わかってきたウクライナ-ロシア停戦合意内容
交渉はおそらく本格的詰めに入っていると思われます。
ロシアが「軟化してきている」という表現はウクライナ交渉団からもらされていて、実際にウクライナのポドリャク大統領顧問がこう言っています。
「停戦が今後数日のうちに成立すると確信している、代表団は両国の大統領が署名可能な文書を作成している途中だ」
このポドリャク顧問の言葉が真実なら、交渉結果は締結文言の詰めまで来ていると見ていいのかもしれません。
ロシアのラブロフ外相も、「ウクライナの中立的地位について合意に近い」と言っているだけに、外郭は出来上がって一点一点概念規定まで含めて作業部会でもんでいるのでしょう。
ラブロフが「中立的地位」と言っていることをみると、この文言を巡って激しいやりとりがあったことが伺えます。
確かにこの概念規定をおろそかにすると、ロシアはいくらでも拡大解釈し、丸腰中立まで拡張してきますからね。
現時点で、内容はフィアンシャルタイムス紙が伝えるもののようですが、他の報道がないのでクロスチェックできないことをお断りしておきます。
Ukraine and Russia draw up neutrality plan to end war
このFT紙を航空万能論様が和訳して要約されています。ありがとうございます。
わかってきたのは、15項目中6項目です。
「FT(フィナンシャルタイムス)紙はウクライナとロシアの和平交渉に携わっている3人の関係者から得た情報に基づき、戦争を終結するため15項目の合意案について以下のような内容が含まれているらしい。
① ウクライナがNATO加盟を放棄して中立を宣言。
② ウクライナ軍の縮小(自国軍の保持は放棄しない)。
③ ウクライナ国内に外国軍基地を設置しない。
④ウクライナは米国、英国、トルコなどの同盟国から安全保障の提供を受ける。
⑤ウクライナの公用語にロシア語も含める。
⑥ ロシア軍は2月24日以降に占領した全ての地域から撤退する。」
(航空万能論3月17日)
https://grandfleet.info/european-region/ukraine-and-russia-are-preparing-end-of-war-document-possible-agreement-within-a-few-days/
Михайло Подоляк リモートでの和平交渉
全部で15項目ですが、残り9項目は現時点で不明です。
う~んなるほど、残り9項目にバクダンがあるかもしれませんが、この妥結内容が事実ならウクライナに有利な内容です。
たとえば
①の「ウクライナがNATO加盟を放棄して中立を宣言」などは、既にゼレンスキーが口にしていることで、戦争前からなんどとなくNATOは加入をさせる気はないと言っていますから、プーチンがなにもこんな戦争をする必要はそもそもなかったのです。
ウクライナは憲法改正してNATO加盟条項を削除せねばなりませんが、それに代替するものがあればよいのです。
②の「ウクライナ軍の縮小」は、ロシアが丸腰武装放棄しろということに対する妥協線です。
本来このような軍縮条約は、キッチリと陸軍兵力は何万人までを保有上限、戦車何台、水上艦艇何隻と細かい規定をするのですが、ただの「縮小」ならば、極端にいえば1個分隊の削減でもいいことになります。
これはロシアが完全にウクライナを倒した後ならやりたい放題ですが、今のようにウクライナ優勢のまま膠着してしまった場合、そこまで強いことはウクライナに要求できないはずです。
したがってあいまいに決めて、あいまいに解釈されることになります。
③の「ウクライナ国内に外国軍基地を設置しない」は、ロシアは米軍ないしはNATOの基地を念頭に置いているのでしょうが、もともとウクライナに米軍のミサイル基地を設置させる計画もありません。
ロシアが妙な恐怖心で騒いでいるだけのことです。
基地は置かないが、別の方法で米国やNATOとの軍事的提携は可能です。
それが④の「ウクライナは米国、英国、トルコなどの同盟国から安全保障の提供を受ける」という部分です。
もしこれがほんとうなら、よくロシアは呑んだなという内容です。
この「安全保障」が意味するものは、今回のウクライナ戦争中のように大量の歩兵携帯型対戦車ミサイルや、歩兵携帯型対空ミサイル、あるいは今噂されているスロバキアからの対空防衛システムのS300や トルコからのS400などの提供などかもしれません。
対空防衛システムのS300
ロシアはS-300をシリアに供給しますか?防衛省は言った - ニュース - 2022 (ww2facts.net)
これはウクライナが求めていた飛行禁止区域に替わるものとして、自由主義陣営が提供しようとするものです。
これをウクライナが得ると、ウクライナの空をロシア軍機が飛行することは撃墜覚悟の自殺的飛行となります。
この「安全保障」措置に付随して、米欧からインストラクターの肩書で、多くの米欧の軍人たちがウクライナ基地に駐屯するかもしれません。
自分らの基地は作らなくとも、ウクライナ軍の基地をに入ればいいだけのことです。
あるいはNATOに加盟できなくとも、直接米国や英国、あるいはトルコとの二国間安全保障条約を結ぶことも可能かもしれませんが、そこは微妙なところです。
⑤の「ウクライナの公用語にロシア語も含める」というのは、せめてものロシアへのお土産です。
意味するのはクリミアやドンバス・ルガンスクでのロシア語公用語の容認ですが、実態としてはウクライナはこの親露地域を認めたわけでもなんでもありませんから、今までと変わらずということです。
ロシアはクリミア併合を認めよ、東部2州の「独立国」を認めよと言ってきたはずですから、ずいぶんと譲ったものです。
⑥の、「ロシア軍は2月24日以降に占領した全ての地域から撤退する」は、これがほんとうならウクライナの勝利確定です。
約1万人の戦死者と3万人の負傷者を出し、世界中にロシア軍の弱さをさらけ出してプーチンが得たものは、わずかに「ロシア語の公用語」だけということになります。
もっとも残り9項目の蓋があかないと、決定的なことはまだ言えませんが。
国際司法裁判所、ロシアにウクライナでの軍事行動の即時停止を命じる [ウクライナ情勢]:朝日新聞デジタル (asahi.com)
なお3月16日、国際司法裁判所(ICJ)は、ロシアに対して、ウクライナでの軍事行動を即事停止するよう命じる仮保全措置を出しました。
「国際司法裁判所は16日「ウクライナで起きている広範な人道上の悲劇を深刻に受け止めており、人命が失われ人々が苦しみ続けている状況を深く憂慮している。ロシアによる武力行使は国際法に照らして重大な問題を提起しており、深い懸念を抱く」として、ウクライナ側の訴えを認め、ロシアに対して直ちに軍事行動をやめるよう命じる暫定的な命令を出しました。
国際司法裁判所の訴訟には当事国の同意が必要で、今回ロシアはその意思を示していませんが、裁判所は暫定的な命令には法的拘束力があるとしています」
(NHK3月17日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220317/k10013535501000.html
これは、去る2月26日のロシア軍事侵攻に対しての正統な理由がないとするウクライナの提訴を受けたものです。
一方ロシアは、親露派地域でのジェノサイドがあったというのを侵攻理由にしていましたが、国際司法裁判所はこれを否定しました。
命令には15人の裁判官のうち13人が賛成し、ロシアと中国の裁判官が反対したそうです。分かりやすいこと(苦笑)。
これには法的拘束力がありますが、ロシアと中国は法の支配を認めないお国柄ですから、これで戦争が終わるわけではありません。
しかしウクライナを支援する世界の多くの国々の主張を、強く後押しすものにはなるでしょう。
ロシア国債、支払い期限 デフォルトの恐れ強まる - 産経ニュース (sankei.com)
また昨日、ロシアが債務不履行の期限を迎えました。
「ロンドン時事】ロシア国債がデフォルト(債務不履行)となる可能性が高まっている。16日にはドル建て国債の利払い期日を迎えたが、ロシア政府は欧米の制裁で外貨準備を凍結されており、支払いは困難との見方が金融市場では有力だ。もしデフォルトに陥れば、ロシア通貨危機の1998年以来となる。(略)
ロシア政府が発行する外貨建て国債の中にはルーブルでの支払いを認めているものもあるが、今回の支払いには適用されない。格付け大手フィッチ・レーティングスは15日、もしロシアがルーブルで支払った場合、猶予期間後にデフォルトと認定すると表明。他の格付け大手も同様の判断を下す可能性が高い 」
(時事3月17日)
ロシア国債、迫るデフォルト 利払い期日到来:時事ドットコム (jiji.com)
ロシアにはあと1カ月間猶予期間がありますが、ほぼテフォールトは確定したとものと思われます。
このことによる経済的損失はたいしたことはありませんし、連鎖することも少ないでしょうが、ロシア経済の信頼性は根底から揺らぐことは間違いありません。
プーチンの首がいっそう締まることは誰の目にも明らかです。
このようにほのかに光明が見えてはきましたが、こういう停戦合意直前にロシア軍が支配地域を少しでも拡大しようとして無差別攻撃に走る可能性もありますので注意しましょう。
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コメント
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https://www.state.gov/wp-content/uploads/2019/02/05-829-Ukraine-Weapons.pdf
こういうのがありました
投稿: うどん | 2022年3月18日 (金) 06時05分
国際司法裁判所の命令を明確に拒否しましたが(中国と同じだ)、あの長い車列が移動再配置されたのは確認できたのにいまだに攻撃は散発的です。
ロシア軍内部もどうなっているのやら。
ロマン·アブラモビッチがトルコ経由でモスクワ入りしたようですけど、現在プーチンと会える立場なのかすら分かりませんね。
投稿: 山形 | 2022年3月18日 (金) 06時07分
>ロシア政府は16日が期限になっていたドル建ての国債の利払いをドルによって実施したと明らかにしました。制裁によって多額の外貨準備が凍結されていることなどから、デフォルト=債務不履行に認定されるという見方が強まっていましたが、欧米のメディアは投資家側がドル建てで利払いを受けたと伝えています。
NHKのニュースより。今回は首の皮一枚つながったみたいなので、まだまだ攻撃の手は緩めないかも知れません?
投稿: ねこねこ | 2022年3月18日 (金) 07時08分
うどんさん。
「こういうのありました」とpdf貼って丸投げは無いでしょうに。せめて自分の見解くらいは述べて下さい。
それを根拠にウクライナやアメリカを批判したいならそれで良いだろうし、意見も言わずにそんなことやっても大抵の人は相手にしないと思います。まあオレ(変人ですから)がかまっちゃってるけど。
投稿: 山形 | 2022年3月18日 (金) 07時32分
中立化、というのは、多分、ここ以降合意になるんでしょうね。結局、今回の最低限の武器提供しかしない西側の対応で、ウクライナを緩衝地帯に利用したいのは、ロシアだけで無くNATOも同じだと明確になってしまったと思うので。
後は、ウクライナの安全保障と、プーチンへの土産(滅びるまで待ってられないので)をどうするか次第ではないでしょうか。ウクライナは、制空権を渡してないけど、領空外からの巡航ミサイルの被害だけはどうにもならないから、成功率はともかく、迎撃ミサイルがあるなら欲しいでしょう。
一方で、ロシアの外交団もプーチンが首を縦に振りそうな土産を持っていかないと自分の首が飛んで終わりかもしれない。ロシア系住民はいるので、言葉の復活は良いとして、元々の2箇所のインチキ共和国の扱いをどうするのか。表に出てないのってそこじゃないでしょうか。
投稿: garon | 2022年3月18日 (金) 12時40分
ぶっちゃけ生物兵器開発と生物兵器対策は紙一重で、日本以外の主要国はどこでもやっている。もちろんロシアやチャイナもね。
投稿: ednakano | 2022年3月18日 (金) 16時00分