枝野氏、安全保障で馬脚をあらわしてしまう
安全保障分野は、抽象的に逃げる事のできないクソリアリズムの世界です。
軍事は技術と経験の集積ですから、間違っているかどうかはすぐにバレてしまいます。
立憲は昨日も書いたように、軸足を左の共産党に置いたために、よりによって配備が進む最新鋭のF-35戦闘機対して「時代遅れになった戦闘機」呼ばわりしてしまいました。
第5世代戦闘機を捕まえて「時代遅れ」ですから、第6世代はこの世に存在しないのですが、いかがいたしましょう、枝野さん。
要は防衛予算が多すぎると考えて削減するネタが欲しかっただけでしょうが、こういう具体論を言ってはダメです。
安全保障などは立憲が最も苦手とする分野なのですから、具体論に踏み込まずに上品にボカしておけばいいものを、具体的にF-35を名指ししてしまったらもう逃げられません。
枝野氏は、F-35の導入を決めたのが余人ならぬ自分たち民主党政権なことを忘れてしまったのでしょうか。
- 民主党・野田政権(2011年12月20日) F-35戦闘機42機の購入を閣議決定(全てA型)
- 自民党・安倍政権(2018年12月18日) F-35戦闘機105機の購入を閣議決定(A型63機、B型42機)
https://news.yahoo.co.jp/byline/obiekt/20211024-00264727
戦闘機の寿命は大変に長く、最低で30年、ときにはF-4のように半世紀も部隊で使われ続けるものです。
F-35の部隊配備が始まったのが2018年1月ですから、わずか3年で「時代遅れ」になってしまったとすれば、買い込んだ野田政権の責任が問われることになります。
枝野氏は民主党政権時には官房長官の要職を務め、この野田政権時にも閣僚だったはずですが、なにも覚えていないようです。
また高い安いということでいえば、最近導入を決めたスイスはこういう判断をしているそうです。
「F-35Aは総合的な実用性が最も高く圧倒的に安価」
(JSF10月24日)
その図抜けた性能と価格は、まさに追随を許さないもので、たちまち世界主要国の主力戦闘機の地位を獲得してしまいました。
世界各国は「時代遅れ」を我先に買っているのでしょうか。
たぶん枝野氏はじっくりとF-35を勉強しないで、リベラル業界界隈にいるわけ知りの言うことを鵜呑みにしてしまったのではないでしょうか。
このネタ元はどうやら、あの前田哲男氏のようです。
この人は安保法制や特定秘密法、ミサイル防衛などというと、必ず野党側招致の参考人として登場する人物で、「朝日の元帥」こと田岡俊次氏と並び称されるような左翼業界御用達の軍事評論家です。
ただ残念なことに、この人は旧社会党の顧問などをしていたという経歴からわかるように、軍事のイロハを知らないのが難点です。
たとえば、過去にはこんなことを言っています。
「米軍と自衛隊が平時から一体運用を図り、ミサイル防衛を強化しようとすれば、北朝鮮は軍拡に向かう危険がある。
中国との関係でいえば、政治による対話で緊張を解きほぐそうという外交努力がみえない。それができないから自衛隊を出動させようという発想がおかしい」(中国新聞2015年7月13日)
この人にかかると、日本が弾道ミサイル防衛をするから北は核軍拡する、ということになってしまいます。
頭がグルグルしますね。
オレがお前の家を放火しようとしているのは、お前が防火設備を整備しているからだ、ってことですから。
そもそも外交と軍事的抑止は矛盾する概念ではなく、軍事的抑止を準備しながら「緊張を解きほぐす外交努力」をするのが国際社会の常識なのです。
さて今回のF-35ですが、「時代遅れだ」なんて言い始めたのは、この前田氏です。
「「安倍政権が追加の導入を決めた最新鋭ステルス戦闘機。「F35A」105機と「F35B」42機で、機体の購入費と維持費に6.2兆円超かかる見通しだ。 ただでさえ高過ぎる買い物のうえ、米政府監査院が900件以上の未解決の欠陥を指摘しているポンコツ戦闘機なのだが、これに追い打ちをかけるような専門家の分析が出てきた」
(前田哲男『最新鋭F35戦闘機は時代遅れ」米国防専門家がバッサリ』日刊ゲンダイ2019年6月29日)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/257164
日刊ゲンダイの読者には、「安倍」というキイワードを見ただけで悪寒が走り、呪文にかけられたようになることでしょう。
こういう人の言うことを真に受けるのは勝手ですし、私は政治家がすべて専門家ではないので、あるていど間違ったことを言うのはしょうがないと考えています。
ただし、高いレベルの公人が間違ったことを言えば批判されます。
枝野氏は野党第1党の党首で、しかもこの選挙で政権選択を狙う立場にいる人がこんなことを発言すれば、政権をとればF-35戦闘機の調達を停止してしまう可能性があるとみられてもいたしかたありません。
現にそのようなケースがふたつ起きています。
https://trafficnews.jp/post/80376
共に自民党政権のケースですが、二人の防衛大臣が歪んだ情報を基にして、二つの大きな武器体系の調達を中止してしまったことがあります。
ひとつは石破氏が大臣だった時に、国産のF-2戦闘機の調達を中止してしまったことがあります。
130機の調達予定が94機で調達が停止されたために、丸々一個飛行隊の分の穴が開きました。
F-2はその配備当初、かなり評判の悪い戦闘機で、特に「主翼強度に問題があり亀裂が入る」「レーダーの性能が低すぎる」といった問題は繰り返し報道され、なかには急旋回が出来ない「欠陥機である」と報じるものもありました。
しかし、この欠陥機報道は部隊配備を始めるとピタリと止まりました。なぜでしょうか。
それは主翼の亀裂やレーダー性能の問題がでたのは、4機作られた試験機のひとつで、各種のテスト飛行をしている段階のことだったからです。
「試験において、F-2の主翼に亀裂が入ったことは紛れもない事実です。
しかしながらこの亀裂が生じたF-2は、4機が製造された試作機のいずれでもなく、飛行能力を持たない「全機強度試験機」と呼ばれる強度や耐久性を試験する目的で製造された機体であり、主翼の一点に偶然過重が集中したため想定外の亀裂が入ったことがその原因とされています」
(関賢太郎2018年5月22日『空自F-2欠陥機論の顛末 大きく騒がれた主翼のヒビ、貧弱レーダーは結局どうなった?』)
https://trafficnews.jp/post/80376
しかし、部隊配備される頃には、すべての問題が解決していたにもかかわらず、量産計画は打ち切られてしまいます。
量産打ち切りの理由を石破大臣は小型であるために拡張性がない、当初計画より高額になったと言っていましたが、その後もF-2は毎年たゆまぬ改善を続けてアップデートし続けています。
高額になったといっても、新型機が予算を上回るのは戦闘機開発の常で、他国のユーロファイター、F-22、ラファールなどでも起きていることです。
もうひとりは、河野大臣です。
彼はイージスアショアのブースターが基地内に落下しないから中止ということを言い出して、世間を唖然とさせましたが、実は軌道を変えて落下してくるイスカンダルのような弾道ミサイルに対応しないということをどこかで吹き込まれたようです。
変則軌道ミサイルはPAC-3で対応可能ですし、中国や北の発射してくる弾道ミサイルの大部分は放物線を描く通常のものが大部分な以上、イージスアショア計画すべてを中止するのは短絡以外なにものでもありません。
そもそも核ミサイルが落ち何万人が死に直面している状況で、ブースターのドンガラが敷地外に落ちたからなんだというのでしょうか。
この両人に共通するのは、議論の前提となる情報を正しく選択しないでそのまま政策提言をしてしまったり、防衛大臣ならばもっと始末に悪いことに防衛計画をそのものを大きく変更してしまうからです。
先日来ご紹介している村野将氏はこう語っていましたが、覚えておられるでしょうか。
「先の安全保障政策と憲法をめぐる議論にも通じるが、日本ではそもそも前提となる客観的な情報分析を軽視して、いきなり政策提言から始める人が多いことに原因がある。
正しい情勢判断は、その分野で必要な訓練を受けたプロにしかできない仕事であり、誰にでもできるわけではない。そうしたプロが客観的な情勢判断をすれば、分析結果はそれほど伸び縮みのあるものではなく、ある程度まとまった答えが出る。
それを前提として、複数の解決策を考えるというのであれば政策論争になるのだが、そもそも前提が間違っている中で、前提を無視して好きな政策を考え始めるのが問題だと思う」(村野将・岩間陽子 『日本の「抑止力」とアジアの安定と日本に欠けている戦略的コミュニケーション』)
日本の「抑止力」とアジアの安定 | 政策シンクタンクPHP総研
立憲のダメなところは、その分野の知見がないくせに、あるような顔して国会議論を進めてきた悪い癖があることです。
それがただの野党のうちは、また馬鹿言っているで済みましたが、政権選択を掲げた以上もうそういう甘えは許されません。
F-35については、私以上の適任者であるJSF氏が詳細に反論していますのでそちらをご覧下さい。
※立憲民主党枝野代表「時代遅れの戦闘機」発言の間違い(JSF)
https://news.yahoo.co.jp/byline/obiekt/20211024-00264727
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いつもお世話になっております。
ありんくりん さんは、いわば信頼できる町医者のようなものです。 大きな間違いはないだろうし、社会の良識とは何かを常に示してくれますので、とても助かります。
石破さんと軍装備導入の記事は、あまり知らなかった石破さんの一面を知ることとなり、また、航空機の導入後の諸対処なども知ることとなり、大変私にとっては有益なものでした。断片的なマスコミ報道では実態がわからないものですね。今後もこのような総括判断に資する記事を期待しております。
投稿: ueyonabaru | 2021年10月28日 (木) 04時45分
立憲は物理的な防衛力の向上が外交力に直結している世界の真実を認めたくない立場なので、前田氏とかの都合の良い論説しか受け付けたくないのでしょう。
でも、代替えが無人機とか言ってたので、単なる無知丸出しでもありますね。
いずれにしても日本の防衛には興味などなく、政権を目指す党として失格です。
ただ、石破・岩屋・河野等、ポピュリズムに走ったり、同じように左派的な誤謬を犯す大臣もあったので、その点は自民党にも反省してもらいたいもの。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2021年10月28日 (木) 08時23分
あっははは!
軍用機でも民間機でも初期のトラブルなんて当たり前。テストして改良し配備後も常にアップデートするのが当たり前だってのを誰も知らんのかね?
例えば自分の所有するクルマがマイナーチェンジしたり、リコールではない1つ前のサービスキャンペーンで改良されたりするのと同じですよ。
枝野の無知ぶりばかりが目立ちますけど、かつて福島瑞穂が国会で「MDシステム導入は、相手国への先制ミサイル攻撃だぁー!」なんて爆笑レベルの妄言を吐いてたのが懐かしいですね。
バックには前田哲男氏がいて、助言を立場上で勝手に解釈して、現実よりもイデオロギーを優先させてしまうという、実に残念な高学歴な議員さんたちがいます。
ミサイルディフェンス(MD)というごくごく初歩的な英単語すら理解出来なくなるほどにアタマが劣化する好例でしたね。
石破はやらかしてくれましたからねえ。自称ミリオタの防衛大臣でしたけど、無能!
F-2調達中止で防衛産業から手を引く企業がどれだけあったことか。。企業もボランティアではなく利益がトントン以上でなければ去って行くわけで。
F-2だと機種レドーム樹脂カウルを作ってた昭和産業が、予備部品分を納入した直後に防衛産業から全面撤退したし。
最近では96式軽機動車作ってたコマツまで撤退です。
河野太郎はある意味真実を言ってた(燃え残ったブースターが市街地にも落ちる)んだけど、そんなんでMDに大穴開けてどうすんのや!?というね。
それまでの防衛省や防衛装備庁の「基地敷地外には落下させない」という説明がデタラメだったんですけど、じゃあ頭上に核弾頭かもしれない弾道弾が飛んできた状況で迎撃しないのか?というバカバカしさです。
かつての空自高射隊のナイキJなんて、ブースター重量が2トンでしたよ。
SM-3のブースターのドンガラなんて、たかが80キロです。やや大柄なオッサンが降ってくる程度です。そりゃあ市街地に落ちれば被害も出るでしょうけど、前提のミサイル攻撃(核も含むかも)な状態なら単純に損得考えて配備するのが当たり前でしょうに。
自民党や旧民主党の歴代大臣がちゃんと説明しないで「市街地外に落下させる」とか言ってるのが全く論外です!
投稿: 山形 | 2021年10月28日 (木) 10時10分
失礼。間違いました。
昭和産業(小麦粉と植物油)じゃなくて、プラスチック成形大手の昭和化工です。
すいませんでした!
投稿: 山形 | 2021年10月28日 (木) 10時27分