• 20250122-034332
  • 20250122-034624
  • 20250121-022941
  • 20250121-025750
  • 20250119-145554
  • 20250119-142345
  • 20250119-142345_20250119150101
  • 20250119-150249
  • 20250119-152051
  • 20250117-013132

« ロシアのウクライナ進攻、現実のものに? | トップページ | プーチンは何を要求しているのだろうか »

2021年12月14日 (火)

ドイツにほんとうにロシア制裁ができるんでしょうか?

002_20211213154301

今回のロシアのウクライナ進攻の構えに対して、G7は協調して経済制裁をかけると言っています。
昨日書いたとおり、もしロシアが進攻に踏み切った場合、米ドル決済からの追放や、ロシアの唯一の輸出品である天然ガスの輸出制限が始まると思われます。
問題は、それを西ヨーロッパができるかどうかということです。

メルケルは、いい時に辞めたと胸をなでおろしているのではないでしょうか。
まだ首相だったら、ロシアからの天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」を強行した責任を問われるところでした。
下の地図でグレイの線が既存のパイプラインで、そのうち3本までもが今騒然たる状況となっているウクライナ領土を通過しています。

As20191104002242_comm 

欧州覆う、ロシアのガス網 独ルート「ノルド2」完成へ:朝日

実は、ウクライナは自国領を通過することをいいことに、堂々と天然ガスを抜き取っていたのです。
堂々たるドロボーですから、国がやるこっちゃありません。

プーチンはこう書いています。

「ロシア連邦は、新しい地政学的現実を認識しています。そして、認識されただけでなく、ウクライナを独立した国にするために多くのことをしました。困難な90年代と新しいミレニアムでは、ウクライナに大きな支援を提供しました。
キエフは独自の「政治的算術」を使用しますが、1991-2013年には、低ガス価格ために、ウクライナは予算のために820億ドル以上を節約し、今日では文字通りヨーロッパへのガスの通過のための15億ドルのロシアの支払いに「しがみついて」いました」
ウラジーミル・プーチン『ロシア人とウクライナ人の歴史的団結について』
ウラジーミル・プーチンの記事「ロシア人とウクライナ人の歴史的団結について」 • ロシア大統領 (kremlin.ru)

盗まれてはならじと、新たなパイプライン建設をドイツに持ちかけます。
それが、どの国の領土も通らず海中を通るノルドストリーム1と2です。
北海でグレイの既存路線と赤い新規路線が重なっていますが、これがそうです。

2021092100001_2

ノルドストリーム2の完成を地政学から読み解く - 塩原俊彦

ただし、領土は通りませんが、敷設にはフィンランド、スウェーデン、デンマークの許可が必要で、最後まで安全保障上の理由で認可をしなかったデンマークの許可が降りてやっと建設にこぎつけたといういわくつきのものです。

「(独露)両国間には、ほぼ同じコースの「ノルドストリーム」が2011年から稼働中だ。「2」が完成すれば輸送能力は年間1100億立方メートルと倍増する。ガスは地元のパイプラインを通じて欧州各国に運ばれる。
 ドイツなどは、安価な天然ガスを安定需給できるとして計画に協力的だ。だが欧州各国にはロシアへのエネルギー依存が強まることへの懸念があり、ウクライナ危機で欧州連合(EU)が対ロシア経済制裁を続ける中での動きに、ポーランドなどから批判の声が上がっている」
(朝日2019年11月11日 )

今回、ロシアに対する経済制裁でノルドストリームなどの天然ガスパイプラインが閉鎖された場合、ドイツが最も甚大な経済的被害を受けることになるでしょう。
というのは、メルケルが原子力を放棄するという「美しい夢」を公約してしまったために、ドイツはそのツケを支払わされている状況です。
下図はドイツのエネルギー源の構成です。

Photo_20211213162101
老獪なドイツに学ぶべき日本のエネルギー戦略 前編

北海に面した風力発電基地から、延々と森林を伐採して送電網を引いたかいあって風力が20.7%を占め、以下再エネだけで26%に達するのはご苦労さまというか、馬鹿げているというか、むにゃむにゃ。

しかし驚かされるのは、CO2ゼロ派の憎悪の的になっている石炭が褐炭、無煙炭合わせて27.9%もあることです。
なんとドイツの誇りの再エネより多いくらいです。
そして原子力などは脱原発宣言は勇ましかったものの、まだ12.3%も残っています。

ちなみに、参考までにわが国のエネルギー比率を貼っておきます。
原子力依存度はドイツの半分、石炭への依存度もやや少ないのがわかります。

Fig11_20211213163101

2019年(暦年)の自然エネルギー電力の割合(速報) | ISEP 環境

不安定でカネ食い虫の再生可能エネルギーと、削減を求められ続けている石炭に足をとられて、今やドイツはヨーロッパの脱CO2の足を引っ張る始末となっています。
イメージと大分違うでしょう。
エコ大好き、環境大国ドイツというイメージは、パフォーマンスが得意なメルケルの自作自演だったのです。

実際はそうとうに違います。
川口マーン恵美さんの通信を読んでいただくとリアルにわかりますが、メルケルの脱原発政策という「美しい夢」はドイツ国民に大きな打撃を与えました。

「ドイツは50年の温室効果ガス排出量をネット(純排出量)ゼロにする欧州目標に合意し、環境先進国として気候変動問題に意欲的に取り組んでいるように映る。しかし実態は、欧州連合(EU)内の気候変動対策を強化する議論の足を常に引っ張っている。 
18年6月、EUでは30年の一次エネルギーに占める再生可能エネルギーの目標比率27%を引き上げる議論が行われた。
フランス、イタリア、スペインなど西側諸国の多くが35%を提案する中、アルトマイヤー独経済エネルギー相は、「再エネ比率を現状の15%にするための国民負担は年250億ユーロ(3兆円)に達した。現実的、達成可能な目標を設定すべき」と強硬に主張し、目標値の引き上げを32%に収めさせた。
50年の温室効果ガスの純排出量をゼロにする長期目標設定にも西側諸国の中では唯一反対していた。ただ、19年5月のEU議会選挙、地方選挙での緑の党の躍進を目の当たりにし、6月のEU首脳会議では賛成に回った。世論を気にする政権の姿勢は11年に脱原発を決めた時と同じだ」
(山本隆三『再エネ先進国ドイツの迷走 パイプラインで高まるロシア依存』 2020年3月31日)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/19104?page=2

環境大国のはずが、なぜいまや足を引っ張る国となってしまったのでしょうか。
その理由は、再エネの不安定な性格のために電力供給が不安定になり、しかも電力価格が著しく上昇したためです。
これ以上国内発電量の4割近くを占める石炭・褐炭火力発電所を閉鎖することになれば、大規模停電を引き起します。
電力価格は、元祖FIT(全量固定買い取り制度)で再エネ導入に多大な政策支援を進めた結果、19年前半の家庭用電気料金は1kWh当たり30.9ユーロセント(約37円)という、世界最高値に君臨し、実にわが国の電力価格の約1.5倍に達しています。

今回、ロシアのLNGを制裁した場合、今ですらノーカーボンで高値に貼りついているのですから、目も当てられないことになるのは必定です。

Fgzxactvqaebu8b

かくして2014年、ガブリエル副首相兼経済・エネルギー相が、「脱原発と脱石炭を同時に行うことはできない」と発言したのは、当初の目的どおり22年までに原子力を全廃した場合、もう電力供給に責任をもてないという悲鳴でした。
結局、ドイツは西欧諸国の非難を浴びながら、38年まで国内の褐炭を利用した発電所の利用を決めています。

このようなドイツにとって、CO2排出量が少なく、かつ安定的に輸入できる天然ガスはまさに死活的救世主だったわけです。
そしてこの天然ガスの卸元こそ、かのロシアというならず者国家だったのです。

このロシアにべったり依存するノルドストリーム2計画の矛盾は、2014年のクリミア進攻でクローズアップされ、EU域内からもロシアからのパイプライン供給を削減して適正規模に落とし、中東など他の地域からの調達を増やすとともに備蓄設備を拡充したらどうかという声も出ていました。
その近隣諸国の忠告を聞いていれば、今の苦しい立場はなかったはずでした。
しかし、それを再エネ増加による電気料金高騰に尻をあぶられているメルケルは、ひたすら安価を売り物にするプーチンの甘い声に乗ってしまったのです。

下図はドイツの天然ガスの輸入先の比率です。
ロシアは35%にも達して、輸入国第1位です。

Gas_einfuhr

ドイツのエネルギー資源-自給率。輸入依存度、輸入先 ‐ドレスデン情報

そしてロシアの天然ガス依存度は毎年高まる一方です。

Img_1c8c56c34d305070590249496e5eade64988

https://wedge.ismedia.jp/articles/-/19104?page=2

このようなロシアに頼りきったエネルギーシフトをしている状況で、もしロシアからの天然ガス輸出を制裁した場合、エネルギー不足で製造業は壊滅的被害を受け、多くの死者がでることさえ予想されます。 
日本も天然ガスに多く依存していますが、下図のようにマレーシア、カタールなど複数の国から供給を受け、ロシアの占める割合は9.3%にすきません。
わが国の天然ガス輸入の強みは、このように複数の国から調達している点です。
どこかひとつの国に偏ることなく、実に健全な構造です。

Photo_20211213170301

日本に最も多く天然ガスを輸出している国は?:

また日本は、タンカーで輸送されてコンビナートに備蓄するいわばプロパンガス方式なのに較べて、欧州のそれはほとんどすべてがパイプラインに頼っている都市ガス方式です。
したがって、元栓を閉めれば、下流は全部干し上がることになります。
悪いことにこの元栓を一人で握っているのがロシアだということです。

プーチンは、G7の経済制裁を聞いて、ならば死ぬ気でやるんだなと内心毒づいたことでしょう。


« ロシアのウクライナ進攻、現実のものに? | トップページ | プーチンは何を要求しているのだろうか »

コメント

ウクライナは単なる可哀想なロシアの侵略被害者と思いきや、なかなかにコスい真似してるんですね…

ほんとあの辺りの国々の方々の倫理観よく分かんない…

↑でした。すみません。

エネルギーを海外依存している日本は本当に他人事じゃ無いのに呑気なもんですね。

安倍さんが「台湾有事は日本有事」と発言したことだけを切り取って報道されてますけど···昨夜のBS深層ニュースで真意を語ってたが。
中国に南シナ海を抑えられるというのは、中東や東南アジアからの船舶の航行という日本のチョークポイントを握られるという話です。
ウクライナ問題を抱えるロシアvsNATOという状況で、ノルドストリーム2とかメルケルのババア正気か?とずっと思ってましたけど、まあ良いタイミングで隠居されたようで。。

中国が台湾海峡で事を構えるようなことになれば、かつて何度もあったように基本的に米海軍が出て来るでしょうが、いかんせん今の米軍には余裕が無いです。台湾防衛に力を集中すればウクライナ戦線に投入するほどの国力は米国にはありませんね。だからあっちはNATOに任せたいんでしょうけど、ドイツはロシアにチョークポイントを自らロシアに渡したわけですし強くは出られないでしょう。。
中露は東西で連動しています。
もし日本の南西シフトが進めば北の守りが予算も人員も足りなぬになります。
現在は国後や択捉に対艦ミサイル配備等が進んでおり、南西に気を取られると北方からロシアが睨んでいるので我が国だけでも2正面で対峙することになります。
ロシアを巻き込んでの中国包囲網という意見もありますけど、昭和20年の外務省のような甘すぎる考えをこの時代に言うのはあまりにも都合が良すぎる考えです。

天然ガスのパイプラインがそう簡単に搾取出来る構造になっているとは思えないので、あえて隙を作って盗ませる事でウクライナ下げの材料にして、それを口実にさらにEUの盟主のドイツを絡め取るための切掛けにも利用したのならばロシアは相当な策士ですね。
ウクライナへの侵攻も「(なぜか都合のいいタイミングで)内乱がおきちゃったからそれを鎮めるためにやった」という大義名分をかかげれば国連は黙らせる事ができるだろうと計算していそうです。

ウクライナに関しては、ガス泥棒というよりはロシア側の嘘まみれのネガキャンぽいですね(ロシアの契約違反の不当値上げ→ウクライナ反発→ロシア指定の裁判所で裁判→ロシア敗訴→ウクライナ支払い拒否→ロシア判決無視)。
ざっと調べただけなので、断定はできませんが。

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« ロシアのウクライナ進攻、現実のものに? | トップページ | プーチンは何を要求しているのだろうか »