オールド自民党が蘇ったのか?
今日は、環境運動家と中国の隠微な関係について書くつもりでしたが、こちらを先に。
岸田政権の意識下に眠っていた「オールド自民党」の地金が早くも目を覚まそうとしているようです。
私がここで「オールド自民党の地金」と呼ぶのは、相手国と対立関係に入りそうになると、原則を放棄してズルズルと相手におもねり、国益に反する妥協点を自ら差し出してしまうような外交姿勢です。
自民党は、冷戦期から一貫してこのような強きになびき、弱きに安んじてしまうあいまい外交を得意としてきました。
それは初めは贖罪意識から始まり、やがて利権に結びつきました。
特にリベラル左翼が党執行部を握った前世紀最後の10年間は、河野談話など後々禍根を残す妥協を積み上げた結果、かえって中韓に自民は居丈高にふるまえば必ず妥協してくるという誤った認識を与えてしまいました。
このような北への際限のない宥和姿勢をマクマスターは「狂気の沙汰」と呼んだとのこと。「マクマスター氏が軍将軍出身で直説話法に慣れているといっても、元ホワイトハウス高官が韓国政府の北朝鮮へのアプローチ法を公開批判したのは異例だ。
これは任期末の文政府の対北政策に対する米国一般の見解を示しているという観測だ。
マクマスター氏はこの日、「北朝鮮を交渉に参加させるために譲歩し、交渉が進んで挫折感または脱力で成功の見込みがないのに譲歩に譲歩を繰り返したあげく非常に弱い合意に到達する。
北朝鮮は経済的な見返りを取りまとめると同時に合意に違反し、再び挑発→譲歩→合意の違反サイクルを始める」として批判の根拠を説明した」(中央日報2021年10月16日)
米国人でなければ、こんな率直な物言いはしません。
かつてルトワックは北のミサイルの射程内にソウルがあると言って言を左右する韓国に、「ならばさっさとソウルを引き払って中部に移転させろ」と直言したそうですが、マクマスターもさぞかしウップンが溜まっていたのでしょうね。
韓国が、このような米国人の直言を友情溢れるアドバイスだと感じなければ国を滅ぼします。
同じように「譲歩し、交渉が進んで挫折感または脱力で成功の見込みがないのに譲歩に譲歩を繰り返したあげく非常に弱い合意に到達する」ことを、韓国と中国に対してやってきたのがわが国です。
さて、韓国側は岸田政権で、再びこの宥和外交が戻って来ると信じているようです。
韓日議員連盟傘下の「朝鮮通信使委員会」所属の韓国国会議員らは、11月18日に訪日し、東京で日本側の日韓議連に面会し、「日本では岸田文雄内閣が発足し、韓国では来年春に新政権がスタートする」とし「新しい酒は新しい革袋に盛れというが、新政権発足の機会を両国が賢く活用する必要がある」と述べたそうです。
そして日韓議員サッカー大会をするのだとか。もう呆れてものが言えません。
「鄭氏は超党派でつくる韓日議員連盟の朝鮮通信使委員会の委員長で、同委に所属する与野党の議員5人を率いて16日から20日の日程で訪日している。
鄭氏が日韓議員連盟の会長代行で元衆院副議長の衛藤征士郎氏に大会の開催を提案したところ、快諾されたという。
W杯の韓日大会の開会式が行われたソウルワールドカップ競技場と、閉会式が行われた横浜国際競技場を使ってホームアンドアウェー方式により、来年の春と秋の開催を推進するという。
鄭氏は昨年5月から「国会議員サッカー連盟」の会長を務めており、同連盟には現在、与野党の議員60人が所属している」(聯合11月17日)
私はといえば、岸田氏については出自で見ずに、是々非々で判断することに決めていましたから、お手並み拝見といったところでした。
ところが、いきなりやって頂いたようです。
人もあろうに日中議連会長の林芳正氏を外相に据えた段階で、おいおいこんな露骨な中国へのすり寄りをするのかい、と誰しも思ったでしょうが、次に出てきたのが人権法案に対しての消極的、いや有体に言ってやる気ナッシングという岸田氏のこの姿勢でした。
「岸田首相は『日本版マグニツキー法』の制定を当面見送る方針を固めた」「外為法など既存の法律を活用し、資産凍結や入国制限を可能とする方策を検討する。対中外交の選択肢をより多く残しておく狙い」「新法制定で中国を過度に刺激するのを避ける」「岸田政権の姿勢に欧米各国の理解が得られるかも焦点」(共同11月16日)
チベット人やモンゴル人も同じく人権侵害に苦しみ、香港からは自由と民主主義が一掃されました。
欧米が五輪の外交的ボイコットという制裁に踏み切る中、わが国だけが中国擁護に回ったと思われても致し方ないことです。
このフニャニャけた岸田政権と対照的に、時を同じくしてオーストラリアはこのような態度を鮮明にしました。
「【シンガポール=森浩】オーストラリアが台湾有事の際、米国と共同歩調をとる姿勢を示した。豪州は米英と安全保障協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」を創設するなど、中国を念頭にインド太平洋地域の安定に関与する姿勢を強めている。
国内には対中融和論もある中、台湾への軍事行動を座視しない姿勢を鮮明にし、中国の動きを牽制(けんせい)した形だ。
ダットン国防相は12日付の地元紙オーストラリアン(電子版)のインタビューで、米国が台湾防衛のために軍を投入した場合、同盟国である豪州がその軍事行動に参加しないことは「考えられない」と述べた。
「高いレベルの準備と、より大きな抑止力を確保する必要がある」とも話し、中国への対抗を念頭に軍備増強を進める意向も示した」(産経2021年11月18日)
豪州、台湾有事なら米国支援 中国を牽制 - 産経ニュース (sankei.com)
方やオーストラリアが、中国が台湾に進攻すれば米軍と共に戦うと明言しているという時に、わが国は外相が中国に友好の旅にご出発ですか。
私は絶望的に呆れました。話が違うじゃないですか、岸田さん。
岸田氏は総裁選で日本版マグニツキー法に賛成する姿勢を示し、人権担当首相補佐官まで設置すると踏み込んだ公約をしていたはずです。
中国に毅然とした態度を取ると言った口がまだ乾かないうちにこれですか。
「人権外交議連の副会長を務める自民党の山田宏参院議員は「日本政府が示すべきは、中国の人権弾圧に対する『明確な姿勢』だ。欧米と共通する『自由』『民主』『人権』といった価値観に基づき、行動しなければならない。共同通信は『外為法など既存の法律を活用して…』と報じていたが、日本には『人権』で横軸を入れてペナルティーを科す法律はない。既存の法律での対応とは似て非なるものだ。中谷氏も補佐官になった以上、法整備に向けて努力してほしい」と強調した」(ZAKZAK11月18日)
人権法の補佐官にいままで人権法議連会長の中谷元氏を当てたときには、私はてっきり今秋国会で通すのだとばかり思っていましたが、その中谷氏もこのザマです。
「第2次内閣発足を受けた10日の記者会見では、新法制定について「超党派の議論も続いている」と明言を避けた。中谷氏も15日のBS日テレ番組で「(新法制定は)簡単にはいかない」と慎重な姿勢を示していた」(ZAKZAK前掲)
はっ、やる気ないね、中谷さん。
「超党派の議論」ウンヌンじゃなくて、林外相、いや岸田首相本人からストップがかかったんじゃありませんか。
なんですって、「対中外交の選択肢をより多く残しておく狙い」ですって、ご冗談を。
人権法こそ、対中、対北外交に「新しい選択肢」を与えるものであって、話が逆です。
結局、本音は「新法制定で中国を過度に刺激するのを避ける」ってことでしょう。
出ましたね、強きに弱く、媚びへつらうという宏池会体質が。
「林芳正外相は21日、フジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」(日曜午前7時30分)に出演し、中国の王毅国務委員兼外相から中国訪問の要請があったことを明らかにした。
18日に電話会談した際に、招待されたという。
具体的な日程については「現段階でまだ何も決まってない」と述べた。
外務省幹部はFNNの取材に林外相の訪中について検討に入ったことを明らかにした」
(FNN11月18日)
もし仮にこんなことを実行するなら、私はオールド自民党が蘇ったと判断せざるを得なくなります。
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さらに悪いのが、財務省ベッタリで緊縮財政まっしぐらって点です。増税案を次々出してくるでしょうね。
景気悪化をここぞとばかりにマスコミが叩き、民主党は党首が変わって刷新されましたと喧伝。その結果、参院がねじれて3~6年は衆議院で自民党が耐え続けねばならず、の最悪シナリオが予想されます。
これが外れるのを祈るばかりですよ。
投稿: リンデロン | 2021年11月23日 (火) 07時13分
アベガー騒ぎを経て馬鹿げた菅バッシングに心を痛め続けたわたしには、まだ今の所、共同通信がほじってきた「方針を固めた」「幹部が語った」部分に最もインパクトがある報道を元に保守系が激怒しているように見えます。そこを突くようにミスリードが続いています。
補正予算も発表まで20だ30だ真水ないと色んな方針が固まっていました。
全権委任して盲信の旗を振れと言うわけではないですよ。
メディアのゴミを取りながら見張る価値があると言いたいです。
そういう意味でこちらの是々非々の観点に共感する者です。
観測気球への世論の反発を利用して行政を動かす時に、国民が政治家のトップをレッテルで否定すると行政を利するだけですから。
というわけで中谷氏出演の番組自体をTwitter切り取りですが見ました。就任後各省庁から受けたレクを披露して、とはいえどうですかね、話を深く掘っていかないとと述べています。
自分が中国に寄り添う文脈ではないです。
林大臣の初外遊先は月末ジュネーブで動いているのに初外遊先が中国だったら謝ったメッセージか!と枕詞が付けられています。
それより早く訪中するわけがないでしょう。
安倍元総理だって、何度も会おうと誘われてるけどまだ何も決まっていない、けど外交筋は調整していました。
投稿: ふゆみ | 2021年11月23日 (火) 11時12分
いくら何でも、ここで林大臣の訪中は無いのではないでしょうか。
やるなら、速攻で安倍他で議員団を組んで「訪台」をやらなければ格好やつり合いが取れません。
北京五輪への外交的参加も岸田政権としてはやりたいように見えて誠に不快ですが、米・英・豪・欧の足並みが不参加でほぼ出揃えば実現不可能です。岸田さんがいうような「我が国独自の判断」など出来るハズがありません。
林さんや岸田さんがバイデン政権の対中姿勢を「軟化」と見ているのかが気になりますが、矢継ぎ早に対中・親台法案を可決し続ける米国議会や、日米の経済界以外の世論動向を勘案して判断しないと政権にとって重大な痛手になりそうに思います。
って事で、まだオールド自民党への回帰をしたとは判断しないでおります。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2021年11月23日 (火) 12時31分
中国側としては英どころかEU諸国の対中姿勢も怪しくなって来ている中で包囲網が完成する前に日本を抱き込んで無効化しようと必死なんでしょうね。
ASEANにも甘い顔を見せているところからして欧米vsアジアの構図にすり替えたいという魂胆も伺えます。
岸田&林両氏はこの状況をきちんと把握した上で間違いない判断をして欲しいものです。
最優先するのは掛け橋になる事ではなく日本がクソを掴まされない事です。
同盟国の信用を確固たるものにし梯を外されないようしたたかな立ち周りが求められます。
まずは林外相の初外交先と五輪の外交的ボイコットに追従するか否か、米中二つの踏み絵のどちらを踏むのか。
どちらも踏まないという選択肢はおそらくありません。
投稿: しゅりんちゅ | 2021年11月23日 (火) 19時41分
マスコミ報道を見ては判断できないことが多いように思います。そこで、自分勝手に政局や政治を考えてみます。
>自民党は、冷戦期から一貫してこのような強きになびき、弱きに安んじてしまうあいまい外交を得意としてきました。 (ありんくりん)
ホントそうですね。今後は、そうであってはならないと思いますよ。ハッキリと自国の考えを示し行動する必要があります。たとえば、台湾問題に対して有事には支援するのかどうか、ウイグルの人権問題に抗議するのかしないのか(公明党が反対するのであれば連立を解消することもありとすべき)、尖閣が中国に侵攻されたら防衛出動をするのかどうか、等々色々ありますが、これらについて今の時点で国家方針を決めてこれを明らかにしておく必要があります。先に国家方針を決めてから、その方向で国会、国民世論の啓蒙に進んでもイイと思います。
トランプ選挙の時から、アメリカの政治状況もだいぶ知ることになりましたが、現在のトランプさんのMAGA運動はまさしく政治方針を先に示し、これの実現に向けて共和党内を啓蒙し、同時に国民に訴えていくという手順になっております。これでイイのではないでしょうか?
岸田さん、林さんがどのように行動するのかは今のところ判断はできないと思っております。この大物たちが今後どう動くかで、日本の命運は左右されるでしょうから、今後とも注視していきたいと思います。マスコミの性急な報道なども過誤を多く含むと考えておりますので、これからも相当の距離を置き見ていかねばならないでしょう。
投稿: ueyonabaru | 2021年11月23日 (火) 23時03分