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2022年1月

2022年1月31日 (月)

ウクライナに「枕を送る」ドイツ

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今のドイツにはどこか既視感があります。
まずは、あの本音発言をしたシェーンパッハ中将についてです。
彼はこう言っています。これがなかなかスゴイ。
いわば自衛隊の海幕長が、「中国が台湾や尖閣に進攻することなどありえない。習首席は尊敬に値する人物だ」といっているようなものです。


「ドイツ海軍のカイ=アヒム・シェーンバッハ司令官が22日夜、ウクライナ情勢に関する発言が物議を醸したことの責任をとり、辞任した。
シェーンバッハ中将は今月21日、インド・ニューデリー訪問中に現地の防衛シンクタンクで講演した際、ロシアがウクライナを侵攻しようとしているなど、ばかげた発想だと発言。ロシアのプーチン大統領は、西側から対等に扱われたいだけだとも述べていた」
(BBC 2022年1月22日)
https://www.bbc.com/japanese/60100421

もちろん市民までが民兵訓練に参加し、死守すると決めているウクライナは激怒し、直ちにこう声明を発表しました。

「ウクライナ外務省がこれに「絶対的に容認できない」と強く反発し、ドイツ大使に抗議するなどの事態を受けて、シェーンバッハ司令官は22日夜、「これ以上の悪影響を避けるため」、「ただちに」辞任すると発表した」(BBC前掲)


酒でも飲んでキレてしまったのかこの司令官、言いたい放題。
とうとう言うに事欠いて、「(プーチン大統領が)本当に求めているのは敬意で、それを与えるのは簡単なことだし、おそらくあの人は敬意を払うに値する」とまで発言しています。
今、誰が戦後最大級のヨーロッパの危機をつくった張本人なのでしょうか。
おまけに力による国境の変更を認めてしまって、「もうクリミアは戻ってこない」とまで言うに至っては、NATOの考えとはまったく異なります。
もはや暴言ではなく利敵行為の域に達していますから、直ちに解任されて当然です。

これが愚かな一高級指揮官の考えならいいのですが、どうも違うようですから憂鬱になります。
下の写真で中将と並んでいるのがドイツ国防相のクリティーネ・ランブレヒト独国防相です。
彼女は今回のドイツ左翼政権の目玉人事のひとりで、男女同数枠で社民党の運動家だったことで任命されたようです。
国の根幹を担う国防大臣を、こんな決め方をしてはいけません。(あたりまえだ)

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BBC ランブレヒト独国防相とシェーンバッハ司令官
ところで、ドイツはウクライナに対してとことん冷やかです。
もう有名になりましたが、ウクライナ支援はヘルメット5000個だけというケチさで、ヨーロッパ中の失望と嘲笑を受けました。
「[ベルリン時事]ドイツ政府は26日、ロシアとの緊張が高まるウクライナに対し、軍用ヘルメット5000個を供与すると発表した。
ただ、ドイツ製の軍艦などの提供を求めてきたウクライナ側からは、「言葉を失った」(クリチコ・キエフ市長)などと失望の声が出ている。 
ドイツのランブレヒト国防相は26日、ヘルメットの供与は、ウクライナへの連帯を示す「明確なシグナルだ」と強調した。ドイツは世界4位の武器輸出大国だが、昨年12月に発足した新政権は「抑制的」輸出政策を掲げ、ウクライナへの供与も拒否。対ロ支援で米英やバルト3国などがウクライナに武器を送ることを決める中で、ドイツも歩調を合わせるべきだとの圧力は高まっている」
(時事2022年1月27日) 
https://trafficnews.jp/post/114888
なぁにが「ウクライナとの連帯を示す明確なシグナル」だつうの。真逆です。
ドイツは進攻直前の微妙な時期に、「ウクライナは既に失われた」という「明確なシグナル」を送ってしまったのです。
ウクライナは紛争地だから武器援助はしないなどとキレイゴトを言っていますが、ウソです。
ドイツは余り知られていないようですが、メルケルはドイツ製武器を世界に売りまくっていました。
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ドイツは、堂々米露仏に続く第4位の武器輸出国です。
戦車、潜水艦、銃器なんでも売れるものならジャブジャブ節操なく売るのがドイツ流で、同じ敗戦国でも武器輸出三原則に厳しく拘束されていたわが国とはえらい違いです。
たしかに武器輸出には一定の基準があることは事実で、そのなかに紛争地域という一項があるのは事実ですが、ザルです。
たとえば戦闘を交わすトルコとクルド双方に戦車や武器を供与していますし、いつもドンパチやっているイスラエルや、休戦中の韓国にも潜水艦を売っています。

そもそもそういう言い方をしてしまえば、他のウクライナ支援をしているNATO諸国が「紛争地に武器を送る」死の商人だと言っているようなものです。
紛争国にしないために、他のヨーロッパ諸国は武器も含む援助をしているのです。 
そしてその代わりドイツがウクライナに送ったのが、弾がでないヘルメット5千個だというのですから、まるでブラックジョークです。
キエフ市長のクリチコ市長は、「5000個のヘルメットは完全に冗談だ。次は枕か?」と憤ったそうです。

しかもただケチなだけなら、「次は枕か」と笑って済むのですが、他のNATO諸国のウクライナ支援を妨害するとすると実害が出ていますから、お前どちらの味方だということになります。
「ロシアがウクライナとの国境に軍備を集結させている事態を前に、アメリカやイギリスを含む複数の北大西洋条約機構(NATO)加盟国がウクライナに武器や装備を提供、もしくは提供すると発表している。
しかし、ドイツはこれまで、武器提供を求めるウクライナの要請を断り、代わりに野戦病院の装備提供を申し出た。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、ドイツ製武器をエストニア政府がウクライナに送ろうとするのも、ドイツ政府は介入して阻止したという」(BBC前掲)
このドイツのあいまい路線は、米国にも不信をもたれたようで、ブリンケンは念を押すように「ドイツがNATOとともにロシアに立ち向かうことは疑いない」と発言しています。
こうとでも言わないと、ドイツ一国の反対で、NATOの米軍の東欧派遣要請が潰されかねないからです。

では、メルケルがまだ首相だったとしたら、このウクライナ対応をどうしたでしょうか。
もちろん女帝としての貫祿がまるで違いますから、多少のニュアンスはちがったでしょうが、おそらくそう大きな違いはなかったはずです。
ドイツの立場は紛争、特にロシアとの摩擦は一切回避する、これが大原則だからです。
ロシアを、日本の戦後政治における中国に置き換えればわかるでしょう。
すなわち、「平和」を絶対真理とし、戦争は純粋悪、軍事費は無駄だから削減、これが戦後ドイツの道徳的立場です。
「ドイツがロシアとの争いを避ける理由は、経済的利益のためと説明されることが多い。しかしながら、ドイツ人には、第三国の主権よりもロシアとの争いの回避を優先することが、経済的利益以前に道徳的に正しい、つまりドイツの立場はNATO諸国の多くよりも道徳的に正しいと信じる人も多い。米英、オランダ、東欧諸国などとドイツの立場の違いは、国際政治観や歴史認識の違いも反映しているからだ」
((静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授・西恭之 『NEWSを疑え!』第1023号(2022年1月27日号)

暴走中将がもうクリミアは返ってこないからあきらめることだ、と言ったクリミア進攻の年2014年のドイツの国防予算は戦後最低のGDP1.14%で、今も1.5%で変わりがありません。
わが国といい勝負です。
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主要国の軍事費推移

上図は軍事費の推移を見たものですが、直近2020年において軍事関連支出がもっとも大きかった国はアメリカ合衆国、次いで中国、インドが続いています。
ドイツは青線で、底辺を薄い青線の日本と競っています。

一方ロシアが突出して増加させているのが一目でわかるのが下図です。

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上図は、基準値の1992年と直近の2020年を比較し変動倍率を算出したものですが、やはりロシアが特異値を出してしまっています。
ここから判るのは、ロシアが突出して軍事費を増大させているのに対して、削減を続けたのがドイツという構図です。
この図式も、異常な軍拡をし続ける中国と、国防費がまったく変化しない日本とそっくりの構図です。
本来中露を抑制して地域を安定させねばならないはずの日独が、まったくその機能を果たしていないのがわかります。

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日本の防衛費過去最高を記録。近隣国は?(dragoner)

次に他のNATO諸国と比較してみましょう。
いっそうドイツのヘンが際立ちます。

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NATO国防費:負担増 独仏、2%目標「幻想」

2016年にNATOは米国の申し出を受けて、2%を目標にすることを合意しました。

「北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長と英国のメイ首相は23日夕(日本時間24日未明)、ロンドンの英首相官邸で会談し、NATO加盟国に国防費の増額を求めることに英国が主導的な役割を果たすことで一致した」
(毎日2016年11月24日)

しかし、この合意に頑として従わなかったのがドイツです。
これは財政的理由だけではなく、むしろメルケル流「非戦の誓い」があったからと、もうひとつが仮想敵国のロシアとの間にポーランドが緩衝帯としてはさまっていたからです。

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ポーランドはドイツのわずか16%というはるかにちいさな国力しか持たないにもかかわらず、国力の限界ともいえるGDPの2%以上を国防費として計上しています。
実にドイツの2倍ですから、ドイツを守っているのはポーランドだとも言えます。

そしてもうひとつ、なぜロシアに対してここまでへり下ってしまうのでしょうか。
それはロシアへの贖罪意識です。
同じように大戦中にはウクライナにも進攻しているのですが、そちらにはまったく視線は向きません。
シュタインマイヤー独大統領は昨年10月にウクライナを訪れて、「ドイツ国民の「記憶の地図にウクライナにおける犯罪現場はほとんど記されていない」「死角を照らさなければならない」とは言っているのですが、いっかな照らされた様子はありません。
むしろウクライナを守るために、ドイツ製の武器が使われて、ロシア人を殺すならそれは非道徳と考えてしまうようです。
日中友好議連の会長だった林氏なら理解できそうなロジックです。
日本にとっての中国をロシアと置き換えるだけのことですから。

したがって、ドイツは経済的にもノルドストリームで喉頸を抑えられ、かつポーランドを間にはさむことで地政学的にも安全であり、かつ非戦の誓いを護持できるから、ドイツはウクライナに枕しか送らないのです。
ウクライナ人は、もし将来ヨーロッパに食料危機が来ても、ドイツにだけは小麦の代わり枕を5千個を送ってやるぞ、と言っているそうです。

 

2022年1月30日 (日)

日曜写真館 朝凪や珈琲豆を一掴み

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朝凪の波も聞えず春の霜 村山故郷

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さきほどの怒りはどこへ朝の凪 高橋将夫

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雄大な景を間近に朝の凪 松田和子

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朝凪の身の一点となる重さ 遠山みち子

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朝凪を乱さぬ一歩一歩かな 亀田虎童子

 

2022年1月29日 (土)

ウクライナ、開戦前夜の様相です

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ウクライナ進攻が始まる可能性が非常に高くなりました。
あと数週間以内が最初の山です。
小泉悠氏は、2月10日から20日が一番危険だと具体的に述べています。

「私としても何らかの落としどころが見つかればいいとは思っているが、あまりにもロシアの要求が強行過ぎて、落としどころらしきものが全く見えてこないし、軍事力の行使を回避できそうな雰囲気も見当たらない。それが非常に不気味で怖い。
そして、来月の10日から20日にかけて、ロシア軍がベラルーシにおいてベラルーシ軍との大演習をやることになっている。大体、過去に大戦争が起こる時は“演習”という名目で始まることが多いので、この期間が非常に危ないと思う。ロシア軍が通常戦力の演習を行う場合は核部隊の演習をするが、去年はやっておらず、今年は“延期する”と言っている。もしかすると、ここで核部隊の大演習を行い、NATOに対して“手を出すな”と言いながら、ウクライナに対しては通常部隊での侵攻、もしくはハイブリッド戦を仕掛けるというシナリオがありえそうだ」(小泉悠 ABEMAタイムス1月26日)
https://news.yahoo.co.jp/articles/33145ddd9a4fa6c84fcb4568b3f7d17dde0642e5

この観測は小泉氏だけのものではなく、安全保障関係の専門家の共通した意見で、今や進攻を前提とした次の段階を想定するに至っています。
ロシア軍の部隊編成は終了していると伝えられています。
ウクライナ東部国境、首都キエフを狙うベラルーシとの北部国境、そして南部からは黒海艦隊が強襲揚陸艦で包囲しています。
12万と言われるウクライナ軍は、東部国境だけではなく3方面から包囲される危険が出てきました。

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日経

ここで小泉氏が指摘するベラルーシですが、ベラルーシはロシアに似た権威主義(独裁型)国家で、ロシアの衛星国家です。
ウクライナの首都キエフは、ベラルーシ国境から指呼の距離にあり、ロシアのベラルーシでの動向が注目されていました。
先ほど、小泉氏が2月10日から20日と指摘したのはロシアとベラルーシが共同演習、その名も「同盟の決意2022」を行うからです。
既にロシア軍の大部隊が、18日頃からベラルーシに入っています。

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「インタファクス通信などによると、演習は2段階に分かれ、2月10日~20日にはベラルーシ各地で実施。外部からの攻撃やテロ活動など、緊急事態への対応力を確認するとされる。ロシアのフォミン国防次官は昨年末の両国大統領の首脳会談での合意に基づく演習だと述べた。
 ロシア・ウクライナ国境のロシア側には、現在も約10万人規模とされるロシア軍が結集。ベラルーシ・ウクライナ間の国境はそこから約1100キロ西にのびており、ウクライナへの軍事的圧力がさらに高まる恐れがある。米国務省高官は18日、「ロシアが合同軍事演習の名目でベラルーシに部隊を駐留させ、ウクライナを北から攻撃する懸念がある」との見方を示した」
(朝日1月19日)
https://www.asahi.com/articles/ASQ1M65Y3Q1MUHBI01W.html

畔蒜泰助(笹川平和財団主任研究員・ロシア外交・安全保障)氏の情報を基に、状況を整理するとこのような3方面作戦が考えられます。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN2319Y0T20C22A1000000/

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ウクライナ地図

①ウクライナ東部の国境付近に展開するロシア軍部隊は、東部2州を実効支配するルガンスク州やドネツク州)の親露武装勢力と協力して東部の制圧を目指す。ただしドニエプル河を渡河せねばならず、キエフに到達は困難。

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ウクライナ連邦」化はロシアと欧米の落とし所になるか(THE PAGE

②ベラルーシとの共同演習を目的にして駐留した極東から移動したロシア軍部隊は、ベラルーシ国境から距離わずか100キロメートルの首都キエフを狙う。
このベラルーシルートを使うと、ウクライナを縦断するドニエプル川を渡る必要がない。
しかしウクライナ軍は、何本かしかない橋を破壊し進軍を遅らせようとするだろう。
また「イスカンダル」などの弾道ミサイルや航空機などで、キエフ中枢部を爆撃する可能性が高い。

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ウクライナ】オデッサ

③黒海に展開するロシア海軍強襲揚陸艦とロシア海軍歩兵(海兵隊)は、ウクライナ南部にある海上物流の要衝オデッサを狙う。
オデッサを奪取されると、ウクライナは海上物流を遮断されることになり、海上からの支援を得られなくなる。

さて、ラブロフはNATOからの核の撤去しろ、などという実現不可能な要求を口にし始めました。
これは危険な徴候です。

「27日付の国営タス通信によりますと、ロシア外務省の担当者がNATO諸国に配備されている約200発の核弾頭をすべて撤去するようアメリカに求めていることを明らかにしました」(テレ朝1月27日)
https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000242991.html

いいでしょうか、ロシアは今ウクライナの東北南を14万ともいわれる大軍勢で包囲している状況です。
いわば銃を頭に突きつけて、オレのいうことを聞けといっている状態です。
弾けんばかりに緊張が高まっているさなかの27日になって、NATO全域から核弾頭を撤去しろと言われて、米国とNATOがはい、わかりました、というはずがないでしょうに。

そもそもその前にラブロフは、交渉の答えを文書化しろという馬鹿げた要求を出しています。
これも外交交渉ではありえない要求で、このような戦争を左右するような交渉では裏交渉がメーンになります。
ブリンケンが、非常識なことう言うな、それでは重要な秘密交渉ができなくなるぞ、と言っていましたが、そのとおりです。

戦争回避のための秘密交渉は、今回よく引き合いに出されるキューバ危機においても、当時は公開ができない微妙極まるものばかりでした。
キューバ危機なら、ヨーロッパ配備の弾道ミサイルの撤去を別の口実で撤去してみせました。
オレはこの部分を譲るから、お前はそれを譲れという理念もへったくれもない内容が、この時期の裏交渉なのです。
したがって双方ともに、外交的含みをたっぷり持たせた物言いに終始します。
それを回答を文書にして持ってこいとは、もう裏交渉はしないという意味以外にとりようがありません。
ソ連時代から生粋の外交官畑を歩んできたセルゲイ・ラブロフには、当然そんなことはわかっているはずなので、これはまとめるための交渉ではなく「壊すための交渉」なのです。
別の言い方をすれば、ロシアが開戦の口実を作るための交渉なのです。

もう少し経過を見ておきましょう。
ロシアは米国に新しい安全保障協定に関する回答を文書にして提出するよう要求し、ラブロフは「回答の内容がモスクワを満足させられなければ大規模な措置をとる」と発言しました。

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西日本新聞

これはロシアの要求が受け入れられなければ、ウクライナ侵攻をすると示唆したと受け取られています。
そして米国は、ゼロ回答の内容を記した文書をモスクワで手渡したそうです。
ロシア外務省は、「駐モスクワ米国大使から回答文書を受け取った」と発表しましたが、この回答文書の内容について聞かれたブリンケンが水曜日の記者会見で「NATO加入のドアは開かれているという原則を維持する」と述べた内容だったようです。
同時期、NATOもブリュッセルのロシア大使に回答文書を手渡しており、こちらもストルテンベルグ事務総長が 「NATOへ加入するかどうかを決定するのは各国の権利だとする原則を維持する」と言うようにゼロ回答でした。
真正面から聞かれればこう答えるしかないでしょうに、馬鹿ですか、それとも口実が欲しいだけなのですか、ラブロフ。

整理しておくとロシアの要求は以下です。

①NATOの東方拡大政策の放棄
②東欧諸国からの戦力引き上げ
③ウクライナへのミサイル配備禁止

これら3つにすべてに米国とNATOはノーです。
これらの要求を呑むことは、中東欧の旧ソ連圏諸国を、ひいてはヨーロッパ全域をロシアの脅迫に屈して見捨てることと同義語だからです。
ですから西側からすれば、ロシアが自らの要求を引き下げる以外に妥協する道はありません。
事実ブリンケンは「引き続きロシアの安全保障に対する懸念を解消するため協議したい」と提案しているようです。
それはずっとこのまま春になり、初夏になるまで引き延ばせば引き延ばすほど西側が有利ということになるからです。
10万もの大軍の兵站は行き詰まり、長い待機に兵は弛緩していきます。

一方ロシアからすれば、進攻に適した2月をみすみす逃すことになります。
だから短期で決着をつけたいの一心です。
ロシアのペスコフ大統領報道官が、「提案した新しい安全保障協定の内容はワンパッケージで意見の相違を1ヶ月も1年も議論したくない」と語っているのはその意味です。
あとは、プーチンの胸先三寸です。

なお2月4日から20日は北京五輪期間中ですが、そこをはずすかどうかも見物です。
もし期間中にウクライナ進攻を開始すれば、秋の党大会を前にあれほど力を入れていた習のメンツを真正面から潰すことになりますからね。
プーチンが中国に配慮すれば、その直後ということもありえますが、どうなりますことやら。

いずれにせよ、ウクライナに平和が訪れることを心から祈ります。

                                                                  

 

2022年1月28日 (金)

薄氷の上に立つロシア

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昨日の記事を読まれた方は、そうかロシアは余裕しゃくしゃくで西側に戦争を挑んでいるんだ、と思われたかもしれません。
必ずしもそうではありません。
プーチンは精一杯虚勢を張っているにすぎません。
ただケンカのコツを知っているために、今は精一杯毛を逆立てたシベリアンタイガーのように見せているだけです。

ところで、ロシアは何で食べていると思いますか。
よく筑波大の中村逸郎氏が言うのですか、ロシア人は働かず、地べたから湧きだすもので食っているのです。
ロシア経済は地下資源の開発に依存する「不労所得経済」と、自給可能な農業によって支えられています。
下図はロシアの輸出入を見たものですが、極端な原油依存型で、まるで発展途上国のモノカルチャー経済のようです。

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ロシア経済、潜在力は魅力だが、見えない「近代化」策

またこの主立った輸出先は中国で、中国への主要原油輸出国となっています。
これが中露同盟の経済的動機です。

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第6節 ロシア:通商白書2020年版(METI/経済産業省)

この二枚だけの札が、プーチンの戦略を決定しています。
おわかりのように、こういう偏った経済構造を作ると、プーチンがいきなり製造業に目覚めることは考えにくいのです。
プーチンが自派のオルガルヒ(新興財閥)に与えた特権が石油利権の独占でした。
原油と鉱物資源を売って、国土とその資源を経済規模にふさわしくない強大な軍隊で守るというのが、ロシアのビジネスモデルです。

軍事費と身の丈、つまり経済が釣り合っていないのです。
まずは軍事費

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2016年版:世界の軍事費

堂々の世界3位です。

「ロシアの軍事費の公表額は、2009年度が1兆2110億ルーブル(383億ドル)、対国内総生産(GDP)比率3.1%である。しかし公表軍事費に含まれない関連予算を含めると、2009年度で約1兆8090億ルーブル(約572億ドル)、GDPの4.63%に上る。 
この額は中国の公表額498.4億ドルを上回る世界第2位の額となる。さらに購買力平価で換算すれば、国際通貨基金(IMF)によると、2009年のロシアのGDPは2兆1160億ドルとなり、その場合の軍事予算額は979億ドルになる。
このようにロシアの軍事費は、資源高に支えられた経済規模の拡大以上の速度で急成長を遂げていると言えよう」
(矢野義昭2011年11月22日『急速に復活の兆しを見せるロシアの軍事力』)

続いてGDPを 見ます。

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上位は米中日の順…主要国のGDPの実情を確認する(2021年版

なんと韓国と同じくらいで、ベスト10位にも入りません。
巨大な軍隊と貧弱な国力。まるでかつての日米戦に突入する直前のわが国のようです。

こういう国が戦争をしようとすると、短期間で終了させなければ国力が持たないために、緒戦で大規模なハイブリッド戦(電磁パルス攻撃やサイバー攻撃など)を仕掛けつつ、伝統的な戦車と歩兵戦闘車を先頭に立てた縦深攻撃が予想されます。
特に警戒すべきは、グラシモフ・ドクトリンと呼ばれる、電磁パルス攻撃、サイバー攻撃、そして偽情報をSNSに流して社会混乱を招くことです。
このハイブリッド戦は、現実にクリミア進攻で盛んに使用されましたので、今回も最大限に活用するはずです。

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jp.sputniknews.com  ワシリー・グラシモフ参謀総長

「これは、ワシントン政界が思い描いていたロシア軍ではなかった。
高性能の兵器を備えていた。電磁波を利用する電子戦システムや、通信妨害、防空システム、命中精度の高い長距離ロケット砲などだ。しかも、そのほとんどが、米軍が装備していたものより性能がよかった。そして、リトル・グリーン・メンと呼ばれたロシアの特殊部隊はこれらの兵器を驚くほど効果的に使いこなし、ハイスピードで精密な戦闘を展開してみせた。これはもともと長らく米軍だけが保持しているはずの戦闘能力だった」(森川聡『米軍が恐れるロシア軍の本当の実力』 2022年1月12日)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/25392

さて、ロシアは「不労所得経済」の根幹である原油価格の動向に左右されます。
下図は原油価格とロシアの経済の相関関係を見たグラフですが、薄い青線の原油価格が下落した2015年にはロシアルーブルは投げ売られました。
しかし2018年頃には、原油価格がもちなおしたために再び回復基調にあります。

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第6節 ロシア:通商白書2019年版(METI/経済産業省)

「2018年の実質GDP成長率は、+2.3%と前年から僅かに加速した。要因の一つが原油価格の回復である。原油価格が下落した2015年には、成長率は▲2.5%と大きく落ち込んだ(第Ⅰ-3-6-2図)。その後、油価は2016年には底を打ち、上昇基調で推移してきた。油価の回復に伴い、ロシア経済も緩慢ながらも回復し、2018年には6年ぶりの2%を超える成長となった」(経済産業省ロシア経済マクロ動向)
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2019/2019honbun/i1360000.html

さて、そのロシア経済の大黒柱の原油市場は、いまどのようになっているのでしょうか。

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図録▽原油価格・天然ガス価格の動向

原油価格は見た目には上昇していますが、その原因はコロナ復興需要の急上昇による産業の再開が原因であって、OPECが増産に応じないのは、これが短期的に終わるとみているからです。
なによりも、石油掘削業は脱炭素政策によって石油産業の業態自体の寿命が長くはないと見ています。
だから増産に応ぜず原油価格の上昇を招き、ロシアを勢いづけてしまったのです。

皮肉にも自由主義諸国の脱炭素政策が、ロシアを一時的に元気づけてしまったようです。
今、プーチンが強気でいるのは、原油想定価格の42.4ドルを上回っているからにすぎません。

「ロシアも2020年の予算編成の原油想定価格を42.4ドルに設定しており、予算不足は必至と言われる(東京新聞2020.4.1)。ロシアは原油価格が予算編成時の想定価格を上回った場合、追加税収が「福祉基金」に入る仕組みとなっており、それでプーチン政権が大統領続投へ向け打ち出している生活水準の改善策(出生率向上のための支援や給与底上げなど)をまかなうものとされている。
このように原油価格が政権維持にも大きくかかわるため、ロシアはOPEC側と協調減産協議を再開する意向と見られるが、OPEC主要国のサウジアラビアは5月から輸出量を日量1600万バレルに増やし、需要減に対して価格競争に打って出てシェアを拡大することで危機を乗り越えようとしている」
honkawa2.sakura.ne.jp

そしてもう一つのロシア経済を決定する要因は、外交です。
ロシアが落ち着いた協調路線を取るならいざ知らず、いまのように世界を巻き込んだ戦争の危機の火種になってしまうと、当然危ないルーブルは投げ売られます。

「ロシアルーブル、対ドル9カ月ぶり安値 地政学不安で
ロシア中央銀行は外貨購入を一時停止すると発表した。ウクライナを巡る緊張が高まる中でルーブル相場が急落しており、売り圧力を緩和する狙いがある。
ロシア中銀は「金融市場のボラティリティーを抑制するため」、公開市場での外貨購入を停止するとの声明をウェブサイトに掲載。ロシアの財政規則の一環で、中銀は財務省に代わって外貨を購入する。この慣行は原油価格の変動が経済に及ぼす影響を抑えるのが目的で、原油価格が高い時には中銀はドルを購入し外貨準備に組み入れる
(日経2022年1月6日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB065CA0W2A100C2000000

これはロシア中央銀行が外貨購入停止、すなわちストップ安になったルーブルに為替介入したという意味です。

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ロシアルーブル為替レート(円/ルーブル,ルーブル/ドル)長期推移

ロシア中銀は、1ドル79ルーブルを超えて、さらに80ルーブルの大台に乗ると手がつけられなくなると見て、為替介入したわけです。
これはウクライナ周辺からロシア軍が引き上げない限り、続くはずです。

またロシアの株式市場も、当然のことながら悲観色一色です。
 ロシアRTS指数(RTS Index)は、東証指数のロシア版ですが、これもスゴイことになっています。

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https://cd-pf.s3.amazonaws.com/yelab/photo/111fb3a7-0807-4692-9b56-d94438aa892d.png

コロナ前の1600から、コロナで半減し800になり、その後の原油暴騰で1900に上昇し、そして今はウクライナで1200です。
日本でいえば、今の3万円台の株価が1万円台になってしまったということです。
これはひとえにプーチンが自ら撒いた種ですから、誰も恨めません。

もちろん、実際に戦端を開いてしまえば、大規模な経済制裁が発動されますから、ロシアの主力輸出品である天然ガスやニッケルなどの非鉄金属の輸出が無事であるわけはありません。
経済は重大な窮地に陥り、更に中国との一体化を進めるでしょう。

昨日もコメント欄に書きましたが、ウクライナ進攻が始まるかどうかはわかりません。
ただしその蓋然性は高まる一方です。
こういう時期には、絶対起きないとしたり顔で説く者も出始めますが、そのような人にまどわされずに、事実を淡々と見ていきましょう。
ロシアは中国と同じく情報戦がお得意なお国柄ですからね。

 

2022年1月27日 (木)

米、8500人規模の米軍を派遣、ただし準備だけ

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ウクライナ情勢が緊張の極に達しようとしています。
いわば、パンパンに空気を切れた風船の様な状況です。
いつ偶発的事件で、弾け飛んでもおかしくはありません。

この一週間で色々と動きがありました。
米国は、アフガン撤収時にもださなかった大使館員の退避命令を出しました。

「米国務省は23日、ロシアがウクライナに侵攻する恐れが高まっているとして、首都キエフにある在ウクライナ米大使館の職員の家族に対し、国外退避を命じたと発表した。またウクライナ国内にいる米国人にもただちに退避を検討するよう勧告した」
(朝日
https://www.asahi.com/articles/ASQ1S3FH5Q1SUHBI00D.html

また、8500名の兵士の東欧派遣準備も決めたようです。
準備だけで、ほんとうに派遣されるかどうかはわかりません。

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米欧首脳ウクライナ対応協議 米軍8500人派遣準備へ

動員準備に入ったのは、最小限の緊急即応ユニットの旅団戦闘団とその後方支援です。
このていどの規模の軍隊は、議会に諮らずに大統領の一存で動かせますから、さっさと出しておくべきでした。
戦闘艦や航空機も派遣すると言っていますが、カービー報道官はウクライナには投入しないとあらかじめ言ってしまっています。
これでは効果半減です。

「 ウクライナを巡る情勢が緊迫する中、米国防総省のカービー報道官は24日、必要に応じて極めて短時間で欧州に派遣できるよう、米軍は兵士約8500人を派兵待機としたと発表した。
カービー報道官は、8500人の兵士の大部分は北大西洋条約機構(NATO)が要請した場合に備え、NATO緊急即応部隊に参加できるよう派兵待機とされていると述べた。
カービー報道官によると、オースティン国防長官は「他の不測の事態」にも対応できるよう不特定多数の部隊が準備を整えておくことを望んでいる。ただ「現在、短い時間で準備を整えようとしている。現時点では派兵命令について伝えることはない」と述べた。
この日に派兵待機とされたのは、追加の旅団戦闘部隊、後方支援、医療支援、航空支援要員のほか、情報、監視、偵察任務に携わる部隊など。NATOもこの日、部隊を待機させ、欧州東部への戦艦や戦闘機の配備を強化するほか、南東部にも追加部隊を派遣する姿勢を示している」
(ロイター1月25日)
https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-usa-pentagon-idJPKBN2JY273

まぁ、やっとバイデンの鉛のように重い腰が動き始めたことだけは前進です。
ここまで深刻化しないと動けなかったのは、民主党の事実上の分裂に足を取られて、予算も決まらないようなていたらくだったからです。
ちなみに、わが国の首相が訪米できなかったアチラ側の事情は、この内政のシッチャカメッチャカぶりも関係しています。
呼んでも意味がない親中派(そう思われています)首脳を、こんな時期に呼びたくないってことです。

さて、いくつかにわけて考えていきましょう。
ひとつめはロシアの思惑。
二つ目は米国とNATO諸国の対応。
三番目はロシアの「親友」である中国の思惑。

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出典不明

まずはロシアの思惑ですが、鮮明すぎるほど鮮明です。
ウクライナを元のロシアの「勢力圏」に取り戻すことで、旧ソ連圏諸国でありながらNATOに寝返ったリトアニアやポーランドなどに強い警告を発することです。
内容的には、NATOの東方拡大停止、ロシアと国境を接する東欧諸国からのNATO戦力引き上げ、ウクライナへのミサイル配備禁止といったところを「文書化」、つまり条約化しろという意味です。

NATOもずいぶんと見くびられたものです。
もちろん、自らの同盟関係に関して仮想敵の意図を呑むことなどできる相談ではありません。
特に米国は「戦力配備に関するロシア側の要求に応じるなら双方が譲歩すべきだ。東欧諸国からのNATO戦力引き上げるならロシアも戦力を国境に近い地域から後方に移動させるべき」と要求しましたが、こちらもきっぱりと「ロシア領内のどこに軍を配備するかを決定するのは我々の自由だ」とプーチンにはねつけられてしまっています。
つまりテーブルで解決できる可能性は非常に少なく、米国はそんなに文書が欲しいなら、ノーと書いた文書ならくれてやってもいいぞ、と先日言ったようです。

プーチンはモスクワまで5分程度で到達する極超音速ミサイルのウクライナ配備を懸念しており、リャブコフ外務副大臣は「協議が失敗に終わりロシアへの軍事的圧力が高まればキューバとベネズエラにロシア軍を派遣する可能性について「肯定も否定できない」とメディアに語り注目を集めています。
米国とNATOがロシアの要求に応じないなら、中南米の親露国であるキューバやベネズエラに核兵器搭載可能なTu-160を駐留させたり、まだ米国が対称兵器の実用化に成功していない極超音速ミサイル「ジルコン」搭載のフリゲートや戦略原潜を大西洋上の公海に展開させるぞ、と脅しています。

一方、ロシアが抱え込んでいる紛争はウクライナだけではなく、ベラルーシ国境付近にも軍を集結させました。

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ウクライナ情勢緊迫】米軍、8500人を欧州へ派遣準備 …外務省

「ウクライナ国境沿いには10万人超のロシア軍が展開し現在も増強中。ウクライナの北方と国境を接するベラルーシにも共同訓練を理由に露部隊が続々到着している。バイデン政権はロシアの軍事行動がいつでも起きうるとしている。NATOも24日の声明で東欧の加盟国への増派を表明している」
(産経1月25日)

これはベラルーシがロシアと同じ権威主義(独裁)国家であったからですが、今度はカザフスタンでも暴動が起きて、ここにも部隊を派遣しています。

まったくため息がてるほど典型的なロシア流「力が正義」という外交政策ですが、ではどこまでやる気なのでしょうか。
一口で「ウクライナ危機の脅威」といっても漠然としていますが、ひとつの目安として、ロシア軍の兵站がどこまで延長できるかでおおよその見当がつくかもしれません。
兵站が切れたら、近代軍隊はそこでオシマイですからね。
静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授・西恭之氏はそれについてこう述べています。

「ロシアは十数万人の兵力、兵器、物資をウクライナ国境付近へ鉄道で展開し、極東からも輸送を続けている。しかし、プーチン大統領がウクライナ侵攻を命令した場合、線路の末端から前線への物資の輸送も、前線で故障した兵器の鉄道線路への輸送も、トラックが担うことになる。
ロシア陸軍のトラックが国内の物資集積地と往復して支援できる攻勢作戦は、ウクライナ南東部の現在の前線にいるウクライナ軍を包囲殲滅するといった、国境から100キロほどの作戦に限られる。
それより遠いキエフなどへ機械化部隊を進めるには、第一段作戦の後、占領地の線路を修理して物資集積地を前進させる必要がある」
『NEWSを疑え!』第1020号(2022年1月17日特別号)

米陸軍のアレックス・ヴァーシニン中佐は、ウクライナ周辺のロシア軍の兵站を分析してこう指摘しています。

「ロシア陸軍は物資集積地から90マイル(145キロ)を超えて兵站の所要を満たすだけのトラックを保有していない」
(『ウォー・オン・ザ・ロックス』 11月23日)

ヴァーシニン中佐は、ウクライナ国境付近に諸兵科連合軍4個が必要な兵站を支えるためのトラックの行動範囲、それにかかる台数、人員、整備・給油・食事・睡眠まで広範に調べ上げて、「ロシア陸軍の攻勢作戦の範囲が、トラック輸送能力によって百数十キロに限られている」としています。
つまり首都キエフを落とし、ウクライナ全土に進攻する力はなく、東部地域に限定された軍事行動しかできないということになります。
逆にいえば、ウクライナの東部2州に進攻する意図は明確だということになります。

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日本経済新聞

さて、ふたつめの米国の対応です。
バイデン政権がやっと重い腰を上げました。
冒頭で述べたように米軍の地上部隊の8500名の派遣準備は結構ですが、どこまで本気でロシアを阻止するきなのでしょうか。
東部前線、あるいはキエフとの中間線に投入されれば、ワイヤートラップとして機能しますが、おそらくバイデンはそこまで煮え切らないはずで、いまからウクライナには投入しないなんてブッチャケたことを言う始末です。

第一たかだか8500名という旅団規模では、怒涛のように押し寄せる10数万のロシア軍に蟷螂の斧で、たぶんNATO加盟国のリトアニアかポーランド派遣で、お茶を濁すのではないかと思われます。
そもそもこの派遣自体も決定したわけではなく、「NATOが要請したら」であって、投入すると決めたわけではありません。
あーあ、白けること。

むしろこんなお印のような陸上部隊よりはるかに強力な空母打撃群を地中海に派遣すると、サキ報道官は述べています。
派遣されるのは米海軍「ハリー・トルーマン (CVN-75) 空母打撃群で建前ではNATOの指揮で地中海で行われる海軍軍事演習 「ネプチューン・ストライク22」に参加するためです。
演習は、2月4日まで続き、140隻以上の艦船と支援艦、60機の航空機、約1万人の軍人が参加します。この間、USSハリー・トルーマン空母打撃群は、一時的にNATOの指揮統制下に置かれますが、これは異例なことだそうです。
ただしこちらも、この演習はサキ報道官によれば2年前から計画されていたもので、「この演習は大西洋横断同盟の結束、能力、強さを示すのに役立つだろう」ということだそうです。

つまり、陸軍も海軍もいちおう投入する準備はしました、と表明した段階にすぎません。
バイデンはケンカがゴチック活字で下手ですね
今、プーチンはケンカしてもいいぞ、来るなら来てみやがれ、ヨーロッパは俺様の天然ガスにひれ伏しているんだ。
ドイツ海軍トップさえ「プーチン様、あなたが偉い」って言ってるんだ(ほんと)。  

「シェーンバッハ氏は21日、インド・ニューデリーで開かれたシンクタンクの会合で、ロシアのウラジーミル・プーチンVladimir Putin大統領が望んでいるのは「尊敬されること」だと発言。「(プーチン氏の)望み通り敬意を表することは簡単で、恐らく彼は尊敬するに値する」と述べた。
独国防省の報道官はAFPに、シェーンバッハ氏は「即時」辞任すると述べた。シェーンバッハ氏はさらに、ロシアが2014年にウクライナから併合したクリミア半島について、すでに失われたものでウクライナに戻ることはないとも述べた」
(AFP1月23日)

こんなロシア軍のトップのようなダメ男が、ナニを間違ったのかNATO中軸のドイツ軍の中枢にいるくらいですから、推して知るべしです。
こんな意地も張りもないようなドイツには、ケンカ師プーチンの向こうを張ってウライナを守る気持ちなど毛頭ありません。
ドイツが、NATO各国が多大な支援を送る中、シカとして支援を拒否しているのはいうまでもありません。
いや 守る気がないどころか、英国からウクライナに支援物資を空輸する航空機のドイツ領空通過を拒否してみたり、リトアニアからドイツ製武器を支援したいのだがという要請にもノー。
おいおいドイツさん、あんたドッチの味方なんですか。

ですからバイデンが言うように、「NATOが要請すれば派遣」といっても、できるかどうか、私はドイツの反対でできないと思います。
だったらなおさら、盟主たる米国はハッタリでもかまわないから「全力で受けて立ってやろうじゃないか」と毅然と打ち返さねばなりません。
それがなんですって、ちょっと部隊を出すふりしてみせる、それもこんな「NATOの要請があったら」という逃げ道つきです。
空母打撃群も、ありゃ前々から決まってた演習ですから、と言ってしまう。

ロシアの本音は、ウクライナは支配圏に引き戻したいが、NATOやましてや米国と戦争するのは御免。
だから目一杯拳を振り上げて、ヤルゾ、ヤルゾと威嚇しているわけです。
つまりはオレ様の拳の置き所を、お前らのほうから差し出せ、と言っているわけです。

プーチンのほうがバイデンが本気でやる気か瀬踏みしているのに、いや、準備だけです、NATOがお望みならばです、なんてヘタレてどうしますか。
プーチンがやりたいのは、かつてのソ連時代の勢力圏を復活させて、「ミニソ連」を築くことです。
ただ、勝つ自信は口ほどにはありません
前述したように補給は薄くのび切っていて、せいぜいがウクライナ東部を奪取するのが精一杯です。
勝とうが負けようが、経済制裁で窮地に追いやられるのは必至です。
だから、ロシアの全軍を上げて「様子見」をしているのです。

こういう時期にグダグダの対応をしてしまうのですから、初めから負けているようなものです。
いずれしても、この地域で50トン以上もある戦車を動かし、千台に登る補給トラックを動かすには、地面が凍結している2月までしかありません。
3月になれば道路はグチグチャ。これにかつてのナチスドイツは負けたのです。
というわけで、ウクライナ紛争第二幕は後ろが切られており、プーチンは2月末をタイムリミットに設定しているはずです。
もうあまり残された時間はありません。



2022年1月26日 (水)

岸田さん、佐渡登録を自己目的化しないで下さい

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木原副官房長官がこんなことを言い始めました。
あ、官房長官や副官房長官なんてものがいたのね、失礼しました。
影薄いもんな。

「木原誠二官房副長官は21日の記者会見で、文化審議会が世界文化遺産に推薦する候補に選んだ新潟県の「佐渡島の金山」について説明した。戦前に朝鮮半島出身者が過酷な労働に従事したとの理由で撤回を求める韓国側の主張を「全く受け入れられない」と強調した。
2021年12月28日に在韓国日本大使館から韓国外務省に申し入れたと明かした。韓国外務省報道官は同日に撤回を要求する論評を出していた。
木原氏は「韓国国内で事実に反する報道が多数なされている。極めて遺憾で、引き続き日本の立場を国際社会に説明していきたい」と述べた」
(日経2022年1月21日)

ここまではなるほどなるほどと思いますが、続けて木原氏は、こうとも言っています。

「政府は佐渡金山を推薦するかに関して「登録実現に何が最も効果的かという観点から総合的に検討している」と説く。(略)
木原誠二官房副長官は21日の記者会見で、文化審議会が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産の推薦候補に選んだ「佐渡島の金山」の政府による推薦について「登録実現が何よりも重要だ。何が最も効果的かという観点から、引き続き総合的に検討している」と述べた」(産経1月22日)

おっと、なんですって「登録実現が何よりも重要だ。何が最も効果的かという観点から、引き続き総合的に検討している」、いやーな予感がする言葉です。
「登録実現がなにより大事だ」、なんてことはありません。

地元新潟の名誉となり、国民が誇るに足るものとして世界遺産登録でき、かつ徴用工のペテンを拒否できるならば、確かに重要でしょう。
しかしこのまま推移すれば、世界遺産登録はなるものの、ほぼ確実に韓国の主張のとおりの展示を要求されます。
つまり、韓国が主張する「朝鮮人労働者の強制連行と虐待」を展示することを約束させられることになります。
そんな余計なお荷物を地元に押しつけるようならば、いっそこのまま止めたほうがナンボかましです。

問題は、登録に際して「異議を唱える国」、すなわち韓国といかなる合意をするのかなのです。

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前回の軍艦島登録では、当初より日本は朝鮮人労働者を強制連行したことを否定しながらも、その交渉で敗北して、このような内容の合意を結ばされます。
上の写真の佐藤ユネスコ大使はこう言っています。

「日韓の調整で最後までもめたのは、施設の一部で戦時中に朝鮮半島出身者の「強制労働」が行われたことを韓国が明確にしようとした点だ。5日の登録決定を受けた演説で、日本の佐藤地ユネスコ代表部大使は「日本が徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる」と述べ、韓国側の主張に一定の配慮を示した」
(時事2015年7月6日)
 

「日本が徴用政策を実施したことを理解できる措置を講じる」、ここがキモです。
この合意した時点で韓国の思惑とズレています。
韓国側はこう解釈していました。

「韓国メディアは5日、「日本、強制労働を認定」(聯合ニュース)と報道するなど、韓国政府としては今回、歴史問題で譲歩 しない姿勢を国内向けに強くアピールできたと考えている。
尹炳世(ユン・ビョンセ)外相は同日、「『歴史的事実はそのまま反映されなければならない』という原則を貫徹し、韓日両国が大きな対立を避けて対話により問題を解決できた」などと成果を挙げた。」
(産経2015年7月6日)

韓国は「歴史的事実はそのまま反映されなければならない」というのが、原則だそうで、これは韓国の主張を「そのまま反映」するという意味です。
一切の反証を許さないわけで、この「約束」のために、日本は本来は誇るべき歴史を展示するにあたって、こんな配慮をせざるをえませんでした。

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「センターにある三つのゾーンの最後となる資料室には「徴用関係文書を紐解く――官斡旋、徴用、引揚について理解できる5つの文書」と題したパネルが掲示されていた。(1)国民徴用令(勅令)、(2)朝鮮人労務者活用ニ関スル方策(閣議決定)、(3)半島人労務者ノ移入ニ関スル件(閣議決定)、(4)出入国管理とその実態・昭和34年(出入国管理白書)、(5)引揚援護の記録(引揚援護庁編)――について、簡単に説明したものだ。パネルの前に置かれた情報端末では、それ以外の資料も見ることができる。そして書棚には、「朝鮮人強制連行」に批判的な本も並べてある。これが、政府当局者の言う「ギリギリ」だ」
(毎日2020年7月23日)

この記事を書いた澤田という毎日の論説委員が「ギリギリだ」というのは、軍艦島展示館では本来しなくていいような朝鮮人労働者が働いた経緯を説明する展示に多くを割くと同時に、それに対する反証を上げたことです。

「では実際にはどうか。現場で見た私は、「うーん」とうなってしまった。菅長官の言うような誠実さはみじんも感じられない。だが同時に、韓国側の「まったく履行されていない」という主張にも無理があったからだ。後日、経緯を知る日本政府当局者から「約束違反だと言われないギリギリ(最低限)のことはやっている」と言われた。まさに、そんな感じだ」
(毎日2020年7月23日)

この澤田克己という毎日の論説委員が、「誠実さがみじんも感じられない」というのは、たとえば下の写真のような長崎側の証人コーナーが設けられていたことです。

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軍艦島元島民「徴用工差別、聞いたことない」施設で紹介:朝日新聞デジタル

長崎県の展示は、ユネスコの合意に沿って「本人の意志に反して労働させられた」ということを、朝鮮人労働者が軍艦島で働いた経緯を丹念に資料で追っていくことで説明しています。
丹念に当時の歴史文書を展示し、強制連行などというフィクションではなく、歴史的事実の検証として展示しています。
ただし当然のことながら、この展示館では、韓国の主張のようにそこで差別的待遇があったり、虐待や監視があったとは述べておらず、長崎側の証人や証言が採用されています。
当然でしょう。軍艦島には多くの当時労働者だった人が多く存命しており、証言を残しているからです。

韓国はこの展示に不満で、5年もたった2021年7月にまたもやユネスコに提訴しました。
「【パリ時事】国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会は12日、世界文化遺産に登録された長崎県の端島(通称軍艦島)など「明治日本の産業革命遺産」の展示に関する決議案を公表し、朝鮮半島出身の労働者に関する説明が「不十分」だと指摘した。決議案は16日から始まる。
日本政府はこれにより、東京都に昨年開設した産業遺産情報センターの展示内容の見直しを迫られることになる。
 同遺産をめぐっては、韓国が2015年に朝鮮半島出身者が強制的に労働させられていた事実を主張して登録に反対。日本側はこれを受けて、当時の状況を説明する情報センターの設置を約束し、韓国も登録を了承した経緯がある。
 世界遺産の決議は、日本がこうした決定を「十分には実施していない」と指摘。「意思に反して連れて来られ、厳しい環境下で働かされた多くの朝鮮半島出身者らがいたことや、日本政府の徴用政策について理解できるような措置」の実施を十分考慮した上で、来年12月1日までに報告書を提出するよう求めた」
(時事2021年07月22日)
韓国にとって「徴用政策が理解できる展示」とは、釜山の近代歴史館の展示をみればおおよそ理解できるでしょう。
この写真は韓国の展示物の写真ですが、朝鮮労働者とは無関係なものだということがわかっています。
やせ衰えているから、勝手に朝鮮人労働者だと決めつけただけのことです。
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登録を自己目的化することで、登録達成のために韓国とおかしな妥協をして、地元に韓国の言うがままの展示を強要するなどあってはあらないことです。
そんな将来に禍根を残すようなものなら、やらないでけっこうです。

もし岸田氏が、「国際社会で客観的事実に基づく正しい歴史認識が形成され、わが国の基本的立場やこれまでの取り組みに対して正当な評価を受けることを強く求め、いわれなき中傷にはきぜんと対応していく」(令和4年(2022年)1月24日、国会・衆院予算委員会)と言うならば、中途半端な解決はありえません。ま正面から行くしかないのです。
その理由を高市政調会長は、このように指摘しています。

「仮に今年度推薦しないとすると、来年度以降、佐渡の金山の推薦は更に困難になる。
世界遺産委員会は21か国で構成され、日本の2021年11月から2025年秋までは委員国となっている。
現在、韓国は委員国ではない。
世界遺産委員会では、委員国のみ意思表示の権利があり、3分の2以上の多数による議決、つまり委員国14か国以上の賛成で認められる。
日本国政府は、江戸時代の貴重な産業資産を誇りを持ってユネスコに申請し、来年6月の決定までの期間を活用し、ユネスコの委員国に対して『江戸時代の伝統的手工業については韓国は当事者ではあり得ないと積極的に説明するべきだ。
それも出来ないと諦めているのであれば、国家の名誉に関わる事態だ」
(衆院予算委員会前掲)

林外相は例によって、「まだ本年度の推薦をしないと決めたということはない。登録を実現する上で、何が最も効果的かという観点で総合的な検討を行っている」などといっていますが、今できないものは来年以降さらにできにくくなるだけのことです。
林氏がいう、「もっとも効果的な時期」とは今でした。
それを逃して日本政府のぐらつきを「国際社会」にさらしてしまった以上、建て直して元の軌道に戻るしかないのです。
それができないで、姑息な妥協に走るならすっぱりお止めなさい。
本来、一国の外交方針はいくつかのオプションを準備しておくものですが、日韓関係、とりわけ慰安婦・徴用工問題はもう既に出るだけでてしまっています。
選択の幅はないのです。

 

 

2022年1月25日 (火)

山路敬介氏寄稿 「乖離するマスコミ調査と市民心理」の深刻さ

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                             「乖離するマスコミ調査と市民心理」の深刻さ
                                           ~「若いのに小器用な人」負ける!
                                                                                             山路 敬介

 名護市長選において現職の渡具知武豊氏が、新人で元市長岸本建夫氏の長男岸本洋平氏を5千票以上の差をつけて下しました。
有効投票数が33,963票なので、琉球新報が言うように「大差」と言って差支えないでしょう。

直近の事前報道では「渡具知氏わずかにリード、岸本氏激しい追い上げ」(沖タイ)、「渡具知氏やや先行、猛追の岸本氏」「二割が投票先未決定、基地重視30%最多」(琉球新報)、「基地問題か?、経済振興とまちづくりか?」「渡具知氏と岸本氏きっ抗」(RBC)、「互角の激戦」(琉球朝日放送)、「最大争点は辺野古移設問題」(テレ朝)、「横一線、基地問題が争点」(読売新聞)となっていました。

最も重要だと考える政策は何か?について、1/18の沖タイの世論調査では「30.8%が新基地問題重視、26.3%が経済振興・観光発展、16.3%が教育・子育て支援」となっていて、「新基地推進の現政府への否定的評価が6割超」としていました。ただ、このような結果は2018年の市長選とほぼ同等の数値でしたので、これを額面どおりに考えるかは別途考察が必要な場面だったと思います。

こうした報道を受けて、渡具知氏の苦戦は必至であるように認識した人は多かったと思います。
私にしても昨年衆院選後の時点で書いたように「渡具知氏支持は固い」との自民党情報を信じていましたが、かなり心配になりました。ただ、沖縄自民内部は終始「大勢が変化した形跡はない」との認識であったようです。

こうした事前報道と実際の選挙結果の乖離について思い出すのは、やはり渡具知氏が稲嶺進氏を3500票の大差で下した2018年の名護市長選挙です。
あの時は沖タイや琉新だけでなく、NHKふくめマスコミ各社がそろって電話調査や出口調査が全く実態を反映していませんでした。NHKは回答拒否率をかんがみ稲嶺氏の「当確」を踏み止まりましたが、すべった社もありました。電話調査の拒否率は30%をこえ、出口調査に至っては40%~から50%を超える回答拒否率だったと言われています。

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名護市長選で大敗、オール沖縄苦境 「基地は生活の問題なのに

どうしてそうなったか?
名護ではもう25年にわたり市長選の度に基地問題が争点化され、候補者だけでなく市民相互間でさえ旗幟鮮明にする事を求められてきた歴史があります。その元凶はいうまでもなくマスコミです。
そうした現象にほとほとウンザリしていた名護市民に対し、「基地問題よりも、市民の暮らしや生活向上を」と言って初当選したのが渡具知市長でした。
マスコミはそうした名護市民がおかれた事情を無視し、その真情をおもんぱかって調査成果に補正をかけるなどの対処をせず、結果として全体の見立ての誤りを繰り返つつ、不十分な情報を垂れ流し続けているのです。これはもはや確信犯です。
そうしたマスコミ的要素に準じるしか脳がないオール沖縄側は岸本洋平というエース級を投入しながら、2018年の妥当な敗因分析が全然活かされていませんでした。その意味で岸本氏は孤軍奮闘の闘いだったと言えると思います。

先日、宮古に来た名護のゴリゴリの辺野古反対派で有名な商工人のオジィと話をしたおり、岸本洋平氏を評して「人柄よし。しかし、若いのに小器用な人物」と言いました。それが具体的に何を指した言葉なのか分かりませんでした。

前市長の稲嶺氏はなかなか骨のある人物だったと思います。なぜなら、自ら撒いたタネでもありますが、ひっ迫する財政状況のなかでも国からの再編交付金年額15億円を頑として受け取らなかったからです。受け取ることはすなわち、辺野古容認である事に他ならないと考えたのでした。

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名護市長選、米軍再編交付金で真っ向対立…子育て支援活用巡り論戦

現市長の渡具知氏は公約どおり、この再編交付金を使って保育料や学校給食、子供医療費の無償化を実現させました。これはかなり思い切ったリベラル色の濃い政策ですが、子供を持つ親世帯には大変なメリットです。40代以下の渡具知氏支持者が圧倒的に多いのは当然です。

岸本洋平氏は「辺野古に反対すれば再編交付金を受け取れず、保育料や学校給食は有料となるのでは?」との質問に対し、「そのような事はない」と回答しています。財源は行財政改革で賄えると答えました。しかし、これを信じた市民はあまり多くはなかった。常識で考えれば、当たり前です。
宙に浮いた15億円という存在とタイミング、なにより稀有な実行力があったから、汲々とした財政状況の中でも渡具知氏は思い切った政策を実行できたのです。
再編交付金を再び受け取らず従来政策を行なうとなれば、そのしわ寄せがどのようなものになるか想像しない市民などいないでしょう。オール沖縄側では、このあたりのやり取りを致命的な失敗だったと見た向きも多いようです。
岸本氏に限らず、全ての政治家は選挙都合で器用にアゴだけ使って政策を語るのは止めた方が良いです。

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再編交付金」考えに相違 名護市長選、財源と政策

いずれにせよ渡具知市長のこの四年間の成果はめざましく、しかし適正な評価をした報道は皆無でした。もちろん情報として書かれていはしましたが、渡具知氏はマスコミ連中が標榜するリベラルな立場からこそ最大限評価されるべき政策の実行者だったのです。

渡具知氏は、さらなる子育て支援策や女性が働きやすい環境整備に力を尽くすとしています。
自治体の首長としての分を超える事なく、思い切った実行力で市民の生活の向上や遅れていた街づくりに専心する優れた市長を名護市民は選んだと思います。

なお、南城市の瑞慶覧長敏市長を下して当選した古謝景春氏のガッツと執念は凄まじいものでした。
最弱の首長と言われた瑞慶覧氏相手ですが、古謝氏はすでに三期やって四期目に「多選批判を受けて敗れた」と報道されていたのです。瑞慶覧氏がどのようにダメな市長だったか不案内ですが、多選批判を受けて敗れた市長が再び四期目に返り咲くなど全国的にも皆無です。ある種の沖縄人的「不屈の根性」を見た思いがしました。

参院選はともかく、知事選に向けてオール沖縄側は抜本的な政策の見直しが必要です。
すでに基礎票では保守側が上回っており、「辺野古絶対反対」が唯一の頼みではすでに限界です。
経済界だけでなく、各種団体の支持層もかなり自民党に剥がされていて先行きが見えません。

対する自民党には、はやく知事選の候補者選定を進めてもらいたい支持者の意向があります。
けれど、票を割る目的で保守のふりをした第三の候補が最後に担ぎ出されて来る可能性もかなりあって、偏向するマスコミに早くからエサをやるワケにも行きません。
金武や沖縄市長選、参議院戦を手堅くまとめる中でデニー知事への求心力を充分削いだうえ、最終決定される事になるでしょう。

               
                                                                               文責 山路 敬介

 

2022年1月24日 (月)

速報、名護市長選、現職勝利!

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名護市長選で現職渡久地市長が再選されました。

「23日投開票の沖縄県名護市長選で、現職の渡具知武豊(とぐち・たけとよ)氏(60)=自民、公明推薦=が再選を確実にしたことを受け、自民党の茂木敏充幹事長は党本部で「新型コロナウイルス禍の厳しい状況の中での選挙だったが、本当に大きな勝利だ」と記者団に強調した。
 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設工事については「国の基本的な(推進の)方針は変わらない」と述べた。
 茂木氏は「(岸田)政権の高い支持率がプラスに働いた」などと勝因を分析。「今年は(夏に)参院選、秋に(沖縄県)知事選もある。選挙イヤーの最初の選挙で、良いスタートを切れた」と自信を示した。
 一方、敗れた元市議の岸本洋平氏(49)=立憲、共産、れいわ新選組、社民、地域政党・沖縄社会大衆推薦=が玉城(たまき)デニー知事ら「オール沖縄」勢力の支援を受けたことについて、茂木氏は「共産党との連携への違和感も広がっていたと感じる」と語った。
 公明党の高木陽介選対委員長も23日深夜、「公明と自民が力を合わせて押し上げた結果だ」とのコメントを発表。再選した渡具知氏に対し「沖縄県で拡大しているコロナへの対応などに全力を挙げてほしい」と期待した」
(毎日1月21日)

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名護市長選、政権推す現職の渡具知氏再選 辺野古移設反対の新顔破

投票結果は

・投票率・・・68.32%(前回4年前を8.6ポイント下)
・渡具知武豊・無所属・現 当選・・・1万9524票
・岸本洋平・無所属・新           ・・・1万4439票

票差は約5千です。
前回の稲嶺氏との票差は、約3千票でしたから、いっそう開いたことになります。

年代別では

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沖縄テレビ

岸本氏に投票したのは70代以上が突出し、20〜50歳代の勤労世代は現職の渡具地氏に投票しています。
特に目立つのは、本土と同じく20歳代の81.9%、30代76.5%が渡具地氏に投票したことです。
岸本氏は若さをアピールしたはずなのに、裏腹の結果となりました。

同時に行われた南城市長選でも、オール沖縄候補が敗北しました。

「任期満了に伴う沖縄県南城市長選は23日投開票され、前職の古謝景春氏(66)=自民、公明推薦=が再選を目指した現職の瑞慶覧長敏氏(63)=共産、立民、社民、社大、にぬふぁぶし、れいわ推薦=を破り、当選を確実にした」
(琉球新報1月23日)

●南城市長選
投票率・・69・12%(前回を2・2ポイント上回った)
古謝景春・・・1万3028票

当選が確実となり、支持者とバンザイする古謝景春氏(中央)=23日午後10時18分、南城市佐敷新開の選挙事務所(伊禮健撮影)

 

たぶん名護市挑戦にオール沖縄候補が勝てば、今日の朝は長特大活字で、ひょっとしたら号外の一つも出たかもしれませんでしたが、お気の毒にも選挙イヤーの冒頭から2連敗してしまいました。
それでなくても無能が知れ渡っているデニー知事にとって、今年夏の県知事選に向けての目一杯の逆噴射であったことは間違いありません。

二つの市の候補者の政策を並べてみます。
まずは名護市です。

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沖縄タイムス

沖タイが作った上の一覧では、冒頭から辺野古移設がでてきますが、これがほんとうの争点だったのでしょうか。
移設問題は渡久地市長が言うとおり安全保障案件で、しかも今デニー知事による裁判の係争中です。
係争中の案件に関して市としてできることは、せいぜい注視することていどのことです。

そもそも自治体には、県はもちろん市に安全保障事案について許認可権はありません。
あるのは、ただの公水面埋め立ての承認作業だけです。
日本は原発や基地関連などについて過度に当該自治体の意見を聞いてきたために、あたかも、当該自治体が建設についての許認可権を有しているかのような錯覚が定着してしまいました。
もちろんただの勘違いです。
国は意見を聞いているだけで、建設そのものの許認可権を与えたわけではないのです。

仮に、これが守屋元次官と小川和久氏が推したシュアブ陸上案だったのなら、埋め立てを伴わないために、県がクチバシを入れる余地など、まったくなかったでしょう。
県の認可権は、公水面埋め立て作業の承認だけで、それは環境アセス等に限定されています。
この陸上案が退けられ、海上案に決まってしまったのは、他ならぬ岸本候補の父親の岸本元市長の時でした。
陸上案にすると地元のうま味がない、海上案でもメガフロート案になると本土のゼネコンが受注してしまう。
というわけで、結局、海上案で中途半端なものを作ることになったのは、岸本市政時代の名残なのです。
その海上案にした岸本元市長の息子が、こんどは一転して共産党と一緒になって移設反対ですから、親子してなにをしているのでしょうか。

ここででてくるのが、茂木氏が「「共産党との連携への違和感も広がっていたと感じる」というような、共産党とのベタベタな関係です。
実はかつて稲嶺氏が立候補する際に、共産党に独自候補を擁立を諦めてもらい一本化してもらう借りを作っていました。
そこで、稲嶺陣営は選挙公約で共産党の公約を丸呑みして、候補一本化をしてもらったといういきさつがあります。
当時の民主党鳩山政権による物心両面の全面支援と、この共産党との一本化があって、初めて稲嶺氏は僅差で勝利することができたのです。
この稲嶺氏は、翁長氏とタッグを組んでオール沖縄全盛時代を演出します。

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証人に翁長沖縄知事、稲嶺名護市長/辺野古代執行訴訟 裁判長が和解勧告

今や、旧社会党や社大党は衰退し、辺野古基金に集まった一部の沖縄財界人も去り、稲嶺氏も破れ、オール沖縄は看板倒れ、実態は限りなく共産党そのものとなりました。
共産党は、連合が激しく共闘を拒否していることからわかるように、民主主義政治を否定する「革命政党」であって、リベラルの範疇に入れることもできない党派です。
今回の名護市長選でも、連合は共産党との共闘を選んだ岸本候補を推薦しませんでした。
これが前回と較べて2千票減らした原因かどうかは定かではありませんが、労働組合関係が選挙マシーンに加われず、岸本陣営が共産党むき出しになるダメージはあったと思われます。

「連合がまとめた参院選基本方針の素案が21日、判明した。「目的が大きく異なる政党や団体等と連携・協力する候補者は推薦しない姿勢を明確にする必要がある」と明記した。共産党との選挙協力に反対を訴えており、厳しい推薦基準を示して立憲民主党などをけん制した形だ。2月17日の中央執行委員会で決定する」
(1月21日共同)

おそらく今年夏の知事選においても同じように共産党との共闘を選択した候補は、連合の推薦を得られないはずですから、デニー氏はオール沖縄と一線をを画さねばならなくなりました。
果たしてできるかどうか。
いずれにせよ、このことが名護市長選で現実に見えてしまったことは、今後大きな影響を沖縄に残すでしょう。

今回の岸本候補は、おくめんもなく共産党と同じようなことを言っていまいました。
たとえば、
岸本候補は生硬にも今また感染を拡げているオミクロン株の拡大と、米軍を結びつけて煽ってしまうという愚策を演じて、選挙戦冒頭から謝罪に追い込まれました。

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Jcast

「当初の「米軍コロナ」について、「『米軍全体=コロナ』との解釈を招く当該表現は、居住者・生活者としての米軍および米国関係者、またその家族に対する差別を助長しかねず、不適切でした」と説明。「お詫びの上、『米軍由来のコロナ』へと訂正させていただきます」とした。
 一方で、文書では「在日米軍基地が『水際対策の穴』となったことは明らか」「感染防止対策があまりにずさんな米軍を通じて、生活圏の重なる基地の街の人々へ、そして県内各地へと感染が爆発的に拡大した」と主張」
(Jcast ニュース1月17日)

岸本候補がとった「米軍コロナ」という表現は、手近に米軍への憎悪と不信を煽るものがあればなんでもひっつかんで政争の具としてきたオール沖縄の手法をそのまま踏襲したものです。
こういう表現が許されるなら「武漢肺炎」というメディアが禁句にしている表現も許容されてしまうわけで、民族憎悪表現そのものと言われても仕方がありません。
同じように「米軍(由来の)コロナ」という表現をデニー知事も使っていますが、そのような政治的さもしさが墓穴を掘ったのです。

とまれ、今回の名護市長選ではっきりしたことは、移設問題で票を集める構造は完全に終わったということです。

 

2022年1月23日 (日)

日曜写真館 機関車やなんでも食べる息白し

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機関車の骨格太し蝉の暁 近藤一鴻 

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機関車は裾も湯げむり初詣 誓子

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機関車は蓬の国へ消えてゆく 穴井太

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機関車に助手穂芒を弄ぶ 山口誓子

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機関車に潜る白息交しつつ 吉田未灰

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北国へ発つ機関車の胴黒く 島田青蛾

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くろがねの機関車座せり夏の月 天田牽牛子

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霜の機関車の重圧にたえている車輪 栗林一石路  

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機関士のまゝに定年山笑ふ 野崎夢放

2022年1月22日 (土)

佐渡金山、世界遺産取り下げへ

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やっぱり危惧は当たってしまいましたか。怒るというより、もはやため息です。
これが林氏が外相となり、茂木氏が幹事長なった時に決められた筋書きだったようです。
それは岸田政権に与えられた使命が、すべてを「安倍以前に戻す」ことだからです。

世界遺産登録で、政府は佐渡金山の世界遺産登録を自ら引っ込めてしまいました。
理由は、「関係国の異議申し立てを可能にし、結論が出るまで登録しない制度を導入した」からで、ここで日本が登録を申請すれば、「国際社会の信用を失いかねない」のだそうです。

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佐渡金銀山の世界遺産登録実現を目指し、知事と佐渡市長が、国・県・市

韓国の反発など、むしろないほうが不思議です。
「結論がでるまで」といいますが、韓国が日本の主張に理解を示すとでも思っているのですか。
百年議論を重ねても、いかにこちらが譲ろうとも「結論」などでるはずがありません。
ならば、わが国は淡々と申請の事務手続きに入ればいいだけのことで、何を忖度しているのでしょうか。
本来なら反論さえする必要はなく、無視すればよいのです。

「政府は19日、文化庁の文化審議会が世界文化遺産の国内推薦候補に選んだ「 佐渡島さど の金山」について、国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)への推薦を見送る方向で調整に入った。韓国の反発などで、2023年のユネスコ世界遺産委員会で登録される見通しが立たないと判断した。来週にも正式に決定する。
 複数の政府関係者が明らかにした。世界遺産委員会が一度不可と判断した推薦候補がその後に登録されたケースはなく、政府は24年以降の登録を目指す方針だ。
韓国側は佐渡島の鉱山で「強制労働があった」と主張し、登録に向けた動きに反発している。ユネスコは昨年、「世界の記憶」(世界記憶遺産)では関係国の異議申し立てを可能にし、結論が出るまで登録しない制度を導入した。「南京大虐殺の文書」の登録に反発した日本政府が新制度導入を主導した経緯がある。外務省内では、「今回は日本が逆の立場になり、韓国の反発がある中で推薦すれば国際社会の信用を失いかねない」との判断も働いた。
 文化庁は昨年12月、佐渡島の金山が国内候補に選ばれた際、「推薦の決定ではなく、今後政府内で総合的な検討を行う」と注釈を付けていた」(読売2022年1月20日)

ひさしぶりに、かつてよく耳にした「国際社会の信用」なる不思議な言葉を聞いた気分です。
少し前までは、「国際社会」とはザ・クアッドのことであり、インド・太平洋地域の平和のことだったのですが、岸田氏にとっての「国際社会」とは中韓のことのようですです。
かつて、いわゆる靖国問題、教科書問題、慰安婦問題、すべてが「国際社会の信用をなくす」という言い方で、筋もへったくれもなくひざまずいたものでした。
いわく「国際社会」様がお怒りだ、「国際社会」様が遺憾の意を表されたぞ、頭が高い、ええいなにを青臭いことを言っているのだ、さっさと道をお譲りしないか、わが国は永久に罪人なのだ、というわけです。

この朝日が使い、毎日が呼応し、東京がガナり、野党がネタに使い、自民党が呼応する「国際社会の怒り」とやらがまた蘇ってしまいました。
姑息に妥協点を自ら差し出し、国益を捨てる姿勢です。
もちろん、これは目先をそらすだけのことで、本質的にはなにも変わっていないので、とうぜん時間をおけば真実が蘇生します。
かつての慰安婦問題のように、強制連行したと主張された済州島現地調査がなされ、日本側の「証人」の虚偽が暴かれ、韓国側の主張そのものが崩壊していきます。
そして韓国内においても自称慰安婦は糾弾され、慰安婦団体も崩壊していきます。
ただしそれには数十年の時間がかかり、その間わが国は「国際社会の信用」を失い続けていたのですが。
つまり目先の姑息な回避は、遥かに大きな「国際社会の信用」の喪失につながったのです。

今までさんざん踏んだ轍です。
簡単なことです。綿密な証人調べ、証拠集めに基づいた冷静な反論、結局それに尽きます。
今回ならば、佐渡金山に強制連行されて虐待を受けたといっているのですから、どうぞ文化庁さん、まだ証人が生きているうちに徹底した調査をしてください。
地元自治体も喜んで協力してくれるでしょう。
文書もまだ相当数残っているはずです。
今回、日本側はその独自調査をしましたか。しないで、韓国に忖度しているだけではありませんでしたか。

残念ですが、文化庁はこんな角を立てるような調査は初めからしないか、してもおざなりのもので済ませたことでしょう。
なぜなら、初めから政府が「今後政府内で総合的な検討を行う」と言ったということは、「高度の政治判断」があったということです。
つまり政権中枢は、初めから韓国におもねるのが規定方針だったのです。

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私がオールド自民党と批判し続けた体質がまさにこれです。
自国の国益の観点がない、理念が欠落している、あらかじめ摩擦を想定して回避しようとしていっそうつけ込まれる、そして国益を棄損し続ける、かつて20世紀最後の自民党はこんな連中ばかりでした。
相手国と対立関係に入りそうになると、いとも簡単に原則を放棄して自ら落とし所を作る。
どんな無理難題を吹っ掛けられても、妥協点をあらかじめ相手国に差し出して、腹を出して甘え声を出してしまうのですからなんともかとも。
今回の世界遺産なら、たぶん軍艦島で韓国からさんざんジャパン・ディスカウントされたことを思い出して、腰が引けたのでしょう。
いや、なにも始まらない前から負けています。

だから何回も同じことを繰り返されるのです。
そんなことは軍艦島登録と慰安婦合意をした外相の岸田氏なら、よく分かっていなければなりません。

今回など韓国側からこんなていどの動きが出ただけで、岸田政権は腰が引けてしまいました。

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韓国外交市民団体、佐渡金山の世界遺産登録推進批判するポスター配布

「【ソウル聯合ニュース】韓国革新系与党「共に民主党」の田溶冀(チョン・ヨンギ)氏ら同党の国会議員50人は6日、日本による植民地時代に朝鮮半島出身者が強制労働させられた「佐渡島の金山」(新潟)の国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界文化遺産登録を日本が推進していることに反発して、中止を求める決議案を提出した。田氏らが国会で記者会見を開き、明らかにした。
 決議案は、佐渡島の金山では少なくとも1140人の朝鮮半島出身者が強制労働させられたことが確認されていると強調。また、朝鮮半島出身者が強制労働させられた場所の世界文化遺産登録を推進するのは長崎市の端島(通称・軍艦島)を含む「明治日本の産業革命遺産」に続いて2回目だとし、日本政府は労働者が本人の意思に反して強制労働をさせられたことが確認されていると強調。
また、朝鮮半島出身者が強制労働させられた場所の世界文化遺産登録を推進するのは長崎市の端島(通称・軍艦島)を含む「明治日本の産業革命遺産」に続いて2回目だとし、日本政府は労働者が本人の意思に反して強制労働をさせられたことが理解できるように展示を行うなどとした約束を守っていないと指摘した」
(聯合1月11日) 

このようにまず反日「市民団体」が騒ぎ、韓国メディアがそれを増幅し、得たりとばかりに政権が乗って外交問題にする、日本とよく似た構造です。
今回は徴用工です。
この佐渡金山は江戸時代の頃から掘られ始め、やがて三菱マテリアル(旧三菱鉱業)に払い下げられて、1980年まで採掘を続けてきました。
さぁ、また出てきましたね、「三菱」というマジックワードが。
「三菱」は戦犯企業に決まっていますし、韓国政府の作った「戦犯企業リスト」にも三菱マテリアルが載っているそうですから、論証不要で徴用工らは虐待されて殺されたに決まっている、と韓国は考えます。

もちろん大戦当時も採掘は続けられ、そこに朝鮮人労働者が働いていたことは事実です。
日韓近現代史を研究している青山誠氏はこう書いています。
「佐渡は、金だけではなく銀、銅も産出した。いずれも貴重な戦略物資なだけに日中戦争後は、増産体制に入り事業は拡大。
太平洋戦争開戦後の1943年にも金709キロ・グラム、銅867トンが採掘されている。当然のこと大勢の坑夫が必要になる。
そこに朝鮮人徴用工がいた。
佐渡鉱山所では、1940年2月から1942年3月までに、1005人の朝鮮人労働者を募集によって集めたという記録が残っている。
まだ、朝鮮半島での戦時徴用は始まっていなかったが、韓国では、この募集にも“強制があった”という意見が大多数。このため、募集工も「徴用工」に含めて語られることが多い」
(青山誠 コリア・ワールドタイムス 2021年12月25日)
では、この佐渡鉱山で働いた1005人の朝鮮人労働者はどのような待遇で、どのような処遇を受けていたのでしょうか。
韓国はきっとこんなイメージでしょうね。
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映画『軍艦島』ポスター
韓国人は映画と現実を容易に混同しますから、軍艦島世界遺産登録ではごていねいにも映画まで作られて大ヒットしました。
韓国民はそれが事実そのものだと思ったようです。
今回は『SADO』なんて作るかもしれませんね。
映画『軍艦島』はこんな調子でした。
「映画の冒頭、山口県・下関に到着した「徴用工」や「慰安婦」を日本兵が窓のない貨車に詰め込む場面があり、ナチスのホロコーストと同列という印象を観客に植え付ける。さらに、女子小学生が慰安婦として性病検査を受けさせられたり、朝鮮人徴用工は言語に絶する虐待を受ける。慰安婦が無残に虐殺される回想シーンもある。
 日本の敗戦が近づくと、会社側は虐待の事実を隠蔽するために、朝鮮人全員の殺害を決定する。ラストは朝鮮人徴用工と慰安婦が銃を取って日本兵を倒し、石炭運搬船で軍艦島から脱出する、という内容だ」(産経
2018.年9月26日)
https://www.zakzak.co.jp/soc/news/180926/soc1809260008-n1.html 
ほとんど根も葉もないウソです。
これは佐渡金山にも共通するのでみていきましょう。
映画『軍艦島』中に登場する朝鮮人たちは強制連行により送り込まれたか、甘い言葉にだまされて日本に渡ったところ奴隷労働を強制された、とされていますが、事実は日本政府、ましてや日本軍が直接関与して、朝鮮半島で労働者狩りをしたという事実はまったくありません。

「徴用」があったのは、大戦末期のみの6カ月間にすぎませんし、大戦前の1939~41年の期間は民間企業による「募集」、開戦後の1942~44年9月の期間は朝鮮総督府による「官斡旋」、戦争末期の1944年9月~1945年3月は国民徴収令による「徴用」と呼ばれていました。 
軍艦島も佐渡金山も、この時代区分による朝鮮人労働者導入制度をゴッチャにして、意図的に混同して使用しています。
 
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そもそも「強制連行された徴用工」という概念自体が、朝鮮総聯系の朴慶植が1965年に書いた『朝鮮人強制連行の記録』で作った造語で、当時は存在しませんでした。
「従軍慰安婦」という用語も、歴史的にはただの「慰安婦」と呼ばれていたのと同じで、用語自体に虚偽を含ませてプロパガンダに使っています。 
ちなみに慰安婦問題では、戦時勤労動員が混同されて、14歳の少女までが慰安婦に強制的にされたことになってしまいました。

戦後よく誤解されているようですが、日本は朝鮮半島から労働者を移入を許可したのは、日中戦争の1939年から1945年までのわずか6年の短い時期にすぎません。
それは
36年間あった日本統治時代の末期のたった6年間のことでした。
それまで朝鮮人は日本国内で働くことを制限されていたために、それに対しての朝鮮人の不満のほうが大きかったほどです。
 
日本国内は不景気でヒト余り状態だったので、朝鮮半島から労働者移入に制限をかけていたのです。
このために、朝鮮人が日本に渡航するためには、国内での住所や仕事の証明書の提示が義務づけられた「渡航輸止制度」があり、日本国内で働くには高い倍率を潜らねばなりませんでした。

では、なぜ高い倍率をくぐってまでも国内の炭鉱で働きたかったのでしょうか。
理由は簡単。高給が保証されていたからです。

九州の炭鉱に残された徴用工の給与明細には当時の朝鮮人労働者の給与が記されていますが、月額150~200円で、当時の日本人の大卒エリートサラリーマン並の高給優遇でした。
佐渡でも同等の給与水準でした。

また、『軍艦島』では島にいたことがない憲兵まで登場しますが、もちろんそんな憲兵はそれほど暇ではありません。
もちろん佐渡鉱山にもいませんでした。
なぜならこんな高給を捨てて逃げないし、仮に逃げてもまた募集をかければすぐに人が集まってくるのですから監視なんかする手間が惜しかっただけのことです。
たしかに佐渡金山で逃走した者が148人ほど出ていますが、これは逆に監視が厳しくない証拠です。
厳しければ148人も逃げられるはずがありません。

亡くなった朝鮮人労働者はみな事故死で、坑内ではむしろ日本人坑夫のほうが危険な場所で作業しているのですから、朝鮮人労働者のほうが日本人より死亡率が高いわけがありません。 
軍艦島には、『炭鉱誌長崎県石炭史年表』という資料に、事故死亡数の詳細な記録が残っています。 


・昭和10年3月 ガス爆発事故 日本人18名・朝鮮人9名死亡
・同11年10月 落盤事故  日本人1名死亡
・同11年5月事故死 日本人1名
・同11年落盤 日本人1名死亡
 

死亡率に関しては、九州大三輪宗弘教授の石炭統制会資料の研究がありますが、日本人労働者と朝鮮人のそれとはほとんど差がないと記されています。死亡した朝鮮人労働者の遺骨は、丁重に家庭に送ったという記録もあります。
このように韓国がまたぞろ強制徴用と言っている佐渡金山とは、韓国の妄想の産物なのです。

むしろ問題は、この韓国の妄想じみた糾弾を受けた日本側にあります。
相手国と対立軸が出来そうになると、自分から相手にすり寄る妥協案を作ってしまい、それをあらかじめ落とし所にするような卑しい習性は、特に中韓相手にいかんなく発揮されましした。
それは初めは贖罪意識から始まり、やがて利権に結びつきました。
特にリベラル左翼が党執行部を握った前世紀最後の10年間は、河野談話など後々禍根を残す妥協を積み上げた結果、かえって中韓に自民は居丈高にふるまえば必ず妥協してくるという誤った認識を与えてしまいました。
この悪しき体質を変えたのが安倍氏でした。

安倍氏はこの岸田政権の決定にこう反論しています。

「安倍元首相は20日、自らの派閥の会合で、「佐渡島の金山」の世界文化遺産への推薦について政府が「論戦を避ける形で登録を申請しないのは間違っている」と指摘した。安倍元首相は「今度の件(佐渡島の金山の推薦)についてはもちろん最終的には岸田首相をはじめ政府が決定をすることであるが、ただ論戦を避ける形で登録を申請しないのは間違っている」と述べた。
その上で、朝鮮半島出身者が強制労働させられたと反発する韓国を念頭に、「ファクトベースで反論していくことが大切だ」と強調した」(1月20日FNN)

この安倍氏の主張自体は正論ですが、この安倍氏も2015年の軍艦島をめぐる日韓交渉で失敗しています。

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「【ソウル=藤本欣也】韓国メディアは5日、「日本、強制労働を認定」(聯合ニュース)と報道するなど、韓国政府としては今回、歴史問題で譲歩しない姿勢を国内向けに強くアピールできたと考えている。
尹炳世(ユン・ビョンセ)外相は同日、「『歴史的事実はそのまま反映されなければならない』という原則を貫徹し、韓日両国が大きな対立を避けて対話により問題を解決できた」などと成果を挙げた。」(産経7月6日)

韓国側が勝利したと考えたのは、「強制性」を認めたかのような文言を入れてしまったからです。
※関連記事『速報 軍艦島世界遺産登録 第2の河野談話の誕生』
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2015/07/post-a099.html

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中央の女性が佐藤大使

2015年7月、当時の佐藤ユネスコ大使は、 “forced to work” という表現で、軍艦島の強制性を自ら認める発言をしてしまいました。
まったくひどい外交的失敗です。

「日本は非常に多くの朝鮮人を含めた労働者がいくつかの場所で、1940年代に厳しい環境の下、自らの意思に反して連行され、強制労働に従事させられたということの理解の促進に向けた行動を取る準備がある」

この発言について国内で批判を受けた外務省は、このような苦しい説明をしています。

「意思に反して連れて来られ(brought against their will)」と「働かされた(forced to work)」との点は、朝鮮半島出身者については当時、朝鮮半島に適用された国民徴用令に基づき徴用が行われ、その政策の性質上、対象者の意思に反し徴用されたこともあったという意味で用いている
今回の日本代表団の発言は、従来の政府の立場を踏まえたものであり、新しい内容を含むものではない。
今回の日本側の発言は、違法な「強制労働」があったと認めるものではないことは繰り返し述べており、その旨は韓国側にも明確に伝達している」
※2015年7月14日 外務省『「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼,造船,石炭産業」のユネスコ世界遺産一覧表への記載決定(第39回世界遺産委員会における7月5日日本代表団発言について)

これで言い訳になると思うほうがどうかしています。
「意志に反して働かされた」とは、「強制労働された」という意味ではありませんか。
それ以外、どう取りりようがありますか。
それでいて「強制労働を認めない」と言ったところで外務省が大好きな「国際社会」は、日本が軍艦島で強制労働をさせていたと解釈するでしょう。
結局、交渉の場で、あたりのいい表現で姑息にごまかそうとするから、こういうことになります。

私はこのような姑息な表現は、第2の河野談話になると考えていました。
イヤな予感に限って当たるもので、現実に徴用工裁判や軍艦島、そして今回の佐渡でふたたび三たび蘇ることとなります。
河野談話と比較してみましょう。


「慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したことがあったこも明らかになった」(太字引用者)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/taisen/kono.html

「本人の意志に反して」と韓国に言ってしまったら、それはとりもなおさず強制性を日本政府が認定したことなのです。

この姑息な妥協をした当時の外相は、岸田文雄氏でした。
そして後に慰安婦合意を作って、壊されたのも彼でした。
この人、何回同じことを繰り返したら気が済むのでしょうか。

 

2022年1月21日 (金)

ワクチン在庫があったのに遅れた3回目接種の怪

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3回目のブースター接種が遅れています。
岸田首相は1月17日頃になって、「包括強化策」を発表していますが、その対策の中心は3回目接種です。

「岸首相は17日夕、新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」の感染拡大を踏まえ、予防・検査・早期治療の包括強化策を講じる方針を明らかにした。
医療
従事者や高齢者ら約3100万人を対象に3回目のワクチン接種を前倒しする。経口治療薬の提供を年末から始め、忘年会などが増える年末年始に向けて検査体制も強化する」
(時事2021年12月17日)

その理由を岸田氏はこう言っています。

「オミクロン株は極めて感染力が強く、専門家は世界中で早晩感染が拡大することは避けられないとしている」と指摘。今回の措置により「医療提供体制が逼迫しないよう全力を尽くす」と強調した」
(時事前掲) 

おいおいです。12月頃にもなって今さらのように「オミクロンが極めて強い感染力を持つ」なんて言われても困ります。
当時、もう世界は感染爆発していましたからね。
だから在留邦人にも帰ってこなくてよい、全部入国航路は遮断だ、なんてやったのはあなたでしょうに。
それほど感染力が強力だとわかっていたのなら、今さら「前倒し」なんていわずに、さっさと11月、12月の時点で在庫ワクチンから医療関係者や高齢者に打てばよかったのです。
そうすれば、沖縄の医療崩壊危機なんて起きなかったのです。

では、なぜ打ち渋っていたのでしょうか。
岸田氏はこういう言い方をしています。

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岸田首相にブーメラン、菅政権のコロナ対応を批判もワクチン後手後手

「これまでは、短縮を認めるケースを医療機関や高齢者施設でクラスター(感染者集団)が発生した場合に限っていた」
(時事前掲)

しかし実際はこの短縮の例外と決めた医療従事者や高齢施設にさえ現実には打っていなかったわけで、新型コロナウイルス感染症対策分科会のメンバーである、小林慶一郎・慶応大学経済学部教授はこう指摘しています。

「(遅れた原因の)一つは「どちらかというと政府の中の対応がのんびりしていた」。
二つめは、「供給量が年内は足りないだろう」と考えられていた。これは「8か月間隔での接種」ということを前提に製薬会社と交渉していたことによる。したがって、年内に高齢者施設や医療従事者には接種できるが、一般の高齢者までは対応しきれない、と思われていた。
 さらに、自治体間で準備状況に差があった。平等にしようとすると、準備ができてないところに合わせて遅いタイミングやることになる、というわけだ。
 小林氏は、「国民の命をリスクにさらしながら自治体の間の平等をはかる」「これは極めて問題のある判断」「とても許される判断ではない」と語っていた」
(Jcastニュース2021年12月28 )
 日本のワクチン「3回目」接種は遅い オミクロンに間に合わなくなる: J-CAST トレンド

小林教授によれば、岸田政権がこだわったのは、いかに早く重点対象から3回目を打っていくのではなく、「足並みを揃える」こととだったようです。
だから11、12月の時点でワクチンは在庫あって、「年内に高齢者施設や医療従事者には接種できるが、一般の高齢者までは対応しきれない」から全部打たないという珍妙なことをやらかしたのです。
また同じく「自治体間の平等」を気にしたために、感染リスクが高い自治体から打つという緊急時に当然すべき状況判断が欠落していたようです。

岸田氏は総裁選の時にこう言っていました。

「来月の自民党総裁選への出馬を表明した岸田文雄前政調会長の記者会見は、最大の争点の新型コロナウイルス対応で菅義偉首相との違いを強く意識した内容だった。
感染状況を巡る首相の楽観的な見通しが「後手」「小出し」の対策につながっているという批判を受け、最悪のケースを想定して徹底的な抑え込みを図るべきだと主張。説明責任の軽視を指摘されていることも踏まえ、国民の理解と納得を得るメッセージの重要性も訴えたが、具体策での独自性は乏しかった」
(東京2021年8月27日 )

実際には菅政権時代にワクチン接種は驚異的なスピードで進んでおり、昨年末の時点で総人口の73.8%が2回接種を完了し、今や65歳以上の接種率は9割を超えて、米国や英国、ドイツなどを上回る世界トップクラスの接種状況となっています。
その結果、昨年秋には感染が終息しかけていました。
この菅氏の成果を、岸田氏は「後手で小出しだ」と言って総裁になったのですが、やったのは入国制限だけ。

今後は「前倒し」3回目接種のスケジュールが組まれているようです。
自治体によってバラつきはありますが、いったん歯車が回り出せば日本人の特性からいって早いでしょう。
ただしこのペースでは、オミクロンの急激に減衰する特性から見て、打つ頃には感染はピークアウトしていますけどね。

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ワクチン】3回目接種券の発送(11月19日) - 呉市ホームページ

また、肝心のワクチン担当の堀内大臣が機能していません。
医療現場や自治体からは、現実とズレているという声が相当あがってきているようです。
堀内大臣は、河野氏とは正反対のタイプで、前任者がうるさいほど発信し、現場対応でどんどん方針を修正したのに較べて、海底のひらめのようです。
なにも意見がない大臣だと、厚労省官僚から見切られると、どんどん彼らのペースにはまっていきます。
おそらく河野氏なら、去年11月で全体の2回目が終了した時点で、3回目を始めていたでしょうし、菅氏もそれを指示したはずです。
なぜなら、11月時点で河野氏はワクチンの在庫がたっぷりあると発信しているからです。

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中日

前内閣参与の高橋洋一氏は、「飯田浩司のOK! Cozy up!」(1月12日放送)でこう述べています。

「厚労省がいろいろな方針を出すのだけれど、「何かズレている」と現場の人はみんな思っているでしょうね。私もワクチンについては遅れているなと思います。河野さんも「国内在庫がある」と発信していたしね。
飯田)年末以前に発信していました。
高橋)ワクチン接種は在庫があるときにやるのが普通です。わざわざ持っている必要はありません。
飯田)持っていても有効期限が来ますしね。
高橋)すぐ打ってしまえばいいのです。なぜ8ヵ月にこだわるのかわかりません」

いつも怒って唾を飛ばしているようなワイドショーの坂上氏も、こんなことを叫んでいました。

「MCの坂上忍は特に厚労省がワクチンの3回目の追加接種について、2回目の接種が終わってから8か月後の実施を軸にしていることを問題視。「僕はしつこく何度でも言いますけどね。3回目のワクチン接種まで8か月(間隔を開ける)と言い出したのは誰なんだ?って。本当になんでそんなことになったんだ?って、あの遅れだけは絶対に許さないから」と声を荒らげていた」
(ZAKZAK2022年1月18日)

坂上さん、誰ってそれは岸田さんですよ。坂上氏は時系列が混乱しています。
たぶん菅さんだと思って怒り狂ったふりしたのでしょうが、菅-河野時期は9月末で終了し、その時にはオミクロンの修験などだれひとり想像すらしなかったのです。
ですから、去年夏の時点で通常どおり8か月間隔で打つという方針には妥当性がありました。

しかし突如、南アフリカでオミクロン株が出現したのが11月末。
それがたちまち世界に伝染を拡げて、米国で1日の感染者が爆発的に増えたのが12月の頃からです。

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オミクロン猛威、米国コロナ感染が1日50万人超 | ブルームバーグ

これを見て、11月末から岸田政権がしたのが入国制限でした。

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この世界的感染爆発を、水際対策だけで乗り切れると思っていたのでしょうか。
水際作戦はしょせんザルで、米軍からでなくてもどこからでせ必ずすり抜けてきます。
ましてや今回のオミクロンは、廊下を隔てた部屋の人にすら感染したようなタイプです。
だから時間稼ぎで、その火星だ時間でなにをするのかが問題なのです。

11月末に岸田政権がするべきは、水際対策が稼いだわずかな時間(たぶん1カ月間ていどでしょうが)の間に、ありったけの在庫のワクチンを医療従事者から打つことでした。
ところがそれをしないで、「鎖国」をやったことに安住してしまいました。
官僚を使えない岸田氏らしいことです。
ぜひ「国民の理解と納得を得るメッセージの重要性」を掲げて首相になられた岸田首相におかれましては、3回目の遅れについてご説明をいただきたいものです。

 

2022年1月20日 (木)

実効再生産数がピークアウトしたのに、今頃 マンボーですか

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陽性者が4万を超えたとか。
政府は、東京、埼玉、神奈川、千葉、沖縄、広島、山口など13都府県にマンボーをかけるそうです。
あーあ、岸田さんやっぱりやりますか、感染が先行した県はオミクロンがピークアウトしているっていうのに。
感染後発の県にも拡がっているから、感染者が急激に増えて見えるだけなのです。
オミクロンの挙動の特徴は急激な感染拡大ですから、おたおたしないで下さい。

東京を例にとって、第6波オミクロン株の感染状況をおさえておきましょう。
まずは感染者数、もとい陽性判定者数からです。
新型コロナ特設サイト NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/number-tokyo/monitoring.html

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NHK

たしかにすごいスピードで陽性者が増加しています。
全国の感染状況も見てみましょう。
下図の黄色の山が感染者です。

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https://app.cocolog-nifty.com/cms/blogs/610475/entries/93260892?finished=1&finished_from_edit=1

WHOが南アフリカで見つかった新型の変異株を「懸念される変異株」に指定し、オミクロンと命名したのが2021年11月26日のことです。
そして瞬く間に世界を席巻し、空港検疫で日本初のオミクロン株感染が判明したのが11月30日。
わずかそこから2カ月足らずで、今までのコロナウイルスにはなかった爆発的なスピードで拡大し続けています。

この拡大力の凄まじさは、デルタ株と比較するとよくわかります。
デルタ株が引き起こした去年夏の第5波時は、7月からじわじわと感染者数が増え始め、初めて1日当たりの感染者が2万5000人を超えた8月19日までは1カ月半かかっています。
上のグラフの8月の山と1月の山の上昇角度に注目してください。
今回は、1月1日の感染者534人から、1月15日に2万5000人を突破するまでわずか2週間だった

数だけ見ていると、まるで大災厄が起きたような恐怖に襲われます。

「国内では今年に入って感染スピードが加速し、1月1日に534人だった新規感染者数は12日には1万人台に。2日後の14日に2万人台となり、さらに4日後の18日に3万人を超えた。
18日の新規感染者数が過去最多を更新した18府県のうち14府県は、関西や九州などの西日本地域だった。大阪府は5396人に上った。東京都は過去最多ではなかったものの、5185人の感染が確認された」
(読売1月18日)

この数とスピードに目くらましされてはいけません。
この急速な拡大はオミクロン株に特有のものですが、一種の数字のトリックのようなもので、実態よりも過剰に見えるように出来ています。
実態を知るために、陽性者からどれだけの入院者と死亡者が出たのか見ねばなりません。
入院者数は、岸田氏が初動でなんでもかんでも隔離したために、やたら水膨れしていますのでご注意下さい。
彼らの大部分はピンピンして、隔離病床で退屈を囲っていますからね。
無駄に貴重な隔離病床を使いおってと思いますが、とりあえず置きます。

1月12日時点で、全国の病床使用率は16%ですが、18日時点では東京が23%、大阪で29%となっています。
これが首長たちが、医療逼迫の危険があるとしてマンボーを申請した根拠です。

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NHK

もっとも重要なのは重症化の数です。
ご承知だとおもいますが、いくら数が多くても、陽性者の大部分は鼻水と倦怠感ていどの軽症か、かかったことにさえ気がつかない無症状です。
更にこの感染者数を検出したのはPCR検査ですが、これは3割の偽陽性を出しますから、実際はもう少し低いでしょう。
要は、医療機関に受診して入院する数が問題なのです。

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NHK

なんだ7人ですか。大山鳴動ネズミなんじゃらですな。
これは東京にかぎらず、全国で重症化が低い傾向は明らかです。

「国内の新型コロナウイルス感染者は18日、新たに3万2197人が確認され、「第5波」の8月20日に記録した2万5990人を上回り、過去最多を更新した。現在の第6波では、感染力が強いとされる「オミクロン株」への置き換わりが進み、大阪、栃木、福岡など18府県で最多を記録。一方で重症者は261人で、第5波ピーク時の10分の1にとどまっている。(略)
感染者は増えているが、今のところ重症者は少なく、死者数も18日時点で10人で、第5波のピーク時(89人)より大幅に少ない」
(読売前掲)

全国も見ておきましょう。

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https://www.nippon.com/ja/japan-data/h01228/?cx_recs_click=true
8月のデルタ株の時とはまったく違っています。
オミクロン株を無害なコロナというのは言い過ぎですが、きわめて非力なコロナであることは確かです。
だから、米国は1日200万とかいうベラボーな数の感染者を出しても泰然としているのです。
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NHK
またオミクロン株の特徴は、急激に感染拡大して急激に消滅することです。
国立感染症研究所は感染隔離の期間は5~10日間で充分で、そのていどで入って抜けると言っています。
ですから、ひとりが何人に感染拡大するかを見る指標である実効再生算数をみると、急激に上昇して急激に低下することがわかります。
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藤原かずえ氏による

時系列で実効再生産数をみれば、いかにピークがたちまち来て、たちまち減衰するのかわかります。
・12月11日・・1.05
・12月31日・・1.23
・1月10日・・・5.8
・1月17日・・・1.17

わずか7日で、約6あった実効再生産数が1.17にまで落ちていますから、約1週間あればピークアウトするわけです。
実効再生算数が低下すれば、その2週間後には陽性者数も減ることが経験則で知られていますから、重症化する人も当然減るわけです。
この重症化率の低さこそ、オミクロンの最大の特徴です。
これを他の株と比較すると、6分の1程度です。

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第6波「オミクロン株」の重症化率は?第5波よりどのくらい低い?東大

「東大の仲田泰祐准教授(経済学)らは、2種類のアプローチでオミクロン株による第6波の重症化率を推計した。1つ目は、ワクチン2回接種者や高齢者が感染者に占める割合などの条件を、楽観、基本、悲観の3シナリオに分け、デルタ株と比較して算出した。基本シナリオの重症化率は0・15%で、第5波の20%(5分の1)程度に低下。楽観、悲観シナリオでは、それぞれ第5波の4%、74%相当に下がった」
(東京 2022年1月14日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/154044

臨床医師はこうツイートしています。

「日々診療をしているが、現在発熱者はほぼ100%抗原定性検査で陽性と出る。全身状態は良好であり、血中酸素飽和度、胸部XP写真に異常を認めない。普通の風邪と変わりなく、インフルエンザより軽い。
コロナの病原性にふさわしい新しい分類を作って対処した方が、健康管理上も、経済対策上もよい」
(aoi)

つまり、オミクロン株は季節性のインフルエンザ並のコロナウィルスなのです。
それが明確になると、ヨーロッパは一斉にデルタ株時の移動制限を解き、社会を正常に回しながら対応していく方向に舵をきりつつあります。
その先頭に立っているのがスペインです。

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日経

「欧州で新型コロナウイルスを危機レベルが下がった「エンデミック(特定の地域で普段から繰り返し発生する状態)」と見なす検討が始まった。ワクチンが普及し、オミクロン型の重症化率が低いことから、社会を正常に近づけるとの考え方だ。世界保健機関(WHO)は現段階では反対している。
スペインのダリアス保健相は12日、「コロナの監視体制を見直す必要がある」と語った。感染の全件把握や、軽い症状の人への検査をやめることを検討している。同国ではワクチン接種率が8割を超え、オミクロン型の毒性は低いとの研究が相次いでいることから、国全体が危機に陥る可能性は下がったとみている。
サンチェス首相も10日、現地メディアの取材に「次の段階はコロナをインフルエンザのようにとらえることだ。コロナがパンデミック(世界的流行)からエンデミックの病気に変わったか評価する必要がある」と語り、欧州連合(EU)全体での議論を呼びかけた。国を挙げての全件検査をやめれば、医療関係者の負担も大きく下がる。感染者や濃厚接触者の長期間の隔離が不要になれば、多数の病欠によって社会機能がマヒする懸念も小さくなる」
(日経2022年1月14日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR1400K0U2A110C2000000/

日本も実効再生算数からみれば、間違いなく2週間後には感染はピークアウトするはずです。
むしろ危険があるとすれば、社会的制限をかけすぎて医療従事者が職場に行けなくなったりすることのほうです。
沖縄県はこのケースです。
だから5類にすることには妥当性があります。

高橋洋一氏は、5類にすることを阻む岸田氏の対応について、このように述べています。

「新型コロナの感染症法上の分類を「2類相当」から「5類」に引き下げることについて、岸田首相は、「感染急拡大している状況で変更するのは現実的ではない。2類から5類にいったん変更し、その後、変異が生じた場合、大きな問題を引き起こす」と消極的だ。
このような変更の決定は、新型コロナの感染者数が極めて少なかった昨年10~11月にやっておくべきだった。
ワクチンの3回目接種も在庫があったにもかかわらず、やらなかった。そのため、沖縄県では医療従事者が感染し医療にも支障が出ているという。分類変更もそれとも同じで、波が静かなときに何も準備しなかったことが問題だ。今さら手遅れで、手順が前後していると言わざるを得ない」
(ZAKZAK1月19日)

といっても、ちゃっかり保健所を扱いからはずすなど「5類化」はしているんですが、抜本的法律変更はしないところがあの人らしい。
するとメディアに叩かれますからね。
岸田さんは、ワイドショーの評判を気にするために過剰なPCR検査と隔離・入国制限に走り、そのつど朝令暮改を繰りかえし、肝心なブースターワクチンは遅れても叩かれず、かえってメディアからは「柔軟で機動的な対応が国民に好評」と言ってもらえるので支持率は鰻登り。
きっとマンボーをかけた端からピークアウトしていき、コロナにトドメをさした名宰相として歴史に名を刻むことでしょう。
そして参院選に大勝し、長期政権の道が拓けていきます。パチパチ。

 

2022年1月19日 (水)

北のミサイル連発におたつくな

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よくもこうポンポン打ってくれるものです。北の弾道ミサイルのことです。
私はまめに毎回フォローしていましたが、いまやそうとうに辟易していて今回も3発打たれないと記事にする気がなかったほどです。

まず新年の幕の内も開けきらない1月5日早朝、日本海に向けて1発目のミサイルを発射しました。
ちなみにこの時に日本海を航行する船舶に警報をだしたのが海保で、今や海保も警戒陣に加わっていることがわかります。

「北朝鮮は、本日8時7分頃、北朝鮮の内陸部から、弾道ミサイルの可能性があるものを東方向に発射しました。詳細については現在分析中ですが、通常の弾道軌道だとすれば約500km飛翔し、落下したのは我が国の排他的経済水域(EEZ)外と推定されます」
北朝鮮のミサイル等関連情報(続報)|防衛省(令和4年1月5日)

これは側面機動する極超音速ミサイルだったことが後に分かります。
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北朝鮮の極超音速ミサイルは不十分” 韓国国防省関係者 | 北朝鮮 .

まったくやっかいなものを打ってくれるもので、これは通常の弾道ミサイルがストレートの直球ならば、落ちて来る間にスライダーのようにズレたりすることができる変化球です。
ホントかどうわかりませんが、北はこう自慢しています。

「ミサイルは発射後、分離して極超音速滑空飛行戦闘部の飛行区間で初期発射方位角から目標方位角へ120キロメートルを側面機動して700キロメートルに設定された標的を誤差なく命中した。
また、冬季の気候条件の下での燃料アンプル化系統に対する信頼性も検証した。
北朝鮮・労働新聞2022年1月6日「国防科学院が極超音速ミサイルを試射」

これは北が言っているだけのことで、日米はこれを確認していません。
もちろん変化球であろうとなかろうと、弾道ミサイルですから国連安全保障理事会決議1695、1718、1874への違反です。
米国はさらに強い制裁を主張していますか、ここまでおおっぴらに違反されれば、さすがの中露も反対できないでしょう。

そしてうっとおしいことには、1月11日にまた発射します。

「北朝鮮は、本日7時25分頃、北朝鮮の内陸部から、弾道ミサイルの可能性があるものを、少なくとも1発、東方向に発射しました。詳細については現在分析中ですが、通常の弾道軌道だとすれば約700km未満飛翔し、落下したのは我が国の排他的経済水域(EEZ)外と推定されます」
北朝鮮のミサイル等関連情報(続報)|防衛省(令和4年1月11日)

これも65日のと同型で、マッハ10という馬鹿みたいな速度で、しかも軌道をズラして飛んできます。
ちなみにこの時は、正恩が視察に訪れたそうです。

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北朝鮮「極超音速ミサイル成功」 技術向上か、金正恩氏が現地視察

「正恩氏が極超音速ミサイルの発射を視察するのは初めてで「わが国の戦略的軍事力を質量ともに持続的に強化し、戦争抑止力を一層強化するため成果を勝ち取らなければならない」と述べた。」(中日2022年1月13日)

国民にコロナのワクチンも打ってやらないのに、ポンポンと巨額の費用を傾けて新型ミサイルを撃ちまくる、これがこの人の流儀です。
これで呆れかえっていたら、なんと3発目、4発目を同時に2発打ってきました。
都合、今年に入ってから4発めです。

「北朝鮮は、本日14時50分頃、北朝鮮北西部から、弾道ミサイルを、少なくとも1発、東方向に発射しました。詳細については現在分析中ですが、最高高度約50km程度で、距離は通常の弾道軌道だとすれば、約400km程度飛翔し、落下したのは、北朝鮮東岸付近であり、我が国の排他的経済水域(EEZ)外と推定されま す」
北朝鮮のミサイル等関連情報(続報):防衛省(令和4年1月14日)

弾道ミサイルに詳しいJSF氏はこう述べています。

「飛行性能のデータから既存の滑空機動可能な短距離弾道ミサイルの可能性が高いと思われます。北朝鮮版イスカンデル(KN-23)と北朝鮮版ATACMS(KN-24)は1発射機に2発を搭載しているので、2発を発射しているならこの点からも有力な候補です」
(JSF1月14日)
https://news.yahoo.co.jp/byline/obiekt/20220114-00277368

よく誤解されていますが、この超音速滑空軌道を描く弾道ミサイル技術はそう新しいものではありません。
超音速といっても、そもそもどんな弾道ミサイルでもマッハ20で再突入するものですし、ミサイルル防衛を回避すると喧伝される滑空軌道を描く弾道ミサイルには、ロシアのアヴァンガルドや中国のDF-17などがあります。
どこの国から技術をもらったのかおおよそ想像はつきますが、言われるほど新しい技術ではないので騒がないようにしましょう。

米国は既に超音速滑空ミサイルに対して新たなミサイル防衛の対抗手段を計画しています。

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極超音速兵器対応手段GPI(滑空段階迎撃ミサイル)(JSF)

「米ミサイル防衛局(MDA)は極超音速滑空兵器を迎撃するミサイル「GPI(Glide Phase Interceptor)」計画を進行中です。開発計画はレイセオン、ロッキード・マーティン、ノースロップ・グラマンの3社が受注したと2021年11月19日に発表され、競争試作で有望なものが採用される予定です。レイセオンはSM-3改造、ロッキード・マーティンはTHAAD改造を用意すると伝えられています。
GPI計画はイージス艦に搭載することを前提としており、高度70km以下の目標に対応することを目指しています。弾道ミサイル迎撃用の大気圏外迎撃用ミサイル「SM-3」が高度70km以上を担当しているので、GPIによって迎撃手段の隙間を埋めることが目的です」
(JSF1月14日)

ところで、この北の新年弾道ミサイル祭りのせいか、はたまたロシアがカムチャッカで戦略原潜に核ミサイルを搭載したことを受けてか、はたまた台湾情勢をにらんでか、米軍がグアムに戦略原潜とそれを指揮するE-6Bマーキュリーを同時に前進配備しました。
戦略原潜とは水中発射型核ミサイルを撃つタイプの原潜ですが、通常は米国周辺の海域にじっと潜んでいます。
そこがいちばん安全だからですが、グアム基地のように敵に近い所にでばって来るのはきわめて稀です。
また潜水艦は忍者ですから、自分の居場所は絶対に公開しませんので、今回のように自ら公表するのは異例中の異例です。
つまり、米軍は敵と間合いを詰める緊急配備を前進配備をするブラフをかけたのです。
米軍の本気度を見せ、その気ならヤッテみるがよいといったことになります。

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アメリカ海軍の戦略原潜と空中指揮機が異例のグアム展開(JSF) - 個

「1月15日にアメリカ海軍のオハイオ級戦略弾道ミサイル原子力潜水艦「ネバダ」がグアムのアプラ港に入港しました。また同日、アメリカ海軍の戦略弾道ミサイル空中指揮統制機「E-6Bマーキュリー」がグアムのアンダーセン航空基地に飛来しています」
(JSF1月17日)

今回はご丁寧にも、戦略原潜とセットになったE-6Bマーキュリーまでグアムに展開しています。
これは戦略原潜に核ミサイル発射命令を出す特別な機体で別名は"Doomsday Plane"(世界終末の日の航空機)と悪趣味な名前で呼ばれています。

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Boeing E-6B Mercury

これが出てくるようだと、核戦争の時計の針がポンとハネ上がります。

米国は、日本と違って右の頬を打たれたら左の頬をだすなんてことはしないで、力一杯なぐり返すのが流儀なので、これ以上きな臭いマネをすると米国の反撃はハンパないぞという脅しです。

さてその日本ですが、岸防衛大臣はこう言っています。

「岸信夫防衛相は12日、北朝鮮が11日に発射したミサイルについて、変則軌道を描きながら最高速度マッハ10で飛んだとの分析を明らかにした。事実上、北朝鮮が極超音速ミサイルを発射したとの認識を示したことになる。防衛省で記者団に語った。極超音速ミサイルは日本のミサイル防衛(MD)で迎撃困難とされ、北朝鮮の脅威が現実に迫っていることを如実に示した。(略)
一方、北朝鮮はミサイルが約1000キロ飛翔し、標的に命中したとの認識を示した。仮に北朝鮮東岸から日本に向けて発射した場合、首都圏をうかがう距離となる」
(1月12日付産経)

岸氏が立場上こう言わねばならないのは理解できますが、産経さん煽りすぎです。
改めて北が東京を狙える能力を持ったことは事実です。
といっても、いま北が実戦配備しているノドンでも狙えるのですがね。
またそれが現行のMD(ミサイル防衛)技術では迎撃が困難なものであることも事実です。
しかしそれは前述のように、今さらたまげるような技術ではなく、対抗方法もあります。
だから慌てふためく必要はありません。
日米を慌てさせるのが北の目的ですから、あまり危機感を煽りすぎると北の術中にはまることになりますからご注意下さい。

理由はふたつあります。
一つ目は、北の核ミサイルは先制攻撃に使うものではなく、土壇場で殿、ご落城でございます、という場合に使うものだからです。
そりゃそうでしょう。初めから核ぶっ放してどうします。
それこそ今グアムにきている戦略原潜が、E-6Bの指令の下で直ちに報復します。
それも北が核を使った場合、敵基地なんて生易しいものではなく、平壌まで含んだ徹底した核攻撃の可能性があります。

おそらく数発の核と、大量の通常弾頭の巡航ミサイルと弾道ミサイルを北は全身に浴びることになるはずです。
だから先制核攻撃などは9割9分9厘やりません。
やったら最後、身の破滅を覚悟せねばならないくらい正恩もわかっています。

二つ目は、ですから仮にこの超音速変則軌道のミサイルを打ったとしても、それに搭載されているのは通常弾頭、つまり普通の爆弾です。

「ミサイルや砲兵職種の専門家ならわかっていることですが、通常弾頭の破片と爆風による破壊の効果が限定的な範囲にしか及ばないからです。
確かに不意を衝かれれば、ミサイルを撃ち込まれた場所で死傷者が出るかもしれません。しかし、何発を撃ち込めば、例えば在日米軍基地に壊滅的な損害を生じさせることができるというのでしょうか。仮に100発撃ち込んでも、それが通常弾頭である限り、被害が限定されるのは湾岸戦争や最近のイランによるイラク駐留米軍への弾道ミサイル攻撃でも明らかです」
(小川和久『NEWSを疑え!』2022年1月17日特別号)

弾道ミサイルのガタイは大きいですが、ドンガラの大部分は燃料とエンジンによって占められており、弾頭はちょこんとその上に載っているだけです。
ノドンクラスでせいぜい700㎏ですから、ビルに当たっても倒壊せずに壊れる程度です。
原発建屋なら耐えてしまいます。

そして三つ目は、北の弾道ミサイル実験のほんとうの目的は国内向けのやってる感を見せるためのものです。
中国がそうであるように、共産圏の対外軍事デモンストレーションの多くは、国内向けのものです。
首領様がこんなに米国と張り合っておられる、もう米国と肩を並べたそうだ、オレら人民もがんばんべー、これが狙いなのです。

もちろん日本としてもこのような暴挙を黙ってみすごしてはならないので、先制的自衛権を担保しておく必要があります。

「日本が、いわゆる「敵基地攻撃能力」を備える場合、そうした打撃力の両面を理解したうえで、艦船と陸上に配備される巡航ミサイルと航空自衛隊の戦闘機によるストライク・パッケージによって、対北朝鮮戦略の一角を担うというのが自然ではないかと思います」
(小川和久前掲)

ですからおたおたしないで、粛々と河野ジュニアが挫折させた弾道ミサイル防衛と、敵基地攻撃能力を具体化していかねばなりません。

 

2022年1月18日 (火)

プーチンの黒い素顔

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プーチンは、ある種神秘的な政治家です。
それは、「超大国」の指導者であるにもかかわらず、彼の出自や経歴が厳しく統制されており、情報そのものがきわめて少ないからです。
それを知る手がかりを、テンプル大学日本校のジェームス・ブラウン氏が紹介しています。
未訳の『プーチンの手下たち・KGBがどのようにロシアを取り戻し、欧米に挑戦したか』で、執筆者は英フィナンシャル・タイムズの元モスクワ特派員であるキャサリン・ベルトン氏です。

今のロシアはウラジミール・プーチンという人物を知らないと理解できません。
本日はこの本を紹介したブラウンの『日本人も知っておくべきプーチン大統領の黒い素顔』を要約してお伝えします。
さすがは情報といえばブリテン、ブリテンといったらインテリジェンスという内容で、読み物としても秀抜です。

まずベルトンは、今のロシアの肝はプーチンの出自組織であるKGB(ソ連国家保安委員会) にあるとみています。
このKGBこそ、現代ロシアを牛耳るマフィアです。
彼らは、その職種柄、ソ連の遅れた体制が崩壊に向かっていることを誰より先に勘づいていました。
巨大帝国はきしみ、そここで再起不能の傷を負っていましたが、それはモスクワの共産党中欧ではなく、世界に散らばったKGBが最も先に知り、知ったが故にさまざまな延命を考えました。
その中心的人物のひとりが、当時東ドイツに駐留するKGB中佐だったプーチンでした。


「ロシア西部レニングラード(現在のサンクトペテルブルク)出身のプーチン氏は、33歳だった1985年、東ドイツに派遣された。東ドイツで勤務中、娘2人が生まれている。
プーチン氏はKGB将校として1989年12月までドレスデンで勤務した。1989年12月には大規模な民主化要求デモの結果、東ドイツの共産主義政権が崩壊した。
ドレスデンにあったシュタージの県本部が抗議者に占拠されるのを、プーチン氏は目撃した。一方、共産主義政権の治安部隊は1989年12月5日、占拠者に発砲する寸前まで至っている。
これに先立ち、東西ドイツを分断していたベルリンの壁は11月、熱狂する東ベルリン市民によって既に崩壊している。
ドイツ語が流暢(りゅうちょう)に話せたプーチン氏は当時、ドレスデンでKGBの建物が取り囲まれた際には、自分が自ら集団をなだめ落ち着かせ、この建物はソヴィエト領だと警告したと話している。
プーチン氏はドレスデンでの任務中に、中佐に昇進した。
ロシア政府のウェブサイトによると、プーチン氏は1989年、東ドイツ共産主義政権から銅メダルを授与されている。「人民への忠実な奉仕」が理由という。プーチン氏は帰国後、KGBの主な後継組織となったロシア連邦保安庁(FSB)の長官まで上り詰め、2000年にロシア大統領となった」
(BBC2018年12月12日)
https://www.bbc.com/japanese/46534019

彼が東ドイツでなにをしていたかわかりませんが、悪名高き東ドイツ秘密警察シュタージの身分証明を持ち、勲章までもらっていることから、おそらくは民主活動家狩りに従事していたのかもしれません。

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プーチン氏の秘密警察身分証、ドイツで発見 旧東独シュタージ用 - BBC

彼ら東欧圏に駐留していたKGB将校らは、目の前でベルリンの壁が打ち壊されるのを目撃し、共産主義政権が崩壊するさまを目撃します。
彼らは自らの帝国の崩壊が近いことを知り、その崩壊のどさくさに紛れて巨額資産を盗み出し、海外の安全な金庫に移します。

「同書は、ソビエト社会主義共和国連邦が崩壊する直前の最後の数カ月に、KGB(国家保安委員会)が、大量のソ連通貨を海外に密輸したと指摘する。
このいわゆる「秘密経済」により、ロシアの諜報集団は、1991年にソ連が崩壊した後も、財源と大規模な影響力を維持することができた。ボリス・エリツィン大統領の下で比較的民主的な時代を過ごした後、1990年代の終わりに、KGBの元有力者はこれらの秘密資金を使ってロシアの支配を取り戻した。国家の支配を取り戻す使命は、元KGB高官であるプーチン氏が1999年12月31日、エリツィン氏に代わって大統領(大統領代」を含む)に就任したときに完了した」
(ブラウン前掲)

この巨額の資金と秘密組織特有の強い組織的団結力は、やがて「KGBマフィア」とでもいうべき秘密組織につながっていきます。
彼らは海外の秘密資産を国内に持ち帰り、それを元手にして国内に復帰し、エリツイン政権に食い込んでいきます。
彼らKGBマフィアが食い込む素地を、当時のロシアは豊富に持っていました。
なぜなら、当時のロシアはまさに混沌の巷だったからです。
世界の半分を支配した超大国のあまりに急激な崩壊によって、食べるためにカネを稼がねばならないという自由主義の常識すら知らない膨大な国民を生み出してしまったのです。
しかも、自由な言論、自由な経済活動、自由な選挙を与えられて!

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東欧革命から30年──「自由かパンか」で歴史は動く|ニューズウィーク

エリツィンはただの酔っぱらいであり、無策でした。
結果は明白でした。ハイパーインフレです。
ルーブルは紙屑になり、滅びた帝国の膨大な資産を手にした者だけが富豪となるチャンスを得ましたが、大多数の国民はわずかな年金だけで放り出されることになったのです。
彼らが支持したのは、「昔はよかった。共産党があったおかげだ」という復古勢力でした。
それを代表するのが、元共産党のジュガーノフやプリマコフでした。
彼らはエリツィンの後継大統領を狙い、ゲットバックUSSRを主張したのです。

これに危機感を持ったのが新興財閥のオルガルヒでした。
彼らが目をつけたのが、ウラジミール・ウラジーミロビッチ・プーチンその人でした。
その時、プーチンは旧KGB マフィアが作った後継組織FSB(連邦保安庁)長官でした。
下の写真はFSB長官時代の希少な写真です。

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スパイ組織】KGB(ソ連国家保安委員会) |

オルガルヒの頭目であるベレゾフスキーはエリツィンに引き合わせ、気に入られたプーチンは首相の座につきます。
オルガルヒにすれば無名のスパイの長官など「軽い御輿」だと思っていたのです。
後にそれがとんでもない勘違いだと判るのですが。

そして、首相となったプーチンにとって、絶妙のタイミングで起きたのがチェチェンの武装勢力によるモスクワのアパート連続爆破事件でした。
この事件はFSBの自作自演の疑いが濃厚だといわれています。
この説を唱えた多くのジャーナリストが暗殺されていますが、ここで、プーチンが独裁者になった今も濫用し続ける暗殺という手段が登場します。

「プーチン政権下で不審な死に方をした反体制派や亡命者、ジャーナリスト、離反した元側近や政敵の数を考えれば、疑惑が生じるのは当然だとオールソンは言う。「1人や2人、3人の死ならなんとでも説明がつく。しかし何十人となると?」
ロシア政府の敵には毒物が使われることが多い。2月2日に病院に搬送されたカラムルザは35歳。以前はテレビ局のワシントン駐在特派員だったが、ロシアに戻り、リベラル派として活動してきた。妻によると、病院では「特定不能な物質による急性中毒」と診断されたそうだ。
カラムルザが原因不明の重体に陥ったのは2度目だ。この事件はアレクサンドル・リトビネンコの悲劇を思い出させる。ロシア連邦保安局(FSB)の職員だったリトビネンコは06年、ロンドンで放射性物質ポロニウムを使って暗殺された」
(ニューズウィーク 2017年3月8日)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/03/post-7124.php

ロシアには中国のように強制収容所はないと言う人がいますが、暗殺があります。
とまれプーチンは、このモスクワアパート爆破テロをチェチェン攻撃の理由に使ったことだけは間違いありません。
プーチンに率いられたロシアはチェチェンに進攻します。

「人口100万人の地域で、20万人の犠牲者を出す残虐な戦争だった。 戦闘が終息に向かっても、ロシア軍やロシアに援助された傀儡政権による住民連行は後を絶たず、人権上大きな問題となっている。 国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチのモスクワ支部によると、2000年から2004年までの間だけでも、約1万8000人の行方不明者を出しており、未だ解決されていない問題となっている」
(多言語のすすめ)
http://lingvistika.blog.jp/archives/1061287983.html

さてKGBマフィアは、表面的にはFSB(ロシア連邦保安局)として復活し、さらにはその力を使って勃興する新興財閥(オルガルヒ)に支配力を及ぼすようになっていきます。
オルガルヒはソ連という世界帝国の金庫から膨大な資産を私物化して財を成したような連中でしたが、プーチンはロマン・アブラモヴィッチのようにKGBマフィアに協力する財閥に特権を与える一方、敵対するミハイル・ホドルコフスキーなどのオルガルヒは冷酷に粛清していき、その過程で権力を掌握し、エリツィン後継大統領にのし上がっていきます。

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ロシア、欧米と深い亀裂 25日でソ連崩壊30年―権威主義を強化、軍事

そして大統領になったプーチンが最初に手をつけたのが、彼を推したオルガルヒを服従させることでした。

「粛清されたオリガルヒの中で最も有名なのはミハイル・ホドルコフスキー氏だ。ベルトン氏が説明するように、ホドルコフスキー氏は2000年代初頭にロシアで最も裕福な人物だった。しかし、プーチン大統領の政治的ライバルに財政的に支援したのを疎まれて、2003年に逮捕され、10年間投獄された。さらに逮捕後、ホドルコフスキー氏が経営していた石油大手ユコスはロシア政府に没収され、2004年に国営石油会社ロスネフチに低価格で売却された。ホドルコフスキー氏の入獄は、プーチン氏に十分な忠誠を示さなかった場合に何が起こるかを他の実力者に警告することになった」
(ブラウン前掲)

オルガルヒは、ソ連時代の協同組合や協同農場、国営企業をそのまま看板だけ掛け替えて「民営化」した企業群のことです。
とうぜんその支配層は元のソ連時代の企業長、支配人らのいわゆるノーメンクラトゥーラ(特権階級)層でした。
彼らオルガルヒは、国営企業とそれらが保有する膨大な国家資産をそのまま受け継ぎ、超寡占資本の頭目になりおおせたのです。
そしてこれを支配下に置いたのがプーチンでした。
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プーチン最後の聖戦 / 北野幸伯』備忘録 | 集団ストーカー 分別奮闘記

プーチンは、前任者のエリツィン時代のエリートを丸ごと破滅させ、主要ポストをKGBマフィアに置き換えていきます。
特に重用されたのが1990年代にサンクトペテルブルクの市政でプーチン氏と共に働いた者でした。

「重要人物の1人はイーゴリ・セチン氏である。KGB出身のセチン氏は、プーチン氏がサンクトペテルブルクの副市長を務めていたとき、彼の参謀長として働いていた。さらに、ベルトン氏によれば、国営石油会社ロスネフチの会長であるセチン氏は、ホドルコフスキー氏の逮捕と投獄の手配において主導的な役割を果たし、ロスネフチに大きな利益をもたらした。
もう1人の著名な人物はニコライ・パトルシェフ氏である。パトルシェフ氏もKGBとサンクトペテルブルクの出身で、2008年からロシアの安全保障会議の書記を務めている」
(ブラウン前掲)

こうしてプーチンとその取り巻きたちは、ロシアを丸ごと乗っ取りました。
そして旧ソ連の資産とロシアの国有資産を、彼らの懐に入れる作業に熱中します。
そして多くは計算することさえ不可能なミリオネアになっていきます。
彼らは海外のタクスヘイブンに資産を移しており、パナマ文書にも何人か顔をだしています。
このあたりの腐り切った構図は、今の中国と酷似しています。

プーチン個人もクリーンに見せる国民向けの顔とは別に、膨大な資産を築いています。

「プーチン氏の報道官は当時、この疑惑を否定。同氏の個人資産に関するほかの主張についても否定した。
課税逃れの温床とされるタックスヘイブン(租税回避地)の利用者などを記した「パナマ文書」が2016年に流出し、プーチン氏の関係者が関与した疑いのある海外取引の存在が明らかになった。
その中には、プーチン氏の長年の友人でチェリストのセルゲイ・ロルドゥーギン氏も含まれていた。プーチン氏は汚職行為を否定し、自分の敵対者がロシアをゆるがそうとしていると主張した。
プーチン氏は2000年に大統領に就任して以降、権力を握り続けている。同氏をとりまくエリートの側近の多くは、ソ連国家保安委員会(KGB)職員時代や、第一副市長などを歴任したサンクトペテルブルク市時代の関係者だ」
(BBC 2021年1月26日)

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プーチン宮殿」、ロシア野党指導者が告発も本人は否定 - BBCニュース

「ベルトン氏は、これにはプーチン大統領自身も含まれると指摘する。プーチン大統領が個人的に所有する富は、オリガルヒの一人であるゲンナジー・ティムチェンコ氏やプーチン大統領の親友といわれるセルゲイ・ロルドゥーギン氏など信頼できる取り巻きによって管理されている。
また、ベルトン氏は、プーチン大統領が黒海の海岸に彼自身の宮殿をひそかかに建設したと主張している。この4000平方メートルのイタリア風の宮殿には、複数のプールや3つのヘリポート、マリーナがあるといわれている。建設費には約10億ドルがかかったらしい」
(ブラウン前掲)

ベルトンは、このプーチンの取り巻きたちを4名あげています。
一人目は、イーゴリ・セチン。KGB出身、プーチンの元秘書で国営石油会社ロスネフチの会長。ホドルコフスキー氏の逮捕と投獄の手配において主導的な役割を果たし、ロスネフチに大きな利益をもたらした。
二人目は、ニコライ・パトルシェフ。同じくKGB出身。元FSB長官。2008年からロシア安全保障会議の書記。
三人目は、ゲンナジー・ティムチェンコ。元国営石油会社幹部。プーチンの黒い金庫番。現在、民間投資グループボルガグループのオーナーで大富豪。
4人目は、セルゲイ・ロルドゥーギン。ロシアのチェロ奏者でプーチンの親友。ロシア最大のテレビ広告会社の出資者。
この構成をみるだけで、誰が石油の独占で巨万の富を築き、誰がテレビで世論操作を行い、誰が民主派を秘密警察で弾圧しているのかありありと分かります。

また若手のオルガルヒであるマロフェーエフは、憲法を改正しプーチンを「永世大統領」とする動きをしています。

「英紙『フィナンシャル・タイムズ』(3月13日)は、憲法修正の影の仕掛け人は、若手民族派新興財閥(「オリガルヒ」)のコンスタンチン・マロフェーエフ氏だと報じた。
「ロシアが直面するのはウクライナ問題ではなく2024年問題だ」 とし、政権交代の危機を回避するため、プーチン大統領を「新ツァー(皇帝)」に擁立すべきだと述べ、「君主制移行」を公言していた」

また膨大な資産は子々孫々受け継がれて、あたかもプーチン王朝の態をなしているようです。

「大統領終身制の新展開の背後で、プーチン政権幹部や大統領を取り巻くオリガルヒの第2世代が、名門一族として継承しつつあることも見逃せない。 プーチン大統領の長女マリアさんはオランダ人実業家と結婚し、医療会社を経営。次女のエカテリーナさんはモスクワ大学理事などを務め、大富豪の息子と結婚した後離婚し、莫大な財産を分与された。
ニコライ・パトルシェフ安保会議書記の長男、ドミトリー・パトルシェフ氏は農相、セルゲイ・ボリソヴィチ・イワノフ前大統領府長官の次男セルゲイ・セルゲイヴィチ・イワノフ氏はダイヤモンド採掘会社の社長だ。政権幹部や政権に近いオリガルヒの子弟同士の結婚も多く、新貴族間の縁組が進んでいる。
「110人の個人がロシア全資産の35%をコントロールし、世界でも前例のない富の偏重が進んでいる」(名越健郎)
https://www.jiji.com/jc/v4?id=foresight_00302_202003240003

長くなりましたので、また機会があればということで、これくらいに。

 

 

2022年1月17日 (月)

「プーチンの戦争」を見誤ったバイデン

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ウクライナを巡って、ロシアは更にエスカレートしたことを言い始めています。

「モスクワ=小野田雄一】ウクライナ情勢をめぐり12日に開かれた北大西洋条約機構(NATO)とロシアの「NATOロシア理事会」で、ロシアは10日に協議した米国に続き、NATOに対しても東方不拡大の確約やウクライナへの支援停止を強硬に要求。軍事力を行使する可能性を示唆しつつ、要求を受け入れるよう圧力をかけた。
タス通信によると、露代表団を率いたグルシコ外務次官は同理事会後に記者会見し、ロシアはNATOに「国の安全を守るため、あらゆる軍事的・技術的措置を取りうると伝えた」と強調。「外交的手段がなくなれば、軍事的手段で脅威を排除する」とも警告した
ロシアは「軍事的・技術的措置」の内容について具体的な言及を避けている。
露専門家の間では、欧州向けミサイルの増強などを意味し、即座にウクライナ侵攻を意味するものではない-との見方が支配的だ。経済低迷が続くロシアに、侵攻時の軍事費増大や欧米による経済制裁に耐えられる余力はないとの観測も強い。
ただ、ロシアは「自国民保護」や「自衛権行使」などの名目でウクライナ侵攻を正当化する余地を残しており、あえて「措置」の内容を明確にせずにNATO側の疑念を拡大させ、交渉を有利に運ぶ思惑だ」
(産経 2022年1月13日)

通常、敵対する陣営に対して、その国を代表する外交トップが「「国の安全を守るため、あらゆる軍事的・技術的措置を取りうる。外交的手段がなくなれば、軍事的手段で脅威を排除する」と言ったら、これは最後通牒を意味します。

ロシア軍の臨戦体制の指標は三つあって、これらの徴候は見られていると、小泉悠氏は指摘しています。
ひとつは、戦略原潜に核ミサイルを搭載し、演習と言う名目で大規模な展開を開始することです。
ロシアはカムチャッッカの戦略原潜に水中発射核ミサイルの搭載が始まったことが観測されています。

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ロシア海軍戦略原潜部隊は常にアップグレードされている | ロシア海軍 .

「昨年末からカムチャッカでSSBNが頻繁にSLBM装填埠頭に入っており、これは来る戦略核部隊大演習の準備だと思う。とするとルィバチーの港からSSBNがいつ姿を消すかは結構重要であろう。
仮に、ロシアがウクライナ侵攻作戦と同時に西側牽制のための戦略核部隊大演習(多分グロム-2022)をやるなら、その兆候として一番把握しやすいのはルィバチーとガジェジヴォのSSBNの動きであろうと思われる」
(小泉悠ツイッター1月15日)
https://twitter.com/OKB1917/status/1482496459144859648

二つ目はシベリアの極東ロシア軍の西への移動です。
これも西側が観測しています。

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ウクライナ近郊のロシア軍の増強を追跡する  

「あとはロシア軍が侵攻作戦の所要兵力をどの程度と見積もっていて、それが揃うのにどのくらい掛かるかでしょう。どうやら西部から出せる部隊は出し終わったようなので、シベリア・極東方面からの部隊移動の動きが停まったら作戦準備完了というところだろう」(小泉前掲)

この鉄道による軍隊の移動は、大砲と戦車を重点配備してきたロシア軍の兵站にとって死活的に重要です。
これらは貧弱な道路インフラで移動できず、ほぼすべてが広軌式の鉄道で移送されます。

「この兵站線の特徴からロシア軍は、旧ソビエト連邦領域内で「積極的防衛作戦」は行えますが、領域外で持続的な作戦行動を行う能力は限定的です。鉄道による兵站線が引けるかどうかのゲージの違いが、ポーランドとウクライナの安全保障上のリスクに違いを生んでいるといえます。
しかしロシアがウクライナを抑えればまた状況は変わります。キエフ経由の広軌が利用でき、ポーランドのリスクは格段に高まります。 国境付近に集結した兵力を数えるだけではなく、軍用列車を観察することでロシア軍がどう動くつもりなのか占うことができます」
(乗り物ニュース2021年12月18日)

ロシアとウクライナは共通の広軌レールですが、ポーランドは狭軌ですので、ここで積み替えねばならなくなります。
ですからポーランドにとって、ウククライナを制圧されれば、確実に次は自分の番なのです。

さて三つ目は、地上軍を支援する戦術航空部隊の移動です。

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ロシアが「数十」の近代化されたSu-34戦術爆撃機

「例年のロシア軍大演習の場合だと、航空機の戦略展開は大体1週間くらい。展開速度の遅いヘリから先に動かしてるのだとすると、週明けくらいには戦術航空機の前方展開も始まるのではないか」
(小泉前掲)

これらの軍事的徴候は、既にロシアがウクライナに侵攻する準備をほぼ完成し、最後通牒の手袋を投げた段階に達していることを示しています。
おそらくロシアはNATOと米国は口先ばかりで動けないと見ています。

ところで、プーチンが西側と協調の姿勢を放棄し始めたのが、2008年8月のグルジア紛争からでした。
それまでプーチンは、めちゃくちゃになったソ連崩壊後の経済を建て直し、G7にオブザーバーとして参加するまでになっていました。
この時起きたのがグルジア軍とロシア軍との衝突です。
当時、プーチンは北京五輪の開会式に出席して不在で、その隙に電撃作戦を展開されたのです。
プーチンは直ちに軍事介入を命じます。

ウラジミール・ウラジーミロビッチは『プーチン』の中でこう述べています。

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ソ連邦構成15ヶ国

「この戦争の意味はふたつある。ひとつは旧ソ連諸国への警告だ。
2000年代に入り、かつての旧ソ連諸国がNATO加盟に動き出した。
この年NATOはグルジアの将来的な加盟を認めた。これはあきらかなロシア包囲だ。
ロシアが将来の加盟国のグルジアを攻めてもNATOが動かないとすれば、NATOに加盟しても、アメリカは君らを守る気はないぞということを、旧ソ連諸国に明確に示すことができる」
(ウラジミール・ウラジーミロビッチ 『プーチン』)

このグルジア紛争で、プーチンは国境線を「勢力圏」として見るロシア独特の発想を西側に投げつけたわけです。
国境線は勢力圏の境を意味する、したがって戦争の結果しかそれを変えることはできない、というプーチン外交がこの時はっきりと姿を現します。
このプーチン、というよりロシアの国境概念は、国境線の力による変更を認めない近代国際法と真正面から衝突します。
この考えに同調するのは、世界で唯一中国だけです。

プーチンがグルジア紛争で注視したのは、欧米と国連の動きでした。

「つまりアメリカとNATO、国連がどの部分で協調し、あるいはしないのか」

なかでも米国の動きを見極めるのが、プーチンの目的でした。
当時の米国は、ブッシュ(息子)が任期末で既にレームダック化してしまった時期にあたっています。
米国の衰退のきっかけともいえるアフガンの長いトンネルに入ってしまった時期でした。
プーチンの、米国は張り子の虎にすぎないという読みは見事に当たります。

「諸君、これではっきりした。アリリカは核を持たない国には嬉々として『人道的介入』を行うが、核保有国であるロシアには口先ばかり非難するだけでなにも仕掛けて来ない。
アメリカにいつまでも冷戦の勝者などと勘違いさせてはならない。
我々は大国として復活したことを知らしめてやるのだ」
(『プーチン』前掲』

そしてここでプーチンはこう考えた、とウラジミーロビッチは述べます。

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コソボ独立から10年、拙速な承認は新たな火種をもたらした

「アメリカがテロとの戦争を宣言したとき、ロシアは既にイスラム過激派と戦っていた。
しかしアメリカは、チェチェン紛争をあくまでもロシアの国内問題だという見方を崩さず、時には非難さえする。
一方で自国がテロ攻撃されるや世界中を巻き込んで大騒ぎだ!
そもそも(グルジア紛争のきっかけとなった)南オセチアが急に独立したのは前年に独立宣言したコソボの影響がある。
しかしコソボ独立は、セルビアと国連を無視して欧米が独自に承認したもので、あきらかな国際法違反だ」
(『プーチン』前掲』)

 そしてグルジア紛争をきっかけに、プーチンは西側への失望と怒りを隠さないようになります。
ウラジミーロビッチは、プーチンにこう独白させます。

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プーチン会見で読み解くロシア  

「アフガン戦争の時も我々は最大限に妥協した。
それまで敵だった西側諸国とも交流を重ねた。
冷戦が終わったら、我々は兄弟同然に迎えられると思っていた。
だが彼らはロシアに歩みよろうとしない。
そればかりか、ロシア包囲網を狭めてきている。
ワルシャワ条約機構は既に消滅したのに、いったいアメリカはなんと戦うつもりだというのか。
彼らはいまだにロシアを脅威として見ているのだ。
いいだろう、そっちがその気なら期待に応えてやろうじゃないか」
(『プーチン』前掲)

そして、2014年2月のウクライナのキエフで起きた反政府デモをきっかけとした親露政権の崩壊、そしてウクライナのNATO加盟申請は、プーチンを一気に西側との戦争も辞さない姿勢へと突き進んでいきます。
グルジア紛争とまったく同型の戦争が始まったのです。
すなわち、これが「プーチンの戦争」です。

舞台がウクライナに替わっただけで、役者も同じなら、その対応も酷似しています。
当事者のNATOはエネルギー源の大部分をロシアに頼っており、焦点となっているノルドストリーム2に対して米国は、去年5月の時点で早々と制裁しないと公表してしまっています。
これではNATOは厳冬期を迎えて、ロシアに死活権を奪われているも同然となってしまいました。
ロシアはウクライナ防衛のためにNATO軍が動けば、直ちにパイプラインのバルブを締めてしまえばいいだけなのですから。
ヨーロッパ、特にNATO中軸のドイツのエネルギーは干上がり、厳冬期にブラックアウトを味わうことになるでしょう。

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バイデンはノルドストリーム2へ制裁発動できるか WEDGE

また米軍と核戦争までしてウクライナを守る気はありませんから、カムチャッカからロシアの戦略原潜部隊が出撃したと聞いただけで、バイデンは米軍の支援を諦めるはずです。

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バイデン氏、ノルドストリーム2への制裁は欧米関係に「逆効果

「[ワシントン 25日 ロイター] - バイデン米大統領は25日、ロシア産天然ガスをドイツへ直送する海底パイプライン「ノルドストリーム2」の事業会社に対する制裁を見送ったのは、同事業がほぼ完了しており、制裁を発動することで欧州との関係を損ねる可能性があったからだと述べた。
同事業について記者団に対し、立ち上げから反対してきたとした上で、今年1月の大統領就任までに「ほぼ完了」したため、制裁は見送ったと説明した。
なぜ事業が完了することを容認しているのかとの質問には「第一に、ほぼ完成しているからだ。今、先に進んで制裁を加えることは欧州との関係において逆効果になると考える」と述べた。
バイデン氏はロシアと中国に対抗する統一戦線を構築したい考えで、トランプ前政権下で悪化したドイツや他の欧州同盟国との関係の修復を目指している。
米国務省は先週、ノルドストリーム2の事業会社ノルドストリーム2AGと、同社の最高経営責任者(CEO)でプーチン大統領に近いマシアス・ヴァルニグ氏について、制裁対象となり得る活動に関与したとした上で、米国の国益を理由に制裁発動を見送った。
(ロイター2021年5月26日)

ロイターが伝えるところでは、バイデンの対露政策とは、対中統一戦線の構築、NATO諸国との協調の復活であったようです。
脱力します。
バイデンは「プーチンの戦争」の意図をまったく見抜いていません。
バイデンがウクライナ政府と「特別な関係」にあるなしといったレベルではなく、彼は完全に「プーチンの戦争」の意図を読み違えています。
プーチンは2008年8月、すなわちグルジア進攻以前のG8に加えて欲しい、ロシアはヨーロッパに復帰したのだというかつての協調路線を完全に放棄し、米国と対峙する唯一の超大国として蘇ろうとしているのです。
それを見誤って、ロシアに妥協することで中国と対峙しようとするとは、下策も極まれりです。
プーチンが習近平を「無二の親友」と呼んでいると言っているのに。

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BBC

「『過去6年間、我々は30回近く会談を行なってきた。ロシアは私がこれまでで最も多く訪れている国だ。プーチン大統領は私の親友であり同僚でもある』プーチン大統領は、『ロシアと中国の関係はかつてないほどの段階にまで達しているということをお知らせできて嬉しい。これは、国際的パートナーシップであり、戦略的な協力関係だ』と述べた」(BBC 2019年6月6日)
https://www.bbc.com/japanese/48538463

中露がなんのために「戦略的パートナーシップ」、すなわち準同盟関係を締結したのでしょうか。
はっきりしています、米国と対峙してならず者連合を作るためです。
この発言があったのが2019年。それを今頃になってロシアと対中統一戦線を組みたいですと、寝言もいい加減にしろとプーチンは思ったことでしょうね。

米国がヨーロッパとの同盟を再構築したいのなら、口先ではなく、まず米国自らが毅然とした態度でプーチンに臨むべきでした。
同じ過ちを犯したのがメルケルでした。
エネルギー源輸入の多角化を捨ててロシアとの直通パイプに固執したメルケルは、ノルドストリーム2の建設を政権目標に掲げてしまいロシアに宥和しました。
あまつさえ自分のエネルギー源をロシアに委ねてしまうという信じがたい愚かさです。

このまま推移すれば、高い確率で西側はウクライナに譲歩を要求することでしょう。
そして西側がウクライナで譲れば、次はリトアニアであり、更にポーランドの番です。
まさにプーチンの戦争は始まったばかりなのです。

 

2022年1月16日 (日)

日曜写真館 元日や退屈そうな船溜まり

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望の潮しづかに湛へ舟溜 越央子

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顔出せば木枯囃す船溜り 小林康治

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人音や無惨に霜の船溜り 小林康治

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帆柱の飾りの揺るる舟溜り 石野章男

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鳥渡る灯ともし頃の船溜 浅倉サカエ

 

2022年1月15日 (土)

オミクロン株は、感染から5日から10日で消滅する

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先だって沖縄県で医療崩壊の危機がありましたが、それは医療スタッフが濃厚接触者として欠勤したために、そこから医療崩壊が始まったためです。
これは昨日も紹介しましたが、ヨーロッパでは更に深刻な問題とされています。

欧州疾病予防管理センター(ECDC)は1月7日、感染力の高いオミクロン株が広がることで、「医療従事者やエッセンシャルワーカーを含む多くの人の欠勤を招きかねず」、「医療システムや社会に大きな負担がかかることが予想される」との見解を示した
症状が軽くても、医師をはじめとする医療関係者、社会のインフラを支える立場の人たちは、感染したら仕事を休まざるを得ない。その結果、病院が受け入れられる患者の数が減り、ライフライン事業者が活動の縮小を迫られるなどして、社会機能の低下を招きかねない」
(朝日2022年1月9日)

いちおう政府も現行の14日間から短縮の方向で、ということは考えているようです。
といっても、たぶん4日間程度の短縮で、10日が限界じゃないかな。

「山際経済再生担当大臣は、13日、BSフジの「プライムニュース」に出演し、濃厚接触者の待機期間を14日間から短縮させることについて「この方向性で進めなくてはいけない」との見解を示した。
山際大臣は、濃厚接触者の待機期間の短縮について「そう遠くない将来に決まると思う」と述べた上で、「隔離期間をより短くして社会経済活動が止まらないで済む環境を1日も早く作りたい」との考えを示した。
また、オミクロン株の感染者については「自宅療養を多用する方向に必ず行く」との見解を示し、「医療がひっ迫しなければ経済活動を止める必要はない」と強調した」
(BSフジ「プライムニュース」1月13日放送分より)

この無症状、あるいは軽症の濃厚接触者で自宅療養を迫られている人は東京都だけですでに3千人に登り、このままオミクロン株をデルタ株と同じ扱いにした場合、社会インフラが麻痺する可能性すらでてきました。
そもそもオミクロンを迎えた時に、岸田政権が取った対策が過剰だったのです。

オミクロンが流行拡大はじめるやいなや、日本にはひとりのオミクロン患者もでないうちから「鎖国」してしまい、帰国を認めた邦人でさえも機内に感染者と乗り合わせただけで全員隔離で病院送りという過剰な対応をしました。
今、東京都で入院している千人の「感染者」は、この措置で生まれたもので、それを見ないで小池氏が病床使用率が2割を超えたら規制を強めるなんて言っているのはヘンですね。

にもかかわらず、いくら米軍基地からだとはいえオミクロン株は国内に侵入したわけで、しょせん水際対策とは良く言ってあげれば時間稼ぎ、はっきりいえばほとんど無駄なのです。
だから私は入国制限をかけるのは早すぎる、諸外国の例を見てオミクロン株の性格と挙動を知ってからでも遅くはないと書きました。
しかし岸田さんは首相執務室のワイドショーを見て政策を決めているので(うそ)、早々とやってしまったわけです。
安倍氏や菅氏ならば、2週間は様子を見てから判断したでしょうな。
ただしこのほうがメディアにはやっている感があって受けがよく、岸田氏は高い支持率を確保することができました。

さすがに馬鹿げた過剰反応だとわかってきても、外国人だけの渡航禁止措置は、2月一杯まで延長するそうです。
岸田さん、もう既に日本では普通に市中感染しているんですが、それでも入国制限続けるのですか。
しかも外国人だけとは。WHOから外国人だけがかかるのか、と皮肉を言われていましたっけね。

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WSJ 羽田空港 

「コロナで国閉ざす日本、よみがえる「鎖国」の歴史
日本の有権者は岸田文雄首相の厳格な水際対策を歓迎している。日本を訪れる外国人に対する国民の不安を映し出しており、数世紀前の日本の歴史を想起させる反応だ。 11日に延長が決まった規定では、外国からのビジネス関係者、留学生、観光客の新規入国を原則禁止する。まれな例外が認められるのは国家の中核利益に関する場合のみだ。すでに在留資格を保有している外国人は国外から日本に戻ることができる。
 日本の水際対策は主要7カ国(G7)では最も徹底しており、世界でも指折りの厳しさだ。米国は外国からの入国者にコロナ検査の陰性証明の提示を義務づけているが、これを除けば入国規定を根本的に変えることはなかった」(ウォーマストリートジャーナル1月12日)

「蘇る鎖国の歴史」とまで書かれてしまった無意味な入国制限を掛け続けているから、このように言われるのです。 
しかも14日間も自宅療養を命じれば、とうぜん家庭内感染を引き起し家庭がクラスター化してしまいます。

「13日に開かれた東京都の会議では、直近1週間の感染者のうち、経路が判明している中では、家庭内が49・4%と最も高いことが明らかになった。感染急拡大に伴い、これまでに家族全員の感染が確認された事例もあるほか、都内では自宅療養者も急増。現在約3千人に上っている」
(産経1月13日)

実に東京都では感染原因の5割が家庭内感染です。
これでは感染を拡げるために自宅療養しろ、といっているようなものです。

一方医療機関は重症者4名(東京都1月13日現在)で4名にもかかわらず、指定病院は隔離ベットを開けて待機させておかねばなりません。
その「空床補填」金が、なんと20年度だけで1兆1424億円ですから、デルタ対応ならまだ納得がいきますが、オミクロンに替わった今ここまで空床を積み上げる必要があるのかどうか、考えてもいい時期に差しかかっています。

「新型コロナウイルスに感染して入院してくる患者のため、ベッドを空けて準備する医療機関に支払われる「空床補償」が、2020年度は1兆1424億円にのぼったことがわかった。多くの医療機関が経営を黒字化させた一方、人手不足などで患者を受け入れなかった例もある。一部では受け入れ可能な数を上回って申請したとの指摘もある。専門家は「多額の税金なので費用対効果の検証は必要だ」と注文をつける」
(朝日2021年12月16日) 

では、疫学的に見て、どのていどの隔離期間が必要なのでしょうか。
実は国立感染症研究所と国立国際医療研究センターが、1月5日に『SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)感染による新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査(第1報):感染性持続期間の検討』を発表しています。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/10880-covid19-66.html

「診断日および(有症状者に限定して)発症日からの期間を以下に分けて分離の可否を表に示す。
診断日および発症日からの日数が3~6日目の群でウイルス分離可能な割合は最も高く、その後は減少傾向であった。特に、診断および発症10日目以降、ウイルス分離可能な症例は認めなかった。また未成年患者検体からもウイルス分離は可能であった。PCR陰性でウイルス分離された検体は認めなかった」(国立感染症研究所 前掲)

感染症研は、感染して3~6日以後ウィルスは急速に減少し、10日移行は見られなかったといってしています。
つまり5日から10日間の間で、オミクロン株は消滅するのです。

一方米国CDCは、去年12月27日に、熱が下がってから24時間たった軽症者および無症状の感染者に要請する隔離期間を、発症後または診断後10日間から5日間に短縮し、6日目から10日目はマスクを着用することを要請しています。

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無症状感染者の隔離期間、5日間に短縮 米|日テレNEWS24

「アメリカのCDC(=疾病対策センター)は27日、新型コロナウイルスの感染者の隔離期間を、無症状の場合、従来の10日間から5日間に短縮すると発表しました。
CDCは27日、新型ウイルスの感染者に推奨している隔離期間を見直すと発表し、無症状の場合、従来の10日間から5日間に短縮しました。その後、5日間はマスクの着用を求めるとしています。
今回の変更について、CDCは、ほかの人に感染させる場合の大部分が発症の前後数日間に起きているという科学的根拠に基づくものだとしています。
また、濃厚接触者の隔離期間も見直し、ワクチンの追加接種を受けている場合、隔離を不要にして10日間のマスク着用を求めるとしています。
アメリカでは、オミクロン株による感染の拡大で、航空会社が運航に必要な人員を確保できず欠航が相次ぐなど、各所で影響が出ていて、隔離期間の短縮により、人手不足の深刻化を防ぐ狙いもあるものとみられます」
(日テレ2020年12月28日)https://www.news24.jp/articles/2021/12/28/101001572.html

このように世界的傾向は14日間はおろか、10日間の隔離すら長い、5日で充分だという方向で進んでいます。
などと言っているうちに、世論の風向きに敏感な小池氏は、オミクロンを5類にしろと言い始めたようですが、それが常識的な流れのはずです。

「東京都の小池百合子知事は13日、新型コロナウイルスの感染症法上の分類について、結核と同じ2類相当の現状から、季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げることを検討すべきとの認識を示した。岸田文雄首相が分類変更に慎重な発言をしたことを受けたもので、国に「5類への変更も含めて科学的知見を集めてほしい」と求めた」
(日経2022年1月14日)

あの築地移転問題で、「安全であっても安心ではない」とすっとこどっこいのことを言っていた小池氏ですが、政界勝負師の勘は一流です。
岸田氏は保健所対応を外したときに、一挙に5類に法改正すればよかったのです。
どうもこの人、ひとの意見を聞きすぎて勝負勘が鈍いようです。

 

2022年1月14日 (金)

長野県、陽性者の77%がワクチン未接種

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 差別的ロックダウンだ」…オーストリアで未接種者に外出制限、警官が

「規制は15日から10日間の予定で、ワクチン未接種者は仕事や食品などの買い出しを除いて外出が禁じられる。警官が街頭での抜き打ちで接種状況を確認し、違反者には最大3600ユーロ(約47万円)の罰金が科される可能性がある。
 原則として12歳以上の未接種者に適用され、対象は人口の2割に相当する約200万人に上る」
(読売前掲)

オーストリアの新規感染者数は2021年11月13日時点で、過去最多の1万3千人に登り、接種率は64%、隣のドイツが67.5%、英国67%、フランス69%より低くい水準です。
オーストリアより低い接種率の国を探すとなると、おしなべて50%以下の東欧圏を探すしかありません。

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ネハンマー首相

オーストリア政府はこのような警察の手を借りてまでワクチン接種を半ば強制していますが、説得力にかけることには、人もあろうにネハンマー首相が3回接種後オミクロン株のブレークスルー感染にかかってしまいました。

「首相は3回、ワクチン接種を受けている。オミクロン対策の連邦・州首脳会談でもFFP2マスクを着用していた。6日の記者会談でもそうだった。その首相がオミクロン株にやられてしまったのだ。
7日公表された連邦首相府の情報によると、首相は4日、家族と共に休暇を終えて帰国、5日、定期的なPCR検査を受けたが陰性だった。5日夜、セキュリテイー・チームと会合した。その後、6日の連邦首脳会議後のPCR検査で2回とも陽性だったのだ。どうやら5日の夜の会合参加者の中に感染者がいたのではないか、と疑われている。首相は自宅で検疫を受けており、現在、ビデオ会議や電話会議を使用して自宅から公務を行っている。「今後、数日間は全ての会合などはキャンセルされた」という」
(ウィーン発コンフィデンシャル1月9日)
http://blog.livedoor.jp/wien2006/archives/52324100.html 

しかもネハンマー首相は市中感染したわけではなく、政府の会議で感染しており、出席者はすべて閣僚と州知事などの指導的政治家ばかりだったから大騒ぎとなりました。
政府中枢が首相以下全員が隔離ですから。

3回目でブレークスルーしてしまったというのはありえることで、冒頭の長野県でも2%報告されています。
しかしオーストリアでは、去年11月から国民のブーイングを受けながら、未接種者に外出規制までかけている手前、政治的には実にマズイ、すこぶるマズイわけです。
ここでオーストリア国民の受け止め方は二通りでました。
ひとつは、ざまぁみろ、やはりブースターを打っても罹る時には罹るんだ。なら、オレ絶対にやらんもんね。
二つ目は、しかし首相は軽症だったからやはりワクチンの効果はあったんだ。

こういう効く、効かないという声をよそに、欧米はオミクロンが完全に支配してしまったようです。
対処の方法としては、オーソドックスに3回目接種を急ぎ、ワクチンでブロックするというのがひとつ。
そしてもうひとつが、ノーガードです。

オミクロンの発生国南アフリカのケースで、このノーガード、ノー規制で対応しました。
隔離方針を貫くと、医療関係者が病院に来れなくなり、そこから医療崩壊が起きるからです。

「オミクロン株が世界で最初に特定された南アフリカ。オミクロン株が見つかって以来、警戒レベルは『1』のまま変えず、酒類の販売規制や夜間の外出禁止だけで事態を乗り切りました。
現地保健当局:「国民の60〜80%が新型コロナの感染をすでに経験しているとみられ、多くの国民が何らかの免疫を獲得している」
南アフリカで大規模なロックダウンに至らなかったのは、医療崩壊が起きなかったのも大きかったといえます。首都にある病院では、入院患者が死亡した割合は、過去の21.3%から4.5%に急減していました。また、入院した人のうち、ICUに入る割合も下がり、平均入院日数も半分以下に減っていました」
(テレ朝1月10日)
https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000240998.html

おそらく集団免疫が獲得されたのでしょう。
相手がオミクロンだったから可能だったともいえます。 

一方、困難に突き当たっているのが英国です。

「イギリス政府、医療現場をはじめとした人出不足対策として、さらなる隔離期間の短縮を模索し始めました。
つい最7日間の隔離に減らしたばかりですが、それをさらに5日間にするというものです。「オミクロン株は急拡大したあと、急速に縮小する」ともいわれています。
しかし、世界を見渡すと、イギリスの高止まりをはじめ、感染の急拡大の最中にある国が目立ちます。
イタリアやフランスは、連日のように過去最多を更新していて、一日当たりの感染者数は数十万単位になっています。アメリカは、子どもの入院患者数が爆発的に増えていて、この1カ月で増加率は50%近くに上っています」
(テレ朝前掲)

オミクロンは潜伏期間も短く、しかも回復も早いのが特徴のはずですが、英国は感染が高止まりしてしまいました。
これだけ感染者数が多いと、必然的に重傷化率・死亡率も引きずられて増えてしまいます。
また医療関係者が自宅隔離になるために、そこから医療崩壊が起きています。

「欧州疾病予防管理センター(ECDC)は1月7日、感染力の高いオミクロン株が広がることで、「医療従事者やエッセンシャルワーカーを含む多くの人の欠勤を招きかねず」、「医療システムや社会に大きな負担がかかることが予想される」との見解を示した
症状が軽くても、医師をはじめとする医療関係者、社会のインフラを支える立場の人たちは、感染したら仕事を休まざるを得ない。その結果、病院が受け入れられる患者の数が減り、ライフライン事業者が活動の縮小を迫られるなどして、社会機能の低下を招きかねない」
(朝日2022年1月9日)

2022年1月13日 (木)

いつのまにか一部5類へ

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岸田さんがよくわからないようなコロナ対策をしました。
扱いを2類から実質5類に格下げしたのです。
しかも全体はいじらず、一部だけです。

「感染力が高いとされる新型コロナウイルスのオミクロン株の広がりを受け、後藤茂之厚生労働相は11日の閣議後会見で、保健所業務を合理化する考えを示した。診断した医療機関が保健所を介さずに治療を始めたり、保健所が濃厚接触者などを調べる「積極的疫学調査」の範囲を限定したりして、負担を軽減する。
この日朝、岸田文雄首相が対策を打ち出していた。
後藤氏は、今後の感染者が急増して「保健所、自治体業務の負荷が非常に重くなると予想される」と説明。従来は、保健所が感染がわかった患者に連絡し、治療する医療機関を調整してきたが、診断した医療機関が保健所を介さずに治療を始めることも認める。「都道府県や医療関係者と緊密に連携して、保健所だけに頼らない重層的なネットワークの整備を早急に進めていく必要がある」と語った。
 積極的疫学調査については「広範ではなく、必要なところに重点化していく」とした。限られた人員で効率的に対応するため、合理化を図る」
(朝日1月11日)

「重層的ネットワーク」だかなんだかしりませんが、要は「保健所が感染がわかった患者に連絡し、治療する医療機関を調整してきたが、診断した医療機関が保健所を介さずに治療を始めることも認める」、つまり2類で必須だった「まず保健所」という部分をはずしたのです。
これはなし崩し的な5類への移行です。
2類指定は結核やSARSという下手すりゃ死ぬ強力な感染症ですが、5類は季節性インフルエンザと同等の扱いとなります。
医療機関に殺到しないように、選り分けのための窓口として保健所を置いたのですが、以後これを省きます。

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新型コロナ「5類感染症」に変更するとかしないとか…どういうこと

保健所を通じて新型コロナ病床を持つ指定医療機関等に入院せねばなりませんが、5類ではこのしばりがなくなるわけです。
したがって、コロナ患者は季節性インフルエンザと同じ扱いとなりように、いきなり医療機関に直行することが可能になります。
保健所はそれでなくても馴れないコロナ対応をやらされて2年間、疲弊の極にありましたから、負担軽減自体はよいことです。

以後、保健所がやることは、「保健所が濃厚接触者などを調べる「積極的疫学調査」の範囲を限定」するといいますから、感染者の感染経路などを調査することに限られることになるのでしょうか。
病院から通知を受けてその患者の動向を遡及するのか、それとも市中でサンプリング調査でもするんでしょうか。
「必要なところを重点的に」といっているので、たぶんクラスターの発生動向調査でもさせるのでしょうか。

よく判らないのは、正式に5類へしたわけではないので、に医療機関がどうしたらよいのか見えないことです。
法的には現状2類ですから、保健所を介さずにいきなり一般病院に行ってよいのか、指定医療機関に行くべきなのかどうか、現場は迷うことでしょうね。
常識的には一般病院の受診が可能になるはずですが、昨日あたりは各県からの問い合わせが厚労省に殺到していることでしょう。

というのは、今まで一般病院はコロナ対応の外にいたので、コロナ対応に馴れていないのです。
ここで正式に5類にとしてしまえば、季節性インフルと同じ対応ですから混乱なく乗り切れるでしょうが、2類指定は生きていますから、ここだけ5類と同じにされても困るはずです。

仮に受診した人から陽性が出た場合、ゾーニングや専用の動線確保、専門スタッフがいない中小規模の病院ではまちがいなくパニックになります。
指定コロナ対応病床を持っていればいいのですが、多くの病院やクリニックは併設していないでしょうから、2類の定めに従って隔離病床に転送ということになります。

仮にオミクロン株感染者だった場合、2類なら入院措置をするか自宅や隔離施設で休養ですが、5類ならそれもないので、自由に働くことも、学校に行くことも可能です。
来られた学校や職場はどうするのでしょうか。
う~ん、わからん。どこまで2類の措置を残しているのか、どこから5類扱いとしたのか。

だから、5類にするならするで、ちゃんとした法的手続きをしないとダメなのです。
岸田氏はオミクロン株が急増することに怯えたのでしょう。
このままいけは感染者が急増すれば医療崩壊するかもしれないし、保健所でさばききれなくなる。
だからほんとうは安倍氏が提唱したように5類にしたいが、ワイドショーがこわい。
「適正な時期に法改正はするが、今はタイミングが悪い」といってグズグズにする手法です。
外交ボイコットの旗を立てずに山下氏に行かせ、人権決議は握りつぶす。

コロナ対策も、実質5類にするが、法改正はしない。
国際的移動は2類扱いのまま2月一杯継続しても、国内はマンボウ程度で抑える。
矛盾しているが、叩かれない。泥は被りたくない。

どうやらこれが岸田流のようです。
言葉の正確な意味で日和見の人ですね。自分がない、人のいい万年係長タイプ。
私はオミクロンは脅威になり得ないと思っていますから5類にすること自体には賛成ですが、なし崩し的に5類の要素を入れていくようなやり方には賛成できません。

 

2022年1月12日 (水)

なぜ日米地位協定を「運用」で済ましているのか

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もう少し日米地位協定について掘り下げてみます。
まず、「地位協定」(Status of Forces Agreement ・SOFA)について外務省の説明から見ておきましょう。

「日米安全保障条約に基づく在日米軍の円滑な駐留を確保するため、在日米軍の活動と在日米軍施設・区域の存在に伴って生ずる国民への影響を最小限に留め、国民の理解と協力が得られるようにするため、様々な改善の措置を講じてきている」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/sfa/kyoutei/index.html 

ざっくりいえば、「駐留米軍の駐留を円滑にするために、米軍と日本国民との摩擦を最小限にするための措置」だということです。
更に煎じ詰めると、日米地位協定とは、在日米軍にここまではあなた方の「特権」ですよという、恩恵を定めたものです。
え、米軍に特権を与えているのかと驚かれるかもしれませんが、日米地位協定は外交官に準じる扱いを定めたものなので一種の特権なのです。

外交官特権と異なるのは、相手が軍人だということだけで、内容的にはよく似ています。
たとえば外交官特権は、外交施設(大使館や公使館)を保護して「領土」として認め、不逮捕特権も与えていますが、在日米軍には米軍基地において一定の「自治」を与えており、かつ米国軍人は公務中ならば日本国の法律で処罰されません。

なんという不平等条約なんだと思う人もいるでしょうが、これ自体は特に日本にだけではなく世界スタンダードです。
世界スタンダードになったのは、「NATO地位協定」があるためで、日米地位協定はそれを下敷きにして作られています。
NATOは冷戦期から半世紀以上欧州各国に駐留していて、日本に留まらず世界各国の地位協定のお手本になっています。

いや、中身はまったく違うというのが沖縄県の主張です。
米軍基地の現状と日米地位協定 - 沖縄県
https://www.pref.okinawa.jp/site/chijiko/kichitai/tyosa/documents/p14.pdf

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 沖縄)米軍の地位協定、日本と欧州ではこんなに違う:朝日新聞

まず、よく問題になる裁判権について見てみましょう。
実は裁判権はNATO地位協定とほとんど一緒で、「公務中」か「公務外」かが問われます。
軍人が任務遂行中ならは、司法権は米軍にありますし、私用ならば日本が逮捕し取り調べて裁判に持ち込むことができます。
基地の中か、外で起きたかは問いません。

たとえば米軍人が基地の外で任務中にトラックで日本人をはねた場合、日本には裁判権がありません。
しかし私用で自家用車で事故を起こした場合は、日本側に裁判権があります。
ここまではヨーロッパと日本は一緒ですが、ここからが違います。
日本は米兵が私用中にレイプ事件を起こしてもグレイゾーン扱いになっていますが、NATOはレイプなどは別扱いにしています。
かつて沖縄の場合、公務外で犯罪を犯しても米軍基地に逃げ込んで、いち早く外国に逃亡するというケースがありました。

また訓練や演習で事故を起こした米軍機が基地の外に落ちても、普天間基地ヘリ墜落事故のように日本側には調査に立ち入ることができませんでした。

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2004年8月13日 『沖国大米軍ヘリ墜落事件』

NATOは調査権限をもっていますから、現場の保全、その後の調査まで共同管理します。

他にもヨーロッパと日本の違いは存在します。
まず基地の管理権について、日本は国内法を適用できません。
これは「管理できない」と書いてあるのではなく、日本側が「できる」と書いていないので米軍に委ねられています。
ですから、自国領土にもかかわらず、日本側は立ち入るには米軍の許可が必要です。
私が昨日嘉手納やキャンプ・ハンセンに自衛隊の部隊を駐屯させたほうがいいというのは、軍事的意味もありますが、もうひとつは基地管理権に日本側が介入できるからです。
実際に横田では日米共同運用ですから、自衛隊は強い管理権限を持っていて、管理について自衛隊と米軍との日常的やりとりがあるようです。
それでも今回は感染者を出しましたが、沖縄とは桁が違っています。

また米軍機の国内の飛行ルートは定められていますが、そこで飛行することについては日本は干渉できません。
ヨーロッパ諸国は、一定の枠内で国内法を準用できるようになっています。

私用中の米軍人がレイプを犯した場合、その裁判権をイタリア、ドイツは持っていますが、日本では1995年に起きた12歳の少女が米兵に集団レイプされるという許しがたい犯罪でも、その犯人は日本側に引き渡されませんでした。
日本は国家の主権と名誉をかけて、この米兵らの引き渡しを要求すべきでした。
もはや国辱といってよいでしょう。
ちなみに当時の首相は社会党の村山富市氏でした。

このようなヨーロッパと日本の地位協定の落差について、外務省当局はこう述べています。

「時々、他国が米国と結んでいる地位協定と日米地位協定を比較して日米地位協定は不利だと主張されている方もいらっしゃいますが、比較に当たっては、条文の文言だけを比較するのではなく、各々の地位協定の実際の運用のあり方等も考慮する必要があり、そもそも一概に論ずることが適当ではありません」
(外務省前掲)

つまり外務省は条約の文言はいじらないが、「運用」で補っていると言いたいようです。
たしかに頻繁に日米合同会議で修正要求が日本側から出されているのは事実です。
今回の検疫についてもそうで、日本には米軍基地から入った軍人に検疫権がないために、オミクロン株の拡散を招きました。
外務省は去年7月には検疫強化を申し入れしていましたが、米軍が勝手な状況判断でもう流行が終わったんだからよかろうと一方的に打ち切ってしまったために、オミクロンが国内に持ち込まれることになってしまいました。
「運用」とは、しょせんこのようなものにすぎないのです。
相手方の善意を信じて、実際の運用を任せればこういうことになります。

では、どうしてこのようなヨーロッパとの違いが生まれたのでしょうか。
突き詰めれば、日本には「軍隊がない」からです。
ですから、日米同盟は正確には軍事同盟(ミリタリー・アライアンス)ではなく、安全保障同盟(セキュリティ・アライアンス)なのです。
軍事同盟は原則として相互の国を防衛するのが基本ですが、日本には米国を守る義務がありません。
日本も安倍氏が集団的自衛権を一部容認し、一定の地域と条件下で米軍を守ることが出来るようになりましたが、ヨーロッパのような完全な集団安全保障ではありません。
同じ敗戦国でもイタリア、ドイツは正式な軍隊ですが、自衛隊は憲法によって否定された「軍隊のようなもの」だからです。

ですから日米地位協定は日米同盟のこの性格に縛られて、双務的(双恵的)関係ではなく、一方が一方を片務的に守る義務を持つ安全保障同盟なのです。
このように初めから米国に「守られている」関係にあるために、同じ敗戦国でもドイツ、イタリアが米軍基地の管理権を持っているのに対して日本は持てない、そのように日本の官僚と政治家は考えていたようです。

政治家は日米地位協定にさわられるのを嫌がり、野党はことさらに反米・反安保感情を煽り、外務省はその狭間で「運用」で米国と交渉し続けているというわけです。
立場こそ違っていても、彼らが共通して忘れているのは、地位協定が日本国の主権を問う問題であることです。
かくして締結されてから半世紀以上たっても、一度たりとも条文は修正されないことになったのです。

彼らは日本-米国という二者関係だけの視野で考えてしまっていています。
誤解されているようですが、在日米軍は日本のためだけに配備されているわけではありません。 
アジア・太平洋地域の諸国民のためにも配備されています。特に沖縄はその地政学的位置のためにその中心に位置しています。 
下の地図を見て下さい。MV-22オスプレイの行動半径を描いたものです。 

3
これを見れば、オスプレイが、よく言われるような尖閣、台湾有事、朝鮮有事だけてはなく、広くスプラトリー諸島を含む南沙諸島や、西沙諸島までカバーしているのがわかるでしょう。 
特に今緊張のさなかになる台湾防衛は、沖縄をはずして考えることさえ不可能です。
たとえば嘉手納基地を外から見るとなんであんなにスカスカなんだと思いますが、その理由は有事の
来援の航空機が大挙して来るからです。
その来援の規模は、実に5倍近くに膨れ上がります。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2014/01/post-f0e0-1.html


・普天間・・・平時71機 戦時最大230機
・嘉手納・・・平時108~113機 戦時最大390機 

ですから、中国がこのまま異常な軍事膨張路線を突っ走る限り、沖縄の米軍基地は維持され続けることになります。
つまり沖縄は、台湾のみならず防衛力の貧弱なフィリピンやベトナムまで含めたトータルなアジア・太平洋地域の安全保障の拠点なのです。

ところで今、在沖米軍は、大きなシフトチェンジのプロセスに入っています。
南西諸島から先島諸島にかけて、対艦ミサイル部隊(HIMARS) を配備し、同時に海兵沿岸連隊(MLR)を沖縄島しょ部に配備する予定です。
自衛隊と米軍との統合運用も進みます。

 

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このプランは、今の在沖海兵隊の完全な再編を意味します。
今の在沖米海兵隊は、平時はキャンプシュワブに駐留し、有事においては先遣隊として普天間のオスプレイを使っていち早く橋頭堡を築く、という即応任務が与えられていました。
更に進化して、有事において中国に対して第1列島線で守り、太平洋に通さない海軍戦略に変化し、中国のミサイル発射基地を直接攻撃できる中距離ミサイルも列島線に沿って展開させます。

そして沖縄だけではなく、それを大きく支えているのが本土の横須賀軍港です。
今日は省きますが、横須賀なくして米国のアジア戦略は成立しないと言っていいでしょう。
日米同盟は、単に日本だけの防衛の為にあるのではなく、アジア地域安全保障体制を支える国際的公共財なのです。
それを現す言葉をご紹介しましょう。


「現在のところ、アメリカがもたらすものが我々にはベストだろう。中国はアメリカほど温和でないと見ている。(中略)アメリカは覇権国だが穏健な覇権国だ。私はアメリカとなんとか上手くやっていける。いまある覇権国がそのままあればよいではないか」
(リー・クアンユー「未来への提言」)

これはその優れた知性と胆力に裏打ちされたタフネゴシエーターぶりを、各国の政治指導者からマスター(師父)と仰がれているシンガポールのリー・クアンユー元首相の発言です。  
リークアンユーの言葉を台湾の発言と並べてみるとまったく同一の文脈だとわかるはずです。


「日米安保条約は冷戦終結後、アジア太平洋の安全を守る条約となった。条約の継続的な存在は台湾の安全にとって肯定的なものだ、と指摘する」
(台湾・淡江大学国際事務・戦略研究所の王高成教授 )

日米同盟も、その他の2国間同盟や多国間協議制度と密接に連関することで、アジア太平洋地域における安全保障アーキテクチャ(構造)の構成要素として中軸的地位を占めています。 

アジア地域で反米闘争をして米軍を叩き出す運動をしているのは、私が知る限り沖縄の左翼勢力と韓国の親北勢力のふたつにすぎません。
アジア・太平洋地域の国々が「米国よ行くな」と叫んでいる時に、唯一米軍に退去を請願する国境地域の首長も日本にはいます。
それがわが国の沖縄県知事です。
 
いかに他のアジア・太平洋諸国の現状認識とズレているかわかるでしょう。 

そのズレの原因は、沖縄の反基地勢力が米軍の存在を本土政府と沖縄との狭い眼鏡からしか見ていないことにあります。 
常に、沖縄県の不平等を叫び、基地がない沖縄を寄こせと叫ぶ相手は常に本土政府です。  
本土政府だけしか彼らの視野にはありません。
本土政府を責めれば、沖縄の米軍がいなくなるような安易な錯覚にとらわれています。
言い募られた本土政府も、日本だけで決められる話ではないにもかかわらず、なんとかなだめようと復帰から累積10兆円の振興予算を配り続けてきました。 

日米地位協定もこの反米運動のガソリンにされています。
本来は日本国の主権をかけた重要なテーマなのに、まことに残念なことです。

 

2022年1月11日 (火)

地位協定の「穴」と米軍のオミクロン株流出

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しゅりんちゅうさんが昨日のコメントで、米軍の今回のオミクロン株を流出させた失敗についてふれられていましたが、このウィルス流出を受けて直ちに日米合同委員会が開催されて、在日米軍の外出が14日間禁止となりました。

「日米両政府は9日、在日米軍基地とその周辺での新型コロナウイルスの感染急拡大を受けて、10日から米軍関係者の外出を14日間、制限することで合意した。
日米地位協定の運用などを協議する日米合同委員会が発表した共同声明によると、在日米軍関係者の米軍施設外での行動は、必要不可欠な活動のみに制限される」
(毎日1月9日)

沖タイはこう報じています。

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沖縄「第6波に突入した」 知事、まん延防止の要請も 旅行費助成も停止

「在日米軍での新型コロナウイルス感染拡大で、岸田文雄首相が外出制限を米側と合意したことを受け、玉城デニー知事は9日、名護市内で取材に応じ「米軍がオミクロン株が広がった原因だと、政府も認めたことになる。対応が遅すぎる」と述べた。
 知事は昨年12月17日に日本人基地従業員のオミクロン株感染発覚後、21日には在沖米軍四軍調整官、23日には東京の米国大使館でも感染拡大防止措置を要請した経緯を説明。
 その上で、米軍や政府の対応について「本当に遅い。迅速に対応すべき感染症対策の手だてが全く取られていなかった」と批判。「米側には猛省を求め、日本側と同様の対応を取るよう強く求めていくべきだ」と強調した」
(沖タイ1月10日)

デニー知事は、今まで全国一の感染拡大をした責任のすべてが米軍にあるかのような言い方です。
おいおい、違うだろうって。デルタ株の蔓延は沖縄県の問題、県立病院でクラスター作ったのも県の責任、そこでコロナ対応の病床が確保されていなかったのも県の責任、宮古島で医療崩壊をおこしかけ自衛隊に医官を派遣してもらって助かったのはどこの県でしたか、もう忘れたんですか。
それを置いてオミクロン株を米軍が流出させたからといって、全部米軍のせいにするような言い方はいただけません。
首里城の炎上事件もそうでしたが、デニー知事には県の責任をあいまいにする習慣が身に染みついてしまっているようです。

実は、このような日米地位協定の「穴」は、何らかの不都合が起きないとなかなか可視化できないのです。
たとえば、もっとも最近に起きた日米地位協定の矛盾は、2016年6月の米人業者が起こした暴行殺人事件でした。
これは容疑者が「軍属」待遇で基地に出入りしていた事の「穴」でした。
その後、この「軍属」の定義があいまいさを巡って日本側が修正を要求して日米協議となりました。
ちなみにこの時も、この米国人容疑者に対して、沖縄メディアは「元海兵隊員だから凶悪犯罪をおこしたのだ」といわんばかりの報じ方をしています。
今回もまるでコロナ感染の元凶は米軍だと言うような言い方をしていますから、似たパターンです。

「軍属」(シビリアン・コンポーネンツ)とは、あくまで軍と直接雇用関係にある民間人のことで、たとえば、自衛隊の駐屯地にはコンビニや外注の食堂がありますが、その従業員を「軍属」とは呼びません。
しかし、なぜか日米地位協定第1条(b)には、「穴」が開いていました。
この米民間人容疑者は、合衆国民間人ですが、米軍に雇用されてはいない基地出入りの民間会社従業員にすぎませんから、かといって家族を指す「随伴するもの」も該当しません。
つまり米軍とは日米地位協定上は無関係なのです。
ここが盲点で、この容疑者は「軍属」という日米地位協定で保護される地位に滑り込み、嘉手納基地にいけば簡単に取れるYナンバー車を乗り回して、凶行に及んでいました。

このように地位協定とは外国の駐留軍に与える恩恵を規定する取り決めです。
日本の場合、複雑なのはこの「駐留外国軍」がかつて日本を軍事占領していた戦勝国であったことです。
軍事占領期はハッキリ言えば支配関係でしたが、しかし現在の日本は主権国家ですから、双方の主権国家同士で対等の立場で取り決めたのが「地位協定」です。

これは2点で問題です。
第1に「軍属」を曖昧な形でルーズに出入りの米国民間人にまで使わせていた米軍の管理のあり方。
第2に、その日米地位協定の穴を悪しき慣例化させた日本政府のあり方です。
こういう穴はその都度見つけ次第ふさがねば日米同盟が揺らぎます。
なぜなら、地位協定とは、すぐれて日本国の主権の問題だからです。

今回も同根の問題です。
日米地位協定9条2項に「穴」があったのです。
これを取り決めたときには、世界規模の感染症などはまったく念頭になかったからです。
日本における米軍人の地位を定めた9条を押えておきます。

●日米地位協定第九条
1 この条の規定に従うことを条件として、合衆国は、合衆国軍隊の構成員及び軍
属並びにそれらの家族である者を日本国に入れることができる。

2 合衆国軍隊の構成員は、旅券及び査証に関する日本国の法令の適用から除外さ
れる。合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族は、外国人の登録及び管
理に関する日本国の法令の適用から除外される。
ただし、日本国の領域における永久的な居所又は住所を要求する権利を取得するものとみなされない。

第2項には、米軍人と軍属、その家族は旅券と査証なしで日本に入国できる、とあります。
これは米軍の公務での移動をスムーズにするためのものでした。

では、検疫はどうなのでしょうか。
1996年の日米合同委員会で、海外から直接、米軍基地に入る場合は「米軍の検疫手続きの適用を受ける」と決めており、その例外で日本の検疫を受ける義務が生じるのは日本国内の民間空港に到着する場合だけです。
ここでいう「米軍の検疫手続き」というのは、実態としてやってもやらなくてもかまわないということです。
かといって、米軍がいつも検疫をしないというわけではなく、コロナ感染期を通じて米政府はかなり強力な検疫をしていたはずです。
なにせ空母で大型クラスターが出て戦力外になるなど、米軍は深刻な被害を受けていましたからね。
今回のオミクロン株に替わってから、米軍基地から入国する米軍人・軍属・家族については対象にしなかったようです。

日本政府は去年夏には、この水際対策の「穴」には気がついており、7月末に米軍基地内でのクラスター発生を受け米軍も「日本政府と整合的な形」の水際対策を行うとの協議をしていました。
ところが、米国は同年9月3日に、米国内のワクチン接種が進んだことなどを理由に、日本に向けて米国を出国する際のPCR検査を免除するなど、対策を大幅に緩和しました。
この緩和措置を日本側に通達したのかどうか、現時点ではわかりません。

緩和措置はあくまで米国政府の決定であり、米軍はそれに準じたわけですが、防疫方針には各国の主権の範囲であり、日本国と無関係な基準で検疫を勝手に緩めることは許されるはずがありません。
米国人は軍人・軍属であろうと、日本の主権下で生活したいのならば、それが公務であろうとなかろうと、日本国政府の定めた防疫方針に従うのはあまりに当然です。
米軍基地は租界ではないのです。

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スキャナー]米軍検疫 政府確認遅れ…基地経由か 感染拡大 : 政治 ...

「問題の部隊は(12月)11日、米国から軍用機で嘉手納飛行場(沖縄市など)に到着。キャンプ・ハンセン(金武町など)で待機中の入国後5日目のPCR検査で複数の感染者が確認された。日本政府がこの間の感染対策を米側に照会したところ、出入国時の検査は行わず、行動制限期間中も基地内の移動を認めていたことが分かった。
 キャンプ・ハンセンでは23日までに227人の感染が判明。同基地に勤務する日本人従業員ら10人のオミクロン株感染も確認された」
(時事2021年12月24日)

このように米国的ルーズさと日本の外務省的事大主義によって、事実上なんの検疫も、なんの移動制限も受けることなく基地を出入りしていたのです。
日本をなめているのか、といわれても致し方ないでしょう。

私は今、これを安全保障方向に持っていくことは間違いだとおもいますし、今はそれを深堀すべき時期ではないと思います。
しかしこのコロナが一段落したら、きっちりと日米地位協定について議論すべき時のようです。
さもないと、日米同盟にヒビが入ります。

地位協定の修正協議は当然ですが、沖縄の場合、嘉手納にしてもキャンプハンセン・シュワブにしても、自衛隊との共同管理にすべきです。
嘉手納には空自を、ハンセンには陸自の水陸機動団を駐屯させて、管理権を米軍に独占させないことです。

それにしても大型選挙が近づくと必ず起きる米軍不祥事。
なにか法則でもあるのですかね。

 

2022年1月10日 (月)

オミクロン株はデルタ株への抗体を作り、感染の終末へと導く

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従来、WHOは新型コロナに見られる症状として以下を挙げていました。

●コロナの主要症状
①発熱
②せき
③疲労感
④味覚
⑤嗅覚の喪失

●コロナの副次的症状
①のどの痛み
②頭痛
③下痢
④皮膚の発疹や手足の指の変色
⑤目の充血や炎症

●米CDCが上げた症状
①息切れや呼吸困難
②筋肉痛や体の痛み
③鼻づまり・鼻水
④吐き気・おう吐
⑤寒気

ところがWHOは、今回のオミクロン株の症状はこれにあてはまらないとしています。
「WHOの分析担当者は1月4日の会見で、オミクロン株の症状について「肺まで達して深刻な肺炎を引き起こすほかの複数の変異ウイルスと異なり、上気道の炎症を引き起こしやすいとする研究結果が増えている」として、炎症の場所が鼻やのどにとどまるケースが多いという見解を示しました。ウイルスの性質が異なると症状の出方がこれまでとは違う可能性があります」
(NHK2022年1月7日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220107/k10013419301000.html
このオミクロン株の症状は日本においても同様で、先日紹介した沖縄専門家会議座長・藤田教授の所見もここれに重ねてみましょう。
藤田氏はこう言っていました。
「新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」の感染者が急増している沖縄県で5日、専門家会議が開かれて感染状況が詳しく報告された。座長の藤田次郎・琉球大教授は、症例が少なく全体像はまだわからないとした上で、琉球大病院で受け入れたオミクロン株感染者の症状について「感覚としては(デルタ株と)別の病気。インフルエンザに近い」との見方を示した。多くの感染者が長期にわたって隔離され、医療や社会インフラに大きな影響が出ることに懸念を示した」(朝日1月6日)

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NHK

つまり、オミクロン株は炎症の場所が上気道である鼻やのどに限定されていくことが、これまでのデルタ株と大きな違いだというのです。
そのためにウィルスが気管支から肺へと侵入することが少ないために、重篤化しないというわけです。
これが今までのデルタ株などのコロナウィルスとの決定的違いです。

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新型コロナによる肺炎 通常の肺炎と何が違うのか|NIKKEI STYLE

同じコロナウィルス一族でも、SARSやMERSのような凶暴な一族と、今回のCOVID-19が大きく違うのは、宿主の呼吸器表面である上気道に侵入し、そこで増殖することてす。
一方、SARSやMERSはもっと気道の奥のどん詰まりである肺に侵入し、そこで肺炎を起こします。肺の中ですから肺炎から重症化しやすく、致死率も高いのです。
だからPCR検査で手軽に鼻孔や咽喉、時には唾液から採取できます。
簡易検査キットがあるのも上気道にウィルスが留まっているからです。

その代わりに患者の症状は軽く風邪に似ているために、これくらいならと動き回ってウィルスを拡散してしまい感染拡大につながりました。
一方SARSは感染すると即肺炎になり、重篤化するか死亡してしまうために中国から流出しなかったのです。
つまり、重篤化・致死率の高さと感染拡大は、トレードオフ(一得一失)の関係なのです。

さて今回のオミクロン株は、この従来からあった新型コロナの性格をさらに強調したものになっています。

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NHK

「国立感染症研究所 脇田隆字所長(専門家会合 座長)は、「新型コロナウイルスでは消化器症状や嗅覚・味覚障害がかなりあると言われているが、沖縄からの報告をみるとオミクロン株ではこうした症状は比較的少なくかぜに近い症状が多い」としている」としています」
(NHK前掲)

脇田座長が言うように、オミクロンは何に似ているかといえば、、軽ければ風邪、ひどくなっても季節性インフルエンザに近いのです。
私は去年最後の記事で、素人考えだとお断りした上で、こう書いたことをご記憶でしょうか。

「コロナ前から言われてきたように、感染病は何度か株の変異を繰り返しながら必ず弱毒化していく。
さもないと、宿主の人間のほうが激減してしまい、ウィルスも生き延びられなくなっちゃいますからね。
そう考えると、とうとうオミクロン株というラストランナーの出番なのかもしれません。
神様が、そろそろオシマイにしようやと遣わせたものかもしれませんよ」

私はオミクロン株が出てきたことは、感染の終末形態ではないかという仮説を立てています。
嬉しいことに現役医師のプーさんからも賛同をいただきましたが、これを裏付けるような研究がオミクロン株の発生源である南アフリカから出ています。

「南アフリカでは、新型コロナウイルスのオミクロン変異株の感染拡大が「前例のない速さ」で進んだものの、その症状は従来株に比べはるかに軽症で済んでいる。同国の大規模病院の患者を対象に行った調査で明らかになった。
 首都プレトリアのスティーブ・ビコ学術病院の患者データを分析した研究者らは、パンデミック(世界的大流行)が終わりに向かっていることを示唆するかもしれないとの見解を示した。南アはオミクロン変異株の大規模な流行が初めて記録された国で、今後の世界の感染動向を占う上で注目されている。
 「このパターンが続き、世界でも繰り返されるなら、感染率と死亡率の完全なデカップリングが起こる公算が大きい」と研究者らは指摘。これは「新型コロナが世界的な流行期を終え、エンデミック(地域的流行)段階に入る先触れ」の役目をオミクロンが果たす可能性を意味すると続けた。
(『オミクロン変異株の流行、パンデミックの終わりを示唆-南ア研究』(Antony Sguazzin

ポイントは症状が単に軽いということだけではなく、「パンデミックが終わりに向かっていることを示唆する」という部分です。
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ブルームバーク 南アのコロナ研究施設

また同時期に、こんな驚くべき研究発表もされています。
こちらは未査読ですが、「オミクロン株は高い感染力を示し、抗体レベルを弱め得るが、症状が出てから2週間後には、その後のオミクロン株感染に対する免疫力が14倍上昇。デルタ株への免疫力についても、それよりは小さいが改善したという」のです。
つまり、なんとオミクロン株はデルタ株に対する抗体を作るのです。

新型コロナウイルスのオミクロン変異株に感染すると、デルタ変異株への免疫力が高まり、重症化するリスクが低下し得ると、南アフリカ共和国の科学者が論文で明らかにした。
南アの研究施設、アフリカ健康研究所(AHRI)のアレックス・シガル、ハディージャ・カーン両氏が率いる論文の執筆者によると、オミクロン株は高い感染力を示し、抗体レベルを弱め得るが、症状が出てから2週間後には、その後のオミクロン株感染に対する免疫力が14倍上昇。デルタ株への免疫力についても、それよりは小さいが改善したという。
  南アフリカ医療研究評議会のウェブサイトに掲載された調査結果によると、オミクロン株流行期での死亡は全入院患者の4.5%にすぎず、これまでの21%を大きく下回る。集中治療室(ICU)への入院も少なく、入院期間も「大幅に短い」という。
新型コロナウイルスのオミクロン変異株に感染すると、デルタ変異株への免疫力が高まり、重症化するリスクが低下し得ると、南アフリカ共和国の科学者が論文で明らかにした。
南アの研究施設、アフリカ健康研究所(AHRI)のアレックス・シガル、ハディージャ・カーン両氏が率いる論文の執筆者によると、オミクロン株は高い感染力を示し、抗体レベルを弱め得るが、症状が出てから2週間後には、その後のオミクロン株感染に対する免疫力が14倍上昇。デルタ株への免疫力についても、それよりは小さいが改善したという。
(Prinesha Naidoo、Janice Kew 『オミクロン株、感染すればデルタ株への免疫力高める可能性-南ア研究』

私にとって衝撃的な説でした。
なんとミクロン変異株に感染すると、デルタ変異株への免疫力が高まり、重症化するリスクが低下する、というのです。
オミクロン株はきわめて高い感染力を持いったんは抗体レベルを下げますが、2週間後には同じオミクロン株に対しては実に14倍、デルタ株に対してもほぼ同等の免疫力を持つようになった、としています。

つまりオミクロンは、今の世界で見られるように急激な勢いでデルタ株を駆逐していきますが、そのことによってオミクロン株自身はおろかデルタ株に対しても免疫力を10倍以上も高めてしいるのです。
そしてなんども書いてきたように、オミクロン株は流行期ですら
死亡率が全入院患者の4.5%にすぎず、これまでの21%を大きく下回る」とのことです。
だとするなら、オミクロン株は天然のワクチン接種に等しいことを自然界が自ら行っていることになります。

このように見てくると、なぜ米英政府が揃って行動制限に消極的なのか、その真の理由が理解できると思います。
米英政府は共通の認識、すなわち、南ア研究者らが言う「オミクロン株の登場によって世界的パンデミックは終わりに向かっている。むしろオミクロン株に感染するとデルタ株への免疫力が高まり、重症化するリスクが低下する」という説に沿って既に動いていると私は感じます。

それについては次回に。

2022年1月 9日 (日)

日曜写真館 たゞならぬ世に生きるなり初詣

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すみにけり何も願はぬ初詣 川崎展宏

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巻物を口に神狐や雪の中 阿波野青畝

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冬ざれや稲荷の狐横向いて 山口青邨

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片里の稲荷の月も杉間哉 荷兮

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餅を搗く灯りが稲荷にもおよぶ 原裕

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大鈴を下げて稲荷の茂りかな 猪股清吉

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吹き下ろす風いさぎよし初詣 下村梅子

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二あし三あし麦を踏みたる初詣 廣江八重櫻

2022年1月 8日 (土)

沖縄の感染拡大はオミクロン株、ただし季節性インフルエンザに近い

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沖縄、山口、広島に蔓延防止措置が出ました。
特に沖縄の感染者数は1400名に達しています。

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NHK

上図を見ていただくとわかるのですが、8月のデルタ株による第5波はなだらかに増えていきますが、1月の感染拡大は一気に急角度で感染を拡大させます。これがオミクロン株の特徴です。

この傾向は他の山口、広島島県でも同様です。

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沖縄の感染急拡大、親戚再会要因か 医師、高齢者への拡大に警鐘 | 毎日新聞

沖縄県の発表した詳しい情報が得られる感染者50名中を見ると

・有症状・・・48人
うち発熱・・・36人
・せき・・・29人
・全身倦怠感・・・25人
・咽頭痛・・・22人
・重症者・・・0
※従来の新型コロナの特徴の嗅覚・味覚障害は1人

また年齢分布は

・20~30代・・・32%
・40~50代・・・44%
※ワクチンの2回接種完了者・・・66%

こ20代~30代に分布し、重症者がきわめて少ないという傾向も東京都と一緒です。
米国政府が、1日に100万人(!)感染者が増加するという事態でも泰然として行動制限をかけない理由は、このオミクロン株が軽症で済むという見通しがあるからです。
米軍基地から感染が流出した問題は、この米国のオミクロン対応における日本の温度差にあります。
日米地位協定において米軍人はビザを免除されるなどの措置を取られていますが、だからといって感染症対策は当該地域の定めに従うのはとうぜんのことです。
米軍にどのような感染予防対策を命じていたのか、米軍と外務当局の責任が問われます。
ただし国会審議を見ていると、立憲は日米地位協定改定といった安全保障に問題をすり替えたいようですが、そんなことは今やることではないでしょう。

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沖縄県 重点措置めぐり専門家会議 より強い措置求める意見も | 新型

ところでここで注目すべきは、この感染を臨床で対応している沖縄県の専門家会議座長の琉球大学藤田教授の意見です。

「新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」の感染者が急増している沖縄県で5日、専門家会議が開かれて感染状況が詳しく報告された。座長の藤田次郎・琉球大教授は、症例が少なく全体像はまだわからないとした上で、琉球大病院で受け入れたオミクロン株感染者の症状について「感覚としては(デルタ株と)別の病気。インフルエンザに近い」との見方を示した。多くの感染者が長期にわたって隔離され、医療や社会インフラに大きな影響が出ることに懸念を示した」(朝日1月6日)

藤田教授は「感覚としては(デルタ株と)別の病気。インフルエンザに近い」という指摘は、今後の対策を考える上で重要です。
このことは現在、結核並に扱っているコロナ対応をする必要があるかという疑問につきあたるからです。

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新政権はまず新型コロナ「指定感染症」の解除を | コロナ後を生き抜く

上図のように、コロナは「指定感染症」に指定されており、結核、あるいはSARSといった重篤の症状が多く出る2類感染症以上の取り扱いとなっています。
今デルタ株に置き換わったオミクロン株を見ると、1類~3類指定のペスト、コレラ、腸チフスなどと同等の危険性と位置付けることに疑問が生じるのは当然でしょう。

日本総合研の森村秀樹氏は、去年から医療崩壊を防ぐために季節性インフルエンザや麻疹が含まれる5類相当が妥当だと主張してきました。
当初オミクロン株感染者がでると乗り合わせた乗客全員を病院に隔離したのも、この2類指定が根拠でした。
沖縄では既に病院スタッフの家族に感染者が出たために出勤できず病院が正常な運営ができない事態も生まれています。
これは医療崩壊の予兆で、このまま2類指定を続けた場合、常々脆弱だと指摘されている沖縄医療は速やかに危機に立たされることになりかねません。

またやっと立ち直り掛けたきた県民の復興マインドに大きな打撃を与えるのは必至です。

「国民の疲弊が見すごせないレベルに達しているからである。職場では、従業員の健康状態のモニタリング、感染予防対策、感染者・濃厚接触者の調査など、多種多様な追加措置が求められている。
学校でも、もともと長時間労働が常態化していた教職員が、消毒などの感染予防策を講じなければならず、業務多忙に拍車がかかっている。また、子どもの学習の遅れや心理的ストレスも無視できない。
外出抑制による運動不足で、健康2次被害も懸念されている。これらもすべて、指定感染症によって「当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある」と位置付けられたことに起因したものである
(藤村秀樹『新政権はまず新型コロナ「指定感染症」の解除を』2020年9月14日)

私も5類へ分類変更するのが妥当な時期が来たと思いますが、沖縄県ではその逆の方向に進みそうな気配です。

「冒頭、玉城知事は「尋常ではない勢いで感染者が増加していて、もうすでに第6波に突入したものと認識せざるをえない。このまま拡大が続くと、確保した病床数を超えることが容易に予想される」と述べました。
会議では専門家から「重点措置を出した段階で、緊急事態宣言を検討する必要が出てくるのではないか」とか、「重点措置は地域が限られてしまい感染が拡大する可能性もある。感染状況も第5波のときと違うので、強めのアラートを出したほうがいい」などと、より強い措置を求める意見が出ました」(NHK2022年1月5日)

この更に強い措置をも求めたという「専門家」は、藤田座長の「デルタとは別の病気。季節性インフルに近い」という発言を聞いていなかったのでしょうか。
いまでも病院職員不足が叫ばれている沖縄県で、更に緊急事態宣言を発すればどうなるのか落ち着いて考えていただきたいものです。
尾身会長もより厳しい緊急事態宣言を唱え始めました。

「基本的対処方針分科会 尾身茂 会長
 「(さらに)重症者も出てくるようなことが予定されれば、早くもっと強い対策を打つ。緊急事態宣言なんてことを理論上は考えるけど」
 分科会のあと尾身会長はこのように述べ、都道府県からの重点措置などの要請について、今後「同様の要請があるだろう」と見方を示しました。また、高齢者へのワクチンの3回目接種について、「最優先課題にすべき」と訴えました。 一方、GoToトラベルの再開時期については、「いまGoToをやる時期ではもちろんない」との考えを示しました。(TBS 1月7日)

尾身氏はデルタとオミクロンの違いを押えてこう言っているのでしょうか。
経済を度外視する尾身氏に、岸田氏も追随しそうです。

 

2022年1月 7日 (金)

岸田首相、訪米断念

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ひさしぶりの大雪でした。
雪国の人からみればたかがあれしきでしょうが、関東ではいやーたまらん。しかし美しい。
めったに見られない霞ヶ浦の雪景色を撮りにいきたいのですが、堤防から落ちたらこりゃ確実に死ぬな。どうしましょう。

さてやっぱりこの話題にふれておかねばならないでしょうね。
岸田首相が国会前の外遊を断念したそうです。
これで岸田氏の今月中の訪米の可能性は消滅しました。
というか、当分無理でしょう。やれやれ、ずいぶんと嫌われたもんです。

相は4日の記者会見で、17日召集予定の通常国会前の外遊を見送ることを明らかにした。米国、オーストラリアへの訪問を検討していたが、国内外での新型コロナウイルス感染拡大を踏まえ、「国内のコロナ対策に万全を期すため、首相は4日の記者会見で、17日召集予定の通常国会前の外遊を見送ることを明らかにした。米国、オーストラリアへの訪問を検討していたが、国内外での新型コロナウイルス感染拡大を踏まえ、「国内のコロナ対策に万全を期すため、と語った。
 首相はバイデン米大統領との会談のため早期訪米に意欲を示してきたが、調整は難航。代わりに、豪州訪問を探っていた。今月開催予定だった核拡散防止条約(NPT)再検討会議出席のための訪米案も浮上していたが、昨年末に見送りを表明していた。
 首相は会見で、「今年は対面での首脳外交を積極的に進める」と強調。NPT再検討会議の延期に関しては「被爆地広広島出身の首相として、核兵器のない世界の実現に向け引き続き全力を注ぐ」と述べた。」
(時事1月4日)

岸田さんは「コロナに万全を期するため」なんて言っていますが、何をいまさらの話です。
コロナの「第6波」は、ある意味でもう始まっているといえば言えるし、第5波は数カ月前に終わっているのですから、その間にやるべきことはすべて完了していなくてはなりません。
なお、ほんとうに第6波かどうかまだ判然としませんので、現時点ではカッコをつけておきます。

とまれ第5波が終わった8月以降やるべきことは、今回の日本の感染拡大で露呈したコロナ対応の医療体制の不備を建て直すことでした。
この徹底した見直しと整備は、この2カ月間で、岸田政権がやりきらねばならないことだったはずです。
それができてさえいれば、最高指揮官はいったん「戦争」が始まれば、責任を取る以外にやることはないのです。

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NHK  https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/entire/

上図を見れば、第5波は8月中旬にはピークアウトしているのがわかりますので、岸田政権が発足した10月4日にはベタ凪状態を菅氏から手渡されていたことになります。
ここから丸々平穏極まる期間が2か月間あったわけで、岸田氏はメディアの愛情をぞんぶん受けて、実力以上の高支持率を楽しめたはずです。
前政権の菅内閣は、東京五輪と数次に渡る感染拡大で、いわば火事場の「戦時政権」でしたが、岸田政権は天下泰平を満喫できた政権で、だからこそ「平時政権」にやらねばならなかったのは、第6波への備え、外交的には日米同盟固め、それ以外なにがありますか。

では、この「第6波」はどんな特徴を持っているのでしょうか。
東京都の例で見ます。
※東京都『新型コロナウイルス陽性患者発表詳細』、『新型コロナウイルス感染症重症患者数

    ●新規陽性…390人(前日比+239人、前週比+314人)
     ・7日平均…106人(前日比+35人、前週比+71人)
    ・ 重症者数…3人(前日比+1人、前週比+2人)
    ・ 新規死亡…0人(前日比±0人、前週比±0人)

新規陽性者数(あくまでもPCR陽性者ですから、感染者と決定したわけではありませんが)は前週比で5倍に急増していますが、重症者は2人増えただけで、死亡者は0です。

続いて陽性者の年齢層はどうでしょうか。
一番多いのは20代の23.84%、30代の18.96%で、65歳以上は4%台です。
そして重症化率が低いということは、以下の特徴が見られ始めたということができます。

●「第6波」の特徴(暫定)
①感染者数は急激に増加する。
②20代~30代が感染の7割を占める。
③重症者・死亡者は増えない。

この特徴は、各国から報告されたオミクロン株の知見と重なることから、すでにわが国にはオミクロン株がそうとう侵入していると考えたほうがよさそうです。
ならばいっそうオタオタせずに、さっさと日米同盟の再確認に行ってこい、と言いたいところですが、来るなと言われているんでしょうな、たぶん。

言うも愚かですが、新たに首相になった者にとって、訪米し共同声明を宣するのはただの外交儀礼ではなく義務です。
岸田氏は就任前から米国に訪米したいという希望を伝えていたはずで、もし希望すら伝えていないのなら一体あなた何年外相やっていたんですか、という話になってしまいます。
国会が始まると連日国会にでなければならないので、それ以前を逃がしてしまったということです。
これで参院選に負けようもんなら、米大統領と一度も会談をしなかった首相という恥ずかしい記録を作ってしまいます。

原因はさまざまな人が指摘するとおり、米国に拒否されたのです。
コロナ対応で「行かない」のではなく、「行けない」のです。

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産経ニュース

前政権と比較してみます。
菅さんは就任早々、米政府から招待がありました。
菅政権が発足したのが2019年9月16日、訪米したのが1週間後の9月23日ですから、いかに米国側から訪米を望まれていたのかわかります。
しかもバイデンは、初の外国首脳を迎えてのご指名ですから、意気込みが分かろうというものです。

それに対して、岸田政権が発足したのが2021年10月4日、以後3カ月間も経過してしまっています。
ひょっとしたらこのまま日米会談はないんじゃないか、なんて不吉なことが脳裏に明滅します。
さぞかし中国がお喜びでありましょう。

それは岸田氏が中国が喜ぶことばかりやってきたからです。
まず、2021年12月7日未明米国政府は、北京五輪にオリパラの外交的ボイコットを表明しました。
翌日の12月8日には、モリソン豪首相、同日、ジョンソン英首相、カナダのトルドー首相らが相次いで北京五輪への外交的ボイコットを発表しました。
まさにオーカスの連帯ぶり躍如です。

この時、クアッドの重要メンバーであるはずのわが岸田政権はどうしていたのでしょうか。
ご承知のとおり、まったくなにも決まらず迷走したあげく、結局「外交的ボイコット」という言葉を使わなければ中国は怒らないだろう山下会長なら角がたたないだろうというに姑息なことばかり考えていたのですから、まったくもう。
それすらなかなか決まらず、対応が決したのがなんと12月24日です。
米英加豪から遅れること16日!気が抜けたサイダー、日なた水。猫パンチ。よだれ外交。

いいでしょうか岸田さん。外相を5年もやっていたあなたにこんなことを言うのは失礼でしょうが、外交的シグナルは生ものです。
新鮮が生命。
直ちに出さないとすぐに賞味期限切れになってしまうのです。
わが国は人権という民主主義国家の根幹の価値を問われているのです。
躊躇するなら、逆にお前の国はそれに加担するのかと国際社会はみるでしょう。
ですから出すなら12月8日の同日、遅くとも数日以内に外交ボイコットの戦列に加わらねば、相手にされません。
米国のみならず、中国からもです。
米国は岸田政権に失望し、中国は以後日本を甘く見るようになります。

高市政調会長は、米国らの発表と同日の12月8日に、「外交的ボイコットに賛同する。しっかりとした姿勢を日本としていち早く打ち出していくべきだ」と述べています。
これが正しい対応でした。
立憲までもが外交ボイコットを言っているのに、岸田氏は公明党にひきづられたのか腰砕けになってしまいました。
そういえば、岸田さんの体質は公明党的ですね。

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北京五輪外交的ボイコットの是非 与野党で濃淡 - 産経ニュース

林外相は、12月11日の英国でのG7外相会合で会ったブリンケン米国務長官と、「岸田首相のできるだけ早期の訪米」に向けて調整して欲しい」とお願いしていますが、どのツラ下げてそれを言うかと思われたことでしょう。
なんと言われたかわかりませんが、私がブリンケンならぱ、「貴国はまず同盟国としてしっかりした中国への対応をしてから、訪米するべきではないでしょうか」と言いますね。

このように見て来ると、おそらくは会談後の共同声明がまとまらなかったのです。
これはあらかじめ事務方で仕上げておくもので、これが定まらねば会談は開かれません。
おおかた岸田政権が言を左右にしてぐだぐだ言ったのでしょう。

菅-バイデン会談の共同声明は、冒頭で明確に日米同盟の立ち位置を定義しています。

“Today, the United States and Japan renew an Alliance that has become a cornerstone of peace and security in the Indo-Pacific region and around the world.”
「今日、日本と米国は、インド太平洋地域、そして世界全体の平和と安全の礎となった日米同盟を新たにする。」

日米同盟はインド・太平洋の安全保障の礎石(コーナーストーン)だと言い切っています。
かつてのオバマ時代の日米共同声明にも「コーナーストーン」の文言はありますが、一般論的な日米二国間関係の強固さはを謳う修飾語として登場しただけですが、菅-バイデン会談では責任を持つ地域を明示しています。
それが「インド・太平洋地域をとりまく世界情勢」です。

さらに具体的に何を共に守ろうとするのかについて、具体的に名指ししています。
曖昧に「東アジアの平和と安定」などと書かないで「台湾海峡」という重大な文言を入れています。

“We underscore the importance of peace and stability across the Taiwan Strait and encourage the peaceful resolution of cross-Strait issues. We share serious concerns regarding the human rights situations in Hong Kong and the Xinjiang Uyghur Autonomous Region. The United States and Japan recognized the importance of candid conversations with China, reiterated their intention to share concerns directly, and acknowledged the need to work with China on areas of common interest.”

「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す。日米両国は、香港および新疆(しんきょう)ウイグル自治区における人権状況への深刻な懸念を共有する。日米両国は、中国との率直な対話の重要性を認識するとともに、直接懸念を伝達していく意図を改めて表明し、共通の利益を有する分野に関し、中国と協働する必要性を認識した。」

ここでTaiwan Strait (台湾海峡)が明記され、ウィグル・香港の人権状況についても強い非難をしたことは画期的でした。

ではひるがえって、岸田首相に菅氏と同じ文言の共同声明をだせるでしょうか?
たぶん今の彼にはむりです。
中国と公明党に忖度する岸田氏には、「台湾」と「「人権」は鬼門のはずで、もっと抽象的にボカしてしてくれなければ入れられないと言ったのかもしれません。
そして逆に米国から、どうして外交ボイコットに二の足を踏んだのか、クアッドと共同する気はないのか、なぜ人権宣言を握り潰したのか、と問いただされたのでしょう。

訪米拒否は米国の明解な外交的シグナルです。
対中方針を明確にしなければ会っても意味がない、味噌汁で顔を洗って出直して来いということです。
かくして日本は、韓国大統領並の外交ランクに落とされたようです。

 

2022年1月 6日 (木)

EU、原発「グリーンな投資先」と認定

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EU欧州委員会が原子力を「グリーンな投資先」に認定しました。
これはEUが自らの「タクソノミー」(グリーンな投資を促す分類法規制)の改定で、原子力をそれに分類したのです。
これは事実上EUの原子力「容認」にとどまらず、グリーン投資に入れたことによってもう一歩進んで「推奨」への転換と理解されています。
これによって、いままでドイツに引っ張られて脱原発の色彩が強かったEUが、ようやく現実にそぐわない理念を修正したことになります。

もちろん今後は欧州議会にかけねばならないので、紛糾は避けられないでしょう。
EUの盟主であるドイツをはじめ、オーストリア、ルクセンブルク、デンマーク、ポルトガル、イタリアなどの加盟国は反対の意志を表明しています。
緑の党のオーストリア欧州議会議員が、欧州司法裁判所(EUJ)に提訴すると息巻いていますが、これは裏返せば欧州議会では勝てないからです。
欧州議会が欧州委員会の提案を拒否するには加盟国27カ国のうち20カ国またはEU議会の過半数の拒否が必要ですが、反対派が10カ国にも満たない現在、非現実的なシナリオだとみられています。
ちなみに今年上半期の議長国はドイツに並ぶもうひとりの盟主にして、世界一の原子力大国のフランスです。
「[1日 ロイター] - 欧州連合(EU)欧州委員会は、一部天然ガスと原子力エネルギーを「グリーン投資」に区分する提案をまとめた。1月にEUの「サステナブル・ファイナンス・タクソノミー」に関するルールを提案する見通しだ。
欧州委は、グリーン投資に区分される経済活動や環境面の要件をまとめた。
科学的助言と現在の技術の進展、加盟国間で異なる移行面の試練を考慮し、天然ガスと原子力には、再生可能を主体とする将来に移行するための手段としての役割がある」と声明で述べた。
ロイターが閲覧した欧州委の提案の素案では、原子力発電所への投資は、放射能廃棄物を安全に処分する場所や資金を確保する計画がある場合にグリーンと判定される。
新規の原発がグリーンに区分されるためには、2045年までに建設許可を得る必要がある。
天然ガス火力発電所については、1キロワット時(kWh)あたりのCO2排出量が270グラム未満、30年12月31日までの建設許可取得、35年末までに低炭素ガスに切り替える計画があることなどが条件。
欧州委関係者はロイターに、エネルギー事情が異なる加盟国の移行を支援する上で、「一見グリーンに見えない解決策も一定の条件下では理にかなう」と述べ、天然ガスや原子力への投資には「厳しい条件」が付くと指摘した。
提案の素案は、EU加盟国と専門家委員会で審査され、1月中に公表される予定。公表後、欧州議会で審議される」
(共同2022年1月3日)
https://news.goo.ne.jp/article/reuters/world/reuters-20220103005.html
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アゴラ
「一見グリーンに見えない解決策も一定の条件下では理にかなう」 ですか、なるほど大人の判断というやつですね。
要は、原子力と脱炭素を秤にかけたら脱炭素のほうが重かったということですが、「天然ガスと原子力には、再生可能を主体とする将来に移行するための手段としての役割がある」という苦しい表現をしていますが、LNGと原子力がなければ脱炭素は不可能だという至って常識的なことを追認したわけです。
身も蓋もない言い方をすれば、この厳しい今年の冬を前にしてやっと現実に目が醒めたということです。

もちろん緑の党と社民党が政権を握るドイツは猛反発して、即座に拒否声明を出しています。
緑の党の脱原発は筋金入りですからね。認めるくらいなら政権から離脱して、連立は崩壊するでしょう。
「ベルリン 3日 ロイター] - ドイツの社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)の3党による新連立政権は、原発と天然ガスを持続可能エネルギー源として分類するとした欧州連合(EU)欧州委員会の提案の受け止め方で一致している。
政府報道官が3日、記者会見で語った。
報道官は、連立政権は原発を脱炭素化に貢献する「グリーン」な投資対象であると一定条件下で認定することは拒否すると言明。
天然ガスについては、橋渡し技術として当面活用できるとの点で合意しており、今後どのように扱っていくかを協議することになるだろうと述べた」(ロイター
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産経
かくして原子力を巡って、EUは事実上分解しました。
よく脱原発派の人たちは原子力廃絶は人類共通の歩み、くらい言うのですが、脱原発の本場ヨーロッパでは脱炭素をするには原子力が必要という立場に変わってしまいました。

ドイツが脱原発を叫べるのは理由が二つあります。
ひとつにはロシアからノードストリームでLNGを大量に買っているからです。
つまりドイツはロシアにエネルギーの強依存をしているわけで、ウクライナを巡る経済制裁をロシアに課した場合、もっとも困るのはドイツだと言われてきました。
口では勇ましいことを言っても、エネルギーの首根っこを握られたロシアにはなにもできない、それがドイツだったのです。
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またドイツは良く言えばしたたか、悪く言えば狡猾なところがあって、メルケルは原子力は人類の共通の脅威くらい叫んでゼロを宣言して大向こう受けしましたが、実は止めたのは半数にすぎず、6基は稼働を継続し続け、むしろ日本より多いくらいです。
しかしこれも脱原発派で占められる新政権は、ロシアからの天然ガス供給がひっ迫し冬場の需要期を迎える中で、予定通り稼働中の原発3基の停止に踏み切ってしまいました。
これにより電力不足はさらに深刻化することになるはずですが、たぶんフランスから原子力の香がする電力を大量に買い取るつもりだと見られています。
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では、今回の「政変」の主役だった現実派盟主のフランスはどのように見ているでしょうか。
フランスはこのロシアのレニングラード州のヴィボルグを起点とし、終点はドイツのグライフスヴァルトを結び、全長約1200キロ、最大流動550億立法メートルという巨大なLNGパイプラインを3つの観点から見ていたと思われます。

ひとつには、脱「脱原発」をする時期が到来したという判断です。
フランスはかねがね非現実的な脱原発政策には反対していましたが、盟主ドイツが自らの強硬な脱原発路線によって、事実上フランスが電力輸出してやらないと自立できない国になっていました。
これがドイツの全電力の3割をカバーするノルドストリーム2の完成で解決しました。
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そしてもうひとつは、ヨーロッパの女帝であるメルケルの退陣です。
メルケルにかかればマクロンなど小僧っこ扱いです。
圧倒的な存在感を持つメルケルがいるかぎり、彼女が推進した脱原発・難民受け入れという理想主義からの離脱は不可能です。
このドイツが不安定な左翼連合政権に替わって、しかもまだよちよち歩きの今こそ、一気にメルケル路線の修正を計る好機と見たのでしょう。
その時こそ、持論だったロシアへのエネルギー依存体制は危険だ、EUは独自のエネルギー源を持つべきだというフランスの主張が加盟国に納得できるようになります。
まるでそれを待ち受けていたかのように動いたのが、プーチンのウクライナ進攻の構えだったわけです。
そしてたまたまフランスがEU議会の議長国でした。
マクロンはメルケルが敷いた路線からの離脱するのは今の時をおいてはない、そう判断したのでしょう。
私がこれが脱メルケルの「政変」だと思うのはそういうわけです。
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ところでドイツとフランスの間には、たとえばスウエーデンのような玉虫色の国々も存在します。

「電力のうち水力と原発がそれぞれ4割を占める同国は、2040年までに再生エネ電力100%を目指す一方、脱原発の期限は設けない玉虫色の方針を取っている。
 背景には、再生エネへの期待が大きい一方、原発支持も根強いことがある。昨年11月の世論調査では、39%が新設も含め原発支持、31%が新設なしでの原発維持を求め、政治主導の脱原発支持は16%にとどまった。スウェーデンの消費者向け電気代は、再生エネへの補助金で高騰したドイツの3分の2程度で、CO2排出量は欧州連合(EU)加盟国で屈指の低さ。ヤルメレット氏は、安定電源の原発と水力など自然エネルギーの「良好な組み合わせ」の成果だと強調する」
(時事2021年3月7日)

スウエーデンはいちおう脱原発を口にしつつもその廃止期限は定めない、「再エネが現実化するまで」既存の原子力を使い続けるという玉虫色の状態を意図的に継続しています。
その理由は何といっても、ドイツが再エネの賦課金で全欧一の電気料金高騰を招いたことを横目で見ているからです。
また水力が地形的に向いていることもあって、堂々とグリーンエネルギーに位置づけて大いに利用しています。

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欧州】 東欧における原子力拡大:欧州大でのエネルギーミックス多様化

また、中東欧諸国はほぼすべてが原子力肯定派ですが、それには理由があります。
たとえばポーランドは石炭火力が8割を占めているために、簡単にEUが要求するCO2ゼロを達成できません。
また地形的には水力や風力に不向きなため、エネルギーを安定的に確保しつつ脱炭素をめざすとすれば原子力しか残らないのです。

「原子力発電の新規導入を検討しているポーランドでは、2040年までに電力に占める石炭比率を現在の8割から5割まで下げることを目指し、実現の手段として、再エネの拡大と2030年代からの原子力導入の合わせ技をとる方針である。上述のとおり、対ロシアの警戒感が特に強いポーランドでは、原子力発電についても基本的にVVER以外の炉型を想定している模様で、2019年以降、米国エネルギー省(DOE)と3回にわたり原子力導入に向けたエネルギー戦略対話の会合を持つなど、関係を強めている」
(電気事業連 2020年3月13日)
https://www.fepc.or.jp/library/kaigai/kaigai_topics/1259909_4115.html

もうひとつの理由が中東欧が置かれた地政学的位置です。
この地域は東のロシアと西の独仏に挟まれた地域です。
こんな板挟みの地域で、ロシアのLNGに安易に依存してしまえばウクライナのように首根っこを押えられて無理無体を要求されます。
事実、ロシアはウクライナがEU加盟を申請した瞬間LNGを止めました。
逆に、独仏のヨーロッパ送電網に依存しすぎれば、ロシアを刺激しすぎるうえに、中東欧ブロックの政治的独自性が失われてしまいます。
このような複雑な判断の結果、中東欧ブロックは、より独立したエネルギー源である原子力を手放したがらないのです。

このように脱炭素とはきわめてリアルな政治的な安全保障に関わることであって、「脱炭素で原発反対」などという都合のいい立場など存在しないのです。
理想を実現したかったら、現実と絶え間ないすり合わせをしていくものです。
原発反対・CO2反対とだけ言っていてはなにも解決しない、やっとそのことにヨーロッパは気がつきつつあるようです。

ところで、日本への影響ですが、日本の脱原発運動家は馬耳東風でしょうが、自民党には多少あるかもしれません。
これで脱炭素という大義名分を得ることが可能になりましたからね。
今まで根強い原発アレルギーに配慮して腰が引けていた再稼働に本腰を入れてくれればエネルギー不足など瞬時に解決するのですが、岸田さんには無理かな。
レンホーさんから噛みつかれたら「原子力は再生可能エネルギーを主体とする将来に移行するためのグリーンな発電手段である」って答えればいいんですがね。

 

 

2022年1月 5日 (水)

無策のまま電力逼迫の冬に突入

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今年の冬は危ない、電力マンは心密かにそう思っているはずです。
世界は、今年のCOP26で予想されたように深刻なエネルギー危機に陥りつつあります。
まずは日本ですが、予備電力が底を尽きつつあります。
この予測は既に去年10月には出てきましたが、解決の方途がみいだせないままとうとう冬に突入してしまいました。
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「この冬の電力需給の見通しについて、経済産業省は26日の有識者会議で示しました。
需給の見通しは、ピーク時の電力需要に対する供給の余力を予備率という数値で見ます。
それによりますと、厳しい冬を想定した場合、来年2月の予備率は、東京電力管内で3.1%、中部や関西、九州など6つのエリアで3.9%と、厳しい状況になります。
7つのエリアが3%台となるのは、過去10年で最も厳しいものとなります。
このほか、東北は4.4%、北海道は7%、沖縄は33.8%となっています。
この冬の電力需給の見通しは、全国7つのエリアでピーク時の需要に対する電力供給の余力を示す数値が3%台しかなく、過去10年間で最も厳しくなる見通しです。
このため、経済産業省は、家庭や企業にできる範囲での省エネを呼びかけることにしています」(NHK2021年10月26日)
経産省はこんなことを言っています。


そして経産省までもが脱炭素の流れに迎合して、非効率な石炭火力をフェードアウトさせようとする政策を去年7月に発表しました。
菅政権最大の誤りです。
「梶山弘志経済産業相は7月3日、発電効率が低く、二酸化炭素(CO2)を多く排出する旧式の石炭火力発電設備を動かせなくする規制措置を導入する方針を明らかにした。7月中に有識者を集めた会議の場で、具体的な制度設計の検討を開始する。
原子力発電所の再稼働が遅れている現在、石炭火力発電が生み出す発電量は全体の32%を占めている(2018年度実績)。今回やり玉に挙げられた旧式の石炭火力は、その約半分を占める重要な電源だ。
環境性能では劣る反面、設備が簡素であるためメンテナンスが容易で、減価償却が進んでいることもあり、「競争力では非常に優位にあった」(JERA(ジェラ)の奥田久栄常務執行役員)。つまり電力会社にとっては「非効率」ではなくむしろ「高収益」の設備だった。
それだけに、電力各社への衝撃は大きい。虎の子の資産に対して経産省から環境性能の面で“不適格”の烙印が押されたからだ。方針発表後、電力各社には投資家からの問い合わせが相次いだ。
大手電力会社の中でフェードアウト政策の影響を強く受けそうなのが、沖縄電力、北海道電力(北電)、J-POWERといった、非効率な石炭火力発電への依存度の高い会社だ」
(東経2020年7月22日)
下の写真は北海道電力の苫東厚真石炭火力発電所。3基のうち2基は旧式です。
こういうのを止めろと国は言い出したのです。
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東経
この「非効率火力」は旧式な石炭火力のことなのですが、これが占める割合は下図のとおりで、沖縄電力など国のお達しでは全部建て替えねばならなくなります。
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https://subarun.com/2021/10/30/coal_20211030/

これでも日本は、EUのように2050年までにCO2排出ゼロなんて言わずに80%に値切ったり、欧州投資銀行が化石燃料への投資を2021年に禁止したのに対して、日本の国際協力銀行は条件つきで継続してみたり、EUが石炭火力全廃と言う中で、高効率の石炭火力は継続するとしたりいちおう独自色を維持はしているのですが、いかんせん世界はそちらへと一斉に走ってしまいました。

 

2022年1月 4日 (火)

オミクロン株でわかってきたこと

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改めまして、新年明けましておめでとうございます。
2022年という年が、皆様にとってよい年でありますように。

さて、今年もオミクロン株から始めることにします。
まだ2日だというのに、ニュース速報で「某県でオミクロン感染者を確認」なんてやっておりましたね。

新型コロナウイルスについて、全国できのう、782人の感染が発表されました。700人を上回るのはおよそ3か月ぶりです。また、オミクロン株による市中感染も広がっています。
東京都では新たに103人の感染者が発表され、およそ3か月ぶりに100人を上回りました。そのほか、▼沖縄で130人、▼大阪で79人、▼山口で56人となり、沖縄はおよそ3か月半ぶりに100人を上回りました。また、検疫では109人の感染が確認され、過去最多となりました」
(TBS1月3日)

メディアのわくわく感がひしひしと伝わります。
去年の政権一つを、コロナ対応批判で葬った成功体験が忘れられないようです。

淡々と事実を収拾していくことにします。
オミクロン株の特徴について、いくつかのことが判明して仮説もたてられてきました。
その特徴の最大のものは、その感染力の凄まじさです。
オミクロン株はあれよあれよという間にデルタ株を駆逐し、まるで上書きでもするように世界各国で拡大しています。
100万人あたりの感染者数を押えておきましょう。

7日間の新規感染者数(人口100万人あたり)2022/01/01現在 各国感染者数
人口あたりの新型コロナウイルス感染者数の推移【世界・国別】 (sapmed.ac.jp)
・英国    ・・・17868.9人
・フランス・・・16912.4
・イタリア・・・10659.8
・米国   ・・・・8341.5
・カナダ ・・・5899.8
・ドイツ ・・・2347.4
・ロシア ・・・1029.8
・南アフリカ・・1014.1
・日本  ・・・19.0

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クリックすると大きくなります。sapmed.ac.jp

英仏伊独米と軒並み主要各国は席巻されています。
特に米国の感染者数は全対数で見てもハンパではありません。
1日あたりの新規感染者数(7日平均)は、12月24日に21万3157人、12月31日には36万6518人という途方もない数に登っています。
いくら人口が3倍だからといって、わが国では1万人超えたら政権が飛ぶと言われていましたからね。
これだけ感染が拡大してしまうと、民主党系知事は都市封鎖に走って、好調に推移している復興景気を台無しにするかもしれません。
バイデンにとって今年は中間選挙の年ですが、アフガンといい、ウクライナといい、コロナの感染拡大といい、こうまで失敗続きだともう泣きっ面に蜂です。

それはともかく、この各国の新たな感染はおそらくオミクロン株によるものです。
デルタ株がより感染力が強いオミクロンに置き換わって感染が再拡大した可能性があります。
米国CDCは、感染者の73%がオミクロン株によるものだと発表しています。

「米疾病対策センター(CDC)は20日、新型コロナウイルスの新たな変異株オミクロン株が、これまで主流だったデルタ株を逆転したとの推定を発表した。18日までの1週間の感染者に占める割合は73%で、前週の6倍近くになったとした
体内の抗体レベルが低下している場合でも、T細胞が新型コロナウイルスのオミクロン変異株感染の重症化を防いでいる可能性がある。オランダと南アフリカ共和国でそれぞれ行われた研究が示した。感染が過去最悪規模で拡大している一方で、これまでのところ病院が機能不全に陥っていない理由を説明する一助となる」
(ブルームバーク 2021年12月31日『T細胞が戦力発揮、オミクロン感染で重症化が少ない理由-2つの研究 』 )
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-12-30/R4XGN3T0G1L201

つまりいま欧米で猛威を振るっている感染は、既にオミクロン株に置き換わったCOVID-19であるという推定が成り立つのです。

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上昌広『オミクロン株流行、日本では小規模で収束か? いま健康を守るために必要な議論とは』)

では、なぜわが国のみ感染が再爆発しておらず、終息の気配があるのでしょうか。
いくつかの推論が成り立ちます。
ひとつにオミクロン株がまだ侵入していないからかもしれません。
おそらく岸田政権はそう考えていて、水際作戦を強めています。
しかし水際作戦には自ずと限界があり、時間稼ぎでしかないのはご存じのとおりです。

この場合、感染者数は再び上昇に転じる可能性があります。
特にポピュリストの政治家がPCRの無料化などということをしてしまったために、感染者数が増えて見えることが起きるかもしれません。
しかし、これがオミクロン株による再拡大ならば、日本は充分に対処可能です。

日本がいち早く回復した原因を米バンダービルト大教授のマーク・デニソン氏はこのように述べています。

「日本でコロナの流行や重症化が比較的抑えられてきた理由を、日本人の遺伝的特徴に求めようとする研究があるが、実際に遺伝的要素が主な要因である可能性は少なく、誤解を招くメッセージを発信するリスクは大きい。
日本の感染状況については、マスク着用や手洗い、衛生についての観念など文化的・習慣的な要素の影響がより大きいのではないか」
(日経2022年1月1日)

デニクソン氏が言うように、欧米と違ってマスク習慣は日本人にはなんの抵抗なく受け入れられたわけで、いまやマスクしないで公衆の場を出歩くなんてズボンはかないで歩くに等しいですもんね。
土足で家に上がらない、お風呂大好き、うちに帰ったら手洗い、なんて子どもの頃から家庭や学校でしつけられてきました。
こんな伝統的生活慣習の上に日本の世界最高の公衆衛生インフラが載っています。
これがいわば日本の「衛生の底力」とでも言うべきものです。
これにさらに、世界有数のワクチン接種率という強い味方が加わったわけです。

去年毎日のようにメディアに世界一遅いとバッシングされ続けたワクチンは、気がついてみればいまや全国民の8割が接種済みです。
黙々と接種作戦を継続した結果、主要国では最高の接種水準に到達してしまいました。
全国民の8割が接種済みで、残るは接種を見合わせている12歳以下の年齢層だけとなりつつあります。

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●日本のワクチン接種率(2021年12月28日)
・1回目・・・79.3%
・2回目・・77.9%
・3回目・・・0.4%
出典:首相官邸

上図と下図の新規感染者数のグラフを重ねて見ると逆相関であることがわかります。

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8月下旬にピークアウトしていますが、これは第1回目接種の終了した時期であり2回目が終わる9月初めには終息に向かっています。
他の国はわかりませんが、日本では明らかにワクチンは「特効薬」(ワクチンは薬ではありませんが)でした。
しかも幸か不幸かわが国の接種が6月頃から始まったために、2022年初めの時点においてもその有効性が切れていません。

「効果の持続期間については、ファイザー社のワクチンにおける臨床試験後の追跡調査の結果によると、2回目接種後2ヶ月から4ヶ月時点での発症予防効果は90.1%であったところ、4ヶ月から6ヶ月時点での発症予防効果は83.7%との報告があります」
(厚労省Q&A)
https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0011.html

これは2021年の前半で接種を進めた主要各国が、2回目接種後すでに6か月以上経過して有効性が切れかかっており、しかもその接種自体も反ワクチン運動の抵抗にぶち当たって、いっかな進まない状況と対照的です。
ヨーロッパでは、ワクチンの義務化につながるワクチンパスポートを巡って暴動すら起きている始末です。

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欧州各地で大規模デモ 新型ウイルスの規制強化に反発 - BBCニュース

この反ワクチン運動は保守左翼問わずに存在する広範なものに拡がっており、社会問題化していっそうワクチン接種が進むことを妨げています。
米国はまだ50%台という悲惨な状況です。
ちなみにトランプは、共和党系に多い反ワクチン勢力に押されているので、ちょっと困った状況です。
ワクチンを早く作るワープ・スピード作戦をしたのは彼なのにね。

では、ワクチンは有効期限が切れてしまったら無意味なのでしょうか。
たぶん違うと思われます。ブルームバークはオミクロン株について、興味深い研究を紹介しています。
ワクチンは株が変わると有効性がなくなるというメディアも多いのですが、そうではないようです。
この研究によれば、人体に侵入したウィルスに対する防御は抗体とT細胞の二つですが、ワクチンは後者の増強を促すというのです。

「T細胞は免疫系の中で注目度が高くないが、ウイルスに感染した細胞を攻撃するという重要な役割を果たす。オランダのエラスムス大学と南アのケープタウン大学は別々の研究で、ワクチン接種によってオミクロン株に対する防御に十分なT細胞の増強が見られたと説明した。
 T細胞は抗体と違い、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質全体を標的にできる。変異の程度が大きいオミクロン株でも、スパイクタンパク質の大部分は従来株と同様と言える。
  エラスムス大学の研究者らはワクチン接種済みのヘルスケア従事者60人を対象に調査。オミクロン株に対する抗体の反応は、ベータ変異株やデルタ変異株への場合と比べると低い、あるいはほとんどなかったが、T細胞の反応はおおむね変わらなかったという」
(ブルームバーク 2021年12月31日『T細胞が戦力発揮、オミクロン感染で重症化が少ない理由-2つの研究 』 )
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-12-30/R4XGN3T0G1L201

T細胞は、コロナウィルス全体のスパイクタンパク質を攻撃するので、オミクロン株に対しても重症化を防ぐ効果を得られるかもしれないというわけです。

「ケープタウン大学の感染症分子医学研究所は新型コロナ感染から回復した人、およびファイザー・ビオンテック製あるいはジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)製のワクチンを接種した人を対象に調査を行った。
 同大学で研究報告書の執筆に参加したウェンディ・バージェンズ氏は、免疫による防御には複数の階層があると自身のツイッターアカウントで説明。抗体が感染をブロックするのに対し、T細胞は感染した細胞を破壊してウイルスの広がりと重症化を防ぐと解説。「T細胞は感染を防ぐことはできないが、その後のダメージを最小限に抑えることができる」と指摘した」
(ブルームバーク 前掲)

このように見てくると、ワクチンは仮に株が違っても軽少化する効果も併せ持つのかもしれません。

わが国は世界有数の「公衆衛生の底力」を持ち、そしてこれも世界指折りの高いワクチン接種率をもっています。
そして幸いにもその有効期限は切れておらず、仮に切れたとしても3回目のブースター接種の準備が進められています。
また懸念される新たな変異株についても、ワクチンはキラーT細胞を強靱化するために重症化するリスクから守ってくれるということになります。

オミクロン株は遅かれ早かれ侵入してくるでしょうが、その時にいきなり去年さんざん国民を苦しめた緊急事態宣言一本槍に走らないことです。
こればかりに頼ると、せっかく復興の芽が吹いたばかりの社会を再び暗くしてしまいますからね。

 

2022年1月 1日 (土)

 元旦写真館 一切の空貫きて初日の出

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明けましておめでとうございます。
皆様のご多幸をお祈り致します。

                                ブログ主

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「天地大戯場」とかや初日出づ 金子兜太

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はろかなるものへ礼して初日向 岡本眸

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たしかなる予感柔らかき初日の出 殿村菟絲子

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万華鏡世をうつくしく初日の出 山口青邨

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ぐんぐんと初日波頭を躍り出づ 伊東宏晃

 

 

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