あの男が排除される時まで戦争は続く
ペシミスティックに聞こえたら申し訳ないのですが、昨日見てきたような交渉では戦争は終わらないかもしれません。
日本人が戦後に罹った病のひとつは、「対話と交渉」によって戦争が収まると思っている精神の傾きです。
積極的降伏論者はその亜種ですし、共産党的話し合い路線も似たようなものです。
そこには自分が理性的判断ができるから、相手もそうするだろうという楽天的な錯覚が宿っています。
自分もそうだから、相手もそうだろうと考えてしまう。
ところが侵略は必ずしも合理的判断の結果はじまるのではない場合もある、というのが今回の事例です。
開戦前から何度か言ってきているように、ウククライナ戦争は、プーチンにとって「やらなくてもいい戦争」でした。
西側情報機関の一部もそう思っていました。
フランスのマクロンなどは、情報機関のプーチンのブラフだという分析を信じて、自信満々にクレムリンに乗り込んでサシで話せば止められると信じていました。
マクロン仏大統領、ロシアでコロナ検査を拒否 ロシア政府認める - BBCニュース
今頃になって、マクロンはフランス情報機関の幹部に責任をとらせています。
一方、米英の情報機関はウクライナ国境付近のロシア軍の集積状況から見て、開戦は不可避だという冷徹な判断を下して、開戦日まで特定して警告を発していました。
結局、開戦から一カ月経過してわかったことは、プーチンはリアルマッドマンだったという衝撃的事実でした。
彼は自らが滅びるまで、戦争を継続するでしょう。
最後まで諦めることなく、滅びの道をを突き進みます。
破滅するなら、世界を破滅に引きずり込むまでやる、そういう男なのです。
ですからプーチンは、どれだけウクライナの街が焼かれて数万の住民が殺され、数百万の難民が出ようと、千両もの戦車が残骸に変わり、ロシア兵が死体の山を築こうと、一切気にしないのです。
なぜなら、既に彼は脳内の世界にだけしか生きていないからです。
よくロシア兵が数万戦死したら、世論に押されて戦争を止めるだろうと言う人がいますが、ありえません。
それは普通の国の普通の政治家が考えることです。
民主主義を停止してしまった国には「世論」はありません。
独裁者は、自らが権力の椅子から転げ落ちるくらいなら、国民を巻き添えにしてしまえる生き物なのです。
唯一止まるとすれば、それはプーチンが何らかの理由で死ぬか、権力の座から引きずり降ろされて逮捕された時だけです。
ベルリンの総統官邸で毒薬をあおる時まで、戦争を止めなかったあの男と一緒です。
ルトワックはこう言っています。
「今回の戦争でロシア国家そのものの破壊が進み、それはプーチンが権力の座から堕ちるまで続く。
ロシアはこの戦争で徹底的に破壊される。プーチンはもう後戻りできないことは間違いない」
(エドワード・ルトワック『戦争集結、唯一のシナリオ』Hanada5月号)
したがって、この男を物理的に排除しない限り、戦争はどこまでも続くことになります。
「プーチンを止められる人間はいるのかといえば、それはクレムリン内の"シロヴィキ"と呼ばれる人間たちだけだと応えるしか他ない。
しかし繰り返しになるが、残念ながら、これは歴史的に一度も起こったことがない。イラクのサダム・フセインの政権では、誰もフセインを引きずり降ろすことができなかった。残念ながら、プーチンもその歴史の例外とはならないはずだ」
(ルトワック前掲)
シロヴィキとは、ロシアのFSBなどを指します。
彼らはこぞってウクライナ戦争で負けるという分析をしておきながら、それを独裁者には提出できず、その意に沿った短期間制圧可能という情報を上げて、彼の怒りを買う結果になっています。
情報機関とプーチンの間の溝は深く、これにロシア軍の一部の将官が与しているということはありえるかもしれません。
ヒトラー暗殺計画 ワルキューレ作戦 ウィキ
彼らが、かつてのドイツ帝国軍が30もの暗殺計画を建てたように、密かに暗殺とクーデターを準備していてもなんら不思議ではありません。
ただし実行は極めて困難ですし、計画が漏れればロシアのシュタウフェンベルクたちはクレムリンから全員刑場送りとなるでしょう。
ところで、ロシア軍の新たな戦略が見えてきました。
これはロシア軍が天王山と目したキーウ包囲の挫折に伴う、新たな動きです。
アルジャジーラはこう述べています。
「国全体を乗っ取ることに失敗した後、ロシアはウクライナを二つに分割して、モスクワが支配する地域を作ろうとしている、とウクライナ軍事諜報機関のトップは語った。
ロシアが支援するウクライナ東部の反政府勢力地域、ルハンスクは、ロシア加盟に関する国民投票を実施する可能性があると述べ、そのような投票は法的根拠がなく、強力な国際的反応を引き起こすとキエフから警告を発している。
ロシアは「全面的な武力侵略」を続けており、ウクライナ軍はドネツクとルハンスクの東部地域で7回の攻撃を撃退したとウクライナ軍は述べている。
ウクライナの副首相は、ロシア軍が占領下のチェルノブイリ発電所周辺の立ち入り禁止区域を「軍事化」していると述べた」
(アルジャジーラ3月28日)
https://www.aljazeera.com/news/2022/3/28/russias-invasion-of-ukraine-list-of-key-events-from-day-33
アルジャジーラの戦況地図を押えておきましょう。
アルジャジーラ
上図で赤色の地域はロシアの占領地域、草色地域は、ロシアが占領したと主張するウクライナ領、赤の斜線はロシア軍が侵攻したが支配していない地域、青色がウクライナ軍が反撃して支配している地域、そして黄色はドンバス州です。
これを大きく上から俯瞰すれば、ロシア軍はウクライナを東から南にかけて大きく回廊状の支配地域を作ろうとしているように見えます。
今、この回廊を遮断しているのは、南部マウリポリと、東部ハリコフ北西の2箇所です。
ここをウクライナが落とされれば、ロシアの支配の環はいったん閉じます。
では、ロシアはここでなにをするのでしょうか。
いままで彼らがしてきたことを考慮すると、先日も述べましたが要約すると
①ロシア連邦保安庁(FSB)と国家親衛隊による強権支配。FSBが支配の指揮、手足となるのは国家親衛隊。
②令状なしの家宅捜索と、ウクライナ軍の協力者の逮捕監禁。
③外部との通信と情報の遮断。マスメディアは完全検閲されて発行禁止。電話とインターネットは、すべて盗聴。無線機は没収。
④全住民の選別と登録。ロシアの出先機関に出頭し、ロシア占領機関発行の身分証明書の常時携帯の義務化。密告の推奨。
⑤ウクライナ貨幣を使用禁止。ロシアの軍票使用の義務化。外貨の所持禁止。
⑥配給切符制により食料を統制。
⑦ウクライナ人を支配地域の偽代表とする。
すでに抵抗が激しかった地域においては、反露分子とみなした住民を丸ごとシベリアに大量移送することをしていますが、更に拡大するかもしれません。
そして事実上ウクライナを二分割し、占領地域に傀儡の「人民共和国」を作らせます。
このように見てくると、ロシアはこの東部から南部クリミアにかけての「支配の回廊」が完成するまで、一切の妥協はしないでしょう。
そこを半永久的に実行支配下に置いて、やがて時をみて住民投票でロシアに「民主的に」編入します。
これがキーウ占領の代わりに、プーチンを納得させられると思う軍のギリギリのラインです。
ちなみに橋下徹氏は「被害レッドラインを決めて、そこに達すれば降伏しろ」と言っているようです。
「防衛力が不十分なウクライナではロシアに狙われるのでレッドラインを公表できないだろうが、日本では戦争指導の在り方として議論する必要がある。戦争終結妥結案確定のプロセス。被害レッドラインを定めることは、そこに達しないための防衛力強化の目標になる」
(3月22日ツイート)
利口ぶっているだけに脳みそが足りないのが目立ちます。維新さん、この男と一線を画しておいてよかったですね。
「戦うこと一択でいいのか」などと言っていましたが、一択なのはプーチンであって、ウクライナではありませんから念のため。
そもそも戦争には相手がいるわけで、今回は一方的なロシアの侵略が発端な以上、プーチンが戦争を止めようと思わないかきり戦争はどこまでも続きます。
ちなみに降伏した後待ち構えているのは、前述した永久奴隷の道なのです。
だから奴隷となって生きるよりも独立を選んで戦っているのが、ウクライナ国民ではなかったのでしょうか。
まして「レッドライン」論を平時の日本にまで敷衍して、自分のスチューピッドぶりをさらに際たたせているようです。
いいですか、日本がこのような「ここまで来たら降伏」なんてものを明示したら最後、敵からすればそこまで日本人を殺しまくらねば勝てないことになります。
仮に「レッドライン」なるものを死者10万とすれば、10万人になるまで侵略国は日本人を殺し続けるでしょう。
そんなことを明示してどうするんですか。
そもそも橋下氏のような小賢しいタイプが見誤っているのは、プーチンが彼の思惑の範囲で動いてくれるフツーの人間だと思っていることです。
あいにくプーチンは常人ではなく、一世紀に1人出るか出ないかの狂人なのです。
とまれ、プーチンという世紀の虐殺者を排除しない限り、戦争はどこまでも続くでしょう。
なおもうひとつの戦争終結方法は、ロシア軍を完全に敗北させることであるのはいうまでもありません。
ウクライナに平和と独立を!
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ロシア大好きな鳩山さんがモスクワに行って友愛してくればいいんですよ。
何か言われたら「あんな宇宙人のやることなど知らん!」と突っぱねる方向で。
橋下はダメだね。話術に長けてるけど政治力学でしか語らないので、あんなのに軍事語らせちゃダメ。
さて、今日はBBCとかどんなネタ出して来るやら。流石にウクライナ関連ではやらないとは思うけど。やるなら「プーチン、発毛してフサフサに!」とか?
投稿: 山形 | 2022年4月 1日 (金) 06時15分
プーチンには最早正確な情報を伝える側近はいない、何故なら本当のことを言った部下は全員軟禁か更迭か処分されたから…
現代の国家のすることかいな、と思います。それこそ独裁国家では、「独裁者が60歳を超えたら処刑する」みたいなレッドラインでも、引けば良いんですよ。民主国家みたいに、頭おかしいトップを選挙で正当に引き摺り下ろせるシステムが無いんですから。
投稿: ねこねこ | 2022年4月 1日 (金) 12時21分
独裁者の死はメンツを守れなくなった時なので、いまプーチンはどのような形なら自分のメンツを守れるのか必死に模索しています。
まあぶっちゃけありませんが、万にひとつ西側を中心とした反プーチンに綻びがでるかこのままダラダラ状況を長引かせてお互い大量出血しつつも有耶無耶になればいいなぁと甘く考えているのかもしれませんね。
でもこの状況においてもロシアとのエネルギー共同開発の継続を表明しちゃう日本政府の甘さをみてればそう思ってしまうのかもしれませんね。
なにが安全保障上必要だと判断しただよ…むしろ逆でしょうに。
投稿: しゅりんちゅ | 2022年4月 1日 (金) 13時11分
プーチンが政権を失うシナリオで一番考えられるのは粛清されるのを恐れた護衛が先手を打って反旗を翻すという内容でしょうね。
投稿: 中華三振 | 2022年4月 1日 (金) 15時13分
橋下氏はもう例の国外に逃げろ発言を無かったことにしたいあまりに支離滅裂な発言を繰り返すばかりで哀れとしか言えません
政党として維新と関係がきれてるとはいえ、同一視する有権者はいるでしょうし維新としちゃしばらくツイートしてほしくないでしょうね、維新にはあの鈴木宗男もいたと思い出しましたし、野党として総合的にマシとはいえなんだかなあと思う次第です
ロシアがこのまま東部のマリウポリ含む一帯の実効支配に注力したら大変に長期化しそうですね、それこそプーチンが死ぬまで。
どこで膠着するかが問題です。
開戦前まで戦線が戻ればウクライナの勝利と言えましょうが、マリウポリ含む東部一帯を支配されたまま形だけの停戦合意となった場合は両者敗けです、制裁は続くがロシアはエネルギー輸出の抜け道のおかげで細々と生き残る、こういう展開は想像したくないですがこの場合はいかに早くロシアのエネルギー依存から脱却できるかがカギになるでしょう、当然日本も。
本来ロシアにとってはウクライナから完全に撤退してガス屋に戻る道を探すのが一番なんですけどね、これがイコールプーチン排除になるわけでロシアにとって最も困難な道であるという、独裁国家の致命的な欠点というべきでしょうか
投稿: しゃちく | 2022年4月 1日 (金) 16時01分