ウクライナ侵略のショックウェーブその1 原油価格高騰
昨日、私はレンドリース法の発動をもって、ウクライナ戦争は「銃火を交えない第3次大戦」が始まったと書きました。
レンドリース法だけではなく、すでに米国はIEEPA法(国際緊急経済権限法)を発動しています。
IEEPA法とは
「米国が交戦状態にあるか又は外国又は外国の国民に攻撃された時に、このような米国に対する交戦状態、攻撃を計画、認定、援助したと大統領が判定した外国人、外国組織の持つ米国の司法権の対象である財産を没収すること。
このように没収された財産のすべての権利、所有権、利権は大統領の指示の条件で、大統領が処方できる条件で大統領が指名する機関、人に授けるものとする。
その資産、利権は米国の利益のために保持、使用、管理、清算、売却、他の取り扱いをされるものとする。
指名された機関、人はそれぞれの目的を達成、推進するために必要な一切の行為を可能とできる」
(渡邉哲也『金融制裁と世界の仕組み』)
これは大統領令で発動されたもので、議会に諮ることなくロシアに制裁を課すことが可能な強権発動です。
レンドリース法と同じく、緊急事態における大統領権限の優越を認めた法律です。
これらの措置によって米国は安全保障、外交政策・経済に対する異例、かつ重大な脅威に対して、非常事態宣言後、金融制裁を使ってその脅威に対処することができます。
米国はレンドリース法とあいまって、いわば準戦時体制に入ったといってよいでしょう。
米軍が直接戦闘に加わっていないことで、甘くみないほうがよい。
では、敵陣営はどこでしょうか?
今回のIEEPA法においては、「ウクライナの安全保障に害をなす者」と言う表現を用いて、直接的なロシアの名指しは避けていますが、事実上名指しと同等であるというだけではなく、ロシアに加担するすべての国に対して、ロシアと同等の制裁のセカンダリー・サンクション(2次制裁)を加えるゾという含みまで持たせています。
さて、この制裁の影響は、世界規模で出ています。
まだこの影響は出始めたばかりで、真の影響の正体が判明するのは1年後、2年後のはずですが、すでにふたつのショックウェーブが生じています。
ひとつは、ロシアの原油・LNG輸出が禁止に追い込まれたことで、原油は先が見通せない青天井に貼りつきました。
今の原油価格相場は上下していますが、今後の見通しは不透明です。
ロシアからの禁輸措置に加わるか否かにかかわらず、ロイズ保険がロシアへ寄港する船舶に対する保険をすべて適用外としたために、ロシア産原油の船による輸送は事実上息の根を止められました。
英国は大英帝国名残の老大国と思っていませんでしたか。
なんの、金融ではいまだ世界の覇者なのです。
だからブリテンを本気で怒らせると、ありとあらゆる金融がらみの手段で締めつけられます。
そりゃそうでしょう、いくらロシアから原油を運びたくても船舶輸送が制限されてしまった以上、事実上パイプライン以外使えないからです。
いくらサハリン2のショボイ権益にしがみついても、保険適用外ですから輸送コストがバカ高いものつきますが、どうするんです岸田さん。
ロシア産石炭の輸入を止めたのは妥当な措置ですか、その代替はどうするのでしょうか。
原発を動かさないで、凌げるような時期はとっくに過ぎています。
いい理由づけができたのですから、さっさと原発を再稼働したらどうでしょうか。
世界全体で見た場合、サウジなどのOPECがどのように反応するかを見てみましょう。
WTI原油価格週次チャート Investing.com
「問題は、OPECがロシアと距離を置かざるを得ないと感じるかどうかである。そう考えると、OPECが世界的な外圧に屈することはないだろう。なぜならOPECは通常、政治や感情に流されることなく、目標を達成することができるからだ。
現在、ロシアは常に世界のトップ3に入る原油生産国であり、OPEC+を構成する上で欠かせない存在となっている。サウジアラビアとロシアを合わせると、現在の市場で最も強力な2大生産国としての強力な権力を有している。
もし、OPECがロシアから切り離さざるを得なくなった場合、OPECの市場影響力は著しく低下することになる。また、今OPECがロシアとの関係を断てば、OPECはロシアを再加入させることができなくなるかもしれない」
(エレン・ワルド22年3月3日 Investing.com)
原油価格の高騰、エネルギー・パラダイムの転換、注目すべき3つのシグナル | Investing.com
中東のOPEC諸国は当分自分らの都合で日和見を続けるつもりでしょう。
それはサウジ、UAEといった産油国が、前回の国連人権委員会からのロシア追放に棄権票を投じたことでもわかります。
ただしこれがいつまで続くのかとなると、もはや「銃火を交えない第3次大戦」に突入して待った以上、どこかで旗幟を鮮明にせねばならない時期になるはずです。
その時には、泣いても笑ってもOPEC諸国は掘削施設に再投資せねばならなくなるはずです。
ちなみにそれはASEAN諸国も一緒で、国連人権委からの追放決議においてオール棄権にまわり、ベトナム、ラオスなど反対票すら投じるという愚行をしでかしました。
これらの国はまだウクライナ戦争が、東欧の片隅でやっている局地紛争だと考えているのです。
なにを寝ぼけているんだ、ASEAN諸君。これは世界中を巻き込んだ「世界大戦」であって、したがってその勝敗が以後の世界の覇権を確実にするのです。
ところで実はサウジやロシアを抜いて原油生産世界一の国があります。
それが米国です。
原油市場の動向と見通し | 富裕層向け資産防衛メディア | 幻冬舎ゴールドオンライン (gentosha-go.com)
「米国では、テキサス州パーミアン盆地の送油能力が2018年の日量350万バレルから2024年末には同800万バレルに拡大することが予想されます。米国は2024年までに日量510万バレルの原油輸出能力を有する世界最大級の原油輸出国になることが予想されます」
(ピクテ投信投資顧問株式会社2019年4月24日)
それにもかかわらず、米民主党左派が進めようとしているグリーンニューディール政策によって、化石燃料採掘、輸送への投資が大打撃を食ってしまっています。
【2022年原油価格見通し】脱炭素、コロナなど、影響要因豊富な1年に! | トウシル 楽天証券の投資情報メディア (rakuten-sec.net)
「米国はシェールオイル生産量が短期的に増える可能性が高い。バイデン政権は気候変動対策に重きを置いているため、シェール増産を言えない立場にある。新規のパイプライン設置を認めず、さらに連邦用地のリースも停止しているため、金融機関を含め投資家らはシェール開発への投資に忌避的であり、投資抑制によってこれまでのような供給増加傾向にはいたっていない。
温暖化対策と油価高騰の板挟みとなり、対処策としてOPECプラスに対して増産を要請してきたが、OPECプラスは余力低下などを理由にその要請を退けてきた。新たに掘削活動が大きく増加するような市場環境にはないが、足元の原油価格水準からすると、コスト見合いの採算性が極めて高く、新たな掘削数が徐々にではあるが再び増えてきている。また、掘削済みの未仕上げ坑井(DUC)の取り崩しも進んでいる。これは地中に埋まっている在庫を取り出す作業が進んでいることを表す」
(楽天証券2022年1月22日)
したがって、米国政府が、グリーンニューディール政策をウクライナ戦争を理由として一時凍結とすれば、万事解決するわけです。
米国は世界最大の原油生産国になり、その豊かな供給量でロシアの穴をう埋めればよいだけのことです。
このウクライナ戦争は総力戦となっています。
したがって米国もまた、脱炭素などという空論で遊ぶことはできないはずです。
このことによって、米国の覇権国としての地位はなおさら強化されるわけであって、なにをためらっているのかとじれったく思うのは私だけでしょうか。
もう一つは食料危機ですが、それは次回ということに。
ウクライナに平和と独立を
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ロシア国鉄がデフォルトしましたね。
今後もジワジワと効いてくるものと思います。それでも燃料と食料(麦)は自給してますから、本格的に市民が困窮するまでは時間がかかるかと。
急に暖かく晴れて、東北電力管内でも初めての太陽光発電の受電ストップがかかりました。ついこの前は地震で電気足りねーって言ってたばかりなのに。
だから太陽光は使えねえ。。送電担当の東北電力ネットワーク社なんてインフラ整備するカネ無いし。だったら太陽光と併設してバッテリー代わりに揚水発電所でも置くくらいしないとダメなんじゃね?
石炭はどこから買うんですかね。発電以外にも鉄鋼その他化学系では必要なわけで。
石油やガスは本当にバイデンの政策がバカ。先輩のオバマさんは「これからはシェールの時代だ!」と格好良く言ってたのが、CO2対策で随分と状況がかわりました。
小麦やトウモロコシなどの穀物の高騰が今月とうとう様々な食品への価格転嫁で実感するようになりましたけど、ウクライナ情勢以前に北米の旱魃の影響ですね。元々石油価格と連動するものですし、ロシアやウクライナからの輸入ストップで影響が出るのはこれからです。
投稿: 山形 | 2022年4月12日 (火) 06時17分
マリウポリが来週にでも陥落して、東〜南のラインが完全に繋がって奪還が厳しくなる…なんて無慈悲な予測が立っていますが、西側は戦車や戦闘機を供与することを「検討する」なんて悠長なことばかり。
包囲されて建物を破壊されて家畜を殺されて家電や食糧を略奪されて狩りみたいに遊びで殺されて強姦されて、挙句の果てにはサリンで窒息死させられて。いつまで検討するんですかね…
投稿: ねこねこ | 2022年4月13日 (水) 00時01分
よく、「ルーブル安よりも、円安の方が深刻」とかいう報道や意見がありますが、なぜルーブルが持ち直しているかのカラクリを見ない、つまらない意見です。
中華ですらルーブルでの支払いを渋るなか、夏前には行き着くでしょう。
また、経済制裁には侵略を直ちに止める力はないように見えますが、一方でロシア側の武器生産や新たな調達には既に強力なブレーキとなっています。だからこそ、プーチンは東南部で乾坤一擲の攻撃を仕掛ける気でしょうし、そこからかりそめの停戦に持ち込んで制裁の緩和を企図していると思います。
米国のエネ関連企業はバイデンを信用しておらず、一過性に過ぎないとの需要認識に新たな投資を充てる事に二の足を踏んでいるようですね。
「脱炭素」などという世迷言に現を抜かすヒマはないわけで、いつまでも備蓄の取り崩しで賄えるものでもありません。
さっさと棚上げして、新しいエネルギー政策をセットにして制裁にのぞむべきだったでしょう。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2022年4月13日 (水) 00時12分