逃亡オリガルヒたちの末路
昨日もふれたように、「プーチンエクソダス」が広範囲に起きています。
数は推定ですが数十万人規模に及び、特にハイテク企業のエンジニアが大量に含まれていました。
「正確な数字かどうか検証するのは困難だが、ロシアから他国に最近移り住んだ人々が立ち上げた情報サイト「OKラシアンズ」の推計によれば、ウクライナでの戦争が始まってから母国を後にしたロシア人は30万人を超える。
このサイトの調査によれば、最近の移住者の大半は若くて高学歴であり、外国語を操り、移住先に同化したがっている。
ロシアは最も優秀な息子たちや娘たちを失いつつある。(略)
人々がロシアから逃げ出したのは政治的な迫害や徴兵、孤立を恐れているからであり、気味が悪いほど旧ソ連に似た、馴染みのない新しい国に閉じ込められることを恐れているからだ。
そして、戦争を仕掛けている国に留まるのは、人々の頭上に爆弾を落とす飛行機に乗っているような感じで、道徳に反することをしている気がするからだ」
(英フィナンシャル・タイムズ電子版 2022年4月14日)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/69784
この若いハイテク企業に勤めるエンジニアとは違った理由で、国外脱出をしたグループがあります。
それがオリガルヒ(新興財閥)の大富豪たちでした。
彼らは、ウクライナ戦争を見て、今まで絶対的指導者として仰いできた「同志プーチン」のやり方に強い疑問を持ったようです。
「ロシアの新興財閥(オリガルヒ)の間でウラジーミル・プーチン大統領と距離を置こうとする姿勢が強まっており、戦争への反対を表明する動きが相次いでいる。
ウクライナ侵攻を受けて大規模な対ロシア制裁を打ち出している米欧は、こうした実業家らの資産を凍結する動きも強めている」
(ウォールストリートジャーナル3月2日)
ロシア新興財閥、ウクライナ侵攻への反対表明相次ぐ - WSJ
たとえば有名どころでは、英国の強豪チェルシーFCのオーナーもしていたロシア人富豪のロマン・アブラモビッチは、ロンドンに上場する金融サービス会社TCSグループ・ホールディング傘下のロシア銀行大手のティンコフ銀行の創業者です。
アブラモビッチははっきりとプーチンを批判し、自身の財団が行うウクライナの子ども支援活動などを強調していました。
彼は例外的な存在ではなく、他にもプライベートエクイティ(PE)投資会社VIYマネジメントの創業者、アンドレイ・ヤクーニンもこう呼びかけています。
「ロシア人とロシア国家、ロシア政府を同一視しないよう呼び掛け、「現在の軍事行動に強く反対するロシア人は多く、私もその一人だ」と述べた」
(WSJ前傾)
もちろん彼らオルガリヒが急に良心に目覚めてウクライナを支援し始めたわけではなく、西側の制裁対象になれば倒産の憂き目にあうからです。
下写真の馬鹿げた成り金趣味のクルーザーは、オリガルヒの私有物でしたが、先月に制裁に合って差し押さえられてしました。
ヤクーニンの反プーチンの意思表示も、なんのことはないウクライナの人々を思ってではなく、御身大事だからです。
オリガルヒの資産凍結はすでに始まっており、彼らがマネーロンダリングに 使っていた英領ケイマン諸島などのタクスヘイブンでもビシビシと凍結されていますし、大戦中にはナチ幹部の資産すら預かっていたスイス銀行すらそれに協力するありさまです。
CNN
「(CNN) ロシアによるウクライナ侵攻を受け欧州連合(EU)が制裁措置として打ち出したロシアやベラルーシの新興財閥(オリガルヒ)、関係企業などの資産の凍結は約300億ユーロ(約4兆500億円)相当に達したことが10日までにわかった。
EUの資産凍結・没収の作業班が発表した。声明によると、凍結した資産には船舶、ヘリコプター、不動産や美術品が含まれる。また、1960億ユーロ相当の商取引なども中止に追い込んだという」
(CNN4月10日)
CNN.co.jp : ロシア・ベラルーシの新興財閥、計4兆円の資産を凍結 EU制裁 。
オリガルヒというプーチンを支えた経済基盤そのものがすでに大きくグローバル経済の中に組み込まれており、当人とその家族はロシア国内に住んでいない者のほうが多いのです。
どうでもいいですが、プーチンが反グローバリズムの旗手だなんてヨタを言っている人がまだいますが、プーチンの基盤のオリガルヒはとうにグローバル金融の中にどっぷりと漬かって蓄財し、その富を吸い上げてきたのがプーチンです。
プーチンがオリガルヒに特権的、かつ独占的権益を与え、プーチンはその見返りとして24兆円とも噂される世界一の大富豪となりました。
それはさておき、ウクライナ戦争が始まると、オリガルヒは一斉に海外逃亡を開始しました。
我がちに逃げたようですが、次々に怪死しています。
BBC
怪死したオリガルヒは、ウクライナ戦争前後からわずか3カ月間で6人にも及びます。
●ウクライナを侵略前後に怪死したオリガルヒたち
・レオニード・シュルマン (1/29死亡)
・アレクサンドル・チュリャコフ (2/25死亡)
・ミハイル・ワトフォート (2/28死亡)
・ヴァシリー・メルニコフ (3/24死亡)
・ウラジスラフ・アヴァエフ (4/18死亡)
・セルゲイ・プロトセーニャ (4/19死亡)
プーチンがウクライナを侵略して以来、亡くなったすべてのロシア寡頭支配者 - 全リスト (newsweek.com)
そもそも海外逃亡した理由は、プーチンに殺されるのを恐れたからだともいわれています。
プーチンは有名な毒殺マニアで、いかにもチェキストだったらしい陰湿なやり方です。
有名な暗殺事例では、ウラジミール・カラムルザやナバリヌイなどの民主化指導者、ジャーナリストのポリトコフスカヤ、FSBから裏切り者とされて英国に逃げていたアレクサンドル・レトビネンコなどのケースです。
邪魔者は殺す プーチン大統領のデスノート|NEWSポストセブン (news-postseven.com)
「中でも記憶に残っているのが、チェチェン紛争でのロシア政府による残虐行為などを批判してきたノーバヤ・ガゼータ紙のアンナ・ポリトコフスカヤ記者が2004年、機内で出された紅茶を飲んで意識不明の重体になった事件。
このときは奇跡的に回復したが、わずか2年後の06年に自宅アパートのエレベーター内で射殺体で見つかった。くしくも、この日は10月7日で、プーチン大統領の誕生日。そのため「誕生日プレゼント」という見方が出た。このことも強烈に記憶に残る理由となった」
(朝日グローバル8月24日)
「裏切り者」が次々消えていく ロシア暗殺の歴史を振り返る:朝日新聞GLOBE+ (asahi.com) 。
一家心中か…ロシアの富豪とその家族の死が相次ぐ | 経済・IT | ABEMA TIMES
もっとも最近に起きた怪死事件の犠牲者は、セルゲイ・プロトセーニャです。
「ロシアメディアによると、19日、天然ガス大手のノバテク社の元副会長セルゲイ・プロトセーニャ氏がスペインのリゾート地で妻と娘とともに遺体で発見された。地元警察はプロトセーニャ氏が家族を殺害した後、自殺した可能性があると話しているという。
また、18日にはロシア有数の銀行のひとつガスプロムバンクの元副社長、ウラジスラフ・アバエフ氏がモスクワ市内の自宅で妻と娘とともに死亡した。モスクワの捜査当局は一家心中の可能性があると発表している」
(ANNニュース4月22日)
彼はスペインに逃げたところを殺されました。
プロトセーニャは、天然ガス生産2番手のノヴァテックの元トップマネージャーでしたが、一家で死んでいるのが発見されました。
その死に方はむごたらしく、別荘の庭で絞首刑にされており、その遺体のよこには斧とナイフがあったそうです。
また家族はベッドで刺し殺されていました。
スペイン警察は、ロシアにまきこまれるのを恐れてか、自殺と一家心中にして葬ってしまいましたが、露骨な見せしめです。
プロトセーニャが亡くなる数日前の4月18日には、天然ガス最大手のガスプロム系列銀行ガスプロムバンクのウラジスラフ・アヴァエフ副頭取も、モスクワの豪華マンションで妻と娘とともに遺体で発見されています。
一家心中としてモスクワ警察に処理さてしまいました。
また3月24日には、オリガルヒの富豪であったワシリー・メルニコフが、ニジニ・ノヴゴロド市の高級アパートで死亡しているのが発見されました。
これも妻と子供を刺し殺して自殺しているように見えるために、警察は一家心中として片づけたようです。
2月28日には、ミハイル・ワトフォードが、英国サリーの自宅で遺体で発見されました。
ワトフォードは英語名で、実名はトルストシェヤ、1955年に当時のソ連のウクライナで生まれ、石油とガスで巨万の富を築いた男です。
ワトフォードもプロトセーニャと同じように絞首刑にされて死んでいました。
2月25日には、ガスプロム系列の企業安全保障会社の副所長をしていた、アレクサンドル・チュリャコフが、サンクトペテルブルク近くのコテージで死体で発見されています。
死に方はワトフォードやプロトセーニャと一緒の絞首刑でした。
侵略の前ですが、1月28日には、ガスプロムのトップマネージャーだったレオニード・シュルマンが、サンクトペテルブルクのコテージのバスルームで自殺しています。
これらの怪死事件は、戦争からわずか2カ月間に集中しており、しかもガスプロムなどの原油・LNG関連のオリガルヒやその関係者であったことから、なんらかの因果関係があると見られています。
現時点では決定的証拠は見つかっていません。
しかしこれはただの偶然でしょうか。
キーウ独立広場に立つ女神ベレヒニア
独立広場・キエフ州 - うみごえ (umigoe.com)
ウクライナに平和と独立を
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GRUの担当でしょう。
一頃英国で仕留め損ねるのを連発してプーチンの不興を買ってたとも言われてますが、まあせっせとお仕事してますね。
暗殺ってのがまたいつの時代なんだよ!と。トロツキーが殺られた時代から変わらんですね。アブラモビッチも盛られましたしね。。
投稿: 山形 | 2022年4月26日 (火) 05時54分
現代ビジネスで連載している大原浩のように今回の戦争は欧米と非欧米(ロシア、中国、インド)の戦いだとか今回の戦争はアメリカにとって第二のベトナム戦争だとかアメリカは真珠湾攻撃のようにロシアに手を出させたとかロシアを擁護したい余り無茶苦茶な論理を並べているのを見ると今まで愛読してきただけにとことん呆れました。
ブチャの大虐殺にも触れないあたりプーチンのように都合の悪い情報には耳を傾けないようで。
投稿: 中華三振 | 2022年4月26日 (火) 08時19分
「世界中どこにいても」、の「見せしめ」は多い方が効果があるし、かりそめにしろ自殺に見せかける余裕が、なお恐怖を倍増させる狙いがあるのでしょう。
上で中華三振さんがいう大原氏の論考は私も都度読んでいますが、ああいうのは高見の見物的な外野から述べた知識人の的外れな議論ですよね。今の問題はもっとクリミティブで、人間性の根幹にかかわる素朴な地点からの発信が重要です。
それが今回の件では橋下のようなリベラルは当然としても、保守派で論考型のインテリが総崩れになっている理由と思います。
そうした点から言えば、プーチンのやり方は「自由な人間性を踏みにじる」点にこそ眼目があるのです。
さんざんプーチンの下で甘い汁を吸って来たオルガリヒたちに同情はしませんが、地の果てまで追いつめて「人は殺せるもの」として実行するやり方は、ロシア国民をして「恐怖による人間性の支配」に縛り付けるに充分でしょう。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2022年4月26日 (火) 17時35分