宮古・八重山に避難計画はあるのか?
どうやら私は損な性分のようです。
安倍氏が「台湾有事は日本の有事」というしごくまともなことを宣言すれば、おおっと思うより先に、法的建て付けはあるか、そうとうの確率で戦域となるかもしれない宮古・石垣の住民避難計画はできているのか、避難も含めたロジスティックは大丈夫か、なんて舞台裏を先に考えてしまいます。
山路氏の労作を読んで、いっそううなってしまいました。
もちろん宮古島市には住民避難計画があるにはあります。
宮古島市国民保護計画【避難実施要領のパターン】(平成31年3月)(8059KB
ここにはこう説明があります。
「国民保護法第61条において、市町村長は避難の指示があった時は避難実施要領を定めることとされている。避難実施要領は、避難誘導に際して避難の実施に関する事項を住民に示すとともに、活動にあたる関係機関が共通の認識のもとで避難を円滑に行えるようにするために策定するものです」
つまり計画を策定する主体も、避難計画を実施する主体も、共に地方自治体に委ねられているわけです。
今回のコロナ禍でよくわかったと思いますが、地方自治体には事態の解決能力にいちじるしく欠ける自治体が少なくありません。
誰がとは申しませんが、呆れるほど無能で、勇ましいのは口先だけ。得意なのは国をつきあげてすがりつくことだけです。
この住民避難計画を策定する主体は、本来その範囲の大きさや避難民の多さからいっても宮古島市ではなく、まずもって沖縄県であるべきですが、なにをしているのやら。
保護計画には「円滑に行えるように」すると言っていますが、かんじんの具体論と演習が欠落しています。
このことについて座喜味一幸宮古島市長は、こう述べています。
自衛隊が弾薬搬入の宮古島、市長が心配する島民保護「政治家は地に足の
「座気味氏によれば、宮古島市には有事の際の国民保護計画はあるものの、具体的な内容ではない。座喜味氏は、国民保護法に基づく、国と地方自治体が協力する避難要領の策定と国民保護共同訓練の実施が必要だと訴える。
ただ、同氏によれば、県民感情に配慮した沖縄県は武力攻撃事態を想定した訓練の主催に慎重だという。
内閣官房の国民保護ポータルサイトによれば、2005年11月の福井県での実動訓練を皮切りに、毎年十数回の図上訓練と3回程度の実動訓練がそれぞれ都道府県で実施されているが、大規模な武力攻撃事態を想定した訓練が行われたことはない。沖縄県も過去、09年1月と13年1月に図上訓練を、14年1月に実動訓練をそれぞれ主催したが、いずれも爆発や化学剤散布といったテロ事件を想定しただけだった」
(朝日globeプラス
https://globe.asahi.com/article/14491282
宮古島では、お印ていどの小規模のテロ対策演習はしても、本格的住民避難演習はしたことがないし、沖縄県は「県民感情に配慮した沖縄県は武力攻撃事態を想定した訓練の主催に慎重」、要はやるきがないようです。
国民保護法第61条の法的建て付けからいっても、 自治体が動かなければ国は動けません。
国が動けなければ自衛隊は動けないし、動けるのはせいぜい自治体が権限を持つ警察と消防、自治体職員くらいなものです。
これで5万7千人の宮古島島民が脱出できるとでも思っているのでしょうか。
ちなみに、このglobeプラスの記事を書いたのは、北朝鮮から「御用保守論客」と名指しにされ、青瓦台から出禁を食らった元ソウル特派員の牧野愛博記者です。今回もいい記事を書いています。
彼は朝日で元中国総局員の峯村健司記者と並ぶ骨のある記者で、イデオロギッシュな社風の中で二人とも足で稼ぐいい記事を書きます。
それはさておき、現実に災害と有事を問わず総合的な避難訓練もされたことはないし、その避難実施の主体となる自衛隊や警察、消防との連携も確認されていません。
したがって、台湾有事、あるいは尖閣に中国軍か進攻したという事態が発生した場合、その戦闘地域のすぐ横にある宮古・八重山地域の住民は行き場がなくなる可能性があります。
宮古島は平坦な地形で、しかも開発が進んでいるために、戦域が宮古島に及んだ場合、島民には身を隠す場所も少なく、逃げ場もほとんどありません。
また、火案の実施部隊手ある自衛隊、警察、消防の連携、そしてそれを統括すべき立場の沖縄県と宮古島市の連携、さらに国とのすり合わせがどのようになされるのか不明です。
今まで一回も予行練習すらなかったのですから、住民避難計画は絵に描いた餅、司令部に座るべき沖縄県は姿形もみえないかもしれません。
なんとなく私たちは『シン・ゴジラ』のような政府と国がたちどころに統合対策本部を立ち上げて、キリリっと対処してくれそうな気がしますが、残念ですが、当の自衛隊は戦闘の真っ最中で、予定にない住民退避活動にそれでなくても少ない警備隊の人員を割くことは不可能です。
「陸上自衛隊中部方面総監時代に国民保護共同訓練を経験した山下裕貴・千葉科学大客員教授(元陸将)は「本格的な武力攻撃事態になれば、自衛隊は全力で防衛作戦にあたるため、余力がない。早期に住民避難を行わなければ、自衛隊が協力することは困難だろう。宮古島に駐屯している陸自警備隊も、防衛出動になれば対艦ミサイルや対空ミサイル部隊を護衛するのが任務になる」と語る。
そのうえで山下さんは国民保護共同訓練について「想定している脅威の対象が小さすぎる。通信や輸送手段がなくなった前提でもやるべきだ。現地にとどまりたい市民の説得も課題になるだろう」と語る」
(globe前掲)
宮古の自衛隊の主任務は、対艦ミサイルによる対艦攻撃で、少数いる警備隊もそれを防護するのが仕事です。
ですから住民避難には、少数の隊員を割くことしかできず、主力は消防と警察になります。
しかしそれで、宮古島5万2千人、そして更に石垣島市4万7千、周辺の先島まで含めてざっと10万人の人々の安全を守りきることができるのかどうか。
台湾有事の邦人保護 先島島民避難と二正面 与那国など戦域の恐れ
現実に起きた日本最大の離島からの大規模な住民避難についての例として、2000年の三宅島の火山噴火による全島民避難の経験があります。
奇跡とまで言われた見事な避難でした。
ただし、三宅島から東京本土まで180㎞に対して、宮古島から那覇までの距離はその倍近い300㎞です。
人口も三宅島は4千人に対して、宮古・石垣両島で約10万人と25倍です。
それでも避難完了まで4日間かかっていますから、宮古・八重山だと単純計算で100日間かかることになります。
高速で進行する近代戦において、3か月かけて住民避難させていては話になりません。
●三宅島全島避難
・平成12年7月8日 、雄山が噴火雄山が噴火。6月30日から小規模の噴火が続いていたが、この日、白い火山灰を主成分とする噴火を確認。一連の噴火では、幸い人的被害はなし。
・8月18日 、●最大規模の噴火。この日の噴火では、高さ14,000mに及ぶこの年最大規模の噴煙が観測され、島内全域に多量の火山灰が降下。また、一連の噴火活動では、大量の火山ガス(二酸化硫黄)が放出された。
・8月29日、低温・低速の火砕流発生。三宅村現地対策本部及び東京都災害対策本部を設置。
・8月30日、小中高生、三宅村の小中高生が都立秋川高校へ避難。
・9月1日 、全島避難。全島避難が決定され、2日~4日にかけて避難が実施された。これにより、4,000人余の島民は島外での避難生活を余儀なくされることとなる。
・9月4日 、ホテルシップに災害対策本部を設置。ホテルシップ「かとれあ丸」内に新たに東京都現地災害対策本部を設置し、災害対応にあたる。
帰島10周年までのあゆみ
https://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/14miyake/miyakehp/ayumisaigaitofukkounokeika.html
ちなみに当時の都知事は石原氏でしたが、あらゆる船舶を集めて避難に投入したようです。
薄志弱行のデニー知事とは雲泥の力量差がありますが、今はそれをいってもしょうがない。
もちろん自衛隊も避難計画の欠落をよく知っています。
沖縄に駐屯する自衛隊にとって沖縄戦の教訓を学ぶことは必修科目のようなものですから、かつての島を戦場とした戦いにおいて住民避難の遅れが大きな悲劇を招き、今に至る反自衛隊感情をうんでいることも熟知しています。
「自衛隊沖縄地方協力本部長の坂田裕樹陸将補は「有事の際、国民保護なしに自衛隊は作戦を実施できないだろう。国民保護は先の大戦の経験から最優先の課題だと認識しているし、自衛隊も可能な限り、これを行う必要がある」と語る」(globe前掲)
このように見てくると、住民避難計画は事実上ないか、あるいは形だけあっても実体がない書類上だけのものです。
まともな連携訓練もされていません。
ふたつめに、その原因は国民保護法が、避難計画の策定と実施主体を地方自治体にしていることです。
三つめに、離島住民の避難がは台湾有事と連動して起きる可能性が高いことです。
台湾有事となった場合、日本政府は台湾の邦人救出と、離島住民避難をダブルで実施せねばならなくなりますが、日本にはその備えがありません。
このことについては明日にふれます。
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コメント
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アメリカ軍や日本政府に非や改善点ががある時は、きちんと(←これ大事)批判してよし。
けれども、「アメリカ軍や自衛隊がいると安住できない」というテーゼ、或いはポーズに安住しているのが沖縄県。
なぜどういう事柄のお陰でそこに安住していられるのか、沖縄県は分かっている(よね?
分かっているけど今更変われないと思っている、或いは変われないのが沖縄県。
唐突なようですが、首里城火災に関する再発防止等報告書
https://www.pref.okinawa.jp/site/doboku/koen/shuricatsle-wg/relaps_eprevention_report.html
第四章、火災の要因について、「〜とはいえない」「〜ともいえない」「出火との関係は不明であるというほかない」
結局原因は特定できないという内容。
でも第七章「最後に」では、火災のリスクがある首里城を「どうすれば火災から守り、数百年先までも遺すことができるのか、非常に難しい問題」で、これを解決するために、「今後も火災による焼失リスクがあるということを理解し、受け止めることから始まる」、「県民ひとりひとりの首里城を未来に遺したいという熱意にかかっているといえるだろう」え?
日本の火災調査力で、原因不明のままって、どれくらいあるものだろうか。
とまれ、この内容の報告書がよしとされるなら、少なくとも県民の生命財産を守ることにおいて、沖縄県という自治体に期待していいものはもう残っていないと、あたくしは感じますの。
投稿: 宜野湾より | 2021年12月24日 (金) 21時47分
緊迫感がないですね。
太平洋戦争当時は、グアム、サイパン、硫黄島と玉砕し、
次は沖縄だという緊迫感が軍にはあった。
だから、必死で住民避難計画に取り組んで、沖縄県民20万人を疎開させた。
残念ながら200隻の疎開船のうち、対馬丸だけは犠牲になりました。
沖縄のマスコミは、対馬丸の報道ばかりで残り199隻の報道はないですね。それが沖縄左翼のスタンスです。
当時の緊迫感を持って、住民保護計画を主張する政治家は今の日本にはいません。
唯一有事を想定した安倍元総理の安保法制もマスコミ、学者が一斉に否定する。私には理解できません。
投稿: karakuchi | 2021年12月25日 (土) 02時51分