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2022年2月 7日 (月)

崩れたロシア幻想その3 ロシアは対中牽制になりえない

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2回にわけて、プーチンとの北方領土交渉の失敗について書いてきました。
結論的に言えば、かつても今も、ロシアには北方領土返還の意志はありません。
プーチンは、憲法を変えて「領土の割譲」を禁止し、さらには第2次大戦戦勝祝賀大会を世界の独裁者らを集めて行ってみせた男です。
これはいみじくもラブロフが言うように、「第2次大戦の結果を認めよ」という意味であり、歴史を正当化し、一寸たりとも譲らないという姿勢としかとりようがありません。
このような人物にとっての北方領土返還とは、すなわち権威の失墜以外のなにものでもない以上、返還の可能性はゼロです。
したがって、プーチンが匂わせるいかなる領土取引にも応じるべきではないのです。
それに応じること自体が、日本の国益の損失につながります。

一般論ですが、戦争で失った領土が平和的に返還された例は存在しません。
いやな表現ですが、戦争で失ったものは戦争においてしか取り戻せないのです。
世界史的に見ても、その唯一の例外は沖縄で、それが故に佐藤首相はノーベル平和賞を授与されたのです。

ただしだからといって、我が国はいかに虚しく思えようとどこまでも北方領土交渉自体を止めるわけにはいきません。
なぜなら、これは尖閣と同様に日本の主権の問題に関わることだからです。
一度でも自国領を不法占領されていることを肯定してしまったら、その瞬間にわが国はロシアの不当な実効支配を認めたことになってしまうからです。
この北方領土問題については、なまじワケ知り顔の佐藤優氏や鈴木宗男氏の言説は信用されないことをお勧めします

さすがこの強大を誇ったプーチン帝国も、先が見えてきたような気がします。
ロシアは、クリミア制裁によって疲弊した経済を抱え、世界有数のコロナ患者を抱えたまま軍事コストの重圧に押し潰されようとしています。
プーチンが国内において強力な支配体制を持っていることは確かですが、それは民主主義を刈り取った荒れ野に暗殺者を跋扈させているからにすぎません。

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CNN.co.jp : ウクライナ国境付近のロシア軍、直近24時間でさらに増強

今回、プーチンは起死回生の大勝負に打って出ました。
全力で自慢の軍隊を全国からかき集め、ウクライナを取り囲み、西側をひれ伏させ、旧ソ連圏諸国を再び属領にさせることが可能だと踏んだのです。
そのために、今のロシアに可能なかぎりの軍事的リソースを投入しました。
予備役を根こそぎ招集し、遥か遠くのシベリア軍団までも鉄道で呼び寄せたのです。

しかし忘れてはいけません。
このウクライナを取り囲んだ12万とも言われる膨大な軍隊は、待機させるだけで膨大なコストを要するのです。
彼ら12万人の食料、燃料、医療体制などの兵站が、どこまでそれに耐えられるでしょうか。
待てば待つほど、兵站は伸びきったゴムのようになり、士気は衰え、ロシア軍は急激に不利になっていきます。
そのように考えると、もうプーチンに残された時間は、私たちが考えるほどないのかもしれません。
つまりウクライナ進攻の軍事的構えは、プーチンの強みではなく、弱みなのです。

さて、プーチンを巡る三つ目の幻想は、プーチン幻想の最たるもので、北方領土交渉の次元を超えて対中戦略パートナーになることを構想したものです。
さすがに二島返還論にひっかかった私も、これには引っ掛かりませんでした。
しかし希代の戦略的思考の持ち主の安倍氏ですら、ロシア宥和論の言い訳として考えていた節がありますし、民間では及川幸久氏や馬淵睦男氏などがいまだに提唱しています。

特に2012年は、ロシアの「東方シフト」において、エポックメーキングな年となりました。
ロシアは極東ウラジオストクでAPECを開催したほか、極東発展省という極東の開発を専門とする政府機関を新たに創設しました。
この年からロシアは極東への投資誘致に向けた経済特区制度を整備し、ウラジオストクでプーチン自らが参加する大規模な東方経済フォーラムを毎年開催するようになっていきます。
これがプーチンのいわゆる「東方シフト」です

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東方経済フォーラム

これを見て、安倍政権は歓迎すると同時に、「中露が緊密に手を組む事態だけは避けなければならない」という中露同盟の危険性を察知しています。
安倍は、ロシアに「8項目の経済協力プラン」を提示し、極東振興について共同開発する意志を伝えましたが、後述しますが、その時すでに中国はそれをはるかに上回る利益を提示していたのです。
この経済で共同作業をしつつ信頼醸成を行い、一方で中国に安全保障上の利益を与えないとする安倍の考え方にはそうとうの無理がありました。
事実、自民党の河井克行総裁外交特別補佐が、2019年1月にワシントンでスピーチを行った際の、「日本のロシアへの接近は中国の脅威に日露が共同で対処するため」という発言に対して、ロシアから厳重な抗議がきたほどです。

ありていに言えば、ロシアの「東方シフト」は中国に対する媚態であって、わずかな北方領土の水産加工場などしか提示できない日本などお呼びではなかったのです。
更にロシアにとって敵陣営に属する日本との「友情」で、中国と安全保障上対峙することなど論外でした。

では、なぜロシアが中国に対する牽制を務めることを期待する考えが生まれるのでしょうか。
馬淵氏のいうような「世界政府に抵抗できるのはプーチン」うんぬんといった議論は論証不可能なので捨象しますが、一定の根拠は存在します。
最大の根拠は、ロシアと中国との間に世界最長の国境が横たわっているからです。

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日露首脳会談 対日関係を強化したいプーチン 中露蜜月は見せかけ

かつて私もこの長大な国境こそが中露を隔てる障壁となっていると考えていましたし、プーチンが押し寄せる中国人の波に対してある一時期まで危機感を持っていたのは事実ですが、今は変質しています。

「プーチン大統領は2000年の就任以降、ロシアの国土の大半はアジアに属すという点をことあるごとに強調し、ロシアのアジア太平洋地域への統合を目標に掲げ、その拠点となるべきロシア極東地域の振興を、「21世紀を通じた国家優先事項」に据えてきた。
プーチン大統領の意識のなかにあったのは、経済的に大幅に立ち遅れたロシア極東地域からの著しい人口流出への危機感と、国境を接する中国からの人口的・経済的浸食、つまりは同地域の「中国化」への強い警戒感があったとされる」
(吉岡明子 2021年1月13日キャノングローバル研究所) 

かつてのソ連時代には弟分として見下していた中国がいまやGDPはロシアの4倍以上、人口で10倍、軍事面でも拮抗する勢いを見せ、いまや上から目線となった中国に対して、ロシアの心中は穏やかではありませんでした。
とくに中露国境地帯ては著しい人口格差が生じており、2004年の国境確定以前には、中国の教科書にはロシアが北部の領土を略奪したと記されていて、ロシアは神経を尖らせていました。

このような状況を背景にして、たしかに一定時期まで、ロシア側も日本との関係を重視し、いわば「東方のドイツ」のような位置に日本をもってこられないかという議論が存在したようです。
カーネギー・モスクワセンターのドミトリー・トレーニン所長は、「ロシアと台頭するアジア」(2013年11月)というレポートのなかでこう述べています。

「中露関係は、首脳同士による「蜜月」の演出とは裏腹に、当時からさまざまな矛盾を抱えていた。
ロシアと中国の経済力の差は拡大する一方であり、両国間の貿易構造の不均衡は、ロシアが中国の産業発展に寄与する資源供給国の地位に落ちたことを意味した。経済的な面だけではない。ロシアが自国の勢力圏と目する中央アジアや北極圏においても、中国との利害がいつ本格的に対立するか分からない状況が当時から指摘されてきた」
(吉岡前掲)

しかしこのロシアの中国への警戒感は、大きく転換していくことになります。
まず、中露両国の最大の火種だった年来の紛争地だったアムール河流域の国境が、2004年に確定しました。

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朝日

アムール川の中露国境画定では、面積を折半する形で政治決着し、タラバロフ島(銀竜島)と、大ウスリー島(黒瞎子島)の一部が中国へ移譲され、住民には知らされず、突然立ち入りが禁止され、補償も一切なかったのだそうです。
そこまでしてロシアは歩み寄る必要があったのです。

ロシアは国境問題という刺を抜いてでも、中国資本を呼び込もうとしました。
それは米国を盟主とする世界経済からの脱却と、新たな世界構造への転換というプーチンの目標が、中国と見事に一致したからです。
閉ざされつつある西欧との経済関係から、アジア、特に勃興する中国にシフトすることでした。
プーチンが東方フォーラムをウラジオストークで定期的に開催しはじめるのはこの時期です。

「特に2012年は、ロシアは極東の街ウラジオストクでAPECを開催したほか、極東発展省という極東の開発を専門とする政府機関を新たに創設するなど、ロシアの「東方シフト」が目に見える形で具体化され始めた年となった。以降も、ロシア極東への投資誘致に向けた経済特区制度が整備され、ウラジオストクでは、プーチン大統領自らが参加する大規模な「東方経済フォーラム」が毎年開催されるようになる」
(吉岡前掲)

 そして今や、沿海州は完全な中国経済圏に入り、事実上の中国属領と化しています。
昔は単純労働者として使っていた中国人が、いまやロシア人を使っているのです。 

「今月 15 日、記者はロシア沿海州のウスリスク市内にある極東ロシア最大の在来市場(敷地 4 万 5,000 坪)を訪れた。 ここには卸売市場と中国市場があり、建物の上にはロシア国旗と五星紅旗(中国国旗)が並んで翻っていた。 広場にはトラックが 100 台以上並び、ロシアの人夫らが物品を下ろしていた。 市場内では、菓子商店、毛皮店、家電製品販売店に至るまで、商品はすべて中国製品が並び、中国人商人がそれを売っていた。
市場代表を務める高麗人(在ロ韓国人) 3 世のテン・アレクサンドラさん (56) は「2,000 店に上る商店すべてが中国人または中国人の委託を受けたロシア人が運営している。 中国がわれわれを食べさせてくれているわけだ。」と語った」
(朝鮮日報2008年12月30日)
http://ricky4968.web.fc2.com/menace_china/menace_e08.html

また2019年には、互いに喉から手がでるほど売買したいLNGのパイプラインが中国と繋がっています。

「露国営天然ガス企業のガスプロムと中国石油天然ガス集団(CNPC)は5月、年380億立方メートルの天然ガスを2019年から30年間にわたって輸出入する契約に調印した。パイプラインはこれに基づき、新規開発される東シベリア・チャヤンダ天然ガス田などと中国東北部を結ぶルートで敷設される。
プーチン露大統領は1日の起工式で「事業はロシアと中国の高い水準の協力によって可能になった」と両国の蜜月ぶりを強調。シベリア有数のバンコール石油ガス田の開発に中国企業の参画を認める考えも示した。ガスプロムとCNPCは、西シベリアの天然ガスをアルタイ地方経由で輸出する別のパイプライン敷設についても交渉中だ。
ロシア産天然ガスをめぐっては、主要輸出先である欧州市場でのシェアが約30%に低下、アジア太平洋諸国への輸出多角化が近年の課題となっていた。さらにウクライナ問題では欧州連合(EU)がロシア経済の屋台骨である資源分野を対象とした制裁を拡大する恐れがあり、それが10年以上も続いた中国向けガス輸出交渉の妥結につながった」
(産経2014年9月3日)

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露、中国ルートに活路 パイプライン新設着工 欧米制裁受け多角化

このパイプライン「シベリアの力」は、東シベリアから沿海州に至る世界最長で、4200 キロ、年間 8000 万トン輸送する予定で、ナホトカでは大規模石油化学団地の建設が進められ、サハリンでは 2008 年から埋蔵量 4840 億立方メートルの天然ガスの生産が始められています。
中国向けとしては年間 2000 万トンの原油を供給し、サハリンの天然ガスも全量中国輸入するとしています。
ちなみに、このパイプラインとその付属施設工事は中国企業がすべて落札しました。

このように、いまや沿海州のみならず、中国はヨーロッパ全域に匹敵する貿易相手国となっています。
そしてロシアは、今や中国との軍事同盟まで視野に入れようとしています。
このようなロシアについて、中国牽制のカードになると考えるのは、いくらなんでもひいきの引き倒しです。

 

※お断り 貿易統計を中心にした後半記事を入れて一回アップしましたが、じぶんで読んでも涎のようになが~い。
明日に加筆して回すことにします。

 

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コメント

もしかしてですが、安倍さんだけではなく、自民党をはじめとする政治家、そのまわりのブレーンと呼ばれる人たち、及び官僚にいたるまで、陣営の意味がわかってないのではと、
ここ数年痛感しています。

明日の記事アップも楽しみにしています。

 ロシアは陸軍の大半をウクライナ国境付近に配備させ、その結果、国境策定後も続いていた警戒をといて露中国境はがら空きになってますね。
これなど中共との蜜月を示す証左でしょう。

また、五輪会談では習近平にドルを介さない貿易取引(ルーブル=元の直接取引枠の拡大)を主たる議題にしています。
侵攻後の米国や西側からの経済制裁に備える目的です。

「習がプーチンに対し、五輪期間中の侵攻は避けるように要望」なる記事が出ましたが、両者揃って即否定しています。
ロシアが中国に対するけん制になるどころか、ますます一体化した同盟関係に近く変化していると見るしかありません。

しかし、気になるのは保守層が好みそうな台湾や香港の法輪功系のメディア、トランプ支持者などにプーチンに対する麗しい誤解が多い事でしょうか。

ここのブログにも日露同盟論を語っている人がいましたが、松岡洋右が掲げたユーラシア大同盟構想のようで相当無理がありましたよね。

反省元の過去記事を読み返しました。当時は私も何かしら甘い期待を寄せていましたね。
記事中に出ている識者達のウクライナ分析に、相当問題があると指摘する記事も出てきています。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/68729
ロシアは北方領土においても色丹島で中国の海底ケーブルを敷く等しています。
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/8322.html

4島2島に関わらず、今後プーチン体制が揺らいだ時に取り返したとして、ロシア側は忸怩たる思いで明け渡す訳です。
18000人居るロシア人が帰化したとして中国を後ろ盾にしたロシア語文化圏が北海道に誕生する。
1世代ほど空けて時期を見てウクライナ東部でやっているパスポート作戦や独立運動を始めた場合、日本の法整備ではどうなるか。
憲法改正は現中露首脳が元気な間にやっておかないと、交渉以前の問題かと思いました。

 ロシアと中国が結びつくという論は、今の私には受け入れられるものではありません。トランプを心底支持してきて、馬淵睦夫氏の論に心動かされるような私には
このブログの論調が急変したのかと思うほどです。

 事実はどうなのか、もうしばらく時間をかけて真偽が分かるのを待ちたいとは思います。事実・真実には即従うつもりです。明日の記事も、またコメントにも期待したいと思います。

北方領土の話になると近年に観た映画、ジョバンニの島を思い出します。
色丹島を舞台にしたアニメ映画ですが、艦砲射撃が始まりソ連軍が突如上陸してきて島民の全てが奪われてしまう。
北海道出身の祖母は、露助は薄気味悪いと申してました。
島民のことを思うと2島だけでも返還してもらえたらいいのになんて甘い考えが浮かびます。
今やその頃小さかった子供達も老齢になり、この方々が亡くなったら、日本の若い世代にしたら北方四島なんて元々ロシア領のような感覚になるんでしょうな。

KGBで暗躍したプーチンは、ソ連という大国の崩壊も目の当たりにしました。
プーチンは経済力と軍事力の無い国はいずれ崩壊すると感じたと思います。
旧ソ連は軍事力に金を使いすぎ、経済が疲弊した。
豊富な資源と日本などからの企業誘致で経済力を付け、同時に軍事力も強化した。日本企業が中国ほどロシアに投資しなかったのは、1990年代当時の人件費は中国が破格に安かったからだと思います。
中国が安い人件費で経済成長すると中国にも接近する。
ロシア外交の基本は豊富な資源に、強力な軍事力ですね。アメリカはウクライナには介入しない。NATOを守るために兵士を派遣したとと言います。
バイデンは中間選挙を控え強気です。そこはプーチンの誤算ですね。
アメリカは武器の供与や経済制裁は課すとしています。国際決済銀行からのロシアの排除もその中の一つです。ロシアは事実上自国通貨(一部人民元)でしか決済ができない。
ウクライナ侵攻で経済制裁でルーブルが下落したとき、ロシアが耐えられるか。プーチンは天秤にかけていると思います。
かと言って、振り上げた拳をすごすご下げることも出来ない。
ウクライナとの全面戦争になれば、管理人様が仰るように兵站もうまくいかない。兵站はウクライナ領に深く入るほど難しくなる。
NATOとアメリカの分離を模索したプーチンですが、したたかなプーチンとて考えが甘いと思います。腐っても鯛。アメリカはアメリカです。

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