崩壊する中国農業その4 止まらない海外農地の爆買い
中国はEUに加盟することはできません。
それは現代国家として備えていなければならない国家要件を、すべて満たしていないからです。
EUは1991年12月にソ連圏が崩壊したことにともなって多数の国家群が生まれたことに対応して、「東欧及びソ連邦における新国家の承認の指針に関する宣言」を作りました。
この「EU宣言」は、現代国家が満たすべき条件を示しています。
①法の支配、民主主義、人権に関して国連憲章及びヘルシンキ最終議定書等を尊重すること。
②人種的民族的グループ及び少数民族の権利を保障すること。
③既存の国境の不可侵を尊重すること。
④関連軍備規制約束を受け入れること。
⑤国家承認及び地域的紛争に関する全ての問題を合意によって解決すること。
つまり、人権、少数民族の権利の尊重、国境の不可侵、軍備縮小、紛争の平和的解決などをEUは現代の国家要件として要求しているわけです。
中国は①から⑤まの全てに該当しません。
人権などないに等しく、普通選挙すらただの一回も開かれたことがない権威主義体制の国家であり、少数民族は強制収容所に送られ、南シナ海人工島や尖閣のように侵犯行為を公然と行い、軍縮はおろか世界最大の軍拡国にして、国際司法裁判所の裁定ですら「紙くず」と言って憚らない国、それが中国です。
どうしてこのような国家となったのか、先週から農業と食糧の視点からみています。
さてそのEUの中心国であるフランスのマクロンは、2018年2月22日、中国企業を念頭に、外国企業による農地の売買を規制する方針を発表しました。
「【2月23日 AFP】フランスで、中国企業が地価の安さと地方部の困窮に乗じて農地買収を進めているという懸念が広がっており、これを受けてエマニュエル・マクロン(Emmanuel Macron)大統領は22日、海外投資家による農場買収の阻止につながる措置を講じる構えを示した。
マクロン大統領は、パリの大統領府を訪れた若い農業従事者らを前に、「フランスの農地はわが国の主権が関わる戦略的な投資だと私は考えている。よって購入の目的も把握しないまま、何百ヘクタールもの土地が外資によって買い上げられるのを許すわけにはいかない」と述べた。
マクロン大統領が念頭に置いているのは、中国ファンドが昨年、仏中部の穀物産地アリエ県で900ヘクタールの土地を購入、さらに、2016年にアンドル県で1700ヘクタールが買収されたという報道だ。
マクロン大統領は農業従事者らに対し、こういった土地買収を阻止するため「規制予防策を確実に講じ、皆さんと協働していく」と述べた。 海外からの農地買収をめぐっては、オーストラリアが今月初めに新たな規制を発表。また中国資本の海外進出については、過去にアフリカやカナダからも懸念する声が上がっている」(AFP
https://www.afpbb.com/articles/-/3163837
同じような中国資本の土地買い占め規制はオーストラリアでもでされていますが、わが国ではその実態調査する法案が通過したばかりの段階です。
既に日本の場合、北海道が狙い撃ちされ、既に38市町村で累計2725haが中国資本の手に渡っています。
「実際、どのくらい買われているのか。北海道の場合、北海道庁によると、2018年に外国資本(海外に所在する企業・個人)に買収された森林は計21件、108ha。東京ドーム約23個分で、1位は中国(香港、マカオを含む)で13件、約91ha(東京ドーム約20個分)。日本国内にある企業で、外国法人の子会社など資本の50パーセント以上を外国資本が占める企業(外資系企業)による買収は計7件、58ha。東京ドーム約13個分で、1位はやはり中国の2件、3.5ha(同1個分)。(略)
我が国では、一度、売買契約が成立し所有権が移動すると、どのような開発が行われ、どのように利用されても、異議を唱えることはできない。外国資本は目的を問わず自由に不動産を買収でき、自由に利用できる法制度になっているからだ。
こうした無防備な制度下で、海外からの買収は増え続け、北海道庁が統計を取り始めた01年から18年までに38市町村で累計2725ha(同約580個分)に膨れ上がった。だが、この数字は水源地にからむ森林に限られるため、実際に買収された広さは分からない」
(宮本雅史2019年12月)
https://facta.co.jp/article/201912021.html
2018年5月、中国ナンバー2の李克強首相が来日し、過密の中遠方の北海道を訪問しています。
この李の動きについて、石平氏はこのように述べています。
「李首相が北海道に行ったということは、中国の北海道進出が本格的に動き出したことを示し、滞在中、各方面に今後の方針を指示したはずだ。日本政府が北海道訪問を歓迎したことで、道進出について日本政府のお墨付きを得たと受け止められても仕方がない。今のままで行くと日本は10年から15年後に侵食されてしまう恐れがある」(FACTA2019年12月オンライン)
日本の場合、世界でも珍しい外国人の土地取得に丸腰の国で、なんの規制もなく外国人が取得したことを申告する必要もありません。
農地に限らず、中国企業による土地買収に懸念が出て当然です。
宅地の場合、海外企業の投機が続けば、都市部での不動産価格がつり上がりますし、水源地帯など多くの人々の生活インフラに直接にかかわる土地となればなおさらです。
さらに、土地の使用方法や最終処分権まで外国企業に委ねてしまえることから、実質的に外国の租界と化す恐れがあります。
まして自衛隊基地や原発周辺といった土地に、外国の工作拠点を作られた場合、極めて危険なことはいうまでもありません。
ところが日本での農地買収について規制法がないばかりか、その体系的なデータすらなく、現状把握から始めねばなりませんでした。
先日出来た「土地利用規制法」はその実態調査のための法律であって、土地取得を制限することはできません。
さて、この中国の貪欲な土地買い占めは、今から10年ほど前から世界的に始まっています。
世界の土地囲う中国 農業・鉱業、10年で600万ヘクタール: 日本経済新聞 (nikkei.com
その勢いは世界一であり、この10年間で実に600万ヘクタールを買い占め、しかも日本のように調査していない国がありますから、氷山の一角とみたほうがよいでしょう。
中国はこの10年間のうちに、食糧と同時に外国の土地爆買いもしていたことになります。
中国は当初宅地建物や工場建設などに伴う不動産物件を買っていましたが、2016年頃から中国政府の資本流出に対して規制がかかったために、一転して農業用地の取得に向かいました。
中国政府は企業による海外での不動産投資に「禁止」「抑制」「推奨」の3カテゴリーを設けており、「抑制」にはホテルや住宅開発、「推奨」には農業やインフラ整備が入っています。
ちなみに、中国政府から「抑制」がかかる2016年までに海外不動産の取得ぶりはすさまじく、たとえばロンドン中心部の商業地のうち25パーセントは中国人が買収しています。
日本でも高級住宅地、タワーマンションなどが、軒並み中国人の手に渡ったのもこの時期です。
このような外国不動産の買い占めは、土地バブルを背景とした投機的マネーゲームでしたが、2016年頃からの海外土地爆買いの目的は、同じ土地爆買いでも農業用地が「推奨」に入ると買い占めの質が変化します。
世界に広がる土地買収【後編】海外の土地を最も買い集めている国はどこか―「土地収奪」の主役たち(六辻彰二)
上図でもわかるように、中国の土地買い占めで特徴的なのは食糧生産用土地の取得が盛んなことです。
つまりマネーゲームで転売益を儲けようとしているのではなく、実際の農業生産をするための土地を爆買いしているのです。
この転換が始まったのが2016年頃からなのは暗示的です。
この2016年頃から中国の深刻な食糧不足は明瞭になり、食糧の爆買いを開始しているので、この土地の爆外時期と符号します。
NHK
これが中国の食糧安全保障政策であることは、その購入主体が政府出資の国営企業で占められていることでわかります。
つまり中国はかつての民間企業による土地ころがし目的から、農業生産のための外国土地取得に舵を切ったのです。
同上
農地取得の対象国は、もっとも多いのがアフリカ、ついで中南米の開発途上国が並んでいます。
「土地「輸出国」の多くがアフリカの貧困国に集中していることが分かります。なかでもコンゴ民主共和国は、世界全体での土地の売買の約8分の1を占めます。その他、南スーダン、モザンビーク、マダガスカル、エチオピアなど、アフリカのなかでも所得水準の低い国に「輸出国」が目立ちます。
その一方で、ウクライナやカンボジアなどは、件数が多いだけでなく、取り引きされた土地が国土面積の4パーセント以上を占める点で特徴的です。」
(六辻彰二『世界に拡がる土地買収』)
その結果、例えばカンボジアでは国土全体の4%、オーストラリアでは耕作可能面積の2.5%を中国資本が所有しているといわれています。
中国はさまざまなルートでオーストラリアに「静かなる侵略」(サイレントインベージョン)をかけてきましたが、そのひとつの側面は食糧の確保があったのです。
その中国資本の土地取得があまりにも急激だったために、その危険性に気がついたオーストラリア政府は、「投資目的の宅地買収が活発化すれば、住宅価格を押し上げることになりかねない」、「自国の食糧供給を脅かしかねない」といった懸念から、外国人の土地取得規制を開始しました。
「オーストラリアの場合、2017年に外国人の宅地購入(その87パーセントは中国人)にかかる税金が、最大で購入価格の8パーセントに引き上げられ、それに続いて2018年2月にはエネルギーとともに農業関連の土地購入に関する規制が強化され、農地を転売する場合にはオーストラリア人に優先的に販売されることなどが定められました」(六辻前掲)
このように中国の穀物の爆買いと土地爆買いは実は表裏一体のもので、中国農業の構造的な欠陥が原因です。
言い換えれば、中国はその「弱さ」故に海外に進出せざるをえないのです。
そして諸外国はその危険性に気がつき手を打ってきました。
しかしわが国はやっと重要施設周辺の調査に着手できる根拠法ができたばかりにすぎません。
ここでも私権の制限という憲法の制約が影を落としています。
よくメディアで中国の土地取得は投機目的だから安心しろという者がいますし、また自衛隊基地などの安全保障上の問題としてとらえる向きもあります。
しかし中国の土地爆買いの目的は、2016年頃からその目的を海外の食糧生産基地作りにシフトしています。
一帯一路もこの文脈で眺めると別の顔が浮かんできます。
彼らがアジア・アフリカの発展途上国から取り上げようとしているのは、港や空港だけではなく、食糧生産するための土地なのです。
中国は、国内の農業・畜産生産が限界に達していることを自覚しています。
原因は前回まで触れてきたような環境破壊や農民の流出などですが、もはや異業種参入でなんとかなる問題ではないところまで来ています。
これまでの強権的収奪政策によって、いまや中国農業は国家の重大なアキレス腱になってしまっています。
その対策として彼らは、単に国際市場から穀物や食肉を爆買いするだけにとどまらず、世界各所に穀物と畜産の生産基地を展開しようとしています。
まるでそれはかつてのナチスの「東方生存圏」( Lebensraum im Osten ) 構想のようです。
そしてこれは私たちにとっては、サイレントインベージョンそのものなのです。
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10億の民の胃袋を満たすために、外国の土地を爆買いしているなら、農地買収の波はまだまだ続きそうですね。中国は、極端な化学肥料、農薬の多用により土地が荒れていく。一方、日本は担い手不足、効率化と言う商業主義の波で、中山間地(里山)の農地が荒れていく。食と言う、人間が生きていくうえで一番大事だと思われる農業が衰退することに複雑な思いが湧く、シリーズです。
このシリーズを読んでいて、中国が農地を求めて外国へ出ていく姿が、何となくイナゴの大群が移動していき、それが通り過ぎた後に、荒れ果てた畑だけが残るイメージが湧いてしまいました。
投稿: 一宮崎人 | 2021年10月 7日 (木) 13時38分
自民党も既に問題を認識して久しく、2012年に「安全保障と土地法制に関する特命委員会」を設置し、約十年かけて本年6月に出来た法律が「利用調査と届け出制」を骨子としたゆる~い法律でした。
当初の立法案の主旨が換骨奪胎された原因は、中国様に敵対する政策を絶対に認めない公明党の憲法問題にすりかえた反対が原因です。
それと、北海道議会でも相当早くから問題にされていたのだけれど、県行政当局は「外国資本による大規模な買収は確認されていない」とするものでした。日本人や日本法人をダミー的に登記名義人にしたケースや売買の事実を未届にした場合は捕捉しきれません。
日本はハッキリと中国の「国防動員法等」に対応した土地安全保障法を策定するべきで、公明党による妨害を排除するべき時です。
二階=菅の公明党重視ラインが崩壊し、岸田さんの新自由主義的グローバリズム戦略からの転換もこの件では有効だと思われます。
遅きに失した感が否めませんが、力量不足の福田総務会長など取るに足らず、強力な甘利=高市ラインに期待したいです。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2021年10月 7日 (木) 13時48分
中共の電力不足が話題になっていますが、彼の国は既に電力輸入国だったのは知りませんでしたわ。
https://news.yahoo.co.jp/articles/c0444d6a06ce03cbb1e607a7bdc65fc6399b6c6d
ロシアに頭を下げることになった凹みも、虐めたはずのオーストラリアの石炭を使うことになる凹みも、取り戻したいでしょうね。
いっそ、石炭を、なんなら練炭もガンガン燃やして温暖化を促進する!そうすれば食料生産量は増える!くらい言えたら逆に清々しいのに。
独裁者の夢や見栄を実現するのに必要なものが国外にあるならば、そこの土地ごと自分のものにしてしまえ。
手に入れた土地に自国民を大量に放って、物と金の循環を自分たちだけのものにしてしまえ。怖いですね嫌ですね。
「ほどほど」が出来ない中共への対策をというと、海外の土地や物件取得でも公害でもお上りさん旅行でも、かつて日本は散々やらかしてきたのだから中国に寛容になれと、必ずいう人たちが出てきます。
けれど我が国と国民は、盛者必衰のツケも公害も国際マナー不足も、文字通り血の滲むような努力で克服してきました。
先にそれを経験した者の歴史が提示する失敗予防や克服のレシピには、彼の国は興味は全く無いようですから、我が国は致命的に寛容過ぎるところは直して、食い込まれないようにするしかないのです。
投稿: 宜野湾より | 2021年10月 7日 (木) 18時59分
いつも楽しみに拝読しております。
だから許せるというものではありませんが、戦狼外交という強面なやり方の裏には、何一つ自給できない焦りがあるのかもしれませんね。資源の不足と同様に、中国ではお金も不足しているようで、騒動になっている不動産企業では大手の恒大に加え、花様年や新力などの準大手がデフォルトし始めているようです。
ドル建ての「理財商品」で資金調達した債務に、ドルで利払いできない状態になっているようです。中国国内の人民元建てでは健全な財務内容だったとしても、人民元は基軸通貨ではないので、ドルの調達ができなくていきなりデフォルトになっているのではないかと推測しています。
食料とお金に似た構図があるように感じたのですが、ブログ主様のように根拠資料を示しての議論ではないことはお許しください。
投稿: 都市和尚 | 2021年10月 7日 (木) 21時33分