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2022年1月12日 (水)

なぜ日米地位協定を「運用」で済ましているのか

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もう少し日米地位協定について掘り下げてみます。
まず、「地位協定」(Status of Forces Agreement ・SOFA)について外務省の説明から見ておきましょう。

「日米安全保障条約に基づく在日米軍の円滑な駐留を確保するため、在日米軍の活動と在日米軍施設・区域の存在に伴って生ずる国民への影響を最小限に留め、国民の理解と協力が得られるようにするため、様々な改善の措置を講じてきている」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/sfa/kyoutei/index.html 

ざっくりいえば、「駐留米軍の駐留を円滑にするために、米軍と日本国民との摩擦を最小限にするための措置」だということです。
更に煎じ詰めると、日米地位協定とは、在日米軍にここまではあなた方の「特権」ですよという、恩恵を定めたものです。
え、米軍に特権を与えているのかと驚かれるかもしれませんが、日米地位協定は外交官に準じる扱いを定めたものなので一種の特権なのです。

外交官特権と異なるのは、相手が軍人だということだけで、内容的にはよく似ています。
たとえば外交官特権は、外交施設(大使館や公使館)を保護して「領土」として認め、不逮捕特権も与えていますが、在日米軍には米軍基地において一定の「自治」を与えており、かつ米国軍人は公務中ならば日本国の法律で処罰されません。

なんという不平等条約なんだと思う人もいるでしょうが、これ自体は特に日本にだけではなく世界スタンダードです。
世界スタンダードになったのは、「NATO地位協定」があるためで、日米地位協定はそれを下敷きにして作られています。
NATOは冷戦期から半世紀以上欧州各国に駐留していて、日本に留まらず世界各国の地位協定のお手本になっています。

いや、中身はまったく違うというのが沖縄県の主張です。
米軍基地の現状と日米地位協定 - 沖縄県
https://www.pref.okinawa.jp/site/chijiko/kichitai/tyosa/documents/p14.pdf

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 沖縄)米軍の地位協定、日本と欧州ではこんなに違う:朝日新聞

まず、よく問題になる裁判権について見てみましょう。
実は裁判権はNATO地位協定とほとんど一緒で、「公務中」か「公務外」かが問われます。
軍人が任務遂行中ならは、司法権は米軍にありますし、私用ならば日本が逮捕し取り調べて裁判に持ち込むことができます。
基地の中か、外で起きたかは問いません。

たとえば米軍人が基地の外で任務中にトラックで日本人をはねた場合、日本には裁判権がありません。
しかし私用で自家用車で事故を起こした場合は、日本側に裁判権があります。
ここまではヨーロッパと日本は一緒ですが、ここからが違います。
日本は米兵が私用中にレイプ事件を起こしてもグレイゾーン扱いになっていますが、NATOはレイプなどは別扱いにしています。
かつて沖縄の場合、公務外で犯罪を犯しても米軍基地に逃げ込んで、いち早く外国に逃亡するというケースがありました。

また訓練や演習で事故を起こした米軍機が基地の外に落ちても、普天間基地ヘリ墜落事故のように日本側には調査に立ち入ることができませんでした。

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2004年8月13日 『沖国大米軍ヘリ墜落事件』

NATOは調査権限をもっていますから、現場の保全、その後の調査まで共同管理します。

他にもヨーロッパと日本の違いは存在します。
まず基地の管理権について、日本は国内法を適用できません。
これは「管理できない」と書いてあるのではなく、日本側が「できる」と書いていないので米軍に委ねられています。
ですから、自国領土にもかかわらず、日本側は立ち入るには米軍の許可が必要です。
私が昨日嘉手納やキャンプ・ハンセンに自衛隊の部隊を駐屯させたほうがいいというのは、軍事的意味もありますが、もうひとつは基地管理権に日本側が介入できるからです。
実際に横田では日米共同運用ですから、自衛隊は強い管理権限を持っていて、管理について自衛隊と米軍との日常的やりとりがあるようです。
それでも今回は感染者を出しましたが、沖縄とは桁が違っています。

また米軍機の国内の飛行ルートは定められていますが、そこで飛行することについては日本は干渉できません。
ヨーロッパ諸国は、一定の枠内で国内法を準用できるようになっています。

私用中の米軍人がレイプを犯した場合、その裁判権をイタリア、ドイツは持っていますが、日本では1995年に起きた12歳の少女が米兵に集団レイプされるという許しがたい犯罪でも、その犯人は日本側に引き渡されませんでした。
日本は国家の主権と名誉をかけて、この米兵らの引き渡しを要求すべきでした。
もはや国辱といってよいでしょう。
ちなみに当時の首相は社会党の村山富市氏でした。

このようなヨーロッパと日本の地位協定の落差について、外務省当局はこう述べています。

「時々、他国が米国と結んでいる地位協定と日米地位協定を比較して日米地位協定は不利だと主張されている方もいらっしゃいますが、比較に当たっては、条文の文言だけを比較するのではなく、各々の地位協定の実際の運用のあり方等も考慮する必要があり、そもそも一概に論ずることが適当ではありません」
(外務省前掲)

つまり外務省は条約の文言はいじらないが、「運用」で補っていると言いたいようです。
たしかに頻繁に日米合同会議で修正要求が日本側から出されているのは事実です。
今回の検疫についてもそうで、日本には米軍基地から入った軍人に検疫権がないために、オミクロン株の拡散を招きました。
外務省は去年7月には検疫強化を申し入れしていましたが、米軍が勝手な状況判断でもう流行が終わったんだからよかろうと一方的に打ち切ってしまったために、オミクロンが国内に持ち込まれることになってしまいました。
「運用」とは、しょせんこのようなものにすぎないのです。
相手方の善意を信じて、実際の運用を任せればこういうことになります。

では、どうしてこのようなヨーロッパとの違いが生まれたのでしょうか。
突き詰めれば、日本には「軍隊がない」からです。
ですから、日米同盟は正確には軍事同盟(ミリタリー・アライアンス)ではなく、安全保障同盟(セキュリティ・アライアンス)なのです。
軍事同盟は原則として相互の国を防衛するのが基本ですが、日本には米国を守る義務がありません。
日本も安倍氏が集団的自衛権を一部容認し、一定の地域と条件下で米軍を守ることが出来るようになりましたが、ヨーロッパのような完全な集団安全保障ではありません。
同じ敗戦国でもイタリア、ドイツは正式な軍隊ですが、自衛隊は憲法によって否定された「軍隊のようなもの」だからです。

ですから日米地位協定は日米同盟のこの性格に縛られて、双務的(双恵的)関係ではなく、一方が一方を片務的に守る義務を持つ安全保障同盟なのです。
このように初めから米国に「守られている」関係にあるために、同じ敗戦国でもドイツ、イタリアが米軍基地の管理権を持っているのに対して日本は持てない、そのように日本の官僚と政治家は考えていたようです。

政治家は日米地位協定にさわられるのを嫌がり、野党はことさらに反米・反安保感情を煽り、外務省はその狭間で「運用」で米国と交渉し続けているというわけです。
立場こそ違っていても、彼らが共通して忘れているのは、地位協定が日本国の主権を問う問題であることです。
かくして締結されてから半世紀以上たっても、一度たりとも条文は修正されないことになったのです。

彼らは日本-米国という二者関係だけの視野で考えてしまっていています。
誤解されているようですが、在日米軍は日本のためだけに配備されているわけではありません。 
アジア・太平洋地域の諸国民のためにも配備されています。特に沖縄はその地政学的位置のためにその中心に位置しています。 
下の地図を見て下さい。MV-22オスプレイの行動半径を描いたものです。 

3
これを見れば、オスプレイが、よく言われるような尖閣、台湾有事、朝鮮有事だけてはなく、広くスプラトリー諸島を含む南沙諸島や、西沙諸島までカバーしているのがわかるでしょう。 
特に今緊張のさなかになる台湾防衛は、沖縄をはずして考えることさえ不可能です。
たとえば嘉手納基地を外から見るとなんであんなにスカスカなんだと思いますが、その理由は有事の
来援の航空機が大挙して来るからです。
その来援の規模は、実に5倍近くに膨れ上がります。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2014/01/post-f0e0-1.html


・普天間・・・平時71機 戦時最大230機
・嘉手納・・・平時108~113機 戦時最大390機 

ですから、中国がこのまま異常な軍事膨張路線を突っ走る限り、沖縄の米軍基地は維持され続けることになります。
つまり沖縄は、台湾のみならず防衛力の貧弱なフィリピンやベトナムまで含めたトータルなアジア・太平洋地域の安全保障の拠点なのです。

ところで今、在沖米軍は、大きなシフトチェンジのプロセスに入っています。
南西諸島から先島諸島にかけて、対艦ミサイル部隊(HIMARS) を配備し、同時に海兵沿岸連隊(MLR)を沖縄島しょ部に配備する予定です。
自衛隊と米軍との統合運用も進みます。

 

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このプランは、今の在沖海兵隊の完全な再編を意味します。
今の在沖米海兵隊は、平時はキャンプシュワブに駐留し、有事においては先遣隊として普天間のオスプレイを使っていち早く橋頭堡を築く、という即応任務が与えられていました。
更に進化して、有事において中国に対して第1列島線で守り、太平洋に通さない海軍戦略に変化し、中国のミサイル発射基地を直接攻撃できる中距離ミサイルも列島線に沿って展開させます。

そして沖縄だけではなく、それを大きく支えているのが本土の横須賀軍港です。
今日は省きますが、横須賀なくして米国のアジア戦略は成立しないと言っていいでしょう。
日米同盟は、単に日本だけの防衛の為にあるのではなく、アジア地域安全保障体制を支える国際的公共財なのです。
それを現す言葉をご紹介しましょう。


「現在のところ、アメリカがもたらすものが我々にはベストだろう。中国はアメリカほど温和でないと見ている。(中略)アメリカは覇権国だが穏健な覇権国だ。私はアメリカとなんとか上手くやっていける。いまある覇権国がそのままあればよいではないか」
(リー・クアンユー「未来への提言」)

これはその優れた知性と胆力に裏打ちされたタフネゴシエーターぶりを、各国の政治指導者からマスター(師父)と仰がれているシンガポールのリー・クアンユー元首相の発言です。  
リークアンユーの言葉を台湾の発言と並べてみるとまったく同一の文脈だとわかるはずです。


「日米安保条約は冷戦終結後、アジア太平洋の安全を守る条約となった。条約の継続的な存在は台湾の安全にとって肯定的なものだ、と指摘する」
(台湾・淡江大学国際事務・戦略研究所の王高成教授 )

日米同盟も、その他の2国間同盟や多国間協議制度と密接に連関することで、アジア太平洋地域における安全保障アーキテクチャ(構造)の構成要素として中軸的地位を占めています。 

アジア地域で反米闘争をして米軍を叩き出す運動をしているのは、私が知る限り沖縄の左翼勢力と韓国の親北勢力のふたつにすぎません。
アジア・太平洋地域の国々が「米国よ行くな」と叫んでいる時に、唯一米軍に退去を請願する国境地域の首長も日本にはいます。
それがわが国の沖縄県知事です。
 
いかに他のアジア・太平洋諸国の現状認識とズレているかわかるでしょう。 

そのズレの原因は、沖縄の反基地勢力が米軍の存在を本土政府と沖縄との狭い眼鏡からしか見ていないことにあります。 
常に、沖縄県の不平等を叫び、基地がない沖縄を寄こせと叫ぶ相手は常に本土政府です。  
本土政府だけしか彼らの視野にはありません。
本土政府を責めれば、沖縄の米軍がいなくなるような安易な錯覚にとらわれています。
言い募られた本土政府も、日本だけで決められる話ではないにもかかわらず、なんとかなだめようと復帰から累積10兆円の振興予算を配り続けてきました。 

日米地位協定もこの反米運動のガソリンにされています。
本来は日本国の主権をかけた重要なテーマなのに、まことに残念なことです。

 

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コメント

 片務条約であるから、地位協定が対等なものになっていないということなんですね。双務条約となれば、対等な地位協定にもなりうるということですね。分かるような気がします。日本が世界視野を持ちアメリカとともに協力し歩むということになれるのは、日本が真の意味での独立を成し遂げることが前提になる。そして、独立とは、軍隊があることなんですね。日本人は長い間、アメリカの属国であることを選択してきたという自覚、反省が今必要ですね。

一口に日米地位協定の改定とか言っても、条文を弄ると本命の日米安保条約にも影響を与えるんでしょうね。だから運用の見直しで済ます。
仮に、NATO並みの条件を要求したとき、アメリカからそんなことでは日本防衛に支障をきたすと言われればそこまでです。NATOは自前で防衛する力を持っています。今回のウクライナ危機でもアメリカとNATOは対等なパートナーです。
日本有事の際、日本国の国内法を優先させる条項を設けた時、日本のどの法律を適用させるのか、この法律に引っかかるから米軍は出動できない。
挙句に、日本の防衛に日本の国内法では対応できない。日米安保条約は破棄だとなりかねません。その一歩手前が鳩山総理の時にありました。
民主党の政策は、対等な日米同盟でした。
フィリピンなども、ドゥテルテ大統領が地位協定の破棄をぶち上げましたが結局白紙撤回しています。

 双務条約なんて、多くの日本人はマサカとしか思えないのかも知れません。アメリカが、仮にメキシコと紛争になったとしたら、それはアメリカだけの問題でしょうとしか思わないのが日本人ではないでしょうか? しかし、アメリカ側から見れば、同盟国には応援してもらいたいのが本音でしょう。アメリカの本音にお付き合いするのが同盟国の義務なんだと思いますよ。 

 今台湾・尖閣が危険になったからといって、色々と取りざたされますが、台湾危急のときに米軍が軍隊を出せば、日本も自衛隊を即座に出動させるのは当然でしょうね。率先して台湾防衛戦に加わるべきなんで、これを今の時点で発表してもイイのではないですか。中国を刺激するから公言はしないという理屈でしょうか。

 尖閣は日本の領土であり台湾の安全・独立は日本の核心的利益であるというぐらいは言いたいものです。岸田さんどうぞそのように公言してください。

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