ウクライナ軍奮闘、キエフを巡る戦い
首都キエフが陥落の危機、ないしは陥落したかもしれません。
「CNN) ベラルーシからウクライナに侵入したロシア軍の機械化部隊が、ウクライナ首都キエフから20マイル(約32キロ)の距離にいると、米政権当局者が下院議員へのブリーフィングで伝えたことがわかった。2人の情報筋が明らかにした。
当局者は、ロシアからウクライナに入った別のロシアの部隊はもう少し離れた距離にいるとも説明。どちらもキエフに向かって進軍していて、キエフの包囲を目的とし、ウクライナ政府の転覆を図る狙いもありうるとしている」(CNN2月24日)
また22㎞まで接近しているという情報もあり、ウクライナ軍参謀本部は25日午前6時の公式発表で、主にDymer地区とIvankiv地区の防衛線でウクライナ軍は抵抗を継続しているとしています。
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ウクライナ軍は、テテリヴ川を防衛ラインにして防衛戦闘中ですが、22㎞という距離はいったん防衛線が破られた場合、数時間でキエフに突入される至近距離です。
また上空にはロシア軍のヘリが乱舞している状況で、ウクライナ軍は陸上と空中からの攻撃にさらされています。
AP
ロシア軍は、首都キエフを包囲するため、北のドニエプル川上流のベラルーシ方面から二手に分かれ侵攻を行っています。
一方、南のクリミア半島からもキエフ包囲のためにドニエプル川を渡ってヘルソンを占拠しましたが、ウクライナ軍はこの河にかかる橋を奪取し、ここに防衛線を築くことに成功したようです。
ロシア軍空挺部隊がいったん占拠したとされたゴストメル空港を奪還したとウクライナ総参謀本部が発表しました。
この空港を奪われると、空路で大型輸送機で増援部隊や武器弾薬を送られてしまうために、ここが戦闘の山場のひとつになっています。
ウクライナ軍は、ロシア軍空挺という精鋭相手に、奪い奪われるという激戦を展開しているようで、多勢に無勢をものともしないその健闘ぶりに頭が下がります。
ロシア軍はウクライナ軍を排除したと発表していますが、よくわかっていません。
ロシアが南部都市・軍用空港を制圧、チェルノブイリ原発も管理下に…137人死亡(読売新聞オンライン) - Yahoo!ニュース
ロシア軍はウクライナ軍の予想を上回る抵抗に手間取っており、彼らの戦争計画ではすでにキエフに入城していなければならないはずです。
「[ワシントン 25日 ロイター] - 米国防総省高官は25日、ロシアはウクライナ侵攻にあたり、首都キエフへの進撃を含め、想定より大きな抵抗を受けているとし、勢いが一部失われているように見えるとの認識を示した。
24日にウクライナ侵攻を開始したロシア軍は25日早朝に攻撃を再開し、首都キエフはロケット攻撃を受けた。キエフでは住民が地下シェルターなどに避難する中、当局は住民に対し首都防衛のために火炎瓶を用意するよう呼び掛けるなど、事態は緊迫化している。
ただ米国防総省高官は匿名を条件に「ウクライナはロシアの想定を超えて抵抗しているとわれわれは見ている」と述べ、ウクライナ軍の指揮統制は現時点で影響を受けていないと指摘。「ロシア軍は、ロシアが可能と想定していたほどのスピードでキエフに迫っていない」と述べた。
その上で、ロシアは現時点でウクライナ上空の制空権は掌握していないとし、「全般的にロシア軍は勢いをやや失っている」と語った。
ただ、ロシアはウクライナ周辺に配置した軍の大部分をまだ動員していないとし、攻撃に専念しているのは3分の1程度にすぎないと指摘。ウクライナ東部ドネツク州のマリウポリ西方の地域に対し、海と陸からの攻撃が実施される兆候も出ていると述べた。
また、米国はこれまでに200発を超えるミサイルの発射を確認したとし、これまでのところロシア軍の攻撃の大部分は軍事施設を標的としているものの、一部のミサイルは民間人が住む住宅地に着地したと指摘。過去24時間で数百人の米国人がウクライナから退避したことも明らかにした」
(ロイター2月26日)
ロシア、ウクライナ侵攻で想定以上の抵抗 一部失速=米国防総省高官(ロイター) - Yahoo!ニュース
この遅滞の原因は、もちろん祖国防衛戦を戦うウクライナ軍の士気が高いということもありますか、もうひとつはロシア軍が「平和維持軍」という偽善的看板をかけて進攻したためにいわば手加減しているところがあるからです。
たとえば、本来ならば、最初の攻撃目標となるはずのライフライン(電気・水道)は破壊していませんし、市民への被害をできるだけ少なくしようとしていることは確かなようです。
どこまでこの「紳士的対応」がつづくのかわかりませんが、開戦数日間の段階ではまだ保たれているようです。
これはプーチンの狙いが、早期のキエフ制圧→ゼレンスキー拘束→平和交渉→親露新政権樹立にあるからです。
このような地上部隊とは別に、スペツナズなどの特殊部隊はとうにキエフに浸透していなければならないはずで、彼らの目的はゼレンスキー大統領の逮捕、ないしは暗殺です。
これは「蛇頭作戦」(スネークヘッド作戦)と呼ばれ、敵の指導者、軍の中枢を殺害することで無力化しようとするものです。
中国が台湾に対して準備しているのもこれで、米国も北朝鮮に対して準備したことがあります。
今回、ロシアはゼレンスキーをできるならば無傷で拉致し、公開裁判にかけて処刑することを狙っていると思われます。
プーチンは演説で、東ウクライナの「ロシア人迫害の責任者を逮捕して処刑する」と言っていますから、本気でゼレンスキーの生命を狙っているはずです。
またウクライナ国内にはロシアのスパイ網が張りめぐらされており、クリミア進攻ではこれが威力を発揮し、現地部隊が司令官ごと寝返る事態が発生しました。
ウクライナはこれに懲りて、以後厳しいスパイ狩りをしてきていますが、いまだ多くのスパイが存在しており、破壊工作や偽旗作戦に従事していると考えられています。
「(クリミア進攻以降)ウクライナでは対諜報(ちょうほう)捜査を通じて、ロシア政府とつながりのある人物が粛清されたほか、ドンバスで親ロ派武装勢力と戦った戦闘経験者を昇進させるなどして、ロシアスパイの排除が進んだ。ウクライナ当局者が明らかにした。
それでも、ウクライナ政府関係者は、なお大きな障害が立ちはだかっていると警鐘を鳴らす。ウクライナの国家安全保障担当アドバイザー、オレクシー・ダニロフ氏は「ウクライナ国内に張りめぐらされたロシアのスパイ網はかなり昔に構築されたものだ。
まだすべてを根絶できておらず、やるべき仕事が残っている」と話す。「ロシア中枢からスパイが託された任務はシンプルだ。とにかく破壊すること。国家としてわれわれを破壊すること以外の任務はない」
(ウォールストリートジャーナル2月23日)
ロシアの秘密兵器:ウクライナ当局に潜むスパイ網 - WSJ
この特殊部隊やスパイらの工作が成功すれば、私たちは突然ゼレンスキーの逮捕、あるいは死亡のロシア発表を聞くことになるはずです。
「ウクライナの当局者は、ロシアがウクライナ首脳部を打倒し、親ロシア派政権の樹立を計画しているとの考えを示す。
ウクライナのゼレンスキー大統領はビデオメッセージで、敵の破壊工作部隊がキエフに侵入したとの認識を示し、自身がその第1の標的、同氏の家族が第2の標的だと語った。
ゼレンスキー氏は「彼らは国家元首を倒すことで政治的にウクライナを破壊するのが目的だ」と述べ、自身は政府区画内にとどまっていると述べた」
(CNN2月25日)
たぶん脱出経路を確保しているのでしょうが、ご無事を祈ります。
ゼレンスキーが拘束された場合、人質として降伏を強要される可能性もあり、絶対に捕まってはなりません。
国民と共にキエフに残り続けるという言やよしですが、あなただけの生命ではないので外国に脱出して亡命ウクライナ政府として戦って下さい。
プーチンはヤヌコビッチを連れ帰るでしょうが、彼の政権に正統性を与えないためには国外の正統政権が必要です。
いずれにしても、この数日間がヤマになります。
ウクライナには初めから圧倒的兵力差の前に勝機はありませんから、持続して継戦すること自体が勝利です。
その最大の山場がキエフ攻防です。
同じ陥落するにしてもどこまで持ちこたえられるのか、即座に落城するのか、持ちこたえてロシア軍に出血を強いるのか、それがこの戦いを見ている米国とヨーロッパの関心事のはずです。
キエフが陥落すれば、あとは事実上の掃討戦に入ります。
ロシア軍が西部にまで深追いするのか、保証占領をどこまでのエリアに定めるのか、ウクライナ政権をどのように処遇するのか、それは来週の半ばまでに見えてくるはずです。
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「またGRUのバカ共が手こずってやがんのか!ちくしょーめー!」
と、プーチンが机叩いてそうです。
投稿: 山形 | 2022年2月26日 (土) 06時22分
ウクライナ軍は持ちこたえて、意外なほど善戦していますね。
ゼレンスキーは今日、「首都防衛」を宣言して、自身もキエフに留まるつもりのようです。殉死も覚悟の様相ですが、いずれにしろ祖国の英雄として名を遺すでしょう。
なお、ここでプーチンが所期の軍事目的を達成したとしても、ロシアの戦略的失敗はおおうべくもありません。
よく間違える保守派言論人が語る前提として、「ウクライナは親露派とEU派に分断している」というものがありますが、この認識が間違いの元凶です。
親露派政党の支持率は10%以下であって、ヤヌコビッチが当選したころと状況が全然違います。
ゼレンスキーは自由と民主主義に立脚した向後のウクライナのために踏みとどまっています。その事は、かつて右往左往して今日の状況を導き入れた、過去のウクライナ政治の責任を一身で引き受けようとする覚悟から来ているのだとも思います。
決着はプーチン政権が破滅まで引きずるかも知れませんが、そんなに先の事ではありません。
今回はむしろ米国がNATOを主導しない事でもって、プーチンの焦りと誤算は一方ならぬものと推察します。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2022年2月26日 (土) 08時34分
侵攻規模があまりに大きいのでロシアの兵站は持って10日という見立てもありますね。
国家の兵站ともいえる外貨もどんどん溶かしているようですし膠着状態が来週いっぱいまで継続したらロシア優位の旗色がガラリと変わるやもしれません。
日本政府ができることは少ないですがとりあえずロシアとの経済協力や北方領土返還に関する窓口はいったん凍結するくらいの意志表明くらいはやってくれないとね…
平和憲法を掲げている国なんですから(皮肉)
とくにその道筋を作ってしまった安倍元総理には岸田政権のケツを叩くくらいの責任はあると思っています。
投稿: しゅりんちゅ | 2022年2月26日 (土) 09時10分
和平交渉の場所をベラルーシにするか、ポーランドにするかで決まらないとか。
ゼレンスキー大統領は元々俳優さんなんですね、母国語はロシア語で大統領に当選してからウクライナ語を特訓したと。
多くの国民の支持を得て大統領に。
私はキエフに留まる、裏切り者でない!
妻子もウクライナにいるし、国民を置いて逃げ出さないぞという強いコメントです。
国民を思い汚職を正し、コロナ対策を行い、ロシアのスパイ狩りもしたでしょう。
プーチンのいうウクライナ国民の虐殺とは何のことですか、虐殺があったとしたらその責任者はプーチンでしょ。
そのプーチンはゼレンスキー大統領を裁判にかけ、処刑する予定です。
死なせるには惜しい。
投稿: 多摩っこ | 2022年2月26日 (土) 10時30分
フィクションの世界であれば、ギリギリのタイミングで「世界連合軍」が現れてロシア兵を蹴散らすところですが。
まさか本当に「我々は見守って精一杯非難を送るから、戦争は1人で頑張ってね」と言われるとは、分かっていたとはいえショックでしょうね。
投稿: ねこねこ | 2022年2月26日 (土) 12時20分
山路さんがコメントされていたように、プーチンは内政的に追い詰められているというのが真相だと思いますわ。なんでも、日本よりウンと早く年金制度が破綻するらしいです。ゼニが無いのはそれだけではなくて、ロシアは旧ソ連時代に続いて、二度目のデフォルトを起こしそうな状態だそうです。で、さすがにロシアを破綻させてはプーチンの居場所が無いどころか国民の恨みを買ってしまい、国が破綻したウラで巨額の私有財産を貯めていたのが発覚したとなると、ヘタすりゃ吊るされてしまいますわ。
それで、ウクライナに侵攻するしか選択肢が無かった。デフォルトになるなら、キョーレツな国際的な制裁を受けてからそうなれば、少なくともプーチンは直接的な責任からは逃がれられます、「熱烈な愛国者のオレのせいじゃねぇ、米やEUのヤロウのせいだ」。米やEUは、諜報活動でロシアの台所事情はよく把握してるので、「何もする必要はないわ、プーチンの財政的自爆を待ってりゃいい」として、静観してるのかも知れませんわ。
あるいは年老いてきたプーチンが、「大東亜共栄圏」や「一帯一路」のような夢を現実にするためにアセって動き出したのか?です。満州国当時の日本人が壮大なロマンでもって、日本・朝鮮・中国・他アジア国をまとめた東洋統一国家を作り、全世界を欧米と二分割するというアレです。チンピンさんも染まっているようですんで、プーチンもその可能性がありますわ。日本も当時、WWⅠ後の昭和大恐慌で行き詰まり、日本国外(主に資源豊富な満州、後に中共が大慶大油田を発見したりする)への内外からの投資が日本の成長に不可欠だと思われていました。
全世界的な制裁でロシアが破綻すれば、愛国者プーチンは当時のヒトラーのように、祖国ロシアの復活を掲げて「ロシア第三帝国」を目指すことになります。あるいはウクライナを皮切りに、周辺弱小諸国を、核の脅しを含めた軍事力でもって事実上ドンドン併合してしまえば、ロシア経済の復活もあるかも知れません。ウクライナを本気でメチャメチャ攻撃しないのも、後に経済的に併呑してしまう腹積もりからでしょう。
裏切り国や二重スパイ国を含めて、今、ロシアや欧米や中国などは諜報活動にバリバリだと思いますわ。少しでも有利なポジションを取っておくために。わが日本はあきまへんわ、情報の専門部署さえ無いありさま。おそらく、主に米国に「ねぇ、ねぇ、今どうなってんの?教えて下さいよぉ」と問い合わせをして、そのネタを元に関係者と協議して、対応を検討してまいる次第ですわ。
マジで日本は、ポンコツ憲法を直して、核兵器を持つという、フツーの先進国になれないもんなんですかねぇー
投稿: アホンダラ1号 | 2022年2月27日 (日) 00時51分
管理人様が最初に書かれたように、戦闘が長期化すればロシアの兵站が問題になってきますね。SWIFTからのロシアの排除も行われる予定です。
事実上ロシアは貿易の決済が出来なくなり、自給自足の状態になります。ロシアに進出している日本企業にも影響は及びます。
ロシア国内はもとより、世界中で戦争反対の声が上がっています。かといってプーチンも振り上げたハンマーの下ろしどころがない。停戦交渉もウクライナとの間で条件面で折り合わない。むしろ追い詰められているのはプーチンではないでしょうか。
投稿: katrakuchi | 2022年2月27日 (日) 01時17分
あくまでもツイッター情報ですが、
アメリカのバイデンやNATO各国はウクライナには兵は出さないといいながら、
裏でNATO各国や英米はできる最大限の援助をしているということです。
よくテレビとかネットニュースで流れてくる、アメリカもNATOもなにもしてくれないという言葉には用心しましょう。
投稿: やもり | 2022年2月27日 (日) 12時03分
いまだにロシアがヘリを中心とした制空権が今一つ掌握出来ていない時点で事前に相当量の重火器の提供がなされてたのでしょう。
数の不利は弾幕でカバーする、根性だけでは守れませんからね。
ドイツも公に兵器の供給の発表をしましたし。
今後は西側からキエフへの供給ルートを維持出来るかどうかがウクライナの命運を決めるかと思われます。
諜報絡みでもウクライナがそれほど遅れを取っていない所をみると、米英あたりからウクライナ内部に入りこんでいたスパイの情報も得ていたのではないかと想像出来ます。
投稿: しゅりんちゅ | 2022年2月27日 (日) 16時00分
ウクライナ軍は思ったよりも頑張っていますね。今現在もキエフは保てているようですし。いざ戦いが始まれば鎧袖一触でロシア軍の勝利に終わると思っていましたが、ウクライナ軍がここまで粘るとは意外でした。つい先ごろロシアの銀行に対するSWIFTからの締め出しが決定されましたね。支援に消極的だったドイツもウクライナに武器を送り始めましたし、やはり抵抗しなければ国際社会からの支援は受けられないと改めて思いました。翻ってわが日本では有事の際にここまでの抵抗ができるでしょうか?
投稿: 中島みゆき | 2022年2月27日 (日) 21時32分