ウクライナ軍が健闘するほどプーチンの首は締まる
プーチンという男は、冷酷なまでの冷徹さが信条だったはずですが、おそらく彼にとってこの数日間は煉獄の炎であぶられているような気分だったはずです。
脅せば引っ込むと思っていたウクライナは、最後まで抵抗を止めず、小指一本で倒せると思っていた小国の軍隊から思わぬ強い抵抗を受け、戦車は燃える、ヘリは堕ちる、指揮官まで捕虜になる、弾道ミサイルをウクライナの高層アパートに打ち込んでしまう、病院にはクラスター爆弾を落とす。
そして、一番恐れていたはずの補給までもが滞り始めました。
各種メディアの戦況分析を整理すれば
・キエフは先遣部隊が一部突入したものの制圧には遠い。
・北部からの進攻は滞っており、都市部の制圧は部分的。
・キエフ攻めのロシア軍主力は30㎞近郊で停止したまま。
・激戦はキエフとハリコフ。突入したものの両都市共に未制圧。
・唯一順調にロシア軍が進撃できたのは、クリミアからの南部からのものだけ。
・ウクライナは緒戦で制空権を奪われたが、歩兵携帯式対空ミサイルが活躍して、露ヘリ部隊に打撃。
・ウクライナ空軍の戦闘機と小型対空ミサイルが残存しており、ロシア軍の空からの偵察を難しくさせている。
・ロシア軍は、兵站線を寸断されて、一部で燃料、弾薬が不足が発生している。
・ウクライナ軍はロシア軍後方に潜入し、補給線攻撃を強化している。
・ロシア軍は、1日で250発以上のミサイル発射。大半はSRBM(短距離弾道ミサイル)のみ。
・ロシア軍、アゾフ海からマリウポリ西部に上陸作戦。4隻の揚陸艦を使用。
・ウクライナ市民が各地でロシア兵を詰問している。
・ロシア国内で大規模な反戦集会が開かれて、多くの逮捕者が出た。
・プーチンはSNS規制を始めた。
・ロシア兵の士気は低下。
・ベラルーシ-ウクライナ国境で停戦交渉か?
・プーチン、核抑止部隊に警戒体制。
https://www.bbc.com/japanese/60542869
ロシア軍の目論見は、短期決戦で首都キエフ、第2の都市ハリコフを制圧し、ゼレンスキー政権を拘束し、親露政権を樹立することにあったはずです。
時間が立てば、ロシア対応がバラバラだった西側は立ち直り、あらかじめ合意されていた経済金融制裁を開始します。
したがってプーチンは、西側が立ち直るまでの数日間、可能ならば48時間以内にウクライナ心臓部を制圧しなければならなかったはずでした。
これに失敗したロシアからは、もはや勝機は去りました。
プーチンが今出来ることは、キエフにロシア国旗を立てて格好をつけ、ウクライナと有利な条件で和平を結ぶことくらいですが、それが怪しい。
おそらくプーチンの思惑はこうだったはずです。
圧倒的な兵力を見せつけて威嚇すれば、ウクライナ人は戦意を喪失して言うことを聞くだろう。
それでも言うことを聞かなければ、東部に攻め込んで見せ、同時に首都キエフを攻撃すればアフガニスタン政府軍のよう散を乱して投降してくるだろう。
東部2州を完全に掌握し、ゼレンスキーは国外逃亡、キエフの街路にはロシア軍を歓迎するウクライナ国民がロシア戦車に手を振るだろう、チャンチャン♪
非道なプーチン大統領、ウクライナ大統領に〝斬首危機〟 首都・キエフは「戦時状態」 ゼレンスキー氏「独立と国家を守るためにここにとどまる」 国連は無力- zakzak
ところが開けてびっくり。ウクライナ人は祖国防衛に立ち上がってしまい、頑強な抵抗を示してロシア軍のほうが大損害を被ってしまいました。
どうしてこんな無意味な戦争でロシア軍が消耗するのかと軍はクレムリンに問い詰め、プーチンはこのこの無能どもめがと罵り、一部報道では軍の高官がプーチンに更迭されたようです。
いまやキエフを力攻めしようとすれば、一区画一区画を市街戦で奪って行かねばなりません。
互いに多くの死傷者が出るはずです。それも世界の目の前で。
世界のウクライナを支援する声は大きくなり、かの薄情者のドイツすら支援にまわることを宣言しました。
ドイツは他国の武器援助すら妨害し、「枕」を5千個送ることにしていましたが、世界がウクライナ支持で一枚になったことに逆らえず、とうとう180度方針転換を遂げました。
「【パリ=三井美奈】ドイツのショルツ首相は26日、ウクライナに対戦車兵器1000基、携帯型地対空ミサイル「スティンガー」500基を供与すると発表した。これまではウクライナへの武器供与を拒否してきたが、方針を転換した。
ショルツ氏は、「ロシアの侵攻が転機になった。露軍に対するウクライナの自衛支援は、われわれの責務」とする声明を出した。
ドイツはこれまで、「紛争地には殺傷兵器を送らない」として、ウクライナへの軍事支援は自衛用ヘルメットの供与にとどめていた。発表を前に26日、ベルリンを訪れたポーランド、リトアニア両国首脳は、ショルツ氏に対し、ウクライナに対する武器支援を強く求めていた。
ドイツは26日、国際資金決済網である国際銀行間通信協会(SWIFT)のネットワークからロシアを排除する金融制裁にも、限定的に応じる姿勢を見せた。ベーアボック外相が、「SWIFT排除による巻き添え被害をどう抑えるかを検討中」だと声明を出した。SWIFT排除は、ロシアが石油やガス輸出で得た外貨送金を遮断する手段。25日の欧州連合(EU)外相理事会で、対露追加制裁の一つとして検討されたが、ロシア産ガスに依存するドイツが難色を示し、見送られた」(産経2月27日)
ドイツ一転、ウクライナに武器支援 露のSWIFT排除にも前向き - 産経ニュース (sankei.com)
ロシア軍が今各地で苦しめられている原因の一つは、このウクライナ軍が使う歩兵用対戦車ミサイルや携行対空ミサイルです。
これらの強力な対抗兵器のために、すでにロシア軍戦車とヘリは大きな損害をだしています。
ウクライナ内戦 破壊された街にたたずむ戦車の残骸(画像集) | ハフポスト (huffingtonpost.jp)
同時期に、米国は大量の武器援助を与えることを発表しました。
「アメリカのブリンケン国務長官は26日に声明を出し、ウクライナに対して最大3億5000万ドル、日本円にしておよそ400億円の追加の軍事支援を行うと発表しました。
声明では、ウクライナ軍がロシア側の装甲車両や軍用機などの脅威に対応するため殺傷力のある防衛兵器を供与するとしていて、アメリカ国防総省の高官は記者団に対し、供与される兵器には対戦車ミサイル「ジャベリン」も含まれることを明らかにしました。
「ジャベリン」は戦車などの装甲を貫通する強力なミサイルを標的に向けて自動で誘導する精密兵器で、アメリカ政府はウクライナの防衛力を強化するためだとして、これまでも供与してきました。
ウクライナ軍は「ジャベリン」で破壊したとするロシア軍の戦車の写真をSNS上に公開していて、アメリカに対して追加の供与を求めてきました」
(NHK2月27日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220227/k10013503351000.html
オーストラリアもこれに追随しています。
プーチン、これは痛い。
世界世論の潮目が変わった結果、大量の西側の対空ミサイルと対戦車ミサイルがウクライナの手に渡ることでしょう。
それでなくても、ロシア軍はすでに供与されているジャンベリンの前にブリキの戦車のように撃ち抜かれており、ウクライナ軍はすでにハリコフ攻防戦だけで100両ものロシア軍戦車を葬ったと発表しています。
支援はすでにポーランド国境からウクライナ西部に入る陸路で運搬されているようです。
енеральний штаб ЗСУ NATOの補給部隊 航空万能論様より引用
まさに時間との戦いですが、非常に早い時期に、これらの西側支援武器はウクライナ軍の手に入るだろうと思われます
そもそも兵站に支障がでるという事態は、ロシアの戦争計画がいかに杜撰だったかを物語っています。
「ウクライナ侵攻が短期間で決着するとロシアは予想していたため「十分な補給計画を用意していなかった可能性が高く、もっと燃料補給や兵站維持に戦力を割くべきだった」と高官は指摘しており、このような問題が重なり「首都キエフの占領に失敗している」との見方を示したが、依然として両軍の戦力差は歴然なので一瞬で戦況が変化するとも警告した」
(航空万能論2月27日)
https://grandfleet.info/us-related/u-s-department-of-defense-ukrainian-armys-air-defense-capability-is-higher-than-u-s-expected/
兵站がアップアップとは。ロシア軍は近代戦を知らんのか。
まるで大半末期のドイツの「バルジの戦い」を再演しているようなものです。
戦車ばかり増やしてもダメ、それに食わせる燃料がなければ戦車はただの鉄の箱です。
先日書いてきているように、ロシア軍はもともと能力的に見て140㎞ていどの補給線を維持する力しかもっていない軍隊だったにもかかわらず、他国領土に深く踏み込ゆという愚行をしたとうぜんの報いです。
これで西部にまで押し入って全土制圧など夢のまた夢。
このようにロシアにとって思わぬ展開となりました。
ロシア軍は20万もの大軍を効果的に動かせていません。
思えばこのような大規模な地上軍進攻は、ロシア軍にとって初めての経験なのです。
クリミア進攻は特殊部隊を使った限定的なものであり、シリア介入は空軍だけでした。
緒戦で思わぬ停滞を演じたロシア軍はいっそう苦しんでいるようです。
キエフはまだ頑強に持ちこたえており、ロシア国内では反プーチンデモが頻発し、ウクライナ側報道では兵士がウクライナ出兵を拒否したと伝えています。
さてさて、高見の見物をしていた中国はつい先日までこんなことをのたもうていました。
「投稿で薛総領事は「弱い人は絶対に強い人にけんかを売るような愚かな行いをしてはいけない。仮に強い人が後ろに立って応援すると約束してくれてもだ」と主張しました」
(テレ朝2月27日)
弱い国は強国に従っていればよいのだ、というならず者国家らしい言いぐさです。
これは台湾防衛を日本の防衛に重ね合わせたわが国への脅迫ですが、このウクライナの顛末を見ても同じことがいえるのかどうか、もう一回ツイートしてほしいものです。
ウクライナの独立と平和をお祈りします。
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