腰が抜けたドイツ、奮闘するフランス
開戦がカウントダウンの状況です。
ロシア軍の終結が7割方終了したとの情報が、米国筋から出ています。
「(CNN) 米当局の推定によると、ロシアのプーチン大統領はウクライナへの全面的な侵攻作戦に向け、すでに必要な兵員、兵器の7割を国境に集結させたとみられる。事情に詳しい米当局者2人が語った。(略)
ロシアによる兵力増強のペースが改めて浮き彫りになったが、さらなる増強にどれくらいの時間がかかるのか、また実際の侵攻に100%の兵力が必要なのかは明らかでない」
(CNN2022年2月6日)
おそらく短期間で首都キエフは陥落するでしょうが、どの時点でロシア軍が進攻を停止するかわかりません。
西部ウクライナまで一気に進攻するとなると、ウクライナ軍と市民に5万から7万5千人、ロシア軍にも1万人以上の死傷者がでると見積もられています。
そしてウクライナ西部では長期のゲリラ戦が続くでしょう
「米政府高官が3日に上下両院の議員に非公開でウクライナ情勢について説明した。米紙ニューヨーク・タイムズなどによると、全土を制圧する最大規模の軍事侵攻に踏み切れば、民間人で2万5000人から5万人、ウクライナ軍で5000人から2万5千人、ロシア軍で3000人から1万人の死傷者が出る可能性があると試算した」(日経2022年2月6日)
具体的にCNNは、最大500万の難民が発生し、その多くはポーランドに流入すると報じています。
このような事態になった場合、ウクライナを見捨てたヨーロッパ、特にドイツの道義的責任が厳しく問われねばなりません。
ウクライナは防空システムや対戦車ミサイルの緊急供与を求めていましたが、ドイツはヘルメットを送るという悪いギャグのような対応をして、しかもあろうことか他国の援助まで妨害し、海軍高官のプーチンを称賛する発言まで飛び出す始末です。
こんなとぼけたまねができるのは、ポーランドがロシアの地勢学的楯になっているからですが、そのポーランドにウクライナ難民が溢れたら一体誰の責任なのでしょうか。
シュルツ独首相が先日訪米しました。
とうぜん最大のテーマはロシアとのパイプライン「ノルドストリーム2」の閉鎖問題であるはずですが、会談中は双方ともふれなかったようです。
シュルツはメルケル政権の財務相でしたが、かねてからノルドストリームを政治的に利用しないという言い方で支持してきました。
独メディアのビルドは、「ショルツ首相が米国に譲歩したのは“すべての選択肢がテーブルの上にある”という表現を引っ込めただけで、肝心の“ノルド・ストリーム2”には一言も言及することなく『約束します何とかします』で首脳会談を切り抜けた」と報じているそうです。
ドイツは、ノルドストリーム2の主要幹部に、元首相でシュルツと同じ社民党出身のゲアハルト・シュレーダーが参加しており、さらに露国営ガス会社「ガスプロム」の取締役にまで就任するという癒着ぶりです。
「ガスプロムは6月30日に開く株主総会で取締役を選任する。ロシアのプーチン大統領と親交のあったシュレーダー氏は首相退任後にガスプロムが出資するガスパイプライン運営会社の会長に就任。2017年にはロシア国営の石油会社、ロスネフチの会長に就任しロシアの資源ビジネスに深く関わっている」
(日経2022年2月5日)
ガスプロムは世界3位の時価総額を持つ巨大なエネルギー国策企業で、元大統領メドベージェフが就任直後の2008年6月まで同社会長を務め、2001年社長に就任したアレクセイ・ミレルはロシア大統領を務めたプーチンの片腕でした。
ソ連時代の石油鉱業省をそのままはらいさげてできた典型的なオルガルヒ(新興財閥)で、プーチン政治と密接な関係を持っています。
政策的にも、プーチン政権の指示どおりに動いているとされていて、プーチンの顔色次第で供給をしたり切ったりしてきました。
朝日 個人的にも親密なシュレーダーとプーチン
ドイツにはロシアのオリガルヒとのビジネス上の繋がりがある政治家達が多数存在し、シュレーダーがその代表者です。
彼らは連立多数派の社民党と連携して、制裁にノルド・ストリーム2を使うという米国の提案に抵抗してきた背景があります。
そのためにショルツ首相は、訪米においてノルド・ストリーム2制裁がテーブルに乗ることに全力で阻止してきたとされます。
しかし会談中にはふれられなかったものの、会談後の共同記者会見ではバイデンから「ドイツは完全に信頼できる、完全に完全に徹底的に信頼できる。ロシアがウクライナを侵攻すればノルド・ストリーム2は終焉する」とまで言われてしまっていますから、もはや泣いても笑ってもノルドストリーム2は制裁の対象となることでしょう。
ドイツ政権は2000年以降、ロシアと親密な経済関係をもつシュレーダー、続けて同じく親露派のメルケルの下、相互利益や繁栄、安定と称してロシアとの関係にズブズブとのめり込んでいきます。
方やプーチンは、こうした相互依存関係につけ込むことでドイツの弱点を割り出し、それを悪化させてきました。
「プーチン氏はドイツの罪悪感を巧みに操作してもいる。多くのドイツ人がナチスによる東欧諸国への残虐行為とロシアを結びつけている状況を利用しているのだ。割合からいえばロシアよりも東欧諸国のほうが大きな犠牲や破壊を被ったが、ポーランド人やベラルーシ人、ウクライナ人はほとんど共感を得ていない。東欧諸国が第2次大戦中の独ソ協力や1945年以降のソ連占領で払った代償について、ドイツ人はほぼ無視している。
このため、ドイツはロシアの脅しに最も弱く、またプーチン氏を尊敬と理解に値する人物と見なすことに最も前向きだ。ドイツ人の目には時に、プーチン氏は強い指導者であると同時に、欧米の容赦ない圧力によって窮地に追い込まれた被害者とも映る」
(CNN 2022年2月3日)
先日も書きましたが、この贖罪意識こそプーチンがドイツに向けた最大の武器なのです。
それにしても、日中関係と独露関係が余りに似ていることに改めて驚かされます。
ところでこういう腰くだけ状態ドイツを尻目に、フランスの最後の仲介が精力的に続けられています。
マクロンはEU議長国という立場を最大限利用して、ウライナ危機が発生して以来、活発な外交活動を展開しています。
7日にはモスクワでプーチンと会談し、その後キエフでゼレンスキーと会談する予定です。
同時にバイデンとも何度か電話会談をし、ウクライナ危機の外交的解決を進めてきました。
訪露した折に、マクロンは実に5時間もプーチンと会談しており、一定の仲介案を携えてウクライナに飛んだようです。
ロシア大統領府
「ロシアを訪問したマクロン大統領とプーチン大統領の会談は5時間以上も続く異例の長さで、ウクライナ問題やロシアの安全保障に対する懸念を解決するため様々なのオプションが話し合われたと報じられており、会談後の共同記者会見でプーチン大統領は「マクロン大統領が提案した幾つかのアイデアは状況打開の助けになるかもしれない」と明かしたが、両首脳とも会談で協議されたアイデアを発表するのは「時期尚早」として具体的な内容を伏せた」
(航空万能論2022年2月8日)
果たしていかなる内容だったのか、公表されていないためにわかりませんが、内容的にプーチンに歩み寄ったものだと推察されます。
「しかしプーチン大統領は「この問題は非常に複雑で、だからこそ私達は何時間も話し合った。マクロン大統領は明日キエフに向かいウクライナの指導者達と協議を行うが恐らく難しい時間を過ごすだろう。彼はキエフで会談後にウクライナの指導者達が何を受け入れ何を受け入れなかったを私と再び協議することになっており、この内容に応じて次のステップを構築していく」と明かしているため、ウクライナ問題やロシアの安全保障に対する懸念を解決するため何らかの条件設定がマクロン大統領とプーチン大統領の間で行われ、これを携えマクロン大統領はウクライナの説得を試みるのだろう」
(航空万能論前掲)
なお、ショルツも訪米後、14日にはキエフを訪ね、15日はモスクワでプーチンと会談することになっています。
どんなことを言うのか、今から分かってしまうのが哀しい限りです。
現実にウクライナ進攻が起きた場合、ドイツはバルト3国でのNATO作戦へドイツ連邦軍を参加させ、領空警備を増やす見通しです。
「領域警備」というとご大層なかんじですが、せいぜい戦闘機数機をポーランド上空に飛ばしてパーフォーマンスする程度の衛生無害な「軍事行動」です。
いずれにしても進攻した場合、ロシアに対しては、前回のクリミア制裁が生ぬるくかんじるような最大級の制裁が加えられるでしょう。
ただでさえ脆弱なロシア経済は、すべての原油輸出を封鎖されて、完全に破綻に瀕します。
前回のクリミア進攻はサイバー戦を駆使した詐欺的手法で奪取し、死傷者ゼロですみました。
これがプーチン人気の回復につながったのですが、今回2回目の再進攻においてアフガン以降最大の戦死者が出ると見られています。
これらの事態を受けて、ロシア国民がどのように考えるかによって、プーチンとロシアの未来は決定されます。
※改題しました。
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プーチンさん、とうとう最後のカードである「我々は核兵器を持っている」をチラつかせちゃいましたね。相当に焦っていますよ。自分で言うように大規模核戦争になったら逆にモスクワに仏潜水艦からのSLBMが降ってきて「勝者はいない」ことになります。
マクロンはヘタレだと思ってたけどたまたまEU議長国なので動いたと。
EU各国は国内のコロナ対策とグリーンエナジー遊びをしてる間にロシアに見事付け込まれました。
グレタさん達もも欧米や日本を批判するなら中露に言えと。何故か沈黙してますね。
今回の大軍のロシアの軍用車両の移動だけでも得意のCO2排出量でも示してご批判なさってみれば?と。
投稿: 山形 | 2022年2月 9日 (水) 07時01分
フランス大統領府の発表ですと、7日に行われたフランスとロシアの首脳会談後、ベラルーシでの演習に参加したロシアの部隊が演習終了後には撤退することを確認したってことです。
しかしロシアは、そもそも演習終了後もベラルーシに部隊が留まるとは言っていない、会談で決まったことじゃねーよと。
留まらないともいってないじゃん。
ベラルーシ以外の部隊は駐留するのかという疑問も浮かびますが、ウクライナ侵攻の危機は回避されたと喜んでいます。
いやいや、ロシアのことだから鵜呑みにしたらダメだぞと、備えあれば憂い無し。
記事の通りドイツの責任は大きいです、NATOの中心たる存在のハズがこのグダグダ感。
日本には極東の要たる責務をと願うばかりです。
投稿: 多摩っこ | 2022年2月 9日 (水) 09時28分
腹黒いプーチンの事ですからまだ何とも言えませんが、演習後、ベラルーシからの撤兵を決めたようですね。言葉だけかも?ですが。
山形さんが言うように、プーチンは相当焦っているように見受けられます。
山のような経済制裁が本格的現実味をおび、それを想定した中国への経済面での支援要請が不如意に終わったのでは? と個人的には想像します。
また、ドイツはみっともない腹を見せましたが、経済制裁では米国と歩調を合わせると踏んだものでしょう。
けど、「腐ってもプーチン」ですから、ウクライナ内部親露派と呼応していまだに開戦動機を探る動きもやめていないですね。
それに、公表されていない肝心のゼレンスキー大統領への提案のほうも、一発で承認される内容ではないようです。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2022年2月 9日 (水) 12時35分
下のCNNの記事の意味が分かりませんが、どなたか分かりやすくご説明いただけませんでしょうか?
>「プーチン氏はドイツの罪悪感を巧みに操作してもいる。多くのドイツ人がナチスによる東欧諸国への残虐行為とロシアを結びつけている状況を利用しているのだ。割合からいえばロシアよりも東欧諸国のほうが大きな犠牲や破壊を被ったが、ポーランド人やベラルーシ人、ウクライナ人はほとんど共感を得ていない。東欧諸国が第2次大戦中の独ソ協力や1945年以降のソ連占領で払った代償について、ドイツ人はほぼ無視している。
このため、ドイツはロシアの脅しに最も弱く、またプーチン氏を尊敬と理解に値する人物と見なすことに最も前向きだ。ドイツ人の目には時に、プーチン氏は強い指導者であると同時に、欧米の容赦ない圧力によって窮地に追い込まれた被害者とも映る」
(CNN 2022年2月3日)
投稿: ueyonabaru | 2022年2月 9日 (水) 15時47分
ueyonabaru さん。特に晦渋な記事ではありませんよ。
私がこのCNNの 記事より4日前の1月31日に書いた『ウクライナに「枕を送る」ドイツ』http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2022/01/post-e5db0d.html
で書いたこととほぼ同じ内容です。
ロシアに対する過度な贖罪意識を植えつけられた戦後ドイツ人がロシア政策を誤ったということです。
ロシアを中国に置き換えればわかると思います。
投稿: 管理人 | 2022年2月 9日 (水) 16時31分
最近の石油高騰で潤ったとはいえロシアは裕福な国じゃないですからね。
手を振り下ろす時は秒殺しないとスタミナ切れで自滅します。
アフガンのような秒殺なんて国家元首が逃亡でもしなければまず無理。
できれば戦端を切らずにウクライナの心を折れないものかと最後の水面下の攻防の真っ最中といったところでしょうか。
彼らからしたら「西側の連中なんて平和や人権などたいそうな言葉を並べても結局は金次第、情勢不安になれば簡単に見捨てるぞ」というレッテル張りをしてウクライナを東側に留めておけば大勝利。
一方西側首脳はその罠にハマらずにどれだけロシアの体力とメンツを削り取れるかという戦いと見ています。
・交渉でウクライナを緩衝地としてEU加盟を却下する(ロシアの勝ち)
・このままダラダラと春まで膠着状態(ロシアの負け)
・我慢できずにウクライナに侵攻(ロシアの負け?)
にしても有事の際の欧州へのエネルギー支援を産油国でもない日本や韓国、半分敵側と言ってもいい中国にすら声をかけてるバイデンってアホなんですかね?
その前に自国の環境リベラルねじ伏せて自国のシェールオイルを提供しろよと言いたい。
投稿: しゅりんちゅ | 2022年2月 9日 (水) 17時04分
ウクライナ危機について知りたくて、u-tubeでの篠原常一郎氏と山岡鉄秀氏の対談(雑談)を見ているのですが、このブログとは論調が全く異なっているため、私の頭は混乱状態になってしまいました。
ありんくりん さんはお二人のことをご存じでしょうか?出来ましたらu-tubeで見てください。
このウクライナの問題、非常に複雑な背景があるようです。国際的にも色々と
利害関係が錯綜する場所のようです。また、中国の動きもあるようですね。
先ほどは、私の疑問にお答えいただいてありがとうございました。年齢のせいか理解力が突然停止するようです。ご説明で、前へ進むことはできましたが、CNNあのような文章は昔から私には難しいのですよ。
投稿: ueyonabaru | 2022年2月 9日 (水) 23時20分
事態は膠着状態に入りましたね。
ロシアが本気でウクライナに侵攻するなら、真珠湾の様にやるはずです。
つまり、プーチンとて侵攻はしたくない。犠牲があまりに大きいからです。
但し、ウクライナとて簡単に譲歩はしない。その辺でマクロンなどが調整しているのでしょう。調整に失敗すれば外交は軍事力を背景にした交渉ですから、プーチンは兵を進めると思います。
プーチンの狙いは、ウクライナ東部の親ロシア地域の割譲。多くの有識者が書かれていますが、クリミアからロシアにつながる一帯のロシアへの割譲。あるいはミンスク合意の完全履行ではないかと言われています。そのうえでウクライナのNATO加入は認める。ウクライナは目の上のたんこぶ親ロシア地域を切り捨てる。そのうえでNATOに加盟する。ロシアは経済制裁の解除とクリミア+ウクライナ東部の領土の拡大。それでも西側諸国は力による現状変更は認めない立場ですから開戦はあると思います。
投稿: katrakuchi | 2022年2月10日 (木) 00時28分