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2021年10月21日 (木)

「核の傘」だけでは不十分だ

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昨日に続いて、もう少し「殴り返す力」について考えていきましょう。
今回は朝日新聞編集委員・峯村健司氏に登場願って、議論を進めていくことにします。

峯村氏は朝日の記事で、昨日紹介した米ハドソン研究所研究員の村野将氏にインタビューをしています。

峯村氏は長年中国特派員として中国の軍拡をウォッチしてきた人間だけに、朝日とは思えない具体的な内容となっています。

さぞかし築地にはいづらいことだと ご拝察します 。

※峯村健司『ミサイル増強すすめる中国軍、なのに具体的な議論ができない日本の問題』 朝日新聞グローバルプラス

https://globe.asahi.com/article/13334397

さて、村野氏はこのなかで日本の安全保障論議がどうしてズレていってしまうのかについて、このように述べています。

「先の安全保障政策と憲法をめぐる議論にも通じるが、日本ではそもそも前提となる客観的な情報分析を軽視して、いきなり政策提言から始める人が多いことに原因がある。
正しい情勢判断は、その分野で必要な訓練を受けたプロにしかできない仕事であり、誰にでもできるわけではない。そうしたプロが客観的な情勢判断をすれば、分析結果はそれほど伸び縮みのあるものではなく、ある程度まとまった答えが出る。
それを前提として、複数の解決策を考えるというのであれば政策論争になるのだが、そもそも前提が間違っている中で、前提を無視して好きな政策を考え始めるのが問題だと思う」(村野前掲)

これは私も常々感じていることで、今回の総裁選においても河野氏と高市氏の議論が空中戦になってしまうのは、双方共に突き放した情報分析がないためです。
河野氏は頭から高市氏の敵基地攻撃論を否定してしまい、日米同盟の強化というそれ自体は正しいとしても、それだけでは毒にも薬にもならない議論に逃げてしまいました。
イージスアショアを中止に追い込んだ前防衛大臣が、「日米安保任せ」ていどしか対案しかもっていないことに驚いた国民も多かったと思います
一方の高市氏は敵基地攻撃能力を前提とすることまでは正解でしたが、電磁パルス弾という専門家ならまず言わないようなことを言ってしまいました。
電磁パルス弾は離島のように狭い地域に使用されるもので、どこにいるのかさえわからない北の弾道ミサイル発射装置相手に使うものではありません。

また技術的問題だけではなく、米国は日本が独自に開戦に踏み出す能力を持つことを嫌っています。
自らが巻き込まれることが必至な条件で、日本をフリーハンドにさせたくないからです。
ですから、米国は日本が敵基地攻撃能力を保有を認める条件として、あくまでも米軍との共同運用を言い出すことでしょう。

つまり、日米同盟の枠内で敵基地攻撃能力を保有するというのが大前提です。

これは大事なことなので、念頭において置いてください。

なお公明党の山口氏は敵基地攻撃能力を「古臭い思想」と一蹴してみせましたが、こんなことばかり言うようだと、やがて維新にその座を奪われることになりますよ。
改憲にしても、これから険しくなる一方の安全保障環境への対応にしても足をひっぱり続けたのはこの党です。
もはや公明党こそ閣外協力ていどに位置づけるべきです。

これらは情報分析が甘いからこうなるのです。
基礎となる情報分析が甘いために、北や中国が日本に核ミサイルを向けている今、日米同盟をどのようにしていくのか、なにをすべきなのかが河野氏はなにも語れていません。
高市氏は、もっと大きな状況を語る能力があるにもかかわらず、ツールでしかない兵器から提言してしまったために不毛な議論になってしまいました。

では、議論を整理しながら進めていくことにしましょう。
まず私たちが対しているほんとうの脅威はなにか、ということから始めましょう。
それは北朝鮮ではなく、中国です。北は成長著しい不良少年のようなもので、この国が一人前のならず者国家になりきるにはまだしばらく時間がかかります。
仮になったとしても、その国力からいっても、その脅威度は隣の中国の足元にも及ばないはずです。

今、日中間に起きているのは、著しい軍事バランスの不均衡です。
もし中国が日本に打撃を与える気になれば核兵器など使う必要はありません。
核のダンビラを振り回したら収拾に困ることになるし、通常弾頭を雨あられと打ち込むことで、自衛隊の主要な基地はほぼ粉砕され、社会インフラや政治拠点の大多数が破壊されてしまうことでしょう。
わが国の航空基地には三沢以外にはシェルターひとつないのですから、赤子の手をひねるようなものです。
もちろんPAC3などがミサイル防衛に当たるでしょうが、そもそもPAC-3は広域防衛用ではなく、拠点防衛のために作られているためには発射装置も迎撃ミサイルもまったく足りません。

図表2:西太平洋地域を射程に収める中国のミサイル戦力

村野氏による

では、どうしてこうも日本がのんびりした顔でいられるのでしょうか。
もちろんそれは河野氏に言われるまでもなく、在日米軍が控えているからです。
その米軍は日本に替わって「なぐり返して」くれるかというと、そうとうに難しいのではないかと村野氏は見ます。

「実は日本のミサイル防衛は、北朝鮮対処のためのものだ。中国の大量のミサイルを完璧に防御することは物理的にも財政的にも不可能だ。中国が大量の通常弾頭ミサイルで日本を攻撃したとしても、米国はいきなり核反撃することはないだろう。しかも現段階では米国は即座に反撃できる通常弾頭の中距離ミサイルを持っておらず、双方には大きな差が開いている。日米は劣勢にあるということを自覚する必要がある」
(村野前掲)

図表1:中国の各種ミサイルの最大射程/到達距離
村野氏による

そもそも米国は殴り返したくても、中国を射程に入れた中距離弾道ミサイルを一発も持っていません。

「中国軍は日本全土を射程に収める中距離ミサイルを2千発ほど持つと言われています。一方の米国は昨年8月まで、ロシアと締結していた「中距離核戦力(INF)全廃条約」によって射程500~5500キロの地上配備型の中距離ミサイル保有を禁じられていたために保有していません。双方の格差は広がるばかりです」(峯村前掲)

米国がやるなると、虎の子の空母打撃群やグアムからの長距離爆撃機を使うしかなくなります。
しかしその時点でグアムや嘉手納、三沢が無事でいるという保証はありませんし、東アジアに配備されている空母打撃群は1個にすぎないために、反撃力は相応のものしか望めません。
しかも空母機は沿岸部しか攻撃できないので、大陸奥深くから撃って来る中距離弾道ミサイルには非力です。

「いま現在でも、また予見しうる将来においても、米軍が全勢力を結集して戦えば、人民解放軍に負けることは考えにくい。しかし、台湾や尖閣などをめぐって、短期間で行なわれうる小規模な現状変更行動に対し、現状で初動対処に動員できる米軍の戦力は、日本やグアム、それに洋上で訓練を行なっている空母やイージス艦など、少数の前方展開戦力にかぎられている」(村野前掲)

いや、米国には中国を射程に入れた大陸間弾道弾(ICBM)があるではないか、という声が聞こえます。

たしかにそのとおりですが、ICBMは全面核戦争に備えたものであって、日中間の紛争に使うには大きすぎるのです。

「現在の日米の安全保障体制において、米国の拡大核抑止=「核の傘」の保証は、最終的な歯止めとして機能している。しかし、核報復の脅しは、あらゆる挑戦を思いとどまらせる万能薬ではない。
中国の行動パターンをみると、軍による武力行使には至らないグレーゾーンの行動に象徴されるように、相手の出方を見極める低烈度の挑発からはじまって、徐々に相手の利益を浸食し、既成事実を積み上げていくような機会主義的かつ漸進的な拡張行動をとることが多い。こうした行動を抑止するには、「核の傘」だけでは不十分だ」(村野将・岩間陽子 『日本の「抑止力」とアジアの安定と日本に欠けている戦略的コミュニケーション』

日本の「抑止力」とアジアの安定 | 政策シンクタンクPHP総研 

また中国のとる行動は常にあいまいです。
ロシアのように直截にクリミアに進攻してしまうという荒々しい手段ではなく、5年くらいの時間を使って気がついてみれば、人口島ができており、軍港や航空基地があったことを発見するというのが、いつものパターンです。
南シナ海の人工島は2014年から始まり5年ほどでその全貌が見えました。
その間、中国は平和目的であるとか、国際的開発を匂わせてみたり煙幕を張りながら、おもうとおりの軍事要塞化を仕上げてしまいました。

これを見ていた国際社会は、国際仲介裁判所に提訴したり、駆逐艦で航行の自由作戦をすることくらいしかできませんでした。
要するに、無力だったわけです。

「東シナ海で領海侵入を繰り返す中国公船や、南シナ海での埋め立てを続ける浚渫船に対して、これらを核攻撃するといった脅しには信憑性がないからである。他方で、中国の低烈度の現状変更行動は、海空戦力やミサイル戦力、さらには核戦力の近代化による自信に裏打ちされるにしたがって、より大胆になってきている。
だからこそ、中国の漸進的な現状変更を思いとどまらせるには、海上保安庁の巡視能力だけではなく、自衛隊による各種通常戦対処能力を経て、最終的には米国の核戦力まで連なる「切れ目のない」さまざまな抑止手段をもっていなければならないのである」(村野前掲)

それでは私たちは、このような狡猾な中国を相手にどうしたらよいのでしょうか。
それがルトワックが言うように、「やったら必ず殴り返される」ことを中国にしっかり認識させることです。
戦争を仕掛けるのではなく、戦略的抑止の能力を獲得し、手を出させないこと、仮に手を出したとしても目標を達成できないことを理解させることです。
これが戦略的抑止です。

長くなりましたのでもう一回続けます。次回は具体論となります。

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コメント

高市さんがいきなり「EMP弾」なんて言い出した時は、はあっ?誰に吹き込まれたの?と思いましたが···全体の国防論としてマトモなのに、EMP弾ばかりが独り歩きしてネットが沸いたのは残念。
まあ、その私もEMPと聞いて「超高高度核爆発」を真っ先に思い付いたんだけど、それは日本の核武装を意味します。
逆に中国やロシアは日本に対してその攻撃能力があります。1発で日本全体のインフラが死にます。高性能な半導体使ってるスマホやパソコンに電力網や各種のコンピュータ制御系が全滅しますから。
まあ、近い国がやると自分のトコにも被害が出ますけど。。

殴り返す力かないが故に戦略が極めて限定される日本についての記事を興味深く拝読しています。
戦略的コミニュケーションとは、「ターゲット・オーディエンスの認識に影響を与え、その行動を特定の方向に誘導することにより、国家の安全保障政策の実現を後押しするための、関係する組織間で良く調整され、同期された、政府の対外的な情報 発信及び政府としての行動」である。
https://www.mod.go.jp/asdf/meguro/center/20_stdy/arpw06/08sc.pdf
ここには各国のSCについての姿勢もざっと書かれていて個人的に良い補足になりました。
商売やプレゼンまみれの仕事に追われている方々はご自身の営業スタイルとの相似をお感じになるのではと思います。
コミニュケーションという表現を使う時点で、おしゃべりはターゲット戦略へのとっかかりで交流発信のぶつけ合いだというのが諸外国の公の会話の大前提でもあります。
その上に何でもてなしただの一緒にやったあれこれや、縁故の付き合いの積み重ねが乗っていく。
それ以前の問題として同盟も含めた具体的な力を持っている必要があります。
日本が何を提唱しても経済包括会議にしか入れないし武器の話は子供に聞かせないね、もう寝る時間だよと扉を閉められてしまいます。
安倍政権で日本政府と自衛隊は部屋と部屋の間のクロークまでは入りましたが、部屋に入るには野党が大好きな所謂「国民の理解」が必要です。やっとここまできた感じです。
武装や法整備、国内議論の姿など、持ち方だけでなくどう見せるかも重要なのだと思います。
打算や企みを嫌悪感なく仕事のように見つめる力は私達には備わっている事を、政府に伝えるのが私達からの戦略アプローチです。
明日の具体策も楽しみにしております。

 ネットやSNSでは結構衝撃的な「中国人民解放軍対日攻撃概念図」っていうのを良く見かけます。。
公式機関から発出されたものではありませんが、米政府関係者が言う「中国は、すでに各所に日本向けミサイル1900発を配備済み」との証言と平仄が合い、防衛白書が示す具体的な内容の一部と見る事が出来ると思います。
これも記事中でいう一つの「情勢判断」で、さらに初歩的な現状認識です。このような事実の共通認識なくして情勢判断はなく、議論の土台も形成されませんね。

なお、これから敵基地攻撃能力を持つ事に「遅すぎる」という事はなく、むしろ最適にして最後のタイミングではないかと思っています。
具体的には明日の記事待ちですが、巡航ミサイルやトマホーク800基程度で「米国の核戦力までの「切れ目」を埋める」事が可能と考えられ、それには1000億円程度(設備費のみ)で賄えるとの見立てをしている専門家もあります。

> そうしたプロが客観的な情勢判断をすれば、分析結果はそれほど伸び縮みのあるものではなく、ある程度まとまった答えが出る。(村野)

 なるほど、そのとおり。

> イージスアショアを中止に追い込んだ前防衛大臣が、「日米安保任せ」ていどしか対案しかもっていないことに驚いた国民も多かったと思います(ありんくりん)

 防衛大臣も務めた方であれば、もっと見識はあると思っておりましたが、大変に残念です。もっとも、小泉さんのような方もいるので河野さんが最低レベルとも言えませんが・・・・・。

> 中国の漸進的な現状変更を思いとどまらせるには、海上保安庁の巡視能力だけではなく、自衛隊による各種通常戦対処能力を経て、最終的には米国の核戦力まで連なる「切れ目のない」さまざまな抑止手段をもっていなければならないのである」(村野前掲)

 まったくおっしゃる通り。

> たしかにそのとおりですが、ICBMは全面核戦争に備えたものであって、日中間の紛争に使うには大きすぎるのです。(ありんくりん)

 日本が核を持てば確かな抑止力にはなりますが、それでもいきなりこれを使うことはできないので、まず通常戦で防衛戦を戦うということですね。納得です。

> 中国が大量の通常弾頭ミサイルで日本を攻撃したとしても、米国はいきなり核反撃することはないだろう。しかも現段階では米国は即座に反撃できる通常弾頭の中距離ミサイルを持っておらず、双方には大きな差が開いている。日米は劣勢にあるということを自覚する必要がある」(村野前掲)

 まず中距離ミサイルを、国産でつくってみる必要がありますね。

 明日の記事が楽しみです。

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