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2021年12月10日 (金)

南極大陸に食指を伸ばす中国

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南極にはルールがあります。
南極大陸を無垢のまま保存するためには、「無主の土地」とせねばなりません。

南極はオーストラリア大陸の2倍以上に相当する約1400万km²という広大な面積をもっていますが、特定の国家、企業、あるいは個人が領有または所有してはいけない決まりになっています。
もし自由な開発を許したら、いま頃は南極大陸のそこここに各国のミニタウンが作られて、資源探査や開発の争いがたえないでしょう。
その広い経済水域も、各国が軍事力で占有しようと図り、領土紛争の火薬庫となります。

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南極が人類にもたらす真の恩恵とは

というのは、南極に領有権を主張する英国、ニュージーランド、フランス、ノルウェー、オーストラリア(クレイマンントと呼びます)に対して、それを認めない日本、ロシア、米国などの国々(ノークレイマント)があって利害対立から紛争に発展しかねなかったからです。
この未知の大陸を紛争の火種にはしない、永久に無主の大陸として保存する、そういう人類の叡知からうまれたのが「この南極条約だったのです。

南極条約は1959年5月に12カ国によって採択され、同年12月1日に調印、1961年に発効しました。
条約は14条で構成され、「南極の平和目的利用(第1条)」「科学調査の自由(第3条)」「領土権の凍結(第4条)」「核実験の禁止(第5条)」などが主たる項目です。
これに沿って、1972年のあざらしなどの海洋生物の保護条約、1980年の「南極の海洋生物資源の保存に関する条約」、1991年に締結された鉱物資源採取禁止を定めたマドリード協定書(環境保護に関する南極条約議定書」)などが出来ていきます。
これが「南極条約体制」と呼ばれる国際ルール(国際法)です。
この南極条約は、20世紀外交の勝利と呼ばれています。

ただし、重大な欠陥がありました。
この成立過程から想像がつくように、大国間で利害対立があったために南極条約には罰則規定がないのです。
罰則なしの紳士条約であったのです。
たとえば、ある締約国が突然南極地域の領有権を主張し始め、勝手に軍事施設を作ったとしても、国際社会から批判を受けても鉄面皮だったら痛くもかゆくもありません。
つまり南極は、法の支配が不完全なのです。

もちろん南極を鉱物資源開発や軍事目的などに利用することなどできるはずがありませんが、それを画策している国が現れてしまいました。
あ~あ、またかい、という声が聞こえてきそうですが、我が中国です。
中国もこの南極条約の締結国です。
というか締結国ではないと、南極に観測基地を作れないからです。

中国はすでに5つもの基地を保有しています。

「20日以上にわたる工事を終え、5カ所目の中国南極科学調査基地となるロス海新基地が2月7日、イネクスプレシブル島で正式に定礎した。ロス海新基地は南極3大湾の1つであるロス海の沿岸に位置し、太平洋セクターと向き合い、南極地区の岩石圏、結氷圏、生物圏、大気圏などの典型的な自然地理ユニットが集中するエリアで、重要な科学研究価値がある。米国、ニュージーランド、イタリア、ロシアなどがこのエリアに7カ所の科学調査基地を建設しており、世界最大の海洋保護区もある。 中国のロス海新基地は4年後に完成する予定で、通年の科学調査ニーズを満たし、地質、気象、隕石、海洋、生物などの科学調査の条件を備え、リアルタイムの遠隔監視、航空保障作業を実現する」
(中国網2018年2月8日)

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5カ所目の中国南極科学調査基地が定礎_中国網

中国は、各国もやっている科学観測から逸脱し始めた、そう警鐘を鳴らすのはアレクサンダー・グレイです。
グレイはウォールストリートジャーナル(2021年12 月2 日)南極大陸の環境に脅威もたらす中国-軍事・商業利用を画策』と題した記事を寄稿しました。グレイは、米外交政策評議会(AFPC)の国家安全保障問題担当シニアフェローで、トランプ時代に大統領副補佐官代行、国家安全保障会議(NSC)のチーフスタッフを務めた人物です。

「中国は、過去10年間に南極での存在感を大幅に高めてきた。現在中国は、南極大陸に5つの研究施設を有している。中国政府は、南極点に恒久的な空港を建設する意向を表明しているほか、南極内陸部の氷床最高地点であるドームA地区に崑崙基地を展開している。
こうした動きは、南極大陸の最深部にまで恒久的な足場を拡大しようとする中国の意図を示している。中国の原子力砕氷船の開発は、これら施設への容易なアクセスを同国政府に保証するものだ」(WSJ前掲)

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南極の中山基地、設置30周年を迎える_中国国際放送局  

中国は南極大陸の最深部に崑崙基地を設け、ここを足掛かりにして大陸内部に大きく進出しようとしています。
そのためのロジスティクを確保するための大型滑走路や衛生通信施設、レーダー基地も建設しました。
そしていまや原子力砕氷船を建造して、恒久的なアクセスを築く計画のようです。

これらはすべて科学調査の域を超えて、軍事転用が可能なものばかりです。
そのためか、中国の南極基地要員には多くの軍人が含まれているようです。
いうまでもありませんが、南極条約違反です。

「ニュージーランドの政治学者、アンマリー・ブレイディ氏(略)のような科学者の話や各種報道によると、中国人民解放軍の当局者らが同国の南極研究基地に多数派遣され始めているという。
軍当局者の活動には、米国の極軌道衛星の運用に障害となりかねないレーダー施設の建設も含まれている。中国政府が他の締約諸国に通知することなく軍人を派遣していることは、南極条約違反となる」(WSJ前掲)

そしてもうひとつの中国の野心は経済開発です。
今は南極条約によって、南極と南極海の資源・エネルギー資源はマドリード議定書によって探査すら禁止されています。
ところが中国は南極海洋生物資源保存委員会(CCAMLR)の年次会合で、南極大陸の鉱物・エネルギー資源の潜在的規模について報告しているのです。
はて、おかしいとは思いませんか。
南極条約では資源探査自体が禁じられているのですよ。
いったい中国は、何時どのような手段を使って南極の資源の潜在的規模を知り得たのでしょうか。

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中国の南極内陸崑崙基地隊が南極のドームA登頂

その中国の下心が透けて見えるのは、中国が近年2048年にはマドリード議定書の採掘禁止期限が切れて採掘可能となると主張し始めていることです。

「南極における中国の主な目的は、経済的なものであるように見える。これにより、南極海洋生物資源保存委員会(CCAMLR)の年次会合では、海洋生物の保護が再び議題になっている。中国のアナリストは度々、南極と南極海の鉱物・エネルギー資源の潜在的な規模について推測している。マドリード議定書は、そうした探査を一切禁じている。
これゆえに、中国の学界には、まともな法学者であれば支持しない説を広めるための奇妙な取り組みが出現した。それは、2048年に議定書の採掘禁止の期限が切れるため、同大陸の鉱物資源の採掘が始められるという説だ。その際には議定書の見直しがなされる予定だが、採掘禁止が解かれる公算は小さい」(WSJ前掲)

中国の主張に従えば、2048年以降、好き放題に採掘したもの勝ちだということになってしまいます。
珍妙な条約解釈なので中国以外はそう考えていなくとも、中国だけはそれができると信じているようです。
おそらく世界各地で資源・エネルギーを爆買いしているこの国ならやるでしょう。
そして環境保全に世界一甘いこの国は、南極を汚染にさらすかもしれません。

とまれ実際に、中国が南極大陸でなにをしているのか、どのような施設を持っているのか、国際社会は知らないのです。
それは中国が、南極条約が義務づけている査察を受け入れていないためです。
まずはそこからです。

「米国やその同盟国には、南極大陸に関する中国の野心について十分に理解できていない部分が多く存在し、2015年以降は稼働中の中国の研究拠点に関して条約が義務付けている検査を一切行えていない。
南極での米国の伝統的なパートナーであるオーストラリアとニュージーランドも同様に検査を怠っている。米国が使える砕氷船や極地に対応したC-130輸送機の維持に苦労していることは、南極の現状を維持する取り組みの妨げとなっている」
(WSJ前掲)

しかし哀しくや、南極近隣諸国であるオージーやNZ、そして米国は南極観測予算の低減によって苦しい運営を迫られていることに較べて、中国だけがひとり原子力砕氷船を建造し、基地を増設し続けています。
力の差が開きつつあるのです。

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グレイは、バイデンが今なすべきことをしないと取り返しがつかないことになると警告しています。
できることは色々あるはずです。
まずは手始めに、南極条約の枠組みが骨抜きにされないように、国際会議の場でしっかりと補強することです。
特に、今、中国によって脅かされようとしている経済開発の鉱物資源・エネルギー開発が、2048年以降も禁止措置が継続されることを確認せねばなりません。

そしてもう一つが、中国が南極大陸でなにをしているのかを、条約締結国が共同で査察することです。

「米国は今後到来する南極の夏場に、ニュージーランド、オーストラリアと協力し、南極内の複数の基地に対する調査を実施すべきだ。米国も自国の基地に対する他国による同様の調査を歓迎すべきだ。中国に隠すものが何もないのであれば、同国も同じことをするだろう」
(WSJ前掲)

前述したように、南極条約は20世紀の外交的成果でした。
これによって南極は無主の土地として保護されてきました。
この無垢なる大陸を我欲で汚すことを許してはなりません。

でも、やりそうだな。
48年まで何だかんだと引き延ばし、なるやいなや待ってましたとばかりに採掘開始。
たちまち立ち並ぶリグの群れ。それを守るは中国軍。
南シナ海の南極バージョンです。

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コメント

 香港の事例を見れば48年まで待ってくれるかどうかも怪しいですね。

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