ベラルーシはなぜ今頃参戦したのか
ベラルーシが今頃になって参戦したようです。
なぜ国際社会がロシアを世界の敵と認定したころになって、ロシアに助っ人するのでしょうか。
盟友のはずの中国なんてビビって、先日の国連総会のロシア非難決議で反対票を投じなかったくらいです。
遅すぎはしないか、それが私の最初の疑問でした。
「3月2日 AFP】ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ(Alexander Lukashenko)大統領は1日、南部の対ウクライナ国境地帯への軍部隊の増派を指示したと発表した。ただし、軍事同盟国であるロシアのウクライナ侵攻には参加しない方針。国営ベルタ(Belta)通信が伝えた。
ルカシェンコ氏は国家安全保障会議で、国土防衛のため、兵士数百人、装甲車、迫撃砲などで構成される戦術戦闘群5個を南部に追加配備すると述べた。現地には現在、ヘリコプターや戦闘機が配備されている」
(AFP3月2日)
だって、今やロシア経済は破綻寸前、いやもう破綻しています。
ルーブルは紙くず、国債はジャンク債、株式など相場が立ちません。
とうとうロシア国債は6段階落ちとなってしまいました。
「米格付け大手ムーディーズ・インベスターズ・サービスは3日、ロシアの格付けを「B3」に6段階引き下げたと発表した。投機的水準にあたる。ウクライナ侵攻で米欧から厳しい経済制裁を科され、ロシア経済を巡るリスクが高まったと判断した」
(読売3月3日)
仮にロシアが勝利しても、ロシアへの制裁が長期化するだけのことですから、勝とうが負けようが経済破綻は免れません。
それをなにもこんな時にトチ狂ってと思いますが、どうもベラルーシは本気のようです。
口では参戦したとは言っていませんが、それは既に始まっている西側の制裁が恐ろしいからで、現実にはポーランドとウクライナ境界周辺地域に戦車部隊を進出させているようです。
すでに西部進攻部隊に出撃拠点を提供した段階で共犯扱いですから、自らウクライナに進攻すればリッパな共謀者に格上げです。
「ベラルーシ軍の戦車300輌はウクライナ西部の国境に近いピンスク、イヴァノヴォ、ドロギチンに集結しており国境超えに向けて行動を起こしていないが、ウクライナ北部方面の防衛を担当する北部作戦司令部は1日午前12時過ぎの会見で「ベラルーシ軍はチェルニーヒウ地域に入って3日目が経過している」と発表、別の情報源は「ベラルーシ軍の車輌33輌がチェルニーヒウのSlabynとPakulに向かった」と指摘しているので既にベラルーシ軍は国境を越えている」
(航空万能論3月2日)
https://grandfleet.info/european-region/ukrainian-ministry-of-defense-300-belarusian-tanks-gathered-near-the-border/
ここで集結地点として上げられているピンスクの位置は、ウクライナ西部です。
ピンスク Google Earth
ポーランドからウクライナに入る幹線は地図で見ると2本あって、一本がポーランド領ルブリンからのものと、もう一本がポーランドからウクライナ領リビィウに入るもののようです。
他に間道などは多くあるでしょうが、西側の援助物資は大型トラックによるコンボイを使って搬入されていますから、幹線が使われるとみたほうがいいでしょう。
ならばベラルーシの参戦意図が浮かび上がってきます。
それは陸路でのウクライナ支援路を遮断するたとが目的です。
停戦交渉開始で合意 ロシアとウクライナ、交戦は継続―プーチン氏「核警戒引き上げ」:時事ドットコム (jiji.com)
では、ベラルーシの位置関係を見てみましょう。
ウクライナの北で、西部地域を扼する位置にあり、ポーランドとも国境を接しています。
首都キエフとは至近距離で、ロシアのキエフ攻略軍の策源地となったことはご承知のとおりです。
ところでいまのウクライナ戦争は補給戦の段階に入っています。
攻防の焦点がキエフ攻防戦にあることは疑い得ませんが、むしろ問題はロシア軍の補給が先か、ウクライナへの支援物資が先かという競り合いにかかっていると考えたほうがいいでしょう。
つまりウクライナ戦争は、すぐれて補給戦でもあるのです。
ロシアは48時間以内にウクライナを制圧し、72時間以内に勝利宣言というファンタジーを描いて、最小限の武器弾薬の兵站すら作らなかったツケが祟りました。
路上にはガス欠で動けなくなった戦車、軍用車両が点々と打ち捨てられ、多連装ロケット砲は弾が切れたらただの筒、戦車は鉄の棺桶。
ですから、64㎞という長い長い車列を作ってキエフ戦線に補給しようとしているわけです。
約64キロにわたる車列…ロシア軍、ウクライナの首都キエフに迫る “燃料気化爆弾”報道も(日テレNEWS) - Yahoo!ニュース
黒井文太郎氏はこんな感想を話しています。
「相当の攻撃用の兵器だけではなくて、弾薬や燃料を運んでいる。これだけの量ということは渋滞状態なんですよ。要するに防御するのが難しいわけです、こんな状態だと。こういう状態になってしまったら、(この状態で)攻撃するだけの能力がウクライナにはないということ。これからシビアな戦闘がロシア側からされると思います」(日テレ3月1日)
黒井さん、相変わらず辛口だなぁ。
おっしゃるとおり、今後ロシアが「シビアな攻撃」をキエフに企図しているのは確かですが、ならばどうしてこんな渋滞を引き起こしているのでしょか。
こんな逃げ道のない拓けた場所の一本道に一列縦隊で押すな押すな、です。もう狙ってくれといわんばかりです。
ロシアが制空権を取れていないのはこの間明らかで、緒戦で死んだはずのウクライナ空軍が、露軍のずさんなミサイル攻撃があたらなかったため(笑)に生き残っていることもわかっています。
このような補給線に対しての攻撃の場合、トルコ製「バイタクルTB2」というドローンを使った攻撃を仕掛けて戦果を上げていましたが、2機落とされて一時は手持ちが4機かと思われていましたが、補給があって実は15機ちかくが稼働しているのが分かりました。
バイタクルTB2ドローン
ウクライナとトルコが急接近 「ロシアへの圧力」で一致 無人攻撃
また土地勘があるウクライナ兵が、ボーっとしてロシア軍補給車両が通過するのを見ているのでしょうか。
こういう拓けた一本道で1台が炎上したらコンボイがどうなるか、かつてのアフガンのサラン峠で学ばなかったのでしょうか。
おびただしい破壊されたロシア軍戦車の残骸の山 産経
黒井氏とは異なるこのような意見もあります。
「英軍情報部のフィリップ・イングラム元大佐は「制空権が確保されていない交戦地域のど真ん中で部隊が立ち往生するなんて軍事的に最悪でカモにされるだけだ。ウクライナ人はロシア軍の補給部隊の位置を完全に把握しているので大軍が態勢を立て直すのを全力で阻止するだろう。ロシア軍はこれほど大規模な部隊を一度に南下させるべきではなかったんだ」と語っている」
(航空万能論3月1日)
https://grandfleet.info/european-region/russian-media-heading-to-kyiv-is-the-worst-military-duck/
どちらの意見が正鵠を射たのかは追々わかるはずです。
いずれにしても、互いに支援を待つしかないのが現状だということは事実で、キエフだけに限らず、全戦線でウクライナ軍もロシア軍も武器弾薬が不足していることは確かなはずです。
包囲されたキエフではロシア軍がウクライナの補給線を断っているでしょうから、武器弾薬にも限りがあります。
たぶん数日以内に、ロシア軍はキエフの再侵攻を企てて、ありとあらゆる武器をみさかいなく無差別投入し、市民もろとも廃墟にする気のはずです。
プーチンが勝つためにはもうこれしか残されていません。
逆にウクライナが勝つためには、ロシアを逆包囲するしかないのですが、それには膨大な支援物資が必要です。
それが分かっているからNATOはいまポーランド経由の陸路で支援物資を送っているわけです。
これを遮断したい、これを断ち切らないと勝てない、しかし西部までロシア軍は行く力がない、ここで冒頭の私の疑問に答えられることになりました。
ベラルーシが今頃になってしゃしゃり出た理由は、ロシアからウクライナ補給線の遮断を命じられたからです。
もちろんルカチェンコは快諾し、ポーランド-ウクライナの線に派兵しました。
策源地をロシアに与えただけではなく、自らも乗り出したのですから、独裁者同士のよしみで、プーチンと地獄の道行を選んでしまったようです。
そうそう、ベラルーシには、ロシアがウクライナ大統領に据えたいヴィクトル・ ヤヌコピッチも入国したようです。
さて、ベラルーシについて簡単に触れておきます。
ひとことでいえば、ロシアにつき従うベラルーシ、カザフスタンといったしゃもない独裁国の舎弟どもの国です。
大統領はアレクサンドル・ルカシェンコという「ヨーロッパ最後の独裁者」というふたつ名を持つ男が支配していますが、最近憲法改正をしました。
その理由が奮っています。自分の大統領任期を伸ばしたいからだそうです。
「1994年就任のルカシェンコ氏は2年後に国民投票で自らの任期を延長。強権体制を固めて2001年に再選を果たすと、04年には憲法改正で任期制限を撤廃した。今は6期目。草案が実現すれば25年の大統領選への立候補は不可能だ。
しかし、現段階で素直にルカシェンコ氏の引退を予想する声は皆無に近い。
昨年改憲されたロシアでは当初、通算4期目のプーチン大統領自身が任期を通算2期までに限ることを唱えた。しかし議会で採決される間際に与党議員が「改憲前の大統領の過去の任期は制限対象にしない」との修正を提案。結局プーチン氏はさらに2期12年、36年まで続投可能になった」
(朝日2021年7月21日)
「欧州最後の独裁者」が任期制限? ささやかれる逃げ道:朝日新聞デジタル (asahi.com)
そしてもう一項、重大な改変がありました。ロシアの核ミサイルを置くことを盛り込んだのです。
「改憲では現行憲法の「自国領を非核地帯とし、中立国を目指す」という条文を削除。軍事同盟国であるロシアの核兵器配備を受け入れる可能性が高まっている」
(時事2022年2月28日)
プーチン独裁者一家。ウラジーミル・プーチン、左カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ、右ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ
ニューズウィーク
危険なのはお手盛りの独裁延長だけではなく、むしろロシアの核基地を置くための改憲だという点です。
「興味深いことは、ウクライナの隣国ベラルーシで27日、非核化を定めた憲法条項の改正を問う国民投票が行われたことだ。具体的には、ロシア軍の核兵器の配備を可能とする内容を問うものだ。ロシアの国営タス通信によると、国民投票では有権者の65%が賛成票を投じ、反対は10%だった。プーチン氏はベラルーシにロシアの核兵器を配備することで、ウクライナだけではなく、ポーランドやバルト3国に睨みをきかすことができるわけだ」
(ウィーン発 『コンフィデンシャル』3月2日)
http://blog.livedoor.jp/wien2006/
さぁ、ここで出てきました、プーチンがキエフ攻略も敗北しした場合、最後の手段として核兵器を使う可能性です。
それも小型の戦術核ではなく、NATO諸国の首都を目標とする戦略核です。
一般的な状況において、まともな指導者が確実に報復核攻撃を受けることが間違いない核のボタンを押すはずがありません。
押せば、西側の主要都市は壊滅しますが、その代わりロシアの主要都市も消滅するからです。
こんなわかりきったことをするはずがない、という常識に核戦争理論は支えられていました。
しかし、もしプーチンが狂っていたらどうします。
やる必然性がないウクライナ戦争を始め、予告されていたとおり「見たこともない制裁」を食い、結果、想定どおり、いやそれ以上の経済恐慌になることなど、誰の目にも明らかだったはずです。
なるべくしてなったことをあえてやってしまう。まともではありません。
狂っているとしか思えません。
プーチンが狂っていると考え始めたから、西側も100%の制裁ではなく、多少の穴をあえて残しているのです。
だって、本気で世界を道連れにされたらタマッたもんじゃありませんからね。
ゾッとする想像ですが、これについては長くなりそうなので、次回に続けます。
ウクライナの平和と独立をお祈りします。
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ベラルーシ軍が越境して補給線を叩きに来た場合···ウクライナ国内とはいえNATOからの物資ですからね、判断がそれこそ難しくなります。その気になればポーランドとバルト三国に増備した米軍が西と北から攻撃をするかもしれない···てか、その抑止力としての増備だった訳だが。。
そうなった場合はマジで大戦になる恐れがありますね。
ルカシェンコはもうプーチンに貼り付いて一蓮托生でいないと確実にクーデターが起きて倒れるところまできてますから。コイツも正気なのか?
いつも冷徹に事を述べる黒井文太郎氏の見立てでもそうなのかあ。
あれだけの車列が渋滞してたらよりどりみどりで、ジャベリンで弾薬輸送車か燃料輸送車に一発ぶち込むだけで大混乱だし、なんなら夜闇に紛れ接近して火炎瓶でもいいくらいなんたけど、それすら出来ない状態か。
トルコから慌てて買ったドローン、中途半端な偵察·攻撃性能でゴミ同然だと思ってたけど(安い小型自爆ドローンのほうが遥かにマシだと)、どうにか運用出来てるのね。搭載弾薬が残ってないのかもしれませんね。。
投稿: 山形 | 2022年3月 4日 (金) 06時12分
なんとしても傀儡政権樹立は阻止すべきではないでしょうか
確かに、今さらウクライナ傀儡政権を樹立させたところで
内戦化必至ですし、勝とうがロシアへの制裁が長期化するだけでウクライナは再度独立を果たすかもしれませんが
中国に、西側は領土簒奪しても結局直接介入はしてこなかったという事実を与えてはならないと思います
投稿: しゃちく | 2022年3月 4日 (金) 13時32分
2022.3.4 相模吾です。 ベラルーシも参戦ですか。かのマキャベッリが「現実的に考える人が間違えるのは、相手も現実的に考えるだろうから馬鹿な真似はしない、と思うからである」と言ったそうで、世界中の人たちがロシアは侵攻しないだろうと思い、現実的ではないプーチンさんとルカシェンコ大統領は戦端を開いた。
我々が間違えたのは確かだが、そのツケはキッチリと払ってもらう。
対露制裁が本格化する。直ちには効かないがじわじわと効果は出てくる。日本国内でも制裁の影響で、まず国際物流に影響が、エネルギー価格の高騰や不足、食料品の値上げや不足などすべての経済活動に影響が出て来るだろうが、たいする覚悟はできている。
ロシア、ベラルーシも必死になるはずで、制裁効果が顕著になるまで、ウクライナには善戦して欲しい。
投稿: 相模吾 | 2022年3月 4日 (金) 20時00分
時間の勝負になってきましたね。
ウクライナが破壊されるか、ロシア経済が破綻するかの時間です。
今日のフジTVのプライムニュースで橋下徹が、米軍もNATOも軍事介入できないなら、ウクライナは降伏したほうが良い。経済制裁も中国が助けるから効果はない。と発言していました。
支援もしないでウクライナ頑張れは無責任だとも。
そうでしょうか。
ロシアも中国も対外資産はそれぞれドルが50パーセント、70パーセントです。つまり中国の貿易の70パーセントはドル建てです。
中国は、ドルを買った分だけ人民元を発行するシステムだそうです。
だから、70パーセントをドル建てで貿易を行う中国も、ドル決済を止められたときはアウトです。
中国が経済面でロシアを支援するにはリスクが高いと言えます。
あと、原子力発電所の攻撃やNATOの支援物資への攻撃はヨーロッパ全体を敵に回します。NATOの軍事介入だって否定できません。
引用記事
お金は知っている 対ロシア並み金融制裁で中国経済は崩壊 米国に致命的とも言える弱みを抱える通貨・金融制度
https://www.msn.com/ja-jp/money/othe
投稿: karakuchi | 2022年3月 4日 (金) 22時42分
この戦争の落としどころはどこにあるのでしょかね?プーチンはどうやらウクライナ全土を取る気みたいですしウクライナの東西分割ような生温い妥協はもうできないのでしょうかね?
投稿: 中島みゆき | 2022年3月 5日 (土) 00時12分
この航空万能論さんの説はデイリーテレグラフによるもので、黒井氏よりも信頼性が高いものと思われます。
他に、「中国製の中古タイヤの使用によるパンクや脱軸ほか、車両整備の必要があって」というのもあり、要は「立ち往生している」という事が事実でしょう。
そこからロシア側は自前の救急車に弾薬を乗せ換えて(ジュネーブ条約違反)拿捕され、軍の体面丸つぶれになってますし。
ルカシェンコのベラルーシはロシアと一体化するしかありませんから、最後まで運命を共にするでしょう。
ゼレンスキーはウクライナ上空を飛行禁止区域にするようNATOに呼び掛けてますが、NATOもバイデンも消極的ですね。
物資はとうに到着しているらしい事までは推測できるのですが、その運搬がどうなっているのか、もっと情報が欲しいところです。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2022年3月 5日 (土) 01時33分