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2022年2月

2022年2月28日 (月)

ウクライナ軍が健闘するほどプーチンの首は締まる

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プーチンという男は、冷酷なまでの冷徹さが信条だったはずですが、おそらく彼にとってこの数日間は煉獄の炎であぶられているような気分だったはずです。
脅せば引っ込むと思っていたウクライナは、最後まで抵抗を止めず、小指一本で倒せると思っていた小国の軍隊から思わぬ強い抵抗を受け、戦車は燃える、ヘリは堕ちる、指揮官まで捕虜になる、弾道ミサイルをウクライナの高層アパートに打ち込んでしまう、病院にはクラスター爆弾を落とす。
そして、一番恐れていたはずの補給までもが滞り始めました。

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各種メディアの戦況分析を整理すれば

・キエフは先遣部隊が一部突入したものの制圧には遠い。
・北部からの進攻は滞っており、都市部の制圧は部分的。
・キエフ攻めのロシア軍主力は30㎞近郊で停止したまま。
・激戦はキエフとハリコフ。突入したものの両都市共に未制圧。
・唯一順調にロシア軍が進撃できたのは、クリミアからの南部からのものだけ。
・ウクライナは緒戦で制空権を奪われたが、歩兵携帯式対空ミサイルが活躍して、露ヘリ部隊に打撃。
・ウクライナ空軍の戦闘機と小型対空ミサイルが残存しており、ロシア軍の空からの偵察を難しくさせている。
・ロシア軍は、兵站線を寸断されて、一部で燃料、弾薬が不足が発生している。
・ウクライナ軍はロシア軍後方に潜入し、補給線攻撃を強化している。
・ロシア軍は、1日で250発以上のミサイル発射。大半はSRBM(短距離弾道ミサイル)のみ。
・ロシア軍、アゾフ海からマリウポリ西部に上陸作戦。4隻の揚陸艦を使用。
・ウクライナ市民が各地でロシア兵を詰問している。
・ロシア国内で大規模な反戦集会が開かれて、多くの逮捕者が出た。
・プーチンはSNS規制を始めた。
・ロシア兵の士気は低下。
・ベラルーシ-ウクライナ国境で停戦交渉か?
・プーチン、核抑止部隊に警戒体制。

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https://www.bbc.com/japanese/60542869

ロシア軍の目論見は、短期決戦で首都キエフ、第2の都市ハリコフを制圧し、ゼレンスキー政権を拘束し、親露政権を樹立することにあったはずです。
時間が立てば、ロシア対応がバラバラだった西側は立ち直り、あらかじめ合意されていた経済金融制裁を開始します。
したがってプーチンは、西側が立ち直るまでの数日間、可能ならば48時間以内にウクライナ心臓部を制圧しなければならなかったはずでした。
これに失敗したロシアからは、もはや勝機は去りました。
プーチンが今出来ることは、キエフにロシア国旗を立てて格好をつけ、ウクライナと有利な条件で和平を結ぶことくらいですが、それが怪しい。

おそらくプーチンの思惑はこうだったはずです。
圧倒的な兵力を見せつけて威嚇すれば、ウクライナ人は戦意を喪失して言うことを聞くだろう。
それでも言うことを聞かなければ、東部に攻め込んで見せ、同時に首都キエフを攻撃すればアフガニスタン政府軍のよう散を乱して投降してくるだろう。
東部2州を完全に掌握し、ゼレンスキーは国外逃亡、キエフの街路にはロシア軍を歓迎するウクライナ国民がロシア戦車に手を振るだろう、チャンチャン♪

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非道なプーチン大統領、ウクライナ大統領に〝斬首危機〟 首都・キエフは「戦時状態」 ゼレンスキー氏「独立と国家を守るためにここにとどまる」 国連は無力- zakzak

ところが開けてびっくり。ウクライナ人は祖国防衛に立ち上がってしまい、頑強な抵抗を示してロシア軍のほうが大損害を被ってしまいました。
どうしてこんな無意味な戦争でロシア軍が消耗するのかと軍はクレムリンに問い詰め、プーチンはこのこの無能どもめがと罵り、一部報道では軍の高官がプーチンに更迭されたようです。

いまやキエフを力攻めしようとすれば、一区画一区画を市街戦で奪って行かねばなりません。
互いに多くの死傷者が出るはずです。それも世界の目の前で。

世界のウクライナを支援する声は大きくなり、かの薄情者のドイツすら支援にまわることを宣言しました。
ドイツは他国の武器援助すら妨害し、「枕」を5千個送ることにしていましたが、世界がウクライナ支持で一枚になったことに逆らえず、とうとう180度方針転換を遂げました。

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「【パリ=三井美奈】ドイツのショルツ首相は26日、ウクライナに対戦車兵器1000基、携帯型地対空ミサイル「スティンガー」500基を供与すると発表した。これまではウクライナへの武器供与を拒否してきたが、方針を転換した。
ショルツ氏は、「ロシアの侵攻が転機になった。露軍に対するウクライナの自衛支援は、われわれの責務」とする声明を出した。
ドイツはこれまで、「紛争地には殺傷兵器を送らない」として、ウクライナへの軍事支援は自衛用ヘルメットの供与にとどめていた。発表を前に26日、ベルリンを訪れたポーランド、リトアニア両国首脳は、ショルツ氏に対し、ウクライナに対する武器支援を強く求めていた。
ドイツは26日、国際資金決済網である国際銀行間通信協会(SWIFT)のネットワークからロシアを排除する金融制裁にも、限定的に応じる姿勢を見せた。ベーアボック外相が、「SWIFT排除による巻き添え被害をどう抑えるかを検討中」だと声明を出した。SWIFT排除は、ロシアが石油やガス輸出で得た外貨送金を遮断する手段。25日の欧州連合(EU)外相理事会で、対露追加制裁の一つとして検討されたが、ロシア産ガスに依存するドイツが難色を示し、見送られた」(産経2月27日)
ドイツ一転、ウクライナに武器支援 露のSWIFT排除にも前向き - 産経ニュース (sankei.com)

ロシア軍が今各地で苦しめられている原因の一つは、このウクライナ軍が使う歩兵用対戦車ミサイルや携行対空ミサイルです。
これらの強力な対抗兵器のために、すでにロシア軍戦車とヘリは大きな損害をだしています。

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ウクライナ内戦 破壊された街にたたずむ戦車の残骸(画像集) | ハフポスト (huffingtonpost.jp)

同時期に、米国は大量の武器援助を与えることを発表しました。

「アメリカのブリンケン国務長官は26日に声明を出し、ウクライナに対して最大3億5000万ドル、日本円にしておよそ400億円の追加の軍事支援を行うと発表しました。
声明では、ウクライナ軍がロシア側の装甲車両や軍用機などの脅威に対応するため殺傷力のある防衛兵器を供与するとしていて、アメリカ国防総省の高官は記者団に対し、供与される兵器には対戦車ミサイル「ジャベリン」も含まれることを明らかにしました。
「ジャベリン」は戦車などの装甲を貫通する強力なミサイルを標的に向けて自動で誘導する精密兵器で、アメリカ政府はウクライナの防衛力を強化するためだとして、これまでも供与してきました。
ウクライナ軍は「ジャベリン」で破壊したとするロシア軍の戦車の写真をSNS上に公開していて、アメリカに対して追加の供与を求めてきました」
(NHK2月27日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220227/k10013503351000.html

オーストラリアもこれに追随しています。
プーチン、これは痛い。
世界世論の潮目が変わった結果、大量の西側の対空ミサイルと対戦車ミサイルがウクライナの手に渡ることでしょう。
それでなくても、ロシア軍はすでに供与されているジャンベリンの前にブリキの戦車のように撃ち抜かれており、ウクライナ軍はすでにハリコフ攻防戦だけで100両ものロシア軍戦車を葬ったと発表しています。
支援はすでにポーランド国境からウクライナ西部に入る陸路で運搬されているようです。

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енеральний штаб ЗСУ NATOの補給部隊 航空万能論様より引用

まさに時間との戦いですが、非常に早い時期に、これらの西側支援武器はウクライナ軍の手に入るだろうと思われます

そもそも兵站に支障がでるという事態は、ロシアの戦争計画がいかに杜撰だったかを物語っています。

「ウクライナ侵攻が短期間で決着するとロシアは予想していたため「十分な補給計画を用意していなかった可能性が高く、もっと燃料補給や兵站維持に戦力を割くべきだった」と高官は指摘しており、このような問題が重なり「首都キエフの占領に失敗している」との見方を示したが、依然として両軍の戦力差は歴然なので一瞬で戦況が変化するとも警告した」
(航空万能論2月27日)
https://grandfleet.info/us-related/u-s-department-of-defense-ukrainian-armys-air-defense-capability-is-higher-than-u-s-expected/

兵站がアップアップとは。ロシア軍は近代戦を知らんのか。
まるで大半末期のドイツの「バルジの戦い」を再演しているようなものです。
戦車ばかり増やしてもダメ、それに食わせる燃料がなければ戦車はただの鉄の箱です。
先日書いてきているように、ロシア軍はもともと能力的に見て140㎞ていどの補給線を維持する力しかもっていない軍隊だったにもかかわらず、他国領土に深く踏み込ゆという愚行をしたとうぜんの報いです。
これで西部にまで押し入って全土制圧など夢のまた夢。

このようにロシアにとって思わぬ展開となりました。
ロシア軍は20万もの大軍を効果的に動かせていません。
思えばこのような大規模な地上軍進攻は、ロシア軍にとって初めての経験なのです。
クリミア進攻は特殊部隊を使った限定的なものであり、シリア介入は空軍だけでした。

緒戦で思わぬ停滞を演じたロシア軍はいっそう苦しんでいるようです。
キエフはまだ頑強に持ちこたえており、ロシア国内では反プーチンデモが頻発し、ウクライナ側報道では兵士がウクライナ出兵を拒否したと伝えています。

さてさて、高見の見物をしていた中国はつい先日までこんなことをのたもうていました。

「投稿で薛総領事は「弱い人は絶対に強い人にけんかを売るような愚かな行いをしてはいけない。仮に強い人が後ろに立って応援すると約束してくれてもだ」と主張しました」
(テレ朝2月27日)

弱い国は強国に従っていればよいのだ、というならず者国家らしい言いぐさです。
これは台湾防衛を日本の防衛に重ね合わせたわが国への脅迫ですが、このウクライナの顛末を見ても同じことがいえるのかどうか、もう一回ツイートしてほしいものです。

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ウクライナの独立と平和をお祈りします。

 

2022年2月27日 (日)

日曜写真館 夕焼うつくしく今日一日はつつましく

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 また一日がをはるとしてすこし夕焼けて 種田山頭火 

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しぐるるや夕焼たばしる河口港 角川源義

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ほどよう御飯が炊けて夕焼ける 種田山頭火 

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さぶい夕焼である金銭(かね)借りにゆく 富澤赤黄男

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たむろして金の襤褸たち夕焼中 伊丹三樹彦

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夕焼ふか~追へども去らぬ黒き鳥かな 種田山頭火

2022年2月26日 (土)

ウクライナ軍奮闘、キエフを巡る戦い

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首都キエフが陥落の危機、ないしは陥落したかもしれません。

「CNN) ベラルーシからウクライナに侵入したロシア軍の機械化部隊が、ウクライナ首都キエフから20マイル(約32キロ)の距離にいると、米政権当局者が下院議員へのブリーフィングで伝えたことがわかった。2人の情報筋が明らかにした。
当局者は、ロシアからウクライナに入った別のロシアの部隊はもう少し離れた距離にいるとも説明。どちらもキエフに向かって進軍していて、キエフの包囲を目的とし、ウクライナ政府の転覆を図る狙いもありうるとしている」(CNN2月24日)

また22㎞まで接近しているという情報もあり、ウクライナ軍参謀本部は25日午前6時の公式発表で、主にDymer地区とIvankiv地区の防衛線でウクライナ軍は抵抗を継続しているとしています。

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ウクライナ軍は、テテリヴ川を防衛ラインにして防衛戦闘中ですが、22㎞という距離はいったん防衛線が破られた場合、数時間でキエフに突入される至近距離です。
また上空にはロシア軍のヘリが乱舞している状況で、ウクライナ軍は陸上と空中からの攻撃にさらされています。

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AP

ロシア軍は、首都キエフを包囲するため、北のドニエプル川上流のベラルーシ方面から二手に分かれ侵攻を行っています。
一方、南のクリミア半島からもキエフ包囲のためにドニエプル川を渡ってヘルソンを占拠しましたが、ウクライナ軍はこの河にかかる橋を奪取し、ここに防衛線を築くことに成功したようです。

ロシア軍空挺部隊がいったん占拠したとされたゴストメル空港を奪還したとウクライナ総参謀本部が発表しました。
この空港を奪われると、空路で大型輸送機で増援部隊や武器弾薬を送られてしまうために、ここが戦闘の山場のひとつになっています。
ウクライナ軍は、ロシア軍空挺という精鋭相手に、奪い奪われるという激戦を展開しているようで、多勢に無勢をものともしないその健闘ぶりに頭が下がります。
ロシア軍はウクライナ軍を排除したと発表していますが、よくわかっていません。

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ロシアが南部都市・軍用空港を制圧、チェルノブイリ原発も管理下に…137人死亡(読売新聞オンライン) - Yahoo!ニュース

ロシア軍はウクライナ軍の予想を上回る抵抗に手間取っており、彼らの戦争計画ではすでにキエフに入城していなければならないはずです。

「[ワシントン 25日 ロイター] - 米国防総省高官は25日、ロシアはウクライナ侵攻にあたり、首都キエフへの進撃を含め、想定より大きな抵抗を受けているとし、勢いが一部失われているように見えるとの認識を示した。
24日にウクライナ侵攻を開始したロシア軍は25日早朝に攻撃を再開し、首都キエフはロケット攻撃を受けた。キエフでは住民が地下シェルターなどに避難する中、当局は住民に対し首都防衛のために火炎瓶を用意するよう呼び掛けるなど、事態は緊迫化している。
ただ米国防総省高官は匿名を条件に「ウクライナはロシアの想定を超えて抵抗しているとわれわれは見ている」と述べ、ウクライナ軍の指揮統制は現時点で影響を受けていないと指摘。「ロシア軍は、ロシアが可能と想定していたほどのスピードでキエフに迫っていない」と述べた。
その上で、ロシアは現時点でウクライナ上空の制空権は掌握していないとし、「全般的にロシア軍は勢いをやや失っている」と語った。 
ただ、ロシアはウクライナ周辺に配置した軍の大部分をまだ動員していないとし、攻撃に専念しているのは3分の1程度にすぎないと指摘。ウクライナ東部ドネツク州のマリウポリ西方の地域に対し、海と陸からの攻撃が実施される兆候も出ていると述べた。
また、米国はこれまでに200発を超えるミサイルの発射を確認したとし、これまでのところロシア軍の攻撃の大部分は軍事施設を標的としているものの、一部のミサイルは民間人が住む住宅地に着地したと指摘。過去24時間で数百人の米国人がウクライナから退避したことも明らかにした」
(ロイター2月26日)
ロシア、ウクライナ侵攻で想定以上の抵抗 一部失速=米国防総省高官(ロイター) - Yahoo!ニュース

この遅滞の原因は、もちろん祖国防衛戦を戦うウクライナ軍の士気が高いということもありますか、もうひとつはロシア軍が「平和維持軍」という偽善的看板をかけて進攻したためにいわば手加減しているところがあるからです。
たとえば、本来ならば、最初の攻撃目標となるはずのライフライン(電気・水道)は破壊していませんし、市民への被害をできるだけ少なくしようとしていることは確かなようです。
どこまでこの「紳士的対応」がつづくのかわかりませんが、開戦数日間の段階ではまだ保たれているようです。
これはプーチンの狙いが、早期のキエフ制圧→ゼレンスキー拘束→平和交渉→親露新政権樹立にあるからです。

このような地上部隊とは別に、スペツナズなどの特殊部隊はとうにキエフに浸透していなければならないはずで、彼らの目的はゼレンスキー大統領の逮捕、ないしは暗殺です。
これは「蛇頭作戦」(スネークヘッド作戦)と呼ばれ、敵の指導者、軍の中枢を殺害することで無力化しようとするものです。
中国が台湾に対して準備しているのもこれで、米国も北朝鮮に対して準備したことがあります。
今回、ロシアはゼレンスキーをできるならば無傷で拉致し、公開裁判にかけて処刑することを狙っていると思われます。
プーチンは演説で、東ウクライナの「ロシア人迫害の責任者を逮捕して処刑する」と言っていますから、本気でゼレンスキーの生命を狙っているはずです。

またウクライナ国内にはロシアのスパイ網が張りめぐらされており、クリミア進攻ではこれが威力を発揮し、現地部隊が司令官ごと寝返る事態が発生しました。
ウクライナはこれに懲りて、以後厳しいスパイ狩りをしてきていますが、いまだ多くのスパイが存在しており、破壊工作や偽旗作戦に従事していると考えられています。

「(クリミア進攻以降)ウクライナでは対諜報(ちょうほう)捜査を通じて、ロシア政府とつながりのある人物が粛清されたほか、ドンバスで親ロ派武装勢力と戦った戦闘経験者を昇進させるなどして、ロシアスパイの排除が進んだ。ウクライナ当局者が明らかにした。
 それでも、ウクライナ政府関係者は、なお大きな障害が立ちはだかっていると警鐘を鳴らす。ウクライナの国家安全保障担当アドバイザー、オレクシー・ダニロフ氏は「ウクライナ国内に張りめぐらされたロシアのスパイ網はかなり昔に構築されたものだ。
まだすべてを根絶できておらず、やるべき仕事が残っている」と話す。「ロシア中枢からスパイが託された任務はシンプルだ。とにかく破壊すること。国家としてわれわれを破壊すること以外の任務はない」
(ウォールストリートジャーナル2月23日)
ロシアの秘密兵器:ウクライナ当局に潜むスパイ網 - WSJ

 この特殊部隊やスパイらの工作が成功すれば、私たちは突然ゼレンスキーの逮捕、あるいは死亡のロシア発表を聞くことになるはずです。

「ウクライナの当局者は、ロシアがウクライナ首脳部を打倒し、親ロシア派政権の樹立を計画しているとの考えを示す。
ウクライナのゼレンスキー大統領はビデオメッセージで、敵の破壊工作部隊がキエフに侵入したとの認識を示し、自身がその第1の標的、同氏の家族が第2の標的だと語った。
ゼレンスキー氏は「彼らは国家元首を倒すことで政治的にウクライナを破壊するのが目的だ」と述べ、自身は政府区画内にとどまっていると述べた」
(CNN2月25日)

たぶん脱出経路を確保しているのでしょうが、ご無事を祈ります。
ゼレンスキーが拘束された場合、人質として降伏を強要される可能性もあり、絶対に捕まってはなりません。
国民と共にキエフに残り続けるという言やよしですが、あなただけの生命ではないので外国に脱出して亡命ウクライナ政府として戦って下さい。
プーチンはヤヌコビッチを連れ帰るでしょうが、彼の政権に正統性を与えないためには国外の正統政権が必要です。

いずれにしても、この数日間がヤマになります。
ウクライナには初めから圧倒的兵力差の前に勝機はありませんから、持続して継戦すること自体が勝利です。
その最大の山場がキエフ攻防です。
同じ陥落するにしてもどこまで持ちこたえられるのか、即座に落城するのか、持ちこたえてロシア軍に出血を強いるのか、それがこの戦いを見ている米国とヨーロッパの関心事のはずです。

キエフが陥落すれば、あとは事実上の掃討戦に入ります。
ロシア軍が西部にまで深追いするのか、保証占領をどこまでのエリアに定めるのか、ウクライナ政権をどのように処遇するのか、それは来週の半ばまでに見えてくるはずです。

 

2022年2月25日 (金)

ロシア軍、3方面から進攻開始

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状況を結論からいえば、限定攻撃ではなく、全面攻撃の模様です。

「ブルームバーグ) ウクライナの首都キエフは数時間以内に陥落してロシア軍に掌握される可能性があると、西側情報当局の高官が述べた。ウクライナの防空能力は事実上、無力化されたという。
同高官によれば、ロシア軍の部隊はドニエプル川の両岸からキエフ制圧に向かっている。既に数カ所の飛行場が同軍の手に落ち、さらなる部隊の派遣に利用可能だ。
同高官はロシアの軍事行動について、これまでのところウクライナの東部と南部、中央部に集中しているものの、プーチン大統領は全土掌握を目指していると考えられると指摘。最終的には現政権の転覆とかいらい政権樹立を狙っているとみられる。
ウクライナのゼレンスキー大統領は国の防衛に努めると言明した上で、自身と政権はキエフにとどまると述べた。事情に詳しい高官によると、ロシアが人口300万人のキエフを掌握すれば市民に激しい暴力が加えられる可能性がある。
米国防総省当局者が記者団に明らかにしたことろでは、ロシアの攻撃第一波には重・中型爆撃機75機とさまざまな種類のミサイル100発余りが使われたという」
(ブルームバーク2月25日)
首都キエフ、ロシア軍の攻撃で数時間内に陥落も-西側情報当局(Bloomberg) - Yahoo!ニュース 

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出典:読売新聞オンライン
軍事情勢に詳しい航空万能論様から戦況を引用させていただきます。
「南部の都市ヘルソン、北東部の国境沿いにある複数の村や町、チェルノブイリ原子力発電所、首都キエフから約10kmの地点にあるホストーメリ空港(ゴストメル空港)がロシア軍の手に落ちたことが確認済みで、ドンバス方面のロシア軍はクリミアを目指しマリウポリに向けて侵攻中だが郊外の防衛ラインで食い止めているとウクライナ国防省は発表、ただSNS上でマリウポリにロシア軍が既に入っていると報告されている。
首都キエフに最も近いホストーメリ空港を24日午後、34機のヘリで強襲したロシア軍空挺部隊は複数の攻撃ヘリに援護され現在も同空港を維持、ウクライナ軍が奪還を試みて激しい戦闘になっているらしい。
ヘルソンを占拠したロシア軍はドニエプル川に設けられたカホフカ水力発電所を奪取した後、ドニエプル川沿いに北へ進軍してサポリージャへ向かっていると報じられている。
北東部のスイムやハリコフでは対戦車ミサイル「ジャベリン」を使用してロシア軍のT-72を最低でも15輌破壊したとウ北北東部のスイムやハリコフでは対戦車ミサイル「ジャベリン」を使用してロシア軍のT-72を最低でも15輌破壊したとウクライナ軍が発表しており、都市部への侵攻を郊外(ドネツ川い合流するオスコル川の橋を爆破したらしい)で食い止めているのだろう。
因みにドネツクとルガンスクでの戦いは阻止線を突破するため何度もロシア軍が攻撃を試みているが、その都度反撃にあって失敗しているとウクライナ軍が発表している。東部のスイムやハリコフでは対戦車ミサイル「ジャベリン」を使用してロシア軍のT-72を最低でも15輌破壊したとウクライナ軍が発表しており、都市部への侵攻を郊外(ドネツ川い合流するオスコル川の橋を爆破したらしい)で食い止めているのだろう」(航空万能論2月25日)
侵攻初日を終えた現在の戦況、ウクライナ軍も対戦車ミサイルで反撃 (grandfleet.info)
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出典:Сухопутні війська ЗС України ジャベリンで破壊されたT-72らしい  
さて西側軍事筋の予想どおり3方面からの同時進攻です。
要点のみを箇条書きで整理しておきます。状況は極めて流動的、かつ多方面で同時進行しているので、漏れや誤りもある可能性がありますのでお含みおき下さい。
①24日、プーチン演説で、軍事作戦の開始とウクライナに抵抗を止め降伏することを勧告。攻撃はドネツク州境、ルンバス州境まで。
②キエフ等に弾道ミサイルと巡航ミサイルの攻撃始まる。
③ウクライナへサイバー攻撃。政府関係で通信障害発生。
④ウクライナのクレバ外相、あらゆる国へ支援と制裁を呼びかける。
⑤オデッサに着上陸したとの未確認情報。ウクライナ参謀本部は否定。
⑥第2の都市ハリコフに対して多連装ロケットによる攻撃始まる。
⑦ロシア軍の無線封鎖始まる。
⑧ウクライナ東部「共和国」にロシア軍コンボイと、戦車、歩兵戦闘車、多連装ロケットランチャー、補充用の予備ロケットなどが大量に搬入される目撃多数。
⑨東部では国境線から5㎞に待機。
⑩ベラルーシのロシア軍の動き活発。ベラルーシ軍が協力しているという中東系情報。ベラルーシから侵入。
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⑪クリミアで不穏な動き。ロシア側検問所を封鎖。国内へ進攻開始。
⑫ウクライナ非常事態宣言。一部地域には戒厳令発令。ハリコフ空港閉鎖。
⑬ロシア、各地のウクライナ空軍施設を攻撃と発表。キエフ空港攻撃される。
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⑭国連総会が開催され、「ウクライナの一時占領地域の状況について」について初会合。
⑮ロシア支持は全加盟国中唯一シリアだけ。中国は支持せず。後、王毅が支持声明。ロシア完全に孤立。されど常任理事会は開催されず。
⑯米政府、ウクライナのゼレンスキーに対し、ロシア軍が48時間以内に全面侵攻する可能性を伝える。
⑰西側の制裁始まる。
⑱チェルノブイリを露軍占領。
ロシア軍は、待機から3方面からの進攻に移りました。
おそらく今後は、米国戦略研究所(CSIS)のシナリオに近い線で進攻すると考えられます。
ロイター記事を紹介しておきます。
アングル:緊迫するロシアとウクライナ、グラフィックで見る現状と経緯 | ロイター (reuters.com)
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ウクライナ軍

[シナリオ1:東部からの攻撃]
CSISによれば、ロシアは侵攻後、ウクライナ領のドニエプル川東岸全域を占領し、ウクライナ工業の中心である東部を奪いつつも、ウクライナを「経済的に存続可能な状態」として残す可能性がある。

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[シナリオ2:西部まで侵攻し全面占領]
ロシアがウクライナ東部で成功を収め、ロシア国内の戦意が高揚したままであれば、ドニエプル川を越え、農村地帯が広がる西部へと部隊を進める可能性がある。黒海沿岸では、全面的な占領への鍵となるオデッサ及びその港湾施設を占領する必要も出てくる。

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ロイター
[シナリオ3:制海権の確保]
別の選択肢として、ウクライナの主要都市圏での頑強な抵抗を避け、黒海沿岸を攻撃する可能性がある。オデッサを占領すれば、ウクライナは海路への、ひいては国際市場へのアクセスを絶たれ、黒海経由の貿易へのロシアの影響力が高まる。
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ロイター
今後、ロシアとしては短期間でウクライナ全土を制圧する必要があります。
東部だけのは制圧になった場合、西ウクライナに現政権が移って、長期の抵抗態勢になってしまうからです。
その場合、欧米はこれに支援を集中するでしょうし、NATO加盟も遅きに失しますがないわけではありません。
ですから、ロシアは圧倒的優勢な地位を短期で得て、一気に休戦交渉に持ち込む必要があるのです。

一方、西側が制裁の第1弾として、ロシアの主力銀行とプーチン周辺人物、企業への制裁を開始しました。
腰が重かったドイツもノルドストリームを使用をしない方向を打ち出しました。
あくまでもこれはジャブです。
第1弾の制裁メニューでは、ロシアは痛くもかゆくもないはずです。
これはロシアが戦争の財源を確保することを妨害するのが目的ですが、ロシアはこれに備えて外貨を蓄積しており、市場調達の必要は薄いと思われます。
またソブリン債の発行を禁止も、すでに2014年のクリミア侵攻でドル建てでの新規債発行は禁止されており、2019年からは他国通貨建てでも米銀は購入が禁止されていますので、影響は軽微です。
噂されていたSWIFTはまだ発動されていません。

むしろロシアにとって打撃なのは英国のほうです。
英国シティは国際的な金融センターとして君臨していますが、英国金融は英領タックスヘイブン(英領バージン、ケイマン等)を領有していて、これが裏の英国金融の実態です。
ロシアは、米国でのドル建て金融市場へのアクセスを封じられ、さらにこれに英国が連動した場合、プーチン政権の中枢であるオルガルヒのカネの運用する場がなくなります。

プーチンの権力の源泉は、22兆円以上とも言われる膨大な私財ですが、これはオルガルヒに独占的利権を与える見返りで得たものでした。
そしてオルガルヒは、独占利権で得た膨大なカネを、英領バージン諸島などのタックスヘーブンでマネーロンダリングして浄化していたわけです。
このルートが、今回の英国の制裁によって使えなくなった場合、オルガルヒは計り知れない打撃を受けます。
ちなみに、かつてはマネーロンダリングによく使われていたスイス銀行も、米国の圧力で情報開示をしており、ここも逃げ場にはならなくなっています。

どうでもいいかんじですが、岸田首相のロシア経済制裁は最低で、まさにおつきあいです。
①ルガンスク、ドネツクの2つの地域の関係者の査証発給停止と資産凍結
②2地域との輸出入禁止③ロシアによる新たなソブリン債の日本での発行・流通禁止
以上終了。
ロシアは蚊が刺したほどにもかんじないでしょう。
岸田氏はこのような時になってはならない首相のようですが、初めからこの人らにはなにひとつ期待していませんからどうでもいいというかんじです。

おそらく今日中に大きな動きが連続するでしょう。
それにしてもなんという愚かな、なんという馬鹿げた戦争をプーチンは始めたものです。
ドイツのショイブレ財務相は、 現在のウクライナ進攻をしたロシアの動きが、第2次世界大戦前夜のドイツの動きと驚くほど似ていると言っていますが、そのとおりです。
かつての2014年2月のクリミア併合がナチス・ドイツによるズデーデン併合だとすれば、今回の全面進攻はその後のチェコスロバキア解体に重ね合わすことができます。
1938年3月、念願のオーストリア併合を達成したヒトラーは、次の領土的野心をチェコスロバキアに向け、4月には対チェコ作戦(コードネーム"緑の件”)を立案しました。
その時、ヒトラーが軍につけた条件は

①どんな原因もなく、また正当化の余地もないような青天の霹靂的奇襲は拒否。
② 一時的に外交交渉を行い、徐々に事態を先鋭化しつつ戦争に導く。
③戦闘は陸軍と空軍の同時攻撃の必要あり。最初の4日間の軍事行動が政治的にも決定的。もしこの間に軍事上の決定的な成功がなければ、全欧危機に突入するのは確実。
ウィキ

あまりに今回のウクライナ進攻、侵略前のプーチンの対応と酷似していることに驚かされます。
このズデーデン地方のドイツ人はウクライナ東部2州の「ロシア人」と見事に重なります。
そしてドイツはズデーデン地方に大々的な支援を送り、自治運動を展開させます。
同時に「圧迫に苦しむズデーデンのドイツ人」というプロパガンダを拡散しますが、今回プーチンはジェノサイドがあったとまで言っています。 
そして電撃的なズデーデン地方への進攻。
チェンバレンは強く批判しますが、西欧主要国は傍観。
そして後は、ご承知のとおりの世界戦争への道を辿りますが、ヨーロッパ諸国はこの余りに悲惨な教訓を肝に命じているはずだと思いたいものです。

2022年2月24日 (木)

プーチンはロシア帝国の支配した時代に戻りたいようだ

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あたりまえですが、米露首脳会談の前段でされる予定だった米露外相会談が中止となりました。
同じく仏露外相会談も中止です。

「ブリンケン米国務長官は22日、ロシアがウクライナに侵攻したと判断したのを受け、週内に予定していたラブロフ露外相との会談をキャンセルしたと明らかにした。ウクライナへの侵攻がないことが会談の条件だった以上、現時点で会談を行うことは「筋が通らない」とした。ウクライナのクレバ外相との会談後の共同記者会見で語った。
ブリンケン氏は「ロシアは明確に外交(による解決)の道を拒絶した」と指摘。バイデン政権として外交に取り組む用意はあるとしつつ、そのためには「ロシアが行動を改めたことを示す必要がある」と強調した」
(産経2月22日)
ttps://www.sankei.com/article/20220223-HHKHJNXLRRPW3DEG4AQ2UI7ZGM/?335003

ま、当然の対応ですな。
会談とは交渉であり、ロシア人にいわせれば交渉は戦争なのだそうです。
交渉することを約束しておいて、戦争を始めてはシャレになりません。
もはやテーブルでなにかを話す時期ではない、双方共にそう思ったということですが、米国やヨーロッパは激怒しています。
首脳会談と外相会談を約束しておきながらドタキャンどころか、軍事進攻まで始めるような相手と、この時期話しあっても時間の無駄です。

そもそもこんなことを言う男を相手に、平和的交渉など可能でしょうか。

「ロシアはもう長いこと、ウクライナが欧州に接近し、NATOやEUに入ろうとする動きに反発してきた。それがここへきてプーチン氏は、ウクライナは西側の操り人形だと宣言。そもそもウクライナが正規の国家だったことなどないとまで、発言した」
(BBC2月22日)
【解説】 プーチン氏はなぜウクライナへの派兵を命令したのか、何を求めているのか - BBCニュース

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毎日新聞

こんなウクライナを国家としてすら認めない人物を相手にここまで来て交渉が可能でしょうか。
あるいは、プーチンは、つい最近こんなことを書いたことがあります。
ウクライナとロシアは同一の国家だというのです。
プーチンは、『ロシア人民とウクライナの歴史について』という論文でこう書いています。

「ロシア人とウクライナ人は一人、一人の全体であると言いました。これらの言葉は、現在の政治状況に対する一部の結び付きへのオマージュではありません。これは何度も言ってきた私の信念です。(略)
そして、ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人は、ヨーロッパ最大の国家であった古代ラスの相続人です。スラブと広大な空間の他の部族 - ラグガ、ノヴゴロド、プスコフからキエフとチェルニゴフ - 一つの言語(現在は古いロシア語と呼びます)、経済的なつながり、ルリック王朝の王子の力によって団結しました。そして、ロシアのバプテスマの後 - と一つの正統派の信仰。ノヴゴロディアンとキエフの偉大な王子であった聖ウラジーミルの精神的な選択は、今日、主に私たちの親族関係を決定します」
(ウラジミール・プーチン『ロシア人民とウクライナの歴史について』
2021年7月12日原文ロシア語)

ロシアとウクライナはキエフを起源とする、言語、宗教、歴史を共有する「同一の民族」であり、分断されていたのだ、と。
そして現にソ連という形で共に統一された時期もあったにもかかわらず、NATOら西側の悪謀によって分断された。
いやそれどころか本来兄弟であるはずのロシアを攻撃する拠点にさえされてしまった。
これは大きな悲劇であり、修正されるべきではないのか、これが自分の信念だというのです。

文学的修辞がほどこされていますが、プーチンが言っているのはロシア特有の臭みがある大スラブ主義であり、それを具現化しようとすれば現代の国境線などなかったロシア帝国の復権になるだけのことです。

このような観念に凝り固まっている人物とは、まともな交渉にすらならないでしょう。
プーチンがめざすのがロシア帝国支配の時代な以上、現代人とは会話すら成立しません。
そう言っているのは、リンダ・トーマス・グリーンフィールド米国連大使です。

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国連で米国を代表するリンダ・トーマスグリーンフィールド大使 ...

アメリカの国連大使は2022年2月21日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は世界をロシア帝国が君臨していた時代に戻したいと考えていると述べた。
アメリカのリンダ・トーマス・グリーンフィールド国連大使は、ウクライナにおけるロシアの行動を議論するために招集された国連安全保障理事会で上記のような発言をした。プーチン大統領は、ロシアがウクライナの2つの親ロシア地域を独立国家として承認し、軍隊をその地域に派遣すると発表しており、西側諸国からの非難が殺到している」
(ビジネスインサイダー2022年2月22日)
「プーチンは、ロシア帝国が支配した時代に戻ることを望んでいる」国連安保理でアメリカ大使 | Business Insider Japan

まことにそのとおりです。
グリーンフィールド大使が言うとおり、 プーチンによればいまや独立国となっている旧ロシア帝国版図のすべては、ロシアが正当な権利を持つわけです。
国境線の力による変更を禁じた近代国際法など、この前にはまったく無意味です。

「アメリカの国連大使は、プーチンは過去にロシア帝国だったのすべての地域に対して正当な権利を持っていると主張しようとしていると述べた。
彼女は、それにはウクライナ、フィンランド、ベラルーシ、そしてポーランドとトルコの一部などが含まれると述べた」
(ビジネスインサイダー前掲)

中華帝国の復興を目指す習近平と同種のおそるべき復古思想です。
ただし、かつての大帝国だった時ほどの国力はないので、ミニロシア帝国をごく一部で再現してみせるにすぎませんが。

ちなみにトランプはこの間のプーチンを「天才的」と評したそうですが、いかにも彼好みのハッタリで褒めてみせて、ディールに引き込むことを狙ったようです。
トランプは誤解していますが、今のプーチンはディールなどできる相手ではないのです。
ディールが通用するのは、まともな合理的発想ができる相手に対してだけです。

プーチンと長時間会談したことのあるマクロンは、「プーチンの言っていることの大半は歴史修正主義の演説にすぎなかった」と嘆いていました。
プーチンはいまやまともな人格ではありません。
彼の観念は今やロシア帝国の天空を浮遊しているようです。
プーチンが復古主義に凝り固まった力の信奉者である以上、それに見合った対応をするしかありません。
彼が滅亡するのは勝手ですが、世界を引きずりこんではならないのです。

ウクライナ問題は、交渉から制裁、あるいは反撃のフェーズに入りました。

 

2022年2月23日 (水)

しなくていい戦争を始めたプーチン

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「ウクライナ戦争」と呼ばねばならない状況に立ち至りました。

「モスクワ=小野田雄一】ロシアのプーチン大統領は21日、ウクライナ東部の一部を実効支配する親露派武装勢力「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」(ともに自称)を国家承認する大統領令に署名した。署名直後にはロシアと両「共和国」間の協力を定める協定も締結。両地域に軍を派遣し平和維持に当たるよう国防省に命じた。2014年のウクライナ南部クリミア半島併合に続く一方的な「現状変更」であり、ロシアと米欧の対立が先鋭化するのは確実だ」
(産経2月22日)
プーチン大統領がウクライナ親露派を国家承認 派兵命令も - 産経ニュース (sankei.com)

これを受けて議会は派兵を承認しました。

「ロシア連邦議会上院は22日、プーチン大統領が要請した国外へのロシア軍派遣を全会一致で承認した。ウクライナ東部の親ロシア派2地域における平和維持活動に向けた措置で、直ちに発効されるという。
これに先立ち、上院議長はプーチン大統領が22日に国外へのロシア軍派遣を承認するよう上院に要請したと発表していた。
またロシア大統領府(クレムリン)は、プーチン大統領が22日に親ロシア派2地域との友好条約を批准したと発表した。これにより、両地域に軍事基地を建設し、軍隊を配備し、共同の防衛体制構築に合意し、経済統合を強化できるという」
(ロイター2月23日)
ミンスク合意は存在せず、ウクライナ側が放棄=ロシア大統領(ロイター) - Yahoo!ニュース

げんなりするほど古臭い侵略スタイルです。
浸透して呼び水。呼び水で堤防を合法的に国境を乗り越える、前世紀からよく使われた古臭い手法です。
今どきこんな見え透いた侵略方法を取る国は、世界広しといえどロシアしかいないでしょう。

ロシア進攻は米国の煽りだ、ロシアが軍を集結させているのはミンスク合意を遵守させたいからだけだ、といっていた人の顔を拝見したいものです。
こういう識者には当分黙っていていただきたい。

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プーチンが繰り出すヤバい奇策「ロシア軍を使わずウクライナ制圧

笑えるのは、そのプーチン当人がこんなことを宣言していることです。

「ロシアのプーチン大統領は22日、ウクライナ東部の停戦と和平への道筋を示した「ミンスク合意」はもはや存在せず、履行すべきことは何も残っていないと述べた」
(ロイター前掲)

おやおや、プーチンはミンスク合意遵守派の旗頭じゃなかったのですか。
自分の都合に合わせて「もう合意は存在しない」とは、これはまたご都合主義な。
かつて当事者のひとりでありながらミンスク合意に署名していなかったのは、この日が来ることを念頭に置いていたからのようです。

プーチンは、ウクライナ東部2州に「高度な自治権」を持つ事実上の独立国家を作ることを戦略にしてきました。
これは「事実上」でよいのです。ホントの国家にしてしまうと、ミンスク合意を否認することになりますからね。
ところがプーチンにとって誤算だったのは、ロシア下院が圧倒的多数(351人・反対16)で、「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立承認を大統領に求める決議案を可決してしまったことです。

この下院の承認要求議決を呑むと、今までロシアが各種の国際交渉で言ってきたミンスク合意履行要求を自分自身の手で否定することになってしまいます。
だからプーチンは独立国承認にグズついた対応をしてきたのですが、自分が撒いたナショナリズムの炎に自分の尻をあぶられてしまったようです。

とうぜんの対応ですが、EU首脳会議は強い非難を浴びせました。

「EU首脳会議のミシェル常任議長とフォンデアライエン欧州委員長が連名で出した異例の声明は、独立承認を「国際法と、(ウクライナ政府と親ロシア派との紛争解決を目ざす)ミンスク合意への露骨な違反だ」と指摘。「EUはこの違法行為に関わった人物に制裁で応じる」とした」
(朝日2月22日)

これで制裁は決定的となりました。
かくしてプーチンはルビコン河を怯えながら渡るはめになり、ロシアのウクライナに対する長い浸透と侵略の歴史は、とうとうその完成した姿を見せたわけです。

ところでロシアは、ウクライナ東部2州の独立を承認し、「平和維持軍」の軍を送ると発表しました。
「平和維持軍」ですか、悪い冗談のような自称だ。

問題はその後です。
シナリオは3つあります。
プーチンがドネツクとルガンスクの「独立」を承認した文書の法令にはこうあります。

「各種の支援を約束した協定(防衛協力が含まれている)が成立するまで、ロシア軍が当該国の領域で平和維持にあたる」

これをそのまま受け取れば、
シナリオ①、ドネツクとルガンスクへ自称「平和維持軍」を派兵し、以後ドネツクとルガンスクの「独立国」部隊と共同で国境の警備にあたる。
これがもっともミニマムなシナリオです。
するとこの警備の境界が問題となってきます。

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東部停戦のミンスク合意 仏「ウクライナ履行を」:中日新聞

上図をみればわかるように、実は「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」は、ドネツク州、ルガンスク州の半分以下の面積しかないのです。
ミンスク合意ではこの2州と「独立国」との境界を接触線として管理していました。
ここでロシア軍が、この「独立国」の言い分どおり州全体を自国領土だとした場合、ロシア軍は州の境界線まで前進します。
プーチンが「ミンスク合意は無意味だ」といっているので、ありえるシナリオです。
したがってシナリオ②、ロシア軍は州境線までウクライナ軍を排除しながら前進する。

そしてシナリオ③、一切そのような配慮を無視して、全面進攻する。
これは米国とヨーロッパが、よほどなめられている場合の最悪シナリオです。
この場合、南部からは黒海から上陸させた海軍歩兵がクリミア半島から北上し、北からはベラルーシ国境を超えて首都キエフを制圧します。
たぶん数日で戦闘は終了し、ゼレンスキーは亡命し、ヤヌコビッチが戻ってきます。

どのような展開になるのか、現時点では読めません。
ただしロシア軍は、この3つのシナリオすべてに対応しえるだけの強大な軍事力を有しているとは言えます。

すでにドンバスにはロシア軍が進攻したとの情報があります。
かなりの数のロシア特殊部隊は相当数がとうに浸透していて、現地親露勢力と協力して破壊活動をしているはずです。
こういう特殊部隊の多用がロシアの戦法です。
クリミア進攻の時は、参謀本部情報総局(GRU)の特殊部隊「スペツナズ」が、あらかじめクリミアに潜入してハイブリッド戦をしていたことが明らかになっています。

「2014年2月27日、「民兵」を装ったロシアの参謀本部情報総局(GRU)、スペツナズ(特殊任務部隊)所属の秘密部隊、空挺部隊などからなる1万人近くの兵員がウクライナ・クリミア自治区主要都市セバストポリを占拠、民主派首長を排除すると同時に、親露派リーダーを後継者として入れ替えた。この結果、クリミア自治区全体がロシア領に編入された」
(斉藤彰 元読売新聞米国総局長)
バイデン大統領が「ウクライナ」を重大視する4つの理由 プーチンの隠された意図をどうキャッチするのか? WEDGE Infinity(ウェッジ) (ismedia.jp)

下の写真はクリミア進攻時に偶然撮影されたスペツナズと推定される写真ですが、彼らは一般兵が使用しないAR狙撃銃を携行して、ウクライナ海軍基地を制圧しています。
今回も似た方法をとるはずです。

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彼らは、東部2州だけにとどまらず、ウクライナ軍の後方拠点にまで浸透して、降下してきた空挺部隊と連携してウクライナ軍の後方を脅かし、前線を数カ所で突破したロシア軍機甲部隊は共に、ウクライナ軍を包囲殲滅するはずです。
いうまでもなく、激しいサイバー攻撃と偽情報が拡散されるはずです。
日本の中にも買収されたわけでもないでしょうに、ロシアの言うことをおうむ返しする「識者」やジャーナリストが多く生まれるはずですからご注意下さい。

未確認のウクライナ一般人からのツイッターでは、すでに大規模なロシアの軍用トラックのコンボイが侵入しているようです。

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アルジャジーラ

Under excuse of peacekeeping, large convoys of #Russian Army are entering the #Donetsk & #Lugansk in occupied areas of #Donbass and have headed toward the #Ukraine Army positions. pic.twitter.com/mrDyrOFwGs
— Babak Taghvaee – Μπάπακ Τακβαίε – بابک تقوایی (@BabakTaghvaee) February 21, 2022
平和維持活動の名目で、ロシア軍の大規模なコンボイがドンバスの占領地域であるドネツクとルンガスにに入り、ウクライナ軍の拠点に向かっている。
— ババク・タグヴェエ – 2022年2月21日
https://grandfleet.info/russia-related/putin-signs-a-decree-authorizing-the-independence-of-donetsk-and-lugansk/

一方、ウクライナ軍も東部に集結しているという情報があります。
ウクライナ軍の健闘を祈りますが、残念ですが兵力差が質量とも隔絶しているためにまったく勝負になりますまい。

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【それ、根拠あります?】数値で見るロシア軍とウクライナ軍の差 | MOMCOM MEDIA

おそらく本格的進攻を受けた場合、ウクライナは1週間ともたないでしょう。
ゲリラ戦に持ち込んで、伸びきった補給線を破壊するしか方法はありません。

さて先日からなんども言ってきているように、こんな戦争はしなくてよい戦争だったのです。
回避できたことは勿論、そもそもやる意味が薄弱でした。
昨日見てきたように、最大の要求項目であったウクライナ加盟断念ですが、今回の紛争でNATOは加盟させる意志がないことを暴露させてしまっています。
言葉ではNATO諸国は、ウクライナ加盟断念を明言することを避けていますが、今回の一連のNATO首脳はひとこともウクライナの加盟について前向きな言葉を言いませんでした。
2月14日、キエフを訪れたドイツのショルツ首相はウクライナの「同盟への加盟は事実上議題でない。その程度のことをロシア政府が大きな政治問題にしているのは不思議だ」と言い、さらにウクライナのゼレンスキー大統領自身も「NATO加盟はいつ実現するのかわからない夢だ」と表現しました。
NATO諸国は、ロシアと戦ってまでウクライナを加盟させる気はないのです。

そして西側はミンスク合意の履行を落とし所にして、交渉を詰めていたはずです。
今回の2つの「人民共和国」の承認とも絡んでいますので、簡単に説明しておきます。

ミンスク合意は、親露派の大統領だったヤヌコビッチを追放してできた親EU政権に対して、親露派が強かったウクライナ東部2州と南部クリミアで起きた軍事的衝突を収拾するために作られました。
一言でいえば、ミンスク合意とは、ウクライナの東部内戦のいわば敗戦処理です。

2014年当時、ロシアに応援されたクリミアは分離独立した後にロシアに吸収され、息もつかせず残る東部ドネツク、ルンガスで反乱の火の手が上がりました。
この東部2州の分離派武装勢力がクーデターを起こして、自称「人民共和国」を作ってしまったのです。
ウクライナ政府はこれらの武装勢力と戦ったのですが、いかせんロシア軍が直接間接に介入するに至って敗北してしまいました。
この紛争を調停するために、2014年9月に締結されたのがミンスクⅠ合意です。

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ミンスク合意」とは?ウクライナ東部めぐる停戦プロセス。3つの

これは12項目から成り、欧州安保協力機構(OSCE)による停戦監視や、分離派が支配する地域への「暫定的な特別地位の付与」、地方選挙の実施、当事者の恩赦などが含まれていました。

「状況をさらに困難にしているのは、ミンスク合意がウクライナの憲法を改正し、ドンバス(ドネツク、ルガンスク両州)に特別な地位を与えることを規定している点だ。
しかも、親ロシア派が実効支配する「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」の指導者らとの「協議・合意により」行う必要があるとしている。また最も大きな争点とみられるのは、特別な地位を付与する地域の範囲が定まっていないことだ。分離派指導者はドネツク、ルガンスク両州の全域が含まれるべきだと主張。ウクライナ政府は現在も両州の半分余りの地域を管轄下に置いているが、それを手放すことになる」
(ブルームバーク2022年2月19日)

実態が明らかではない特定の外国の影響下にある武装集団に「特別な地位を与え」、しかもその指導者たちと「協議」して合意せよというのですから、つくづく戦争には負けたくありません。
その上にこの二つの「人民共和国」と東部2州の境界も確定しておらず、これが後に武装衝突の原因となりました。
まぁ、OSCEはよくもこんないいかげんなものを作ったものです。

というわけで、このミンスクⅠ合意も後継のミンスクⅡ合意も崩れていきます。
ウクライナからすれば、こんな合意は鼻をつままれて酢を口からがぶ飲みさせられるようなものです。
特に自国領土の2州に、「特別な地位」を付与して、そこで地方選挙などやられたら最後、その先に待っているのはクリミアの状態です。
ですから泣く泣く合意に調印しても、履行しようとはしませんでした。

一方、一方の陰の主役であるロシアは、ウクライナは署名済みだから早く「特別な地位」を与えろと主張しました。
ロシアはこの地方選挙で勝つ自身がありました。
それはこの2州の人口の4割に、当該国の承認もなしにロシア国籍をちゃっかり与えていたからです。

「今やこの地域に住む約70万人はロシアのパスポートを発給されており、複数の推計によるとその数は人口の20-40%に当たる。ロシア政府はまた合意がドンバス地方に広範な自治権を付与し、ウクライナを連邦化する手段であると見なしており、それが実現した場合、同国が北大西洋条約機構(NATO)やEUといった西側諸国の機関に加盟するのが事実上不可能になると考えている」
(ブルームバーク2022年2月19日)

今回、多くの住民がロシア領に脱出したり、あるいは盛んにプーチンが「ロシア人を迫害している」と言っているのはこういう裏があるからです。
ここでミンスク合意Ⅲでも作れば、ウクライナ2州は分離独立してしまいますから、一種の連邦化がが完成します。
そして一定期間そのままで「人民共和国」が存続した後、やがて折りを見て「民主的に」ロシア領に併合されることでしょう。

残念ながら、このミンスク合意は、ウクライナがいかに不満であろうと、ヨーロッパ諸国の合意で決められたものであるために拒否できません。
今回もこのミンスク合意の線が、落とし所になっているはずです。
したがってこれも戦争を起こす理由にはなりえません。

このように見ると、考えようではロシアは4つある目標をほぼすべて得たと言ってもいいわけです。
だから、もう戦争をする理由は実はなかったのです。
馬鹿なプーチン。もう後戻りはできません。
ヨーロッパ、いや人類すべての敵になって滅びることですね。

西側の制裁、中国の反応などは次回以降にします。

 

2022年2月22日 (火)

速報、ウクライナ侵攻が開始されました

「ロシアのプーチン大統領は22日、ウクライナ東部の親ロシア派組織が名乗る「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認し、これらの地域の平和維持のために軍の部隊を派遣するようロシア国防省に指示した。ウクライナ南部クリミア半島に続いてロシア軍が駐留することで、ウクライナ政府や欧米への圧力を強めることになる。
両組織のトップは21日、プーチン氏に独立の承認を求めると同時に、軍事支援を念頭にした友好協力条約の検討も要請した。
プーチン氏は同日、国家安全保障会議を招集し、親ロ地域の独立承認を議論。その後、国民向けのテレビ演説で、ウクライナ政府が停戦合意を履行せず、親ロ地域の住民への攻撃が続いているとして、独立を承認する考えを示していた。
 親ロシア派は18日、「ウクライナ軍からの総攻撃が迫っている」として、住民をバスでロシアに避難させ始めていた。(モスクワ=中川仁樹)」
(朝日2月22日)
ウクライナ東部にロシア軍派遣へ プーチン氏指示、「平和維持」名目(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース

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朝日

「ロシアのウラジーミル・プーチン大統は21日、ウクライナ東部の独立派の反政府勢力が掌握している地域を独立国家と承認した。また、ロシア軍に両地域で「平和維持活動」につくよう命じる文書に署名した。
ロシア軍による平和維持活動の範囲は不明。部隊が国境を越えれば、ロシア軍として初めて正式にウクライナ東部に入ることになる。
プーチン氏が独立を承認したのは、「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」。ロシアの支援を受けた反政府勢力の拠点地域で、名前は同勢力の自称。2014年以降、同勢力とウクライナ軍は戦闘を続けている。
プーチン氏はこの日、1時間近くにわたってテレビ演説をした。その中で、現代のウクライナはソビエト連邦時代のロシアが「作り上げた」とし、「古くからのロシアの土地」だとした。
また、ロシアは1991年のソ連崩壊の際に「盗みに遭った」と主張。ウクライナは「アメリカの植民地」で、かいらい政権が動かしており、国民は現政権下で苦境にあるとした。さらに、2014年に親ロシア政権を退陣させた抗議行動をクーデターと呼んだ」
(BBC2月22日)
プーチン氏、ウクライナ東部の独立を承認 ロシア軍に「平和維持」を命令 - BBCニュース

「ウクライナ・キエフ/リビウ(CNN) ロシアのプーチン大統領は21日、「平和維持」任務を名目に、ウクライナ東部の分離派支配地域への軍派遣を命じた。プーチン氏はこの数時間前、ロシアの支援を受けるこれらの地域の独立を承認する大統領令に署名していた。
ロシア軍の派遣がウクライナ侵攻の始まりを示すものなのかは不明。ただ、欧米の複数の当局者は、ウクライナを対象としたより大規模な軍事作戦の最初の一手となる可能性に警鐘を鳴らした。
プーチン氏は同日の激しい演説で、ウクライナ政府による西側諸国との安全保障関係の強化を批判。長時間に及んだ演説はソ連の歴史やウクライナ・ソビエト社会主義共和国の形成に関する内容で、プーチン氏がウクライナの自決権に疑問を投げかけたとみられる場面もあった。
プーチン氏は演説で「ウクライナが独立国家の地位を持つ伝統を有していたことは一度もない」とし、ウクライナ東部を「古いロシアの土地」と形容している。
プーチン氏の署名した大統領令では、ウクライナ東部ドンバス地方にある2つの分離派支配地域、「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」を正式承認する意向を表明。両地域を独立国と認め、ロシア軍による安全保障の対象としたほか、ロシアの「治安維持部隊」を両地域に派遣する方針を示した。
米政権高官はプーチン氏の演説について、ロシア国民向けに「戦争を正当化」する狙いがあると説明。軍事行動正当化のための誤った主張を多数用いて、「主権を有する独立したウクライナ」という考え方そのものを攻撃するものだと指摘した。
ウクライナ東部の分離派は以前からロシア政府の多大な支援を受けている。米国や北大西洋条約機構(NATO)、ウクライナ当局は、ロシア政府が物資供給や助言、情報提供を行いつつ分離派内部にロシア軍将校を送り込んでいると指摘しているが、ロシアはこれまで常に軍の存在を否定してきた」
(CNN2月22日)
プーチン氏、ウクライナ分離派支配地域への軍派遣を命令(CNN.co.jp) - Yahoo!ニュース

プーチンはNATOという風車に挑むドンキホーテ

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ギリギリで戦争が寸止めになっています。
24日に米露首脳会談が行われるようです。

「ワシントン=坂口幸裕】米ホワイトハウスは20日、緊迫するウクライナ情勢を巡り、バイデン大統領がプーチン・ロシア大統領との首脳会談を原則として受け入れたと発表した。ロシアがウクライナ侵攻に踏み切らないとの条件付きで、24日の米ロ外相会談で調整する。
フランス大統領府も、マクロン大統領がバイデン氏、プーチン氏とそれぞれ電話協議して米ロ首脳会談の開催を提案。両首脳が受け入れたと発表した」
(日経2月21日)

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日経

ほー、というところです。プーチンが、よくこの時点で受け入れたものです。
常識的には、この米露外相会談が開かれる24日までは戦端は切らないはずです。
あくまでも常識的判断であって、開戦劈頭の奇襲効果を狙うつもりなら、会談を設定しつつ戦争を始めるかもしれません。
そのくらいのことは平気でやる国です。

おそらく集結しているロシア20万のロシア軍に対しては、なんらかのゴーサインはすでに出ていると思われます。
バイデン政権は情報機関とうまくいっているので(トランプ時代は最悪でしたが)、確度が高いロシア軍内部情報が入っていると思われます。
ロシア軍は2月16日を開戦日と決めて臨戦態勢に入っていたはずですが、日時まで特定した米国の情報暴露によって頓挫しました。
なんだ米国がガセ情報だしたのかよという声もあったようですが、そうではなく、部隊間の通信状況や、さらには内部情報の諜報があったのだと思われます。
通常、情報機関は、自らのソースを知られることを嫌がるために得た情報を表には出さないものですが、ホワイトハウスのトップの判断で出すことでしか止められないと判断したのでしょう。

日経が、この間のウクライナ周辺のロシア軍の動向を、民間衛星の画像を連続して載せているので、参考になります。

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 2月19日 日経

これが2月19日前のウクライナ周辺のロシア軍の動きです。
ロシア軍はベラルーシからキエフに進攻するために必要なブリチャチ川に架橋しています。
一方、主力であるウクライナ西部正面には大軍が臨戦態勢のまま待機しています。

更にもう一枚。2月14日から18日のものです。

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日経

軍用ヘリの大量増強が南のクリミア半島のドヌラフ湖付近で観測され、ベラルーシでは最新の地対空ミサイルS400が配備されています。
一方、2月16日前後にはウクライナ軍は、ミンスク合意の停戦ライン付近まで軍と物資の増強を続けていますが、戦闘することは禁じられているようです。
ふたつの「人民共和国」では再三再四に渡って自作自演と見られるテロが続発して、すでに避難民が出始めているのは、ご承知のとおりです。 

さて面白いことに、プーチンはロシア内部を完全に説得させたわけではないことがわかってきました。
1月31日、「全ロシア将校協会」のHPに「ウクライナ侵攻をやめること」と「プーチン辞任」を要求する「公開書簡」が掲載されたことを北野氏が紹介しています。
※参考資料 北野幸伯 『全ロシア将校協会が「プーチン辞任」を要求…! キエフ制圧でも戦略的敗北は避けられない』2月16日JBプレス)
全ロシア将校協会が「プーチン辞任」を要求…! キエフ制圧でも戦略的敗北は避けられない(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース

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イヴァショフ元上級大将  ロシアの退役将校、ウクライナとの戦争に反対を表明

タイトルに「辞任を要求」とあるので、クーデターでも始まったのかとドキっとしましたが、内容的には至ってまともな軍事テクノクラートの意見です。
イヴァショフ元上級大将が言っているのは、あっけにとられるほど常識的見解で、逆にこんな客観情勢の分析なしで20万もの「戦後最大規模の軍事動員」をしたことのほうが驚きです。

「イヴァショフは、プーチンが強調している「外からの脅威」を否定しない。しかし、それは、ロシアの生存を脅かすほどではないとしている。
 〈 全体として、戦略的安定性は維持されており、核兵器は安全に管理されており、NATO軍は増強しておらず、脅迫的な活動をしていない 〉
 では、プーチンが「ウクライナをNATOに加盟させない法的保証をしろ」と要求している件について、イヴァショフはどう考えているのか? 
 彼は、「ソ連崩壊の結果ウクライナは独立国になり、国連加盟国になった。そして、国連憲章51条によって、個別的自衛権、集団的自衛権を有する。つまり、ウクライナにはNATOに加盟する権利があるのだ」と、至極真っ当な主張をしている」(北野前掲)

おいおい分かっているじゃないか、と肩をたたきたくなるような意見です。
まったくそのとおりです。
プーチンは、「臆病で狭量」な性格のために、NATOを巨大な怪物に見立てて突進するドンキホーテのようです。Dquijotedelamancharicardomartc3adnezc3a1

ドン・キホーテ」を詠む Don Quijote de la Mancha 中島孝夫

改めて、ロシアの目標とはなんだったかを思い出していただきたいのですが、①NATOの東進の放棄、②加盟国への外国軍の展開阻止、③ウクライナのNATO加盟断念、④ミンスクⅡ合意の確認などです。
これらについてロシアは、法的拘束力を持つ合意といっていますから、条約化したいようです。

実は①については、すでにかなえられています。
というか、イヴァショフ元上級大将も言っているように、NATOは国数こそ倍近くに増えたものの、「ロシアの生存を脅かすほどではなく、戦略的安定性は維持されており、核兵器は安全に管理されており、増強されておらず、脅迫的な活動もしていない」のが真実です。

そもそもNATO東進は、NATOの意志ではありません。
非加盟諸国がぜひ加盟させて欲しいといっているのですから、放棄するもしないもありません。
加盟の意志決定は国家の外交方針であって主権ですから、集団安全保障体制側が言えるのは条件に適合しているかどうかを審査することだけです。
おそらく、残ったフィンランド、ノルウエイ、スウエーデンなどは加盟の道を選択するでしょうが、それは各主権国家の決定なので、いたしたかがないことです。
こんなに異常なまでに軍事的緊張を高めて、ロシアの脅威を自ら大宣伝したのですから、しかたがありませんね。

イヴァショフがいみじくも言っているように、「ソ連崩壊の結果ウクライナは独立国であり、国連加盟国になった」以上、元のソ連の一共和国ではないのです。
したがって、主権国家として「国連憲章51条によって、個別的自衛権、集団的自衛権を有する。つまり、ウクライナにはNATOに加盟する権利がある」のは自明です。
それを加盟させるさせないとイチャモンをつけるばかりか、大軍で包囲するなど狂気の沙汰です。

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では、②はどうでしょうか。
今回のウクライナ再進攻の脅威を受けて、英米軍は周辺諸国に展開し始めていますが、これは常駐するという意味ではなく、一時的な対抗措置にすぎませんから、ロシアが軍を引きさえすれば撤収するはずです。
あるいは、ウクライナに米国がMD(弾道ミサイル防衛システム)のTHAADを、ハリコフに配備するよう要請したなどとロシアは言っていますが、ありえません。

「THAADで迎撃できる目標がロシア軍には存在しないので、THAADを対ロシアで配置する意味はありません。それではTHAADのTPY-2レーダーのみを配備するという意味であっても、ハリコフは前線に近過ぎて危険なので、価値の高い機材をそのような場所に配置したりはしません。国境線から50kmの位置では重砲や多連装ロケットの射程内なので、一瞬で潰されてしまいます。そんなところに高価なシステムを数個も置く? 意味が理解できません」
(JSF 2月8日)
ロシア政府の荒唐無稽な主張「ウクライナのハリコフに米軍THAAD配備の動き」(JSF) - 個人 - Yahoo!ニュース

あるいは、ロシアが中距離弾道ミサイルを言っているとすれば、こちらも配備予定はありません。

「アメリカ軍はINF条約破棄後に中距離ミサイルの開発を進めており、近い将来に配備されます。これらのミサイルは対中国用に配備を計画しているので欧州に配備する予定はありません。しかも通常弾頭を予定しており核弾頭の搭載計画はありません。
それでもロシアはアメリカの新しい中距離ミサイルを警戒しているのですが、そもそも中距離ミサイルを前線に近いウクライナに置く意味が無いのです」
(JSF2月15日)
ウクライナ危機とキューバ危機の違い:ミサイルの射程(JSF) - 個人 - Yahoo!ニュース

したがって、②はロシア特有の臆病な心配性から発生した幻覚にすぎませんから、当然のことながら配備予定を止めるも止めないもありません。

③のウクライナ加盟断念ですが、止める正当な理由はないということを前提にして、今回の紛争でNATOは加盟させる意志がないことを暴露させてしまっています。
言葉ではNATO諸国は、ウクライナ加盟断念を明言することを避けていますが、今回の一連のNATO首脳はひとこともウクライナの加盟について前向きな言葉を言いませんでした。
2月14日、キエフを訪れたドイツのショルツ首相はウクライナの「同盟への加盟は事実上議題でない。その程度のことをロシア政府が大きな政治問題にしているのは不思議だ」と言い、さらにウクライナのゼレンスキー大統領自身も「NATO加盟はいつ実現するのかわからない夢だ」と表現しました。
NATO諸国は、ロシアと戦ってまでウクライナを加盟させる気はないのです。

最後の④のミンスク合意ですが、長くなりましたので次回に回します。

 

 

 

2022年2月21日 (月)

「臆病で狭量な巨人」の偽旗作戦

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立て続けにウクライナで「戦争の口実作り」が始まりました。
東ウクライナでテロが頻発し、住民がロシアに退避を開始したようです。
それにしても垢抜けない泥臭いロシア的手法ですね。
これではすっかりソ連時代に戻ったようです。

かつての「臆病で狭量な巨人」と評されたソ連は、ハンガリー民主化やプラハの春を戦車で容赦なく押し潰してきました。
いったんソ連圏と決めた中では、ソ連に背く政策を取ることは許しませんでした。
あらゆる外交政策、そして内政に至るまで、ソ連のクローンを作ることが義務だったのです。
各国にクローンの政治家や官僚を植え込み、それが役に立たなくなると、軍事力の行使も厭いませんでした。
そして1991年、あえなく崩壊。
その時、衛星国東ドイツにいたKGBの工作員が君臨するのが、いまのロシアです。600pxalekseev_alexander_4

プラハの春 - Wikiwand

そして今もNATOの東進を恐れて、20万の大軍で他国を包囲しています。
もう東欧はとうにワルシャワ条約機構の版図でもなければ、ましてやソ連邦の一部でもないというのに。
ソ連時代と同じ連中がやっているのですから似ていて当然ですが、まるで時計を巻き戻しているようです。
ああ、たまらない、この古臭い帝国ノスタルジア。

さてなんでも東ウクライナには「ドネツク人民共和国」というモンがあるらしく、そこには軍隊もありますが、そこの少将がテロの標的にされたとロシアが盛んに流しています。
もちろん実態はただの武装集団で、国家承認を国際社会から受けているわけではない「オレら国家だからよろしく」ていどのものにすぎません。
ここの武装集団のボスこと自称大統領は、「国民」にロシアに避難するようにと吹聴して回っております。
住民70万人を避難させる計画とのことで、ロシアは喜んでお迎えいたします。
だって、ここのドネツク人民共和国の「国民」にはとっくにロシア国籍を与えていますからね。
だからロシアがこの間、よく口にする「ロシア国民の保護」というのは、実は東ウクライナ2州のことだったというカラクリです。

ちなみに、この「人民共和国」の幹部は、元密輸業者というようなやくざな方ばかり。
しかし2015年にロシア軍の支援で軍事的に勝利してしまい、以後実効支配を続けています。

きっかけは、自称「ドネツク人民共和国少将」という肩書を持つ、武装集団の指揮官のデニス・シネンコフの乗った車が爆破されたということでした。
ただし爆破されたのは彼の車だけで、なんとマヌケにも肝心なシネンコフは乗っていなかったとか。
待ってましたとばかりに、「人民共和国報道官」は、「ドネツク軍のデニス・シネンコフ少将が所有する車が政府庁舎近くで爆破された。幸い少将に怪我はないが爆破事件は攻撃を準備している現れで、破壊活動の一環だ」と広報を開始しました。

ところがあら不思議。
シネンコフの愛車はロシア製UAZ社製のパトリオットだったはずですで下写真左側のものですが、爆破されたのは同一のナンバーをつけた右側UAZ社製ハンターというポンコツ車でした。
どうやらウクライナが送った刺客たちは、わざわざこのポンコツにシネンコフの車のナンバープレートを付け替えて爆破したようです。
昨年の夏にはシネンコフの高級車が件のナンバーをつけて走っており、爆破の11日前にはこのポンコツにつけられていた写真すら出てしまいました。
下がその写真ですが、ね、同じナンバーつけて別な車が走っていますよね。
もったいないからポンコツのほうを爆破したんです。

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上手の手から水がこぼれるといいますが、下手な手から水がザーザー漏れています。

しかしそれがバレる頃には、次のシナリオが始まってい句という寸法です。
な~んと犯人即逮捕。
このシネンコフが乗っていることも確認せずに、ポンコツを爆破したテロリストは、たちまち捕まってしまいました。
さすがに優秀なドンツクじゃなかったドネツク人民共和国。
ロシア国営RIAノーボスチは19日、「ウクライナ人工作員が逮捕された」として、こう報じています。
ロシア報道を要約すると

「自分は殺害計画のターゲットだった少将の動きを本国の諜報機関に報告していた。ドネツクのインフラを破壊するテロ攻撃実行のため協力者を募る任務を行ってウクライナ軍によるドンバス地域の強制解放計画、武器や爆発物をドンバス地域に輸送する計画などがある。
まもなくウクライナ軍による大規模な砲撃が始まるので、リスクの高い高層ビルには近寄らいない方がいい」と語った」
(RIAノーボスチ2月19日)
Задержанный украинский агент раскрыл планы Киева по захвату Донбасса

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捕まって自白する自称ウクライナ工作員 ロシアチャンネル1

どこからどう見ても典型的な「仕込み」です。
2月18日に爆破が発生し、翌19日には自称ウクライナ人工作員が捕まり、たちまちをチャンネル1のカメラの前に登場して「オレがやっただよ。ウクライナが攻めてくるぞ」とあることないことペラペラとくっちゃべったというのですから、なんともかとも。
謀略をするにしても、もう少し真面目にやれや、と言いたくなります。

そして今度は、ウクライナ国境から1㎞入ったロシア領ロストフの小麦畑に砲撃痕が見つかったと大騒ぎ。
調べてみたら、あと2発分の弾薬の残骸も確認されたというので、ロシア側は関係当局は「ロストフに避難してくる避難民を狙ったものだ」と断定したそうです。

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避難するのは数日後なのに、なんで早々と大砲撃ってくるのよ。しかも民間人狙って。
ウクライナからすれば、ドネツク州住民の頭上に砲弾降らせる意味があるわけはありません。

またルンガスでも、石油パイプラインが爆破されたという情報があります。
パイプラインは2箇所で爆破されたとか。

そして極めつけは、「ドネツク人民共和国大統領」デニス・プシリンの、「自国民」に避難を呼びかけるビデオが抱腹絶倒ものでした。
動画中で「今日は2月18日」と言っておきながら、タイムスタンプには16日と記録されてしまっていたのです(爆笑)。
なんだ前もって作っていたのか。

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"Both DNR and LNR leaders filmed their "evacuation videos" on February 16th, as Telegram metadata shows. Denis Pushilin even says "today, on February 18th..." . Everything that happens today is clearly and undoubtfully staged."
https://twitter.com/kromark/status/1494743813830717454

タイムスタンプは上のツイッターでご覧になって下さい。
SNSの時代には、世界のネチズンが検証してしまいますから、偽旗作戦も楽ではありません。

一方、ウクライナの学校や幼稚園にも砲弾や迫撃砲が打ち込まれした。
場所はドンバスのウクライナ政府支配地域のようですが、詳細は不明です。

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WSJ 砲撃された学校。兵士はウクライナ政府軍。 

「ウクライナ東部で、同国軍とロシアから支援を受ける分離独立派の衝突が拡大しており、互いに停戦違反があったと非難している。一方で、欧米諸国はロシアがウクライナ国境での軍備増強を続けているとしている。
ウクライナ軍や現地住民によれば、17日に同国政府の支配下にある町で幼稚園や学校に迫撃砲が撃ち込まれた。また分離独立派が支配する地域の当局者らも、迫撃砲により一部の建物に被害が生じたとしている。いずれも死者は確認されていない」
(ウォールストリートジャーナル2月18日)

このような状況をみていると、もう下手打ちゃ当たる、いや当たらなくても戦争へと流れ込む流れさえ作ればよいようです。
今回の謀略ともいえないようなチャチなプロパガンダの手口を見ていると、偽旗作戦の目的は国外向けというよりも、むしろ国内世論向けのようです。
「戦争の口実」を着々と積み上げていき、国民を戦争の熱狂に巻き込んでいくわけです。
かつてのソ連時代は、こんな偽旗作戦でもそれを検証する独立した司法もなければ、メディアもありませんでした。
だからソ連の権力者はやりたい放題できたのですが、ロシアとなっても少しもその体質は変わらなかった、だから同じことを何度も繰り返すようようです。

そしていったん戦争を始めれば、その口実がいかにデタラメであろうと、20万の大軍でウクライナを制圧し、実効支配してしまいさえすれば「勝ち」です。
いったん戦争で奪ったものは、二度と返さない。
 西側はそれを現況に戻す力がないからやがて喉元過ぎれば容認するだろう、そうプーチンは考えているのでしょう。

オリンピックも閉幕したことですし、これでもうもうプーチンの手を縛るものはなくなりました。

 

 

2022年2月20日 (日)

日曜写真館 レモンかじれよ青空の落ちて来よ

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空風は青空の日を支へたる 阿部みどり女

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あけっぱなした窓が青空だ 住宅顕信

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雲ありてこその青空初点前 綾部仁喜

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また一日がをはるとしてすこし夕焼けて 種田山頭火

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うつくしい夕焼けで夕飯はあるなり 種田山頭火

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別れゆく瞳の金色に夕焼雲 角川源義

 

 

2022年2月19日 (土)

ウクライナ戦争が始まってしまうかもしれません



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残念ですが、ウクライナ戦争が始まってしまうかもしれません。
ロシアはやる気です。それもこの数日以内に。
いままで細々とロシアとの協議が進められてきたのですが、ロシアがじれたのか最後通牒もどきの文書を送ってきたそうです。
「モスクワ、ワシントン時事】ロシアは安全保障に関する米国への返答で、ウクライナ侵攻の意図を否定した。ロシア外務省が17日、内容を公表した。一方、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟し、ロシアが実効支配するクリミア半島を奪還しようとすれば、ロシアとNATOの武力衝突が起きる恐れがあると警告した。
ロシアはウクライナ情勢に関し、「米国とその同盟国が昨年秋から主張しているウクライナへの『ロシアの侵攻』はなく、計画もない」と指摘。情勢の緊迫化は安全保障に関するロシアの提案に「圧力をかける試み」と非難した。ロシアは返答の中で、中東欧やバルト3国からの米軍の撤退などを求めた
(時事2月18日)
なかなかこういう白を黒と言うようなことは、堂々と胸張って言えるものではありません。ソ連の頃からの伝統ですな。
なになに「米国とその同盟国が昨年秋から主張しているウクライナへの『ロシアの侵攻』はなく、計画もない」ですって。
よく言ってくれます、この熊親父は。
周辺地域への兵力の集中は、誰の眼にも明らかであって、あれはナニをしに集結しているのですか。
ベラルーシの演習はとっくに終りましたね、しかしベラルーシからも兵は引いていません。
テレビカメラの前で、兵を撤収させてみせただけのパーフォーマンスだということが判明しています。
事実はロシア軍は続々と増強され、いまや19万にものぼり戦後最大の軍事動員の規模に達するとみています。

「ウィーン・ロイター時事】米国のカーペンター駐欧州安保協力機構(OSCE)大使は18日、ウクライナ周辺に展開するロシア軍部隊について「1月30日時点では約10万人だったが、恐らく16万9000~19万人に達している」との見方を示した。
カーペンター氏は「第2次大戦以来、欧州で最も大掛かりな軍事動員だ」と指摘した」
(ロイター2月18日)

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上の衛星写真はベラルーシのマクサー基地のものですが、部隊の集結と、軍用車両、軍用ヘリが増強されていることがわかります。
もう一枚。これはウクライナ国境付近のボゴノボの衛星写真ですが、ロシア軍はすべての場所で軍用テントやシェルターの設置が確認されており、臨戦体制に入ったことが見てとれます。
またこれらの地域では、実弾射撃を含む軍事訓練が毎日観測されたといいます。

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日経
西側軍事筋は、15万~19万の大軍がウクライナを三方から包囲しているとしています。
改めてお聞きしますが、ロシアさん、ロシア軍はボーイスカウトで、ジャンボリーでもしているのでしょうか。
もちろんロシア軍は進攻作戦のための兵力集中をしているのです。
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日経
今回、堂々とロシアは「進攻の予定も計画もない」と言ってのけた後に、こんな要求まで西側に突きつけています。
「情勢の緊迫化は安全保障に関するロシアの提案に「圧力をかける試み」と非難した。ロシアは返答の中で、中東欧やバルト3国からの米軍の撤退などを求めた」
(時事2月18日)


これが意味するところを筑波大准教授東野篤子氏はこう指摘しています。

「ウクライナに対する一切の武器供与をやめる(引揚げる)、東欧やバルトに派兵した米軍を引揚げる…など、この危機が発覚したあとの米欧の支援を全部帳消しにしなさい、ということのようですね…。
制裁の脅しは受け入れ不可能、でもロシアにはウクライナを侵攻する意図はないと。
もうロシアは米欧からの文書返答は求めておらず、米欧のほうとしてもこれ以上文書を返すつもりではないですよね」
(ツイッター2月18日)

つまり、ロシアは、この間米国やNATOがやってきたウクライナ支援やウクライナ周辺国への派兵を全部止めろというのですから、話になりません。
そのような1か100かみたいな要求をつきつけるのなら、米国はウクライナ周辺から15万の兵を直ちに撤収させろと言うでしょう。

先日、ロシア軍撤収というフェークが流されましたがこれもロシア得意の情報攪乱作戦の一環です。
前述のように、ロシア軍は撤収どころか増強しています。

「CNN) 米当局は16日夕、ウクライナ国境からの部隊撤収を進めているとするロシアの主張にもかかわらず、国境沿いに集結するロシア兵はここ数日で約7000人増えたとの見方を示した。米政府高官の1人は、こうした兵員数の増加を踏まえると、ロシアの撤収の主張は「虚偽」になると指摘。プーチン大統領の外交に前向きな姿勢は見せかけに過ぎないと警告した。
この高官は「我々の持つあらゆる情報から、ロシアは表向き対話姿勢を打ち出して緊張緩和を主張しているに過ぎず、その裏では戦争に向けた動員を進めていることがうかがえる」としている」
(CNN2月17日)

2月17日、ブリンケン国務長官は国連安全保障理事会の会合において、「今回の安保理の会合のテーマとなっているミンスク合意について言及し、2014年と2015年に交渉され、ロシアが署名したこれらの合意は、ウクライナ東部の紛争を解決するための和平プロセスの基礎であり続けている」と述べています。
ミンスク合意の線、つまり東部2州に高度の自治権を与えるという所まで妥協しているわけです。
これはウクライナの抵抗に合うでしょうが、ここまではゆずったということです。

にもかかわらず、これで折り合わずさらには返答文書に「軍事技術的措置」という表現まで使って事実上の交渉拒否をするなら、これはロシア側による交渉拒否と受け取ってよいのです。
ブリンケンは国連安保理でこう述べています。

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CNN

「米国はウクライナ国境での証拠をもとに、ロシアが「差し迫った侵攻に向けて動いて」おり、軍部隊の撤収は行っていないと指摘している。バイデン大統領も17日、「数日以内」に攻撃が始まるとみられると警鐘を鳴らした。
ブリンケン氏はロシアがウクライナでの軍事行動を正当化するために近く取ると予想される措置を列挙。国内での爆弾テロや集団墓地の発見をねつ造したり、ドローン攻撃を自作自演したり可能性があると指摘した。
ロシアがこうした出来事を「民族浄化」や「ジェノサイド(集団殺害)」と評する可能性にも言及した。
ブリンケン氏によると、ロシア高官はウクライナ全土での爆撃やサイバー攻撃などに踏み切る前に、緊急会合を開く可能性が高い。米国はロシアがすでに戦車や兵員の進撃目標を選定したと見ており、その中にはウクライナの首都キエフも含まれるという」
(CNN2月18日)

ここでブリンケンがいう東部ウクライナでの「軍事行動を正当化するための近く取る措置」とは、いわゆる偽旗作戦のことです。
ウクライナ東部では、親露派の攻勢がすでに始まっており、各所で政府軍と衝突を開始し始める一方で、住民を退避させ始めています。

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ロイター 自称「 ドネツク人民共和国」

「【モスクワ=石川陽平、パリ=白石 透冴】ウクライナ東部で親ロシア派武装勢力と同国政府軍による紛争が続き、情勢が急速に悪化する中、親ロ派幹部は18日、占領地域の住民を大挙してロシアに避難させると明らかにした。対峙する政府軍への新たな挑発行為に出る可能性も指摘されている。
東部ドネツク州の一部地域を占領する親ロ派幹部は18日、ウクライナ政府軍による攻撃が予想されるとして、隣り合うロシア・ロストフ州に子供や女性、高齢者の避難を始めると述べた。東部ルガンスク州の親ロ派幹部も同日、住民に避難を呼びかけた。
米欧やウクライナは、ロシアが親ロ派を利用して挑発行為を仕掛け、侵攻の口実を作ろうとしているとみている。ウクライナのクレバ外相は18日、「ウクライナの攻撃作戦があるかのようなロシアのプロパガンダ(宣伝活動)を断固否定する」と述べた」
(日経2月19日)

この東部2州を牛耳る親露派政権が実効支配しており、ロシアは「ロシア人が住む地域」としてパスポートを発給しています。
これはドネツクなどで、ロシア軍が「ロシア人保護」という名分を作るための偽旗作戦の下地作りのためです。

「[モスクワ/ドネツク(ウクライナ) 18日 ロイター] - ロシアのプーチン大統領は18日、ウクライナ東部の親ロシア派支配地域からの住民のロシア国内への避難を調整するために非常事態相を派遣した。
ロシア通信(RIA)によると、大統領府のペスコフ報道官は「プーチン大統領は非常事態相に直ちにロストフ地域に赴き、(避難してくる住民のための)宿泊施設、食事、医療体制など、必要なものを全てを整えるよう命じた」と述べた」
(ロイター2月18日)

ロシア国営のイタルタス通信は、「ドネツク人民共和国で破壊活動中のウクライナ人工作員を2名射殺した」と報じており、露国営のチャンネル1も「ウクライナ軍が2014年以降に失った領土を武力で奪還する作戦計画を準備している」と主張するドネツク軍司令官へのインタビュー動画を放映しているようです。
また、RIAノーボスチは、18日午後7時頃(モスクワ時間)、ドネツク人民共和国の首都ドネツィクの政府庁舎から数十メートル離れた場所で激しい爆発が発生したと報じているようです。

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一方、ドネツクと並んで分離独立を主張するルガンスク人民共和国の幼稚園に重火器で攻撃を行ったことを理由にドネツクとルガンスクの両共和国は住民の国外避難を開始したと露国営放送は報じています。
これはロシアが、ウクライナがロシア系住民の支配地域を奪還するため侵攻してくるという開戦の口実を作り出そうとしているのは明らかですが、西側メディアが入れない土地なので、なにが起きても真実は隠されたままです。
英国外相はフェークだと切り捨てています。

ブリンケンが国連で指摘した通りに事態は進行しています。
ブリンケンの予測では

①ロシアが偽旗作戦による自作自演で爆破テロを起こす。
②このフェークニュースをロシア国営メディアが流し、ロシア人の憎悪を十分に煽る。
③クレムリンは緊急対応会議を招集する。
④ウクライナのロシア系住民保護をロシア政府が宣言する。
⑤ウクライナ侵攻開始。

現在は②まで来ていますから、次に考えられる事態は更にこの①の事態を煽ることです。
たとえば、ドネツクなどでウクライナ政府軍が住民を虐殺した、幼稚園を襲撃した、あるいは化学兵器を使用したなどという虚報でしょう。
そして数日以内にクレムリンは緊急会議を招集し、ロシア系住民の保護を目的に「人道支援」を開始すると発表するでしょう。
この進攻が東部地域に限定的なものになるか、北のベラルーシ側、南の黒海側からも同時進攻するのかはわかりませんが、いずれにしてもここ数日が山場のはずです。

 

2022年2月18日 (金)

宗教の出番かも、ただし時間切れ

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 おととい3回目のワクチンをうったら、副反応がハンパない。
腕は痛いわ、頭痛、倦怠感、もうリッパな軽症者みたいです。
というわけで、今日は軽めに。

さてプーチンは、前に進むのも地獄、後退するのも地獄というドン詰まりの状況なのは見たとおりですが、ひとつ知恵を授けましょう。
こういう時こそ宗教を使うのです。
上げた拳が降ろせないなら、宗教にすがってみてはいかがでしょうか。
「ウィーン発コンフィデンシャル」は優れた国際関連のブログですが、こんなことを半ばジョークのように提案しています。

「ロシア正教会とウクライナ正教会の指導者が胸襟を開いて語り合い、ウクライナ危機の回避でプーチン大統領に助言すれば、正教徒プーチン氏もそれを無視できないはずだ。ひょっとしたら、助け船となるかもしれない。
 10万人以上の兵力を動員し、緊張を高めた後で外交的な解決に切り替えることは、大国主義のプーチン氏にとって容易ではないはずだ。米国の経済制裁を回避するために武力衝突を回避したとなれば、自身の面子に傷がつく。しかし、正教指導者が「戦争を避けるべきだ、同じ正教徒の兄弟ではないか」といったアドバイスを受け入れる形で武装解除を指令すれば、正教徒プーチン氏の株は上がる。少なくとも、面子は維持できる。
そのためにも、ロシア正教会とウクライナ正教会の指導者は対話を始め、プーチン大統領に対し「兄弟間の戦争」を回避するように強く訴えるべきだ。戦争が勃発しようとしている時、宗教指導者は沈黙していることはできない。ウクライナ危機を外交手段で回避出来ないのなら、“神の声”を代弁しているという宗教指導者に登場してもらう時ではないか」
(ウィーン発コンフィデンシャル2月14日)

なるほどなるほど、「兄弟間の戦争を回避しよう」ですか。
思いつかなかったな、日本人の私には。
プーチンはかつてこの「ドイツのお母さん」にすり寄った時、「私はキリスト教徒なのです」と言って人たらししたという伝説があります。
メルケルは、その時雷に打たれたような眼でプーチン見たのだそうです。
彼女も東ドイツの共産主義体制下で青春時代を送りましたから、いわば隠れキリシタン。
おーウラジミール、あんたもそうだったのと、プーチンに我が身を重ねてしまったのかもしれません。

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ニューズウィーク

以後、メルケルのプーチンに対する眼は、この冷血なチェキスト崩れめという警戒心に満ちたものいから、なんとG7プラスとして西側に迎い入れるるまで変化していきます。
なんともかとも、宗教の力は馬鹿にできません。

まぁ、本質的解決にはなりませんが、やってみたらいかがでしょうか。
というのは、このウクライナ問題に関わる国はすべて引くに引けない状態だからです。
まず、張本人のロシアは全軍の半分を注ぎ込んで3方面からウクライナを包囲するというまねまでしてしまいましたから、もう後に引けません。
同志よ、全軍前進だぁとやれば、戦闘では勝てても、後の西側の全体重を乗せた経済報復で、ロシアの背骨が折れてしまうかもしれません。

というのはかつてのクリミア進攻において西側が取った報復は、とんだ腰抜けだったからで二度目はこういうスカな制裁はしません。

「この時の制裁は、ロシアの銀行とプーチン関係者に対する金融制裁であった。この際、ロシアの銀行発行のVISAやマスターなど国際ブランドのクレジットカードが使えなくなるなど一部問題が生じ、決済の問題などからチーズや乳製品などの欠品が出たが、それがロシアを追い詰めるほどの圧力にはならなかった。
これはエネルギーの決済代金の支払い継続が行われたのが最大の要因といってもよいだろう」
(『ロシアによるウクライナ侵攻の裏側にあるもの』2022年02月10日 菅野泰夫 大和総研)
ロシアによるウクライナ侵攻の裏側にあるもの 2022年02月10日 | 大和総研 | 菅野 泰夫

このクリミア半島進攻は、今回の全面的再進攻の序章だったにもかかわらず、かつてのナチスドイツのズデーテン地方進攻を認めてしまった悪しき歴史を繰り返してしまいました。
結局やった制裁は、ロシア銀行振り出しのクレジットカードを使えなくしたくらいのことだったいうのですから、これでは事実上の割譲です。
この理由はいうまでもなく、ロシアからエネルギーの3分の1を買っているドイツが頑固に制裁を拒否し、西側の足並みが乱れたためです。

今回も訪米したショルツ独首相の最優先任務は、バイデンにノルドストリームという言葉を言わせないことだったと揶揄されるほど、制裁に消極的です。
しかしロシアが本格的な進攻をした場合、ドイツが泣こうがわめこうが制裁に加わってノルドストリームのコックを締めるしかありません。
中国で補填されないように、「シベリアの力」のほうにも制裁をかけるでしょう。

今回も西側社会は金融制裁を行う準備を開始しており、どのようなメニューにするかの話し合いを行っている真っ最中です。

「一番厳しい処置としてはロシア全体を銀行間の国際決済システム「SWIFT」からの排除であり、この場合、ロシア宛の送金が物理的にできなくなる。ま
た、先端技術等の規制も強化されると考えられる。 
また、現実的な案として、ロシア軍及びプーチンと関係の深い「オリガルヒ(新興財閥)」を制裁するというものもある。この場合、制裁は限定的になるが、プーチンと一部の勢力にとっては非常に大きなダメージとなる」
(菅野前掲)

前者の国際決済システム「SWIFT」からの排除が決定された場合、一切の貿易決済が不能になりますから、頼みの綱の中国にも頼れなくなり、国家経済の破綻が現実味を帯びます。
逆に軍を撤収させれば、「東部2州の独立」を認めたロシア議会は、プーチンを許さないでしょうから、政権は極めて不安定になります。
つまり前に行こうが、後ろに退こうが、プーチンを待っているのはリアル地獄なのです。

ただし、プーチンが決定権を持っていることには変化はないので、彼の胸先三寸で進攻は決まります。
今回はまんべんなく兵科を取り揃えただけではなく、ロシアとしては思い切った兵站を用意したと言われています。
いまり損害を省みずその気になれば・・・、ということです。

一方、相手国のウクライナのゼレンスキーはといえば、こちらはもっとキツイ。
ゼレンスキーが大統領に当選した公約は、クリミアの奪還とドンバス・ルガンスク地方の掌握、腐敗の一掃でした。
ですから、事実上この東部2州の分離を認めてしまっているミンスク合意などは、ウクライナからすれば無理矢理結ばされたものであって、反故にしたかったわけです。

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ブルームバーク  ゼレンスキー・バイデン会談

ではこの希望がかなえられたかといえば、ノーです。
バイデンからクリミアの奪還と東部2州について色好い返事はもらえませんでした。
このまま行けば、東部2州での高度な自治権を認めたミンスク合意を再び仲介案にされてしまうことも考えられる状況になってしまいました。
そして今回の危機に際して、ウクライナにはロシア軍の航空攻撃や侵攻を防ぐことのできる通常戦力も、共に戦う同盟国ないことが明らかになってしまいました。
米国とNATO諸国による対戦車ミサイルなどの供与は、絶対数をはるかに下回っており、ロシアに対抗する力がないことは自明です。
ですからゼレンスキーにとっても、この先は行き止まりなのです。

もう一方の役者である米国にとっても、状況はそうとうに深刻です。

「ロシアがウクライナに侵攻して米軍が足を取られれば、その間インド太平洋に十分な戦力を展開できなくなり、台湾有事への備えが弱まってしまう。米国の戦略家の中には、ウクライナには深く関与せず、中国対処に十分な力を蓄えておくべきだという考え方がある。
一方で、米国が各地域で起きる現状変更行動に対してどのような対応をとるかは、ある種の前例を作る行為であり、世界的な影響がある。「ウクライナは同盟国ではない」として真剣に関与しないと、中国にも『米国には余裕がない』と思わせ、台湾や尖閣諸島などで別の現状変更行動を誘発する恐れがある」
(ハドソン研・村野将 産経 2022年2月15日)

ウクライナと台湾は似た部分があり、双方ともに「条約なき友好国」です。
しかし双方 の国も、方や東欧の、方や南シナ海と東シナ海をの結節する要衝であるという点でよく似ています。
「同盟国ではないから」と真剣に支援しないと、中露から米国はもはやこんな重要な要衝の友好国すら見捨てる国になったのだとして、以後そのように扱われることになります。
アフガン撤収の失敗がまさにその実例で、あれを見てプーチンはいけると思ったのかもしれません。
ですから、これ以上大きな失点をバイデンは重ねられないのです。
かといって、台湾を横目でにらみながら、東欧でロシアと戦端を開くことだけは避けたい。

このように三者三様に、判断は行き詰まっており、先行きが見通せないのです。
ならば、とりあえずまったく本質的解決にはなりませんが、宗教を使って「和平」を演じてみるのはいかが、というわけです。
もちろんこんな「兄弟国同士の和平合意」はすぐに破られるでしょうが、多少の時間稼ぎにはなるかもしれません。

とはいえ、時間切れかもしれません。
進攻はあるなら、今週中ですから。

 

2022年2月17日 (木)

ロシア軍撤退のフェークニュース、世界を走る

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昨日のロシア軍撤退報道は、ロシア譲歩始まるなどというフェークニュースとなって世界を駆けめぐってしまったようです。
日本のメディアだけならいざ知らず、ロイターが配信したために世界規模の偽情報の拡散となってしまいました。
やれやれ、見事にロシアお得意の偽情報拡散に踊らされるなんて。
ご丁寧にも、戦車を鉄道に積み込んで撤収する様子まで流して、それにかぶるようにプーチンの「ロシアは戦争は望まない」なんていう台詞をつけて流せば、本当にロシアが平和攻勢をかけたようです。

「ロシア国防省は16日、クリミア半島に展開していた装備品を積み込んだ輸送列車がクリミア大橋を通過して恒久的な拠点=所属基地に向かう様子を公開した。
バイデン大統領は「ウクライナ国境地域からのロシア軍撤退をまだ確認出来ていない、ロシア軍は依然として脅威的な立場を維持したままだ」と15日午後(現地時間)に主張したが、ロシア国防省はクリミア半島に展開していた装備品を積み込んだ輸送列車がクリミア大橋を通過して恒久的な拠点=所属基地に向かう様子を16日に公開した。
ただ13万人以上も動員されたロシア軍の内どれだけが恒久的な拠点への移動を開始したのかは以前として不明で、現段階では「軍を後方に下げた」という政治的な演出に過ぎないという可能性もある」
(航空万能論2月16日)

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朝日

案外平静だったのは朝日で、ロシアの「ロシアが米国やNATOと安全保障問題の交渉を進める環境づくりができた 」という、プーチンの代弁者の声を載せる一方で、米国関係者のこのような慎重な意見も乗せてバランスをとっています。

「米国の専門家らはロシアの出方に懐疑的だ。カリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)のダニエル・トリーズマン教授(政治学・ロシア)は「本当に撤退したのか、侵攻準備に影響する規模の撤退なのか検証する必要がある」と話す。「ウクライナや欧米を欺き、奇襲を仕掛ける可能性もゼロではない。現時点では何の結論も出せない」
米CNNに出演したパネッタ元国防長官も「ロシアからは相反する混在したシグナルが届いているが、プーチン氏の発言は信じられないという前提で動く必要がある。我々がするべきは、最悪のシナリオに備えることだ」と語った。
 ボストン大のジョシュア・シフリンソン准教授(米外交・国際安全保障)は「戦争を始めた責任を、西側に押しつけようとしている可能性もある」と指摘する。ロシアが部隊の撤退に応じたのに、欧米側はNATO拡大の停止を拒んでいる――。そんな理屈で侵攻を正当化する口実にするという可能性だ」
(朝日2月16日)

このシフリンソンの指摘するとおり、プーチンが自らが招いた大規模な戦争準備行為を今になって「進攻を正当化する」ことです。
いつのまにか加害者が被害者づらを始める、中国や北朝鮮がよくやる手段ですね。
これに誘導されると、出てくるのが「ロシアが望んでいるのは西側との対話だ。もっとプーチンを理解しろ」というトンチンカンな対応です。
平和を求めて対話を探るプーチン。対話を拒絶して戦争に追い込もうとしている西側。こういう構図です。
15万もの軍で他国を包囲している者の、いったいなにを「理解しろ」というのでしょうか。
北朝鮮の時もこういう「理解者」が大勢出ましたが、大軍で他国を包囲したら、それだけでアウトでしょう。

もちろん実態は、ロシア軍は少しも撤収などされていません。
ロケット部隊や砲兵、ヘリ部隊はむしろ増強されて、国境に近い位置に前進していますし、黒海の強襲揚陸艦は6隻が増援され、合わせて11隻もの規模に増加しています。

「ロシア国防相はバルチック艦隊所属の揚陸艦を黒海に派遣した理由について「2月上旬に行う軍事演習に参加するため」と述べているが、このまま6隻の揚陸艦がクリミアに居座り続けると黒海艦隊の水陸両用戦力はロプーチャ級揚陸艦9隻、イワン・ロゴフ級揚陸艦3隻、多数の上陸用舟艇で構成されるため黒海沿岸部からの侵攻を警戒しなければならなくなり、ウクライナにとってはモルドバ駐留のロシア軍と合わせて不気味な存在と言えるだろう」
(航空万能論2月9日)

またロシア軍地上部隊は、国境付近に前進し、臨戦態勢に入ったことが衛星からの写真でわかってきました。
下写真では、ロシア軍ソロチの駐屯地で、1カ月前の写真と比べると部隊の増強し、国境付近に展開しているのが確認できます。

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朝日

「米CBSニュースは14日、米当局者の話として、ロシア軍の一部の部隊が集結した地点から離れて「攻撃態勢」に向けて動き出したと報じた。列になって移動する様子が衛星写真で確認された。長距離砲やロケットランチャーなどの装備を発射位置に移動させているという。
 AP通信も国防当局者の話として、少数の地上部隊が数日前からウクライナ国境に向けて移動を始めたと報じた」
(朝日 2月16日)

2月9日から10日に撮影された衛星画像によると、ロシア軍が増強されたのは南部クリミア半島のほか、ロシア西部とベラルーシです。
このうちクリミアのシンフェロポリ北方にある飛行場には、軍用のテント550張りと、数百台の軍用車両が確認されています。
撤退という情報が流れたベラルーシですら、ウクライナとの国境まで25キロ未満に位置する飛行場に、軍部隊や軍用車両、ヘリコプターが増強されています。
ウクライナ国境まで約110キロのロシア軍演習場にも最近大規模部隊が到着したという情報が現地から流れてきています。
この時期には真偽の見分けがつきにくい情報が双方から流れますので注意せねばなりませんが、「ロシア軍撤退」ニュースとは裏腹に着々と軍を増強させているのは確かなようです。

また悪質なのは、実際にサイバー攻撃を仕掛けたことです。

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重要インフラに対するサイバー攻撃の新常識 第3回 (tokiomarine-nichido.co.jp)

【リビウ(ウクライナ西部)=笹子美奈子、ワシントン=田島大志】ウクライナ政府の情報通信部門は15日、国防省、軍のウェブサイトのほか、大手銀行と公的金融機関が大規模なサイバー攻撃を受けたと発表した。ウクライナなどはロシアの関与を疑っている。
国防省と軍のサイトは機能停止になり、発生から10時間以上たっても復旧していない。銀行では数時間、オンライン取引が利用できなくなった。情報通信部門は、ロシアの名指しを避けつつも、「侵略者がよく行う戦術」だと指摘した。
ウクライナでは1月14日にも、外務省や教育科学省など政府機関のウェブサイトが大規模なサイバー攻撃を受けた。
 米政策研究機関は、ロシア軍の侵攻計画として、サイバー攻撃を手始めにウクライナ軍の通信をまひさせ、混乱に乗じて侵攻を開始するシナリオを想定している。一部の米メディアは、露軍侵攻が16日にも始まることが米政府で想定されていると伝えており、ウクライナ政府は警戒を強めている」
(読売2月16日)

このようにサイバー攻撃をしかけて、国防インフラや金融インフラをせっせと攻撃しているロシアが、譲歩なんかするわけはありません。
しかし、一般的にロシア軍のウクライナ周辺配備状況などには関心がもたれませんから、見事に引っ掛かってしまいます。
すると植えつけられるイメージは、「平和を求めるロシア」「対話を求めるプーチン」、「強硬な米国とNATO」ということになってしまいます。

気をつけよう、平和という言葉と暗い道。

 

 

 

2022年2月16日 (水)

中国だけが勝ち逃げになるか

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メディアは、ベラルーシからの予定どおりの一部撤収を「ロシア軍撤退開始」と大騒ぎしているようです。
ほとんど誤報です。ロシアは、前から演習が終わったら引くと言っているでしょうに。
BBCが出しているロシア軍の配置図を見てください。
ロシア軍主力はドネツクとハリキウ正面、そしてクリミア黒海方面ですから、ベラルーシからの撤収は予定どおりなのです。

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BBC

協議は継続すると言いながら、こんなことを議会に通しています。

「【モスクワ=小野田雄一】ウクライナ情勢をめぐり、ロシア下院は15日、ウクライナ東部を実効支配する親露派武装勢力「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」(いずれも自称)を国家承認するようプーチン大統領に求める議会決議案の採決を行い、賛成多数で可決した。タス通信が伝えた。露メディアによると、決議に法的拘束力はなく、可決がロシアによる親露派の即座の国家承認にはつながらない」
(産経2月15日)

ウクライナ2州の国家承認とはすなわち2州の分離切り離しであって、これは明らかなミンスク合意違反です。
これを現実にロシア政府が取った場合、落とし所とされていたミンスク合意すら認めないという意味になります。
だから慌てて、タス通信に否定的報じ方をさせています。

「ペスコフ露大統領報道官は15日、親露派支配地域の国家承認について「いかなる公式の決定もなく、議論も行われていない」と慎重な姿勢を示した。親露派支配地域の国家承認は、ウクライナ東部紛争の和平合意「ミンスク合意」と矛盾する。プーチン政権は親露派支配地域を国家承認することにより、ロシア側に有利な同合意を破棄する口実をウクライナ側に与える事態を警戒しているとみられる」
(産経前掲)

もちろんこんなロシア議会のゴタクは、提案者がロシア共産党ということでわかるようにプーチンに対する牽制です。
要は、プーチン、日和るんじゃねぇぞということにすぎません。
ただし協議が不調に終わったら本当にやるということを匂わせています。
まぁ、ホントにやったら最後ですが。

また、ロシアはウクライナに対してサイバー攻撃を仕掛けたようです。

「ウクライナ国防省は15日午後、国防省がサイバー攻撃=DDoS攻撃を受けていると発表した。
現在サイバー攻撃の影響を受けているのは国防省と国内最大手の銀行2行(PrivatとOshchadbank)でアクセス出来ない状況が続いており、ウクライナ当局によるとサイバー攻撃はロシアからのものらしい」
(航空万能論2月16日)

本気でロシアがサイバー攻撃を仕掛けた場合、国防関係の指揮命令系統はもちろん金融、交通まで含めて大混乱に陥ることでしょう。
米国もカウンターアタックをするので、ロシア側も無傷ではいられないはずです。

一方、ウクライナを遠く離れた極東でも、ロシア海軍が大規模な艦隊演習を行いました。

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「岸防衛大臣は、今月に入ってロシア海軍の艦艇24隻が日本周辺の海域で活動しているのを確認したと発表し、ウクライナでの動きと呼応する、異例の大規模演習だとして懸念を示しました。
「昨今のウクライナ周辺におけるロシアの動きと呼応する形で、ロシア軍が東西双方で同時に活動しうる能力を誇示」
岸大臣は、海上自衛隊が今月1日以降、日本海やオホーツク海の南部で活動するロシア海軍の艦艇24隻を確認したと明らかにしました。ロシア海軍の全ての艦艇による世界的な軍事演習の一環で、ロシア軍のウクライナ周辺での動きと呼応するものとして懸念を示しました」
(TBS2月15日)

24隻とはこりゃまた。極東ロシア艦隊全力動員じゃありませんか。
これは極東ロシア軍がウクライナに出払ってががら空きなので、つけ込むんじゃねぇぞとすごんでいるのです。
ロシア海軍は世界的に大規模な動きをしており、特に黒海での兵力集中を急いでいるようです。

ところで今のプーチンは、ラブロフ外相に言われもなくとも、進攻に踏み切った場合、悲惨な運命しか待っていないことを半ば理解していると思います。
ただし「半ば」であって、今のプーチンにまともな判断力があれば、そもそも今のような投機的なことはしていないわけですが。
小規模なベラルーシへの演習名義の派兵ならともかく、兵力の半分に当たる15万人も動員し、最高度に緊張を高めた後で外交的な解決に切り替えることは、自らを超大国だと自認しているプーチンにとって容易ではないはずです。
米国や欧州は、直接ウクライナを守れないだけに、全力で経済・金融制裁をかけるはずが、これを回避するために大軍を引いたとなればプーチン政権はもたないでしょう。
ま、こういうのを進むも地獄、引くも地獄と呼ぶのでしょうね。

進攻に踏み切った場合の制裁メニューは見えてきています。

「プライス報道官は定例記者会見で「ロシアが中国と緊密な関係を築くことで代償の影響を緩和できると考えていても、その通りにはならない。多くの意味でロシア経済は一段と脆弱になる」とし、「欧米から輸入する能力を否定すれば、生産力と革新的な可能性が著しく阻害される」と警告した」
(ロイター2022年2月4日)

注意していただきたいのは、ここで米国が、「ロシアが中国と緊密な関係を築くことで代償の影響を緩和できると考えていても、その通りにはならない」と言い始めたのはロシアに対して言っているのではなく、中国に向かって言っているのです。
中国への原油輸出を逃げ道と考えているなら無駄だ、中国へのパイプラインも締めるからな、というわけです。

侵攻した場合のロシアへの制裁は、ロシアを支援する国すべてに対して同様に発動されるはずです。
よく似た制裁としては、かつてのイラン制裁です。
ただし国連安保理決議が今回はないので(なにせ当事国が常任理事国ですから)、まったく同じにはならないかもしれません。
あくまでも参考ていどとして見ておきましょう。

※外国為替及び外国貿易法に基づくイランの拡散上機微な核活動等に関与する者の資産凍結及びイランからの武器の輸入の禁止等の措置について
平成19年5月18日  外務省 財務省 経済産業省
外務省: 外国為替及び外国貿易法に基づくイランの拡散上機微な核活動等に関与する者の資産凍結及びイランからの武器の輸入の禁止等の措置について (mofa.go.jp)
(1) イランの核活動等に関与する者に対する資産凍結等の追加措置
 1) 支払規制
2) 資本取引規制
(2) イランからの武器及びその関連物資の調達禁止措置

イランの輸出一切の取引禁止し、核開発に関与した者は資産凍結です。
つまりイランとの輸出入経済・金融制裁とは、、制裁対象国に対してではなく、その取引に関わった国に対してかかることにご注意下さい。
ですから、ロシアの輸出に加担した国はすべて米国の輸入規制、ないしは金融制裁、資産凍結等を受ける可能性があります。
具体的には、いまだノルドストリームを止めるとは言っていないドイツや、トルコストリームを持つトルコ、そして誰よりも大きなパイプラインをロシアと結んでいる中国は、ロシア同様の厳しい制裁に遭遇する可能性があります。

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中露パイプライン「シベリアの力」 天然ガスを輸送(写真:新華社/アフロ)

中国はあまり知られていないようですが、ノルドストリームに次ぐ規模のパイプライン「シベリアの力」をロシアと繋げています。

「このパイプラインは全長約3000km。東シベリアのチャヤンダ・ガス田から当初は年間50億立方メートル、全線が稼働する2025年には年間380億立方メートルの天然ガス(日本の年間消費量の3分の1)が中国へ供給される見込みである。当面は吉林省と遼寧省までの開通だが、最終的には北京や上海までパイプラインが整備されることになっており、これによりロシアはドイツに次ぐ第2位のガス輸出先を確保することになる。両国間の契約によれば、シベリアの力は今後30年間で合計4000億ドルの収入をロシアにもたらすことになっている」
(藤和彦経済産業研究所上席研究員  Business Journal)

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産経

つまりロシアが、今後起こり得る西側による強力なロシア制裁を、中国により補てんできると見ているなら大間違いだ、彼ら中国企業も制裁対象になるという警告のようです。

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五輪外交」に透ける中国の苦境 開会式出席の首脳は「内輪

「習近平とプーチンの実質的な会談はこの二年で初めてで、協力文書の中で最も重要なものは二つのエネルギー協力にかかわるものだ。一つは中国がロシアからカザフスタン経由で10年間に1億トンの原油を輸入するというもの。もう一つは中ロで天然ガスの長期的供給協力を結び、中国に毎年480億立方㍍の天然ガスを供給するというもの。この二つのエネルギー協力の総額は1175億ドルに登り、すべてユーロで決済される」
(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO.529 2022年2月13日)

福島氏は、ウクライナ進攻で得をするのは中国だけだと見ています。

「もし、プーチンがウクライナ侵攻を行ったら、たぶん、一番得をするのは中国である、と私は思っています。
①ロシアがウクライナ侵攻→米国が制裁→中ロはすでにエネルギー協力調印しているので、中国はロシアを助け、ロシアを経済的に助け、ロシアに恩をうる。国境問題、中央アジア戦略、一帯一路戦略などロシアと利益背反する問題を棚上げ、あるいはロシアから妥協が引き出せる。

②ロシアがウクライナ侵攻→ロシアの軍事力は東部から西部に集中→中ロ国境の緊張緩和→米軍のウクライナ方面増派でアジアの軍事プレゼンス低下→中国のアジア戦略がやりやすくなる。チャンスがあれば台湾侵攻も?

③ロシアがウクライナ侵攻→ウクライナ分裂→ウクライナの不安定化で西側投資が引くが中国はウクライナ旧ソ時代からのの一番の投資者であり、中国の経済影響力はむしろ増える→中国のウクライナ支配が進む。これはロシアにとっても面白くない」
(福島前掲)

今回に関しては、私は福島氏と意見が少し異なります。
①の原油を買うことでロシアを助けて恩を売るというのはありそうですが、今回の西側の経済・金融制裁はこれも対象にするはずです。

②は、NATOが東方配置に重点を移すといっていますから、ロシア軍も西方重点配備となるでしょうが、沿海州でのロシアのプレゼンスが低下することは、そちらに取られていた自由主義陣営のシフトが楽になるということです。
そのぶん自衛隊は、西南シフトがしやすくなるわけですから、果たして、中国の台湾進攻に取って吉とでるかどうか。

③はありえます。ウクライナに中国が経済的肩入れをして一帯一路の要衝に思い描いていたのは確かですが、ロシアに露骨に支援してしまった今、ゼレンスキー政権が同じように中国にいい顔をするかどうかは不明です。

私は、中露が微妙な亀裂を起こし始めていると感じています。
先日の会談の共同声明で、米国の一国主義が国際秩序を主導することに反対し、ウクライナと台湾問題を相互支持し、ともにNATOの拡張に反対し、一中原則を堅持し台湾独立に反対すると声明を上げました。
中露が総論賛成したというだけのことで、こんなことはあえて首脳会談しなくてもわかりきったことで、なにを今さらです。
むしろ「言っていないこと」のほうが重要です。

この中露首脳会談で「言っていないこと」とは、具体的な軍事協力の緊密化の取り決めです。
この中露会談で言っている、お前のウクライナ政策には賛成するから、オレの台湾政策にも賛成しろでは、ただの相互利用の確認にすぎません。
もし本気で反米同盟を組む気なら、ロシアが中国の介入を拒んでいるカザフスタンや、インド、ベトナムとの軍事協力関係についてもっと突っ込んだ合意をするべきなのです。

特に今のプーチンの置かれた状況は、単にウクライナ進攻をした場合、外交的に世界を敵に回すだけではなく、たった一本の命綱である油の売り先がなくなることです。
プーチンが欲しいのは中国の声援ではなく、米国の制裁にあっても油を買い続けるという保証だったはずです。
たしかに習-プーチン会談の協力文書には、中国がロシアからカザフスタン経由で10年間に1億トンの原油を輸入し、中露で天然ガスの長期的供給協力を結んで、中国に毎年480億立方㍍の天然ガスを供給するというエネルギー協力が含まれています
なにやら総額は1175億ドルに登ると風呂敷は大きいのですが、すべてユーロで決済されるとか。

では、今回米国とEUがドル決済とユーロ決済を規制してしまったらどうするのでしょうか。
ドル決済からの追放は決定済みですし、ユーロもほぼ確実に追随するでしょう。
すると中露は決済不能になりますから、総額1000億ドルだだなんて吹いても、絵に描いた餅にすぎません。
あとはかつての社会主義圏とやっていたバーター取引(物物交換)しか残りません。

中国は得るものが少ないわりに、失うものが多すぎるのです。
プーチンさん、悪いことは言いません。侵攻など絶対にお止めなさい。

蛇足 忘れるところでした。
ウチの首相がゼレンスキーと電話会談して、1億ドル借款の用意があるといったそうです。パチパチ。

※改題しました。いつもすいません。

2022年2月15日 (火)

ゼレンスキーがホワイトハウスに噛みついたわけ

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いよいよホワイトハウスから進攻予告がされていた水曜日が明日に迫っていますが、ラブロフ外相はプーチンに自制を求めているようです。

「北大西洋条約機構(NATO)不拡大を含むロシアの要求を拒否した米国などへの対応について、意見を求めたプーチン氏に対し、ラブロフ氏が見解を述べた。ロシアによるウクライナ侵攻の懸念が高まり、事態が緊迫する中、ロシアから対話継続の意向が示された形だ。
 プーチン氏は「われわれが懸念する重要な問題について(米欧と)合意に達する可能性があるか。それとも終わりのない交渉にわれわれを引き込もうとしているのか」と質問した。ラブロフ氏は「外務省のトップとして、常に(合意の)チャンスはあると言わざるを得ない」と返答。「可能性はまだ尽きていないと思われる。無期限に(協議を)続ける必要はないが、現段階では継続して発展させることを提案する」と語った」
(時事2月14日) 

ソ連時代からの外交官であるラブロフとすれば、ここで進攻などした場合、金融制裁まで含んだ空前の大規模制裁を受ける上に、世界中を敵にまわすことが分かっているようです。

一方、ウクライナ大統領のゼレンスキーは米国に噛みついたそうです。

「ウクライナのゼレンスキー大統領はロシアによる侵攻が迫っているとするアメリカ政府の見解について、「こうした情報はパニックを引き起こすだけで我々の助けにはならない」と指摘しました
記者 「ゼレンスキー大統領が軍の視察にきました」
ゼレンスキー大統領は12日、ウクライナ南部のヘルソン州で行われた軍と警察の合同演習を視察。その後、記者団にロシアによる侵攻が迫っているとするアメリカ政府の見解について問われると、次のように指摘しました。
ゼレンスキー大統領 「こうした情報はパニックを引き起こすだけで、我々の助けにはならない」
ゼレンスキー大統領はこのように述べた上で現在、アメリカの諜報データを受け取って分析していることを明らかにしました。
この日の合同演習では・・・
記者「軍の車両が暴徒化したデモ隊の制圧にやってきました」
演習ではウクライナ政府に反対するデモ隊が市役所を占拠したり、車両に火炎瓶を投げ入れるなど暴徒化し、軍と警察が制圧する想定で行われました。ヘリコプターに乗った兵士が着陸後に素早く発砲する様子や、装甲車の後ろで隊列を組んだ兵士がデモ隊に向かっていく様子などが公開されました」
(TBS 2月14日)

ふむ、なかなか面白い反応です。
西側陣営のボスに向かって、「やかましい、この時期に余計な口を突っ込むんじゃねぇ」と言ったわけで、うちの国の岸田さんにはまねできないでしょう。
では、どうしてゼレンスキーがこんなことを言ったのでしょうか。
せっかく米国ボスが支援してくれているのにカドが立つじゃないか、なんて和風な発想は中欧の動乱の中で生きてきたウクライナ人にはありません。

もちろんバイデンが水曜日ないしは木曜日と曜日まで特定して警鐘をならしたのは、それなりに情報機関の確かな証拠があってのことで、こう言ってしまえばプーチンはやりたくてもできなくなることを見越してのことでした。
いっそうのこと西側首脳が、輪番でキエフに滞在したらいいのに。
うちの首相なんか、「人間の楯」で使えるならどうぞお使い下さいな。

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朝日

ゼレンスキーは、そんな米国の「親心」をよく分かってしゃべっています。
ただし立場が違う。
ロシアが狙っているベストシナリオは、昨日も書きましたが「労せずしてウクライナが転がり込んでくる」ことです。
そのためには、かつてのキエフ動乱で親露派のヤヌコービッチが追放された、その逆を狙っているわけです。
ウクライナ国民を不安に陥れて、政権に対する不信感を煽り、「ゼレンスキーなんかにやらしているから戦争になるんだ」とけしかけます。
情弱はウクライナにも大勢いますから、そうかゼレンスキーがいなくなれば戦争にならないんだと考える者もいて不思議ではありません。
こここそ、ロシアのその筋のつけ目です。

なんせこういう偽情報の拡散と人心誘導こそ、KGBの得意中の得意。
プーチンがなにかというと偽旗作戦やサイバーアタックなどに走るのも、彼が骨の髄までKGB工作員育ちだからです。
ロシアはなんとかキエフ騒乱に持ち込み、憎きゼレイスキーを追い出し、ロシアからヤヌコービッチを迎え入れて大統領に再び据えたいのです。

ロシアからすれば、とにかくここで食い止めないとウクライナ・ドミノが発生でもしたら一大事です。
今、ウクライナ情勢をわがことのように感じて注視しているのは、バルト3国、北欧、フィンランド、ジョージアなどの諸国です。
彼らは立場的にウクライナと一緒です。
ロシアという、いつ何時お前気にいらねぇと爆発して戦車を先頭に進攻してくるかわからない「活火山のような燐国」の脅威の下で生きているからです。

下図をみると、いかにこれらのロシア周辺諸国がプーチンの恐怖に対して恐怖感を持っているか、お分かりになるでしょう。
ウクライナ問題がなくとも、2017年にはスウエーデン、フィンランドはEUに加盟したばかりか、NATO加盟まで真剣に検討し始め、2018年には共同訓練にも参加している段階まで煮詰まっていたのです。

スウエーデンは重武装中立主義、フィンランドはロシア寄りの中立主義でしたので、共にNATO加盟を検討すること自体が驚きです。
ウエーデンの中立主義を美しく誤解してきた日本のヒダリの皆さん残念でした。
今や時代は、西も東も中立主義の余地なき時代には入ってまったのですよ。

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フィンランド NATO加盟の権利主張 欧露間で緊張も

今回のウクライナを大軍で包囲してまでNATO加盟をさせまいとしたプーチンの意図は、真逆な反応をこれらの諸国に及ぼしました。
いわゆる「北欧バランス」が崩壊し、力関係の天秤は一気にNATO有利に傾いてしまったのです。
北欧には、NATO加盟国であるノルウェー、中立のスウェーデン、ソ連に近い国であるフィンランドが存在するという、「北欧バランス」といわれた安全保障体制が形成されてきましたが、大きく形を変えようとしています。

「ウクライナをめぐる危機においてロシアのプーチン大統領は、北大西洋条約機構(NATO)はロシアの国境に向かって侵入するのをやめなければならないと主張している。だが、そのプーチン氏の要求が欧州大陸の北端で意図せぬ事態を招いている。フィンランド、スウェーデンのNATO加盟の是非をめぐる議論の再燃だ」
(日経2022年1月26日)

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北欧諸国はそれぞれの歴史的事情から、安全保障・同盟政策について、戦後それぞれ異なった政策をとってきました。
まずデンマーク、ノルウェーはNATOに加盟し、フィンランドは冷戦期には「フィンランド化」政策を取ってソ連寄り中立、そしてスウェーデンは重武装中立を取り、「ノルディック・バランス」(北欧バランス)という微妙な均衡が出来ていたのです。

しかしソ連が崩壊するとバルト3国が独立しNATOに加盟し、フィンランドはより独立した対ロシア政策をとるようになりました。
フィンランドは、ソ連の進攻に対して国民的抵抗で戦い抜いた冬戦争を経験した国です。
しかしこの祖国防衛戦争に敗北した後は、大戦中はドイツ側に立って戦いましたが、戦後は冷戦時代を通じて、いわゆる「フィンランド化」政策をとりました。
これはソ連と一定の距離を置きつつ、ソ連の衛星国にはならないという小国の知恵でした。
ただしこの「フィンランド化」の時代は、フィンランドは国内で自国の歴史を教えることさえできない屈辱の時代でもあったのです。
ソ連が崩壊した後も中立主義をとりましたが、一気にこのウクライナ危機でNATO加盟が現実化しています。

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中立かNATO加盟か、スウェーデンの安保政策  WEDGE Infinity(ウェッジ) (ismedia.jp)

皮肉にも、この北欧バランスを破壊したのは、プーチン自身でした。
プーチンは一時期の西欧協調路線をかなぐり捨てると、NATOへの不信をあからさまに示し、その拡大を阻止することを外交の中心政策にします。
かつての旧ソ連諸国のウクライナやジョージアに対しては、むき出しの武力行使を行い、さらにバルト諸国にも軍事的圧力を加えるに至って゛スウェーデンとフィンランドは大きくNATOに傾斜していきます。

本来ならば、ロシアがスウェーデンのNATO加盟を止めさせるためには、ロシアへの不安を解消してやる方法しかなかったはずですが、まさに正反対の方向へ走ってしまいました。
このウクライナに対するロシアの狂乱ぶりを見て、これらの北欧諸国は自国防衛のためにはNATOに加盟する以外にないという決断をするでしょう。

また、旧ソ連諸国のウクライナ、ラトビア、モルドバ、アゼルバイジャンなどは、公用語からロシア語を排除したり、キリル文字の使用を禁止する措置を打ち出しています。
これもロシア周辺国にいまや公然化した「非ロシア化」の流れです。

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旧ソ連圏で相次ぐロシア語離れ 反露感情、ロシアの地位低下

ロシア語は、旧ソ連圏の共通公用語でしたが、崩壊した後も政府や教育機関で使用され続けてきました。
それがクリミア進攻以後、一斉に母国語への回帰を開始し始めました。
たとえばバルト三国のラトビアでは

「ロシア語を母語とする住民が国民の3割を超すラトビアも4月、教育法を改正。ロシア系住民が通う学校であっても、小学校は50%以上、中学校は80%、高校は100%の科目をラトビア語で教育することが義務付けられた。欧米との関係を強化している同国は、ロシア語の制限により、国内で強い政治的影響力を持つロシア系住民を牽制(けんせい)する意図があるとみられる」
(産経2018年9月29日)

このような周辺国におけるロシア離れと地位低下は、2014年以降綿々として続いていたのです。
それにトドメをさしたのが、今回の15万もの大軍を背景にしたウクライナ紛争です。
進攻するか否かをとわず、いや仮にしたとしたらなおさらのこと、周辺諸国はロシアに対する嫌悪と恐怖に駆られてNATOの共同防衛の屋根の下に逃げ込むことでしょう。

こういう自明の理がわからなくなるほど、プーチンは老いぼれたのでしょうか。

 

 

2022年2月13日 (日)

老いて駑馬になったか、プーチン

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ウクライナ侵攻を回避するラストチャンスと見られていたバイデンとプーチンの電話会談は物別れに終わったようです。
バイデンは「深刻な代償を払うことになる」という今までどおりの警告を発し、プーチンは「これじゃあ安全保障が守られない」と答えたようです。

「バイデン米大統領は12日、ロシアのプーチン大統領と電話会談を行ったが、事態の進展はほぼみられなかった。米国はウクライナ侵攻の場合には「深刻な代償」をロシアが支払うと警告。ロシアは緊張緩和の前提としている安全保障の約束を与えられていないと、米国を非難した。
ロシア大統領府は電話会談をビジネスライクでバランスの取れたものだったと評したものの、両国とも会談後の説明では争点に変化がなかったことを示唆。今後の方向性を見極める手がかりはなお見えていない」
(ブルームバーク2月13日)

プーチンは各国と会談をもちつつ、その裏では戦力増強や侵攻準備を着々と進めている模様です。
軍は12万から15万へと増強され、ほぼロシア軍の半分がウクライナ国境付近にいることになります。
特に主要な標的とされているハリコフ周辺には、Mi-8MTV-5が25機~30機、Ka-52が最低でも10機配備され、ウクライナ北部の国境付近にも攻撃ヘリが大量に到着しているという情報も出ています。
黒海の強襲揚陸艦も大幅に増強された、という軍事筋の話も伝わってきています。

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ウクライナ国境に集結しているロシア軍部隊 フォーサイト

ホワイトハウスは五輪閉幕前に進攻が始まる可能性を示唆しました。

「米国はロシアが早ければ来週、北京冬季五輪が閉幕する前にウクライナに対し軍事攻撃に出る、ないしウクライナ国内で衝突を引き起こす恐れがあるとみている。サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が明らかにした。
サリバン氏は11日のホワイトハウスでの会見で、そうした事態は北京冬季五輪の閉幕後にしか起きないとの見方が多いが、「五輪期間中に始まる恐れはある」と言明。「いま言えるのは、五輪閉幕前であってもロシアが軍事行動を起こすという信頼し得る見通しがあるということだ」と語った」
(ブルームバーク2月12日)

なお本日14日からウクライナ上空を飛行する航空機が保険の対象外となり、ウクライナからの民間航空便はほぼ停止する見込みです。

さてプーチン、めっきり老け込みました。
やせた筋肉質の体にはみっちりと肉がつき、物憂げな視線で、ロシア女性をしびれさせた眼には目脂がついていそうです。
この間の彼を見ていると、麒麟も老いては駑馬(どば)にも劣るようにみえてしまいます。
日本にも少なからずいるプーチンファンをガッカリさせないで下さい。
応援する筋合いじゃありませんが、プーチンはいまや完全に勝機を逸しています。
7年前のクリミア略奪の勝因がなんだと彼は考えているのでしょうか。

クリミアでどうしてあれだけ「スマート」に勝てたのかといえば、たんなるサイバー戦が当たったからではありません。
徹底してロシアの進攻意図を秘匿し、偽旗作戦を駆使して超高速で進攻が進んだからで、この速度こそが決定的な要素なのです。
当時西側は、寝耳に水。
進攻が現実に起きてから腰を抜かしたわけで、よもやクリミア半島というレッキとしたウクライナ領内にロシア軍が大量に潜入していることも知らなかったのです。
ですから、標識を取って覆面をかぶったロシア軍が、クリミアの親露民兵とたちまち半島全域を実効支配してから、やっと事態がわかって騒ぎだしたわけですが、すべて手遅れ。

下の写真は当時クリミアに進攻したロシア軍ですが、戦闘服や車両の標識をはがしています。
当然国際法違反ですし、後にすべてロシア軍所属だと判明しますが、実効支配してしまえばロシアの勝ちです。

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AFP

そしていったんはウクライナから分離独立した後、すかさずに「住民投票」が行われて、ロシアに編入されてしまいました。
まるで手品です。一滴の血も流さずに他国の要衝の地をくすねとった「見事」な手腕です。

こういう手練手管を「偽旗作戦」(にせはた)というのだそうです。
要は、敵を騙すために自分の旗を隠して、偽の旗を掲げて行う軍事作戦です。
古典的ですが、いまでも頻繁に使われており、今回はドンバスでロシアが偽旗作戦をする徴候があると、ホワイトハウスから指摘されていました。

「【ワシントン】ホワイトハウスは14日、ロシアがウクライナ侵攻の口実を作る「偽旗作戦」を実施するため、ウクライナ東部に工作員を配置していると発表した。  ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は「ロシアの代理部隊に対する破壊行為を実行するために、工作員は市街戦と爆発物の使用について訓練を受けている」と述べた。
また、「われわれがつかんだ情報では、ロシアの影響力のある当事者がロシアの介入を正当化し、ウクライナを分裂させるために、国営メディアやソーシャルメディアでウクライナの挑発行為の捏造(ねつぞう)をすでに始めていることを示している」と述べた」
(ウォールストリートジャーナル2022年1月15日)

ロシアが恫喝で西側が屈しなかった場合、戦争の口実を捏造しようとしたとホワイトハウスは述べています。
ドンパス地域に大量潜入させているロシア工作員と親露派武装勢力を使って、ウクライナ政府機関か、あるいはロシア軍に対してテロを行って戦端を切らせるわけです。
こういう偽旗作戦でロシア系住民を標的にしたテロを行い、それで国際社会に衝撃を与えた後に、自国民保護を理由にロシア軍に侵攻させるという手筈です。
当然同時に、偽情報の拡散、サイバー攻撃によってウクライナ軍の指揮命令系統をダウンさせ、空爆を実施し、さらに自警団を装った親露武装組織が住民蜂起をします。
次いでキエフ政権に対して親露派が首都で大規模デモをかけて攪乱させ、うまくいけば退陣に追い込み、東部2州は改めて独立を宣言するでしょう。
これらすべてが一斉に行われた場合、ほぼ1か月で決着がつき、ロシア軍地上部隊の進攻は限定的かもしれません。
そしてしばらくして、東部2州は住民投票を行い、ロシアに編入を「民主的に」要求するというわけです。

これがプーチンの描いたベストシナリオでした。
このきっかけを与えたのは他ならぬバイデンだったようです。

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読売

バイデンはプーチンに「いかなる敵対感情もなかった」と言わせるまで「いい顔」をしてしまいました。
バイデンは会談前の3月に、「プーチンに報復措置をおこなう」とか「人殺しだ」とまで言って警戒感を露にしていましたが、それはウクライナに対してではなく大統領選におけるロシアの介入だったようです。
なんのことはないトランプがらみです。

「米国のバイデン大統領は17日に放映されたABCニュースのインタビューで、ロシアが昨年11月の米大統領選に介入していたとする情報機関の報告書に関し、「プーチン大統領は代償を払うことになる。近く明らかになるだろう」と述べ、対抗措置を予告した。措置の具体的な内容には触れなかった。
バイデン氏はプーチン氏について、副大統領時代に会談を重ねたことを踏まえ、「私は彼のことを比較的よく知っている」と言及。「プーチン氏は人殺しだと思うか」と問われると、「そう思う」と答えた」
(読売2021年3月18日)

そして会談にはもめそうな件はまるで出ずに、あらかじめ決まっていた核軍縮交渉などを成果としたにすぎませんでした。
もちろんウクライナのウの字も出ず、ロシアと対決する意志などまるでないニコニコ小父さんで終始したわけです。
これがプーチンに対して誤った信号を送ってしまいました。
小泉悠氏は、この昨年6月の米露首脳会談こそが、プーチンにウクライナ再侵攻を決意させた引き金になったのではないかと見ています。

「昨年6月の米露首脳会談が一つのトリガーだった可能性がある。プーチン大統領はバイデン大統領の弱腰を見抜き、「やれる」と思ったのではないか。露外務省はウクライナに対し、ドンバス地域へ「特別な地位」を付与することを規定した「ミンスク合意」の履行を要求し始めた。
ウクライナにミンスク合意を履行させるのが最も穏当な解決法だと米国内でも言われている。一種の現実論ではあるが、ロシアが威圧すれば欧米はすっかり動転し、言うことを聞くようウクライナに促すというのでは、国際社会の信義と公正を大いに損なう」
(小泉悠 産経2022年2月11日)

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ロシア国防省

このような侵略の牙を密かに研いでいる国と安易に握手してしまうと、高い代償を払うことになります。
プーチンはこの首脳会談からわずか5か月後の11月には、ウクライナ周辺にロシア軍を大量集結を開始します。
NATOは9月末にウクライナと合同で大規模な軍事演習「RAPIDTRIDENT 2021」を実施し、米国のオースティン国防長官は10月にジョージアを訪問して2ヶ国間の安全保障協定を締結するなど着々と関係強化を進めていました。
これが直接のきっかけですが、プーチンにはウクライナには米軍は出てこない、NATOはどうせ腰砕けのはずだという読みがあったはずです。

シナリオとしては3パターンあります。

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ドンバス親露派民兵と思われる。 ロシアビヨンド

1つ目は、前述したように、ウクライナ東部ドンバス地域でのテロと「住民蜂起」の偽旗作戦によって混乱状態を作り出し、ロシア軍はそれを後方支援しつつ静観します。
しかし、この方法を取るには遅すぎました。
ホワイトハウスがすっぱ抜いてしまったからです。
偽旗作戦は、完全に秘匿して素早くおこなわねば成功しない奇手なのです。

2つ目は、ウクライナ軍が強力に「「住民蜂起」を鎮圧した場合、ロシア系住民の保護を「ドンバス人民共和国」にださせて救援を名目に進攻する方法です。
ロシアは、ウクライナ東部やジョージアで、一方的にロシア系住民にロシア国籍のばらまきをしています。
こういう行為はパスポーティゼーションと呼ばれて、侵略の予備行為だとされています。
元在ウクライナ日本国大使館専門調査員だった平野高志氏は、このように述べています

「そして、より深刻に考える必要があるのは、この地の「ロシア国籍」問題である。というのも、ロシアは、2019年4月以降、ウクライナ東部の紛争地域にて、住民がロシア国籍取得する際の手続きを簡素化する決定を下しており、それ以降、同地住民に対して国籍のばらまきを行っているのである。これは、紛争地における「パスポーティゼーション」と呼ばれる行為であり、紛争解決を困難にするものとみなされている。つまり、現在ロシアは、ウクライナの主権を侵害しながら、「自国民」を簡易的に作り出し、その保護を名目にウクライナへとさらに武力を行使しようとしているのである」
(平野高志 202年2月5日JBプレス)

しかし今頃、このような自国民救援劇を演じても、信じる国などどこもありません。

3つ目は、西側が弱腰で、いかなる反撃もないと予測できたなら、北からキエフに進攻し、48時間以内に現政権を倒して占領するという強襲案です。
ただしこれをやった場合、ウクライナは負けはするものの、ロシアの右腕を斬りとるくらいの激しい抵抗は見せることでしょう。
戦線は西に拡がり、収拾は不可能になります。

米国は徹底した経済封鎖をし、ノードストリームは、ドイツが泣こうが喚こうがコックを締められてしまいます。
さすがのグリーンなバイデンも、ヨーロッパ救援という名目でシェールガスの増産を命じるでしょう。
ロシアにこれに耐えるだけの国力はありません。
したがって、これはプーチンにとっても最悪シナリオです。
いまやこの3番目の方法しか残されていませんが、日がたつに連れリスクは増していきます。
最近になってプーチンは、「ロシアはNATOには勝てない。核戦争には勝者はいない」などというヤケクソのようなことを言っていますが、切るカードがなくなったということなのかどうかは、あと一月くらいたたないと結論が出ません。

とまれプーチンときたら、部隊集結を待っていたのかどうなのか、精鋭の第1親衛戦車師団をウクライナ周辺に投入してから早や3カ月。
その間に、西側はすっかり反撃体制と包囲体制を整えてしまいました。
さぁ、もう動くに動けません。
ホワイトハウスから今秋の水曜日に進攻の可能性があるとまで特定されてしまっては、やるとなると奇襲もヘッタクレもない大流血覚悟の強襲作戦だけしかなくなってしまったのです。

そのためかどうかプーチンは急に老け込んでしまい(もう70ですからね)、北京五輪開会式に強行出席したものの、式では居眠りをする姿が見られています。
またとつぜん詩人になってしまって、こんなことをマクロンとの共同記者会見でのたもうたそうです。

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時事

「2月9日 AFP】ロシア軍がウクライナ国境付近で部隊を増強し緊張が高まる中、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が8日、ウクライナを「私の美しきもの」と呼んだ。
 プーチン氏は同日未明、エマニュエル・マクロン(戦を定めた「ミンスク合意」を好ましくないと述べたことを批判。
プーチン氏はロシア語で韻を踏みながら「(ミンスク合意を)好むと好まざるとにかかわらず耐えよ、私の美しきものよ」と述べた。
この発言はオンラインで物議を醸した。
元コメディアンのゼレンスキー氏は、ロシアに続いてウクライナを訪問したマクロン氏との会談後、「ロシア大統領にも一理ある。確かにウクライナは美しい」「(だが)ウクライナを自分のものと呼ぶのは度が過ぎている」と述べた。
 また、ウクライナや欧州がロシアと交渉する際の心構えについて、「極めて辛抱強く」臨むのが賢明だと述べた。
 ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は電話取材でプーチン氏の発言について、「国家が義務を負ったなら、責任を果たす必要があるという意味だった」と釈明した」
(AFP2月9日)

ありゃありゃ、ウクライナを「わが美しきもの」なんて言っちゃダメに決まっているでしょうが。
ゼレンスキーが言うように、「極めて辛抱強く」粘れば粘るほどプーチンの耳には、原野に放置したままの12万もの大軍の悲鳴が聞こえるはずですから。
そろそろ道路もいいかんじで雪解けが始まる気配です。
進攻はあるかないかわかりませんが、いずれにしても今週中になんらかの動きがあると予想されます。
慎重に見ていかねばなりません。

 

 

日曜写真館 狐の嫁入り虹を峠に残しけり

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狐嫁入るかと仰ぐ一の午 千原叡子

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日や雨や狐嫁入る村紅葉 幸田露伴

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嫁入りと見ゆる狐火往き戻り 宮本旅川

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新松子濡れて狐の嫁入りぞ 佐々木六戈

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野を渡る夜叉嫁入り道具になりすまし 西川徹郎

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朧夜やお小夜狐は嫁入す 寺田寅彦

 

2022年2月12日 (土)

中露蜜月は軍事同盟へとつながるか?

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では、今後中国とロシアは同盟関係にまで突き進んでいく気でしょうか?
最近も、ウクライナと台湾で同時侵攻勃発か、なんて噂がまことしやかに流れていましたっけね。
私はありえないと考えています。

そもそも、東西同時攻勢をかけるなんてスーパーパワーは、かつてのソ連帝国ですらありませんでした。
一方、今年秋に党大会を控える習には、現時点で軍事力で台湾を制圧するリスクを冒したくはありません。
台湾海峡の渡海作戦は不可能ですし、全島を制圧するまともな戦争計画もないはずです。
現時点で中国にできるのは、航空機を大量に侵犯させて台湾の人々をおびえさせ、将来の選挙で「中台統一」志向が強いとされる野党の中国国民党に投票するように仕向けることていどのことです。

結論から先に言えば、私は中露は準同盟関係にまではいくが、かつての中ソ対立以前に存在した完全な同盟関係には至らない思っています。
準同盟関係とは、互いに内政外交を束縛せずに、ケースバイケースで共同演習や国際対応を決定するレベルの関係のことです。
実例としては、今の日豪関係がそれにあたります。
米国との日米安保のように条約に基づくものではなく、ACSA(物品役務相互提供協定)、GSOMIA(軍事情報包括保護協定)、防衛装備品・技術移転協定などを結び、適時2プラス2(外務・防衛閣僚会合)を行って関係を緊密化する二国間関係です。
日本は、英国、カナダ、フランス、インド、そしてオーストラリアとこの準同盟関係にあります。

中国とロシアの場合、安全保障面での連携は近年ますます緊密になっています。
中露海軍は2012年以降、毎年合同演習を実施してきたが、2016年には南シナ海、2017年にはクリミア危機後、特に緊張が高まるバルト海でそれぞれ初めての合同演習を行っています。

昨年10月には、ごていねいにも中露艦隊総勢10隻で日本列島を周回するということまでしてみせています。
この時は、日本海で合同演習を行った中国海軍とロシア海軍が、津軽海峡から太平洋に出て、伊豆諸島沖を経由して鹿児島県・大隅海峡から東シナ海に入るというコースを取りました。

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日本列島をほぼ一周した中露艦艇10隻の一覧 - 産経

中露の軍事的な接近は、これにとどまらず、2019年7月には、ロシアと中国の空軍機が初めてアジア太平洋地域で共同巡回飛行を行い、そのうちロシア軍2機が竹島上空の領空を侵犯するという出来事まで発生しました。
この時は韓国軍が警告射撃を行い、日本の自衛隊も緊急発進しています。
また、2020年12月にも、中露の軍用機が合同で日本海と東シナ海の上空を巡回し、韓国軍の発表によると、相次いで韓国の防空識別圏に侵入するなどした。

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追跡:中露、日米韓を試す 竹島・東シナ海、空軍共同飛行 | 毎日新

「ロシア国防省は23日に出した声明で、竹島を含めた今回の飛行について「中国軍機と初めての合同パトロールだった」と明かした上で、中露の戦略爆撃機4機と空中警戒管制機2機などが参加し、11時間をかけ約9000キロを飛行したと説明した。24日記者会見した中国国防省の呉謙報道官も「中露両空軍は北東アジア地域で初めて共同で戦略的な巡航を実施した」と指摘した」
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また2018年には、ロシアの領内での大規模軍事演習「ボストーク(東方)2018」に、初めて中国人民解放軍が参加し、以後同様の合同演習は場所を変えロシア領内で毎年実施されています。

目的はロシアに言わせると、「最も重要なのは、中国軍が参加したことだ。これにより、大規模ではあるが局所的だった演習が、大きな政治イベントに変わった」(ロシア・ビヨンド2018年9月16日)ことだそうです。

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ロシア・ビミンド ボストーク2018に参加した中国軍戦車

装備面でも緊密化は進んでおり、数年前まではロシアでは中国よるロシア製兵器のコピー問題が何度となく問題視されてきましたが、今やロシアは中国に対しSu-35戦闘機やS-400地対空ミサイルシステムといったお宝級の最新鋭兵器の売却を再開させ、さらにシステム面でも中国が構築しているミサイル攻撃早期警戒システムに対して技術協力も行っています。

「従来ロシアは中国の軍事力台頭を警戒し、最新兵器の提供を拒んでいたが、それを容認しただけでなく、ロケットエンジンの共同開発を進めるなど技術供与にも乗り出した。
 中露は宇宙分野でも協力しており、2017年に期間5年の宇宙協力計画に調印。宇宙船の建造、地上インフラの整備、電子部品の研究開発を進めている。両国はサイバー・セキュリティー協定も結んだ。さらに、ロシアの「グロナス」、中国の「北斗」という衛星システムの互換性と相互運用の協力でも合意している」(名越健郎 2019年1月15日)

まさに中露蜜月そのものですが、プーチンはさらに2020年10月に行われた国際会議の場において、露中の軍事同盟結成についてそれを匂わす発言をして物議をかもしました。

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「【モスクワ=小川知世】ロシアのプーチン大統領は22日、中国と軍事同盟を形成する可能性について「理論的には十分想像できる」と述べた。現状では必要ないと指摘したが、将来は排除しない考えを示した。11月3日に大統領選を予定する米国を念頭に、中国との近さを強調した格好だ。
国内外の有識者を集めた会議にオンラインで参加し、質疑で言及した。
中ロはすでに合同の軍事演習を実施しており、プーチン氏は「(軍事同盟が)必要ないほどの協力と信頼の水準に(中ロは)達している」と主張した。軍事同盟の構築は現時点では検討していないが「原則として排除するつもりはない」と述べた。プーチン氏は2019年12月の記者会見で中ロ軍事同盟は「計画にない」と明言していた」
(日経2020年10月23日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65355560T21C20A0000000/

これがプーチンの口から出た初めての中露同盟を示唆した言辞です。
では実際に、ロシアと中国は軍事同盟に向かうのでしょうか?
私は多くの専門家と同じで、現時点では無理であって、プーチン大統領がこの時中露同盟に言及したのは、米国への牽制が狙いだったとみます。

それは中国がもっとも嫌うことをプーチンはあえておこなっているからです。
それはインドとの事実上の軍事同盟を締結してみせたことです。

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https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB053OV0V01C21A2000000/

「モディ氏は会談の冒頭で「我々の関係はかつてなく強く、防衛協力も改善している」と述べた。プーチン氏も「両国の軍事協力は強大で他国にはないものだ」と応じた。
共同声明によると、軍事技術協力の期間は2021~31年まで。兵器の共同開発や生産、第三国への輸出などが盛り込まれた。インドでのロシア製ライフルの共同生産が実現する見通しだ。両国軍同士の後方支援も強化する。
両氏は首脳会談を原則、毎年開いているが、今回は外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)も初めて開催した。印政府にとって2プラス2は米国、日本、オーストラリアに次ぐ4カ国目の枠組みとなる」
(日経2021年12月6日)

私はこの記事を読んだ時、思わず吹き出してしまいました。やりよるな、インド。
クアッドに参加しても米国の傘下にはならんよ、という強烈な意思表示です。
一方インドと中国が犬猿の仲だということを知って、双方に武器を供給するというところがプーチンです。
ベトナムにも兵器を売るそうです。(笑)

ここから見えるのは、プーチンはあくまでも中国とはその時その時のつきあいであって、ベッタリ夫婦になるきはないということです。
逆に中国からしても、自国の利益にならないグルジアやウクライナ、ジョージアでのロシアの紛争には巻き込まれたくないのです。
だいたい遠くて介入しようがありません。
この「距離」の問題は同盟を組む場合に見落としがちですが、日独伊三国同盟なんて言っても、遠すぎて実体がありませんでした。

「中国にとって、ロシアと同盟を結べば、ウクライナ、シリアという2つの戦場でロシアを自動的に支援することになる。それは米国だけでなく、欧州連合(EU)との関係を決定的に悪化させ、EU市場を失いかねない。米国の7%の経済規模にすぎないロシアが、欧米の代替市場になるはずがない。中国はそもそも、どの国とも同盟を結ばない外交方針のはずだ。
 ロシアにとっても、中国と同盟を結べば、日本やインド、ベトナムとの関係を悪化させる。インドはロシア最大の武器輸出国であり、ベトナムへの武器輸出も中国向けとあまり変わらない。
 米国の地政学者、ジョージ・フリードマン氏は「中露では戦略的優先順位が全く異なる。ロシアは欧州、次に中東に死活的利害を持つが、中国は関心が低い。中国は南シナ海で米国の挑戦に直面するが、太平洋でのロシアの海軍力は弱い。中露ともに、互いの深刻な経済的、戦略的欠陥を補完し合うことはできない」とし、「中露同盟は幻想だ」と指摘し」(名越前掲)

要はロシアと中国は、主要な外交方針が一致していないのです。
アフガン周辺国対応という微妙な問題になると、中露の思惑にはズレがありますし、ましてやロシアが無差別爆撃をしまくったシリアにまで中国は介入する気はないはずです。
つまり近いと微妙にズレ、遠いと相互に無関心。これで同盟なんかできるはずもなし。

彼らからすればここは譲れないという一致したテーマ、あるいは共通の地域的利害が欠落していますから、せいぜいできるのは声援ていどでしかありません。
実際には、常任理事会で拒否権でタッグを組む「反米同盟」です。

逆に同盟関係が成立した場合は見てみましょう。
かつての第1次日英同盟は、ロシアの南下という日英共通の脅威が存在しました。
日本はロシアの南下が朝鮮半島におよぶことを危惧し、英国はインドに進攻されることを懸念していました。
こういう直接の地域的利害があると、同盟は成立可能です。

また戦後の日米同盟は、ソ連という共通の脅威があり、やがてそれは中国の軍事膨張を対象にしてシフトしていきます。
この場合、日本にとってはモロに自国防衛で、米国の場合は世界戦略の策源地の安全に関わることでした。
だから日米同盟を作ったのです。

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ロシア大統領府

では、そのような直接の地域的利害が中露にあるでしょうか。
ロシアからみれば、南シナ海の領有などは無関心ですから、今まで意見らしきものを言ったことはありません。
インド洋におけるインドとの摩擦にも関心がないし、ましてやヒマラヤのてっぺんでの領有権抗争などなんのこっちゃです。
台湾など正直どうでもいい、とプーチンは思っているはずです。

一方、中国からすれば、ロシアがジョージアやウクライナに進攻することについて無関心です。
いやむしろ中東欧地域の安定を損ない、一帯一路構想を妨害しているようにすら写っているはずです。
南シナ海での米海軍との確執に、ロシア艦隊が役にたつならまだしも、ロシア太平洋艦隊は役立たずです。

だから両国とも、死活的な外交方針がことなる故に、ベッタリと中露同盟を作るメリットはないのです。
しょせんは反米のただ一点だけで方寄せ合っているだけのことです。

このような両国ですから、かつてのような中ソ一枚岩の関係を作ってしまうとロクなことことにはならないことくらい、中露双方よくわかっています。

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中ソ友好同盟相互援助条約 - Wikiwand

簡単にいえば、中ソ対立は、常に兄貴風を吹かせて指導したがるロシアに対して、毛沢東が怒ったからです。
今回、中露同盟など結んでしまうと、間違いなくいまやロシアを経済的にはるかに見下す位置にいる中国は、ロシアを下目に扱うでしょう。
経済的には、中国からみればロシアは鼻くそみたいなものですから。
そのくせ軍事技術的には、いまだにロシアのほうがかなり先を走っているために、中国はロシアとの関係を良好にさせておきたいとも考えています。
このギャップは、互いの気位の高さともあいまって修正することが困難です。
ならば夫婦にはならずに、「反制裁同盟」のままいようやという「大人の判断」が、現状です。
もっともこの仲も、ケースバイケースなだけにどこで破綻するかわかりませんが。

 

2022年2月11日 (金)

ウクライナ支援は、NATO加盟しなくてもできる

014  

毎日、ウクライナ情勢の新情報が出てきています。
マクロンがプーチンと話した内容が、一部漏れてきました。
これはマクロンとゼレンスキーの会談に同席した、ウクライナ外相クレバの発言です。

「[キエフ 9日 ロイター] - ウクライナのクレバ外相は9日、フランスのマクロン大統領はウクライナが希望する北大西洋条約機構(NATO)加盟を否定しなかったと述べた。
マクロン大統領は7日にモスクワを訪問し、ロシアのプーチン大統領と会談。8日にはウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した。プーチン大統領はウクライナのNATO加盟を阻止するよう要求しており、ウクライナは妥協を強いられることを懸念している。
こうした中、クレバ外相はウクライナはロシアとの緊張緩和に向けたいかなる最後通告も受け入れないと強調した上で、マクロン大統領からウクライナのNATO加盟を否定する話題は提供されなかったと指摘。前日の会談では具体的な提案に関する議論はなく、考え方に関する議論が展開されたとした」
(ロイター2月10日)
https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-kuleba-idJPKBN2KE2I2

うーん、微妙な表現。
「ロシアからのいかなる最後通告も受け入れないと強調した上で、マクロン大統領からウクライナのNATO加盟を否定する話題は提供されなかった」ですか。
「ウクライナのNATO加盟を否定する話はなでかった」、言葉どおりとればマクロンはプーチンとはウクライナのNATO加盟の話はしていないということです。
ウソこけと思いますが、さて、これをどうとるべきでしょうか。
たぶんプーチンは5時間マラソン交渉の時に、さんざんウクライナをNATOに加盟させるな、とねじ込んでいるはずです。
それこそが、プーチンの今回の大パーフォーマンス大会のメーンテーマですから、プーチンが言わないはずがありません。

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それをマクロンは仏露首脳会談が秘密交渉であることをいいことに、「ない」ことにしてしまったわけです。
ここで思い出していただきたいのですが、このマクロン-プーチン会談は通訳だけ入れた一対一の「テタテ会談」だったことです。
こういうテタテ会談では、互いに記録に残さずに歯に衣を着せない交渉をするものです。
だから非公開で記録も残さず、今回の当事者であるウクライナ以外には内容を公開しないのが建前です。

マクロンはNATO東方政策が、ロシアの考えるように西側陣営の東方拡大ではなく、東欧諸国から望まれて加入を許したもので、NATOにはロシアに進攻する意志などまったくないと言ったでしょう。
そもそも今のNATOは、かつてのソ連率いるワルシャワ条約機構と対峙していた時のNATOとは別物なのです。
はるかに米国離れしているし、結束も強いとはいえません。
下手を打つと、ニコニコ倶楽部一歩手前状態で、タガがゆるんだ桶の状態ですが、こうしたのはメルケル女史です。

皮肉にも、それをまた締め直してしまったのが、プーチンの一連の脅迫と恫喝外交でした。
砲艦外交ならぬ戦車外交が、プーチンの思惑以上に効いてしまって、今やNATOの再結束の機運が盛り上がってしまいました。
さて、屁たれたドイツに替わって、ここで主導権を一気に握ってしまいたいのがフランスです。
NATOの盟主とはEUの盟主ですから、プーチンごときに負けていては話になりません。

おそらくサシではウクライナ加盟問題はしつこく登場したはずですが、それを「聞いていない」と一蹴したところが、さすが腐ってもフランスです。
「聞いていない」のですから、マクロンはこのプーチンの要求を拒否したのだと思います。それもかなりはっきりと。

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CNN

では、今後このウクライナ加盟はどうなるのでしょうか。
選択肢としてはみっつです。

①現状維持。ただし表面的には、です。
おそらく英米仏を中心に大規模な軍事支援が行われ、ウクライナ軍の面目は一新するはずです。
これがもっともありそうな線ですが、各国の支援連携が問われます。

②今回のプーチンの乱暴狼藉で一気にNATO加盟に前向きになっている中立主義諸国のスウエーデン、ノルウェイ、フィンランドと一括してウクライナも同時加盟させる方法です。
赤信号、みんなで渡れば怖くない作戦ですが、さて一挙に4カ国まとまるとどの国に進攻するのでしょうか、プーチンさん。

③今、舞台裏で構想されている英国-ポーランド-ウクライナ三カ国連携の強化です。
これは日本ではなぜかほとんど無視されていますが、このような内容です。

「キエフ、2月1日(ロイター)-英国、ポーランド、ウクライナは、新たなロシアの軍事介入の脅威に直面して、三者間の協力を強化するために取り組んでいる、と東ヨーロッパの2カ国の指導者は火曜日にキエフで述べた。
これにより、旧ソビエト共和国をNATOに近づけることができ、ここ数週間、ウクライナの国境近くに数万人の軍隊を集めてきた旧宗主国のモスクワに嫌悪感を抱くことができる。
英国のボリス・ジョンソン首相は侯述べています
「近い将来、ウクライナ-ポーランド-英国の新しい地域協力の形式を正式に開始できることを願っています。進行中のロシアの侵略に対して、地域の安全を強化するための協力関係を構築する三国間文書に署名する用意がある」と述べた」
(ロイター2022年2月1日原文英文)
https://www.reuters.com/world/europe/britain-poland-ukraine-preparing-trilateral-security-pact-kyiv-says-2022-02-01/

NATOの枠とは別に、複数の国がウクライナと連携して十重二十重に準同盟関係を作り出し、そのネットワークでウクライナを救援しようというわけです。
とりあえず今回は英国が軸になりましたが、同じように「活火山のような燐国」を抱えた同士が支えあうという仕組みで、これならNATOとは無関係に作ることができます。

このようなさまざまなウクライナ支援を教えてしまったのが、今回のプーチンの戦車外交でした。
たぶん興味津々でウクライナ情勢を観察しているはずの中国にも、いい教訓となるでしょう。

 

2022年2月10日 (木)

プーチンは、マクロンを待っていた

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どうやら露仏合意とは、なんのことはない「ミンスク合意」の線のようです。脱力しました。

「マクロン氏はこうしたロシアの意向をゼレンスキー氏との会談で伝達。会談後の記者会見で、紛争が続くウクライナ東部の和平協議で、2015年にいったん停戦が結ばれた「ミンスク合意」への支持をロシアとウクライナの両国から取り付けたと述べた。10日に仏独とロシア、ウクライナの4カ国の高官級協議をベルリンで開催し、合意の順守と、欧州の安全保障に関する新たな協議を実施するという」
(毎日2月8日)

ミンスク合意の三番煎じなら、プーチンが飲むはずです。
ミンスク合意とは、東ウクライナ2州の分割を固定化してしまい、ウクライナをロシアの意のままに従えるためのものですからね。
小泉悠氏はこう述べています。

「ミンスク合意は、2014年9月に結ばれた第一次ミンスク合意とその追加議定書、そして2015年2月の第二次ミンスク合意から成る。
このうち、第一次ミンスク合意ではドンバスの紛争地域(「ドネツク人民共和国」及び「ルガンスク人民共和国」を自称する武装勢力によって実効支配されている)に対して一時的に「特別の地位」を与えることが求められているが、第二次ミンスク合意では、これを改正憲法と恒久法に基づいたより固定的な地位とすることが定められた。
このようにしてウクライナの分裂状態を固定化することにより、同国がロシアに対して逆らえない状態を作り出すことがその目的であったとされている。
それだけにウクライナ側は第二次ミンスク合意の完全履行に二の足を踏み続けてきたが、7月のプーチン論文は、もはやロシアは時間的猶予を与えるつもりはないことを宣言する「最後通牒」であったと言えよう」
( 小泉悠『米露首脳会談でも止まらない ロシアによるウクライナ侵攻の危機』)
https://news.yahoo.co.jp/byline/koizumiyu/20211210-00272010 )

エルドアンが仲介した場合も、同じようなものになったはずです。
交渉の舞台がパリに替わるだけのことで、ロシアやウクライナ、欧米やロシアなどで構成されるOSCE(欧州安保協力機構)が開かれ、それに自称「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」らが加わった「平和会議」が行われると思われます。

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こんな「合意」をいくら作っても、双方守る気がないためにしばらくたつとまた元の木阿弥になるのは目に見えています。
前回のミンスク合意は、2州の親露派武装勢力が協定を破ったために自然消滅しました。

ウクライナ大統領が、「私は言葉は信じない」といっているのはその苦い経験があるからです。
たぶんOSCE監視団が入るだけのことで、本来ロシアが出すべき担保がありません。
たとえばウクライナ国境から100㎞以内の地域と空域にロシア軍を接近させないといった緩衝地帯保証がないと、ウクライナは落ち着かないでしょう。
あるいは米軍部隊のウクライナ駐屯ですが、こちらはバイデンがするはずがありません。

ところで、マクロンはベラルーシからの撤収を「聞いた」としています。

「8日、ロシアのペスコフ報道官は「そもそも、演習後もベラルーシにとどまるとは、誰も言ってない」と話し、7日に行われたフランスとロシアの首脳会談後、フランス大統領府も、演習後にロシアの部隊が撤退することを確認したと明らかにしました。
さらに、ロイター通信は、匿名を条件にしたフランスの政府当局者の話として、プーチン大統領がウクライナ周辺で当面、新たな軍事行動を起こさないことに同意したと報じています。
ただ、ロシア側の確認は取れていないということです」
(テレ朝2月9日)

これも言質がありませんが、これが真実ならば、ロシア軍は首都キエフを北から狙わないという妥協案を出したことになります。

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日経

ロシアはその国力から見て、貧弱な補給能力しかもたないという指摘を先日紹介したことがありました。
彼らのロジスティック能力からすれば、せいぜい100マイル(約160㎞)ていどしか補給線が伸びないのです。
静岡県立大学准教授・西恭之氏は、ロシア軍の兵站能力についてこう述べています。

「ロシアは十数万人の兵力、兵器、物資をウクライナ国境付近へ鉄道で展開し、極東からも輸送を続けている。しかし、プーチン大統領がウクライナ侵攻を命令した場合、線路の末端から前線への物資の輸送も、前線で故障した兵器の鉄道線路への輸送も、トラックが担うことになる。
ロシア陸軍のトラックが国内の物資集積地と往復して支援できる攻勢作戦は、ウクライナ南東部の現在の前線にいるウクライナ軍を包囲殲滅するといった、国境から100キロほどの作戦に限られる。
それより遠いキエフなどへ機械化部隊を進めるには、第一段作戦の後、占領地の線路を修理して物資集積地を前進させる必要がある」
『NEWSを疑え!』第1020号(2022年1月17日特別号)

つまり元々ロシア軍の能力からすれば、東部国境から100~160㎞程度の範囲に限定された軍事行動しかできないということになります。
とすると、3方向から包囲するというシナリオは実は過大評価で、実際はドニエプル河以西が進攻限界だったのかもしれません。
ベラルーシに置いたロシア軍は初めから張り子で、演習が終了すれば撤収予定だとしてもおかしくはないわけです。
だから簡単に撤収させて、いかにも妥協しましたという顔ができるのです。

すると、あんがい私たちはプーチンの仕掛けた罠にはまってしまったのかもしれません。
そもそもプーチンにとって、ウクライナ進攻は最悪の選択で、それ以前に調停者がでることを予想し、力一杯ハンマーを振り上げて見せたのでしょう。
ウクライナに西から進攻すればドニエプル河で阻止され、北からキエフを狙えば首都占領はかなうでしょうが、ウクライナ政府は西へ逃げて、縦深が西へ拡がっているウクライナの深い懐に引き込まれます。

それがなにを意味するのでしょうか。
ウクライナ・ナショナリズムの本拠地である西部に引き込まれれて、周囲の住民すべてが敵である第2のチェチェンが再現されるということになるはずです。
ロシアへの怒りと敵意に満ちた他国領土に深入りすれば、ただでさえ薄い兵站線はウクライナ軍のゲリラ活動で寸断され、たちまち孤軍と化していきます。
しかもチェチェンとは違って、国際社会が注視しています。

ウクライナ・ナショナリズムの本拠地である西部に引き込まれれば、まさに第2のチェチェンが再現されます。

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チェチェン紛争 出典不明

また南から強襲揚陸艦で海軍歩兵がオデッサに進攻しても、彼らの力は数個連隊ていどですから長期の占領は不可能です。
ここでも出てくるのが兵站の維持です。
黒海を使っての補給には限界がある上に、黒海は公海ですから西側艦船の妨害が頻発するでしょう。

したがってロシアの本筋はあくまでも地続きの西からの進攻で、それも100マイルていどの限定進攻を本筋としていたと考えられます。

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CNN

とすると、プーチンは力一杯こぶしを上げるパーフォーマンスしつつ、マクロンのような賢しげな調停者がでてくるのを待っていたことになります。
米国筋は、傍受したロシア情報機関の通信記録から、ロシア内部でも、ウクライナ進攻はコストと流血からして合わない算盤だという声が上がっていることを伝えています。

「それでもロシアの国防担当者は、事態がより困難なものになると認識しているようだ。ある欧州の高官は「我々の評価したところ、明らかに(ロシアの)国防要員の中には、実際の作戦がどのようなものなのかあまり理解していない人々がいる」と述べた。そのうえで、当該の要員らは「こうした作戦の成立が極めて困難」だと考えているようだと付け加えた。
諜報活動に詳しい別の情報筋は、ロシアが過去2カ月間にわたり作戦を進展、拡大する中で、同国の高官からも懸念の声が上がっていることを示唆した」
(CNN2022年2月 8日)

ありえる話でしょうね。
ロシアにとっても、ウクライナに進攻するのはまったく合わない冒険なのです。
ロシアには首都キエフを落とし、ウクライナ全土に進攻する力はなく、東部地域に限定された軍事行動が精一杯だったのです。

つまりプーチンは、マクロンを待っていたのです。

2022年2月 9日 (水)

腰が抜けたドイツ、奮闘するフランス

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開戦がカウントダウンの状況です。
ロシア軍の終結が7割方終了したとの情報が、米国筋から出ています。

「(CNN) 米当局の推定によると、ロシアのプーチン大統領はウクライナへの全面的な侵攻作戦に向け、すでに必要な兵員、兵器の7割を国境に集結させたとみられる。事情に詳しい米当局者2人が語った。(略)
ロシアによる兵力増強のペースが改めて浮き彫りになったが、さらなる増強にどれくらいの時間がかかるのか、また実際の侵攻に100%の兵力が必要なのかは明らかでない」
(CNN2022年2月6日)

おそらく短期間で首都キエフは陥落するでしょうが、どの時点でロシア軍が進攻を停止するかわかりません。
西部ウクライナまで一気に進攻するとなると、ウクライナ軍と市民に5万から7万5千人、ロシア軍にも1万人以上の死傷者がでると見積もられています。
そしてウクライナ西部では長期のゲリラ戦が続くでしょう

「米政府高官が3日に上下両院の議員に非公開でウクライナ情勢について説明した。米紙ニューヨーク・タイムズなどによると、全土を制圧する最大規模の軍事侵攻に踏み切れば、民間人で2万5000人から5万人、ウクライナ軍で5000人から2万5千人、ロシア軍で3000人から1万人の死傷者が出る可能性があると試算した」(日経2022年2月6日)

具体的にCNNは、最大500万の難民が発生し、その多くはポーランドに流入すると報じています。
このような事態になった場合、ウクライナを見捨てたヨーロッパ、特にドイツの道義的責任が厳しく問われねばなりません。
ウクライナは防空システムや対戦車ミサイルの緊急供与を求めていましたが、ドイツはヘルメットを送るという悪いギャグのような対応をして、しかもあろうことか他国の援助まで妨害し、海軍高官のプーチンを称賛する発言まで飛び出す始末です。
こんなとぼけたまねができるのは、ポーランドがロシアの地勢学的楯になっているからですが、そのポーランドにウクライナ難民が溢れたら一体誰の責任なのでしょうか。

シュルツ独首相が先日訪米しました。
とうぜん最大のテーマはロシアとのパイプライン「ノルドストリーム2」の閉鎖問題であるはずですが、会談中は双方ともふれなかったようです。
シュルツはメルケル政権の財務相でしたが、かねてからノルドストリームを政治的に利用しないという言い方で支持してきました。

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ホワイトハウス ショルツ独首相

独メディアのビルドは、「ショルツ首相が米国に譲歩したのは“すべての選択肢がテーブルの上にある”という表現を引っ込めただけで、肝心の“ノルド・ストリーム2”には一言も言及することなく『約束します何とかします』で首脳会談を切り抜けた」と報じているそうです。
ドイツは、ノルドストリーム2の主要幹部に、元首相でシュルツと同じ社民党出身のゲアハルト・シュレーダーが参加しており、さらに露国営ガス会社「ガスプロム」の取締役にまで就任するという癒着ぶりです。

「ガスプロムは6月30日に開く株主総会で取締役を選任する。ロシアのプーチン大統領と親交のあったシュレーダー氏は首相退任後にガスプロムが出資するガスパイプライン運営会社の会長に就任。2017年にはロシア国営の石油会社、ロスネフチの会長に就任しロシアの資源ビジネスに深く関わっている」
(日経2022年2月5日)

ガスプロムは世界3位の時価総額を持つ巨大なエネルギー国策企業で、元大統領メドベージェフが就任直後の2008年6月まで同社会長を務め、2001年社長に就任したアレクセイ・ミレルはロシア大統領を務めたプーチンの片腕でした。
ソ連時代の石油鉱業省をそのままはらいさげてできた典型的なオルガルヒ(新興財閥)で、プーチン政治と密接な関係を持っています。
政策的にも、プーチン政権の指示どおりに動いているとされていて、プーチンの顔色次第で供給をしたり切ったりしてきました。

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朝日  個人的にも親密なシュレーダーとプーチン

ドイツにはロシアのオリガルヒとのビジネス上の繋がりがある政治家達が多数存在し、シュレーダーがその代表者です。
彼らは連立多数派の社民党と連携して、制裁にノルド・ストリーム2を使うという米国の提案に抵抗してきた背景があります。
そのためにショルツ首相は、訪米においてノルド・ストリーム2制裁がテーブルに乗ることに全力で阻止してきたとされます。

しかし会談中にはふれられなかったものの、会談後の共同記者会見ではバイデンから「ドイツは完全に信頼できる、完全に完全に徹底的に信頼できる。ロシアがウクライナを侵攻すればノルド・ストリーム2は終焉する」とまで言われてしまっていますから、もはや泣いても笑ってもノルドストリーム2は制裁の対象となることでしょう。

ドイツ政権は2000年以降、ロシアと親密な経済関係をもつシュレーダー、続けて同じく親露派のメルケルの下、相互利益や繁栄、安定と称してロシアとの関係にズブズブとのめり込んでいきます。
方やプーチンは、こうした相互依存関係につけ込むことでドイツの弱点を割り出し、それを悪化させてきました。

「プーチン氏はドイツの罪悪感を巧みに操作してもいる。多くのドイツ人がナチスによる東欧諸国への残虐行為とロシアを結びつけている状況を利用しているのだ。割合からいえばロシアよりも東欧諸国のほうが大きな犠牲や破壊を被ったが、ポーランド人やベラルーシ人、ウクライナ人はほとんど共感を得ていない。東欧諸国が第2次大戦中の独ソ協力や1945年以降のソ連占領で払った代償について、ドイツ人はほぼ無視している。
このため、ドイツはロシアの脅しに最も弱く、またプーチン氏を尊敬と理解に値する人物と見なすことに最も前向きだ。ドイツ人の目には時に、プーチン氏は強い指導者であると同時に、欧米の容赦ない圧力によって窮地に追い込まれた被害者とも映る」
(CNN 2022年2月3日) 

先日も書きましたが、この贖罪意識こそプーチンがドイツに向けた最大の武器なのです。
それにしても、日中関係と独露関係が余りに似ていることに改めて驚かされます。

ところでこういう腰くだけ状態ドイツを尻目に、フランスの最後の仲介が精力的に続けられています。
マクロンはEU議長国という立場を最大限利用して、ウライナ危機が発生して以来、活発な外交活動を展開しています。
7日にはモスクワでプーチンと会談し、その後キエフでゼレンスキーと会談する予定です。
同時にバイデンとも何度か電話会談をし、ウクライナ危機の外交的解決を進めてきました。

訪露した折に、マクロンは実に5時間もプーチンと会談しており、一定の仲介案を携えてウクライナに飛んだようです。

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ロシア大統領府

「ロシアを訪問したマクロン大統領とプーチン大統領の会談は5時間以上も続く異例の長さで、ウクライナ問題やロシアの安全保障に対する懸念を解決するため様々なのオプションが話し合われたと報じられており、会談後の共同記者会見でプーチン大統領は「マクロン大統領が提案した幾つかのアイデアは状況打開の助けになるかもしれない」と明かしたが、両首脳とも会談で協議されたアイデアを発表するのは「時期尚早」として具体的な内容を伏せた」
(航空万能論2022年2月8日)

果たしていかなる内容だったのか、公表されていないためにわかりませんが、内容的にプーチンに歩み寄ったものだと推察されます。

「しかしプーチン大統領は「この問題は非常に複雑で、だからこそ私達は何時間も話し合った。マクロン大統領は明日キエフに向かいウクライナの指導者達と協議を行うが恐らく難しい時間を過ごすだろう。彼はキエフで会談後にウクライナの指導者達が何を受け入れ何を受け入れなかったを私と再び協議することになっており、この内容に応じて次のステップを構築していく」と明かしているため、ウクライナ問題やロシアの安全保障に対する懸念を解決するため何らかの条件設定がマクロン大統領とプーチン大統領の間で行われ、これを携えマクロン大統領はウクライナの説得を試みるのだろう」
(航空万能論前掲)

なお、ショルツも訪米後、14日にはキエフを訪ね、15日はモスクワでプーチンと会談することになっています。
どんなことを言うのか、今から分かってしまうのが哀しい限りです。
現実にウクライナ進攻が起きた場合、ドイツはバルト3国でのNATO作戦へドイツ連邦軍を参加させ、領空警備を増やす見通しです。
「領域警備」というとご大層なかんじですが、せいぜい戦闘機数機をポーランド上空に飛ばしてパーフォーマンスする程度の衛生無害な「軍事行動」です。

いずれにしても進攻した場合、ロシアに対しては、前回のクリミア制裁が生ぬるくかんじるような最大級の制裁が加えられるでしょう。
ただでさえ脆弱なロシア経済は、すべての原油輸出を封鎖されて、完全に破綻に瀕します。
前回のクリミア進攻はサイバー戦を駆使した詐欺的手法で奪取し、死傷者ゼロですみました。
これがプーチン人気の回復につながったのですが、今回2回目の再進攻においてアフガン以降最大の戦死者が出ると見られています。
これらの事態を受けて、ロシア国民がどのように考えるかによって、プーチンとロシアの未来は決定されます。

 

※改題しました。

2022年2月 8日 (火)

崩れたロシア幻想その4 貿易統計からみる中露関係

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前回見てきたように、幸か不幸か(もちろん幸いにもですが)日本は「東のドイツ」になることに失敗しました。
それは競合する相手がいないドイツと違って、アジアには中国という巨大な経済大国が控えていたからです。

かつてのロシアには、極東地域を中心として根強く中国脅威論が存在しました。
原因は、ロシアと中国の経済力の格差があまりに開きすぎたことです。
ロシアがLNGを売るだけしかない発展途上国もどきの資源国家に転落したのに対して、隆盛する製造業を抱えた中国との格差は、後述しますが貿易構造の不均衡として現れました。
ちなみに、旧ソ連においての航空機、造船産業などの重工業は東ウクライナに配置されており、この奪還がウクライナ進攻の実利的目標です。
中国軍自慢の「殲11」ことスホーイ27と、空母「遼寧」は、いずれもウクライナ原産です。

それはさておきロシアにとって、自国の「勢力圏」としている沿海州や中央アジア、そして北極圏において、いつ何時中国との利害衝突が起きるかわからないと思われていました。
たとえば、このロシアの不安を裏づけるように、中国と直接国境を接するロシア極東地域では中国の不法移民が膨張し、「静かなる拡張主義」と呼ばれてい時期もあったのです。
この中国人低賃金労働者の大規模な流入は、ロシア領内での中国人による森林の違法伐採など環境問題ともリンクして、ロシア極東市民らに中国脅威論を植えつけていました。
中国人に沿海州が乗っ取られると心配したのですね。

この様相が一変したのは、前回見てきたように2012年以降にプーチンがとった「東方シフト」によって、中国資本が大量になだれ込んだことによります。
この東方シフトは中国経済の勃興期のさなかにあたっており、一方のロシアはすぐにクリミア進攻を受けての経済制裁にぶつかった時期でした。

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ロシアルーブル為替レート(円/ルーブル,ルーブル/ドル)長期推移

上図をみると2014年のクリミア進攻による経済制裁でルーブルが投げ売られているのがわかります。

つまり、 この東方シフト 始まった時期こそ、通貨ルーブルの価値が半減してしまうような経済危機と並行していたのです。
そしてロシア人は、中国人を使う立場から、中国企業に使われる立場に変化します。

また、中国からの出稼ぎ労働者の数は激減する一方で、激増したのがカネを景気よくばらまく中国人観光客でした。
2019年には、ウラジオストクなどの沿海地方を訪れた外国人観光客の半分は中国人です。
このあたりには日本に似ています。

いまやかつて武力紛争まで演じた国境を流れるアムール河には、大鉄橋が架けられています。

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国境を跨ぐ握手」 中露黒竜江大橋が接合され橋面施工段階へ--人民網

「中国とロシアが共同建設中の初の国境をまたぐ道路橋が2019年6月に接合され、正式に橋面系施工段階に入った。中国の黒竜江省黒河市とロシアのアムール州ブラゴヴェシチェンスクを結ぶ黒竜江(アムール川)大橋は31年の年月を経て、「大河の両岸から手を振る」状態からついに「大河を跨ぐ握手」を交わすことを実現した。 中国新聞網が伝えた」
(中国人民網2019年6月6日)

この黒竜江大橋が計画されたのが2016年、つまりプーチンの東方シフトと連動しているのがわかります。

ロシアの対外関係も激変しました。
当時、G8に参加し西欧との協調路線はクリミア紛争で破綻し、ロシアは深刻な国際敵孤立を味わっていました。
欧米からは激しい批判を受けただけではなく、経済制裁まで加わるに至って、ロシア経済は万力のように締めつけられていました。
プーチンが安倍に少しいい顔をしてみせたのは、この経済制裁をなんとか切り崩す突破口を見つけたかったからでしょう。

この時、ロシアの「盟友」となったのは、中国でした。
国連安保理常任理事国という立場を利用してロシアに助けの手を送るだけではなく、LNGを大量に買んでくれました。
エネルギー爆買いに走る中国と、原油しか売るものがないロシアの利害が一致したのです。
ここに至って、ロシアの「東方シフト」は完全に「中国シフト」へと転換します。
もはや日本が入り込める隙間などまったくなかったのです。
日本にとっても実にラッキーでした。
安倍氏がこの罠にハマって制裁解除に走り、パイプラインをシベリアから引くなどと言い出したら、今頃どうなっていたことやら。

では、経済統計から中露関係を具体的におさえておきましょう。
ロシアの最大輸出品目はLNGであり、輸出額全体の48.6%を占めています。
したがって原油相場が上がればルーブルは強くなり、下落すれば安くなり、経済成長もそれに同調します。

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ロシアルーブル特別レポート | SBI FXトレード

2020年には原油相場の暴落で壊滅的となり、21年には持ち直したものは原油価格が1バレル=70ドル台での推移しているからにすぎません。

「ロシアは、輸出の6割以上を原油や天然ガスなどの鉱物資源に頼っており、資源価格の変動がロシア経済を大きく左右する構造となっています。その中でロシアの原油生産量は、サウジアラビア、アメリカに次ぐ第3位(2019年米CIAワールドファクトブックの公表データ)となっており、原油価格の動向はロシア経済を左右します。過去に、石油価格が140ドルを上回った2008年のロシアのGDP成長率は9.0%超まで上昇し、原油価格が一時20ドルを下回った2020年には成長率がマイナス7.8%まで低下するなど、ロシア経済にとって原油価格の動向は重要と言えます」
(SBIロシアルーブル特別レポート)

次いで、鉄鋼(5.3%)、貴金属等(3.1%)です。
その輸出先は、ヨーロッパ17%、次いで中国15%です。
経済産業省『ロシアのマクロ経済動向』
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2018/2018honbun/i1250000.html

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経済産業省

一方ロシアの輸入品目では、一般機械が20.0%と最も多く、次いで、電気機器(11.8%)、車両及び同製品(9.4%)と全体に占める割合が大きい

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 経済産業省

輸入相手国をみると、EU諸国が38.0%、中国が21.2%、米国が5.5%と続き、前年からの伸びをみると、中国が伸びています。

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そして中露の貿易依存度は、2008年を境にして対中依存度が逆転していることです。

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第5節 ロシア及び中央アジア:通商白書2018年版(METI/経済産業省

特にロシアの最大のLNG販売先は、いまや中国になろうとしています。
いまやサウジを抜いてロシアが最大の原油供給国となろうとしています。

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中国石油市場を巡るロシアとサウジアラビアの動向 | 住友商事

このように中露は、経済的に別ちがたい相互依存関係にあることがお分かりでしょう。
例えば、ロシアの対外貿易に占める中国の割合は、2013年の10.5%から、2019年には16.6%まで伸びる一方、経済制裁で輸入が減った欧州からの機械設備に取って代わったのも、主に中国からの輸入でした。
金額ベースで見ても、2018年には両国間の貿易高は1000憶ドルという大台に乗り、2024年までに2000憶ドルを目指すことで合意しています。

このように強い経済関係を持つに至った中露両国は、政治的に相性がいいのは、いうまでもないことです。
共に絶対君主にも似た独裁的指導者を頂き、他国を侵略し続けることをためらわないならず者国家です。
これについてはあえて書く必要もないはずです。

「人権や言論統制など、欧米諸国の民主主義の理想と大きく乖離する両国は、いずれも欧米とは異なり互いに内政不干渉の立場だ。
そうしたなかで起こった2014年のクリミア併合後のロシアの孤立、特に米国との間の激しい対立と経済制裁は、ロシアの「東方シフト」を「中国シフト」へと向かわせ、結果的に日本という選択肢をさらに縮小させる結果へと導いた」
(吉岡前掲)

ウクライナ進攻の構えがどのような結末になるか分かりませんが、実際に進攻するか否かを問わず、ロシアの孤立は凄まじいものになるのは避けられないことです。

 

2022年2月 7日 (月)

崩れたロシア幻想その3 ロシアは対中牽制になりえない

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2回にわけて、プーチンとの北方領土交渉の失敗について書いてきました。
結論的に言えば、かつても今も、ロシアには北方領土返還の意志はありません。
プーチンは、憲法を変えて「領土の割譲」を禁止し、さらには第2次大戦戦勝祝賀大会を世界の独裁者らを集めて行ってみせた男です。
これはいみじくもラブロフが言うように、「第2次大戦の結果を認めよ」という意味であり、歴史を正当化し、一寸たりとも譲らないという姿勢としかとりようがありません。
このような人物にとっての北方領土返還とは、すなわち権威の失墜以外のなにものでもない以上、返還の可能性はゼロです。
したがって、プーチンが匂わせるいかなる領土取引にも応じるべきではないのです。
それに応じること自体が、日本の国益の損失につながります。

一般論ですが、戦争で失った領土が平和的に返還された例は存在しません。
いやな表現ですが、戦争で失ったものは戦争においてしか取り戻せないのです。
世界史的に見ても、その唯一の例外は沖縄で、それが故に佐藤首相はノーベル平和賞を授与されたのです。

ただしだからといって、我が国はいかに虚しく思えようとどこまでも北方領土交渉自体を止めるわけにはいきません。
なぜなら、これは尖閣と同様に日本の主権の問題に関わることだからです。
一度でも自国領を不法占領されていることを肯定してしまったら、その瞬間にわが国はロシアの不当な実効支配を認めたことになってしまうからです。
この北方領土問題については、なまじワケ知り顔の佐藤優氏や鈴木宗男氏の言説は信用されないことをお勧めします

さすがこの強大を誇ったプーチン帝国も、先が見えてきたような気がします。
ロシアは、クリミア制裁によって疲弊した経済を抱え、世界有数のコロナ患者を抱えたまま軍事コストの重圧に押し潰されようとしています。
プーチンが国内において強力な支配体制を持っていることは確かですが、それは民主主義を刈り取った荒れ野に暗殺者を跋扈させているからにすぎません。

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CNN.co.jp : ウクライナ国境付近のロシア軍、直近24時間でさらに増強

今回、プーチンは起死回生の大勝負に打って出ました。
全力で自慢の軍隊を全国からかき集め、ウクライナを取り囲み、西側をひれ伏させ、旧ソ連圏諸国を再び属領にさせることが可能だと踏んだのです。
そのために、今のロシアに可能なかぎりの軍事的リソースを投入しました。
予備役を根こそぎ招集し、遥か遠くのシベリア軍団までも鉄道で呼び寄せたのです。

しかし忘れてはいけません。
このウクライナを取り囲んだ12万とも言われる膨大な軍隊は、待機させるだけで膨大なコストを要するのです。
彼ら12万人の食料、燃料、医療体制などの兵站が、どこまでそれに耐えられるでしょうか。
待てば待つほど、兵站は伸びきったゴムのようになり、士気は衰え、ロシア軍は急激に不利になっていきます。
そのように考えると、もうプーチンに残された時間は、私たちが考えるほどないのかもしれません。
つまりウクライナ進攻の軍事的構えは、プーチンの強みではなく、弱みなのです。

さて、プーチンを巡る三つ目の幻想は、プーチン幻想の最たるもので、北方領土交渉の次元を超えて対中戦略パートナーになることを構想したものです。
さすがに二島返還論にひっかかった私も、これには引っ掛かりませんでした。
しかし希代の戦略的思考の持ち主の安倍氏ですら、ロシア宥和論の言い訳として考えていた節がありますし、民間では及川幸久氏や馬淵睦男氏などがいまだに提唱しています。

特に2012年は、ロシアの「東方シフト」において、エポックメーキングな年となりました。
ロシアは極東ウラジオストクでAPECを開催したほか、極東発展省という極東の開発を専門とする政府機関を新たに創設しました。
この年からロシアは極東への投資誘致に向けた経済特区制度を整備し、ウラジオストクでプーチン自らが参加する大規模な東方経済フォーラムを毎年開催するようになっていきます。
これがプーチンのいわゆる「東方シフト」です

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東方経済フォーラム

これを見て、安倍政権は歓迎すると同時に、「中露が緊密に手を組む事態だけは避けなければならない」という中露同盟の危険性を察知しています。
安倍は、ロシアに「8項目の経済協力プラン」を提示し、極東振興について共同開発する意志を伝えましたが、後述しますが、その時すでに中国はそれをはるかに上回る利益を提示していたのです。
この経済で共同作業をしつつ信頼醸成を行い、一方で中国に安全保障上の利益を与えないとする安倍の考え方にはそうとうの無理がありました。
事実、自民党の河井克行総裁外交特別補佐が、2019年1月にワシントンでスピーチを行った際の、「日本のロシアへの接近は中国の脅威に日露が共同で対処するため」という発言に対して、ロシアから厳重な抗議がきたほどです。

ありていに言えば、ロシアの「東方シフト」は中国に対する媚態であって、わずかな北方領土の水産加工場などしか提示できない日本などお呼びではなかったのです。
更にロシアにとって敵陣営に属する日本との「友情」で、中国と安全保障上対峙することなど論外でした。

では、なぜロシアが中国に対する牽制を務めることを期待する考えが生まれるのでしょうか。
馬淵氏のいうような「世界政府に抵抗できるのはプーチン」うんぬんといった議論は論証不可能なので捨象しますが、一定の根拠は存在します。
最大の根拠は、ロシアと中国との間に世界最長の国境が横たわっているからです。

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日露首脳会談 対日関係を強化したいプーチン 中露蜜月は見せかけ

かつて私もこの長大な国境こそが中露を隔てる障壁となっていると考えていましたし、プーチンが押し寄せる中国人の波に対してある一時期まで危機感を持っていたのは事実ですが、今は変質しています。

「プーチン大統領は2000年の就任以降、ロシアの国土の大半はアジアに属すという点をことあるごとに強調し、ロシアのアジア太平洋地域への統合を目標に掲げ、その拠点となるべきロシア極東地域の振興を、「21世紀を通じた国家優先事項」に据えてきた。
プーチン大統領の意識のなかにあったのは、経済的に大幅に立ち遅れたロシア極東地域からの著しい人口流出への危機感と、国境を接する中国からの人口的・経済的浸食、つまりは同地域の「中国化」への強い警戒感があったとされる」
(吉岡明子 2021年1月13日キャノングローバル研究所) 

かつてのソ連時代には弟分として見下していた中国がいまやGDPはロシアの4倍以上、人口で10倍、軍事面でも拮抗する勢いを見せ、いまや上から目線となった中国に対して、ロシアの心中は穏やかではありませんでした。
とくに中露国境地帯ては著しい人口格差が生じており、2004年の国境確定以前には、中国の教科書にはロシアが北部の領土を略奪したと記されていて、ロシアは神経を尖らせていました。

このような状況を背景にして、たしかに一定時期まで、ロシア側も日本との関係を重視し、いわば「東方のドイツ」のような位置に日本をもってこられないかという議論が存在したようです。
カーネギー・モスクワセンターのドミトリー・トレーニン所長は、「ロシアと台頭するアジア」(2013年11月)というレポートのなかでこう述べています。

「中露関係は、首脳同士による「蜜月」の演出とは裏腹に、当時からさまざまな矛盾を抱えていた。
ロシアと中国の経済力の差は拡大する一方であり、両国間の貿易構造の不均衡は、ロシアが中国の産業発展に寄与する資源供給国の地位に落ちたことを意味した。経済的な面だけではない。ロシアが自国の勢力圏と目する中央アジアや北極圏においても、中国との利害がいつ本格的に対立するか分からない状況が当時から指摘されてきた」
(吉岡前掲)

しかしこのロシアの中国への警戒感は、大きく転換していくことになります。
まず、中露両国の最大の火種だった年来の紛争地だったアムール河流域の国境が、2004年に確定しました。

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朝日

アムール川の中露国境画定では、面積を折半する形で政治決着し、タラバロフ島(銀竜島)と、大ウスリー島(黒瞎子島)の一部が中国へ移譲され、住民には知らされず、突然立ち入りが禁止され、補償も一切なかったのだそうです。
そこまでしてロシアは歩み寄る必要があったのです。

ロシアは国境問題という刺を抜いてでも、中国資本を呼び込もうとしました。
それは米国を盟主とする世界経済からの脱却と、新たな世界構造への転換というプーチンの目標が、中国と見事に一致したからです。
閉ざされつつある西欧との経済関係から、アジア、特に勃興する中国にシフトすることでした。
プーチンが東方フォーラムをウラジオストークで定期的に開催しはじめるのはこの時期です。

「特に2012年は、ロシアは極東の街ウラジオストクでAPECを開催したほか、極東発展省という極東の開発を専門とする政府機関を新たに創設するなど、ロシアの「東方シフト」が目に見える形で具体化され始めた年となった。以降も、ロシア極東への投資誘致に向けた経済特区制度が整備され、ウラジオストクでは、プーチン大統領自らが参加する大規模な「東方経済フォーラム」が毎年開催されるようになる」
(吉岡前掲)

 そして今や、沿海州は完全な中国経済圏に入り、事実上の中国属領と化しています。
昔は単純労働者として使っていた中国人が、いまやロシア人を使っているのです。 

「今月 15 日、記者はロシア沿海州のウスリスク市内にある極東ロシア最大の在来市場(敷地 4 万 5,000 坪)を訪れた。 ここには卸売市場と中国市場があり、建物の上にはロシア国旗と五星紅旗(中国国旗)が並んで翻っていた。 広場にはトラックが 100 台以上並び、ロシアの人夫らが物品を下ろしていた。 市場内では、菓子商店、毛皮店、家電製品販売店に至るまで、商品はすべて中国製品が並び、中国人商人がそれを売っていた。
市場代表を務める高麗人(在ロ韓国人) 3 世のテン・アレクサンドラさん (56) は「2,000 店に上る商店すべてが中国人または中国人の委託を受けたロシア人が運営している。 中国がわれわれを食べさせてくれているわけだ。」と語った」
(朝鮮日報2008年12月30日)
http://ricky4968.web.fc2.com/menace_china/menace_e08.html

また2019年には、互いに喉から手がでるほど売買したいLNGのパイプラインが中国と繋がっています。

「露国営天然ガス企業のガスプロムと中国石油天然ガス集団(CNPC)は5月、年380億立方メートルの天然ガスを2019年から30年間にわたって輸出入する契約に調印した。パイプラインはこれに基づき、新規開発される東シベリア・チャヤンダ天然ガス田などと中国東北部を結ぶルートで敷設される。
プーチン露大統領は1日の起工式で「事業はロシアと中国の高い水準の協力によって可能になった」と両国の蜜月ぶりを強調。シベリア有数のバンコール石油ガス田の開発に中国企業の参画を認める考えも示した。ガスプロムとCNPCは、西シベリアの天然ガスをアルタイ地方経由で輸出する別のパイプライン敷設についても交渉中だ。
ロシア産天然ガスをめぐっては、主要輸出先である欧州市場でのシェアが約30%に低下、アジア太平洋諸国への輸出多角化が近年の課題となっていた。さらにウクライナ問題では欧州連合(EU)がロシア経済の屋台骨である資源分野を対象とした制裁を拡大する恐れがあり、それが10年以上も続いた中国向けガス輸出交渉の妥結につながった」
(産経2014年9月3日)

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露、中国ルートに活路 パイプライン新設着工 欧米制裁受け多角化

このパイプライン「シベリアの力」は、東シベリアから沿海州に至る世界最長で、4200 キロ、年間 8000 万トン輸送する予定で、ナホトカでは大規模石油化学団地の建設が進められ、サハリンでは 2008 年から埋蔵量 4840 億立方メートルの天然ガスの生産が始められています。
中国向けとしては年間 2000 万トンの原油を供給し、サハリンの天然ガスも全量中国輸入するとしています。
ちなみに、このパイプラインとその付属施設工事は中国企業がすべて落札しました。

このように、いまや沿海州のみならず、中国はヨーロッパ全域に匹敵する貿易相手国となっています。
そしてロシアは、今や中国との軍事同盟まで視野に入れようとしています。
このようなロシアについて、中国牽制のカードになると考えるのは、いくらなんでもひいきの引き倒しです。

 

※お断り 貿易統計を中心にした後半記事を入れて一回アップしましたが、じぶんで読んでも涎のようになが~い。
明日に加筆して回すことにします。

 

2022年2月 6日 (日)

日曜写真館 初嵐水颯々と声放つ

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朝月嵐となる 尾崎放哉

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見て置た嵐は黒き嶺の花 西詠

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蒼天の一刷の雲冬嵐 飯田蛇笏

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無常とや心に野分世に嵐 林翔

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嵐にも崩れぬものよ雲の峰 鬼貫

 

2022年2月 5日 (土)

崩れたロシア幻想・反省を込めて その2 揺らぐプーチン帝国

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北方領土反省会に戻ります。

私の判断ミスは、日露互いに強い保守長期政権だから親和性があるだろうという思い込みでした。
北方領土はロシア人の目から見れば彼らの大嫌いな「領土割譲」ですが、それをなだめられるのはプーチンをおいて存在しないと考えてしまったのです。
保守層をなだめられるのは、強い保守指導者しかいないのは一定の真実なのです。
慰安婦合意をしたのが、仮に鳩山氏や菅氏だったら保守層は猛烈な批判を加えたでしょう。
しかし他ならぬ安倍氏だったことで、この合意の裏にはそうせざるを得ないなにかが隠れているのだろうと、保守層が妙に納得したことに似ています。

互いに保守長期政権であることは惑星直列のようなミラクルですから、プーチンと安倍氏が在任中になんとかまとめてしまわないと、もう先が見えなくなるぞ、という気分に日本側が駆られてしまったのです。
まさにプーチンの術中にはまったというところです。
そしてそのプーチンが「ヒキワケ」という柔道用語を口にしたことから、北方領土2分割返還論が生まれます。
私自身も、この案の現実性は高いと思っていました。

「日露の平和条約交渉において次の大きな転機となったのは、2018年11月のシンガポールでの首脳会談だ。北方四島のうち、歯舞群島および色丹島の二島の日本への引き渡しが明記された「1956年日ソ共同宣言」を基礎に、平和条約交渉を加速させることでロシアと合意したのである。
これまで日本は、ロシアとの間で「北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結する」ことを交渉の基本方針としてきたが、シンガポール合意は、日本が「(最大で)二島」へと大きく舵を切った瞬間とも言え、その意味で日本の一大方針転換であった。
しかし、日本側の大きな決断にも関わらず、その後も交渉は難航。昨年7月には、領土割譲禁止条項が新たに加えられた改正憲法がロシア国内で成立し、今後の交渉の見通しがますますつかなくなるなか、安倍政権は退陣した」
(吉岡明子 2021年1月13日キャノングローバル研究所)

この時点で安倍は二つの交渉の失敗をしています。
ひとつめの決定的失敗は、2014年3月のクリミア侵略を受けても、ロシア融和策を変更せず、北方領土・平和条約交渉に邁進してしまったことです。
そして2016年5月には、オバマの反対を押し切って安倍自身が訪露し、ソチを再度訪問し、ロシアに「新アプローチ」という経済支援プログラムを伝えます。
そして続く同年12月には、プーチンを故郷山口に招くところまで前のめりになりますが、ご承知のようにプーチンはゼロ回答でした。

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山口県長門市湯本温泉・大谷山荘での「日ロ首脳会談」

これは今思い返せば,重大な失敗でした。
クリミア進攻に対して課せられていた制裁に、わが国も加わりながら、バックドアではプーチンに宥和してしまったからです。
日本の信義違反ととられても致し方なかったかもしれません。
いわばメルケルのノードストリームに似た役割を、北方領土交渉はしてしまったわけです。
ですから、ことプーチン対応となると西と東の主要国が同じような融和策を演じてしまったことになります。
メルケルと安倍、いずれもしたたかな猛者を手玉にとリ、しかも踊らされた事に当人たちは気がつかないのですから、たいしたタマです。

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そして二つ目は、2018年9月の東方経済フォーラムにおいて、安倍は「今やらないで、いつやるのか、我々がやらないで、他の誰がやるのか、と問いながら、歩んでいきましょう」とプーチンに直接呼びかけ、プーチンはこれに答えて「今、思いついた。あらゆる前提条件をつけず、年末までに平和条約を結ぼう」「争いのある問題はそのあとで、条約をふまえて解決しようじゃないか」とアドリブで答えています。
確かに見応えのある老練な首脳外交でしたが、ここで安倍は2島返還論に正式に舵を切ります。
しかしこの後、プーチンは「領土割譲禁止」を盛り込んだ憲法改正に着手します。
安倍の強すぎる北方領土解決への野心と、過度なプーチン個人への信頼感が安倍の目を曇らせたのです。

ところがどっこいプーチンの政治基盤は、外から見るほど磐石ではなかったのです。

「プーチン治世において、確かに政治・経済の隅々まで「権力の垂直化」が図られてきたことは事実である。しかし、石油や天然ガスといったエネルギー資源、あるいは巨大化した国営企業に依拠した垂直型の経済システムは、既に10年ほど前からほころびを見せ始めており、2014年以降は、そこに原油価格の低迷と欧米諸国からの経済制裁も加わった。プーチン政権下のロシアを、ソ連末期の「停滞の時代」とまで比喩する論が、ロシア国内でも散見されるようになっている。
経済が停滞すれば、経済的な利権構造を基盤に築かれたロシアの政治システムそのものも、同時にほころびを見せ始める。エネルギー資源や国営企業に依拠する経済の構造改革が、大統領の掛け声に反して遅々として進まないのも、それらが政治の利権の温床になってきたからだ」(吉岡前掲)

経済の低迷が続くなか、2018年のロシアの統一地方選挙で、いくつかの地域で与党が敗北するという現象が起きました。
下図はレバダ・センターというロシアの調査機関は、毎月実施している世論調査で、国民が最高指導者のプーチン氏を信認しているか、いないかを長期的に跡付けています。
※参考資料 服部倫卓 『プーチン政権が陥った袋小路 「4つのロシア」論から読み解く』 朝日クローバル+
https://globe.asahi.com/article/12657828

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朝日グローバル+

上図はプーチン政権の支持率推移ですが、2014年、つまりクリミア進攻の年がグラフ中央に位置しています。
左端の2007年から2010年にかけては80%から90%という驚異的な支持率ですが(かえって怪しいですがね)、以後徐々に低落して2013年には6割まで落ち込んでいました。
これを一気にハネ上げたのが2014年3月のクリミア略奪ですガ、これも後の制裁ですぐに低落していきます。
特に国民に評判が悪かったのが、憲法の三選禁止規定を回避するため大統領職を首相のメドベージェフと交代したことです。
まるで国家を私物のように扱っているじゃないかという、非難の声が全ロシアからわき起こりました。
プーチンが、再び大統領に復帰する方針を示した2011年秋以降、プーチンの支持率は目に見えて悪化しました。
プーチンとメドベージェフが、国家をまるで私物のようにやり取りする様子に、少なからぬ国民が愛想をつかしたからのようです。

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ウィキ

ちなみにこのドミートリー・メドベェージェフは、プーチンとレーニングラード大学の同窓で、ペテルベルク副市長時代の部下です。
この人物を見ると、プーチンのもう一つの姿が浮きだしてきます。
メドベェージェフはこう述べています。

「ロシアには他の国と同じように特権的利益を持っている地域がある。特権的利益を持っている地域を保持していく。
特権的利益を持っている地域とはロシアの国境付近の地域を含むが、その地域に限定しない。
居住する場所に関係なく、ロシア人の生命を保護する。
欧米諸国や他の国と友好関係を築いていくが、米国の一極支配の世界は受け入れられない」
(ウィキ)

これが自国であろうとなかろうとロシアが「特権的な利益を持つ地域」があるとする「勢力圏」思想です。
メドベェージェフは北方領土交渉について、ちょうど1年前にもこんなことを言っています。

「ロシアの国家安全保障会議で副議長を務めるメドベージェフ前首相は、昨年の憲法改正を理由に北方領土問題を話し合うことは不可能だと明言し、「日本との平和条約交渉はテーマがなくなりつつある」と述べた。
 国家安全保障会議はプーチン大統領が議長を務める。メドベージェフ氏は「我々は憲法上の立場がはっきりした。我々にはロシア領土の主権を引き渡す交渉を行う権利がない」と述べた。平和条約交渉で日本と北方領土の共同開発について協議することは可能だとしたが、「日本国内では(北方領土の返還が)国民的コンセンサスとみなされているため、合意するのは不可能だ」とも話した」
(朝日
)

国家安全保障会議とは、かつてのソ連共産党政治局に似せて作られている政治最高指導部ですが、このメドベェージェフの「北方領土は交渉不可能」というのがロシアの公式見解である以上、いかなる幻想も持つことももはや無意味です。

話を戻します。
権力の入れ代わりなどをしていた上に、経済は振るわず失業者だけが増加するという状況の中で開かれた2011年12月の議会選挙で、プーチン政権は大規模な選挙不正をしました。
それを糾弾する民主化デモが、モスクワ中心部で大規模なに開かれることになります。
このような政治の私物化や民主化デモ、政権内の党派闘争の激化などの現象は、プーチン型政治システムのほころびを示すひとつの象徴でした。

深刻な事態に陥ったのは、このメドベージェフ率いる与党「統一ロシア」(エジーナヤ・ラシーヤ) の支持率低下でした。
ゴルバチョフは、「統一ロシアはソ連共産党の出来の悪いコピーだ」と評しています。

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 統一ロシアの支持率の推移(1ヶ月移動平均)JIIA -日本国際問題研究所

「上図が示すように、全ロシア世論調査センター(ВЦИОМ)の調査によると、統一ロシアの支持率は2008年以降低下傾向にあり、2011年下院選挙時には34%にまで下がった。
2014年のクリミア併合後の政権支持拡大の影響で統一ロシアの支持率も上昇したが、近年は再び低下傾向にある。特に、2018年の年金改革の影響は大きく、統一ロシアの支持率は再び30%台半ばにまで急落した。
そして、新型コロナウイルスの感染拡大がロシア経済に打撃を与えたことは、さらに統一ロシアの支持率を引き下げた。2021年に入ると、同党の支持率は20%台にまで低下し、結党以来最低の水準で下院選挙をむかえることになった」
(溝口修平・法政大学法学部国際政治学科教授2021年12月21日 日本国際問題研究所)
https://www.jiia.or.jp/research-report/russia-fy2021-05.html

このプーチンのレームダック化は2000年代を通じて顕著であって、2014年のクリミア進攻も上図中央の2014年に一時的に急上昇していますがすぐに下降を開始しており、直近の2021年にはとうとうレッドラインの30%を切る始末です。
そしてプーチンは、危機を迎えた独裁政権にありがちな世論の弾圧に走ります。

「このような状況下で選挙を戦うことを余儀なくされたプーチン政権は、反体制派や野党に対する締め付けを強化することで対応した。2020年夏の毒殺未遂事件後にドイツで治療を受けていたナワリヌイは、2021年1月にロシアに帰国するや否や空港で逮捕された。執行猶予中の出頭義務に違反したことが逮捕の理由とされ、その後裁判所はこの有罪判決を実刑に切り替える決定を下した。そして、ナワリヌイの拘束に抗議するデモが起こると、当局はここでも強制的な手段に訴え、数千人のデモ参加者を拘束した」
(溝口前掲)

そしてあげくが反体制指導者やジャーナリストや野党指導者が連続的に不審死を遂げます。

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邪魔者は殺す プーチン大統領のデスノート

この毒殺政治はいまやプーチンの定番となり、近年では野党指導者のナワリヌイを毒殺しようとして、ドイツから抗議を受けています。
収容所はないが、政敵は暗殺するのがプーチンのKGB流儀です。

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アレクセイ・ナワリヌイ氏
ロシア野党指導者、当局者が毒殺行為を「自白」する音声を公開


「ドイツ政府は2日、同国で治療中のロシアの野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏(44)について、神経剤ノビチョクによる毒殺が図られた「明確な証拠」があると発表した。
アンゲラ・メルケル独首相は記者会見で、ナワリヌイ氏は殺人未遂の被害者だとして、ロシアに国際社会への説明を求めた。
ナワリヌイ氏は先月、ロシア・シベリアを旅客機で移動中に体調が悪化。同国の病院を経て、ドイツ・ベルリンの病院に空輸された
(BBC2020年9月3日)

一時クリミア進攻で上昇した支持率はすぐにズルズルと下がり始め、それに反比例するようにプーチンは自らへの権力集中を進めました。
2020年の憲法改正によってプーチンが2036年まで大統領を続けることが可能になったことは、その象徴です。
しかし権力を強化しても政権や統一ロシアに対する支持率はいっかな上がらず、2018年には年金受給開始年齢の引き上げ、2020年5月のコロナ感染拡大による全国的なロックダウン導入と打撃を受け、とうとう政権成立後初めて支持率が60%、与党統一ロシアなど支持率が3割を切る始末です。

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ロシアの戦勝70周年記念日 したたかな習近平と親欧米国にとどまらない

「こうしたなか、国民の間に漂う閉塞感のはけ口として、あるいは政治システムにおける利権に代わる接着剤として、プーチン政権はこれまでも、大国主義とナショナリズムを利用してきた。近年では、これに加えて、第二次世界大戦におけるロシア(ソ連)の「歴史の正当化」というテーマも積極的に活用されるようになっている。2014年にロシアで成立した第二次大戦の記憶に関する法律も、プーチン大統領自身が2020年6月に発表した論文「偉大な勝利75周年~歴史と未来への責任」も、同大戦におけるロシアの正当性を強く主張するものだ」(吉岡前掲)

このような綱渡りじみた政権運営をしているプーチン相手に、国内では「領土割譲」ととられる北方領土返還交渉をしても無意味でした。
彼にはそのような力は既にありません
その意味でも、安倍氏はプーチンを過大評価していたのです。もちろん、この私も含めてですが。

今回の再度のウクライナ進攻のポーズは、このような背景から生まれています。
内政の行き詰まりを外征に転化する、古典的ですが独裁国家の常道です。
前回クリミアではこの内政の外征転化で成功したことが、プーチンの自信になっているはずです。
しかし前回と違うことは、ウクライナに再度進攻した場合、前回の無血奪取とは異なり多くの戦死者を予想せねばならないことです。
それをロシア市民は歓迎するかどうか。
そしておそらく最大限にかけられるであろう経済制裁を受容できるかどうか。
私は難しいと思います。
だからエルドアンに仲介を依頼したのでしょう。

というわけで、将来、北方領土交渉が再度ありえるならば、それはプーチン帝国が瓦解する時を除いてはありません。
その時期が訪れたなら、ためらわずに一気に北方領土交渉を押し進めんことを願います。
その時の交渉相手は、もはやプーチンではないかもしれません。
案外その時は近いかもしれません。

 

 

 

2022年2月 4日 (金)

トルコのエルドアン、仲介に乗り出す

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今日は北方領土反省会の2回目だったのですか、膠着した状況が少しずつ動き始めましたので明日に回します。
まずは、バイデンがポーランドとルーマニアに部隊を派遣するようです。

「緊迫するウクライナ情勢を巡り、米国のバイデン大統領は2日、米軍の欧州への増派を正式に決定した。国防総省は同日、米本土から部隊約2000人をポーランドとドイツに派遣するとともに、ドイツに配置されている米軍部隊のうち約1000人をルーマニアに展開させると明らかにした。派遣は数日中に行われる」
(読売2022年2月2日)

ドイツ駐留軍から東欧に派遣される1000人、本土から急派される2000人、そして出動準備に入っているのが8500人、締めて堂々の計1万1500人.約1個師団相当の兵力ですから、やっと米国の格好がついてきました。
もっと早くやっていればとも思いますが、米国の岸田であるバイデンのグズグズが、結果として緊張の頂点での大規模派兵という緊急冷却水の効果を生みそうな気がします。

さぁ、これでプーチンは下手を打つと、米国との限定戦争を覚悟せねばならなくなりました。
プーチンの思惑は次々にはずれています。

今回のプーチンの直接の目標は、東部ウクライナのハリコフではないかと目されています。
ハリコフは東ウクライナの工業地帯の中心であり、独立派がキエフを掌握したとき、ヤヌコビッチが国内亡命したのがこのハリコフでした。

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www.nikkei.com

プーチンは2014年のクリミア進攻を成功モデルと考えているはずですから、似たパターンで東部ウクライナを掌中に収めるつもりのはずです。
クリミアはソ連時代からの造船と軍需工業が盛んな地域でしたが、ハリコフはIT産業の中心地です。
クリミア進攻に際して、徹底したサイバー攻撃をかけられ情報をかく乱された西側とウクライナは状況をつかめないままに、一方的な住民投票でロシアへ編入されました。
これが世界初めて実戦で使われたハイブリッド戦争となりました。
いかにもKGBマフィアのボスが考えそうな戦略です。

プーチンはそれで止まるどころか、続いて石炭など鉱工業地帯のドンバス地域に、親露分離独立一派を使って自称共和国を作らせました。
そして今回はハリコフです。
このまま推移すれば、ウクライナのロシア語圏はすべて親露派の手に渡り、ウクライナは半分切り取られることになります。
下図でエンジ色のドネツク州とクリミア州がロシア語が非常に優位で、赤色が優位、そしてオレンジになるに従ってウクライナ語が優位になります。

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ウクライナ語とロシア語、全然違う問題について語りたい

今回もでてきた調停案の一つに、ウクライナの言語による連邦案がありましたが、これを認めてしまうとウクライナはエンジと赤の地域すべてを割譲することになります。

プーチンは、サイバー戦と泥臭い内戦を組み合わせた侵略を準備しています。
そのためにクリミアで成功したハイブリッド戦争をまた使おうとしています。
プーチンは軍事進攻はデマだと言いながら(どの口でいう)、12万とも言われる大軍で3方面からウクライナを包囲して危機を最大限煽りながら、ウクライナと西側陣営を不安定化させました。

またプーチンはマクロ的には、ヨーロッパに杭を打ち込み、西陣営をバラバラに分裂させることを狙っていました。
まずドイツは初めから腰が引けており、フランスもやる気なしで仲介案でお茶をにごそうとし、フィンランドやスウエーデンといったNATO非加盟国はロシアにすり寄り、ファイティグポーズを取ってくるのはしょせんポーランドと米英のみ。
そう思って始めたところ、NATOはドイツの馬鹿提督のおかげもあって意外に団結してしまい、北欧勢はむしろ早急の加盟が必要だと判断し、「親友」の中国からさえ北京五輪期間中に絶対に戦争なんかしないでくれと泣きつかれ、という誤算続きだったようです。(苦笑)

かくして、困ったプーチンはトルコに仲介を求めたようです。
さぁここで出てくるのが、トルコ大統領のタイップ・ エルドアンです。

「北大西洋条約機構(NATO)加盟国のトルコは、ロシアとウクライナ双方と良好な関係を築いているが、シリアとリビアにおけるロシアの政策、2014年のロシアによるクリミア併合には反対している。
エルドアン大統領は20日、2月にウクライナを訪問する考えを示し、「この地域で戦争が起きるという考えは、両国に関係を持つ国としてトルコへの動揺につながる。われわれの願いは、プーチン大統領とゼレンスキー大統領をできるだけ早く引き合わせることだ」と述べた」
(ロイター1月21日)
「 トルコ政府高官は31日、エルドアン大統領が2月3日、ウクライナを訪問しゼレンスキー大統領と会談すると明かした。ロシアによる軍事侵攻の懸念が高まるウクライナ情勢をめぐり、緊張緩和を図る。
トルコは、ウクライナ、ロシア両国と良好な関係にある。高官は、エルドアン氏が「地域の平和維持と緊張、対立激化の防止についてメッセージを伝達する」と説明した」
(ロイター1月31日)

いつ出るかと思っていましたが、やっぱり出ましたか、トルコの怪物。
きわどい時にきわどい奴がでてきたもんです。
エルドアンときたひにゃ、カウンタークーデターでトルコを独裁国家に堕とし、西側でありながらEUに入れてもらえぬ恨みからか、こともあろうに敵陣営の盟主であるプーチンに接近したといういわくつきの人物です。
しかもウクライナのゼレンスキーとも関係が深く、両陣営に足を突っ込んでいるということでは、この男以外に適任はいません。

ただしエルドアンの信用度は極めて低いと評価されています。
NATOに属しながら西側を裏切り、当てつけのようにロシアから最新の対空ミサイルシステムS400を導入するような人物です。
その一方、米国からはF-35を導入したいとしていましたから、あんたロシアの防空システムの前に最新スティルス戦闘機をさらしてみるんですか、ということになります。

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日経  ロシア製対空ミサイルシステムS400

米国は直ちにF-35の引き渡しを中止し、制裁を課したのはいうまでもありません。

「米国のポンペオ国務長官は14日、ロシア製ミサイルの導入を巡り、対ロシア制裁法に基づく対トルコ制裁の発動を発表した。米国や第三国の企業と金融機関がトルコ大統領府傘下の国防産業庁と取引するのを制限する。北大西洋条約機構(NATO)同盟国に対しては異例の厳しい対応で、両国関係に緊張をもたらす可能性がある。
トルコは2019年7月、ロシアから地対空ミサイル「S400」の搬入を開始した。米国はNATOの防衛機密が流出する恐れがあるなどとして反発していた。ポンペオ氏は声明で「ロシアとの防衛・情報分野での取引は容認しない」として、トルコに対して問題の即時解決を求めた」
(日経2020年12月15日)

おそらく米国はこれっぽっちもエルドアンを信用していないはずですが、エルドアンは今回の主要登場国すべてと関わっていますから、バイデンも仲介に乗る可能性が高いかもしれません。

一方、プーチンは、1月2日にエルドアンに電話して、ウクライナの将来的なNATO加盟を認めないよう釘を刺しています。
去年9月、エルドアンはプーチンとの会談で武器供与を要請していました。
武器システムは、供与国との距離をそのまま表しています。
武器体系は膨大なソフトを伴いますから、最新兵器導入に伴って多くのロシア人技術者や軍人が流入し、やがて部品供給やバージョンアップなどでロシアに強く依存するようになります。

「 ロシアのプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領は29日、ロシア南部の保養地ソチで会談を開き、シリア北西部の内戦激化への対応や、ロシアによるトルコ向けの軍事防衛システム追加売却の可能性について協議した」
(ロイター2021年9月30日)

実はトルコとロシア関係は二転三転しています。
従来はソ連の柔らかい下腹部である黒海の出入り口であるボスポラス海峡を擁した、反ロシア国の筆頭でした。
だから、イスラム国家にもかかわらずNATOにも加盟できたのですが、変化を見せたのはシリア内戦への介入がきっかけでした。
2016年、シリア内戦が停戦しましたが、その仲介者はロシアとトルコでした。
ざっくりいえば、アサド政権についたのはロシアとイラン、反政府側についたのが米国でしたが、この仲介によって反政府側の敗北が決定づけられました。

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露「シリア仲介役」狙う トルコと首脳会談へ | 毎日新聞

当初は米国サイドに立っていたはずのトルコが変身したのは、シリア内戦にクルド勢力が加わったからです。
トルコは国内にクルド人武装組織PKK(クルディスタン労働党)が存在し、政府軍と内戦を戦っていますから、仮に反政府側が勝利すれば必ずやトルコの情勢に跳ね返ると、エルドアンは考えたようです。
そう考えると変わり身が早いのが独裁者ですから、エルドアンはロシアのクルド勢力への援助打ち切りと引き換えに、シリア内戦の仲介を買って出たわけです。

以後、独裁者同士で相性がいいのか、プーチンとは極めて親密な仲なくせに、米国大統領とは犬猿の仲、という珍しい西側同盟国になったようです。
経済的にも緊密な関係で、2018年にはロシアと天然ガスパイプライン「トルコストリーム」 が開通しています。
これはロシアからトルコを経て、黒海を通過し南欧に伸びるものです。

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ロシアとトルコなぜ蜜月 「一触即発」からわずか3年:朝日

「トルコストリームによるロシアのガスの供給は、トルコと黒海地域の経済にとって重要であることは間違いないが、それに加え、多くの南欧諸国の発展にプラスの影響を与え、ヨーロッパのエネルギー安全保障そのものの改善にも資するだろう」とイスタンブールで行われた開業式でロシアのウラジーミル・プーチン大統領は語った。専門家らもこの見方に同調しているようだ」
(ロシアビヨンド 2020年1月16日)

プーチンがトルコストリームは、ロシアにとって「安全保障の改善になる」と言っていますから、北のノルドストリームがドイツの喉頸を締め上げることに成功したように、トルコストリームでトルコ、ギリシア、ブルガリア、そしてやがては延長してイタリアの死命を握りたいのでしょう。

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ロシアとトルコなぜ蜜月 「一触即発」からわずか3年:朝日新聞

「天然ガスパイプライン「トルコストリーム」の海底工事完成式典が11月19日、イスタンブールで行われた。壇上でトルコのエルドアン、ロシアのプーチン両大統領が声をかけると、中継で結んだ黒海上の大型作業船から、パイプラインの最後の連結部分が海底へ下ろされた。
 パイプラインはロシアからトルコへ、黒海の海底930キロを走る。エルドアン氏は「トルコは他国から圧力を受けてロシアとの関係を判断しない」と、対ロ協力に批判的な欧州連合(EU)や米国を牽制(けんせい)した。「天然ガスをどうまかなうか各国の決定は尊重されねばならない」
(朝日 )

今回も、すぐにプーチンから電話が来たようで、当然エルドアンはお任せあれと答えたことでしょう。

「一方、露大統領府によると、プーチン氏は2日、NATO加盟国トルコのタイップ・エルドアン大統領と電話で会談した。プーチン氏はウクライナの将来的なNATO加盟を認めないよう働きかけたとみられる」
(読売2022年1月4日)

では、ロシア大好き、米国大嫌いですからウクライナとは疎遠かと思えばそういうわけでもなさそうです。 

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ウクライナとトルコが急接近 「ロシアへの圧力」で一致

2021年4月には、ウクライナ大統領のゼレンスキー、経済や軍事の面で関係を強化のためにトルコを訪れ、エルドアンに歓待されています。

「ウクライナ、トルコの両首脳は▽クリミアの占領状態の解除▽ウクライナ東部の主権回復▽両国海軍の関係発展―などに向けて協力することで合意。クリミア併合に反対し、故郷を追われたイスラム系民族「クリミア・タタール」の支援も掲げた」
(東京 2020年11月18日)

今回のロシア進攻に対しても、エルドアンはすでに2021年11月の段階で、緊張の緩和に向けて「再起の平和のための支援」を行う考えを表明しており、相次いでロシアとウクライナ双方から仲介の依頼を受け、鼻高々でありましょう。

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具体的には、今後イスタンブールで、ロシアやウクライナ、欧米やロシアなどで構成されるOSCE(欧州安保協力機構)が開かれ、自称「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」らの代表者が参加する会議が行われると思われます。

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この場合の落とし所としては、2015年2月11日にベラルーシのミンスクで調印された「ミンスク合意」の二番煎じが結ばれる可能性が高いでしょう。
結果ですか、たぶんエルドアン仲介をとった場合、前回と同じことの繰り返しとなるでしょうね。
一時は落ち着いて平和が訪れます。
しかしそれはビアスの『悪魔の辞典』風にいえば、「平和とは二つの戦争の時期の間に介在する、だまし合いの期間」 にすぎません。
プーチンはハイブリッド戦争を継続し続け、ウクライナ東部の親露グループはミンスク合意破りの常習犯でしたから、再び紛争が再燃します。
しかし、「戦いたくない・戦えないNATO」は紛争国は加盟できない、という言いわけを半永久的に繰りかえす口実を得ることができるわけです。

 

 

2022年2月 3日 (木)

崩れたロシア幻想・反省を込めて その1

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皆様、たくさんのコメント、ありがとうございます。ジーンときました。
ブログを作る作業って、ちょっと魚屋みたいなところがあります。
しかも孤独な。
今日はイキのいいのが入っているよ、みたいなね。
そしていらっしゃる人の声を聞きながら、今日は手応えあった、なかったと一喜一憂するわけです。
今後も皆様の声といっしょにやっていくつもりです。
改めてもう一回。ありがとうございました。

さて、いきなりですが、すいません、認識を誤っていました。
ウクライナに対するロシアの姿勢を見て、ロシアに対する私の認識が根本的に甘すぎたことがわかってきました。
私の認識の甘さは、ちょうど3年前の2019年1月に書いた『北方領土交渉は最終直線コースに入ったのかもしれない』によく出ています。
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2019/01/post-ab5a.html

この記事は、2019年1月22日に控えた日露首脳会談前のラブロフとの会談後に書かれたものですが、私の記事は妥結までの最終ストレッチに入ったという誤った見方をしていました。
しかし現実には、ラブロフ外相はこう言っていたのです。

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「会談後、ラブロフ外相が単独で記者会見に臨み、北方領土におけるロシアの主権を認めるよう、日本側に改めて要求したことを明かした。
また、日本の法律で「北方領土」という文言が使われていることについて「受け入れられない」と反発したことや、平和条約について交渉を進めるにあたり、日本側が第2次世界大戦の結果をすべて認めることが必要だと伝えたという」(ハフィントンポスト2019年1月15日)
https://www.huffingtonpost.jp/2019/01/14/meeting-taro-kono-sergey-lavrov_a_23642564/

ラブロフ(今、ブリンケンとやりあっているこわもて男ですが)、当時の河野外相に愛想もこそもなくこう言っていました。
「北方領土問題などというものはない。この諸島の主権はロシアにあり、日本はそれが第2次大戦の結果であることを認めよ」
この意味するところは、「戦争の結果」に従え」、もっと砕いて言えば、返してほしくば戦争するんだな、、ということです。
ロシアという国は、建国の昔から一貫して、戦争で領土を拡げてきたのです。

そして私の大きな判断の間違いは、これを単なる危険球だと軽視してしまったことです。
ラブロフは交渉というと必ず課題な要求を出して最後通牒めいたことを言うのが習いなので、また投げやがったと思ってしまったのです。
ところが、これは外交交渉上のレトリックではなく、まさにロシアの真意でした。
2020年には、とうとう憲法に「領土割譲禁止」を入れたくらいです。

ところが2021年になっても、佐藤優氏はこう述べています。

「ロシアのプーチン大統領は4日、昨年7月に改正された憲法に領土割譲を禁止する条項が盛り込まれたことを踏まえ、北方領土問題について「憲法を考慮しないといけない」と述べた。この条項が領土交渉に影響する可能性を認めた格好だ。一方で「(日本との)平和条約交渉を止めるべきだとは思わない」とも語り、交渉継続に意欲を示した」
(毎日 2021年6月11日佐藤優 『北方領土交渉に対するプーチン大統領の意欲』)

そして佐藤氏はあの迫力のある顔で、ロシアが懸念する米国の中距離ミサイル配備を日本が拒否し、4島に固執せずに2島返還で折り合うならば北方領土は返還されると説いています。

「プーチン氏は2000年の大統領就任直後、日ソ共同宣言の履行に前向きな姿勢を示したが、日本側が4島返還を求めたことに反発し、交渉が停滞した時期がある。
 一方、「日露とも戦略的観点から平和条約締結に関心を持っている」とも強調。ただ、米軍による日本への中距離ミサイル配備の可能性には改めて懸念を表明した」(佐藤前掲)

この2島返還論は、鈴木宗男氏なども盛んに提唱していたもので、この平和条約を進めつつ並行して経済開発で信頼醸成し、2島先行返還交渉を具体化していくという戦略に、安倍氏も強い影響を受けたと思われます。
私もそれが現実的解決方法だと考えていました。

しかしこのロシアに歩み寄ったかに見える2島先行返還論ですら幻想にすぎませんでした。
ロシアにはテンから北方領土を返還する気などなく、返してもいいというそぶりはフェイントにすぎず、その裏にはなにかの政治的意図が針のように隠されていました。
ありていにいえば、ラブロフがいうようにロシアには「北方領土問題」など存在しないのです。
したがって、交渉そのものが無意味です。
わが国はロシアが1990年代のソ連崩壊直後のように疲弊にあえぐ時に機敏に再交渉するしか道はないのです。

にもかかわらず、日本は北方領土交渉においてロシアに対して甘すぎました。
それにはいくつか理由があります。
ひとつには、ロシアが戦後処理を急いでいると考えていたことです。
ロシアにとって残された戦後処理は日本の北方領土交渉だけで、これか喉に刺さったトゲとなって日露平和条約は締結に至っていません。
ここで日本が考える「戦後処理」とは、あるべきものをあるべき者に返還すること以外にありません。
そもそも北方領土は、敗戦のどさくさに紛れて、ロシアの没義道な進攻によって奪われたわが国固有の領土だからです。
いわば「固有領土論」とでもいうべきものです。

ロシアが言っているのはそれと正反対に、「第2次大戦の結果をすべて認めよ」という「戦争結果論」の立場ですからかみ合うはずがありません。
彼らロシア人に言わせれば、第2次大戦の結果とは、今の戦後の国際秩序そのものであり、日本もその中で生きている以上、これを前提にするのが当然ではないか、というものです。
したがって、国境の変更を言い出しているのは日本の側であり、ロシアは戦後秩序の守り手なのだというわけです。

そしてプーチンはいくつもの餌を撒きました。
その最大のものは、プーチンが2001年3月のイルクーツクでの首脳会談での「1956年宣言」の有効性を認め、その履行はロシアの義務だ」という発言です。

「(日ソ)共同宣言の有効性を、ロシア首脳で初めて公式に認めたのがプーチン大統領だ。2001年、イルクーツクでの日ロ首脳会談では声明で、平和条約の交渉プロセスの出発点となる基本的な法的文書と明記した。大統領は日ソの両議会が同宣言を批准したことを重視し、ソ連の継承国として「履行義務がある」と言及している。
ただし大統領は、歯舞、色丹の2島を「どのような条件で引き渡すかは明記していない」とクギも刺している。主権の問題を含めてすべて交渉次第というわけだ」
(日経 2016年10月19日)
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO08527230Z11C16A0EA1000/

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地球コラム】プーチン大統領、「2島マイナスα」が本音か:時事ドットコム

この「1956年宣言」とは、鳩山一郎政権時にソ連と締結した宣言で、この時も領土問題で行き詰まっていました。
平和条約を締結するにはまず相互の領土を確定せねばならず、この部分でスッタモンダのあげく、宣言はこういうことで落ち着いています。

●日ソ共同宣言(1956年)
歯舞群島及び色丹島を除いては、領土問題につき日ソ間で意見が一致する見通しが立たず。そこで、平和条約に代えて、戦争状態の終了、外交関係の回復等を定めた日ソ共同宣言に署名した。
→平和条約締結交渉の継続に同意した。
→歯舞群島及び色丹島については、平和条約の締結後、日本に引き渡すことにつき同意した。
外務省『北方領土』
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/hoppo/hoppo_rekishi.html

つまり、ソ連は日本と平和条約を締結された後に、歯舞・色丹を日本に引き渡す、ということです。
ですから、プーチンがこれは「1956年宣言はロシアの義務だ」とまで言ったということは、平和条約を締結すれば返すという意味以外に取りようががありません。

この理解に基づいて安倍氏はプーチンが危惧するトゲを抜いてやりさえすれば、北方領土は返還されると読んだのです。
このトゲとは、北方領土に在日米軍と中距離ミサイルなどを進駐させないことや、さらには民族主義者プーチンの国内への顔をどう立ててやるかということなどで、いずれも解決可能なことだと安倍氏は考えていたようです。

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プーチン大統領が「シンゾー」と言わないワケ

結局は、この安倍氏の判断が誤っていたのはご承知のとおりです。
プーチンはいかなる妥協も拒みました。

「しかし、2004~05年を境にその発言内容は一変、以降は「南クリルが第二次大戦の結果正式にロシア領になったことは、国際法で認められており、これについて一切議論するつもりはない」、あるいは「1956年宣言には、島を引き渡すとしても、どこの国の主権が及ぶかは書かれていない」、「日本との間に領土問題は存在しない」などという、日本としては理解しがたいレトリックを繰り返し、一貫して強硬な姿勢を示してきた。
特にここ数年のプーチン大統領の発言は、どれも2000年代前半の時分とはかけ離れたものだ。それにもかかわらず、安倍政権は当時のプーチン氏の発言に引きずられてきた可能性が高い。シンガポール合意で、日本が1956年宣言まで下りる決断をしたのも、まさにプーチン氏が当時、1956年宣言の履行はロシアの義務と認めたという一点に、望みをつないだ結果だったと考えられる」
(吉岡 明子 2021年1月13日キャノングローバル研究所)

思えばこのプーチンを日本に呼んで開かれた日露首脳会談時は、すでにロシアのクリミア進攻が起きていたのです。

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ロシア軍、クリミアの重要拠点を掌握 - WSJ

訪日に応じたプーチンの胸中にあったのは、2島返還などではなく、日本を西側陣営から領土交渉で釣り出すことだったようです。
まさに西側分断工作の一環だったのですが、安倍氏はそれに乗ったことになります。
そしてかくいう私もそれに引っ掛かってしまいました。

この2014年3月のクリミア進攻で、ロシアはG8として西欧と協調する路線を完全に放棄し、対決へと舵を切っていました。
これは単なる一時の局地的紛争ではなく、世界秩序を支える根幹の枠組みそのものの変更を迫るプーチンの挑戦状だったのです。

これは2点で重要です。
ひとつは、露骨なNATOへの挑戦です。
軍事的にNATOはすでに膨張を続けるロシアと対峙できる能力を喪失しかけていました。
あまりに極端に開いてしまったロシアとの軍事費の差は、まるでナイアガラのようです。
下図は、先日も紹介した1992年を基準値にして直近の2020年を比較し変動倍率を算出したものですが、ロシアは実に4千935倍というウルトラ軍拡をしているのがわかります。
一方、本来ならばNATOの中軸たるべきドイツ軍はメルケル緊縮でズタボロの状態でした。

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NATO国防費:負担増 独仏、2%目標「幻想」

米国は声を枯らしてNATOに国防費の2%の増額を求めましたが、応じたのは英仏ポーランドなどごくわずかというありさまでした。
クリミア進攻を待たずして、NATOは「戦っても勝てないから、戦わないように」という不戦敗の心理に陥り、初めから軍事的に対抗していく戦略を放棄してしまったのです。

そして第2に、ウクライナ問題において、NATO諸国が掲げるべき大義を裏付けるものに欠けていました。
型式的にはウクライナがNATOに加盟できていないことですが、それだけではありません。
本来なら、ウクライナに対するロシアの軍事侵攻は、1945年以降、国連を中心に形成してきた世界秩序そのものへの敵対であり、国連安保理はこのために作られたといって過言ではない機関のはずでしたが、これが完全に空洞化していました。

中国もほぼ同時期に南シナ海を軍事要塞化していきますが、ウクライナのロシアと一緒で、このならず者ふたりが揃って国連安保理の常任理事国であるという悲喜劇です。
不戦敗戦略を実質とったNATOは、頼みにすべきは国連安保理での制裁決議のはずでしたが、これも得られることは絶対にありえなくなりました。
理由はいうまでもなく、当のロシアが常任理事国なので拒否権を発動するに決まっているからです。
これがクウェートに進攻したイラクや、核開発に走る北朝鮮に対する時とは本質的に異なる理由です。
ましてウクライナは加盟申請中であって加盟国ではないために、米国とNATOは仮にロシアと軍事的に対峙しようと思うなら、「有志連合」の形をとらざるをえないのです。

つまり、2014年を境にして、東と西で大きなパラダイムシフトが起きていたのです。
西ではクリミア、東では南シナ海において。
私は、このような大きな戦後史の転換点を視野からはずして、日露2国間に狭めて考えていました。
もちろん、西側陣営のわが国もプーチンにとっては例外ではなかったはずでしたが、安倍氏は老練な政治家にありがちなプーチンとの強い人間関係を頼りに解決を図ってしまいました。

駐日露大使が日本が制裁に加われば北方領土はもうないと思え、などと言っていますが、テヤンデー毎回その手を食うか。

長くなりそうなので、次回に続けます。

 

 

2022年2月 2日 (水)

岸田さん、やるならしっかりやれ

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石原慎太郎氏が亡くなられました。享年89歳。
ポピュリズムとポリコレが社会全体を覆う中、媚びる事なく時代に屹立する数少ない政治家であり、文学者でした。
謹んでご冥福をお祈りします。

さて石原氏の対局にあるように見える岸田氏が、佐渡金山の世界文化遺産登録をまたやるそうです。

「岸田文雄首相は「佐渡島の金山」(新潟県)をめぐる韓国との「歴史戦」に挑むにあたり、さまざまな情報の間で揺れ動いた。国連教育科学文化機関(ユネスコ)に推薦する覚悟を決めたのは27日だった。「最後は俺が決める」。そう周囲に語る言葉は自身を鼓舞するようでもあった」
(産経1月28日)

へぇーまたやるんでっか、という冷やかな気分しかわいてきません。
「オレが決める」という言葉は凛々しいのですが、私からみれば岸田氏の言葉はいつどうひっくりかえるかわからないので話し半分で聞いておきます。
やること自体に異論はありませんが、ならば初めからしっかりやればよかっただけのことです。
人権決議にしても訪米の一件もそうですが、ここまで時間をかけてしまうと、「時間がかかる」ということ自体に別の意味が生じてしまいます。
つまり岸田政権には、「決められない政権」だという見方が内外に定着してしまうことになりました。

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岸田首相、保守派の離反懸念 政権基盤安定へ判断―世界遺産:時事ドットコム

誰もが同じことを言うことでしょうが、初めに推薦を「見送る」というアドバルーンを安易に上げてしまったのがそもそもの失敗です。
初めはなんと言っていたかといえば、

「政府は19日、文化庁の文化審議会が世界文化遺産の国内推薦候補に選んだ「 佐渡の金山」について、国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)への推薦を見送る方向で調整に入った。韓国の反発などで、2023年のユネスコ世界遺産委員会で登録される見通しが立たないと判断した。来週にも正式に決定する」
(読売2022年1月20日)

韓国が反対するだろうから、登録の見通しが立たない、ということでした。
いかなることにも韓国が反対し反日キャンペーンに持ち込むのはあたりまえで、特に驚くことでもなければ、ましてやそれが政策変更の理由になどなるはずがありません。
そんな些細な(とあえて言いますが)ことを理由にして、やる前から引っ込めていては以後延々と外交不戦敗国となります。
韓国にさえ勝てないようでいて、どうして中露に勝てますか。

しかしこれも、どうやら実のところ恐る恐る上げたアドバルーンだったようです。
岸田氏に推薦を止めるように進言したのは外務省だったようで、その内幕がわかるのがこのNHKの記事です。

「外務省からは、韓国が3月に大統領選を控え、佐渡金山を「日本たたき」に利用する懸念が伝えられた。ウクライナ危機を抱える米国は日韓間の対立が深まることを憂慮しているとの見立てもあった。「簡単には通らないな」「今年やるのが良いのかどうか」。そんな慎重な思いが広がっていた」
 (NHK 2022年1月20日)

読むだけでげんなりします。
え、なんですって、「ウクライナ危機を抱える米国は日韓間の対立が深まることを憂慮しているとの見立てが省内にあった」ですか。
おいおい外務省、明日にでもウクライナで戦争が始まろうとしているというのに、こんなつまらない「憂慮」をしていたのですか。
ホントにお公家さんな人たちです。
まともな外交官ならば、今この時期に「憂慮」すべきはなんなのでしょうか。
佐渡金山ですか、それともウクライナですか。
米国がウクライナ危機でイライラしているので、これ以上怒らせてはならぬということなのか、それとも米国と共にウクライナ支援で何ができるのかを真剣に検討することなのか、いったいどっちなんです。
で、結局、彼ら外務省の決断は、ウクライナからの大使館脱出と米国の機嫌取りのために、韓国に不戦敗することだったようです。
アフガンについで逃げ足だけは早い。在留邦人を捨てて真っ先に逃げるのが、わが外務省の流儀なようです。
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日本がほんとうに「憂慮」すべきは、ロシアのウクライナ進攻、いや侵略を前にして自由主義陣営の主要国でありながらなにもできないわが国の情けなさだったはずです。
北方領土交渉など吹き飛ぼうと、ウクライナ支援に踏み切ることです。
その気にさえなれば、できることはいくらでもあるはずで、たとえば必ず米国がかけるはずの経済制裁にいかにわが国が協力するのかなど最たるものです。
そのためにロシアからのLNGをカットする準備を諸官庁と協議し、代替供給源を確保せねばなりません。
外交的には、ロシアに対して厳しい措置を準備するべきで、大使召還くらいは考えておくべきです。
それどころか、ウクライナで米国に叱られるから無関係な韓国に譲歩しておこう、ですか。
話しになりません。
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そもそもここで韓国に譲歩したとして、一体なにが得られるのでしょう。
バイデン政権は、かつての朝鮮半島の緊張時にわが国に慰安婦で妥協せよと言ってきた政権の流れを組む政権です。
当時の国務長官ケリーはいまでも閣内におり、その副長官は今の国務長官のブリンケンでした。
ちなみに、ウクライナ担当は副大統領だったバイデンで、当時の日本の外相は岸田氏でした。
みんな見た顔ばかり。
このような民主党政権は、再び日韓が緊張すれば、慰安婦合意の第2ラウンドをせよと水面下で言ってくることは充分ありえます。
だからなんだというのでしょうか。
わが国が得たものは、「最終的、不可逆的に解決した」と文言をいれたということばだけ。
「【ソウル=黒沼晋】日韓両政府は28日の外相会談で、旧日本軍の従軍慰安婦問題の決着で合意した。岸田文雄外相と韓国の尹炳世(ユン・ビョンセ)外相は会談後の共同記者発表で「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」と表明。韓国政府が元慰安婦を支援するために設立する財団に日本政府が10億円を拠出し、両国が協力していくことを確認した。
会談では、日韓両政府が今後、国連などの国際社会で慰安婦問題を巡って双方が非難し合うのを控えると申し合わせた。岸田外相は会談後、記者団に、ソウルの日本大使館前にある慰安婦を象徴する少女像の扱いについて「適切に移転がなされるものだと認識している」と表明。慰安婦問題に「終止符を打った」と述べた」(日経2015年12月28日)
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFK28H4N_Y5A221C1000000/
慰安婦合意の担当大臣だった岸田さんにお聞きしたい。
慰安婦財団はいまでも維持されていますか?
韓国が慰安婦問題など歴史問題の国際社会での非難は止めましたか?
大使館前の慰安婦像は撤去されましたか?
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大山鳴動ネズミ一匹も出ず。
結局、韓国はなにひとつ約束を履行しませんでしたね。
わが国が得たものはなにひとつなく(唯一「完全解決したという条約文言ですが)、それから延々とGSOMIAや徴用工などのくだらない余震が続いたことを、ぜひ米国に思いださせてやるべきです。
この米国の、「なんでもいいから日本は韓国の歴史認識に譲歩しろ」ということを呑まざるえなかったために、いまだ徴用工などというペテンに悩まさ続けている、と。
いくら「譲歩」してみせても終わらない、パククネがいみじくも言ったように百年たとうが千年たとうが終わらないなら、捨てておくしかないではありませんか。
しかし林外相は一も二もなく外務省の進言を聞き入れて推薦見送りに傾き、岸田氏はいつもの決められないモードに入っていたようです。
だからあくまでも「推薦見送り」ではなく、「見送りの方向での調整に入った」というわかったようなわからない表現となります。
これは政府各部局のすり合わせ以上に、党内の各派閥の領袖のご意見を承るということでした。
ここで登場するのが、かつての岸田氏の上司であり、最大派閥を率いる安倍元首相だったことはご承知のとおりです。

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NHK

「これについて自民党の安倍元総理大臣は、派閥の会合で「安倍政権時代に『明治日本の産業革命遺産』を登録した際、当時も反対運動が国際的に展開されたが、しっかりと反論しながら、最終的にはある種の合意に至った」と指摘しました。
そのうえで「今度の件は、岸田総理大臣や政府が決定することだが、ただ論戦を避ける形で登録を申請しないというのは間違っている。しっかりとファクトベースで反論していくことが大切で、その中で判断してもらいたい」と述べました」
 (NHK 2022年1月20日)

ここで押えておきたいことは、安倍氏の岸田氏への距離の取り方です。
岸田政権にとやかくアレをしろコレをするべきだ差し出がましいことは言わないが、ダメなことは言う、つまり拒否権は常に懐に入れているというところです。
今回出したのがこの拒否権カードです。
このへんが与党の政策担当である政調会長の高市氏とは違うところで、彼女は差し出がましいことを言う権限がありますから、「見送る判断は間違い」「日本の名誉の問題」と反対を鮮明にしています。

そして次いで湧き上がったのが、世論の大ブーイングでした。
今までメディアのヨイショで順風満帆だった支持率が、あれよあれよという間に下落を開始しました。
今まで政権支持メディアの一角で朝日・毎日と肩を並べていた読売が脱落で批判派に与し、佐渡の世界遺産登録で「すべき」(FNN産経世論調査)が5割を超えている以上、「見送り」という規定路線のまま突っ走れなくなったのでしょう。

そこで出たのが、岸田氏得意の朝令暮改です。
一気に「見送り」から「オレが決めた」モードに転換してしまいました。
同じことを菅氏がやったら、叩かれまくって大炎上だったことでしょうね。

やるのはいいですが、岸田さん、始めたからには勝たねば仕方がありません。
青山繁晴参議院議員はこう述べています。

 「岸田総理の考えは、「推薦して終わりではなく、登録させないといけないから」ということなのです。それがまさしく文化庁の審議会が決めたことを貫徹することになるのです。
推薦して負けました、ではダメだということです。少なくとも岸田総理の認識は、いまのところ「韓国の工作活動にかなりやられていて、焦って推薦することを韓国が手ぐすね引いて待っている」というものです。
これは外務省のいままでの努力が足りないということです。総理はおっしゃっていませんが、国会議員としては言わざるを得ません。同時に、ユネスコに対する韓国の工作活動は、常軌を逸しているわけです」(文化放送OK COZY UP) 

岸田氏は「歴史戦チームを作りたい」と抱負を述べられているようですが、やるなら本気で取り組むことです。


蛇足 昨日はコメントがゼロでした。皆さんのコメントを読むことが楽しみで、毎日書いております。
よろしくお願いいたします。(涙)

2022年2月 1日 (火)

「トランプ前」に戻った北朝鮮の次

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北朝鮮がまたまた弾道ミサイルをぶっ放して下さいました。
最近の1月25日のが巡航ミサイルで、1月27日のは、「イスカンダル」型(KN-23)のようで、このいずれもか近距離タイプなのに較べ30日のものは「火星12」型でグアムまで射程に入れた中距離弾道ミサイル(IRBM)です。

今年に入って、まだ1か月もたたないうちに上げも上げたり、7回で合計11発発射しています。
うち弾道ミサイル相当が6回で9発、巡航ミサイルが2発という内訳です。

●2022年に入ってからの北朝鮮の弾道ミサイル発射実績
・1月05日朝 距離700km・高度50km 「極超音速ミサイル」
1月11日朝 距離1000km・高度60km 「極超音速ミサイル」
1月14日夕 距離430km・高度36km 「鉄道型イスカンデル」 ※2発
1月17日朝 距離380km・高度42km 「北朝鮮版ATACMS」 ※2発
1月25日朝 距離1800km 「新型長距離巡航ミサイル」 ※2発
1月27日朝 距離190km・高度20km 「車両型イスカンデル」 ※2発
1月30日朝 距離800km・高度2000km 種類不明(火星12号」? ※ロフテッド軌道
※JSF氏による
https://news.yahoo.co.jp/byline/obiekt/20220130-00279702

巡航ミサイルは制裁対象外ですが、あとのすべては弾道ミサイル実験禁止に該当しますので、国連安保理決議決議第2371号違反です。
ここまで公然と国産安保理理事会決議違反を無視し続けるのを見ていると、正恩がやーい罰するならやってみろーと赤い舌を出しているのが見えるようです。
正恩は、バイデンがウクライナで動けず、岸田氏並に遺憾砲しか打てないことを見越して、こういうコトをしています。
実に悪質ですが、日本に独自の制裁手段がない以上、仕方がありません。
正恩はミニプーチンですから「力の信者」で、遺憾砲を百発打ってもカエルの面になんとやらです。
こういうことを重ねれば痛い目にあうということを覚えないようだと、世界を巻き添えにして滅ぶまで続けることでしょう。

昨日の中距離弾道ミサイルは、ロフテッド軌道で高く打ち上げていますが、飛距離は800㎞。
堂々たる中距離弾道ミサイルで、とうとう今までの短距離のものから一線を超えました。
当然、その目標はグアムを狙ったと考えられますから、目的は挑発です。
使用された「火星12」は、2017年8月と9月に日本列島の上空を飛び越えたものと同型です。

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北朝鮮ミサイル:火星12、早期配備に自信 「終着点ほぼ到達」 | 毎日

この時、北はトランプ率いる米国とギリギリのせめぎ合いをしている最中で、当時の北の戦略軍司令官はこう言っています。

「北朝鮮は今朝、金洛謙(キム・ラッキョン)戦略軍司令官(大将)が「すでに明らかにしているようにグアム包囲射撃作戦案を慎重に検討している」として、発射されれば「島根、広島、高知を通過し、射程距離3、356.7kmを17分45秒間飛行した後、グアム周辺30~40km海上に着弾することになる」と「火星12号」の日本列島に向けて飛ばすことを明らかにした」
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火星12号」は日本列島を飛び越えて来る! 米朝どちらも「最後通牒

この人物は、露骨にグアムを標的にした「グアム包囲射撃作戦案」なるものがある、 と言い放っています。
普通は軍の高官が弾道ミサイルの標的を軽々に口にしないものですが、この国はしちゃうんですな。
そして、この北という国家の特徴は、「言ったことは守る」という律儀なことです。
声明と実際のミサイル実験が完全に符号しています。


・1回目・・・声明2006年7月16日、7月6日核実験予告、10月9日核実験実施
・2回目・・・声明2009年4月14日、5月25日核実験
・3回目・・・声明2013年1月24日、2月12日核実験
・4回目・・・声明2015年12月16日、20016年1月16日核実験
・5回目・・・声明2016年9月1日、9月9日核実験
・6回目・・・声明2017年6月7日対北国連制裁決議、7月4日ICBM発射
・7回目・・・声明20017年7月14日、8月火星12号発射

このようにいままで、北はやると言ったら2006年を除いてほぼ1カ月前後で本当にやってきましたが、トランプとの直接交渉に乗ったために弾道ミサイルと核実験は休止していました。
それが再開されたわけですから、バイデンが直接交渉をやる意志がないことを見極めたということです。
その見極めの間は、短距離弾道ミサイルを景気よく打ち上げて見せて、技術に磨きをかけてきました。
変則軌道や超音速滑空体も手にしたようです。

これらの弾道ミサイルの技術は、よくメディアは迎撃が困難だといういうことを強調しますが、それはあくまでも副次的効果にすぎず、米本土を射程に収めることが可能だということが重要なのです。
レッドラインの中距離弾道ミサイルを発射しましたから、残るは大陸間弾道ミサイル(ICBM)である「火星14」と核実験です。
この実験もそう遠くない将来にするはずです。

そしてもう一つの核開発の柱が、核戦力の残存性の向上です。
北が対米核攻撃能力として重視しているのは、第1撃のためのICBMと、2撃目の水中発射弾道ミサイル(SLBM)です。
これらは米国の「核ミサイル狩り」の標的となりますから、厳重に守られねばなりません。
ですから、ぜひとも戦略原潜で深い海に隠れて撃つ技術の獲得が急がれるわけです。

ちなみに道化のようなムンジェインが、よく戦略原潜が欲しいと言うのは、北のSLBMとドッキングして「統一朝鮮」の核にしましょうやというラブコールですが、正恩からは相手されませんでした。
北は独自に戦略原潜を建造しているからです。

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CNN.co.jp : 金正恩氏、建造中の潜水艦を視察

この間よく打っている短距離弾道ミサイル群や中距離弾道ミサイルの役目は、あくまでもこのICBMを活かすためのものです。
有事に際して、北は米国の「核ミサイル狩り」を混乱させるために、在日、在韓米軍基地を攻撃する意図があると考えられます。
この分野の技術はほぼ完成の域に達しているはずです。

しかし、まだ北は核兵器体系技術を詰めきってはいません。
新型ミサイル開発では、「火星10」が発射失敗し、「火星12」に変更されたようですし、水中発射技術もそのプラットフォームの戦略原潜も未完成です。
ただし正恩が父親の正日時代と違うのは、核兵器開発と弾道ミサイルを本気で習得し、実戦配備する意志が堅いことです。
彼はいままでのように核兵器開発を、ただの国内向け国威発揚ショーや対外交渉のハッタリと考えずに、実戦を想定した技術開発の完成に重きを置きました。

その意味で、この北の弾道ミサイル実験を米国を振り向かせることが目的だ、などとと今でもカビの生えたようなことをいうコメンテーターがいますが違います。
正恩はバイデンは、北と真正面から取り組んだトランプとは本質的に違うことを、とっくに理解しています。
今、北がしていることはそんな外交的ジェスチャーではなく、淡々と核兵器体系を実用化することです。
「振り向かせる」時期はトランプ時代で終わったのです。

さて北のもうひとつの側面は、米国の出方との関係です。
トランプが止めていたことが、バイデン政権になって始めたのは、下図の時系列でみれば因果関係が明瞭です。
バイデンも馬鹿にされたものです。

2017年9月に行われた6回目の核実験では、それまでと違い桁違いの威力の推定160キロトンの出力の「水爆」(未確認)を実験しています。
実際に成功したかどうかはわかりませんが、おそらく核弾頭の小型化には成功していると見られています。
しかしまだ安定して大陸間弾道ミサイルにつけて飛ばして、再投入可能なところまで詰めきっていないはずで、たぶんこの実験に進むはずです。

トランプが落選したことに失望したのは、共和党だけではなく正恩も同じでした。
トランプによって長年の北の政治的野望だった、米国との首脳直接会談という成果をもぎ取ったと正恩は考えたはずです。
これは祖父も父親も成し得なかったことで、正義は辺境の貧乏な王から一躍世界で脚光を浴びるスターに変身したと、内心鼻高々だったはずです。
しかしこのステータスに押し上げてくれたトランプがいなくなってしまったことは、大きな誤算でした。
替わったバイデンはまた3カ国連携による締めつけ路線に戻ったわけですが、ならば正恩からすれば元に戻るだけだということになります。
そして様子見をするように短距離から始めて、徐々に長距離・高度化させていき、そして今回この「火星12号」でチェックメイトを打ったことになります。

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北朝鮮、核実験再開示唆 米との信頼構築「再考」 | 毎日

とうぜん次のレッドラインは核実験です。
これも解禁すると明言しました。

「北朝鮮の朝鮮労働党は19日の政治局会議で、米国に対する「信頼構築措置」を全面的に再考し、中止してきた全ての活動の再開を検討するよう担当部門に指示した。北朝鮮国営の朝鮮中央通信が20日、報じた。核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射の再開を示唆した形だ」
(毎日2022年1月31日)

有言実行の北のことですから、おそらく近日中にやるでしょう。
北はまだ核兵器技術を完成させてはいないからです。
やれやれ、困った手合いです。

 

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