中国は新戦略兵器削減条約に参加しろ
11月3日、米国国防総省は、中国の核戦力は今後急速に強化され、核弾頭数が2027年までに700発、30年までに1000発に達する恐れがあると発表しました。
「【ワシントン=中村亮】米国防総省は3日、中国の軍事力に関する年次報告書(2021年版)をまとめた。中国の核弾頭保有数は30年までに少なくとも1000発と、20年時点の保有数の推計である200発から5倍に増えると見積もった。ロシアを交えた軍拡競争が一段と激しくなる恐れがある。
20年版の報告書では「(200発から)10年間で少なくとも2倍」になるとしており、わずか1年間で中国の核開発が想定を大幅に上回るペースで進むと判断したことになる。国防総省高官は核弾頭を攻撃目標まで運ぶミサイルの発射設備や爆撃機の開発計画などを踏まえ、見通しを引き上げたと説明した」
(日経11月4日)
日経
●世界の現在時点での核弾頭数
・総数3750発(うち1389発が実戦配備)
・米国・・・5800発/20年→5550発/21年
・ロシア・・・6375発/20年→6255発/21年
・中国・・・320発/20年→350発/21年→1000発/30年(推定)
出典不明
出典不明
数量的には米露のほうが圧倒的に多いので、中国自身こう言っています。
駐日中国大使館『中国の核兵器と核軍縮政策』
https://www.mfa.gov.cn/ce/cejp//jpn/jbwzlm/zgbk/gfzc/t62868.htm
「中国の核兵器保有数はずっと比較的低いレベルに保持され、その規模、構成および発展は中国の積極的防御の軍事戦略·方針と一致している」
中国が言うように、たしかに長距離核兵器については、中国の言うとおり米露に比較して低い水準に抑えられていたのは事実です。
しかし、習近平政権になって核弾頭は増加傾向にあります。
実は米露はこんな核弾頭の増産自体をやりたくてもできません。
下図をみればお分かりのように、中国(最上部の薄緑線)は2010年からの10年間一個の核弾頭の削減も行っていないに対して、米露(米国青線、ロシア赤線)は削減し続けてきました。
なぜでしょうか。
世界の核兵器保有数(2019年1月時点) | 国際平和拠点ひろしま
これは米露が新戦略兵器削減条約(新START)によって削減することが義務づけられているのに対して、中国が核軍縮条約の枠外にいるからです。
そもそも、ほんとうに中国の保有する核弾頭数が320発なのかすら判らないのです。
上図の国際平和拠点ひろしまが作成した図では公表された50発としていますが、これは米国防総省の300発の6分の1にすぎません。
どうしてこう大きな差がでるのかといえば、米露は相互査察によって確認された正確な数字であるのに対して、中国の数は中国の公表数字でしかないからです。
つまり核軍縮するための基礎数字自体が、中国においては闇の中です。
「中国、イスラエルは、冷戦終了とは関係なく保有し続けている。特に中国の核保有数の推定は確度が低いと思われ、かなりな量を保有し、しかも増加させていると思われる。中国が公表する軍事予算にしても、実際の1/3以下というのが専門家の指摘」
※『核軍縮・核廃絶のために・核兵器保有国・核兵器保有疑惑国・核兵器を開発しようとした国』 一般社団法人 原子燃料政策研究会
http://www.cnfc.or.jp/j/state/
また、米露は多弾頭(MIRV) に条約で5発までと制約がかけられているのに対して、中国はその倍搭載していると見られています。
多弾頭(MIRV) 中国、北米全域射程の新型ICBMを近く配備か 読売新聞 中国の軍事
多弾頭は、弾道ミサイル1基で中国ならば10発の核弾頭を放出しますので、一発の核ミサイルでで日本の都市10箇所を同時に核攻撃することが可能です。
ですから公表された核弾頭数や弾道ミサイル数だけを見ても実態はつかめません。
このようなことは、すべて中国が核軍縮の枠組みへの参加を拒んでいるために起きたことです。
しかもその核ミサイルを発射する権限を一元的に握っているのは、中国共産党です。
「中国の核武装力は直接、中央軍事委員会の指揮に置かれている。中国は核兵器の管理に対し極めて慎重かつ責任ある態度をとり、厳格な規則、制度と予防措置を確立して、核兵器の安全と信頼性を確保している」
(駐日中国大使館前掲)
この中国自身の説明でわかるように、発射権限は中国政府にはなく共産党中央軍事委員会です。
そのトップの中央軍事委員会委員長こそが習近平なのです。
中国の政治体制が集団的指導体制からひとり独裁に変化する中で、最終的にはひとりの手の中に発射ボタンがある、というのが中国の核兵器システムです。
これは恐ろしいことではありませんか。習がその気になれば、ひとりで核戦争を起こせるのですから。
ところで11月5日に、新戦略兵器削減条約(新START)が期限切れを控えており、米露両国は5年延長することで合意しました。
米国は中国に対して、今までなんどとなくこの核軍縮の枠組みに参加するように求めてきましたが、ナシのつぶてです。
戦略核を保有する国がこの3カ国しかない以上、有効性を持った核軍縮の包括的枠組みを作るためには、中国を国際社会の圧力でなんとしてでも参加させねばなりません。
ところで、新戦略兵器削減条約(新START)はこのようなステップで進められています。
※外務省 「核軍縮検証」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/dns/ac_d/page22_002633.html
この条約の有効性は単に削減数を決めただけではなく、いくつもの段階を踏んで互いの核弾頭の数量、配置場所、運搬手段を明らかにし合うという信頼醸成措置が大きく高まったことにあります。
そのために、核弾頭を密かに隠し持っていないかを検証する相互査察を実施し、正しく約束に沿って削減されて核弾頭が解体されたかを検証し合います。
米ソ(露)は、1991年7月の条約締結以来、実に30年に渡ってこの信頼醸成措置をし続けてきました。
だから米露間で核戦争が起きないとは言いませんが、その確率はきわめて低くなったとはいえるでしょう。
その信頼醸成プログラムとはこのようなものです。
「近年では,核軍縮のための国際約束に規定される義務を締約国が遵守していることを確保する「検証可能性」は,「不可逆性」の担保(いったんとられた核軍縮措置が後戻りしないように確保すること)及び核戦力の「透明性」の向上とともに,核軍縮プロセスを進める上での3原則として位置づけられている」
(外務省前掲)
「検証可能・不可逆性・透明性」という核軍縮のキイワードはどこかで聞いたことがあるでしょう。
トランプが北朝鮮に突きつけた非核化がこの3原則に則っていましたね。
核軍縮は「核からの解放」を祈願する宗教儀式ではないので、具体的にこの3ツが重要な条件となります。
●検証可能性、不可逆性、透明性向上の原則
(Principles of Verifiability, Irreversibility and Transparency)
国際合意に基づき軍縮を着実に進めるに当たり、重視される基本原則。
検証可能性は、締約国が条約義務を誠実に履行しているかどうか、また合意に基づいて申告された内容が正確であるかどうか、客観的に確認する措置が担保されていることを意味する。
不可逆性は、条約に基づき一度廃棄された兵器が再び廃棄前の状態に逆戻りしないよう不可欠な措置を講じること。例えば、核兵器を廃棄・解体した後に生じる核物質や核爆発装置が軍事目的に再利用されないよう物質を転換する、装置を破壊するプロセスを指す。
透明性の向上は当時国間の信頼醸成措置(CBM)に極めて重要で、国際機関に兵器の数や内容を申告したり、検証措置の充実を図ったりすることで実践される。
※安全保障用語
http://dictionary.channelj.co.jp/2018/18092504/
具体的には米露は査察官に対していかなる拒否権も持てず、要請に従って自由にいかなる場所でも査察を許可せねばなりません。
このような核弾頭に対しの情報を完全にオープンにすることが、核戦争回避への大きな一歩だったことを米露は知っていたのです。
一方、中国は核を威嚇には使わないと言っています。
「中国が少量の核兵器を保有するのは全く自衛からの必要である。中国は先に核兵器を使用せず、非核兵器保有国に対し核兵器を使用しないか、または核兵器を使用すると威嚇しないことを約束している」(駐日中国大使館前掲)
残念ですが、ただの主観にすぎません。
中国が口で言っているだけのことで、「威嚇しないと約束している」といってもそれを信頼できる担保がありません。
担保とは、先ほどの国際社会が認めた軍縮のプロセスに参加し、その信頼醸成の仕組みに従うことです。
それをしないで信頼しろと口で言われただけでは無理というものです。
現に、今の中国ほど軍事的威嚇を周辺国にしている国はないではありませんか。
その威嚇が周辺国に恐怖をまき散らしているのは、そのバックに核兵器という絶滅兵器の存在があるからです。
中国が北西部でICBMサイロ約120基を新たに建設中 戦略核増強で ...
長距離核兵器については言うとおり米露に比較して低い水準でしたが、この国防総省の報告書が指摘しているのは、現在きわめて危険な核兵器の増強が行われており、30年代には米露に並ぶ核太国になるという危惧です。
違うと中国が主張するなら、新戦略兵器削減条約(新START)の枠組みに入り、相互査察を認めることです。
具体的には、今のように「検証可能・不可逆性・透明性」を確保するために、このようなプロセスが必要です。
今はただ、うちの核兵器は防衛用だと言っているだけですが、それを検証可能にするために、透明性を持って開示し、条約に沿って核弾頭が不可逆的に解体されたことを明らかにせねばなりません。
そのためにまず必要なことは、まず中国軍の核兵器保管施設へIAEAの専門家の立ち入りを認め、その数量、種類を明らかにすることです。
現況、いくら少ない数しかないと言い張っても、それは客観的に確認されたものではありません。
いかなる種類の核弾頭が、いかなる弾道ミサイルに搭載され、いかなる場所に、どれだけの数保管されているのかを開示してもらわねばなりません。
まずは、中国にこのスタート台に乗って情報を開示してもらわないことには、話が始まりません。
核軍縮において決定的に重要なプロセスはこの査察にあって、いったん相互検証が不可能になってしまえば、互いに見えにくい形での影の核軍拡が始まるかもしれないからです。
新STARTは大陸間弾道ミサイル(ICBM)などに搭載する戦略核弾頭の配備数を双方が1550発以下に制限することを柱とし、ICBMや戦略爆撃機などの運搬手段の数にも上限を設けています。
もうひとつあった米ソの中距離核戦力(INF)廃棄条約は、2019年に廃棄され、今や世界の核をコントロールできる枠組みは唯一新STARTのみとなりました。
これが失効すると、世界には核軍拡の歯止めが一切なくなります。
非核国際NGOは、いつまでも核兵器禁止条約などという遊戯に興じていないで、新戦略兵器削減条約(新START)の枠組みに参加することを中国に強く要求するべきです。
そういうくだらない遊びは、日本ではなく北京でやって下さい。
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中国は、国益や自国の政策に反する国際ルールを公然と拒否する姿勢を続けて久しいです。打ち続く国際秩序への挑戦は、もう疑いようもなく独自の文明圏の建設に向けた意思の強固なあらわれです。
それが習の言う「中華民族の偉大なる復興」=「中国の夢」であって、続けて習は「その実現は「世界一流の軍隊」によって達成される」としています。
日本はRCEPやなんかで、まだルールを用いて中国をカタにはめようとしていますが記事中の核に関する詭弁と同じ事で、そうした信頼に基づく方向性は(特に防衛政策では)まるで役に立たないと思います。
先日のワシントンポストで「韓国の核保有への準備は既知の事実であって(それを米政府は容認するカタチで)、6か国(プラス台湾)での核バランスが重要」との記事がありました。
そして、「日本が核武装を行わないならば、中国の属国になる」とのくだりもあった。米国の「核の傘」が無効化しているという前提の話なので主流的な説ではないとしても、示唆に富んだ重要な指摘です。
それにしても、ここに来てなお「核兵器禁止条約」などとのたまっている連中は、私の中で「単なるドリーマー」ではない疑念さえ頭をもたげてます。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2021年11月 6日 (土) 14時26分
改めて慎重に書かさせていただきます。
山路様のコメントはこのブログ共々にまさに知の宝庫ですね。いつもありがとうございます。
かねて私を指導してくれた方はもう数日終戦が遅れたら特攻隊となっていた筈の方でした。その時々の厳しい状況にあっても自らの利益をあえて捨てて、その力で地域の利益のため尽くされた方でしたが、その経験からか中国人と朝鮮人には大変な嫌悪感をもっていました。
単純な利己的な人たちは国が違っても同じ仲間。まさに自民党にもいる親中派とは、そういう人たちですね。
投稿: R | 2021年11月 6日 (土) 19時23分