「新たな議長案では、排出抑制対策を講じていない石炭火力について「段階的な廃止に向けた努力を加速する」と、前回の議長案になかった「努力」の文言を入れて表現を弱めた。日本政府関係者によると、これまで反発していた石炭への依存度が高い中国やインドなどに配慮して修正されたとみられ、日本も「許容できる内容になった」という。COPの合意文書で石炭の制限に関する文言が盛り込まれれば極めて異例だ」(読売11月14日)
グレタさんなどのNGOはスッキリ「廃止」と宣言させるのが目的だったのでしょうが、そういう表現をとると日本のような低排出炉に努力している国は報われませんので、この合意から離脱するしかなくなります。
そもそも岸田首相がわざわざ日帰りのようにしてグラスゴーまで飛んで演説したのは、この日本の誇る低排出炉を支援しましょうという申し出だったのですが、底意地の悪いグリーンピースから化石賞などをもらってしまいました。
ホント馬鹿だね、真面目に考えていない。
少し考えれば、今の世界でCO2削減するために最も有効な手段は、日本の低排出炉と置き換えていくことなのにね。
環境NGOはスローガンでしか考えないんですよ。
そこで「廃止」という文言は「排出抑制対策を講じていない石炭火力」となり、さらにはにそれも無理だというので「段階的」が付き、これも難しいので「廃止に向けた努力を加速する」という努力義務にまで「後退」しました。
骨抜きと言えば骨抜き。現実的といえば現実的。
その代わり現実的すぎて、わざわざCOPを開いて世界中から人を集めた意味がなくなりました。
これがグレタさんのいう「無内容」という意味です。
ただし無内容になったおかげで日本にとってやや有利な条件となり、日本の代表団が「これなら飲める」と言っていたのもわかります。
なぜなら、既に日本の石炭火力は世界のどの国よりも「抑制対策」をとっていますし、アンモニアを使用するなどの新技術も続々と登場しているからです。
要するに石炭火力でもCO2バラ撒かなきゃいいんでしょうと言うわけで、10年後までには残存する旧式な火力発電はすべて新型の世界でもっともCO2排出量が少ない炭素低排出炉に置き換えられていくことになります。
竹原火力発電所
「電源開発(Jパワー)では、老朽化した石炭火力発電所の順次フェードアウトを検討する一方、石炭とともにバイオマスやアンモニアを混焼することで発電効率の向上と低炭素化を図っている。
昨年6月に稼働した最新鋭の竹原火力発電所(広島県)新1号機は、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱効率が48%。石炭を微粒子に粉砕して燃やす方式では世界最高水準だという。
「効率を上げることで少ない量の石炭で済み、CO2排出量が少なくなる。石炭の代替のバイオマスなどを入れれば、さらに排出量を減らせる」と同社広報部は説明する(ZAKZAK 2021年11月14日)
「火力発電の効率を向上させる方法のひとつに、発電に使う蒸気を通常よりも高温・高圧にして出力を高める技術がある。「超々臨界圧」と呼ばれるもので、この方法でも従来の石炭火力と比べて発電効率を5ポイントくらい向上させることが可能になる。
竹原発電所の新しい設備は超々臨界圧を採用して、60万kWの発電能力を発揮する一方、CO2排出量を従来よりも10%以上削減できる見込みだ。
石炭に加えてバイオマス燃料を年間に4500トン混焼させてCO2排出量を抑制する。2014年6月の着工を予定していて、6年後の2020年9月に運転を開始する計画である」(スマートジャパン2013年11月19日)
参考 国内発電所向け 超々臨界圧石炭火力発電ボイラを受注 ~国内最高の蒸気温度条件 世界最高水準の石炭火力発電技術~|資源・エネルギー・環境|2015年度|ニュース|株式会社IHI
一方、インドの事情は日本とは異なっています。
インドは低排出炉の技術を持たないうえに、今世界的石炭価格の上昇と供給逼迫のために電力供給がピンチに立たされています。
電気が不足すると即大停電です。
上図のようにひとつに結ばれた統合送電網を持つヨーロッパなら、どこか別の国の電気を持ってくればいいのですが、アジアはそういうわけにはいきません。
ドイツは脱原発で電力不足を起こすと、原子力大国のフランスから電気を分けてもらっていました。
逆に再エネが電気をつくりすぎると、無理やり周辺国に流して顰蹙を買っていました。
なんのことはない、グレタさんの故郷ヨーロッパでは電気は単なる貿易商品なのです。
ですから、脱炭素で電力不足をきたしても、隣から借りてくればいいわけです。
その意味で脱炭素をいえるのはヨーロッパだけの特権のようなものなので、そんな国境を超えた送電網を持たないアジアとは根本的に違います。
それを忘れて、ベタでヨーロッパ人の理念を(しかも間違った)を押しつけないでいただきたい、そうインド人は考えているはずです。
「インドで電力不足への懸念が高まっている。石炭在庫の減少で火力発電所の半数以上で電力供給が可能な日数が3日を切った。経済再開によるエネルギー需要の急増や石炭価格の上昇が背景にある。中国に続いてインドでも電力不足が深刻化すれば、世界的なサプライチェーン(供給網)の混乱に拍車をかける恐れがある。
英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、インドに135ある火力発電所の半数以上で石炭在庫が3日分未満となった。発電所全体では1日時点の石炭在庫は平均4日分と、8月初めの同13日分から大きく減少した。ロイター通信によると、インドでは電源構成に占める石炭火力発電の割合が約7割にのぼる。
需給逼迫の背景にあるのが、世界的な石炭価格の上昇だ。インドでは新型コロナウイルスの感染者が減少したのに伴う経済活動の再開で、エネルギー需要が急増した。
8~9月の電力消費量はコロナ危機前の2019年同時期を上回ったが、価格高騰で石炭の輸入量を絞っていた。政府系の石炭大手コール・インディアが8割を占める安い国産石炭の供給も追いついていない」(日経 2021年10月4日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB040ZW0U1A001C2000000/
![Photo_20211115150801 Photo_20211115150801](https://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/images/photo_20211115150801.png)
日経
今後、間違いなく石炭と原油の国際価格は高値に貼りついたままとなるでしょう。
COP26で、もし仮にグレタさんらが喜ぶ原案どおりに「30年代までに石炭は廃止」などと決議された場合、以後原油井戸や石炭鉱山に投資するものは皆無となったはずです。
最終決議の「削減」でも同じ。
いつかそのうち誰かがこのCO2悪魔退治論のいかがわしさに気がつかない限り、自ずと石炭・原油生産の先行きは定まってしまったのです。
ところで、このCOP26にはもうひとつ裏話がありました。
これが開かれたのは、スコットランドのグラスゴーに決まったのは、このスコットランドが英国でもっとも再生可能エネルギーへの切り換えが進んでいる地域だったからです。
英国はここをショーウィンドーにして、環境再先進国をアピールしたかったようです。
スコットランド・オークニー沖の潮力発電試験機
「スコットランド北部沿岸の島々は再生可能エネルギーへの切り替えを進めている。オークニー沖で潮力発電機の試運転を続けているのは、スタートアップ企業「オービタル・マリン・パワー」だ。
「O2」と名付けた発電機のプロペラを海中の潮流で回転させ、約2000世帯分の電力を生産する。「ここは毎時5億トンの海水が通過しています。(略)
その一つが、英電力大手SSEの再生可能エネルギー子会社SSEリニューアブルズとシェトランド当局の提携事業として進められている巨大な風力発電基地「バイキング・ウインドファームだ。
2023年に操業を開始すれば、103基のタービンで、約47万6000世帯分の電力供給を賄うのに十分な低炭素エネルギーが生産される。同社によると、この風力発電プロジェクトによって毎年50万トンの二酸化炭素(CO2)排出を削減することができ、シェトランドの電力輸出は輸入を上回る見込みだ」(シェトランドニュース2021年10月10日)
https://www.shetnews.co.uk/2021/08/18/sse-confident-viking-wind-farm-will-turn-for-30-years/
と、ここまではすごいぞブリテンなのですが、英国自慢のこの再エネはこの「地球を救うための巨大なイベント」に力を発揮できませんでした。
このグラスゴー会場は100%使用電力100%を、地元スコットランドの風力発電会社グリフィン風力発電からもらう予定だったのですが、残念無念、当日は風が弱かったために風車は回らず、とうとう再エネ使用率たったの5%だったそうです。
はからずも、再エネのむら気を明らかにしてしまったのですが、この屁垂れの再エネをバックアップしたのがあの褐色の憎い奴・石炭火力発電所でした。
なんだCOPを照らしてたのは化石燃料だったのね。
ちなみに、当日以外は強風が吹いて風車が止まっている時間が多かったために出力抑制保証金がこの地域の風力発電会社には配られたそうです。
かんじんの時に回らないくせに、働かないで貰えた金額が8千万。これが再エネの現実です。
でも大丈夫ですよ、グレちゃん、あなたには請求書はいきません。
それを負担するのは、英国の消費者と企業だけですからね。
■お知らせ
11月18日(木)0時から12時まで
ニフティのメンテナンスのため閲覧ができなくなりますのでご了承ください。
酒田共同火力発電所も更新時期なんですけど、どうするのか決まっていません。
70年代末に作られた旧式の亜臨界水石炭炉です。現在は地元の間伐材を砕いた物を混焼してますが。まあ、インドネシアと同じレベルです。
最新型の超臨界水に予熱利用とCCSまで併用できれば相当なポテンシャルだと思うんですけど、既に金融界が石炭火力には融資してはいけないような風向きになっちゃってるのがねえ。
操業開始と同時に「電力立地」で日軽アルミのデカい工場が進出してきたんですけど、時代がボーキサイト輸入して精錬加工から···インゴットまでは電力の安い現地で加工してから輸入して製品加工に変わったので、数年で撤退しました。なんかこの流れって、今どきの炭素の排出権取引と同じですね。
広大な敷地がずーっと更地だったんですが、数年前に花王が進出してきて紙オムツのメリーズを生産してます。酒田北港が隣接しているので、近い中国に輸出すりゃ儲かるわけで。
残った敷地は、現在は太陽光パネルだらけ!冬は全く発電しない上に強風でパネル飛ぶんじゃないか?という土地柄ですが。。まあ近隣には風車もずいぶんと増えましたけど。鳥海山にはイヌワシが居るから、保護団体は顔真っ赤になってます!
投稿: 山形 | 2021年11月16日 (火) 05時58分
来年には石炭火力発電を完全に廃止するフランスを始め西欧、北欧は石炭廃止まで秒読みですけどその基準を他の国にも求めたのはかなり無理がありましたね。
投稿: 中華三振 | 2021年11月16日 (火) 08時16分
COP26期間中にフィナンシャルタイムズの単独インタビューに応じたIAEAのラファエル・グロッシ事務局長は、インタビュアーのジリアン・テット氏に事実を伝えて「福島の放射線被曝で何千人も死んだと思い込んでいたが、それは誤解だった」と認めさせましたが、そのインタビュー中で、グロッシはグラスゴーの電力の4分の3は原子力由来であることを指摘し、脱炭素したいのならば我々は原子力を(再び)embrace(抱きしめる=熱意を持って受け入れる)べき」と論じた、とあります。
我が国は、高効率火力発電を途上国援助にも使いながら、原発再稼働-次世代軽水炉-SMRと進んでゆくのが宜しいですね。
政治に凄く胆力が要ることかもしれませんが。
投稿: 宜野湾より | 2021年11月16日 (火) 21時54分