ウクライナ戦争、考えられるシナリオとは
3回目の停戦交渉も不調だったようです。当然です。
ロシアの総参謀長のペェタリ・ゲラシモフが戦死したという情報もありますが、未確認です。
さて何度か書いてきていますが、停戦交渉は双方にとって補給を待つための時間稼ぎでしかありません。
ウクライナは、ポーランドに大量に世界から送られてきている物資を前線に運ぶ時間ですし、ロシアは例の67キロの補給コンボイを到着させる「時間」です。
「人道回廊」は悪い冗談のような自称で、逃げない市民を大量虐殺するための口実づくりにすぎません。
では今後どのような展開となるのか、戦争に押しつぶされそうな人々からあえて目を俯瞰に切り換えて考えてみましょう。
BBC3月7日付けの記事を参考にします。
【解説】 ウクライナでの戦争の結末は 5つのシナリオ - BBCニュース
まず短期決戦シナリオ。
ウクライナ軍が敗北し、プーチンが凱歌をあげた場合のみのシナリオです。
ロシア軍がキーウに総攻撃を仕掛け、壊滅的な無差別爆撃を行い、市民もろとも首都を壊滅させます。
民間人犠牲者は数千人に達するでしょう。
ゼレンスキーは戦闘の最中に暗殺され、ベラルーシからヴィクトル・ヤヌコーヴィチ元大統領が帰国し傀儡政権を作ります。
英国がゼレンスキーを暗殺から守るために、SASを派遣したという情報も入っています。
ヤヌコーヴィチは直ちに降伏を宣言し、ロシアは一部の制圧部隊を残して撤収します。
以後、ウクライナはロシアの従属国家になり、ベラルーシ型独裁国となりますが、西側は一切承認しないでしょう。
多くの避難民が西部、あるいは国外へ逃げ、「自由ウクライナ」亡命政府が誕生する。
このシナリオは、米国がゼレンスキーに国外に脱出することを勧めたように、まったくないわけではない、とBBCは書いています。
「このような結果は決してあり得なくはないが、こうなるには現状がいくつか変化する必要がある。ロシア軍の機能が改善し、効率的に戦う部隊が増派され、ウクライナのすさまじい闘争心が薄れなくてはならない。プーチン氏はウクライナで政権交代を実現し、ウクライナが西側諸国の一部になるのを阻止するかもしれない。しかし、ロシアが打ち立てる親ロシア派政府は、たとえどのようなものだろうと正統政府ではあり得ず、反乱の対象になりやすい。このシナリオがもたらす結果は不安定で、紛争再発の可能性は高い」
(BBC前掲)
ただしこのシナリオを実現するには、ロシア軍に大きな体質改善を図ってもらわねばなりません。
その条件は
①兵站を正常化させること。
ウクライナ戦争でロシア「兵士の母親委員会」に安否の問い合わせが殺到中 | 「まさに涙の海」 | クーリエ・ジャポン (courrier.jp)
いまや世界最長となってしまった補給線は、ロシア軍の兵站が鉄道で運ばれ、最後100マイルはトラックに頼っていることが明らかになりました。
そのトラックも不足して、鉄道で輸送しているようです。
しかも狙って下さい、といわんばかりの森ひとつない平野の一本道での長蛇です。
兵站部門の指揮官はどこから見ても無能で、兵隊の質はダルそのものです。
②ロシア空軍が奮起すること。
世界第二位のはずのロシア空軍の姿がさっぱり見えません。
たまに戦闘機が姿を見せると、わずか一機で低空から侵入し、そそくさと無誘導の爆弾を投下して慌てて逃げ去って行きます。
これは別途に記事にしますが、航空優勢が確保できていないからです。
ロシア軍は緒戦でのウクライナ軍の対空レーダーと対空ミサイルの制圧に失敗したために苦戦しています。
航空優勢なき地上戦は必ず敗北する、というのが現代戦争の鉄則です。
NHK
③ロシアが西側の経済制裁をはねのけること。
西側が史上稀なる一致団結をしてしまったために、ロシアは兵糧攻めにあえいでいます。
侵略するもなにも、国の土台が揺らいでいるのです。
補給がわずか4日で切れてしまったというのは、その意味からも象徴的なことです。
もし、20万の大軍を動かすのであれは、しっかりと物資を兵站基地に集積し、その配送網を綿密に作り上げておかねばならないはずでした。
20万の大軍が1にちどれだけの燃料と食料、弾薬を消費すると思っているのでしょうか。
額にしてその戦費は、1日1兆2000億円以上だと言われています。
ロシアは日本の4分の1ていどの経済規模ですから、わが国に置き換えるとその経済負担の巨大さがわかるでしょう。
わが国に換算すれば、実に1日4兆8千億円。国防費の9割です。
それが既に8日経過していますから、ロシアの国庫は空のはずです。
しかもロシア国庫に入っていたはずのルーブルは、ハイパーインフレで刻一刻紙化し、ドルは凍結されてしまって使えません。
そのうえ西側の経済制裁はSWIFTにとどまらずロイド保険まで加わって締めつけています。
ロイズがロシア関連の保険を今後認めない措置をとったために、ロシア航空会社の航空機のリース契約は解除され、ロシアの旅客機の大半は返却せねばならなくなりました。
ロシア船舶はロイズの保険なくして外国の港湾に入港できませんから、ロシア船舶は外国航路から締め出されました。
輸出入したくとも、カネはなし、足は陸路だけです。
④ロシアが強力な同盟国を持つこと。
ベラルーシはただの策源地とウクライナの補給線に対する圧力以上を期待されてはいませんし、シリアが兵隊を送ると言っていますが、プーチンはこんな三下に助っ人を頼むほど落ちぶれてはいねぇぞ、と思っているはずです。
朝日
プーチンの最大の保険は中国だったはずです。
軍事援助もさることながら、米国が準備していたのがSWIFT排除だというのは、さすがにプーチンもわかっていたはずでした。
頼みは中国版の決済システムであるCIPSを使わしてくれるように泣きつきましたが(そのために忙しいのに北京五輪開幕式まで行ったんですから)、中国はセカンダリー・サンクション(二次制裁)を恐れて断ったようです。
中国が中国版SWIFTであるCLIPSを断ったのは、ひとえに我が身が可愛いからです。
セカンダリーサンクションが適用されると、送金した側のロシア金融機関に対してはもちろん、それを受けた国の金融機関もドル決済から追放されます。
たとえばSWIFT排除された国にイランがありますが、抜け穴として中国の金融機関を迂回して決済しようとしましたが、すぐに発覚してその中国の銀行は米国との取引を凍結されてしまいました。
日本でも、ロシアとの取引を持っていたあらゆる金融機関は証券会社に至るまですべて取引を停止しました。
セカンダリーサンクションがコワイからです。
ちなみにこれは金融だけではなく、すべての分野に適用されます。
中国の場合、さらに金融機関だけではなくセカンダリー・サンクションが、共産党の幹部の海外資産凍結に及びます。
中国共産党幹部は、大部分の資産を外国に逃避させていますからこれが凍結されればたまったもんじゃありません。
英国は、ロシアのオリガルヒがやっているタックスヘイブンまで見つけ出して虱潰しにする予定だそうですから、巻き込まれては一大事と中国のボス共は考えたようです。
やっとその西側の深謀遠慮に気がついたプーチンは、なにをトチ狂ったのか、ルーブル決済(爆笑)だなんて言って笑い物になっていますが、ルーブルはもう紙なのよ。
ちなみに今のドル-ルーブル相場は
1 USD = 108.861 RUB(2022年3月1日 22:56 UTC)です。もう紙まで余命いくばくもありません。
Russia BREAKS ceasefire to shell evacuation routes out of besieged Mariupol • USMAIL24
そして第2のシナリオ。長期戦化。
私はこのシナリオがもっとも高いと思います。
「それよりもこの戦争が長期化する方が、あり得る展開かもしれない。ロシア軍は、士気の低下、兵站(へいたん)の不備、無能な指導者のせいで、泥沼に陥る可能性がある。キーウの攻防は、道路単位で戦われる市街戦になるだろう。
そのような都市をロシア軍が確保するには、上記のシナリオよりも時間がかかるかもしれない。そうなれば、長い包囲戦が続く。このシナリオは、1990年代にロシアがチェチェンの首都グロズヌイを制圧しようとして、長く残酷な苦戦を延々と続けた挙句、グロズヌイをほとんど壊滅させたことを連想させる」
(BBC前掲)
あと、BBCはエストニアなどに進攻して、NATOとの全面戦争も上げていますが、ありえないだろうと退けています。
Russia BREAKS ceasefire to shell evacuation routes out of besieged Mariupol • USMAIL24
またプーチンが自らの権力の瓦解に恐怖して、手打ちをするというシナリオもあります。
「例えば次のようなシナリオはどうだろう。ロシアにとってまずい戦況が続く。ロシアは制裁の打撃を実感し始める。戦死したロシア兵の遺体が次々と帰還するごとに、国内の反戦気運が高まる。
自分はやりすぎたのだろうかと、プーチン氏が考えるようになる。戦争を終える屈辱よりも、戦争を続ける方が自分の立場が危ういと判断する。中国が介入し、ロシアが対立緩和へ動かなければロシアの石油と天然ガスはもう買わないと警告し、ロシアに譲歩を迫る。
プーチン氏は出口を模索し始める。対するウクライナ当局は、自国の破壊が続く状況に、これほど多大な人命損失を続けるよりは、政治的妥協の方がましだと判断する。
外交官たちの出番だ。停戦合意が結ばれる。たとえばウクライナは、クリミアとドンバスの一部に対するロシアの主権を受け入れる。その代わり、プーチン氏はウクライナの独立と、ウクライナが欧州との関係を強化する権利を認める」
(BBC前掲)
ないとは思いませんが、どうかな・・・。
外交が好きな日本人好みですが、これは事実上のウクライナの敗北です。
ここまで国民を大量虐殺され、国土を破壊されたウクライナが乗らないでしょう。
最後にBBCが出しているシナリオがこれです。
「我々が選んだわけではない」 ウクライナ戦争の理解に苦しむロシア国民(CNN.co.jp) - Yahoo!ニュース
「では、ウラジーミル・プーチン氏本人はどうなのだろう。侵攻を開始したとき、プーチン氏は「我々はあらゆる結果に備えている」と宣言した。
自分自身の失脚という展開にも備えているのだろうか?
まったく考えられないことに思えるかもしれない。しかし、世界はここ数日で変わったし、そういう展開を考える人も増えている。英キングス・コレッジ・ロンドンの名誉教授(戦争研究)、サー・ローレンス・フリードマンはこう書いた。「キーウで政権交代が起きる可能性と同じくらい、モスクワで政権が変わる可能性も出てきた」
(BBC前掲)
私はこれがもっとも望ましい幕引きの一つだと思います。
「たとえばこうだ。プーチン大統領が壊滅的な戦争に突き進んだせいで、何千人ものロシア兵が死ぬ。経済制裁が響き、プーチン氏は国民の支持を失う。
市民が革命を起こす恐れが出てくるかもしれない。
大統領は、国内治安部隊を使って反対勢力を弾圧する。
しかし、それで事態はさらに悪化し、ロシアの軍部、政界、経済界から相当数の幹部やエリート層が、プーチン氏と対立するようになる。
欧米は、プーチン氏が政権を去り、穏健な指導者に代われば、対ロ制裁の一部を解除し、正常な外交関係を回復する用意があると、態度を明示する。
流血のクーデターが起こり、プーチン氏は失脚する。
この展開もまた、現時点ではあり得ないことに思えるかもしれない。しかし、プーチン氏から利益を得てきた人たちが、もはやこのままでは自分たちの利益は守られないと思うようになれば、可能性ゼロの話ではないかもしれない」
(BBC前掲)
このラインで納まれば、それはウクライナに平和をもたらし、ロシアの新生にもつながることでしょう。
プーチンは国際戦争犯罪法廷に引き出され、ロンドン塔に生涯幽閉されます(冗談)。
それがイヤなら、シリアか北朝鮮に亡命するのことです。
ただしその可能性は決して高くはありません。独裁者は容易に権力を手放さないからです。
核のボタンに手を伸ばす可能性もありえますが、周囲がはがい締めしてでも止めるでしょう。
それをした時こそがプーチンの最後の時です。
もし外交官の出番を、というなら、この最後のシナリオに向けて奮闘していただきたいものです。
ウクライナに平和と独立を!
自由ウクライナに支援を!
ロシア軍は無辜のウクライナ人を殺すな!
Мир і незалежність в Україні!
Підтримка вільної України!
Не дозволяйте росіянам вбивати невинних українців!
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自分も最後のシナリオが最も望ましいと思って拝読しました。
ネットのタイムラインに流れてきた与太話では、ロシアの核はAIの判断で発射できるようになっているというのがあり、プーチンの死もきっかけになる(かもしれない)というのがありましたが、さすがにそれはないだろうと思います。
もう一つの可能性(高橋洋一氏の示唆)で、最悪のシナリオは、ロシアの占領した原発を、ロシアが放置してメルトダウンさせると、放射能に汚染されてウクライナがロシアとNATOの緩衝地帯になるというのがありました。まあ可能性は低いと思いますが、ぞっとするシナリオですね。
投稿: ednakano | 2022年3月 9日 (水) 15時22分
ゼレンスキーが「もうウクライナはNATOに加盟しなくても良いかも…アメリカとロシアが安全を保障してくれるなら…」と声明出してますね。
そう決めたならその決定自体を非難はできないけれど、そうするとこの犠牲は何だったのか、となってしまう気がしてます。ロシアを経済的に滅茶苦茶に破壊することには何の反対も無いけれど、それで殺されたウクライナ人が返ってくる訳でもなし。トレードオフとしては、やはり「損」かと。
投稿: ねこねこ | 2022年3月 9日 (水) 16時33分
やはり、どうも長期化は避けられないと思います。
長期化するとどうなるか?って事ですが、EUと米国は飛行禁止区域設定拒否だけでなく、ポーランドからのミグ機のウクライナへの提供も否定的のようです。ブログ主様やコメントの皆さんはこれをどう見ますか?
ロシアやプーチンとの衝突を回避する為のもので、核の恫喝に引き下がったと言う見立て。言ってみれば「ウクライナ切り捨て」とも言う人がいます。
ただ、それでウクライナ軍が制空権を失う事はないだろう、という見解てもある。効果を上げた地対空ミサイルやスティンガーなどの武器が充分であれば、首都の制空権を明け渡す事はないという意見。
いづれにしても米国は世論の国だから、やっぱり決断は後手に廻るとしても、NATO加入をあきらめ譲歩させた事でもプーチンにサインを送っているとは言えるのでしょう。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2022年3月 9日 (水) 22時43分
アメリカの立場からすれば、世界の2大悪の一つロシアを徹底的に潰しにかかると思います。ジョンソン英首相が発言していますが、二度と脅威にならないように安保理の常任理事国からの追放までもっていきたいはずです。ニュースなどでも、常任理事国を解任する方法はないが、議論をする切っ掛けにはなる。としています。
アメリカ、NATOはロシアを崩壊寸前まで追い込み、世界世論からも孤立させる。そのうえで常任理事国解任の条項を議論する。ロシアには反論するする余力もない。そこまで追い詰めるでしょう。それでなくても常任理事国の特権は世界からもおかしいと言われています。見直すいい機会です。残るもう一つの悪、中国は妨害すると思いますが。アメリカにとっては戦力を中国に集中できるので、とにかくロシアを破綻するまで追い詰めると思います。
となると、ウクライナ国民の士気の高さ、アメリカ、NATOからの武器物資の支援と経済制裁。この戦争は長期化すると思います。
投稿: karakuchi | 2022年3月 9日 (水) 23時16分
山路さん
前にも書きましたが、アメリカのブリンケン国務長官の言葉が頭から離れません。「我々は紛争は好まないが、その準備は出来ている」です。それが、ミグの配備と飛行禁止区域拒否だと思います。
しかしある一線を越えたら駄目ですよということだと思います。
その一線とは、NATOの救援物資輸送への攻撃。今日の最新ニュースでチェルノブイリ原発への、電力供給が遮断されたようですが、もし放射能漏れを起こし時はNATOにも被害が及びます。
その時が一線を越えた状態になるのだと思います。
投稿: karakuchi | 2022年3月10日 (木) 02時19分