無策のまま電力逼迫の冬に突入
この予測は既に去年10月には出てきましたが、解決の方途がみいだせないままとうとう冬に突入してしまいました。
「この冬の電力需給の見通しについて、経済産業省は26日の有識者会議で示しました。
需給の見通しは、ピーク時の電力需要に対する供給の余力を予備率という数値で見ます。
それによりますと、厳しい冬を想定した場合、来年2月の予備率は、東京電力管内で3.1%、中部や関西、九州など6つのエリアで3.9%と、厳しい状況になります。
7つのエリアが3%台となるのは、過去10年で最も厳しいものとなります。
このほか、東北は4.4%、北海道は7%、沖縄は33.8%となっています。
この冬の電力需給の見通しは、全国7つのエリアでピーク時の需要に対する電力供給の余力を示す数値が3%台しかなく、過去10年間で最も厳しくなる見通しです。
このため、経済産業省は、家庭や企業にできる範囲での省エネを呼びかけることにしています」(NHK2021年10月26日)
「具体的には、発電事業者に対して、保安管理の徹底や、計画外停止の未然防止を要請。火力発電設備を保有する発電事業者に対しても、燃料確保を呼び掛ける。産業界に対しては、省エネや緊急時における柔軟な対応への協力を要請するとともに、家庭など一般需要家に対しては、「無理のない範囲での効率的な電力の使用(省エネ)」への協力を求める」
(日商レポート2021年11月11日)
経産省 冬の電力需給対策強化 過去10年で最も厳しく |日商 Assist Biz
市民語に訳すと経済産業省が言っていることは、電力会社に自分で燃料調達をなんとかしろ、電力が払底したらよその電力会社から融通してもらえ、国民は部屋を温かくするな、ということにすきません。
これでは対策になりません。
確かに惨憺たる状況です。
東京の電力予備率はわずか3.1%。適正率は10%ですから3分の1以下、まさにレッドアラートです。
こんな時期もあろうに、緑の百合子さんは、住宅の新規住宅には全部太陽光を設置しろとやるつもりだとか。
まったく危機感がありません。太陽光なんかに入れ上げたから、日本の電源バランスが崩れたのですよ。
ま、このことはとりあえず置きます。
電力の予備率について簡単に説明します。
電力は生ものですから、発電したそばから使わねばなりません。
電気は常に「同時同量」で運転されています。簡単に言えば、電気を送る量と使った量がピタッと一致せねばならないのです。
これを放置すると、まず発電所の発電タービンの制御ができなくなり、異常回転を起こして破壊され、中継施設も破壊されてしまいます。
発電タービンは中枢部分ですから、ここが破壊された場合、復旧の見通しはまったくたたなくなります。
そのうち良い蓄電装置ができて貯めたり出したりが楽になるでしょうが、今は無理です。
すると困るのは、気まぐれな再生可能エネルギー(再エネ)の諸君らの扱いです。
風が吹けば大量に作ってしまい、吹かねばゼロ、これでは同時同量なんてできるはずがありません。
そこで再エネは火力発電とワンセットで稼働させています。
では、どうするのかといえば、再エネが発電量を減らし始めたらすかさず自動的に火力がその分補って発電を開始するのです。
中部電力
このバトンタッチが崩れると、周波数を60Hzに保てなくなり、最悪の場合、大規模停電が発生する恐れがあります。
この周波数を一定にするために、瞬時瞬時に電源の切り換えをするという器用なことをやっています。
そのためには常に気象変動による需要の急増や発電機のトラブル停止などに対応するため、リザーブ電力を常に8~10%確保しておかないとたいへんなことになります。
これを供給予備率と呼びます。
しかし厳しい季節がふたつあります。空調をガンガン回す夏と冬です。
冬は気温が1℃低下すると、需要が35万kW程度消費電力が増加するそうです。
すると供給予備率は1~2%程度低下し、更に冬場の曇天時には照明需要が80万kW程度増加し、供給予備率が3%程度低下します。
中部電力
前述したように適正予備率は8~10%ですが、下図の予備率推移を見ると今年は例年の半分前後しか予備率がありません。
実は電力は昨冬も逼迫しています。
去年は需要に追いつかない地域に対して別の地域から送電する「融通指示」は1か月で200回を超えています。
それでも去年はまだましで、だいたい6%台の予備率を持っていたのです。
それが今年はその半分ですから、どのようなことになるのか目に見えています。
※冬季高需要期(2月)の最大需要発生時の予備率見通しの推移
電力需給検証報告書 日商レポート
この予備率払底の最大の原因は原油価格の高騰、これに尽きます。
下図のグラフをご覧下さい。もう馬鹿馬鹿しいほどの原油価格の上昇です。
WTIという国際原油市場価格指標で80ドルを突破する勢いです。
WTI原油の価格推移(週次)
原因はいくつかありますが、要はOPECとOPECプラス(ロシアなど非加盟の産油国)が、増産に応じなかったからです。
コロナからの復興景気でそれでなくてもエネルギー消費が大きく拡大しているのに、産油国が一斉にオレの国は余計につくらない、と言い出したのです。
それはCOP26に見られるように、化石燃料を悪玉とし、中長期的には2030年代には廃絶するという流れが止まらないからです。
これで原油掘削産業への新規投資はピタリと止まりました。
それはそうですよね。どこに10年後に全部廃止に追い込まれる掘削施設に投資しますか。
つまり電力逼迫の原因は、脱炭素にあったのです。
では原油がダメだとすると、残るはLNGと原子力の二つに絞られてきますね。
え、再エネを伸ばせばいいって。だから言ったでしょう、再エネは火力が予備率を支えているから稼働できるんだって。
火力の保護者がいなくなったら一人立ちできない電源なんですよ、再エネは。
その保護者がグラついているのですから、再エネがこれ以上増えたら支えきれなくなっちゃいます。
ところが頼みの綱であるはずの火力発電は、実は剣が峰に立っていました。
「日本エネルギー経済研究所の小笠原潤一氏は、「再生可能エネルギーが増え、採算の取れない火力発電の休止や廃止が進んでいる」と指摘する。
再生可能エネルギーの発電量にあわせて、火力発電の稼働率を上げたり落としたりすると、発電の効率は悪くなり、採算が取れなくなってしまう。政府の補助制度に支えられた安価な再生可能エネルギーが市場に流れていることもあって、火力発電から手をひく事業者が増えている。
経産省は火力発電について、2016年から2030年までの間に、およそ1853万KW(大型の発電所およそ18基分)供給量が落ちるとしている。転換期ともなる今後数年は、電力逼迫の危機に陥る可能性があるという」
(日テレ1月1日)
菅政権最大の誤りです。
「梶山弘志経済産業相は7月3日、発電効率が低く、二酸化炭素(CO2)を多く排出する旧式の石炭火力発電設備を動かせなくする規制措置を導入する方針を明らかにした。7月中に有識者を集めた会議の場で、具体的な制度設計の検討を開始する。
原子力発電所の再稼働が遅れている現在、石炭火力発電が生み出す発電量は全体の32%を占めている(2018年度実績)。今回やり玉に挙げられた旧式の石炭火力は、その約半分を占める重要な電源だ。
環境性能では劣る反面、設備が簡素であるためメンテナンスが容易で、減価償却が進んでいることもあり、「競争力では非常に優位にあった」(JERA(ジェラ)の奥田久栄常務執行役員)。つまり電力会社にとっては「非効率」ではなくむしろ「高収益」の設備だった。
それだけに、電力各社への衝撃は大きい。虎の子の資産に対して経産省から環境性能の面で“不適格”の烙印が押されたからだ。方針発表後、電力各社には投資家からの問い合わせが相次いだ。
大手電力会社の中でフェードアウト政策の影響を強く受けそうなのが、沖縄電力、北海道電力(北電)、J-POWERといった、非効率な石炭火力発電への依存度の高い会社だ」
(東経2020年7月22日)
これでも日本は、EUのように2050年までにCO2排出ゼロなんて言わずに80%に値切ったり、欧州投資銀行が化石燃料への投資を2021年に禁止したのに対して、日本の国際協力銀行は条件つきで継続してみたり、EUが石炭火力全廃と言う中で、高効率の石炭火力は継続するとしたりいちおう独自色を維持はしているのですが、いかんせん世界はそちらへと一斉に走ってしまいました。
もうお祭りです。私は人為的CO2悪玉説は科学的に怪しいと思っていますが、こうなっては世界は止まりません。
主要国の発電電力量の電源構成 2015年
上図のエネルギー構成比率で黄色が石炭です。
日本の石炭依存率は3割、中国が7割、米国で3割、英国が2割、ドイツなど4割です。
石炭依存度が少ないのは原子力大国のフランスくらいなものですから、これを2050年までに全廃しようというのですから、そうとうにイっちゃっていると思います。
人類というのは理念ひとつでここまで自分の首を占められるのですね。
こうして先行きを悲観した産油国は増産を拒否し、原油高は半永久的に続く可能性が出てきた中で起きたのが、ロシアのウクライナ侵略の動きでした。
これでヨーロッパに供給されているロシア産LNGの先行きが一気に不透明になってしまいました。
で、EUは今頃になって原子力もESG(環境・社会・ガバナンス)なんだよなーと、メルケルが聞いたら(聞いてるでしょうが)激怒するようなことを言い始めたわけですが、これは別の機会に。
というわけで、原油もダメ、石炭もダメ、原子力はズタボロ、その上LNGも危ないというまさに八方塞がりの状況が、現在のエネルギー事情です。
とりあえず、この冬の逼迫に備えて、政府は休止している火力発電所の再稼働を促すなどの対策を行っています。
例えば、老朽化により長期計画停止をしていた姉崎火力発電所5号機は、1月から2月に期間限定で運転を再開。修繕をしながら、再稼働に備えています。
今年の冬は綱渡りです。
これは始まったばかりにすぎません。
毎年、夏冬になるたびに電力は底を尽き、原油価格の上昇は、あらゆるものの価格を押し上げていきます。
民は苦しみ、ESGに寄生する投資家ばかりがカネを懐にします。
グレタさん、これがきみが描いた美しい脱炭素の現実です。
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なんだかデータにだけはやけに強いお方のようだけど、やばいデータだけを拾い出しているということはないのでしょうか。
エネルギーが逼迫していることはよくわかりましたが、あなたの説では化石燃料を使い続けて大丈夫ということなのですね。
かってのソ連は、そのまま行けば崩壊するのがわかっていたのに、経済を無視して、見栄を張るような無理な政策を続け、けっきょく崩壊しました。
化石燃料を使い続けるというのは、当時のソ連と同じことのように感じるのですが、あなたはそんなことはないというわけですか。
いまの電力危機は、あなただけがわかっていることではないでしょう。
政治家や電力会社の幹部にもわかっているはずで、それなのにどうして戦時体制のような強制的な危機管理を始めないのでしょうか。
考えてみると人類は核戦争の危機、人口爆発の危機、そしてあなたのいうエネルギー危機と、危機と無縁でいられた時期は多くなく、いつでも綱渡りみたいなものだったと思います。
だから無視していいというつもりはありませんが、危機だけを強調するのもどうかと思います。
とりあえずこの冬を乗り切れるかどうか、あるいは北朝鮮のようなひじょうに切羽詰まった電力使用規制が宣言されるのか、4月まで様子を見ることにしましょう。
それまであなたがここに書いたことを忘れはしません。
ほんとうはもっと先まであなたの主張を見極めたいのですが、つまり地球温暖化は放っておいていいのかどうか、しかしわたしはそれまで生きていられそうもないので、そちらを見極めるのはわたしたちの子供の世代ということになるでしょう。
あなたは子供たちにどうどうと、CO2は危険なものではないと説明するわけですね。
投稿: 酔いどれ李白 | 2022年1月 5日 (水) 08時52分
うわあ、これまた勝手に断定的な解釈ばかりして冷笑するという変なのが来ましたね。
異論を述べるのはいいですけど、ここまで曲解して決めつけるというまるで昔からのサヨクのセクトの伝統芸みたいなのは久々に見ました。おー、怖い怖い。。
投稿: 山形 | 2022年1月 5日 (水) 14時28分
地球温暖化だとか、CO2が危険だとか、真顔で堂々と主張する人を発見しました。
投稿: 無能 | 2022年1月 5日 (水) 16時44分
物事は短期と長期に分けて考える必要があるでしょう。
今年の冬を越せない者に、子供の世代を心配する余裕はありませんので。
ただ、天然ガス相場が2014ソチ五輪の前後で急騰・急落したことに鑑みれば、相場というのはそういうものだという割り切りも必要です。今困窮している人達には手助けも必要と思いますが、あまり大々的にやってはヘッジファンドの思う壺です。
投稿: プー | 2022年1月 5日 (水) 17時36分
電力のことなど全然詳しくありませんが、なんでそこでソ連が出てきますかね?石油にせよ石炭にせよ現代の日本の技術とは全然比較にならんでしょうに。SDGsうんたらは先進国の名目上の都合ばかりで発展途上国の現状を無視しているように見えますね。
石炭はとにかく使うな!って言われたって、発展途上国でって電力必要なんだからってことで旧式のヤツでも止めないでしょう。だったら、最高のエネルギー効率を誇り(CO2がホントにそうかはおいといて)温暖化ガスの排出も少ない日本の石炭火力を輸出することも発展途上国のために考えてもいいのでは。その方が現実的に環境に優しいように思えますが。
EUも原子力見直し機運が高まっているし、再生可能エネルギーの割合を増やすことは理想として、現状とのバランスの問題ではないですか。大雪で太陽光パネルがあちこちで壊れて危険な粗大ゴミ化してるみたいですね。
投稿: クラッシャー | 2022年1月 5日 (水) 18時47分
大きく出ますが、日本の諸問題の根本には、霞が関という東大出のキャリア
様が入って天下りするまでそのままエライ(私達の選んだセンセイ方は選挙の
プロだけど専門知識はまったく頼りない)地位のまま居座っているということが
あります。民間や学府との出入りがほとんど無く、世間知らずな省内の蛙の
大将のままなので、モノの了見が非常に狭い馬鹿カンリョーになっているんで
すわ。
さらに、その視野狭窄な馬鹿カンリョーが省のトップにいて、そんな省がタテ割
りになって行政機構が作られているという、「だ、大丈夫なんか?」レベルの
硬直した組織です。もう旧陸軍さん旧海軍さんやらがいっぱい。これで、現在
起きている諸問題に迅速に対応しろと言ってもムリだし、ヘタに圧力をかける
と自身の無能さを顧みず、逆襲に合いますわ。人数では永田町は霞が関には
かないませんし、選挙に全能力を使い果たしたセンセイ方の頼るシンクタンク
と言えば、霞が関しかありませんから。
以前の記事でも、コロナワクチンの認可や購入手配などガースーが音頭を
取らずに厚生官僚にまかせていたらドえらい事になっていた、とありました
が、今回記事のエネルギーについても同根ですわ。テメエの領域だけは水も
漏らさない鉄壁の守り(事ナカレ・不作為)で固めるけど、全体のデザインは知
らんぷり。補助金づけ再生エネルギーで、放射能コワイで原発止めて、新型
火力発電に投資するのはモッタイナイ、脱炭素で国際的な孤立はしたくない、
なんて政府内の都合を全て聞いていたら、電力会社や一般国民、特に貧しい
庶民にシワ寄せが来るのは、あたりきしゃりきのこんこんちきですわ。
無能官僚の解雇(更迭じゃなくてクビ!)を可能にして、民間や学府からも広い
専門知識をもった優れた人材を雇うことが出来るようにしたいですわ。財務省
もそうだし。岸田さん、アンタは国民の代表であって省庁のポチじゃないんだよ、
しっかりしとくれよ。
投稿: アホンダラ1号 | 2022年1月 6日 (木) 00時56分