ウクライナ東部に迫るロシア軍
キーウからの敗退、ブチャ大虐殺、そのうえ巡洋艦「モスクワ」までが沈められるという弱り目に祟り目のロシアが、最後の反攻に出ました。
それが東部ドネツク戦線です。
ここでロシアが敗北すると、もはやロシア軍はもたないでしょう。
プーチンは明らかに焦っています。
戦争初頭でウクライナを数日間で制圧するという目論見がはずれ、ロシア軍は1カ月以上経ってもいまだにウクライナ全土の掌握はおろか首都キエフを包囲することすら放棄しました。
こうした膠着状態が続いたために、プーチンは当初のドニエプル河以西の支配という目的を見直さざるをえなくなりました。
このまま膠着状態を続ければ、シロビキが離反し、ロシア国内で反政府勢力の動きがより活発化する可能性がでたからです。
いうまでもなく、欧米の制裁は効きすぎるほど効いています。
プーチンは効いていないぞ、ルーブルは戻したと豪語しているようですが、バカですか。
そりゃ中央銀行が政策金利を20%にすれば、一時的にルーブルの為替は維持できますが、その副反応は凄まじいはずです。
なぜなら、超高金利政策は間違いなくロシアの企業活動を直撃するはずですから。
今の日本に置き換えれば、日本はゼロ金利ですが、いきなり20%にしたらどうなりますか、ロシアでも同じ現象が起きるでしょう。
市中銀行の金利は連動しますから、企業はカネを銀行から借りられなくなり、設備投資はおろか、原材料や人件費をまかなう運転資金も出なくなります。
たちまち倒産へ向けて直滑降ですから、大量の失業者が市中に溢れることになります。
こういう下策中の下策をしてしまったら、インフレが進行下中での不況というスタグフレーションに突入するでしょう。
プーチンが経済のイロハを知らないからこうなります。
といっても、事実上「選挙なき国」ですから、国民がどうなろうと無関係です。
政権が揺らぐのは宮廷政治に敗北し、命を狙われるようになった時だけです。
したがって、プーチンの頭にあるのは唯一自身のメンツです。
メンツだけで戦争方針を決めるのかとお思いでしょうが、独裁国家は自身の神格化が崩壊すればオシマイなのです。
ロシア、北朝鮮、中国、揃って独裁者たちはメンツの塊です。
プーチンは、なんとしてでも5月9日に迫る対独戦勝利記念日と、その前段のロシア正教会(露正教会はプーチンの右腕ですから)の重要な行事である4月26日の復活祭までに、ドネツク州とルハンスク州の領土をオレに差し出せと、「シリアの虐殺者」ことアレクサンドル・ドゥボルニコフ将軍に厳命したはずです。
ロシア軍がこのドネツク戦線で勝利すれば、東部2州を完全制圧した、当初の戦略目標は達成した、としてここでウクライナに停戦を呼びかける口実になります。
また勝てば、北上して支配地域を拡大することも可能だと西側軍事筋は見ています。
かねてからロシアには「ノボロシア」(新しいロシア)という構想があります。
これは親露分離派(自称「ドネツク人民共和国)がドネツク州の一部を支配するドンバスとルガンスクを更に西に伸ばし、マウリポリ、オデーサ、クリミア一帯を支配しようというプランでした。
これはウクライナ領の約3分の1に相当します。
AFP
「ノボロシア」自体は帝政ロシアの18世紀からあるもので、黒海、アゾフ海沿岸のロシア人入植地域を指します。
これを現代に蘇らせたのがプーチンです。
「クリミアの併合の説明のなかで、クレムリンは「歴史的な権利」(半島は18世紀末にはじめてロシアが征服しただけではあるが)と「同胞の保護」(同胞とは、ロシアの外でロシア語を話す人々を指すのに通常使われる言葉に過ぎないが)といった論拠を持ち出した。
ドンバスへの介入以前、プーチン大統領は公に、現在ウクライナ南東部の領土を指す名前である「ノヴォロシア」(新しいロシア)について話した」(ニューズウィーク4月12日)
2014年、プーチンが進めた「ノヴォロシア」計画――ウクライナ・アイデンティティ(下)(ニューズウィーク日本版)
国境が確定した現代では、露骨なまでの領土拡張野望ですが、プーチンはこれを目標にしていると考えられます。
プーチンマニアの人たちは、この戦争が米国のネオコンが仕組んだものだとか、NATO東進が追いやったのだということを言う者がいますが(いいかげんにしろ)、ウクライナ侵略とはドゥーギンの存在といい、このノボロシアといい、かねてからあったプーチンの構想を現実化したものにすぎないのです。
ロシア軍、ウクライナ東部総攻撃へ 総司令官に「シリアの虐殺者」任命 ゼレンスキー大統領「これまで以上に備えている」 5・9「戦勝記念日」見据えzakzak
「ロシアはウクライナ東部を制圧した場合、西部への進軍を再度試みる可能性がある。黒海沿岸でウクライナ政府が依然支配している唯一の港オデーサが奪取されれば、ウクライナは海のない国に変わる。ロシア軍はドニエプル川沿いの南東部の都市ドニプロの掌握を試みる可能性があるほか、キーウでの攻撃を再開する可能性もある。(略)
「米軍の元欧州総司令官で退役中将のベン・ホッジス氏は「全く別の新しい戦争だと言って、ほぼ差し支えないだろう」と指摘。「重火力攻撃による機甲部隊間の古典的な」戦闘を予想した。
西側諸国の当局者や軍事専門家らによれば、ロシアの主な狙いは、ウクライナ南東部ドンバス地方のロシア支配地域に向き合う形で配置されているウクライナの精鋭部隊を孤立させることだという。
この目的のため、ロシア軍はハルキウ付近から南下している。またアゾフ海に面する港湾都市のマリウポリを完全に掌握した場合には、そこから北上するとみられている」
(ウォールストリートジャーナル4月18日)
https://jp.wsj.com/articles/russia-and-ukraine-build-forces-for-looming-battles-in-east-11650247110
朝日
https://www.asahi.com/articles/ASQ4N5S9VQ4MUHBI01L.html
ここでホッジス元中将が言っている「まったく新しい別の戦争」とは、今までのようにウクライナ軍の歩兵対戦車ミサイルに翻弄され、補給車列をズタズタにされるという形から、開けた土地で機甲師団同士が激突する大戦中の独ソ戦に何回かあった正面戦を想定しているようです。
ロシア軍は、司令官が交代したためもあるのか、忘れていたロシア軍らしい戦法を踏襲し始めました。
砲弾を昼夜分かたず降り注ぎ、すでに14時間連続で砲撃を加えられているというウクライナ現地軍の通信もあるようです。
ロシア軍はここを先途と、持てる火力を、小は迫撃砲から大砲、そして多連装ロケットランチャー、あるいは地上攻撃機による空爆と手を替え品を替えて撃ちまくっているようです。
今回はロシア軍は、ロシア領に近いせいもあって補給を整え武器弾薬をかき集めて集中投入しているのでしょう。
「元英軍装甲歩兵大隊司令官で、現在はロンドンのシンクタンク「国際戦略研究所」に所属するベン・バリー氏は「ロシアは指揮統制の改善に着手したようだ」と指摘、「ロシアが兵站問題を解決したかどうかは分からない」と語った。
理論上は多くの要因がロシアにとって有利となっているものの、ロシアは開戦後の数週間、ウクライナより高性能の武器と大規模な兵力を活用するのに苦労していた。平地で掃討作戦を行うには部隊同士の連携が必要となるが、ロシア軍はこれまで必ずしも連携していない。ただ、平らな地形のおかげで、ウクライナ軍部隊を包囲し、防衛線を突破するための大規模な部隊を投入する機会は得られるだろう」
(WSJ前掲)
航空万能論
もちろんゼレンスキーはこういう構えでロシアが来ることはとうにお見通しでしたから、この1週間の発言の中でロシア軍は「戦略を変えつつある。東部でさらに攻勢を強めるため戦力を増強している」との見方を示した上で、西側に大砲、多連装ロケット、戦車、歩兵戦闘車などを中心とした支援を要請していました。
英米のみならず、チェコはウクライナ軍の戦車の修理を引き受け、フィンランドも追加の軍事援助を送り、ルーマニアさえも軍事支援のための法改正を急いでいます。まさに全欧の助けがウクライナを支えているのです。
この支援が間に合うか間に合わないかはギリギリの線で、まだその首尾はわかりません。
ゼレンスキーはこの東部戦線に「我々がもつ最高の戦闘部隊を投入する」とのべました。
これはドンバス方面に配備されている5万人規模と見られる10個旅団相当のことで、装備も優先的に割り当てられ、兵員の質ももっとも高い練度だと言われている精鋭部隊です。
これが破れる事態になると、今度はウクライナの方に戦争継続する力がなくなりかねません。
いずれにしてもウクライナ軍が、まともにガチンコの戦車戦に乗るとは思えません。
そのような戦い方をすれば、ロシアの土俵に乗ることになりますし、開けた地形とは言っても実際は雪解けによる泥濘によって、50トン以上もある戦車が道路以外の平野部を踏破することが困難だからです。
ウクライナ軍は劣勢な戦車部隊を温存しつつ、道路上に列をなしているロシア戦車部隊を側面からジャベリンなどで破壊していけばよいからです。
ウクライナに平和と独立を
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「西側の経済制裁は効いていない」という、プーチンの声明を無批判に垂れ流すメディアが多すぎます。
政策金利20%にもなればブラックな投機筋が一時的にルーブル買いに出る傾向が出ますが、それはロシア国民の富を奪い、ブラック投資家に付け替える愚行です。
会見は一時しのぎの体面のために行ったもので、プーチンは経済音痴の馬鹿っぷりを晒しただけ。相当苦境に追い込まれていると見て間違いないですね。
戦況は昨日の時点で、ウクライナ側がだいぶ押し戻しているように見られます。ウクライナ軍はドネツクまで10KM未満まで迫り、補給線を絶とうという段階です。戦意の上がらないキーウからのロシア軍敗残兵たちの再編成も不完全な様子で、ちぐはぐな闘い方に終始しているよう。
ロシア軍は中々落ちないマウリポリで兵員を釘づけにされ、マウリポリ=ヘルソン間でウクライナ側のレジスタンスの蜂起にもあっているようです。
西側から提供された豊富な武器の使用経路が不明ですが、ロシア軍への抵抗運動をする国民たちに渡っている事が伺えます。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2022年4月21日 (木) 08時57分
ルーブルの回復はチャイナの支援のたまもので、ロシア中央銀行の外貨準備は人民元に大幅シフトしており、要はチャイナに買い支えられているとのことです。
しかし、チャイナはゼロコロナで上海などの経済中心地をロックダウンで痛めつけ、もはや経済成長の減速は止まらない。そして、ロシア支援が過ぎれば、自らも経済制裁に巻き込まれる。既に外資の逃避は加速している模様です。
投稿: ednakano | 2022年4月21日 (木) 10時36分
東部攻勢に備えてドンバスに配備したウクライナ軍を絶え間なき砲爆撃で締め上げて動けなくして、その間に南北から包囲殲滅という分かりやすい方針に切り替えたようです。
ウクライナ政府もそんな中でも分かりきってますので、必死に対抗。増援です。
むしろキーウをここで電撃攻略されないかと心配になりますけど、そのへんは米国から露軍の展開状況の情報を常時受け取ってますから。
プーチンにとっては5月9日の「大祖国戦争戦勝記念日」で「ドンバスのネオナチどもを掃討して特別作戦は勝利した」と宣言するしかない状況です。もう時間がありません。そりゃ、焦るでしょう。
ロシア軍もどうにか再編して組織性が高まっているようですけど···訓練だと送られた若い徴募兵が家へも帰れずに散々な現場を見たのに、また「転進」扱いで休みなく投入ですからね、士気は極めて低いでしょう。
だからようやく「最高司令官」がようやく着任して、プーチン子飼いの精鋭を投入なんですけど、限られた時間で今のウクライナ相手にどこまでやれるか?
もし「勝利宣言」を出したとしても、実質ロシアの敗北でしょうねえ。。
投稿: 山形 | 2022年4月21日 (木) 11時06分
西側諸国の見解とならず者国家の見解、
日本政府と韓国政府、
自民党と立憲民主党、等々。
(もちろんそれが正しい場合もなきにしもあらずですが)日本のメディアは特に、「真っ当な意見」と「メチャクチャな暴論」を同じウェイトで同じニュアンスで報道することが「メディアとしての中立性」だと勘違いしている節がありますよね。
投稿: ねこねこ | 2022年4月21日 (木) 11時21分
プーチン的には大量の失業者が出てもそいつらを徴兵してしまえば問題無い程度にしか考えていないでしょうね。
国民をゴミのように使い捨てるゴリ押し戦術思想はいまのロシアにも残っているようなので、ここからのロシアは厄介かもしれません。
不安視されている核の使用ですが、最近の情勢を見るに使ったら最後、インドや中東、アフリカといった西側に対して友好的ではない中立のスタンスの国の大多数が反ロシアに回るのは確実ですから使うに使えないのではないかと思っています。
投稿: しゅりんちゅ | 2022年4月21日 (木) 11時39分