴重なデータです。 
というのは中国政府は一貫してこのような土壌汚染を公表してこなかったからで、例によってこんな数値は捏造だと言うなら、当局が公的データを出せばいいだけの話です。むしろそうしていただきたいものです。 
長江河口と言うことですから、上海近辺の長粒米を作る産地のものだと思います。長粒米は昨今の経済成長で、従来のものよりおいしいということで生産が増えています。

河口付近は、河から流れて来た汚染と沿岸からの汚染が重複する場所で、高度な汚染が出やすい場所です。
さて、この表の右端が我が国の環境基準値(02年制定)です。我が国の基準値と比較してみます。 

・水銀 ・・・244倍
・鉛   ・・・3500倍
・ヒ素・・・1495倍
・カドニウム・・・4.2倍
・BHC   ・・・59倍(※DDTと並んで国際的に検出されてはならない使用禁止農薬)
 

このような地域で生活すれば、水銀を原因とする水俣病が、確実に発生しているはずです。 
水俣病は、感覚障害、運動失調、視野狭窄、聴力障害などが発症し、重度の場合は脳障害や、死に至るケースが多発します。 
カドミウムを原因とするイタイイタイ病も間違いなく発生しているはずです。この症状は、骨の強度が極度に弱くなるために、わずかに身体を動かしたりしただけで骨折します。
くしゃみや医師が検診のために腕を持ち上げた抱けて骨折する場合もあり、身体を動かすことすら出来ず寝たきりとなります。 
イタイイタイ病は、神通川下流域の富山県婦中町(現・富山市婦中町)で1910年から1970年にかけて多発した公害病で、患者が骨の痛みに耐えかねて「痛い、痛い」と泣き叫んだことから命名されたものです。なんと哀しい病名でしょうか。 

この原因は、神通川上流にある岐阜県飛騨市にある三井金属鉱業神岡鉱山亜鉛精錬所から、精錬工程で出た廃液中のカドミウムが、下流の富山県婦中町周辺の土壌を汚染したために起きました。
カドミウムは米に濃縮されるために、米を通して水系周辺のみならず広くカドミウム汚染を拡げます。
富山県イタイイタイ病の場合、基準値を超えた米、野菜を食べ、地下水を飲んだ住民にカドミウム蓄積により発生しました。 
魚介と違って主食の米や野菜を媒介とするので、販路も広く有機水銀より複雑な汚染経路を辿ります。 

規模的にも、日本の場合は水俣病はチッソ水俣工場と昭和電工鹿瀬工場、そしてイタイイタイ病は三井金属工業神岡事業所と特定できる数の工場廃液が原因でした。 
それに対して「中国水俣病」と「中国イタイイタイ病」の原因となる水銀やカドミウムは、いまの時点では見当すらつかないほど多種多数の工場、鉱山から排出されていると考えられます。 
それを考えると、中国の報道による09年の湖南省カドミウム汚染米事件で2名死亡、500人余りがカドミウム中毒などはほんのわずかな露顕した事例にすぎないと思われます。
中国の場合、何度も書いてきているように、公的発表がまったくとl言っていいほどありません。

ですから逆に市場の米におけるカドミウム米の混入率から逆算するしか方法がありません。どのていどの率でカドミウム米が混入しているのかを知るわずかな手がかりがあります。 

「2007年、南京農業大学農業資源・環境研究所の潘根興教授が中国の6地区(華東、東北、華中、西南、華南、華北)の県レベルの「市」以上の市場で販売されていたコメのサンプルを無作為に170個以上購入して科学的に分析した結果、その10%のコメに基準値を超えたカドミウムが含まれていたという。」(北村豊住友商事総合研究所 中国専任シニアアナリストによる)
「これは2002年に中国政府農業部の「コメおよびコメ製品品質監督検査試験センター」が、全国の市場で販売されているコメについてその安全性を抜き取り検査した結果の「カドミウムの基準値超過率」10.3%と基本的に一致した 」(同上) 

また、2002年の中国農業部による市販流通米の抜き取り調査結果によれば、米に含まれていた重金属で基準値超過が最も多かったのは鉛で28.4%を占め、これに次ぐのがカドミウムの10.3%でした。
2008年4月に潘根興が研究チームを引き連れて、江西省、湖南省、広東省などの“農貿市場(農民が生産した農産物を販売する自由市場)”で無作為に買い入れたコメのサンプル63個を分析した結果、何とその60%以上に基準値を超えるカドミウムが含まれていました。

このように60%を最大値として、おおむねカドミウム米混入率は約10%であるようです。
すると、 中国の米の年産量は約2億トンで、そのうち基準値を超えるカドミウムを含む米が10%と仮定すると、その量は2000万トンと推定されます。
これは、日本の2007年の米生産量882万トンを2.3倍上回る膨大な量のカドミウム汚染米が中国に出回っていたことになります。

一方、カドミウムによる土壌汚染も深刻です。 

「11月10日から12日まで北京で開催された「中国環境・発展国際合作委員会」の年次会
議において、中国政府国土資源部が全国の耕地面積の10%以上は既に重金属に汚染されており、その面積は“約1.5億畝(約1000万ヘクタール)”に及ぶと表明した」
(2010年11月17日全国紙「第一財経日報」北村氏による)
 

また他の重金属についても、中国科学院生態環境研究センターはこう述べています。 

「中国科学院生態環境研究センターの調査結果として、「中国の耕地のうち、カドミウム、ヒ素、クロム、鉛などの重金属による汚染の影響を受けている面積は約2000万ヘクタールにおよび、総耕地面積の約20%を占め、全国で重金属汚染による食糧の減産が1000万トン以上、重金属に汚染された食糧も毎年1200万トン以上に達している」
(2011年1月5日「中国環境報」北村氏による)
 

この環境研究センターの言う「食料1200万トン」を、コメ以外と考えると、合わせて重金属汚染食料は約3200万トンていどと予想されます。たたし、あまりにアバウトな数字なので、あくまで目安にすぎません。

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上図は、セントラル・ミズーリ大学のリー・リウ(Lee Liu)氏の2010年論文「Made in China: Cancer Villages」が作成した中国のガン村」の地図です。 
右端の凡例には、公式に政府が認めたものであり、下の紫色のグラデーションが、非公認の「ガン村」です。 
中国における7割以上の河川、湖沼などに「ガン村」が発生しているのが分かります。
確認できるだけで459箇所、重工業化が進んだ東部の河北省から湖南省までの地帯だけで396カ所存在します。

患者は行政や企業によって門前払いを受け、沈黙を余儀なくされています。村民や家族も、農産物が売れなくなるので、外部に患者が出たことすら隠蔽しています。 
おそらく中国全土の「ガン村」は、まともな調査をすれば天文学的数に登るはずです。

このような土、水の汚染によって、「狭隘」な中国の農地はさらに狭まっていくことになります。

 

2021年10月 4日 (月)

壊滅する中国農業その1 狭小な耕地面積、過大な人口

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[お断り]
悪質な荒らしにあったためにコメントを承認制にしてみました。
自由な討論とその水準の高さが定評でしたが、とりあえずやむをえません。
表示されるまで、かなりの時間がかかりますのでご了承ください。
ご不便をおかけします。

                                                                       ~~~~~

メディアは世界を震撼させている中国の穀物の爆買いを、「中国すごい、日本落ち目」というトーンで報じます。
実はこの心理傾向は日本商社にもあっても同様で、実際に話を聞くと、どうやってももうチャイナには勝てません、遠からず世界市場の覇者になるでしょう、いやもうなっている、とさえ言いだす始末です。
ある全農系バイヤーは、中国が買い控えをしない限り、日本にはやがて飼料が回ってこなくなる日が来るとさえ冗談めかして言う始末です。
かつて日本商社はシカゴ市場の値動きを仕切っていた時代がありますから、このバイイングパワーの衰えに対してなおさら敗北感が強いのでしょうが、私はまったく違う感想を持っています。

の穀物の爆買いこそ、中国の構造的弱みが激しく吹き出しているから起きる現象なのです。
今年、たまたま熱波や水害が起きたから食糧が足りない、ではなく常に食糧不足なのです。


中国人にとっては、まずは食べればよいとされた時代は終わり、いかにうまくて柔らかいものを食べるか、という点に食の軸足が移ってきました。
所得が向上し、国民が食べたいものはどこからでも輸入できるようになり、富裕化すればより高いものを食べるようになっていきます。
雑穀から白米、豚肉への食のシフトが起きたのです。

農業生産量は既に限界に達しているにかかわらず人口は増え続け、しかも高所得化して贅沢になっていきました。
ここに食糧の需給ギャップが生じます。
主要な穀物は生産が減産に転じており、特に中国人が好む豚肉生産に書かせない大豆の生産は破綻しています。
頼りになるのは、唯一海外産農産物の輸入だけです。

中国の三大穀物と大豆の4つをとって、この20年間の貿易の内容とその変化をみておきましょう。
下図は穀物供給事情が悪化していることをよく示しています。

高橋五郎氏による

この表は小麦、コメ、トウモロコシ、大豆、豚肉などの輸出量から輸入量を差し引いた結果です。
ご覧のように、2006年と比較すると今やすべての食品の項目で真っ赤で、すべての穀物がマイナスの輸入超過です。
特に大豆のはほとんどが輸入に頼りきっているといってもよいくらいです。
つまり中国の食糧不足は、一過性ではなく構造的だということです。

恒常的食糧危機の国、さらにはエネルギー不足のために火力発電が止まり始終大停電を繰り返す国、こんな国がほんとうの強国のわけがないではありませんか。
まったく正反対に、中国の最大の弱みこそ食糧であり、エネルギーなのです。

エドワード・ルトワックはこんなことを言っていました。

「私の考えでは、習近平は『強大になるほど戦略的に弱くなる』という戦略の逆説(ストラテジック・パラドックス)にはまってしまったのである」
(ルトワック『ラストエンペラー・習近平』 )

まさに言い得て妙で、習が居丈高に空母や弾道ミサイルを見せつけ、札びらで頬をはたくようにして世界の穀物やエネルギーを買い集める姿こそが、彼らの弱みの現れなのです。
では、なぜ中国が構造的食糧不足に陥っているのでしょうか。
そこから考えていきましょう。

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中国 食料不足への危機感 食糧自給低下による爆買いがもたらす影響

しかも先日ふれたように、輸入先は米国が多くを占めています。
これが米中対立の背景にあることは既に述べました。

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同上

米中経済戦争はほんの引き金にすぎません。
ほんとうの理由は、中国農業が滅びかかっているからです。
だから14億の民に食わせられなくなっている、それがわかるとなぜ習近平時代になって、この国が海外進出、いや侵略に乗り出したのか判ってきます。

ところで、中国の国土が「狭い」と言ったら、おかしなことを言うと思われるかもしれません。
14億の民、万里の長城、桂林などから日本人が受けるイメージは、ひたすら事物博大といった感があります。
たしかにデータ上では、中国の国土は約960万平方キロ、日本が約37万平方キロですから、ざっと約26倍の面積を誇っています。
しかし北京から少し出てみましょう。
西に重慶、成都に飛び、さらに新疆ウイグル自治区に旅すると、中国の「事物博大」の裏側がもう少し見えてきます。

長江付近の巨大な都市は人を溢れさせんばかりにしていますが、そこからわずかに奥に入った農村部では傾斜のきつい山肌にへばりつくように生きているのが分かります。
そして、そこからさらに奥に進めば、乾燥した強アルカリの土漠がどこまでも続きます。
人はわずかのオアシスの付近で生活を営んでいるにすぎません。
実は、このような地域が中国の大きな部分を占めています。
そこでは牧畜しかできないので、政府は砂漠化を恐れて定住政策をとっていますが、そのために人口が集中してかえって都市周辺の砂漠化が進むという皮肉な現象すら起きています。

中国で、農業に向いている地域は、東北部(旧満州)の吉林省、そして沿岸部の黒竜江省、江蘇省 、安徽省に集中し、後は山岳部の四川省、陜西省にわずかに点在するだけです。
にもかかわらず、人口が14億人といいますから、狭小な分母の上に、過大な人口を抱えるというのが中国の実態です。

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浙江省の黄杜村

これは、農家一戸あたりの平均耕作面積をみれば分かります。日本の農家の平均は約2ヘクタールですが、中国は約0.67ヘクタールです。
狭い狭い、だからお前らは国際競争力がないとなにかにつけて言われる日本の3割強ていどです。
ヨーロッパの平均はイタリアなどで約26ヘクタールですから38倍ですから、較べるべくもありません

ちなみに、米国は中国とほぼ同じ約963万平方キロの面積がありますが、作付け可能面積は国土の2割に当たり、中国の約2倍に達しています。

中国は斜度25度以上という土地で作る薬草、綿花、麻類栽培などの非食料栽培も含めて、国土の1割に満たない部分しか耕作可能ではないのです。
斜度25度とは、日本で言えば山間地農業ですから、そこまで入れて1割となると、中国農業の技術的レベルから考えれば、よく喰っているなという気分になります。
ですから、国民一人当たりに換算すると、耕地面積は米国の10分の1以下となります。つまり、人口は米国の3億人の4.3倍ありながら、米国の10分の1の耕地しかなく、それで食を支えねばならないわけです。
世界人口の22%を世界の耕作可能面積のたった7%で養っていることになりますが、いくら国民の6割が農民でもそれは無理だということで、輸入食糧は激増の一途を辿っています。

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中国 食料不足への危機感 食糧自給低下による爆買いがもたらす影響

「今後5~10年で、中国は世界最大の農産物輸入国となる」(中国国務院発展研究センター)

既に見たように、中国は現在、大豆と綿花に関しては世界最大の輸入国となっていて、シカゴ穀物相場を混乱させるモンスターと化しています。
このようなアンバランスな条件で、食糧自給などがそもそも無理です。
ひと頃日本の青果市場を征する勢いだった中国産農産物はめっきり減りましたが、それはもう輸出する余力がなくなったからです。
もちろん、安全性に疑いをもたれて日本の消費者が買わなくなったこともありますが。

ところで、私は外国に旅すると、哀しい職業病で、ついそこの国の農地を触ってみたくなります。手首まで土に入れてひとつかみ土を握り、手でほぐしてみればおおよそのことが分かります。
掴んだ土がにぎり寿司のように軽く握ればまとまり、力を抜くとはらりとほぐれればいい土質です。
そのような土は有機質や微生物を大量に含み、色も深い褐色をしています。ほのかな芳香すら漂います
私は成都で中国の土を採取してみましたが、粘り気がなく、乾燥してバサバサで、まるで砕いた灰色のレンガのようでした。芳香などは望むべくもありません。

率直に言って、私が今まで見た耕作地の中で最悪の部類に属します。こんな土になるまで放置しておいた農民の気が知れないというとすら思いました。たぶんただの一度も土作りをしたことがないことだけはたしかです。
失礼ながら、このひどい土を見て、中国産農産物がなんの味もしない無味乾燥な理由が分かりました。土の力で作物を作っているのではなく、化学肥料の力だけに頼って作っているのです。

聞けば、中国にはそもそも堆肥を作るという伝統がないそうです。この最悪の土の上で、過剰な人口を養うことを可能にしたのが、化学肥料と化学農薬の度はずれた多投です。

中国環境科学研究院のGao Jixi生態学研究所長はこう述べています。
China's agriculture causing environmental deterioration,xinhua
.net,7.5

「化学肥料と農薬の大量使用は厳しい土壌・水・大気汚染をもたらしてきた。中国農民は毎年、4124万トンの化学肥料を使っており、これは農地1ha当たりでは400kgになる。これは先進国の1ha当たり225kgという安全限界をはるかに上回る。」
「中国で大量に使われる化学肥料である窒素肥料は、40%が有効に利用されているにすぎない。ほとんど半分が作物に吸収される前に蒸発するか、流れ出し、水・土壌・大気汚染を引き起こしている。」

化学肥料は土を豊かにしません。
単に作物に成長栄養を与えるだけです。むしろ過剰な窒素は、作物をひ弱にし、植物が利用しきれなかった窒素は硝酸態窒素として、土壌に沈下し、そして水系に流れ込みます。
1985年から2000年の間に、1億4100万トン、1年当たりにして900万トンの窒素肥料が流出し、土壌や水系を汚染しました。
病虫害を抑え、見てくれをよくして商品価値を高める化学肥料を過剰に使用すれば、作物を化学汚染させていくばかりか、天敵生物を滅亡に追い込み生態系を破壊し、畑の外にまで汚染を拡げます。

中国の農薬使用量は年間120万トンにのぼり、年々増加する一方です。

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中国食品>世界一甘い残留農薬検査基準、農薬過剰使用による健康被害が

これは、日本も経験したことですが、害虫には農薬に対して耐性を持つようになります。
仮に100匹の害虫がいたとして、それに農薬散布して、仮に百回に一度農薬耐性を持つ個体が発生した場合、以後農薬の効果は急速に衰えていき、やがてまるで効かなくなります。

農薬耐性を持つ害虫は繁殖力も強いからです。人間は毎年より濃度を上げた農薬を散布するしかなくなり、その無限地獄が始まります。
現在の中国は、農業外からの工場排水に冒される前に、内在的に大きな問題を抱えていたのです。それは化学肥料と化学農薬の過剰投入という問題です。
結果、中国の湖沼の75%、地下水の50%が汚染されています。
その原因は工業排水、家庭用排水、そしてこの農業汚染であることは疑い得ないでしょう。

このように中国農業は、工業排水の最初の被害者でありながら、自らもまた化学肥料、化学農薬の多投による汚染源でもあるという加害者でもあったようです。
「狭小」な国土に過剰な人口、そして成長至上主義の農業政策からはその副作用として公害が吹き出てきたのです。
そしてこの公害は、中国を砂漠化し、更に耕作地を狭小化していくことになります。

                                                                                                                              (続く)

 

 

 

2021年10月 3日 (日)

日曜写真館 コスモスの晴れといはばや嵐あと

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コスモスの 花遊びをる 虚空かな 高浜虚子


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コスモスの よく動きゐる 花の数 高浜虚子

 

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コスモスの 雨ありけらし 朝日影  水原秋櫻子

 

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コスモスや 花おとろへず みだれそめ  水原秋櫻子

 

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コスモスの 倒れ倒れし 花の数  高浜虚子

2021年10月 2日 (土)

中国の食糧の爆買いと軍事膨張はメダルの表裏

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菅総理、ほんとうにご苦労さまでした。
この厳しいコロナ禍の中で、その対策に奔走され、、五輪を成功に導いたことは菅総理の大きな功績でした。
ありがとうございました。

さて、飼料価格の高騰がとまりません。
原因は中国の爆買いです。
中国は世界あらゆる国から、ありとあらゆる穀物を爆買いしています。
その結果、世界の穀物市場は高止まりに貼りついてしまいました。
我が国も例外ではなく、畜産飼料価格が数カ月前の5割増となっています。

「(中国の)穀物の輸入が増えたのは、豚の飼料用の需要が増加しているためだ。2018年から中国ではASF(アフリカ豚熱)ウイルスが流行し、豚肉生産が落ち込んだが、2020年後半からの生産回復に伴い、飼料用穀物の需要が伸びている。
輸入品目の上位15品目(HSコード6桁ベース)を前年同期比で見ると、15品目全てが増加し、14位までの品目はいずれも2桁増となった。中でも、穀物(大豆、トウモロコシ、グレイン・ソルガム)とエネルギー(石油、液化プロパンガス、天然ガス)の伸びが大きかった。追加関税発動前の2017年上半期との比較でも、自動車と飛行機を除く13品目が増加した。 」( JETRO 2021年08月17日9)
上半期の中国の対米輸入、前年同期比55.9%増、穀物とエネルギー輸入が大幅増(中国、米国) | ビジネス短信 - ジェトロ (jetro.go.jp)

まずはトウモロコシから始まりました。

「配合飼料価格高騰の要因はトウモロコシなど飼料穀物価格の相場上昇にある。中国が昨年後半からトウモロコシを大量に買い付け始めた。
トウモロコシのシカゴ定期は3月には1ブッシェル(25.4kg)5.4ドル前後で推移していたが、南米産地の乾燥による作柄悪化懸念や、4月に米国農務省が期末在庫率見通しを下方修正したこと、さらに中国からの強い引き合いを受けて同7.3ドルまで上昇した。
今後の見通しについて全農は、米国の夏場の受粉期に向け天候に左右されるものの、引き続き中国向けの旺盛な輸出需要が見込まれることや、期末在庫が低水準であることから「相場は堅調に推移するものと見込まれる」とする」(全農2021年6月18日)

連動してこの高騰は、大豆にも及びました。

「大豆粕のシカゴ定期は3月には1t440ドル前後だったが、中国向けの輸出増大で大豆の期末在庫率が歴史的な低水準となったことに加え、米国の天候不良による作付け遅れ懸念から480ドル台まで上昇した。その後、作付けが順調に進んだことから現在は430ドルまで下落している。国内の大豆粕価格は為替が円安のため値上げが見込まれる」(全農前掲)

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そしてこれに船舶運賃の値上げがかぶりました。

「世界の海運大手各社が5月中旬以降、コンテナの輸送運賃を相次ぎ引き上げた。昨年後半から続く海運費の高騰は、ベトナムでも輸入穀物や鉄などの原材料高騰を招いており、輸出入に依存する大手企業各社の収益を圧迫している。4月下旬ごろに天井を打ち一度は落ち着くかに見えた海上輸送コストの上昇傾向が止まらなければ、新型コロナウイルス感染第4波で需要の落ち込みが懸念されるベトナム経済のさらなる重しになりかねない」(アジア経済ニュース5月28日)
海上運賃再値上げが収益圧迫 コロナ前の数倍、業者「不合理」 - NNA ASIA・ベトナム・運輸

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海運コンテナ船の運賃急騰、生活じわり影響…食料品への価格転嫁広がる

結果、これらの輸入穀物価格の高騰は、配合飼料の暴騰による鶏卵、牛豚肉類などの畜産品と、大豆油、菜種油などの油脂類の値上がりを引き起こしました。
畜産は、個人経営がたちゆかないほどの飼料高騰に見舞われています。
私の農場も例外ではなく、経営が極めて厳しい所に追いやられています。

「畜産経営に欠かせない輸入飼料価格が高騰している。飼料用トウモロコシや大豆油かすなど原料の平均輸入価格(4~6月期)は、前年同期の約1.3倍だった。畜産農家は高止まりによるコストの増加を懸念している。
 JA鹿児島県経済連飼料養鶏課によると、飼料用トウモロコシの主産地である米国での不作や中国の需要増が背景にある。原油価格や海上輸送費の上昇も影響しており「農家個人でどうにかできるレベルではない」とする」(西日本新聞8月19日)
https://news.yahoo.co.jp/articles/88aac107fdef957b962ca08aa5b151c9a3062c57

そして油脂類も、同様の深刻なコスト高による価格高騰に直面しています。
やがて食料品全体の値上げにつながって行くと見られています。
モノが順調に売れて徐々に2%のインフレターゲットに近づいていく「良いインフレ」ではなく、モノが売れないのに価格だけ上がっていく「悪いインフレ」が始まる可能性が出てきました。

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世界の食料価格、12か月連続上昇…日本でも家計への影響必至 : 経済

「大豆、菜種、パーム油の主要油脂相場は昨年後半から過去最高値に迫る勢いで高騰。搾油採算が急速に悪化している。業界全体では1,000億円規模の原料コスト増が確実な情勢。
国際連合食糧農業機関(FAO)の植物油価格指数=表=は一年前の2倍水準に上昇し、世界的にオイル高が進行している。
大豆、菜種、パーム油ともに生産量が伸び悩む一方、需要面ではコロナ禍からいち早く経済回復した中国が輸入量を増やしており、需給がひっ迫。昨年後半から相場は一変し、大豆は9ドル→14~15ドル、菜種400加ドル後半→800~1000加ドル超、パーム油2000リンギ前半→4000リンギ近辺と、大きく上昇。為替も1ドル110円を突破し、円安傾向を強めていることや、カナダの熱波による影響も懸念され、未曾有のコスト悪化に直面している」
(食品新聞2021年7月7日)
製油業界 1千億円規模の原料コスト増 油脂相場高騰は構造的問題 新たな価格水準へ - 食品新聞 WEB版(食品新聞社) (shokuhin.net)

では、この食糧価格の高騰はどうして起きているのでしょうか。
冒頭に述べたように、中国の破天荒な爆買いが原因です。
そもそも中国は小麦生産量ではEUに次ぐ第2位ですが、単一国家としては第1位(約1億3000万トン)で、コメも約1億5000万トン(精米ベース)を生産し、世界第1位です。
またこれらの穀物の輸入数量は、小麦・コメともに300~500万トンであり、これまでは世界貿易に与える影響も限られていました。
ところが、一昨年頃から状況が大きく変化し、2020年~22年度における中国の穀物輸入量は爆買いに転じました。

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中国の穀物輸入「激増」と「健康な食事」三石誠司『グローバルとローカル:世界は今』
https://www.jacom.or.jp/column/2021/05/210514-51244.php

●2020年から21年度の中国穀物輸入増加
・小麦       ・・・500万トン→1000万トンへ(倍増)
・粗粒穀物・・・1750万トン→4325万トンへ(2.5倍増)
※粗粒穀物とは、トウモロコシ、マイロ、こうりゃん、えん麦、大麦、ライ麦粟及び雑穀等の飼料穀物のこと。

普通、一国の穀物輸入量が2倍以上に急激にハネ上がるということはありえません。
そういう現象はかつてのソ連で起きたことがありますが、それはウクライナの不作が原因でした。
しかし、今の中国で大規模な台風などによる水害は観測されているものの、パニックになるような穀物恐慌が起きているとは伝えられていません。
にもかかわらず、ひとり爆買い戦争を始めて、国際穀物市場を脅かしているのはなぜなのでしょうか。

正直、その理由はわかっていません。
引き金になったのが、米国にかけた大豆に対する報復関税によって自分の首を締めてしまったことまでは確かです。
大豆の高騰に見舞われて豚肉が暴騰し、国民が豚暴動を起きかねないほどだったことは知られています。

ただそれはあくまでもきっかけであって、大きな背景には中国農業の破綻と自給率の大幅な低下があるようです。
実は、中国で最も重要な穀物はコメではなく、大豆です。
中国人は豚肉を好み、中国で肉と言ったら豚肉を指すほどですが、現在、中国人が食べている豚肉は大豆粕を使って生産されています。

大豆を絞った粕を大豆ケークと呼びますが、これを豚に与え、大豆油は人間が料理に用います。
このように重要な穀物を、中国は自給はおろかいまや完全に輸入に頼りきっています。

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中国が抱える意外な弱み「食料自給率の低下」

上図は中国の大豆自給率ですが、かつて中国は国内で大豆を生産し1980年代には170万トンもの大豆を輸出したことすらありましたが、21世紀に入って自給率は急速に低下し始め、2013年にはわずか16%まで低下しました。
前世紀から中国はエネルギーを漁るために中東やアフリカに進出しましたが、石油と同様に海外から大量に輸入するものが、実は大豆です。
下図は大豆輸入量を見たものですが、中国は日本の20倍を輸入しており、もちろん世界最大の大豆輸入国です。

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大豆輸入量の推移(単位:100万トン、出典:FAO  JBプレス

現在、中国の大豆輸入量は6000万トンを上回り、世界で交易される大豆の実に6割に達する勢いです。
よく我が国は食料輸入大国だと言われていますが、中国の食糧輸入量に較べると可愛いものです。
そのために日本は国際穀物市場においてバイイングパワー(※)を失い、ことごとく中国に競り負けている状況です。
※販売力を背景にした購買力

ただしここで中国にとって問題となるのは、大豆の最大の輸入先がこともあろうに米国なことです。
中国は大豆を、主にブラジル、米国、アルゼンチンから輸入しています。
2013年の輸入量はブラジルからが3180万トン、米国が2220万トン、アルゼンチンが600万トンで、すべて太平洋を超えて渡って輸入されます。
ですから、米国の大豆なくしては中国人の食卓は成り立たないのです。
彼らの海洋進出の裏事情は単純化していえば、中東からのオイルロードが伸びるインド洋、南シナ海と、米国とブラジルからの大豆ロードが伸びる太平洋を押さえる必要があるからです。

このようなことを考えると、中国の対外戦略は混乱しきっています。
いたって常識的なことを言いますが、自分の国の食糧の要を握る国とは仲良くすべきではないでしょうか。
ところが、ことごとく米国と対立し、米国が嫌がることを力一杯やればどうなるかはわかりきったことでした。
それが習近平の「戦狼」外交です。

中国は米国が制海権を持つ太平洋を超えて運ばれて来ることに耐えられません。
食料の首根っこを、あろうことか憎き米国に支配されているだてでも精神不安定になるのに、それが「米国の海」を渡って来るのですから屈辱感が二倍となるのでしょう。
だから、中国は南シナ海の制海権だけでは不十分と考え、東シナ海を通過し太平洋に出る海上ルートをなにがなんでも我が物としたいと考えました。

そこでオイルロードの安定のために南シナ海やインド洋に進出し、その軍事拠点として人工島を建設し、一方太平洋に向けては遼寧空母打撃群をしつこく送ってきています。

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中国の空母発展に十分な潜在力 3つの空母艦隊を形成へ_中国網

商業国家ならば、戦後日本のように平和外交に努力することで貿易関係が悪化しないように配慮するものですが、中国は正反対な行動に出てしまったのです。
兵隊が土地を占領しないとと気が納まらない、海軍の艦隊が太平洋の制海権を握っていないと落ち着かない、それが陸軍国特有の中国の哀しい性です。

中国は食糧輸入を外交的武器とすることの常習国家です。
オージーや台湾には常日頃から恣意的に高関税をかけまくっています。
つまり貿易と外交の壁がないのです。
ちょうどそれは、超限戦という軍事と非軍事、軍隊と民間の区別なく、すべてを「人民戦争」と考える中国特有の発想によく似ています。

当然のこととして中国の海洋膨張をもっとも最も嫌ったのが、世界一の海洋国家であり、世界の海洋の自由航行の守護者を自認している米国でした。
かくして、ご承知のように米中対立が爆発しました。

かといって、今さら贅沢を覚えた中国人に豚肉を食わさないわけにはいかず、自動車に乗せないわけにはいかない以上、米国と敵対してでも海洋覇権を確保したいのが、「戦狼」路線を取る中国なのです。
この流れは、どこかで中国が正気に戻らない限り止まらないでしょう。 

米国農務省が今年5月12日に発表した最新の需給見通しでは、2021~22年度もこの傾向は継続しています。
驚くべきことには、中国の年間穀物輸入数量は過去5年間でなんと約4000万トン増加したということです。
これは日本の年間穀物輸入数量が約3000万トンですから、丸々日本一国分以上の増加をしたことになります。

たとえば大豆輸入は中国の輸入見通しが300万トン増加して1億300万トンで、日本の年間輸入総量330万トン分が丸々一国分追加された事になります。
またトウモロコシも、2020年~21年度の輸入数量2600万トンで、前年の3.4倍です。

残念ですが、中国がこのような狂ったような爆買いを続けていることから見ても、当分この「戦狼」熱から醒めないでしょう。
唯一あるとすれば、豚肉バブルがちょうど今の恒大破綻のように弾ける時だけでしょう。
今の穀物爆買いによる豚肉生産奨励政策によって、豚肉生産にファーウェイのような異業種までもが大規模参入してしまった結果、極度の生産過剰となってしまっています。
ファーウェイは高層畜舎を作り、IT管理の養豚を大規模に開始しています。
その上に外国産食肉まで大量に買い占めているのですから、なにを考えているのやら。
当然起きたのが、豚肉バブルです。

いまや中国各地の食肉冷凍庫は豚肉で埋めつくされているという噂が流れるほど、在庫過剰となっており、これは土地バブルが起きた時の状況によく似ているといわれています。
一般の自由主義経済国ならば、過剰輸入→過剰生産→過剰在庫→価格暴落→生産調整→輸入縮小という循環を辿ってそれは解消されるはずですが、「計画経済」の中国ではこの景気調整のループが存在しませんから、どこまでも積み上がって行くに任せることになります。

どこまででしょうか?
たぶんそう、習がこの問題が自らの政治的リスクだと気がつくまでです。
しかしバブルが弾けることで正気に戻る保証はまったくなく、逆に対外膨張で国民の目をそらそうとすることがありえるので、そうなればもはや処置なしです。
とどのつまり、あの国は共産党支配という病根を切除しないかぎり、どこまでもこの無限回廊を突っ走ろうとするのです。

とまれ、このように中国の食糧の爆買いと軍事膨張はメダルの表裏であることをお忘れなきように。

 

 

2021年10月 1日 (金)

北朝鮮、また弾道ミサイル発射実験を実施

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北朝鮮が9月28日、弾道ミサイルを2発発射しました。

「28日朝、北朝鮮から弾道ミサイルの可能性があるもの1発が東の方向に発射されました。
これまでのところ日本の航空機や船舶の被害などの情報は確認されておらず、防衛省は、飛んだ距離や落下地点などについて詳しい分析を進めています」(NHK9月28日)
「日本の防衛省の発表よりも13分早い6時45分に北朝鮮のミサイル発射を伝えた韓国の合同参謀本部は8時7分にはミサイルが「北朝鮮の内陸」から発射されたことを公表したが、2時間後の10時7分には発射場所が中国と国境を接している慈江道・舞坪里(ムピョンリ)であることを特定し、発表した」(辺真一9月28日)

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北朝鮮中央通信 極超音速弾道ミサイル「火星8」 JSF

発射されたのは2発で、時間を1日置いています。
まず1発めは9月28日午前6時40分に発射されたミサイルで、北朝鮮の北部内陸部にある慈江道前川郡舞坪里の付近から発射され日本海に着弾しました。
着弾地点はEEZではないようで、飛距離は200kmに届かず、最大高度は30kmです。
この距離だと日本に対する直接の脅威ではありませんが、あえて飛距離を短く設定したとの見方もあります。

翌9月29日、再び北朝鮮は2発目の弾道ミサイルを発射し、朝鮮中央通信で「新しく開発した極超音速ミサイル「火星8」の試験発射を行った」と発表しました。
こちらは滑空弾頭つきの極超音速弾道ミサイルだったようです。

これは一般的な弾道ミサイルでなく、極超音速滑空体(HGV)を搭載した新型だった可能性があります。

「鮮明な写真ではないが、火星-8の先端部には米陸軍が開発を進めている極超音速滑空体とよく似た小型翼を備える「HGVらしき飛翔体」が搭載されているのを確認できるので、韓国軍の発表と合わせると北朝鮮が極超音速滑空体を搭載した極超音速兵器を試射したというのは事実である可能性が高い」
(航空万能論9月29日)
https://grandfleet.info/indo-pacific-related/north-korea-announces-hypersonic-missile-mars-8-with-hypersonic-glider/

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北朝鮮 発射は「極超音速ミサイル」と発表 | MBS

注目すべきは、まず第1に、今年1月の労働党大会で公表された新兵器計画のうち、極超音速ミサイルを実現してしまったことになります。
このスピードには驚かされます。
なお北朝鮮が計画している新兵器群は以下です。

  • 多弾頭個別誘導技術(ICBM用のMIRV)
  • 極超音速滑空弾頭(極超音速滑空ミサイル)
  • 新型原子力潜水艦(水中発射弾道ミサイル搭載)
  • 固体燃料式長距離弾道ミサイル(地上発射及び水中発射)
  • 長距離弾道ミサイルの命中精度向上(射程15000km)
  • 中長距離巡航ミサイル(詳細不明)
  • 様々な電子戦兵器
  • 無人攻撃兵器と偵察観測手段(行動半径500km)
  • 軍事偵察衛星

この新兵器計画は、時期的にみるとトランプとの2019年2月のハノイ会談時期から開発が開始されてきたとみられており、北朝鮮自身も「過去2年間で開発されたもの」と公言していることから、いささかも弾道ミサイル計画を凍結していなかったことがわかります。

「金正恩委員長(現・総書記)は2020年5月の党中央軍事委員会拡大会議でも「核戦争抑止力をよりいっそう強化し、戦略武力を高度な臨戦状態で運営するための新しい方針」を指示している。国際社会が呑気に「北朝鮮の非核化」を語っていた間にも、北朝鮮は隠れもしないで堂々と公言しつつ、核ミサイル戦力の強化に邁進していたわけである」(黒井文太郎9月29日) https://news.yahoo.co.jp/articles/a7dc9d3f03f21280eff95dd76fcb157931cb12a9

これらの新兵器群が揃うと、北朝鮮は探知が困難な戦略原潜や山岳に隠れた移動式発射装置から弾道ミサイルを発射し、しかもそれはマッハ5の極超音速で低い軌道を飛翔します。
あるいは滑空して軌道を変更可能にする-23短距離ミサイルも実験しています。
これらに搭載される弾頭は、ひとつの弾頭に4つていどの核弾頭を持っているという極めて脅威度の高いものになります。
軌道を変化させる滑空型弾道ミサイルは、中国もDF-17として実用化しています。

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中国が、極超音速滑空ミサイルDFー17を台湾近辺に配備か - Pars Today

迎撃できないという説もありますが、JSF氏はこのように述べています。

「長射程型の滑空ミサイルが登場した際には弾道ミサイル防衛システムの大気圏外迎撃ミサイルのSM-3とGBIが無力化されることになります。
THAADは限定的に滑空ミサイルの飛行高度に対応可能。PAC-3とSM-6は滑空ミサイルの最終突入段階なら対応可能です」(JSF9月29日)
https://news.yahoo.co.jp/byline/obiekt/20210929-00260551
文字通り軍事強国です。

つまり、大気圏外での迎撃を目的とするSM-3、GBI、THAADは迎撃が困難ですが、大気圏内迎撃ミサイルであるPAC-3、SM-6は落ちてきた最終突入段階で落とすことが可能です。
ただし、今までの二重三重のMDの備えのうち最終コースだけの迎撃となりますので、より迎撃のために割く時間が短縮され、リスクが高まります。

第2に、いうまでもなくこれらの弾道ミサイル実験は国連制裁決議違反です。
もし国際社会がこの北朝鮮の暴挙に沈黙しているならば、核開発を容認したと同じことになります。
米国が即刻なんらかの強い意志表示をすべきです。
バイデン政権は北の脅威を忘れてしまっているように見えるので、岸田新政権は強く警戒を呼びかけねばなりません。

第3に、わが国の対応ですが、不可思議としかいいようがありません。
優れた討論会の様相を呈した総裁候補討論会においても、遂にイージス・アショアにせよ、イージス・システム搭載艦にせよ、なんらかの政策は示されませんでした。
この弾道弾防衛計画は、何を選択するにせよ、10年単位の時間がかかるものですので、もうすでに遅れ切っていることになります。
河野氏がイージスアショア中止した理由は、新型兵器に対して対応するには莫大な予算を必要とするということにあったという説もあるようですが、現実としてミサイル防衛計画全体を白紙化してしまうに等しいものでした。
責任の極みで、このままの状況が続けば、北朝鮮や中国の核攻撃に無策のままでいてよいということなりかねません
次の防衛大臣が誰になるにせよ、河野氏が犯した大失態をリカバリーできるのは次期政権しかないことをお忘れなく。

 

※今日も記事とは無関係な荒らしが多く入っています。当分の間コメント欄を閉鎖します。
                                                                                        管理人

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